説明

スパークプラグの製造方法

【課題】生産性を低下させることなく、電極溶接棒の破損を防止することができ、ひいてはスパークプラグの安定的な生産を可能とするスパークプラグの製造方法を提供する。
【解決手段】スパークプラグ1は、接地電極27と、接地電極27の先端部に接合される貴金属チップ32とを備える。接地電極27に貴金属チップ32を接合する接合工程においては、銅又は銀を含んでなる棒状の本体部47の一端に、融点が2000℃以上の貴金属材料からなる先端金属部48がロウ付けされてなる溶接電極棒46と、溶接電極棒46を保持する保持具43とを有する溶接装置41を用い、接地電極27の先端部に貴金属チップ32を配置した上で、貴金属チップ32を溶接電極棒46で加圧しつつ貴金属チップ32に通電することで、接地電極27に貴金属チップ32が抵抗溶接される。接合工程において、保持具46が水冷により冷却される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関等に使用されるスパークプラグの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に自動車エンジン等の内燃機関に使用されるスパークプラグは、中心電極と接地電極との間の火花放電間隙において、火花を生じさせることにより、内燃機関の燃焼室に供給される混合気に点火する構成となっている。
【0003】
近年では、排ガス規制への対応や燃費向上の観点から、リーンバーンエンジンや、直噴エンジン、低排ガスエンジン等の内燃機関の開発が積極的に行われている。このような内燃機関においては、従来よりも着火性に優れたスパークプラグが要求される。
【0004】
そこで、耐消耗性の低下を防止しつつ、着火性の向上を図るべく、接地電極のうち中心電極と対向する部位にイリジウム合金や白金合金等の耐消耗性に優れた貴金属合金からなる円柱状の貴金属チップを溶接することが知られている。
【0005】
ここで、接地電極に貴金属チップを溶接する手法としては、一般的に抵抗溶接が用いられる(例えば、特許文献1等参照)。具体的には、溶接電極棒を保持具によって保持してなる溶接装置を用いて、接地電極の所定部位に貴金属チップを配置しつつ、前記溶接電極棒の先端面を貴金属チップの先端面に押し当てた上で、溶接電極棒から接地電極側へと電流を流すことにより、接地電極に貴金属チップが溶接される。尚、生産性の向上を図るべく、順次搬送されるスパークプラグ(接地電極)に対して、時間をおくことなく連続的に貴金属チップが溶接される。
【0006】
ところで、前記溶接電極棒の先端部は、貴金属チップに接触する部位であるため、優れた耐熱・耐消耗性が必要であり、高融点の貴金属合金(例えば、タングステン合金等)で構成される。また、抵抗溶接に伴い溶接電極棒の先端部(先端金属部)に生じる熱を速やかに保持具側へと引かせるために、溶接電極棒の本体部は、熱伝導性に優れた銅や銀を含む金属材料で形成される。尚、先端金属部及び本体部を直接溶接することは困難であるため、両者よりも低い融点を有する合金を両者の間に介在させることにより(すなわちロウ付けにより)両者は接合される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2004−186152号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、近年、耐久性の更なる向上を図るべく、径や厚さを大きくした貴金属チップを設けることが要求されている。このようなボリュームを増大させた貴金属チップを接地電極に抵抗溶接する際には、溶接時に加えるべき通電エネルギーを従前よりも大きくする必要がある。ところが、従前よりも大きなエネルギーを加えてしまうと、溶接工程を連続的に行う際に、溶接電極棒が過熱されてしまう。その結果、融点の比較的低いロウ付け部分が破損してしまい、ひいては先端金属部の脱落を招いてしまうおそれがある。これに対して、溶接電極棒を冷却するための時間を設けることも考えられるが、冷却時間を設けることは、生産性の著しい低下を招いてしまうおそれがある。
【0009】
本発明は、上記事情を鑑みてなされたものであり、その目的は、生産性を低下させることなく、電極溶接棒の破損を防止することができ、ひいてはスパークプラグの安定的な生産を可能とするスパークプラグの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
以下、上記目的を解決するのに適した各構成につき、項分けして説明する。なお、必要に応じて対応する構成に特有の作用効果を付記する。
【0011】
構成1.本構成のスパークプラグの製造方法は、軸線方向に延びる棒状の中心電極と、
前記中心電極の外周に設けられた絶縁体と、
前記絶縁体の外周に設けられた主体金具と、
前記主体金具の先端部から延びる接地電極と、
前記接地電極の先端部に接合され、前記中心電極との間で間隙を形成する貴金属チップとを備え、
前記接地電極のうち少なくとも前記貴金属チップの接合される部位が、ニッケル系金属から構成されるとともに、
前記貴金属チップが、白金を主成分とする金属材料から構成されてなるスパークプラグの製造方法であって、
銅又は銀を含んでなる棒状の本体部の一端に、融点が2000℃以上の貴金属材料からなる先端金属部がロウ付けされてなる溶接電極棒と、
当該溶接電極棒を保持する保持具とを有する溶接装置を用い、
前記接地電極の先端部に前記貴金属チップを配置した上で、前記貴金属チップを前記溶接電極棒の先端金属部で加圧しつつ前記貴金属チップに通電することにより、前記接地電極に前記貴金属チップを抵抗溶接する接合工程を含み、
前記接合工程において、前記保持具が水冷により冷却されることを特徴とする。
【0012】
尚、「ロウ付け」とあるのは、接合される両者よりも低い融点を有する合金を、両者の間に介在させることで両者を接合する手法をいう。また、ロウ付けに用いられる合金としては、例えば、銀、銅、又は、亜鉛を主成分とするものが挙げられる。
【0013】
上記構成1によれば、保持具が水冷により冷却されるため、保持具によって保持される溶接電極棒を十分に冷却することができる。そのため、例えば、ボリュームの比較的大きな貴金属チップを接合する際などに、従前よりも大きなエネルギーを貴金属チップに加えたとしても、溶接電極棒を冷却するための時間を設けることなく、ロウ付け部分の破損をより確実に防止することができる。これにより、作業停止時間を設けることに伴う生産性の低下を防止しつつ、先端金属部の脱落(溶接電極棒の破損)をより確実に防止することができ、ひいてはスパークプラグを安定的に生産することができる。
【0014】
構成2.本構成のスパークプラグの製造方法は、上記構成1において、前記先端金属部のうち前記貴金属チップに接触する面の外径を、前記貴金属チップの外径の2倍以上としたことを特徴とする。
【0015】
接地電極に対して貴金属チップを抵抗溶接すると、接地電極に貴金属チップの一部が埋め込まれた状態となる。従って、貴金属チップが埋め込まれた分だけ、溶融した接地電極がはみ出してしまい、貴金属チップの外周に沿うようにして溶接部(いわゆる溶融ダレ)が形成される。ここで、溶接部が貴金属チップの先端面に付着してしまうと、当該溶接部と中心電極との間で火花放電が生じてしまい、着火性の低下等の不具合を招いてしまうおそれがある。特に、厚さや外径を比較的大きくした貴金属チップを溶接する場合には、溶接部のボリュームが大きくなってしまうため、上述の不具合の発生がより一層懸念される。
【0016】
この点、上記構成2によれば、先端金属部のうちの貴金属チップに接触する面(接触面)の外径が、貴金属チップの外径の2倍以上と十分に大きなものとされている。従って、先端金属部の接触面により、溶融ダレが貴金属チップの先端面にまで至ってしまうことをより確実に防止することができる。その結果、製造されるスパークプラグにおいて、着火性の低下等の不具合が発生してしまうことを効果的に抑制できる。
【0017】
構成3.本構成のスパークプラグの製造方法は、上記構成1又は2において、前記先端金属部の厚さを0.3mm以上としたことを特徴とする。
【0018】
上記構成3によれば、先端金属部の厚さが0.3mm以上と十分に大きなものとされている。従って、先端金属部の熱が急速に本体部側へと引かれてしまうことを防止できる。その結果、熱が急速に引かれることに伴う先端金属部の割れ等をより確実に抑制することができ、溶接電極棒の破損を効果的に防止することができる。
【0019】
構成4.本構成のスパークプラグの製造方法は、上記構成1乃至3のいずれかにおいて、前記貴金属チップの外径が2.3mm以上であることを特徴とする。
【0020】
貴金属チップの外径が大きい場合には、接地電極へと溶接する際により多くのエネルギーが必要となる。そのため、溶接電極棒の加熱がより一層進んでしまいやすく、溶接電極棒の破損をより招いてしまいやすい。
【0021】
この点、上記構成4によれば、貴金属チップの外径が2.3mm以上と比較的大きくされているため、溶接電極棒の破損等が一層懸念されるが、上記構成1等を採用することで、溶接電極棒の破損をより確実に防止することができる。換言すれば、貴金属チップの外径が2.3mm以上と比較的大きい場合において、上記構成1等を採用することがより有意であるといえる。
【0022】
構成5.本構成のスパークプラグの製造方法は、上記構成1乃至4のいずれかにおいて、前記貴金属チップの厚さが0.5mm以上であることを特徴とする。
【0023】
貴金属チップの外径が大きい場合と同様に、貴金属チップが比較的厚い場合には、接地電極へと溶接する際により多くのエネルギーが必要となる。従って、溶接電極棒の過熱・破損が一層懸念される。
【0024】
この点、上記構成5によれば、貴金属チップが0.5mm以上の厚さを有しており、上述の不具合の発生が懸念されるが、上記構成1等を採用することで、当該懸念を払拭することができる。換言すれば、貴金属チップが0.5mm以上と比較的厚い場合において、上記構成1等を採用することがより有意であるといえる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】スパークプラグの構成を示す一部破断正面図である。
【図2】(a)は、溶接装置の正面図であり、(b)は、溶接装置の断面側面図である。
【図3】(a),(b)は、接地電極への貴金属チップの溶接を説明するための部分拡大断面図である。
【図4】サイクル及びスロープを説明するための貴金属チップに印加される電流の通電波形である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下に、一実施形態について図面を参照しつつ説明する。図1は、スパークプラグ1を示す一部破断正面図である。尚、図1では、スパークプラグ1の軸線CL1方向を図面における上下方向とし、下側をスパークプラグ1の先端側、上側を後端側として説明する。
【0027】
スパークプラグ1は、筒状をなす絶縁体としての絶縁碍子2、これを保持する筒状の主体金具3などから構成されるものである。
【0028】
絶縁碍子2は、周知のようにアルミナ等を焼成して形成されており、その外形部において、後端側に形成された後端側胴部10と、当該後端側胴部10よりも先端側において径方向外向きに突出形成された大径部11と、当該大径部11よりも先端側においてこれよりも細径に形成された中胴部12と、当該中胴部12よりも先端側においてこれより細径に形成された脚長部13とを備えている。加えて、絶縁碍子2のうち、大径部11、中胴部12、及び、大部分の脚長部13は、主体金具3の内部に収容されている。また、脚長部13と中胴部12との連接部にはテーパ状の段部14が形成されており、当該段部14にて絶縁碍子2が主体金具3に係止されている。
【0029】
さらに、絶縁碍子2には、軸線CL1に沿って軸孔4が貫通形成されており、当該軸孔4の先端側には中心電極5が挿入、固定されている。当該中心電極5は、銅又は銅合金からなる内層5Aと、ニッケル(Ni)を主成分とするNi合金からなる外層5Bとにより構成されている。また、中心電極5は、全体として棒状(円柱状)をなし、その先端面が平坦に形成されるとともに、絶縁碍子2の先端から突出している。さらに、中心電極5の先端部には、貴金属合金(例えば、イリジウム合金)により形成された円柱状の貴金属チップ31が接合されている。
【0030】
また、軸孔4の後端側には、絶縁碍子2の後端から突出した状態で、端子電極6が挿入、固定されている。
【0031】
さらに、軸孔4の中心電極5と端子電極6との間には、円柱状の抵抗体7が配設されている。当該抵抗体7の両端部は、導電性のガラスシール層8,9を介して、中心電極5と端子電極6とにそれぞれ電気的に接続されている。
【0032】
加えて、前記主体金具3は、低炭素鋼等の金属により筒状に形成されており、その外周面にはスパークプラグ1をエンジンヘッド等に取付けるためのねじ部(雄ねじ部)15が形成されている。また、ねじ部15の後端側の外周面には座部16が形成され、ねじ部15後端のねじ首17にはリング状のガスケット18が嵌め込まれている。さらに、主体金具3の後端側には、スパークプラグ1をエンジンヘッド等に取付ける際にレンチ等の工具を係合させるための断面六角形状の工具係合部19が設けられるとともに、後端部において絶縁碍子2を保持するための加締め部20が設けられている。
【0033】
また、主体金具3の内周面には、絶縁碍子2を係止するためのテーパ状の段部21が設けられている。そして、絶縁碍子2は、主体金具3の後端側から先端側に向かって挿入され、自身の段部14が主体金具3の段部21に係止された状態で、主体金具3の後端側の開口部を径方向内側に加締めること、つまり上記加締め部20を形成することによって固定される。尚、絶縁碍子2及び主体金具3双方の段部14,21間には、円環状の板パッキン22が介在されている。これにより、燃焼室内の気密性を保持し、燃焼室内に晒される絶縁碍子2の脚長部13と主体金具3の内周面との隙間に入り込む燃料空気が外部に漏れないようになっている。
【0034】
さらに、加締めによる密閉をより完全なものとするため、主体金具3の後端側においては、主体金具3と絶縁碍子2との間に環状のリング部材23,24が介在され、リング部材23,24間にはタルク(滑石)25の粉末が充填されている。すなわち、主体金具3は、板パッキン22、リング部材23,24及びタルク25を介して絶縁碍子2を保持している。
【0035】
また、主体金具3の先端部26には、自身の略中間が曲げ返されて、その側面が中心電極5の先端部と対向する接地電極27が接合されている。接地電極27は、Ni合金から構成されるとともに、接地電極27の先端部には、白金を主成分とする金属材料からなる円柱状の貴金属チップ32が接合されている。貴金属チップ32は、抵抗溶接によって接地電極27に接合されており、貴金属チップ32の外周部分には、抵抗溶接に伴い接地電極27等が溶融することで形成された環状の溶接部35が形成されている。
【0036】
加えて、前記貴金属チップ31,32の間には、間隙としての火花放電間隙33が形成されている。そして、当該火花放電間隙33において、前記軸線CL1にほぼ沿った方向で火花放電が行われるようになっている。
【0037】
尚、本実施形態において、前記貴金属チップ32は、所定の大きさ以上(例えば、2.3mm以上)の外径を有し、また、所定の大きさ以上(例えば、0.5mm以上)の厚さを有するものである。
【0038】
次に、上記のように構成されてなるスパークプラグ1の製造方法について説明する。まず、主体金具3を予め加工しておく。すなわち、円柱状の金属素材(例えばS17CやS25Cといった鉄系素材やステンレス素材)を冷間鍛造加工により貫通孔を形成し、概形を製造する。その後、切削加工を施すことで外形を整え、主体金具中間体を得る。
【0039】
続いて、主体金具中間体の先端面に、Ni合金からなる直棒状の接地電極27を抵抗溶接する。当該溶接に際してはいわゆる「ダレ」が生じるので、その「ダレ」を除去した後、主体金具中間体の所定部位にねじ部15が転造によって形成される。これにより、接地電極27の溶接された主体金具3が得られる。また、接地電極27の溶接された主体金具3には、亜鉛メッキ或いはニッケルメッキが施される。尚、耐食性向上を図るべく、その表面に、さらにクロメート処理が施されることとしてもよい。メッキ処理が施された後、接地電極27先端部のメッキが除去される。
【0040】
一方、前記主体金具3とは別に、絶縁碍子2を成形加工しておく。例えば、アルミナを主体としバインダ等を含む原料粉末を用い、成型用素地造粒物を調製し、これを用いてラバープレス成形を行うことで、筒状の成形体が得られる。そして、得られた成形体に対し、研削加工が施され外形が整形された上で、焼成加工が施されることにより絶縁碍子2が得られる。
【0041】
また、前記主体金具3、絶縁碍子2とは別に、中心電極5を製造しておく。すなわち、中央部に放熱性向上を図るための銅合金を配置したNi合金を鍛造加工して中心電極5を作製する。次に、中心電極5の先端部に対して貴金属チップ31がレーザ溶接等により接合される。
【0042】
そして、上記のようにして得られた絶縁碍子2及び中心電極5と、抵抗体7と、端子電極6とが、ガラスシール層8,9によって封着固定される。ガラスシール層8,9としては、一般的にホウ珪酸ガラスと金属粉末とが混合されて調製されており、当該調製されたものが抵抗体7を挟むようにして絶縁碍子2の軸孔4内に注入された後、後方から前記端子電極6が押圧された状態で、焼成炉内にて焼き固められる。尚、このとき、絶縁碍子2の後端側胴部10の表面には釉薬層が同時に焼成されることとしてもよいし、事前に釉薬層が形成されることとしてもよい。
【0043】
その後、上記のようにそれぞれ作製された中心電極5及び端子電極6を備える絶縁碍子2と、接地電極27を備える主体金具3とが組付けられる。より詳しくは、比較的薄肉に形成された主体金具3の後端側の開口部を径方向内側に加締めること、つまり上記加締め部20を形成することによって固定される。
【0044】
次いで、メッキが除去された接地電極27の先端部に、図2(a),(b)に示す、溶接装置41を用いて、貴金属チップ32を抵抗溶接する。ここで、溶接装置41について説明すると、当該溶接装置41は、支持棒42と、保持具43と、溶接電極棒46とを備えている。
【0045】
支持棒42は、鉛直方向に沿って延びるとともに、溶接装置41の上方に設けられた被固定部(図示せず)に対して、一端部が固定されている。
【0046】
保持具43は、第1保持部44及び第2保持部45から構成されている。第1保持部44は、断面略L字状をなし、先端部に前記支持棒42が挿通される鍵状部44Aを備えている。そして、第1保持部44は、前記支持棒42の延出方向に沿って(すなわち鉛直方向に沿って)支持棒42に対して相対移動可能となっており、ひいては保持具43が鉛直方向に沿って移動可能となっている。
【0047】
また、第2保持部45は、前記第1保持部44に対して取付・取外可能に構成されており、第1保持部44との間で溶接電極棒46の基端部を保持可能となっている。さらに、第2保持部45の内部には、液体流路49が設けられている。当該液体流路49には、所定の冷却装置(図示せず)を経て所定温度以下(例えば、30℃以下)に冷却された循環水が所定速度以上で流れるようになっている。尚、冷却装置としては、例えば、吐出水量:2.0L/min、最高吐出圧力:0.42MPa、放熱量:2.4KW(冷却能力:35kcal/min)のものを用いることができる。
【0048】
前記電極溶接棒46は、前記保持具43に接続された電源装置(図示せず)から電力の供給を受けることで、基端部(保持具43)側から先端部側へと電流(本実施形態では、交流電流)を流す機能を有しており、棒状をなす本体部47と、円柱状をなす先端金属部48とを備えている。また、溶接電極棒46は、前記保持具43の移動に伴い、鉛直方向に沿って移動可能となっている。
【0049】
前記本体部47は、熱引きに優れた、銅又は銀を含む合金から形成されており、前記保持具43によって保持(挟持)されている。前記先端金属部48は、貴金属チップ32を抵抗溶接する際に、貴金属チップ32に対して接触する部位であって、融点が2000℃以上の導電性貴金属合金(例えば、タングステンを主成分とする合金)から構成されている。また、先端金属部48の厚さは、0.3mm以上(例えば、0.3mm以上5.0mm以下)とされ、さらに、先端金属部48の先端面(貴金属チップ32に接触する面)の外径は、溶接対象となる貴金属チップ32の外径の2倍以上(例えば、3倍以上)とされている。
【0050】
接地電極27に対する貴金属チップ32の溶接の説明に戻り、貴金属チップ32を溶接するにあたっては、接地電極27の設けられた主体金具3と絶縁碍子2等とが組み付けられてなる組付体が前記溶接装置41側へと間欠的に搬送される。そして、搬送動作間のインターバルに貴金属チップ32の溶接がなされる。すなわち、図3(a)に示すように、前記組付体が溶接電極棒46(先端金属部48)の鉛直下方に配置されたとき、組付体の搬送が一旦停止されるとともに、接地電極27の先端部に貴金属チップ32が載置される。このとき、貴金属チップ32の中心軸と溶接電極棒46(先端金属部48)の中心軸とがほぼ一致するようにして貴金属チップ32は載置される。尚、接地電極27(組付体)は、熱引きに優れた銅又は銅合金で形成されたステージ50上に配置される。
【0051】
次いで、前記溶接電極棒46を鉛直下方へと移動させ、溶接電極棒46の先端部にて貴金属チップ32を所定圧力(例えば、25kgf)押圧する。そして、この状態で、溶接電極棒46から貴金属チップ32へと所定の電流値(例えば、800A〜900A)で通電する。これにより、図3(b)に示すように、接地電極27及び貴金属チップ32の接触部分が通電加熱され、接地電極27等が溶融してなる溶接部35(いわゆる溶接ダレに当たる)が形成されるとともに、接地電極27へと貴金属チップ32が接合される。尚、抵抗溶接の後に、レーザ溶接を施すことによって接地電極27及び貴金属チップ32をより強固に接合することとしてもよい。
【0052】
貴金属チップ32の接合後、接地電極27の略中間部分が中心電極5側へと屈曲させられる。そして最後に、貴金属チップ31,32間の火花放電間隙33の大きさを調整する加工が実施されることで、上述のスパークプラグ1が得られる。
【0053】
以上詳述したように、本実施形態によれば、保持具43が水冷により冷却されるため、保持具43によって保持される溶接電極棒46を十分に冷却することができる。そのため、例えば、ボリュームの比較的大きな貴金属チップ32を接合する際などに、従前よりも大きなエネルギーを貴金属チップ32に加えたとしても、溶接電極棒46を冷却するための時間を設けることなく、ロウ付け部分の破損をより確実に防止することができる。これにより、作業停止時間を設けることに伴う生産性の低下を防止しつつ、先端金属部48の脱落(溶接電極棒46の破損)をより確実に防止することができ、ひいてはスパークプラグ1を安定的に生産することができる。
【0054】
さらに、先端金属部48のうちの貴金属チップ32に接触する面(接触面)の外径が、貴金属チップ32の外径の2倍以上と十分に大きなものとされている。従って、先端金属部48の接触面により、溶接部(溶融ダレ)が貴金属チップ32の先端面にまで至ってしまうことをより確実に防止することができ、その結果、製造されるスパークプラグ1において、着火性の低下等の不具合が発生してしまうことを効果的に抑制できる。
【0055】
加えて、先端金属部48の厚さが0.3mm以上と十分に大きなものとされている。従って、先端金属部48の熱が急速に本体部47側へと引かれてしまうことを防止できる。その結果、熱が急速に引かれることに伴う先端金属部48の割れ等をより確実に抑制することができ、溶接電極棒46の破損を効果的に防止することができる。
【0056】
次いで、本実施形態によって奏される作用効果を確認すべく、保持具を空冷によって冷却するタイプの溶接装置(比較例に相当する)と、保持具を水冷によって冷却するタイプの溶接装置(実施例に相当する)とを用いて、接地電極に接合する貴金属チップの外径及び厚さを種々変更しつつ、貴金属チップのサイズに合わせた溶接条件により、接地電極に対して貴金属チップを連続的に溶接した。詳述すると、サイズの比較的小さな貴金属チップを接合する際には、比較的小さなエネルギーで通電し(通電サイクルを10、スロープを5とし)、一方で、サイズの比較的大きな貴金属チップを接合する際には、比較的大きなエネルギーで通電することとした(通電サイクルを30、スロープを10とした)。また、溶接電極棒が過昇温してしまった場合には、溶接10回当たり5分の作業停止時間(冷却時間)を設けた。尚、「通電サイクル」とは、図4に示すように、通電開始から通電終了までの通電波形の周期数を意味し、「スロープ」とは、通電波形が最大振幅となるまでに要する周期数を意味する。表1に、貴金属チップのサイズ、保持具の冷却手法、サイクル、スロープ、及び、作業停止の有無と、溶接電極棒における破損の有無とを示す。
【0057】
【表1】

【0058】
表1に示すように、空冷により保持具を冷却する溶接装置を用いた場合には、貴金属チップのサイズが大きくなるに従って、溶接電極棒が過熱されてしまい、溶接電極棒の破損を防止するための作業停止時間を設ける必要があったり、または、作業停止時間を設けたとしても溶接電極棒の破損が生じてしまったりすることが明らかとなった。特に、外径を2.3mm以上としたり、厚さを0.5mm以上としたりした貴金属チップの溶接にあたっては、比較的大きなエネルギーが必要となり、その結果、作業停止時間を設けたとしても、溶接電極棒に破損が生じてしまうことが確認された。
【0059】
これに対して、水冷により保持具を冷却する溶接装置を用いた場合には、貴金属チップのサイズを大きくしたとしても、作業停止時間を設けることなく、溶接電極棒の破損を防止することができ、貴金属チップを連続的に溶接できることがわかった。
【0060】
以上の結果から、生産性を低下させることなく、電極溶接棒の破損を防止でき、ひいてはスパークプラグの安定的な生産を実現するという観点から、保持具を水冷により冷却することが有意であるといえる。特に、溶接に大きなエネルギーを要するため、溶接電極棒がより加熱されやすい貴金属チップ、すなわち、外径が2.3mm以上、又は、厚さが0.5mm以上の貴金属チップを溶接する際には、上述した手法を採用することが特に効果的であるといえる。
【0061】
尚、上記実施形態の記載内容に限定されず、例えば次のように実施してもよい。勿論、以下において例示しない他の応用例、変更例も当然可能である。
【0062】
(a)上記実施形態において、先端金属部38の厚さが0.3mm以上とされているが、先端金属部38の厚さはこれに限定されるものではない。また、上記実施形態において、先端金属部38の外径が貴金属チップ32の外径の2倍以上とされているが、先端金属部38の外径はこれに限定されるものではない。
【0063】
(b)上記実施形態では、貴金属チップ32について、その厚さが0.5mm以上であり、かつ、外径が2.3mm以上とされているが、本発明を適用可能な貴金属チップ32のサイズはこれに限定されるものではない。従って、厚さが0.5mm未満の貴金属チップや、外径が2.3mm未満の貴金属チップを溶接する際に本発明を利用することとしてもよい。この場合であっても、溶接電極棒36の破損をより確実に抑制することができ、スパークプラグ1の安定的な生産を図ることができる。
【0064】
(c)上記実施形態では、中心電極5に貴金属チップ31が設けられているが、貴金属チップ31を省略することとしてもよい。
【0065】
(d)上記実施形態では、主体金具3の先端部26に、接地電極27が接合される場合について具体化しているが、主体金具の一部(又は、主体金具に予め溶接してある先端金具の一部)を削り出すようにして接地電極を形成する場合についても適用可能である(例えば、特開2006−236906号公報等)。
【0066】
(e)上記実施形態では、工具係合部19は断面六角形状とされているが、工具係合部19の形状に関しては、このような形状に限定されるものではない。例えば、Bi−HEX(変形12角)形状〔ISO22977:2005(E)〕等とされていてもよい。
【符号の説明】
【0067】
1…スパークプラグ
2…絶縁碍子(絶縁体)
3…主体金具
5…中心電極
27…接地電極
32…貴金属チップ
33…火花放電間隙(間隙)
41…溶接装置
43…保持具
46…溶接電極棒
47…本体部
48…先端金属部
CL1…軸線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸線方向に延びる棒状の中心電極と、
前記中心電極の外周に設けられた絶縁体と、
前記絶縁体の外周に設けられた主体金具と、
前記主体金具の先端部から延びる接地電極と、
前記接地電極の先端部に接合され、前記中心電極との間で間隙を形成する貴金属チップとを備え、
前記接地電極のうち少なくとも前記貴金属チップの接合される部位が、ニッケル系金属から構成されるとともに、
前記貴金属チップが、白金を主成分とする金属材料から構成されてなるスパークプラグの製造方法であって、
銅又は銀を含んでなる棒状の本体部の一端に、融点が2000℃以上の貴金属材料からなる先端金属部がロウ付けされてなる溶接電極棒と、
当該溶接電極棒を保持する保持具とを有する溶接装置を用い、
前記接地電極の先端部に前記貴金属チップを配置した上で、前記貴金属チップを前記溶接電極棒の先端金属部で加圧しつつ前記貴金属チップに通電することにより、前記接地電極に前記貴金属チップを抵抗溶接する接合工程を含み、
前記接合工程において、前記保持具が水冷により冷却されることを特徴とするスパークプラグの製造方法。
【請求項2】
前記先端金属部のうち前記貴金属チップに接触する面の外径を、前記貴金属チップの外径の2倍以上としたことを特徴とする請求項1に記載のスパークプラグの製造方法。
【請求項3】
前記先端金属部の厚さを0.3mm以上としたことを特徴とする請求項1又は2に記載のスパークプラグの製造方法。
【請求項4】
前記貴金属チップの外径が2.3mm以上であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載のスパークプラグの製造方法。
【請求項5】
前記貴金属チップの厚さが0.5mm以上であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載のスパークプラグの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−82084(P2011−82084A)
【公開日】平成23年4月21日(2011.4.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−234885(P2009−234885)
【出願日】平成21年10月9日(2009.10.9)
【出願人】(000004547)日本特殊陶業株式会社 (2,912)
【Fターム(参考)】