説明

スラグ中の金属溶出を防止する銅製錬方法

【課題】特殊な水粉水を使用しなくとも良好なCd溶出性をもつ銅製錬スラグを再現性よく産出できる製錬方法を提供する。
【解決手段】自溶炉及び転炉を用いる銅製錬法において、自溶炉への装入原料のCd濃度を0.015質量%以下に抑制することにより、自溶炉スラグのCd溶出量を環境庁告示基準の0.01mg/L以下とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、銅製錬法に関するものであり、特に、銅精鉱、カラミ選鉱された転炉カラミ、転炉ダストなどを装入して溶錬を行う自溶炉の製錬において、金属溶出性が少ない製錬方法に関する。より詳しく述べるならば、自溶炉において副産物として生成するスラグを、セメント、骨材などとしてリサイクルし、あるいは貯蔵する際にスラグから溶出するCdの量を抑制する製錬法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
まず、自溶炉の操業を説明し、次に自溶炉スラグからの重金属溶出抑制技術を説明する。
特許文献1:特許第3307444号(硫化精鉱の製錬方法:出願人−住友金属鉱山株式会社)は、カワ又は白カワを酸化吹錬する工程で産出するマグネタイト含有カラミを乾式粉砕方法により粉砕し、粉砕したカラミを硫化精鉱および造滓剤と混合して溶錬炉に装入する方法を提案している。この方法では、カラミ中のマグネタイトを硫化精鉱及び造滓剤と共存させて分解させて、吸熱反応を起こさせ、自溶炉で硫化鉱処理量を増大した場合の余剰熱の発生を抑制することを特長とする。
【0003】
特許文献1の方法において、転炉カラミを乾式粉砕して自溶炉に装入する実施例に係る操業条件としては次のものが示されている。
精鉱量(t/時間):95.8
転炉カラミ量(t/時間):2.3〜3.0
珪酸鉱量(t/時間):15.3〜15.5
精鉱銅品位(wt%):30.4
混合鉱銅品位(wt%):25.8〜25.9
反応空気量(Nm3/時間):32300
反応用空気酸素濃度(vol.%):53.1〜53.6
反応用空気温度(℃):436
カワ中銅濃度(wt%):62.0
カワ温度(実績)(℃):1225
産出カワ量(t/時間):48.1
転炉カワ処理量(t/時間):48.1
余剰カワ量(t/時間):0
カラミ量(t/時間):51.5〜52.3
カラミFe/SiO2:1.15
カラミ温度(℃):1235
必要酸素量(100%)(Nm3/時間):13026〜13213
補助燃料(L/時間):0〜89
入熱合計量(Mcal/時間):56370〜56689
出熱合計量(Mcal/時間):56370〜56689
煙圧発生率(wt%):4.5〜5.5
【0004】
特許文献1の方法において、カラミ選鉱を自溶炉に装入する比較例に係る操業条件としては次のものが示されている。
精鉱量(t/時間):93.4
カラミ精鉱量(t/時間):2.4
珪酸鉱量(t/時間):11.3〜14.5
精鉱銅品位(wt%):30.4
混合鉱銅品位(wt%):25.7〜26.5
反応空気量(Nm3/時間):32300
反応用空気酸素濃度(vol.%):49.3〜51.0
反応用空気温度(℃):436
カワ銅品位(wt%):57.3〜62.0
カワ温度(実績)(℃):1225〜1250
産出カワ量(t/時間):48.0〜52.0
転炉カワ処理量(t/時間):46.2〜48.0
余剰カワ量(t/時間):0〜5,8
カラミ量(t/時間):42.5〜49.1
カラミFe/SiO2:1.15
カラミ温度(℃):1235〜1280
必要酸素量(100%)(Nm3/時間):11481〜12170
補助燃料(L/時間):0〜260
入熱合計量(Mcal/時間):55007〜55477
出熱合計量(Mcal/時間):55007〜55477
煙圧発生率(wt%):4.8〜5.7
さらに、自溶炉への装入原料の品位としては次のもの(wt%)が示されている。
【0005】
【表1】

【0006】
本出願人は、非特許文献1:「資源と素材」2004年,4,5月号、第292から295頁、「佐賀関製錬所の最近の銅製錬操業について」との表題で自溶炉の操業条件を発表した。これを次に引用する。
装入量上限(t/h) :160〜171
平均装入量(t/h):158〜167
カワ品位(%):65〜67
銅精鉱(S/Cu):0.856〜0.928
総送風量(Nm3/min):503〜585
送風酸素量(90%-O2, Nm3/min):372〜403
送風空気量(Nm3/min):131〜182
酸素量(Nm3/min):362〜401
酸素量(Nm3/t):137〜144
送風酸素濃度(%):72〜69
排ガス量(Nm3/min):534〜599
蒸気発生量(t/h):40.0〜42.3
炭材原単位(kg/t-TC)13.0〜4.6
ここで、装入量とは銅精鉱、カラミ精鉱、造滓剤などすべての装入原料の量である。
【0007】
特許文献2:特開平8−218128号公報(銅製錬方法、出願人−日鉱金属株式会社)は、自溶炉に銅硫化鉱の酸化焙焼鉱を追加的に吹込む方法、及び銅硫化鉱の酸化焙焼鉱を硫酸浸出した浸出液の残渣を自溶炉に追加的に吹込む方法を提案している。
【0008】
次に、銅製錬スラグ及び重金属溶出抑制技術を説明する。
銅製錬スラグは2000年の統計では、230万トン発生しており、高圧の海水や工業用水に水粉砕され、水砕後の水砕水は、ほとんどの場合、水砕水に含まれる固形成分を取り除いた後、排水として排出するか、あるいは繰り返し使用している。銅製錬スラグは他のリサイクル製品との競合でリサイクル率が低下しており、用途開発の努力は続けられているものの、保管場所の確保が次第に難しくなっている。
【0009】
非特許文献2:「資源と素材」1997年、12月号「リサイクリング大特集号」第996頁には自溶炉スラグ組成(質量%)として次のものが示されている。スラグCのPb,Zn,As,Sb含有量が高いのは鉱石組成によると説明されている。
【0010】
【表2】

【0011】
特許文献3:特開平8−301636号公報(溶融スラグの水処理方法:出願人−大同特殊鋼株式会社)は、溶融炉から排出されるスラグを対象にし、水砕水のpHを11以下のアルカリ性に維持し、水砕水の一部をろ過後、再利用し、Pb,Cu,Zn等の重金属類がスラグから溶出する溶出性を低減している。但し、都市ごみを溶融処理して生成するスラグから不純物として溶出する溶出性が念頭に置かれており、As,Cdを含む銅製錬スラグに関しては全く触れていない。
【0012】
特許文献4:特開2005−289697号公報(銅スラグの製造方法:出願人−日鉱金属株式会社)によると、溶融スラグ中に溶融している硫黄酸化物の作用により水砕水のpHが低下し、あるいは銅スラグの組成によっては水砕水のpHは上昇する。この水砕水が酸性側もしくはアルカリ性側に大きく変動すると、水砕水中への重金属溶出量が多くなると述べている。特許文献4は水砕水のpHを5.3〜7.4に制御することによりスラグからの重金属溶出量を少なくしている。銅製錬炉の錬カラミ炉(溶錬炉より排出された溶融スラグを保持する炉)より排出された溶融スラグを水砕した水砕水のAs及びCdを分析した結果、それぞれ0.005 〜0.010mg/L及び0.01mg/L以下の濃度が得られている。
【0013】
特許文献5:特願2005−156983号(銅製錬カラミの処理方法:出願人−日鉱金属株式会社;平成17年5月30日出願)は、銅製錬カラミ水砕工程において循環する水砕水に無機凝集剤及び有機凝集剤を添加し、pHを5 〜10に調整後、沈降槽において浮遊物を除去、水砕水として再利用する方法を提供している。また、銅製錬カラミの組成例としては、SiO2 25.0〜35.0 mass%, Fe 35.0〜45.0 mass%, Ca 1.00〜1.50 mass%, Zn 0.06〜1.00 mass%, As 0.10〜0.20 mass%, Cd 0.001 〜0.01 mass%, Pb 0.05 〜0.15 mass%, Cu 0.5〜 1.0 mass%が挙げられている。この組成は表1のA,Bのスラグ組成にほぼ該当している。水砕の成績は、環境庁告示46号溶出試験で評価されており、いずれも基準を満たす濃度となっている。
【特許文献1】特許第3307444号
【特許文献2】特開平8−218128号公報
【特許文献3】特開平8−218128号公報
【特許文献4】特開2005−289697号公報
【特許文献5】特願2005−156938号
【非特許文献1】「資源と素材」2004年,4,5月号、第292〜295頁「佐賀関製錬所の最近の銅製錬操業について」
【非特許文献2】「資源と素材」1997年、12月号「リサイクリング大特集号」第996頁
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
特許文献1、2及び非特許文献1においては、転炉ダストを自溶炉に操業することや、自溶炉装入原料及び自溶炉で発生するスラグのCd濃度についての説明はなく、銅製錬で発生するスラグそのもののCd溶出量を少なくする技術開発は行われていなかった。
銅製錬工程において、自溶炉への装入原料は、銅精鉱、カラミ精鉱、転炉ダスト、銅屑等のリサイクル原料、造さい剤(珪石など)、炭材などである。転炉にはカワ、錬かん炉からのカワなどが装入される。転炉で生成するカラミは選鉱により処理され、カラミ精鉱として自溶炉へ繰り返され、残部は、酸化鉄とシリカを主成分とする鉄精鉱として系外にカットされる。このような一連の系統におけるCdの挙動は検討されていず、カラミそのもののCd溶出性を少なくする技術開発は従来行われていなかった。
【0015】
特許文献4〜5の方法は、銅製錬カラミを銅製錬後の後処理工程である水砕処理により重金属溶出量を少なくする技術である。これらのうち特許文献4の方法は、水砕水のpHを精度よく制御しても、スラグの溶出性はその他の影響を受け易く溶出試験結果にはバラツキがあり、また、特許文献5の方法は、特にスラグ中のCd含有量が高い場合には溶出性の再現性が低いうらみがある。これらいずれの方法も水砕水は、リサイクルするにせよ、最終的には中和する必要がある点でコスト高になっている。なお、CdはAsなどに比べて溶出し易いために、溶出を抑えることが重要である。
【0016】
したがって、本発明は、上述のような特殊な水粉水を使用しなくとも良好なCd溶出性をもつ銅製錬スラグを再現性よく産出できる製錬方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明に係る第1の方法は、自溶炉及び転炉を用いる銅製錬法において、自溶炉への装入鉱中のCd濃度を0.015%以下に抑制することにより、自溶炉スラグのCd溶出量を環境庁告示基準の0.01mg/L以下とすることを特徴とする。
Cdを多く含む原料には転炉ダストがある。 銅転炉ダスト中の有価金属濃度(質量%)は、一般に、Cu-5〜10%、As-6〜10%、Cd-2〜5%,Zn−5〜20%である。段落番号0013で述べた一連の系統において、Cdは元々硫化精鉱中にあるが、銅転炉ダスト中に金属Cdとして濃縮されており、銅転炉ダストからCuを自溶炉で回収する際にから酸化され、自溶炉スラグ中に移行する。かかるCdを系外に除去する方法としては、転炉ダストを硫酸浸出し、浸出溶液を硫化処理する方法が好ましく、浸出残渣を自溶炉に繰り返す。
【0018】
銅転炉ダストの発生量は出願人の製錬所では約200t/月であり、自溶炉への全装入原料の量に比べて極めて少ないために全量を自溶炉に装入することができ、かつ高品位の銅を含有しているからすべての転炉ダストから銅を回収する必要がある。銅転炉ダストの発生量は製錬所により違いはあるが、自溶炉への装入原料に比べると極めてすくない事情には変わりはない。
【0019】
銅転炉ダストからCdを除去する方法に加えて、あるいはこの方法の代えて原料の管理をすることが必要となる。例えば、前掲表1に示すスラグCを副産物として産出する硫化精鉱は、Zn,Pb,As,SbのみならずCd含有量も多いために、かかる硫化精鉱を一時的に使用しないか、あるいは使用量を少なくすることも必要となる。
【0020】
銅製錬条件によっては、Cdの自溶炉スラグへの移行率はほとんど影響されないので、本発明法における自溶炉操業条件は特許文献1,2及び非特許文献1にて公知のものであってよく、特に制約はない。
同様に、同様に、Cdの自溶炉スラグへの移行率は原料組成によってはほとんど影響されないから、転炉ダスト以外の自溶炉への装入原料は、通常のものや、特許文献1で提案された乾式粉砕カラミや特許文献2で提案された酸化焙焼鉱などを添加したものであってもよい。
【0021】
続いて、約4か月に亘る本出願人の製錬所における装入鉱中のCd濃度のスラグからのCd溶出性の試験結果を、図1及び2を参照して説明する。
図1は、自溶炉操業における装入鉱中Cd濃度(白丸)を示しており、図中Aの符号で記した時期で転炉ダストからCd除去を行った。 図1のデータを装入鉱中のCd濃度と環境告示45号によるCd溶出量の関係に整理して図2に示す。この関係より装入鉱中のCd濃度が0.015%以下であると、自溶炉スラグからのCd溶出量が環境庁告示基準である0.01g/L以下になることが分かる。
【0022】
本発明に係る第2の方法は、自溶炉及び転炉を用いる銅製錬法において、自溶炉スラグのCd濃度を0.001%以下に抑制することにより、自溶炉スラグからのCd溶出量を環境庁告示基準に定められる0.01mg/L以下とすることを特徴とする。
本発明の第2の方法は、自溶炉スラグ中のCd濃度を制御するものであり、これに対して本出願人が出願した特許文献5の方法では、自溶炉スラグ中のCd濃度を特に制御していないので、本願発明より高いCd濃度となっている。スラグ中のCd濃度抑制法は、原料の状況に応じて決定され、例えば、転炉ダストから自溶炉でCuを回収する場合は、その使用量を少なくする、一時的に使用しない、脱Cd転炉ダストを使用するなどの方法が可能である。また、前掲表1に示すスラグCを副産物として産出する硫化精鉱は、Zn,Pb,As,SbのみならずCd含有量が多いために、かかる硫化精鉱を一時的に使用しないか、あるいは使用量を少なくすることも必要となる。自溶炉の操業条件及び、Cd含有原料以外の装入原料などについては第1方法に関して述べたとおりである。
【0023】
本出願人の製錬所における約6か月の操業データを図3に示す。図3において、白抜き四角のプロットはスラグからのCd溶出値、丸印はスラグ中Cd濃度を示し、C及びDの符号で示した期間においてCdの除去を行った。図3に示すデータを、スラグ中Cd濃度とCd溶出量の関係に整理して図4に示す。このグラフよりスラグ中のCd濃度が0.001%以下であると、自溶炉スラグからのCd溶出量が環境庁告示基準である0.01mg/L以下になることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0024】
以上説明したように、本発明によると、pH調整をした水砕水などを使用しなくとも銅製錬スラグのCd溶出量を環境庁告示基準以下にすることができる。また、多くの操業試験結果から分かるとおり、本発明によるとCd溶出量の再現性は高いために、スラグをリサイクルするにせよ、貯蔵するにせよ、環境汚染は起こらない。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】装入鉱石中のCd含有量(濃度)が4ヶ月の自溶炉操業中にどのように変動するかを示すグラフである。
【図2】装入鉱中のCd含有量(濃度)(質量%)とCd溶出量(mg/L)の関係を示すグラフである。
【図3】スラグ中のCd含有量(濃度)濃度が及びCd溶出量が6ヶ月の自溶炉操業中にどのように変動するかを示すグラフである。
【図4】自溶炉スラグ中のCd濃度(質量%)とCd溶出量(mg/L)の関係を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
自溶炉及び転炉を用いる銅製錬法において、自溶炉への装入原料のCd濃度を0.015質量%以下に抑制することにより、自溶炉スラグのCd溶出量を環境庁告示基準の0.01mg/L以下とすることを特徴とする銅製錬方法。
【請求項2】
自溶炉及び転炉を用いる銅製錬法において、自溶炉で発生するスラグのCd濃度を0.001質量%以下に抑制することにより、自溶炉スラグのCd溶出量を環境庁告示基準の0.01mg/L以下とすることを特徴とする銅製錬方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−270288(P2007−270288A)
【公開日】平成19年10月18日(2007.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−98106(P2006−98106)
【出願日】平成18年3月31日(2006.3.31)
【出願人】(591007860)日鉱金属株式会社 (545)
【Fターム(参考)】