説明

スプリングリターン機構付きボイスコイルモータの駆動回路および駆動方法ならびにそれらを用いたレンズモジュールおよび電子機器

【課題】スプリングリターン機構付きVCMの振動を抑制可能な制御技術を提供する。
【解決手段】駆動回路100は、スプリングリターン機構付きボイスコイルモータ110を駆動する。駆動電流生成部10は、ボイスコイルモータ110のコイルL1に、アナログ制御信号V2に応じた駆動電流Idrvを供給する。波形メモリ40は、ボイスコイルモータ110の駆動電流Idrvの時間波形を記述するデジタルの波形データWDを格納する。波形データWDは、その周波数成分から所定の周波数成分が取り除かれている。制御部30は、ボイスコイルモータ110の共振周波数fに応じたレートで、波形メモリ40から波形データWDを読み出し、デジタルコードS2として出力する。D/Aコンバータ16は、デジタルコードS2をアナログ制御信号V2に変換し、駆動電流生成部10へと出力する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スプリングリターン機構付きボイスコイルモータの制御技術に関する。
【背景技術】
【0002】
デジタルスチルカメラ、デジタルビデオカメラあるいは撮像機能付きの電子機器(たとえば携帯電話)には、フォーカシングレンズを位置決めするためのアクチュエータが設けられ、アクチュエータとしてはステッピングモータ方式、ピエゾ方式、ボイスコイルモータ(VCM)方式が知られている。
【0003】
VCMは、そのコイルに流れる電流の向きに応じた直線方向に推進力を発生させることができる。たとえばVCMにHブリッジ回路を接続した場合、コイル電流の向きを切りかえることができ、正方向と負方向に推進力を得ることができる。
【0004】
小型化が要求される用途では、スプリングリターン機構付きのVCMが利用される場合がある。スプリングリターン機構付きVCMは、第1の方向への推進力をコイルに駆動電流を供給することで発生し、それと反対の第2の方向への推進力を可動子に取り付けられたばね(スプリング)の力を利用して発生させる構造となっている。つまり電気的な駆動と力学的な駆動が併用されている。スプリングリターン機構付きVCMを駆動する場合、そのコイルの一方向にのみ駆動電流を供給すればよく、駆動回路が簡素化できる。
【0005】
電子機器の小型化にともない、スプリングリターン機構付きVCMの小型化が要求されている。VCMが小型化すると、コイルのインダクタンスが小さくなり、また可動子の重量も小さくなることから、スプリングの力によって可動子、つまりレンズが振動(リンギング)するという問題が発生する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平9−298430号公報
【特許文献2】特開2008−113506号公報
【特許文献3】特開2008−043171号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
スプリングは、それに固有の共振周波数を有する。リンギングを抑制するためには、VCMに対する駆動信号から、その共振周波数に対応する信号成分を除去すれば良いことが知られている。このために従来では、駆動信号の経路上に、その遮断周波数が共振周波数にチューニングされたツイン−T型のアナログRCフィルタ(バンド除去フィルタ)を設けられていた。この場合、一旦RCフィルタを構成すると、フィルタの遮断周波数を変更することが困難であるため、駆動対象のスプリングリターン機構付きVCMを変更することが難しかった。
【0008】
アナログフィルタに代えて、デジタルフィルタを用いれば、遮断周波数を変更することが可能となるが、デジタルフィルタは回路規模が大きいというデメリットがある。
【0009】
本発明は係る課題に鑑みてなされたものであり、そのある態様の例示的な目的のひとつは、スプリングリターン機構付きVCMの振動を抑制可能な制御技術の提供にある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明のある態様は、スプリングリターン機構付きボイスコイルモータの駆動回路に関する。この駆動回路は、ボイスコイルモータのコイルに、アナログ制御信号に応じた駆動電流を供給する駆動電流生成部と、駆動電流の時間波形を記述するデジタルの波形データであって、その周波数成分から所定の周波数成分が取り除かれている波形データを格納するメモリと、ボイスコイルモータの共振周波数に応じたレートで、メモリから波形データを読み出し、デジタルコードとして出力する制御部と、制御部から出力されるデジタルコードをアナログ制御信号に変換し、駆動電流生成部へと出力するD/Aコンバータと、を備える。
【0011】
この態様によると、所定の周波数成分が取り除かれた波形データを、その所定の周波数がボイスコイルモータの共振周波数と一致するようなレートで読み出すことにより、ボイスコイルモータのリンギングを抑制することができる。この態様では、ボイスコイルモータの共振周波数が変わっても、読み出しレートを変更すればよいため、駆動回路の汎用性を高めることができる。またデジタルフィルタを用いる構成と比べて、回路規模を削減できる。
【0012】
波形データは、D/Aコンバータのフルスケールに対して正規化して規定されてもよい。制御部は、波形データに、可動子の目標移動量に応じた係数を乗ずることによりデジタルコードを生成してもよい。この場合、移動量ごとに波形データを用意する必要がないため、メモリの容量を削減もしくは節約できる。
【0013】
メモリには、ゼロから目標移動量へと変化するステップ波形から所定の周波数成分を取り除いて得られる第1の波形データが格納されてもよい。
【0014】
メモリには、ゼロから目標移動量より大きな第1移動量へとステップ状に変化し、一定時間、第1移動量を維持した後、目標移動量へとステップ状に変化する波形から、所定の周波数成分を取り除いて得られる第2の波形データが格納されてもよい。
第2の波形データを用いれば、可動子を短時間で目標座標へ移動させることができる。
【0015】
メモリには、ゼロから目標移動量へと変化するステップ波形から所定の周波数成分を取り除いて得られる第1の波形データと、ゼロから目標移動量より大きな第1移動量へとステップ状に変化し、一定時間、第1移動量を維持した後、目標移動量へとステップ状に変化する波形から、所定の周波数成分を取り除いて得られる第2の波形データと、が格納されてもよい。制御部は、第1、第2の波形データを選択的に読み出し可能に構成されてもよい。
【0016】
制御部は、デジタルコードの既存値、つまり直前の最終の値が所定の第1しきい値より小さいとき、第1しきい値に相当するデジタルコードを出力し、続いて第1しきい値から、第1しきい値より大きな第2しきい値まで、一定の傾きでデジタルコードの値を増加させ、第2しきい値から目標移動量までのデジタルコードを、波形データに応じて生成してもよい。
この場合、第1、第2しきい値を適切に設定することにより、リンギングを抑制することができる。
【0017】
本発明の別の態様は、レンズモジュールである。このレンズモジュールは、フォーカシングレンズと、その可動子がフォーカシングレンズに連結されたリターン機構付きボイスコイルモータと、ボイスコイルモータを駆動する上述のいずれかの態様の駆動回路と、を備える。
この態様によれば、フォーカシングレンズの振動を抑制できるため、安定した画像を得ることができる。
【0018】
本発明のさらに別の態様は、電子機器である。この電子機器は、上述のレンズモジュールと、レンズモジュールを通った光を撮像する撮像デバイスと、を備える。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、可動子の振動を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】実施の形態に係る駆動回路の構成を示す回路図である。
【図2】図2(a)〜(f)は、波形データWDの生成方法を示す図である。
【図3】図1のレンズモジュールの動作を示す波形図である。
【図4】図4(a)は、デジタルコードと可動子の座標の関係を示す図であり、図4(b)は、フォーカシングレンズがメカ端と接した状態から、可動子を変位させる際のデジタルコードの波形を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明を好適な実施の形態をもとに図面を参照しながら説明する。各図面に示される同一または同等の構成要素、部材、処理には、同一の符号を付するものとし、適宜重複した説明は省略する。また、実施の形態は、発明を限定するものではなく例示であって、実施の形態に記述されるすべての特徴やその組み合わせは、必ずしも発明の本質的なものであるとは限らない。
【0022】
本明細書において、「部材Aが、部材Bと接続された状態」とは、部材Aと部材Bが物理的に直接的に接続される場合のほか、部材Aと部材Bが、電気的な接続状態に影響を及ぼさない他の部材を介して間接的に接続される場合も含む。
同様に、「部材Cが、部材Aと部材Bの間に設けられた状態」とは、部材Aと部材C、あるいは部材Bと部材Cが直接的に接続される場合のほか、電気的な接続状態に影響を及ぼさない他の部材を介して間接的に接続される場合も含む。
【0023】
図1は、実施の形態に係る駆動回路100の構成を示す回路図である。図1には、駆動回路100を備える電子機器2全体が示される。
【0024】
電子機器2は、撮像機能付きの携帯電話、あるいはデジタルカメラ、ビデオカメラなどであり、レンズモジュール116および撮像デバイス118を備える。レンズモジュール116は、フォーカシングレンズ114、ボイスコイルモータ110、駆動回路100を含む。
【0025】
ボイスコイルモータ110は、フォーカシングレンズ114を位置決めするアクチュエータであり、その可動子は、フォーカシングレンズ114と連結されている。ボイスコイルモータ110は、リターンスプリング機構を備え、その可動子はスプリング112と連接されている。撮像デバイス118は、CCDあるいはCMOSセンサであり、フォーカシングレンズ114を通った光を撮像する。
【0026】
駆動回路100は、ボイスコイルモータ110のコイルL1に駆動電流Idrvを供給し、レンズ114の位置を制御する。具体的には、駆動回路100は駆動電流Idrvを流すことにより、可動子を第1の方向に変位させる。スプリング112は、可動子を第1の方向と反対の第2の方向に引き戻すように作用する。
【0027】
以上が電子機器2全体の構成である。続いて駆動回路100の構成を説明する。
【0028】
駆動回路100は、駆動端子P1、駆動電流生成部10、D/Aコンバータ16、制御部30、波形メモリ40を備える。
【0029】
駆動端子P1は、コイルL1の一端と接続される。コイルL1の他端は、固定電圧端子(たとえば電源端子Vdd)と接続される。駆動回路100が負電源を受けて動作する場合、固定電圧端子は接地端子であってもよい。また図1の駆動回路100はコイルL1から駆動電流を吸い込むシンク型で構成されるが、当業者であれば、コイルL1に駆動電流Idrvを流し込むソース型としても構成できることが理解できよう。ソース型の場合、コイルL1の他端は接地端子と接続される。
【0030】
駆動電流生成部10は、ボイスコイルモータ110のコイルL1に、アナログ制御信号V2に応じた駆動電流Idrvを供給する。たとえば駆動電流生成部10は、演算増幅器12、トランジスタ14、抵抗R2を含む。
【0031】
トランジスタ14および抵抗R2は、駆動端子P1と固定電圧端子(接地端子)の間に、つまりコイルL1に流れる駆動電流Idrvの経路上に直列に設けられる。トランジスタ14と抵抗R2の接続点の電圧は、演算増幅器12の反転入力端子にフィードバックされる。演算増幅器12の非反転入力端子には、アナログ制御信号V2が入力される。駆動電流生成部10により生成される駆動電流Idrvは、以下で与えられる。
Idrv=V2/R2
【0032】
波形メモリ40は、ボイスコイルモータ110に流れる駆動電流Idrvの時間波形を記述するデジタルの波形データWDを格納する。波形データWDは、その周波数成分から所定の周波数成分が取り除かれている。波形データWDは、あらかじめ計算機を用いて生成しておく。図2(a)〜(f)は、波形データWDの生成方法を示す図である。図2(a)は、所定の周波数成分を含む駆動電流Idrvの時間波形を示す。図2(a)には、もととなる時間波形の一例としてステップ波形が示される。
【0033】
図2(b)は、図2(a)の時間波形をフーリエ変換したスペクトルである。図2(c)は、所定の周波数fcを除去するフィルタの周波数特性を示す図である。所定の周波数fcは、ボイスコイルモータ110に想定される仮想的共振周波数に応じて設定され、たとえばその値は100Hzである。図2(c)には矩形型の周波数特性を有するフィルタが実線で示され、所定の周波数fcを中心として、あるバンド幅BWにわたり通過特性がゼロ(−∞dB)となっている。バンド幅BWは、たとえば周波数fcを中心とする±20Hzの範囲である。
【0034】
矩形型のフィルタに代えて、破線で示すようなQ値を有するフィルタを用いてもよいし、別の周波数特性を有するフィルタを用いてもよい。また、周波数応答特性の異なる複数のフィルタを用いて、複数のスペクトルを生成し、それぞれに対して波形データWDを生成してもよい。
【0035】
図2(d)は、図2(b)のスペクトルから、図2(c)のフィルタ特性によって所定の周波数fcを除去したスペクトルである。
【0036】
図2(e)は、図2(d)のスペクトルを逆フーリエ変換した時間領域の波形である。波形メモリ40には、図2(e)の時間波形をサンプリングした波形データWDが格納される。サンプリング時間は、基準レート(TREF=2ms)で行われ、波形データWDは、D/Aコンバータ16のフルスケールに対して正規化して規定される。たとえばD/Aコンバータ16が10ビットの場合、第1の波形データWDは210=1024階調で表現される。
【0037】
当業者であれば、もととなる時間波形としてステップ関数以外の波形を利用しうることが理解される。たとえば図2(a)に示す波形に代えて、図2(f)に示すような時間波形を用いてもよい。図2(f)の波形は、図2(a)の波形に加えて、加速パルスが重畳されている。この時間波形は、ゼロから目標移動量βより大きな第1移動量αへとステップ状に変化し、一定時間τ、第1移動量αを維持した後、目標移動量βへとステップ状に変化する。図2(f)の波形から、所定の周波数成分fcを取り除くことにより、第2の波形データWDを生成してもよい。
【0038】
ボイスコイルモータ110の共振のQ値は大きい場合もあれば小さい場合もありえる。そこで図2(f)に示す波形のバリエーションを利用することにより、さまざまなQ値を有するボイスコイルモータ110を適切に駆動できる。具体的には、Q値が大きい場合、すなわち振動が収束しにくい場合には、図2(a)に示す波形を元に生成した波形データWDを利用し、Q値が小さい場合、すなわち振動が収束しやすい場合には、図2(f)に示す波形を元に生成した波形データWDを利用してもよい。
【0039】
波形メモリ40には、元となる時間波形が異なる複数の波形データWDが格納されてもよい。制御部30は、複数の波形データWDからひとつを選択的に読み出し可能に構成されてもよい。
【0040】
図1に戻る。制御部30には、ボイスコイルモータ110の共振周波数fを示すデータS4が入力される。共振周波数fはたとえば5Hz刻みで指定可能となっている。制御部30は、共振周波数fに応じたレートで、波形メモリ40から波形データWDを読み出し、デジタルコードS2として出力する。たとえば共振周波数fが仮想共振周波数(fc=100Hz)のとき、読み出しレートTREADは基準レートTREF=2msに設定される。
【0041】
任意の共振周波数fに対して、読み出しレートTREADは、
READ=TREF×fc/f
で与えられる。具体的にはf=50Hzのとき、読み出しレートTREADは4ms、f=150Hzのとき、読み出しレートTREADは4/3msとなる。制御部30のロジック部32は、データS4にもとづき、読み出しレートTREADを算出し、波形メモリ40へと出力する。
【0042】
制御部30は、ロジック部32、乗算器34、加算器36を備える。制御部30には、目標ストローク量つまりフォーカシングレンズ114の目標座標βを示す指令値S1が入力されている。制御部30は、波形メモリ40から読み出された波形データWDに、可動子の目標移動量ΔXに応じた係数Kを乗ずることにより波形データWDの振幅を調節する。可動子の現在の座標α(直前のデジタルコード)と指令値S1の値βの差分が移動量ΔXとなる。係数Kは、フルスケールFS(=1024)に対して、
K=ΔX/FS
で与えられる。ロジック部32は、指令値S1から移動量ΔXを算出し、係数Kを計算する。乗算器34は、係数Kと波形データWDを乗算し、振幅調節された波形データWD’を生成する。加算器36は、可動子の座標の初期値αと、波形データWD’を加算し、デジタルコードS2を出力する。
【0043】
D/Aコンバータ16は、制御部30から出力されるデジタルコードS2をアナログ制御信号V2に変換し、駆動電流生成部10へと出力する。
【0044】
以上が駆動回路100の構成である。続いてその動作を説明する。図3は、図1のレンズモジュール116の動作を示す波形図である。
初期状態(t<t0)において可動子が座標αで静止しているものとする。また制御部30には、あらかじめボイスコイルモータ110の共振周波数fを示すデータS4が入力されており、ロジック部32は、データS4に応じた読み出しレートTREADを設定する。
【0045】
時刻t0に、目標座標βを指示する指令値S1が入力される。ロジック部32は、移動量ΔX=β−αを算出し、移動量ΔXに応じた係数Kを求める。そして波形メモリ40から波形データWDを、共振周波数fに応じたレートTREADで読み出す。このとき読み出される波形データWDは、共振周波数fが取り除かれたデータとなる。乗算器34は、波形データWDに係数Kを乗算し、振幅調節された波形データWD’を生成する。加算器36によって波形データWD’が初期座標αと加算されて、デジタルコードS2が生成される。
【0046】
コイルL1には、デジタルコードS2に比例した駆動電流Idrvが供給される。可動子の座標Xは、駆動電流Idrvに応じて遷移する。以上がレンズモジュール116の動作である。比較のために、指令値S1をダイレクトにD/Aコンバータ16に入力したときの可動子の座標Xを破線で示す。
【0047】
実施の形態に係る駆動回路100によれば、波形データWDの読み出しレートTREADを、共振周波数fに応じて調節することにより、駆動電流Idrvの周波数成分から共振周波数fを除去することができる。その結果、可動子の座標Xを、振動を抑えつつ目標座標βへと遷移させることができる。
【0048】
駆動回路100は、リンギングの抑制に加えてさらに以下の利点を有する。
スプリングリターン機構付きボイスコイルモータの共振周波数は、スプリング112のバネ定数や、コイルL1のインダクタンス値に応じて定まる。したがって電子機器2の設計段階において、共振周波数fが変更されることはしばしば起こりうる。従来のように、ツイン−T型のアナログRCフィルタ(バンド除去フィルタ)を用いる場合、共振周波数に応じてフィルタの抵抗値、容量値を変更する必要があった。これに対して、図1の駆動回路100によれば、駆動回路100そのものに変更を加える必要はなく、共振周波数fを示すデータS4を変更すれば済むため、駆動回路100の汎用性が格段に高められている。
【0049】
また、デジタルフィルタを用いる場合に比べて駆動回路100は、回路面積が小さいことも利点である。さらに、駆動回路100では、フィルタの周波数特性に制限がないことも利点である。アナログフィルタあるいはデジタルフィルタを用いる場合、フィルタの応答特性、すなわちフィルタの次数、Q値、あるいは除去バンド幅に制限が生ずる。これに対して駆動回路100では、あらかじめ、コンピュータを用いた演算処理によって波形データWDを生成するため、フィルタの特性を自由に設定することができる。
【0050】
また、ボイスコイルモータ110の共振のQ値は大きい場合もあれば小さい場合もありえる。そこで、図2(c)に示すフィルタ特性とは異なるフィルタ特性(Q値)を用いて生成した波形データを複数パターン用意しておくことにより、駆動対象のボイスコイルモータ110を、それに適した波形データWDで駆動することができる。
【0051】
図4(a)は、デジタルコードと可動子の座標Xの関係を示す図である。デジタルコードS2があるしきい値STHより小さいとき、フォーカシングレンズ114はメカ端と接しており、変位量Xはゼロとなる。デジタルコードS2がしきい値STHより大きくなると、デジタルコードS2に応じて変位量Xが増加する。
【0052】
図3の動作波形図は、初期状態においてフォーカシングレンズ114が、メカ端から浮いていることが条件となる。つまり初期座標αが、しきい値STHよりも大きいことが必要である。逆を言えば、フォーカシングレンズ114がメカ端に接した状態から、波形データWDにもとづく駆動を開始すると、可動子を意図したように変位させることはできない。
【0053】
そこで制御部30は、動作開始前のデジタルコード(既存値)が、第1しきい値αより小さい状態、たとえばゼロから動作するとき、以下のフローにしたがって動作する。図4(b)は、フォーカシングレンズ114がメカ端と接した状態から、可動子を変位させる際のデジタルコードS2の波形を示す図である。
【0054】
1. 時刻t0に指令値S1が入力されると、制御部30は、しきい値STHより小さな第1しきい値αのデジタルコードS2を出力する(ダイレクトモード)。αは、フォーカシングレンズ114がメカ端に接していることが保証される範囲で決定される。
【0055】
2. 続いて、時刻t0〜t1の間、第1しきい値αから、第1しきい値αより大きな第2しきい値αまで、一定の傾きでデジタルコードS2の値を増加させる(ステップモード)。第2しきい値αは、フォーカシングレンズ114がフローティングであることが保証される範囲で決定される。
【0056】
3. そして時刻t1以降、第2しきい値αを初期値αとし、目標移動量βまでのデジタルコードを、波形データWDに応じて生成する。
【0057】
この駆動方法によれば、フォーカシングレンズ114がメカ端と接した状態からであっても、リンギングを抑制して可動子を変位させることができる。
【0058】
以上、本発明について、実施の形態をもとに説明した。この実施の形態は例示であり、それらの各構成要素や各処理プロセスの組み合わせにいろいろな変形例が可能なこと、またそうした変形例も本発明の範囲にあることは当業者に理解されるところである。以下、こうした変形例について説明する。
【0059】
実施の形態では、ボイスコイルモータのアプリケーションとしてフォーカシングレンズのアクチュエータについて説明したが、本発明はこれに限定されず、プリンタのヘッドのアクチュエータをはじめとするさまざまな用途に本発明は有効である。
【0060】
指令値S1は、可動子の現在の座標に対する相対的な移動量を示す値であってもよい。この場合には指令値S1は、移動量ΔXと一致する。
【0061】
実施の形態にもとづき、具体的な語句を用いて本発明を説明したが、実施の形態は、本発明の原理、応用を示しているにすぎず、実施の形態には、請求の範囲に規定された本発明の思想を逸脱しない範囲において、多くの変形例や配置の変更が認められる。
【符号の説明】
【0062】
L1…コイル、P1…駆動端子、2…電子機器、10…駆動電流生成部、12…演算増幅器、14…トランジスタ、16…D/Aコンバータ、30…制御部、32…ロジック部、34…乗算器、36…加算器、40…波形メモリ、100…駆動回路、110…ボイスコイルモータ、112…スプリング、114…フォーカシングレンズ、116…レンズモジュール、118…撮像デバイス、S1…指令値、S2…デジタルコード、V2…アナログ制御信号。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
スプリングリターン機構付きボイスコイルモータの駆動回路であって、
前記ボイスコイルモータのコイルに、アナログ制御信号に応じた駆動電流を供給する駆動電流生成部と、
前記駆動電流の時間波形を記述するデジタルの波形データであって、その周波数成分から所定の周波数成分が取り除かれている波形データを格納するメモリと、
前記ボイスコイルモータの共振周波数に応じたレートで、前記メモリから前記波形データを読み出し、デジタルコードとして出力する制御部と、
前記制御部から出力される前記デジタルコードを前記アナログ制御信号に変換し、前記駆動電流生成部へと出力するD/Aコンバータと、
を備えることを特徴とする駆動回路。
【請求項2】
前記波形データは、前記D/Aコンバータのフルスケールに対して正規化して規定されており、
前記制御部は、前記波形データに、可動子の目標移動量に応じた係数を乗ずることにより前記デジタルコードを生成することを特徴とする請求項1に記載の駆動回路。
【請求項3】
前記メモリには、ゼロから前記目標移動量へと変化するステップ波形から前記所定の周波数成分を取り除いて得られる第1の波形データが格納されることを特徴とする請求項1または2に記載の駆動回路。
【請求項4】
前記メモリには、ゼロから目標移動量より大きな第1移動量へとステップ状に変化し、一定時間、前記第1移動量を維持した後、前記目標移動量へとステップ状に変化する波形から、前記所定の周波数成分を取り除いて得られる第2の波形データが格納されることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の駆動回路。
【請求項5】
前記メモリには、
ゼロから前記目標移動量へと変化するステップ波形から前記所定の周波数成分を取り除いて得られる第1の波形データと、
ゼロから目標移動量より大きな第1移動量へとステップ状に変化し、一定時間、前記第1移動量を維持した後、前記目標移動量へとステップ状に変化する波形から、前記所定の周波数成分を取り除いて得られる第2の波形データと、が格納され、
前記制御部は、前記第1、第2の波形データを選択的に読み出し可能に構成されることを特徴とする請求項1または2に記載の駆動回路。
【請求項6】
前記制御部は、前記デジタルコードの既存値が所定の第1しきい値より小さいとき、
最初に前記第1しきい値に相当するデジタルコードを出力し、
続いて前記第1しきい値から、前記第1しきい値より大きな第2しきい値まで、一定の傾きで前記デジタルコードの値を増加させ、
続いて前記第2しきい値から目標移動量までのデジタルコードを、前記波形データに応じて生成することを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載の駆動回路。
【請求項7】
フォーカシングレンズと、
その可動子が前記フォーカシングレンズに連結されたリターン機構付きボイスコイルモータと、
前記ボイスコイルモータを駆動する請求項1から6のいずれかに記載の駆動回路と、
を備えることを特徴とするレンズモジュール。
【請求項8】
請求項7に記載のレンズモジュールと、
前記レンズモジュールを通った光を撮像する撮像デバイスと、
を備えることを特徴とする電子機器。
【請求項9】
スプリングリターン機構付きボイスコイルモータの駆動方法であって、
あらかじめメモリに、前記ボイスコイルモータの駆動電流の時間波形を記述するデジタルの波形データであって、その周波数成分から所定の周波数成分が取り除かれている波形パターンを格納しておくステップと、
前記ボイスコイルモータの共振周波数に応じたレートで、前記メモリから前記波形データを読み出すステップと、
D/Aコンバータにより前記波形データに応じたデジタルコードをアナログ制御信号に変換するステップと、
前記アナログ制御信号に応じた駆動電流を、前記ボイスコイルモータに供給するステップと、
を備えることを特徴とする方法。
【請求項10】
前記波形データは、前記D/Aコンバータのフルスケールに対して正規化して規定されており、
前記デジタルコードは、前記波形データに、可動子の目標移動量に応じた係数を乗ずることにより生成されることを特徴とする請求項9に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−44730(P2012−44730A)
【公開日】平成24年3月1日(2012.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−181063(P2010−181063)
【出願日】平成22年8月12日(2010.8.12)
【出願人】(000116024)ローム株式会社 (3,539)
【Fターム(参考)】