説明

スポット溶接構造体の疲労寿命予測方法

【課題】実際のスポット溶接構造体の破壊現象をシミュレートすることで、スポット溶接構造の疲労寿命を精度よく予測することが可能なスポット溶接構造体の疲労寿命予測方法を提供する。
【解決手段】スポット溶接構造体の疲労寿命予測方法は、各スポット溶接部の各共有節点7に加わる力とモーメントを算出し、算出された力とモーメントとから各共有節点7の評価応力を算出し、算出された評価応力と疲労寿命線図とに基づいて各共有節点7の疲労寿命を予測する疲労寿命予測方法であって、予測された各共有節点7の疲労寿命から各共有節点7のダメージを算出し、算出されたダメージが破断限界に到達した共有節点7が存在するスポット溶接部3を有限要素モデル1から取り除いて、各共有節点7の疲労寿命の算出を繰り返す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数枚の金属板が複数箇所でスポット溶接されているスポット溶接構造体の疲労寿命予測方法に関し、例えば、自動車のボディにおいて疲労亀裂が発生する可能性のある部位の疲労寿命を予測する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車の開発において、軽量化、開発期間短縮、試作車両の削減の課題に応えるため、近年コンピュータを用いたCAE(Computer Aided Engineering)による各種性能の予測が積極的に推進されている。車体の強度評価についても例外ではなく、その技術も加速的に進歩しており、構造体の強度解析のためには有限要素法が有用なことがこれまでに検証されている。構造体の中には、自動車のボディのように、複数枚の金属板が複数箇所でスポット溶接されているものがあり、この種のスポット溶接構造体の強度をコンピュータを用いて解析する場合には、スポット溶接部をモデル化し、そのモデルに対して有限要素法を適用するのが一般的である。
【0003】
例えば、特許文献1には、平板とL型板とをあわせてスポット溶接構造としてのLPモデルを作成し、LPモデルに対して有限要素法解析用シェルモデルを作成し、作成した有限要素法解析用シェルモデルを用いて有限要素法線形弾性解析を行ってスポット溶接部中央の溶接ナゲット部の分担荷重と、その溶接ナゲット部を中心として描いた直径Dの円周上のたわみと、放射方向の傾斜とを算出し、算出した分担荷重、円周上のたわみ及び放射方向の傾斜に基づいて溶接ナゲット部における公称構造応力を弾性学の円板理論を用いて求め、この公称構造応力よりスポット溶接構造の疲労寿命を予測する方法が提案されている。ここで、有限要素法解析用シェルモデルは、シェル要素を用いて作成されるものであり、ナゲット部付近をくもの巣状の密なシェル要素に分割するモデルである。
【0004】
また、特許文献2には、スポット溶接構造に対して有限要素法解析用シェルモデルを作成し、作成した有限要素法解析用シェルモデルを用いて有限要素法線形弾性解析を行ってスポット溶接部中央の溶接ナゲット部の分担荷重と、その溶接ナゲット部を中心として描いた直径Dの円周上の変位とを算出し、算出した分担荷重及び円周上の変位に基づいて溶接ナゲット部における公称構造応力を弾性学の円板理論及び二次元弾性論を用いて求め、この公称構造応力よりスポット溶接構造の疲労寿命を予測する方法が提案されている。
【0005】
さらに、特許文献3には、複数枚のパネルが複数箇所でスポット溶接されて形成されている構造体の亀裂発生危険部位を予測する方法であり、スポット溶接部を共有節点モデルでモデル化する工程と、そのモデルに有限要素法を適用して、共有節点に隣接する節点での面直方向の剥離距離に対応する値を算出する工程と、算出された値を所定値と比較する工程とを備えることによって亀裂発生危険部位を予測する方法が提案されている。
【特許文献1】特開2003−149130号公報
【特許文献2】国際公開第2004/99761号パンフレット
【特許文献3】特開2002−35986号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ここで、実際の疲労試験におけるスポット溶接構造体の破壊現象では、疲労寿命に達したスポット溶接部が順次破断していく。そして、スポット溶接構造のスポット溶接部が破断すると、破断したスポット溶接部が負担していた外的負荷を残りのスポット溶接部が負担することとなる。したがって、スポット溶接部の破断が進行すると、残りのスポット溶接部が負担する外的負荷が除々に増大することとなる。
【0007】
しかしながら、特許文献1から3に提案された方法では、スポット溶接部の破断の進行と残りのスポット溶接部が負担する外的負荷の増大との関係が考慮されておらず、スポット溶接構造の疲労寿命を精度よく予測することができないという問題がある。
本発明は上記した従来技術の問題点を解決するためになされたものであり、その目的は、実際のスポット溶接構造体の破壊現象をシミュレートすることで、スポット溶接構造体の疲労寿命を精度よく予測することが可能なスポット溶接構造体の疲労寿命予測方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本願請求項1記載のスポット溶接構造体の疲労寿命予測方法は、複数枚の金属板が複数箇所でスポット溶接されているスポット溶接構造体の有限要素モデルの各スポット溶接部において、前記金属板をシェル要素でモデル化すると共に、1つの溶接ナゲット部を1本のビーム要素でモデル化し、
そのモデルに有限要素法を適用して、各スポット溶接部における前記シェル要素と前記ビーム要素が接続する各共有節点に繋がっている複数のシェル要素から前記各共有節点に加わる力とモーメントを算出し、
算出された力とモーメントとから前記各共有節点の評価応力を算出し、
算出された評価応力と予め準備された疲労寿命線図とに基づいて前記各共有節点の疲労寿命を予測するスポット溶接構造体の疲労寿命予測方法であって、
予測された前記各共有節点の疲労寿命から前記各共有節点のダメージを算出し、
算出されたダメージの値が疲労寿命に到達した前記共有節点が存在するスポット溶接部を前記有限要素モデルから取り除いて、前記各共有節点の疲労寿命の算出を繰り返すことを特徴とする。
【0009】
また、本願請求項2記載のスポット溶接構造体の疲労寿命予測方法は、複数枚の金属板が複数箇所でスポット溶接されているスポット溶接構造体の有限要素モデルの各スポット溶接部において、前記金属板をシェル要素でモデル化すると共に、1つの溶接ナゲット部を1本のビーム要素でモデル化し、そのモデルに有限要素法を適用して前記スポット溶接構造体の疲労寿命を予測するスポット溶接構造体の疲労寿命予測方法であって、
前記各スポット溶接部における前記シェル要素と前記ビーム要素が接続する各共有節点に繋がっている複数のシェル要素から前記各共有節点に加わる力とモーメントを算出する工程と、
算出された力とモーメントとから、前記各共有節点の評価応力を算出する工程と、
算出された評価応力と予め準備された疲労寿命線図とに基づいて、前記各共有節点の疲労寿命Nfを予測する工程と、
予測された疲労寿命Nfと残存ダメージDleiとから、前記各共有節点の疲労寿命Nfiを下記式(1)により算出する工程と、
算出された前記各共有節点の疲労寿命Nfiのうち、最短の疲労寿命Nfiminを求める工程と、
求められた最短の疲労寿命Nfiminの間に前記各共有節点が受けるダメージDiを下記式(2)により算出する工程と、
算出されたダメージDiから、前記各共有節点が破断に至るまでの残存ダメージDleiを下記式(3)により算出する工程と、
算出された残存ダメージDleiの値が0になった前記共有節点が存在する前記スポット溶接部を、前記有限要素モデルから取り除く工程とを有し、
予め設定された数の前記スポット溶接部の残存ダメージDleiの値が0になるまで前記各工程を繰り返すことを特徴とする。
Nfi=Nf・Dle(i−1) ・・・(1)
Di=Nfimin/Nfi ・・・(2)
【0010】
【数2】

【発明の効果】
【0011】
本願請求項1又は2記載のスポット溶接構造体の疲労寿命予測方法によれば、予測された各共有節点の疲労寿命から前記各共有節点のダメージを算出し、算出されたダメージが破断限界に到達した前記共有節点が存在するスポット溶接部を有限要素モデルから取り除いて、前記各共有節点の疲労寿命の算出を繰り返す構成により、実際のスポット溶接構造体の破壊現象をシミュレートすることができ、スポット溶接構造体の疲労寿命を精度よく予測することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態に係るスポット溶接構造体の疲労寿命予測方法を図面を参照して説明する。
図1は、スポット溶接構造体の有限要素解析モデルを示す図である。図2は、図1に示す有限要素解析モデルのうちのある一つのスポット溶接部の拡大図である。図3は、本発明の実施形態に係るスポット溶接構造体の疲労寿命予測方法のフローチャートである。図4は、ビーム要素の各端部にシェル要素から加わる力とモーメントを示す図である。図5は、評価応力と疲労寿命との関係を示す疲労寿命線図である。
【0013】
本発明の実施形態に係るスポット溶接構造体の疲労寿命予測方法は、実際のスポット溶接構造体(図示せず)の破壊現象をシミュレートすることで、スポット溶接構造体の疲労寿命を精度よく予測するものである。なお、以下の処理はコンピュータにより行われる。
すなわち、スポット溶接構造体について有限要素法による解析を行うべく、図1に示すスポット溶接構造体モデル(有限要素モデル)1を作成する。
【0014】
スポット溶接構造体モデル1では、図1に示すように、複数枚の鋼板(金属板)2a,2b,2c,2e,2fが複数のスポット溶接部(図1において図示せず)でスポット溶接されている。
そして、作成されたスポット溶接構造体モデル1について、所定位置に荷重を引張方向と圧縮方向に与える両振り荷重の条件で、有限要素法による構造解析を行う。
【0015】
かかる構造解析においては、まず、図2に示すように、スポット溶接構造体モデル1の各スポット溶接部3において、溶接される2枚の鋼板をシェル要素4でモデル化すると共に、1つの溶接ナゲット部5を1本のビーム要素6でモデル化する。ここで、各シェル要素4とビーム要素6の各端とは、共有節点7で接続されている。また、各共有節点7には、4つのシェル要素4a,4b,4c,4dが繋がっている。なお、本実施形態においては、各シェル要素4a,4b,4c,4dは四角形要素であるが、四角形以外の要素であっても構わない。
【0016】
そして、予め設定されたm箇所のスポット溶接部3に破断が生じるまでのスポット溶接構造体モデル1の疲労寿命Nfstを以下の方法により算出する。ここで、予め設定されるmの値は、スポット溶接構造体モデル1に存在する全てのスポット溶接部3の数以下であれば任意に設定することが可能である。
まず、図3に示すように、スポット溶接構造体モデル1について有限要素法による構造解析を行い、各スポット溶接部3のビーム要素6の各共有節点7について、4つのシェル要素4a,4b,4c,4dから各共有節点7に加わる力とモーメントを算出する(ステップS101)。ここで、1箇所目のスポット溶接部3に破断が生じるまでのスポット溶接構造体モデル1の疲労寿命Nfstの算出時には、全てのスポット溶接部3が存在するスポット溶接構造体モデル1について構造解析が行われることとなる。
【0017】
この場合、図4に示すように、各共有節点7には、4つのシェル要素4a,4b,4c,4dから、シェル要素面内のせん断力Fx及びFy、シェル要素面に対して垂直方向の応力Fz並びにシェル要素面に作用する曲げモーメントMx及びMyが加わる。
そして、算出された力とモーメントとから、各スポット溶接部3のビーム要素6の各共有節点7における評価応力Δσstを算出する(ステップS102)。
【0018】
ここで、本実施形態においては、両振り荷重による構造解析を行っているため、評価応力Δσstは、振幅の最大値である評価応力σstmaxと振幅の最小値である評価応力σstminとの差により算出される。なお、評価応力Δσstの算出方法は、振幅の最大値である評価応力σstmaxと振幅の最小値である評価応力σstminとの差以外の方法により算出する構成としても構わない。
そして、評価応力σstは、有限要素法により算出されたシェル要素面内のせん断力Fx及びFy、シェル要素面に対して垂直方向の応力Fz並びにシェル要素面に作用する曲げモーメントMx及びMyと下記式(4)とから算出される。
【0019】
【数3】

【0020】
ただし、dは図2に示す溶接ナゲット部5の溶接ナゲット径、tは鋼板の板厚、θは図2及び図4に示す角度である。
【0021】
次に、予め実験によって作成しておいた評価応力Δσstと疲労寿命との関係を示すデータを格納したデータベースとに基づいて、各スポット溶接部3のビーム要素6の各共有節点7の疲労寿命Nfを予測する(ステップS103)。ここで、本実施形態においては、算出された評価応力Δσstと、予め準備された図5に示す疲労寿命線図とに基づき疲労寿命Nfを予測する。なお、疲労寿命Nfは、各スポット溶接部3のビーム要素6の各共有節点7に評価応力Δσstを繰り返し作用した場合の、各共有節点7が破断するまでの繰り返し数(サイクル)として予測される。
【0022】
そして、予測された疲労寿命Nfから、各スポット溶接部3のビーム要素6の各共有節点7の疲労寿命Nfiを下記式(1)により算出する(ステップS104)。
Nfi=Nf・Dle(i−1) ・・・(1)
ここで、iの値は1からmまで順次設定され、1箇所目のスポット溶接部3に破断が生じるまでのスポット溶接構造体モデル1の疲労寿命Nfstの算出時にはi=1となる(以下同様)。
【0023】
また、有限要素法による構造解析を開始する前のスポット溶接構造体モデル1では、各スポット溶接部3のビーム要素6の各共有節点7はダメージを受けていない状態となっている。したがって、この場合、各共有節点7のダメージの値は0となるため、後述する各共有節点7が破断に至るまでの残存ダメージDle0の値は1となる。よって、1箇所目のスポット溶接部3に破断が生じるまでのスポット溶接構造体モデル1の疲労寿命Nfstの算出時には、各スポット溶接部3のビーム要素6の各共有節点7の疲労寿命Nf1が下記式(5)により算出されることとなる。
Nf1=Nf ・・・(5)
【0024】
また、算出されたスポット溶接部3のビーム要素6の各共有節点7の疲労寿命Nfiのうち、最短の疲労寿命Nfiminを求める(ステップS105)。
1箇所目のスポット溶接部3に破断が生じるまでのスポット溶接構造体モデル1の疲労寿命Nfstの算出時には、算出されたスポット溶接部3のビーム要素6の各共有節点7の疲労寿命Nf1のうち、最短の疲労寿命Nf1minが求められる。
【0025】
そして、求められた最短の疲労寿命Nfiminの間に各スポット溶接部3のビーム要素6の各共有節点7が受けるダメージDiを下記式(2)により算出する(ステップS106)。
Di=Nfimin/Nfi ・・・(2)
【0026】
ここで、本実施形態においては、ダメージDiは、最短の疲労寿命Nfimin間に各共有節点7に作用した各評価応力Δσstの繰り返し数の、各共有節点7の疲労寿命Nfiに対する比として算出している。よって、最短の疲労寿命Nfiminの共有節点7のダメージDiの値は1となる。そして、ダメージDiの値が1に達した共有節点7は破断が生じたものとされる。
【0027】
1箇所目のスポット溶接部3に破断が生じるまでのスポット溶接構造体モデル1の疲労寿命Nfstの算出時には、求められた最短の疲労寿命Nf1minの間に各スポット溶接部3のビーム要素6の各共有節点7が受けるダメージD1が下記式(6)により算出されることとなる。
D1=Nf1min/Nf1 ・・・(6)
また、各スポット溶接部3のビーム要素6の各共有節点7が破断に至るまでの残存ダメージDleiを下記式(3)により算出する(ステップS107)。
【0028】
【数4】

【0029】
ここで、上述したように、ダメージDiの値が1に達した共有節点7は破断が生じたものとされることから、残存ダメージDleiの値が0になった共有接点7は破断が生じたものとされる。
【0030】
1箇所目のスポット溶接部3に破断が生じるまでのスポット溶接構造体モデル1の疲労寿命Nfstの算出時には、残存ダメージDle1が下記式(7)により算出されることとなる。
Dle1=1−D1 ・・・(7)
そして、残存ダメージDleiが0になった共有節点7が存在するスポット溶接部3は破断が生じたものとされる。
【0031】
次に、i箇所のスポット溶接部3に破断が生じるまでのスポット溶接構造体モデル1の疲労寿命Nfstを下記式(8)により算出する(ステップS108)。
【0032】
【数5】

【0033】
1箇所目のスポット溶接部3に破断が生じるまでのスポット溶接構造体モデル1の疲労寿命Nfstは、下記式(9)により算出されることとなる。
Nfst=Nf1min ・・・(9)
【0034】
次に、予め設定されたm箇所のスポット溶接部3に破断が生じたか否かの判定が行われる(ステップS109)。
そして、予め設定されたm箇所のスポット溶接部3に破断が生じたと判定された場合には処理を終了する。
一方、予め設定されたm箇所のスポット溶接部3に破断が生じていないと判定された場合には、残存ダメージDleiが0になった共有節点7(最短の疲労寿命Nfiminの共有節点7)が存在するスポット溶接部3のビーム要素6をスポット溶接構造体モデル1から取り除く(ステップS110)。
【0035】
そして、ステップS101に戻り、残存ダメージDleiが0になった共有節点7が存在するスポット溶接部3のビーム要素6が取り除かれたスポット溶接構造体モデル1について再度構造解析が実施され、ステップS101からステップS109を繰り返す。
1箇所目のスポット溶接部3に破断が生じるまでのスポット溶接構造体モデル1の疲労寿命Nfstの算出時に、予め設定されたm箇所のスポット溶接部3に破断が生じていないと判定された場合には、残存ダメージDle1が0になった共有節点7(最短の疲労寿命Nf1minの共有節点7)が存在するスポット溶接部3のビーム要素6がスポット溶接構造体モデル1から取り除かれる。
【0036】
そして、残存ダメージDle1が0になった共有節点7が存在するスポット溶接部3のビーム要素6が取り除かれたスポット溶接構造体モデル1について再度構造解析が実施され、2箇所目のスポット溶接部3に破断が生じるまでのスポット溶接構造体モデル1の疲労寿命Nfstの算出が行われる。
この場合、各スポット溶接部3のビーム要素6の各共有節点7に加わる力とモーメントを算出し(ステップS101)、各共有節点7における評価応力Δσstを改めて算出する(ステップS102)。
【0037】
また、改めて算出された評価応力Δσstと図5に示す疲労寿命線図とに基づき、各スポット溶接部3のビーム要素6の各共有節点7における、改めて算出された評価応力Δσstに対応する疲労寿命Nfを予測する(ステップS103)。この場合、ここで予測された各スポット溶接部3のビーム要素6の各共有節点7における疲労寿命Nfは、1箇所目のスポット溶接部3に破断が生じるまでのスポット溶接構造体モデル1の疲労寿命Nfstの間に各共有節点7が既に受けたダメージD1を考慮していないものとなっている。
【0038】
そこで、算出された疲労寿命Nfと残存ダメージDle1とから、各スポット溶接部3のビーム要素6の各共有節点7の疲労寿命Nf2を上記式(1)により改めて算出する(ステップS104)。
2箇所目のスポット溶接部3に破断が生じるまでのスポット溶接構造体モデル1の疲労寿命Nfstの算出時には、各共有節点7の疲労寿命Nf2が下記式(10)により算出されることとなる。
Nf2=Nf・Dle1 ・・・(10)
【0039】
また、改めて算出されたスポット溶接部3のビーム要素6の各共有節点7の疲労寿命Nf2のうち、最短の疲労寿命Nf2minを求める(ステップS105)。
そして、求められた最短の疲労寿命Nf2minの間に各スポット溶接部3のビーム要素6の各共有節点7が受けるダメージD2を上記式(2)により算出する(ステップS106)。
【0040】
2箇所目のスポット溶接部3に破断が生じるまでのスポット溶接構造体モデル1の疲労寿命Nfstの算出時には、各共有節点7が受けるダメージD2が下記式(11)により算出されることとなる。
D2=Nf2min/Nf2 ・・・(11)
さらに、各スポット溶接部3のビーム要素6の各共有節点7が破断に至るまでの残存ダメージDle2を上記式(3)により算出する(ステップS107)。
【0041】
2箇所目のスポット溶接部3に破断が生じるまでのスポット溶接構造体モデル1の疲労寿命Nfstの算出時には、各共有節点7が破断に至るまでの残存ダメージDle2が下記式(12)により算出されることとなる。
Dle2=1−(D1+D2) ・・・(12)
【0042】
次に、2箇所のスポット溶接部3に破断が生じるまでのスポット溶接構造体モデル1の疲労寿命Nfstを上記式(8)により算出する(ステップS108)。
2箇所目のスポット溶接部3に破断が生じるまでのスポット溶接構造体モデル1の疲労寿命Nfstは、下記式(13)により算出されることとなる。
Nfst=Nf1min+Nf2min ・・・(13)
【0043】
さらに、予め設定されたm箇所のスポット溶接部3に破断が生じたか否かが判定され(ステップS109)、n箇所のスポット溶接部3に破断が生じていないと判定された場合には、残存ダメージDle2が0になった共有節点7が存在するスポット溶接部3のビーム要素6がスポット溶接構造体モデル1からさらに取り除かれる(ステップS110)。
【0044】
そして、ステップS101に戻り、残存ダメージDle2が0になった共有節点7が存在するスポット溶接部3のビーム要素6がさらに取り除かれたスポット溶接構造体モデル1について再度構造解析が実施され、ステップS101からステップS109が繰り返される。
以上の構成により、本発明の実施形態に係るスポット溶接構造体の疲労寿命予測方法によれば、実際のスポット溶接構造体の疲労試験でみられる、スポット溶接部3に順次破断が生じながらスポット溶接構造体が破壊されていくスポット溶接構造体の破壊現象をシミュレートすることが可能となり、スポット溶接構造体の疲労寿命を精度よく予測することが可能となる。
【実施例】
【0045】
次に、本発明の実施例に係るスポット溶接構造体の疲労寿命予測方法を用いてスポット溶接構造体の疲労寿命を算出した場合と、比較例に係る従来の手法である、全てのスポット溶接部がスポット構造体に存在した状態でスポット溶接構造体の疲労寿命を算出した場合とを比較してその効果を説明する。
図6は、本実施例の解析対象のスポット溶接構造体の有限要素解析モデルを示す図である。
【0046】
本実施例においては、図6に示すように、図1に示すスポット溶接構造体モデル1の4箇所のスポット溶接部A,B,C,Dに破断が生じるまでの疲労寿命を算出した。
スポット溶接構造体モデルにおける各溶接部の疲労寿命の算出結果を表1に示す。なお、表1では、各スポット溶接部の疲労寿命について、本発明例により算出した疲労寿命、比較例により算出した疲労寿命及び実際の疲労寿命を示している。
【0047】
その結果、表1に示すように、最初に破断が生じると予測されるスポット溶接部Aの寿命については、本発明例と比較例とで同一の疲労寿命が算出されており、実際の疲労寿命とほぼ一致している。
一方、2箇所目以降に破断が生じるスポット溶接部B,C,Dについては、本発明例と比較例とで算出される疲労寿命に差異が生じ、本発明例により算出された疲労寿命の方が従来例により算出された疲労寿命より短くなっており、実際の疲労寿命に近似していることがわかる。
【0048】
これは、本発明例では疲労寿命に至ったスポット溶接部A,B,Cをスポット溶接構造体モデル1から順次取り除くため、残ったスポット溶接部B,C,Dにかかる荷重が順次増大していくためである。これは、実際のスポット溶接構造体の疲労試験においてみられる破壊現象に対応しており、従来の手法では考慮することが出来なかった点である。
【0049】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】スポット溶接構造体の有限要素解析モデルを示す図である。
【図2】図1に示す有限要素解析モデルのうちのある一つのスポット溶接部の拡大図である。
【図3】本発明の実施形態に係るスポット溶接構造体の疲労寿命予測方法のフローチャートである。
【図4】ビーム要素の各端部にシェル要素から加わる力とモーメントを示す図である。
【図5】評価応力と疲労寿命との関係を示す疲労寿命線図である。
【図6】本実施例の解析対象のスポット溶接構造体の有限要素解析モデルを示す図である。
【符号の説明】
【0051】
1 スポット溶接構造体モデル
2a,2b,2c 鋼板
3 スポット溶接部
4a,4b,4c,4d シェル要素
5 溶接ナゲット部
6 ビーム要素
7 共有節点
A,B,C,D スポット溶接部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数枚の金属板が複数箇所でスポット溶接されているスポット溶接構造体の有限要素モデルの各スポット溶接部において、前記金属板をシェル要素でモデル化すると共に、1つの溶接ナゲット部を1本のビーム要素でモデル化し、
そのモデルに有限要素法を適用して、各スポット溶接部における前記シェル要素と前記ビーム要素が接続する各共有節点に繋がっている複数のシェル要素から前記各共有節点に加わる力とモーメントを算出し、
算出された力とモーメントとから前記各共有節点の評価応力を算出し、
算出された評価応力と予め準備された疲労寿命線図とに基づいて前記各共有節点の疲労寿命を予測するスポット溶接構造体の疲労寿命予測方法であって、
予測された前記各共有節点の疲労寿命から前記各共有節点のダメージを算出し、
算出されたダメージの値が疲労寿命に到達した前記共有節点が存在するスポット溶接部を前記有限要素モデルから取り除いて、前記各共有節点の疲労寿命の算出を繰り返すことを特徴とするスポット溶接構造体の疲労寿命予測方法。
【請求項2】
複数枚の金属板が複数箇所でスポット溶接されているスポット溶接構造体の有限要素モデルの各スポット溶接部において、前記金属板をシェル要素でモデル化すると共に、1つの溶接ナゲット部を1本のビーム要素でモデル化し、そのモデルに有限要素法を適用して前記スポット溶接構造体の疲労寿命を予測するスポット溶接構造体の疲労寿命予測方法であって、
前記各スポット溶接部における前記シェル要素と前記ビーム要素が接続する各共有節点に繋がっている複数のシェル要素から前記各共有節点に加わる力とモーメントを算出する工程と、
算出された力とモーメントとから、前記各共有節点の評価応力を算出する工程と、
算出された評価応力と予め準備された疲労寿命線図とに基づいて、前記各共有節点の疲労寿命Nfを予測する工程と、
予測された疲労寿命Nfと残存ダメージDleiとから、前記各共有節点の疲労寿命Nfiを下記式(1)により算出する工程と、
算出された前記各共有節点の疲労寿命Nfiのうち、最短の疲労寿命Nfiminを求める工程と、
求められた最短の疲労寿命Nfiminの間に前記各共有節点が受けるダメージDiを下記式(2)により算出する工程と、
算出されたダメージDiから、前記各共有節点が破断に至るまでの残存ダメージDleiを下記式(3)により算出する工程と、
算出された残存ダメージDleiの値が0になった前記共有節点が存在する前記スポット溶接部を、前記有限要素モデルから取り除く工程とを有し、
予め設定された数の前記スポット溶接部の残存ダメージDleiの値が0になるまで前記各工程を繰り返すことを特徴とするスポット溶接構造体の疲労寿命予測方法。
Nfi=Nf・Dle(i−1) ・・・(1)
Di=Nfimin/Nfi ・・・(2)
【数1】


【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2008−157882(P2008−157882A)
【公開日】平成20年7月10日(2008.7.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−349910(P2006−349910)
【出願日】平成18年12月26日(2006.12.26)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】