説明

スピン波素子

【課題】 効率良くスピン波を伝えることが可能なスピン波素子を提供すること。
【解決手段】 絶縁性磁性体から成る第一の磁性層と、前記第一の磁性層上に設けられた入力部と、前記第一の磁性層と接する非磁性の導体閉路と、前記導体閉路と接し、絶縁性磁性体から成る第二の磁性層とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、スピン波素子に関する。
【背景技術】
【0002】
CMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)デバイスの微細化は、信号処理デバイスの性能向上を牽引し、論理処理装置として様々な市場の高機能化・高性能化に貢献してきた。しかしながら、幾多もの製造的課題を解決することで推進されてきた微細化は、いずれは物理的限界に達すると予想されている。また、微細化とともに消費電力が大きな課題として顕在化してきた。
【0003】
このような状況下で、さらなる性能向上に向けたブレークスルーの1つとして、光やスピン、バイオ等、従来と同様の電荷を用いない情報処理の検討が進められている。スピンを使った情報処理デバイスとして、スピンMOSFET(Metal-Oxide-Semiconductor Field-Effect Transistor)や、Datt−Das型スピントランジスタ、スピンゲイントランジスタ等が提案されている。また、多入力スピン波素子を利用することで、従来のCMOS論理デバイスを用いるよりも遥かに少ない素子数で大規模な演算を高速に実行することが可能となる。ただし、より大規模の論理演算が求められる場合には、複数の多入力スピン波素子の間で、効率的にスピン波を伝える必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】米国特許第7528456号
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】B. Behin-Alein, etal ,” Proposal for an all-spin logic device with built-in memory”, Nature nanotecnology, published online : 28 Feb. 2010, DOI:10.1038/NNANO.2010.31
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来のスピン波伝搬技術においては、二つのスピン波素子間でスピン波を伝える領域においてスピンMOSFET等を用いることによって、外部エネルギーの供給が必要であり、大規模の論理処理デバイスを構成すると、トータルでは消費電力が大きくなってしまう。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明の実施形態によるスピン波素子は、絶縁性磁性体から成る第一の磁性層と、前記第一の磁性層上に設けられた入力部と、前記第一の磁性層と接する非磁性の導体閉路と、前記導体閉路と接し、絶縁性磁性体から成る第二の磁性層とを有する。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明の第1の実施形態に係るスピン波素子全体を基板の上部から眺めた図。
【図2】本発明の第1の実施形態に係るスピン波素子のスタブの長さLを変化させたときの第二の磁性層20へ伝搬するスピン波の効率を示す図。
【図3】第1の実施形態に係るスピン波素子の要部断面図(図1のA−A’断面図)。
【図4】第1の実施形態に係るスピン波素子の入力部の断面図。
【図5】第1の実施形態に係るスピン波素子へ信号源から供給される電圧を示す図。
【図6】第1の実施形態に係るスピン波素子の入力部の断面図。
【図7】第1の実施形態に係るスピン波素子の検出部の断面図。
【図8】第1の実施形態に係るスピン波素子の検出部の断面図。
【図9】第1の実施形態に係るスピン波素子の第1の変形例を示す図。
【図10】第1の実施形態の第1の変形例に係るスピン波素子の要部断面図(図9のA−A’断面図)。
【図11】第1の実施形態に係るスピン波素子の第2の変形例を示す図。
【図12】第1の実施形態に係るスピン波素子の第3の変形例を示す図。
【図13】第1の実施形態の第3の変形例のスピン波素子の要部断面図(図12のA−A’断面図)。
【図14】第1の実施形態に係るスピン波素子の第4の変形例を示す図。
【図15】第1の実施形態の第4の変形例に係るスピン波素子の要部断面図(図14のA−A’断面図)。
【図16】第1の実施形態に係るスピン波素子の第4の変形例を示す図。
【図17】第1の実施形態に係るスピン波素子の第4の変形例を示す図。
【図18】第2の実施形態に係るスピン波素子全体を基板の上部から眺めた図。
【図19】第2の実施形態に係るスピン波素子の第1の変形例を示す図。
【図20】第2の実施形態に係るスピン波素子の第2の変形例を示す図。
【図21】第2の実施形態に係るスピン波素子の変形例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を参照しながら本発明を実施するための形態について詳細に説明する。
【0010】
(第1の実施形態)
図1は、第1の実施形態に係るスピン波素子全体を基板80の上部から眺めた図である。なお、基板80上には絶縁層が形成されるが、図1ではこの絶縁層の図示を省略する。絶縁層については、図3を用いて後述する。
【0011】
図1に示すように、第1の実施形態に係るスピン波素子1は、基板80上に、少なくとも1層の第一の磁性層10とドーナツ状の非磁性の導体閉路(ショートコイル:short coil)30と少なくとも1層の第二の磁性層20を含む。第一の磁性層10と第二の磁性層20は、多層であっても良い。また、第一の磁性層10には入力部40が設けられ、第二の磁性層20には検出部50が設けられる。
【0012】
第一の磁性層10は、y方向に延在し、第二の磁性層20は、x方向に延在し、この特定の方向を層の「長さ」としたときの、層の「幅」(図1のd)がd≦λ/2≦3d(ただし、λはスピン波の波長)である線状を成す。導体閉路30は、第一の磁性層10と第二の磁性層20の層の幅dとほぼ等しい幅の非磁性導体が輪のように閉じた形状を成し、他との電気的接続を持たない。
【0013】
第一の磁性層10、導体閉路30、第二の磁性層20は、基板80の面に平行であり、基板80の面に垂直なz方向に基板80に近い方から順に第一の磁性層10、導体閉路30、第二の磁性層20が配置される。図1は、導体閉路30上に第二の磁性層20が積層されている状態を示しているが、説明のために、第二の磁性層20下に位置する導体閉路30の一部も図示している。なお、第一の磁性層10、第二の磁性層20、導体閉路30の積層順はこれに限らず、基板80の面に垂直なz方向に基板80に近い方から順に第二の磁性層20、導体閉路30、第一の磁性層10が配置されても良い。
【0014】
図1では、第一の磁性層10と第二の磁性層20は基板80の上部から眺めて交わるように配置されており、第一の磁性層10および第二の磁性層20の磁気異方性は磁性層長手方向または膜面垂直方向のいずれかを向く。さらに、導体閉路30の一部は、第一の磁性層10上に配置されて第一の磁性層10と電磁結合し、導体閉路30の他部は、第二の磁性層20下に配置されて第二の磁性層20と電磁結合する。
【0015】
第一の磁性層10上の入力部40において第一の磁性層10にスピン波が励起されると、第一の磁性層10の長手方向(y方向)にスピン波が伝搬する。図中では、スピン波が伝搬する方向を波矢印で示す。このスピン波が第一の領域60に差し掛かると、スピン波の高周波磁化成分mrfによる高周波磁束が第一の領域60付近において導体閉路30に鎖交する。これによって導体閉路30に誘導起電力(V)が誘起される。この誘導起電力が導体閉路30に高周波電流Irfを還流し、この高周波電流Irfが第二の磁性層20上の第二の領域70において高周波磁界hrfを印加する。その結果、第二の磁性層20にスピン波が励起(入力)され、このスピン波が第二の磁性層20の長手方向(x方向)に伝搬されて、第一の磁性層10から第二の磁性層20へスピン波が伝搬される。そして、第二の磁性層20の長手方向(x方向)にスピン波が伝搬して、第二の磁性層20に設けられた検出部50(例えばTMR素子など)を通過すると、伝搬したスピン波を電気出力信号として取り出すことができる。伝搬するスピン波周波数は非常に高く(数GHzから数100GHz前後)、しかもスピン波素子全体の微細化を図ると、導体閉路30のインピーダンスを大幅に低下させることができるため、上述の誘導起電力V、高周波電流Irf、高周波磁界hrfのいずれも大きな値を見込むことができ、より高効率にスピン波を伝えることが期待できる。さらに、本実施形態のスピン波素子の構造が非常に簡単であるため、素子製造プロセスが容易となり、低コストで素子の3次元化を含めた高集積度のスピン波素子・デバイスを実現することができる。
【0016】
なお、基板上部から第一の磁性層10と第二の磁性層20の積層方向に眺めたときの第一の磁性層10と第二の磁性層20との重なりの端部から第二の磁性層20の開放端部までの第二の磁性層20(以降では、スタブと称する)の長さLが、次式を満たすときに、より効率的に第一の磁性層10から第二の磁性層20へスピン波を伝えることができる。
【数1】

【0017】
式(1)のaは、入力部40の円相当径(入力部40の投影面積と同じ面積を持つ円の直径を意味する)であり、μは第二の磁性層20の比透磁率であり、εは第二の磁性層20の比誘電率である。
【0018】
入力部40によって励起されるスピン波の波長は入力部40のサイズに応じて決まる(λ=a)。また、第一の磁性層10や第二の磁性層20中では、波長短縮が生じ、実行波長がλ*(λ*=λ/√εμ)となる。図2は、第二の磁性層20の比透磁率μr2が100であり、λ*/4=250nmである場合に、Lを変化させたときの第二の磁性層20へ伝搬するスピン波の効率を示す。ここで示す効率は、導体閉路30を挿入したことによる電磁結合の効率向上を以下の方法で見積もったものである。第一の磁性層10の第一の領域60付近において、スピン波の高周波磁化成分mrfによって生じる高周波磁束をH1と定義した。また、このH1が導体閉路30に鎖交して高周波電流Irfが流れることで、第二の磁性層20上の第二の領域70に励起される高周波磁界をH2と定義した。この時、電磁結合で第二の磁性層20へ取り出されるスピン波の効率はH2/H1となる。図2では、第一の磁性層10の比透磁率μr1が100と1000の2通りを示している。図2に示されているように、スタブの長さLをλ*/4とした場合に、最も効率が良いことが分かる。
【0019】
ただし、Lは式(1)に限ることは無く、適宜変更することができる。
【0020】
次に、スピン波素子1を構成する各構要素の材料系について以下に説明する。基板80には、例えばSiを用いることができる。
【0021】
第一の磁性層10と第二の磁性層20は、磁化が膜面に対して略垂直方向に向いた磁性層(垂直磁化配向膜)と、磁化が膜面に対して略水平を向いた磁性膜(面内磁化配向膜)とを適宜使い分けることができる。第一の磁性層10と第二の磁性層20の両方が面内磁化配向膜もしくは垂直磁化配向膜であっても良いし、第一の磁性層10と第二の磁性層20との一方が面内磁化配向膜で他方が垂直磁化配向膜であっても良い。
【0022】
第一の磁性層10と第二の磁性層20は、例えば、Fe(鉄)、Co(コバルト)、Ni(ニッケル)、Mn(マンガン)、Cr(クロム)のグループから選択される1つ以上の元素を含む磁性金属により構成される。もしくは、Pt(白金)、Pd(パラジウム)、Ir(イリジウム)、Ru(ルテニウム)、Rh(ロジウム)のグループから選択される1つ以上の元素を含む合金としても良い。もしくは、第一の磁性層10と第二の磁性層20は、TeFeCo、GdFeCoなどの希土類−遷移金属のアモルファス合金や、Co/Feの積層構造、あるいはYIG(イットリウム・鉄・ガーネット)、Fe34(マグネタイト)、γ−Fe23(マグヘマイト)、BaFe1219(バリウムフェライト)などのような絶縁性磁性体により構成しても良い。
【0023】
導体閉路30は、Cu(銅)、Au(金)、Ag(銀)、Al(アルミニウム)などのような高導電性の金属元素のグループから選択される1つ以上の元素との組み合わせによる合金により構成される。もしくは、導体閉路30を、金属系超電導体であるNbまたはNb合金(臨界温度Tc:10〜20K)、ペロブスカイト系超電導体であるBi−Sr−Ca−Cu−O(Tc〜109K)、イットリウム系高温超電導体Y−Ba−Cu−O(Tc〜93K)、水銀系銅酸化物Hg−Tl−Ba−Ca−Cu−O(Tc〜160K)などを用いて構成しても差し支えない。この場合、導体閉路30のインピーダンスを極限まで低下させることができるため、誘導起電力Vによる導体閉路30中を流れる高周波電流Irfが大きくなり、その結果、第二の磁性層20に印加される高周波磁界hrfの強度が増すため、極めて高効率にスピン波を伝えることができる。これらの材料は、室温では超電導を示さないが、将来的に室温で超電導特性を示す材料が実用化されれば、導体閉路30に適用可能であることは言うまでもない。
【0024】
図3は、第1の実施形態に係るスピン波素子1の要部断面図(図1のA−A’断面図)である。図3では、入力部40と検出部50の表示は省略する。図3(a)は、第一の磁性層10と第二の磁性層20とが磁性金属から構成される場合の断面図であり、図3(b)は、第一の磁性層10と第二の磁性層20とが絶縁性磁性体から構成される場合の断面図である。
【0025】
第一の磁性層10と第二の磁性層20とが磁性金属から構成される場合、誘導起電力Vにより導体閉路30を環流する高周波電流Irfが第一の磁性層10および第二の磁性層20に漏れないようにする必要がある。そのため、図3(a)に示すとおり導体閉路30と第一の磁性層10の間および導体閉路30と第二の磁性層20の間に非磁性絶縁層90、91を設ける。そして、基板80上には第一の磁性層10、非磁性絶縁層90、91、導体閉路30を囲うように絶縁層205が形成される。
【0026】
それに対して、第一の磁性層10と第二の磁性層20が絶縁性磁性体により構成される場合には、図3(b)に示すとおり導体閉路30は、第一の磁性層10および第二の磁性層20と直接接触させる。そして、基板80上には第一の磁性層10、導体閉路30を囲うように絶縁層205が形成される。
【0027】
なお、基板80がSiなどのある程度導電性がある材料によって構成される基板である場合には、図3に示すように、基板80の裏側にCu(銅)、Au(金)、Ag(銀)、Al(アルミニウム)などのような導電膜85を配置して、この導電膜85を電気的に接地する。
【0028】
次に、入力部40について説明する。入力部40と第一の磁性層10との接触面の形状は、円形、楕円形、もしくは多角形等のドット形状である。ドット形状とすることによって、接触面に略垂直の方向に電圧を印加する、もしくは電流を流すと、第一の磁性層10の接触面直下の領域に球面波状のスピン波を励起させる。入力部40の大きさは、第一の磁性層10との接触面の直径が500nm以下であることが磁区制御上望ましい。さらに、励起効率および集積化を考慮すると、100nm以下であることが望ましい。また、接触面の直径が1nmよりも小さいと、スピン波を励起するためのエネルギーが大きいため、1nm以上であることが好ましい。ここで、接触面の「直径」とは、ドット形状が楕円形の場合には長軸の長さを意味し、四角形または多角形の場合には対角線の長さを意味する。
【0029】
図4は、入力部40の断面図である。入力部40には、信号源130が接続され、そこから電圧もしくは電流が供給される。スピン波入力のために信号源130から供給される電圧は、図5のようなパルス波形をなす。入力部40は、第一の磁性層10上に、非磁性層120、磁化固着層110、電極100が、この順に積層されて形成される。
【0030】
電極100には、導電性の磁性材料又は非磁性材料を用いる。磁性材料としては、磁化容易軸が膜面に対して略平行となる面内磁化膜又は垂直となる垂直磁化膜を用いることができる。面内磁化膜はしては例えば、Fe(鉄)、Co(コバルト)、Ni(ニッケル)からなる群から選択された少なくとも一つの元素を含む磁性金属を用いることができる。垂直磁化膜としてはFe(鉄)、Co(コバルト)、Ni(ニッケル)、Mn(マンガン)、Cr(クロム)から選択される少なくとも一つの元素と、Pt(白金)、Pd(パラジウム)、Ir(イリジウム)、Ru(ルテニウム)、Rh(ロジウム)から選択される少なくとも一つの元素との組み合わせによる合金を用いることができる。例えばFeVPd、FeCrPd、CoFePt等である。これらは、構成する磁化材料の組成や熱処理により特性を調整することができる。また、TbFeCo、GdFeCoなどの希土類−遷移金属のアモルファス合金、またはCo/Pt、Co/Pd、Co/Niの積層構造なども望ましい。
【0031】
電極100に用いられる非磁性材料としては、Cu(銅)、Au(金)、Ag(銀)、又はアルミニウム(Al)を用いることができる。また、これらの元素を組み合わせて合金としても良い。さらに、カーボンナノチューブやカーボンナノワイヤ、グラフェン等の材料を用いても良い。
【0032】
磁化固着層110は、例えば、Fe(鉄)、Co(コバルト)、Ni(ニッケル)、Mn(マンガン)、Cr(クロム)のグループから選択される1つ以上の元素を含む磁性金属により構成される。また、TeFeCo、GdFeCoなどの希土類−遷移金属のアモルファス合金や、Co/Feの積層構造などにより構成しても良い。以降では、磁化固着層110の磁化は、面内方向に対して垂直方向(積層方向)を向いているとして説明するが、磁化固着層110の磁化は積層方向に限定しない。
【0033】
非磁性層120は、非磁性バリア層と非磁性金属層のうち、いずれを採用しても良い。非磁性バリア層を採用する場合、非磁性層120には、読み出し時にTMR(tunnel magnetoresistive)効果により大きな再生信号出力を得るためのトンネルバリア層としての絶縁材料を用いることができる。具体的には、Al(アルミニウム)、Ti(チタン)、Zn(亜鉛)、Zr(ジルコニウム)、Ta(タンタル)、Co(コバルト)、Ni(ニッケル)、Si(シリコン)、Mg(マグネシウム)、Fe(鉄)のグループから選択される少なくとも1つの元素を含む酸化物、窒化物又は弗化物により非磁性バリア層を構成することができる。特に、非磁性バリア層は、Al23-x(アルミナ)、MgO(酸化マグネシウム)、SiO2-x、Si−O−N、Ta−O、Al−Zr−O、ZnOx、TiOx、等、大きなエネルギーギャップを有する半導体(GaAlAsなど)から構成することが好ましい。
【0034】
非磁性層120に非磁性金属層を採用する場合、非磁性層120には、読み出し時にGMR(giant magnetoresistive)効果により再生信号出力を得るための非磁性金属層を用いることができる。具体的には、Cu、Ag、Au、Cr、Zn、Ga、Nb、Mo、Ru、Pd、Hf、Ta、W、Pt、Biなどの非磁性金属元素のいずれかあるいは、これらのいずれか一種以上を含む合金を用いることができる。
【0035】
スピン波入力(励起)の際には、信号源130から電極100に負の電位を加える。すると、電極100から電子が第一の磁性層10に向かって流れる際に、磁化固着層110の磁化の向きにスピン偏極した電子流が流れる。このスピン偏極した電子流により第一の磁性層10にスピントルクが働くことによって、第一の磁性層10の第一の領域60にスピン波が誘起されることになる。このスピン波は、入力部40のサイズに応じた波長λを持つ。このスピン波の波長λを考慮すると、第一の磁性層10と第二の磁性層20の幅dは、d≦λ/2≦3dとすることが望ましい。励起源のサイズまで第一の磁性層10と第二の磁性層20の幅dを縮小させることで、スケーラビリティーを持たせることができる。
【0036】
なお、入力部40は、図6に示すように、磁化固着層110と電極100との間に反強磁性層170を設けて構成しても良い。
【0037】
次に、検出部50について説明する。検出部50と第二の磁性層20との接触面の形状は、円形、楕円形、多角形などのドット形状とすることができる。接触面の大きさ(平均直径)は第二の磁性層20を伝わるスピン波の波長とは異なる大きさであることが望ましい。これは、スピン波の波長と検出部50の接触面の大きさが同じであると、検出部50側でスピン波が打ち消される可能性があるためである。
【0038】
図7は、検出部50の断面図である。検出部50は、電気的に接地された第二の磁性層20上に、非磁性層160、磁化固着層150、電極140が、この順に積層されて形成される。電極140、磁化固着層150、非磁性層160は、それぞれ電極100、磁化固着層110、非磁性層120と同様の材料を用いて構成することができる。
【0039】
信号検出用の電極140は、検出部50と第二の磁性層20との接触面に略垂直の方向に電圧を印加する、もしくは電流を流し、TMR効果もしくはGMR効果を用いて第二の磁性層20に伝搬するスピン波を信号として検出することができる。
【0040】
ここでは、TMR効果を利用した場合の検出メカニズムを説明する。TMR効果を利用する場合、検出部50は、磁化フリー層としての第二の磁性層20、非磁性層としての中間絶縁層160、磁化固着層150、電極140とからなり、第二の磁性層20は電気的に接地されている。検出部50において、伝搬スピン波による第二の磁性層の磁化の向きと磁化固着層150の磁化の向きのなす角に応じて、検出部50にはTMR効果に伴う電気抵抗変化が生じるため、電極140と基板80との間に一定の電圧を加えておけば、スピン波に応じた電圧変化を検出することができる。
【0041】
なお、検出部50は、図8に示すように、磁化固着層150と電極140との間に反強磁性層170を設けて構成しても良い。
【0042】
以上説明したように、本実施形態に係るスピン波素子1では、第一の磁性層10と第一の領域60において電磁結合し、第二の磁性層20と第二の領域70において電磁結合するように非磁性導体30を配置する。このような実施形態に係るスピン波素子1によれば、外部エネルギーの供給が無くとも高効率に第一の磁性層10から第二の磁性層20へスピン波を伝えることができ、省電力のスピン波素子・デバイスを実現することができる。また、スピン波素子1の製造プロセスは容易であり、低コストに製造することができる。さらに、3次元構造をもつ高集積度のスピン波素子・デバイスを容易に実現することができる。
【0043】
(変形例1)
図9は、第1の実施形態に係るスピン波素子の第1の変形例である。本変形例に係るスピン波素子2の導体閉路30は、x方向に延在する3本の導線とy方向に延在する3本の導線から構成される「く」の字型の平面型導体閉路である。導体閉路30のx方向に延在する第一の導線と第一の導線よりも長い第二の導線は、基板上面から眺めたときに、第一の磁性層10と交差するように配置される。また、導体閉路30のy方向に延在する第三の導線と第三の導線よりも長い第四の導線は、基板上面から眺めたときに、第二の磁性層20と交差するように配置され、一端がそれぞれ第一の導線と第二の導線に接続する。さらに、導体閉路30のy方向に延在する第五の導線は第一の導線の一端(第三の導線と接続する端とは異なる)と第二の導線の一端(第四の導線と接続する端とは異なる)を接続し、導体閉路30のx方向に延在する第六の導線は第三の導線の一端(第一の導線と接続する端とは異なる)と第四の導線の一端(第二の導線と接続する端とは異なる)を接続する。
【0044】
導体閉路30は、第一の領域60において第一の導線と第二の導線と第五の導線を含む一部が第一の磁性層10と電磁結合(第一の電磁結合)し、第二の領域70において第三の導線と第四の導線と第六の導線を含む一部が第二の磁性層20と電磁結合(第二の電磁結合)するように配置される。図9のように基板上部からスピン波素子2を眺めると、導体閉路30の第一の導線と第二の導線が第一の磁性層10と交差し、第三の導線と第四の導線が第二の磁性層20と交差するように配置される。
【0045】
図10は、本変形例に係るスピン波素子2の要部断面図(図9のA−A’断面図)である。図10では、入力部40と検出部50の表示は省略する。図10(a)は、第一の磁性層10と第二の磁性層20とが磁性金属から構成される場合の断面図であり、図10(b)は、第一の磁性層10と第二の磁性層20とが絶縁性磁性体から構成される場合の断面図である。
【0046】
スピン波素子2の動作は、スピン波素子1の動作と同様である。第一の磁性層10上の入力部40において第一の磁性層10にスピン波が励起されると、第一の磁性層10の長手方向にスピン波が伝搬する。このスピン波が第一の領域60に差し掛かると、スピン波の高周波磁化成分mrfによる高周波磁束が第一の領域60付近において導体閉路30に鎖交する。これによって導体閉路30に誘導起電力(V)が誘起される。この誘導起電力が導体閉路30に高周波電流Irfが還流し、このIrfが第二の磁性層20上の第二の領域70において高周波磁界 hrfを印加することになる。その結果、第二の磁性層20上にスピン波が励起(入力)され、このスピン波が第二の磁性層20の長手方向に伝搬されて、第一の磁性層10から第二の磁性層20へスピン波が伝えられる。そして、第二の磁性層20の長手方向にスピン波が伝搬して、第二の磁性層20に設けられた検出部50(例えばTMR素子など)を通過すると、検出部50が伝搬したスピン波を電気出力信号として取り出すことができる。
【0047】
このような構成とすると、第一の磁性層10との電磁結合と第二の磁性層20との電磁結合を明確に分離しやすい。ただし、本変形例で説明した導体閉路30は、図1に示した導体閉路30と比較して、スピン波素子のサイズが比較的大きい場合に適用することが好ましい。
【0048】
(変形例2)
図1を用いて説明したスピン波素子1は、この素子を上部から基板面垂直方向に眺めたときに、第一の磁性層10と第二の磁性層20とが直角をなすように交差して配置されている。しかしながら、第一の磁性層10と第二の磁性層20とがなす角度は90度に限ることはなく、任意の角度を選択しても良い。また、第一の磁性層10と第二の磁性層20とが平行に配置されても良い。第一の磁性層10と第二の磁性層20とがなす角度に応じて導体閉路30の形状と第一の磁性層10および第二の磁性層20と導体閉路30の電磁結合部位を適宜選択しても差し支えない。
【0049】
図11は、第1の実施形態に係るスピン波素子の第2の変形例である。変形例2は、第一の磁性層10と第二の磁性層20とが直角以外の角度をなすように配置される場合の一例を示している。本変形例に係る導体閉路30は、上部から眺めたときに、一辺が第一の磁性層10と平行となり、他の一辺が第二の磁性層20と平行となるように形成される。このスピン波素子3の動作は、スピン波素子1の動作と同様である。
【0050】
(変形例3)
図12は、第1の実施形態に係るスピン波素子の第3の変形例である。本変形例に係るスピン波素子4は、第一の磁性層10と第二の磁性層20の両端部位を尖らせた形状としている。また、スピン波素子4を上部から基板面垂直方向に眺めたときに、第一の磁性層10と第二の磁性層20の長手方向が互いに平行となるように配置されている。
【0051】
図13は、スピン波素子4の要部断面図(図12のA−A’断面図)である。図13(a)は、第一の磁性層10と第二の磁性層20とが磁性金属から構成される場合の断面図であり、図13(b)は、第一の磁性層10と第二の磁性層20とが絶縁性磁性体から構成される場合の断面図である。
【0052】
本変形例に係るスピン波素子4は、第一の磁性層10と第二の磁性層20とが磁性金属から構成される場合、図13(a)に示す通り、基板80の上に第一の磁性層10、非磁性絶縁層90、導体閉路30、非磁性絶縁層91、第二の磁性層20が、この順に積層構成される。基本構造としては、第1の実施形態にて説明したスピン波素子1と本質的な違いは無い。本変形例では、第一の磁性層10と第二の磁性層20の両端部位を先へ行くほど細くなるよう尖らせた形状にすることによって、尖端部でスピン波が多重反射して消滅する。そのため、第一の磁性層10と第二の磁性層20における不要なスピン波の反射を防いで、スピン波信号の品質を良好なものに保つことが可能となる。なお、変形例3では、第一の磁性層10と第二の磁性層20とが平行となるように配置される場合を例としたが、スピン波を伝搬する磁性層の先端を尖らせた構造とすることは、スピン波素子4を上部から基板面垂直方向に眺めたときに第一の磁性層10と第二の磁性層20とがなす角度としてどのような角度を選択したときにも適用することができる。
【0053】
(変形例4)
図14は、第1の実施形態に係るスピン波素子の第4の変形例である。第1の実施形態およびその変形例1〜3で説明したスピン波素子は、導体閉路30が属する面の法線(以降では、導体閉路の軸と称する)がz方向であり、基板80と第一の磁性層10そして第二の磁性層20が形成される夫々の平面(第一の磁性層10と第二の磁性層20の最も広い面が形成される平面)に垂直である。それに対して、第4の変形例に係るスピン波素子5は、第一の磁性層10と第二の磁性層20の間に平行に配置された導体閉路30の軸(y方向。図14の”a”)が基板80と第一の磁性層10そして第二の磁性層20が形成される夫々の平面に対して平行である。
【0054】
図15は、スピン波素子5の要部断面図(図14のA−A’断面図)である。図15(a)は、第一の磁性層10と第二の磁性層20とが磁性金属から構成される場合の断面図であり、図15(b)は、第一の磁性層10と第二の磁性層20とが絶縁性磁性体から構成される場合の断面図である。
【0055】
第一の磁性層10と第二の磁性層20とが磁性金属から構成される場合、基板80の上に第一の磁性層10、非磁性絶縁層90、導体閉路30(30の内側には非磁性絶縁層94が埋設される)、非磁性絶縁層91、第二の磁性層20が、この順に積層されてスピン波素子5を構成する。基本構造としては、第1の実施形態にて説明したスピン波素子1と本質的な違いは無い。スピン波素子5の導体閉路30の上下電流経路の基板80面垂直方向の間隔は、インピーダンスの大きさに応じて設定され、数100nm以下とすることが好ましい。導体閉路30の上下電流経路の基板80面垂直方向の間隔を適切に選択することによって、第一の磁性層10と導体閉路との電磁結合と第二の磁性層20と導体閉路との電磁結合とを良好に分離することができる。
【0056】
なお、図14と図15では、第一の磁性層10が導体閉路30よりも上に、第二の磁性層20が導体閉路30よりも下に配置されているが、第一の磁性層10と第二の磁性層20の両方が導体閉路30よりも上または下に配置されていても良い。また、図16に示すように、第一の磁性層10と第二の磁性層20とを積層方向(z方向)に眺めて重なるよう、導体閉路30を挟んで上下に第一の磁性層10と第二の磁性層20が平行に配置されても良い。また、図17に示すように、第一の磁性層10または第二の磁性層20を導体閉路30の基板80面に略垂直な方向の領域において電磁結合するように配置しても良い。導体閉路30の一部が第一の磁性層10と電磁結合し、他の一部が第二の磁性層20と電磁結合するように配置すれば良い。
【0057】
(第2の実施形態)
図18は、第2の実施形態に係るスピン波素子全体を基板80の上部から眺めた図である。第2の実施形態に係るスピン波素子6は、多入力のスピン波素子である。スピン波素子6は、第1の実施形態にて説明したスピン波素子1と同様に、基板上に、少なくとも1層の強磁性層から成る第一の磁性層10とドーナツ状の導体閉路30と少なくとも1層の強磁性層から成る第二の磁性層20を含む。ただし、第一の磁性層10の形状がスピン波素子1とは異なる。
【0058】
スピン波素子6の第一の磁性層10は、n本に分かれた第一の磁性層10a〜10n(nは入力の数を表す。)が中心位置(領域300)から放射状に広がった形状をしており、放射状に広がった各先端に入力部40a〜40nが設けられる。なお、本実施形態では、2つの第二の磁性層20a、20bが設けられる場合を例にして説明するが、第二の磁性層は1つでも良いし、2つよりも多くても良い。
【0059】
入力部40a〜40nにおいてスピン波を励起すると、スピン波が第一の磁性層10a〜10nを伝搬し、これが多入力スピン波素子上の領域300において重畳されて合成スピン波が形成される。このスピン波の重畳は多数決論理演算結果を出力することに相当する。合成スピン波が発する高周波磁界による高周波磁束が領域300を取り囲む領域60において導体閉路30に鎖交して導体閉路30に誘導起電力を誘起し、この誘導起電力が導体閉路30に高周波電流を還流させ、この高周波電流が二つの第二の領域70a、70bにおいて二本の第二の磁性層20a、20bに高周波磁界を印加することによって合成スピン波が磁性層20へ効率的に伝えられる。そして、第二の磁性層20a、20bに夫々設けられた検出部50が第二の磁性層20a、20bを伝搬するスピン波を高感度に検出することができる。
【0060】
なお、第一の磁性層10a〜10n、導体閉路30、第二の磁性層20a、20bを構成する材料や、入力部40a〜40nと検出部50の構造、機能の詳細は、第1の実施形態について述べたものと同様である。また、第1の実施形態について変形例1〜4などで説明した変形は、第2の実施形態に係るスピン波素子に対しても適用することができる。
【0061】
このように、本実施形態に係る多入力のスピン波素子6においても、高効率に第一の磁性層10から第二の磁性層20へスピン波を伝えることができるスピン波素子・デバイスを実現することができる。
【0062】
(変形例1)
図19は、第2の実施形態に係るスピン波素子の第1の変形例である。第1の変形例に係るスピン波素子は、図示しない基板上に、複数の入力部40a〜40nが設けられた第一の磁性層10とドーナツ型の導体閉路30と第二の磁性層20がこの順に且つ基板の面に垂直な方向に互いに平行にパターン形成される。本例の第一の磁性層10は、第一の実施形態にて説明したスピン波素子1の第一の磁性層10が線のように特定の方向に延在した形状であるのに対して、スピン波素子7の第一の磁性層10は導体閉路30よりも大きい。上部からスピン波素子7を眺めると、第一の磁性層10が占める面積が導体閉路30の占める面積よりも広い、面のような形状をなす。
【0063】
複数の入力部40a〜40nにおいて励起され且つ第一の磁性層10中を伝搬する複数のスピン波が第一の磁性層10の領域300に到達し、領域300において複数のスピン波が重畳された合成スピン波が形成され(スピン波の重畳により多数決論理演算結果が出力される)、その合成スピン波が発する高周波磁界による高周波磁束が領域300を取り囲む領域60において導体閉路30に鎖交して導体閉路30に誘導起電力を誘起する。この誘導起電力が導体閉路30に高周波電流を還流させ、この高周波電流が第二の領域70において第二の磁性層20に高周波磁界を印加することによって合成スピン波が第二の磁性層20へ効率的に伝えられる。そして、第二の磁性層20a、20bに夫々設けられた検出部50が第二の磁性層20a、20bを伝搬したスピン波を電気出力信号として取り出す。
【0064】
なお、本例においては、スピン波伝搬が第一の磁性層10の膜面内に均等均一に伝搬(球面波伝搬)する必要がある。そのため、多入力スピン波素子7を形成する磁性層は垂直異方性をもつことが好ましく、鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、マンガン(Mn)、クロム(Cr)から選択される少なくとも一つの元素を含む磁性金属からなる。
【0065】
ここで、入力部40a〜40nの位置関係について触れておく。複数の入力部40a〜40nへそれぞれ信号を入力して多入力信号処理を行うにあたり、入力部40a〜40nは第一の磁性層10上へ次のように配置する。n番目の入力部の重心と、領域300までの距離をdnとすると、第nスピン波発生部位から信号検出電極へ向かうスピン波の波数knと振動数ωnと、第nスピン波発生部位への信号入力時刻tn、信号検出時刻tDを用いて、
|cos(k1d1−ω1(tD−t1)) - cos(kndn−ωn (tD−tn))| < 2
なる関係を持つように配置する。ここで、波数と振動数は、振幅が最も大きなメインとなるスピン波に関する。振動数は、実際にはオシロスコープで検出することができる。
【0066】
信号入力は、入力部40a〜40nに流す電流もしくは電圧の極性を入力信号0か1に対応させる、あるいは入力部40a〜40nに印加する電圧の有無を入力信号の0か1に対応させて入力する。このようにして入力されたスピン波が第一の磁性層10を伝搬し、第一の磁性層10の領域300でスピン波が合成される。このような配置にすると、入力信号に対し動作不良を防いでスピン波の加算処理をすることができる。
【0067】
なお、第二の磁性層20、導体閉路30を構成する材料や、入力部40a〜40nと検出部50の構造、機能の詳細は、第1の実施形態について述べたものと同様であるため、説明を省略する。
【0068】
(変形例2)
図20は、第2の実施形態に係るスピン波素子の第2の変形例である。第2の変形例に係るスピン波素子8は、図示しない基板の上に、第一の磁性層10、平面状の導体閉路30、第二の磁性層20が、この順番に且つ基板の面に垂直な方向に互いに概ね平行に形成されて成る。スピン波素子8の基本動作は図18で説明した第2の実施形態に係るスピン波素子6と同様であるが、スピン波素子6とは第一の磁性層10の形状が異なる。
【0069】
本変形例に係るスピン波素子8は、第一の磁性層10の膜厚方向から眺めたときに、第一の磁性層10の外縁の一部の形状が楕円の一部であり、入力部40a〜40nと検出部50とを結ぶ直線が楕円の長軸と重なっており、楕円の一部は入力部40a〜40nの側に存在している。入力部40a〜40nの夫々の重心は、夫々が属する上記楕円(焦点位置が2箇所)の一方の焦点位置にあり、上記楕円の夫々の他方の焦点位置は全て共通で領域300の重心位置に一致するように磁性層10がパターニングされる。
【0070】
このような構成のスピン波素子8では、入力部40a〜40nから励起され第一の磁性層10を伝搬する複数のスピン波は、第一の磁性層10の領域300に到達し、領域300において複数のスピン波が重畳された合成スピン波が形成され(スピン波の重畳により多数決論理演算結果が出力される)、その合成スピン波が発する高周波磁界による高周波磁束が領域300を取り囲む領域60において導体閉路30に鎖交して導体閉路30に誘導起電力を誘起し、この誘導起電力が導体閉路30に高周波電流を還流させ、この高周波電流が第二の領域70において第二の磁性層20に高周波磁界を印加することによって合成スピン波が第二の磁性層20へ効率的に伝えられる。この伝えられたスピン波が第二の磁性層20上に設けられた検出部50に到達することで、検出部50がスピン波を効率的に検出することができる。
【0071】
本実施例においては、スピン波伝搬が第一の磁性層10の膜面内に均等均一に伝搬する必要がある。そのため、第一の磁性層10は垂直異方性をもつことが好ましく、鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、マンガン(Mn)、クロム(Cr)から選択される少なくとも一つの元素を含む磁性金属からなる。
【0072】
なお、磁性層20a、20b、導体閉路30を構成する材料や、入力部40a〜40nと検出部50a、50bの構造、機能の詳細は、第1の実施形態について述べたものと同様である。
【0073】
以上、第1の実施形態およびその変形例1〜4、第2の実施形態およびその変形例1〜2で説明したように、導体閉路の形状や、第一の磁性層および第二の磁性層との位置関係や、第一の磁性層および第二の磁性層の形状は、様々に変更することができる。さらに、導電閉路の設置方法により、面内磁化配向膜から垂直磁化配向膜までの伝搬媒体へスピン波を伝えることができる。
【0074】
また、第一の磁性層に入力部が設けられ、第一の磁性層からスピン波が伝えられる第二の磁性層に検出部が設けられるとして説明したが、図21に示すように、第二の磁性層に検出部を設けずに、第二の磁性層から他の磁性層へ更にスピン波を伝搬させても良い。つまり、入力部、第一の磁性層、導体閉路、第二の磁性層を検出部が設けられた他の磁性層へのスピン波入力装置として用いても良い。さらには、第一の磁性層から第二の磁性層へスピン波を伝え、第二の磁性層から第三の磁性層へスピン波を伝え、というようにスピン波を次々と他の磁性層へ伝え、最終的に検出部が設けられた第nの磁性層(nは任意の数)までスピン波を伝えるように構成しても良い。このように、幾つものケースへの適応が容易であり、スピン波素子の設計自由度が大きい。
【0075】
以上本発明の実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、上記実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合わせにより、種々の発明を形成できる。例えば、実施形態およびその変形例に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除しても良い。さらに、異なる実施形態および変形例にわたる構成要素を適宜組み合わせても良い。
【符号の説明】
【0076】
1…スピン波素子、10…第一の磁性層、20…第二の磁性層、30…導体閉路、40…入力部、50…検出部、60…第一の領域、70…第二の領域、80…基板、85…導電膜、90・91・94…非磁性絶縁層、100…電極、110…磁化固着層、120…非磁性層、130…信号源、170…反強磁性層、205…絶縁層、300…領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
絶縁性磁性体から成る第一の磁性層と、
前記第一の磁性層上に設けられた入力部と、
前記第一の磁性層と接する非磁性の導体閉路と、
前記導体閉路と接し、絶縁性磁性体から成る第二の磁性層とを有することを特徴とするスピン波素子。
【請求項2】
磁性金属からなる第一の磁性層と、
前記第一の磁性層上に設けられた入力部と、
前記第一の磁性層と接して設けられた第一の非磁性絶縁層と、
前記第一の非磁性絶縁層の前記第一の磁性層と接する面と対向する面に接する非磁性の導体閉路と、
前記導体閉路と接して設けられた第二の非磁性絶縁層と、
前記第二の非磁性絶縁層の前記導体閉路と接する面と対向する面に接し、磁性金属からなる第二の磁性層とを有することを特徴とするスピン波素子。
【請求項3】
前記入力部は、前記第一の磁性層の前記導体閉路と対向する領域とは異なる領域上に設けられ、前記第一の磁性層に電流を通電して前記第一の磁性層にスピン波を伝搬させることを特徴とする請求項1または2に記載のスピン波素子。
【請求項4】
前記第二の磁性層を伝搬するスピン波を抵抗変化として検出する検出部を更に有することを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載のスピン波素子。
【請求項5】
前記第一の磁性層と前記第二の磁性層の積層方向から眺めたときに、前記第一の磁性層と前記第二の磁性層は交差し、前記第二の磁性層の前記交差部分の端から前記第二の磁性層の一端までの長さLは、前記入力部の円相当径a、前記第二の磁性層の比透磁率μ、前記第二の磁性層の比誘電率εを用いて、
【数1】

と表されることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載のスピン波素子。
【請求項6】
前記導体閉路の軸が前記第一の磁性層の最も広い面が形成される平面と前記第二の磁性層の最も広い面が形成される平面に対して直角であることを特徴とする請求項1乃至請求項5のいずれか1項に記載のスピン波素子。
【請求項7】
前記導体閉路の軸が前記第一の磁性層の最も広い面が形成される平面と前記第二の磁性層の最も広い面が形成される平面に対して平行であることを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載のスピン波素子。
【請求項8】
前記第一の磁性層または前記第二の磁性層の少なくともいずれか一方は、特定の方向へ延在した形状であって、その先端部分が先端に近いほど細くなるような形状であることを特徴とする請求項1乃至請求項7のいずれか1項に記載のスピン波素子。
【請求項9】
前記第一の磁性層は、中心位置から放射状に広がった形状をなし、放射状に広がった先端に前記入力部が設けられ、前記第一の領域は前記中心位置を取り囲む領域であることを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載のスピン波素子。
【請求項10】
前記第一の磁性層は垂直異方性を有し、前記第一の磁性層に複数の前記入力部が設けられることを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載のスピン波素子。
【請求項11】
前記導体閉路が超電導体から成ることを特徴とする請求項1乃至請求項10のいずれか1項に記載のスピン波素子。
【請求項12】
前記第一の磁性層が接する前記導体閉路の第一の領域と、前記第二の磁性層が接する前記導体閉路の第二の領域とは少なくとも一部が異なることを特徴とする請求項1乃至請求項11のいずれか1項に記載のスピン波素子。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate

【図16】
image rotate

【図17】
image rotate

【図18】
image rotate

【図19】
image rotate

【図20】
image rotate

【図21】
image rotate


【公開番号】特開2012−160573(P2012−160573A)
【公開日】平成24年8月23日(2012.8.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−19217(P2011−19217)
【出願日】平成23年1月31日(2011.1.31)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】