説明

スピロ化合物類の製造方法。

【課題】電気化学キャパシタ又は電池用の電解液の電解質として有用な酸スピロ化合物及びその原料であるハロゲン化酸スピロ化合物を、高純度でかつ効率よく得ることができる新規な製造方法を提供する
【解決手段】式:X(CH2)nX(Xはハロゲン原子、nは2〜6)で表されるジハロゲン化アルカンと、式:(CH2)mNH(mは2〜6)で表される脂環式アミンとを、有機溶媒中で反応させ、次いで、式:R1R2NH(R1R2は水素原子又は低級アルキル基)で表されるアミンを反応させ、得られる反応混合物からR1R2NH2Xで表される副生成物を分離し、式:(CH2n>N+<(CH2)mX-(Xはハロゲン原子、n、mは2〜6)で表されるハロゲン化スピロ化合物を製造する。次いで、ハロゲン化スピロ化合物は、酸又は酸塩と反応させて、式:(CH2)nN+(CH2)mA-(Aは、酸根、n、mは2〜6)で表される酸スピロ化合物を製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高純度を有する、ハロゲン化スピロ化合物及び酸スピロ化合物の製造方法に関し、より詳細には、例えば、電気二重層キャパシタ,ハイブリッドキャパシタ、電解キャパシタなどの電気化学キャパシタ、又は、色素増感型太陽電池などの電池用の電解液の電解質として有用な酸スピロ化合物、又はハロゲン化スピロ化合物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ハロゲン化スピロ化合物及び酸スピロ化合物の製造方法は、非特許文献1により知られている。該非特許文献1には、水溶媒中、1,4-ジブロモブタンを水酸化ナトリウムの存在下にピロリジンと反応させることにより、臭化1,1’-スピロビピロリジニウムを得ることが開示されている。また、得られる臭化1,1’-スピロビピロリジニウムを無機酸と反応させことにより、1,1’-スピロビピロリジニウム無機酸塩を得ることが開示されている。
【0003】
しかし、非特許文献1の方法により得られる1,1’-スピロビピロリジニウム無機酸塩には、原料に由来するナトリウムイオンが含有され、純度が低いため、そのままではキャパシタ用あるいは電池用の有機電解液の電解質として使用することは困難である。この場合、品質向上のために、再結晶を行う等、精製する必要があるが、不純物を完全に分離することはやはり困難である。
【0004】
また、非特許文献2には、ピロリジンに1,4-ジブロモブタンを作用させて臭化1,1’-スピロビピロリジニウムを得る方法が開示されている。得られた臭化1,1’-スピロビピロリジニウムを、イオン交換膜を使用した電気透析法を行い、アニオン交換により脱ハロゲンと脱塩を行い、水酸化1,1-スピロビピロリジニウムの水溶液を得ることが示される。得られた水酸化1,1’-スピロビピロリジニウム水溶液に所望の無機酸を添加し、中和反応させ、減圧下に蒸発乾固して1,1’-スピロビピロリジニウム無機酸塩を得る方法が開示されている。
【0005】
しかし、非特許文献2のイオン交換膜を用いた電気透析法でも、高純度の水酸化1,1’-スピロビピロリジニウムを得ることが難しい。その上、この製造方法は、3段階の長い工程を経るため収率が著しく低下し、1,1’-スピロビピロリジニウム無機酸塩の製法として非効率な方法である。
【0006】
【非特許文献1】Journal of American Chemical Society,76,5099(1954)
【非特許文献2】J.V.ブラウン、ペリヒテ.第49巻、第466貢(1916)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記従来の難点を解消し、電気化学キャパシタ又は電池用の電解液の電解質として有用な酸スピロ化合物及びその原料であるハロゲン化酸スピロ化合物を、特に精製しないでも高純度でかつ効率良く得ることができる新規な製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記の課題を達成するため鋭意研究を進めたところ、従来の方法に較べて極めて効率的な製造が可能となり、かつ目的生成物の純度を高める工業的製法に関する新しい技術を確立し、本発明に到達したものである。
すなわち、本発明は下記の要旨を有するものである。
(1)式:(CH2n>N+<(CH2)mX-(式中、Xは、ハロゲン原子であり、n、mは独立して2〜6の整数である)で表されるハロゲン化スピロ化合物の製造方法であって、
式:X(CH2)nX(式中、Xは、ハロゲン原子であり、nは2〜6の整数である)で表されるジハロゲン化アルカンと、式:(CH2)mNH(式中、mは2〜6の整数である)で表される脂環式アミンとを、有機溶媒中で反応させ、次いで、式:R1R2NH(式中、R1R2は独立して水素原子又は低級アルキル基である)で表されるアミンを反応させ、得られる反応混合物からR1R2NH2Xで表される副生成物を分離することを特徴とするハロゲン化スピロ化合物の製造方法。
(2)得られる反応混合物を濾過し、ハロゲン化スピロ化合物を含む母液からRNH2Xで表される副生物を分離する上記(1)に記載のハロゲン化スピロ化合物の製造方法。
(3)ハロゲン化スピロ化合物を含む母液を蒸留し、未反応のジハロゲン化アルカン、脂環式アミン及び有機溶媒を分離除去し、ハロゲン化スピロ化合物を得る上記(2)に記載のハロゲン化スピロ化合物の製造方法。
(4)有機溶媒が、比誘電率5〜50を有する上記(1)〜(3)のいずれかに記載のハロゲン化スピロ化合物の製造方法。
(5)上記(1)〜(5)のいずれかに記載の製造方法で得られた式:(CH2)n>N+<(CH2)mX-(式中、Xは、ハロゲン原子であり、n、mは独立して2〜6の整数である)で表されるハロゲン化スピロ化合物と、酸又は酸塩とを反応させることを特徴とする、(CH2)nN+(CH2)mA-(式中、Aは、酸根であり、n、mは独立して2〜6の整数である)で表される酸スピロ化合物の製造方法。
(6)酸が、HClO4、HBF4、HPF6、CF3SO3H、HN(CF3SO2)2、HN(C2F5SO2)2、HC(CF3SO2)3、H{(C2O4)2B}、又はH{(C2O4)BF2}である請求項5に記載の酸スピロ化合物の製造方法。
(7)5ハロゲンイオンが比濁法で100ppm以下であり、アルカリ金属が20ppm以下である上記(5)又は(6)4に記載の酸スピロ化合物の製造方法。
(8)請求項1〜7のいずれかに記載の製造方法で得られたハロゲン化スピロ化合物又は酸スピロ化合物を電解質とする、電気化学キャパシタ又は電池用の電解液。
(9)請求項1〜7のいずれかに記載の製造方法で得られたハロゲン化スピロ化合物又は酸スピロ化合物を電解質とする電解液を有する、電気化学キャパシタ又は電池。
【発明の効果】
【0009】
本発明の製造方法によれば、高純度のハロゲン化スピロ化合物及び酸スピロ化合物が高収率で製造できる。得られた高純度のハロゲン化スピロ化合物及び酸スピロ化合物は、電気化学キャパシタ又は電気化学電池用の電解液の電解質として使用でき、優れた特性を発揮する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明の原料であるジハロゲン化アルカンとしては、式:X(CHX(式中、Xはハロゲン原子、好ましくは、塩素原子又は臭素原子であり、nは2〜6、好ましくは3〜5の整数である)で表される。その好ましい例としては、1,2-ジクロロエタン、1,2-ジブロモエタン、1,2-ジヨウ化エタン、1,3-ジクロロプロパン、1,3-ジブロモプロパン、1,3-ジヨウ化プロパン、1,4-ジクロロブタン、1,4-ジブロモブタン、1,4-ジヨウ化ブタン、1,5-ジクロロペンタン、1,5-ジブロモペンタン、1,5-ジヨウ化ペンタン、1,6-ジクロロヘキサン、1,6-ジブロモヘキサン、1,6-ジヨウ化ヘキサンなどを挙げることができる。なかでも、1,4-ジクロロブタンなどのようにアルキル基数が偶数の方が速やかに反応しやすく好ましい。また、アルキル基数が7以上になると立体障害の影響のため環を形成せず、それ自身で高分子化してしまうので好ましくない。
【0011】
本発明の他の原料である脂環式アミンは、式:(CHNH(式中、mは2〜6、好ましくは3〜5の整数である)で表される。その好ましい例としては、アゼチジン、ピロリジン、ピペリジンなどを挙げることができる。
【0012】
本発明において、上記ジハロゲン化アルカンと脂環式アミン((CH2)mNH)との反応は有機溶媒中で行われる。この有機溶媒としては、反応原料であるジハロゲン化アルカンと脂環式アミンを溶解し、かつ目的の反応生成物であるハロゲン化スピロ化合物に対する溶解度が大きく、更には、副生成物であるアミン塩(R1R2NH2X)が難溶であるものが好ましい。かかる有機溶媒は、比誘電率として好ましくは5〜50、特に好ましくは10〜40を有する場合、上記副生成物であるアミン塩を分離するのに好適であることが見出された。また、有機溶媒は、沸点として、好ましくは40〜150℃、特に好ましくは50〜120℃を有するのが目的物であるハロゲン化スピロ化合物を分離するのに好適である。
好ましい有機溶媒の例としては、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、イソプロパノール、ブタノールなどの低級アルコール類、アセトニトリル、バレロニトリル、メトキシアセトニトリルなどのニトリル類、アセトン、エチルメチルケトンなどのケトン類、ジメトキシエタン、ジオキソラン、テトラヒドロフランなどのエーテル類が挙げられる。なかでも、低級アルコール類の使用が特に好ましい。
【0013】
上記ジハロゲン化アルカンと脂環式アミンとを反応させ、次いで、その反応物に反応させる、式:RNH(式中、Rは、独立して水素原子又は炭素数1〜3のアルキル基である)で表されるアミンは、ジメチルアミン、ジエチルアミン、エチルメチルアミン、アンモニアなどが好ましい。この場合のアミンとして、3級アミンを使用した場合には、副生成物であるアミン塩の分離が困難であるので高純度のハロゲン化スピロ化合物が得られない。なお、RNHで表されるアミンは、上記ジハロゲン化アルカンと脂環式アミンとの反応系に始めから存在させてもよく、また、反応途中又は反応終了後に反応系に添加して存在させてもよい。
【0014】
本発明では、ジハロゲン化アルカンと脂環式アミンとを反応させ、そいて、副生物であるアミン塩(R1R2NH2X)を分離して得られるハロゲン化スピロ化合物は、そのまま電気化学キャパシタ又は電池などの電解液の電解質などして使用できる。また、このハロゲン化スピロ化合物は、好ましくは、酸又はその酸塩と反応させて酸スピロ化合物を製造するためにも使用される。この酸スピロ化合物の製造に使用される酸としては、無機酸又は有機酸のいずれの酸も使用できる。また、酸塩としては、ナトリウム、カリウム、リチウムなどのアルカリ金属塩、銀塩などが使用できる。
これらの酸又は酸塩としては、特に制約はないが、強酸なものほど陰イオンへの変換が早く完結する。これらの酸の具体的な例として、HClO4、HBF4、HPF6、CF3SO3H、HN(CF3SO2)2、HN(C2F5SO2)2、H{(C2O4)2B}、H{(C2O4)BF2}などを挙げることができる。なかでも、HBF4又はHPF6が好適である。酸塩としては、これらのナトリウム、カリウム、リチウムなどのアルカリ金属塩、銀塩などを挙げることができる。なかでも、LiPF6又はNaPF6が好適である。
【0015】
本発明において、ハロゲン化スピロ化合物の製造は、下記の工程(i)で表わされ、また、ハロゲン化スピロ化合物から酸スピロ化合物の製造は、下記の工程(ii)−1又は工程(ii)−2で表わされる。次に、これらの工程(i)、工程(ii)−1及び工程(ii)−2について説明する。
【0016】
工程(i)では、ジハロゲン化アルカンに量論値又は大過剰量の脂環式アミンが混合され、反応は、有機溶媒中で、反応温度が好ましくは20〜100℃、より好ましくは30〜80℃で実施される。反応が終了した段階で、アミン類を量論値又は大過剰量添加し、好ましくは上記と同じ温度で反応させる。ハロゲン化スピロ化合物の反応が十分に進行したところで、有機溶媒から析出する副生成物であるRNH2Xを好ましくは、濾過、遠心分離機などを用いて分離する。得られるハロゲン化スピロ化合物を含む母液を蒸留し、未反応のジハロゲン化アルカンと脂環式アミン、有機溶媒と共に留去する。
得られる蒸留母液は、スラリー状態にし、好ましくは遠心分離機を用いて固液分離し、母液とハロゲン化スピロ化合物を得る。この時、必要に応じて適当な有機溶媒、好ましくは、ジハロゲン化アルカンと脂環式アミンとの反応の際に使用した有機溶媒などを使用して洗浄、あるいは再結晶して、ハロゲン化スピロ化合物を得る。また、この際に得られた母液は、リサイクルし、上記工程(i)の反応の溶媒として用いることによって、収率が向上する。
【0017】
工程(ii)-1では、ハロゲン化スピロ化合物に対して、量論値又は大過剰量のHBFに代表される酸を、好ましくはアルコール類、ニトリル類などの溶媒の存在下又は不存在下に添加する。副生する塩酸水溶液や臭化水素酸などは濃縮して除去される。反応生成物は、乾固又はスラリー状態にした後、例えば、アルコールなどの有機溶媒により晶析させ、固液分離することにより、高純度のテトラフルオロホウ酸スピロ化合物などの酸スピロ化合物を90〜95%の高収率にて得ることができる。酸スピロ化合物は、必要に応じてアルコール類、ニトリル類などの溶媒を用いて洗浄、もしくは再結晶を行い、更に高純度にすることができる。
【0018】
工程(ii)-2では、ハロゲン化スピロ化合物に対して、量論値又は大過剰量のNaPF6に代表される酸塩を、好ましくはアルコール類、ニトリル類などの溶媒存在下に添加し、固液分離することによって高純度のヘキサフルオロリン酸スピロ化合物などの酸スピロ化合物を90〜95%の高収率にて得ることができる。酸スピロ化合物は、必要に応じてアルコール類、ニトリル類などの溶媒を用いて洗浄、もしくは再結晶を行い、更に高純度にすることができる。
【0019】

【0020】
上記の工程(i)工程、(ii)−1及び工程(ii)−2における、n、m、X、R1〜R2は上記したのと同じ意味を表す。Mは、K、Li又はNaを示す。Aは、テトラフルオロホウ酸イオン、ヘキサフルオロリン酸イオン、トリフルオロメタンスルホン酸イオン、ビストリフルオロメタンスルホンイミドイオン、過塩素酸イオンに代表される酸成分を表す。
【0021】
本発明により製造される酸スピロ化合物の環状アルキル基は特に限定されるものではないが、電気化学的特性の中で、特に酸化還元電位がより広がる点で、その炭素数は4又は5であることが好ましい。すなわち、1,1’-スピロビピロリジニウム、1,1’-スピロビピペリジニウム、スピロ[ピペリジン-1,1’-ピロリジニウム]が好適に例示される。
【0022】
本発明により製造される酸スピロ化合物は、テトラフルオロホウ酸スピロ化合物、ヘキサフルオロリン酸スピロ化合物、トリフルオロメタンスルホン酸スピロ化合物、ビストリフルオロメタンスルホンイミドスピロ化合物、過塩素酸スピロ化合物などが例示される。なかでも、1.電気伝導率が高い、2.酸化還元分解電圧が高い、3.使用可能温度範囲が広い、4.充放電サイクル特性が良いなどの、電解質としての性能からテトラフルオロホウ酸スピロ化合物又はヘキサフルオロリン酸スピロ化合物が好適である。
【0023】
テトラフルオロホウ酸スピロ化合物及びヘキサフルオロリン酸スピロ化合物のなかでも、特に、酸化還元分解電位などが顕著に高いなどの点において、テトラフルオロホウ酸1,1’-スピロビピロリジニウム、ヘキサフルオロリン酸1,1’-スピロビピロリジニウム、テトラフルオロホウ酸1,1’-スピロビピぺリジニウム、ヘキサフルオロリン酸1,1’-スピロビピペリジニウム、テトラフルオロホウ酸スピロ[ピペリジン-1,1’-ピロリジニウム]、ヘキサフルオロリン酸スピロ[ピペリジン-1,1’-ピロリジニウム]が好ましく、その中でもテトラフルオロホウ酸1,1’-スピロビピロリジニウム、ヘキサフルオロリン酸1,1’-スピロビピロリジニウムが特に好ましい。
【0024】
本発明では上記のように、高純度のハロゲン化スピロ化合物又は酸スピロ化合物が得られるが、例えば、酸スピロ化合物は、ハロゲンイオンが比濁法で100ppm以下、特には50ppm以下のものが得られる。また、ナトリウムなどのアルカリ金属は、20ppm以下、特には、10ppm以下のものまで得られる。かかる高純度のハロゲン化スピロ化合物又は酸スピロ化合物は、電気二重層キャパシタ,ハイブリッドキャパシタ、電解キャパシタなどの電気化学キャパシタ、又は色素増感型太陽電池などの電池用の電解液における電解質として使用した場合に、電圧印加特性、充放電サイクル特性などの特性の優れた製品を得ることができる。
【実施例】
【0025】
以下に、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれら実施例により限定されるものではない。
【0026】
実施例における評価は以下の(1)〜(7)の方法により実施した。
(1)分子構造:元素分析並びに1H-NMR、13C-NMRにて分析を行った。
(2)目的物の純度;滴定によりフッ素基準にて評価。
(3)水分含量;カールフィッシャー法にて評価。
(4)塩素イオン濃度、臭素イオン濃度;比濁法にて評価。
(5)アルカリ金属の含有量;誘導結合プラズマ原子発光分析にて評価。
(6)酸化還元分解電位;サイクリックボルタンメトリーにて評価した。電解液として、1.0mol/Lに調整した、各実施例の電解質のプロピレンカーボネート(PC)溶媒とする電解液を使用した(電解液中の水分は20ppm以下)。測定条件は、作用電極に平均粒径3mmのグラッシーカーボン、参照電極に銀、対極に白金、1mV/secの掃引速度で2mA/cm2の電流が流れるまでの分解電位を測定した。
(7)充放電サイクル特性;
測定に用いたキャパシタには、アルミニウム製集電体に活性炭シート電極を両極に用いた。セパレータには、セルロース製の不織布よりなるものを用いた。各実施例の電解液を含浸した電極を固定してアルミニウムラミネートセルとした。なお充放電は5mAの定電流とし、電圧範囲を0〜2.7V、100時間連続印加に設定して、25℃で100サイクルで行った。
【0027】
実施例1
1,4-ジブロモブタン2159g(10mol)に、アセトニトリル(比誘電率37.5)2530gを加え加熱還流し、1時間かけてピペリジン852g(10mol)を滴下した。さらに1時間攪拌後、(CH3)2NH 59.105g(10mol)を1時間かけて滴下し、8時間半加熱還流した。反応終了後、20℃に冷却、ろ過し副生成物である(CH3)2NH2Brを収量1071g、収率84%で得た。残渣をエバポレーターを用いて濃縮後、遠心分離機を用いて固液分離し、臭化スピロ[ピペリジン-1,1’-ピロリジニウム]を収量1871.2g、収率85%で得た。Na、Kの含有量はいずれも1ppm以下であった。収率を表1に、製造工程図を図1に示す。尚、濃縮及び、遠心分離で得られた母液は、1890gであった。
【0028】
実施例2
実施例1で得られた母液1890gにアセトニトリル700gを加えて、同様の反応を行い、副生成物であるMe2NH2Brを収量1210g、収率96%で得た。残渣をエバポレーターを用いて濃縮後、遠心分離機を用いて固液分離し、臭化スピロ[ピペリジン-1,1’-ピロリジニウム]を収量2070g、収率94%で得た。Na、Kの含有量はいずれも1ppm以下であった。収率を表1に、製造工程図を図1に示す。尚、ここで得られた母液を更に使用し、同反応を何回も行ってが、臭化スピロ[ピペリジン-1,1’-ピロリジニウム]が高収率94%〜98%で得られることが分かった。
【0029】
実施例3
52.5%HBF4水溶液1054g(6.3mol)、臭化スピロ[ピペリジン-1,1’-ピロリジニウム]1390g(6.3mol)を加え濃縮し、イソプロピルアルコール(比誘電率18.62)1500gを用いて晶析、洗浄し固液分離を行った。得られたテトラフルオロホウ酸スピロ[ピペリジン-1,1’-ピロリジニウム]の収量は2000g、収率90%、純度は99.7%、乾燥後の水分含量は20ppm以下であり、針状結晶であった。また臭素イオン濃度は比濁法の検出限界である1ppm以下であった。更に、Na、Kの含有量はいずれも1ppm以下であった。収率、酸化還元分解電位の測定結果を表1に、製造工程図を図2に、充放電サイクル特性を図4に示す。
【0030】
実施例4
臭化スピロ[ピペリジン-1,1’-ピロリジニウム]1390g(6.3mol)の水とイソプロピルアルコールの混合溶液1500gを攪拌しながら、Na-PF61058g(6.3mol)の水1500g溶液を滴下した。反応終了後、固液分離をし、イソプロピルアルコールを用いて洗浄、固液分離した。得られたヘキサフルオロリン酸スピロ[ピペリジン-1,1’-ピロリジニウム]の収量は2481g、収率87%、純度は99.8%、乾燥後の水分含量は5ppm以下であった。また臭素イオン濃度は比濁法の検出限界である1ppm以下であった。更に、Li、Na、Kの含有量はいずれも1ppm以下であった。収率を表1に、製造工程図を図3に示す。
【0031】
実施例5
1,4-ジクロロブタン1270g(10mol)に、ピロリジン711g(10mol)、イソプロピルアルコール4000gを加え、加熱還流し、NH3を10時間吹き込んだ。反応終了後、20℃に冷却、遠心分離機を用いて固液分離を行いNH4Cl収量487g、収率91%で得た。残渣をエバポレーターを用いて濃縮し、遠心分離機を用いて固液分離し、塩化1,1’-スピロビピロリジニウムを収量1423g、収率88%で得た。ここで、濃縮及び、遠心分離で得られた母液は、3160gであった。Na、Kの含有量はいずれも1ppm以下であった。収率を表1に、製造工程図を図1に示す。
【0032】
実施例6
実施例5で得られた母液3160gにIPA840gを加えて、1,4-ジクロロブタン1270.1g(10mol)、ピロリジン711g (10mol)を加え加熱還流し、NH3を10時間吹き込んだ。反応終了後、20℃に冷却、遠心分離機を用いて固液分離を行いNH4Cl収量518g、収率97%で得た。残渣をエバポレーターを用いて濃縮し、遠心分離機を用いて固液分離し、塩化1,1’-スピロビピロリジニウムを収量1550g、収率96%で得た。Na、Kの含有量はいずれも1ppm以下であった。収率を表1に、製造工程図を図1に示す。尚、ここで得られた母液を更に使用し、同反応を何回も行ったが、塩化1,1’-スピロビピロリジニウムが高収率96%〜99%で得られることが分かった。
【0033】
実施例7
52.5%HBF4水溶液1472g(8.8mol)に、塩化1,1’-スピロビピロリジニウム1423g(8.8mol)を加え濃縮し、イソプロピルアルコールを用いて晶析、洗浄を行った。得られたテトラフルオロホウ酸1,1’-スピロビピロリジニウムの収量は1901g、収率89%、純度は99.9%、乾燥後の水分含量は20ppm以下であり、針状結晶であった。また塩素イオン濃度は比濁法の検出限界である1ppm以下であった。更に、Na、Kの含有量はいずれも1ppm以下であった。収率、酸化還元分解電位の測定結果を表1に、製造工程図を図3に、充放電サイクル特性を図2に示す。
【0034】
実施例8
塩化1,1’-スピロビピロリジニウム1550g(9.6mol)の水とイソプロピルアルコールの混合溶液1500gを攪拌しながら、Na-PF61612g(9.6mol)の水1500gを滴下した。反応終了後、固液分離をし、イソプロピルアルコールを用いて洗浄、固液分離した。得られたヘキサフルオロリン酸1,1’-スピロビピロリジニウムの収量は2330g、収率90%、純度は99.8%、乾燥後の水分含量は5ppm以下であった。また塩素イオン濃度は比濁法の検出限界である1ppm以下であった。更に、Li、Naの含有量はいずれも1ppm以下であった。収率を表1に、製造工程図を図3に示す。
【0035】
比較例1
NaOH 400g(10mol)、水3500ml溶液中に、ジクロロブタン1270g(10mol)を加え、加熱還流した。ピロリジン711g(1mol)を1時間で滴下し、8時間加熱還流した。反応終了後、エバポレーターを用いて乾固させた。イソプロピルアルコールを加え、遠心分離機を用いて固液分離を行いNaClを収量362g、収率62%で得た。エバポレーターを用いて濃縮し、塩化1,1’-スピロビピロリジニウムを収量970g、収率60%で得た。収率を表1に示す。
【0036】
比較例2
52.5%HBF4水溶液1003.7g(6.0mol)を、比較例1で得られた塩化1,1’-スピロビピロリジニウム970g(6.0mol)水1000g溶液に加え濃縮し、イソプロピルアルコールを用いて洗浄を3回行った。得られたテトラフルオロホウ酸1,1’-スピロビピロリジニウムの収量は824g、収率85%、純度は99.2%、乾燥後の水分含量は20ppm以下であり、針状結晶であった。また塩素イオン濃度は100ppm以上であった。更に、金属不純物Naが108ppmであった。収率、酸化還元分解電位の測定結果を表1に、充放電サイクル特性の結果を図4に示す。
【0037】
比較例3
1,4-ジクロロブタン1270g(10mol)、ピペリジン852g(10mol)、イソプロピルアルコール2530gを加え2時間40℃で攪拌した。さらに、(C2H5)3N1012g(10mol)を添加し、6時間40℃で攪拌した。反応終了後、20℃に冷却、ろ過し(C2H5)3N・HClを収量1040g、収率42%で得た。残渣をエバポレーターを用いて濃縮し、遠心分離機を用いて固液分離し、塩化スピロ[ピペリジン-1,1’-ピロリジニウム]を収量617g、収率28%で得た。収率を表1に示す。
【0038】
比較例4
52.5%HBF4水溶液469g(2.8mol)、比較例3で得られた塩化スピロ[ピペリジン-1,1’-ピロリジニウム]617g(2.8mol)を加え濃縮し、イソプロピルアルコールを用いて洗浄を行った。得られたテトラフルオロホウ酸スピロ[ピペリジン-1,1’-ピロリジニウム]の収量は1215g、収率85%、純度は99.7%、乾燥後の水分含量は20ppm以下であり、針状結晶であった。また塩素イオン濃度は比濁法の検出限界である1ppm以下であった。更にアルカリ金属不純物Na、K量はいずれも1ppm以下であった。収率を表1に示す。
【0039】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明で得られたハロゲン化スピロ化合物及び酸スピロ化合物は、極めて高純度であるので、電気化学キャパシタ又は電気化学電池用の電解液の電解質として広範に使用でき、優れた特性を発揮する。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】実施例1、2、5、6におけるハロゲン化スピロ化合物の製造工程図。
【図2】実施例3、7におけるテトラフルオロホウ酸スピロ化合物の製造工程図。
【図3】実施例4、8におけるヘキサフルオロリン酸スピロ化合物の製造工程図。
【図4】実施例3、実施例7及び比較例2の電解質を含む電解液についてのそれぞれの充放電サイクル特性結果を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式:(CH2n>N+<(CH2)mX-(式中、Xは、ハロゲン原子であり、n、mは独立して2〜6の整数である)で表されるハロゲン化スピロ化合物の製造方法であって、
式:X(CH2)nX(式中、Xは、ハロゲン原子であり、nは2〜6の整数である)で表されるジハロゲン化アルカンと、式:(CH2)mNH(式中、mは2〜6の整数である)で表される脂環式アミンとを、有機溶媒中で反応させ、次いで、式:R1R2NH(式中、R1R2は独立して水素原子又は低級アルキル基である)で表されるアミンを反応させ、得られる反応混合物からR1R2NH2Xで表される副生成物を分離することを特徴とするハロゲン化スピロ化合物の製造方法。
【請求項2】
得られる反応混合物を濾過し、ハロゲン化スピロ化合物を含む母液からR1R2NH2Xで表される副生成物を分離する請求項1に記載のハロゲン化スピロ化合物の製造方法。
【請求項3】
ハロゲン化スピロ化合物を含む母液を蒸留、濃縮し、未反応のジハロゲン化アルカン、脂環式アミン及び有機溶媒を分離し、ハロゲン化スピロ化合物を得る請求項1に記載のハロゲン化スピロ化合物の製造方法。
【請求項4】
有機溶媒が比誘電率5〜50を有する請求項1〜3のいずれかに記載のハロゲン化スピロ化合物の製造方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の製造方法で得られた式:(CH2)n>N+<(CH2)mX-(式中、Xは、ハロゲン原子であり、n、mは独立して2〜6の整数である)で表されるハロゲン化スピロ化合物と、酸又は酸塩とを反応させることを特徴とする、(CH2)nN+(CH2)mA-(式中、Aは、酸根であり、n、mは独立して2〜6の整数である)で表される酸スピロ化合物の製造方法。
【請求項6】
酸が、HClO4、HBF4、HPF6、CF3SO3H、HN(CF3SO2)2、HN(C2F5SO2)2、HC(CF3SO2)3、H{(C2O4)2B}、又はH{(C2O4)BF2}である請求項5に記載の酸スピロ化合物の製造方法。
【請求項7】
ハロゲンイオンが比濁法で100ppm以下であり、アルカリ金属が20ppm以下である請求項5又は6に記載の酸スピロ化合物の製造方法。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかに記載の製造方法で得られたハロゲン化スピロ化合物又は酸スピロ化合物を電解質とする、電気化学キャパシタ又は電池用の電解液。
【請求項9】
請求項1〜7のいずれかに記載の製造方法で得られたハロゲン化スピロ化合物又は酸スピロ化合物を電解質とする電解液を有する、電気化学キャパシタ又は電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−77046(P2007−77046A)
【公開日】平成19年3月29日(2007.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−264421(P2005−264421)
【出願日】平成17年9月12日(2005.9.12)
【出願人】(000236953)富山薬品工業株式会社 (11)
【Fターム(参考)】