説明

スフィンゴシンキナーゼ2を利用した細胞増殖抑制剤、その核移行シグナルを持つ融合タンパク質の作製方法、及び薬剤候補物質のスクリーニング方法、並びにスクリーニングキット

スフィンゴシンキナーゼ2(SPHK2)の機能解析を行い、その解析を通じて医学上および産業上有用な方法・物質を提供する。本発明者は、スフィンゴシンキナーゼ2(SPHK2)の機能解析を進めた結果、SPHK2が細胞内において主として核内に存在し、そのアミノ末端側に核移行シグナル(NLS)を持つこと、SPHK2を発現させると細胞のDNA合成が抑制されること、また、SPHK2がそのDNA合成抑制作用を発揮するためには、核内に存在することが必要であること等を見出した。よって、SPHK2は、細胞増殖抑制剤として利用でき、またそのNLS配列は新たな融合タンパク質の作製などに応用でき、医学上および産業上有用なものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、スフィンゴシンキナーゼ2を利用した細胞増殖抑制剤、及びその核移行シグナルを持つ融合タンパク質の作製方法、並びに薬剤候補物質のスクリーニング方法に関するものである。
【背景技術】
本出願は、米国仮特許出願(U.S.Provisional Application Serial No.)60/484,348(出願日:2003年 7月 1日、発明の名称:Sphingosine kinase 2 is a nuclear protein and inhibits DNA synthesis)と関連するとともに、該米国仮特許出願の利益を主張する。
生理活性物質スフィンゴシン1リン酸(Sphingosine 1−posphate;SPP)は、リピッドアクティベーター又はリピッドメディエーターとして、細胞内外で作用し、細胞の種々の機能を調節する。少なくともこれまでに、細胞増殖、血管新生、アポトーシスの抑制、細胞分化、細胞運動、細胞骨格の再編成等の多岐にわたる生理機能に関与することが報告されている。
上記スフィンゴシン1リン酸は、EDG(Endothelial Differentiation Gene)レセプターファミリー(「SPP受容体」とも呼ばれる)のリガンドであることが最近明らかになり、スフィンゴシン1リン酸は細胞外リガンドとして作用することが示された。スフィンゴシン1リン酸の受容体としては、現在までに少なくとも5つの受容体(即ち、EDG−1/SPP1,EDG−5/SPP2,EDG−3/SPP3,EDG−6/SPP4,EDG−8/SPP5)が同定されている。
またスフィンゴシン1リン酸は、細胞内セカンドメッセンジャーとしての役割を有しており、細胞内貯蔵領域からのカルシウム放出、アポトーシスの抑制などに重要な役割を持つことが知られている。
一方、スフィンゴシンキナーゼ(以下「SPHK」ともいう)は、スフィンゴシンをリン酸化し、上記スフィンゴシン1リン酸を産生する酵素であり、細胞内のスフィンゴシン1リン酸の量を調節する。哺乳類由来のSPHKとしては、スフィンゴシンキナーゼ1およびスフィンゴシンキナーゼ2(以下それぞれ「SPHK1」「SPHK2」ともいう)の2つのアイソフォームが知られている(例えば、Kohama et al.J.Biol.Chem.(1998)273,23722−23728、Liu et al.J.Biol.Chem.(2000)275,19513−19520参照)。このうち、SPHK2のアミノ酸配列およびその塩基配列については、下記のデータベース(I)(II)に記載されている。
(I)DDBJ:アクセッション番号AF245447(ヒト(Homo sapiens))
(II)DDBJ:アクセッション番号AF245448(マウス(Mus musculus))
上記SPHK1とSPHK2とでは、その生物化学的特性に相違がみられる。例えばin vitroでは、SPHK1の活性は、界面活性剤Triton X−100によって強く活性化されるが、塩によって抑制される。これに対して、SPHK2の活性は逆の反応を示す。また、SPHK1をHEK293細胞に発現させると、その酵素活性は飛躍的に高まるが、SPHK2を発現させた場合はそれほど上昇しない。
上記SPHK1については、機能解析の結果、過剰発現させると、▲1▼細胞のG1期からS期への移行を促進し、細胞増殖を誘導する、▲2▼細胞のアポトーシス応答を抑制する、ことが知られている。また、SPHK1を過剰発現させると、NOD/SCIDマウスに腫瘍を形成させることも報告されている。さらに、SPHK1結合分子として、TRAF2,RPK118,AKAP関連タンパクといった複数の分子が既に同定されている。
これに対して、SPHK2の機能については殆どわかっていないのが現状である。SPHK2の基質であるスフィンゴシン1リン酸は、前述のように、細胞増殖、血管新生、アポトーシスの抑制等の多岐にわたる生理機能に関与し、ひいては、これらの生理機能に関わる種々の病気(例えば、動脈硬化や本態性高血圧等)にも深く関与していると考えられる。したがって、そのリン酸化酵素SPHK2の機能を解明することは、このような病気の病態解析やその診断方法・治療方法の開発などにもつながり、医学上および産業上重要な貢献をもたらすものと期待される。
本発明は、上記の課題に鑑みなされたものであり、その目的は、SPHK2の機能解析を行い、その解析を通じて医学上および産業上有用な方法・物質を提供することにある。
【発明の開示】
本発明者は、上記の課題に鑑み、SPHK2の詳細な機能解析を進めた結果、SPHK2が細胞内において主として核内に存在し、そのアミノ末端側に核移行シグナル(NLS)を持つこと、SPHK2を発現させると細胞のDNA合成が抑制されること、また、SPHK2がそのDNA合成抑制作用を発揮するためには、核内に存在することが必要であること等を見出し、本発明を完成させるに至った。
即ち、本発明は、医学上または産業上有用な方法・物質として、下記A)〜J)の発明を含むものである。
A) 哺乳類由来のスフィンゴシンキナーゼ2タンパク質、またはそのタンパク質をコードする遺伝子を含む細胞増殖抑制剤。
B) 上記A)の細胞増殖抑制剤であって、ヒト又はマウス由来のスフィンゴシンキナーゼ2を用いた細胞増殖抑制剤。
C) 哺乳類由来のスフィンゴシンキナーゼ2のアミノ末端側に存在する核移行シグナルをコードするオリゴヌクレオチド。
D) 上記C)記載のオリゴヌクレオチドを用いて、スフィンゴシンキナーゼ2の核移行シグナルと他のタンパク質とを融合させた融合タンパク質を作製する方法。
E) 上記D)記載の方法によって作製された融合タンパク質。
F) 上記E)記載の融合タンパク質であって、スフィンゴシンキナーゼ2の核移行シグナルとスフィンゴシンキナーゼ1とを融合させた融合タンパク質。
G) 上記F)記載の融合タンパク質、またはその融合タンパク質をコードする遺伝子を含む細胞増殖抑制剤。
H) スフィンゴシンキナーゼ2の細胞増殖抑制作用を調節する物質のスクリーニング方法。
I) 上記H)記載のスクリーニング方法であって、スフィンゴシンキナーゼ2の全長または部分タンパク質、あるいは当該タンパク質の改変体、もしくはこれらのタンパク質をコードする遺伝子を使用することを特徴とするスクリーニング方法。
J) 上記H)またはI)記載のスクリーニング方法により得られた物質を含む薬剤。
K) 上記H)記載のスクリーニング方法を実施するためのスクリーニングキット。
L) 上記K)記載のスクリーニングキットには、スフィンゴシンキナーゼ2の全長または部分タンパク質、あるいは当該タンパク質の改変体、もしくはこれらのタンパク質をコードする遺伝子が含まれることを特徴とするスクリーニングキット。
本発明のさらに他の目的、特徴、および優れた点は、以下に示す記載によって十分わかるであろう。また、本発明の利益は、添付図面を参照した次の説明で明白になるであろう。
【図面の簡単な説明】
図1は、SPHK2およびSPHK1の細胞内分布を調べた結果を示す図である。
図2(a)は、mSPHK1、mSPHK2、mSPHK2ΔM、mSPHK2ΔNの構造を模式的に示す図であり、図2(b)は、上記mSPHK2、mSPHK2ΔM、mSPHK2ΔNの細胞内分布を調べた結果を示す図である。
図3(a)は、SPHK2のNLS配列と他のタンパク質のNLS配列とを比較して示す図であり、図3(b)は、SPHK2R93E/R94E、NLS−SPHK1の細胞内分布を調べた結果を示す図である。
図4(a)は、SPHK2の発現が細胞内でのDNA合成を抑制するかどうかを調べた結果を示すグラフであり、図4(b)は、Dox濃度に応じてSPHK2の発現が誘導されることを確認したイムノブロット解析の結果を示す図である。
図5は、SPHK2、SPHK1、またはそれらの改変体を細胞内発現させ、細胞内でのDNA合成がどのように変化するかを調べた結果を示すグラフである。
図6(a)は、Dox存在下またはDox非存在下で培養した各細胞における、SPHK2の細胞内発現の有無を調べた結果を示す図であり、図6(b)は、SPHK2の発現がアポトーシスを誘導するかどうかを調べた結果を示す図である。
図7(a)および図7(b)は、SPHK2の発現が細胞周期にどのような影響を与えるかを調べた結果を示す図である。
図8は、SPHK2、SPHK1、または変異体の細胞内分布を調べた結果を示す図である。
図9は、細胞の種類および細胞密度によってSPHK2の局在化がどのように変化するかを調べた結果を示す表である。
図10(a)は、細胞内在性のSPHK2の活性を調べた結果を示す、図であり、図10(b)は、内在性のSPHK2の局在箇所をイムノブロットにて検出した結果を示す図であり、図10(c)は、細胞内在性のSPHK2の細胞内分布を調べた結果を示す図である。
図11(a)は、種々のSPHKタンパク質の活性を調べた結果を示すグラフであり、図11(b)は、細胞質画分(C)と核画分(N)とにおけるSPPの蓄積を調べた結果を示すグラフである。
図12は、異なるエピトープ特異的抗体を用いてHA−SPHK2タンパク質の細胞内分布を調べた結果を示す図である。
【発明を実施するための最良の形態】
以下、本発明の具体的態様について説明する。
(1)細胞増殖抑制剤
本発明の細胞増殖抑制剤は、前記のとおり、哺乳類由来のスフィンゴシンキナーゼ2(SPHK2)タンパク質、またはそのタンパク質をコードする遺伝子(核酸)を含む細胞増殖抑制剤である。
ここで、「スフィンゴシンキナーゼ2(SPHK2)」とは、主としてヒト又はマウス由来のタンパク質を意味する。ヒト由来のSPHK2は、618個のアミノ酸からなり、そのアミノ酸配列並びに塩基配列は例えばアクセッション番号AF245447に記載される。マウス由来のSPHK2は、617個のアミノ酸からなり、そのアミノ酸配列並びに塩基配列は例えばアクセッション番号AF245448に記載される。
後述の実施例に示すように、SPHK2を発現させると細胞のDNA合成が抑制され、SPHK2を導入した細胞の大半は細胞周期においてG1/S期の状態から9時間経過後もG1/S期の状態にとどまった(図4(a)、図4(b)、図5、図7(a)、図7(b)参照)。したがって、SPHK2タンパク質および当該タンパク質をコードする遺伝子は、細胞増殖抑制剤として利用可能である。
尚、SPHK2タンパク質は、ヒト又はマウス由来のものに限らず、哺乳類由来のものであればよい。また、ヒト又はマウス由来のSPHK2であっても、上記アクセッション番号に記載されたアミノ酸配列に限らず、その配列の一部が異なるものであってもよい。即ち、ヒト又はマウス由来のSPHK2には、(a)上記アクセッション番号に記載されたアミノ酸配列からなるタンパク質、のみならず、(b)上記アクセッション番号に記載されたアミノ酸配列において、1個又は数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入、及び/又は付加されたアミノ酸配列からなり、かつ、DNA合成抑制作用を示すタンパク質、も含まれる。
上記「1個又は数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入、及び/又は付加された」とは、部位特異的突然変異誘発法等の公知の変異タンパク質作製法により置換、欠失、挿入、及び/又は付加できる程度の数(好ましくは10個以下、より好ましくは7個以下、さらに好ましくは5個以下)のアミノ酸が置換、欠失、挿入、及び/又は付加されることを意味する。このように、上記(b)のタンパク質は、上記(a)のタンパク質の変異タンパク質であり、ここにいう「変異」は、主として公知の変異タンパク質作製法により人為的に導入された変異を意味するが、天然に存在する同様の変異タンパク質を単離精製したものであってもよい。
また、SPHK2タンパク質は、付加的なポリペプチドを含むものであってもよい。このようなポリペプチドが付加される場合としては、例えば、HisやMyc、Flag等によってSPHK2タンパク質がエピトープ標識されるような場合が挙げられる。さらに、SPHK2タンパク質は、糖鎖結合やリン酸化等により修飾されたものであってもよい。
本発明の細胞増殖抑制剤は、SPHK2タンパク質をコードする遺伝子を含むものであってもよく、ここにいう「遺伝子」には、上記アクセッション番号に記載される塩基配列中の少なくともオープンリーディングフレーム領域を有する遺伝子、およびその塩基配列の一部を改変した改変遺伝子が含まれる。
また、「遺伝子」には、DNAおよびRNAが含まれる。DNAには、例えばクローニングや化学合成技術又はそれらの組み合わせで得られるようなcDNAやゲノムDNAなどが含まれる。DNA・RNAは二本鎖でも一本鎖でもよく、一本鎖は、センス鎖となるコード鎖であっても、アンチセンス鎖となるアンチコード鎖であってもよい。さらに、「遺伝子」は、タンパク質をコードするコード配列以外に、非翻訳領域(UTR)の配列やベクター配列(発現ベクター配列を含む)などの配列を含むものであってもよい。
本発明の細胞増殖抑制剤は、上述したSPHK2タンパク質、または当該タンパク質をコードするSPHK2遺伝子を含むものであればよく、その他に、適当な溶液(緩衝液を含む)、酵素、ベクター、または、脂質・蛋白・低分子化合物などといった他の化学物質を含むものであってもよい。
本発明の細胞増殖抑制剤は、各種の細胞培養技術、皮膚組織等の組織作製や器官・臓器の作製に代表される再生医療、モデル動物を用いた実験系などに利用できる。そのほか、治療薬(特に細胞増殖性疾病の治療薬)などへの応用も可能である。
(2)SPHK2の核移行シグナルを持つ融合タンパク質作製方法
本発明者は、後述の実施例に示すように、SPHK2が細胞内において主として核内に存在し、そのアミノ末端側に核移行シグナル(NLS)を持つこと、そのNLS配列とSPHK1タンパク質とを融合させて発現させることで、本来核に移行しないSPHK1タンパク質を核に移行させ得ること、さらに、核に移行したその融合タンパク質は、野生型のSPHK1には本来ないDNA合成抑制作用を示したこと、を明らかにした。
したがって、SPHK2の核移行シグナル(NLS)と他のタンパク質とを融合させることで、本来核に移行しないタンパク質を核に移行させることができ、また、本来核に移行しないタンパク質を核に移行させることで、そのタンパク質の野生型には本来ない機能・作用を発揮させることが可能である。
SPHK2の核移行シグナル(NLS)を持つ本発明の融合タンパク質の作製方法は特に限定されるものではないが、以下では、後述の実施例において使用した作製方法について簡単に説明する。
実験では、マウス由来のSPHK2のNLS配列とマウス由来のSPHK1タンパク質とを融合させた融合タンパク質を作製した。マウス由来のSPHK2のNLS配列は、本発明者により、アミノ末端側に存在する87〜95番目のアミノ酸配列「RGRRGGRRR(配列番号1)」と同定された。また、他のNLS配列との比較から、特に89〜94番目のアミノ酸配列「RRGGRR」が機能上重要と判断された。
融合タンパク質の作製には、上記NLS配列をコードするオリゴヌクレオチド(下記センスプライマー)を使用した。まず、マウス脳cDNAライブラリーからSPHK1遺伝子をクローニングした。次に、このSPHK1遺伝子が挿入されたプラスミドを鋳型としてPCR法による遺伝子増幅を行った。その際、センスプライマーに上記NLS配列をコードするオリゴヌクレオチドを使用し、具体的には、マウス由来のSPHK2の87〜98番目のアミノ酸配列をコードする下記塩基配列からなるオリゴヌクレオチドを使用した。

上記オリゴヌクレオチドのうち、10〜45番目の配列が、SPHK2の87〜98番目のアミノ酸配列をコードする領域に相当する。また、46〜60番目の配列は、SPHK1の1〜5番目のアミノ酸配列をコードする領域に相当する。
上記PCR法により得られた増幅断片をpTB−701ベクターに挿入して発現ベクターを作製した。この発現ベクターを宿主細胞(実施例ではNIH 3T3細胞)にトランスフェクションし、融合タンパク質を発現させた。
上記と同様の方法によりヒト由来のSPHK2のNLS配列を持つ融合タンパク質を作製する場合、そのNLS配列は、ヒト由来のSPHK2の86〜94番目のアミノ酸配列「RGRRGARRR(配列番号3)」と考えられ、特に88〜93番目のアミノ酸配列「RRGARR」が機能上重要と判断されるので、このNLS配列をコードするオリゴヌクレオチドを使用するとよい。
勿論、本発明の融合タンパク質は、上記以外の方法により作製してもよい。また、SPHK2のNLS配列とSPHK1タンパク質とを融合させた融合タンパク質は、SPHK2タンパク質と同様にDNA合成抑制作用を示したことから、その融合タンパク質またはその融合タンパク質をコードする遺伝子は、前記(1)の細胞増殖抑制剤と同様に、細胞増殖抑制剤としての利用が可能である。
(3)薬剤候補物質のスクリーニング方法
上記のようにSPHK2タンパク質はDNA合成抑制作用(換言すれば、細胞増殖抑制作用)を示すことから、SPHK2タンパク質、及びその遺伝子は、薬剤の候補分子(創薬ターゲット)のスクリーニングに有用であり、例えば、SPHK2タンパク質の細胞増殖抑制作用を調節する物質のスクリーニング方法に利用可能である。SPHK2タンパク質の細胞増殖抑制作用を調節する物質とは、例えば、SPHK2タンパク質と基質のスフィンゴシンとの結合を阻害し、SPHK2タンパク質の細胞増殖抑制作用を阻害する物質や、あるいは反対に、SPHK2タンパク質の細胞増殖抑制作用を高める物質等が挙げられる。このような物質は、細胞増殖が必要な疾患、例えば皮膚や角膜の再生等の再生医療に利用可能であり、そのスクリーニング方法も本発明に含まれる。
本発明のスクリーニング方法としては、物質間の結合の有無や解離の有無を調べる従来公知の種々の方法を適用することができ、特に限定されるものではない。例えば、SPHK2タンパク質の基質スフィンゴシンとの結合領域を発現させ、試験管内反応系(cell−free system)において、同結合領域と基質スフィンゴシンとの結合を阻害する分子等を候補分子の中からELISA法等によって検出するスクリーニング方法が挙げられる。
このように、本発明のスクリーニング方法においては、SPHK2の全長タンパク質以外に、その部分タンパク質を使用するものであってもよい。また、上記全長タンパク質や部分タンパク質の改変体を使用してもよい。上記部分タンパク質としては、▲1▼基質スフィンゴシンとの結合領域、▲2▼触媒領域(キナーゼ活性領域)、または▲3▼NLS配列を含む領域、などを使用することが考えられる。また、上記「(タンパク質の)改変体」とは、当該タンパク質の1個または数個(好ましくは7個以下、より好ましくは5個以下、さらに好ましくは3個以下)のアミノ酸が置換、欠失、挿入、及び/又は付加された改変体をいい、当該タンパク質がHisやMyc等のタグによって標識される場合や、当該タンパク質を蛍光タンパク質(GFP・ルシフェラーゼ等)または他のタンパク質と融合させる場合、当該タンパク質にリン酸化や糖鎖結合等により修飾を施す場合などをも含む意味で用いている。
勿論、本発明のスクリーニング方法は、上記の方法に限定されるものではなく、cell−free systemでのスクリーニングではなく、培養細胞等を用いて細胞系でスクリーニングを行ってもよい。
そのほか、(1)SPHK2の部分タンパク質(例えば、上記▲1▼〜▲3▼の領域)をカラムに固定してこれと結合する物質を検索する方法や、(2)免疫沈降−免疫ブロット法を用いてSPHK2タンパク質と基質スフィンゴシンとの結合を阻害する物質を検索する方法など、物質間の結合の有無や解離の有無を調べる従来公知の種々の方法を本発明のスクリーニング方法に適用可能である。また、本発明のスクリーニング方法には、例えば、上記タンパク質をコードする遺伝子を用いてもよい。
また、本発明のスクリーニング方法は、▲1▼SPHK2タンパク質の核内移行を阻害する物質を検索する方法、あるいは、▲2▼SPHK2タンパク質の細胞質と核内との間の行き来を制御する物質を検索する方法、などであってもよい。SPHK2タンパク質は、主として核内に存在するが、細胞質にもわずかながら存在が観察されたことから、細胞質と核内との間を行き来している可能性がある。そうであれば、細胞質と核内との間のSPHK2の行き来を制御する物質は、薬剤の候補分子(創薬ターゲット)として有用である。
さらに、本発明のスクリーニング方法においては、ヒト以外のタンパク質、例えば、マウスホモログやラットホモログ、その他の生物の各ホモログを用いてスクリーニングを行ってもよい。
(4)スクリーニングキット
また、本発明には、上記(3)欄で説明したスクリーニング方法を実施するためのスクリーニングキットも含まれる。本キットは、上記のスクリーニング方法を実施することができるキットであればよく、その具体的な構成は特に限定されるものではない。例えば、上記スクリーニングキットには、スフィンゴシンキナーゼ2の全長または部分タンパク質、あるいは当該タンパク質の改変体、もしくはこれらのタンパク質をコードする遺伝子が含まれていればよい。
本キットによれば、簡便且つ確実に上記(3)欄のスクリーニング方法を実施することができ、スフィンゴシンキナーゼ2の細胞増殖抑制作用を調節する物質を探索することができる。
以下、添付した図面に沿って実施例を示し、この発明の実施の形態についてさらに詳しく説明する。もちろん、この発明は以下の例に限定されるものではなく、細部については様々な態様が可能であることは言うまでもない。
尚、発明を実施するための最良の形態の項においてなした具体的な実施態様または実施例は、あくまでも、本発明の技術内容を明らかにするものであって、そのような具体例にのみ限定して狭義に解釈されるべきものではなく、本発明の精神と次に記載する特許請求の範囲内で、いろいろと変更して実施することができるものである。
【実施例】
以下、本発明の基礎をなす、SPHK2について行った機能解析の結果について図面を参照しながら説明する。
〔実施例1:SPHK2は、主として核内に局在する〕
SPHK2の細胞内局在を検討するため、マウス由来のSPHK2を緑色蛍光タンパク質GFP(Green Fluorescent Protein)と融合させた融合タンパク質(SPHK2−GFP)を、発現ベクターを用いてCOS7細胞に一過性に発現させ、2日後に共焦点顕微鏡にて観察した。その結果を図1のパネルAに示す。図中のバーは、10μmの長さを示す(以下同様)。同図に示すように、SPHK2−GFP融合タンパク質は、主として核内に存在し、細胞質には殆ど存在しなかった。
SPHK2の核内局在は、HeLa細胞に一過性に発現させた場合にも同様に観察された(図1のパネルB参照)。NIH 3T3細胞に発現させた場合も同様にSPHK2の核内局在が観察された(データ示さず)。
GFPとの融合によりSPHK2が核内に局在した可能性も考えられたため、次に、SPHK2のアイソザイムであるSPHK1とGFPとの融合タンパク質を発現させ、その細胞内分布をSPHK2と比較した。その結果を図1のパネルCに示す。同図に示すように、SPHK1−GFP融合タンパク質は、主として細胞質に存在し、核内には存在しなかった。
さらに、GFPの代わりにHAタグを付加したSPHK2タンパク質(HA−SPHK2)を発現させ、抗HA抗体によりその局在を検討した。その結果を図1のパネルDに示す。HA−SPHK2タンパク質は、図中「S」に示されるように主として核内に分布し、細胞質における発現はわずかであった。あわせて、ヌクレオポリン(nucleoporin)の染色も行ったが、図中「N」に示されるようにその染色パターンは、核の外縁を明確に示すものであった。以上の結果から、SPHK2が主として核内に存在することが示された。
〔実施例2:SPHK2の核移行シグナルは、アミノ末端側の領域に存在する〕
マウス由来のSPHK2(mSPHK2)は、マウス由来のSPHK1(mSPHK1)よりもアミノ酸残基の数が236個多い(図2(a)の模式図参照)。同図に示すように、SPHK2は、SPHK1にはない2つの長い配列領域(1つはアミノ末端側、他は中央付近)を含んでいる。
SPHK2とSPHK1とで細胞内局在が異なるのは、SPHK2のみに存在するこれら2つの長い配列領域のいずれかによるものと考えられた。そこで、2つの欠失変異体を作製した。1つはmSPHK2ΔMであり、中央付近を欠失させたもの、他はmSPHK2ΔNであり、アミノ末端側を欠失させたものである。
mSPHK2ΔM−GFP融合タンパク質をCOS7細胞に一過性に発現させると、この融合タンパク質は主に核内に局在した(図2(b)参照)。この結果は、SPHK2の中央付近は同タンパクの核内局在に影響を与えないことを示している。一方、mSPHK2ΔN−GFP融合タンパク質をCOS7細胞に一過性に発現させると、同図に示すようにこの融合タンパク質は核に移行できなかった。以上の結果は、核移行シグナル(NLS:nuclear localization signal)が、SPHK2のアミノ末端側の領域に存在することを示すものである。
〔実施例3:SPHK2における核移行シグナル(NLS)配列の同定〕
SPHK2のアミノ酸配列におけるNLS配列の存在は以前報告がなかったが、今回の解析により、マウス由来のSPHK2のNLS配列を同定した。同NLS配列は、アルギニン(R)の豊富な「RGRRGGRRR」という配列であり、図3(a)に示されるように、▲1▼ヒト免疫不全ウイルス−1(human immunodeficiency virus−1)のTatタンパクおよびRevタンパク、▲2▼ヒトT細胞白血病ウイルスタイプ1のRexタンパク、▲3▼非典型のプロテインキナーゼCλ(PKCλ)、に存在する各NLS配列に類似する。同図には、これらNLS配列の共通配列(Consensus NLS)もあわせて示される。図中、各数字はアミノ酸残基の位置を示している。SPHK2の場合、最初と最後のアルギニンがそれぞれ、全長アミノ酸配列中の87番目と95番目に位置することを示す。また、太字はNLSの機能上重要なアルギニンとリジンを示し、各配列はこれらアミノ酸残基に基づいて整列されている。
SPHK2の持つ上記NLS配列が本当にNLSとしての機能を有するかどうか調べるため、変異体SPHK2R93E/R94E−GFPを作製した。この変異体は、SPHK2−GFP融合タンパク質の93番目と94番目のアルギニン(図3(a)においてアステリスクが付されたアルギニン)をいずれもグルタミン酸(E)に改変したものである。この変異体SPHK2R93E/R94E−GFPをCOS7細胞に一過性に発現させ、発現ベクターを導入して2日後、細胞を固定し共焦点顕微鏡にて観察すると、図3(b)に示すように、この変異タンパク質は核に移行できなかった。
さらに、SPHK2の上記NLS配列を本来細胞質に存在するSPHK1と融合させた融合タンパク質を発現させ、その核内移行の有無を検討した。即ち、融合タンパク質NLS−SPHK1−GFPをCOS7細胞に一過性に発現させ、発現ベクターを導入して2日後、細胞を固定し共焦点顕微鏡にて観察すると、図3(b)に示すようにこの融合タンパク質は主に核内に集積した。以上の結果は、上記NLS配列がSPHK2の核内移行に必要かつ十分であることを示すものである。
〔実施例4:SPHK2は、細胞内のDNA合成を抑制する〕
上記のようにSPHK2は核内に局在することから、SPHK2は核内での作用に関与している可能性が考えられた。そこで、SPHK2を安定発現するHeLa細胞への〔H〕チミジンの取り込みを測定することによって細胞内でのDNA合成の変化を調べた。
実験では、ドキシサイクリン(doxycycline:Dox)が、SPHK2を導入したHeLa Tet−On細胞に対してSPHK2の発現を誘導することを利用し、同細胞を様々なDox濃度(0〜1μg/ml)で処理した後、〔H〕チミジンの取り込みを指標にして各濃度条件下における細胞内のDNA合成の変化を調べた。その結果を図4(a)のグラフに示す。各値は、3つの独立した実験の平均値±標準偏差である。
同図に示すように、0.1μg/mlのDox濃度でSPHK2の発現が誘導された細胞では、Dox非含有(0μg/ml)条件下で外因性のSPHK2を発現しない細胞と比較して、〔H〕チミジンの取り込みが約50%抑制された。DoxによりSPHK2の発現が誘導されることは、イムノブロット解析によって確認された。即ち、HA−SPHK2を導入したHeLa Tet−On細胞を様々なDox濃度条件下におき、その後、SDS−PAGEに続いて抗HA抗体を用いたイムノブロット解析に供した。その結果を図4(b)に示す。また、SPHK2遺伝子を持たない発現ベクターを導入した細胞では、Dox濃度がいずれの場合も、〔H〕チミジンの取り込みに殆ど影響を与えなかった(データ示さず)。以上の結果は、SPHK2が細胞内のDNA合成を抑制したことを示すものである。
〔実施例5:SPHK2の核内局在は、そのDNA合成抑制活性に不可欠である〕
SPHK2によるDNA合成抑制の仕組みは、BrdU(bromodeoxyuridine)の取り込みを測定することによっても検討された。
実験では、NIH 3T3細胞に、▲1▼コントロール(Control)であるHA−GFP,▲2▼HA−SPHK2−GFP,▲3▼HA−SPHK2R93E/R94E−GFP,▲4▼HA−SPHK1−GFP,▲5▼NLS−HA−SPHK1−GFPの何れかをコードする発現ベクターを導入し、導入してから2日後、各ベクターを導入した培養細胞に対してBrdUを3時間添加した。その後、各細胞について、二重免疫蛍光により、全細胞とBrdUの取り込みを視覚化し、全細胞のうちBrdUを取り込んだ細胞の割合を決定した。その結果を図5のグラフに示す。各値は、3つの独立した実験の平均値±標準偏差である。
同図に示すように、SPHK2をNIH 3T3細胞に発現させると、BrdUの取り込みは、コントロールベクターを導入した細胞に比べて著しく抑制された。この結果は、SPHK2が細胞内のDNA合成を抑制したことを示すものである。対照的に、SPHK1を発現する細胞では、BrdUの取り込みが約40%増加した。
また、前述のNLS配列を改変し、核内移行できなかった変異体SPHK2R93E/R94Eを細胞に発現させた場合は、同図に示すように、SPHK2のDNA合成抑制活性が失われた。さらに、SPHK2由来のNLS配列と融合させ、SPHK1に核移行能を持たせた変異体NLS−SPHK1を発現させると、同図に示すように、DNA合成が抑制された。
以上の結果は、SPHK2の核内局在が、そのDNA合成抑制作用に不可欠であることを示すものである。
〔実施例6:SPHK2の発現は、アポトーシスを誘導しない〕
SPHK2を導入したHeLa Tet−On細胞をDoxにより誘導すると、図6(a)に示すように、SPHK2は主に細胞核内に発現した(Dox(−)とDox(+)との比較。Dox(+)は細胞を3日間0.1μg/mlのDox条件下で処理したものであり、Dox(−)は細胞を3日間Dox非含有条件下で処理したもの)。
次に、SPHK2の発現によって細胞にアポトーシスが誘導されるかどうかを調べるため、上記0.1μg/mlのDox条件下で処理したHeLa Tet−On細胞、および上記Dox非含有条件下で処理したHeLa Tet−On細胞から抽出したDNAをアガロースゲル電気泳動し、そのDNAパターンを調べた。その結果、図6(b)に示すように、上記Dox条件下でSPHK2を発現誘導した細胞(図中レーン1)と、上記Dox非含有条件下で発現誘導しなかった細胞(図中レーン2)とでは、ほぼ同じDNAパターンが得られた。
一方、アポトーシスを誘導することが知られているTNF−α(tumor necrosis factor−α)およびcycloheximideで処理したHeLa細胞(図中レーン3)では、同図に示すように、典型的なアポトーシスのラダ−パターンを示した。以上の結果は、SPHK2は、細胞内のDNA合成を抑制するが、アポトーシスは誘導しないことを示すものである。
〔実施例7:SPHK2の発現は、細胞周期をG1/S期にとどまらせる〕
次に、SPHK2の細胞周期に与える影響を調べた。実験では、NIH 3T3細胞に、SPHK2−GFP発現ベクター(SPHK2−GFP expressed)、またはSPHK2を有さないベクター(Mock treated)を発現させ、フローサイトメトリー法による解析を行った。図7(a)は、フローサイトメトリーの結果を示しており、縦軸は前方散乱光(Forward scatter)であり、細胞の大きさを示す。横軸はGFP蛍光強度である。GFP蛍光強度が強い細胞(R2:即ち、SPHK2−GFPを発現)、およびGFP蛍光強度が弱い細胞(R1:即ち、SPHK2を発現せず)の双方について、二重チミジンブロックによってS期の始まりに同調させた。その後、チミジンブロックを取り除き、所定時間(0h,3h,9h)経過ごとにR1およびR2両細胞のDNA量(DNA content)を、PI(propidium iodide)を用いたフローサイトメトリー法によって解析した。その結果を図7(b)に示す。
同図の各ヒストグラムには、測定結果であるG1期,S期,G2/M期のそれぞれの割合(%)が合わせて示される。同図に示すように、二重チミジンブロックによってR1およびR2両細胞をS期の始まりに同調させた結果として、ブロック除去後0時間(0h)では、SPHK2発現細胞(R2)および非発現細胞(R1)のほぼ100%がG2/M期に移行しなかった。
ブロック除去後3時間(3h)では、SPHK2発現細胞(R2)と非発現細胞(R1)との間に違いがみられた。非発現細胞(R1)では3時間後、大多数の細胞はS期に移行した。また、ブロック除去後9時間(9h)経過すると、非発現細胞(R1)では、S期のままのものとG2/M期に移行するものとに分かれた。
対照的に、SPHK2発現細胞(R2)では3時間後、各時期の割合にあまり変化がみられず、その多くはG1期にとどまり、典型的なG1/S期での停止を示した。また、ブロック除去後9時間(9h)経過すると、非発現細胞(R1)では、約40%がG2/M期に移行したのに対して、SPHK2発現細胞(R2)では、G2/M期のものはわずか7%であった。
以上の結果は、SPHK2を発現させると、細胞周期をG1期またはS期に長くとどまらせ、DNA合成を抑制することを示すものである。
【実施例8】
続いて、SPHK2の細胞内局在をより詳細に解析すべく、実施例1で示した結果に加えて、さらにSPHK2およびその変異体の局在化を調べた。具体的には、SPHK2、SPHK1、およびこれらの変異体をCOS7細胞、HeLa細胞、またはNIH 3T3細胞にて一過性に発現させ、その細胞内局在を調べた。なお、図8のパネルA、Bはそれぞれ図1のパネルA、Bと一致し、図8のパネルJ、Kはそれぞれ図2(b)の図と一致し、図8のパネルL、Mはそれぞれ図3(b)の図と一致するため、ここではその説明を省略する。
マウス由来のSPHK2を緑色蛍光タンパク質GFP(Green Fluorescent Protein)と融合させた融合タンパク質(mSPHK2−GFP)を、発現ベクターを用いてNIH 3T3細胞に一過性に発現させ、2日後に共焦点顕微鏡にて観察した。その結果を図8のパネルCに示す。図中のバーは、10μmの長さを示す(以下同様)。同図に示すように、mSPHK2−GFP融合タンパク質は、主として核内に存在し、細胞質には殆ど存在しなかった。
また、GFPとの融合の有無、或いは種の違いにより細胞内局在に相違があるか否かを調べた。具体的には、まず、ヒト由来のSPHK2(hSPHK2)をHeLa細胞にて一過性に発現させ、hSPHK2およびmSPHK2の共通ペプチド配列に対する特異的抗体を用い、共焦点顕微鏡にて細胞内局在を観察した。その結果をパネルDに示す。
同図に示すように、mSPHK2と同様に、hSPHK2も、主として核に局在化することがわかった。また、HeLa細胞を核特異的染色剤4,6−diamidino−2−phenylindole(DAPI)にて染色したところ(図8のパネルE)、DAPIとhSPHK2とは共に核局在化することが確認された(図8のパネルF)。
次に、SPHKのアイソザイムであるSPHK1(マウス由来)をGFPと融合させた融合タンパク質mSPHK1−GFPを作製し、このmSPHK1−GFPの細胞内局在を調べ、SPHK2のそれと比較した。図8のパネルHに示すように、COS7細胞では、mSPHK1−GFPは主に細胞質に局在化し、核にはほとんど局在化しなかった。これは従前の報告と同様の結果である(Olivera,A.,Kohama,T.,Edsall,L.,Nava,V.,Cuvillier,O.,Poulton,S.,and Spiegel,S.(1999)J.Cell Biol.147,545−558)。
【実施例9】
次に、SPHK2の核または細胞質への分配に、細胞の種類や細胞の密集度(cell type and cell confluency)が影響するか否かを検討した。具体的には、hSPHK2を高密度(high:3×10/mm)または低密度(low:6×10/mm)状態の種々の細胞系(cell line)にて一過性に発現させた。2日後に形質転換細胞を固定化し、抗hSPHK2抗体を用いて免疫染色し、共焦点顕微鏡にて観察した。
hSPHK2の染色の結果に応じて、hSPHK2を発現した細胞を、hSPHK2が主に核に局在化したグループ(N>C)、hSPHK2が核と細胞質とにほぼ同等に局在化したグループ(N=C)、hSPHK2が主に細胞質に局在化したグループ(N<C)、の3つのグループに分けた。その結果を図9に示す。
図9の表に示すように、HeLa細胞にて一過性に発現させたhSPHK2は、全ての条件で主に核に局在化することがわかった。COS7細胞にて発現させたhSPHK2は、細胞密度に応じて、劇的に細胞内局在化が変化することがわかった。すなわち、高密度条件では主に核に局在化する一方(61.4%)、低密度条件ではわずか10.3%しか核に局在化しない。また対照的に、HEK293細胞で発現させたhSPHK2は、細胞密度にかかわらず主に細胞質に局在化することがわかった。
【実施例10】
続いて、外因的に発現させた組換えSPHK2と同様に、細胞内在性のSPHK2も核に局在化するか否か調べた。この問題に取り組むために、抗hSPHK2抗体を用いて、HeLa細胞の核抽出物から細胞内在性のSPHK2を免疫沈降し、その活性を解析した。具体的には以下のように行った。
まず、免疫源ペプチド15μg/mlの存在下/非存在下にて、抗hSPHK2抗体を用いて、精製した核抽出画分の細胞内在性のSPHK2を免疫沈降した。免沈した沈殿物を洗浄し、SPHK2活性を測定した。なお、細胞内在性のSPHK2は1.4pmol SPP/min/tubeであった。その結果を図10(a)に示す。
同図に示すように、免疫源ペプチド存在下で調製した免沈物にはSPPに相当するバンドは見出されない一方、免疫源ペプチド非存在下で調製した免沈物には明確なSPPに相当するバンドが検出された。これは、抗SPHK2抗体に特異的に結合した、精製核抽出画分はSPHK2活性を有することを示している。
次に、免疫源ペプチド非存在下で調製した免沈物の分取をさらに抗hSPHK2抗体を用いた免疫ブロットにより解析した。具体的には、免疫源ペプチドなしで免疫沈降した免沈物、アフィニティ精製したHA−SPHK1、およびHA−SPHK2を12.5%のSDS−PAGEにて電気泳動した後、抗hSPHK2抗体または抗SPHK1抗体(Abcam,Cambridge,UK)にて免疫ブロットした。その結果を図10(b)に示す。
同図に示すように、核画分の免沈物は約70kDaのあたりに明確なバンドが検出された。これは、アフィニティ精製された組換えHA−hSPHK2の位置に相当するものである。この約70kDaのバンドは、転写後修飾されたタンパク質の存在を表すものとしてしばしば二重バンドとして検出されるものである。また、抗hSPHK2抗体は、HA−SPHK1とはクロスリアクトしなかった。免沈物を抗SPHK1抗体で免疫ブロットしたところ、正式なHA−SPHK1またはHA−SPHK2のあたりには免疫反応性のバンドを生じなかった。
これらの結果から、抗hSPHK2抗体は、細胞内在性のSPHK2を特異的に認識するが、SPHK1は認識せず、また精製された核画分は細胞内在性のSPHK2を含むことが強く示唆された。この結果を免疫細胞化学的解析によりさらに確認した。
具体的には、抗hSPHK2抗体でHeLa細胞を固定化・染色した後、共焦点顕微鏡にて観察した。また、核は、2μg/mlのDAPIにて染色した。その結果を図10(c)に示す。なお、図中のbarは10μmを示す。その結果、同図に示すように、細胞内在性のSPHK2は、主に核に局在化し、細胞質には僅かに存在することがわかった。これらの結果は、図1、図8、図9に示す過剰発現させた組換えSPHK2の結果と同様であった。
【実施例11】
続いて、SPHKおよび種々の変異体のタンパク質発現および酵素活性について調べた。具体的には、COS7細胞に一過性にhSPHK2、HA−mSPHK1、NLS−HA−mSPHK1、またはプラスミドベクターpCMV5をトランスフェクトし、形質転換した。2日後に、形質転換細胞の破砕物をSDS−PAGE後、抗HA抗体または抗SPHK2抗体にてイムノブロットした。その結果を図11(a)のインセットに示す。また、細胞破砕物の分取を用いて酵素活性を測定した。その結果を図11(a)にグラフとして示す。
同図に示すように、ベクターのみを形質転換したCOS7細胞はSPHK活性が低かった。その一方、HA−mSPHK1、NLS−HA−mSPHK1、またはhSPHK2を形質転換した細胞では、ベクターのみ形質転換した場合に比べて、in vitroのSPHK活性がそれぞれ63倍、53倍、52倍上昇した。
さらに、精製した完全な核画分を用いて、in vitroにおける核へのSPPの蓄積を調べた。具体的には、HeLa細胞に一過性にhSPHK2、HA−mSPHK1、NLS−HA−mSPHK1、またはプラスミドベクターpCMV5を形質転換した。2日後に形質転換細胞を破砕し、分画した。細胞質画分(C)および核画分(N)について、SPPの蓄積またはLDH活性を測定した。その結果を図11(b)に示す。
同図に示すように、hSPHK2を発現させた細胞では、SPPは主に核画分に蓄積したが(75%)、この結果は図9の表に示す形態学的測定と同様の結果であった。一方、HA−mSPHK1を発現させた細胞では、以前の報告(Olivera,A.,Kohama,T.,Edsall,L.,Nava,V.,Cuvillier,O.,Poulton,S.,and Spiegel,S.(1999)J.Cell Biol.147,545−558)と同様に、SPPは主に細胞質画分に蓄積した。また、NLS−SPHK1を発現させた場合は、はっきりとSPPの蓄積が細胞質画分から核画分へと移っていることがわかる。なお、典型的な細胞質マーカータンパク質であるLDHは核画分ではほとんど検出されていない。また、典型的な核膜マーカーであるnucleoporinは核画分にて検出されている(データ不図示)。
【実施例12】
次に、異なるエピトープ特異的抗体を用いて、HA−SPHK2タンパク質の細胞内分布を調べた。具体的には、N末にHAタグを付けたSPHK2遺伝子(HA−SPHK2)をCOS7細胞に導入し、1日後に抗HA抗体あるいは抗SPHK2抗体を用いて免疫染色し、共焦点レーザー顕微鏡を用いて観察した。その結果を図12に示す。
同図のパネルA〜Cに示すように、抗HA抗体で染色すると、HA−SPHK2タンパク質は主に細胞質に顆粒状に或いは細胞膜直下に分布し、核はほとんど染色されないが、抗SPHK2抗体で染色すると、核に最も高密度に分布し、細胞質にも抗HA抗体で染色したときと同じような分布像が認められた。
このことから核に移行したHA−SPHK2はN末のHAタグを含む部分が切断され、抗HA抗体に対する抗原性が消失したことが強く示唆された。因みに、抗SPHK2抗体の認識部位はSPHK2の中央部に存在するため、抗原性が保たれていると推測される。
【産業上の利用の可能性】
以上のように、本発明は、スフィンゴシンキナーゼ2を利用した細胞増殖抑制剤、及びその核移行シグナルを持つ融合タンパク質の作製方法、並びに薬剤候補物質のスクリーニング方法等に関するものであり、前述したとおり、各種の細胞培養技術、皮膚組織等の組織作製や器官・臓器の作製に代表される再生医療、モデル動物を用いた実験系などへの利用、さらに、細胞増殖性疾患等の疾患の診断薬や治療薬などに利用できるほか種々の有用性を有するものである。
【配列表】


【図1】




【図5】



【図8】

【図9】



【図12】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
哺乳類由来のスフィンゴシンキナーゼ2タンパク質、またはそのタンパク質をコードする遺伝子を含む細胞増殖抑制剤。
【請求項2】
ヒト又はマウス由来のスフィンゴシンキナーゼ2を用いることを特徴とする請求の範囲1記載の細胞増殖抑制剤。
【請求項3】
哺乳類由来のスフィンゴシンキナーゼ2のアミノ末端側に存在する核移行シグナルをコードするオリゴヌクレオチド。
【請求項4】
請求の範囲3記載のオリゴヌクレオチドを用いて、スフィンゴシンキナーゼ2の核移行シグナルと他のタンパク質とを融合させた融合タンパク質を作製する方法。
【請求項5】
請求の範囲4記載の方法によって作製された融合タンパク質。
【請求項6】
請求の範囲5記載の融合タンパク質であって、スフィンゴシンキナーゼ2の核移行シグナルとスフィンゴシンキナーゼ1とを融合させた融合タンパク質。
【請求項7】
請求の範囲6記載の融合タンパク質、またはその融合タンパク質をコードする遺伝子を含む細胞増殖抑制剤。
【請求項8】
スフィンゴシンキナーゼ2の細胞増殖抑制作用を調節する物質のスクリーニング方法。
【請求項9】
請求の範囲8記載のスクリーニング方法であって、スフィンゴシンキナーゼ2の全長または部分タンパク質、あるいは当該タンパク質の改変体、もしくはこれらのタンパク質をコードする遺伝子を使用することを特徴とするスクリーニング方法。
【請求項10】
請求の範囲8または9記載のスクリーニング方法により得られた物質を含む薬剤。
【請求項11】
請求の範囲8記載のスクリーニング方法を実施するためのスクリーニングキット。
【請求項12】
上記スクリーニングキットには、スフィンゴシンキナーゼ2の全長または部分タンパク質、あるいは当該タンパク質の改変体、もしくはこれらのタンパク質をコードする遺伝子が含まれることを特徴とする請求の範囲11記載のスクリーニングキット。

【国際公開番号】WO2004/061107
【国際公開日】平成16年7月22日(2004.7.22)
【発行日】平成18年5月11日(2006.5.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−506716(P2005−506716)
【国際出願番号】PCT/JP2003/016848
【国際出願日】平成15年12月25日(2003.12.25)
【出願人】(800000057)財団法人新産業創造研究機構 (99)
【Fターム(参考)】