説明

スマートエントリー異常判定システム

【課題】スマートエントリーシステムが正常に動作しなくなる場合の原因がノイズの影響による単発的なものであるかどうかを精度良く判定すること。
【解決手段】本発明によるスマートエントリー異常判定システム1は、ヘッダーコードが組み込まれるヘッダー部と、暗号コードが組み込まれるデータ部とを含む構造のデータフレームを送信するキー側送受信機12と、キー側送受信機12から送られてくるデータフレームを受信する車両側受信機24と、車両側受信機24により受信された前記データフレームの暗号コードが正規ユーザに係る暗号コードに対応する場合に、車両のドアの開錠を行うドアロックシステム60と、車両側受信機24により受信された前記データフレームの一部だけが破壊されている場合に、ノイズによる単発的な通信異常であると判定する異常判定部34とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スマートエントリーシステムの異常を適切に判定するスマートエントリー異常判定システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、ユーザが携帯機(キー)のスイッチを操作することにより発信されるワイヤレス信号を受信し、当該ワイヤレス信号に含まれるIDコードが正当である場合に、車両のドアロックの施錠又は解錠を行うキーレスエントリシステムが知られている。
【0003】
また、近年では、車両に搭載される送受信装置と携帯機との間で微弱電波により双方向通信を行い、携帯機のIDコードを確認することにより正当なユーザの車両への接近を検出し、ドアアウターハンドルの操作の検出と同時に車両のドアロックを解除するスマートエントリーシステムが提案されている。このスマートエントリーシステムでは、ユーザがドア開閉後に運転席に着座した際にも通信が行われ、携帯機の正当なIDコードを確認することで、イモビライザ機能の解除及びステアリングロックのロック解除が実行される。その後、ユーザは、携帯機(キー)をイグニッションシリンダーに差し込むことなく、ダイヤルスイッチ等を手動操作してイグニッションスイッチをオンにし、エンジンを始動することができる。更に、このスマートエントリーシステムでは、ユーザがイグニッションスイッチをオフにしドア開閉後に車両から離れる際にも通信が行われ、正当なIDコードを持つ携帯機の離間を検出することで、上述の各種装置をロック状態にする。このように、スマートエントリーシステムでは、ユーザが携帯機を所持していれば、携帯機による各種操作が不要となり、利便性が図られている。
【0004】
この種のスマートエントリーシステムに関して、スマートエントリーシステムで行われる通信に対するノイズの影響を回避するために、スマートエントリーシステムで通信が行われる際に、インバーター等のノイズ発生源の作動を制限する技術が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2004−197649号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、車両の周辺環境は、様々な電波が飛び交っているので、スマートエントリーシステムにとって他のシステムの電波がノイズとして混入されやすい状況となる。スマートエントリーシステムでの通信で用いられる微弱電波は、国内電波法により最大出力が制限されている。このため、ノイズの影響を受けない大きな送信電力を確保することは困難であり、微弱電波に乗せて送信されるデータフレームは、ノイズの影響を非常に受け易い。データフレームがノイズの影響を受けると、データフレームのヘッダー部が破壊される等して、スマートエントリーシステムが正常に動作しなくなる場合がある。かかる場合に、スマートエントリーシステムが正常に動作しない原因がノイズの影響による単発的なものである場合であっても、ユーザに、そのことを知ってもらうことができないと、ユーザに、スマートエントリーシステムが故障したと勘違させてしまう虞がある。
【0006】
そこで、本発明は、スマートエントリーシステムが正常に動作しなくなる場合の原因がノイズの影響による単発的なものであるかどうかを精度良く判定することができ、原因がノイズの影響による単発的なものである場合に、その旨をユーザに知ってもらうことができるスマートエントリー異常判定システムの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、第1の発明に係るスマートエントリー異常判定システムは、携帯型のキーに設けられ、ヘッダー部と、暗号コードが組み込まれるデータ部とを含む構造のデータフレームを送信するキー側送信手段と、
車両側に設けられ、前記キー側送信手段から送られてくるデータフレームを受信する車両側受信手段と、
車両側に設けられ、前記車両側受信手段により受信された前記データフレームの暗号コードが正規ユーザに係る暗号コードに対応する場合に、車両のドアの開錠を行うドアロック制御手段と、
前記車両側受信手段により受信された前記データフレームの一部だけが破壊されている場合に、ノイズによる単発的な通信異常であると判定する異常判定手段とを備えることを特徴とする。
【0008】
第2の発明は、第1の発明に係るスマートエントリー異常判定システムにおいて、
前記異常判定手段は、前記車両側受信手段により受信された前記データフレームのヘッダー部及びデータ部の双方が破壊されている場合には、未知の故障原因であると判定し、
前記異常判定手段が未知の故障原因であると判定した場合に、その旨をユーザに報知する報知手段を更に備えることを特徴とする。
【0009】
第3の発明は、第1の発明に係るスマートエントリー異常判定システムにおいて、
前記異常判定手段は、前記車両側受信手段により受信された前記データフレームのヘッダーコードが破壊されており且つ暗号コードが破壊されていない場合に、ノイズによる単発的な通信異常であると判定することを特徴とする。
【0010】
第4の発明は、第1の発明に係るスマートエントリー異常判定システムにおいて、
前記データ部には、複数の同一の前記暗号コードが組み込まれており、
前記異常判定手段は、前記車両側受信手段により受信された前記データフレームのヘッダーコードが破壊されておらず且つ複数の暗号コードの一部の暗号コードが破壊されている場合には、ノイズによる単発的な通信異常であるとの判定を留保することを特徴とする。
【0011】
第5の発明は、第1の発明に係るスマートエントリー異常判定システムにおいて、
前記異常判定手段がノイズによる単発的な通信異常であると判定した場合に、前記キー側送信手段に対して前記データフレームを再度送信するように要求するリトライ要求手段を備え、
前記異常判定手段は、前記リトライ要求手段による要求時を含めて複数回前記キー側送信手段から送られてくるデータフレームのうち、少なくとも1つのデータフレームの一部だけが破壊されている場合に、ノイズによる単発的な通信異常であると判定することを特徴とする。
【0012】
第6の発明は、第1の発明に係るスマートエントリー異常判定システムにおいて、
前記異常判定手段がノイズによる単発的な通信異常であると判定した場合に、その旨をユーザに報知する報知手段を更に備えることを特徴とする。
【0013】
第7の発明は、第6の発明に係るスマートエントリー異常判定システムにおいて、
前記報知手段は、機械キーによるドアの開錠が検出された場合に、前記報知を行うことを特徴とする。
【0014】
第8の発明は、第6又は7の発明に係るスマートエントリー異常判定システムにおいて、
前記報知手段は、車両内に配置された情報出力手段又はキー側に設けられる情報出力手段を介して、聴覚又は視覚により知覚可能な態様で、前記報知を行うことを特徴とする。
【0015】
第9の発明は、第6〜8のうちの何れかの発明に係るスマートエントリー異常判定システムにおいて、
前記報知手段は、車外に設置され前記携帯キーを所持するユーザとの間で通信可能な外部情報センタを介して、前記報知を行うことを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、スマートエントリーシステムが正常に動作しなくなる場合の原因がノイズの影響による単発的なものであるかどうかを精度良く判定することができるスマートエントリー異常判定システムが得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、図面を参照して、本発明を実施するための最良の形態の説明を行う。
【0018】
図1は、本発明によるスマートエントリー異常判定システム1の一実施例の主要構成を示す図である。本実施例のスマートエントリー異常判定システム1は、スマートエントリーシステムに組み込まれており、スマートエントリーシステムは、ユーザが携帯する携帯型のキー10と、車両に搭載される車載器20とを備える。
【0019】
キー10は、車外において車載器20との間で微弱電波により双方向通信を行う送受信機(トランスポンダ)12を備えている。送受信機12には、送受信アンテナ13が接続される。送受信機12には、所与の正当な暗号コード(IDコード)を記憶するメモリ14が接続される。尚、キー10は、ユーザの操作により車両のドアの施錠及び開錠が可能なメカニカルキーを備えるメカニカルキー内蔵型のキーであってもよい。
【0020】
車載器20は、車外においてキー10との間で微弱電波により双方向通信を行う車外通信用の送信機22及び受信機24を備えている。送信機22及び受信機24は、車両の適切な位置(例えば、車両の各ドア及びトランクに対応した位置)に配設されている。送信機22及び受信機24には、それぞれ、送信アンテナ23及び受信アンテナ25が接続される。
【0021】
車載器20は、制御ECU30を備える。制御ECU30は、図示しないバスを介して互いに接続されたCPU、ROM、及びRAM等からなるマイクロコンピュータとして構成されている。ROMには、以下で説明する各種機能部を実現する際にCPUが処理する各種プログラム及びデータが格納されている。
【0022】
制御ECU30は、所与の正当な暗号コード(IDコード)を記憶するメモリ31を備えている。メモリ31には、キー10側のメモリ14に記憶される暗号コードと整合する正当な暗号コードが記憶される。例えば、メモリ31に記憶される暗号コードとキー10側のメモリ14に記憶される暗号コードとは、同一のコードであってよい。
【0023】
制御ECU30には、送信機22及び受信機24、情報出力手段50及びドアロックシステム60が接続されている。情報出力手段50及びドアロックシステム60は、典型的には、車両に搭載されるが、情報出力手段50については、キー10側に設けられてもよい。
【0024】
情報出力手段50は、例えばスピーカー等を介して音声を出力する装置や、ディスプレイやメータ内の表示器のような映像(画像)を出力する装置であってよく、或いは、インジケータのような光を出力する装置であってもよい。光を出力する装置の場合、情報出力手段50は、光の強度や色、点滅態様等により各種の情報をユーザに伝達できるものであればよい。
【0025】
ドアロックシステム60は、制御ECU30から得られるID認証結果に基づいて、ドアロックの開錠及び施錠を制御するECU(図示せず)と、ドアロックの開錠及び施錠を実現する電子制御可能なドアロックアクチュエータ(図示せず)とを含む。
【0026】
図2は、制御ECU30の機能ブロック図である。図2に示すように、制御ECU30は、その主要な機能を実現する機能部として、要求制御部32、異常判定部34、及び、報知制御部38を備える。これらの各部の機能については、図3を参照して説明する。
【0027】
図3は、車載器20(主に制御ECU30)により実現される主要処理の流れを示すフローチャートである。
【0028】
ステップ100では、制御ECU30の要求制御部32は、送信機22に対してリクエスト信号を送信するように要求する。これを受けて、送信機22は、車外の所定領域に向けてリクエスト信号を送信する。リクエスト信号は、例えば134.2kHzを使用帯域として送信され、キー10との通信距離が数m程度となる強度が与えられている。車外の所定領域にキー10が存在する場合には、リクエスト信号はキー10の送受信機12により送受信アンテナ13を介して受信される。キー10の送受信機12は、リクエスト信号に応答して、送受信アンテナ13を介して応答信号を送信する。応答信号は、例えば図4に示すようなデータフレームで構成される。この例では、データフレームは、データフレームの先頭を表すヘッダー部と、データの内容を表すデータ部とを含む。ヘッダー部には、所定のヘッダーコードが組み込まれる。データ部には、図4に示すように、冗長性を確保するために、複数(本例では4つ)の同一の暗号コードが組み込まれる。この応答信号は、例えば312〜434kHzを使用帯域として所定の送信電力で送信される。
【0029】
ステップ110では、車載器20の受信機24は、キー10からの応答信号を受信する。受信機24は、キー10から受信した応答信号に対して増幅・復調等の所定の処理を施した後、当該復調した応答信号を制御ECU30の異常判定部34に供給する。
【0030】
ステップ120では、制御ECU30の異常判定部34は、受信された応答信号に含まれる暗号コードと、メモリ31に記憶された暗号コードとの比較を行う。
【0031】
ステップ130では、制御ECU30の異常判定部34は、上記のステップ120での比較結果に基づいて、今回キー10から送られてきた応答信号が正常に受信されたか否かを判定する。ここで、応答信号の正常な受信とは、ヘッダー部のヘッダーコードが正常であり、且つ、データ部の暗号コードが正常である応答信号の受信をいう。正常な暗号コードは、メモリ31に記憶された暗号コードとの間に所定の整合性があるものをいう。典型的には、正常な暗号コードは、メモリ31に記憶された暗号コードと同一な暗号コードである。尚、上述の如く複数の暗号コードが組み込まれる場合には、所定数(本例では1)以上の暗号コードが正常であれば、データ部の暗号コードが正常であると看做してよい。正常な受信の場合には、ステップ140に進み、それ以外の場合には、異常判定部34は、通信異常と判定して、ステップ150に進む。
【0032】
ステップ140では、制御ECU30の異常判定部34は、正規のユーザであるとの認証結果(キー認証)を、ドアロックシステム60に出力する。ドアロックシステム60は、異常判定部34からのキー認証の出力を受けると、ドアアウタハンドルに設けられるセンサ(例えば接触感知センサ)によりドアアウタハンドルの操作が検出されると同時に、ドアロックアクチュエータの駆動によりドアロックを開錠させる。
【0033】
ステップ150では、制御ECU30の異常判定部34は、規定回数リトライを行ったか否かを判定する。規定回数リトライを行った場合には、ステップ160に進み、規定回数リトライを行っていない場合には、ステップ100に戻り、リトライが実行される。ステップ100に戻ると、制御ECU30の要求制御部32は、送信機22に対してリクエスト信号を送信するように再度要求する。これを受けて、送信機22は、車外の所定領域に向けてリクエスト信号を再度送信する。車外の所定領域にキー10が依然として存在する場合には、キー10の送受信機12は、リクエスト信号に応答して、送受信アンテナ13を介して応答信号を再度送信することになる。このようにして、異常判定部34が連続して異常判定を出力した場合には、制御ECU30の要求制御部32は、リトライ要求を連続して規定回数行うまで(ステップ150のYES判定まで)、送信機22に対してリクエスト信号を送信するように再度要求し続ける。
【0034】
ステップ160では、制御ECU30の異常判定部34は、初回の応答信号の受信から、規定回数のリトライによる応答信号の受信までの間、少なくとも1回だけでも正常な暗号コードを含む応答信号を受信したか否かを判定する。少なくとも1回だけでも正常な暗号コードを含む応答信号を受信した場合には、ステップ170に進み、それ以外の場合には、ステップ180に進む。
【0035】
ステップ170では、制御ECU30の異常判定部34は、今回生じた通信異常がノイズによる単発的な通信異常であると判定する。この判定を受けて、報知制御部38は、情報出力手段50を介して、「今回生じた異常がノイズによる単発的な通信異常である」ことをユーザに報知する。これにより、ユーザは、キー10を保持して車両のドアアウタハンドルを操作しているにも拘らずドアロックが開錠しないという異常に対して、スマートエントリーシステム自体の恒久的な故障が原因ではなく、周囲環境に起因した一時的なノイズが原因であると理解することができる。尚、情報出力手段50は、音声メッセージや、映像上の文字メッセージにより、「今回生じた異常がノイズによる単発的な通信異常である」ことをユーザに報知してもよいし、インジケータを点滅させたり所定の色で点灯させたりして、「今回生じた異常がノイズによる単発的な通信異常である」ことをユーザに報知してもよい。後者の場合、インジケータの点灯の仕方の意味は、ユーザマニュアル等により予めユーザに周知される。
【0036】
ステップ180では、制御ECU30の異常判定部34は、今回生じた通信異常が原因不明の異常であると判定する(即ち、未知の故障原因であると判定する)。この場合も、同様に、この判定を受けて、報知制御部38は、情報出力手段50を介して、「今回生じた異常が原因不明の異常である」ことをユーザに報知する。この際、報知制御部38は、ディーラー等で異常を修理してもらうように指示する補足内容をユーザに報知してもよい。これにより、ユーザは、キー10を保持して車両のドアアウタハンドルを操作しているにも拘らずドアロックが開錠しないという異常に対して、スマートエントリーシステム自体の恒久的な故障を含む恒久的な異常であると理解することができる。尚、情報出力手段50は、音声メッセージや、映像上の文字メッセージにより、「今回生じた異常が原因不明の異常である」こと等をユーザに報知してもよいし、インジケータを点滅させたり所定の色で点灯させたりして、「今回生じた異常が原因不明の異常である」こと等をユーザに報知してもよい。後者の場合、「今回生じた異常が原因不明の異常である」ことを知らせるときのインジケータの点灯の仕方は、上述の「今回生じた異常がノイズによる単発的な通信異常である」ことを知らせるときの点灯の仕方とは異なるように設定される。「今回生じた異常が原因不明の異常である」ことを知らせるときのインジケータの点灯の仕方は、同様に、ユーザマニュアル等により予めユーザに周知される。
【0037】
尚、情報出力手段50が車内に存在する場合には、上記のステップ170及び180における報知は、ユーザがメカニカルキーを用いてマニュアル式でドアロックを開錠して、ドアを開放させた後に実行されてよい。また、情報出力手段50がキー10側に存在する場合(例えば、情報出力手段50がキー10に設定されたディスプレイや、ユーザが所持する携帯電話の場合)、上記のステップ170及び180における報知は、車外にユーザがいるとき(即ちメカニカルキーを用いてドアを開ける前)に実行されてよい。この場合、報知内容は、車載器20とキー10との間の無線通信を介して、キー10側に伝達されてよい。或いは、報知内容は、キー10及び車載器20との間で通信可能な外部情報センタ90を介して、キー10側に伝達されてよい。即ち、報知内容は、車載器20と外部情報センタ90(図1参照)との間の無線通信、及び、外部情報センタ90とキー10との間の無線通信を介して、キー10側に伝達されてよい。
【0038】
ところで、スマートエントリーシステム自体の恒久的な故障を含む恒久的な異常が発生していない状況下で通信異常が生じる原因としては、典型的には、キー10からの応答信号の受信強度が低い(電波が弱い)場合と、キー10からの応答信号がノイズの影響を受けて正しく受信されない場合がある。
【0039】
図5(A)は、キー10からの応答信号の受信強度が低い場合の応答信号(データフレーム)の状態の一例を示し、図5(B)及び図5(C)は、キー10からの応答信号がノイズの影響を受けた場合の応答信号(データフレーム)の状態の一例を示す。図5(A)乃至図5(C)において、正常でないコードの箇所が印“×”により指示されている。
【0040】
キー10からの応答信号の受信強度が低い場合には、図5(A)に示すように、データフレームが全体的に破壊され、正常でないコードが全体的に多く含まれやすい。但し、図5(A)に示す例のように、ヘッダーコードが破壊されておらず(即ちヘッダーコードが正常であり)、4つ目の暗号コードが破壊されていない (即ち4つ目の暗号コードが正常である)場合には、図4のステップ130にて正常な応答信号の受信と判定され、キー認証が得られる。即ち、この場合、異常判定部34による「今回生じた異常がノイズによる単発的な通信異常である」との判定が留保される。尚、図5(A)に示す例とは異なり、ヘッダーコードが破壊されておらず(即ちヘッダーコードが正常であり)、受信強度が低いが故に暗号コードのすべてが破壊されている場合には、異常判定部34による「今回生じた異常がノイズによる単発的な通信異常である」との判定が留保される。尚、この場合には、異常判定部34は、受信強度が低いことによる通信異常と判定することとしてもよい。また、この場合には、「今回生じた異常が受信強度が低いことによる通信異常である」ことをユーザに報知することとしてもよい。
【0041】
キー10からの応答信号がノイズの影響を受ける場合には、応答信号の搬送波周波数(例えば、320MHz)と典型的なノイズの周波数(数10MHz)との間の大きな周波数差に起因して、図5(B)及び図5(C)に示すように、データフレームの一部だけ(一部のコードだけ)が破壊される傾向となる。即ち、ノイズの周波数に対応したコード部分だけが破壊される傾向となる。例えば、図5(B)示す例では、ヘッダーコードのみが破壊され、その他のコードは破壊されていない(即ち暗号コードは正常である)。また、図5(C)示す例では、ヘッダーコードは破壊されておらず、2つ目の暗号コードだけが破壊されている。尚、図5(C)示す例では、ヘッダーコードは破壊されておらず、且つ、2つ目の暗号コード以外の他の暗号コードが破壊されていないので、図4のステップ130にて正常な応答信号の受信と判定され、キー認証が得られる。
【0042】
図5(B)示す例では、ヘッダーコードが破壊されているので(即ちヘッダーコードが正常でないので)、図4のステップ130にて正常な応答信号の受信でないと判定され、キー認証が得られないことになる(即ち、ドアロックが開錠されないことになる)。現在のユーザの位置(即ちキー10の位置)の周辺にノイズが定常的に存在する場合には、図4のステップ150の処理によるリトライ後のデータフレームにおいても、ヘッダーコードだけが破壊される場合がある。かかる通信異常は、スマートエントリーシステム自体の恒久的な故障を含む恒久的な異常ではないので、ディーラー等での修理は不要であり、周辺環境が変化すれば解消されるものである。
【0043】
本実施例では、このようなノイズの影響を受けた場合に生じるデータフレームの破壊態様の傾向に着目して、異常判定部34は、上述の如く、データフレームの一部だけが破壊されている場合には、「今回生じた異常がノイズによる単発的な通信異常である」と判定する。これにより、ノイズの影響を受けた場合に生じる単発的な通信異常を精度良く判定することができる。
【0044】
また、本実施例では、「今回生じた異常がノイズによる単発的な通信異常である」との報知を行うことで、ユーザに、スマートエントリーシステムの故障と勘違いさせてディーラー等に足を運ばせてしまうことを適切に防止することができる。即ち、上述の如く、図5(B)示す例のように、ヘッダーコードは破壊されているが暗号コードが破壊されていない(正常である)応答信号が受信された場合には、図4のステップ160の肯定判定を介してステップ170において、「今回生じた異常がノイズによる単発的な通信異常である」ことが、ユーザに報知される。これにより、ユーザに、今回の異常が一時的なものであることを理解してもらうことができ、ユーザに無用なご足労をかけさせてしまうことを防止することができる。
【0045】
尚、本実施例においては、添付の特許請求の範囲における「リトライ要求手段」が、主に要求制御部32により実現され、同特許請求の範囲における「報知手段」が、主に報知制御部38及び情報出力手段50により実現されている。
【0046】
以上、本発明の好ましい実施例について詳説したが、本発明は、上述した実施例に制限されることはなく、本発明の範囲を逸脱することなく、上述した実施例に種々の変形及び置換を加えることができる。
【0047】
例えば、上述した実施例では、初回の応答信号の受信が正常でない場合に、その後の環境変化による通信異常の解消を期待して、リトライを要求しているが、リトライを要求しない構成としてもよい。この構成の場合、初回の応答信号に係るデータフレームにおいて、データフレームの一部だけが破壊されている場合に、「今回生じた異常がノイズによる単発的な通信異常である」と判定して、その旨をユーザに報知することとしてよい。
【0048】
また、上述した実施例において、メカニカルキーによりドアが開放された場合に警報等のセキュリティシステムが作動する構成の場合、「今回生じた異常がノイズによる単発的な通信異常である」との報知は、当該セキュリティシステムの作動がなされないことにより実現されてもよい。例えば、メカニカルキーによりドアが開放された場合に警報が鳴るセキュリティシステムの場合、ユーザは、スマートエントリーシステムが作動しなかったためにメカニカルキーによりドアを開放したにも拘らず、警報が鳴らないことから、今回のスマートエントリーシステムの異常は一時的なノイズが原因であると理解することができる。
【0049】
また、上述した実施例において、キー10に設けられるアンロックボタンをユーザが押すことで、同様の暗号コードを含むワイヤレス信号が車両側へ送信される構成の場合、上述の応答信号と同様に、ワイヤレス信号のコードの破壊傾向をも考慮してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】本発明によるスマートエントリー異常判定システム1の一実施例の主要構成を示す図である。
【図2】制御ECU30の機能ブロック図である。
【図3】制御ECU30により実現される主要処理の流れを示すフローチャートである。
【図4】応答信号を構成するデータフレームの構造を示す図である。
【図5】ノイズの影響等を受けたデータフレームの状態を模式的に示す図である。
【符号の説明】
【0051】
1 スマートエントリー異常判定システム
10 キー
12 送受信機
13 送受信アンテナ
14 メモリ
20 車載器
22 送信機
23 送信アンテナ
24 受信機
25 受信アンテナ
30 制御ECU
31 メモリ
32 要求制御部
34 異常判定部
36 認証部
38 報知制御部
50 情報出力手段
60 ドアロックシステム
90 外部情報センタ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
携帯型のキーに設けられ、ヘッダーコードが組み込まれるヘッダー部と、暗号コードが組み込まれるデータ部とを含む構造のデータフレームを送信するキー側送信手段と、
車両側に設けられ、前記キー側送信手段から送られてくるデータフレームを受信する車両側受信手段と、
車両側に設けられ、前記車両側受信手段により受信された前記データフレームの暗号コードが正規ユーザに係る暗号コードに対応する場合に、車両のドアの開錠を行うドアロック制御手段と、
前記車両側受信手段により受信された前記データフレームの一部だけが破壊されている場合に、ノイズによる単発的な通信異常であると判定する異常判定手段とを備えることを特徴とする、スマートエントリー異常判定システム。
【請求項2】
前記異常判定手段は、前記車両側受信手段により受信された前記データフレームのヘッダー部及びデータ部の双方が破壊されている場合には、未知の故障原因であると判定し、
前記異常判定手段が未知の故障原因であると判定した場合に、その旨をユーザに報知する報知手段を更に備える、請求項1に記載のスマートエントリー異常判定システム。
【請求項3】
前記異常判定手段は、前記車両側受信手段により受信された前記データフレームのヘッダーコードが破壊されており且つ暗号コードが破壊されていない場合に、ノイズによる単発的な通信異常であると判定する、請求項1に記載のスマートエントリー異常判定システム。
【請求項4】
前記データ部には、複数の同一の前記暗号コードが組み込まれており、
前記異常判定手段は、前記車両側受信手段により受信された前記データフレームのヘッダーコードが破壊されておらず且つ複数の暗号コードの一部の暗号コードが破壊されている場合には、ノイズによる単発的な通信異常であるとの判定を留保する、請求項1に記載のスマートエントリー異常判定システム。
【請求項5】
前記異常判定手段がノイズによる単発的な通信異常であると判定した場合に、前記キー側送信手段に対して前記データフレームを再度送信するように要求するリトライ要求手段を備え、
前記異常判定手段は、前記リトライ要求手段による要求時を含めて複数回前記キー側送信手段から送られてくるデータフレームのうち、少なくとも1つのデータフレームの一部だけが破壊されている場合に、ノイズによる単発的な通信異常であると判定する、請求項1に記載のスマートエントリー異常判定システム。
【請求項6】
前記異常判定手段がノイズによる単発的な通信異常であると判定した場合に、その旨をユーザに報知する報知手段を更に備える、請求項1に記載のスマートエントリー異常判定システム。
【請求項7】
前記報知手段は、機械キーによるドアの開錠が検出された場合に、前記報知を行う、請求項6記載のスマートエントリー異常判定システム。
【請求項8】
前記報知手段は、車両内に配置された情報出力手段又はキー側に設けられる情報出力手段を介して、聴覚又は視覚により知覚可能な態様で、前記報知を行う、請求項6又は7に記載のスマートエントリー異常判定システム。
【請求項9】
前記報知手段は、車外に設置され前記携帯キーを所持するユーザとの間で通信可能な外部情報センタを介して、前記報知を行う、請求項6〜8のうちの何れか1項に記載のスマートエントリー異常判定システム。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2008−190252(P2008−190252A)
【公開日】平成20年8月21日(2008.8.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−27138(P2007−27138)
【出願日】平成19年2月6日(2007.2.6)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】