説明

スポロポレニンを含有する局所用配合物

天然胞子の外皮に化学的または物理的に結合させた有効物質、または外皮の中にカプセル化した有効物質を含有する局所用配合物。有効物質は、生体表面または非生体表面に適用されたときに、外皮から放出されることができる。本発明を使用すれば、配合物を表面に適用してから時間をかけて有効物質を徐々に放出させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は有効物質を含有する局所用配合物と、天然物から誘導される送達システムへの新しい使用とに関する。
【背景技術】
【0002】
多くの有効物質が、ヒトや動物の皮膚(たとえば医薬的に有効な物質または化粧料の場合)あるいは非生物表面(たとえば消毒剤やその他の家庭用品、塗料、ワニス、接着剤など)にかかわらず局所に送達される必要がある。このような物質は、使用前の貯蔵に対しても、また使用時の局所への送達に対しても好適な賦形剤に配合される必要がある。
【0003】
こうした製品の一部は、熱、湿気、あるいは特に光や酸素のような環境の影響から、有効物質を保護することが望まれる。他方、あるいはこれに加えて、使用されない間は放出を最小限に抑える必要がある香料のような揮発性成分を含む製品もある。
【0004】
このような目的は、対象となる物質を、リポソームやミクロカプセルなどの送達賦形剤にカプセル化することで、ある程度は達成可能である。しかし多くの場合、有効物質を含む送達システムの調製は複雑であり、時間およびコストがかかる。調製した配合物が品質管理および法的な規準を満たし、有効物質の濃度を均質にするためには、サイズおよび形状にバラツキのないカプセル材料をいかにして確保するかということが問題となろう。さらに、カプセル材料のサイズをあまり大きくしないで、所望量の有効物質をカプセル材料に装填することが困難なため、配合物全体の物理的性質で妥協せざるを得なくなるおそれがある。
【0005】
そのうえ、局所用配合物の場合、意図した表面に適用されたときに、カプセル化した物質を適度に放出できるようにすることも必要である。
しかし、使用時まで有効物質を保護するため有効物質のカプセル化を十分に進めると、こうした要件を満たすことは必ずしも容易ではない。
【0006】
国際公開第2005/000280号パンフレットから、医薬および栄養物質を送達する賦形剤として、天然胞子(典型的には植物胞子)の外皮被覆を使用することが知られている。これらの被覆は、胞子を有機溶媒、アルカリおよび酸で次々処理して、外皮に付着または含まれている脂質、炭水化物、タンパク質および核酸成分を除去することにより分離可能である。外皮被覆を胞子のその他の成分から分離するために酵素法も使用されている。
【0007】
外皮被覆は、基本的には空洞になったカプセルの形をしており、たとえば国際公開第2005/000280号パンフレットの記載にしたがって、別の物質が含浸したり、充填されたり、化学的または物理的に結合したりすることができる。外皮被覆は、化学的にも物理的にも極めて安定な物質であることが知られている。
【0008】
国際公開第2005/000280号パンフレットに開示されている配合物はすべて、全身への送達、または皮膚への投与および経皮による投与も言及されてはいるが、主として経口による投与、または経肺による投与を意図した医薬剤形または栄養剤形である。外皮が生化学的に崩壊すると有効成分が体内に放出される。すなわち、これらの剤形が血流に吸収されると外皮被覆が分解し、それに伴う有効物質が放出される。このような放出機構は、物質の局所への送達には明らかに不向きである。それゆえ、国際公開第2005/000280号パンフレットで局所への送達が言及されているとはいっても、あくまでも全身的有効物質の経皮的な送達の話の中でのことである。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、有効物質を適度に保護しながら、局所に投与された時には、有効物質が適度に局所放出されるようにした、有効物質を含む新規配合物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の第一の態様によれば、天然胞子の外皮に化学的もしくは物理的に結合するか、または外皮中にカプセル化された有効物質を含む局所用配合物が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
「天然」という表現は、その胞子が生物によって作られたものであることを意味し、その生物は、原核生物か真核生物かの如何を問わないし、また植物か動物かの如何も問わない。胞子(該胞子は、花粉粒のほか、バクテリアなどの内生胞子も含む)は、たとえば植物由来であってもよいし、場合によっては真菌類、藻類、あるいはバクテリアなどの他の微生物であってもよい。
【0012】
このような外皮は、たとえば光や酸素といった環境の影響から保護することができ、かつ有効成分が早期に放出されるのを防止可能な保護壁を、カプセル化された有効物質の周囲に設けることは可能であるが、適当な材料から選択されれば、適度の圧力を加えるだけでカプセル化された有効物質を放出可能であるということが見出されたのは予想外のことであった。従って、本発明に係る配合物が局所に適用され、たとえば、軽く擦れば、外皮から意図する作用部位へ有効物質を直接放出させることができる。
【0013】
比較的弱い圧力を加えるだけでこのような放出が可能であるということ、および有効物質の有効量を十分な規模で送達できるということは、たとえば、外皮自体が物理的な統一体であることを強調し、擦るのではなく生化学的な分解法によって、外皮と会合した有効物質を放出させた国際公開第2005/000280号パンフレットが教示するような、外皮送達賦形剤に関する従来の研究からは予想できなかったことである。胞子から誘導される外皮を使った従来の研究は、外皮が強靭であって一体性を保持するため、外皮内部にカプセル化された物質の物理的な放出を実現することは極めて困難であることを示唆していた。
【0014】
たとえばスポロポレニンの外皮は、形態学的に無傷のまま数百万年もの間堆積岩中に生き続けてきた(J.Brooks,“Some chemical and geochemical studies on sporopollenin”、J.Brooks,M.Muir,P.Van GijzelおよびG.Shaw編、Sporopollenin,Academic Press,London and New York,1971,351〜407)極めて安定な高度架橋ポリマーから作られていることが知られている(G.Shaw,“The Chemistry of Sporopollenin”、J.Brooks,M.Muir,P.Van GijzelおよびG.Shaw編、Sporopollenin,Academic Press,London and New York,1971,305〜348)。Lycopodium clavatumの胞子で行ったわれわれの実験から、原料胞子に含まれる天然油を絞り出すには約376,700hPaの圧力を、また空の胞子から空気を抜くには75,300hPaの圧力を加えることが必要なことが分かっている。それゆえ、後で実施例に記載するように、指と普通のファイル用紙との間で軽く擦るだけでカプセル化された油を外皮から容易に絞り出すことができるということは予想外のことである。
【0015】
外皮は、カプセル化した有効物質を、大気の効果、具体的には光および/または酸素から保護する上で非常に効果的であり、そしてそれゆえ早過ぎる分解の防止に有効である。外皮がもたらす物理的保護は、たとえば蒸発、拡散または浸出によって有効物質が失われるのを抑えるのに役立つ。場合によっては、外皮自身が、単に大気中の酸素に対する物理的な障壁として働くというよりも、酸化防止剤として機能することも明らかになった。この効果は、有効物質が外皮内部にカプセル化されているというより、外皮の外にある場合でも観察可能である(下記実施例3〜10を参照)。有効物質が表面上に放出されると、外皮の外部に存在することになるが、それでもなお、ある程度酸化から防御され続けるため、局所的送達という観点からして、このことは特に有意義なものとなろう。
【0016】
外皮の使用に伴う別の利点としては、国際公開第2005/000280号パンフレットのたとえば3頁および4頁と、5頁から6頁にかけての段落に記載されているものを挙げることができよう。特に、代表的な人工カプセル材と異なり、いかなる所定の生物から調製される外皮であっても、サイズ、形状および表面特性が極めて均質な傾向がある。しかし、種類が違うと、胞子の大きさや形状、および外皮中の孔の性質もかなり大きく変るため、有効物質の種類と所望の濃度、意図する局所適用部位と適用方法、所望する能動放出速度、使用するまでに予想される貯蔵条件などに合った本発明に係る配合物を設計することができる。
【0017】
たとえ小さい外皮でも比較的多量の有効物質をその中にカプセル化することが可能であろう。高い有効充填比と、小さいカプセル材のサイズおよびカプセル化による十分な保護効果が揃うということは、他の既知のカプセル化技術を使用したのでは達成困難と思われるが、局所への送達では、有効物質を均一に適用できないことを埋め合わせるため、通常多めに有効物質を使用する必要があることを考えると、極めて有用なことであろう。
【0018】
最後に、外皮は一般的に不活性で毒性がなく、花粉にアレルギー反応の原因をもたらす可能性のあるタンパク性物質は、外皮成分を分離する処理工程の間にほとんど除去されている。たとえば、多くの外皮の成分であるスポロポレニンは、これまでに知られている最も抵抗性の高い天然有機物質の一つであり、非常に厳しい圧力、温度、およびpH条件にも耐える一方、ほとんどの有機溶剤に不溶かつ安定である(G.Shaw,“The Chemistry of Sporopollenin”、J.Brooks,M.Muir,P.Van GijzelおよびG.Shaw編、Sporopollenin,Academic Press,London and New York,1971,305〜348を参照)。
【0019】
胞子の外皮は、天然由来である上に入手が容易であり、しばしば価格が安いため、有効物質の送達賦形剤として非常に好適な候補である。
本発明において、「局所用」配合物は、生体の一部か、または無生物の表面に対する局所的適用に好適であり、および/または適合するものであり、および/または意図した配合物である。生体の部位、たとえば皮膚その他の表皮、毛、爪、歯などの部位、そして特に皮膚への局所的適用に対して好適なものとし、および/または適合したものとし、および/または意図したものとすることができよう。生体は、植物または動物のいずれであってもよいが、特に動物であり、そして動物の場合、ヒトまたはヒト以外の動物のいずれであってもよい。
【0020】
有効物質は、適用部位に効果をもたらすことができる物質であればいかなる物質でもよい。具体例として、医薬的および栄養薬効的に有効な物質、食品および食品成分、補助食品、除草剤、殺虫剤および害虫駆除剤、成長調節剤などの植物処理剤、抗菌物質、化粧品(香料を含む)、トイレタリ、消毒剤、洗剤およびその他の洗浄剤、接着剤、診断薬、および染料が挙げられる。一般的に、表面の処置に使用できる物質、特に表面の性質または表面に関係するものの性質を変えるために使用できる物質は、本発明に従う配合物を使って送達することができよう。
【0021】
本発明の一つの実施形態において、有効物質は化粧物質である。化粧物質は、たとえばメーキャップ製品(たとえばファンデーション、パウダー、ほお紅、アイシャドウ、アイライナーおよびリップライナー、口紅、その他のスキンカラーおよびスキンペイント)、スキンケア製品(たとえばクレンザー、保湿剤、柔軟剤、スキントニックおよびフレッシュナー、ピーリング剤および角質除去剤)、香料、香水、日焼け止めおよびその他の紫外線防止剤、セルフタンニング剤、日焼け後処理剤、老化防止剤、しわ止め剤、美白剤、局所用昆虫忌避剤、脱毛剤、育毛剤およびたとえばネイルポリッシャーまたはポリッシュリムーバーなどのネイルケア製品から選択することができる。香水は複数の香料を含んでもよい。
【0022】
本発明の別の実施形態において、有効物質はトイレタリ製品に使用されるものであってもよい。したがって、有効物質は、石鹸、洗剤およびその他の界面活性剤、消臭剤および発汗防止剤、潤滑剤、香料、香水、汗取りパウダーおよびタルカムパウダー、たとえばシャンプー、コンディショナーおよびヘアダイなどのヘアケア製品、たとえば歯磨き、口腔清浄剤、口臭防止剤などのオーラルケアおよびデンタルケア製品から選択されることができる。
【0023】
本発明のさらに別の実施形態において、有効物質は家庭用品に使用されるものである。有効物質は、たとえば消毒剤およびその他の抗菌剤、香料、香水、エアフレッシュナー、昆虫忌避剤、殺虫剤、洗濯関連製品(たとえば洗濯剤およびコンディショナー)、繊維処理剤(染料を含む)、クリーニング剤、紫外線防止剤、塗料およびニスから選択されることができる。
【0024】
本発明のさらに別の実施形態において、有効物質は医薬的にあるいは栄養薬効的に有効な物質であり、それらには家畜用の有効物質も含まれる。局所的送達に適する医薬的に有効な物質は、たとえば皮膚または皮膚構造の状態(たとえば座瘡、乾癬、または湿疹)を治療するために使用される物質、外傷または火傷治療薬、抗炎症薬、抗刺激薬、抗菌剤(これには抗真菌剤および抗細菌剤を含むことができる)、ビタミン剤、血管拡張剤、局所的に有効な抗生物質および消毒剤から選択されることができる。
【0025】
医薬的にまたは栄養薬効的に有効な物質は、治療または予防に使用するのに好適なものであってもよく、そして/または使用することを意図するものであってもよい。
特に、有効物質は、医薬的および栄養薬効的に有効な物質、食品、化粧物質およびトイレタリ物質から選択されることができる。中でも特に化粧物質またはトイレタリ物質が選択されよう。
【0026】
有効物質は、局所的送達に対して意図されたものであり、および/または適合したものとされ、および/または好適なものであることが適当である。全身への送達、特に皮膚を通して全身に送達することを意図した物質および/または全身に送達できる物質でないことが好ましい。摂取、特にヒトによる摂取を意図した物質および/または摂取に適合させた物質および/または摂取に好適な物質でないことが適当である。
【0027】
いくつかの実施形態において、有効物質は、精油以外の物質であること、または少なくとも生体の全身への送達を意図した精油および/または送達に適する精油ではないことが好適である。
【0028】
いくつかの実施形態において、有効物質は、薬物(少なくとも全身的送達を意図する薬物および/または全身的送達に適する薬物)以外の物質か、または栄養物質以外の物質であることが好適である。
【0029】
有効物質は、揮発性物質、特に香料を含んでもよい。本発明に係る配合物は、外皮が、使用前に揮発成分の放出を阻止するのを助けるような物質を含有する配合物に対して特に好適であることが可能である。天然胞子の外皮は多孔質であることが知られていることを思い起こせば、このことは、必ずしも予想できることではない。しかしそれにもかかわらず、下記実施例2に示すように、いくつかの事例では、外皮は、揮発性有効物質をカプセル化して、それらが大気中に過度に揮散しないように抑制することができる。
【0030】
有効物質は、一つ以上の外的影響、たとえば熱、光、酸素または水などに対して敏感であってもよい。特に、環境条件下での酸化、たとえば紫外線によって誘発される酸化を受けやすくてもよい。
【0031】
有効物質は、脂質または脂質様物質(たとえば油、脂肪またはワックス)であってもよいし、および/または親油的であってもよい。有効物質は液体であってもよい。場合によっては、有効物質は非極性物質であってもよい。
【0032】
有効物質は補助的な流体送達賦形剤、特に非水性液体、その中でも特に脂質、たとえば油の送達賦形剤中に存在してもよい。それゆえ、有効物質は溶液または懸濁液の形で存在してもよく、ここで「懸濁液」という表現は、エマルションやその他の多相分散液を含む。補助的な送達賦形剤としては、たとえば油中水型エマルションまたは油中水中油型エマルションが可能である。
【0033】
有効物質自体は天然物質でもよいし、天然物、特に植物源から誘導された物質であってもよい。
本発明に係る配合物は、複数の有効物質を含有することが可能である。たとえば2つ以上の物質を同じ外皮にカプセル化してもよい。それに代わって、またはそれに加えて、本発明に係る配合物は、有効物質を含有する外皮の2つ以上の集合体を含み、それぞれが、異なる有効物質と化学的または物理的に結合させたものか、あるいは異なる有効物質をカプセル化したものとしてもよい。
【0034】
従って、たとえば、本発明に係る化粧品配合物は、日焼け防止剤と昆虫忌避剤、または日焼け防止剤と保湿剤、またはファンデーションまたは他の皮膚着色剤と日焼け剤を含有することも可能である。
【0035】
このことは、たとえば、2つ以上の有効物質が、互いに共存できないか、または好ましくない相互作用を及ぼし合う場合、使用するまではそれぞれ隔離しておき、局所での適用において意図した使用時点にその場で同時に放出させることを可能にする。
【0036】
本発明に係る配合物において、有効物質を外皮に結合させてもよいし、外皮内にカプセル化してもよい。有効物質を、物理的に外皮に結合させるか、外皮内にカプセル化するのが好適である。有効物質を、少なくとも部分的に外皮に結合させるのがさらに好適である。
【0037】
物質を化学的に外皮に結合させる方法は、たとえば国際公開第2005/000280号パンフレットの4頁から5頁の段落、および14頁から22頁および24頁から32頁にかけて記載されている。それらの方法には、外皮を化学的に修飾して、問題の物質と化学結合しやすくする方法が含まれる。化学結合には、共有結合やその他の化学結合、たとえば水素結合、スルフィド結合、ファンデルワールス結合または配位結合を含めることができる。
【0038】
有効物質と外皮との物理的結合は、たとえば外皮表面(内側表面または外側表面)への有効物質の吸着(たとえば疎水性/親水性相互作用を含む)を含むことができる。
有効物質のカプセル化とは、外皮の壁に本来的に存在する空洞内、および/または外皮によって画される中心部の空洞内に保持させることを意味する。
【0039】
有効物質を上記の一つ以上の方法によって外皮に結合させることができる。たとえば、有効物質は外皮内部にカプセル化されてもよいし、外皮に化学結合してもよく、あるいは有効物質の一部が外皮の外側表面に吸着され、さらに別の一部が外皮の内部に含まれてもよい。
【0040】
胞子の外皮は天然(「未加工」)胞子の周囲から得られる外部被覆である。その外皮は、一部、または主としてスポロポレニンからなっていてもよいし、胞子の別の成分、たとえばセルロースの内膜や、タンパク質成分および核酸成分から分離することも可能である。外皮は国際公開第2005/000280号パンフレットの特に4、8、9頁および実施例1に記載するタイプであってもよい。
【0041】
本発明によれば、外皮は適当な天然胞子から誘導されたものであってもよく、その起源は植物または動物のいずれかである。ここで言う「植物」という用語は最も広い意味に解釈すべきであり、たとえばコケ類、真菌類、藻類、裸子植物、被子植物およびソテツ類を包含する。また、「胞子」という用語は、シダ、コケおよび真菌類が作る真の胞子だけでなく、種子からでる植物(種子植物)が作る花粉粒やバクテリアなどの生物の内胞子も包含する。
【0042】
このような胞子が得られる好適な生物の例を挙げれば次の通りである。2番目の欄の数字は胞子の直径を表す。
【0043】
【表1】

外皮を取り出すことができるその他の胞子は、国際公開第2005/000280号パンフレットの8頁に引用されている参照文献に開示されている。
【0044】
本発明に係る配合物において、外皮の直径(走査型電子顕微鏡で測定可能)は1〜300μmであればよく、好適には1〜250μm、3〜50μmまたは15〜40μmである。また、草の花粉から誘導される外皮や、直径が約20μmのその他の外皮が好適ではないかと予想される。
【0045】
いくつかの実施形態において、たとえば、直径が30または40μm以上の外皮は、血管を透過して血流に吸収されにくいため、局所送達剤として特に好適であろう。外皮が大きいほど有効物質の装填量が高くなるという利点もあるが、それだけ配合物全体の食感および/または外観が悪くなり、そのことは経口伝達や局所伝達の場合に重要になるかもしれない。したがって、外皮直径は10μm以下が好適であろう。また、大きな外皮を使用すると、小さい外皮を多く使用する場合と比べて、配合物全体に分散する有効物質の均一性が悪くなる可能性がある。一般に有効物質の妥当な装填量を実現できるためには、最小直径として4μmが好ましいかもしれない。しかし最小直径が60μmあるいはそれよりもっと大きい方が好適という場合もあろう。
【0046】
外皮を、胞子から既知の方法、たとえば胞子を有機溶剤および強酸およびアルカリの組み合わせで厳しい処理を行うことにより得ることができる。そうした好適な方法は、たとえば国際公開第2005/000280号パンフレット(10頁を参照)および下記実施例に記載されている。もっと穏和な別の方法、たとえば酵素処理(S.Gubatz,M.Rittscher,A.Meuter,A.Nagler,R.Wiermann,Grana, Suppl.1(1993)12〜17;K.Schultze Osthoff,R.Wiermann,J.Plant Physiol.,131(1987)5〜15;F.Ahlers,J.Lambert,R.Wiermann,Z.Naturforsch.,54c(1999)492〜495;C.Jungfermann,F.Ahlers,M.Grote,S.Gubatz,S.Steuernagel、I.Thom,G.Wetzels and R.Wiermann,J.Plant Physiol.,151(1997)513〜519)を使用することもできる。さらに別の方法として、外側の外皮層に存在する天然の孔を通して胞子内部の内容物を圧搾して取り出すために高圧を使うこともできる。これらの方法は、タンパク質または炭水化物を取り去って、ほとんど無傷のまま、元の胞子の形を保持した外皮を得るために使用できる。
【0047】
たとえばLycopodium clavatumの場合、生成される外皮は、完全にあるいは実質的にスポロポレニンからなるものでもよいし、任意選択的に、ある割合で他の物質、たとえばキチン、グルカンおよび/またはマンナンを含んでもよい。大部分のタンパク質は元の胞子から取り除かれていよう。
【0048】
本発明の一つの実施形態において、外皮は、追加的に天然胞子からのセルロース内膜層のすべてまたは一部を含有してもよい。このような外皮を得るには、有機溶剤とアルカリだけで処理し、酸による処理を行わないようにすればよい。たとえば、水酸化カリウムを使用して、このような塩基性加水分解を行えば、胞子のタンパク質成分が除かれ、元のセルロース内膜の少なくとも一部を残すことができる。
【0049】
本発明の一つの実施形態において、外皮は無傷のままか、実質的に無傷である。言い換えれば、このような外皮の表面に自然に存在するミクロンサイズの孔やナノサイズの孔は別にして、外皮は、有効物質をその中に装填できる内部空洞を画する連続した外部壁を提供する。しかし外皮は部分的に壊れていたり、損傷していたりしているかもしれない。したがって、特に、有効物質を化学的にまたは物理的に外皮と結合させる場合、本発明は、有効物質の送達賦形剤としての、植物の胞子から誘導される外皮のフラグメントの使用を包含する。しかし、外皮が好適であるためには、もし無傷であれば該当する種の外皮が有するであろう表面積の少なくとも50%が、好適には少なくとも75%、または80または90%、場合によって95%、98%、または99%が連続していなければならない。このようなパーセンテージは、外皮をたとえば共焦点顕微鏡で観察して測定可能である。
【0050】
外皮は、その性質(たとえば溶解性)を変えるために、または意図する投与部位を標的にして(たとえば表面をより活性にするため)、または有効物質と結合しやすくするために、化学修飾されてもよい。好適なこのような化学修飾とそれを実現するための方法は、国際公開第2005/000280号パンフレットの、具体的には4頁から5頁の段落、および14〜22頁および24〜32頁に記載されている。外皮の外側を、たとえば陽イオン基および/または陰イオン基などの官能基(国際公開第2005/000280号パンフレットおよびO.Shaw,M.Sykes,R.W.Humble,G.Mackenzie,D.Marsdan & E.Phelivan,Reactive Polymers,1988,9,211〜217)、および/または適用を意図している表面に対する外皮の親和性を高める官能基を(通常は化学的に)導入して修飾してもよい。
【0051】
有効物質は、既知の技術によって、外皮に結合することもできるし、外皮内部にカプセル化されることもできるが、この場合も国際公開第2005/000280号パンフレットに記載の方法が好適である。具体的には、外皮を有効物質またはその溶液または懸濁液に浸漬して有効物質を含浸させることができる。外皮に有効物質を含浸しやすくするには、国際公開第2005/000280号パンフレットの記載にしたがって、一つ以上の浸透促進剤を使用してもよい。これに代わってあるいは追加する形で、同じく含浸しやすくするため、(大気圧に関して)減圧または加圧操作を行ってもよい。
【0052】
有効物質を、たとえば既に外皮と会合した適当な前駆物質から、in situで外皮上にまたは外皮内部に発生させることができる。前駆物質を、たとえば外皮に化学的または物理的に結合させるか、外皮内部にカプセル化し、それから、前駆物質と反応する反応物質と接触させて、所望の有効物質に変換することもできる。このような方法を、可溶性前駆物質と反応物質から出発して、外皮と所望有効物質とを会合させるのに使用することもできる。
【0053】
外皮に装填される有効物質の量は、使用目的に応じて適当に選択されることができる。本発明に係る配合物は、有効物質と外皮とを0.1:1〜33:1、たとえば0.1:1〜15:1または0.5:1〜5:1の重量比で含有することができる。有効物質の充填比を大きくするためにはより大きな外皮が必要となろう。
【0054】
大気の影響から有効物質を保護する効果をさらに高めるため、外皮にバリヤ層を被覆してもよい。これは、揮発性有効物質および/または酸素に敏感な物質の送達に対して特に有用であろう。標準的な条件下(通常、室温)で配合物を貯蔵するときは、好適な被膜は固体かまたは半固体であり、配合物の局所的な適用で意図される、それより高い温度(たとえば皮膚の温度)では、溶融してもよい。このような使用には脂質、たとえばバターおよびその他の固体脂肪(たとえばココアバターまたは硬化パーム核油)、油(たとえばタラ肝油)およびワックス(たとえばカルナバろうまたは蜜ろう)の被膜が好適かもしれない。理想的には、被膜材料として皮膚温度または皮膚温度付近で溶融する材料(ココアバターがそのような材料の一例である)が使われるかもしれない。そうすれば、皮膚に局所塗布したときに有効物質の放出が可能になる。他の可能な被膜材料としては、手で圧力を加えれば壊すことができる材料、たとえば、局所投与時に溶融、破壊またはその他の変化を起こして有効物質が放出される、たとえばシェラックやその他の材料のようなこわれやすい固体が考えられよう。たとえばゼラチンが好適な被膜材料として考えられよう。
【0055】
本発明に係る配合物において、有効物質を保護するには、オリゴマーおよびポリマーを含む他の天然または合成被覆剤の使用も考えられる。植物から誘導される被膜材料の使用が好ましいかもしれない。
【0056】
外皮を被覆するには、既知の方法、たとえば噴霧、ローラ塗り、パンニングまたは浸漬などの塗布方法を使用できる。被覆は必ずしも外皮の外表面全体を連続したものである必要はない。
【0057】
本発明に係る配合物は、たとえば、流体送達媒体、賦形剤、希釈剤、担体、安定剤、界面活性剤、浸透促進剤、または外皮および/または有効物質の送達を、意図した投与部位に向けるためのその他の機能物質から選択される、一つ以上の添加剤を含有してもよい。
【0058】
配合物は、たとえばローション、クリーム、軟膏、ペースト、ゲル、フォーム、あるいは配合物の局所投与を助けるスポンジ、綿棒、ブラシ、ティッシュ、皮膚パッチ、包帯またはデンタルファイバーなどの担体に適用される配合物あるいは適用することができる配合物を含め、局所投与に対して知られた如何なる物理的な形でもとることができる。配合物は、鼻用スプレー、目または耳に投与される点滴液の形態をとることもできる。
【0059】
有効物質が、たとえば頬紅、アイシャドウまたはファンデーションのようなメーキャップ製品であったり、あるいはダスティングパウダーへの使用が意図されたりしている場合、配合物は粉体の形をとるかもしれない。後記実施例11に記載したように、外皮は、液体、特に脂質を吸収する効率が極めて高く、その液体をすべて外皮内部にカプセル化することによって事実上に乾燥した製品を生み出すことができる。
【0060】
本発明の第二の態様は、第一の態様に従う配合物を含有する製品を提供する。製品自体は、上に述べたように、局所への適用に好適なものとされ、および/または適合したものとされ、および/または意図されたものとされる。製品は、たとえば化粧品、トイレタリ製品(たとえば浴用製品、石鹸およびパーソナルケア製品)、ヘアケア製品、ネイルケア製品、そして歯磨き、口腔清浄液およびデンタルフロスなどのデンタル製品、そしてさらに表面クリーナー、消毒剤、エアフレッシュナー、昆虫忌避剤、洗濯製品、繊維処理剤などの家庭用品、塗料、インク、染料など各種着色用製品、接着剤、医薬、農薬、園芸製品、および爆薬から選択される。
【0061】
特に本発明の第二の態様に係る製品は、化粧品(これにはスキンケア製品も含まれる)、トイレタリ、ヘアケア、ネイルケア製品およびデンタル製品から選択される。
本発明の別の実施態様では、製品は医薬品(これには動物用医薬も含まれる)である。
【0062】
ここでも製品は本発明に従う複数の配合剤を含んでもよく、各配合物は別々の有効物質と会合する。
本発明は、二つ以上の物質の同時投与を可能にし、物質の一つは外皮に化学的または物理的に結合させるか、または外皮内部にカプセル化した有効物質であり、それゆえ局所に投与時点でのみ放出される。たとえば、本発明の第二の実施態様に係る生成物は、外皮と会合した有効物質、たとえば香料、エアフレッシュナー、昆虫忌避剤または抗真菌剤を含有する塗料であってもよい。塗料を表面に添布すると、塗料に圧力が加わるため、有効物質は環境中および/または表面上に放出される。同様に、たとえば紫外線防止物質あるいは化粧物質などの製品を局所に塗布すると、香料および/またはその他の有効物質が放出されるかもしれない。
【0063】
したがって、本発明の第二の態様に係る製品は二つ以上の物質を含んでもよく、それらのうち少なくとも一つは、天然胞子の外皮の中にカプセル化するか、または外皮に化学的または物理的に結合させた有効物質(特に香料)である。ほかの物質自体は有効物質であってもよく、および/または天然胞子の外皮の中にカプセル化するか、または外皮に化学的または物理的に結合させることもできる。
【0064】
本発明の第三の態様は、局所へ送達するための有効物質の配合方法を提供する。その方法は、(a)天然胞子の外皮を調製または準備する工程と、(b)有効物質を外皮にカプセル化するか、または外皮に化学的もしくは物理的に結合させる工程とを含む。このようにして得られる製品は、本発明の第一の態様に係る配合物になりうる。そして特に、化粧配合物であってもよい。
【0065】
第四の態様に従えば、本発明は有効物質を表面の局所に適用する方法を提供する。その方法は、(a)有効物質に本発明の第三の態様に係る天然胞子の外皮を配合する工程と、(b)得られた配合物を表面に適用する工程とを含む。配合物は、好ましくは、たとえば(指先などで)弱く擦るか、ブラシをかけるといった穏やかな圧力をかけて適用される。
【0066】
局所に適用される方法は、配合物を表面に適用したあと、時間をかけて徐々に有効物質を放出させるために実行することも可能である。
本発明の第四態様における一つの実施態様では、表面は生体の表面であり、たとえばヒトまたは動物の皮膚(特にヒトの皮膚)である。別の実施態様では、表面は無生物の表面、たとえば家庭用品または工作物の表面、道具類の一つ、たとえば用具、あるいは衣服や寝具などの繊維製品である。このような処理が行われる物は、生体と接触することが想定されている。そのような例を挙げれば、たとえば、コンタクトレンズ、補聴器、インプラント、補綴、あるいはステントなどである。
【0067】
配合物を生体の表面に適用する場合、それは治療目的とは全く関係なく(たとえば化粧目的で)行われてもよいし、医薬的に有効な物質を送達するために行われてもよい。それゆえ、本発明の第四実施態様の方法はヒトまたは動物の患者の治療方法を包含してもよく、その方法は、患者の体の表面に、医薬的に有効な物質の治療的または予防的有効量を含有する、本発明の第一の態様に係る配合物を局所的に適用する工程を含む。
【0068】
医薬製剤または化粧品を皮膚の局所に指で塗布するときに普通に行われる程度の軽い圧力(たとえば、擦るあるいは潰す)を加えることで、有効成分を本発明に係る配合物から放出させることが可能であることが確認されている。さらに、次第に強めながら圧力を加えるか、より具体的には、圧力を順次連続的に加えるようにすれば、有効物質を徐々に放出させることができる。このように、本発明は、有効物資を調節しながら放出させるのに使用できる。たとえば、治療部位を反復して擦ることによって、局所用配合物中に含まれる香料または昆虫忌避剤または痒み止めを、段階的に放出させることができる。そのため、使用者は必要なときに、さらに有効物質を放出させることができる。
【0069】
従って、本発明の第四の実施態様の方法は、(b)の段階に引き続いて、治療部位に、さらに一回以上圧力を加えて有効物質を徐々に(普通は段階的に)放出させる工程を含んでもよい。
【0070】
いくつかの場合では、局所投与後、外皮を取り巻く被覆を破って、有効物質を徐々に漏出させ、制御しながら有効物質を放出させるには、圧力を一回加えるだけで十分かもしれない。
【0071】
本発明の第五の態様は、医薬的に有効な物質の局所的送達賦形剤として使用する天然胞子の外皮を提供する。
第六の態様は、ヒトまたは動物の体に局所投与する治療薬の製造に、天然胞子の外皮を使用することを提供する。
【0072】
第七の態様は、有効物質の局所送達賦形剤として天然胞子の外皮を使用することを提供する。有効物質は、医薬的に有効な物質以外の物質でもよい。
第八の態様に従えば、本発明は、(a)有効物質を局所送達するまで保護するという目的と、(b)表面の局所に適用すると同時に、有効物質を放出するという、二つの目的のために天然胞子の外皮を使用することを提供する。上述したように、有効物質を表面に最初に適用したあとで、その有効物質が、制御下に時間をかけて放出されるのを助けるために、天然胞子の外皮を使用することができる。
【0073】
外皮はさらに、有効物質の適用前および/または適用中および/または適用後の酸化防止剤として使用されることもできる。
本発明の第九の態様は、有効物質の送達賦形剤として天然胞子の外皮を使用することを提供する。その場合、外皮は、胞子からのセルロース内膜物質を含有する。このような外皮と内膜との組み合わせは、さまざまな物質を送達するための有用な賦形剤となりうることが明らかになった。この組み合わせは、胞子を、たとえば水酸化カリウムを使用する塩基性加水分解にかけて、胞子のタンパク質成分は除去される一方、最初のセルロース内膜層の少なくとも一部が残るようにすれば調製可能である。
【0074】
下に記載した実施例でわかるように、ある場合では内膜を保持すると、外皮の有効物質放出特性および/または酸化防止特性が変化することが明らかになった。
したがって、第十の態様に従えば、本発明は、有効物質を、天然胞子からのセルロース内膜物質を含有する天然胞子の外皮に化学的または物理的に結合させるか、または外皮内部にカプセル化した形で含有する配合物を提供する。
【0075】
本願に記載する発明の詳細な説明および請求項を通じて、「含む」および「含有する」という語は、「含むが、限定されるものではない」ことを意味し、他の部分、追加物、構成成分、整数または段階を排除しない。
【0076】
本願に記載する発明の詳細な説明および特許請求の範囲を通じて、文脈上そうでないことが明らかでない限り、単数は複数を包含する。特に、不定冠詞が使用されているところでは、文脈上そうでないことが明らかでない限り、本明細書は、複数も単数も意図しているものと理解すべきである。
【0077】
本発明の各態様の好ましい特徴は、他の態様のいずれかと関連をもって記述されている場合もある。
本発明のその他の特徴は、以下に述べる実施例から明らかとなろう。総括して言えば、本発明は、本明細書に開示する特徴(添付する特許請求の範囲および図面を含む)の新規ないずれか一つまたは新規ないずれかの組み合わせにまでおよぶ。それゆえ、本発明に関して記載される特定の態様、実施形態または実施例の特徴、整数、特性値、化合物、化学的部分構造または基は、両立しない場合を除き、本明細書に記載するほかの態様、実施形態または実施例にも適用できるものと理解すべきである。
【0078】
また、本願に開示される特徴は、同じ目的または類似の目的に役立つ別の特徴で置き換えることができる。
次に、非制限的な実施例を挙げて本発明を説明することにする。
【実施例】
【0079】
以下に挙げる実施例は、有効物質、特に化粧品などの脂質系の物質の局部搬送のための胞子由来外皮の適合を示している。
使用される外皮は、たとえばUnikem、Post Apple Scientific、FlukaおよびTibrewala Internationalから購入可能なLycopodium Clavatum L.(普通に見られるヒカゲノカズラ)の胞子から抽出した。25μmの胞子と40μmの胞子との両方を試験した。両者のうち、40μmの方は、Lycopodium Clavatum L.の亜種または遺伝子的変種から誘導した。前者の外表面が網状の紋様であるのに対して、後者は平滑で丸みを帯びている。両者とも外皮の厚さは約1.5μmであると思われる。
【0080】
下記の抽出操作を使って胞子中に存在するほかの成分(特にタンパク質成分)から外皮を分離した。“AHS”と記した試料はリン酸による酸性加水分解と水酸化カリウムによる塩基性加水分解とを行ったのに対して、“BHS”と記した試料は水酸化カリウムによる塩基性加水分解のみを行った。それゆえ、BHS試料は外皮だけでなく、セルロース内膜層の一部も含有した。
【0081】
第一に、原料胞子をアセトンに懸濁させ、還流させながら4時間攪拌した。具体的には、表面が複式になった(20cm−4cm)リービッヒ冷却器を取り付けた2リットル丸底フラスコ中で、胞子250gをアセトン750mlに溶かして4時間還流させた。次に、得られた脱脂胞子(DFS)を濾過(孔径3号)し、一晩空気乾燥した。
【0082】
塩基性加水分解した外皮(BHS)を調製するには、脱脂胞子(DFS)を6w/v%水酸化カリウム水溶液に懸濁させ、(上記の条件で)還流下に6時間攪拌した。濾過(濾過板の孔径3号)したのち、水酸化カリウム溶液の新鮮な試料に対してこの操作を反復した。懸濁液を再度濾過し(孔径3号)、得られた固体を熱水で(3回)洗い、それから熱エタノールで(2回)洗浄した。次に、エタノール中で2時間還流させ(上記の条件)、濾過し(孔径3号)、一晩空気中で乾燥した。それからさらに乾燥機中で、60℃で完全に乾燥した。
【0083】
酸性加水分解外皮(AHS)を調製するには、脱脂した胞子を85v/v%オルトリン酸(750ml)に懸濁させ、還流させながら(上記の条件)7日間攪拌した。次に、固体を濾過し(孔径3号)、水(5回、250ml)、アセトン(5回、250ml)、エタノール(1回、250ml)、2M水酸化ナトリウム(1回、250ml)、水(5回、250ml)、アセトン(1回、300ml)およびエタノール(1回、300ml)で洗浄した。つづいて固体を乾燥機中で、60℃で乾燥した。
【0084】
BHSおよびAHS生成物とも、実質的に窒素を含まなかったこと(燃焼元素分析と赤外分光法により判定)から、タンパク質および核酸は除去され、原料胞子中のアレルギーを引き起こすおそれのある成分が除去されたことが示された。さらに、両加水分解生成物は、走査型電子顕微鏡および共焦点電子顕微鏡による観察から、処理前には内部に存在していたスポロプラズムを含まず、内部が実質的に空洞のカプセル体であることが確認された。
【0085】
特に述べないかぎり、外皮への充填を次の手順に従って行った。油を40〜60℃に加熱し、エタノール数滴を混合した。得られたエマルジョンに該当外皮を加えて均一な混合物にした。オイルの外皮への含浸を促進するために、混合物を真空下(30hPa)に1〜2時間維持した。試料は、いずれの場合も、油を1g使用し、充填比を変えるため外皮の量を変えて調製した。
【0086】
実施例1−カプセル化した有効物質の放出
この実施例は、外皮が、カプセル化した物質の送達に有効であることを説明するためのものである。そして外皮が物質の送達に有効であるということは、表面局所に適用する必要のある物質を送達する賦形剤として有望であることを示している。
【0087】
エキウム油を充填した外皮試料は上記に従って調製した。使用した外皮は次の通りである。
A AHS、粒子径40μm
B AHS、粒子径25μm
C BHS、粒子径40μm
D BHS、粒子径25μm
各タイプの外皮について、油:外皮の重量比が約1:1、2:1、3:1、4:1および5:1の試料を調製した。
【0088】
各試料の試験を次のようにして行った。あらかじめ重さを計った紙(Impega(R)白色用紙)の上に試料約20mgを載せ、指先で弱く擦った。この試料を、あらかじめ重さを計った第二の紙に移して再び擦った。この操作を3、4回くり返した。擦る操作が終るたびに紙の重さを計って、紙の上の油の量を決定し、得られた値から試料中に残っている油の量を算出した。各実験をそれぞれ3回ずつくり返して平均値を求めた。
【0089】
得られた平均値を表1〜4に示す。
【0090】
【表2】


第一に、これらの結果は、有効物質を含有する配合物を手で皮膚に塗りつける程度の弱い圧力を加えるだけで、カプセル化した油を外皮から簡単に取り出せることを示している。4回擦ってやっと、比較的多量の油が絞り出された。
【0091】
外皮があたかもスポンジであるかのように挙動し、カプセル化した油が、外皮から効果的に絞り出されるものと考えられる。しかし、圧力を加えなければ外皮は油を保持し、圧力を加えて初めて油を放出する。それゆえ、外皮は、局所用配合物の送達手段として特に好適である。たとえば実施例2および3に示すように、カプセル化した成分は適用されるまで環境の影響から保護される。
【0092】
油の充填比が高い外皮ほど放出効果が大きくなっている。その原因は、充填比が高くなるとカプセル化される油のための空間が(相対的に言って)数学的に少なくなるためであろう。実際に油の一部がカプセル化されなかったので、放出効果が観察されたのではないかと思われる。すべての油がカプセル化される可能性が高い1:1の油充填比では、40μmBHS外皮が最も放出が速く、25μmAHS試料がそれにつづくことがわかる。(a)内膜層は油の保持を助けるのではないかと予想され、(b)粒子が小さくなるほど、ある充填比において相対的に油の充填度が高くなり、それだけ放出速度が速くなると予想されるため、この結果は必ずしも予想できるものではない。
【0093】
上記表の結果は、弱い力で逐次的に絞り出すようにすると、カプセル化した油を段階的に放出させることができる可能性を示している。これにより、制御しながら局所用有効物質を放出させるのに好適な、本発明に従う配合物が構成される。このようにして構成された配合物は、表面に適用して軽く圧力を加えれば、カプセル化された有効物質をさらに放出する。
【0094】
放出速度が、外皮の粒子サイズ、油の充填比およびセルロースの内膜が存在するか否かによって変化するという事実は、本発明に従う送達システムを設計して、有効物質を希望どおりの速度で放出させることが容易にできることを示している。外皮の起源(すなわち外皮の原料となる植物)も、会合させる有効物質の放出速度に影響を及ぼすものと期待される。
【0095】
実施例2−揮発性有効物質の保護
この実施例では、胞子から誘導される外皮から揮発性有効物質が蒸発する速度を評価した。
【0096】
上記の記載に従って外皮(AHS、直径40μm)を調製し、ブタノールを充填した。アルコールは揮発性物質であると同時に、化粧品のような局所に使用する配合物に対しては希釈剤として広く使用されている。含浸は、室温と常圧でアルコールと外皮を混合して、自然に流体(アルコール)を外皮内にしみこませる「受動的接触法」によって行った。
【0097】
比較対照として、試料Aには無希釈ブタノール2mlを含ませた。試料Bには外皮1g中にカプセル化する形でブタノール2mlを含ませた。
各試料をペトリ皿に入れ、5分間隔で重さを計り、カプセル化されたアルコール全量が蒸発するのにかかる時間を測定した。実験はすべて3回ずつ行った。
【0098】
これらの試験結果を表5に示す。それぞれのケースの半減期は、カプセル化されたアルコールの半量が蒸発するのにかかる時間の理論的な計算値である。
【0099】
【表3】

表5は、揮発性のアルコールを外皮内にカプセル化すると、蒸発による放出をかなり抑制することができることを示している。蒸発による損失をさらに遅らせ、本発明に従って調製される配合物中の揮発性有効物質を保護しようとすれば、外皮に保護膜、たとえば脂質被覆層を形成させることができよう。特に、表面温度、たとえばヒトの皮膚の温度で液体となるココアバターのような被覆を用いれば、実施例1に例示したように、軽く圧力を加えながら外皮を表面に適用するだけで、さらに容易に望む時間に放出させることができるかもしれない。
【0100】
実施例3−酸化に対する保護
次に挙げる実施例、および実施例4〜10は、胞子から誘導される外皮が酸化防止剤として機能する驚くべき能力を有し、そのため、酸素に対して敏感な有効物質を、局所に適用する前、適用する間、および適用したあと保護するのに好適であることを示している。
【0101】
外皮にカプセル化した油の紫外線に対する安定性を調べるため、25μmAHS外皮にヒマワリ油、ナタネ油または大豆油を油:外皮重量比が1:1となるように充填した。
当該油を外皮に充填するには上記の手順によった。充填後、各試料を紙の上に広げ、PhillipsTM CLEO 15W UV 30型の電球4個を備えたPhillipsTM Original Home Solaria HB 171/A型、220〜230ボルト、50Hz、75ワットを使って2時間紫外線を照射した。試料とランプとの間の距離は13cmに保った。
【0102】
比較対照として無充填の外皮試料に同じ処理を行った。
照射が終ったら各試料の過酸化物価(PV)を滴定によって決定した。滴定するには、攪拌しながら試料をクロロホルム(10ml)に溶解し、酢酸(15ml)およびヨウ化カリウム飽和水溶液(1ml)を加えた。栓をしたフラスコ中でこの混合物を1分間ふり混ぜたのち、室温で暗所に正確に5分間放置した。次に、混合物を蒸留水75mlで希釈し、デンプン溶液を指示薬としてチオ硫酸ナトリウム水溶液(0.01N)で滴定した。得られた結果から、試料中に含まれていた活性酸素の量の尺度である過酸化物価を計算できた。すなわち脂肪が酸素で分解すると過酸化物が生成するが、その過酸化物は、上で述べたように処理すると分子状ヨウ素を与える。ヨウ素は無色のヨウ化ナトリウムを生成するとき、デンプンとの反応で検出できる。従って、PVを標準法(IUPAC法2.500)によって決定した。
【0103】
脂質試料の過酸化物価は脂質がどの程度分解して過酸化物になっているか、すなわち、脂質がどの程度酸敗しているかを示す指標となる。過酸化物価が高いほど脂質は酸敗しており、それだけ酸化度が大きいことになる。
【0104】
結果を表6に示す。
【0105】
【表4】

表6の結果は、油を外皮にカプセル化すると紫外線に曝露されたときの酸化を大幅に抑えることを示している。このため、外皮は、酸素および/または紫外線に敏感な物質、特に脂質を送達する賦形剤として使用するのに非常に好適であり、使用前の貯蔵期間中はもちろんのこと、局所に適用される間、および適用されたあともこれらの物質を確実に保護することができる。
【0106】

実施例4−紫外線に対する安定性(2)
25μmAHS外皮(0.125g)にエキウム油(0.5g)を、油:外皮4:1の重量比で加えて均一な混合物にした試料を2個ずつ調製した。実施例3の場合と異なり、外皮に油を含浸させるときに混合物を真空にかけない。したがって油と外皮は、単なる物理的な混合物として存在し、大部分の油は外皮の外に存在した。
【0107】
試料に紫外線を照射し、実施例3に記載の方法により、照射前と照射後の過酸化物価を決定した。ここでも比較対照に無希釈のエキウム油を使用した。
得られた結果を表7に示す。
【0108】
【表5】

これらのデータは、実験誤差の範囲内で外皮がエキウム油を紫外線から非常に大きく保護することを示している。この事例では、大部分の油が、外皮の中にカプセル化されているのではなく、むしろ外皮の周辺に存在している可能性が高いので、この結果は外皮が、天然の酸化防止特性を有することを例示している。
【0109】
実施例5−空気酸化に対する安定性(1)
この実施例では、空気酸化に対する外皮の保護特性を評価した。すなわち、大気中の酸素が油の酸敗に対して及ぼす影響を測定するため、MetrohmTM 743 Rancimat version 1.0SRIを使用し、空気の流速20リットル/時間、実験温度50℃で酸化誘導時間(OIT)を決定した。Rancimatは、AOCSの空気酸化法(AOM−AOCS Cd 12b−92)に従って、特に食用油脂の酸化安定性の決定に使用される。
【0110】
油、脂肪、脂肪酸アミド、およびその他の脂肪酸誘導体を含め、すべての物質が、本来的にある程度の抗酸化性を持っている。この自然の抗酸化性の大きさは物質自体とそれに含まれる添加物に依存するばかりでなく、それまでに受けた処理にも依存する。生来の抵抗力を超えるまで酸化はゆっくり進行する傾向があるが、一旦この点を超えると酸化は急速に速度を増す。OITはこのような加速が始まるまでの時間を表す。これを超えると、試験に供せられる物質が酸敗していると概ね考えられる時間的限界である。
【0111】
Rancimatを使って、所定温度の加熱ブロック中に装着した試料中に濾過、乾燥した空気を流す。つづいて、試料から出てくる空気を脱イオン水中に導入し、伝導度測定セルによって脱イオン水の電気伝導度を連続測定する。酸化されるにつれて、試料はカルボン酸、主としてギ酸などの揮発性有機化合物を生成する。排出されてくる空気中にこのような物質が存在すると、それに応じて、最初の脱イオン水の電気伝導度は変化する。伝導度の時間変化を示すグラフが得られ、そのグラフから、Racimatが、時間に関する伝導度の二次導関数の極大を参照することにより、OIT(酸化速度が最も大きく変化する点として定義される)を自動的に得ることができる。
【0112】
3種類の試料、すなわち新鮮なエキウム油をグラスウールに混合した試料、空の外皮(上記の記載に従って調製)をグラスウールに混合した試料およびエキウム油を40μmAHS外皮の中に充填した試料をそれぞれ2個ずつ調製した。後者試料の油:外皮重量比は0.5:1とした。共焦点電子顕微鏡による観察から、第三の試料の場合、油は外皮によってカプセル化されていることが確認された。
【0113】
まばらに分散した各試料の下に空気を送って、表面とよく接触するようにした。上に記載したようにRacimatを使用して試料の酸化を評価した。得られた結果を表8に示す。
【0114】
【表6】

表8のデータから、外皮にカプセル化した油は、空気酸化に対して大幅に抵抗性が高まり、安定性を増していることがわかる。これは、外皮による保護効果があることを示唆している。胞子から誘導された外皮は少なくとも部分的に多孔質であることがわかっているので、この保護効果は、外皮が酸素の進入を阻止する単なる物理的な障壁以上のものである可能性が高い。
【0115】
実施例6−空気酸化に対する安定性(2)
25μmのAHS外皮を使用し、カプセル化した油試料の代わりにエキウム油と外皮の物理的な混合物を使って実施例5をくり返した。物理的混合物に含まれる油:外皮の重量比は5:1(0.5gの油に対して0.1gの外皮)とした。
【0116】
得られた結果を表9に示す。
【0117】
【表7】

過剰量の油を外皮と混合した(5:1)場合も、エキウム油を少なくとも140時間の間空気酸化から保護することが確認された。この実施例の場合、油の大部分は外皮の外に存在していたはずなので、この結果は、酸素を遮断する純粋に物理的な障壁というよりもむしろ、外皮自体が酸化防止剤として働いていることを示唆している。
【0118】
実施例3および5は、油を外皮内部にカプセル化すれば(すなわち外皮のミクロカプセル内部の空洞に油を収容し、共焦点顕微鏡法で観察されるように外表面の油を極力少なくするか全くなくすれば)、紫外線によって誘発される酸化および空気酸化に対する優れた保護効果が観察できることを示している。しかし、この実施例や実施例4の場合のように、油が過剰に存在するため、かなりの油が外皮外側上に存在し、そのため油が空気と紫外線の両方に容易に曝される場合であっても、外皮自身が油の酸化を阻止する働きをすることを発明者は発見した。
【0119】
実施例7−紫外線に対する安定性(3)
上で述べたようにして外皮にエキウム油かタラ肝油を充填した。いずれの場合も油:外皮重量比は1:1とした。25μmの殻と40μmの殻について実験し、両方ともAHS殻(外皮のみ)とBHS殻(外皮+内膜)を用いた。
【0120】
各試料を時計皿の上に広げ、実施例3に記載したように紫外線を照射した。比較対照として、カプセル化されていない油の試料に同じ処理を行った。
照射前と照射後の各試料の過酸化物価(PV)を、やはり実施例3に記載した方法によって決定した。
【0121】
タイプが異なる外皮に対して得られた結果を表10〜13に示す。
【0122】
【表8】


これらのデータは、油を外皮の内部にカプセル化すると、紫外線にさらされたときの酸化速度を大幅に抑えることができることを裏づけている。
【0123】
結果は、特に40μmBHSの場合に顕著であり、エキウム油とタラ肝油の両方を酸化から完全に保護するように思われる。さらに、この場合、外皮が油を清浄化して、紫外線照射前であっても油の過酸化物を減らすように思われる。このことは、照射紫外線から油を遮蔽する能力の如何に関係なく、このBHSが大きな抗酸化効果に寄与していること、そしてある一定の状況下にあっても、それまでに生じた酸敗を消去できるかもしれないことを示唆している。
【0124】
実施例8−酸敗した油の清浄化
タラ肝油、40μmの外皮(AHSとBHSの両方)および外皮:油の重量比0.5:1、すなわち大幅に高い油充填比を使用して実施例7をくり返した。得られた結果を表14に示す。
【0125】
【表9】

ここでも、表の結果は、BHS殻(外皮+内膜)が酸敗を浄化する能力を持っていることを証明しており、(外皮+油)試料の過酸化物価は、元の油試料のそれよりも低い。
【0126】
実施例9−酸敗油の清浄化(2)
すでに20.5meq/kgの過酸化物価を持ち、酸敗しているエキウム油を使って実施例8をくり返した。
【0127】
照射前の得られた結果を表15に示す。
【0128】
【表10】

ここでも、表のデータは40μmBHS(すなわち外皮/内膜の組み合わせ)がすでに酸敗した油を「清浄化」する驚くべき能力を有することを証明している。元の油試料の過酸化物価は外皮にカプセル化したあとで大きく減少している。外皮の比率が高いほど効果が大きい。
【0129】
実施例10−空気酸化に対する安定性(3)
タラ肝油を使用した以外は同じ条件で実施例5をくり返した。
この試験には40μmの外皮(AHSとBHSの両方)を使用し、タラ肝油を、油:外皮の重量比が1:1、3:1および5:1となるように充填した。試料管に詰めた2個のグラスウール栓の中央に各試料を計り入れた。栓を貫通する形で毛細管を通し、油が管の底に流れ落ちないようにした。Rancimatの加熱ブロックに試料管を挿入し、それから空気を導入した。
【0130】
得られた結果を表16に示す。
【0131】
【表11】

表16のデータも、外皮にカプセル化した油が空気酸化に対してよりずっと大きな抵抗性を示し、それだけ安定性も高いことを示している。
【0132】
余分の油は外皮の外に存在する可能性が高く、および/または外皮との会合が弱い可能性が高いため、油充填比が高くなるほど保護効果は低くなる(カプセル化された油は、外皮が持つ天然の抗酸化能から恩恵を受けるだけでなく、空気から物理的に保護されることからも恩恵を受ける)。
【0133】
実施例11−有効物質の高充填
油と25μmAHS外皮とを一緒に攪拌して均一な混合物を調製し、それを2時間真空(30kPa)にかけ、油を外皮に含浸させる。その油には、大豆、ヒマワリ油、エキウム油およびナタネ油を、外皮1g当たり最大3gまで、そしてタラ肝油を外皮1g当たり最大3.5gまで使用した。
【0134】
比較的高い充填率でも、油を充填した外皮は粉末の挙動を示すことが判明し、これらの油が効果的にカプセル化されていることを裏づけている。このことは共焦点顕微鏡観察でも確認された。このことは、有効物質の送達賦形剤として、胞子から誘導される外皮を使用することの利点の一つであることを示している。さらに、これらの外皮が、粉末配合物における賦形剤として、ダスティング粉およびメーキャップなどの化粧品、洗浄用品または洗濯用品の局所的送達に好適であることを示している。
【0135】
外皮1g当たりの油の充填率が5g以上になると試料はペースト状となり、油のかなりの部分が外皮の外側に存在することを示唆した。このような配合物は、たとえばクリームや軟膏としての適用に好適かもしれない。外皮1g当たりの油の充填率が2g以下の場合、粉末は、微細なさらさらの粉末となり、十分乾燥した触感を与えた。
【0136】
実施例12−代表的な化粧配合物
本発明に従い、上記実施例で調製される胞子から誘導された外皮を使用して、その外皮に化粧物質、たとえば日焼け防止剤を充填して局所用化粧配合物を調製することができる。充填した外皮は適当な賦形剤に懸濁させてもよい。化粧タイプや、実際にその他のタイプの局所用配合物の使用には多くの賦形剤が知られている。調製される配合物はローションやクリームあるいはゲルであったり、他の適当な形態であったりするかもしれない。配合物を、たとえば皮膚に指先で塗りつけるとはじめてその時点で、カプセル化された日焼け防止剤の一部が皮膚の表面に放出される。処理する部位を軽く擦ると、さらに日焼け防止剤の一部が放出される。
【0137】
このような配合物は、二つ以上の異なる化粧物質(その内の一つは、たとえば香料であってもよい)を充填した外皮を含んでもよく、局所に適用すると一緒に放出される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
天然胞子(該用語は花粉粒および微生物の内生胞子を包含する)の外皮に化学的もしくは物理的に結合した有効物質、または前記外皮中にカプセル化された有効物質を含む局所用配合物。
【請求項2】
有効物質が医薬的に有効な物質、除草剤、殺虫剤および昆虫防除剤、成長調整剤などの植物処理剤、抗微生物活性物質、化粧料(香料を含む)、トイレタリ、消毒剤、洗剤およびその他の洗浄剤、接着剤、診断薬および色素から選択される請求項1に記載の局所用配合物。
【請求項3】
有効物質が化粧物質を含む請求項2に記載の局所用配合物。
【請求項4】
有効物質がトイレタリ製品に使用される物質を含む請求項2に記載の局所用配合物。
【請求項5】
有効物質が家庭用品に使用される物質を含む請求項2に記載の局所用配合物。
【請求項6】
有効物質が、動物に使用される物質を含む医薬的に有効な物質を含む請求項2に記載の局所用配合物。
【請求項7】
有効物質が、医薬的に有効な物質、化粧物質およびトイレタリ物質から選択される請求項2に記載の局所用配合物。
【請求項8】
有効物質が揮発性物質を含む請求項1から請求項7のいずれか一項に記載の局所用配合物。
【請求項9】
有効物質が香料を含む請求項8に記載の局所用配合物。
【請求項10】
有効物質が、熱、光、酸素および水から選択される一つ以上の外的影響に敏感である請求項1から請求項9のいずれか一項に記載の局所用配合物。
【請求項11】
有効物質が酸化されやすい請求項10に記載の局所用配合物。
【請求項12】
有効物質が脂質または脂質様物質を含む請求項1から請求項11のいずれか一項に記載の局所用配合物。
【請求項13】
有効物質が補助的な流体賦形剤中に存在する請求項1から請求項12のいずれか一項に記載の局所用配合物。
【請求項14】
補助的な流体賦形剤が脂質である請求項13に記載の局所用配合物。
【請求項15】
有効物質を含有する外皮の二つ以上の集合体を含み、各外皮に異なる有効物質が化学的もしくは物理的に結合するか、または有効物質がカプセル化されている請求項1から請求項14のいずれか一項に記載の局所用配合物。
【請求項16】
有効物質が外皮と物理的に結合するか、または外皮中にカプセル化されている請求項1から請求項15のいずれか一項に記載の局所用配合物。
【請求項17】
有効物質が少なくとも部分的に外皮中にカプセル化されている請求項16に記載する局所用配合物。
【請求項18】
外皮の直径が1〜300μmである請求項1から請求項17のいずれか一項に記載の局所用配合物。
【請求項19】
外皮の直径が3〜50μmである請求項18に記載の局所用配合物。
【請求項20】
外皮が天然胞子のセルロース内膜のすべてまたは一部をさらに含有する請求項1から請求項19のいずれか一項に記載の局所用配合物。
【請求項21】
有効物質と外皮とが0.1:1〜33:1の重量比で含有される請求項1から請求項20のいずれか一項に記載の局所用配合物。
【請求項22】
有効物質と外皮とが0.5:1〜5:1の重量比で含有される請求項21に記載の局所用配合物。
【請求項23】
外皮が障壁層で被覆されている請求項1から請求項22のいずれか一項に記載の局所用配合物。
【請求項24】
障壁層が被覆物質を含有し、該被覆物質が局所投与時に溶融するか、破壊されるか、または変化することにより有効物質が放出される請求項23に記載の局所用配合物。
【請求項25】
被覆物質は、配合物の標準的な貯蔵条件下(典型的には室温)では固体であるが、貯蔵条件より高い、局所に使用される温度では溶融する請求項24に記載の局所用配合物。
【請求項26】
被覆物質がヒトの皮膚温度またはその付近で溶融する請求項25に記載の局所用配合物。
【請求項27】
障壁層が脂質の被覆物質を含有する請求項23から請求項26のいずれか一項に記載の局所用配合物。
【請求項28】
ローション、クリーム、軟膏、ペースト、ゲル、またはフォームの形態である請求項1から請求項27のいずれか一項に記載の局所用配合物。
【請求項29】
粉末の形態である請求項1から請求項27のいずれか一項に記載の局所用配合物。
【請求項30】
配合物を適用しようとする表面に対する外皮の親和性を高める官能基の結合により外皮の外側が修飾されている請求項1から請求項29のいずれか一項に記載の局所用配合物。
【請求項31】
有効物質が天然胞子の外皮のフラグメントに化学的または物理的に結合している請求項1から請求項30のいずれか一項に記載の局所用配合物。
【請求項32】
実質的に本願に記載されている局所的配合物。
【請求項33】
請求項1から請求項32のいずれか一項に記載の局所用配合物を含有する生成物。
【請求項34】
化粧品、トイレタリ、ヘアケア製品、ネイルケア製品およびデンタル製品から選択される請求項33に記載の生成物。
【請求項35】
(動物用医薬品を含む)医薬品である請求項33に記載の生成物。
【請求項36】
二つ以上の物質を含有し、そのうちの少なくとも一つが、天然胞子(該用語は花粉粒および微生物の内生胞子を包含する)の外皮中にカプセル化されるか、または外皮に化学的もしくは物理的に結合した有効物質である請求項33から請求項35のいずれか一項に記載の生成物。
【請求項37】
外皮中にカプセル化されるか、または外皮に化学的もしくは物理的に結合した物質が香料である請求項36に記載の生成物。
【請求項38】
局所用配合物を含有する生成物であって、実質的に本願に記載されている生成物。
【請求項39】
有効物質を局所送達用に配合する方法であって、
(a)天然胞子(該用語は花粉粒および微生物の内生胞子を包含する)の外皮を調製または準備する工程と、
(b)有効物質を外皮中にカプセル化するか、または有効物質を外皮に化学的もしくは物理的に結合させる工程とを含む方法。
【請求項40】
有効物質が外皮上または外皮中にin situで発生する請求項39に記載の方法。
【請求項41】
有効物質を表面に局所的に適用する方法であって、
(a)有効物質を天然胞子(該用語は花粉粒および微生物の内生胞子を包含する)の外皮にカプセル化するか、または有効物質を外皮に化学的もしくは物理的に結合させる工程と、
(b)得られる配合物を表面に適用する工程とを含む方法。
【請求項42】
弱い圧力が加えられて配合物が表面に適用される請求項41に記載の方法。
【請求項43】
表面が生体表面である請求項41または請求項42に記載の方法。
【請求項44】
表面がヒトの皮膚である請求項41から請求項43のいずれか一項に記載の方法。
【請求項45】
ヒトまたは動物の患者を治療する方法であって、医薬的に有効な物質の治療的または予防的に有効な量を含有する請求項1から請求項32のいずれか一項に記載の配合物を患者の体の局所表面に適用する工程を含む方法。
【請求項46】
表面に配合物が適用された後、有効物質を徐々に放出するために行われる請求項41から請求項45のいずれか一項に記載の方法。
【請求項47】
表面に配合物が適用された後、有効物質を徐々に放出するために、さらに1回以上、治療面に圧力が加えられる請求項46に記載の方法。
【請求項48】
医薬的に有効な物質の局所的送達賦形剤として使用される、天然胞子(該用語は花粉粒および微生物の内生胞子を包含する)の外皮。
【請求項49】
ヒトまたは動物の体に局所投与する治療薬の製造における、天然胞子(該用語は花粉粒および微生物の内生胞子を包含する)の外皮の使用方法。
【請求項50】
有効物質の局所的送達賦形剤としての、天然胞子(該用語は花粉粒および微生物の内生胞子を包含する)の外皮の使用方法。
【請求項51】
(a)局所的に送達するまで有効物質を保護する目的と、(b)局所表面に適用されたときに有効物質を放出させる目的との、二つの目的への天然胞子(該用語は花粉粒および微生物の内生胞子を包含する)の外皮の使用方法。
【請求項52】
外皮が酸化防止剤としてさらに使用される請求項49から請求項51のいずれか一項に記載の使用方法。
【請求項53】
外皮が胞子からのセルロース内膜物質をさらに含有する、有効物質送達賦形剤としての、天然胞子(該用語は花粉粒および微生物の内生胞子を包含する)の外皮の使用方法。
【請求項54】
有効物質を含有する配合物であって、有効物質は、天然胞子(該用語は花粉粒および微生物の内生胞子を包含する)の外皮に化学的もしくは物理的に結合しているか、または外皮中にカプセル化されており、外皮が胞子からのセルロース内膜物質をさらに含有する配合物。

【公表番号】特表2009−502896(P2009−502896A)
【公表日】平成21年1月29日(2009.1.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−523452(P2008−523452)
【出願日】平成18年7月27日(2006.7.27)
【国際出願番号】PCT/GB2006/002802
【国際公開番号】WO2007/012857
【国際公開日】平成19年2月1日(2007.2.1)
【出願人】(506000737)ユニバーシティ オブ ハル (3)
【氏名又は名称原語表記】UNIVERSITY OF HULL
【Fターム(参考)】