説明

スライドレール用接着剤組成物、接着シート及びスライドレール固定方法

【課題】 スライドレールの車体への取り付け作業性が著しく優れており、さらに加熱後に強い接着力を有し、磁力を低くでき、加熱後に常温に戻しても強い接着力は維持されてスライドレールを車体にしっかり固定することができ、かつ、スライドドアの開閉時に発生する音の音量を低減することができるスライドレール用接着剤組成物を提供する。
【解決手段】 ホットメルト接着剤と強磁性体とを含有する組成物であって、該組成物の20℃の密度が1.4〜4.5g/cmであり、かつ該組成物を成形して得られる接着シートの表面から1cm離れた位置での磁力が10mT以上である磁性を有することを特徴とするスライドレール用接着剤組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車などの車体に取り付けられるスライドレールを固定するために用いられるスライドレール用接着剤組成物、そのスライドレール用接着剤からなる接着シート、その接着シートとスライドレールの積層体及びスライドレール固定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、自動車の種類によっては、自動車のドアとして、自動車の車体にスライドドアが取り付けられている。このスライドドアは、ドアの裏側などに設けられたローラが車体に形成されたスライドレールの表面を転動することにより、車体の前後方向に移動する構造になっていることが多い。
スライドレールは、ローラの転動による傷付き防止性、耐久性及び防音性があり、また、錆防止性を有する材質からなることが求められており、通常はステンレススチールで構成されている。これに対して、車体は通常ステンレススチールで作られることはないので、スライドレールは車体と一体成形で作られることはなく、スライドレールを組み立て時に車体に取り付けることが行われている。
【0003】
スライドレールを車体に取り付ける方法としては、通常、スライドレールを常温で接着可能な接着剤で車体に常温で貼着し、固定する方法が行われており、例えば、接着シート基材の両面に常温で接着可能な接着剤層を設けた接着シートを、スライドレールの裏面に常温で貼着し、該接着シート付きスライドレールを、その接着剤層面で車体に貼り合わせ、固定する方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
この常温貼着でのスライドレールの固定方法において、スライドレールの車体への取り付け時に、スライドレールの貼着位置を間違えたときに、スライドレールを剥がして貼り直したり、あるいは、貼着したまま車体表面上を動かして位置合わせをすることは困難であり、作業効率が著しく低下するという問題があった。
【0005】
スライドレールを車体にしっかり固定しないと、スライドドアの開閉を長期間行うにつれて、スライドレールの固定位置のズレが生じ、スライドドアの開閉が容易に行われなくなったり、開閉時に振動したり、異音を発生させたりするなどの不具合が発生するという問題もある。さらに、ドアの開閉時にスライドレールをローラが転動する時に発生する音の音量を低減させること(防音性能)も要求されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−302829号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記従来技術の状況に鑑みてなされたものであり、常温でのスライドレールの車体への貼合の初期段階において、スライドレールが接着力ではなく、磁力により車体に保持されている状態にし、貼り付ける場所の位置合わせを間違っても、容易にずらして正しい位置に合わせることができ、スライドレールの車体への取り付け作業性が著しく優れており、さらに加熱後に強い接着力を有し、磁力を低くでき、加熱後に常温に戻しても強い接着力は維持されてスライドレールを車体にしっかり固定することができ、かつ、スライドドアの開閉時に発生する音の音量を低減することができるスライドレール用接着剤組成物を提供する。
【0008】
また、本発明は、上記のスライドレール用接着剤からなるスライドレール用接着シート、その接着シートとスライドレールを積層して得られる接着性スライドレール積層体及びスライドレールの車体への取り付け作業性が著しく優れたスライドレール固定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決するために、ホットメルト接着剤と強磁性体とを含有する組成物であって、該組成物の20℃の密度が1.4〜4.5g/cmであり、かつ該組成物を成形して得られる接着シートの表面から1cm離れた位置での磁力が10mT以上である磁性を有することを特徴とするスライドレール用接着剤組成物により上記課題が解決できることを見出し、この知見に基づいて本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明は、ホットメルト接着剤と強磁性体とを含有する組成物であって、該組成物の20℃の密度が1.4〜4.5g/cmであり、かつ該組成物を成形して得られる接着シートの表面から1cm離れた位置での磁力が10mT以上である磁性を有することを特徴とするスライドレール用接着剤組成物を提供するものである。
また、本発明は、上記スライドレール用接着剤組成物において、強磁性体がフェライトであるスライドレール用接着剤組成物を提供するものである。
【0011】
また、本発明は、上記スライドレール用接着剤組成物において、ホットメルト接着剤が、ポリエステル樹脂系ホットメルト接着剤であるスライドレール用接着剤組成物を提供するものである。
また、本発明は、上記いずれかに記載のスライドレール用接着剤組成物からなるシートであることを特徴とするスライドレール用接着シートを提供するものである。
【0012】
また、本発明は、上記記載のスライドレール用接着シートと、スライドレールとを積層したことを特徴とする接着性スライドレール積層体を提供するものである。
さらに、本発明は、車体部材に、上記記載のスライドレール用接着シートによりスライドレールを仮固定した後、スライドレール用接着シートを加熱してスライドレールを固定することを特徴とするスライドレールの固定方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明のスライドレール用接着剤組成物は、常温での金属などから成る車体へスライドレールを取り付ける初期段階において、スライドレールが接着力ではなく、磁力により保持されている状態であり、また、タックが殆んどないので、貼り付ける場所の位置合わせを間違っても、容易にずらして正しい位置に合わせることができ、スライドレールの車体への取り付け作業性が著しく向上する。さらに、加熱により強固な接着力が得られ、磁力を低くでき、加熱後に常温に戻しても強い接着力は維持されてスライドレールを車体にしっかり固定することができ、接合手段としてボルトやネジの代わりに用いることができ、また、加熱により磁力が弱くなるので、磁力による悪影響を防ぐことができる。さらに、スライドドアの開閉時に発生する音の音量を低減することができる
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明のスライドレール用接着剤組成物は、ホットメルト接着剤と強磁性体を含有する。
ホットメルト接着剤は、常温ではタックがないか、又はタックが殆んどなく、加熱することで軟化し接着性が生じ、常温に戻すと固化して接着する接着剤であり、ゴム系ホットメルト接着剤、ポリオレフィン樹脂系ホットメルト接着剤、ポリエステル樹脂系ホットメルト接着剤等が挙げられる。これらのうち、加熱して接着した後の常温におけるスライドレール用接着剤組成物のせん断力が高く、スライドレールの固定位置からのズレを防ぐことができる点から、ポリエステル樹脂系ホットメルト接着剤が特に好ましい。
【0015】
ゴム系ホットメルト接着剤の具体例としては、スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体や、スチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体に石油樹脂を添加したものなどが挙げられる。
ポリオレフィン樹脂系ホットメルト接着剤の具体例としては、プロピレン−エチレン−ブテン−1共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体などが挙げられる。
【0016】
ポリエステル樹脂系ホットメルト接着剤の具体例としては、ジカルボン酸成分とジオール成分の重縮合体などが挙げられる。ジカルボン酸成分としては、テレフタル酸、イソフタル酸、これらの低級アルキルエステル、マロン酸、コハク酸、アジピン酸、セバシン酸などが挙げられる。ジオール成分としては、エチレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ジエチエレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、シクロヘキサンジメタノール、ネオペンチルグリコール、ポリテトラメチレングリコールなどが挙げられる。これらのジカルボン酸成分とジオール成分のうち各々1種以上を用いてポリエステル樹脂系ホットメルト接着剤が得られる。
【0017】
ゴム系ホットメルト接着剤の市販品としては、松村石油(株)製、商品名「TY−70」(スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体(SIS)系ホットメルト接着剤)などが挙げられる。
ポリオレフィン樹脂系ホットメルト接着剤の市販品としては、(株)松村石油研究所製の「モレスコメルトEP−167」などが挙げられる。
【0018】
本発明の接着成形品に適した、ポリエステル樹脂系ホットメルト接着剤の市販品としては、日本合成化学工業(株)の「ポリエスターSP−180」や、「ポリエスターTP−249」などが挙げられる。
ホットメルト接着剤の融点(溶融温度)は、80〜200℃が好ましく、90〜200℃がより好ましく、110〜180℃が最も好ましい。
【0019】
強磁性体は、外部磁場がなくても自発磁化を持つことができる物質であり、フェリ磁性体も含まれる。具体的には、鉄、コバルト、ニッケル等の単体及び合金、バリウムフェライト、ストロンチウムフェライトなどのフェライト、希土類コバルト磁石などの希土類磁性体、アルニコ磁石、ネオジウム−鉄−ボロン系磁性体などが挙げられる。これらのうち、磁力が大きく、容易に入手できることから、フェライトが好ましい。フェライトの結晶構造は、スピネル型、六方晶型、ガーネット型のいずれでもよい。
【0020】
スライドレール用接着剤組成物の20℃の密度を1.4〜4.5g/cmとするために、強磁性体の密度は3.0g/cm以上が好ましく、4.0〜10.0g/cmがより好ましい。
強磁性体は、粉体(以下、磁性粉体という。)が好ましい。磁性粉体の平均粒径は、0.5〜20μmが好ましく、0.5〜15μmがより好ましく、1〜5μmが特に好ましい。なお、磁性粉体の平均粒径は、JIS Z8825−1に従い、レーザー回折法により行う。
磁性粉体の混合割合は、ホットメルト接着剤と磁性粉体の体積比で、92:8〜45:55が好ましく、90:10〜50:50がより好ましく、80:20〜48:52が特に好ましい。
【0021】
ホットメルト接着剤に磁性粉体を分散させるには、ホットメルト接着剤と磁性粉体を加熱して混合することが好ましい。加熱温度は、110〜230℃が好ましく、110〜200℃がより好ましく、120〜180℃がさらに好ましく、130〜170℃が最も好ましい。また、この加熱温度は、ホットメルト接着剤の溶融温度より10℃以上高いことが好ましく、20℃〜70℃高いことがより好ましい。この温度範囲で混合することにより、ホットメルト接着剤に磁性粉体を均一に分散することができると共に、ホットメルト接着剤が変質することを防ぐことができる。また、加熱温度におけるホットメルト接着剤の粘度は、5〜500Pa・sであることが好ましい。粘度がこの範囲であると、磁性粉体の分散が容易であり、かつスライドレール貼着時の加熱条件下(通常110〜230℃)においても接着剤のはみ出しや、接着剤層の厚み変化が起きることがない。
【0022】
本発明においては、接着剤組成物中の磁性粉体が磁化された状態で所望の性能を発揮する。従って、ホットメルト接着剤と磁化された磁性粉体を混合してもよいし、ホットメルト接着剤と磁化されていない磁性粉体を混合してもよい。後者の場合は、混合後に磁化(着磁)すればよい。着磁は、周知の方法で行うことができる。なお、ホットメルト接着剤と磁性粉体を加熱して混合した場合に、消磁されることがあるが、その場合も着磁を行えばよい。
【0023】
本発明のスライドレール用接着剤組成物には、粘着付与剤、酸化防止剤、充填剤、分散剤などの1種以上を適宜配合することができる。なお、本発明のスライドレール用接着剤組成物は、高い接着強度を保つために、発泡剤を含まないことが好ましい。
【0024】
本発明のスライドレール用接着剤組成物は、20℃の密度が1.4〜4.5g/cmである。20℃の密度を1.4〜4.5g/cmにすることにより、防音性能を良好にすることができる。20℃の密度は、好ましくは1.5〜4.2g/cmであり、より好ましくは1.6〜3.8g/cmである。なお、スライドレール用接着剤組成物の密度の測定は、JIS K0061の8.1天びん法に準じて行う。
【0025】
また、本発明のスライドレール用接着剤組成物は、該組成物を成形して得られる接着シートの表面から1cm離れた位置での磁力(以下、表面磁力ということがある。)が10mT以上である磁性を有する。表面磁力が10mT以上であることにより、スライドレールの車体への仮固定ができ、位置決めが容易になる。表面磁力は、好ましくは15mT以上であり、より好ましくは20mT以上であり、さらに好ましくは24mT以上である。表面磁力の上限値は、特に制限ないが、貼り直しの作業性の点から200mT以下が好ましく、150mT以下がより好ましく、100mT以下がさらに好ましい。なお、表面磁力の測定は、ガウスメーターを用いて行う。
【0026】
また、本発明のスライドレール用接着剤組成物の磁性は、加熱後の表面磁力が5mT未満であることが好ましく、3mT以下であることがより好ましく、1.5mT以下であることが最も好ましい。なお、表面磁力の下限値は0である。
ここで、加熱後の表面磁力とは、接着シート又は接着成形品を180℃で40分間加熱した後、常温に戻し、接着シートの表面から1cm離れた距離でガウスメーターにより測定した表面磁力をいう。
【0027】
本発明のスライドレール用接着剤組成物は、加熱(150℃、10分間)接着後のせん断力が250N以上が好ましく、より好ましくは300N以上であり、さらに好ましくは350N以上であり、特に好ましくは400N以上である。
ここで、加熱(150℃、10分間)接着後のせん断力とは、接着剤組成物を厚さ500μmのシート状に成形し、2枚の被着材に挟持し、150℃で10分間加熱した後、常温に戻し、JIS K6850に従って、測定したせん断力をいう。せん断力が250N以上であると、スライドレールの固定位置からのズレをより効果的に防ぐことができる。
【0028】
本発明のスライドレール用接着剤組成物は、130℃の粘度が5〜500Pa・sのものが好ましく、15〜200Pa・sのものが特に好ましい。粘度がこの範囲であると、接着剤組成物を加熱しても、ホットメルト接着剤中に強磁性体が分散された状態を保つことができる。なお、粘度の測定は、試料温度を130℃とする以外は、JIS K6833に準じて行う。
【0029】
本発明のスライドレール用接着シートは、上記本発明のスライドレール用接着剤組成物からなるシートである。
本発明のスライドレール用接着シートの厚さは、特に制限されないが、スライドレール用接着剤組成物からなる層の厚さが3〜1000μmが好ましく、5〜800μmがより好ましく、10〜700μmが更に好ましい。
【0030】
このように、本発明のスライドレール用接着シートは、加熱前は、常温での表面磁力が強く、また、タックがないか、又はタックが殆んどないので、強磁性を示す金属などからなる車体などの被着体にその表面磁力のみにより、付着させることができ、位置決めを間違えても容易に直すことができ、位置決めを間違えた場所に糊残りもない。また、本発明のスライドレール用接着シートは、加熱すると強力な接着力が発現するので、金属などから成る車体などの被着体に強固に接着し、その後常温に戻しても車体などの被着体に強固に接着しており、しかも、加熱により表面磁力を小さくすることができるので、人体や電子機器への磁力の影響を極力抑えることができる。さらに、防音性能に優れるので、スライドドアの開閉時の騒音を減らすことができる。
【0031】
本発明のスライドレール用接着シートは、剥離シートの表面に本発明のスライドレール用接着剤組成物を加熱して流動状態にしたものを塗工することにより、あるいは、押出し機でシート状に押出すことにより製造することができる。塗工する際のスライドレール用接着剤組成物の温度は、130〜170℃が好ましい。また、スライドレール用接着剤組成物の押出し温度は、130〜170℃が好ましい。
【0032】
剥離シートとしては、例えば、グラシン紙、コート紙、上質紙などの紙基材、これらの紙基材にポリエチレンなどの熱可塑性樹脂をラミネートしたラミネート紙、又はポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリエチレンナフタレート樹脂などのポリエステル樹脂フィルム、ポリプロピレン樹脂、ポリエチレン樹脂などのポリオレフィン樹脂フィルムなどのプラスチックフィルムを基材として、その片面又は両面にシリコーン樹脂などの剥離剤を塗布したものなどが挙げられる。この剥離シートの厚さは、特に制限ないが、通常20〜200μmが好ましい。
【0033】
上記の剥離シート付きスライドレール用接着シートは、スライドレールを車体に取り付ける際には、剥離シートを除去して、スライドレールと車体との間に接着剤層のみからなる接着シートが配置されるので、余分な材料を使用することがなく、効率的にスライドレールを車体に取り付けることができる。
本発明のスライドレール用接着シートは、基材シートの片面又は両面に、上記本発明のスライドレール用接着剤組成物からなる層が積層された基材シート付きスライドレール用接着シートであってもよい。ここで、基材シートの片面に本発明のスライドレール用接着剤組成物からなる層が積層された基材シート付きスライドレール用接着シートは、該スライドレール用接着剤組成物からなる層が車体側となり、基材シートのもう一方の面には、他の接着剤層を設けることにより、スライドレールを積層することができる。他の接着剤としては、強磁性体を含まないホットメルト接着剤が挙げられる。
【0034】
基材シートの具体例としては、例えばポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂などのポリオレフィン樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリエチレンナフタレート樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂などのポリエステル樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、フッ素系樹脂などの各種合成樹脂のシート、フィルムが挙げられ、特に、高強度であり安価であることから、ポリエチレンテレフタレート樹脂などのポリエステル樹脂より成るシート、フィルムが好ましい。基材シートは、単層であってもよいし、同種又は異種の2層以上の多層であってもよい。
【0035】
基材シートの厚みは、特に制限ないが、通常10〜350μmが好ましく、25〜300μmがより好ましく、50〜250μmが特に好ましい。
基材シートの表面は、易接着処理を施してもよい。易接着処理としては、特に制限ないが、例えば、コロナ放電処理等が挙げられる。
【0036】
本発明の基材シート付きスライドレール用接着シートにおいては、基材シートの片面又は両面に、上記スライドレール用接着剤組成物からなる層が形成されている。
スライドレール用接着剤組成物からなる層の厚みは、特に制限されないが、3〜500μmが好ましく、5〜400μmがより好ましく、10〜300μmがさらに好ましい。
【0037】
基材シートの片面又は両面に、上記スライドレール用接着剤組成物を含む層を有する接着シートは、基材シートの片面又は両面に、上記スライドレール用接着剤組成物を加熱したものを塗工する方法や、押出し機でシート状に押出し、基材シートの片面又は両面にラミネートする方法などの方法により製造することができる。塗工する際のスライドレール用接着剤組成物の温度は、130〜170℃が好ましい。また、スライドレール用接着剤組成物の押出し温度は、130〜170℃が好ましい。
【0038】
また、上記の剥離シートの表面に本発明のスライドレール用接着剤組成物を含む層を形成した後、その表面に、基材シートを積層することによっても、基材シート付きスライドレール用接着シートを製造することができる。
本発明のスライドレール用接着シートは、強磁性を示す金属などからなる車体の表面に、スライドレールを固定するために用いることができる。金属としては、通常車体を構成でき、強磁性を示す金属であれば特に制限ないが、例えば、鉄やニッケルなどが挙げられる。
【0039】
本発明のスライドレール用接着シートは、加熱前の常温で磁力を有するので、磁力により保持される物品であれば、車体以外にもスライドレールの取り付けを要する種々の物品に適用できる。
本発明のスライドレール用接着シートは、磁力により物品に保持した後は、加熱し、加熱後に冷却することが好ましい。加熱温度は、110〜200℃が好ましく、120〜190℃がより好ましく、130〜180℃が最も好ましい。
【0040】
本発明において、スライドレールを車体に取り付けるには、スライドレール用接着シートによりスライドレールを車体部材に仮固定した後、スライドレール用接着シートを加熱してスライドレールを固定することにより行われる。
なお、仮固定とは、スライドレールが車体部材に保持され、かつ容易に剥がしたり、車体部材表面で位置をずらすことができる状態をいい、固定とは、スライドレールが車体部材に強固に保持され、スライドレールの使用時に加わる力ではスライドレールの固定位置からのズレが実質的に生じない状態のことをいう。
【0041】
なお、スライドレールを車体に取り付ける際には、予めスライドレール用接着シートと、スライドレールとを積層して接着性スライドレール積層体とし、その接着性スライドレール積層体を、車体部材に仮固定することが好ましい。
スライドレールは、スライドドアの裏側などに設けられたローラが車体に形成されたスライドレールの表面を転動することにより、スライドドアが車体の前後方向に移動するために、機能するものであれば、どのような形状であってもよい。
従って、スライドレールの形状は、転動用ローラが転動できる形状であれば特に制限ないが、通常、シート状体、板状体、柱状体、棒状体などが挙げられ、シート状体、板状体が好ましい。
【0042】
スライドレールのシート状体、板状体の厚さは、通常0.5mm超〜20mmが好ましく、1〜10mmがより好ましい。
スライドレールの材質は、本発明のスライドレール用接着シートの磁力により車体に保持することが可能で、ローラの転動による傷付き防止性、耐久性があり、また、錆防止性を有する材質であれば特に制限ないが、ステンレススチールが好ましい。
【0043】
また、スライドレールを固定した後、通常、車体を塗料で塗装することが行われるので、スライドレールの表面への塗料などの付着を防ぐために、スライドレールの表面は、マスキングテープで被覆し、その後塗装を行い、塗装後に、そのマスキングテープを除去することが好ましい。スライドレールの表面に塗料などが付着していると、スライドレールの表面をスライドドアのローラが転動する際に、付着した塗料の塗膜が剥がれてローラなどに絡みつき、スライドドアの開閉が容易に行われなくなったり、開閉時に振動したり、異音を発生させたりするなどの不具合が発生する。
【0044】
スライドレールの表面へのマスキングテープの被覆は、スライドレール用接着シートと、スライドレールとを積層する前に、スライドレールの表面に行っても良いし、スライドレール用接着シートと、スライドレールとを積層した後に、スライドレールの表面に行っても良い。
マスキングテープは、使用する塗料に対して耐塗料性を有することが必要であり、また、塗装後の塗膜の乾燥や熱硬化を高温で行うことが多いので、耐熱性を有することが必要とされる。
マスキングテープとしては、基材シートの片面に接着剤層を形成したものが挙げられる。
【0045】
マスキングテープにおける基材シートとしては、上記のスライドレール用接着シートにおける基材シートと同様のものが挙げられる。
接着剤は室温でタックを有するものであり、例えば、天然ゴム系接着剤、合成ゴム系接着剤、アクリル樹脂系接着剤、ポリビニルエーテル樹脂系接着剤、ウレタン樹脂系接着剤、シリコーン樹脂系接着剤などが挙げられる。
【0046】
接着剤層の厚みは、特に制限されないが、通常乾燥後の膜厚が3〜150μmが好ましく、5〜100μmがより好ましく、10〜60μmがさらに好ましい。
基材シートの表面に接着剤層を形成するには、基材シートの表面に、上記接着剤を塗布して、必要に応じて乾燥することにより、形成できる。
上記接着剤の基材シートへの塗布方法は、例えば、バーコート法、ナイフコート法、ロールコート法、ブレードコート法、ダイコート法、グラビアコート法、カーテンコート法など従来公知の方法が挙げられる。
【実施例】
【0047】
次に、本発明を実施例によりさらに具体的に説明するが、本発明は、これらの例によって何ら制限されるものではない。なお、ホットメルト接着剤と磁性粉体の密度は、後述する接着剤組成物の20℃密度の測定と同様の方法で測定した値である。また、磁性粉体の平均粒径は、レーザー回折法粒度分布測定装置(Sympatec社製、商品名「HELOS&RODOS」)を用いて乾燥粉末の状態で測定した値である。
接着剤組成物及び接着シートの製造の実施例
【0048】
(実施例1)
(1)接着剤組成物の調製
ホットメルト接着剤としてポリエステル樹脂系ホットメルト接着剤(日本合成化学工業(株)製、商品名「ポリエスターSP−180」、20℃密度0.9g/cm、溶融温度100℃)と、強磁性体(磁性粉体)としてスピネル型結晶構造を有するストロンチウムフェライト(SrO・6Fe)粉末(20℃密度7.0g/cm、平均粒径2μm)とを、体積比で90:10となるように、混合機(プライミクス(株)製、商品名「T.K.ハイビスミックス2P−1」)に入れて、混合し、160℃に加熱し、30分間、混合し、接着剤組成物を得た。
【0049】
(2)接着シートの製造
上記(1)で調製された接着剤組成物を押出し機にて、押出し温度160℃でダイから厚さ500μmの接着剤層を押出し、表面にシリコーン剥離処理が施されたポリエチレンテレフタレート樹脂からなる剥離シート(リンテック(株)製、商品名「SP−PET 100(T)」、厚さ100μm)の剥離処理面に、その接着剤層をラミネートし、常温まで冷却した。次に、高圧コンデンサー着磁・脱磁電源装置((株)マグネットラボ製、商品名「PC−2520ND」)を用いて、電圧500V、電流8kAの条件で着磁を行い、剥離シート付き接着シートを作製した。
【0050】
(実施例2)
ポリエステル樹脂系ホットメルト接着剤とストロンチウムフェライト粉末の配合割合を、体積比で80:20とした以外は、実施例1と同様にして、接着剤組成物及び接着シートを得た。
【0051】
(実施例3)
ポリエステル樹脂系ホットメルト接着剤とストロンチウムフェライト粉末の配合割合を、体積比で70:30とした以外は、実施例1と同様にして、接着剤組成物及び接着シートを得た。
【0052】
(実施例4)
ポリエステル樹脂系ホットメルト接着剤とストロンチウムフェライト粉末の配合割合を、体積比で55:45とした以外は、実施例1と同様にして、接着剤組成物及び接着シートを得た。
【0053】
(実施例5)
ポリエステル樹脂系ホットメルト接着剤とストロンチウムフェライト粉末の配合割合を、体積比で50:50とした以外は、実施例1と同様にして、接着剤組成物及び接着シートを得た。
【0054】
(実施例6)
磁性粉体を、スピネル型結晶構造を有するバリウムフェライト(BaO・6Fe)(20℃密度5.0g/cm、平均粒径2μm)にした以外は、実施例3と同様にして、接着剤組成物及び接着シートを得た。
【0055】
(実施例7)
磁性粉体を、ネオジウム−鉄−ボロン系磁性粉体(NdFe14B)(20℃密度7.6g/cm、平均粒径2μm)にした以外は、実施例1と同様にして、接着剤組成物及び接着シートを得た。
【0056】
(実施例8)
ホットメルト接着剤をスチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体(SIS)系ホットメルト接着剤(松村石油(株)製、商品名「TY−70」、20℃密度0.86g/cm、)にした以外は、実施例1と同様にして、接着剤組成物及び接着シートを得た。
【0057】
(比較例1)
接着シートとして、両面粘着テープ(住友スリーエム(株)製、商品名「VHB N881」)を用いた。
【0058】
(比較例2)
ポリエステル樹脂系ホットメルト接着剤とストロンチウムフェライト粉末の配合割合を、体積比で93:7とした以外は、実施例1と同様にして、接着剤組成物及び接着シートを得た。
【0059】
(比較例3)
ポリエステル樹脂系ホットメルト接着剤とストロンチウムフェライト粉末の配合割合を、体積比で40:60とした以外は、実施例1と同様にして、接着剤組成物及び接着シートを得た。
【0060】
得られた接着剤組成物及び剥離シート付き接着シートを用いて、以下の評価試験を行った。その結果を接着剤組成物の組成(体積比)と共に、表1〜3に示す。
接着剤組成物の20℃の密度の測定
接着剤組成物の20℃の密度を、測定機器として(株)エーアンドディの「AD−1653」(商品名)を用いて、JIS K0061に規定されている8.1天秤法に従って測定した。また、同様にして、比較例1の両面粘着テープの密度を測定した。なお、剥離シートは、除去して測定を行った。
磁力の測定
得られた剥離シート付き接着シート又は比較例1の両面粘着テープの剥離シートを除去し、常温で、接着剤層表面から1cm離れた距離でガウスメーター((株)東洋テクニカ製、商品名「5080型ハンディガウスメータ」)により加熱前の常温での磁力(mT)を測定した。また、剥離シート付き接着シート又は比較例1の両面粘着テープを180℃で40分間加熱した後、常温に戻し、剥離シートを除去し、接着剤層の表面から1cm離れた距離でガウスメーターにより加熱後の常温での磁力(mT)を測定した。
【0061】
仮固定試験
実施例1〜8、比較例2、3においては、得られた剥離シート付き接着シートの剥離シートを除去し、ステンレス製スライドレール(厚さ1.2mm、幅2cm、長さ150cm)に積層して接着性スライドレール積層体とし、接着シート側をスチール鋼板(幅5cm、長さ160cm)に保持し、以下の基準で評価した。比較例1においては、剥離フィルムを除去した両面粘着テープを用いて、ステンレス製スライドレールとスチール鋼板を貼り合わせて同様にして評価した。
:スライドレールをスチール鋼板に保持し、かつ、手作業により容易に動かすことができ、糊残りがない。
×:スライドレールをスチール鋼板に保持することができない、あるいは、スラ
イドレールを剥離することが困難である。
【0062】
せん断力の測定
実施例1〜8、比較例2、3においては、得られた剥離シート付き接着シートの剥離シートを除去して、接着剤層を1cm角に切断し、常温で2枚のステンレス鋼板(厚さ3mm)に挟持して、150℃で10分間加熱し、常温に戻して、JIS K6850に準じて、せん断力を測定した。なお、試験速度は、300mm/minとした。
比較例1においては、両面粘着テープを1cm角に切断し、剥離フィルムを除去して、厚さ3mmの2枚のステンレス鋼板に挟持した後、JIS K6850に準じて、せん断力を測定した。
【0063】
荷重試験
実施例1〜8、比較例2、3においては、得られた剥離シート付き接着シートの剥離シートを除去した接着シート(幅2cm、長さ150cm)を、ステンレス製スライドレール(厚さ1.2mm、幅2cm、長さ150cm)とスチール鋼板(幅5cm、長さ160cm)の間に置き、180℃で、40分間加熱して接着した後、室温まで降温し、直径20mmのポリアセタール製転動用樹脂ローラで荷重45kgの条件でスライドレールの長さ方向に沿って、50000往復転動させて、スチール鋼板上における転動前のスライドレールの中心線の位置と、転動後のスライドレールの中心線の位置から、スライドレールのずれを測定した。
比較例1においては、剥離フィルムを除去した両面テープ(幅2cm、長さ150cm)で、ステンレス製スライドレール(厚さ1.2mm、幅2cm、長さ150cm)とスチール鋼板を貼り合わせた後、ポリアセタール製転動用樹脂ローラで荷重45kgの条件でスライドレールの長さ方向に沿って50000往復させて、転動前後のスライドレールの中心線の位置からずれを測定した。
【0064】
防音性能の測定
実施例1〜8、比較例2、3においては、得られた剥離シート付き接着シートの剥離シートを除去した接着シート(幅2cm、長さ150cm)を、ステンレス製スライドレール(厚さ1.2mm、幅2cm、長さ150cm)とスチール鋼板の間に置き、180℃で、40分間加熱して接着した後、室温まで降温し、無響室内において、直径20mmのポリアセタール製転動用樹脂ローラを荷重45kgの条件でスライドレールの長さ方向に沿って転動させたときの音をマイクで測定し、JIS Z8732に準じて発生音を測定した。
比較例1においては、剥離フィルムを除去した両面テープ(幅2cm、長さ150cm)で、ステンレス製スライドレール(厚さ1.2mm、幅2cm、長さ150cm)とステンレス板を貼り合わせた後、無響室内において、直径20mmのポリアセタール製転動用樹脂ローラを荷重45kgの条件でスライドレールの長さ方向に沿って転動させたときの音をマイクで測定し、JIS Z8732に準じて発生音を測定した。
【0065】

【表1】

【0066】
【表2】

【0067】
【表3】

【0068】
実施例1〜8の接着シートは、スライドレールを仮固定するために十分な磁力を有し、加熱前は容易に動かすことができ、加熱後のせん断力が大きく、荷重試験における位置ズレは無いか又は実用上支障のない程度に小さいものであり、また、音量が30dB未満であり、防音性能が良好であった。
一方、比較例1の両面粘着テープは、貼着後に剥離することが困難であり、貼着位置を間違えたときに、正しい位置への貼り直し作業ができず、防音性能も劣っていた。比較例2の接着シートは、磁力が低く、スライドレールを仮固定することができず、防音性能に劣っていた。比較例3の接着シートは、荷重試験におけるズレ量が大きく、実用上支障が出る恐れがある。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ホットメルト接着剤と強磁性体とを含有する組成物であって、該組成物の20℃の密度が1.4〜4.5g/cmであり、かつ該組成物を成形して得られる接着シートの表面から1cm離れた位置での磁力が10mT以上である磁性を有することを特徴とするスライドレール用接着剤組成物。
【請求項2】
強磁性体がフェライトである請求項1に記載のスライドレール用接着剤組成物。
【請求項3】
ホットメルト接着剤が、ポリエステル樹脂系ホットメルト接着剤である請求項1又は2に記載のスライドレール用接着剤組成物。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載のスライドレール用接着剤組成物からなるシートであることを特徴とするスライドレール用接着シート。
【請求項5】
請求項4に記載のスライドレール用接着シートと、スライドレールとを積層したことを特徴とする接着性スライドレール積層体。
【請求項6】
車体部材に、請求項4項に記載のスライドレール用接着シートによりスライドレールを仮固定した後、スライドレール用接着シートを加熱してスライドレールを固定することを特徴とするスライドレールの固定方法。



【公開番号】特開2011−57915(P2011−57915A)
【公開日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−211369(P2009−211369)
【出願日】平成21年9月14日(2009.9.14)
【出願人】(000102980)リンテック株式会社 (1,750)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】