スペーサ付きガラス板及び複層ガラス窓の組立方法並びに複層ガラス窓
【課題】本発明は、複層ガラス窓を構成する際にガラス板の孔開け加工が不要であり、かつ、複層ガラス窓の意匠性を向上させることができるスペーサ付きガラス板及び複層ガラス窓の組立方法並びに複層ガラス窓を提供する。
【解決手段】本発明のスペーサ付きガラス板10、40は、スペーサ20の一部であるコーナーキー34に空気抜き用の貫通孔34Cを設ける。これにより、ガラス窓14にスペーサ付きガラス板10を取り付ける際に、スペーサ付きガラス板10をガラス窓14に圧着しても、空気層内の空気が貫通孔34Cを介して外部に排気されるので、圧着時の加圧に対して空気層内の圧力を減圧できる。また、コーナーキー34の貫通孔34Cをキャップ36の本体部36Aで封止する。本体部36Aはコーナーキー34に隠れて複層ガラス窓から露出しないので、複層ガラス窓の見栄え、意匠性が向上する。
【解決手段】本発明のスペーサ付きガラス板10、40は、スペーサ20の一部であるコーナーキー34に空気抜き用の貫通孔34Cを設ける。これにより、ガラス窓14にスペーサ付きガラス板10を取り付ける際に、スペーサ付きガラス板10をガラス窓14に圧着しても、空気層内の空気が貫通孔34Cを介して外部に排気されるので、圧着時の加圧に対して空気層内の圧力を減圧できる。また、コーナーキー34の貫通孔34Cをキャップ36の本体部36Aで封止する。本体部36Aはコーナーキー34に隠れて複層ガラス窓から露出しないので、複層ガラス窓の見栄え、意匠性が向上する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スペーサ付きガラス板、及び複層ガラス窓の組立方法、並びに複層ガラス窓に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、建物に施工されている既存の単板構成のガラス窓に、新規のガラス板を並設することによって、前記ガラス窓を複層ガラス窓に改築することが提案されている。既存のガラス窓を複層ガラス窓の一部として利用することにより、施工費を削減することができるとともに、施工期間の短縮、既存のガラス窓の廃棄が不要、及びサッシの交換が不要なるという利点がある。
【0003】
新規のガラス板を既存のガラス窓に取り付ける施工方法は、まず、乾燥剤が封入されたスペーサの一方の側面をガラス窓の周縁部にブチルゴム(一次シール材)によって接着する。次に、前記スペーサの他方の側面に新規のガラス板をブチルゴム(一次シール材)によって接着する。次いで、既存のガラス窓と新規のガラス板との間の端縁部の隙間に形状保持のためのシール材(二次シール材)を打設する。この施工手順に従って、複層ガラス窓を施工していた。
【0004】
一方、特許文献2には、新規のガラス板の表面に貫通孔が加工された複層ガラス窓が開示されている。前記複層ガラス窓によれば、前記新規のガラス板を既存のガラス窓に接着する際に、新規のガラス板とガラス窓との間の空気層内の空気を、前記貫通孔から抜くことができる。そして、前記貫通孔は、複層ガラス窓の組み立て後にナット付きの栓体によって塞がれる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第4003908号公報
【特許文献2】特開昭58−29991号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献2に開示された複層ガラス窓は、ガラス板に貫通孔を加工する必要があるので、ガラス板の加工コストが嵩むという問題があった。また、特許文献2の複層ガラス窓は、前記貫通孔を封止する栓体のナットが複層ガラス窓の表面に露出するので、複層ガラス窓の意匠性が悪くなるという問題があった。
【0007】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたもので、複層ガラス窓を構成する際にガラス板の孔開け加工が不要であり、かつ、複層ガラス窓の意匠性を向上させることができるスペーサ付きガラス板及び複層ガラス窓の組立方法並びに複層ガラス窓を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、前記目的を達成するために、略矩形状のガラス板と、前記ガラス板の4辺の周辺部に沿って設置され複数本のスペーサからなり、前記スペーサを連結して略矩形状に配置し、前記ガラス板の一方の面部の周辺部よりも内側に前記スペーサの一方の側面が第1のブチルゴムを介して接着されるとともに、前記スペーサの他方の側面に第2のブチルゴムが接着されたスペーサ付きガラス板であって、前記スペーサの端部同士を前記ガラス板の隅部において連結するL字形状のスペーサ接続部材を備え、該スペーサ接続部材の少なくとも1箇所に貫通孔が開口され、該貫通孔を介して前記ガラス板の前記スペーサで囲まれる矩形状の内側と外側が連通されていることを特徴とするスペーサ付きガラス板を提供する。
【0009】
また、本発明は、前記目的を達成するために、本発明のスペーサ付きガラス板を現場に準備する工程と、前記現場にて前記スペーサ付きガラス板を、該現場に既設の窓ガラスに第2のブチルゴムを介して接着する接着工程と、スペーサ接続部材の貫通孔を栓によって封止する封止工程と、前記スペーサ付きガラス板と前記窓ガラスの周辺部をシール材で封着する封着工程と、を備えたことを特徴とする複層ガラス窓の組立方法を提供する。
【0010】
本発明によれば、コーナー接続部材に貫通孔を形成し、この貫通孔を栓によって封止するので、ガラス板の加工が不要であり、また、栓はコーナー接続部材に隠れて複層ガラス窓から露出しないので、複層ガラス窓の見栄え、意匠性が向上する。
【0011】
本発明の前記栓は非透湿性である樹脂製であり、ブチルゴムを介して前記貫通孔に嵌合されることが好ましい。
【0012】
本発明によれば、コーナー接続部材の貫通孔に起因する複層ガラス窓の結露を防止することができる。
【0013】
更に、本発明は、前記目的を達成するために、本発明の複層ガラス窓の組立方法により組み立てられたことを特徴とする複層ガラス窓を提供する。
【0014】
本発明によれば、ガラス板の孔開け加工が不要であり、かつ、意匠性の高い複層ガラス窓を提供できる。
【発明の効果】
【0015】
本発明のスペーサ付きガラス板及び複層ガラス窓の組立方法並びに複層ガラス窓によれば、複層ガラス窓を構成する際にガラス板の孔開け加工が不要であり、かつ、複層ガラス窓の意匠性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】第1の実施の形態のスペーサ付きガラス板の斜視図
【図2】図1に示したスペーサ付きガラス板の製造工程を示した要部拡大側面図
【図3】ガラス窓にスペーサ付きガラス板を組み付ける直前状態を示した斜視図
【図4】スペーサを隅部において接続するコーナーキーを示した斜視図
【図5】第2の実施の形態のスペーサ付きガラス板の斜視図
【図6】図3に示したスペーサ付きガラス板の要部拡大断面図
【図7】框にスポンジゴムとセッティングブロックが取り付けられた説明図
【図8】既存のガラス窓にスペーサ付きガラス板を取り付ける直前の側面図
【図9】スペーサ付きガラス板をガラス窓にローラーを用いて押し付ける説明図
【図10】複層ガラス窓を室内側から見た正面図
【図11】複層ガラス窓の下部縦断面図
【図12】複層ガラス窓の上部縦断面図
【図13】従来の二次シールの打設位置を示した複層ガラス窓の縦断面図
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、添付図面に従って本発明に係るスペーサ付きガラス板及び複層ガラス窓の組立方法並びに複層ガラス窓の好ましい実施の形態を詳説する。
【0018】
図1は、第1の実施の形態のスペーサ付きガラス板10の全体斜視図である。図2は、スペーサ付きガラス板10の製造過程を(A)〜(D)の順に示した要部拡大側面図である。
【0019】
スペーサ付きガラス板10は、図3の斜視図の如く建物のガラス窓用框12に嵌め込まれて固定された既存のガラス窓14の室内側開口部側に、現場にて取り付けられることにより、ガラス窓14と共に複層ガラス窓を構成する新規のガラス板である。複層ガラス窓の組立方法については後述する。また、スペーサ付きガラス板10は、ガラス窓14の室外側開口部側に取り付けてもよい。
【0020】
スペーサ付きガラス板10は図2(D)の如く、矩形状のガラス板16、非透湿性のブチルゴム(第1のブチルゴム)18、スペーサ20、非透湿性のブチルゴム(第2のブチルゴム)22、及び離型紙テープ24から構成される。また、ガラス板16は、図3に示したガラス窓16よりも小サイズのものである。
【0021】
スペーサ付きガラス板10の製造方法は、まず、図2(A)、(B)に示すように、ガラス板16の一方の面16Aの周辺部よりも内側に枠状のスペーサ20の一方の側面20Aを、ブチルゴム18によって接着する。次に、図2(C)、(D)に示すようにスペーサ20の他方の側面20Bにブチルゴム22を接着し、このブチルゴム22にブチルゴムを覆う形で離型紙テープ24を接着する。この離型紙テープ24は、スペーサ付きガラス板10をガラス窓14(図5参照)に取り付ける直前にブチルゴム22から取り外される。これにより、ブチルゴム22は、スペーサ付きガラス板10をガラス窓14に取り付ける直前まで、その接着力が保持される。
【0022】
このような製造過程を経ることによって、図1に示したスペーサ付きガラス板10が工場にて製造される。なお、離型紙テープ24としては、PET製のフィルムを挙げることができる。また、スペーサ20としては意匠性の観点から黒色のものが好ましい。
【0023】
一方、ガラス板16の一方の面16Aの、枠状に組み立てられたスペーサ20より内側の領域には、複層ガラス窓の断熱性、及び遮熱性の向上のために、Low−E膜26が形成されている。Low−E膜26としては、第1の酸化物膜、Ag膜、第2の酸化物膜がこの順に積層されたものの他、熱線遮蔽膜自身が酸化物や窒化物であるタイプのものも適用できる。なお、Low−E膜26も覆い保護するために、離型紙テープ24の代わりにLow−E膜26全体を保護する、ガラス板16と略同形状の保護シートをブチルゴム22に接着してもよい。
【0024】
スペーサ20は、アルミニウム製の中空型材によって構成され、その内部空間に粒状のシリカゲル28が封入されている。また、ガラス板16の4辺に沿って配置された4本のスペーサ20、20…同士の対向する面には吸湿窓30が開口されている。更に、吸湿窓30が接着テープ32によって封止されている。この接着テープ32は、施工現場にてスペーサ付きガラス板10をガラス窓14に組み付ける直前にスペーサ20から取り外される。接着テープは、気体透過性の非常に小さな材料であり、これにより、シリカゲル28は、スペーサ付きガラス板10がガラス窓14に組み付けられるまで、大気に晒されることなく水分の吸着が少ない状態に保持される。
【0025】
なお、図2(A)では、ブチルゴム18をガラス板16側に接着しているが、スペーサ20の一方の側面20Aにブチルゴム18を接着してスペーサ20をガラス板16に接着してもよい。更に、スペーサ20の両側にはじめからブチルゴム18、22を接着しておいてもよい。また、実施の形態では、ガラス板16として単板構成の普通板ガラスを例示するが、合わせガラス、強化ガラス、倍強度ガラス、網入りガラス、熱線吸収ガラス、又は熱線反射ガラス等であってもよい。更に、ガラス板16の取り扱い中にガラス板16を破損させないために、ガラス板16の隅部を面取り加工(例えばC面取り)するとともに、小口面のエッジも面取り加工しておくことが好ましい。
【0026】
スペーサ20は、各々の隅部において図4に示すL字形状のコーナーキー(スペーサ接続部材)34によって接続される。コーナーキー34は、本体ブロック34Aと、本体ブロック34Aから直角方向に延設された嵌合部34B、34Bとを有し、嵌合部34B、34Bの鋸歯部を隣接する2本のスペーサ20、20の内部空間に嵌挿することにより、隣接する2本のスペーサ20、20がコーナーキー34を介して直角方向に接続される。
【0027】
また、本体ブロック34Aには、貫通孔34Cが開口されている。この貫通孔34Cは、本体ブロック34Aの外側端面34Dから内側端面34Eにかけて形成されており、図5に示したガラス窓14にスペーサ付きガラス板10を接着する際の空気抜き用孔として利用される。つまり、ガラス窓14とスペーサ付きガラス板10との間には空気層が存在するが、ガラス窓14にスペーサ付きガラス板10を接着していく過程で生じた余分な空気が空気層から貫通孔34Cを介して外部に排気される。これにより、前記空気層の内圧が大気圧となり、施工時にブチルゴムを小さな荷重で十分密着させることが可能となる。
【0028】
図4の如く貫通孔34Cは、ガラス窓14にスペーサ付きガラス板10が接着された後、キャップ(栓)36が嵌合されることにより閉塞される。キャップ36は、略円錐形状の本体部36Aとツマミ部36Bとから構成され、ツマミ部36Bを作業者が摘んで本体部36Aを貫通孔34Cに嵌挿する。この際、前記空気層の非透湿性を高める観点から、本体部36Aを非透湿性である樹脂製とし、かつ本体部36Aの周部にブチルゴム38を塗布しておくことが好ましい。また、本体部36Aを貫通孔34Cに嵌挿した後、後述する二次シールを複層ガラス窓の周部に打設する前に、ツマミ部36Bを本体部36Aから切断しておくことが好ましい。更に、貫通孔34Cは、スペーサ20の隅部に配置された4個のコーナーキー34の全てに備える必要はなく、1個または2個のコーナーキー34のみにあればよい。
【0029】
図5は、第2の実施の形態のスペーサ付きガラス板40の斜視図である。図6は、スペーサ付きガラス板40の要部拡大断面である。なお、スペーサ付きガラス板40について、図1、図2に示したスペーサ付きガラス板10と同一又は類似の部材については同一の符号を付して説明は省略する。
【0030】
このスペーサ付きガラス板40のガラス板16の一方の面16Aに形成されているLow−E膜42は、第1の酸化物膜、Ag膜、第2の酸化物膜がこの順に積層された熱線遮蔽積層膜である。また、このスペーサ付きガラス板40では、ガラス板16の一方の面16Aを覆うように、すなわち、Low−E膜42の全面を覆うように保護シート44がブチルゴム22に着脱自在に接着されている。
【0031】
Low−E膜42は、スパッタリング法によってガラス板16の一方の面16Aの全面に形成されるが、ブチルゴム18が接着されるガラス板16の外周部に形成された部分がトリミングされて除去される。また、積層タイプのLow−E膜42は、熱線遮蔽膜自身が酸化物や窒化物であるタイプのLow−E膜よりも遮熱性能が優れるという利点があるが、熱線遮蔽膜自身が酸化物や窒化物であるタイプのLow−E膜よりも傷付き易いという特性を有する。
【0032】
そこでLow−E膜42の傷付きを防止するために、工場にてスペーサ20が予め取り付けられたスペーサ付きガラス板40に対し、出荷前の段階で、Low−E膜42の全面を覆うように矩形の保護シート44をブチルゴム22に着脱自在に接着する。この保護シート44は、施工現場にてスペーサ付きガラス板40を、ガラス窓14(図5参照)に組み付ける直前にブチルゴム22から取り外される。これにより、Low−E膜42を傷付けることなくスペーサ付きガラス板40を工場から施工現場まで搬送できる。
【0033】
ところで、スペーサ付きガラス板40では、ガラス板16の一方の面16Aと保護シート44とスペーサ20とによって密閉される空間46に乾燥剤48が封入されている。
【0034】
積層タイプのLow−E膜42は、水分(湿気)に弱いAg膜を有する。このため、Low−E膜42を大気に晒しておくと劣化してしまう。この理由から、前記空間46に乾燥剤48を封入したので、Low−E膜42を湿気から保護することができ、Low−E膜42が形成された複層ガラス窓の耐久性を高めることができる。
【0035】
なお、工場にてスペーサ付きガラス板40を製造した後、スペーサ付きガラス板40を工場にて長期間保管する場合には、乾燥剤48の封入量を多めにする。すなわち、乾燥剤48の封入量は、スペーサ付きガラス板40の納期に応じて調整すればよい。
【0036】
以上説明したスペーサ付きガラス板10、40は、新規のガラス板16に対し、工場にてスペーサ20をブチルゴム18によって予め接着するとともに、スペーサ20にブチルゴム22を予め接着し、このブチルゴム22に離型紙テープ24、保護シート44を着脱自在に接着することで製造される。
【0037】
このスペーサ付きガラス板10、40を工場から、図3に示した施工現場へ搬入して複層ガラス窓を組み立てる際には、離型紙テープ24、保護シート44をブチルゴム22から取り外し、ブチルゴム22を既存のガラス窓14に接着するだけでよい。したがって、実施の形態のスペーサ付きガラス板10、40を使用することにより、接着品質の問題、すなわち、施工品質が改善されるとともに、施工現場での手間も低減できるので、品質のよい複層ガラス窓を施工現場にて容易に組み立てることができる。
【0038】
次に、スペーサ付きガラス板10、40を使用した複層ガラス窓の組立方法の一例を説明する。なお、ここでは、スペーサ付きガラス板10を例示して説明し、スペーサ付きガラス板40については、スペーサ付きガラス板10による複層ガラス窓の組立方法と略同一なのでその説明は省略する。
【0039】
まず、図3、図7に示すように、縦框、横框12に沿って角柱状のスポンジゴム50、50…を取り付けるとともに底部側の横框12に、スペーサ付きガラス板10の自重を受けるセッティングブロック52、52を取り付ける。なお、セッティングブロック52は、1つでも複数個でも構わない。また、頂部の横框12に打設されているシーラント材54に溝56を切り込み形成し、この溝56に倒れ止め板58の上片58Aを嵌め込んで固定する。
【0040】
次に、図3の如くスペーサ付きガラス板10から離型紙テープ24を剥がし、図8の側面図の如くブチルゴム22を露出させるとともに、図2に示した接着テープ32をスペーサ20から剥がす。そして、このスペーサ付きガラス板10の底部をセッティングブロック52、52上に載置するとともに、スペーサ付きガラス板10の上部を図3に示した倒れ止め板58の係合片58Bに係合させる。この後、スペーサ付きガラス板10をガラス窓14に向けて押し付けて、スペーサ付きガラス板10をブチルゴム22によってガラス窓14に接着する。
【0041】
次いでブチルゴム22のガラス面への密着性を確保するために図9の如く、ローラー60によってガラス板16をガラス窓14に押し付けることにより、ブチルゴム22を圧縮してガラス窓14に圧着させる。
【0042】
ところで、既存のガラス窓と新規のガラス板との間の空気層内の空気を抜く貫通孔を備えていない複層ガラス窓においては、前記空気層内の空気は完全に密封された状態にある。したがって、新規のガラス板をガラス窓に接着させた後、ブチルゴムを所定のつぶれ量だけ圧縮(圧着)させるためには、その分、前記空気層に閉じ込められた空気を圧縮する必要がある。しかしながら、前記圧着に要する力は過大なものなので、人手では困難であり、また、プレス機を使用して圧着したくても狭い施工現場ではプレス機の使用が困難である。このため、現場施工では十分な圧着力を複層ガラス窓に加えることが難しく、ブチルゴムの防湿性能を十分に発揮させることができないという懸念があった。また、仮に初期に十分な圧着が可能であった場合でも、圧着時の加圧により既存のガラス窓、又は新規のガラス板の変形(膨張)や、それによる封着部、防湿部の剥離の懸念があった。
【0043】
特許文献2の如く複層ガラス窓のガラス板に貫通孔を開け、この貫通孔をナット付きのキャップで封止する構成の場合、前記空気層内の空気を前記貫通孔から抜くことができる。しかしながら、ガラス板に貫通孔を加工するため加工コストが嵩むという問題があり、また、前記ナットが複層ガラス窓の表面に露出するので、複層ガラス窓の意匠性が悪くなるという問題があった。
【0044】
そこで実施の形態のスペーサ付きガラス板10においては、図4に示したようにスペーサ20の一部であるコーナーキー34に空気抜き用の貫通孔34Cを設けている。これにより、ガラス窓14にスペーサ付きガラス板10を取り付ける際に、スペーサ付きガラス板10をガラス窓14に圧着しても、前記空気層内の空気が貫通孔34Cを介して外部に排気されるので、圧着時の加圧時に前記空気層内の圧力を減圧させる(外気圧と同等とする)ことが可能となる。したがって、現場施工においてもブチルゴム22を十分なつぶし代をもって圧着させることができると同時に、ガラス窓14、スペーサ付きガラス板10のガラス間隔が膨張せずに、良好な施工ができ、かつ封着部、防湿部の剥離の懸念を解消することができる。
【0045】
また、実施の形態の複層ガラス窓は、コーナーキー34の貫通孔34Cをキャップ36の本体部36Aで封止する構成なので、ガラス板16の孔開け加工が不要になる。また、キャップ36の本体部36Aはコーナーキー34に隠れて複層ガラス窓のガラス面から露出しないので、複層ガラス窓の見栄え、意匠性が低下することはない。以上の如く、実施の形態の複層ガラス窓は、特許文献2の問題を解消することができる。
【0046】
なお、スペーサ20に複数箇所に貫通孔34を備え、各貫通項34に空気弁(図示せず)を備えることで、スペーサ付きガラス板10をガラス窓14に取り付けた後の前記空気層に、1か所の貫通孔34C及び空気弁を介して乾燥空気やガスの封入し、他箇所の貫通孔34C及び空気弁を介して不要な内部空気を抜くことが可能となる。また、後に複層ガラス窓に内部結露が生じた場合にも、貫通孔34C及び空気弁を介して乾燥空気を入れ換えることができる。
【0047】
一方、図9に示したローラー60によるブチルゴム22の圧着が終了すると、貫通孔34Cをキャップ36の本体部36Aによって封止し、本体部36Aからツマミ部36Bを切断する。
【0048】
次に、ガラス窓14とスペーサ付きガラス板10の4辺の周部に、図10の平面図の如く二次シール材62を打設して、スペーサ付きガラス板10とスポンジゴム50との間の空隙を封止する。これによって、複層ガラス窓64が組み立てられる。二次シール材62としては、ガラスに対する接着性が高いポリサルファイド系シーラント、又はシリコーン系シーラントが使用される。
【0049】
二次シール材62の打設形態は、図11、図12に示すように、スペーサ20の外周面とスポンジゴム50との間の空間を空隙とせず、その空間に二次シール材62を充填し、かつスペーサ付きガラス板10の小口とスポンジゴム50との間の空間にも二次シール材62を充填する。これにより、既存のガラス窓14の内側面、新規のガラス板16の内側面と小口面、及びスペーサ20の外周面の4面に二次シール材62が接着するので、複層ガラス窓64の耐久性が向上する。
【0050】
図13の如く、既存の単板構成のガラス窓1に対し、現場にてスペーサ2と新規のガラス板3とを取り付けて複層ガラス窓4とする従来の組立方法は、新規のガラス板3を、スペーサ2を介して既存のガラス窓1にブチルゴム5によって接着し、その後、新規のガラス板3の小口部周辺部と框6との間の隙間に二次シール材7を打設する。
【0051】
従来の組立方法では、二次シール材7による耐湿性能については単純に二次シール材7の厚さ分しかない。このため、二次シール材7による耐湿効果が不十分であると同時に、複層ガラス窓4としての形状保持性能に不十分な点があった。
【0052】
そこで、実施の形態の複層ガラス窓64の組立方法では、図11、図12に示したように、スペーサ20の外周面とスポンジゴム50との間の空間を空隙とせず、その空間に二次シール材62を充填し、かつスペーサ付きガラス板10の小口とスポンジゴム50との間の空間にも二次シール材62を充填した。これにより、既存のガラス窓14の内側面、新規のガラス板16の内側面と小口面、及びスペーサ20の外周面の4面に二次シール材62が接着するので、耐久性の優れた品質のよい複層ガラス窓を施工現場にて組み立てることができる。
【0053】
また、図11、図12によれば、一次シール材であるブチルゴム18、22と二次シール材62とが接触するため、ガラス窓14及びガラス板16の変形が抑えられ、かつ二次シール材62がブチルゴム18、22を保護するため、複層ガラスの耐久性がより高められる。
【0054】
また、実施の形態の複層ガラス窓64は、二次シール材62の周囲であって、スペーサ付きガラス板10と框12との間にスポンジゴム50等の弾性部材を配置している。このため、地震時に複層ガラス窓64に層間変形が生じた場合にもスペーサ付きガラス板10のロッキングによる動きを前記弾性部材によって吸収できるため、層間変形追従性能上において望ましい構成となる。
【0055】
また、従来の構成では、新規のガラス板は二次シール材のみによってその自重が支持されていた。そのため二次シール材には長期の荷重が作用し、二次シール材の耐久性を考慮した場合に望ましい構成ではなかった。
【0056】
この問題を解消するために、実施の形態の複層ガラス窓64では、スペーサ付きガラス板10の下辺小口部にセッティングブロック52、52を設置することで、二次シール材62に対してスペーサ付きガラス板10の自重による荷重を作用させない構成としている。セッティングブロック52によってスペーサ付きガラス板10の自重を二次シール材62に支持させる必要がないため、厚板ガラス、大板ガラスへの対応も可能となる。ここで、セッティングブロック52は、その材質がスポンジゴム50より硬質である弾性部材が望ましく、ゴム製が好ましい。
【0057】
更に、スペーサ付きガラス板10の上部に、スペーサ付きガラス板10の倒れを阻止する倒れ止め板58を設けることで、二次シール材62が硬化するまでの間、確実にスペーサ付きガラス板10を望ましい位置に固定することができる。
【0058】
一方、ガラス板16の板厚は、既存のガラス窓14の板厚に対して75%以上であることが好ましい。
【符号の説明】
【0059】
10…スペーサ付きガラス板、12…框、14…ガラス窓、16…ガラス板、18…ブチルゴム、20…スペーサ、22…ブチルゴム、24…離型紙テープ、26…Low−E膜、28…シリカゲル、30…吸湿窓、32…接着テープ、34…コーナーキー、36…キャップ、38…ブチルゴム、40…スペーサ付きガラス板、42…Low−E膜、44…保護シート、46…空間、48…乾燥剤、50…スポンジゴム、52…セッティングブロック、54…シーラント材、56…溝、58…倒れ止め板、60…ローラー、62…二次シール材、64…複層ガラス窓
【技術分野】
【0001】
本発明は、スペーサ付きガラス板、及び複層ガラス窓の組立方法、並びに複層ガラス窓に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、建物に施工されている既存の単板構成のガラス窓に、新規のガラス板を並設することによって、前記ガラス窓を複層ガラス窓に改築することが提案されている。既存のガラス窓を複層ガラス窓の一部として利用することにより、施工費を削減することができるとともに、施工期間の短縮、既存のガラス窓の廃棄が不要、及びサッシの交換が不要なるという利点がある。
【0003】
新規のガラス板を既存のガラス窓に取り付ける施工方法は、まず、乾燥剤が封入されたスペーサの一方の側面をガラス窓の周縁部にブチルゴム(一次シール材)によって接着する。次に、前記スペーサの他方の側面に新規のガラス板をブチルゴム(一次シール材)によって接着する。次いで、既存のガラス窓と新規のガラス板との間の端縁部の隙間に形状保持のためのシール材(二次シール材)を打設する。この施工手順に従って、複層ガラス窓を施工していた。
【0004】
一方、特許文献2には、新規のガラス板の表面に貫通孔が加工された複層ガラス窓が開示されている。前記複層ガラス窓によれば、前記新規のガラス板を既存のガラス窓に接着する際に、新規のガラス板とガラス窓との間の空気層内の空気を、前記貫通孔から抜くことができる。そして、前記貫通孔は、複層ガラス窓の組み立て後にナット付きの栓体によって塞がれる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第4003908号公報
【特許文献2】特開昭58−29991号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献2に開示された複層ガラス窓は、ガラス板に貫通孔を加工する必要があるので、ガラス板の加工コストが嵩むという問題があった。また、特許文献2の複層ガラス窓は、前記貫通孔を封止する栓体のナットが複層ガラス窓の表面に露出するので、複層ガラス窓の意匠性が悪くなるという問題があった。
【0007】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたもので、複層ガラス窓を構成する際にガラス板の孔開け加工が不要であり、かつ、複層ガラス窓の意匠性を向上させることができるスペーサ付きガラス板及び複層ガラス窓の組立方法並びに複層ガラス窓を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、前記目的を達成するために、略矩形状のガラス板と、前記ガラス板の4辺の周辺部に沿って設置され複数本のスペーサからなり、前記スペーサを連結して略矩形状に配置し、前記ガラス板の一方の面部の周辺部よりも内側に前記スペーサの一方の側面が第1のブチルゴムを介して接着されるとともに、前記スペーサの他方の側面に第2のブチルゴムが接着されたスペーサ付きガラス板であって、前記スペーサの端部同士を前記ガラス板の隅部において連結するL字形状のスペーサ接続部材を備え、該スペーサ接続部材の少なくとも1箇所に貫通孔が開口され、該貫通孔を介して前記ガラス板の前記スペーサで囲まれる矩形状の内側と外側が連通されていることを特徴とするスペーサ付きガラス板を提供する。
【0009】
また、本発明は、前記目的を達成するために、本発明のスペーサ付きガラス板を現場に準備する工程と、前記現場にて前記スペーサ付きガラス板を、該現場に既設の窓ガラスに第2のブチルゴムを介して接着する接着工程と、スペーサ接続部材の貫通孔を栓によって封止する封止工程と、前記スペーサ付きガラス板と前記窓ガラスの周辺部をシール材で封着する封着工程と、を備えたことを特徴とする複層ガラス窓の組立方法を提供する。
【0010】
本発明によれば、コーナー接続部材に貫通孔を形成し、この貫通孔を栓によって封止するので、ガラス板の加工が不要であり、また、栓はコーナー接続部材に隠れて複層ガラス窓から露出しないので、複層ガラス窓の見栄え、意匠性が向上する。
【0011】
本発明の前記栓は非透湿性である樹脂製であり、ブチルゴムを介して前記貫通孔に嵌合されることが好ましい。
【0012】
本発明によれば、コーナー接続部材の貫通孔に起因する複層ガラス窓の結露を防止することができる。
【0013】
更に、本発明は、前記目的を達成するために、本発明の複層ガラス窓の組立方法により組み立てられたことを特徴とする複層ガラス窓を提供する。
【0014】
本発明によれば、ガラス板の孔開け加工が不要であり、かつ、意匠性の高い複層ガラス窓を提供できる。
【発明の効果】
【0015】
本発明のスペーサ付きガラス板及び複層ガラス窓の組立方法並びに複層ガラス窓によれば、複層ガラス窓を構成する際にガラス板の孔開け加工が不要であり、かつ、複層ガラス窓の意匠性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】第1の実施の形態のスペーサ付きガラス板の斜視図
【図2】図1に示したスペーサ付きガラス板の製造工程を示した要部拡大側面図
【図3】ガラス窓にスペーサ付きガラス板を組み付ける直前状態を示した斜視図
【図4】スペーサを隅部において接続するコーナーキーを示した斜視図
【図5】第2の実施の形態のスペーサ付きガラス板の斜視図
【図6】図3に示したスペーサ付きガラス板の要部拡大断面図
【図7】框にスポンジゴムとセッティングブロックが取り付けられた説明図
【図8】既存のガラス窓にスペーサ付きガラス板を取り付ける直前の側面図
【図9】スペーサ付きガラス板をガラス窓にローラーを用いて押し付ける説明図
【図10】複層ガラス窓を室内側から見た正面図
【図11】複層ガラス窓の下部縦断面図
【図12】複層ガラス窓の上部縦断面図
【図13】従来の二次シールの打設位置を示した複層ガラス窓の縦断面図
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、添付図面に従って本発明に係るスペーサ付きガラス板及び複層ガラス窓の組立方法並びに複層ガラス窓の好ましい実施の形態を詳説する。
【0018】
図1は、第1の実施の形態のスペーサ付きガラス板10の全体斜視図である。図2は、スペーサ付きガラス板10の製造過程を(A)〜(D)の順に示した要部拡大側面図である。
【0019】
スペーサ付きガラス板10は、図3の斜視図の如く建物のガラス窓用框12に嵌め込まれて固定された既存のガラス窓14の室内側開口部側に、現場にて取り付けられることにより、ガラス窓14と共に複層ガラス窓を構成する新規のガラス板である。複層ガラス窓の組立方法については後述する。また、スペーサ付きガラス板10は、ガラス窓14の室外側開口部側に取り付けてもよい。
【0020】
スペーサ付きガラス板10は図2(D)の如く、矩形状のガラス板16、非透湿性のブチルゴム(第1のブチルゴム)18、スペーサ20、非透湿性のブチルゴム(第2のブチルゴム)22、及び離型紙テープ24から構成される。また、ガラス板16は、図3に示したガラス窓16よりも小サイズのものである。
【0021】
スペーサ付きガラス板10の製造方法は、まず、図2(A)、(B)に示すように、ガラス板16の一方の面16Aの周辺部よりも内側に枠状のスペーサ20の一方の側面20Aを、ブチルゴム18によって接着する。次に、図2(C)、(D)に示すようにスペーサ20の他方の側面20Bにブチルゴム22を接着し、このブチルゴム22にブチルゴムを覆う形で離型紙テープ24を接着する。この離型紙テープ24は、スペーサ付きガラス板10をガラス窓14(図5参照)に取り付ける直前にブチルゴム22から取り外される。これにより、ブチルゴム22は、スペーサ付きガラス板10をガラス窓14に取り付ける直前まで、その接着力が保持される。
【0022】
このような製造過程を経ることによって、図1に示したスペーサ付きガラス板10が工場にて製造される。なお、離型紙テープ24としては、PET製のフィルムを挙げることができる。また、スペーサ20としては意匠性の観点から黒色のものが好ましい。
【0023】
一方、ガラス板16の一方の面16Aの、枠状に組み立てられたスペーサ20より内側の領域には、複層ガラス窓の断熱性、及び遮熱性の向上のために、Low−E膜26が形成されている。Low−E膜26としては、第1の酸化物膜、Ag膜、第2の酸化物膜がこの順に積層されたものの他、熱線遮蔽膜自身が酸化物や窒化物であるタイプのものも適用できる。なお、Low−E膜26も覆い保護するために、離型紙テープ24の代わりにLow−E膜26全体を保護する、ガラス板16と略同形状の保護シートをブチルゴム22に接着してもよい。
【0024】
スペーサ20は、アルミニウム製の中空型材によって構成され、その内部空間に粒状のシリカゲル28が封入されている。また、ガラス板16の4辺に沿って配置された4本のスペーサ20、20…同士の対向する面には吸湿窓30が開口されている。更に、吸湿窓30が接着テープ32によって封止されている。この接着テープ32は、施工現場にてスペーサ付きガラス板10をガラス窓14に組み付ける直前にスペーサ20から取り外される。接着テープは、気体透過性の非常に小さな材料であり、これにより、シリカゲル28は、スペーサ付きガラス板10がガラス窓14に組み付けられるまで、大気に晒されることなく水分の吸着が少ない状態に保持される。
【0025】
なお、図2(A)では、ブチルゴム18をガラス板16側に接着しているが、スペーサ20の一方の側面20Aにブチルゴム18を接着してスペーサ20をガラス板16に接着してもよい。更に、スペーサ20の両側にはじめからブチルゴム18、22を接着しておいてもよい。また、実施の形態では、ガラス板16として単板構成の普通板ガラスを例示するが、合わせガラス、強化ガラス、倍強度ガラス、網入りガラス、熱線吸収ガラス、又は熱線反射ガラス等であってもよい。更に、ガラス板16の取り扱い中にガラス板16を破損させないために、ガラス板16の隅部を面取り加工(例えばC面取り)するとともに、小口面のエッジも面取り加工しておくことが好ましい。
【0026】
スペーサ20は、各々の隅部において図4に示すL字形状のコーナーキー(スペーサ接続部材)34によって接続される。コーナーキー34は、本体ブロック34Aと、本体ブロック34Aから直角方向に延設された嵌合部34B、34Bとを有し、嵌合部34B、34Bの鋸歯部を隣接する2本のスペーサ20、20の内部空間に嵌挿することにより、隣接する2本のスペーサ20、20がコーナーキー34を介して直角方向に接続される。
【0027】
また、本体ブロック34Aには、貫通孔34Cが開口されている。この貫通孔34Cは、本体ブロック34Aの外側端面34Dから内側端面34Eにかけて形成されており、図5に示したガラス窓14にスペーサ付きガラス板10を接着する際の空気抜き用孔として利用される。つまり、ガラス窓14とスペーサ付きガラス板10との間には空気層が存在するが、ガラス窓14にスペーサ付きガラス板10を接着していく過程で生じた余分な空気が空気層から貫通孔34Cを介して外部に排気される。これにより、前記空気層の内圧が大気圧となり、施工時にブチルゴムを小さな荷重で十分密着させることが可能となる。
【0028】
図4の如く貫通孔34Cは、ガラス窓14にスペーサ付きガラス板10が接着された後、キャップ(栓)36が嵌合されることにより閉塞される。キャップ36は、略円錐形状の本体部36Aとツマミ部36Bとから構成され、ツマミ部36Bを作業者が摘んで本体部36Aを貫通孔34Cに嵌挿する。この際、前記空気層の非透湿性を高める観点から、本体部36Aを非透湿性である樹脂製とし、かつ本体部36Aの周部にブチルゴム38を塗布しておくことが好ましい。また、本体部36Aを貫通孔34Cに嵌挿した後、後述する二次シールを複層ガラス窓の周部に打設する前に、ツマミ部36Bを本体部36Aから切断しておくことが好ましい。更に、貫通孔34Cは、スペーサ20の隅部に配置された4個のコーナーキー34の全てに備える必要はなく、1個または2個のコーナーキー34のみにあればよい。
【0029】
図5は、第2の実施の形態のスペーサ付きガラス板40の斜視図である。図6は、スペーサ付きガラス板40の要部拡大断面である。なお、スペーサ付きガラス板40について、図1、図2に示したスペーサ付きガラス板10と同一又は類似の部材については同一の符号を付して説明は省略する。
【0030】
このスペーサ付きガラス板40のガラス板16の一方の面16Aに形成されているLow−E膜42は、第1の酸化物膜、Ag膜、第2の酸化物膜がこの順に積層された熱線遮蔽積層膜である。また、このスペーサ付きガラス板40では、ガラス板16の一方の面16Aを覆うように、すなわち、Low−E膜42の全面を覆うように保護シート44がブチルゴム22に着脱自在に接着されている。
【0031】
Low−E膜42は、スパッタリング法によってガラス板16の一方の面16Aの全面に形成されるが、ブチルゴム18が接着されるガラス板16の外周部に形成された部分がトリミングされて除去される。また、積層タイプのLow−E膜42は、熱線遮蔽膜自身が酸化物や窒化物であるタイプのLow−E膜よりも遮熱性能が優れるという利点があるが、熱線遮蔽膜自身が酸化物や窒化物であるタイプのLow−E膜よりも傷付き易いという特性を有する。
【0032】
そこでLow−E膜42の傷付きを防止するために、工場にてスペーサ20が予め取り付けられたスペーサ付きガラス板40に対し、出荷前の段階で、Low−E膜42の全面を覆うように矩形の保護シート44をブチルゴム22に着脱自在に接着する。この保護シート44は、施工現場にてスペーサ付きガラス板40を、ガラス窓14(図5参照)に組み付ける直前にブチルゴム22から取り外される。これにより、Low−E膜42を傷付けることなくスペーサ付きガラス板40を工場から施工現場まで搬送できる。
【0033】
ところで、スペーサ付きガラス板40では、ガラス板16の一方の面16Aと保護シート44とスペーサ20とによって密閉される空間46に乾燥剤48が封入されている。
【0034】
積層タイプのLow−E膜42は、水分(湿気)に弱いAg膜を有する。このため、Low−E膜42を大気に晒しておくと劣化してしまう。この理由から、前記空間46に乾燥剤48を封入したので、Low−E膜42を湿気から保護することができ、Low−E膜42が形成された複層ガラス窓の耐久性を高めることができる。
【0035】
なお、工場にてスペーサ付きガラス板40を製造した後、スペーサ付きガラス板40を工場にて長期間保管する場合には、乾燥剤48の封入量を多めにする。すなわち、乾燥剤48の封入量は、スペーサ付きガラス板40の納期に応じて調整すればよい。
【0036】
以上説明したスペーサ付きガラス板10、40は、新規のガラス板16に対し、工場にてスペーサ20をブチルゴム18によって予め接着するとともに、スペーサ20にブチルゴム22を予め接着し、このブチルゴム22に離型紙テープ24、保護シート44を着脱自在に接着することで製造される。
【0037】
このスペーサ付きガラス板10、40を工場から、図3に示した施工現場へ搬入して複層ガラス窓を組み立てる際には、離型紙テープ24、保護シート44をブチルゴム22から取り外し、ブチルゴム22を既存のガラス窓14に接着するだけでよい。したがって、実施の形態のスペーサ付きガラス板10、40を使用することにより、接着品質の問題、すなわち、施工品質が改善されるとともに、施工現場での手間も低減できるので、品質のよい複層ガラス窓を施工現場にて容易に組み立てることができる。
【0038】
次に、スペーサ付きガラス板10、40を使用した複層ガラス窓の組立方法の一例を説明する。なお、ここでは、スペーサ付きガラス板10を例示して説明し、スペーサ付きガラス板40については、スペーサ付きガラス板10による複層ガラス窓の組立方法と略同一なのでその説明は省略する。
【0039】
まず、図3、図7に示すように、縦框、横框12に沿って角柱状のスポンジゴム50、50…を取り付けるとともに底部側の横框12に、スペーサ付きガラス板10の自重を受けるセッティングブロック52、52を取り付ける。なお、セッティングブロック52は、1つでも複数個でも構わない。また、頂部の横框12に打設されているシーラント材54に溝56を切り込み形成し、この溝56に倒れ止め板58の上片58Aを嵌め込んで固定する。
【0040】
次に、図3の如くスペーサ付きガラス板10から離型紙テープ24を剥がし、図8の側面図の如くブチルゴム22を露出させるとともに、図2に示した接着テープ32をスペーサ20から剥がす。そして、このスペーサ付きガラス板10の底部をセッティングブロック52、52上に載置するとともに、スペーサ付きガラス板10の上部を図3に示した倒れ止め板58の係合片58Bに係合させる。この後、スペーサ付きガラス板10をガラス窓14に向けて押し付けて、スペーサ付きガラス板10をブチルゴム22によってガラス窓14に接着する。
【0041】
次いでブチルゴム22のガラス面への密着性を確保するために図9の如く、ローラー60によってガラス板16をガラス窓14に押し付けることにより、ブチルゴム22を圧縮してガラス窓14に圧着させる。
【0042】
ところで、既存のガラス窓と新規のガラス板との間の空気層内の空気を抜く貫通孔を備えていない複層ガラス窓においては、前記空気層内の空気は完全に密封された状態にある。したがって、新規のガラス板をガラス窓に接着させた後、ブチルゴムを所定のつぶれ量だけ圧縮(圧着)させるためには、その分、前記空気層に閉じ込められた空気を圧縮する必要がある。しかしながら、前記圧着に要する力は過大なものなので、人手では困難であり、また、プレス機を使用して圧着したくても狭い施工現場ではプレス機の使用が困難である。このため、現場施工では十分な圧着力を複層ガラス窓に加えることが難しく、ブチルゴムの防湿性能を十分に発揮させることができないという懸念があった。また、仮に初期に十分な圧着が可能であった場合でも、圧着時の加圧により既存のガラス窓、又は新規のガラス板の変形(膨張)や、それによる封着部、防湿部の剥離の懸念があった。
【0043】
特許文献2の如く複層ガラス窓のガラス板に貫通孔を開け、この貫通孔をナット付きのキャップで封止する構成の場合、前記空気層内の空気を前記貫通孔から抜くことができる。しかしながら、ガラス板に貫通孔を加工するため加工コストが嵩むという問題があり、また、前記ナットが複層ガラス窓の表面に露出するので、複層ガラス窓の意匠性が悪くなるという問題があった。
【0044】
そこで実施の形態のスペーサ付きガラス板10においては、図4に示したようにスペーサ20の一部であるコーナーキー34に空気抜き用の貫通孔34Cを設けている。これにより、ガラス窓14にスペーサ付きガラス板10を取り付ける際に、スペーサ付きガラス板10をガラス窓14に圧着しても、前記空気層内の空気が貫通孔34Cを介して外部に排気されるので、圧着時の加圧時に前記空気層内の圧力を減圧させる(外気圧と同等とする)ことが可能となる。したがって、現場施工においてもブチルゴム22を十分なつぶし代をもって圧着させることができると同時に、ガラス窓14、スペーサ付きガラス板10のガラス間隔が膨張せずに、良好な施工ができ、かつ封着部、防湿部の剥離の懸念を解消することができる。
【0045】
また、実施の形態の複層ガラス窓は、コーナーキー34の貫通孔34Cをキャップ36の本体部36Aで封止する構成なので、ガラス板16の孔開け加工が不要になる。また、キャップ36の本体部36Aはコーナーキー34に隠れて複層ガラス窓のガラス面から露出しないので、複層ガラス窓の見栄え、意匠性が低下することはない。以上の如く、実施の形態の複層ガラス窓は、特許文献2の問題を解消することができる。
【0046】
なお、スペーサ20に複数箇所に貫通孔34を備え、各貫通項34に空気弁(図示せず)を備えることで、スペーサ付きガラス板10をガラス窓14に取り付けた後の前記空気層に、1か所の貫通孔34C及び空気弁を介して乾燥空気やガスの封入し、他箇所の貫通孔34C及び空気弁を介して不要な内部空気を抜くことが可能となる。また、後に複層ガラス窓に内部結露が生じた場合にも、貫通孔34C及び空気弁を介して乾燥空気を入れ換えることができる。
【0047】
一方、図9に示したローラー60によるブチルゴム22の圧着が終了すると、貫通孔34Cをキャップ36の本体部36Aによって封止し、本体部36Aからツマミ部36Bを切断する。
【0048】
次に、ガラス窓14とスペーサ付きガラス板10の4辺の周部に、図10の平面図の如く二次シール材62を打設して、スペーサ付きガラス板10とスポンジゴム50との間の空隙を封止する。これによって、複層ガラス窓64が組み立てられる。二次シール材62としては、ガラスに対する接着性が高いポリサルファイド系シーラント、又はシリコーン系シーラントが使用される。
【0049】
二次シール材62の打設形態は、図11、図12に示すように、スペーサ20の外周面とスポンジゴム50との間の空間を空隙とせず、その空間に二次シール材62を充填し、かつスペーサ付きガラス板10の小口とスポンジゴム50との間の空間にも二次シール材62を充填する。これにより、既存のガラス窓14の内側面、新規のガラス板16の内側面と小口面、及びスペーサ20の外周面の4面に二次シール材62が接着するので、複層ガラス窓64の耐久性が向上する。
【0050】
図13の如く、既存の単板構成のガラス窓1に対し、現場にてスペーサ2と新規のガラス板3とを取り付けて複層ガラス窓4とする従来の組立方法は、新規のガラス板3を、スペーサ2を介して既存のガラス窓1にブチルゴム5によって接着し、その後、新規のガラス板3の小口部周辺部と框6との間の隙間に二次シール材7を打設する。
【0051】
従来の組立方法では、二次シール材7による耐湿性能については単純に二次シール材7の厚さ分しかない。このため、二次シール材7による耐湿効果が不十分であると同時に、複層ガラス窓4としての形状保持性能に不十分な点があった。
【0052】
そこで、実施の形態の複層ガラス窓64の組立方法では、図11、図12に示したように、スペーサ20の外周面とスポンジゴム50との間の空間を空隙とせず、その空間に二次シール材62を充填し、かつスペーサ付きガラス板10の小口とスポンジゴム50との間の空間にも二次シール材62を充填した。これにより、既存のガラス窓14の内側面、新規のガラス板16の内側面と小口面、及びスペーサ20の外周面の4面に二次シール材62が接着するので、耐久性の優れた品質のよい複層ガラス窓を施工現場にて組み立てることができる。
【0053】
また、図11、図12によれば、一次シール材であるブチルゴム18、22と二次シール材62とが接触するため、ガラス窓14及びガラス板16の変形が抑えられ、かつ二次シール材62がブチルゴム18、22を保護するため、複層ガラスの耐久性がより高められる。
【0054】
また、実施の形態の複層ガラス窓64は、二次シール材62の周囲であって、スペーサ付きガラス板10と框12との間にスポンジゴム50等の弾性部材を配置している。このため、地震時に複層ガラス窓64に層間変形が生じた場合にもスペーサ付きガラス板10のロッキングによる動きを前記弾性部材によって吸収できるため、層間変形追従性能上において望ましい構成となる。
【0055】
また、従来の構成では、新規のガラス板は二次シール材のみによってその自重が支持されていた。そのため二次シール材には長期の荷重が作用し、二次シール材の耐久性を考慮した場合に望ましい構成ではなかった。
【0056】
この問題を解消するために、実施の形態の複層ガラス窓64では、スペーサ付きガラス板10の下辺小口部にセッティングブロック52、52を設置することで、二次シール材62に対してスペーサ付きガラス板10の自重による荷重を作用させない構成としている。セッティングブロック52によってスペーサ付きガラス板10の自重を二次シール材62に支持させる必要がないため、厚板ガラス、大板ガラスへの対応も可能となる。ここで、セッティングブロック52は、その材質がスポンジゴム50より硬質である弾性部材が望ましく、ゴム製が好ましい。
【0057】
更に、スペーサ付きガラス板10の上部に、スペーサ付きガラス板10の倒れを阻止する倒れ止め板58を設けることで、二次シール材62が硬化するまでの間、確実にスペーサ付きガラス板10を望ましい位置に固定することができる。
【0058】
一方、ガラス板16の板厚は、既存のガラス窓14の板厚に対して75%以上であることが好ましい。
【符号の説明】
【0059】
10…スペーサ付きガラス板、12…框、14…ガラス窓、16…ガラス板、18…ブチルゴム、20…スペーサ、22…ブチルゴム、24…離型紙テープ、26…Low−E膜、28…シリカゲル、30…吸湿窓、32…接着テープ、34…コーナーキー、36…キャップ、38…ブチルゴム、40…スペーサ付きガラス板、42…Low−E膜、44…保護シート、46…空間、48…乾燥剤、50…スポンジゴム、52…セッティングブロック、54…シーラント材、56…溝、58…倒れ止め板、60…ローラー、62…二次シール材、64…複層ガラス窓
【特許請求の範囲】
【請求項1】
略矩形状のガラス板と、前記ガラス板の4辺の周辺部に沿って設置され複数本のスペーサからなり、前記スペーサを連結して略矩形状に配置し、
前記ガラス板の一方の面部の周辺部よりも内側に前記スペーサの一方の側面が第1のブチルゴムを介して接着されるとともに、前記スペーサの他方の側面に第2のブチルゴムが接着されたスペーサ付きガラス板であって、
前記スペーサの端部同士を前記ガラス板の隅部において連結するL字形状のスペーサ接続部材を備え、該スペーサ接続部材の少なくとも1箇所に貫通孔が開口され、該貫通孔を介して前記ガラス板の前記スペーサで囲まれる矩形状の内側と外側が連通されていることを特徴とするスペーサ付きガラス板。
【請求項2】
請求項1に記載のスペーサ付きガラス板を現場に準備する工程と、
前記現場にて前記スペーサ付きガラス板を、該現場に既設の窓ガラスに第2のブチルゴムを介して接着する接着工程と、
スペーサ接続部材の貫通孔を栓によって封止する封止工程と、
前記スペーサ付きガラス板と前記窓ガラスの周辺部をシール材で封着する封着工程と、
を備えたことを特徴とする複層ガラス窓の組立方法。
【請求項3】
前記栓は非透湿性である樹脂製であり、ブチルゴムを介して前記貫通孔に嵌合される請求項2に記載の複層ガラス窓の組立方法。
【請求項4】
請求項2又は3に記載の複層ガラス窓の組立方法により組み立てられたことを特徴とする複層ガラス窓。
【請求項1】
略矩形状のガラス板と、前記ガラス板の4辺の周辺部に沿って設置され複数本のスペーサからなり、前記スペーサを連結して略矩形状に配置し、
前記ガラス板の一方の面部の周辺部よりも内側に前記スペーサの一方の側面が第1のブチルゴムを介して接着されるとともに、前記スペーサの他方の側面に第2のブチルゴムが接着されたスペーサ付きガラス板であって、
前記スペーサの端部同士を前記ガラス板の隅部において連結するL字形状のスペーサ接続部材を備え、該スペーサ接続部材の少なくとも1箇所に貫通孔が開口され、該貫通孔を介して前記ガラス板の前記スペーサで囲まれる矩形状の内側と外側が連通されていることを特徴とするスペーサ付きガラス板。
【請求項2】
請求項1に記載のスペーサ付きガラス板を現場に準備する工程と、
前記現場にて前記スペーサ付きガラス板を、該現場に既設の窓ガラスに第2のブチルゴムを介して接着する接着工程と、
スペーサ接続部材の貫通孔を栓によって封止する封止工程と、
前記スペーサ付きガラス板と前記窓ガラスの周辺部をシール材で封着する封着工程と、
を備えたことを特徴とする複層ガラス窓の組立方法。
【請求項3】
前記栓は非透湿性である樹脂製であり、ブチルゴムを介して前記貫通孔に嵌合される請求項2に記載の複層ガラス窓の組立方法。
【請求項4】
請求項2又は3に記載の複層ガラス窓の組立方法により組み立てられたことを特徴とする複層ガラス窓。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2012−140766(P2012−140766A)
【公開日】平成24年7月26日(2012.7.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−292634(P2010−292634)
【出願日】平成22年12月28日(2010.12.28)
【出願人】(000000044)旭硝子株式会社 (2,665)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年7月26日(2012.7.26)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年12月28日(2010.12.28)
【出願人】(000000044)旭硝子株式会社 (2,665)
【Fターム(参考)】
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