説明

スピネル構造を有する、リチウムセル電池のためのニッケルおよびマンガンをベースとする高電圧正電極材料

この材料すなわちスピネル構造化合物は、
− 0.9<y≦1.1
− 0<x≦0.1
− δ>0
である化学式LiNi0.5−xMn1.5+x4−δを有している。また、8.167Åないし8.190Å、好ましくは8.179Åから8.183Åまでの格子定数を有している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、明確に決定された化学式および格子定数を有する、Ni、MnおよびLiをベースとする混合酸化物タイプの新しいスピネル構造化合物に関する。
【0002】
このような化合物は、安定性および電気化学的性能の点で優れた特性を有している。
【0003】
したがって、このような化合物は、電極、電池およびリチウム電池に有利に使用される。
【背景技術】
【0004】
リチウム電池は、とりわけ携帯型機器における自蔵エネルギー源として、その使用がますます増加しており、ニッケル−カドミウム電池(NiCd)およびニッケル−金属水素化物電池(NiMH)に徐々に取って代わりつつある。この変化は、リチウム電池の性能の継続的な改善により、NiCd技術およびNiMH技術によって提供されるものと比較して実質的に優れた質量エネルギー密度および体積エネルギー密度がリチウム電池に付与されていることによって説明される。
【0005】
商用電池に使用されている正電極のための活性電極化合物は、LiCoO、LiNiOなどの薄片状化合物、混合Li(Ni、Co、Mn、Al)O化合物、またはLiMnに類似した組成のスピネル構造化合物である。負電極は、通常、炭素(黒鉛、コークスなど)または場合によってはスピネルLiTi12からなっており、あるいはリチウムと合金を形成している金属(Sn、Siなど)からなっている。上記正電極化合物の理論的容量および実際的な容量は、薄片状酸化物(LiCoOおよびLiNiO)の場合、それぞれ約275mAh/gおよび140mAh/gであり、また、スピネルLiMnの場合、148mAh/gおよび120mAh/gである。いずれの場合においても、金属リチウムに対して約4Vの動作電圧が得られる。同様に、特定のアプリケーション(ハイブリッド車など)における正電極材料の選択枝として、カンラン石構造のリチウム−鉄ホスファートLiFePO(Li/Liに対して3.4Vで170mAh/gすなわち580Wh/kg)がしばしば挙げられており、リチウム電池の次世代におけるいくつかの競合材料の1つになるものと思われる。
【0006】
一般式LiMMn2−x4−δ、より詳細にはMが元素ニッケルであるLiMMn2−x4−δを有する「高電圧」スピネルは、極端に高い電位(Li/Liに対して4.5Vを超える電位)で電気化学レドックス特性を有している。
【0007】
したがって、これらの材料の挙動を記述した最初の文書、FR 2 738 673によれば、スピネル構造化合物LiNiII0.5MnIV1.5は、Li/Liに対して約4.7〜4.75Vの電位で電気化学的に可逆的に活性であることが立証されている。その理論的な比容量は146.7mAh/gであり、したがって金属リチウムに対するその理論的なエネルギー密度は約700Wh/kgである(正確には4.72Vの平均電位に対して692.4Wh/kgである)。同様に、LiMn(Mn4+/Mn3+)は、Li/Liに対して約4.1Vの平均電位で電気化学的に可逆的に活性である(理論的には148.2mAh/gおよび607.7Wh/kgである)。
【0008】
比較として、化合物LiCoOは、540Wh/kgの活性材料の最大実用質量エネルギー密度を有している。
【0009】
さらに、スピネルLiMnに対して実施される広範囲にわたる作業に鑑みて、この正電極化合物は、その三次元ネットワーク構造(三次元空間におけるチャネルの相互接続)により、高電流密度において極めて良好な電気化学的性能を提供していることは良く知られている。そのため、同じ構造を有する他の材料、とりわけ、たとえばLiNiMn2−x(0≦x≦0.5)化合物などのリチウムおよびマンガンをベースとする材料の良好な電力挙動が予測されている。
【0010】
現在、最も魅力的な電気化学的性能を提供していると思われる包括的材料「LiNi0.5Mn1.5」は、実際、実質的に異なる組成を有しており、陽イオン空格子点の存在および/または合成中に出現する微小量のLiNi1−xO型不純物の存在により、マンガンの一部が+3酸化状態にある。
【0011】
実際、J.H. Kimら(J.H;Kim、S.T.Myung、C.S.Yoon、S.G.KangおよびY.K.Sun)による記事、Chem.Mater、2004年、16、906〜914頁:[Comparative Study of LiNi0.5Mn1.54−δ and LiNi0.5Mn1.5 Cathodes Having Two Crystallographic Structures:Fd−3m and P432]によれば、NiイオンおよびMnイオンが2つの個別の結晶学的サイト(それぞれ空間群P432のサイト4aおよび12d)に整列している純粋な化学量論的化合物LiNi.5Mn1.5の電気化学的挙動は、その無秩序な非酸素化学量論的等価物(NiおよびMnが空間群Fd−3mの同じ結晶学的サイト16dを占有している)と比較してその満足度が劣ることが立証されている。したがって、電気化学的性能に関する限り、酸素空格子点によってもたらされる化合物中のMn3+イオンの存在は、場合によっては有利である。
【0012】
読者には、「電気化学的性能」という用語には、所与の化合物に対して必ずしも同時に達成されるとは限らないいくつかの基準が包含されていることに留意されたい。
− エネルギー密度(比容量および電位容量)に関する性能
− 電力(高密度電流を提供する能力)に関する性能
− 安定性(安定サイクリング容量)に関する性能
【特許文献1】特開平8−217452
【非特許文献1】J.H. Kimら(J.H;Kim、S.T. Myung、C.S. Yoon、S.G. KangおよびY.K. Sun)による記事、Chem.Mater、2004年、16、906〜914頁:[Comparative Study of LiNi0.5Mn1.5O4−δ and LiNi0.5Mn1.5O4 Cathodes Having Two Crystallographic Structures:Fd−3m and P4332]
【非特許文献2】「Electrochemical and Structural Properties of a 4.7 V−Class LiNi0.5Mn1.5O4 Positive Electrode Material Prepared with a Self−Reaction Method」という名称のK. Takahashiら(Koh Takahashi、Motoharu Saitoh、Mitsuru Sano、Miho FujitaおよびKoichi Kifune)による記事、Journal of The Electrochemical Society、151、A173−A177頁(2004)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
リチウム電池の現在の開発により、正電極材料として使用することができ、かつ、上で定義した最適電気化学的特性を有する新しい化合物を明らかにする必要があることが分かった。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明に関連して、本出願人は、新しい処方およびモルフォロジーならびに必要とされている特性を有する、ニッケル、マンガンおよびリチウムをベースとする混合酸化物タイプのスピネル構造化合物を得た。
【0015】
本発明は、
− 0.9<y≦1.1
− 0<x≦0.1
− δ>0
である化学式LiNi0.5−xMn1.5+x4−δを有し、かつ、8.167Åから8.190Åまで、好ましくは8.179Åから8.183Åまでの格子定数を有するスピネル構造化合物に関する。
【0016】
本発明は、微小量のニッケルをマンガンで置換することにより、マンガンの一部が電気化学的性能を改善した酸化状態+3である、リチウムをベースとする高電圧スピネルを得ることを可能にする代替化合物が提供されることを本出願人が見出したことに基づいている。
【0017】
理論的な観点からすると、これらの化合物中では、Ni4+/Ni3+、Ni3+/Ni2+およびMn4+/Mn3+レドックス対は、電気化学的に可逆的に活性である。Ni4+/Ni2+対によって1モルのニッケル当たり2モルのリチウムイオンを挿入/抽出することができる(Li/Liに対して4.7Vで生じる電気化学反応)ため、Ni4+/Ni2+対と作用する化合物を有することが有利であることに留意されたい。この特徴により、LiNi0.5Mn1.5の場合のようにMn/Niモル比が3:1未満であっても、容量が大きく、かつ、エネルギー密度の高い電池を製造することができる。結局のところ、極端に大きい比率は回避すべきであることが直観で分かる。
【0018】
実際、本出願人は、実用質量エネルギー密度(大きい電位容量および実用容量)と熱サイクル(1サイクル当たりの最小容量損失)の間の最適平衡に行き着く材料が、化学式LiNi0.5−xMn1.5+x4−δを有することを立証した。
【0019】
この化学式では、
・yは実質的に1に等しいことが望ましく、
・xは実質的に0.1に等しいことが望ましい。
【0020】
したがって、本発明による好ましい化合物の1つは、化学式LiNi0.4Mn1.64−δを有している。
【0021】
δは、一般的に高い合成温度によって伝統的に生じる若干の酸素不足に対応している。この酸素不足は、本発明の一部として説明されている冷却条件によっても制御される。δの値は0に近いことが望ましい。しかしながら、値0は除外される。
【0022】
これらの化合物のもう1つの本質的な特徴は、8.167Å(x=0およびδ=0)ないし8.190Å(x=0.1)、好ましくは8.179Åないし8.183Åであるそれらの格子定数である。
【0023】
特許請求する化合物は、本発明に関するそれらの定義およびそれらの有利な特性の点で、従来技術による化合物とは異なっている。リチウム電池での試験の結果によれば、本発明による化合物は、
− 比容量の安定性: C/5レジームでは130mAh/gであり、100サイクルを超えるサイクルにわたって1サイクル当たりの損失がゼロであり、また、このサイクル数を超えるサイクルでは、1サイクル当たりの損失が極めて小さい。
− エネルギー密度:>600Wh/kg
の点で特性を改善している。
【0024】
文書JP−A−8 217452は、xの範囲が0から0.5まで(0および0.5を含む)であり、MがCo、Ni、FeまたはCrであり、かつ、格子定数が8.24Å未満である化学式LiMMn2−xを有するスピネル構造材料を取り扱っている。この材料は、良好なサイクリング特性を有しているが、150m/gないし500m/gの比表面積を有するマンガン酸化物MnOが使用されているため、特定の仕様を有していない。この特許出願は、Li/Liに対する電位の範囲が3.5〜4.5Vであり、これを超えないことを暗に意味しており、また、そのために、Li/Liに対して一般的には4.5と5.0の間である元素M(Co、Ni、Cr、Fe)の酸化−還元が考慮されていない。
【0025】
また、「Electrochemical and Structural Properties of a 4.7 V−Class LiNi0.5Mn1.5 Positive Electrode Material Prepared with a Self−Reaction Method」という名称のK. Takahashiら(Koh Takahashi、Motoharu Saitoh、Mitsuru Sano、Miho FujitaおよびKoichi Kifune)による記事、Journal of The Electrochemical Society、151、A173−A177頁(2004)にLiNi0.4Mn1.6化合物の存在が言及されているが、格子定数に関する規定はなされていない。また、電気化学的特性についても特筆されていない。詳細には、実行されるサイクル数によって決まるこの化合物の比容量が言及されているが、サイクリングは、Li/Liに対して4.3〜4.9Vの電位窓内で生じるため、Mn4−/Mn3+レドックス対が除外されている。これらの条件の下に、比容量は、第1のサイクルの時点から110mAh/g未満であり、したがってそれほど有利とはいえない。
【0026】
本発明に関して、本発明による化合物は、明確に定義されたモルフォロジー、すなわち1ミクロンを超え、かつ、20μ未満の、固有モードが約10μmで、比表面積が1m/g(+/−0.5m/g)程度の粒子サイズを有していることがさらに望ましい。
【0027】
また、他の態様によれば、本発明は、酸素が不足し、かつ、微小量のMn3+イオンを含有したこのような材料(通常、このような材料には、LiNi1−xOタイプの不純物が存在している)を調製する方法に関している。
【0028】
本発明による材料を得るためには、合成パラメータ、とりわけ処理温度および処理時間ならびに使用する冷却のタイプを完全に掌握することが必要であることが分かった。
【0029】
したがって本発明は前記化合物を調製する方法に関しており、その本質的な段階は次の通りである。
− 場合によっては1モルパーセントないし5モルパーセントの過剰リチウムが存在している化学量論的条件の下で、炭酸前駆体、好ましくは炭酸リチウム、炭酸ニッケルおよび炭酸マンガンを混合する段階、
− この均質な混合物に500℃ないし700℃の温度で第1の熱処理を実施する段階、
− 前記混合物に700℃ないし950℃の温度、好ましくは800℃を超える温度で1つまたは複数のアニーリングを施し、引き続いて酸素を含有した媒体中で冷却する段階、
【0030】
第1の段階の間、前駆体が20時間に及ぶ液体媒体中、たとえばヘキサン中での機械的な破砕によって均質に混合され、次に、完全に均質な粉末を生成するために、溶媒が蒸発によって除去される。
【0031】
混合されたNi酸化物およびMn酸化物中へのリチウムの良好な混合を保障するためには、第2の段階で約600℃の熱処理を実行しなければならない。この加熱により、脱炭素化させ、かつ、必要とされている製品を形成することができる。
【0032】
所望のモルフォロジーを生成している間に酸素を消失させるためには、一般的には800℃を超える温度の第2の熱処理を実行しなければならない。
【0033】
最後に、酸素の部分復帰を可能にするために、先行する処理に対する適切な冷却が酸素を含有する媒体中で実行される。たとえばLiNi0.5Mn1.5の場合、約8.176Åの格子定数に対応する一定の量のマンガン(III)を維持しなければならない。
【0034】
使用される合成プロセスに応じて、粒子を水溶液中に分散させ、かつ/または酸化物の表面を化学的に修飾する段階によって、電極材料の電気化学的特性をさらに改善することができる。
【0035】
場合によっては、得られる粒子が、通常は一方が約10μmであり、もう一方が約100μmである2つの分散モードを有していることが分かっている。実際、後者は、より小さいサイズの粒子の集塊に対応している。次に、水溶液中での粉末処理を実行することができる。この処理は、たとえば、超音波攪拌を使用して数分間にわたって実行されるか、あるいは磁気攪拌を使用して48時間にわたって実行される。400℃以下の温度での乾燥により(再集塊を回避するため)、約10μmのモードを有する粒子のみを含有した粉末が生成される。
【0036】
この分散の主な効果は、活性材料の粒子間へのより大量の電解質のしみ込みを可能にし、その結果電流応答を実質的に改善することである(所与のサイクリングレジームに対する容量をより大きくすることである)。
【0037】
別法としては、粒子サイズが20μm未満の粒子を集めるために、非分散粉末をふるい分けることも可能である。
【0038】
また、ニッケル(触媒特性を備えた元素)が存在しており、また、とりわけ、従来の電解質に使用されている溶媒の熱力学的安定性窓の外側であるより高い動作電位(Li/Liに対して4.5Vを超える)のため、長時間にわたるサイクリング性能をさらに改善する(寿命をより長くする)ためには、粉末の表面を修飾し、かつ、表面の物理化学的特性を改善することは、場合によっては有利である。実際、サイクリングの安定性は、とりわけ構造的な安定性と関連しているが、サイクリングの安定性は、電解質との接触面積にも依存している(粒子のサイズが大きくなると、比表面積が減少する)。合成プロセスを使用して得られる粒子のモルフォロジーおよびサイズにより、高電位における電解質との反応性を部分的に制限することができ、その結果、周囲温度であれ、あるいは一般的には反応性が増幅される55℃であれ、サイクリング中における容量損失の制限を促進することができる。
【0039】
実際には、表面処理には、混合酸化物が置かれる、可変濃度のリン酸イオン(たとえばLiHPOまたは(NHHPO)を含有した水溶液を使用することが含まれる。この混合物は、数分から数十日に及ぶ一定の期間、好ましくは48時間の間、磁気攪拌される。規定の期間が経過すると、遠心分離が実行され、引き続いて超純水およびエタノール中で繰返しすすぎ洗いされた後、60℃のオーブンで乾燥される。最後に、2時間から5時間に及ぶ期間の間、350℃(+/−25℃)で熱処理される。
【0040】
また、特許請求する化合物の有利な電気化学的特性のため、本発明は電極に関しており、また、本発明は、その負電極上に活性材料として前記化合物を含むリチウム金属またはリチウム挿入材料(リチウムイオンタイプ)のいずれかを有する電池、より詳しくは、直列に接続されたセルからなる電池に関している。
【0041】
集電体として作用する金属箔上に付着される電極は、良好な導電率および満足すべき機械的強度を与える、電子的に導電性の添加剤(たとえば炭素)および/または有機バインダー(たとえばポリエーテル、ポリエステル、メタクリル酸メチルをベースとする重合体、アクリロニトリル、フッ化ビニリデン)を有する活性材料の分散系からなっていることが好ましい。2つの電極間の機械的セパレータは、電解質(イオン導体)を吸収している。後者は、通常、塩(その陽イオンは、少なくとも部分的にリチウムイオンである(LiClO、LiAsF、LiPF、LiBF、LiCHSOなど))、および極性非プロトン溶媒(炭酸エチレンまたは炭酸プロピレン、炭酸ジメチル、炭酸ジエチル、炭酸メチルエチルなど)からなっている。
【0042】
本発明および本発明によって得られる利点は、添付の図面を参照して行う好ましい実施形態についての以下の説明によってより容易に明らかになるであろう。しかしながら、これらの実施例は、いかなる状況の下においても、本発明を何ら制限するものではない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0043】
[実施例1]
それぞれ直径が20mm、重量が10.8gの13個ないし15個のボールが入った250mlの鉢の中で、Retsch型遊星ボールミルを使用して、ヘキサンが存在している(粉末が沈んでいる)状態で20時間(4回×5時間)の間、500rpmで粉砕することにより、Liが3モルパーセント超過した化学量論的条件の下で、炭酸塩をベースとする前駆体の均質混合物(8.168gの炭酸ニッケル、6.261gの炭酸リチウムおよび30.641gの炭酸マンガン)が得られる。この混合物は、一晩、55℃で乾燥され、引き続いて600℃で処理され(10時間)、次に900℃で処理された後(15時間)、1分間に1°の割合で周囲温度まで冷却される。このようにして得られる化合物は、本発明による特徴および8.179Åの格子定数を有している。
【0044】
図1ないし7は、この実施例1に従って得られたサンプルの特性を示したものである。
【0045】
[実施例2]
それぞれ直径が20mm、重量が10.8gの13個ないし15個のボールが入った250mlの鉢の中で、Retsch型遊星ボールミルを使用して、ヘキサンが存在している(粉末が沈んでいる)状態で20時間(4回×5時間)の間、500rpmで粉砕することにより、Liが3モルパーセント超過した化学量論的条件の下で、炭酸塩をベースとする前駆体の均質混合物(8.168gの炭酸ニッケル、6.261gの炭酸リチウムおよび30.641gの炭酸マンガン)が得られる。この混合物は、一晩、55℃で乾燥され、引き続いて600℃で処理され(10時間)、次に920℃で処理された後(15時間)、1分間に5°の割合で周囲温度まで冷却される。このようにして得られる化合物は、本発明による特徴および8.1827Åの格子定数を有している。
【0046】
[実施例3]
600℃で熱処理し(最初に1分間に0.1°の割合で30℃から300℃まで温度を高くし、次に3時間の間、300℃で保持した後、1分間に0.2°の割合で300℃から600℃まで温度を高くし、次に15時間の間、600℃で保持した後、1分間に5°の割合で周囲温度まで冷却する)、次に900℃で熱処理(24時間)した後、1分間に3°の割合で周囲温度まで冷却することにより、Liが3モルパーセント超過し、かつ、水が2gの化学量論的条件の下で、硝酸塩をベースとする前駆体の均質混合物(22.076gの硝酸マンガン、3.895gの硝酸リチウムおよび6.491gの炭酸ニッケル)が得られる。このようにして得られる化合物は、本発明による特徴および8.1807Åの格子定数を有している。
【0047】
分散例1
実施例1の手順を使用して準備されたサンプルの粒子を水溶液中に分散させるための段階であり、粒子は、一方が約10μm、もう一方が約100μmの2つの分散モードを有している。後者の分散モードは、より小さいサイズの粒子の集塊に対応している。次に、水溶液中で粉末が処理される。この処理は、超音波攪拌を使用して、周囲温度で10分間にわたって実行される。400℃以下の温度(再集塊を回避するために)での乾燥により、約10μmのモードを有する粒子のみを含有した粉末が生成される。この分散により、実施例4で説明するように、電気化学試験の間、電解質をより良好に含浸させることができることに留意されたい(図7)。この効果により、電流応答が実質的に改善される(所与のサイクリングレジームに対する容量がより大きくなる)。このようにして得られる化合物は、依然として本発明による特徴を有している。
【0048】
分散例2
実施例1の手順を使用して準備されたサンプルの粒子を水溶液中に分散させるための段階であり、粒子は、一方が約10μm、もう一方が約100μmの2つの分散モードを有している。次に、水溶液中で粉末が処理される。この処理は、ビーカ中で磁気攪拌を使用して、周囲温度で48時間にわたって実行される。400℃以下の温度(再集塊を回避するために)での乾燥により、約10μmのモードを有する粒子のみを含有した粉末が生成される。このようにして得られる化合物は、本発明による特徴を有している。
【0049】
分散例3
実施例1の手順を使用して準備されたサンプルの粒子を、連続する機械的なふるい分けによって分散させるための段階であり、粒子は、一方が約10μm、もう一方が約100μmの2つの分散モードを有している。サイズが20μm未満の粒子が集められる。このようにして得られる化合物は、本発明による特徴を有している。
【0050】
表面修飾例
10グラムのLiNi0.4Mn1.64−δで、実施例1の手順を使用して準備された材料の表面の化学的性質を修飾するための段階が実施される。材料は、0.18モル/lのLiHPOを含有した250mlの水溶液中に浸され、48時間の間、周囲温度で磁気攪拌される。遠心分離が施され、次に、水中で、次にエタノール中での連続的なすすぎ洗いの後、12時間の間、55℃で乾燥される。最後に、3時間の間、350℃で熱処理される。このようにして得られる化合物も、本発明による特徴を有している。また、実施例4で説明するように、電気化学試験の間、サイクリングの安定性が改善される(電池の寿命が長くなる)ことが分かっている(図7:「被覆」曲線)。
【0051】
[実施例4]
負電極を有するボタンセル型電池は、
− 集電体として作用するニッケル円板上に付着したリチウム円板(直径16mm、厚さ130μm)
− すべてアルミニウム製(厚さ20μmの箔)集電体の上に付着している、分散例1の手順を使用して準備された本発明による材料(80質量%)、導電性材料としてのカーボンブラック(10質量%)、およびバインダーとしてのポリ六フッ化ビニリデン(10質量%)からなる厚さ50μmの複合材料膜から取られた直径14mmの円板からなる正電極
− 炭酸プロピレン、炭酸エチレンおよび炭酸ジメチルの混合物中の溶液中のLiPF塩(1モル/L)をベースとする液体電解質を吸収したセパレータ
を備えている。
【0052】
20℃のC/5レジームでは、このシステムは、140mAh/gすなわち活性材料の640Wh/kgより大きい容量を生成する。これと同じ温度のCレジームでは、このシステムは、500サイクルにわたって、1サイクル当たり0.025%未満の損失と等価である比較的安定した容量(活性材料の130mAh/gないし110mAh/g)を生成する。
【0053】
[実施例5]
負電極を有するボタンセル型電池は、
− 集電体として作用するニッケル円板上に付着したリチウム円板(直径16mm、厚さ130μm)
− すべてアルミニウム製(厚さ20μmの箔)集電体の上に付着している、表面修飾例の手順を使用して準備された本発明による材料(80質量%)、およびバインダーとしてのカーボンブラック(10質量%)からなる厚さ50μmの合成膜から取られた直径14mmの円板からなる正電極
− 炭酸プロピレン、炭酸エチレンおよび炭酸ジメチルの混合物中の溶液中のLiPF塩(1モル/L)をベースとする液体電解質を吸収したセパレータ
を備えている。
【0054】
20℃のC/5レジームでは、このシステムは、100サイクルにわたって性能が損なわれない、活性材料の130mAh/gを超える容量を生成する。
【0055】
[実施例6]
2−Ah Liイオン電池(プロトタイプは、両面電極を備えている場合がある)は、本発明による材料でできた分厚い電極(正電極)および可撓パッケージ内に密閉された黒鉛(負電極)を備えている。このような電池は、実際的な使用条件(たとえばC/5と等価のサイクリングレジーム)の下で約240Wh/kg(電池の総合エネルギー密度;商用LiCoO/黒鉛電池の160〜180Wh/kgと直接比較することができる)を生成することができる。
【0056】
上で説明した合成方法は、LiNi0.5−xMn1.5+x4−δの組成を有するいくつかのサンプルを合成するために採用されたものである。
【0057】
図1は、実施例1に関連して説明した方法を使用して上記の通りに得られた、8.179Åの格子定数を有するLiNi0.4Mn1.64−δ dサンプルのx線回折線図を示したものである。
【0058】
格子定数が8.179ÅのLiNi0.4Mn1.64−δは、Li/Liに対して4.6Vの平均電位で147mAh/gの理論比容量、すなわち活性材料の理論密度675.6Wh/kgを有している。元の化合物からリチウムが抽出されると(電池を充電すると)、図2に示すように、Mn3+イオンがMn4+に酸化され(容量の20%にほぼ等しい)、Ni2+イオンがNi4+に酸化される(容量の80%にほぼ等しい)。
【0059】
図3は、化学式LiNi0.5−xMn1.5+x4−δを有する3つの化合物に対する完了したサイクル数の関数としての比容量をプロットしたものである。LiNi0.4Mn1.64−δ(すなわちx=0.1)は、LiNi0.45Mn1.554−δ(すなわちx=0.05)よりはるかに良好なサイクリング性能(完了した所与のサイクル数に対するより大きい容量)を提供していることは一目瞭然である。同様に、LiNi0.4Mn1.64−δは、より良好な電力性能を提供している(図4)。
【0060】
質量エネルギー密度の変化は、主として、平均電位が高くなり、かつ、電流密度が高くなることによるものであることに留意されたい。一方、比容量は、電流密度が高くなっても、それほど影響されない。たとえば、比放電容量は、C/8レジームでは143mAh/gに近く(理論値である97%より大きい)、また、C/8充電の後では、8Cの場合、133mAh/gに達している(理論値である90%より大きい)。また、放電容量に対する充電容量の比率と等価であるファラデー効果も、同じく図5に示すように極めて大きい(たとえばC/8では97%より大きく、Cでは99%より大きい)。分極(すなわち内部抵抗)は、第1の充電/放電サイクルの間は微弱であり、次の2〜3サイクルを実行すると減少し、電池の寿命が尽きるまで(つまり数百サイクルまたは数千サイクルの後まで)極めて微弱な状態を維持する。たとえばC/5レジームでは、充電曲線と放電曲線の間の電位差は、LiNi0.4Mn1.64−δ/Liシステムの10回目のサイクルの間、40mV未満である(図6)。
【0061】
図7は、粒子を水溶液中に分散させるための段階、または酸化物の表面を化学的に修飾するための段階によって、本発明による電極材料の電気化学的特性がさらに改善されることを示している。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】化学式LiNi0.4Mn1.64−δを有する化合物のx線回折線図(λCuKα)を示すグラフである。縦の線は、格子定数が8.179Åの空間群Fd−3mに対する計算されたブラッグ位置に対応している。
【図2】Li/Li対に対する電位が、正電極の活性材料の組成の関数としてその上にプロットされたインテンシオスタティックサイクリング曲線(第1の充電/放電サイクル)を示すグラフである(格子定数が8.179ÅのLiNi0.4Mn1.64−δ)。
【図3】LiNi0.5−xMn1.5+x4−δ(x=0;0.05および0.10)からなる3つの材料に対する、20℃、Li/Liに対する3.5Vと5Vの間のC/5レジームにおける、サイクル数を関数とした放電容量(mAh/gで示されている)の変化を示すグラフである。
【図4】質量エネルギー密度(放電)(電位と比容量の積)を、図3で言及した3つの材料のレジーム(電流密度)を関数とした活性材料のWh/kgで示すグラフである。
【図5】格子定数が8.179ÅであるLiNi0.4Mn1.64−δからなる材料に対する、20℃、Li/Liに対する3.5Vと5Vの間のCレジームにおける、サイクル数を関数とした放電容量および充電容量(mAh/gで示されている)の変化を示すグラフである。
【図6】Li/Li対に対する電位が、正電極の活性材料の組成の関数としてその上にプロットされたインテンシオスタティックサイクリング曲線(10回目の充電/放電サイクル)を示すグラフである(格子定数が8.179ÅのLiNi0.4Mn1.64−δ)。
【図7】格子定数が8.179ÅのLiNi0.4Mn1.64−δからなる材料に対する、20℃、Li/Liに対する3.5Vと5Vの間のC/5レジームにおける、サイクル数を関数とした放電容量(mAh/gで示されている)の変化を示すグラフである。この材料は、分散段階(いわゆる「分散」方法)を経た後、および表面処理(いわゆる「被覆」方法)を経た後に、それぞれ本発明による基本プロセス(いわゆる「正規」の方法)を使用して異なる方法で処理されている。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
スピネル構造化合物であって、
0.9<y≦1.1
0<x≦0.1
δ>0
である化学式LiNi0.5−xMn1.5+x4−δを有することを特徴とし、かつ、
8.167Åないし8.190Å、好ましくは8.179Åから8.183Åまでの格子定数を有することを特徴とするスピネル構造化合物。
【請求項2】
前記スピネル構造化合物が化学式LiNi0.4Mn1.64−δを有することを特徴とする請求項1に記載の化合物。
【請求項3】
前記スピネル構造化合物が、1μmを超える一様な粒子サイズ、好ましくは10μm程度の一様な粒子サイズを有することを特徴とする請求項1または2に記載の化合物。
【請求項4】
前記スピネル構造化合物が、0.5m/gないし1.5m/gの比表面積を有することを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の化合物。
【請求項5】
場合によっては1モルパーセントないし5モルパーセントの過剰リチウムが存在している化学量論的条件の下で、炭酸前駆体、好ましくは炭酸リチウム、炭酸ニッケルおよび炭酸マンガンを混合する段階と、
この均質な混合物に500℃ないし700℃の温度で第1の熱処理を施す段階と、
前記混合物に700℃ないし950℃の温度、好ましくは800℃を超える温度で1つまたは複数のアニーリング段階を実施し、引き続いて酸素を含有した媒体中で冷却する段階と
からなる、請求項1から4のいずれか一項に記載の化合物を調製する方法。
【請求項6】
得られた粒子に、ふるい分けおよび/または水溶液中での処理および引き続く乾燥によってそれらを分散させる段階が実施されることを特徴とする請求項5に記載の化合物を調製する方法。
【請求項7】
前記化合物の表面の化学的な性質がリン酸イオンでの処理によって修正されることを特徴とする請求項5または6に記載の化合物を調製する方法。
【請求項8】
その電気化学的活性材料として請求項1から4のいずれか一項に記載の化合物からなる電極。
【請求項9】
前記化合物が、分散した形態であり、かつ、電子的に導電性の添加剤および/または有機バインダーと混合されることを特徴とする請求項8に記載の電極。
【請求項10】
請求項8または9に記載の少なくとも第1の電極と、リチウムイオンを受け取ることができる材料でできた第2の電極とを備え、前記電極が電解質を吸収したセパレータによって分離された電池。
【請求項11】
請求項10に記載の少なくとも1つの電池を備えた1組の電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公表番号】特表2009−505929(P2009−505929A)
【公表日】平成21年2月12日(2009.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−527487(P2008−527487)
【出願日】平成18年7月7日(2006.7.7)
【国際出願番号】PCT/FR2006/050686
【国際公開番号】WO2007/023235
【国際公開日】平成19年3月1日(2007.3.1)
【出願人】(590000514)コミツサリア タ レネルジー アトミーク (429)
【Fターム(参考)】