説明

スピーカ

【課題】本発明はスピーカの高性能化と軽量化を図ることを目的とする。
【解決手段】この目的を達成するために本発明は、磁気ギャップ17を有する磁気回路11をプロテクター18の中央部裏面に設置し、サスペンションホルダ15の内周部分をボイスコイル体12に連結し、振動板13は磁気回路11側でその内周部分をサスペンションホルダ15の中部に連結し、振動板13は第一のエッジ14を介して、サスペンションホルダ15は第二のエッジ16を介してそれぞれフレーム19に接続し、これら第一、第二のエッジ14、16は、これら第一、第二のエッジ間を境にして略対称相似形状としたスピーカである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スピーカに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来のスピーカは図8に示すような構成となっていた。
【0003】
この図8に示すように、このスピーカは、磁気回路1と、この磁気回路1の磁気ギャップ2内に、少なくともそのコイル部3が可動自在に設けられたボイスコイル体4と、このボイスコイル体4の磁気ギャップ2外方部分に、その内周が連結された振動板5と、この振動板5の外周がエッジ6を介して連結されたフレーム7とを備えた構成となっていた。
【0004】
すなわち、ボイスコイル体4のボイスコイル部3にオーディオアンプ等から出力された電気信号を入力することで、ボイスコイル体4が起振し、その起振力が振動板5に伝達され、振動板5が空気を振動させて電気信号を音声に変換する構成となっていた。
【0005】
なお、この出願の発明に関する先行技術文献情報としては、例えば、特許文献1が知られている。
【特許文献1】特開平11−275690号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記従来例においては、図8に示すように、ボイスコイル体4のボイスコイル部3と振動板5内周固定部分との間にダンパー8の内周が固定され、このダンパー8の外周はフレーム7に固定されている。このダンパー8はエッジ6と共にサスペンションを構成し、ボイスコイル体4が可動時にローリングしないようにしている。また、このダンパー8は図8に示すように複数の波形を組み合わせた形状にして、できるだけボイスコイル体4の可動負荷とならないような構成となっている。
【0007】
しかし、近年のスピーカの高性能化においては、このダンパー8が存在することによって大きな問題が発生している。
【0008】
すなわち、ボイスコイル体4が磁気回路1へ向かう挙動と、磁気回路1とは反対側へ向かう挙動において、ダンパー8の可動負荷の非直線性や非対称性が大きく、これに起因する高調波ひずみが大きく発生すると同時にパワーリニアリティも悪化することになっていた。
【0009】
図9は従来のスピーカのパワーリニアリティ、スピーカ入力電力に対する振動板5の変位を示している。Aは磁気回路1に向けた振動板5の振幅特性を示し、Bは磁気回路1とは反対方向の振動板5の振幅特性を示す。また、図10には従来のスピーカの高調波ひずみ特性を示し、Cがスピーカの周波数特性、Dが第2高調波ひずみ特性、Eが第3高調波ひずみ特性である。
【0010】
このような非直線性や非対称性に起因するパワーリニアリティ悪化や高調波ひずみ特性の課題を解決するため、各社とも、ダンパー8の非直線性や非対称性を解決するため種々の工夫をしているが、このダンパー8は上述のごとく、その可動負荷を少なくするように複数の波形を組み合わせて出来たものであるから、このダンパー8とエッジ6を組み合わせてサスペンションを構成する以上は、非直線性や非対称性を解決して高調波ひずみを低減させることが難しく、スピーカの高性能化が出来ていないのが現状である。そこで本発明は、薄型化が図れる構成で、かつ低歪の高性能スピーカを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
そして、この目的を達成するために本発明は、磁気ギャップを有する磁気回路を中央部裏面に設置し、その外周部分がフレームに結合されるプロテクターと、この磁気回路の前記磁気ギャップ内に少なくともそのコイル部が可動自在に設けられたボイスコイル体と、このボイスコイル体の磁気ギャップ外方部分にその内周部分を連結し、外周部分を第二のエッジを介して前記フレームに連結されたサスペンションホルダと、前記サスペンションホルダより前記磁気回路側に、前記サスペンションホルダの中部に内周を連結し、外周部分を第一のエッジを介して前記フレームに連結された振動板を備え、前記第一のエッジは前記ボイスコイル体のサスペンションホルダ内周連結部よりも前記磁気回路側の上方の位置で前記フレームと結合し、前記第一、第二のエッジは、これら第一、第二のエッジを境にしてほぼ対称相似形状としたものである。
【発明の効果】
【0012】
以上のように本発明は、磁気ギャップを有する磁気回路をプロテクターの中央部裏面に設置し、サスペンションホルダの内周部分をボイスコイル体の磁気ギャップ外方部分に連結し、外周部分を第二のエッジを介してフレームに連結し、振動板は磁気回路側で内周部分をサスペンションホルダの中部に連結し、外周部分を第一のエッジを介してフレームに連結する構成とすることにより、スピーカ全体の厚みを薄くすることができる。
【0013】
また、第一のエッジと第二のエッジによりサスペンションを構成させることで、サスペンションの非直線性及び非対称性の要因となるダンパーを排除するとともに、第一のエッジと第二のエッジはそれ自体の非対称性をキャンセルするように配置させることにより、サスペンションの非直線性及び非対称性を根本的に解決することができ、これに起因するスピーカの高調波ひずみ低減とパワーリニアリティを向上させてスピーカの性能を向上させることができる。
【0014】
また、振動板の内周をサスペンションホルダの中部に連結したので、サスペンションホルダと磁気回路の振幅ストロークを大きく稼ぐことで耐入力性能も向上できる。また、サスペンションホルダの中部に振動板の内周を連結することにより振動系の軽量化で音響変換効率を上げることもできる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態を図を用いて説明する。
【0016】
(実施の形態1)
図1は本発明の実施の形態1のスピーカの断面図を示す。図1において、磁気回路11は円板状のマグネット11a、円板状のプレート11b、円形凹状のヨーク11cからなり、プレート11bの外周とヨーク11cの外周端部の内周間の磁気ギャップ17にマグネット11aの磁束を集中させる。マグネット11aにはネオジウム系や希土類コバルト系が、プレート11b及びヨーク11cには鉄が主な材料として用いられている。なお、図1では内磁型の例を示しているが外磁型の磁気回路でもよい。この磁気回路11は、プロテクター18の中央部裏面にネジ21を用いて取り付けられ、このプロテクター18の外周部分はフレーム19に結合されている。
【0017】
ボイスコイル体12は、円筒状で、磁気回路11の磁気ギャップ17内に少なくともそのコイル部12aが可動自在に設けられており、一般的には紙及び樹脂、アルミ等の金属を材料としたボビンの上に、銅線などのコイルを巻いて構成している。このボイスコイル体12のコイル部12aと反対側の端面にはダストキャップ20が設けられている。
【0018】
サスペンションホルダ15は、内周と外周の間の中部の部分15aで屈曲した構造となっており、その内周はボイスコイル体12の磁気ギャップ17外方部分に連結され、その外周は前記磁気回路11側とは反対側に屈曲し、第二のエッジ16を介してフレーム19に結合されており、高い剛性と内部損失を両立したパルプ及び樹脂が主な材料として用いられる。
【0019】
第二のエッジ16は、サスペンションホルダ15に可動負荷を加えないようにウレタン及びゴム、布などの材料が用いられる。第二のエッジ16は、ボイスコイル体12のサスペンションホルダ15内周連結部よりも磁気回路11側とは反対側の同等または下方の位置でフレーム19に結合されている。
【0020】
振動板13はサスペンションホルダ15の中部にその内周部分13aが連結され逆円錐状の形状をしており、ボイスコイル体12に起振された振動により実際に音を出すもので、高い剛性と内部損失を両立したパルプ及び樹脂が主な材料として用いられる。振動板13はサスペンションホルダ15の外周部分より磁気回路11側に逆円錐状の外周部分がくるように設けられ、この振動板13の外周部分はリング状の第一のエッジ14を介してフレーム19に結合されている。この時、第一のエッジ14はボイスコイル体12のサスペンションホルダ15内周連結部よりも磁気回路11側の上方の位置でフレーム19に結合されている。
【0021】
磁気回路11と振動板13をこのような位置構成とすることにより、スピーカ全体の厚みを大幅に薄くすることができる。
【0022】
また、振動板13の内周部分は、サスペンションホルダ15の中部15aの上面でサスペンションホルダ15との平面重合部13aにて接着剤等で結合されている。このため、振動板13とサスペンションホルダ15との位相がほぼ同位相となり、これら振動板13とサスペンションホルダ15の位相ずれに起因する中低音域の共振歪みを低減することが可能となるので、周波数特性の平坦化ができる。
【0023】
第一のエッジ14は、振動板13に可動負荷を加えないようにウレタン及びゴム、布などの材料が用いられ、フレーム19は皿状の形状をしており、この複雑な形状にも対応できるように鉄板プレス品や樹脂成型品及びアルミダイキャストなどの材料が用いられる。
【0024】
ここで、第一のエッジ14は磁気回路11側に突出し、第二のエッジ16は磁気回路11側とは反対側に突出しており、これら第一、第二のエッジ14,16間を境にして略対称相似形状となっている。
【0025】
次に、図2にプロテクター18を上面から見た図を示す。プロテクター18は、複雑な形状にも対応できるように鉄板プレス品や樹脂成型品及びアルミダイキャストなどの材料が用いられる。そして、このスピーカはプロテクター18側に音を放射させるために、中央部裏面にネジ21で取り付けた磁気回路11の部分を除く全面にパンチング穴22を設けている。そしてこのプロテクター18の4隅にはこのプロテクター18を取り付けているフレーム19とともに、このスピーカを取り付けるための取り付け穴23を設けている。
【0026】
図3に他の実施例のプロテクター18aを上面から見た図を示す。これも同様にプロテクター18a側に音を放射させるために、中央部裏面にネジ21で取り付けた磁気回路11を支持するための4ヶ所の梁24の部分を除く全面に開口部25を設けたものである。
【0027】
次に、図4に第二のエッジ16とサスペンションホルダ15との連結部分の拡大断面図を示す。第二のエッジ16におけるサスペンションホルダ15との連結部分は平面重合部15bで連結されているので、この連結部分にかかる応力を分散させることができ、スピーカの耐入力性能をより向上させることができる。
【0028】
また、ボイスコイル体12とフレーム19の間には従来のダンパーに代わってサスペンションホルダ15と第二のエッジ16によるサスペンションが設けられている。このサスペンションホルダ15及び第二のエッジ16は、第一のエッジ14と共にサスペンションを構成し、ボイスコイル体12が可動時にローリングしないように設けられているものである。
【0029】
このため、第一のエッジ14と第二のエッジ16によりサスペンションを構成させることができ、サスペンションの非直線性及び非対称性の要因となるダンパーを排除することができる。また、第一のエッジ14と第二のエッジ16はそれ自体の非対称性をキャンセルするように略対称相似形状となっている。具体的には第一のエッジ14と第二のエッジ16の突出する方向が反対になるように対向配置されており、これにより図5のA,Bで示すパワーリニアリティの入力電力−振動板振幅特性のごとく、サスペンションの非直線性及び非対称性を根本的に解決することができる。
【0030】
このため、図6のD,Eで示すスピーカの高調波ひずみ特性のごとく、サスペンションの非直線性及び非対称性に起因する高調波ひずみを低減することができ、スピーカの高性能化が実現できる。
【0031】
図5は、図1のスピーカのパワーリニアリティを示す特性図であり、入力電力に対する振動板13の振幅量を示している。Aは磁気回路11側への入力電力−振動板振幅特性である。また、Bは磁気回路11と反対側への入力電力−振動板振幅特性である。
【0032】
図6は、図1のスピーカの高調波ひずみ特性であり、出力音圧と高調波ひずみのダイナミックレンジが大きいほど、その高調波ひずみが少ないことを示す。Cがスピーカ特性で、Dが第2高調波ひずみ特性、Eが第3高調波ひずみ特性である。
【0033】
以上のように構成された本発明の実施の形態1のスピーカについて、以下その動作について説明する。
【0034】
ボイスコイル体12のコイル部12aにオーディオアンプ等から出力された電気信号を入力することで、ボイスコイル体12が起振し、その起振力がサスペンションホルダ15を介して振動板13に伝達され、振動板13が空気を振動させて電気信号を音声に変換する。
【0035】
また、ボイスコイル体12とフレーム19の間には従来のダンパーに代わってサスペンションホルダ15と第二のエッジ16によるサスペンションが設けられている。このサスペンションホルダ15及び第二のエッジ16は、第一のエッジ14と共にサスペンションを構成し、ボイスコイル体12が可動時にローリングしないように設けられているものである。
【0036】
このため、第一のエッジ14と第二のエッジ16によりサスペンションを構成させることができ、サスペンションの非直線性及び非対称性の要因となるダンパーを排除することができる。また、第一のエッジ14と第二のエッジ16はそれ自体の非対称性をキャンセルするように略対称相似形状となっている。具体的には第一のエッジ14と第二のエッジ16の突出する方向が反対になるように対向配置されており、これにより図5のA,Bで示すパワーリニアリティの入力電力−振動板振幅特性のごとく、サスペンションの非直線性及び非対称性を根本的に解決することができる。
【0037】
このため、図6のD,Eで示すスピーカの高調波ひずみ特性のごとく、サスペンションの非直線性及び非対称性に起因する高調波ひずみを低減することができ、スピーカの高性能化が実現できる。
【0038】
(実施の形態2)
次に図7について説明する。図7は実施の形態2の断面図を示し、実施の形態1と同じ構成のものに関しては同一の符号を付している。図7においては、第一のエッジ26は磁気回路11と反対側に向けて突出する形状とし、第二のエッジ27は振動板26に向けて突出する形状とした構成としている。
【0039】
このため、第一のエッジ26の前方に近接しているプロテクター18及び第二のエッジ27に近接しているフレーム19の底面への接触を避けることができるため、スピーカ全体の厚みを更に薄くすることができる。また、スピーカ全体の厚みを変えない場合には、スピーカの振幅余裕を大きくとることで、最大音圧を大きくすることができる。
【産業上の利用可能性】
【0040】
以上のように本発明は、磁気ギャップを有する磁気回路をプロテクターの中央部裏面に設置し、逆円錐台形の振動板を磁気回路側に設けることにより、スピーカの厚みを薄くすることができる。また、第一のエッジと第二のエッジによりサスペンションを構成させることでサスペンションの非直線性及び非対称性の要因となるダンパーを排除するとともに、第一のエッジと第二のエッジはそれ自体の非対称性をキャンセルするように配置させることにより、サスペンションの非直線性及び非対称性を根本的に解決することができ、これに起因するスピーカの高調波ひずみ低減とパワーリニアリティを向上させてスピーカの性能を向上させることができる。また、振動板の内周をサスペンションホルダの中部に連結したので、サスペンションホルダと磁気回路の振幅ストロークを大きく稼ぐことで耐入力性能も向上できる。また、サスペンションホルダの中部に振動板の内周を連結することにより振動板系の軽量化で音響変換効率を上げることもできる。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明の実施の形態1のスピーカの断面図
【図2】本発明の実施の形態1のスピーカのプロテクターの上面図
【図3】本発明の実施の形態1のスピーカの他の実施例のプロテクターの上面図
【図4】本発明の実施の形態1のスピーカの第二のエッジとサスペンションホルダとの連結部分の拡大断面図
【図5】本発明の実施の形態1のスピーカのパワーリニアリティを示す特性図
【図6】本発明の実施の形態1のスピーカの高調波ひずみ特性を示す特性図
【図7】本発明の実施の形態2のスピーカの断面図
【図8】従来のスピーカの断面図
【図9】従来のスピーカのパワーリニアリティを示す特性図
【図10】従来のスピーカの高調波ひずみ特性を示す特性図
【符号の説明】
【0042】
11 磁気回路
12 ボイスコイル体
13 振動板
14、26 第一のエッジ
15 サスペンションホルダ
16、27 第二のエッジ
17 磁気ギャップ
18 プロテクター
19 フレーム
20 ダストキャップ
21 ネジ
22 パンチング穴
23 取り付け穴
24 梁
25 開口部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁気ギャップを有する磁気回路を中央部裏面に設置し、その外周部分がフレームに結合されるプロテクターと、この磁気回路の前記磁気ギャップ内に少なくともそのコイル部が可動自在に設けられたボイスコイル体と、このボイスコイル体の磁気ギャップ外方部分にその内周部分を連結し、外周部分を第二のエッジを介して前記フレームに連結されたサスペンションホルダと、前記サスペンションホルダより前記磁気回路側に、前記サスペンションホルダの中部に内周を連結し、外周部分を第一のエッジを介して前記フレームに連結された振動板を備え、前記第一のエッジは前記ボイスコイル体のサスペンションホルダ内周連結部よりも前記磁気回路側の上方の位置で前記フレームと結合し、前記第一、第二のエッジは、これら第一、第二のエッジを境にしてほぼ対称相似形状としたスピーカ。
【請求項2】
第二のエッジはボイスコイル体のサスペンションホルダ内周連結部よりも磁気回路側とは反対側の同等または下方の位置でフレームに結合した請求項1に記載のスピーカ。
【請求項3】
第一のエッジは磁気回路側に突出する形状にし、第二のエッジは磁気回路側とは反対方向に突出する形状とした請求項1または2に記載のスピーカ。
【請求項4】
第一のエッジは磁気回路側とは反対方向に向けて突出する形状とし、第二のエッジは振動板側に向けて突出する形状とした請求項1または2に記載のスピーカ。
【請求項5】
第一のエッジと第二のエッジの弾性率を略同等に設定した請求項3または4に記載のスピーカ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2010−206558(P2010−206558A)
【公開日】平成22年9月16日(2010.9.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−50039(P2009−50039)
【出願日】平成21年3月4日(2009.3.4)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】