説明

スライディングピラー式懸架装置

【課題】走行中のキャンバーの変化及び車体ロールセンターの設定を容易に制御可能とする。
【解決手段】スライディングピラー式懸架装置は車体に固定された上下2本のアーム10a,10bとの間に湾曲レール1を固定し、湾曲レール1に沿ってスライドするナックル2により構成し、湾曲レール1は上下方向において湾曲レール1上部を車体方向に湾曲し、車体前後方向にV字溝1a,1bを平行に備え、V字溝1a,1bに沿ってボール30を転動可能に保持したボール保持器20を有するナックル2は車輪を回転可能に支持して湾曲レール1をスライドすることにより上記課題を可能にする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の懸架装置で、主にスライディングピラー式懸架装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両の懸架装置の一つである独立懸架とは、左右車輪を車軸に対して独立して上下させることができるのが特徴で、路面の凹凸に対する追従性が向上する。これにより、バネ下重量の軽減や固定車軸に比べ車軸部を低くすることができるなどの利点がある。一方で独立懸架装置の構造は様々な形態により実現されているが、車両の進歩に伴い懸架装置の構造は幾何学的な要素を含み複雑化し、部品点数の増加、それに伴うコスト高、懸架装置の設計の難しさ等を誘起させている。一例として独立懸架装置の一つであるスライディングピラー式懸架装置は、図10(a)のように車体に装着され、このスライディングピラー70を構成する上下に延びた円筒形のピラー73は図10(b),(c)のように上部車体固定部76aと下部車体固定部76bとによって固定される。ピラー73にはピラーの円筒外周より摺動可能な程度大きな円筒内周を有したナックル2がピラー73に沿って上下する如く嵌装される。ナックル2のピラー73に対する摺動はグリースにより潤滑され可動可能となっている。ナックル2の上部はピラー73と同軸上に配置されたメインスプリング71の下部を直接支持し、メインスプリング71の上部はスプリングシート78により支持される。このメインスプリング71は車両の重量を支えるために初期縮みを生じている。走行中に車輪が路面の凹凸を過ぎるときには、車輪は路面の凹凸に追従してナックル2を介してメインスプリング71を伸縮させ、車両の上下動及び振動を軽減させている。しかし、走行中の何らかの原因において車輪が路面から離れた場合などには、ナックル2はメインスプリング71の反力により走行状態よりも下方に押されるため、ナックル2が下部車体固定部76bと衝突する恐れがあり、これを避けるためにピラー73と同軸上に配置されたリバウンドスプリング74によりナックル2の下部を支えることで衝突を防ぐ機構を持っている。さらにナックル2はピラー73と同軸であるので、その周りを回転可能である。これにより操舵も可能とした懸架装置がスライディングピラー式懸架装置である。
【特許文献1】特開2005−22431号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
一般にスライディングピラー式懸架装置はナックルがピラーに沿って車輪が上下に直動しかしないという問題がある。これにより、現在一般的な独立懸架装置のように、車体に取付けられたサスペンションアームの車体側を支点とした車輪の上下方向への円軌道を描くことができない。従来のスライディングピラー式懸架装置では車輪の上下動に伴うキャンバー変化が得られない。
【0004】
さらに、上記ナックルの動きによりロール量(以下ロールとする)の設定が困難であった。車体のロールは、車体の重心とロールセンターとの距離により決まり、ロールセンターは車体の設計の段階で既に設定されるものである。しかし、従来のスライディングピラー式懸架装置では、ピラーに沿ってナックルと一体の車軸が上下に直動するためロールセンターは一般に非常に低い位置にのみ存在する。
【0005】
そこで本発明は、車両の懸架装置において車輪の上下動により車輪が路面に対して適切な接地位置に移動することが可能な、または、任意の位置にロールセンターを設定可能なスライディングピラー式懸架装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
車体に固定されたアームと車輪との間に介在するスライディングピラー式懸架装置において、ナックルを上,下方向に移動自在と成し、ナックルが上方向に移動するときに車体方向に近接するようにナックルの移動に傾斜をもたせる。これにより、ナックルが上下方向に移動することにより、ナックルと結合する車輪に対しキャンバー角を与えることができる。
【0007】
また、他の発明によると、前記スライディングピラー式懸架装置は、車体の上下方向に延長する如く車体に取付けられたガイドレールを備え、ガイドレールは、ガイドレール上をナックルが上方向にスライドするときに車体方向に近接させるようにガイドする。これにより、ナックルはガイドレールによる軌道にのみ従い上下に移動する。すなわち、ナックルを介して車輪は、ガイドレールの軌道に従い移動可能となる。
【0008】
また、他の発明によると、ガイドレールは、溝を備え、ナックルを溝に沿って上下に可動とし、ガイドレール上方において車体に近づくように傾斜している。これにより、溝を軌道として、例えばガイドレールの傾斜が、車体上方に向かうに従い車体内方に傾斜している場合には、車輪が上方に移動するに連れ、徐々に車輪を傾斜させ、車輪に対してキャンバー角を与えることが可能となる。さらに、ガイドレールが傾斜したことで、従来ロールセンターがなかったスライディングピラー式懸架装置において、ロールセンターの制御が可能となる。
【0009】
また、他の発明によると、ナックルは、ボール保持器を備えガイドレールの有する溝に沿いナックルを移動可能とする。これにより、可動機構が溝と溝による軌道上を移動するボールとにより構成されるため、耐候性・耐久性に優れた懸架機構が得られる。さらに、精度良く滑らかに作動することが可能となった。
【0010】
また、他の発明によると、ボール保持器は、ボール保持器の車体前部側とボール保持器の車体後部側に各々ボールを備え、ガイドレールの溝に沿ってナックルをスライド可能にする。これにより、ガイドレールに対してボール保持器を有するナックルは上下方向に滑らかにガタなく結合保持される。また、ガイドレールを介して相対する位置にボール保持器の車体前部側と車体後部側のボールを配置すると、ガイドレールとボール保持器を有するナックルは均等に結合し、車両の走行において車輪にかかる様々な力をすべてのボールにより均等に支えることができる。
【0011】
また、他の発明によると、ガイドレールは、車体の左右方向にねじれている。これにより、ナックルのガイドレール上方向への移動に伴い、車輪の上下方向への傾斜に加え、車輪の前後方向への変化を付与することが可能となる。
【0012】
また、他の発明によると、ガイドレールは、車体に固定された上下のアームにボールジョイントを介して揺動支持される。これにより、例えば車両の操舵される車輪に適用することができる。揺動支持されたガイドレールは、上下の支持部を結んだ線分を軸として回転可能となり、ガイドレールの何れかに操舵装置との結合部分を備えることで車輪を操舵可能にできる。
【0013】
また、他の発明によると、ガイドレールは、車体に固定された上下のアームにボルトにより取付けられる。これにより、車輪は、車輪に対してどのような力が作用してもガイドレールの溝に沿った運動のみ行うことが可能となる。車両の後輪などに用いることで部品点数の少ないコンパクトで軽量な車輪の向きを制御可能な懸架装置を提供することができる。
【0014】
また、他の発明によると、ナックルは、緩衝装置の一端を支持する端部を備える。これにより、ナックルを介して車輪と車体は緩衝装置によって支えられ、バネ下重量は従来のスライディングピラー式懸架装置と同様な最小限の構成が可能となる。
【発明の効果】
【0015】
バネ下重量が軽く、路面の凹凸に対して追従性が良いにも関わらず、従来スライディングピラー方式懸架装置の課題であった車両の走行時に生じる上下動に伴い必要とされるキャンバーが変化しないという問題を上記構成、構造により解決することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
実施の形態1
図1乃至図4は本発明の実施の形態を示す。
図1は本発明を車両の右後輪の懸架装置に適用したときの外観図である。アームの一端が車体60に対して上下に2本固定され、前記上下のアームの上側に位置するアッパーアーム10aと、上下のアームの下側に位置するロアアーム10bとが、車体60からナックル2方向に延設している。一端を車体60に固定されるアッパーアーム10aの他端と、一端を車体60に固定されるロアアーム10bの他端には、平板筒体を成す長手状の湾曲レール1がボルトにて取付けられている。平板状筒体を成す湾曲レール1の横断面は、図2の(b)のような長方形状を成し、この横断面形状を長手方向に維持して筒体を成している。筒体をなす湾曲レール1は、図2(c)のように車体60の左右方向に上部を車体方向に傾斜して湾曲した形状を成している。
【0017】
ガイドレールとしての湾曲レール1は両側面の中央に、湾曲レール1の内方に凹を向けV字溝を有している。V字溝を有した筒体の短辺と長手方向からなる面は車体の前後方向にそれぞれ位置し、湾曲レール1の長手方向に連続なV字溝を形成している。湾曲レール1の連続なV字溝は、車体前方に位置した前部V字溝1aと車体後方に位置した後部V字溝1bとなる。前部V字溝1aと後部V字溝1bは互いに平行で、横断面上において距離を一定に保たれる。
【0018】
湾曲レール1には、車体前部側の前部V字溝1aと後部V字溝1bを軌道として可動するナックル2が後述のボール保持器20を介して結合する。ナックル2は車体前後方向から、前部V字溝1aと後部V字溝1bをコ字状に挟み込むボール保持器20を備えている(図3(b))。また、ナックル2には図外の車輪を転動支持するスピンドル、ハブベアリング、ハブ、車輪および制動装置が装着される。
【0019】
ナックル2の任意の位置には図5に示す緩衝装置100が備わる。緩衝装置100は例えば図2(b)の緩衝装置取付けアーム3のように装着される。緩衝装置取付けアーム3はナックル2と一体であり、アーム3の緩衝装置取付け部3aには緩衝装置100の下部取付け部100bがボルトにより結合し固定される。緩衝装置100の上部取付け部100aは車体60にクッションラバー101aを介して取付けられる。このクッションラバー101aはナックル2の動きに伴い、緩衝装置100から車体60に伝わる振動を減少させるために弾性支持する。緩衝装置100は車体60と車輪を回転可能に支持するナックル2との間に介在し、車体60を支えている。本実施の形態1において、緩衝装置100はナックル2の任意の場所に取付けることができる。またその形態も図7に示すように車体を支えるトーションバースプリング103′を緩衝装置取付け部3aと減衰器104の減衰器下部取付け部104bを緩衝装置取付けアーム3の減衰器取付け部3bと結合させても良い。
【0020】
ナックル2とガイドレールすなわち湾曲レール1との結合は、図3(b)に示すようにナックル2の有するボール保持器20によって挟持される。ボール保持器20は互いに対向する保持器前部20aと、保持器後部20bから成り、湾曲レール1を保持器前部20a,保持器後部20bで挟み込む。保持器前部20a,保持器後部20bは各々上,下2個のボール30,30を有している。図3(c)に示すように保持器前部20aの上下のボール30,30と保持器後部20bの上下のボール30,30とは各々相対するように配置されている。保持器前部20aの上下のボール30,30は湾曲レール1の前部V字溝1aに沿い、保持器後部20bの上下のボール30,30は湾曲レール1の後部V字溝1bに沿って転動しナックル2を上下方向に移動可能とする。
【0021】
図4に示すように、ボール保持器20の4つのボール30は各々次のように保持されている。保持器前部20aの上下2つのボール30,30は、前部ボール挿入面22aの前部ボール挿入口40aからボール30とボール保持リング30aと共に挿入される。ボール保持リング30aは、ボール30の表面とシリンダ41の円筒面に嵌り、シリンダ端面
42に接触してボール30を規定位置に保持し、シリンダ41に対して調心する。
ボール30とボール保持リング30aが挿入された後、前部ボール挿入口40aと同形状の底面を有した錐体状のボール押さえ31の頂部をボール30に向け挿入する。上記の挿入が完了した後、保持器前部20aのシリンダ41の規定位置にはCリング32が嵌る溝44aがあり、Cリング32により固定される。Cリング32の固定により、ボール30は、保持器前部20aの湾曲レール1と相対する前部レール相対面21aの前部ボール突出口43aからボール30の一部を保持器前部20aの外に突出し、湾曲レール1の前部V字溝1aに接触する。これにより湾曲レール1と保持器前部20aの前部レール相対面21aはボール30と前部V字溝1aの接触により一定の距離が保たれる。このとき、保持器後部20bの後部レール相対面21bと湾曲レール1との間にも互いに接触せず一定の距離が保たれる(図4(a),(c))。
【0022】
保持器後部20bも同様に、保持器後部20bの上下2つのボール30,30は、各々の保持器後部20bの後部ボール挿入口40bからボール30とボール保持リング30bと共に挿入される。保持器後部20bのボール保持リング30bは、保持器前部20aに用いられたボール保持リング30aとは異なり、後部ボール挿入口40bのシリンダ端面42には接触しない。保持器後部20bのボール保持リング30bはボール30がボール保持器後部20b側の円筒面に嵌りシリンダ41に対してボール30を調心するように保持している。保持器後部20bのボール押さえ31の挿入後、ボール30はボルト34の締め付けにより保持される。このとき、保持器後部20bのボール30,30も保持器前部20aと同じく湾曲レール1と相対する後部レール相対面の後部ボール突出口43bからボール30,30の一部を突出させる。保持器後部20bの後部ボール突出口43bからのボール30の突出は前記ボルト34の締付けにより調節される。ボール30,30の突出は湾曲レール1の後部V字溝1bと接触する。保持器前部20aのボール30と湾曲レール1の前部V字溝1aとの接触により、湾曲レール1はボール保持器20を有するナックル2により挟持される。挟持する力は保持器後部20bのボルト34の締め付け力により調節され、ガタなく湾曲レール1の前後のV字溝1a,1bを挟持し、ナックル2が前後のV字溝1a,1bの軌道を離脱しない力、かつ、上下に滑らかにスライド可能な力で締め付けられる。なお、各々のボール30にはボールジョイント用鋼球を使用する。
【0023】
上記構造により湾曲レール1の側面に沿って上,下方向のV字溝1a,1bの軌道上の滑らかな移動と、ナックル2を介して伝わる車輪からの様々な力の入力に対して軌道を脱落することなく挟持することが可能となる。
【0024】
図5に本実施の形態1を示す。
上記湾曲レール1の湾曲により、図4に示したように車輪の上下動に伴い、車輪を保持したナックル2は湾曲レール1のV字溝1a,1bに沿って移動する。例えば車輪に上向きの力が作用したとき、ナックル2は車輪と共にV字溝1a,1bに沿って移動しつつ車体上方にも向かい移動する。図3のように、ナックル2のボール保持器20の上下に並んだボール30,30の中心を結んだ線分の延長上の線と車輪を取付けるナックル2のスピンドル4が直角であり、スピンドル4の中心軸線が上下に並んだボール30,30を上下に対称とするとき、路面の凹凸による車輪への入力は、湾曲レール1上にあるV字溝1a,1bの描く軌道に沿って移動する。つまり、湾曲レール1のV字溝1a,1b上のボール保持器20が位置するところの、V字溝1a,1bの描く曲線の接線と等しく、車輪の側面も移動する。ゆえに、車輪に対して傾斜を与えること、つまり所望するキャンバー角Aを与えることが出来る。例えば図5に示すように車輪が上方に移動した場合、α方向に車輪は傾斜し、いわゆるネガティブキャンバー角を得ることが可能となる。
【0025】
また、上述のように湾曲レール1の湾曲により車輪を傾斜可能となったため、車体のロールを制御するロールセンターの設定が可能となる。ロールを制御する因子の一つにロールセンターの設計がある。ロールセンターとは車両の旋回時に車体が傾斜する支点となる仮想点で、その力点は車体の重心となり、重心に作用する遠心力などにより車体は傾斜する。車体の傾斜(ロール)は、ロールセンター周りのモーメントにより生じ、その大きさは力点と、支点から力点までの距離の積により求まる。このモーメントを緩衝装置100の車体側に位置する図5の上部取付け部100aでロールを支持する。車体は、緩衝装置100の上部取付け部100aと、車輪を支持するナックル2との間に介在するスプリング103によって支持される。このためロールを支持するために硬いスプリングを使用すると路面の小さな凹凸まで車体に振動を伝えてしまう。
【0026】
そこで、車体に生じるモーメントによるロールを小さくすることは、車両が旋回するときに生じる車体の傾斜を小さくすることとなる。その為には力点から支点までの距離を小さくすれば良い。ロールセンターは本発明では図3(a)のスピンドル4の中心軸の延長線と、相対する車輪のスピンドル4の中心軸の延長との交点となる。一般にロールセンターの設計は難しく、特に複雑なリンク機構を用いた独立懸架装置ではロールセンターの設定は容易ではない。
【0027】
しかし、本発明の懸架装置ではスピンドル4の中心軸と相対する車輪のスピンドル4の中心軸の延長線との交点である。例えば、ボール保持器20の上下に配置されたボール30,30の中心線を結ぶ線分の延長とスピンドル4の中心軸の交わる角を直角とすると、簡単にロールセンターの位置とロールセンターの移動範囲が判る。ロールセンターの移動範囲は湾曲レール1のV字溝1a,1bの描く曲線のナックル2の可動範囲における法線の延長と、相対する車輪の中心軸の延長との交点にロールセンターの移動範囲がある。ロールセンターを知ることは車体のロール(傾斜)を制御することであり、本発明では車体のロールを支配するロールセンターを容易に設定することが可能となる。
【0028】
以上のように本発明では平行な軌道を有する湾曲レール1の湾曲のみにより車輪の動きを制御できる。車体の設計に合うように湾曲レール1の湾曲部分を設計することで車輪に対して適正なキャンバー角を与えることが可能となる。また、基本の構成が湾曲レール1とナックル2のみから成るため、従来のスライディングピラー式懸架装置70とほぼ同等な軽量なバネ下重量を可能とし、独立懸架装置の中ではもっとも軽い懸架装置を提供できる。バネ下重量が軽いことは車輪の凹凸への追従性が良く、その結果車輪のロードホールディングが良い。また、ロールセンターを容易に設定可能となり車両の開発を容易なものとする。
【0029】
実施の形態2
上記の実施の形態1においては湾曲レール1の下方をほぼ直線とし、車輪が上方に移動したときのみ車体に近づくような湾曲を与えて車輪に変化が生じるように湾曲レール1の上方のみを湾曲させた。しかし例えば、図6,図8(b)に示すような湾曲レール1を設計することもできる。本実施の形態2では実施の形態1の湾曲レールのみを本形態の湾曲レール1に変更した場合について説明する。
【0030】
本実施の形態2の湾曲レール1では、湾曲レール1は直線部分を持たず、湾曲レール1の上下方向すべてを湾曲させている。つまり、湾曲レール1の下部より上部方向に行くに従って、車体方向に徐々に近づくように湾曲レール1全体を湾曲させている。これにより、車輪が上方に移動した場合には実施の形態1と同様にα方向のキャンバー角Aを与えることができ、また、逆に車輪が下方に移動したときには図6のβ方向に車輪を傾斜させることも可能となる。いわゆるポジティブキャンバー角が得られる。車体が旋回により沈み込むことで旋回における外側の車輪にはネガティブキャンバー角が生じ、一方の内側の車輪にはポジティブキャンバー角が生じることにより旋回時に車輪の接地面を路面に対して一定に保つことができる。
【0031】
実施の形態3
実施の形態1と同じ構成からなるスライディングピラー懸架装置で湾曲レール1が車両後方から見て湾曲しているだけでなく、さらに車体上下方向から見てねじれた状態の湾曲レール1も操縦の安定性を考えた場合には良い効果を与えることができる。例えば、本発明の構造を車両の後輪に適用した場合、旋回時に影響を与えることができる。例えば、ホイールベース(車軸間距離)の長い車両の場合には直進性が強いため実施の形態1の効果だけでは旋回しにくい場合もある。そのような車体には後輪にトーアウトとなるようにナックル2が移動すれば良い。図8(d)に示すように、湾曲レール1上のV字溝1a,1bによる軌道で、湾曲レール1上部において前部V字溝1aが後部V字溝1bよりも車体外方に位置するように湾曲した湾曲レール1に、さらにひねりを与えることにより可能となる。逆にホイールベースの短い車両に対しては、図8(c)に示すように湾曲レール1上部において前部V字溝1aが後部V字溝1bよりも車体内方に位置するように湾曲した湾曲レール1にひねりを与えることで後輪は車体の沈み込みにより車輪の前部側が内方に移動しトーインとなり、車体の旋回時に安定な車輪の動きとすることができる。
このように本発明は湾曲した湾曲レール1上の前後V字溝1a,1bによる軌道の設計により、車体の動的な変化において、車輪に対して自由に変化を与えることができる。
実施の形態4
【0032】
上記実施の形態1から3では車体に固定された上下のアームの間に湾曲レール1はボルトにより固定され、上記に説明した効果が得られる。応用として、例えば、図9に示すように操舵される車輪に適用する。車体60に固定された2本のアーム10a,10bと湾曲レール1をボールジョイント92などにより揺動支持することで操舵される車輪にも適用することができる。湾曲レール1に操舵装置と結合するタイロッド結合部91を設け、タイロッド90を結合させることにより、車輪を操舵することが可能となる。一般の車両の操舵はナックル2に操舵装置にタイロッド90が結合するため、ナックル2の上下動に伴いタイロッド90も上下するために結合するナックル2に対して引張り、或は突っ張りの力が生じ、車輪の上下動に伴い車輪に対して操舵の力が作用する。しかし、本実施の形態ではナックル2に力を作用させて操舵するのではなく、湾曲レール1に操舵の力を作用させるので、ナックル2の湾曲レール1に沿った上下動とは独立に操舵することができる。これにより、車輪の上下動に伴い操舵輪をとられることなく安全に操縦を行うことが可能となる。
【0033】
上記すべての実施の形態において湾曲レール1は矩形筒状の形状を有していたが、中実の柱体より形成しても、あるいは保持器前部20a,保持器後部20bを個別に有する2本レールでも良い。例えば、図11(a)〜(d)に示すようなガイドレールでも良い。図11(a)のようにガイドレールは湾曲せずにガイドレール上の溝を湾曲させてナックルを溝に沿ってスライドさせても良い。溝の形状も上記実施の形態のようにV字溝に限らず、矩形状あるいは半円形状など一定の形状によって軌道が作られればよく、溝ではなく図11(b)のような突状の軌道でも良い。図11(d)に示すように溝は車体に対して前後方向だけでなく、左右方向でも良い。
【0034】
本発明の実施にあたって肝要なのは、車体に固定されたアッパーアーム10aとロアアーム10bとの間に位置する湾曲したガイドレールと、ガイドレールが2本の平行な軌道を有し、ナックル2の一部に湾曲レール1の2本の平行な軌道を挟持する機構が備わっていることにある。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】右後輪に本発明を適用した実施の形態の外観図。
【図2】固定された湾曲レールの概観図及び湾曲レールの断面図。
【図3】ナックルの外観及びボール保持器のボール配置図。
【図4】ボール保持器の構成図。
【図5】本発明の実施の形態1を示す図。
【図6】本発明の実施の形態2を示す図。
【図7】本発明の実施の形態2の他の形態を示す図。
【図8】湾曲レールの様々な形態を示す例示図。
【図9】本発明の実施の形態4を示す図。
【図10】従来のスライディングピラー式懸架装置図。
【図11】ガイドレールの様々な形態の例示図。
【符号の説明】
【0036】
1 湾曲レール、1a 前部V字溝、1b 後部V字溝、2 ナックル、
3 緩衝装置取付けアーム、3a 緩衝装置取付け部、3b 減衰器取付け部、
4 スピンドル、10a アッパーアーム、10b ロアアーム、20 ボール保持器、
20a 前部保持器、20b 後部保持器、21a 前部レール相対面、
21b 後部レール相対面、22a 前部ボール挿入面、22b 後部ボール挿入面、
30 ボール、30a ボール保持リング、30b ボール保持リング、
31 ボール押さえ、32 Cリング、34 ボルト、40a 前部ボール挿入口、
40b 後部ボール挿入口、41 シリンダ、42 シリンダ端面、
43a 前部ボール突出口、43b 後部ボール突出口、44a 溝、60 車体、
80 ブレーキキャリパ、81 ブレーキディスク、100 緩衝装置、
100a 上部取付け部、100b 下部取付け部、101a クッションラバー、
102 下部ブッシュ、103 スプリング、103′ トーションバースプリング、
104 減衰器、104b 減衰器下部取付け部、A キャンバー角、
α ネガティブ方向、β ポジティブ方向。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体に固定されたアームと車輪との間に介在するスライディングピラー式懸架装置において、ナックルを上下方向に移動自在と成し、ナックルは上下方向に移動するときに傾斜することを特徴とするスライディングピラー式懸架装置。
【請求項2】
車体に固定されたアームと車輪との間に介在するスライディングピラー式懸架装置において、前記スライディングピラー式懸架装置は、
車体の上下方向に延長する如く車体に取付けられたガイドレールと、
前記ガイドレール上をスライドするナックルとを備え、
前記ナックルは、ガイドレールによってガイドされ上下方向にスライドすることを特徴とするスライディングピラー式懸架装置。
【請求項3】
前記ガイドレールは、溝を備え、ナックルを溝に沿って上下に可動とすることを特徴とする請求項2に記載のスライディングピラー式懸架装置。
【請求項4】
前記ナックルは、ボール保持器を備えガイドレールの有する溝に沿いナックルを移動可能とすることを特徴とする請求項2又は請求項3に記載のスライディングピラー式懸架装置。
【請求項5】
前記ボール保持器は、ボール保持器の車体前部側とボール保持器の車体後部側に各々ボールを備え、ガイドレールの溝に沿ってナックルをスライド可能にすることを特徴とする請求項4に記載のスライディングピラー式懸架装置。
【請求項6】
前記ガイドレールは、ナックルが上方向に移動するときに車体方向に近接するように傾斜をもたせたことを特徴とする請求項2乃至5に記載のスライディングピラー式懸架装置。
【請求項7】
前記ガイドレールは、車体の左右方向にねじれていることを特徴とする請求項2乃至6に記載のスライディングピラー式懸架装置。
【請求項8】
前記ガイドレールは、車体に固定された上下のアームにボールジョイントを介して揺動支持されることを特徴とする請求項2乃至7に記載のスライディングピラー式懸架装置。
【請求項9】
前記ガイドレールは、車体に固定された上下のアームにボルトにより取付けられることを特徴とする請求項2乃至7に記載のスライディングピラー式懸架装置。
【請求項10】
前記ナックルは、緩衝装置の一端を支持する端部を備えたことを特徴とする請求項1乃至9に記載のスライディングピラー式懸架装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2010−18209(P2010−18209A)
【公開日】平成22年1月28日(2010.1.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−181950(P2008−181950)
【出願日】平成20年7月11日(2008.7.11)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)
【Fターム(参考)】