説明

スピンコート製膜法

【課題】 膜厚分布の少ない被膜を有するセンサー用固体基板の製造方法、及び膜厚分布の少ない被膜を有するセンサー用固体基板を提供すること。
【解決手段】 インナーカップの回転で発生する被製膜基板上の遠心力の分布が、最大となる点での遠心力が最小となる点での遠心力の100倍以下となるようなインナーカップ上の位置に、被製膜基板をセットし、該被製膜基板の表面に塗布液を滴下し、該被製膜基板を回転させることを特徴とする、センサー用固体基板の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、膜厚分布の少ない薄膜製膜法、および膜厚分布の少ない被膜を有するセンサー用固体基板に関する。より詳細には本発明は、ポリマー薄膜で表面を被覆されたセンサー用固体基板、並びにその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、臨床検査等で免疫反応など分子間相互作用を利用した測定が数多く行われているが、従来法では煩雑な操作や標識物質を必要とするため、標識物質を必要とすることなく、測定物質の結合量変化を高感度に検出することのできるいくつかの技術が使用されている。例えば、表面プラズモン共鳴(SPR)測定技術、水晶発振子マイクロバランス(QCM)測定技術、金のコロイド粒子から超微粒子までの機能化表面を使用した測定技術である。SPR測定技術はチップの金属膜に接する有機機能膜近傍の屈折率変化を反射光波長のピークシフト又は一定波長における反射光量の変化を測定して求めることにより、表面近傍に起こる吸着及び脱着を検知する方法である。QCM測定技術は水晶発振子の金電極(デバイス)上の物質の吸脱着による発振子の振動数変化から、ngレベルで吸脱着質量を検出できる技術である。また、金の超微粒子(nmレベル)表面を機能化させて、その上に生理活性物質を固定して、生理活性物質間の特異認識反応を行わせることによって、金微粒子の沈降、配列から生体関連物質の検出ができる。
【0003】
上記した技術においては、いずれの場合も、生理活性物質を固定化する表面が重要である。以下、当技術分野で最も使われている表面プラズモン共鳴(SPR)を例として、説明する。
【0004】
一般に使用される測定チップは、透明基板(例えば、ガラス)、蒸着された金属膜、及びその上に生理活性物質を固定化できる官能基を有する薄膜からなり、その官能基を介し、金属表面に生理活性物質を固定化する。該生理活性物質と検体物質間の特異的な結合反応を測定することによって、生体分子間の相互作用を分析する。
【0005】
生理活性物質を固定化できる官能基を有する薄膜としては、金属と結合する官能基、鎖長の原子数が10以上のリンカー、及び生理活性物質と結合できる官能基を有する化合物を用いて、生理活性物質を固定化した測定チップが報告されている(特許文献1を参照)。また、金属膜と、該金属膜の上に形成されたプラズマ重合膜からなる測定チップが報告されている(特許文献2を参照)。
【0006】
一方、生理活性物質と検体物質間の特異的な結合反応を測定する場合、検体物質は必ずしも単一成分ではなく、例えば細胞抽出液中などのような不均一系で検体物質を測定することも要求される。その場合、種々の蛋白質、脂質などの夾雑物が検出表面に非特異的な吸着を起こすと、測定検出感度が著しく低下する。上記の検出表面では、非特異吸着が極めて起こりやすく問題があった。
【0007】
スピンコートによる薄膜製膜法は、被製膜基板上に塗布液を滴下し、塗布液を遠心力で延伸することで薄膜を形成させるが、膜厚に分布が発生し易い問題がある。この問題を解決するためにいくつかの方法が検討されている。例えば、被製膜基板に塗布液を滴下後密閉インナーカップ内で回転させる方法が報告されている(特許文献3)。この方法においてインナーカップ中に希釈ガスを注入しながらスピンコートする方法も報告されている(特許文献4)。しかしながら、これらの方法では基板の縁部の膜厚ムラを十分に回避できなかった。
【0008】
【特許文献1】特許第2815120号
【特許文献2】特開平9−264843号
【特許文献3】特許第2942213号
【特許文献4】特許第3231970号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は上記した従来技術の問題点を解消することを解決すべき課題とした。即ち、本発明は、膜厚分布の少ない被膜を有するセンサー用固体基板の製造方法、及び膜厚分布の少ない被膜を有するセンサー用固体基板を提供することを解決すべき課題とした。特に、本発明は、膜厚分布の少ないポリマー薄膜で表面を被覆されたセンサー用固体基板の製造方法、及び膜厚分布の少ないポリマー薄膜で表面を被覆されたセンサー用固体基板を提供することを解決すべき課題とした。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは上記課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、インナーカップの回転で発生する被製膜基板上の遠心力の分布が、最大となる点での遠心力が最小となる点での遠心力の100倍以下となるようなインナーカップ上の位置に、被製膜基板をセットし、該被製膜基板の表面に塗布液を滴下し、該被製膜基板を回転させることにより、膜厚分布の少ない薄膜を形成できることを見出し、本発明を完成するに至った。さらに、該方法で作製した薄膜で被覆したセンサー用固体基板においては、膜厚ムラによる感度のばらつきを抑えることができることも実証された。
【0011】
即ち、本発明によれば、インナーカップの回転で発生する被製膜基板上の遠心力の分布が、最大となる点での遠心力が最小となる点での遠心力の100倍以下となるようなインナーカップ上の位置に、被製膜基板をセットし、該被製膜基板の表面に塗布液を滴下し、該被製膜基板を回転させることを特徴とする、センサー用固体基板の製造方法が提供される。
【0012】
好ましくは、基板への気体の流れの発生を抑制した状態で、被製膜基板を回転させる。
好ましくは、被製膜基板の周囲の全部又は一部を、インナーカップ回転中心円以外の側面を有する容器又は壁で囲むことにより、該基板への気体の流れの発生を抑制する。
好ましくは、容器又は壁は、インナーカップ回転時に被製膜基板を密閉する構造を有することを特徴とする。
好ましくは、インナーカップの回転で発生する被製膜基板上の遠心力の分布が、最大となる点での遠心力が最小となる点での遠心力の10倍以下となるようなインナーカップ上の位置に、被製膜基板をセットする。
好ましくは、滴下する塗布液による被製膜基板表面の被覆率は80%以上100%以下である。
【0013】
本発明の別の側面によれば、上記した本発明の製造方法により製造される、表面に被膜を形成したセンサー用固体基板が提供される。
好ましくは、被膜は疎水性ポリマー層であり、基板から最も離れた層に表面修飾層を有する。
好ましくは、前記表面修飾層は、共有結合を生成することのできる官能基を有する。
好ましくは、本発明のセンサー用固体基板は、固体基板と疎水性ポリマー層との間に金属層を有する。
好ましくは、金属膜は、金、銀、銅、白金又はアルミニウムからなる群より選ばれる自由電子金属からなるものである。
【0014】
好ましくは、本発明のセンサー用固体基板は、基板上の最表面に生理活性物質を固定化することができる官能基を有する。
好ましくは、生理活性物質を固定化することができる官能基は、−OH、−SH、−COOH、−NR12(式中、R1及びR2は互いに独立に水素原子又は低級アルキル基を示す)、−CHO、−NR3NR12(式中、R1、R2及びR3は互いに独立に水素原子又は低級アルキル基を示す)、−NCO、−NCS、エポキシ基、またはビニル基である。
好ましくは、本発明のセンサー用固体基板は、非電気化学的検出に使用され、より好ましくは、表面プラズモン共鳴分析に使用される。
好ましくは、本発明のセンサー用固体基板は、生理活性物質が表面に結合している。
【0015】
本発明のさらに別の側面によれば、上記した本発明のセンサー用固体基板の表面に生理活性物質を接触させて固定化する工程、及び、得られた生理活性物質が表面に結合したセンサー用固体基板と被験物質とを接触させる工程を含む、該生理活性物質と相互作用する物質を検出または測定する方法が提供される。
【発明の効果】
【0016】
本発明の方法によれば、膜厚分布の少ない薄膜を基板上に製膜することが可能である。即ち、本発明によれば、膜厚分布の少ない被膜を有するセンサー用固体基板、特にポリマー薄膜で表面を被覆されたセンサー用固体基板が提供される。本発明の方法で製造したセンサー用固体基板を用いることにより、センサー検出感度のバラツキを抑えた測定が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態について説明する。
本発明によるセンサー用固体基板の製造方法は、インナーカップの回転で発生する被製膜基板上の遠心力の分布が、最大となる点での遠心力が最小となる点での遠心力の100倍以下となるようなインナーカップ上の位置に、被製膜基板をセットし、該被製膜基板の表面に塗布液を滴下し、該被製膜基板を回転させることを特徴とする。好ましくは、インナーカップの回転で発生する被製膜基板上の遠心力の分布が、最大となる点での遠心力が最小となる点での遠心力の10倍以下となるようなインナーカップ上の位置に、被製膜基板をセットすることができる。
【0018】
被製膜基板上の遠心力の分布の差を上記した通り小さくする方法としては、被製膜基板をスピンコーターの回転中心にセットしない、回転中心から離れた位置にセットする、回転数を下げる、などの方法が挙げられる。
【0019】
本発明において、被製膜基板の塗布液を滴下する面は特に制限はなく、上面、側面、下面の何れでも構わない。
【0020】
本発明の好ましい態様では、基板への気体の流れの発生を抑制した状態で、被製膜基板を回転させることができる。基板への気体の流れの発生を抑制するとは、好ましくは、被製膜基板上の塗布液が風圧により回転方向の逆方向に飛散されない程度に、基板への気体の流れの発生を抑制することを意味する。基板への気体の流れの発生を抑制するための具体的な方法としては、被製膜基板の周囲の全部又は一部を、インナーカップ回転中心円以外の側面を有する容器又は壁で囲むこと、より具体的には、被製膜基板の回転方向前方、または前方と後方の両方、または全側面を防風板や防風壁で覆うこと、被製膜基板を箱型、カプセル型などの密閉容器内に設置することなどが挙げられる。あるいは、別法としては、真空下又は減圧下の状態で、被製膜基板の表面に塗布液を滴下し、該被製膜基板を回転させることなどが挙げられる。
【0021】
好ましくは、滴下する塗布液による被製膜基板表面の被覆率は80%以上100%以下であり、さらに好ましくは90%以上100%以下である。
【0022】
本発明で用いる塗布液は、疎水性ポリマー溶液であることが好ましい。本発明で用いることができる疎水性ポリマーとは、水に実質的に不溶なものであり、具体的には、水に対する溶解度が0.1%未満のものである。疎水性ポリマーは、形成するモノマーの25℃の水に対する溶解度が0重量%以上20重量%以下であるモノマーを30重量%以上100重量%以下含有することが好ましい。
【0023】
疎水性ポリマーを形成する疎水性モノマーとしては、ビニルエステル類、アクリル酸エステル類、メタクリル酸エステル類、オレフィン類、スチレン類、クロトン酸エステル類、イタコン酸ジエステル類、マレイン酸ジエステル類、フマル酸ジエステル類、アリル化合物類、ビニルエーテル類、ビニルケトン類等から任意に選ぶことができる。疎水性ポリマーとしては、1種類のモノマーから成るホモポリマーでも、2種類以上のモノマーから成るコポリマーでもよい。
【0024】
本発明で好ましく用いられる疎水性ポリマーとしては、ポリスチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリビニルクロライド、ポリメチルメタクリレート、ポリエステル、ナイロンなどが挙げられる。
【0025】
本発明で用いられる疎水性ポリマーとしては、含水率が低いものが好ましい。好ましい含水率の範囲としては、0.0001%以上0.1%以下である。具体的には、含水率はISO62に記載の方法に準じて測定される。キャスト法で60mm角で厚さ1mmの疎水性ポリマーのシートを作成し、重量(W1)を測定する。このシートを23℃の蒸留水中に24時間浸漬した後、浸漬後シート表面の水分を拭取り、重量(W2)を測定する。(W2−W1)/W1×100を含水率(%)とする。
【0026】
疎水性ポリマー層の厚さは特に限定されないが、積層したポリマー層の総膜厚として、好ましくは1オングストローム以上5000オングストローム以下であり、特に好ましくは10オングストローム以上3000オングストローム以下である。
【0027】
本発明においては、基板の最表面に生理活性物質を固定化することができる官能基を有することが好ましい。ここで言う「基板の最表面」とは、「基板から最も遠い側」という意味であり、さらに具体的には、「基板上にコーティングした疎水性高分子化合物中の基板から最も遠い側」という意味である。
【0028】
本発明においては好ましくは、固体基板に上記したような疎水性ポリマー溶液を接触させた後に、得られた固体基板を表面修飾することができる。表面修飾の方法としては、化学薬品、カップリング剤、界面活性剤、表面蒸着などを使用した化学処理、加熱、紫外線、放射線、プラズマ、イオンなどを使用した物理的処理から適宜選択することができる。
【0029】
本発明では、上記したような表面修飾により共有結合を生成することのできる官能基を導入することが好ましい。好ましい官能基としては−OH、−SH、−COOH、−NR12(式中、R1及びR2は互いに独立に水素原子又は低級アルキル基を示す)、−CHO、−NR3NR12(式中、R1、R2及びR3は互いに独立に水素原子又は低級アルキル基を示す)、−NCO、−NCS、エポキシ基、またはビニル基などが挙げられる。ここで、低級アルキル基における炭素数は特に限定されないが、一般的にはC1〜C10程度であり、好ましくはC1〜C6である。
【0030】
表面にそれらの官能基を導入する方法としては、それらの官能基の前駆体を含有する疎水性高分子を金属表面あるいは金属膜上にコーティングした後、化学処理により最表面に位置する前駆体からそれらの官能基を生成させる方法が挙げられる。例えば−COOCH3基を含有する疎水性高分子化合物であるポリメチルメタクリレートを金属膜上にコーティングした後、その表面をNaOH水溶液(1N)に40℃16時間接触させると、最表面に−COOH基が生成する。また、例えばポリスチレンコーティング層に、UVオゾン処理すると最表面に−COOH基および−OH基が発生する。
【0031】
本発明で言う固体基板とは、最も広義に解釈され、機能を有する材料を支持する架台となるものを指し、硬質なものだけでなく、フィルム、シートなどフレキシブルなものも含む。
【0032】
本発明の固体基板は表面に一つ以上の穴または突起を有していてもよく、前記穴または突起の基板上部からの投影面積が0.001mm2以上10000mm2以下、深さまたは高さが100nm以上10cm以下であることが好ましい。
【0033】
穴はたは突起の導入位置は、検体物質を設置しない場所でも、設置する場所でもよい。さらに、穴または突起は、任意の場所に設置することができ、穴の底部に突起、突起の先端に穴を設置してもよい。例えば、突起をアライナーマークまたはスペーサーとして使用することで、検出表面と測定装置との位置を精密に設定することができる。また例えば、検出物質を導入する場所を突起部または穴部とする場合には、突起部または穴部に個別に溶液を滴下し、溶液中で化学反応、結合反応などの反応を個別に実施し、検出することが可能となる。
【0034】
本発明で用いる固体基板は、金属表面、あるいは金属膜を疎水性ポリマーでコーティングしたものであることが好ましい。金属表面あるいは金属膜を構成する金属としては、例えば、表面プラズモン共鳴バイオセンサー用を考えた場合、表面プラズモン共鳴が生じ得るようなものであれば特に限定されない。好ましくは金、銀、銅、アルミニウム、白金等の自由電子金属が挙げられ、特に金が好ましい。それらの金属は単独又は組み合わせて使用することができる。また、上記基板への付着性を考慮して、基板と金属からなる層との間にクロム等からなる介在層を設けてもよい。
【0035】
金属膜の膜厚は任意であるが、例えば、表面プラズモン共鳴バイオセンサー用を考えた場合、1オングストローム以上5000オングストローム以下であるのが好ましく、特に10オングストローム以上2000オングストローム以下であるのが好ましい。5000オングストロームを超えると、媒質の表面プラズモン現象を十分検出することができない。また、クロム等からなる介在層を設ける場合、その介在層の厚さは、1オングストローム以上、100オングストローム以下であるのが好ましい。
【0036】
金属膜の形成は常法によって行えばよく、例えば、スパッタ法、蒸着法、イオンプレーティング法、電気めっき法、無電解めっき法等によって行うことができる。
【0037】
金属膜は好ましくは基板上に配置されている。ここで、「基板上に配置される」とは、金属膜が基板上に直接接触するように配置されている場合のほか、金属膜が基板に直接接触することなく、他の層を介して配置されている場合をも含む意味である。本発明で使用することができる基板としては例えば、表面プラズモン共鳴バイオセンサー用を考えた場合、一般的にはBK7等の光学ガラス、あるいは合成樹脂、具体的にはポリメチルメタクリレート、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、シクロオレフィンポリマーなどのレーザー光に対して透明な材料からなるものが使用できる。このような基板は、好ましくは、偏光に対して異方性を示さずかつ加工性の優れた材料が望ましい。
【0038】
本発明で言う固体基板とは最も広義に解釈され、物質間の相互作用を電気的信号等の信号に変換して、対象となる物質を測定・検出するセンサーを意味する。本発明のセンサー用固体基板は、バイオセンサーとして使用することができる。通常のバイオセンサーは、検出対象とする化学物質を認識するレセプター部位と、そこに発生する物理的変化又は化学的変化を電気信号に変換するトランスデューサー部位とから構成される。生体内には、互いに親和性のある物質として、酵素/基質、酵素/補酵素、抗原/抗体、ホルモン/レセプターなどがある。バイオセンサーでは、これら互いに親和性のある物質の一方を基板に固定化して分子認識物質として用いることによって、対応させるもう一方の物質を選択的に計測するという原理を利用している。
【0039】
上記のようにして得られたセンサー用固体基板は、上記の官能基を介して生理活性物質を共有結合させることによって、金属表面又は金属膜に生理活性物質を固定化することができる。
【0040】
本発明のセンサー用基板に固定される生理活性物質としては、測定対象物と相互作用するものであれば特に限定されず、例えば免疫蛋白質、酵素、微生物、核酸、低分子有機化合物、非免疫蛋白質、免疫グロブリン結合性蛋白質、糖結合性蛋白質、糖を認識する糖鎖、脂肪酸もしくは脂肪酸エステル、あるいはリガンド結合能を有するポリペプチドもしくはオリゴペプチドなどが挙げられる。
【0041】
免疫蛋白質としては、測定対象物を抗原とする抗体やハプテンなどを例示することができる。抗体としては、種々の免疫グロブリン、即ちIgG、IgM、IgA、IgE、IgDを使用することができる。具体的には、測定対象物がヒト血清アルブミンであれば、抗体として抗ヒト血清アルブミン抗体を使用することができる。また、農薬、殺虫剤、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌、抗生物質、麻薬、コカイン、ヘロイン、クラック等を抗原とする場合には、例えば抗アトラジン抗体、抗カナマイシン抗体、抗メタンフェタミン抗体、あるいは病原性大腸菌の中でO抗原26、86、55、111 、157 などに対する抗体等を使用することができる。
【0042】
酵素としては、測定対象物又は測定対象物から代謝される物質に対して活性を示すものであれば、特に限定されることなく、種々の酵素、例えば酸化還元酵素、加水分解酵素、異性化酵素、脱離酵素、合成酵素等を使用することができる。具体的には、測定対象物がグルコースであれば、グルコースオキシダーゼを、測定対象物がコレステロールであれば、コレステロールオキシダーゼを使用することができる。また、農薬、殺虫剤、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌、抗生物質、麻薬、コカイン、ヘロイン、クラック等を測定対象物とする場合には、それらから代謝される物質と特異的反応を示す、例えばアセチルコリンエステラーゼ、カテコールアミンエステラーゼ、ノルアドレナリンエステラーゼ、ドーパミンエステラーゼ等の酵素を使用することができる。
【0043】
微生物としては、特に限定されることなく、大腸菌をはじめとする種々の微生物を使用することができる。
核酸としては、測定の対象とする核酸と相補的にハイブリダイズするものを使用することができる。核酸は、DNA(cDNAを含む)、RNAのいずれも使用できる。DNAの種類は特に限定されず、天然由来のDNA、遺伝子組換え技術により調製した組換えDNA、又は化学合成DNAの何れでもよい。
低分子有機化合物としては通常の有機化学合成の方法で合成することができる任意の化合物が挙げられる。
【0044】
非免疫蛋白質としては、特に限定されることなく、例えばアビジン(ストレプトアビジン)、ビオチン又はレセプターなどを使用できる。
免疫グロブリン結合性蛋白質としては、例えばプロテインAあるいはプロテインG、リウマチ因子(RF)等を使用することができる。
糖結合性蛋白質としては、レクチン等が挙げられる。
脂肪酸あるいは脂肪酸エステルとしては、ステアリン酸、アラキジン酸、ベヘン酸、ステアリン酸エチル、アラキジン酸エチル、ベヘン酸エチル等が挙げられる。
【0045】
上記のようにして生理活性物質を固定化したバイオセンサーは、当該生理活性物質と相互作用する物質の検出及び/又は測定のために使用することができる。
【0046】
本発明では、センサー用固体基板に固定化されている生理活性物質と被験物質との相互作用を非電気化学的方法により検出及び/又は測定することが好ましい。非電気化学的方法としては、表面プラズモン共鳴(SPR)測定技術、水晶発振子マイクロバランス(QCM)測定技術、金のコロイド粒子から超微粒子までの機能化表面を使用した測定技術などが挙げられる。
【0047】
本発明の好ましい態様によれば、本発明のバイオセンサーは、例えば、透明基板上に配置される金属膜を備えていることを特徴とする表面プラズモン共鳴用バイオセンサーとして用いることができる。
【0048】
表面プラズモン共鳴用バイオセンサーとは、表面プラズモン共鳴バイオセンサーに使用されるバイオセンサーであって、該センサーより照射された光を透過及び反射する部分、並びに生理活性物質を固定する部分とを含む部材を言い、該センサーの本体に固着されるものであってもよく、また脱着可能なものであってもよい。
【0049】
表面プラズモン共鳴の現象は、ガラス等の光学的に透明な物質と金属薄膜層との境界から反射された単色光の強度が、金属の出射側にある試料の屈折率に依存することによるものであり、従って、反射された単色光の強度を測定することにより、試料を分析することができる。
【0050】
表面プラズモンが光波によって励起される現象を利用して、被測定物質の特性を分析する表面プラズモン測定装置としては、Kretschmann配置と称される系を用いるものが挙げられる(例えば特開平6−167443号公報参照)。上記の系を用いる表面プラズモン測定装置は基本的に、例えばプリズム状に形成された誘電体ブロックと、この誘電体ブロックの一面に形成されて試料液などの被測定物質に接触させられる金属膜と、光ビームを発生させる光源と、上記光ビームを誘電体ブロックに対して、該誘電体ブロックと金属膜との界面で全反射条件が得られるように種々の角度で入射させる光学系と、上記界面で全反射した光ビームの強度を測定して表面プラズモン共鳴の状態、つまり全反射減衰の状態を検出する光検出手段とを備えてなるものである。
【0051】
なお上述のように種々の入射角を得るためには、比較的細い光ビームを入射角を変化させて上記界面に入射させてもよいし、あるいは光ビームに種々の角度で入射する成分が含まれるように、比較的太い光ビームを上記界面に収束光状態であるいは発散光状態で入射させてもよい。前者の場合は、入射した光ビームの入射角の変化に従って、反射角が変化する光ビームを、上記反射角の変化に同期して移動する小さな光検出器によって検出したり、反射角の変化方向に沿って延びるエリアセンサによって検出することができる。一方後者の場合は、種々の反射角で反射した各光ビームを全て受光できる方向に延びるエリアセンサによって検出することができる。
【0052】
上記構成の表面プラズモン測定装置において、光ビームを金属膜に対して全反射角以上の特定入射角で入射させると、該金属膜に接している被測定物質中に電界分布をもつエバネッセント波が生じ、このエバネッセント波によって金属膜と被測定物質との界面に表面プラズモンが励起される。エバネッセント光の波数ベクトルが表面プラズモンの波数と等しくて波数整合が成立しているとき、両者は共鳴状態となり、光のエネルギーが表面プラズモンに移行するので、誘電体ブロックと金属膜との界面で全反射した光の強度が鋭く低下する。この光強度の低下は、一般に上記光検出手段により暗線として検出される。なお上記の共鳴は、入射ビームがp偏光のときにだけ生じる。したがって、光ビームがp偏光で入射するように予め設定しておく必要がある。
【0053】
この全反射減衰(ATR)が生じる入射角、すなわち全反射減衰角(θSP)より表面プラズモンの波数が分かると、被測定物質の誘電率が求められる。この種の表面プラズモン測定装置においては、全反射減衰角(θSP)を精度良く、しかも大きなダイナミックレンジで測定することを目的として、特開平11−326194号公報に示されるように、アレイ状の光検出手段を用いることが考えられている。この光検出手段は、複数の受光素子が所定方向に配設されてなり、前記界面において種々の反射角で全反射した光ビームの成分をそれぞれ異なる受光素子が受光する向きにして配設されたものである。
【0054】
そしてその場合は、上記アレイ状の光検出手段の各受光素子が出力する光検出信号を、該受光素子の配設方向に関して微分する微分手段が設けられ、この微分手段が出力する微分値に基づいて全反射減衰角(θSP)を特定し、被測定物質の屈折率に関連する特性を求めることが多い。
【0055】
また、全反射減衰(ATR)を利用する類似の測定装置として、例えば「分光研究」第47巻 第1号(1998)の第21〜23頁および第26〜27頁に記載がある漏洩モード測定装置も知られている。この漏洩モード測定装置は基本的に、例えばプリズム状に形成された誘電体ブロックと、この誘電体ブロックの一面に形成されたクラッド層と、このクラッド層の上に形成されて、試料液に接触させられる光導波層と、光ビームを発生させる光源と、上記光ビームを上記誘電体ブロックに対して、該誘電体ブロックとクラッド層との界面で全反射条件が得られるように種々の角度で入射させる光学系と、上記界面で全反射した光ビームの強度を測定して導波モードの励起状態、つまり全反射減衰状態を検出する光検出手段とを備えてなるものである。
【0056】
上記構成の漏洩モード測定装置において、光ビームを誘電体ブロックを通してクラッド層に対して全反射角以上の入射角で入射させると、このクラッド層を透過した後に光導波層においては、ある特定の波数を有する特定入射角の光のみが導波モードで伝搬するようになる。こうして導波モードが励起されると、入射光のほとんどが光導波層に取り込まれるので、上記界面で全反射する光の強度が鋭く低下する全反射減衰が生じる。そして導波光の波数は光導波層の上の被測定物質の屈折率に依存するので、全反射減衰が生じる上記特定入射角を知ることによって、被測定物質の屈折率や、それに関連する被測定物質の特性を分析することができる。
【0057】
なおこの漏洩モード測定装置においても、全反射減衰によって反射光に生じる暗線の位置を検出するために、前述したアレイ状の光検出手段を用いることができ、またそれと併せて前述の微分手段が適用されることも多い。
【0058】
また、上述した表面プラズモン測定装置や漏洩モード測定装置は、創薬研究分野等において、所望のセンシング物質に結合する特定物質を見いだすランダムスクリーニングへ使用されることがあり、この場合には前記薄膜層(表面プラズモン測定装置の場合は金属膜であり、漏洩モード測定装置の場合はクラッド層および光導波層)上に上記被測定物質としてセンシング物質を固定し、該センシング物質上に種々の被検体が溶媒に溶かされた試料液を添加し、所定時間が経過する毎に前述の全反射減衰角(θSP)の角度を測定している。
【0059】
試料液中の被検体が、センシング物質と結合するものであれば、この結合によりセンシング物質の屈折率が時間経過に伴って変化する。したがって、所定時間経過毎に上記全反射減衰角(θSP)を測定し、該全反射減衰角(θSP)の角度に変化が生じているか否か測定することにより、被検体とセンシング物質の結合状態を測定し、その結果に基づいて被検体がセンシング物質と結合する特定物質であるか否かを判定することができる。このような特定物質とセンシング物質との組み合わせとしては、例えば抗原と抗体、あるいは抗体と抗体が挙げられる。具体的には、ウサギ抗ヒトIgG抗体をセンシング物質として薄膜層の表面に固定し、ヒトIgG抗体を特定物質として用いることができる。
【0060】
なお、被検体とセンシング物質の結合状態を測定するためには、全反射減衰(θSP)の角度そのものを必ずしも検出する必要はない。例えばセンシング物質に試料液を添加し、その後の全反射減衰角(θSP)の角度変化量を測定して、その角度変化量の大小に基づいて結合状態を測定することもできる。前述したアレイ状の光検出手段と微分手段を全反射減衰を利用した測定装置に適用する場合であれば、微分値の変化量は、全反射減衰角(θSP)の角度変化量を反映しているため、微分値の変化量に基づいて、センシング物質と被検体との結合状態を測定することができる(本出願人による特願2000−398309号参照)。このような全反射減衰を利用した測定方法および装置においては、底面に予め成された薄膜層上にセンシング物質が固定されたカップ状あるいはシャーレ状の測定チップに、溶媒と被検体からなる試料液を滴下供給して、上述した全反射減衰角(θSP)の角度変化量の測定を行っている。
【0061】
さらに、ターンテーブル等に搭載された複数個の測定チップの測定を順次行うことにより、多数の試料についての測定を短時間で行うことができる全反射減衰を利用した測定装置が、特開2001−330560号公報に記載されている。
【0062】
本発明のバイオセンサーを表面プラズモン共鳴分析に使用する場合、上記したような各種の表面プラズモン測定装置の一部として適用することができる。
以下の実施例により本発明を更に具体的に説明するが、本発明の範囲はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0063】
実施例1−1:シリコン基板上へのスピンコート塗布1(本発明)
(1)塗布液の調液
ポリスチレン(数平均分子量280000)1.5g、4-(ジシアノメチレン)-2-メチル-6-(4-ジメチルアミノスチリル)-4H-ピラン(以降DCMと略記)0.075gをメチルイソブチルケトンに溶解し、液量が100mLになるようにメチルイソブチルケトンを添加し、1.5%ポリスチレン/DCM溶液を調製した。
【0064】
(2)スピンコート(本発明)
縦30mm×横160mmのシリコン基板を容器内寸で縦50mm×横180mm×深さ20mmの密閉構造を有するアルミニウム容器内にセットした。このアルミニウム容器を密閉式インナーカップを有するスピンコート機(MODEL SC408(特)、ナノテック社製)のインナーカップ上にシリコン基板が中心から120mmの位置に円弧の接線方向が長軸となるよう固定した。マイクロピペットを用いてこのシリコン基板上に1.5%ポリスチレン/DCMを200μL滴下し、ガラス基板全面を1.5%ポリスチレン/DCMで被覆した(被覆率100%)。アルミニウム容器を密閉し、200rpm回転させ、60秒間に停止した。シリコン基板は、5分間密閉容器中に静置し、室温で一晩常圧乾燥させた。
【0065】
実施例1−2:シリコン基板上へのスピンコート塗布2(本発明)
アルミニウム容器を固定する位置をシリコン基板が中心から35mmとなる位置にした以外、実施例1−1と同じ方法でスピンコートを実施した。
【0066】
実施例1−3:シリコン基板上へのスピンコート塗布3(本発明)
アルミニウム容器を固定する位置をシリコン基板が中心から20mmとなる位置にした以外、実施例1-1と同じ方法でスピンコートを実施した。
【0067】
比較例1−4:シリコン基板上へのスピンコート塗布4(比較例)
アルミニウム容器を固定する位置をシリコン基板が中心から16mmとなる位置にした以外、実施例1−1と同じ方法でスピンコートを実施した。
【0068】
比較例1−5:シリコン基板上へのスピンコート塗布5(比較例)
アルミニウム容器を固定する位置をシリコン基板が中心となる位置にした以外、実施例1−1と同じ方法でスピンコートを実施した。
【0069】
実施例1−6:シリコン基板上へのスピンコート塗布5(本発明)
シリコン基板をアルムニウム容器内にセットせず、密閉式インナーカップに直接固定した以外、実施例1−1と同じ方法でスピンコートを実施した。
【0070】
実施例1−7:シリコン基板上へのスピンコート塗布7(本発明)
シリコン基板をアルムニウム容器内にセットせず、密閉式インナーカップに直接固定した以外、実施例1−2と同じ方法でスピンコートを実施した。
【0071】
実施例1−8:シリコン基板上へのスピンコート塗布8(本発明)
シリコン基板をアルムニウム容器内にセットせず、密閉式インナーカップに直接固定した以外、実施例1−3と同じ方法でスピンコートを実施した。
【0072】
比較例1−9:シリコン基板上へのスピンコート塗布9(比較例)
シリコン基板をアルムニウム容器内にセットせず、密閉式インナーカップに直接固定した以外、比較例1−4と同じ方法でスピンコートを実施した。
【0073】
比較例1−10:シリコン基板上へのスピンコート塗布10(比較例)
シリコン基板をアルムニウム容器内にセットせず、密閉式インナーカップに直接固定した以外、比較例1−5と同じ方法でスピンコートを実施した。
【0074】
実施例2:シリコン基板上の膜厚評価
スピンコートしたシリコン基板サンプルブラックライト(アズワンシ社製SLUV−6、波長254nm)下で膜厚分布を観察し、5段階ランク分けを行った。膜厚分布が少ない方が良好で高いランクとした。ランク3以上を合格とした。結果を表1に記載した。
【0075】
【表1】

【0076】
表1のとおり、本発明のシリコン基板は膜厚分布の少ないポリスチレン膜を形成した。
【0077】
実施例2−1:密閉外側スピンコートチップ
(1)ポリメチルメタクリレート-ポリスチレンコポリマー(以降PMMA/PStと略記)溶液(1)の調製
PMMA/PSt(数平均分子量6000)1.0gをメチルイソブチルケトンに溶解し液量が100mLになるようメチルイソブチルケトンを添加し、1.0%PMMA/PStを調製した。
【0078】
(2)密閉外側スピンコートチップの作成
金膜の厚さが500オングストロームになるように金を蒸着した縦8mm×横80mm×厚さ0.5mmのガラス基板をModel-208UV-オゾンクリーニングシステム(TECHNOVISION INC.)で30分処理した。このガラス基板を縦40mm×横120mm×深さ20mmの密閉構造を有するアルミニウム容器内にセットした。このアルミニウム容器を密閉式インナーカップを有するスピンコート機(MODEL SC408(特)、ナノテック社製)のインナーカップ上にガラス基板が中心から135mmの位置に円弧の接線方向が長軸となるよう固定した。マイクロピペットを用いてこのガラス基板上に1.0%PMMA/PStを100μL滴下し、ガラス基板全面を1.0%PMMA/PStで被覆した(被覆率100%)。アルミニウム容器を密閉し、200rpm回転させ、60秒間に停止した。ガラス基板は、5分間密閉容器中に静置し、室温で一晩常圧乾燥させた。基板中央部を横方向に0.1mm間隔で幅75mmの膜厚分布をエリプソメトリー法(In-Situ Ellipsometer MAUS-101、ファイブラボ社製)により行ったところ、平均膜厚200オングストローム、膜厚の変動係数(標準偏差を平均値で割った値の百分率)は6%であった。基板上の遠心力の最大値/最小値は1.1であった。
【0079】
実施例2-2:開放外側スピンコートチップ
(1)ポリメチルメタクリレート-ポリスチレンコポリマー(以降PMMA/PStと略記)溶液(2)の調製
PMMA/PSt(数平均分子量6000)0.6gをメチルイソブチルケトンに溶解し液量が100mLになるようメチルイソブチルケトンを添加し、0.6%PMMA/PStを調製した。
【0080】
(2)開放外側スピンコートチップの作成
密閉構造を有するアルミニウム容器を使用せず、塗布液に0.6%PMMA/PStを使用したこと以外、実施例2−1と同様の方法で開放外側スピンコートチップを作成し、膜厚分布を測定した。平均膜厚200オングストローム、膜厚の変動係数は12%であった。基板上の遠心力の最大値/最小値は1.1であった。
【0081】
比較例2-3:密閉中心スピンコートチップ
(1)密閉中心スピンコートチップの作成
ガラス基板をインナーカップの中心にセットし、600rpmで回転した以外、実施例2−1と同様の方法で密閉中心スピンコートチップを作成した。平均膜厚200オングストローム、膜厚の変動係数は22%であった。基板上の遠心力の最大値/最小値は無限大であった。
【0082】
比較例2-4:開放中心スピンコートチップ
(1)密閉中心スピンコートチップの作成
ガラス基板をインナーカップの中心にセットし、600rpmで回転した以外、実施例2−2と同様の方法で密閉中心スピンコートチップを作成した。平均膜厚200オングストローム、膜厚の変動係数は28%であった。基板上の遠心力の最大値/最小値は無限大であった。
【0083】
実施例3:スピンコートチップの性能評価
(1)PMMA/PSt表面へのCOOH基の導入
実施例2−1及び2−2並びに比較例2−3及び2−4で作成したスピンコートチップをNaOH水溶液(1N)に60℃16時間浸漬した後、水で3回洗浄したこのサンプルをCOOH修飾スピンコートチップと呼ぶ。
【0084】
(2)ProteinAの固定化
上記の方法で作成したスピンコートチップに、1−エチルー2、3−ジメチルアミノプロピルカルボジイミド(200mM)と、N−ヒドロキシスクシンイミド(50mM)との混合液を30分接触させ、次に50mM酢酸バッファー(pH4.5、ビアコア社製)で洗浄した。次に、ProteinA(ナカライテスク社製)溶液(100μg/mL、50mM酢酸バッファー、pH4.5)を30分間接触させ、その後50mM酢酸バッファー(pH4.5)で洗浄した。
【0085】
さらに、エタノールアミン・HCl溶液(1M、pH8.5)を30分間接触させた後、50mM酢酸バッファー(pH4.5)で洗浄することにより、ProteinAと反応せずに残存した活性化COOH基をブロックした。
【0086】
さらに、NaOH水溶液(10mM)を1分間接触させた後、HBS−EPバッファー(HEPES(N-2-Hydroxyethylpiperazine-N'-2-ethanesulfonicAcid)0.01mol/L(pH7.4)、NaCl 0.15mol/L、EDTA 0.003mol/L、surfactantP20 0.005重量%、ビアコア社製)で洗浄することにより、スピンコートチップ表面に非特異的に吸着しているProteinAを除去した。このサンプルをProteinA固定チップと呼ぶ。
【0087】
(3)mouse IgGの結合信号の検出
ProteinA固定チップの検出位置に依らず、結合信号が安定しているほど、実験の信頼性が高い。mouse IgGの結合量のProteinA固定チップ位置依存は以下の方法で評価した。
【0088】
上記(1)の手順で作成したproteinA固定チップをそれぞれ表面プラズモン共鳴測定装置(Applied Spectroscopy、 42(8)、 1375-1379(1988)の図5に記載のSPR共鳴装置)にセットした。チップをセットする位置は、レーザー光の当たる中心位置が縦方向は中央に、横方向は端部から10mmの位置にセットした。チップ上にはポリプロピレン製の部材を被せることにより、幅(縦方向)1mm、長さ(横方法)7.5mm、深さ1mmのセルを作成した。
【0089】
測定セル内をHBS−EPバッファーで満たし、測定を開始した。セル内をmouse IgG(コスモバイオ社製)溶液(10μg/mL、HBS−EPバッファー)に置き換え、5分間静置した。5分後の信号変化を算出した。
【0090】
さらに、セル内をNaOH水溶液(10mM)を1分間接触させた後、HBS−EPバッファーで洗浄することにより、mouse IgGの結合が外れ、信号がベースラインに戻ることを確認した。
【0091】
チップの位置を横方向に端部からさらに10mm離れた位置に固定し、同様にmouse IgGの結合測定を行った。さらに、チップを横方向の端部から10mmおきになるようそれぞれセットし、1このProteinA固定チップにつき7点測定した。
【0092】
(4)結果
表2にmouse IgG結合によるチップ内の位置による信号変化を示す。CVは、変動係数(標準偏差を平均値で割った値の百分率)を示す。
【0093】
【表2】

【0094】
表2の結果から、本発明のスピンコートチップはチップ内のPMMA/PSt膜の膜厚分布が少なく、位置による信号変化のばらつきが小さいことが分かる。



【特許請求の範囲】
【請求項1】
インナーカップの回転で発生する被製膜基板上の遠心力の分布が、最大となる点での遠心力が最小となる点での遠心力の100倍以下となるようなインナーカップ上の位置に、被製膜基板をセットし、該被製膜基板の表面に塗布液を滴下し、該被製膜基板を回転させることを特徴とする、センサー用固体基板の製造方法。
【請求項2】
基板への気体の流れの発生を抑制した状態で、被製膜基板を回転させる、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
被製膜基板の周囲の全部又は一部を、インナーカップ回転中心円以外の側面を有する容器又は壁で囲むことにより、該基板への気体の流れの発生を抑制する、請求項2に記載の製造方法。
【請求項4】
容器又は壁が、インナーカップ回転時に被製膜基板を密閉する構造を有することを特徴とする、請求項3に記載の製造方法。
【請求項5】
インナーカップの回転で発生する被製膜基板上の遠心力の分布が、最大となる点での遠心力が最小となる点での遠心力の10倍以下となるようなインナーカップ上の位置に、被製膜基板をセットする、請求項1から4の何れかに記載の製造方法。
【請求項6】
滴下する塗布液による被製膜基板表面の被覆率が80%以上100%以下である、請求項1から5の何れかに記載の製造方法。
【請求項7】
請求項1から6の何れかに記載の製造方法により製造される、表面に被膜を形成したセンサー用固体基板。
【請求項8】
被膜が疎水性ポリマー層であり基板から最も離れた層に表面修飾層を有する請求項7に記載のセンサー用固体基板。
【請求項9】
前記表面修飾層が、共有結合を生成することのできる官能基を有する、請求項8に記載のセンサー用固体基板。
【請求項10】
固体基板と疎水性ポリマー層との間に金属層を有する、請求項7から9の何れかに記載のセンサー用固体基板。
【請求項11】
金属膜が、金、銀、銅、白金又はアルミニウムからなる群より選ばれる自由電子金属からなるものである、請求項10に記載のセンサー用固体基板。
【請求項12】
基板上の最表面に生理活性物質を固定化することができる官能基を有する、請求項7から11の何れかに記載のセンサー用固体基板。
【請求項13】
生理活性物質を固定化することができる官能基が、−OH、−SH、−COOH、−NR12(式中、R1及びR2は互いに独立に水素原子又は低級アルキル基を示す)、−CHO、−NR3NR12(式中、R1、R2及びR3は互いに独立に水素原子又は低級アルキル基を示す)、−NCO、−NCS、エポキシ基、またはビニル基である、請求項12に記載のセンサー用固体基板。
【請求項14】
非電気化学的検出に使用される、請求項7から13の何れかに記載のセンサー用固体基板。
【請求項15】
表面プラズモン共鳴分析に使用される、請求項7から14の何れかに記載のセンサー用固体基板。
【請求項16】
生理活性物質が表面に結合している、請求項7から15の何れかに記載のセンサー用固体基板。
【請求項17】
請求項7から15の何れかに記載のセンサー用固体基板の表面に生理活性物質を接触させて固定化する工程、及び、得られた生理活性物質が表面に結合したセンサー用固体基板と被験物質とを接触させる工程を含む、該生理活性物質と相互作用する物質を検出または測定する方法。



【公開番号】特開2006−47047(P2006−47047A)
【公開日】平成18年2月16日(2006.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−226781(P2004−226781)
【出願日】平成16年8月3日(2004.8.3)
【出願人】(000005201)富士写真フイルム株式会社 (7,609)
【Fターム(参考)】