説明

スペクトル測定装置

【課題】測定対象からの光のスペクトルを測定するスペクトル測定装置であって、スペクトル測定の測定結果であるスペクトルデータのデータ量を縮小可能にするスペクトル測定装置を提供する。
【解決手段】測定対象20からの光を通過させるスリットが設けられる遮蔽板12と、スリットを通過した光を分光する分光器14と、分光された成分ごとの光の強度を測定する複数の受光素子から構成される測定器16とを備えるスペクトル測定装置10において、分光器14と測定器16との間の距離を変更可能にする距離変更部24を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、測定対象からの光のスペクトルを測定するスペクトル測定装置、例えば、車両等の移動体に搭載されるスペクトル測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車等の車両に適用される運転支援技術には、自車両の周辺状況を可視画像として撮像するCCDカメラ等の撮像装置が自車両に搭載される態様で用いられている。こうした運転支援技術ではまず、自車両周辺の歩行者や信号機等、運転支援に必要とされる対象物に関する情報が、この撮像装置が撮像した可視画像の画像処理を通して生成されて、自車両の周辺状況に応じた運転支援が、このようにして生成された情報に基づいて実行される。
【0003】
一方、自車両周辺を歩行する歩行者の状況、例えば、人数、体型、姿勢、所持品、移動する方向等とは、通常、自車両周辺の可視画像が撮像されるごとに変化するものである。さらに自車両の走行状況、例えば、自車両の旋回方向や自車両が走行する道路の属性が変わることとなれば、上記歩行者は当然のこと、道路に設置された信号機でさえ、自車両周辺の可視画像における形状やサイズが変化することとなる。それゆえに、運転支援に必要とされる対象物をこれが含まれる撮像対象の可視画像から識別する態様では、対象物の識別精度も自ずと低いものとなってしまい、運転支援の精度自体を欠く結果となってしまう。そこで、上述する運転支援技術では、運転支援の精度を向上するために、対象物の識別精度を向上させる技術が望まれている。
【0004】
ところで、対象物が有する光学的な特性から対象物を識別する技術の中には、特許文献1に示されるように、地球上の土壌調査等に使用される目的で人工衛星に搭載されるスペクトル測定装置として、ハイパースペクトルセンサを用いる技術が知られている。特許文献1に記載されるハイパースペクトルセンサでは、例えば、対象物からの光が波長ごとに分光されて、波長ごとの光の強度がその波長に対応付けられる態様でスペクトルが検出される。つまり、波長に対して連続的なスペクトルが対象物の光学的な特性として取り扱われる。図9は、こうしたスペクトル測定装置としてのハイパースペクトルセンサの光学的な構成の一例を示す構成図である。
【0005】
図9に示されるように、人工衛星に搭載されるハイパースペクトルセンサ100の内部には、入射口111、ミラー112、集光器113、遮蔽板114、視準器115、分光器116、結像器117、および測定器118が、光の進行方向に沿ってこの順に配置されている。ハイパースペクトルセンサ100を構成するこれら構成要素の各々は、それを通過する光束の代表となる仮想的な光線、すなわち光軸に対して交差する一つの方向において、光学的な特性が連続するように構成されている。このような構成からなるハイパースペクトルセンサ100では、測定対象としての地表面たる対象物120にて反射された太陽光の一部が、まず入射口111を通して装置内に入射して、ミラー112の反射作用によって集光器113へ導かれる。集光器113に入射した光は、集光器113の集光作用によって遮蔽板114に向けて集光されて、遮蔽板114の遮蔽作用によって、単スリット114aに向かう光のみが視準器115に導かれる。このようにして単スリット114aを通過した光は、視準器115の光学作用によって平行光として分光器116に導かれて、分光器116の分光作用によって各波長成分に分光される。分光器116により分光された各波長成分(波長成分λa〜波長成分λb)は、結像器117の結像作用によって、波長ごとに区分された測定器118の各領域、例えばCCDイメージセンサやCMOSイメージセンサ等が有する各受光素子118a,118bに結像される。
【0006】
つまり、このようなハイパースペクトルセンサ100では、集光器113が集めた光のうちで単スリット114aを通過した光についてのみ、そのスペクトルが測定されることになる。言い換えれば、単スリット114aにおいて光学的な特性が連続する方向、すなわち単スリット114aの長さ方向Dmに沿うライン状の測定部分120aからの光のみが、地表面たる対象物120からの光のうちから上記単スリット114aによって抽出されることになる。そしてライン状の測定部分120aに関する光学的な情報のみが、その都度、ハイパースペクトルセンサ100に入力されることになる。そして一次元的な測定部分120aについてのスペクトル測定が人工衛星の飛行方向に沿って繰り返されることによって、二次元的な地表面たる対象物120の光学的な特性がハイパースペクトルセンサ100によって測定されることになる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2006−145362号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、上述するようなハイパースペクトルセンサ100にあっては、対象物120に対してハイパースペクトルセンサ100が移動する方向、それが測定部分120aの並ぶ方向となる。そしてスペクトルの測定対象である2次元的な範囲が、こうした移動方向Drで常に制約されることになる。そのため、2以上の異なる測定部分120aが移動方向Drと異なる方向に並んだ測定対象、例えば歩行者や信号機が含まれる自車両周辺の1つのシーン等、こうした測定対象に関わるスペクトルを測定する際には、長さ方向Dmに対して交差する方向へ上記単スリット114aを走査させるといった走査の態様が取られている。図10(a)(b)(c)は、こうした単スリット114aの走査の一例を光学的な作用とともに示す作用図である。
【0009】
図10(a)に示されるように、対象物120の上端の測定部分120aを物点とし、遮蔽板114に設けられた単スリット114aを像点とするかたちに単スリット114aが配置されることによって、まず対象物120の上端の測定部分120aに関するスペクトルが測定される。次いで、遮蔽板114が単スリット114aの幅だけ移動する態様で走査が繰り返されることによって、図10(b)に示されるように、対象物120の上端から下端の各測定部分120aに関するスペクトルが順に測定される。そして図10(c)に示されるように、対象物120の下端の測定部分120aを物点とし、遮蔽板114に設けられた単スリット114aを像点とするかたちに単スリット114aが配置されることによって、対象物120の上下方向の全幅にわたり、スペクトルが測定される。このように、移動方向と異なる方向に測定部分が並んだシーンであっても、そのシーンに合わせて単スリット114aが走査させる態様であれば、そのシーンについてのスペクトルを測定することが可能となる。
【0010】
なお、図10では、遮蔽板114のみが単スリット114aの幅だけ移動する態様で走査が繰り返されるとしたが、これに限られず、遮蔽板114、視準器115、分光器116、結像器117、および測定器118が、固定された単スリット114aに対して、一体となって移動する態様で走査が繰り返される場合もある。
【0011】
しかしながら、このようにしてそのシーンについてのスペクトルを測定することが可能となるとしても、この測定によって取得するデータ量が膨大な量となる場合には、複数の受光素子が測定した強度についてのデータを、こうしたデータを解析する解析部に転送する時間、さらにはその後に行われる解析等に多大な時間がかかってしまうことになる。こ
のような状況では、スペクトルの測定タイミングとその解析結果の出力タイミングとのずれが大きくなってしまうために、スペクトルデータの解析を含めた測定に多大な測定時間を要することとなり、例えばドライバーは自車両の周囲状況に応じた支援を受けることが困難となっている。
【0012】
本発明はこうした実情に鑑みてなされたものであり、測定対象からの光のスペクトルを測定するスペクトル測定装置であって、スペクトル測定の測定結果であるスペクトルデータのデータ量を縮小可能にするスペクトル測定装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
以下、上記課題を解決するための手段およびその作用効果について記載する。
請求項1に記載の発明は、測定対象からの光を通過させるスリットが設けられる遮蔽部と、前記スリットを通過した光を分光する分光器と、分光された成分ごとの光の強度を測定する複数の受光素子から構成される測定器と、を備えるスペクトル測定装置において、前記分光器と前記測定器との間の距離を変更可能にする距離変更部を備えることを要旨とする。
【0014】
分光器によって分光された光束は、それの成分量に応じて分光器から拡散することになる。こうした光束を測定器が直接受光する場合に測定器が分光器に近づくこととなれば、測定器における受光面積が小さくなり、反対に、測定器が分光器から遠ざかることとなれば、測定器における受光面積が大きくなる。つまり分光器と測定器との間の距離が短くなれば、単一の受光素子が受ける光の成分量が多くなり、同じ測定帯域のスペクトルを測定するに際し、同測定帯域の全てにわたる強度が、より少ない受光素子によって測定可能になる。一方、分光器と測定器との間の距離が長くなることになれば、単一の受光素子が受ける光の成分量が少なくなり、同測定帯域の全てにわたる強度を測定する上で、より多くの受光素子が必要になる。
【0015】
また分光器からの光束を測定器に向けて収束させる光学系が分光器の前段に配置される場合に測定器が分光器に近づくこととなれば、測定器における受光面積が大きくなることになり、反対に、測定器が分光器から遠ざかることとなれば、測定器における受光面積が小さくなる。つまり分光器と測定器との間の距離が長くなれば、単一の受光素子が受ける光の成分量が多くなり、同じ測定帯域のスペクトルを測定するに際し、同測定帯域の全てにわたる強度が、より少ない受光素子によって測定可能になる。一方、分光器と測定器との間の距離が短くなれば、単一の受光素子が受ける光の成分量が少なくなり、同測定帯域の全てにわたる強度を測定する上で、より多くの受光素子が必要になる。
【0016】
請求項1のスペクトル測定装置によれば、分光器と測定器との間の距離が上記距離変更部によって変更可能であることから、測定対象からの光のスペクトルを測定するための受光素子の個数が変更可能となる。例えば、測定器の受ける光束が測定器に向けて拡散する光であれば、分光器と測定器との間の距離が短くなることによって、スペクトル測定に要する受光素子の個数を少なくすることができる。また測定器の受ける光束が測定器に向けて収束する光であれば、分光器と測定器との間の距離が長くなることによって、スペクトル測定に要する受光素子の個数を少なくすることができる。そして測定対象についてのスペクトルをより詳細に測定する際には、変更された分光器と測定器との間の距離を戻すことによって、それが実現可能になる。それゆえに、スペクトル測定の測定結果であるスペクトルデータのデータ量が縮小可能になる。
【0017】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載のスペクトル測定装置において、前記分光された成分ごとの光を前記受光素子上に収束させる結像器をさらに備え、前記距離変更部は、前記結像器と前記測定器との間の距離を保持しつつ、前記分光器と前記測定器との間の
距離を変更可能にすることを要旨とする。
【0018】
このようなスペクトル測定装置によれば、前記結像器の焦点に前記測定器が備える受光素子が位置するようにしつつ、前記分光器と前記撮像器との間の距離を短くすることができるようになる。すなわち、分光された成分ごとの光を鮮明な状態に保ちつつ、測定器にて測定に用いていた受光素子の量を低減させ、測定すべきスペクトルデータの量を低減させることも可能になる。これにより、特に、請求項1に記載の構成にこの構成が適用されることで、各成分に対応する強度を外乱のない状態で成分ごとにより正確に測定しつつ、測定時間の短縮が可能となるスペクトル測定装置を提供することができる。
【0019】
請求項3に記載の発明では、請求項1または2に記載のスペクトル測定装置において、前記距離変更部による変更の態様を、前記スペクトル測定装置の周辺環境に応じた制御値によって制御する制御部を備えることを要旨とする。
【0020】
測定対象からスペクトル測定装置に到達する光は、測定対象の周辺環境に応じてその成分ごとの強度が異なる場合がある。このようなスペクトル測定装置によれば、こうした周辺環境に応じて前記分光器と前記測定器との間の距離を変更してスペクトルデータのデータ量、つまり測定精度を変更することができるようにもなる。また例えば、スペクトル測定装置が移動体に搭載されて、当該移動体の速度が比較的に速い場合は、スペクトルデータの処理を速くすべく、前記測定器にて測定に用いていた受光素子の量を低減させ、測定すべきスペクトルデータの量を低減させることができる。これにより、特に、請求項1または2に記載の構成にこの構成が適用されることで、スペクトル測定を略実時間で終了させつつ、周辺環境に応じた情報をドライバーに提供できるといったスペクトル測定装置が提供可能にもなる。
【0021】
請求項4に記載の発明では、請求項1〜3のいずれか一項に記載のスペクトル測定装置において、前記距離変更部による変更の態様を、前記成分ごとの強度に応じた制御値によって制御する制御部を備えることを要旨とする。
【0022】
このようなスペクトル測定装置によれば、成分ごとの強度に応じて前記分光器と前記測定器との間の距離を変更してスペクトルデータの量、つまり測定精度を変更することができるようになる。それゆえ成分ごとの強度が十分に高い、つまり測定精度が十分に得られる場合には、分光器と測定器との間の距離の変更によってスペクトルデータのデータ量をさらに低減させることの可能になる。また例えば、スペクトル測定装置が移動体に搭載されて、当該移動体が都市部を走行する場合は、アスファルト、人肌、金属、および各種光源等の数多くのスペクトルが農村部を走行する場合と比較して測定されることになる。そのような場合には測定対象の物性を見極めるために成分分解能を高くすることができる。これにより、特に、請求項1〜3のいずれか一項に記載の構成にこの構成が適用されることで、スペクトル測定を略実時間で終了させつつ、先行する測定結果に応じた最適なスペクトル測定を実現可能なスペクトル測定装置が提供可能となる。
【0023】
請求項5に記載の発明では、請求項1〜4のいずれか一項に記載のスペクトル測定装置において、前記スペクトル測定装置が移動体に搭載されるものであり、前記距離変更部による変更の態様を、前記移動体の移動状況に応じた制御値によって制御する制御部を備えることを要旨とする。
【0024】
このようなスペクトル測定装置によれば、同スペクトル測定装置が搭載されている移動体の移動状況に応じて分光器と測定器との間の距離を変更してスペクトルデータの量を制御することができるようになる。例えばスペクトル測定装置を搭載する移動体がカーブや悪路を走行する場合等は、測定対象となるシーンを次々と更新させていく必要がある。そ
のような場合にはスペクトル測定を速くすべく、測定器にて測定に用いていた受光素子の量を低減させ、測定すべきスペクトルデータの量を低減させることができる。これにより、特に、請求項1〜4のいずれか一項に記載の構成にこの構成が適用されることで、スペクトル測定を略実時間で終了させつつ、移動体の移動状況に適したスペクトル測定を実現可能なスペクトル測定装置が提供可能となる。
【0025】
請求項6に記載の発明では、請求項1〜5のいずれか一項に記載のスペクトル測定装置において、前記スリットの幅を変更可能にするスリット幅変更部をさらに備えることを要旨とする。
【0026】
測定対象の全域にわたりスペクトル測定を実施する場合には、スリットに対応する測定部分が測定対象の全域にわたり並ぶこととなる。そしてスリットに対応する測定部分のサイズが大きくなるとすると、測定対象に並ぶ測定部分の個数も少なくなり、測定対象ごとの測定時間も短縮されることとなる。このスペクトル測定装置によれば、遮蔽板に設けられたスリットの幅を広げることができるようになる。つまりスリットの幅を広げることにより、測定対象における測定部分の個数を少なくすることが可能となり、スペクトルデータのデータ量を縮小させることが可能となる。そして測定対象についてのスペクトルをより詳細に測定する際には、広げられたスリットの幅を戻すことによって、それが実現可能になる。それゆえに、スペクトル測定の測定結果であるスペクトルデータのデータ量が縮小可能になる。
【0027】
請求項7に記載の発明では、請求項6に記載のスペクトル測定装置において、前記スリット幅変更部の変更の態様を、前記測定対象の周辺環境に応じた制御値によって制御する制御部を備えることを要旨とする。
【0028】
測定対象からスペクトル測定装置に到達する光は、測定対象の周辺環境に応じてその成分ごとの強度が異なる場合がある。このようなスペクトル測定装置によれば、こうした周辺環境に応じてスリットの幅を変更してスペクトルデータのデータ量、つまり測定精度を変更することができるようにもなる。
【0029】
請求項8に記載の発明では、請求項6又は7に記載のスペクトル測定装置において、前記スリット幅変更部の変更の態様を、前記成分ごとの強度に応じた制御値によって制御する制御部を備えることを要旨とする。
【0030】
このようなスペクトル測定装置によれば、成分ごとの強度に応じてスリットの幅を変更してスペクトルデータの量、つまり測定精度を変更することができるようになる。それゆえ成分ごとの強度が十分に高い、つまり測定精度が十分に得られる場合には、スリットの幅の変更によってスペクトルデータのデータ量をさらに低減させることの可能になる。
【0031】
請求項9に記載の発明では、請求項6〜8のいずれか一項に記載のスペクトル測定装置において、前記スペクトル測定装置が移動体に搭載されるものであり、前記スリット幅変更部の変更の態様を、前記移動体の移動状況に応じた制御値によって制御する制御部を備えることを要旨とする。
【0032】
このようなスペクトル測定装置によれば、同スペクトル測定装置が搭載されている移動体の移動状況に応じてスリットの幅を調整し、測定すべきスペクトルデータの量を制御することができるようになる。例えばスペクトル測定装置を搭載する移動体がカーブや悪路を走行する場合等は、測定対象となるシーンを次々と更新させていく必要がある。そのような場合にはスペクトル測定を速くすべく、測定器にて測定に用いていた受光素子の量を低減させ、測定すべきスペクトルデータの量を低減させることができる。これにより、特
に、請求項6〜8のいずれか一項に記載の構成にこの構成が適用されることで、スペクトル測定を略実時間で終了させつつ、移動体の移動状況に適したスペクトル測定を実現可能なスペクトル測定装置が提供可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明にかかるスペクトル測定装置の第1の実施の形態について、その光学的な構成を示す構成図。
【図2】本発明にかかるスペクトル測定装置の第1の実施の形態について、その全体構成を示すブロック図。
【図3】本発明にかかるスペクトル測定装置の第1の実施の形態にて実行されるスペクトルの測定手順を示すフローチャート。
【図4】本発明にかかるスペクトル測定装置の第2の実施の形態について、その光学的な構成を示す構成図。
【図5】(a)(b)は、本発明にかかるスペクトル測定装置の第3の実施の形態について、その遮蔽板の断面構造を示す断面図。
【図6】本発明にかかるスペクトル測定装置の第3の実施の形態について、その光学的な構成を示す構成図。
【図7】本発明にかかるスペクトル測定装置の第3の実施の形態について、その全体構成を示すブロック図。
【図8】本発明にかかるスペクトル測定装置の第3の実施の形態にて実行されるスペクトルの測定手順を示すフローチャート。
【図9】従来のスペクトル測定装置たるハイパースペクトルセンサが人工衛星に搭載されている場合について、その光学的な構成の一例を示す構成図。
【図10】(a)(b)(c)は、従来のスペクトル測定装置たるハイパースペクトルセンサを車両等の移動体に搭載する場合について、遮蔽板に設けられた単スリットの走査の一例を光学的な作用とともに示す作用図。
【発明を実施するための形態】
【0034】
(第1の実施の形態)
以下、本発明にかかるスペクトル測定装置の第1の実施の形態について、図1を参照して詳細に説明する。まず、図1を参照して、本実施の形態のスペクトル測定装置10が、備える光学的な構成について説明する。
【0035】
スペクトル測定装置10は、集光器11、遮蔽板12、視準器13、分光器14、結像器15、および測定器16が、測定対象20からの光の進行方向に沿ってこの順に配置されるかたちに構成されている。スペクトル測定装置10を構成するこれらの構成要素の各々は、それを通過する光束の代表となる仮想的な光線、すなわち光軸に対して交差する一つの方向において、光学的な特性が連続するように構成されている。そして、このスペクトル測定装置10は、距離変更部24を備えている。
【0036】
集光器11は、測定対象20が自ら発する光や測定対象20が反射する光、すなわち測定対象20からの光を、損失なく集める、あるいは収束させるレンズ等の光学素子から構成される光学系であって、それが集めた光を後段の光学素子である遮蔽板12へと指向させる機能を有する。
【0037】
遮蔽板12は、遮蔽部として、集光器11からの光のうちの一部を後段の視準器13に対して遮蔽する部分と、集光器11からの光のうちの他部を同視準器13へ通過させる部分とを有している。またこの遮蔽板12において光を通過させる部分は、単スリット12aによって構成されている。単スリット12aは、光が進行する方向に対して交差する一つの方向(単スリット12aの長さ方向Dm)、例えば図1の紙面に対して垂直となる方
向に延びる穿孔であって、光が進行する方向に対して交差する他の方向(単スリット12aの幅方向Dw)、例えば図1における上下方向に沿って幅をもっている。
【0038】
視準器13は、単スリット12aを通過した光を平行光に変換する視準レンズ、あるいは単スリット12aを通過した光を収束光に変換する収束レンズといった光学素子である。つまりこの視準器13は、集光器11からの光のうちの一部を、後段の光学素子である分光器14へ、単スリット12aの平行光として指向させる機能を有する。
【0039】
分光器14は、測定帯域の光を連続的な成分である波長ごとの成分に分散させる分光光学系である。この分光器14は、単スリット12aの幅方向Dwにおいて、単スリット12aで抽出された光Lを波長ごとの成分(波長成分λa〜波長成分λb)に分散させて、かつ、後段の光学素子である結像器15へ単スリット12aの光Lとして指向させる機能を有する。
【0040】
結像器15は、分光器14によって分光された光Lの波長ごとの成分を、異なる波長成分が測定器16に設けられたそれぞれ異なる受光素子に収束するように指向させる機能を有する。すなわち、例えば図1において、分光器14が分光する最も波長が短い光(波長λa)は、測定器16の光が進行する方向に対して交差する他の方向(単スリット12aの幅方向Dw)、例えば図1における上下方向に対し、最も上に収束させる機能を有する。同様に、例えば図1において、分光器14が分光する最も波長が長い光(波長λb)は、測定器16の光が進行する方向に対して交差する他の方向(単スリット12aの幅方向Dw)、例えば図1における上下方向に対し、最も下に収束させる機能を有する。
【0041】
測定器16は、結像器15の光軸と直交する2つの方向、つまり単スリット12aの長さ方向Dmと幅方向Dwとに沿って受光素子が配列されたCCDイメージセンサやCMOSイメージセンサである。この測定器16は、単スリット12aの幅方向Dwにおいて、異なる波長成分がそれぞれ異なる受光素子に入射するかたちに配置されている。またこの測定器16は、単スリット12aの長さ方向Dmにおいて、測定対象20上の異なる位置からの光がそれぞれ異なる受光素子に入射するかたちに配置されている。
【0042】
距離変更部24は、結像器15と測定器16との間の距離を維持しつつ、分光器14と結像器15との間の距離を可変にする機能を有し、結像器15および測定器16に連結されている。
【0043】
このような構成からなるスペクトル測定装置10では、測定対象20の各部からの光が、まず集光器11に入射する。集光器11に入射した光は、集光器11の集光作用によって遮蔽板12に向けて集光されて、単スリット12aに向かう光のみが遮蔽板12の遮蔽作用によって通過する。このようにして単スリット12aで抽出された光は、視準器13の光学作用によって平行光とされ、分光器14に導かれる。分光器14により分光された単スリット12aで抽出された光の波長成分は、異なる波長成分が測定器16のそれぞれ異なる受光素子で受光される。
【0044】
また、距離変更部24は、結像器15が分光器14から最も離間する位置(図1において二点鎖線で示す位置)と、結像器15が分光器14に最も接近する位置(図1において実線で示す位置)との間を、結像器15と測定器16との距離を維持しつつ、光軸の方向に沿って結像器15および測定器16を移動可能にする。ちなみに、結像器15と測定器16との距離が結像器15の焦点距離たる距離b1に維持されているため、測定器16の受光素子に、分光器14により分光された単スリット12aで抽出された光の波長成分が、常に鮮明な像として結像されることになる。なお、結像器15が分光器14から最も離間する位置は、単スリット12aによって抽出された光の波長成分λa〜波長成分λbの
各波長成分が、測定器16のそれぞれ1つの受光素子に対応付けられて測定されることを条件として設定されている。
【0045】
ここで、分光器14によって分光された光は、それの断面が結像器15に向けて幅方向Dwに拡がる(拡散する)かたちに進行する。ゆえに結像器15におけるその光の入射面積は、結像器15が分光器14から離れるにつれて大きくなり、反対に、結像器15が分光器14に近づくにつれて小さくなる。そして波長成分λa〜波長成分λbの各波長成分の光を受ける測定器16の受光素子の数、すなわち測定結果のデータ量も、結像器15が分光器14から離れるにつれて多くなり、反対に、結像器15が分光器14に近づくにつれて少なくなる。なお測定器16の受光面積が小さくなる場合には、より多くの波長成分が単一の受光素子に入射するために波長成分の分解能が低くなり、反対に、測定器16の受光面積が大きくなれば、より少ない波長成分が単一の受光素子に入射するために波長成分の分解能が高くなる。
【0046】
例えば、結像器15と分光器14との間の距離が距離a1まで伸長された場合において、単スリット12aによって抽出された光を受ける幅方向Dwの受光素子の数を素子数kaとする。また結像器15と分光器14との間の距離が距離a2まで短縮された場合において、単スリット12aによって抽出された光を受ける幅方向Dwの受光素子の数を素子数kbとする。すると距離a2における受光素子の数、すなわち素子数kbは、測定器16における受光面積が小さくなる分だけ、距離a1における受光素子の数、すなわち素子数kaよりも小さくなる。なおこの際、素子数kbを構成する各受光素子には、素子数kaを構成する各受光素子よりも多くの波長成分が入射するために波長成分の分解能が低くなる。
【0047】
つまり、このスペクトル測定装置10では、測定対象20から集光器11によって集光され得る光のうちから、長さ方向Dmに延びるライン状の測定部分からの光が単スリット12aにより抽出されることになる。そして、このように、結像器15および測定器16を移動させて分光器14と結像器15との間の距離を短縮することにより、測定器16の受光素子上に、単スリット12aで抽出された光の波長成分を常に鮮明な像に結像しつつ、スペクトルのデータ量を低減させることが可能になる。これに対して、結像器15および測定器16を移動させて分光器14と結像器15との間の距離を伸長することにより、単スリット12aで抽出された光の波長成分を常に鮮明な像に結像しつつ、波長成分の分解能を向上させることが可能になる。それゆえに、こうした構成からなるスペクトル測定装置10によれば、長さ方向Dmに延びるライン状の測定部分からの光について、そのスペクトルのデータ量が低減されることになる。
【0048】
次に、図2を参照して、このスペクトル測定装置10が車両に搭載されている場合の全体構成について説明する。このスペクトル測定装置10は、距離変更部24を駆動するためのアクチュエータ24Aと、アクチュエータ24Aにそれの駆動量を制御値として入力する制御部26とを搭載している。以下では、こうした構成からなるスペクトル測定装置10の測定結果に基づいて車両の運転支援が行われる例について説明する。
【0049】
図2に示されるように、このスペクトル測定装置10が搭載される車両Cには、イグニッションがオンであるかオフであるかを検出するイグニッションセンサや、車両Cの周辺における物体と車両Cとの間の距離を検出可能にする赤外線レーダ、ミリ波レーダ、車載カメラ等の対物センサから構成される車載センサ31が搭載されている。こうした車載センサ31を搭載する車両Cには、車載センサ31からの各種検出結果を取得して、スペクトル測定処理に必要となる各種情報を生成するデータ処理部32が搭載されている。
【0050】
具体的には、このデータ処理部32は、車載センサ31からの検出結果に基づいて、ス
ペクトル測定装置10を起動させるか否かを示す情報を生成する。さらにデータ処理部32は、車載センサ31からの検出結果、さらには先行するスペクトル測定の測定結果である識別データに基づいて、スペクトル測定装置10における各種設定の条件、例えば分光器14と結像器15との間の距離の設定に必要となる条件を示す設定条件情報を生成する。ここで設定条件情報とは、例えば、測定対象の周辺環境を示す各種データ、車両Cの移動状況である走行状況を示す各種データ、さらには先行して実施されたスペクトル測定の測定結果である識別データのうちから抽出される情報のことをいう。ちなみに、周辺環境を示す各種データとは、スペクトルの測定処理に要求される時間を示唆するデータであって、例えば、昼と夜とを区別するための明度に関するデータ、晴れか雨かを区別する天候に関するデータ、都市部と農村部とで代表される地理的データ等のことをいう。また、車両Cの走行状況を示す各種データとは、スペクトルの測定処理に要求される時間を示唆するデータであって、例えば、曲線路を走行する場合に検出される横方向の加速度の値、急制動や急加速された場合に発生する加速度の大幅な変動の度合い等のデータのことをいう。そしてデータ処理部32は、周辺環境を示す各種データ、走行状況を示す各種データ、および識別データの各々に予め設定された重み付けを行い、重みの大きいものを設定条件情報として抽出する。
【0051】
車両Cに搭載されるスペクトル測定装置10には、データ処理部32からの情報に基づいて、スペクトル測定装置10の起動判定を実行するとともに、データ処理部32からの設定条件情報に基づいてアクチュエータ24Aの駆動量を制御する制御部26が搭載されている。
【0052】
またこの制御部26は、上記設定条件に、分光器14と結像器15との間の距離が対応付けられたマップ等にて構成される距離制御データを格納している。具体的には、こうした距離制御データは、測定するデータ量を低減する必要がある場合には、波長成分の分解能を低く設定するべく、分光器14と結像器15との間の距離を短縮するようなかたちで構成されている。ちなみに測定するデータ量を低減する必要がある場合を示す設定条件とは、例えば、昼や農村部を走行する等して車両Cの走行速度が速い場合、あるいは、曲線路を走行する等して測定対象20が短時間で変動するような場合である。そして設定条件情報をデータ処理部32から制御部26が取得すると、当該制御部26は、上記距離制御データを参照して、分光器14と結像器15との間の距離を決定する。
【0053】
またこの制御部26は、分光器14と結像器15との間の距離がアクチュエータ24Aの駆動量に対応付けられたテーブル等にて構成される駆動量データDB1を格納している。そして上記設定条件情報を取得すると、当該制御部26は、上記駆動量データDB1を参照し、分光器14と結像器15との間の距離に対応するアクチュエータ24Aの駆動量を演算する。そして制御部26は、アクチュエータ24Aをそれに対応する駆動量で制御し、その結果、結像器15と測定器16との距離が維持されつつ、分光器14と結像器15との距離が変動することとなる。
【0054】
こうしたスペクトル測定装置10を搭載する車両Cには、スペクトル測定装置10が取得したスペクトルデータに基づいて各測定部分を識別するスペクトルデータ解析部33が搭載されている。このスペクトルデータ解析部33は、スペクトルの各種特異量を示すデータに、運転支援に必要とされる各種対象が紐付けられたテーブル等にて構成される辞書データDB2を格納している。具体的には、こうした辞書データDB2では、特異的な波長、当該波長に対する強度、当該波長におけるピーク形状等、これらスペクトルの各特異量に、信号機、標識、歩行者、自転車、動物等、運転支援に必要とされる各種対象が紐付けられるかたちに構成されている。
【0055】
そしてスペクトル測定装置10からのスペクトルデータを取得したスペクトルデータ解
析部33は、上記辞書データDB2を参照して、当該スペクトルデータの各特異量に紐付けられた対象、すなわち測定部分の識別結果を識別データとして生成する。次いでスペクトルデータ解析部33は、それが生成した識別データに基づいて運転支援を実行する各部、例えば車両Cの運転者に注意喚起を促す警報部や表示部、さらには当該車両Cを構成する各種アクチュエータ等や、データ処理部32へ識別データを出力し、こうした各部において、当該識別データに基づく運転支援を実行させる。
【0056】
次に、本実施の形態のスペクトル測定装置10を搭載する車両Cにて行われる一連のスペクトル測定処理について図3を参照して説明する。なお、本実施の形態におけるスペクトル測定処理は、車両Cの電源状態がACC(Accessory)オンの状態である期間に所定の演算周期で繰り返して実行される。
【0057】
図3に示されるように、当該スペクトル測定処理においてはまず、スペクトル測定装置10の起動判定として、車載センサ31の検出結果に基づいて、イグニッションがオンであるか、あるいはオフであるかを、制御部26が判断する(ステップS1)。イグニッションがオフであると判断すると、制御部26はスペクトル測定処理を終了する。一方、イグニッションがオンであると判断すると、例えば、車両Cが走行する周辺環境や、車両Cの走行状況を、車載センサ31が検出する(ステップS2)。そして、データ処理部32は、車載センサ31からの検出結果に基づいて、設定条件情報を抽出する。制御部26は、データ処理部32を介して設定条件情報を取得し、上記距離制御データを参照して、当該設定条件情報に対応する分光器14と結像器15との間の距離を決定する。このようにして分光器14と結像器15との間の距離が決定されると、制御部26は、駆動量データDB1を参照して、アクチュエータ24Aを制御し、距離変更部24を介して結像器15および測定器16を移動させる(ステップS3)。
【0058】
そして、制御部26は、各測定部分における波長成分ごとの強度を示すデータを測定器16から取得し、波長成分ごとの光の強度がその波長に対応付けられる態様でスペクトルデータを生成する(ステップS4)。
【0059】
その後、再度、車載センサ31の検出結果に基づいて、イグニッションがオンであるか、あるいはオフであるかを、制御部26が判断する(ステップS5)。車載センサ31がイグニッションがOFFであると判断すると、そのまま処理を終了する。一方、イグニッションがONであると判断すると、スペクトル測定装置10からのスペクトルデータを取得したスペクトルデータ解析部33は、上記辞書データDB2を参照して、当該スペクトルデータの各特異量に紐付けられた対象、すなわち測定部分の識別結果を上記識別データとして生成する(ステップS6)。次いでスペクトルデータ解析部33は、データ処理部32へその生成した識別データを出力し、このデータ処理部32において、同識別データに基づく運転支援を実行させるべく、処理はステップS2に戻される。これにより、その後の処理においては、ステップS6にて生成された識別データも加味された上記設定条件情報が抽出されて、分光器14と結像器15との間の距離が決定されることとなる。
【0060】
なお、ステップS6にて、スペクトルデータ解析部33が、識別データを生成する際に、測定されたスペクトルのデータ量が多く、実時間でその処理を終了することができない場合には、そのデータ量を低減させる処理、すなわちデータを間引く処理を行うようにすることもできる。
【0061】
以上説明したように、第1の実施の形態に係るスペクトル測定装置によれば、以下列記するような効果が得られるようになる。
(1)結像器15と測定器16との距離を結像器15の焦点距離たる距離b1に維持しつつ、分光器14と結像器15との距離を変動させることとした。これにより、分光器1
4によって分光された測定対象20からの光を構成する波長ごとの光の結像を鮮明な状態に保ちつつ、それら波長ごとの光の結像を測定するために用いられる測定器16の受光素子の数を削減することができるようになる。すなわち、各受光素子により、波長が同程度の波長帯域の光を、各光の線像が鮮明な状態でまとめて測定することができるため、スペクトルデータの総量を低減させつつも、外乱のない正確なデータを得ることができるようになる。したがって、精度の高いスペクトルデータの処理を実時間で終了させることができるスペクトル測定装置の提供を通じ、ドライバーの運転支援をすることができるようになる。
【0062】
(2)結像器15と測定器16との距離を結像器15の焦点距離たる距離b1に維持しつつ、スペクトル測定装置10が使用される周辺環境に応じて、分光器14と結像器15との距離を決定することとした。これにより、このスペクトル測定装置10が使用される周辺環境に応じて測定すべきスペクトルデータの量を調整すべく、分光器14と結像器15との距離を決定することができるようになる。すなわち、昼か夜か、晴れか雨か、または、農村部か都市部か等の上記周辺環境により、このスペクトル測定装置10を搭載する車両Cの速度が変動するため、例えば、晴れの日等の環境下で車両Cの速度が速い場合は、スペクトルデータの量を低減し、処理速度を速くするべく、分光器14と結像器15との距離を決定することができるようになる。したがって、上記周辺環境に応じて、例えば波長成分の分解能を低くする場合のように、測定すべきスペクトルデータの量を低減させるときには、分光器14と結像器15との距離を近づけ、測定に用いられる測定器16の受光素子の数を低減することができる。これに伴い、スペクトル測定装置10が使用される周辺環境に応じた精度の高い測定結果を得るためのスペクトルデータ処理を、実時間で終了させることができるスペクトル測定装置の提供を通じ、ドライバーの運転支援をすることができるようになる。
【0063】
(3)結像器15と測定器16との距離を結像器15の焦点距離たる距離b1に維持しつつ、スペクトルデータに基づく上記識別データに応じて、分光器14と結像器15との距離を決定することとした。これにより、この識別データに応じて測定すべきスペクトルデータの量を調整すべく、分光器14と結像器15との距離を決定することができるようになる。すなわち、例えば、このスペクトル測定装置10を搭載する車両Cが農村部を走行する場合は、人肌、金属、および各種光源等の数多くの注意すべきスペクトルが都市部を走行する場合よりも少なく測定されるはずであり、この場合には波長成分の分解能を低くすることができる。したがって、スペクトルデータに基づく上記識別データに応じて、例えば波長成分の分解能を低くする場合のように、測定すべきスペクトルデータの量を低減させるときには、分光器14と結像器15との距離を近づけ、測定に用いられる測定器16の受光素子の数を低減することができる。これに伴い、スペクトルデータに基づく上記識別データに応じた精度の高い測定結果を得るためのスペクトルデータ処理を、実時間で終了させることができるスペクトル測定装置の提供を通じ、ドライバーの運転支援をすることができるようになる。
【0064】
(4)結像器15と測定器16との距離を結像器15の焦点距離たるb1に維持しつつ、スペクトル測定装置10が搭載されている車両Cの走行状況に応じて、分光器14と結像器15との距離を決定することとした。これにより、このスペクトル測定装置10が搭載されている車両Cの走行状況に応じて測定すべきスペクトルデータの量を調整すべく、分光器14と結像器15との距離を決定することができるようになる。すなわち、例えば、スペクトル測定装置10を搭載する車両Cが曲線路や悪路を走行する場合等は、測定すべきシーンを次々と更新させていく必要があるため、測定したスペクトルデータの処理速度を速めるべく、波長成分の分解能を低くすることができる。したがって、車両Cの走行状況に応じて、例えば波長成分の分解能を低くする場合のように、測定すべきスペクトルデータの量を低減させるときには、分光器14と結像器15との距離を近づけ、測定に用
いられる測定器16の受光素子の数を低減することができる。これに伴い、スペクトル測定装置10を搭載する車両Cの走行状況に応じた精度の高い測定結果を得るためのスペクトルデータの処理を、実時間で終了させることができるスペクトル測定装置の提供を通じ、ドライバーの運転支援をすることができるようになる。
【0065】
(5)結像器15と測定器16との距離を、この結像器15の焦点距離たるb1に保持しつつ、スペクトル測定装置10が測定したすべてのデータを処理しないようにすることとした。これにより、例えば、都市部を走行する場合のように波長成分の分解能を高くし、測定すべきスペクトルデータの量を増加させるときであっても、実時間内でのデータ処理を達成することができる範囲内に処理すべきスペクトルのデータの量を制限することができるようになる。
(第2の実施の形態)
以下、本発明にかかるスペクトル測定装置の第2の実施の形態について、図4を参照して説明する。なお、第2の実施の形態は、第1の実施の形態と異なり、距離変更部24が測定器16の位置のみを結像器15と測定器16との距離を可変にすべく、測定器16のみに連結されている。その他の基本的な構成は第1の実施の形態と同じであるため、以下ではその変更点について詳細に説明する。
【0066】
図4に示されるように、スペクトル測定装置10の測定器16には、結像器15と測定器16との間の距離を変更可能にする距離変更部24が連結されている。距離変更部24は、測定器16が結像器15から最も接近する位置(図4において二点鎖線で示す位置)と、測定器16が結像器15に最も離間する位置(図4において実線で示す位置)との間を、光軸の方向に沿って測定器16を移動可能にする。なお、測定器16が結像器15から最も接近する位置は、単スリット12aからの波長成分λa〜波長成分λbの光が受光素子上で鮮明となること、すなわち結像器15と測定器16との距離が結像器15の焦点距離たる距離b1であることを条件として設定されている。
【0067】
ここで、結像器15によって収束させられる各波長成分は、結像器15の焦点距離たる距離b1だけ離れた位置で、個別に結像するかたちに進行する。ゆえに単スリット12aからの光の波長成分λaが進むラインと、波長成分λbが進むラインとで構成される光の入射面積は、測定器16が結像器15から離れるにつれて小さくなる。そして波長成分λaから波長成分λbの各波長成分の光を受ける測定器16の受光素子の数、すなわち測定結果のデータ量も、測定器16が結像器15から離れるにつれて少なくなる。なお測定器16の受光面積が小さくなる場合には、より多くの波長成分が単一の受光素子に入射するために波長成分の分解能が低くなる。
【0068】
例えば、分光器14と結像器15との間の距離が距離a1に維持されつつ、結像器15と測定器16との間の距離が距離b2まで伸長された場合において、単スリット12aによって抽出された光を受ける幅方向Dwの受光素子の数を素子数kcとする。また結像器15と測定器16との間の距離が距離b1まで短縮された場合において、単スリット12aによって抽出された光を受ける幅方向Dwの受光素子の数を素子数kdとする。すると距離b2における受光素子の数、すなわち素子数kcは、測定器16における受光面積が小さくなる分だけ、距離b1における受光素子の数、すなわち素子数kdよりも少なくなる。なおこの際、素子数kdを構成する各受光素子には、素子数kcを構成する各受光素子よりも多くの波長成分が入射するために波長成分の分解能が低くなる。
【0069】
つまり、このスペクトル測定装置10では、測定対象20から集光器11によって集光され得る光のうちから、長さ方向Dmに延びるライン状の測定部分からの光が単スリット12aにより抽出されることになる。そして、このように、測定器16を移動させて結像器15と測定器16とを離間させることにより、測定に用いられる測定器16の受光素子
の数を減らし、スペクトルのデータ量を低減させることが可能になる。それゆえに、こうした構成からなるスペクトル測定装置10によれば、長さ方向Dmに延びるライン状の測定部分からの光について、そのスペクトルのデータ量が低減されることになる。
【0070】
なお、測定器16上の単スリット12aからの波長成分の光は、上記のように結像器15の焦点距離たる距離b1が保たれないために不鮮明となってしまう。しかし、波長成分の分解能を低くするという観点に立てば、第1の実施の形態と同様に、この第2の実施の形態においても1つの受光素子で複数の波長の光が入射することに変わりはないため、測定されるデータに対する悪影響はほとんどない。
【0071】
次に、図2を参照して、本実施の形態のスペクトル測定装置10が、車両等の移動体に搭載されている場合の同移動体の全体構成について説明する。なお、同移動体の全体構成は第1の実施の形態と同じであるため、以下では異なる点について説明する。
【0072】
図2に示されるように、制御部26が上記設定条件情報を取得すると、当該制御部26は、上記駆動量データDB1を参照し、当該結像器15と測定器16との間の距離に対応するアクチュエータ24Aの駆動量を演算する。そして制御部26は、アクチュエータ24Aをそれに対応する駆動量で制御して測定器16の位置のみを変動させ、その結果、分光器14と結像器15との距離が維持されつつ、結像器15と測定器16との距離を変動させる。
【0073】
次に、本実施の形態のスペクトル測定装置10を搭載する車両Cにて行われる一連のスペクトル測定処理について図3を参照して説明する。ここでも、同移動体の全体構成は第1の実施の形態と同じであるため、以下では異なる点について説明する。
【0074】
図3に示されるように、ステップS1およびステップS2にて第1の実施の形態と同様の処理が実行されると、データ処理部32は、車載センサ31からの検出結果に基づいて設定条件情報を生成する。制御部26は、データ処理部32を介して、設定条件情報を取得し、上記距離制御データを参照して、当該運転支援に必要とされる情報に対応する結像器15と測定器16との間の距離を決定する。このようにして結像器15と測定器16との間の距離が決定されると、制御部26は、駆動量データDB1を参照して、アクチュエータ24Aを制御し、距離変更部24を介して測定器16を移動させる(ステップS3)。そして、制御部26は、各測定部分における波長成分ごとの強度を示すデータを測定器16から取得し、波長成分ごとの光の強度がその波長に対応付けられる態様でスペクトルデータを生成する(ステップS4)。
【0075】
その後、再度、車載センサ31の検出結果に基づいて、イグニッションがオンであるか、あるいはオフであるかを、制御部26が判断する(ステップS5)。
その後の処理、およびステップ6における処理は、第1の実施の形態と同じである。これにより、その後の処理においては、ステップS6にて生成された識別データも加味しつつ、結像器15と測定器16との間の距離が決定されることとなる。なお、ステップS6にて、スペクトルデータ解析部33が、識別データを生成する際に、測定されたスペクトルのデータ量が多く、実時間でその処理を終了することができない場合には、第1の実施の形態と同様に、そのデータ量を低減させる処理、すなわちデータを間引く処理を行うようにすることもできる。
【0076】
以上説明したように、第2の実施の形態に係るスペクトル測定装置10によれば、以下列記するような効果が得られるようになる。
(6)分光器14と結像器15との間の距離をa1に維持しつつ、結像器15と測定器16との間の距離を、結像器15の焦点距離たるb1から、より長い距離にすることとし
た。これにより、分光器14によって分光された測定対象からの光を構成する各波長成分の光を測定するために用いられる受光素子の数を低減することができるようになる。すなわち、各受光素子により、波長が同程度の波長帯域の光をまとめて測定することができるため、スペクトルデータの量を低減させることができるようになる。したがって、スペクトルデータの処理を実時間で終了させることができるスペクトル測定装置の提供を通じ、ドライバーの運転支援をすることができるようになる。
【0077】
(7)分光器14と結像器15との間の距離をa1に維持しつつ、スペクトル測定装置10が使用される周辺環境に応じて、結像器15の焦点距離たるb1から、より長い距離にすることとした。これにより、このスペクトル測定装置10が使用される周辺環境に応じて測定すべきスペクトルデータの量を調整すべく、結像器15と測定器16との距離を変動させることができるようになる。すなわち、昼か夜か、晴れか雨か、または、農村部か都市部か等の上記周辺環境により、このスペクトル測定装置10を搭載する車両Cの速度が変動するため、例えば、晴れの日等の環境下で車両Cの速度が速い場合は、スペクトルデータの量を低減し、処理速度を速くするべく、結像器15と測定器16との距離を決定することができるようになる。したがって、上記周辺環境に応じて、例えば波長成分の分解能を低くする場合のように、測定すべきスペクトルデータの量を低減させるときには、結像器15と測定器16との距離を遠ざけ、測定に用いられる測定器16の受光素子の数を低減することができる。これに伴い、スペクトル測定装置10が使用される周辺環境に応じた測定結果を得るためのスペクトルデータ処理を、実時間で終了させることができるスペクトル測定装置の提供を通じ、ドライバーの運転支援をすることができるようになる。
【0078】
(8)分光器14と結像器15との間の距離をa1に維持しつつ、スペクトルデータに基づく上記識別データに応じて、結像器15の焦点距離たるb1から、より長い距離にすることとした。これにより、この識別データに応じて測定すべきスペクトルデータの量を調整すべく、結像器15と測定器16との距離を変動させることができるようになる。すなわち、例えば、このスペクトル測定装置10を搭載する車両Cが農村部を走行する場合は、人肌、金属、および各種光源等の数多くの注意すべきスペクトルが都市部を走行する場合よりも少なく測定されるはずであり、この場合には波長成分の分解能を低くすることができる。したがって、スペクトルデータに基づく上記識別データに応じて、例えば波長成分の分解能を低くする場合のように、測定すべきスペクトルデータの量を低減させるときには、結像器15と測定器16との距離を遠ざけ、測定に用いられる測定器16の受光素子の数を低減することができる。これに伴い、スペクトルデータに基づく上記識別データに応じた測定結果を得るためのスペクトルデータ処理を、実時間で終了させることができるスペクトル測定装置の提供を通じ、ドライバーの運転支援をすることができるようになる。
【0079】
(9)分光器14と結像器15との間の距離をa1に維持しつつ、スペクトル測定装置10が搭載されている車両Cの挙動に応じて、結像器15の焦点距離たるb1から、より長い距離にすることとした。これにより、このスペクトル測定装置10が搭載されている車両Cの走行状況に応じて測定すべきスペクトルデータの量を調整すべく、結像器15と測定器16との距離を変動させることができるようになる。すなわち、例えば、スペクトル測定装置10を搭載する車両Cが曲線路や悪路を走行する場合等は、測定すべきシーンを次々と更新させていく必要があるため、測定したスペクトルデータの処理速度を速めるべく、波長成分の分解能を低くすることができる。したがって、車両Cの走行状況に応じて、例えば波長成分の分解能を低くする場合のように、測定すべきスペクトルデータの量を低減させるときには、結像器15と測定器16との距離を遠ざけ、測定に用いられる測定器16の受光素子の数を低減することができる。これに伴い、スペクトル測定装置10を搭載する車両Cの挙動に応じた測定結果を得るためのスペクトルデータの処理を、実時
間で終了させることができるスペクトル測定装置の提供を通じ、ドライバーの運転支援をすることができるようになる。
【0080】
(10)分光器14と結像器15との間の距離を距離a1に維持しつつ、スペクトル測定装置10が測定したすべてのデータを処理しないようにすることとした。これにより、例えば、都市部を走行する場合のように波長成分の分解能を高くし、測定すべきスペクトルデータの量を増加させるときであっても、実時間内でのデータ処理を達成することができる範囲内に処理すべきスペクトルデータの量を制限することができるようになる。
(第3の実施の形態)
以下、本発明にかかるスペクトル測定装置の第3の実施の形態について、図5および図6を参照して説明する。なお、第3の実施の形態は、第1および第2の実施の形態において距離変更部24が割愛された構成であって、第1の実施の形態と異なる遮蔽板12、およびスリット幅変更部28を備える構成である。そして、その他の基本的な構成は第1および第2の実施の形態と同じであるため、以下ではその変更点について詳細に説明する。
【0081】
図5に示されるように、遮蔽板12は、2枚の平板である第1の遮蔽板12bおよび第2の遮蔽板12cと、これらの第1の遮蔽板12bおよび第2の遮蔽板12cに接続されるスリット幅変更部28とを備えている。これらの第1の遮蔽板12bおよび第2の遮蔽板12cは、共に幅s2の単スリット12aを備えており、スリット幅変更部28は、単スリット12aの幅方向Dwに、第1の遮蔽板12bおよび第2の遮蔽板12cを互いに移動させる。
【0082】
つまり遮蔽板12が有するスリットの幅は、図5(a)に示されるように、これら第1の遮蔽板12bが有する単スリット12aと第2の遮蔽板12cが有する単スリット12aとの相対的な位置によって規定されることになる。なお、図5(b)に示されるように、この遮蔽板12のスリットの幅は、第1の遮蔽板12bの単スリット12aと第2の遮蔽板12cの単スリット12aとが完全に重なる状態にて最大値たる幅s2になる。そして遮蔽板12が有するスリットの幅は、スリット幅変更部28によって、最小値たる0と最大値たる幅s2との間の任意の幅に規定することができる。
【0083】
ここで遮蔽板12に設けられたスリットの幅が、幅s2よりも狭い初期的な幅s1から幅s2に広げられると、測定対象20の測定部分20aからの光の幅、すなわち測定対象における測定部分のサイズも拡張されることになる。その結果、測定対象20に並ぶ測定部分20aの個数が少なくなり、ひいては遮蔽板12を移動させるための回数が低減されることになり、測定対象20ごとのスペクトルデータのデータ量が抑えられることになる。
【0084】
次に、図7を参照して、本実施の形態のスペクトル測定装置10が、車両等の移動体に搭載されている場合の同移動体の全体構成について説明する。なお、スペクトル測定装置10は、スリット幅変更部28と、スリット幅変更部28を駆動するためのアクチュエータ28Aと、アクチュエータ28Aにそれの駆動量を制御値として入力する距離制御器を構成する制御部26とを搭載している。以下では、こうした構成からなるスペクトル測定装置10の測定結果に基づいて車両の運転支援が行われる例について説明する。
【0085】
図7に示されるように、このスペクトル測定装置10が搭載される車両Cには、イグニッションがオンであるかオフであるかを検出するイグニッションセンサや、車両Cの周辺における物体と車両Cとの間の距離を検出可能にする対物センサから構成される車載センサ31が搭載されている。こうした車載センサ31を搭載する車両Cには、車載センサ31からの各種検出結果を取得して、スペクトル測定処理に必要となる各種情報を生成するデータ処理部32が搭載されている。
【0086】
具体的には、このデータ処理部32は、車載センサ31からの検出結果に基づいて、スペクトル測定装置10を起動させるか否かを示す情報を生成する。さらに、さらにデータ処理部32は、車載センサ31からの検出結果、さらには先行するスペクトル測定の測定結果である識別データに基づいて、スペクトル測定装置10における各種設定の条件、例えば単スリット12aの幅の設定に必要となる条件を示す設定条件情報を生成する。ここで設定条件情報とは、例えば、測定対象の周辺環境を示す各種データ、車両Cの移動状況である走行状況を示す各種データ、さらには先行して実施されたスペクトル測定の測定結果である識別データのうちから抽出される情報のことをいう。ちなみに、周辺環境を示す各種データとは、スペクトルの測定処理に要求される時間を示唆するデータであって、例えば、昼と夜とを区別するための明度に関するデータ、晴れか雨かを区別する天候に関するデータ、都市部と農村部とで代表される地理的データ等のことをいう。また、車両Cの走行状況を示す各種データとは、スペクトルの測定処理に要求される時間を示唆するデータであって、例えば、曲線路を走行する場合に検出される横方向の加速度の値、急制動や急加速された場合に発生する加速度の大幅な変動の度合い等のデータのことをいう。そしてデータ処理部32は、周辺環境を示す各種データ、走行状況を示す各種データ、および識別データの各々に予め設定された重み付けを行い、重みの大きいものを設定条件情報として抽出する。
【0087】
車両Cに搭載されるスペクトル測定装置10には、データ処理部32からの運転支援に必要とされる情報に基づいて、スペクトル測定装置10の起動判定を実行するとともに、データ処理部32からの設定条件情報に基づいてアクチュエータ28Aの駆動量を制御する制御部26が搭載されている。
【0088】
またこの制御部26は、上記設定条件に、単スリット12aの幅が対応付けられたマップ等にて構成される幅制御データを格納している。具体的には、こうした幅制御データは、測定するデータ量を低減する必要がある場合には、空間的な解像度を低く設定するべく、単スリット12aの幅を広げるようなかたちで構成されている。ちなみに測定するデータ量を低減する必要がある場合を示す設定条件とは、例えば、昼や農村部を走行する等して車両Cの走行速度が速い場合、あるいは、曲線路を走行する等して測定対象20が短時間で変動するような場合である。そして設定条件情報をデータ処理部32から制御部26が取得すると、当該制御部26は、上記幅制御データを参照して、単スリット12aの幅を決定する。
【0089】
またこの制御部26は、単スリット12aの幅がアクチュエータ28Aの駆動量に対応付けられたテーブル等にて構成される駆動量データDB1を格納している。そして上記設定条件情報を取得すると、当該制御部26は、上記駆動量データDB1を参照し、単スリット12aの幅に対応するアクチュエータ28Aの駆動量を演算する。そして制御部26は、アクチュエータ28Aをそれに対応する駆動量で制御し、その結果、単スリット12aの幅が変動することとなる。
【0090】
次に、本実施の形態のスペクトル測定装置10を搭載する車両Cにて行われる一連のスペクトル測定処理について図8を参照して説明する。なお、本実施の形態におけるスペクトル測定処理も、第1の実施の形態と同様に、車両Cの電源状態がACC(Accessory)オンの状態である期間に所定の演算周期で繰り返して実行される。
【0091】
図8に示されるように、当該スペクトル測定処理においてはまず、スペクトル測定装置10の起動判定として、車載センサ31の検出結果に基づいて、イグニッションがオンであるか、あるいはオフであるかを、制御部26が判断する(ステップS10)。イグニッションがオフであると判断すると、制御部26はスペクトル測定処理を終了する。一方、
イグニッションがオンであると判断すると、例えば、車両Cが走行する周辺環境や、車両Cの走行状況を、車載センサ31が検出する(ステップS11)。そして、データ処理部32は、車載センサ31からの検出結果に基づいて、設定条件情報を抽出する。制御部26は、データ処理部32を介して、設定条件情報を取得し、上記距離制御データを参照して、当該当該距離に対応する単スリット12aの幅を決定する。このようにして単スリット12aの幅が決定されると、制御部26は、駆動量データDB1を参照して、アクチュエータ28Aを制御し、スリット幅変更部28を介して第1の遮蔽板12bおよび第2の遮蔽板12cを移動させる(ステップS12)。
【0092】
そして、制御部26は、各測定部分における波長成分ごとの強度を示すデータを測定器16から取得し、波長成分ごとの光の強度がその波長に対応付けられる態様でスペクトルデータを生成する(ステップS13)。
【0093】
その後、再度、車載センサ31の検出結果に基づいて、イグニッションがオンであるか、あるいはオフであるかを、制御部26が判断する(ステップS14)。車載センサ31がイグニッションがOFFであると判断すると、そのまま処理を終了する。一方、イグニッションがONであると判断すると、スペクトル測定装置10からのスペクトルデータを取得したスペクトルデータ解析部33は、上記辞書データDB2を参照して、当該スペクトルデータの各特異量に紐付けられた対象、すなわち測定部分の識別結果を上記識別データとして生成する(ステップS15)。次いでスペクトルデータ解析部33は、データ処理部32へその生成した識別データを出力し、このデータ処理部32において、同識別データに基づく運転支援を実行させるべく、処理はステップS11に戻される。これにより、その後の処理においては、ステップS15にて生成された識別データも加味された上記設定条件情報が抽出されて、単スリット12aの幅が決定されることとなる。
【0094】
なお、ステップS15にて、スペクトルデータ解析部33が、識別データを生成する際に、測定されたスペクトルのデータ量が多く、実時間でその処理を終了することができない場合には、そのデータ量を低減させる処理、すなわちデータを間引く処理を行うようにすることもできる。
【0095】
以上説明したように、第3の実施の形態に係るスペクトル測定装置10によれば、以下列記するような効果が得られるようになる。
(11)分光器14と結像器15と測定器16との間の距離を変動させることなく、スペクトル測定装置が備える遮蔽板12に設けられた単スリット12aの幅を変動させ、広くすることができるようにした。これにより、測定対象20の上端から下端の各測定部分20aに関するスペクトルを順にするために、遮蔽板12を移動させるための回数を削減することによって、空間的な解像度を下げることができる。すなわち、空間的な解像度を下げることができることから、測定すべきデータの総量を低減させることができるようになる。したがって、スペクトルデータの処理を実時間で終了させることができるスペクトル測定装置の提供を通じ、ドライバーの運転支援をすることができるようになる。
【0096】
(12)分光器14と結像器15と測定器16との間の距離を変動させることなく、スペクトル測定装置10が使用される周辺環境に応じて、スペクトル測定装置が備える遮蔽板12に設けられた単スリット12aの幅を変動させ、広くすることができるようにした。これにより、このスペクトル測定装置10が使用される周辺環境に応じて測定すべきスペクトルのデータの量を調整すべく、前記遮蔽板12に設けられた単スリット12aの幅を変動させることができるようになる。すなわち、例えば、晴れの日等に走行する場合のように、移動体たる車両Cの速度が速い場合は、前記データの処理速度を速くするべく、空間的な解像度を下げることができる。したがって、上記周辺環境に応じて、測定すべきスペクトルデータの処理速度を速くすべくデータ量を低減させるときには、空間的な解像
度を下げるために、遮蔽板12に設けられた単スリット12aの幅を広げることができるようになる。これに伴い、スペクトル測定装置10が使用される周辺環境に応じた測定結果を得るためのスペクトルデータの処理を、実時間で終了させることができるスペクトル測定装置の提供を通じ、ドライバーの運転支援をすることができるようになる。
【0097】
(13)分光器14と結像器15と測定器16との間の距離を変動させることなく、スペクトルデータに基づく上記識別データに応じて、スペクトル測定装置が備える遮蔽板12に設けられた単スリット12aの幅を変動させ、広くすることができるようにした。これにより、この識別データに応じて測定すべきスペクトルデータの量を調整すべく、単スリット12aの幅を変動させることができるようになる。すなわち、上記スペクトル測定結果に応じて、測定すべきスペクトルデータの処理速度を速くすべくデータ量を低減させるときには、空間的な解像度を下げるために、遮蔽板12に設けられた単スリット12aの幅を広げることができるようになる。これに伴い、スペクトル測定装置10のスペクトル測定結果に応じた測定結果を得るためのスペクトルデータの処理を、実時間で終了させることができるスペクトル測定装置の提供を通じ、ドライバーの運転支援をすることができるようになる。
【0098】
(14)分光器14と結像器15と測定器16との間の距離を変動させることなく、スペクトル測定装置10が搭載されている車両Cの走行状況に応じて、スペクトル測定装置が備える遮蔽板12に設けられた単スリット12aの幅を変動させ、広くすることができるようにした。これにより、このスペクトル測定装置10が搭載されている車両Cの走行状況に応じて測定すべきスペクトルデータの量を調整すべく、単スリット12aの幅を変動させることができるようになる。すなわち、車両Cが曲線路や悪路を走行する場合等は、測定すべきシーンを次々と更新させていく必要があるため、測定したデータの処理速度を速めるべく、空間的な解像度を下げることができる。したがって、車両Cの走行状況に応じて、例えば空間的な解像度を下げる場合のように、測定すべきスペクトルデータの量を低減させるときには、遮蔽板12に設けられた単スリット12aの幅を初期的な幅から広げることができるようになる。これに伴い、スペクトル測定装置10を搭載する車両Cの走行状況に応じた測定結果を得るためのデータの処理を、実時間で終了させることができるスペクトル測定装置の提供を通じ、ドライバーの運転支援をすることができるようになる。
【0099】
(15)分光器14と結像器15と測定器16との間の距離を変動させることなく、スペクトル測定装置10が測定したすべてのデータを処理しないようにすることとした。これにより、例えば、都市部を走行する場合のように波長成分の分解能を高くし、測定すべきスペクトルデータの量を増加させるときであっても、実時間内でのデータ処理を達成することができる範囲内に処理すべきスペクトルデータの量を制限することができるようになる。
【0100】
なお、上記各実施の形態は、以下のような態様をもって実施することもできる。
・上記第1、および第2の実施の形態では、単スリット12aの幅が固定される構成としたが、これら第1、および第2の実施の形態が、第3の実施の形態、すなわちスリットの幅を変更可能にするスリット幅変更部を搭載する構成であってもよい。こうした構成であれば、スペクトルデータのデータ量がより広い範囲で縮小可能になる。
【0101】
・上記の各実施の形態のデータ処理部32では、周辺環境を示す各種データ、走行状況を示す各種データ、および識別データの各々に重みが付けられて設定条件情報が抽出される構成を説明したが、これに限られない。データ処理部32は、周辺環境を示す各種データ、および走行状況を示す各種データのいずれか一方のみを取得してそれを設定条件情報として扱う構成であってもよい。つまり測定対象の周辺環境、成分ごとの強度、および移
動体の移動状況のいずれか一つに応じて距離変更部又はスリット幅変更部が駆動される構成であってもよい。
【0102】
・上記の各実施の形態では、制御部26が、測定対象20を測定する周辺の環境や、車両Cの挙動等の走行状況に基づいて、波長成分の分解能や空間的な解像度を決定する。しかしこれに限らず、例えば、赤外線レーダ、ミリ波レーダ、車載カメラ等の対物センサによって測定することができる測定対象20と単スリット12aとの間の距離に基づいて、波長成分の分解能や空間的な解像度を決定するとしてもよい。このようにしても、上記の各実施例と同様の作用効果を得ることができる。
【0103】
・上記の各実施の形態では、結像器15を用いることとしたが、これに限らず、このような結像器15を用いなくてもよい。すなわち、遮蔽板12が備える単スリット12aにマイクロレンズ等を設け、測定対象20からの光が拡散する前に収束させてしまえば、結像器15を用いずとも、測定器16に分光器14で波長ごとに分光された光が入射することになる。これにより、分光器14と測定器16との間の距離が短くなるにつれ、測定器16に前記波長ごとに分光された光が入射する範囲が狭くなり、測定に用いられる受光素子の数が減るため、測定すべきデータ量を低減させることができる。さらに、結像器15の焦点距離たるb1を考慮する必要がなくなるため、分光器14と測定器16との間の距離がいかなる距離であるとしても、上記光の結像が不鮮明となることはない。したがって、精度の高いデータ解析をすることができるようになる。また、この場合、単スリット12aが移動するにつれ、測定器16に上記光が入射する範囲も移動していくことになる。すなわち、単スリット12aの位置により、測定器16に前記光が入射する範囲が決定されるため、この範囲が干渉しないようにしつつ遮蔽板12にスリットを複数本設けることにより、遮蔽板12を移動させる回数を削減することができるようにもなる。
【0104】
・上記の各実施の形態では、遮蔽板12の1回あたりの移動量を同遮蔽板12に設けられた単スリット12aの幅と同一としたが、これに限らず、その幅よりも大きい移動量としてもよい。これにより、測定対象20の全域を測定するために要する走査回数が減り、空間的な解像度を下げて、測定すべきスペクトルデータの量を低減させることができる。
【0105】
・上記の各実施の形態では、データ処理部32とスペクトルデータ解析部33とは、スペクトル測定装置10ではなく移動体たる車両Cに設けられているが、これに限られない。すなわち、データ処理部32とスペクトルデータ解析部33とが、スペクトル測定装置10に設けられているとしてもよい。また、制御部26がスペクトル測定装置10に設けられているとしたが、これに限らず、前記車両Cに設けられるとしてもよい。このようにしても、上記の各実施例と同様の作用効果を得ることができる。
【0106】
・データ処理部32およびスペクトルデータ解析部33は移動体たる車両Cに設けられ、制御部26はその車両Cが搭載するスペクトル測定装置10に設けられているとしたが、これに限られない。例えば、車両Cが情報を外部とやり取りするための送受信部を備えており、データ処理部32、スペクトルデータ解析部33および制御部26のいずれか、またはすべてが車両C外部に設けられている情報を一括して処理するための情報処理センター等に設けられていてもよい。このようにしても、上記の各実施例と同様の作用効果を得ることができる。
【0107】
・上記の各実施の形態では、遮蔽板12が、第1の遮蔽板12bと第2の遮蔽板12cとから構成され、単スリット12aの幅はこれら第1の遮蔽板12bと第2の遮蔽板12cとが平行移動することで拡大するとしたが、これに限られない。例えば、側面の長手方向に単スリットを有する円筒を各円筒の中心軸が一致するように2本組み合わせ、これらの円筒を互いに滑動または摺動等しつつ回転させることとしてもよい。このようにしても
、上記の第3の実施例と同様の作用効果を得ることができる。
【0108】
・上記の各実施の形態では、例えば凸レンズ等の光を透過せさる視準器13を用いたが、これに限らず、光を反射させる凹面鏡等をコリメーションミラーとして用いてもよい。このようにしても、上記の各実施例と同様の作用効果を得ることができる。
【0109】
・上記の各実施の形態では、例えばプリズムや回折格子等の光を透過させる分光器14を用いたが、これに限らず、凸形状のグレーティング等、光を透過させない分光器を用いてもよい。このようにしても、上記の各実施例と同様の作用効果を得ることができる。
【0110】
・上記の実施の形態では、例えば凸レンズ等の光を透過せさる結像器15を用いたが、これに限らず、光を反射させる凹面鏡等をフォーカシングミラーとして用いてもよい。このようにしても、上記の各実施例と同様の作用効果を得ることができる。
【符号の説明】
【0111】
10…スペクトル測定装置、11…集光器、12…遮蔽板、12a…単スリット、12b…第1の遮蔽板、12c…第2の遮蔽板、13…視準器、14…分光器、15…結像器、16…測定器、20…測定対象、20a…測定部分、24…距離変更部、26…制御部、28…スリット幅変更部、100…ハイパースペクトルセンサ、111…入射口、112…ミラー、113…集光器、114…遮蔽板、114a…単スリット、115…視準器、116…分光器、117…結像器、118…測定器、118a…受光素子、118b…受光素子、120…対象物、120a…測定部分。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
測定対象からの光を通過させるスリットが設けられる遮蔽部と、
前記スリットを通過した光を分光する分光器と、
分光された成分ごとの光の強度を測定する複数の受光素子から構成される測定器と
を備えるスペクトル測定装置において、
前記分光器と前記測定器との間の距離を変更可能にする距離変更部を備えることを特徴とするスペクトル測定装置。
【請求項2】
前記分光された成分ごとの光を前記受光素子上に収束させる結像器をさらに備え、
前記距離変更部は、前記結像器と前記測定器との間の距離を保持しつつ、前記分光器と前記測定器との間の距離を変更可能にすることを特徴とする請求項1に記載のスペクトル測定装置。
【請求項3】
前記距離変更部による変更の態様を、前記測定対象の周辺環境に応じた制御値によって制御する制御部を備えることを特徴とする請求項1または2に記載のスペクトル測定装置。
【請求項4】
前記距離変更部による変更の態様を、前記成分ごとの強度に応じた制御値によって制御する制御部を備えることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載のスペクトル測定装置。
【請求項5】
前記スペクトル測定装置が移動体に搭載されるものであり、
前記距離変更部による変更の態様を、前記移動体の移動状況に応じた制御値によって制御する制御部を備えることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載のスペクトル測定装置。
【請求項6】
前記スリットの幅を変更可能にするスリット幅変更部をさらに備えることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載のスペクトル測定装置。
【請求項7】
前記スリット幅変更部の変更の態様を、前記測定対象の周辺環境に応じた制御値によって制御する制御部を備えることを特徴とする請求項6に記載のスペクトル測定装置。
【請求項8】
前記スリット幅変更部の変更の態様を、前記成分ごとの強度に応じた制御値によって制御する制御部を備えることを特徴とする請求項6または7に記載のスペクトル測定装置。
【請求項9】
前記スペクトル測定装置が移動体に搭載されるものであり、
前記スリット幅変更部の変更の態様を、前記移動体の移動状況に応じた制御値によって制御する制御部を備えることを特徴とする請求項6〜8のいずれか一項に記載のスペクトル測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2010−276552(P2010−276552A)
【公開日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−131471(P2009−131471)
【出願日】平成21年5月29日(2009.5.29)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】