説明

スパッタ装置

【課題】電源装置と成膜室とを接続する電源供給線の長さに影響されず、安定した放電により異常放電を抑制することが可能となり、安価に構成することができるスパッタ装置を提供する。
【解決手段】スパッタ装置において、成膜用電源装置として構成された直流電源装置1,2と、該直流電源装置からの直流電源を成膜装置に供給するため、これら直流電源装置と成膜装置とを接続する電源接続用手段6,7と、前記成膜装置側に設けられた印加電圧の極性を切り替えるスイッチ手段15,16を含む制御部と、を備え、前記電源接続用手段を介して前記直流電源装置から供給された直流電源による印加電圧の極性を、前記スイッチ手段によって切り替えて前記成膜装置におけるチャンバー12とターゲット13間に印加可能に構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、グロー放電により、チャンバー内にプラズマを発生させ、スパッタリング現象を利用して、基板上に薄膜を成膜するスパッタ装置に関するものであり、特に異常アーク放電防止のためにパルス化したスパッタ電源を用いたスパッタ装置の改良に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、DCスパッタ装置における異常アーク放電現象は、主にAlなどの酸化膜を成膜する際に顕著に現れる現象であり、このような現象を解消させるために様々な手段が採られてきている。
特に、特許文献1では、スパッタ成膜された酸化膜に電荷が蓄積され、やがて絶縁破壊を起こしてアーク放電を起こすメカニズムから、正負の両極性を持ったパルス化されたプラズマ発生用電源を用いて、周期的に蓄積された膜の電荷を中和するといった技術が提案されている。
また、特許文献2や特許文献3等では、逆バイアスの電圧調整等により異常アーク放電現象を消孤するようにしたパルス化によるスパッタ用電源か開示されている。
【0003】
また、一連のパルス化電源の背景と異常アーク放電に関する従来技術は、例えば非特許文献1〜3等に平易に解説されている。
これら従来例の正負の両極性を持ったパルス化されたプラズマ発生用電源は、例えば特許文献4に開示されているようにプラズマ発生用電源を備えている。
このプラズマ発生用電源は図5(特許文献4より引用)に示されるように、プラズマ発生用電源404(破線で囲んだ部分)と成膜チャンバー間を同軸ケーブル406(丸で囲んだ部分)で接続されている。
また、上記した非特許文献3等においても、直流電源と成膜チャンバー間にパルス化する装置を挿入するような形で接続されており、この場合も接続は、RG−8の同軸ケーブルが用いられている。
【0004】
さらに、特許文献5には、この電源供給線としてのケーブルと異常放電の関係に注目した記述が開示されている。具体的には、このプラズマを生成するための電源は、直流(DC)電源にインダクタとキャパシタの共振現象を利用し、負荷に最適なリアクタンス回路と負荷に並列に接続したダイオードを追加して、電流の反転期間を安定して作り出し異常放電のアークを消弧する手段について開示されている。この場合も、電源と成膜チャンバー間を接続する電源供給線は、同軸ケーブルが用いられることが前提となっている。
【特許文献1】特開平9−137271号公報
【特許文献2】特開平7−150348号公報
【特許文献3】特開2001−145371号公報
【特許文献4】特許2835323号公報
【特許文献5】特開平5−311418号公報
【非特許文献1】ADVANCED ENERGY社 Whitepapers 「POWER SUPPLIES FOR PULSED PLASMA TECHNOLOGIES: STATE−OF−THE−ART AND OUTLOOK 」(1999年)(P1〜P4)
【非特許文献2】ADVANCED ENERGY社 Whitepapers 「ADVANCES IN ARC HANDLING IN REACTIVE AND OTHER DIFFICULT PROCESS」(1993年)(P1〜P4)
【非特許文献3】ADVANCED ENERGY社 Whitepapers 「HOW ADVANCED ENERGY,MDXTM PRODUCTS MANAGE ARCS」(1993年)(P1〜P5及びFigure 4)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
以上に説明したように、従来例のパルス化によるスパッタ用電源を用いたスパッタ装置においては、パルス化電源装置ユニット部と成膜室ユニット部とが分割され、同軸ケーブルで接続された構成によるものであった。図6に、これら従来例の構成によるブロック図を示す。図6において304はパルス化電源装置ユニットであり、306はパルス化された電力の供給線である同軸ケーブルである。310’は成膜チャンバー312と、基板(ワーク)313、及びターゲット314からなる成膜室ユニットである。
【0006】
このように、従来例のものでは、スパッタ装置、電源装置ユニットと成膜室ユニットの2つの機能ユニット部分に分割されていて、パルス化電源装置によってパルス化された状態の電力が、上記同軸ケーブルを介して成膜チャンバー内のターゲットに給電されるように構成されるものであったことから、つぎのような問題を有していた。
(1)プラズマ発生装置として異常アーク放電防止のためのパルス化電源装置を使用し、電源の動作条件を同じに設定したにも係わらず、パルス化電源装置と成膜室装置間のケーブルの長さが長くなると、実際に異常放電によるアークを防止できない場合が生じる。
(2)ケーブルの容量成分が、成膜チャンバーの容量成分と並列になるため、アーク放電が起こると、ケーブルの容量相当分だけアーク放電エネルギーが多くなり、基板へのダメージがより大きくなる。
(3)異常放電防止のため電源の極性反転を行うパルス化電源装置により、スパッタ用電源装置と成膜用チャンバー間にはリンギングを伴う大振幅のパルス状の電圧が印加される。それによりパルス状の電流が流れるため、パルス伝送回路として考慮した場合のインピーダンス整合、及びノイズ防止上の観点から接続する電源供給線には、同軸ケーブルが必然的に必要となり、そのためにコスト高となる。
【0007】
本発明は、上記課題に鑑み、電源装置と成膜室とを接続する電源供給線の長さに影響されず、安定した放電により異常放電を抑制することが可能となり、安価に構成することができるスパッタ装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、以下のように構成したスパッタ装置を提供するものである。
すなわち、本発明のスパッタ装置は、チャンバー内に基板とターゲットが配置された成膜室を有する成膜装置を備え、成膜用電源装置から供給された電力により前記チャンバーとターゲット間に印加し、前記ターゲットにおいてスパッタリングされた材料を前記基板上に蒸着して成膜するスパッタ装置において、前記成膜用電源装置として構成された直流電源装置と、前記直流電源装置からの直流電源を前記成膜装置に供給するため、これら直流電源装置と成膜装置とを接続する電源接続用手段と、前記成膜装置側に設けられた印加電圧の極性を切り替えるスイッチ手段を含む制御部と、を備え、前記電源接続用手段を介して前記直流電源装置から供給された直流電源による印加電圧の極性を、前記スイッチ手段によって切り替えて前記チャンバーとターゲット間に印加可能に構成されていることを特徴としている。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、電源装置と成膜室とを接続する電源供給線の長さに影響されず、安定した放電により異常放電を抑制することが可能となり、安価に構成することができるスパッタ装置を実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明は、上記構成により本発明の課題を達成することが可能となるが、本発明の実施の形態においては、このスパッタ装置をより具体的には、チャンバー内に基板とターゲットが配置された成膜室を有する成膜装置を備え、成膜用電源装置から供給された電力により前記チャンバーとターゲット間に印加し、前記ターゲットにおいてスパッタリングされた材料を前記基板上に蒸着して成膜するスパッタ装置において、前記成膜用電源装置として負バイアス用直流可変電源と正バイアス用直流可変電源を有する直流電源装置と、前記直流電源装置からの直流電源を前記成膜装置に供給するため、これら直流電源装置と成膜装置とを接続する同軸ケーブルまたは通常の絶縁電線で構成される電源接続用手段と、前記成膜装置側に設けられた印加電圧の極性を切り替えるスイッチ手段を含む電気回路基板で構成された制御部と、を備え、前記電源接続用手段を介して前記直流電源装置から供給された直流電源による印加電圧の極性を、前記スイッチ手段によって切り替えて前記チャンバーとターゲット間に印加可能に構成することができる。
【0011】
本実施の形態によれば、前述した従来例のようにパルス化された状態で、同軸ケーブルを通ってターゲットに給電されることがないため、同軸ケーブルの長さによるキャパシタンスやインダクタンスに影響されることがなく、異常アーク放電を防止することが可能となり、安定したスパッタ成膜を実現することができる。
また、基板上のコンタミネーションによる異常アーク放電が、万一発生してしまった場合でも、同軸ケーブルの容量の影響を受けずに成膜チャンバーの等価容量分のわずかなアークで済むため、逆バイアス用の正電源の定格容量を小さくすることが可能となり、装置全体を安価にすることができる。
また、直流電源から成膜チャンバーまでの電源供給線には、直流電圧しか掛からないためノイズ発生が小さく押さえられ、また同軸ケーブルを使用しないで、安価な通常の絶縁電線を用いることが可能となる。
【実施例】
【0012】
以下に、本発明の実施例について説明する。
[実施例1]
実施例1は、本発明を適用してスパッタ用電源装置を備えたスパッタ装置を構成としたものである。
図1に、本実施例のスパッタ用電源装置を備えたスパッタ装置の構成を説明するブロック図を示す。なお、ここでは、主要部に直接関係しない部分、例えば、操作パネル、真空系の排気ポンプ、ガスの吸気/排気系のバルブや配管系統、等については省略されており、電気系統も説明に必要な部分を除いて一部簡略化されている。
【0013】
図1において、1は成膜チャンバー12内のプラズマにエネルギーを供給するために、ターゲット13を負バイアスするための直流可変電源であり、2は異常アーク放電を防止するために、該ターゲット13を正バイアスするための直流可変電源である。
3は、スパッタ装置の直流可変電源1及び2をあらかじめプログラミングされた動作でオンオフしたり、電圧設定や電流設定及び電力設定を行ったりするシステムコントロール部である。
4は前記、負バイアス用直流可変電源1と正バイアス用直流可変電源2、及びシステムコントロール部3を備えた直流電源装置ユニットであり、正負直流電源の各々の出力端子として5a、5b、5c、5d、スイッチングタイミング制御部19との制御信号の通信のためのポートとしてNビットの信号入出力端子5eを備えている。
以上が、本実施例のスパッタ装置に使用する直流電源装置ユニット4である。
【0014】
6は正バイアス用直流可変電源2からの電源接続用同軸ケーブルであり、この電源接続用同軸ケーブル6によって、本実施例のスパッタ装置における成膜室装置ユニット10へ、前記直流電源装置ユニット4の正バイアス用直流可変電源2からの電力を供給する。
7は負バイアス用直流可変電源1からの電源接続用同軸ケーブルであり、この電源接続用同軸ケーブル7によって、前記成膜室装置ユニット10へ、前記直流電源装置ユニット4の負バイアス用直流可変電源1からの電力を供給する。
8は、前記直流電源装置ユニット4のシステムコントロール部3と前記成膜室装置ユニット10のスイッチングタイミング制御部19との間の制御信号を通信するためのNビットの制御信号用ケーブルである。
9は前記成膜室装置ユニット10のGND点である。
【0015】
10は本実施例における成膜チャンバー12を含む成膜室装置ユニットであり、以下のものを含んで構成されている。
まず、前記直流電源装置ユニット4から同軸ケーブル6を介して供給される正バイアス用電源2の受け側となる電源の入力端子11a、11bと、同軸ケーブル7を介して供給される負バイアス用電源1の受け側となる電源の入力端子11c、11d、そして前記直流電源装置ユニット4のシステムコントロール部3と、Nビットの制御信号用通信ケーブル8を介して制御信号の通信を行うためのNビットの信号入出力端子11e、等が構成されている。
また、12は成膜チャンバーであり、13はターゲット、そして14はスパッタにより成膜した膜を付着成長させる基板(ワーク)である。
15と16は、互いにオン―オフの状態を異なるように動作するスイッチ手段であり、17と18は、そのスイッチ手段のドライブ回路である。このスイッチ手段15は、ドライブ回路17で、スイッチ手段16は、ドライブ回路18にて駆動されるが、おのおののドライブ回路の出力は、通常動作時においては、同時にオンをすることはなく、交互にオン―オフをして成膜チャンバー12とターゲット13にパルス化した電源を供給するように動作している。
【0016】
19はスイッチングタイミング制御部、20は電流検出抵抗、21は負荷電流検出部、23及び24はデカップリングコンデンサである。
これらの動作は、スパッタ成膜中における成膜チャンバー12とターゲット13の間で行われる放電電流を、電流検出抵抗20にて電圧降下として検出し、負荷電流検出部21にて、電圧増幅した後ノイズ除去し、あらかじめ設定した異常アーク放電が発生した設定値と比較する。もし異常アークが発生していれば、スイッチングタイミング制御部19に、スイッチ手段16をオフし、スイッチ手段15をオンにするように制御信号を送る。
この辺の動作は、従来あるパルス化された電源装置のスパッタ成膜中におけるアークキラー動作(異常アーク放電を消弧させるために、放電とは逆極性の電圧を印加する動作のこと。アークカットと呼ぶこともあるが、以下アークキラー動作と記す。)と同様である。
また22は、放電開始時あるいはアークキラー動作後に放電を再開する時のイグナイターである。
以上が一体となって、成膜室装置ユニット10を構成している。
【0017】
次に、Alの酸化膜をつける例で一連の動作を簡単に説明する。
実際にスパッタリングにより成膜をするには、真空槽およびで真空槽への給排気、及び真空槽へのArガスの注入、等が必要となるが、これらは前述した特許文献4等でも詳細に説明されており、また周知の技術事項でもあるからこれらについての説明は省略し、ここでは直接関係する電気系統の動作のみを記載する。
まず、つぎの(1)〜(7)の動作による通常時の成膜プロセスについて説明する。
(1)まず、スパッタ成膜の条件を設定する。システムコントロール部3の操作パネル(図示せず)より成膜条件を入力する。ここでは負バイアス用直流可変電源1を−600V、出力2kw、正バイアス用直流可変電源2を50V、パルス条件としては、動作周波数を25kHz、Duty80%と設定する。ここで設定したパルス条件は、Nビットの制御信号用通信ケーブル8を介してスイッチングタイミング制御部19へ送られる。
(2)次に、成膜チャンバー12内に、ワークとして基板14をセットする。
ターゲット13のAlは予めセットしておく(排気後Arガス・酸素注入)。
(3)システムコントロール部3より、動作開始のボタンを押すと、動作指令が装置の各部分に行き、スイッチングタイミング制御部19は、先ほどシステムコントロール部3で設定されたパルス条件に基づき、動作を開始し、ドライブ回路18を通じてスイッチ手段16を、32μsの間オンする信号を出す。この間、ドライブ回路17へは、スイッチ手段15をオフする信号を送っている。これと同時にイグナイター22にも信号を出し、グロー放電を開始するために必要なトリガー電圧を(2〜3μs程度)発生させて、放電を立てる。放電が立つとイグナイター22の動作は停止する。
【0018】
(4)放電がたつと、成膜チャンバー12内ではプラズマが発生し、そのプラズマで励起されたArイオンが、Alのターゲットの表面をスパッタリングし、飛び出したAlイオンが、基板14の近傍で酸素と反応しAlの膜を生成する。
(5)このまま成膜を継続すると、ターゲット13上にもAlの膜が生成する。これは絶縁性の膜で、ターゲット上のこの膜表面に電荷が蓄積され、やがてこの膜の絶縁耐圧を超えて放電する。これが異常アーク放電のトリガーとなる。これを防止するため、アークキラー動作として、この蓄積電荷を放電(中和)するために、今度は、システムコントロール部3で設定されたパルス条件に基づき、ドライブ回路17を通じてスイッチ手段15を、8μsの間オンする信号を出す。この間、ドライブ回路18へは、スイッチ手段16をオフする信号を送っている。この間、ターゲット13は、正バイアス用直流可変電源2により、蓄積された電荷と逆極性の電源につながるためアークキラー動作が実行される。このとき一度たったプラズマは消弧する。
(6)再び、スイッチングタイミング制御部19は、ドライブ回路18を通じてスイッチ手段16を、32μsの間オンする信号を出し、ドライブ回路17へは、スイッチ手段15をオフする信号を送る。そしてイグナイター22にも信号を出し、グロー放電を開始するために必要なトリガー電圧を(2〜3μs程度)発生させて、一度消弧した放電を再び立てる。放電が立つとイグナイター22の動作は停止する。
(7)以上の様にして(5)と(6)の動作を繰り返し、予め定めた時間が経つとシステムコントロール部3より、動作停止の指令が装置の各部分に行き、成膜は終了する。そして内部のガスの供給を停止後、吸気して、成膜チャンバー12より、成膜されたワークである基板14を取り出す。
以上が、通常の成膜プロセスである。
【0019】
つぎに、異常アーク発生時における動作について説明する。
これまで説明したように、アークキラー動作を行うパルス化した電源では、異常アーク放電は起こりにくくなっているが、実際に成膜を続けていると異常アーク放電が起こることがある。これは装置内部のコンタミネーションが原因でそこから小さな放電が起こり、異常アーク放電の引き金になることなどが考えられる。このような時は、アークキラー動作を行うパルス化した電源でも、オン状態で異常アークが発生することがある。
このときは、成膜状態にある成膜チャンバー12に流れる電流を電流検出抵抗20でモニタリングし、負荷電流検出部21で予め異常アーク電流の検出するレベルを超えると、異常アーク放電状態にあるとして、スイッチングタイミング制御部19に制御信号を送出し、スイッチ手段16がオンであるにも係わらず、スイッチングタイミング制御部19は、強制的にスイッチ手段16をオフし、スイッチ手段15をオンするようにドライブ回路17、18に各々制御信号を送る。(すなわちアークキラー動作に入る。)
また再び、放電を開始しようとするが、何回かおなじ状態になるときは、システムコントロール部3にスイッチングタイミング制御部から異常動作停止信号が送出され、システムコントロール部3は、異常動作終了表示をしてスパッタ装置全体の動作を停止する。
以上が、本実施例におけるスパッタ装置の動作の概要である。
【0020】
図2は、本発明を実施したスパッタ装置の全体を示す模式図である。図中の番号は、図1の番号と対応している。但し図1における成膜室装置ユニット10を破線の四角で囲って示してあるが、この部分の電気回路部品を実装した電気回路基板の部分は、図2において、Aとした。
そして図2に示すように、この電気回路基板Aが、成膜チャンバー12と、ターゲット13、と基板(ワーク)14含む装置部分の成膜チャンバー側面に、電気的に接続する部分であるターゲット13の給電部近傍に着脱可能に一体となるように取り付けられており、成膜室装置ユニット10を構成している。
この電気回路基板Aの要部を拡大した図が、図3である。この電気回路基板A上に、図1の成膜室装置ユニット10として破線の四角で囲ってある部分の電気回路が全て実装されており、特に成膜チャンバー12とターゲット13の間にパルス化された電源を供給するためのスイッチ手段15と16をこの電気回路基板A上に実装したことに特徴がある。
そして、図に示すように、この電気回路基板A上にM型コネクタのメスを取り付ける。これが、図1における電源の入力端子11a、11b、と11c、11dに相当し、同軸ケーブル6と7のM型コネクタのオス(図示せず。)と勘合するようになっている。
また図1におけるシステムコントロール部3と電気回路基板Aのスイッチタイミング制御部19は、Nビットの制御信号用通信ケーブル8を介して、信号入出力端子11eでアンフェノールコネクタ(商標)で相互に勘合するようになっている。
また、図6は、本発明の特徴を解りやすくするために、本発明の構成で従来例を示すとこのような構成となることを示す図である。図1と同じ部分については、図面が見づらくなるため番号を省略してある。
また番号を記してあるところの下2桁は、図1の構成要素と同じものである。この図に記されているように、従来、パルス状に変調されたパルス化電源304の内部に、スイッチ手段315と316が実装配置され、同軸ケーブル306には、パルス化された電源が供給され、成膜チャンバー313とターゲット314に給電されていた。
【0021】
この電気回路基板Aの構成を取ることにより、図1において、成膜室装置ユニット10の電気配線で一番太い線で描かれている、パルス状の電流が流れる部分の配線のインピーダンスを低く抑えること(すなわち余計なインダクタンス成分を持たせないこと)が可能となるので、極性の異なるパルス状の電源を供給するときに、不要なリンギングの発生が抑えられ、安定なパルス状の電源供給をする事ができるのである。
そして既に述べてきたように、本発明の最大の特徴は、電源供給部分がパルス化された状態で、同軸ケーブルを通ってターゲット13に給電されることがないことである。このことにより以下のようなメリットがある。
まず、同軸ケーブルがパルス化された電源の交流的な負荷にはならないということである。
すなわち、このメリットにより、デカップリングコンデンサ23、24が有効に働く構成となるため、同軸ケーブルの長さを延ばしても、その影響を受けにくくなる。即ち、不要な共振動作などがなく安定した放電の基で、成膜することができる。
つぎに、同軸ケーブルが、成膜チャンバーと並列の負荷にならないということである。
このため、スイッチ手段16がオンしている成膜期間中に異常アーク放電(例えばコンタミネーションなどが原因とされる)が生じてしまったときでも、アークキラー動作が有効に作用する僅かな時間内に発生するアークエネルギーが少ないため、ターゲット12へのダメージを小さく出来る。これは、一度ターゲット表面が、異常アーク放電により荒れてしまうと、これがまた異常アーク放電の種になりやすくなることを考慮すると大きなメリットである。
【0022】
[実施例2]
図4に本実施例におけるスパッタ用電源装置を備えたスパッタ装置の構成を説明するブロック図を示す。
図4は、本発明の実施例2を示す図である。なお、図1と同じ部分については、重複を避けるため原則として番号を省略しているが、本実施例の説明に必要な部分については、図1と同じ番号を付してある。
基本的な成膜装置の動作については、実施例1と同様であることから、ここでは説明を省略する。
本実施例と実施例1との構成上の基本的な違いは、正バイアス用直流可変電源2からの電源接続用同軸ケーブル6の代りに、安価な通常の絶縁電線をツイストペアで用いた電線(以下、ツイストペア電線と記す)206を、負バイアス用直流可変電源1からの電源接続用同軸ケーブル7の代りに、ツイストペア電線207を、各々電源の出力端子5´a、5´b、5´c、5´d、に対応させて、電源の入力端子11´a、11´b、11´c、11´d、へ結線させた点である。 すでに本発明の特徴で説明してきたように、直流電源装置ユニット4と成膜室装置ユニット10の間の電源供給は、本発明の場合には直流であることから、パルス化された電源のように、伝送線路としての交流的なインピーダンスの影響を考えなくてもよい。従って同軸ケーブルのような特性インピーダンスが保証されたケーブルではなく、安価なツイストペア電線を用いることが可能である。
成膜装置において高性能が求められるときには、実施例1のように高価な同軸ケーブルを使用することにメリットがある。しかしながら、本発明の構成を適用することで、直流電源から成膜チャンバーまでの電源供給線には、直流電圧しか掛からないためノイズ発生が小さく押さえられることから、通常の場合、同軸ケーブルを使用することなく安価なツイストペア電線を用いることができる。これによりに、従来例の同軸ケーブル1本分よりも更に安価に構成することができ、電源の出力端子5´a、5´b、5´c、5´dと、電源の入力端子11´a、11´b、11´c、11´dも、例えばMコネクタのオス端子とメス端子のような高価なものを使わずに済むため、装置全体を安価にすることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の実施例1におけるスパッタ用電源装置を備えたスパッタ装置の構成を説明するブロック図。
【図2】本発明の実施例1におけるスパッタ装置の構成全体を示す模式図。
【図3】本発明の実施例1におけるスパッタ装置の電気回路基板Aの要部を拡大した斜視図。
【図4】本発明の実施例2におけるスパッタ用電源装置を備えたスパッタ装置の構成を説明するブロック図。
【図5】従来例におけるプラズマ発生用電源(破線で囲んだ部分)と成膜チャンバー間とが同軸ケーブル(丸で囲んだ部分)で接続されている構成を説明する回路図。
【図6】従来例におけるスパッタ用電源装置を備えたスパッタ装置の構成を説明するブロック図。
【符号の説明】
【0024】
1:負バイアス用直流可変電源
2:正バイアス用直流可変電源
3:システムコントロール部
4:直流電源装置ユニット
5a、5b、5c、5d、:電源の出力端子
5e:Nビットの信号入出力端子
6:正バイアス用直流可変電源2からの電源接続用同軸ケーブル
7:負バイアス用直流可変電源1からの電源接続用同軸ケーブル
8:Nビットの制御信号用通信ケーブル
9:装置のGND点
10:成膜室装置ユニット
11a、11b、11c、11d:電源の入力端子
11e:Nビットの信号入出力端子
12:成膜チャンバー
13:ターゲット
14:基板(ワーク)
15、16:スイッチ手段
17、18:スイッチ手段のドライブ回路
19:スイッチングタイミング制御部
20:電流検出抵抗
21:負荷電流検出部
22:イグナイター
23、24:デカップリングコンデンサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
チャンバー内に基板とターゲットが配置された成膜室を有する成膜装置を備え、成膜用電源装置から供給された電力により前記チャンバーとターゲット間に印加し、前記ターゲットにおいてスパッタリングされた材料を前記基板上に蒸着して成膜するスパッタ装置において、
前記成膜用電源装置として構成された直流電源装置と、
前記直流電源装置からの直流電源を前記成膜装置に供給するため、これら直流電源装置と成膜装置とを接続する電源接続用手段と、
前記成膜装置側に設けられた印加電圧の極性を切り替えるスイッチ手段を含む制御部と、を備え、
前記電源接続用手段を介して前記直流電源装置から供給された直流電源による印加電圧の極性を、前記スイッチ手段によって切り替えて前記チャンバーとターゲット間に印加可能に構成されていることを特徴とするスパッタ装置。
【請求項2】
前記成膜装置側に設けられた印加電圧の極性を切り替えるスイッチ手段を含む制御部は、電気回路基板で構成され、該電気回路基板に前記スイッチ手段が設けられていることを特徴とする請求項1に記載のスパッタ装置。
【請求項3】
前記スイッチ手段が設けらた電気回路基板には、前記スイッチ手段をドライブするドライブ手段と、スイッチングタイミング制御手段と、放電を立てるイグナイターと、負荷電流検出抵抗を含む負荷電流検出部と、デカップリングコンデンサ、等が設けられていることを特徴とする請求項2に記載のスパッタ装置。
【請求項4】
前記スイッチングタイミング制御手段は、前記成膜用電源装置のシステムコントロール部と通信手段を介して制御信号を通信できるように接続されていることを特徴とする請求項3に記載のスパッタ装置。
【請求項5】
前記電気回路基板は、前記チャンバーの外側面に着脱可能に取り付けられ、これらが一体となるように構成されていることを特徴とする請求項2〜4のいずれか1項に記載のスパッタ装置。
【請求項6】
前記直流電源装置が、負バイアス用直流可変電源と、正バイアス用直流可変電源を備えていることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載のスパッタ装置。
【請求項7】
前記電源接続用手段は、同軸ケーブルまたは通常の絶縁電線で構成されることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載のスパッタ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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