説明

スマトリプタン含有内用液剤

【課題】本発明は、用時希釈などの調製が不要であり、医療現場において細菌感染や異物混入の恐れがなく、使いがっての良い長期保存安定性に優れたスマトリプタンまたはその医薬上許容しうる塩を含有する内用液剤に関する。
【解決手段】
製剤全体量に対して、10重量%以下のスマトリプタン、pH調節剤を含有し、密封容器に充填された内用液剤であり、および/または、内用液の溶存酸素が7.0mg/L以下、容器中のヘッドスペースの酸素濃度が10.0%以下に調整され、かつ、溶液のpHが3.0〜6.0であることを特徴とする、長期保存安定なスマトリプタン含有内用液剤

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、用時希釈などの調製が不要であり、医療現場において細菌感染や異物混入の恐れがなく、使いがっての良い長期保存安定性に優れたスマトリプタンまたはその医薬上許容しうる塩を含有する内用液剤に関する。
【背景技術】
【0002】
スマトリプタンは、5−HT1受容体、特に5−HT1B、5−HT1D受容体に作用して、頭痛発作時に過度に拡張した頭蓋内外の血管を収縮させることにより片頭痛を改善すると考えられ、また、三叉神経に作用して、神経末端からのCGRP(calcitoningene−related peptide)など起炎性ペプチドの放出を抑制することも、片頭痛の緩解に寄与していると考えられることが知られている優れた片頭痛薬である。すでに、錠剤、注射剤、点鼻剤が医薬品として用いられている。
【0003】
しかしながら、錠剤は高齢者等嚥下が困難な患者にはQOL(Quality of Life)上好ましくなく、また、点鼻剤もその投与が患者に苦痛を与えることがあることから敬遠されることが多々ある。また、注射剤は、病院等特定の場所でなければ投与できないなど不便である。したがって、これらの現状から医療現場では、内用液が望まれていた。
【0004】
一方、スマトリプタン、例えばスマトリプタンコハク酸塩は、通常の条件下では酸、塩基、酸化及び紫外線照射には安定であるが、90℃に加熱したときは酸性、塩基性及び酸化性条件で分解することが知られている(J Pharm Biomed AnalVol.26、No.3、Page.367−377(2001))。しかしながら、本発明者らは、上記の条件とは別に、スマトリプタンの内用液が、より緩和な条件であるpHや酸素により分解・変色することを実験で確かめた。したがって、スマトリプタンを内用液とするには、これらpH、酸素により分解されない長期安定性を有する製剤品でなければならないことになる。
【0005】
医薬品の安定化の技術として、pHを調整した液を窒素置換することにより、長期間の安定性に優れた注射液製剤を提供する技術が(特許文献1、2)が知られている。特許文献1に記載されている技術は、デプシペプチドの注射剤の提供を目的としているものであり、塩化第二鉄等の物質を配合することを特徴とするものである。特許文献2に記載されている技術は、レボホリナートの安定化に関するものであり、ニコチン酸アミド等の安定化剤を配合することを特徴とするものである。
また、窒素置換することにより医薬品の安定化を図る技術しては、例えば、特許文献3が知られている。当該技術は、塩酸ブロムヘキシン及び塩酸アンブロキソールに関するものであり、経口投与用製剤とあるものの、実施例は固形製剤に関するものである。
また、注射用水の窒素置換による安定化技術としては、特許文献4が知られている。当該技術は、ファモチジン、酸性物質およびニコチン酸アミドを注射用水とともにアンプルに充填され、アンプル内の空間が窒素置換されてなる注射剤に関するものである。
しかながら、これらの先行技術には、スマトリプタン内用液剤における長期安定性や製剤調製時の密封容器中の残存酸素量やpHを調整による安定化技術については記述が無い。すなわち、スマトリプタン内用液のpHや酸素に対する安定化に関する技術は一切知られていなかった。
【0006】
【特許文献1】国際公開WO2007/02871号公報
【特許文献2】特開2008−222674号公報
【特許文献3】特開平10−101581号公報
【特許文献4】特開2003−261449号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、pH、酸素により分解・変色することがない長期保存安定性に優れたスマトリプタンまたはその医薬上許容しうる塩を含有する内用液剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討したところ、製剤全体量に対して、スマトリプタンとして10重量%以下のスマトリプタンまたはその医薬上許容しうる塩およびpH調節剤を含有し、密封容器に充填することにより安定性の優れた内用液剤が得られること、さらに、内用液の溶存酸素が7.0mg/L以下、容器中のヘッドスペース(上部空隙)の酸素濃度が10.0%以下に調整され、かつ、溶液のpHが3.0〜6.0であるスマトリプタン含有内用液剤とすることで、長期保存中のスマトリプタンの分解物生成を抑え、また着色も防止できる長期保存安定な製剤を得られることを見出し、本発明を完成した。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、さらに本発明を詳細に説明する。
本発明の内用液剤の構成成分は、スマトリプタンまたはその医薬上許容し得る塩およびpH調節剤であり、その他の任意成分を含有しうる。本発明に用いられるスマトリプタンの医薬上許容し得る塩としては、塩酸塩、硝酸塩、臭化水素酸塩、硫酸塩、フマル酸塩、マレイン酸塩、コハク酸塩等が挙げられるが、コハク酸塩が好ましい。スマトリプタンまたはその塩は、製剤全体量に対して、スマトリプタンとして10重量%以下で用いられるが、3.0〜6.0重量%が好ましく、4.5〜5.5重量%であることがより好ましい。
【0010】
pH調節剤としては、例えば、有機酸のアルカリ金属塩、有機酸のアルカリ土類金属塩、無機酸の金属塩、具体的には、クエン酸、リンゴ酸、酒石酸、コハク酸、マレイン酸、フマル酸、マロン酸、酢酸、乳酸などの有機酸とナトリウム、カリウムなどのアルカリ金属との塩、酢酸、塩酸、硫酸等の酸やその塩、水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム等を用いて行うのが好ましい。本発明においては、塩酸、クエン酸又はその塩あるいは水酸化ナトリウムがより好ましい。これらは併用することも可能である。
【0011】
本発明におけるpH調節剤は、内用液のpHを調節するためにだけ添加するものであり、多量に添加する必要はない。スマトリプタンまたはその医薬上許容し得る塩1重量%に対して、pH調節剤は0.001〜20重量%、好ましくは0.01〜10重量%、より好ましくは0.1〜5重量%、さらに好ましくは0.2〜3重量%添加すればよい。
【0012】
本発明の内用液剤は、上記pH調節剤を用いて、pHが3.0〜6.0に調整することが好ましい。更に好ましくは、pHが4.0〜5.0、特に好ましくは、pHが4.2〜4.8である。これらの範囲であればスマトリプタンの安定性が優れた内用液製剤を得ることができる。
【0013】
その他、本発明の内用液剤には、必要に応じて等張化剤、防腐剤、界面活性剤、安定化剤、抗酸化剤等を添加することができる。
【0014】
等張化剤としては、例えばグリセリン、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、トリハロース、シュクロース、ソルビトール、マンニトール、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム等を挙げることができる。防腐剤としては、例えば安息香酸、安息香酸ナトリウム、塩化ベンザルコニウム、メチルパラベン、エチルパラベン、プロピルパラベン、ブチルパラベン、クロロブタノール等を挙げることができる。
【0015】
界面活性剤としては、例えばポリソルベート80、ポリオキシル35ヒマシ油、ショ糖脂肪酸エステル、ステアリン酸ポリオキシル40等を挙げることができる。
【0016】
本発明の効果を十分に発揮するためには、容器中の残存酸素量の調整は、容器空隙中の空気を不活性ガスで置換することが好ましい。置換された容器内は酸素を実質的に含まないガス雰囲気下であることが望ましいが、容器中のヘッドスペースの酸素濃度が10.0%以下であれば本発明の目的は達成できる。不活性ガスによる置換は、容器内のヘッドスペースのみを置換するだけでも良いが、不活性ガスをバブリングすることにより、溶存酸素を除去した内用液とすることもできる。
【0017】
本発明に用いられる不活性ガスは、内用液に含有される成分に変化を与えなければ特に制限はないが、窒素ガス、ヘリウム、アルゴン等が好ましく、窒素ガスがより好ましい。窒素ガスの種類としては、ガス中の酸素濃度を10%以下に抑えたものを使用することが望ましく、酸素濃度を7.0%以下に抑えたものを使用することがより望ましい。
【0018】
上記不活性ガスを用いることにより、本発明のスマトリプタン含有内用液の液中の溶存酸素は、7.0mg/L以下であることが好ましく、5.0mg/L以下であることがより好ましい。また、容器中のヘッドスペースの酸素濃度が10.0%以下であることが好ましく、7.0%以下であることがより好ましい。
【0019】
本発明のスマトリプタンの内用液は、密封容器に充填されたものである。上述のとおり、スマトリプタンまたはその医薬上許容し得る塩の内用液はpH、酸素により分解されることから、これらの影響をできるだけ受けないようにするためには、密封容器に充填することが望ましいからである。また、不活性ガスで置換した容器内のヘッドスペースの酸素濃度を上昇させないためにも密封状態が保持されることが望ましい。
【0020】
本発明の内用液剤は、精製水にスマトリプタンまたはその塩を溶解し、さらに他の添加剤を加え、pH調節剤を加えた後、通常の方法に従い、例えばメンブランフィルター濾過を行い密封容器に充填することによって製造することができる。
【0021】
本発明の内用液は、液剤としての経口剤として用いることができ、本発明の製剤をそのまま投与することが可能である。本発明の内用液の1容器あたりの製剤全量(容量または質量)は、医薬品として使用されるにあたっての貯蔵、流通およびそれに続く使用を考慮して適宜選択しうる。医療施設における保管のスペース、使用時の簡便性および投与時の無菌性の維持などを考慮し、1容器あたり1回使用量の製剤を含有させることが好ましく、1回使用量として好適な製剤全量(質量)は0.1mL〜20mL/1容器であり、特に好ましくは0.5mL〜10mL/1容器である。
【0022】
本発明の内用液製剤を充填する容器の素材は薬学的に許容できる任意のものを使用できる。かかる素材はガラス、プラスチック、アルミラミネートフィルム等が挙げられる。ここで容器の素材は、酸素透過性の低い素材を用いることが望ましい。
【発明の効果】
【0023】
本発明の内用液剤、すなわち、製剤全体量に対して、スマトリプタンとして10重量%以下のスマトリプタンまたはその医薬上許容しうる塩、pH調節剤を含有し、密封容器に充填されたスマトリプタン含有内用液剤とすることにより、安定性に優れたスマトリプタン内用液製剤を提供することができる。特に、内用液の溶存酸素が7.0mg/L以下、容器中のヘッドスペースの酸素濃度が10.0%以下に調整され、かつ、溶液のpHが3.0〜6.0とすることにより、長期保存中のスマトリプタンの分解物の生成を抑え、また着色も防止できる安定性に優れたスマトリプタン内用液製剤を得ることができる。したがって、本発明の内用液剤は、用時希釈などの調製が不要であり、医療現場において、使いがっての良い長期保存安定性に優れたスマトリプタンまたはその医薬上許容しうる塩を含有する製剤として極めて有用である。
【実施例】
【0024】
以下に実施例及び比較例ならびに実験例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらにより限定されるものではない。
実施例1
精製水にスマトリプタンコハク酸塩を溶解し、バイアル瓶に充填量34mL、空隙容積34mLとなるように充填した。空隙中の酸素濃度を0.5〜20.9%とし、専用ゴム栓で打栓及びフィリップオフキャップで巻き締めした。この検体を60℃環境下に保存し、内用液の色の変化を観察した。
【表1】

【0025】
実施例2
精製水にスマトリプタンコハク酸塩を溶解し、pH調節剤によりpH3.0〜7.0に調節した後、バイアル瓶に充填量34mL、空隙容積34mLとなるように充填し、専用ゴム栓で打栓及びフィリップオフキャップで巻き締めした。この検体を60℃環境下に保存し、内用液の色の変化を観察した。
【表2】

【0026】
実施例3
精製水にスマトリプタンコハク酸塩を溶解し、pH調節剤によりpH3.0〜7.0に調節した後、バイアル瓶に充填量34mL、空隙容積34mLとなるように充填した。空隙中の酸素濃度を0.5%とし、専用ゴム栓で打栓及びフィリップオフキャップで巻き締めした。この検体を60℃環境下に保存し、内用液の色の変化を観察した。
【表3】

【0027】
表1から明らかなように、本発明の内用液剤は、内用液の溶存酸素が7.0mg/L以下、容器中のヘッドスペースの酸素濃度が10.0%以下の場合、スマトリプタンの分解が少なくなることが認められ、本発明の内用液剤の優れた保存安定性が示された。また、空隙内の酸素濃度と変色の関係を表1で得られた結果、溶存酸素が7.0mg/L以下、容器中のヘッドスペースの酸素濃度が10.0%以下であれば、変色を十分に抑制できる結果となった。
【0028】
以上の結果より、本発明の内用液剤、すなわち、製剤全体量に対して、1.0重量%以下のスマトリプタン、10重量%以下の溶解補助剤、pH調節剤を含有し、等張化され密封容器に充填された内用液剤であって、密封容器中の溶存酸素が7.0mg/L以下、容器中のヘッドスペースの酸素濃度が10.0%以下に調整され、かつ、溶液のpHが3.0〜6.0であるスマトリプタン含有内用液剤とすることで、長期保存中のスマトリプタンの分解物の生成を抑え、また着色も防止できることが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0029】
本発明により、長期保存中のスマトリプタンの分解物の生成を抑え、また着色も防止できる安定性に優れたスマトリプタン内用液剤を提供することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
製剤全体量に対して、スマトリプタンとして10重量%以下のスマトリプタンまたはその医薬上許容しうる塩およびpH調節剤を含有し、密封容器に充填されたスマトリプタン含有内用液剤。
【請求項2】
内用液の溶存酸素が7.0mg/L以下、容器中のヘッドスペースの酸素濃度が10.0%以下に調整され、かつ、溶液のpHが3.0〜6.0であることを特徴とする、請求項1に記載のスマトリプタン含有内用液剤。
【請求項3】
容器中の残存酸素量の調整を、不活性ガスにより容器空隙中の空気を置換することで行うことを特徴とする、請求項2に記載のスマトリプタン含有内用液剤。
【請求項4】
前記不活性ガスが窒素であることを特徴とする、請求項3に記載のスマトリプタン含有内用液剤。
【請求項5】
pH調整剤が、塩酸、クエン酸又はその塩あるいは水酸化ナトリウムのいずれか1種または2種以上を用いることを特徴とする請求項1乃至4に記載のスマトリプタン含有内用液剤。

【公開番号】特開2011−126856(P2011−126856A)
【公開日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−299424(P2009−299424)
【出願日】平成21年12月17日(2009.12.17)
【出願人】(000169880)高田製薬株式会社 (33)
【Fターム(参考)】