説明

スラグフューミング方法

【課題】電気炉方式の溶融部を有するフューミング炉を用いる際に、銅源の溶融部への投入にともなう融体の温度低下を抑制して、フューミング炉の電力消費量を低減することができるスラグフューミング方法を提供する。
【解決手段】前記フューミング炉は、電気炉方式の溶融部、ダスト回収部及び該溶融部とダスト回収部をつなぐ排ガスダクト部からなり、かつ下記(1)及び(2)の要件を満足することを特徴とする。
(1)前記排ガスダクト部の空間では、前記溶融部の下部に形成される融体から揮発した亜鉛と鉛を含む蒸気が、送入空気で酸化され、それにともなう酸化発熱により排ガスの温度を上昇する。
(2)前記銅源は、前記排ガスダクト部の空間に設置した銅源装入用シュートに、フューミング炉外に設けた装入口から供給され、該シュート内部を移動する間に、排ガスによるシュートの加熱により予熱された後、溶融部の融体直上に設けた排出口から排出される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スラグフューミング方法に関し、さらに詳しくは、フューミング炉内に亜鉛及び/又は鉛製錬の熔錬炉から産出される亜鉛、鉛、ヒ素及びアンチモンを含有するスラグと銅源とを投入して融体を形成しながら、フューミングにより亜鉛と鉛を含有するダストを揮発分離するスラグフューミング方法において、電気炉方式の溶融部を有するフューミング炉を用いる際に、銅源の溶融部への投入にともなう融体の温度低下を抑制して、フューミング炉の電力消費量を低減することができるスラグフューミング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
亜鉛及び/又は鉛製錬において、Imperial Smelting Processと呼ばれる亜鉛と鉛を同時に製錬する熔鉱炉法が広く用いられている。前記熔鉱炉法で熔鉱炉で発生するスラグの処理方法は、スラグを熔鉱炉の前床に導いて含銅粗鉛と炉鉄を粗分離した後水砕して、セメント原料用等の製品スラグとされている。また、一般には、前記スラグは、亜鉛含有量が高く、鉛とともに、スパイスの成分であるヒ素、アンチモンその他の金属を含むため、フューミング炉に装入してスラグフューミングを行ったのち水砕して製品化される。
【0003】
前記スラグフューミングは、熔融状態のスラグを加熱還元することによって、スラグに含まれる亜鉛、鉛、ヒ素、アンチモン等の金属を揮発させるものである。これによって、スラグから亜鉛と鉛を回収するとともに不純物金属を除去することができ、清浄化されたスラグが得られる。ここで、スラグフューミング処理は、例えば、フューミング炉として、ガス吹き込み用のランス又は炉下部に羽口を備えた加熱炉を用いて行われる。例えば、ガス吹き込み用のランスを備えた炉を用いて、該炉内に装入したスラグにランスを浸漬してランス先端から重油、微粉炭、天然ガス等の化石燃料と空気を噴出させることにより、スラグ中の金属を還元し揮発させる処理である。処理後のスラグは前記炉底部から抜き出され、揮発された金属は前記炉頂部への移動の途中で空気を加えて酸化されて亜鉛と鉛を含むフューミングダストとして回収される。
【0004】
しかしながら、スラグフューミング処理では、回収の主目的元素である亜鉛と鉛とともに、低沸点で蒸気圧の高いヒ素、アンチモンなどの15族元素が揮発し、回収した亜鉛と鉛ダスト中に濃縮する。これら15族元素は、回収した亜鉛と鉛とともに、例えば、前記熔鉱炉法の焼結工程に繰り返されるが、焼結工程で揮発して排ガス処理系統への負荷を増加させること、あるいは焼結塊とともに熔鉱炉内へ装入されると、高融点金属化合物であるスパイスを生成させる原因となって、熔鉱炉操業を困難にさせるという問題があった。
また、スラグフューミング処理のばらつきにより、鉛又はヒ素といった有害元素がスラグ中に残留した場合には、上記清浄化されたスラグの溶出試験において、土壌環境基準を満足することができないという問題がおこるので、安定的に土壌環境基準を満足する方法が望まれていた。
【0005】
この解決策として、スラグの改質方法が提案されており、代表的なものとしては、熔鉱炉産出のスラグを前床に導いて含銅粗鉛と炉鉄を粗分離した後、電気炉で加熱して含銅粗鉛と炉鉄を沈降分離して、その後フューミング炉で処理する2段処理(例えば、特許文献1参照。)が挙げられる。しかしながら、この方法では、スラグの亜鉛、鉛及びヒ素の含有量及びスラグの土壌環境基準は満足されるが、電力コストが高く、しかもヒ素、アンチモン及びハロゲン族元素の揮発については根本的な解決策は得られないという問題があった。
【0006】
この解決策として、亜鉛及び/又は鉛製錬の熔錬炉から産出される亜鉛及び鉛とともにヒ素又はヒ素及びアンチモンを含有するスラグを、フューミング炉内で加熱還元し亜鉛と鉛を揮発分離するスラグフューミング方法において、前記スラグの融体に、銅融体を共存させながら、スラグ中に含有されるヒ素又はヒ素及びアンチモンとを反応させてCu−Fe−Pb−As系銅合金の均一融体を形成するスラグフューミング方法(例えば、特許文献2参照。)が提案されている。この銅共存下でスラグフューミングする方法によれば、ヒ素及びアンチモン含有量が少ない亜鉛と鉛を含むダストを得るとともに、安定的に土壌環境基準(環境庁告示第46号による溶出試験でのPb、As溶出量:各0.01mg/L以下)を満足することができるスラグが得られる。したがって、スラグフューミング処理におけるヒ素、アンチモンなどの15族元素の挙動及び処理後のスラグからの鉛等の溶出に関する課題は解決される。
【0007】
しかしながら、重油、微粉炭、天然ガス等の化石燃料を熱源とするフューミング炉を用いた場合には、スラグ中にフッ素、塩素などのハロゲン族元素が含まれる際には、化石燃料から発生する水素とスラグ中に含まれるハロゲン族元素とが反応して、フッ化水素又は塩化水素ガスを形成し、回収の主目的金属である亜鉛、鉛とともに揮発され、回収した亜鉛と鉛を含むダスト中に濃縮される。その後、前記ダストは、例えば、上記熔鉱炉法の焼結工程に繰り返されるが、この場合に、これらハロゲン族元素は、焼結工程で揮発して排ガス処理系統への負荷を増加させるという問題、あるいは、焼結塊中に含まれて熔鉱炉内へ繰り返されると設備の腐食を増加させる原因となって、熔鉱炉操業を困難にさせるという問題があった。
【0008】
この解決策としては、フューミング炉として、還元剤としてコークス等の水素の発生が少ない炭素質還元剤を用い、熱源として電力を用いる電気炉方式の加熱炉を用いることが考えられる。しかしながら、電気炉方式の加熱炉を用いる際には、エネルギーコストを極力削減する方策が求められる。ところで、前記銅共存下でスラグフューミングする方法では、生成する銅合金中にヒ素、アンチモン等が飽和状態にまで濃縮されたときには、これを炉外に排出し、新たに銅源を供給することが行われる。この際、電気炉方式の加熱炉を用いたフューミング炉では、銅源をフューミング炉へ直投すると、それにともない融体の温度が低下し、亜鉛と鉛の揮発速度が低下するので、それを補償するため、フューミング炉の電力負荷を上げて、融体の温度を回復させることが行われる。
【0009】
以上の状況から、フューミング炉内に亜鉛及び/又は鉛製錬の熔錬炉から産出されるスラグと銅源とを投入して融体を形成しながら、フューミングにより亜鉛と鉛を含有するダストを揮発分離するスラグフューミング方法において、安定的に土壌環境基準(環境庁告示第46号による溶出試験でのPb、As溶出量:各0.01mg/L以下)を満足するスラグを得ること、及びヒ素及びアンチモンの含有量が少ない亜鉛と鉛を含むダストを得ることは勿論のこと、電気炉方式の溶融部を有するフューミング炉を用いる際に、銅源の溶融部への投入にともなう融体の温度低下を抑制して、フューミング炉の電力消費量を低減することができるスラグフューミング方法が求められている。
【0010】
【特許文献1】特開平11−269567号公報(第1頁、第2頁)
【特許文献2】WO2005/068669号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の目的は、上記の従来技術の問題点に鑑み、フューミング炉内に亜鉛及び/又は鉛製錬の熔錬炉から産出される亜鉛、鉛、ヒ素及びアンチモンを含有するスラグと銅源とを投入して融体を形成しながら、フューミングにより亜鉛と鉛を含有するダストを揮発分離するスラグフューミング方法において、電気炉方式の溶融部を有するフューミング炉を用いる際に、銅源の溶融部への投入にともなう融体の温度低下を抑制して、フューミング炉の電力消費量を低減することができるスラグフューミング方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記目的を達成するために、フューミング炉内に亜鉛及び/又は鉛製錬の熔錬炉から産出される亜鉛、鉛、ヒ素及びアンチモンを含有するスラグと銅源とを投入して融体を形成しながら、フューミングにより亜鉛と鉛を含有するダストを揮発分離するスラグフューミング方法ついて、鋭意研究を重ねた結果、電気炉方式の溶融部、ダスト回収部及び該溶融部とダスト回収部をつなぐ排ガスダクト部からなるフューミング炉を用いて、前記排ガスダクト部の空間で、融体から揮発した亜鉛と鉛の酸化発熱により排ガスの温度を上昇させ、その排ガスの加熱により、排ガスダクト部の空間に設置された銅源装入用シュート内を移動する銅源を予熱したところ、銅源の溶融部への投入にともなう融体の温度低下を抑制して、フューミング炉の電力消費量を低減することができることを見出し、本発明を完成した。
【0013】
すなわち、本発明の第1の発明によれば、フューミング炉内に亜鉛及び/又は鉛製錬の熔錬炉から産出される亜鉛、鉛、ヒ素及びアンチモンを含有するスラグと銅源とを投入して融体を形成しながら、フューミングにより亜鉛と鉛を含有するダストを揮発分離するスラグフューミング方法において、
前記フューミング炉は、電気炉方式の溶融部、ダスト回収部及び該溶融部とダスト回収部をつなぐ排ガスダクト部からなり、かつ下記(1)及び(2)の要件を満足することを特徴とするスラグフューミング方法が提供される。
(1)前記排ガスダクト部の空間では、前記溶融部の下部に形成される融体から揮発した亜鉛と鉛を含む蒸気が、送入空気で酸化され、それにともなう酸化発熱により排ガスの温度を上昇する。
(2)前記銅源は、前記排ガスダクト部の空間に設置した銅源装入用シュートに、フューミング炉外に設けた装入口から供給され、該シュート内部を移動する間に、排ガスによるシュートの加熱により予熱された後、溶融部の融体直上に設けた排出口から排出される。
【0014】
また,本発明の第2の発明によれば、第1の発明において、前記銅源装入用シュートは、鉄製の消耗型であることを特徴とするスラグフューミング方法が提供される。
【0015】
また,本発明の第3の発明によれば、第1又は2の発明において、前記均一融体中のCuとFeの含有割合(質量比)は、1:0.05〜1:0.5であることを特徴とするスラグフューミング方法が提供される。
【0016】
また,本発明の第4の発明によれば、第1又は2の発明において、前記フューミング炉内の融体の温度は、1100〜1500℃であることを特徴とするスラグフューミング方法が提供される。
【0017】
また,本発明の第5の発明によれば、第1又は2の発明において、前記フューミング炉内のスラグの酸素分圧は、次式に示す範囲に制御しながら行なうことを特徴とするスラグフューミング方法が提供される。
−8>logPo>−11.5
(但し、式中、Poはatm単位によるスラグ中の酸素分圧を表し、かつ1400℃の温度基準に換算したものである。)
【発明の効果】
【0018】
本発明のスラグフューミング方法は、フューミング炉内に亜鉛及び/又は鉛製錬の熔錬炉から産出される亜鉛、鉛、ヒ素及びアンチモンを含有するスラグと銅源とを投入して融体を形成しながら、フューミングにより亜鉛と鉛を含有するダストを揮発分離するスラグフューミング方法において、電気炉方式の溶融部を有するフューミング炉を用いる際に、銅源の溶融部への投入にともなう融体の温度低下を抑制して、フューミング炉の電力消費量を低減することができるので、その工業的価値は極めて大きい。なお、ここで、ヒ素、アンチモン及びハロゲン族元素の含有量が少ない亜鉛と鉛を含むダストが得られるとともに、安定的に土壌環境基準を満足することができるスラグが得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明のスラグフューミング方法を詳細に説明する。
本発明のスラグフューミング方法は、フューミング炉内に亜鉛及び/又は鉛製錬の熔錬炉から産出される亜鉛、鉛、ヒ素及びアンチモンを含有するスラグと銅源とを投入して融体を形成しながら、フューミングにより亜鉛と鉛を含有するダストを揮発分離するスラグフューミング方法において、前記フューミング炉は、電気炉方式の溶融部、ダスト回収部及び該溶融部とダスト回収部をつなぐ排ガスダクト部からなり、かつ下記(1)及び(2)の要件を満足することを特徴とする。
(1)前記排ガスダクト部の空間では、前記溶融部の下部に形成される融体から揮発した亜鉛と鉛を含む蒸気が、送入空気で酸化され、それにともなう酸化発熱により排ガスの温度を上昇する。
(2)前記銅源は、前記排ガスダクト部の空間に設置した銅源装入用シュートに、フューミング炉外に設けた装入口から供給され、該シュート内部を移動する間に、排ガスによるシュートの加熱により予熱された後、溶融部の融体直上に設けた排出口から排出される。
【0020】
本発明において、電気炉方式の溶融部、ダスト回収部及び該溶融部とダスト回収部をつなぐ排ガスダクト部からなるフューミング炉を用いること、及びフューミング炉内へ投入する銅源が、電気炉方式の溶融部とダスト回収部をつなぐ排ガスダクト部の空間に設置した銅源装入用シュート内部を移動する間に、融体から揮発した亜鉛と鉛を含む蒸気の酸化発熱により温度上昇された排ガスによるシュートの加熱により予熱されることが重要である。
【0021】
すなわち、電気炉方式の溶融部、ダスト回収部及び該溶融部とダスト回収部をつなぐ排ガスダクト部からなるフューミング炉を用いることにより、まず、電気炉方式の溶融部において、スラグと銅源とを投入して融体を形成しながら、フューミングにより亜鉛と鉛を揮発し、ヒ素とアンチモンを銅合金に吸収させ、次いで、排ガスダクト部において、亜鉛と鉛を含む蒸気を酸化して、生成された亜鉛と鉛を含むダストを排ガスによりダスト回収部へ流送して回収するので、ヒ素、アンチモン及びハロゲン族元素の含有量が少ない亜鉛と鉛を含むダストと安定的に土壌環境基準を満足することができるスラグが得られる。
また、排ガスダクト部の空間では、亜鉛と鉛を含む蒸気の酸化にともなう発熱により排ガスの温度が上昇されるので、排ガスダクト部の空間に設置した銅源装入用シュートも加熱される。したがって、前記排ガスダクト部の空間に設置した銅源装入用シュート内部を、フューミング炉外に設けた装入口から供給された銅源を移動させる際には、該シュートが熱交換機の役割を担い、排ガスのシュートの加熱により銅源は予熱される。これにより、銅源の溶融部への投入にともなう融体の温度低下を抑制して、フューミング炉の電力消費量を低減することができる。
【0022】
本発明のスラグフューミング方法について、図を用いて詳細に説明する。
上記方法に用いるフューミング炉としては、少なくとも、電気炉方式の溶融部、ダスト回収部及び該溶融部とダスト回収部をつなぐ排ガスダクト部から構成される。図1は、本発明のスラグフューミング方法に用いるフューミング炉の概念図の一例を示す。また、図2は、上記フューミング炉の電気炉方式の溶融部とダスト回収部をつなぐ排ガスダクト部の空間に設置された銅源装入用シュートの概念図の一例を示す。
【0023】
図1において、電気炉方式の溶融部1内に熔融スラグを装入し、温度を上げた後、銅源を装入して熔融し融体を形成し、所定の電力負荷のもとで融体の温度を維持しながら、融体上に所定量のコークスを添加してフューミングを行う。なお、溶融部1で発生する亜鉛と鉛を含む蒸気は、排気ファン5による吸引により形成される排ガス流により、保温した排ガスダクト部2を経由して流送される。この間、亜鉛と鉛を含む蒸気は、排ガスダクト部2で酸化される。生成したダストは、溶融部1と排ガスダクト部2により連結されたサイクロン3及びバッグフィルター4からなるダスト回収部で回収される。ここで、排ガスダクト部2の空間には、ダストを流送し、かつ亜鉛と鉛を含む蒸気を酸化するために十分は量の空気が供給される。なお、排ガス流への空気の供給は、通常は、排ガスダクト部2に流入する空気量を、排気ファン5からの排ガス流量を調節により行うことができる。
【0024】
図2において、銅源は、排ガスダクト部2の空間に設置した銅源装入用シュート6に、フューミング炉外に設けた装入口から供給され、該シュート2内部を移動する間に、排ガス流によるシュートの加熱により予熱された後、溶融部1の融体直上に設けた排出口から排出される。なお、溶融部1には、加熱用の電極7と点検孔8が設けられた
【0025】
上記銅源装入用シュートとしては、特に限定されるものではなく、熱で徐々に先端部から熔解したときに、継ぎ足しながら炉内に挿入することができる、鉄製等のパイプ等の消耗型が好ましく、排ガスダクト部の径の1/3程度でよく、その排出口を融体直上まで長くしておくことにより、銅源の予熱を十分に行なうことができる。
【0026】
上記スラグフューミング方法では、フューミングに際して、スラグ中に含有される亜鉛、鉛等を、コークス等の炭素質還元剤で還元し、銅源を添加して還元されたヒ素又はアンチモンと銅とを反応させてCu−Fe−Pb−As系均一融体を形成する。これによって、ヒ素及びアンチモン含有量が少ないダストと安定的に土壌環境基準を満足することができるスラグとが得られる。すなわち、ヒ素とアンチモンをそれらが安定して含有されるCu−Fe−Pb−As系銅合金中に分配させることによって、フューミングによる揮発を抑制することができる。したがって、フューミングにより生成されたダストとフューミング後のスラグへのヒ素及びアンチモンの分布を低減することが達成される。
【0027】
ここで、金属化された亜鉛の大部分と鉛の一部は揮発してダストとして回収される。一方、金属化されたヒ素とアンチモンは、蒸気圧が高いという性質と、鉄及び銅との親和力が強いという性質を有している。そこで、銅融体が共存するとヒ素とアンチモンは銅と反応する。ここで、銅中のヒ素の活量は、ヒ素濃度が低い場合には著しく小さいので、ヒ素が銅中に溶融あるいは固溶すれば、ヒ素の蒸気圧は十分に小さくなり、揮発することなく銅合金を形成することになる。アンチモンに関しても、ヒ素と同様の挙動を示し、Cu−Fe−Pb−As系銅合金の均一融体に含有される。
【0028】
上記方法に用いるフューミング時のスラグ温度としては、特に限定されるものではなく、1100〜1500℃が好ましく、1350〜1450℃がより好ましい。上記温度範囲で、スラグ中の亜鉛と鉛を十分に揮発させ、かつ銅とスパイスとを反応させて銅合金の均一融体を形成することができる。すなわち、スラグの温度が1100℃未満では、Zn−ZnO平衡から亜鉛蒸気の形成が不十分なためスラグから亜鉛の揮発効率が悪化したり、又はFe−FeO平衡からFeOを含む安定したスラグの形成が不十分であるので、スラグの粘性が高すぎたりあるいは固化するといった問題が生じる。一方、スラグの温度が1500℃を超えると、耐火物の損傷量が多くなり、あるいは必要とする熱エネルギーが大きくなるという問題が生ずる。
【0029】
上記方法に用いるスラグとしては、特に限定されるものではなく、亜鉛及び/又は鉛製錬の熔錬炉から産出される亜鉛、鉛、ヒ素及びハロゲン族元素を含有する還元性雰囲気で形成されたスラグが用いられる。亜鉛及び/又は鉛製錬において産出されるスラグは、原料とフラックスの調合によって、例えば、FeO−SiO−Al−CaO−ZnO−PbO系の比較的低融点のスラグ組成に調製される。そこで、1200〜1350℃のスラグ温度で操業される。しかしながら、上記熔鉱炉法では、熔鉱炉内において、金属に還元された鉄及び銅はヒ素及びアンチモンと反応してスパイスと呼ばれる高融点の金属間化合物を形成し、スラグ層とメタル層の間に半溶融状又は固体状で存在し、スパイスの一部が懸濁してスラグ中に含まれる。
【0030】
上記方法で用いる銅源としては、特に限定されるものではなく、製錬中間物又はスクラップから選ばれる少なくとも1種の含銅原料を用いる。ここで、上記含銅原料は、各種の含銅原料を混合して用いることができる。また、銅源としての金属銅と併用することができる。前記製錬中間物としては、特に限定されるものではなく、銅製錬から得られる粗銅(銅品位98〜99重量%)のほか、製錬、特に銅製錬の熔錬、転炉等の各工程で発生するダスト、滓等の含銅中間物が用いられる。また、多くの銅材料の使用分野からリサイクルされた、金属及び合金形態の加工屑等の含銅スクラップが用いられる。
これらの中で、亜鉛及び/又は鉛を比較的高濃度で含有する銅製錬工程のダスト、及び真鍮等の銅と亜鉛を含む合金スクラップが好ましい。また、特に、銅品位が高く、一方揮発されやすくダスト中への分配量が多い元素、例えばハロゲン族元素の含有量が少ないものがより好ましい。
【0031】
上記方法で用いるスラグに対する含銅原料中の銅の添加量は、特に限定されるものではなく、スラグに含まれるスパイスと反応して、1100〜1500℃の温度範囲においてCu−Fe−Pb−As系銅合金の均一融体を形成する条件が選ばれるが、例えば、この温度範囲において均一融体中のCuとFeの含有割合(質量比)は、1:0.05〜1:0.5であり、用いる温度とスラグに含まれるスパイス中の鉄量に応じて、銅に対する鉄の溶解量から求められる銅量以上の添加量にすることが望ましい。
【0032】
上記方法で用いる炭素質還元剤としては、特に限定されるものではなく、コークス等の水素含有量が低いものが用いられる。なお、粉状物を用いることが、反応速度の向上のため好ましい。その添加量としては、スラグの亜鉛、鉛等の還元対象物の含有量、炭素質還元剤の種類等により求められる。
【0033】
上記方法においてフューミングの雰囲気としては、特に限定されるものではなく、亜鉛、鉛、ヒ素及びアンチモンを金属状態に還元できる雰囲気を用いるが、この中で、特に、−8>logPo>−11.5(但し、式中、Poはatm単位によるスラグ中の酸素分圧を表し、かつ1400℃の温度基準に換算したものである。)で示す範囲の酸素分圧に制御することが好ましい。
【0034】
すなわち、Poが10−8atmを超えると、還元性が弱まるので、金属亜鉛の揮発が起りにくくなる。また、FeO−Fe平衡のPo依存性によって高融点であるFeがスラグ中に増加してスラグの流動性が悪化することによって、安定したスラグフューミング操業が困難になる。一方、Poが10−11.5atm未満では、Fe−FeO平衡のPo依存性によって鉄が金属状態で安定になり、炉鉄の生成が起り操業を阻害するので好ましくない。
【0035】
上記方法においてフューミング炉に生成される銅合金の均一融体は、比重差でスラグと分離し、炉の傾転あるいはタッピングにより銅合金として容易に回収できる。また、回収された銅合金は、例えば酸化雰囲気である銅製錬の転炉工程に投入することで、銅を回収するとともに、鉄をスラグとして除去し、鉛、ヒ素及びアンチモンをダストとして処理することが可能である。このように、既存プロセス工程での処理が可能であることから、含銅ドロスから回収された銅の処理におけるコストの上昇も非常に少なくてすむ。また、上記方法において得られるスラグは、安定的に土壌環境基準を満足することができるスラグであり、セメント原料等へ使用することができる。
【実施例】
【0036】
以下に、本発明の実施例と比較例によって本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は、これらの実施例によってなんら限定されるものではない。
なお、実施例及び比較例で用いた原料スラグは、熔鉱炉から産出した溶融スラグを用いた。表1にその化学組成を示す。
【0037】
【表1】

【0038】
(実施例1)
図1及び図2の概念図に示したフューミング炉を使用した。フューミング炉の操業としては、溶融部1内に上記熔融スラグを装入し、次いで金属銅スクラップを排ガスダクト部2の空間に設置された鉄製の消耗型の銅源装入用シュート6を用いて装入し、電流値800Aの負荷のもとでスラグ温度を1450℃に維持しながら、融体上に所定量のコークスを添加してフューミングを行った。なお、溶融部1で発生する亜鉛と鉛を含む蒸気は、排気ファン5による吸引により形成される排ガス流により、保温した排ガスダクト部2を経由して流送された。この間、亜鉛と鉛を含む蒸気は、排ガスダクト部2で送入された空気により酸化された。生成したダストは、サイクロン3及びバッグフィルター4からなるダスト回収部で回収された。また、銅源装入用シュート6内部を移動する金属銅スクラップは、排ガスとの熱交換により予熱された。
この操業中に、上記熔融スラグ150kg、金属銅スクラップ30kg及びコークス3.3kgを追加装入したところ、スラグ温度は低下しなかった。また、5分後には装入された金属銅スクラップは完全に熔解した。
【0039】
(比較例1)
上記フューミング炉の操業中に、金属銅スクラップの装入において、銅源装入用シュート6を使用しないで点検孔8を用いて行ったこと以外は実施例1と同様に行ったところ、スラグ温度は1450℃から約100℃低下した。このとき、スラグ温度を1450℃に回復するためには、電流値を1000Aに上げて30分保持することが必要とされた。
【0040】
以上より、実施例1では、排ガスダクト部の空間に設置された銅源装入用シュートを使用して、本発明の方法に従って行われたので、銅源の装入に伴う融体の温度低下が抑制されることが分かる。これに対して、比較例1では、銅源の装入がこれらの条件に合わないので、融体の温度低下とフューミング炉の電力消費量の上昇によって満足すべき結果が得られないことが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0041】
以上より明らかなように、本発明のスラグフューミング方法は、シューミング炉内に亜鉛及び/又は鉛製錬の熔錬炉から産出される亜鉛、鉛、ヒ素及びアンチモンを含有するスラグと銅源とを投入して融体を形成しながら、フューミングにより亜鉛と鉛を含有するダストを揮発分離するスラグフューミング方法において、ヒ素、アンチモン及びハロゲン族元素の含有量が少ない亜鉛と鉛を含むダストが得られるとともに、安定的に土壌環境基準を満足することができるスラグが得られ、かつ銅源の溶融部への投入にともなう融体の温度低下を抑制して、フューミング炉の電力消費量を低減することができるので、電気炉方式の溶融部を有するフューミング炉を用いるスラグフューミング方法のエネルギー削減のため有用である。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】本発明のスラグフューミング方法に用いるフューミング炉の概念図の一例を示す図である。
【図2】本発明のスラグフューミング方法に用いるフューミング炉の電気炉方式の溶融部とダスト回収部をつなぐ排ガスダクト部の空間に設置された銅源装入用シュートの概念図の一例を示す図である。
【符号の説明】
【0043】
1 溶融部
2 排ガスダクト部
3 サイクロン
4 バッグフィルター
5 排気ファン
6 銅源装入用シュート
7 電極
8 点検孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フューミング炉内に亜鉛及び/又は鉛製錬の熔錬炉から産出される亜鉛、鉛、ヒ素及びアンチモンを含有するスラグと銅源とを投入して融体を形成しながら、フューミングにより亜鉛と鉛を含有するダストを揮発分離するスラグフューミング方法において、
前記フューミング炉は、電気炉方式の溶融部、ダスト回収部及び該溶融部とダスト回収部をつなぐ排ガスダクト部からなり、かつ下記(1)及び(2)の要件を満足することを特徴とするスラグフューミング方法。
(1)前記排ガスダクト部の空間では、前記溶融部の下部に形成される融体から揮発した亜鉛と鉛を含む蒸気が、送入空気で酸化され、それにともなう酸化発熱により排ガスの温度を上昇する。
(2)前記銅源は、前記排ガスダクト部の空間に設置した銅源装入用シュートに、フューミング炉外に設けた装入口から供給され、該シュート内部を移動する間に、排ガスによるシュートの加熱により予熱された後、溶融部の融体直上に設けた排出口から排出される。
【請求項2】
前記銅源装入用シュートは、鉄製の消耗型であることを特徴とする請求項1に記載のスラグフューミング方法。
【請求項3】
前記均一融体中のCuとFeの含有割合(質量比)は、1:0.05〜1:0.5であることを特徴とする請求項1又は2に記載のスラグフューミング方法。
【請求項4】
前記フューミング炉内の融体の温度は、1100〜1500℃であることを特徴とする請求項1又は2に記載のスラグフューミング方法。
【請求項5】
前記フューミング炉内のスラグの酸素分圧は、次式に示す範囲に制御しながら行なうことを特徴とする請求項1又は2に記載のスラグフューミング方法。
−8>logPo>−11.5
(但し、式中、Poはatm単位によるスラグ中の酸素分圧を表し、かつ1400℃の温度基準に換算したものである。)

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2009−209389(P2009−209389A)
【公開日】平成21年9月17日(2009.9.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−51535(P2008−51535)
【出願日】平成20年3月3日(2008.3.3)
【出願人】(000183303)住友金属鉱山株式会社 (2,015)
【Fターム(参考)】