説明

スピーカ装置

【課題】音質の低下が防止可能となると共に、低音帯域のみならず中高音域における音圧特性を向上させること。
【解決手段】筐体2と、筐体2との間で音響キャビティ20を形成するように、筐体2に取り付けられる可撓性を有する圧電フィルム振動板3と、筐体2に装着される振動板21を有するスピーカユニット4と、を備え、スピーカユニット4を筐体2に装着し、該スピーカユニット4の振動板21と圧電フィルム振動板3とを同時に振動させることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スピーカ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ステレオ装置もしくはテレビジョン装置等の小型化および薄型化に伴い、これらの音声出力機器となるスピーカ装置に対しても小型化および薄型化が要望されている。
【0003】
特許文献1には、振動板となる可撓性の圧電フィルムの裏表両面に電極を形成し、該圧電フィルムの裏側を弾性支持体によって支持したスピーカ装置が開示されている。
【0004】
【特許文献1】特開2003−244791号公報(要約書)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述の特許文献1に開示されている、振動板として圧電フィルムを採用しているスピーカ装置は、中高音域における再生能力には優れているが、低音帯域における再生能力としては不足している。
【0006】
特に、このスピーカ装置は、装置の薄型化を図るべく、バックキャビティを有さない、背面開放型の構成を有している。このため、該圧電スピーカは、圧電フィルムの正面側に放射された音と背面側に放射された音との合成音によって音圧を得る状態となる。したがって、圧電フィルムの正面側から放射された音が、該圧電フィルムの背面側に回り込み、正面側の音とは逆位相である背面側に放射された音との間で打ち消し合うといったキャンセル現象が発生する。また、圧電フィルムの背面側に回り込んだ音と、背面側に放射された音とが共振する場合もあり、その場合には音圧が急激に上昇し、その結果、いわゆる、ピーキーな音が発生するといった問題もある。
【0007】
特に、上述したキャンセル現象に関しては、周波数の低い低音帯域側において圧電フィルムの裏面側への回り込みが発生しやすいため、スピーカ装置の低音帯域における再生能力を一層低下させる原因となる。さらに、このキャンセル現象は位相特性との関係で再生周波数帯域においてピークおよびディップを発生させることもあり、その場合にはフラットな特性とならずに再生能力を損なうといった問題もある。
【0008】
さらに、このスピーカ装置は背面開放型の構成を有しているため、該スピーカ装置によって得られる音は、該圧電フィルムの正面側および背面側に放射された音と、それらの反射音等との合成音となるため、音圧が得やすい反面、歪み音が発生しやすいといった問題もある。
【0009】
本発明は、かかる問題に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、音質の低下を防止できると共に、低音帯域のみならず中高音域における音響特性を向上させることが可能なスピーカ装置を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、本発明は、筐体と、筐体との間で音響キャビティを形成するように、筐体に取り付けられる可撓性を有する圧電フィルム振動板と、筐体に装着される振動板を有するスピーカユニットと、を備え、スピーカユニットを筐体に装着し、該スピーカユニットの振動板と圧電フィルム振動板とを同時に振動させるものである。
【0011】
また、他の発明は、上述の発明に加えて更に、圧電フィルム振動板は、円筒形状の形態に設けられているものである。
【0012】
さらに、他の発明は、上述の発明に加えて更に、スピーカユニットの振動板に反射板を装着しているものである。
【0013】
さらに、他の発明は、上述の発明に加えて更に、筐体は、圧電フィルム振動板の上方に配置される略円盤状の形態を有する天板と、圧電フィルム振動板の下方に配置され、スピーカユニットが装着されるカップ状の形態を有する下カップと、天板と下カップとを連結し、圧電フィルム振動板の内部に配置される柱状の支柱と、天板と下カップとを連結するように配置され、圧電フィルム振動板を保持するための圧電フィルム繋ぎ部材と、を有するものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明によると、音質の低下が防止可能となると共に、低音帯域のみならず中高音域における音圧特性を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の一実施の形態に係るスピーカ装置1について、図面を参照しながら説明する。なお、以下の説明において、図1〜図3において天板5が存在する側を「上」、スピーカ4が存在する側を「下」とそれぞれ規定する。
【0016】
図1および図2は、本発明の一実施の形態に係るスピーカ装置1の斜視図である。図2は、本発明の一実施の形態に係るスピーカ装置1の分解斜視図である。図3は、本発明の一実施の形態に係るスピーカ装置1の側断面図である。
【0017】
図1および図2に示すように、スピーカ装置1は、外形において略円柱状の形態を有する圧電フィルム振動板3と、スピーカユニットとなるスピーカ4とを同時に駆動させることによって、音を発生させるハイブリッド型のスピーカ装置である。
【0018】
図2に示すように、スピーカ装置1は、筐体2と、該筐体2に取り付けられる円筒状の形態を有する圧電フィルム振動板3と、筐体2の下側に装着されるスピーカ4とから主に構成される。筐体2は、該圧電フィルム振動板3の上方に配置される天板5と、圧電フィルム振動板3の下方に配置される下カップ6と、圧電フィルム振動板3を保持するための圧電フィルム繋ぎ板10とを主に有する。また、本実施の形態では、圧電フィルム振動板3の内部に略円柱状の支柱7が配設されると共に、スピーカ4の下方に反射板となる反射足11が配設されている。
【0019】
図2に示すように、圧電フィルム振動板3は、例えば、幅210mm、高さ297mm、厚さ80μmの矩形状の形態を有する圧電フィルムを円筒状に丸めることによって構成されている。この圧電フィルムの素材としてはフッ化ビニリデン樹脂(PVDF)を採用することが可能であり、その表裏両面には導電性ポリマーがコーティングされている。さらに、コーティングされた圧電フィルムの表面および裏面には、それぞれ銀ペースト(不図示)および銅箔(不図示)が施されており、これら銀ペーストおよび銅箔によって一対の電極が形成されている。なお、圧電フィルムの素材は、PVDFに限定されるものではなく、例えば、エポキシ樹脂等の高分子シートに圧電セラミックを混在させた複合圧電体シート等の他の素材を採用しても良い。また、電極材料としては、銀および銅に限定されるものではなく、例えば、アルミニウム等の導電性の高い金属を採用することが可能である。また、上述した電極には不図示の入力用のリード線が接続されている。
【0020】
図1および図2に示すように、天板5は、円筒状に丸められた圧電フィルム振動板3と略同一の直径を有する円盤状の形態を有している。この天板5の直径および厚さの寸法は、例えば、それぞれ67.6mmおよび10mmとされている。しかしながら、天板5の寸法は圧電フィルム振動板3の直径に応じて適宜変更することが可能である。天板5の中央には、図3に示すように、直径および深さの寸法が、例えば、それぞれ8mmおよび4.5mmとなる、ネジ頭用のザグリを備えた直径4.2mmのネジ穴5aが設けられている。また、天板5の外周部には、例えば、幅8mm、深さ0.3mmからなる段差部5cが形成されている。なお、天板5の材料としては、アルミニウムが採用されており、その表面には黒色のアルマイト処理が施されている。しかしながら、天板5の材料はアルミニウムに限定されるものではない。また、表面にアルマイト処理を施さないようにしても良い。
【0021】
下カップ6は、図1から図3に示すように、下側に向かって開口する開口部6a(図3参照)を備えたカップ状の形態を有している。また、下カップ6の断面形状は、略台形形状を呈している。この略台形形状の高さ、下端部の直径および上端部の直径の寸法は、例えば、それぞれ50mm、84mmおよび67mmとされている。開口部6aは、例えば、直径58.2mm、高さ46mmの円筒孔形状を呈しており、くり抜き加工によって下カップ6の下側に形成されている。また、下カップ6の下側の周縁部6bには、周方向に向かって90度おきに合計4つのネジ穴6cが形成されている。
【0022】
さらに、図2に示すように、下カップ6の上端部には、左右において対称形状となるような1対の半円状の形態を有する半円孔6g,6gが形成されている。この半円孔6g,6gは、例えば、幅16mmの間隔を隔てて形成されている。また、半円孔6gの半径は29mmとされている。このため、下カップ6は、その上端部の中央を架け渡すような中央フレーム部6dを有する構成となっている。このフレーム部6dの幅寸法は、例えば、16mmとなっている。また、中央フレーム部6dには、その下側からねじを螺入可能とする皿穴6eが3つ並んで設けられている(図2および図3参照)。本実施の形態では、下カップ6の材料として、アルミニウムが採用されており、その表面には黒色のアルマイト処理が施されている。なお、下カップ6の材料は、アルミニウムに限定されるものではない。
【0023】
図2および図3に示すように、天板5および下カップ6は支柱7および圧電フィルム繋ぎ板10によって連結されている。支柱7は、例えば、直径10mm、長さ269mmの円柱形状を呈している。この支柱7の上端面および下端面には、例えば、直径4mmのネジ穴7aが形成されている。この支柱7の材料として、アルミニウムが採用されている。しかしながら、支柱7の材料は、アルミニウムに限定されるものではない。天板5と支柱7は、ネジ12を天板5の上方から、ネジ穴5aおよび支柱7の上側のネジ穴7aに螺入することによって固定される。下カップ6と支柱7は、ネジ13を中央フレーム部6dの裏側から、該中央フレーム部6dの中央に設けられる皿穴6eおよび支柱7の下側のネジ穴7aに螺入することによって固定される。
【0024】
また、支柱7と隣接するように、圧電フィルム繋ぎ板10が天板5と下カップ6との間に配置される。圧電フィルム繋ぎ板10は、縦長の長板部10aと、その上下方向両端から横方向に向かって対向するように延出するフランジ部10bとを有する。長板部10aの長手方向の寸法は支柱7の寸法と同様の寸法(例えば、269mm)とされており、幅および厚さの寸法は、例えば、それぞれ28mmおよび6mmとされている。また、長板部10aの外周面10cは天板5および下カップ6の外形形状と一致するように、上から見て曲率半径が、例えば、33.5mmの円弧と成るような曲面形状に形成されている。
【0025】
フランジ部10bは、矩形状の形態を有しており、その幅、長さおよび厚さの寸法は、例えば、それぞれ14mm、20mmおよび4mmとされている。また、各フランジ部10bには、例えば、直径3.2mmの穴10dが2つ設けられている。下側のフランジ部10bに設けられている穴10dは、中央フレーム部6dに設けられる外側(中央以外)の2つの皿穴6eと対応するように設けられている。また、図3に示すように、天板5の裏側には、上側のフランジ部10bに設けられている穴10dと対応するように2つの裏ネジ穴5bが設けられている。圧電フィルム繋ぎ板10は、上側のフランジ部10bの裏側から、ネジ14を穴10dおよび天板5に設けられる裏ネジ穴5bに螺入することによって天板5に対して固定される。また、圧電フィルム繋ぎ板10は、下側のフランジ部10bの表側から、ネジ14を穴10dおよび中央フレーム部6dに設けられる外側の2つの皿穴6eに螺入することによって下カップ6に対して固定される。なお、本実施の形態では、支柱7と隣接するように圧電フィルム繋ぎ板10を配置しているが、支柱7を圧電フィルム繋ぎ板10と一体的に構成するようにしても良い。換言すると、圧電フィルム繋ぎ板10に支柱7と同様の役割を持たせることにより、支柱7を省略した構成を採用することが可能となる。
【0026】
圧電フィルム振動板3は、上述したように組み立てられた支柱7の外側を覆うように筐体2の側方に取り付けられる。圧電フィルム振動板3は、天板5の外周部に設けられる段差部5c、下カップ6の上端における外周部および圧電フィルム繋ぎ板10における長板部10aの外周面10cに粘着シート(不図示)を用いて固定される。具体的には、上述した段差部5c、外周部および外周面10cに粘着シートを貼り付け、圧電フィルム振動板3の各端部を該粘着シートに押しつけることによって筐体2に装着される。これにより、圧電フィルム振動板3は、支柱7を中心とした、例えば、直径約68mm、長さ269mmからなる略円筒状の形態として筐体2に固定される。その結果、支柱7と圧電フィルム振動板3との間の空間には、上から見て略リング状の形態を有する音響キャビティ20が形成される(図3参照)。
【0027】
また、図1から図3に示すように、下カップ6の下方にはスピーカ4が装着される。スピーカ4は、ムービングコイル式のスピーカであり、コーン状の振動板21と、振動板21の中央に取り付けられる駆動体の一部を構成するボイスコイル22と、駆動体の一部を構成する磁気回路23を主に有する。振動板21の外縁部の直径は、例えば、約46mmとされており、その外側にサスペンション24が設けられている。サスペンション24の直径は、例えば、約50mmとされている。また、ボイスコイル22の直径は、例えば、約19.5mmとされており、例えば、8Ω仕様のものが採用されている。ボイスコイル22は略円筒状のボイスコイルボビン25に装着されている。
【0028】
磁気回路23は、ヨーク26と、磁気発生手段となるマグネット27とから構成されている。ヨーク26は、ボトムヨーク26aと、保持ヨーク26bとから構成されている。ボトムヨーク26aは、有底円盤状をした円盤部分の中央から円柱状の円柱部26dが、図3における下方に突出するように形成されている。ボトムヨーク26aの中央には、該ボトムヨーク26aを貫通するようなネジ穴26eが設けられている。リング状のマグネット27は円柱部26dに挿通され、その下方から、保持ヨーク26bをボトムヨーク26aの円柱部26dに挿通させることで、マグネット27がボトムヨーク26aに対して係止される。そして、保持ヨーク26bの内周面と円柱部26dの外周面との間に形成される空隙部にボイスコイル22が配置される。マグネット27としては、その外形および内径の寸法が、例えば、それぞれ50mm、22mmであり、磁束密度が、例えば、8tのものが用いられている。また、本実施の形態では、ダストキャップやチャンバー等の部品が装着されていないため、円柱部26dの先端部近傍は、ボイスコイルボビン25の内側の一部分に露出した状態となっている。
【0029】
また、ボイスコイルボビン25の外側には、鉄製のフレーム28が取り付けられている。該フレーム28はフランジ部28aを有しており、その最大外形寸法は、例えば、82mmとされている。該フランジ部28aには、下カップ6のネジ穴6cと対応するように、フレーム28の中心から、例えば、72mmの距離を有する位置に周方向に向かって90度おきに合計4つの穴28cが設けられている。穴28cの直径は、例えば、6mmとされている。そして、フランジ部28aが下カップ6の下縁部6bと当接するようにスピーカ4を下カップ6の開口部6aの内部に配置して、ネジ30を穴28cおよびネジ穴6cに螺入することによってスピーカ4が下カップ6内に固定される。
【0030】
さらに、図1から図3に示すように、スピーカ4の下方には反射足11が取り付けられている。反射足11は、スピーカ4から放射される音を略円錐状の斜面11eで反射させて全ての角度方向に拡散させる役割を果たしている。なお、反射足11は必須の構成ではなく、スピーカ4に反射足11を取り付けないような構成としても良い。反射足11は、略三角錐形状の錐状部11aと、その頂部から上方に向かって突出する略円柱状の柱状部11bとを有する。錐状部11aの裏側には略三角錐状にくり抜かれた中空部11cが形成されており、該中空部11cから上方に向かって柱状部11bを貫通するように円形穴11dが形成されている。反射足11は、柱状部11bをボイスコイルボビン25の内部に挿入し、該反射足11の裏側からネジ32を円形穴11dおよびボトムヨーク26aのネジ穴26eに螺入することによってスピーカ4に対して固定される。錐状部11aの最大外径および錐状部11aの高さ寸法は、例えば、それぞれ86mmおよび20mmとされている。また、柱状部11bの直径および高さの寸法は、例えば、それぞれ17mmおよび22mmとされている。また、円形穴11dの直径の寸法は4.2mmとされている。さらに、図3に示す錐状部11aの斜面11eの断面における曲率半径は、例えば、約39mmとなっている。この反射足11はアルミニウムを切削加工することによって形成されている。
【0031】
以上のように構成されたスピーカ装置1では、圧電フィルム振動板3を用いて音響キャビティ20を構成すると共に、筐体2にスピーカ4を装着することによって、圧電フィルム振動板3とスピーカ4に備えられている振動板21を相互に振動させて音を同時に発生させることが可能となる。したがって、従来の圧電フィルムを用いたスピーカ装置(以下、圧電フィルムスピーカという。)では実現できない広音域における音の再生が可能となり、スピーカ装置1の性能を向上させることが可能となる。
【0032】
また、スピーカ装置1では、圧電フィルム振動板3とスピーカ4とを併用しているため、従来の圧電フィルムスピーカでは得ることが困難な低音域における音声の再生が可能となる。したがって、圧電フィルムスピーカによって得ることが困難な再生帯域(低音域)における音圧をスピーカ4によって補完し、中高音域における音圧に加え、低音域においても十分な音圧を得ることが可能となる。
【0033】
また、スピーカ装置1では、背面側に音響キャビティ20が形成されており、背面側は開放しない構成となっている。このため、圧電フィルム振動板3およびスピーカ4から放射された音が圧電フィルム振動板3の裏側に回りこみ、圧電フィルム振動板3の裏側で発生した逆位相の音と打ち消しあい、音圧の減少を招くといった、いわゆるキャンセル現象の発生を防止することができる。また、上述の回り込んだ音が圧電フィルム振動板3の裏側に発生した音と共振して、急激な音圧の上昇を防止することが可能となる。
【0034】
また、スピーカ装置1では、背面側に音響キャビティ20が形成されているため、圧電フィルム振動板3から得られる音は、圧電フィルム振動板3に対して正面側に放射された音となる。このため、この正面側に放射された音が圧電フィルム振動板3の裏面側に放射された音やそれらの反射音と合成されて合成音が形成されるのを防止できる。したがって、従来の圧電フィルムスピーカよりも、より優れた音質を得ることが可能となる。その結果、オーディオシステムとして、性能の向上を図ることが可能となる。
【0035】
また、スピーカ装置1では、圧電フィルム振動板3は略円筒状の形態を呈している。したがって、従来のムービングコイル型のスピーカ装置と比較して、複雑な構成を用いることなく、極めて容易に無指向性のスピーカを得ることができる。また、圧電フィルム振動板3は可撓性を有する圧電フィルムを用いているため、容易に円筒状の形態とすることができると共に、密閉された空間を容易に形成することができる。したがって、容易にかつ確実に無指向性の音を得ることが可能となる。
【0036】
(実験1)
図4は、本発明の一実施の形態に係るスピーカ装置1から放射される音の特性を示す図であり、(A)は、指向特性を示す図であり、(B)は、各方向(角度)に対する圧電フィルム振動板3の周波数特性を示す図であり、(C)は圧電フィルム振動板3、スピーカユニットとなるスピーカ4およびスピーカ装置1の周波数特性を示す図である。なお、スピーカ装置1から放射される音の周波数特性の測定においては、入力信号は同一のものとしているが、圧電フィルム振動板3とスピーカ4のインピーダンスが大幅に異なるので、駆動アンプとして、圧電フィルム振動板3を駆動するためのアンプと、スピーカ4を駆動するためのアンプを、それぞれ別々に用意した。
【0037】
図4(A)に示すように、各周波数における指向特性においては、略同心円状のゲインからなるグラフが得られた。したがって、スピーカ装置1から放射される各周波数の音は、指向性を有さないことがわかった。また、図4(B)に示すように、圧電フィルム振動板3から放射される中高音帯域の音であって、各方向(角度)に放射される音の周波数特性は略一致することがわかった。このため、圧電フィルム振動板3から放射される中高音帯域の音も指向性を有さないことがわかった。また、図4(C)から、圧電フィルム振動板3とスピーカ4を併用することにより、周波数特性が略フラットな結果が得られた。このことから、圧電フィルム振動板3とスピーカ4を併用すれば、一般的に、圧電フィルムスピーカでは得ることが困難な低音域の音圧を、スピーカ4によって補完することができ、スピーカ装置1の前方および後方の双方の位置において取得される音は、一定以上の音圧を有することがわかった。
【0038】
以上の結果から、スピーカ装置1の背面側に音響キャビティ20を設けることにより、圧電フィルム振動板3およびスピーカ4から放射された音が圧電フィルム振動板3の裏側に回りこむことがなくなり、キャンセル現象および共振音の発生を防止でき、音質の向上を図ることが可能となることがわかった。また、スピーカ装置1では、スピーカ4に反射足11を装着することにより、スピーカ4から発せられる音を全ての角度方向に反射させることができ、低周波数帯域において指向性をなくすことができた。さらに、高音帯域においては、従来の圧電フィルムスピーカでは得ることが困難な無指向性の音声を得ることが可能となることがわかった。したがって、スピーカ装置1では、全ての周波数帯域において角度に関係なく一定以上の音圧を得ることができることがわかった。
【0039】
(実験2)
図5は、従来のムービングコイル型スピーカから放射される音の特性を示す図であり、(A)は、指向特性を示す図であり、(B)は、各方向(角度)に対するムービングコイル型スピーカから放射される音の周波数特性を示す図である。なお、ムービングコイル型スピーカから放射される音の周波数特性の測定においては、角型キャビネットの2WAYからなるスピーカシステムを使用した。
【0040】
図5(A)に示すように、各周波数におけるゲインからなる指向性のグラフは、前方(0°側)の音圧が大きくなるように前方に偏心して、かつ略卵型の形状をなした。また、図5(B)に示すように、視聴角度が大きくなる(0°から離れる)ほど高周波帯域における音圧が減少することが分かった。以上の結果から、従来のムービングコイル型スピーカから放射される音の特性は、スピーカに対する視聴角度が大きくなるに従い、音圧が減少するといった特性を有することがわかった。
【0041】
以上、本発明の一実施の形態について説明したが、本発明は上述の形態に限定されることなく、種々変形した形態にて実施可能である。
【0042】
上述の実施の形態では、圧電フィルム振動板3、天板5および下カップ6によって1つの空間からなる音響キャビティ20を形成したが、例えば、下カップ6等に隔壁を設けて、複数の音響キャビティを形成し、キャビティの機能の独立化を図るようにしても良い。また、上述した隔壁に、目的に応じて適宜、穴やポート等を設け、音響キャビティを有効活用するようにしても良い。さらに、天板5や下カップ6等の形状を目的に応じて適宜変更しても良い。
【0043】
また、上述の実施の形態では、音響キャビティ20を圧電フィルム振動板3、天板5および下カップ6から構成したが、音響キャビティ20は圧電フィルム振動板3、天板5および下カップ6から構成することに限定されるものではなく、例えば、音響キャビティ20を圧電フィルム振動板3のみから構成しても良い。
【0044】
また、上述の実施の形態では、スピーカ装置1の形態は略円柱状の形態を有しているが、スピーカ装置1の形態は略円柱状に限定されるものではなく、例えば、半円柱状、角柱状もしくは円錐形状等の他の形態としても良い。
【0045】
また、上述の実施の形態では、反射足11は、アルミニウムにより構成されているが、反射足11の材料は、アルミニウムに限定されるものではなく、例えば、樹脂や木材等の他の材料としても良い。
【0046】
また、上述の実施の形態では、圧電フィルム振動板3は、筐体2に粘着シートを用いて固定されているが、圧電フィルム振動板3の筐体2への取り付け方法は、粘着シートを用いることに限定されるものではなく、例えば、ゴムバンド等によって固定したり、接着剤によって接着したりしても良い。
【0047】
また、上述の実施の形態では、支柱7の側方を圧電フィルム振動板3によって囲む構成としたが、支柱7の側方の一部分のみを圧電フィルム振動板3によって囲み、その他の部分を、他の部材から構成するようにしても良い。
【0048】
また、図1の天板5の上に、さらに圧電フィルム振動板3と天板5を設けて、第2の音響キャビティ等、複数の音響キャビティを形成するようにしても良い。このとき、各圧電フィルム振動板3では、寸法調整等を行うことで各音域に対応させることが可能となる。また、スピーカ装置1を、天板5が下側になるように、上下逆さに配置させる構成としても良い。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明のスピーカ装置は、振動板より音を放出するスピーカ等の音響変換装置において利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】本発明の一実施の形態に係るスピーカ装置の斜視図である。
【図2】本発明の一実施の形態に係るスピーカ装置の分解斜視図である。
【図3】本発明の一実施の形態に係るスピーカ装置の側断面図である。
【図4】本発明の一実施の形態に係るスピーカ装置から放射される音の特性を示す図であり、(A)は、指向特性を示す図であり、(B)は、各方向(角度)に対する圧電フィルム振動板の周波数特性を示す図であり、(C)は圧電フィルム振動板、スピーカユニットおよびスピーカ装置の周波数特性を示す図である。
【図5】従来のムービングコイル型スピーカから放射される音の特性を示す図であり、(A)は、指向特性を示す図であり、(B)は、各方向(角度)に対するムービングコイル型スピーカから放射される音の周波数特性を示す図である。
【符号の説明】
【0051】
1…スピーカ装置
2…筐体
3…圧電フィルム振動板
4…スピーカ(スピーカユニット)
5…天板
6…下カップ
7…支柱
10…圧電フィルム繋ぎ板(圧電フィルム繋ぎ部材)
11…反射足(反射板)
21…振動板
20…音響キャビティ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
筐体と、
上記筐体との間で音響キャビティを形成するように、上記筐体に取り付けられる可撓性を有する圧電フィルム振動板と、
上記筐体に装着される振動板を有するスピーカユニットと、
を備え、
上記スピーカユニットを上記筐体に装着し、該スピーカユニットの振動板と上記圧電フィルム振動板とを同時に振動させることを特徴とするスピーカ装置。
【請求項2】
前記圧電フィルム振動板は、円筒形状の形態に設けられていることを特徴とする請求項1記載のスピーカ装置。
【請求項3】
前記スピーカユニットの前記振動板に反射板を装着していることを特徴とする請求項1または2記載のスピーカ装置。
【請求項4】
前記筐体は、
前記圧電フィルム振動板の上方に配置される略円盤状の形態を有する天板と、
前記圧電フィルム振動板の下方に配置され、前記スピーカユニットが装着されるカップ状の形態を有する下カップと、
上記天板と上記下カップとを連結し、前記圧電フィルム振動板の内部に配置される柱状の支柱と、
上記天板と上記下カップとを連結するように配置され、前記圧電フィルム振動板を保持するための圧電フィルム繋ぎ部材と、
を有することを特徴とする請求項1から3のいずれか1項記載のスピーカ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−62819(P2010−62819A)
【公開日】平成22年3月18日(2010.3.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−225895(P2008−225895)
【出願日】平成20年9月3日(2008.9.3)
【出願人】(000003595)株式会社ケンウッド (1,981)
【出願人】(501231510)
【出願人】(598146850)後藤電子 株式会社 (24)
【Fターム(参考)】