説明

スライド装置における逸走防止機構

【課題】 移動構造体の移動中およびピンブロックの盛替え中に地震等が発生しても、スライド装置の逆走および逸走を防止できるスライド装置の逸走防止機構を提供する。
【解決手段】 ステップバー7に対してスライドピン10の対向側において電磁石の解磁により前記ステップバー7のピン孔8に係合する逸走防止ピン15を設置したことにより、電磁石を励磁して逸走防止ピン15を退避させることで、ステップバー7に対してピンブロック4を自在に進行方向に移動させてピンブロック4の盛替え作業が自動的に行えるものでありながら、万一の地震等の発生により横揺れが生じても、スイッチ動作あるいは断線により電磁石が有効に解磁されることで逸走防止ピン15がステップバー7のピン孔8に係合して、スライド装置1ひいては移動構造体Uの逆走および逸走を確実に防止できて安全である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基礎上に設置され所定間隔でピン孔が多数個穿設されたステップバーに対して移動構造体を支持する一対のブロックから構成されるスライド装置の一方のピンブロックから進出付勢されたスライドピンの前記ピン孔への選択的係合と前記一対のブロック間のジャッキ等による伸縮運動とにより前記移動構造体を移動させるスライド装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、建築物等の重量構造体を水平移動させるには様々な工法が用いられてきた。そのような重量構造体の水平移動を行うものとして、比較的簡単な構造の油圧ジャッキを用いることが可能で、レール上に所定間隔で形成された係合部に該油圧ジャッキの係合体を係止させて、油圧ジャッキの伸縮により構造体を水平移動させるものが提案された(下記特許文献1参照)。
【特許文献1】実開昭63−129050号公報(公報図1〜図4参照)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
前記特許文献1に開示されたトラベリング用走行レール兼反力装置ついて図9を用いて簡単に説明する。躯体の柱に取り付けたH形鋼からなる受け梁31のフランジ32の中央部33を走行レールとし、その両側部38、38に一方向にのみ係止する切欠き37を開設して反力部としたもので、油圧ジャッキ34の牽引に対する反力をとるために、前記切欠き37を、前方に向かって上向き斜面35と、その後方を立上り部36とした。
【0004】
フランジ32の中央部33には、躯体の梁39の移動用シュー(図示省略)が載置されるとともに、油圧ジャッキ34の一端40が枢着される。該油圧ジャッキ34の他端41には、反力部の切欠き37に係合するところの前方に向かって下向きの斜面42を形成し、その後方を立上り部43とした係合部44を両側に有する係止体45が枢着される。この係止体45を反力部の切欠き37に係合させて梁39を牽引するものである。このような構成により、簡素な構造のレールとジャッキとの組合せにより、構造体の水平移動装置を簡単な製作により低コストで提供できることとなった。
【0005】
ところが、前記従来のものでは、油圧ジャッキ34の先端側の係止体45を進行方向の前方の次の切欠き37に係合させるためには、係止体45を現在の切欠き37における前方に向かう上向き斜面35から前方へ離脱させる必要がある。そのため、油圧ジャッキ34の一端40を躯体の梁39に枢着したり、油圧ジャッキ34の他端41を係止体45に枢着する必要があって、油圧ジャッキ34や係止体45の揺動を伴った。このため、これらの枢着部による強度低下が免れないものとなり、移動すべき構造体の重量が制限されたり、油圧ジャッキ34の牽引が円滑に行われない虞れがあった。
【0006】
そのようなことから、本件発明者らは、図10に示すようなスライド装置を提案した。図10に示したスライド装置は、詳細な全体図は省略されるが、本発明のスライド装置を説明した図1に示したものと同様のものである。図1を参照しつつ説明すると、基礎G上に設置され所定間隔でピン孔8、8・・・が多数個穿設されたステップバー7に対して移動構造体Uを支持する一対のブロック4、9から構成されるスライド装置の一方のピンブロック4から進出付勢されたスライドピン10の前記ピン孔8への選択的係合と前記一対のブロック4、9間のジャッキ5、6等による伸縮運動とにより前記移動構造体Uを移動させるもので、図10に拡大して示すように、ピンブロック4からステップバー7のピン孔8に対して圧縮ばね等の付勢ばねによりほぼ直交して付勢(図10で図面下方、図1(A)(B)で紙背から手前方向)されたスライドピン10を侵入・係合させるものである。
【0007】
このような構成により、ステップバー7に所定間隔で穿設されたピン孔8、8・・・の位置にピンブロック4が到達する毎に、付勢されたスライドピン10が自動的にピン孔8に係合するので、ピン孔8に係合したスライドピン10により位置が固定されたピンブロック4に対してジャッキブロック9側に固定されたジャッキ5、6を伸長させることで、ジャッキブロック9側を前方にスライドさせて移動させることが可能となる。これにより、ジャッキブロック9側に支持された移動構造体Uを前方にスライド移動させることができる。このような構成によって、スライド装置におけるピンブロック4のステップバー7への固定は、ステップバー7に対して略直交するスライドピン10の係合のみにて比較的小さな力で行えるとともに、移動構造体の移動のためのジャッキの操作は進行方向の直線運動のみにて行えるため、構造が簡素となり、強度低下もなく、移動構造体の押進力も大きなものを維持できることとなった。
【0008】
ところが、前記図10に示したものでは、図1のステップバー7に所定間隔で穿設されたピン孔8、8・・・の位置にピンブロック4が到達する毎に、付勢されたスライドピン10が自動的にピン孔8に係合するように構成するため、つまり、ピンブロック4が進行方向(図面左方向)にはフリーに移動可能に構成されるため、前記スライドピン10の先端をスライド装置の進行方向の移動が可能な傾斜面(前進方向に仰角が形成される形態)に形成されていることによって、前記ジャッキブロック9側を伸長させる際のピンブロック4の相対的な後方への反力を前記ピン孔8の後端にてスライドピン10を効果的に抑止するものの、ピンブロック4が前方にはフリーに移動可能である。そのため、ジャッキ5、6による移動構造体Uの移動中あるいは図10に示すようにピンブロック4の盛替え(進行方向次のピン孔8への移動)中に、万一の地震等が発生した場合には、進行方向前後方向の振動によりピンブロック4におけるスライドピン10がピン孔8から抜け出す虞れがあった。
【0009】
そこで本発明は、前記従来のスライド装置における課題を解決して、移動構造体の移動中およびピンブロックの盛替え中に地震等が発生しても、スライド装置ひいては移動構造体の逆走および逸走を防止できるスライド装置の逸走防止機構を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
このため本発明は、基礎上に設置され所定間隔でピン孔が多数個穿設されたステップバーに対して移動構造体を支持する一対のブロックから構成されるスライド装置の一方のピンブロックから進出付勢されたスライドピンの前記ピン孔への選択的係合と前記一対のブロック間のジャッキ等による伸縮運動とにより前記移動構造体を移動させるスライド装置において、前記スライドピンの先端をスライド装置の進行方向の移動が可能な傾斜面に形成するとともに、前記スライドピンの対向側において電磁石の解磁により前記ステップバーのピン孔に係合する逸走防止ピンを設置したことを特徴とする。また本発明は、前記電磁石の解磁が地震等の揺れを検出してなされることを特徴とする。また本発明は、前記逸走防止ピンの先端を前記スライドピンの先端の傾斜と逆向きにするとともに、両傾斜面を整合して係合させたことを特徴とする。また本発明は、前記ステップバーにおける逸走防止ピン側のピン孔の前後およびピン孔間に、所定厚さのロックプレートを適宜個数設置したことを特徴とするもので、これらを課題解決のための手段とするものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、基礎上に設置され所定間隔でピン孔が多数個穿設されたステップバーに対して移動構造体を支持する一対のブロックから構成されるスライド装置の一方のピンブロックから進出付勢されたスライドピンの前記ピン孔への選択的係合と前記一対のブロック間のジャッキ等による伸縮運動とにより前記移動構造体を移動させるスライド装置において、前記スライドピンの先端をスライド装置の進行方向の移動が可能な傾斜面に形成するとともに、前記スライドピンの対向側において電磁石の解磁により前記ステップバーのピン孔に係合する逸走防止ピンを設置したことにより、電磁石を励磁して逸走防止ピンを退避させることで、ステップバーに対してピンブロックを自在に進行方向に移動させてピンブロックの盛替え作業が自動的に行えるものでありながら、万一の地震等の発生により横揺れが生じても、スイッチ動作あるいは断線により電磁石が有効に解磁されることで逸走防止ピンがステップバーのピン孔に係合して、スライド装置ひいては移動構造体の逆走および逸走を確実に防止できて安全である。
【0012】
また本発明は、前記電磁石の解磁が地震等の揺れを検出してなされる場合は、揺れを検出してスイッチ動作により直ちに逸走防止ピンをステップバーのピン孔に係合させることができるので、応答性よくスライド装置ひいては移動構造体の逆走および逸走を確実に防止できる。さらに、前記逸走防止ピンの先端を前記スライドピンの先端の傾斜と逆向きにするとともに、両傾斜面を整合して係合させた場合は、ステップバーのピン孔に対する両方のピンの傾斜面と反対側の規制面をオーバーラップ配置することができるので、ステップバーの厚みを無用に大きくする必要がなくなる。
【0013】
さらにまた、前記ステップバーにおける逸走防止ピン側のピン孔の前後およびピン孔間に、所定厚さのロックプレートを適宜個数設置した場合は、ピンブロックの盛替え作業中の、ピンブロックがステップバーのピン孔間に位置する場合等に地震が派生した場合でも、それらの位置にて直ちに逸走防止ピンがロックプレートに係止してピンブロックの逸走が防止される。また、ロックプレートの厚さを逸走防止ピンの傾斜面形成部を越えて形成した場合には、ピンブロックの逆走も有効に防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下本発明を実施するための最良の形態を図面に基づいて説明する。図1は本発明のスライド装置における逸走防止機構の全体側面図および要部断面図、図2はピンブロックの要部断面図、図3はスライド装置の側面および平面図、図4は図3(A)のC矢視ピンブロックの全体断面図、図5はピンブロックの盛替え状態説明図、図6はスライド装置による移動構造体の移動作業手順を示すスライドサイクル図、図7はロックプレートを設置したステップバーの変形例を示す逸走防止状態の平面図、図8は他の変形例を示す逸走および逆走防止状態の平面図である。
【0015】
本発明のスライド装置における逸走防止機構の基本的な構成は、図1に示すように、基礎G上に設置され所定間隔でピン孔8、8・・・が多数個穿設されたステップバー7に対して移動構造体Uを支持する一対のブロック4、9から構成されるスライド装置1の一方のピンブロック4から進出付勢されたスライドピン10の前記ピン孔8への選択的係合と前記一対のブロック4、9間のジャッキ5、6等による伸縮運動とにより前記移動構造体Uを移動させるスライド装置において、前記スライドピン10の先端をスライド装置1の進行方向の移動が可能な傾斜面10Aに形成するとともに、前記スライドピン10の対向側において電磁石16(図2)の解磁により前記ステップバー7のピン孔8に係合する逸走防止ピン15を設置したことを特徴とする。
【0016】
以下に詳述する。本発明のスライド装置1は、駅舎等の重量構造体をホーム上で水平移動させる構築作業等において使用される。その他、建築物の水平移動、橋桁等の重量構造体の水平移動等、様々な重量構造体の水平移動作業に採用できる。静止部である基礎G上に、移動構造体Uの移動距離にほぼ等しい長さのステップバー7が第1および第2固定台2、3間に渡設される。ステップバー7は例えばI形鋼あるいはH形鋼を用いて、両端フランジ部が上下に位置するように設置される。ステップバー7の両端部と固定台2、3との間には適宜の荷重計や固定状態調整機構等が介設される。ステップバー7の垂直板面には所定間隔で多数個のピン孔8、8・・・が穿設される。これらのピン孔8は好適には図示の例のように側面視で四角形を呈するが、これに限定されずに円形その他であってもよい。
【0017】
前記ステップバー7を取り囲んで、好適には、ステップバー7をそれぞれ両側から挟持するごとき形態にて、一対のブロック4、9から構成されるスライド装置1が配設される。これら一対のブロック4、9の中、一方をスライドピン10が付勢進出されるピンブロック4とし、他方をジャッキ5、6のシリンダ5A、6Aが固定されるジャッキブロック9とする。ジャッキブロック9には移動構造体Uが支持され、押進装置受構台としての役割を担う。このような構成のもとで、図1(A)および図1(C)に示すように、一方のピンブロック4におけるばね(図示省略、後述する)により付勢されたスライドピン10をステップバー7のピン孔8に係合した状態にて、スライド装置1の他方のジャッキブロック9に固定されステップバー7と略平行に配設されたジャッキ5、6の各シリンダ5A、6Aからそれぞれのピストン5B、6Bを図1(B)のように伸張させることで、ピンブロック4すなわちステップバー7に対してジャッキブロック9が進行方向(図面左方)に移動させることができる。これにより、移動構造体Uが図1(A)の状態から図1(B)の状態にまで移動する。
【0018】
図1(C)に示すように、ばねにて付勢されるスライドピン10の先端はスライド装置1の進行方向の移動が可能な傾斜面(前進方向に仰角が形成される形態)10Aに形成されており、前記ジャッキブロック9側を伸張させる際のピンブロック4の相対的な後方への反力を前記ピン孔8の後端に当接する規制面10Bにてスライドピン10を効果的に抑止しつつ、ステップバー7に対してピンブロック4を自在に進行方向に移動させて、次のピン孔8への移行しての係合を行うところのピンブロック4の盛替え作業が自動的に行えるように構成されている。
【0019】
本発明では、図1(C)に示すように、前記スライドピン10に組み合わせて、該スライドピン10の対向側において電磁石(図示省略、後述する)の解磁(に伴うばねの付勢力)により前記ステップバー7のピン孔8に係合する逸走防止ピン15を設置したことを特徴とする。好適には、図示のように、前記逸走防止ピン15の先端を前記スライドピン10の先端の傾斜10Aと逆向きに傾斜させた傾斜面15Aに形成するとともに、両傾斜面を整合して係合させた場合は、ステップバー7のピン孔8に対する両方のピン10、15の傾斜面10A、15Aと反対側の規制面10B、15Bをオーバーラップ配置することができるので、ステップバー7の厚みを無用に大きくする必要がなくなる。ステップバー7の厚みを充分に採ることができるなら、逸走防止ピン15の先端に傾斜面を形成しなくてもよい。なお、ステップバー7のピン孔8とスライドピン10および逸走防止ピン15の径との間に差δがある場合には、ピンの孔への係合が円滑になるものの、地震等の横揺れの際にはδの範囲で僅かに移動を生じることになる。
【0020】
かくして、電磁石を励磁して逸走防止ピン15を退避させることで、ステップバー7に対してピンブロック4を自在に進行方向に移動させてピンブロック4の盛替え作業が自動的に行えるものでありながら、万一の地震等の発生により横揺れが生じても、スイッチ動作あるいは断線により電磁石が有効に解磁されることで、適宜のばね等の付勢力により逸走防止ピン15がステップバー7のピン孔8に係合して、スライド装置1ひいては移動構造体Uの逆走および逸走を確実に防止できて安全である。
【0021】
図2はピンブロックの要部断面図である。前記図1(C)はスライドピン10および逸走防止ピン15についてのみの断面を示していたが、図2では逸走防止ピン15の詳細について明示している。ステップバー7を両側から挟持する形態にて配設されるピンブロック4は、両側の板状の第1および第2枠体4A、4Bから構成される(ジャッキブロック9についても同様の構成である)。これら枠体4A、4Bは、ステップバー7の上下のフランジの両側縁をスライドしつつ精度よく移動する。第1枠体4Aにはスライドピン10が配設され、第2枠体4Bには白矢印のように電磁石16の解磁によって圧縮スプリング17によりばね付勢されて進出する逸走防止ピン15が配設される。符号18は、ピン孔8の前後の逸走防止ピン15側に設置された所定厚さのロックプレートを示す。ピン孔8の周囲を補強する機能と、後述する逸走防止ピン15の逸走防止機能も有する。前記電磁石16は、逸走防止ピン15をステップバー7のピン孔8から退避させる場合に通電・励磁され、圧縮スプリング17の付勢力に抗して反白矢印方向に後退する。これにより、ピンブロック4が自在に進行方向(図面左方)に移動可能になり、ピンブロック4の盛替えが可能となる。
【0022】
図3はスライド装置の側面および平面図である。図3は図1(B)に相当するところの、ピンブロック4に対してジャッキブロック9に固定されたジャッキ5、6のピストン5B、6Bが伸張した状態(実線4)から、ピストン5B、6Bを縮小させてピンブロック4をジャッキブロック9に近接させて引き寄せた状態(二点鎖線4’)、すなわちピンブロック4の盛替えが行われる状態を説明した図である。図3(A)に示すように、ジャッキ5、6は、ステップバー7を間にしてステップバー7とほぼ平行に上下に配設される。ジャッキ5、6の各シリンダ5A、6Aはジャッキブロック9の台座9Aに固定される。台座9Aの底部の孔部を通じてシリンダ5A、6Aからピストン5B、6Bがステップバー7とほぼ平行に延びてピンブロック4に軸着された状態が明瞭に理解される。図3(B)の平面図(ピン部分の平断面)により、ステップバー7のピン孔8に対するスライドピン10および逸走防止ピン15の係合状態が理解される。
【0023】
図4は図3(A)のC矢視ピンブロックの全体断面図である。図面の略中央部が、図面紙背側から紙面手前側(進行方向)に延びるステップバー7である。該ステップバー7の両側にピンブロック4の第1枠体4Aおよび第2枠体4Bが配設され、第1枠体4Aおよび第2枠体4Bにはそれぞれスライドピン10および逸走防止ピン15が、ステップバー7に直交してピン孔8に係脱自在に配設される。スライドピン10の後端部は、第1枠体4Aの下部から延設された腕の下端の支点19を揺動中心とした解除レバー14の中途に軸支。揺動レバー14の中途下部と第1枠体4Aとの間には引張りばね11が張設され、スライドピン10を常時ピン孔8の方向に付勢している。前記揺動レバー14を握ることで引張りばね11の復元力に抗して、揺動レバー14を反時計周り方向に揺動させるとともに、スライドピン10を後退させてピン孔8から離脱させることができる。そして、第1枠体4Aの上部から延設された腕の先端に設けた係止用孔の揺動レバー14を軸支することで、ピンブロック4の盛替え(進行方向にピンブロック4の移動は前記傾斜面10Aにより常時可能であるが、ピンブロック4の逆走時の盛替え)のためのピンブロック4のステップバー7に対する移動や取外しが可能となる。
【0024】
図5はピンブロックの盛替え状態説明図である。図5(C)の状態からピンブロック4を盛り替えるには、逸走防止ピン15の電磁石16(図2)を励磁することにより、圧縮スプリング17(図2)の復元力に抗して逸走防止ピン15をピン孔8から離脱させる。逸走防止ピン15のストロークは、ステップバー7に添設されたロックプレート18の厚みをクリアさせるものである。この状態にてスライド装置1における前記シリンダ5B、6Bを縮小させてピンブロック4を進行方向に引き寄せると、スライドピン10の先端における仰角形態の傾斜面10Aがピン孔8を乗り越えて、スライドピン10が上方に退避してピンブロック4の進行方向への移動が可能となる。その途中の状態が図5(B)である。さらに、シリンダ5B、6Bを縮小させていくと、ピンブロック4がステップバー7における次のピン孔8の位置に到達する(図5(A)の位置)。この位置にて前記電磁石16を解磁することにより、圧縮スプリング17の復元力によって逸走防止ピン15がピン孔8に係合するので、この状態にて万一の地震等が発生してもピンブロック4が妄りに移動することがない。
【0025】
図6はスライド装置による移動構造体の移動作業手順を示すスライドサイクル図である。図6(A)〜図6(C)までが1サイクル、図6(D)〜図6(F)までが次の1サイクルである。図6(A)の初期状態にては、ピンブロック4のスライドピン10が第1ピン孔8に係合している。図6(B)では、ピンブロック4に対してジャッキブロック9のジャッキ5、6を伸張させて移動構造体Uを前進移動させた状態である。図6(C)では、逸走防止ピン15をピン孔8から離脱させ、ジャッキ5、6を縮小させてピンブロック4を引き寄せる盛替え状態が示されている。このとき、ジャッキブロック9側は移動構造体Uに支持されているため動くことはない。この位置にて、ピンブロック4のスライドピン10は第2ピン孔8に自動的に係合する。このピンブロック4のスライドピン10が第2ピン孔8に係合した状態から、図6(A)〜図6(C)の1サイクルを繰り返した状態を示したものが、図6(D)〜図6(F)である。
【0026】
図7はロックプレートを設置したステップバーの変形例を示す逸走防止状態の平面図である。本実施例では、ピンブロック4の盛替え中、すなわちピンブロック4がステップバー7のピン孔8、8間に位置する際の地震等の横揺れに遭遇した場合を想定したものである。前記ステップバー7における逸走防止ピン15側のピン孔8の前後およびピン孔8、8間に、所定厚さのロックプレート18を適宜個数設置したものである。電磁石16を解磁して逸走防止ピン15を右側のピン孔8から離脱させ(ロックプレート18の厚みをクリアするまで退避させる)、この状態にて進行方向(左方向)に移動させる盛替え中に、万一の地震等が発生した場合には、横揺れを検知したスイッチ動作あるいは断線により電磁石が有効に解磁されることで、圧縮スプリング17(図2)の復元力により逸走防止ピン15が適宜個数設置されたロックプレート18間に進出する。これにより、ピンブロック4の進行方向への逸走・盲動が抑制される。
【0027】
図8は他の変形例を示す逸走および逆走防止状態の平面図である。本実施例では、ロックプレート18の厚さを逸走防止ピン15の傾斜面15A形成部を越える厚さとしたものである。本実施例の場合は、逸走防止ピン15の先端を前記スライドピン10の先端の傾斜10Aと逆向きにして、両傾斜面を整合させることで、ステップバー7のピン孔8に対する両方のピンの傾斜面と反対側の規制面をオーバーラップ配置して、ステップバー7の厚みを無用に大きくしなくても済むようにした場合でも、一旦、逸走防止ピン15がロックプレート18間に進出すると、逆走方向(図面右方向)への盲動も有効に抑制することが可能となる。
【0028】
以上、本発明の実施例について説明してきたが、本発明の趣旨の範囲内で、スライド装置は、移動構造体を押進させてスライドさせることで詳述したが、スライドピンおよび逸走防止ピンの両面傾斜を逆の傾斜で構成した場合は、牽引してスライドさせることが可能であり、基礎等の静止部材の種類(床、ホーム、地面等、静止するものであればいかなるものも対象たり得る)、移動構造体の種類(建築物、橋梁等最終的には静止構造物となるものでも、構築途中に移動させるものであればいかなるものも対象たり得る)、ステップバーの形状(I形鋼、H形鋼、T形鋼、閉断面角管等適宜断面のものが採用され得る)、形式および材質(好適には強度の大きな鋼材が採用されるが、他の適宜材質のものを排除するものではない)、ピン孔の側面視形状(好適には、四角形であるが円形等の適宜形状であってもよい)およびその間隔、スライド装置を構成するピンブロックおよびジャッキブロックの形状(ステップバーを挟持する形態にて一対の枠体から構成されるが、ステップバーのフランジ等に精度よく嵌合させてスライドするように構成してもよい)、形式、ジャッキの形状、形式(ステップバーとほぼ平行に配設されるシリンダとピストンから構成されるが、螺子筒とこれに螺合する回転螺子棒とから構成した軸動部材によりスライド装置を構成してもよい)およびジャッキブロックにおける配設形態ならびにピンブロックとの関連構成(軸支等)、傾斜面を含むスライドピンの形状、形式、ピンブロックにおける配設形態および付勢形態ならびに付勢ばねの形式(実施例の引張りばねに代えて、圧縮ばねにより適宜の方法で進出付勢するように構成してもよい)、傾斜面を含む逸走防止ピンの形状、形式、ピンブロックにおける配設形態および付勢形態ならびに付勢ばねの形式(実施例の圧縮スプリングに代えて、引張りねにより適宜の方法で進出付勢するように構成してもよい)、電磁石の形状、形式およびその励・解磁形態(手動で閉じて通電励磁させ、横揺れによる開くスイッチにより解磁させる他、ピンブロックの僅かの盛替え移動を検知して通電励磁させる等)、ロックプレートの形状、形式および設置形態等については適宜選定できる。実施例に記載の諸元はあらゆる点で単なる例示に過ぎず限定的に解釈してはならない。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明のスライド装置における逸走防止機構の全体側面図および要部断面図である。
【図2】同、ピンブロックの要部断面図である。
【図3】同、スライド装置の側面および平面図である。
【図4】同、図3(A)のC矢視ピンブロックの全体断面図である。
【図5】同、ピンブロックの盛替え状態説明図である。
【図6】同、スライド装置による移動構造体の移動作業手順を示すスライドサイクル図である。
【図7】同、ロックプレートを設置したステップバーの変形例を示す逸走防止状態の平面図である。
【図8】同、他の変形例を示す逸走および逆走防止状態の平面図である。
【図9】従来のスライド装置であるトラベリング用走行レール兼反力装置の説明図である。
【図10】本発明の前提技術となったスライド装置の動作説明図である。
【符号の説明】
【0030】
1 スライド装置
2 第1固定台
3 第2固定台
4 ピンブロック
5 第1ジャッキ
5A シリンダ
5B ピストン
6 第2ジャッキ
6A シリンダ
6B ピストン
7 ステップバ−
8 ピン孔
9 ジャッキブロック
10 スライドピン
10A 傾斜面
10B 規制面
15 逸走防止ピン
15A 傾斜面
15B 規制面
18 ロックプレート
G 基礎
U 移動構造体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基礎上に設置され所定間隔でピン孔が多数個穿設されたステップバーに対して移動構造体を支持する一対のブロックから構成されるスライド装置の一方のピンブロックから進出付勢されたスライドピンの前記ピン孔への選択的係合と前記一対のブロック間のジャッキ等による伸縮運動とにより前記移動構造体を移動させるスライド装置において、前記スライドピンの先端をスライド装置の進行方向の移動が可能な傾斜面に形成するとともに、前記スライドピンの対向側において電磁石の解磁により前記ステップバーのピン孔に係合する逸走防止ピンを設置したことを特徴とするスライド装置における逸走防止機構。
【請求項2】
前記電磁石の解磁が地震等の揺れを検出してなされることを特徴とする請求項1に記載のスライド装置における逸走防止機構。
【請求項3】
前記逸走防止ピンの先端を前記スライドピンの先端の傾斜と逆向きにするとともに、両傾斜面を整合して係合させたことを特徴とする請求項1または2に記載のスライド装置における逸走防止機構。
【請求項4】
前記ステップバーにおける逸走防止ピン側のピン孔の前後およびピン孔間に、所定厚さのロックプレートを適宜個数設置したことを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載のスライド装置における逸走防止機構。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2007−9635(P2007−9635A)
【公開日】平成19年1月18日(2007.1.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−195005(P2005−195005)
【出願日】平成17年7月4日(2005.7.4)
【出願人】(000153616)株式会社巴コーポレーション (27)
【出願人】(000153605)株式会社巴技研 (5)
【Fターム(参考)】