説明

スライム防止方法およびハロゲン系殺菌剤添加システム

【課題】 的確な量のハロゲン系殺菌剤を用いて装置等の腐食を抑制しつつ、スライムの発生を確実に防止することができるスライム防止方法を提供する。
【解決手段】 溶存酸素を飽和させた無菌水を測定セル内に満たし、電圧を印加して無菌水の初期酸素濃度信号を検知した後、該電圧の印加を停止し、溶存酸素を飽和させた試料を測定セル内に満たし、電圧を印加して試料の初期酸素濃度信号を検知した後、該電圧の印加を停止し、所定時間、試料中の微生物に酸素を消費させ、電圧を印加して酸素消費後の酸素濃度信号を検知した後、該電圧の印加を停止し、再び溶存酸素を飽和させた無菌水を測定セル内に満たし、電圧を印加して無菌水の測定後酸素濃度信号を検知する各操作で得られた酸素濃度信号を用いて、試料中の微生物が消費する酸素消費量を求め、該酸素消費量に基づき決定した量のハロゲン系殺菌剤を添加する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば紙パルプ工業の各工程水やクーリングタワーの冷却水等の各種産業用水におけるスライムの発生を確実に防止することのできる、スライム防止方法およびハロゲン系殺菌剤添加システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、紙パルプ工業の各工程水やクーリングタワーの冷却水等の各種用水が使用されている産業においては、用水中の微生物が要因となって発生するスライム障害が問題となっており、様々な弊害を招いている。ここで、スライムとは、前記産業の用排水中において微生物的要因によって発生する粘性泥状物質を指し、特に、紙パルプ工業においては、断紙、目玉、汚斑、操業性低下など様々な弊害の原因となるものである。
【0003】
そこで、紙パルプ工業においては、このようなスライム障害を防止するために、スライムコントロール剤として殺菌剤を用排水等の水系に連続または間欠にて添加する方法が広く採用されている。この方法においては、殺菌剤の添加中または添加前後の用排水を採取して、その試料中の生菌数を測定することにより、その効果を確認し、必要に応じて、適宜殺菌剤の添加量を増減することが必要になる。これまで、この生菌数の測定には平板培養等の方法が採用されてきた。ところが、このような方法で生菌数を測定する場合、通常、最低48時間の培養時間が必要となるため、効果不足時に殺菌剤を増量するような対応が迅速に取れないことが問題視されていた。つまり、スライムの発生を確実に防止するには、試料中の生菌数をなるべく迅速に測定し、殺菌剤の添加に際し即時対応を可能とすることが重要であり、迅速に結果が得られる生菌数測定方法が要望されていた。
【0004】
そこで、各種用水を含む液体試料中の生菌数を迅速に測定する方法として、いくつかの提案がなされている。例えば、好気性細菌が呼吸により酸素を消費する性質を利用して、酸素電極により液体試料中の溶存酸素濃度を測定することにより液体試料中の生菌数を求める方法が提案されている(特許文献1、特許文献2参照)。これらの方法は、酸素電極としてクラーク型酸素電極を使用し、白金電極(陽極)と銀電極(陰極)との間で連続的に電圧を印加し、溶存酸素の減少速度を測定することにより液体試料中の生菌数を求めるものである。
【0005】
しかしながら、これら公知の生菌数測定方法においては、微生物による酸素消費に加え、白金極での電極反応に由来して酸素が自己消費されるため、得られる測定値は両方の酸素消費を反映したものとなる。そのため、生菌数の検出感度や精度を充分なレベルまで上げることができず、その結果、これまでは、実際の生菌数は低いにも関わらず、過剰の殺菌剤を添加せざるを得ないのが現状であった。このような過剰な殺菌剤の添加は、不経済であり、逐次、的確な量の殺菌剤を添加しうるような改善が求められていた。
【0006】
ところで、従来から、スライムコントロール剤として用いられる殺菌剤としては、有機系殺菌剤およびハロゲン系殺菌剤が知られているが、有機系殺菌剤には耐性菌が出やすいという欠点があるため、工業的に連続使用するうえでは、次亜塩素酸や次亜塩素酸塩などのハロゲン系殺菌剤が好ましい。しかし、一方で、ハロゲン系殺菌剤は、その使用量が多いと装置等の腐食を招くという問題を有しており、特に前述のように過剰な殺菌剤の添加を余儀なくされる現状にあっては、その使用が問題視されていた。
【0007】
【特許文献1】特開昭56−140898号公報
【特許文献2】特開昭63−15150号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の課題は、的確な量のハロゲン系殺菌剤を用いて装置等の腐食を抑制しつつ、スライムの発生を確実に防止することができるスライム防止方法と、ハロゲン系殺菌剤添加システムとを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた。その結果、クラーク型酸素電極に電圧を印加して酸素濃度信号を検知することにより酸素消費量を求めるにあたり、電圧の印加を、従来のように電極間に電圧を連続的に印加する方式(連続印加方式)ではなく、酸素濃度信号を検知する度毎に断続的に電圧を印加する(すなわち、電圧を印加し、酸素濃度信号を検知した後には速やかに該電圧の印加を停止するようにし、その後、別の酸素濃度信号を検知する際には改めて電圧を印加する)方式(断続印加方式)で行なうようにすることにより、電極反応に誘発される酸素の自己消費を最小限に抑制することが可能になり、その結果、生菌数の検出感度や精度を大幅に向上させることができること、さらに、測定対象である試料を測定する前後で無菌水を用いて逐次校正を加えることにより、生菌数の検出感度や精度をより向上させることができることを見出した。そして、このような方法で求めた酸素消費量に基づき的確なハロゲン系殺菌剤の添加量を決定すれば、スライム防止効果を損なうことなく従来よりもその添加量を低減することが可能になることを見出した。本発明は、これらの知見から完成されたものである。
【0010】
すなわち、本発明は以下の構成からなる。
(1)試料中の微生物が消費する酸素消費量を、クラーク型酸素電極に電圧を印加して酸素濃度信号を検知することにより測定し、得られた酸素消費量に基づき決定した量のハロゲン系殺菌剤を添加するスライム防止方法であって、前記酸素消費量を求めるにあたり、下記(i)〜(viii)の操作をこの順序で行ない、得られた酸素濃度信号(Sam−1)、(Sam−2)、(Cal−1)および(Cal−2)を用いて算出する、ことを特徴とするスライム防止方法。
(i)無菌水中の溶存酸素濃度を飽和させた後、該無菌水を大気との接触を遮断した状態で測定セル内に満たす操作。
(ii)電圧を印加して無菌水の初期酸素濃度信号(Cal−1)を検知した後、該電圧の印加を停止する操作。
(iii)試料中の溶存酸素濃度を飽和させた後、該試料を大気との接触を遮断した状態で測定セル内に満たす操作。
(iv)電圧を印加して試料の初期酸素濃度信号(Sam−1)を検知した後、該電圧の印加を停止する操作。
(v)所定時間、試料中の微生物に酸素を消費させる操作。
(vi)電圧を印加して酸素消費後の酸素濃度信号(Sam−2)を検知した後、該電圧の印加を停止する操作。
(vii)再び無菌水中の溶存酸素濃度を飽和させた後、該無菌水を大気との接触を遮断した状態で測定セル内に満たす操作。
(viii)電圧を印加して前記試料測定後の無菌水の酸素濃度信号(Cal−2)を検知した後、該電圧の印加を停止する操作。
(2)前記酸素消費量は、得られた酸素濃度信号(Sam−1)、(Sam−2)、(Cal−1)および(Cal−2)を下記式(1)に代入することにより、酸素消費率として求める、前記(1)記載のスライム防止方法。
【数2】

(3)前記無菌水は、抗菌剤、または抗菌剤および洗浄剤を精製水に含有させたものである、前記(1)または(2)に記載のスライム防止方法。
(4)酸素電極への電圧印加時間が1回あたり1〜6分間である、前記(1)〜(3)のいずれかに記載のスライム防止方法。
(5)ハロゲン系殺菌剤として、下記(a)〜(d)からなる群より選ばれる1種以上を用いる、前記(1)〜(4)のいずれかに記載のスライム防止方法。
(a)次亜塩素酸もしくはその塩を含む水溶液。
(b)次亜臭素酸もしくはその塩を含む水溶液。
(c)臭化アンモニウムおよび塩化アンモニウムのうち少なくとも一方を含む水溶液と、次亜塩素酸塩を含む水溶液とを混合して得られる反応生成物を含む水溶液。
(d)前記(c)の水溶液に、アンモニア、スルファミン酸および水酸化ナトリウムからなる群より選ばれる1種以上を添加した水溶液。
(6)前記酸素消費量の測定を所定時間ごとに行ない、得られた酸素消費量の増減によってスライム量を監視する、前記(1)〜(5)のいずれかに記載のスライム防止方法。
(7)前記(1)〜(6)のいずれかに記載のスライム防止方法において測定された酸素消費量に基づきハロゲン系殺菌剤の添加量を制御する機構を備える、ことを特徴とするハロゲン系殺菌剤添加システム。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、各種用排水におけるスライムの発生を容易かつ確実に把握することが可能になり、スライム障害を防止するためのハロゲン系殺菌剤をその添加効果を見極めて的確なタイミングで的確な量だけ添加することができる、という効果が得られる。
詳しくは、本発明によれば、従来のように培養して生菌数をみるのではなく、微生物が消費する酸素消費量から生菌数を把握するので、迅速にその結果を得て、それをハロゲン系殺菌剤の添加に即時対応させることができ、しかも、従来のように電圧を連続印加するのではなく、断続的に印加するとともに無菌水を用いて逐次校正を加えるようにしたので、高感度かつ高精度で生菌数を把握することができ、その結果、生菌数が少ないときにはハロゲン系殺菌剤の添加量を即時に減量することで、スライム防止効果を損なうことなく、腐食性の強いハロゲン系殺菌剤の添加量を必要最小限の的確な量に制御することができる。これにより、スライムの発生を確実に防止しつつ、装置等の腐食を抑制することが可能となり、さらに耐性菌の出現という懸念も払拭できる、という効果が得られる。また、これまで余剰に添加していた殺菌剤の薬剤コストを削減することも可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明のスライム防止方法は、試料中の微生物が消費する酸素消費量を、クラーク型酸素電極に電圧を印加して酸素濃度信号を検知することにより測定し、得られた酸素消費量に基づき決定した量のハロゲン系殺菌剤を添加する方法である。以下、まず、本発明のスライム防止方法における酸素消費量の測定方法(以下、これを「生菌数測定方法」と称することもある)について説明する。
【0013】
本発明のスライム防止方法に用いる生菌数測定方法においては、クラーク型酸素電極に電圧を印加して酸素濃度信号を検知することにより前記酸素消費量を求めるにあたり、下記(i)〜(viii)の操作をこの順序で行なう。すなわち、
(i)無菌水中の溶存酸素濃度を飽和させた後、該無菌水を大気との接触を遮断した状態で測定セル内に満たす操作、
(ii)電圧を印加して無菌水の初期酸素濃度信号(Cal−1)を検知した後、該電圧の印加を停止する操作、
(iii)試料中の溶存酸素濃度を飽和させた後、該試料を大気との接触を遮断した状態で測定セル内に満たす操作、
(iv)電圧を印加して試料の初期酸素濃度信号(Sam−1)を検知した後、該電圧の印加を停止する操作、
(v)所定時間、試料中の微生物に酸素を消費させる操作、
(vi)電圧を印加して酸素消費後の酸素濃度信号(Sam−2)を検知した後、該電圧の印加を停止する操作、
(vii)再び無菌水中の溶存酸素濃度を飽和させた後、該無菌水を大気との接触を遮断した状態で測定セル内に満たす操作、
(viii)電圧を印加して前記試料測定後の無菌水の酸素濃度信号(Cal−2)を検知した後、該電圧の印加を停止する操作、
をこの順序で行なうのである。
【0014】
上記(i)〜(viii)の操作においては、従来のように電圧を常に連続して印加するのではなく、各酸素濃度信号を検知する度毎に断続的に電圧を印加する断続印加方式で電圧印加を行なう。これにより、電極反応に誘発される酸素の自己消費を最小限に抑制することができ、その結果、検出感度や精度を向上させることができ、スライム防止効果を損なうことなく、腐食性の強いハロゲン系殺菌剤の添加量を必要最小限の的確な量に制御することが可能となるのである。本発明のスライム防止方法に用いる生菌数測定方法は、クラーク型酸素電極を用いた連続印加方式で電圧を印加する従来の生菌数測定方法とは、電圧の印加方式の点において大きく異なるものである。
【0015】
上記(i)〜(viii)の操作のうち(i)、(ii)および(vii)、(viii)の操作は、試料を用いた一連の操作((iii)〜(vi))の前後に、無菌水を用いたときの酸素濃度信号(Cal−1)および(Cal−2)を検知するものであり、本発明のスライム防止方法に用いる生菌数測定方法においては、これら酸素濃度信号(Cal−1)および(Cal−2)を用いて測定結果を逐次校正する。前述した断続印加方式を採用するとともに、無菌水を使用して逐次校正を行うことにより、測定の検出感度や精度を大幅に向上させることができ、その結果として、スライム防止効果を損なうことなく、腐食性の強いハロゲン系殺菌剤の添加量を必要最小限の的確な量に制御することが可能となるのである。本発明のスライム防止方法に用いる生菌数測定方法は、このように無菌水を用いて逐次校正を加える点でも、従来の生菌数測定方法と大きく異なるものである。なお、酸素濃度信号(Cal−1)および(Cal−2)を用いて測定結果を逐次校正するとは、酸素消費量を求める演算において酸素濃度信号(Cal−1)および(Cal−2)を用いる(例えば、後述する式(1)や式(2)を参照)ことを意味する。
【0016】
本発明のスライム防止方法に用いる生菌数測定方法においては、前記酸素電極への電圧印加時間が1回あたり1〜6分間であることが好ましく、より好ましくは1回あたり1.5〜3分間であるのがよい。ここで、1回あたりの電圧印加時間とは、前記(ii)、(iv)、(vi)および(viii)の各操作で酸素濃度信号を得る際の各々の電圧印加時間(電圧を印加してから該電圧印加を停止するまでの時間)のことである。1回あたりの電圧印加時間が前記範囲よりも長い場合、電極反応に由来する酸素の自己消費を充分に抑制できなくなる恐れがあり、一方、1回あたりの電圧印加時間が前記範囲よりも短いと、酸素濃度信号を検知することが難しくなる傾向があるので好ましくない。
【0017】
前記(i)、(iii)および(vii)の操作において、試料もしくは無菌水を大気との接触を遮断した状態で測定セル内に満たすとは、測定セル内に試料もしくは無菌水を満たして密閉すること(具体的には、密閉された測定セル内には試料または無菌水からなる液相のみが存在し、大気などの気相が存在しないこと)を言う。測定セル内に試料もしくは無菌水を満たして密閉するに際しては、当該試料もしくは当該無菌水を測定セルに充填したのち排水することにより共洗いする操作(以下、この操作を共洗いと言う)を数回繰り返した後、オーバーフローさせて測定セル内に満たした状態で密閉することが望ましい。
前記(i)、(iii)および(vii)の操作において、試料もしくは無菌水中の溶存酸素濃度を飽和させる方法、つまり溶存酸素濃度を平衡化する方法としては、例えば、試料もしくは無菌水中に酸素もしくは空気を所定時間バブリングするなどすればよい。
【0018】
前記(ii)、(iv)、(vi)および(viii)の各操作において、印加電圧の大きさは、−500〜−1000mVとすることが好ましく、−600〜−700mVとすることがより好ましい。なお、印加電圧の大きさは、上記各操作ごとに異なっていてもよいし、同じであってもよい。
前記(ii)、(iv)、(vi)および(viii)の各操作においては、電圧を印加した後、出力が安定してから、酸素濃度信号を検知することが望ましい。出力が安定するのは、通常、印加を開始してから1分程度後であり、この程度の時間を空けて酸素濃度信号を検知すればよい。また、前記(ii)、(iv)、(vi)および(viii)の各操作における電圧印加時には、測定セル内の試料もしくは無菌水をスターラー等により攪拌しておくことが、より正確な測定結果を得るうえで好ましい。このときの攪拌速度は、特に限定されないが、100〜2000rpmとするのが好ましい。
【0019】
前記(v)の操作、すなわち試料中の微生物に酸素を消費させる操作(以下、この操作を酸素消費(培養)とも言う)において、試料中の微生物に酸素を消費させる時間(酸素消費時間(培養時間))は、適宜設定すればよいのであるが、通常、5〜120分間、好ましくは6〜90分間とするのがよい。また、前記(v)の操作における酸素消費(培養)時には、測定セル内の試料もしくは無菌水をスターラー等により攪拌しておくことが、より正確な測定結果を得るうえで好ましい。このときの攪拌速度は、特に限定されないが、100〜2000rpmとするのが好ましい。
【0020】
前記各操作中には、試料もしくは無菌水の液温が20〜50℃となるように制御することが好ましく、より好ましくは30〜45℃となるように制御するのがよい。特に、前記(v)の操作における酸素消費(培養)時には、試料液温によって微生物の酸素消費量が左右される恐れがあるので、液温を一定に保つことが重要である。
【0021】
前記無菌水としては、抗菌剤、または抗菌剤および洗浄剤を精製水に含有させたものが好ましい。勿論、これに限定されるものではなく、精製水をそのまま無菌水として使用することも可能であるし、また、少なくとも抗菌剤を含有させるのであれば、精製水ではなく、蒸留水、イオン交換水、工業用水、水道水等を使用することもできる。
【0022】
前記無菌水に含有させることのできる抗菌剤としては、例えば、塩化ベンザルコニウム、アジ化ナトリウム、2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オン、5−クロロ−2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オン、1,2−ベンゾイソチアゾリン−3−オン、2−n−オクチル−4−イソチアゾリン−3−オン、4,5−ジクロロ−2−n−オクチル−4−イソチアゾリン−3−オン、4,5−ジクロロ−1,2−ジチオール−3−オン、パラヒドロキシ安息香酸エステル、1,4−ビス(ブロモアセトキシ)−2−ブテン、1,2−ビス(ブロモアセトキシ)エタン、メチレンビスチオシアネート、2−ブロモ−2−ニトロ−1,3−プロパンジオール、2−ブロモ−2−ニトロ−1,3−プロパンジオールジアセテート、5−クロロ−2,4,6−トリフルオロイソフタロニトリル、3,3,4,4−テトラクロロテトラヒドロチオフェン−1,1−ジオキシド、グルタールアルデヒド、オルトフタルアルデヒド等が挙げられ、これらのうち1種または2種以上を組み合わせて使用することができる。これら抗菌剤の含有量は、特に限定されないが、例えば、無菌水に有効成分として20〜2000ppm含有されていればよく、好ましくは300〜1000ppm含有されているのがよい。
【0023】
前記無菌水に含有させることのできる洗浄剤としては、例えば、ポリオキシエチレン(10モル)ポリオキシプロピレン(2モル)ラウリルエーテル、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムなどの界面活性剤、酒石酸、クエン酸、リンゴ酸などのヒドロキシカルボン酸、1−ヒドロキシエチリデン−1,1−ジホスホン酸などの有機ホスホン酸、ポリアクリル酸ナトリウム、ポリマレイン酸ナトリウムなどのポリカルボン酸、スルファミン酸、リン酸などの無機酸等を挙げられ、これらのうち1種または2種以上を組み合わせて使用することができる。これら洗浄剤の含有量は、特に限定されないが、例えば、無菌水に有効成分として10〜5000ppm含有されていればよく、好ましくは100〜3000ppm含有されているのがよい。
【0024】
本発明のスライム防止方法に用いる生菌数測定方法は、上記操作で得られた酸素濃度信号(Sam−1)、(Sam−2)、(Cal−1)および(Cal−2)を用いて酸素消費量を算出するものである。4つの酸素濃度信号を用いて酸素消費量を算出する際の演算式は、目的等に応じて適宜設定すればよいのであるが、例えば、酸素消費量は、得られた酸素濃度信号(Sam−1)、(Sam−2)、(Cal−1)および(Cal−2)を下記式(1)に代入することにより、酸素消費率(%)として求めることができる。式(1)のほかに採用することのできる演算式としては、例えば、下記式(2)が挙げられる。
【0025】
【数3】

【0026】
【数4】

【0027】
本発明のスライム防止方法においては、このようにして求めた酸素消費率(%)に基づき、ハロゲン系殺菌剤の添加量を決定する。なお、前記生菌数測定方法においては、このようにして求めた酸素消費率(%)と、別途、平板培養法等にて測定した生菌数の値との相関式から求められる生菌数に換算するファクターを用いることにより、試料中の生菌数を自動的に測定することもできる。
【0028】
本発明のスライム防止方法に用いる生菌数測定方法において測定対象とする試料としては、本発明のスライム防止方法を適用する対象(すなわち、例えば紙パルプ工業の各工程水やクーリングタワーの冷却水等の各種用水)を、原液のまま使用してもよいし、必要に応じて適当な倍率で適宜希釈して使用してもよい。
【0029】
本発明のスライム防止方法に用いる生菌数測定方法は、例えば、密閉可能な測定セルと、該測定セル内の液体に溶存酸素を飽和させる酸素飽和手段と、クラーク型酸素電極に電圧を印加するための電圧印加手段と、電圧印加により生じた酸素濃度信号を検知する検知手段と、前記測定セル内の液温を制御する温度制御手段とを備えた生菌数測定装置を用いて実施することができる。以下、この本発明のスライム防止方法に用いられる生菌数測定装置の一実施形態とその使用形態について、図面を参照しながら具体的に説明する。但し、本発明のスライム防止方法に用いることのできる生菌数測定装置は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0030】
図1は、本発明のスライム防止方法に用いられる生菌数測定装置の一実施形態の構成を示す概略図である。図1に示すように、この生菌数測定装置は、試料の流路方向に沿って、温度制御域31および溶存酸素検出部20がこの順に設けられる。温度制御域31内の試料流路には、無菌水供給バルブ(V1)を介して無菌水タンク11が接続されている。
【0031】
図1において、P1は試料を温度制御域31に送るためのポンプであり、P2は試料または無菌水を溶存酸素検出部20に送るためのポンプである。試料や無菌水の送液は、それぞれ無菌水供給バルブ(V1)や試料供給バルブ(V2)の開閉によって制御される。
空気バルブ(V3)は開放することで空気を供給できるようになっており、開放することによって試料もしくは無菌水に空気をバブリングし、その溶存酸素を飽和させることができる。つまり、該実施形態においては、空気バルブ(V3)が酸素飽和手段となる。
【0032】
図1中、破線で示す温度制御域31は、温度制御手段(不図示)で温度制御される。温度制御手段としては、具体的には恒温槽や熱交換ジャケット等を例示することができる。
P3は、試料または無菌水を系内から排出するためのポンプであり、ドレインバルブ(V4)の開閉によって試料や無菌水の排出が制御される。
溶存酸素検出部20からの酸素濃度信号は演算手段12(例えば、内蔵コンピュータなど)で検知され、演算処理が施される。つまり、該実施形態においては、演算手段12が検知手段となる。
【0033】
図2は、図1に示す装置の溶存酸素検出部の構成を示す概略図である。図2において、21は測定セルであり、ポンプ(P2)側の流路から試料または無菌水を充填し、ドレインバルブ(V4)側の流路から試料または無菌水を排水するようになっている。この測定セル21は、空気中の酸素が試料中もしくは無菌水中に溶解しないよう密閉可能であることが肝要である。また、測定セル21は、セル内を一定温度に保つために、温度制御域32内に収容されている。
測定セル21には、クラーク型酸素電極22と、該クラーク型酸素電極22に電圧を印加するための電圧印加手段(不図示)とが設けられている。この電圧印加手段(不図示)は、本発明のスライム防止方法に用いる生菌数測定方法の特徴である断続的な電圧印加が可能となるもの(例えば、オンとオフとが任意に切り替え可能であるもの)であれば特に制限はなく、公知の電圧印加手段を使用することができる。
測定セル21には、攪拌手段として、その底部内側に液体を攪拌するためのスターラーピース23が入れられているとともに、底部外側にスターラーピース23を回転させるためのマグネチックスターラー24が設置されている。なお、測定セル21における攪拌手段は、スターラーピース23およびマグネチックスターラー24に限定されるものではなく、例えば、図4に示すような攪拌羽根25とこれを駆動させるモーター(不図示)などを設けることもできる。
また、攪拌手段を設ける際には、例えば図4に示すように、攪拌手段(攪拌羽根25)が酸素電極22の先端部22aに対向するように(好ましくは、先端部22aの正面に向かい合って位置するように)設置することが望ましい。これにより、酸素電極22の先端部22aが受ける圧が低減され、酸素濃度の測定精度をより向上させることができる。
【0034】
図2中、破線で示す温度制御域32は測定セル21を含む領域であり、測定セル21内の液温を温度制御手段(不図示)で制御するものである。この温度制御によって、試料もしくは無菌水の液温を所望の温度に保持することが可能となる。とりわけ、試料液温によって微生物の酸素消費量が左右される恐れがある酸素消費時(前記(v)の操作時)には、液温を一定に保つことが重要となるので、前記温度制御を確実に行なうことが望ましい。温度制御手段としては、具体的には恒温槽や熱交換ジャケット等を例示することができる。
【0035】
以下、前述した生菌数測定装置の使用形態について具体的に説明する。
まず、無菌水供給バルブ(V1)より無菌水を注入して測定セル21および系内各流路を満たし、測定セル21および各流路の洗浄を行う。続いて、ドレインバルブ(V4)より測定セル21および系内各流路から汚れた無菌水を排水する。次に、無菌水供給バルブ(V1)より新たな無菌水を注入して測定セル21および系内各流路を満たし、同時に空気バルブ(V3)を開放して無菌水中の溶存酸素を飽和させた後、該空気バルブ(V3)を閉じて大気との接触を遮断した状態とし、この状態で無菌水を測定セル21内に満たす。次に、酸素電極22にて電圧印加、スターラー攪拌を開始し、出力安定後に前記酸素濃度信号(Cal−1)を記録した後、電圧印加を停止して、無菌水で洗浄する。
【0036】
次に、試料供給バルブ(V2)より測定セル21内へ試料を注入し、共洗いを数回繰り返し行なう。その後、試料供給バルブ(V2)より測定セル21内へ試料を注入し、同時に空気バルブ(V3)を開放して試料中の溶存酸素を飽和させた後、該空気バルブ(V3)を閉じて大気との接触を遮断した状態とし、この状態で試料を測定セル21内に満たす。次に、酸素電極22にて電圧印加、スターラー攪拌を開始し、出力安定後に前記酸素濃度信号(Sam−1)を記録した後、電圧印加を停止する。測定セル21内の試料を所定時間攪拌し、再び、酸素電極22にて電圧印加を開始し、出力安定後に前記酸素濃度信号(Sam−2)を記録した後、電圧印加を停止し、測定セル21内の試料を排出する。
【0037】
次に、無菌水供給バルブ(V1)より無菌水を注入して測定セル21および系内各流路を満たし、測定セル21および各流路の洗浄を行い、ドレインバルブ(V4)より測定セル21および系内各流路から汚れた無菌水を排水する。続いて、無菌水供給バルブ(V1)より新たな無菌水を注入して測定セル21および系内各流路を満たし、同時に空気バルブ(V3)を開放して無菌水中の溶存酸素を飽和させた後、該空気バルブ(V3)を閉じて大気との接触を遮断した状態とし、この状態で無菌水を測定セル21内に満たす。次に、酸素電極22にて電圧印加、スターラー攪拌を開始し、出力安定後に酸素濃度信号(Cal−2)を記録した後、電圧印加を停止して、測定セル21および各流路を無菌水で洗浄して一連の工程が終了する。
【0038】
この後、前記酸素濃度信号(Cal−1)、(Cal−2)、(Sam−1)および(Sam−2)を用いて、試料中の酸素消費量(酸素消費率)を演算手段12(内蔵コンピュータ等)にて演算し、結果をディスプレー(不図示)に表示する。また、前記酸素濃度信号(Cal−1)、(Cal−2)、(Sam−1)および(Sam−2)とともに、別途、平板培養法等により求めた生菌数ファクターを用いて、試料中の生菌数を演算させてもよい。
【0039】
本発明のスライム防止方法においては、以上のような生菌数測定方法にて得られた酸素消費量に基づき決定した量のハロゲン系殺菌剤を添加する。なお、ハロゲン系殺菌剤の添加量は、酸素消費量から直接決定してもよいし、酸素消費量を用いて求めた生菌数に基づき決定してもよい。
【0040】
本発明のスライム防止方法に用いられるハロゲン系殺菌剤としては、例えば、次亜ハロゲン酸もしくはその塩や、ジクロロイソシアヌル酸、トリクロロイソシアヌル酸、1−ブロモ−3−クロロ−5,5−ジメチルヒダントイン、1,3−ジブロモ−5,5−ジメチルヒダントイン等の臭素化ヒダントインなどの酸化力を有するハロゲン化合物を含む水溶液;臭化アンモニウムおよび塩化アンモニウムのうち少なくとも一方を含む水溶液と、次亜ハロゲン酸塩を含む水溶液とを混合して得られる反応生成物を含む水溶液、またはこの反応生成物を含む水溶液に助剤を添加した水溶液;が挙げられる。これらの中でも特に、次亜ハロゲン酸もしくはその塩を含む水溶液、または、臭化アンモニウムおよび塩化アンモニウムのうち少なくとも一方を含む水溶液と、次亜ハロゲン酸塩を含む水溶液とを混合して得られる反応生成物を含む水溶液が好ましい。
【0041】
前記次亜ハロゲン酸としては、例えば、次亜塩素酸、次亜臭素酸、次亜ヨウ素酸等が挙げられ、これらの中でも特に、次亜塩素酸および次亜臭素酸が好ましい。また、これらの塩としては、例えば、カルシウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩等が挙げられ、これらの中でも特に、ナトリウム塩が好ましい。
【0042】
前記次亜ハロゲン酸もしくはその塩としては、市販の次亜ハロゲン酸塩をそのまま使用するか、水で希釈して使用するか、もしくは塩酸等の無機酸で中和してpH4.5〜6.5付近に調整したものを使用することができる。その他には、例えば、ハロゲン化ナトリウムやハロゲン化カリウムを、オゾン、過酸化水素、過酢酸などの酸化剤で酸化するか、もしくは電気分解により酸化することにより発生させた次亜ハロゲン酸もしくはその塩を使用してもよい。
【0043】
前記臭化アンモニウムおよび塩化アンモニウムのうち少なくとも一方を含む水溶液と、次亜ハロゲン酸塩を含む水溶液とを混合して得られる反応生成物を含む水溶液としては、特に、臭化アンモニウムの水溶液と次亜塩素酸塩を含む水溶液とを混合して得られる反応生成物を含む水溶液が好ましく、さらに次亜塩素酸塩としてナトリウム塩を用いて得られる反応生成物を含む水溶液がより好ましい。
【0044】
前記臭化アンモニウムおよび塩化アンモニウムのうち少なくとも一方を含む水溶液と、次亜ハロゲン酸塩を含む水溶液とを混合して得られる反応生成物を含む水溶液に添加する助剤としては、例えば、アンモニア、スルファミン酸、水酸化ナトリウム、5,6−ジメチルヒダントイン、2−ピロリドン、リンゴ酸、コハク酸などのヒドロキシカルボン酸等が挙げられる。これらの中でも特に、アンモニア、スルファミン酸および水酸化ナトリウムからなる群より選ばれる1種以上が好ましい。
【0045】
以上のハロゲン系殺菌剤の中でも、本発明のスライム防止方法において特に好ましく用いられるものは、以下の(a)〜(d)である。
(a)次亜塩素酸もしくはその塩を含む水溶液。
(b)次亜臭素酸もしくはその塩を含む水溶液。
(c)臭化アンモニウムおよび塩化アンモニウムのうち少なくとも一方を含む水溶液と、次亜塩素酸塩を含む水溶液とを混合して得られる反応生成物を含む水溶液。
(d)前記(c)の水溶液に、アンモニア、スルファミン酸および水酸化ナトリウムからなる群より選ばれる1種以上を添加した水溶液。
【0046】
本発明のスライム防止方法においては、前記ハロゲン系殺菌剤に加えて、ハロゲン系殺菌剤以外の殺菌剤または抗菌剤の1種または2種以上を、本発明の効果を損なわない範囲で、スライムコントロール剤として併用することができる。ハロゲン系殺菌剤以外の殺菌剤としては、例えば、2,2−ジブロモ−3−ニトリロプロピオンアミド、1,4−ビス(ブロモアセトキシ)−2−ブテン、1,2−ビス(ブロモアセトキシ)エタン、1,2,3−トリス(ブロモアセトキシ)プロパン、2,2−ジブロモ−2−ニトロエタノール、ジクロログリオキシム、α−クロロ−ベンズアルドキシム、ビス(トリブロモメチル)スルホン等が挙げられる。抗菌剤としては、例えば、無菌水に含有させることのできる抗菌剤として前述したものが挙げられ、中でも、2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オン、5−クロロ−2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オン、1,2−ベンゾイソチアゾリン−3−オン、メチレンビスチオシアネート等が好ましく挙げられる。
【0047】
本発明のスライム防止方法においては、酸素消費量の測定(すなわち、前述した生菌数測定方法による測定)を所定時間ごとに行ない、得られた酸素消費量の増減によってスライム量を監視することが好ましい。これにより、各種用排水におけるスライムの発生を、さらに確実に効率よく防止することができる。なお、このとき、酸素消費量の測定を行なう間隔は、特に限定されるものではなく、対象とする試料の種類等に応じて適宜設定すればよい。
【0048】
本発明のハロゲン系殺菌剤添加システムは、前述した本発明のスライム防止方法において測定された酸素消費量に基づきハロゲン系殺菌剤の添加量を制御する機構を備えるものである。以下、本発明のハロゲン系殺菌剤添加システムの一実施形態について図面を用いて説明する。
【0049】
図3は、本発明のハロゲン系殺菌剤添加システムの一実施形態を概略的に示すブロック図である。図3に示すように、まず、製紙工場の白水や原料スラリーなどの産業用水は、酸素消費量(酸素消費率)により菌数をモニタリングするための生菌数測定装置に送られる。該生菌数測定装置については、本発明のスライム防止方法に関する説明で前述した通りであり、ここでは、前述した生菌数測定方法に従い前記産業用水中の酸素消費量(酸素消費率)を算出するべく前述した各々の酸素濃度信号が検出され、酸素消費量(酸素消費率)への演算処理が行なわれる。この演算処理の結果は、制御監視装置(具体的には、例えばパーソナルコンピューターなどが使用可能である)に送られ、該結果に基づき、酸素消費量(酸素消費率)のレベルに応じてハロゲン系殺菌剤の添加量を適切な量に設定変更する指令がハロゲン系殺菌剤自動添加装置に送り出される。この指令に従い、ハロゲン系殺菌剤自動添加装置において酸素消費量(酸素消費率)に応じた適切な添加量のハロゲン系殺菌剤が添加される。本発明のハロゲン系殺菌剤添加システムは、このようにして、白水や原料スラリー中の生菌数を所定の好ましいレベルに保つことによりスライム障害を未然に防ぐことができるものである。
【0050】
本発明のハロゲン系殺菌剤添加システムにおいて用いることのできるハロゲン系殺菌剤や、必要に応じて用いられるその他の殺菌剤および抗菌剤等については、本発明のスライム防止方法に関する説明で前述した通りである。
【0051】
本発明のスライム防止方法およびハロゲン系殺菌剤添加システムは、例えば、紙パルプ工業の各種工程水やクーリングタワーの冷却水など、水中にスライムが発生しうる、あらゆる場面に適用することができる。特に、紙パルプ工業においては、スライムが断紙、目玉、汚斑、操業性低下など様々な弊害の原因となることから、本発明のスライム防止方法およびハロゲン系殺菌剤添加システムを適用することが非常に効果的である。
【実施例】
【0052】
以下、実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明は以下の実施例のみに限定されるものではない。
まず、本発明のスライム防止方法に用いる生菌数測定方法の有効性について、以下の参考例および比較参考例によって検証した。
【0053】
(参考例)
新聞用紙製造工場にてワイヤー下(セーブオール)の白水を採取し、用水試料とした。この用水試料のpHは4.5であり、平板培養法により生菌数を測定したところ、107オーダーであった。また、その菌種を調査したところ、Pseudomonus属が最も多く107オーダー生息しており、次いでBacillus属が105オーダー生息していることを確認した。なお、これらの菌種はいずれも好気性細菌に属するものである。
【0054】
なお、平板培養法による生菌数の測定は次のようにして行った。すなわち、まず、用水試料を滅菌水で10倍ずつ段階希釈した。この希釈液を標準寒天培地に0.1mLずつ塗抹接種し、32℃で48時間培養した。そして、形成されたコロニー数より用水試料1mL中の生菌数を求めた。
【0055】
次に、用水試料原液(107オーダー)を滅菌水で段階希釈し、それぞれ106、105、104および103オーダーに希釈した試料液を調製した。これら試料液および用水試料原液を測定対象(試料)とし、各試料中の微生物による酸素消費率を、図1および図2に示す生菌数測定装置を用いて測定した。
【0056】
具体的には、まず、無菌水(精製水にアジ化ナトリウムを300ppm添加したもの)を無菌水供給バルブ(V1)を開いて注入して測定セルおよび系内各流路を満たし、測定セルおよび各流路の洗浄を行ったのち、バルブ(V1)を閉じ、ドレインバルブ(V4)を開いて測定セルおよび系内各流路から汚れた無菌水を排水した。続いて、無菌水供給バルブ(V1)を開いて新たな無菌水(前記と同様)を注入して測定セルおよび系内各流路を満たし、同時に空気バルブ(V3)を開放して該無菌水中の溶存酸素を飽和させた後、該空気バルブ(V3)を閉じて大気との接触を遮断した状態とし、この状態で無菌水を測定セル内に満たした。次いで、酸素電極にて−650mVの電圧を印加すると同時にスターラーにより500rpmで攪拌を開始し、3分後に出力が安定してから酸素濃度信号(Cal−1)を検知した後、電圧印加を停止した。このとき、電圧を印加してから停止するまでの電圧印加時間は3分間であった。その後、測定セル内の無菌水を排水した。
【0057】
次に、無菌水供給バルブ(V1)と空気バルブ(V3)を閉じ、試料供給バルブ(V2)を開いて測定セル内へ用水試料を注入したのち、バルブ(V2)を閉じ、ドレインバルブ(V4)を開いて測定セルおよび各流路内の用水試料を排出し、再び前記用水試料を測定セルおよび各流路内に充填する操作(共洗い)を2回繰り返した。その後、試料供給バルブ(V2)を開いて用水試料を注入して測定セルおよび系内各流路を満たし、同時に空気バルブ(V3)を開放して用水試料中の溶存酸素を飽和させた後、該空気バルブ(V3)を閉じて大気との接触を遮断した状態とし、この状態で用水試料を測定セル内に満たした。次いで、酸素電極にて−650mVの電圧を印加すると同時にスターラーにより500rpmで攪拌を開始し、3分後に出力が安定してから酸素濃度信号(Sam−1)を検知した後、電圧印加を停止した。このとき、電圧を印加してから停止するまでの電圧印加時間は3分間であった。
【0058】
次いで、測定セル内の用水試料を、液温40℃に保ち60分間250rpmで攪拌して、微生物に酸素を消費させた。攪拌後、再び、酸素電極にて−650mVの電圧を印加すると同時にスターラーにより500rpmで攪拌を開始し、3分後に出力が安定してから酸素濃度信号(Sam−2)を検知した後、電圧印加を停止した。このとき、電圧を印加してから停止するまでの電圧印加時間は3分間であった。その後、ドレインバルブ(V4)を開いて測定セル内の用水を排出した。
【0059】
次に、無菌水(前記と同様)を無菌水供給バルブ(V1)を開いて注入して測定セルおよび系内各流路を満たし、測定セルおよび各流路の洗浄を行ったのち、バルブ(V1)を閉じ、ドレインバルブ(V4)を開いて測定セルおよび系内各流路から汚れた無菌水を排水した。続いて、無菌水供給バルブ(V1)を開いて新たな無菌水(前記と同様)を注入して測定セルおよび系内各流路を満たし、同時に空気バルブ(V3)を開放して該無菌水中の溶存酸素を飽和させた。次いで、酸素電極にて−650mVの電圧を印加すると同時にスターラーにより500rpmで攪拌を開始し、3分後に出力が安定してから酸素濃度信号(Cal−2)を検知した後、電圧印加を停止した。このとき、電圧を印加してから停止するまでの電圧印加時間は3分間であった。
【0060】
このようにして得られた酸素濃度信号(Cal−1)、(Cal−2)、(Sam−1)および(Sam−2)は、演算手段(内蔵コンピュータ)12に送られ、前述した式(1)に基づいた演算がなされ、ディスプレーに酸素消費率が表示された。結果を表1に示す。なお、表には、検出感度を比較するため、菌数オーダー103での測定値を1としたときの相対値を併せて示した。
【0061】
【表1】

【0062】
(比較参考例)
参考例と同じ測定装置において、電圧を常時印加した状態としておく(連続印加する)こと以外は参考例と同様にして(つまり、参考例における一連の操作の中で「電圧印加を停止する」操作を全て省き、電圧を印加した状態のまま続く操作を行なった。)、参考例と同じ測定対象について各試料中の微生物による酸素消費率を測定した。結果を表2に示す。なお、表には、検出感度を比較するため、菌数オーダー103での測定値を1としたときの相対値を併せて示した。
【0063】
【表2】

【0064】
表1および表2の結果より、本発明のスライム防止方法に用いる測定方法は、電圧を連続印加する方法に比べて、各菌数オーダーに対する信号値の変化が明確に現れており、検出感度が高いことがわかった。また、電圧を連続印加する方法では、検出限界が生菌数として104〜105オーダーであるのに対して、本発明のスライム防止方法に用いる測定方法では、生菌数として103オーダーまで高い有意水準で測定できることが確認できた。
【0065】
(実施例1)
1000Lのポリタンクに、参考例で用いた用水試料(新聞用紙製造工場におけるワイヤー下(セーブオール)の白水)を収容し、図5に示すように、循環用ポンプ(P)およびこれとポリタンク内の用水試料とを繋ぐ循環配管、温度制御機能付きヒーター(H)、参考例で用いた生菌数測定装置(M)、ハロゲン系殺菌剤添加装置(A)、ハロゲン系殺菌剤として次亜塩素酸ナトリウム1.2重量%水溶液を収容したハロゲン系殺菌剤タンク(C)を設置して、スライム防止試験を実施した。ここで、生菌数測定装置(M)とハロゲン系殺菌剤添加装置(A)とは電気的に接続されており、生菌数測定装置(M)で求められた生菌数(酸素消費量に基づき求められた生菌数)が信号としてハロゲン系殺菌剤添加装置(A)に送られ、送られた生菌数に応じてハロゲン系殺菌剤添加装置(A)で最適なハロゲン系殺菌剤の添加量が決定され、決定された量のハロゲン系殺菌剤が逐次連続してハロゲン系殺菌剤タンク(C)から循環配管を経由してポリタンク内に添加されるようになっている。具体的には、ハロゲン系殺菌剤添加装置(A)における添加量の決定は、ハロゲン系殺菌剤の添加濃度(有効塩素濃度)が、循環流量5L/分に対し、生菌数測定装置で測定した生菌数が103オーダー以下の場合は3ppm、104オーダーの場合は10ppm、105オーダー以上の場合は30ppmとなる量に決定されるよう設定した。
【0066】
前記ポリタンクには900Lの用水試料を収容して40℃に保温し、この用水試料を循環用ポンプ(P)にて流量5L/分で循環させた。そして、ポリタンク内の用水試料中に、スライム付着評価用のテストピースとして10cm×10cmの耐水ベニヤ板(T1)と、金属腐食評価用テストピースとして1cm×10cmのSUS304製板(T2)とを浸漬した。この状態で、参考例と同様にして生菌数測定装置(M)を稼動させ、用水試料の循環およびハロゲン系殺菌剤の自動添加を72時間行い、テストピース(T1)およびテストピース(T2)を取り出した。そして、各テストピースの初期重量と72時間後の重量との重量差を求め、スライム付着および金属腐食の程度を評価した。すなわち、スライム付着に関しては、72時間後に増加した重量(T1の72時間後の重量−T1の初期重量)をスライム付着量(mg)とし、金属腐食に関しては、72時間後に減少した重量(T2の初期重量−T2の72時間後の重量)を金属腐食量(mg)として評価した。結果を、72時間の間に添加されたハロゲン系殺菌剤使用量とともに、表3に示す。
【0067】
(比較例1)
実施例1において、生菌数測定装置(M)を比較参考例と同様、電圧を常時印加した状態としておく(連続印加する)ように変更したこと以外は、実施例1と同様にして(つまり、実施例1における一連の操作の中で「電圧印加を停止する」操作を全て省き、電圧を印加した状態のまま続く操作を行なった。)、スライム防止試験を実施した。この場合のスライム付着量および金属腐食量を、72時間の間に添加されたハロゲン系殺菌剤使用量とともに、表3に示す。
【0068】
(比較例2)
実施例1において、生菌数測定装置(M)およびハロゲン系殺菌剤添加装置(A)を完全に停止させてハロゲン系殺菌剤が添加されないようにしたこと以外は、実施例1と同様にして(つまり、用水試料の保温および循環のみを行なった。)、スライム防止試験を実施した。この場合のスライム付着量および金属腐食量を、72時間の間に添加されたハロゲン系殺菌剤使用量とともに、表3に示す。
【0069】
【表3】

【0070】
表3の結果より、電圧印加を断続して行う生菌数測定方法を採用した本発明のスライム防止方法によれば、スライムの発生を確実に防止しながら、ハロゲン系殺菌剤の使用量は電圧印加を連続して行う方法を採用した場合に比べて大幅に削減され、その結果、金属腐食も殆ど問題にならない程度に抑制されることがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0071】
【図1】本発明のスライム防止方法に用いる生菌数測定装置の構成を示す概略図である。
【図2】本発明のスライム防止方法に用いる生菌数測定装置における溶存酸素検出部の構成を示す概略図である。
【図3】本発明のハロゲン系殺菌剤添加システムの一実施形態を概略的に示すブロック図である。
【図4】本発明のスライム防止方法に用いる生菌数測定装置における溶存酸素検出部の別の構成を示す概略図である。
【図5】本発明の実施例を説明するための概略図である。
【符号の説明】
【0072】
11 無菌水タンク
12 演算手段
20 溶存酸素検出部
21 測定セル
22 酸素電極
22a 酸素電極先端部
23 スターラーピース
24 マグネチックスターラー
25 攪拌羽根
31、32 温度制御域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料中の微生物が消費する酸素消費量を、クラーク型酸素電極に電圧を印加して酸素濃度信号を検知することにより測定し、得られた酸素消費量に基づき決定した量のハロゲン系殺菌剤を添加するスライム防止方法であって、
前記酸素消費量を求めるにあたり、下記(i)〜(viii)の操作をこの順序で行ない、得られた酸素濃度信号(Sam−1)、(Sam−2)、(Cal−1)および(Cal−2)を用いて算出する、ことを特徴とするスライム防止方法。
(i)無菌水中の溶存酸素濃度を飽和させた後、該無菌水を大気との接触を遮断した状態で測定セル内に満たす操作。
(ii)電圧を印加して無菌水の初期酸素濃度信号(Cal−1)を検知した後、該電圧の印加を停止する操作。
(iii)試料中の溶存酸素濃度を飽和させた後、該試料を大気との接触を遮断した状態で測定セル内に満たす操作。
(iv)電圧を印加して試料の初期酸素濃度信号(Sam−1)を検知した後、該電圧の印加を停止する操作。
(v)所定時間、試料中の微生物に酸素を消費させる操作。
(vi)電圧を印加して酸素消費後の酸素濃度信号(Sam−2)を検知した後、該電圧の印加を停止する操作。
(vii)再び無菌水中の溶存酸素濃度を飽和させた後、該無菌水を大気との接触を遮断した状態で測定セル内に満たす操作。
(viii)電圧を印加して前記試料測定後の無菌水の酸素濃度信号(Cal−2)を検知した後、該電圧の印加を停止する操作。
【請求項2】
前記酸素消費量は、得られた酸素濃度信号(Sam−1)、(Sam−2)、(Cal−1)および(Cal−2)を下記式(1)に代入することにより、酸素消費率として求める、請求項1記載のスライム防止方法。
【数1】

【請求項3】
前記無菌水は、抗菌剤、または抗菌剤および洗浄剤を精製水に含有させたものである、請求項1または2に記載のスライム防止方法。
【請求項4】
酸素電極への電圧印加時間が1回あたり1〜6分間である、請求項1〜3のいずれかに記載のスライム防止方法。
【請求項5】
ハロゲン系殺菌剤として、下記(a)〜(d)からなる群より選ばれる1種以上を用いる、請求項1〜4のいずれかに記載のスライム防止方法。
(a)次亜塩素酸もしくはその塩を含む水溶液。
(b)次亜臭素酸もしくはその塩を含む水溶液。
(c)臭化アンモニウムおよび塩化アンモニウムのうち少なくとも一方を含む水溶液と、次亜塩素酸塩を含む水溶液とを混合して得られる反応生成物を含む水溶液。
(d)前記(c)の水溶液に、アンモニア、スルファミン酸および水酸化ナトリウムからなる群より選ばれる1種以上を添加した水溶液。
【請求項6】
前記酸素消費量の測定を所定時間ごとに行ない、得られた酸素消費量の増減によってスライム量を監視する、請求項1〜5のいずれかに記載のスライム防止方法。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載のスライム防止方法において測定された酸素消費量に基づきハロゲン系殺菌剤の添加量を制御する機構を備える、ことを特徴とするハロゲン系殺菌剤添加システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−95742(P2009−95742A)
【公開日】平成21年5月7日(2009.5.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−269099(P2007−269099)
【出願日】平成19年10月16日(2007.10.16)
【出願人】(502264991)株式会社日新化学研究所 (11)
【Fターム(参考)】