説明

スラッシュ成形用樹脂粉末、この製造方法及び成形体

【課題】
高温の使用環境下でもエアバックが正常に開裂することができるスラッシュ成形用樹脂粉末を提供することである。
【解決手段】
熱可塑性ポリウレタン樹脂(A)と可塑剤(B)とを含有してなるスラッシュ成型用樹脂粉末であって、
可塑剤(B)の含有量が熱可塑性ポリウレタン樹脂(A)と可塑剤(B)との合計重量に対して5〜20重量%であり、
スラッシュ成型用樹脂粉末一粒中の可塑剤(B)の濃度が均一であり、
スラッシュ成形用樹脂粉末からスラッシュ成形されたシートについて、加圧融着試験法で切り目が融着しないことを特徴とするスラッシュ成形用樹脂粉末を用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スラッシュ成形用樹脂粉末、樹脂成形体及びスラッシュ成形用樹脂粉末の製造方法に関する。さらに詳しくはインスツルメントパネル等の自動車内装部品の成形用素材として適する耐熱性に優れたスラッシュ成形用の樹脂粉末、樹脂成形体及びスラッシュ成形用樹脂粉末の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車内装部品のインスツルメントパネルは、スラッシュ成形品が使用されている。インスツルメントパネル下に格納されたエアバックを展開させるために、インスツルメントパネルには開裂口が設置されている。開裂口用の加工は、意匠性の点から、インスツルメントパネルの裏面にカッターでスリットを入れる方法が実施されている。
そして、スラッシュ成型品を調製するための材料として、−60〜−35℃のガラス転移温度を有する熱可塑性ポリウレタン樹脂(A)からなるインストルメントパネル表皮成形用材料が知られている(特許文献1)。
【特許文献1】特開2003−300428号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし、高温の使用環境等により、エアバック展開用にカッターで加工したスリットが熱で再融着し、エアバック展開時に正常な開裂が起こらない可能性があるという問題がある。一方、可塑剤の添加量を減少させると再融着は起こらないが、スラッシュ成形時に溶融性が悪化して成形品の品質が悪くなるという問題がある。
本発明が解決しようとする課題は、高温の使用環境下でもエアバックが正常に開裂することができるスラッシュ成形用樹脂粉末を提供することである。
【0004】
本発明者は鋭意研究した結果、本発明を完成させるに至った。
すなわち、本発明のスラッシュ成形用樹脂粉末の特徴は、熱可塑性ポリウレタン樹脂(A)と可塑剤(B)とを含有してなるスラッシュ成型用樹脂粉末であって、
可塑剤(B)の含有量が熱可塑性ポリウレタン樹脂(A)と可塑剤(B)との合計重量に対して5〜20重量%であり、
スラッシュ成型用樹脂粉末一粒中の可塑剤(B)の濃度が均一であり、
スラッシュ成形用樹脂粉末からスラッシュ成形されたシートが、加圧融着試験法で切り目が融着しない点を要旨とする。
【0005】
本発明の樹脂成形体は、上記の樹脂粉末をスラッシュ成形してなる点を要旨とする。
【0006】
本発明のスラッシュ成形用樹脂粉末の製造方法は、上記のスラッシュ成形用樹脂粉末を製造する方法であって、
熱可塑性ポリウレタン樹脂粒子(K)を製造する工程(10)と、
熱可塑性ポリウレタン樹脂粒子(K)の内部全体に可塑剤(B)の濃度が均一になるまで熱可塑性ポリウレタン樹脂粒子(K)に可塑剤(B)を含浸させる工程(20)
とを含む点を要旨とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明のスラッシュ成形用樹脂粉末は、高温の使用環境等においても、エアバック展開用にカッターで加工したスリットが熱で再融着しにくく、エアバック展開性に優れる。また、スラッシュ成形時の溶融性にも優れているため、成形品の品質が悪くなるということがない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
熱可塑性ポリウレタン樹脂(A)としては、スラッシュ成形用に用いられる構成成分であれば制限がなく、公知の構成成分(たとえば、特開2000−103957号公報)等が使用でき、高分子ポリオール及びポリイソシアネート、並びに必要に応じて低分子ジオール及び/又は低分子ジアミン等を構成成分とする樹脂が含まれる。
【0009】
高分子ポリオールとしては、エアバック展開性(切り目が融着しないという特性、以下、本特性という。)等の観点から、ポリエステルポリオールが好ましく、公知のポリエステルポリオールが含まれる。
【0010】
ポリイソシアネートとしては、本特性等の観点から、脂環式ジイソシアネート、脂肪族ジイソシアネート及びこれらの混合物が好ましく、公知のポリイソシアネートが含まれる。
【0011】
熱可塑性ポリウレタン樹脂(A)としては、本特性等の観点から、ポリエステルポリオールと、脂環式ジイソシアネート及び脂肪族ジイソシアネートの少なくとも一方とを必須成分としてなることが好ましい。
【0012】
熱可塑性ポリウレタン樹脂(A)のガラス転移温度(℃)は、低温でのエアバック展開性の観点から、−50〜−20が好ましく、さらに好ましくは−45〜−25、特に好ましくは−40〜−30である。
【0013】
可塑剤(B)としては、公知の可塑剤(たとえば、特開2000−17032号公報)等が使用でき、芳香族燐酸エステル(B1)、ポリエチレングリコールジ安息香酸エステル(B2)、フタル酸エステル(B3)、脂肪族2塩基酸エステル(B4)、トリメリット酸エステル(B5)、脂肪族エステル(B6)、脂肪族燐酸エステル(B7)、ハロゲン脂肪族燐酸エステル(B8)及びこれらの2つ以上の混合物が含まれる。
【0014】
これらの可塑剤のなかで、樹脂粉末をスラッシュ成形してなる樹脂成形体の耐擦傷性及びツヤムラ(成形毎に金型に可塑剤が堆積し、成形体の部位によって光沢が異なる現象をいう。)等の観点から、芳香族燐酸エステル(B1)が好ましい。
【0015】
芳香族燐酸エステル(B1)としては、芳香族燐酸エステルであれば制限がないが、たとえば、大八化学株式会社、可塑剤CR−741等が好ましく用いられる。
【0016】
なお、可塑剤CR−741の詳細な化学構造は明らかにされていないが、トリクロロ燐酸とビスフェノールAとフェノールとから合成され、以下のような化学構造又はこれに類似した化学構造であると推定される。
【0017】
【化1】



【0018】
可塑剤(B)が芳香族燐酸エステル(B1)の場合、本発明のスラッシュ成形用樹脂粉末の赤外吸光分析において、熱可塑性ポリウレタン樹脂(A)に特有のウレアのピーク(1640cm−1付近)の面積(a)に対する芳香族燐酸エステル(B1)に特有の芳香環のピーク(731cm−1付近)の面積(b)の比(b/a)が1.3以下であることが好ましく、さらに好ましくは1.3〜1.0、特に好ましくは1.25〜1.1である。この範囲であると、樹脂粉末表面の可塑剤の量が少なく、可塑剤が粉末内部までさらに均一に含浸していることを意味する。
【0019】
比(b/a)は、赤外吸光分析器(たとえば、FTIR−8400、株式会社島津製作所)を用い、ダイヤモンドセンサーに1〜5個程度の試料を置き、サンプル押さえ棒でセンサーに押付け、650〜4000cm−1、積算回数128回で赤外吸光分析を行い、特有ピークの両端を範囲として、ピーク面積を算出し、比(b/a)を求める。
【0020】
比(b/a)を上記の範囲とするには、(1)可塑剤(B)の含有量を後述の範囲内にすること、(2)可塑剤(B)の含浸温度を後述の範囲内にすること、及び/又は(3)可塑剤(B)の含浸時間を2〜8時間の範囲にすることにより達成できる。
【0021】
可塑剤(B)の含有量(重量%)は、熱可塑性ポリウレタン樹脂(A)と可塑剤(B)との合計重量に対して、5〜20であり、さらに好ましくは6〜18、特に好ましくは9〜15である。この範囲より少ないと可塑効果がほとんど得られず、一方、この範囲を超えると、可塑剤(B)の熱可塑性ポリウレタン樹脂(A)への均一性が得られず、スラッシュ成型用樹脂粉末一粒中の可塑剤(B)の濃度が均一とならない。
【0022】
本発明のスラッシュ成型用樹脂粉末一粒中の可塑剤(B)の濃度は均一である。
なお、スラッシュ成型用樹脂粉末一粒中の可塑剤(B)の濃度が均一であるとは、樹脂粉末一粒の内部全体まで可塑剤(B)の濃度が均一であるという意味である。
【0023】
本発明のスラッシュ成型用樹脂粉末一粒中の可塑剤(B)の濃度は均一であることは、可塑剤含浸性の測定法で確認できる。
可塑剤含浸性の測定法は、以下の通りである。
【0024】
<可塑剤含浸性>
ウルトラミクロトーム(たとえば、LEICA社製ウルトラミクロトーム)を使用して、スラッシュ成形用樹脂粉末の断面片を切り出した後(断面片は樹脂粉末の中心付近で切り出す。断面片の厚みは1〜3μm)、切り出した断面片の9ヶ所(たとえば、図1の番号1〜9の9ヶ所が適している。)について顕微赤外分光分析装置で分析し、可塑剤(B)に特有のピーク(たとえば、可塑剤CR−741に特有のピークは731cm−1である。)のピーク面積を測定しバラツキを次の基準で判定する。
【0025】
ピーク面積の標準偏差(σ)が50以下であれば、可塑剤(B)の濃度が樹脂粉末の内部全体に均一になっていると判定でき、一方、ピーク面積の標準偏差(σ)が51以上であると、可塑剤(B)の濃度が樹脂粉末の内部全体に均一になっているとはいえない。
【0026】
可塑剤(B)の濃度を樹脂粉末一粒中において均一とするには、(1)可塑剤(B)の含有量を上記の範囲内にすること、(2)可塑剤(B)の含浸温度を後述の範囲内にすること、及び/又は(3)可塑剤(B)の含浸時間を2〜8時間の範囲にすることにより達成できる。
【0027】
本発明のスラッシュ成形用樹脂粉末からスラッシュ成形されたシートについて、加圧融着試験法で切り目が融着しない。本発明のスラッシュ成型用樹脂粉末一粒中の可塑剤(B)の濃度を均一にすることにより、加圧融着試験法で切り目が融着しにくくなる。
シートは、予め270℃に加熱されたしぼ模様の入ったNi電鋳型に、スラッシュ成形用樹脂粉末を充填し、10秒後余分な樹脂粉末を排出し、250℃で90秒間加熱した後、水冷してから、厚み0.8〜2.0mm、縦6.0cm、横9.5cmの大きさに切断して調製される。
【0028】
<加圧融着試験法>
コールドカッター(刃の厚み0.3mm)で、シートの裏面(Ni電鋳型に接した面が表面、この反対の面が裏面である。)に対して、シートの縦方向におよそ直角に深さ0.4〜0.6mm、長さ6.0cmの切り目を入れ、シートを2枚の離型紙でサンドイッチ状に挟んで、離型紙の上に、鉄板(重量95〜100g、縦10cm×横10cm×厚み1.2mm)を離型紙が隠れるように乗せ、空気中、大気圧下、130℃で100時間静置した後、シートに入れた切り目が融着していないかどうかを目視で観察する。
【0029】
本発明のスラッシュ成型用樹脂粉末には、公知の添加剤(離型剤、顔料、酸化防止剤、耐候安定剤及びブロッキング防止剤等)等を含有することができる。
【0030】
本発明のスラッシュ成形用樹脂粉末の製造方法は、熱可塑性ポリウレタン樹脂粒子(K)を製造する工程(10)と、
熱可塑性ポリウレタン樹脂粒子(K)の内部全体に可塑剤(B)の濃度が均一になるまで熱可塑性ポリウレタン樹脂粒子(K)に可塑剤(B)を含浸させる工程(20)とを含むことが好ましい。
【0031】
熱可塑性ポリウレタン樹脂粒子(K)を製造する工程(10)は、公知の方法を適用でき、たとえば、次の方法で製造することができる。
【0032】
(1)水及び分散安定剤存在下で、イソシアナト基末端ウレタンプレポリマーとブロックされた鎖伸長剤(たとえばケチミン)とを反応させる方法(特開平8−120041号公報等)。
【0033】
(2)ウレタン結合及びウレア結合を有するウレタンプレポリマーを、このウレタンプレポリマーが溶解しない有機溶剤及び分散安定剤の存在下で、鎖伸長剤(たとえば、ジアミン、ジオール)と反応させる方法(特開平4−202331号公報等)。
【0034】
(3)ジイソシアネートと高分子ジオールと必要に応じて鎖伸長剤(低分子ジオール、低分子ジアミン)とを反応させた後、粉末化(たとえば、冷凍粉砕、溶融状態下に細孔を通し切断する方法)する方法。
【0035】
熱可塑性ポリウレタン樹脂粒子(K)の体積平均粒子径(μm)は、10〜500が好ましく、さらに好ましくは70〜300である。
【0036】
なお、体積平均粒子径は、JIS Z8825−1−2001「粒子径解析−レーザー回折法」に準拠した測定原理を有するレーザー回折式粒度分布測定装置(たとえば、株式会社島津製作所、SALD−1100、堀場製作所株式会社、LA−920等)で測定される。
【0037】
熱可塑性ポリウレタン樹脂粒子(K)の内部全体に可塑剤(B)の濃度が均一になるまで熱可塑性ポリウレタン樹脂粒子(K)に可塑剤(B)を含浸させる工程(20)において、可塑剤(B)は、熱可塑性ポリウレタン樹脂粒子(K)の製造後、必要に応じて添加される顔料及び/又は安定剤等と共に混合して、含浸させてもよい。
【0038】
可塑剤(B)の含浸温度(℃)としては、60〜85が好ましく、さらに好ましくは65〜80である。この範囲であると、スラッシュ成型用樹脂粉末一粒中の可塑剤(B)の濃度が均一としやすい。
【0039】
可塑剤(B)の濃度が熱可塑性ポリウレタン樹脂粒子(K)内部全体に均一になっていることは、可塑剤含浸性の測定法で確認できる。
【0040】
可塑剤(B)が芳香族燐酸エステル(B1)の場合、本発明のスラッシュ成形用樹脂粉末の製造方法は、熱可塑性ポリウレタン樹脂粒子(K)を製造する工程(10)と、
スラッシュ成形用樹脂粉末の赤外吸光分析において、
熱可塑性ポリウレタン樹脂(A)に特有のウレアのピーク(1640cm−1付近)の面積(a)に対する芳香族燐酸エステル(B1)に特有の芳香環のピーク(731cm−1付近)の面積(b)の比(b/a)が1.3以下になるまで、熱可塑性ポリウレタン樹脂粒子(K)に芳香族燐酸エステル(B1)を含浸させる工程(21)とを含むことが好ましい。
【0041】
熱可塑性ポリウレタン樹脂(A)に特有のウレアのピーク(1640cm−1付近)の面積(a)に対する芳香族燐酸エステル(B1)に特有の芳香環のピーク(731cm−1付近)の面積(b)の比(b/a)は、1.3以下が好ましく、さらに好ましくは1.3〜1.0、特に好ましくは1.25〜1.1である。この範囲であると、樹脂粉末表面の可塑剤の量が少なく、可塑剤が内部までさらに均一に含浸できている。
【0042】
含浸させる工程(20又は21)において、使用する混合装置としては、公知の粉体混合装置等を使用でき、容器回転型混合機、固定容器型混合機及び流体運動型混合機等が含まれる。こららのうち、固定容器型混合機が好ましい。
【0043】
固定容器型混合機としては、高速流動型混合機、複軸パドル型混合機、高速剪断混合装置(ヘンシエルミキサ等、「ヘンシエルミキサ」は三井鉱山株式会社の登録商標である。)、低速混合装置(プラネタリーミキサー等)及び円錐型スクリュー混合機(ナウタミキサ等、「ナウタミキサ」はホソカワミクロン株式会社の登録商標である。)等が挙げられる。これらのうち、複軸パドル型混合機、低速混合装置(プラネタリーミキサー等)及び円錐型スクリュー混合機(ナウタミキサ等)が好ましい。
【0044】
本発明のスラッシュ成形用樹脂粉末は、スラッシュ成形法により樹脂成形体に成形することができる。
スラッシュ成型法としては、たとえば、本発明の樹脂粉末が入ったボックスと加熱した金型とを共に振動回転させ、樹脂粉末を型内で溶融流動させた後、溶融した樹脂を冷却・固化させ、樹脂成形体(表皮等)を製造する方法が含まれる。
【0045】
金型の温度(℃)としては、200〜300が好ましく、さらに好ましくは210〜280である。
【0046】
本発明のスラッシュ成形用樹脂粉末からスラッシュ成形により成形される樹脂成形体としては、シートが好ましく、さらに好ましくは自動車内装材(たとえば、インストルメントパネル、ドアトリム用の表皮)である。
【0047】
シートの厚さ(mm)としては、0.5〜1.5が好ましい。
【0048】
樹脂成形体(成形表皮等)は、表面を発泡型に接するようにセットし、ウレタンフォームを流し、裏面に5mm〜15mmの発泡層を形成させて、発泡層付樹脂成形品とすることができる。
【0049】
本発明の樹脂成形体は、自動車内装材(たとえば、インストルメントパネル、ドアトリム等)等に好適である。
【実施例】
【0050】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。以下において「部」は重量部、「%」は重量%を示す。
【0051】
<製造例1>
プレポリマー溶液の製造
温度計、撹拌機及び窒素吹込み管を備えた反応容器に、数平均分子量(以下、Mnと記す。)1000のポリブチレンアジペート(497.9部)、Mn900のポリヘキサメチレンイソフタレート(124.5部)、ペンタエリスリトール テトラキス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート][チバスペシャリティーケミカルズ株式会社;イルガノックス1010、「イルガノックス」はチバ スペシャルティ ケミカルズ ホールディング インコーポレーテッドの登録商標である。](1.12部)、及び体積平均粒径9.2μmのカオリン(90.7部)を仕込み、窒素置換した後、撹拌しながら110℃に加熱して溶融させた後、60℃まで冷却した。続いて、この冷却物へ、1−オクタノール(9.7部)、ヘキサメチレンジイソシアネート(153.4部)、テトラヒドロフラン(125部)、2-(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)-6-(直鎖及び側鎖ドデシル)-4-メチルフェノール[チバスペシャリティーケミカルズ株式会社;チヌビン571、「チヌビン」はチバ スペシャルティ ケミカルズ ホールディング インコーポレーテッドの登録商標である。](2.22部)を投入し、85℃で6時間反応させプレポリマー溶液(D’)を得た。プレポリマー溶液(D’)のNCO含量は、2.05%であった。
【0052】
プレポリマー溶液(D’)に、テトラメチルキシリレンジイソシアネートに由来するポリカルボジイミド[Mn15,000、末端基:メトキシ基、性状:70%メチルエチルケトン(以下、MEK)溶液、日清紡績株式会社;Carbodilite V−09B](2.15部)を投入し、85℃で6時間反応させプレポリマー溶液(D)を得た。プレポリマー溶液(D)のNCO含量は、2.05%であった。
【0053】
<製造例2>
ジアミンのMEKケチミン化物の製造
ヘキサメチレンジアミンと過剰のMEK(ジアミンに対して4倍モル量)とを80℃で24時間還流させながら生成水を系外に除去した。その後減圧にて未反応のMEKを除去してMEKケチミン化物を得た。
【0054】
<製造例3>
熱可塑性樹脂粒子の製造
反応容器に、製造例1で得たプレポリマー溶液(D)(100部)と製造例2で得たMEKケチミン化合物(5.6部)を投入し、そこにジイソブチレンとマレイン酸との共重合体のナトリウム塩を含む分散剤(三洋化成工業株式会社、サンスパールPS−8、「サンスパール」は同社の登録商標である。)(1.3部)を溶解した水溶液340部を加え、ヤマト科学株式会社、ウルトラディスパーサーを用いて9000rpmの回転数で1分間混合した。この混合物を温度計、撹拌機及び窒素吹込み管を備えた反応容器に移し、窒素置換した後、撹拌しながら50℃で10時間反応させた。反応終了後、濾別及び乾燥を行い、熱可塑性樹脂粒子(K)を製造した。(K)のMnは2.5万、体積平均粒径は146μm、ガラス転移温度は−35℃であった。
【0055】
<実施例1>
100Lのナウタミキサー内に、熱可塑性樹脂粒子(K)(100部)、可塑剤(芳香族縮合リン酸エステル、トリクロロ燐酸とビスフェノールAとフェノールの反応生成物)[大八化学株式会社;CR−741](B11)(6.0部)、ジペンタエリスリトールペンタアクリレート [三洋化成工業株式会社;DA600](3.9部)、並びにビス(1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジル)セバケート及びメチル1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジルセバケート(混合物)[商品名:TINUVIN 765、チバ社製](0.27部)を投入し、70℃で2時間均一混合して、樹脂粉末(E1)を得た。樹脂粉末(E1)の可塑剤含浸性及び赤外ピーク比(b/a)を測定したところ、可塑剤含浸性について標準偏差(σ)は20であり、比(b/a)は1.15であった。
なお、可塑剤含浸性は、図1に示した9ヶ所について、可塑剤(B)に特有のピーク731cm−1について、顕微赤外分光分析した(以下、同じである。)。
【0056】
樹脂粉末(E1)に、ジメチルポリシロキサン[日本ユニカー株式会社;ケイL45−1000](0.1部)及びカルボキシル変性シリコーン[信越化学工業株式会社;X−22−3710](0.1部)を投入し、1時間混合した後、室温(約25℃)まで冷却し、架橋ポリメチルメタクリレート[ガンツ化成株式会社;ガンツパールPM−030S、「ガンツパール」は同社の登録商標である。](0.3部)を投入し、均一混合して、本発明のスラッシュ成形用樹脂粉末(C1)を得た。樹脂粉末(C1)の体積平均粒径は150μmであった。可塑剤(B)含有量は5.4%であった。
【0057】
<実施例2>
可塑剤(B11)の量を「6.0部」から「12.0部」に変更したこと、及び70℃で均一混合した時間を「2時間」から「4時間」に変更したこと以外、実施例1と同様にして、樹脂粉末(E2)を得た。樹脂粉末(E2)の可塑剤含浸性及び赤外ピーク比(b/a)を測定したところ、比(b/a)は1.20であった。また可塑剤含浸性について標準偏差(σ)は22であった。
【0058】
樹脂粉末(E2)を用いて、実施例1と同様にして、本発明のスラッシュ成形用樹脂粉末(C2)を得た。樹脂粉末(C2)の体積平均粒径は155μmであった。可塑剤(B)含有量は10.3%であった。
【0059】
<実施例3>
可塑剤(B11)の量を「6.0部」から「26.0部」に変更したこと、及び70℃で均一混合した時間を「2時間」から「8時間」に変更したこと以外、実施例1と同様にして、樹脂粉末(E3)を得た。樹脂粉末(E3)の可塑剤含浸性及び赤外ピーク比(b/a)を測定したところ、比(b/a)は1.15であった。また可塑剤含浸性について標準偏差(σ)は29であった。
【0060】
樹脂粉末(E3)を用いて、実施例1と同様にして、本発明のスラッシュ成形用樹脂粉末(C3)を得た。樹脂粉末(C3)の体積平均粒径は160μmであった。可塑剤(B)含有量は18.7%であった。
【0061】
<実施例4>
「可塑剤(B11)6.0部」を「可塑剤(B21)[ポリエチレングリコールジ安息香酸エステル、三洋化成工業株式会社;サンフィックスEB300]12.0部」に変更したこと、及び70℃で均一混合した時間を「2時間」から「4時間」に変更したこと以外、実施例1と同様にして、樹脂粉末(E4)を得た。樹脂粉末(E4)の可塑剤含浸性について標準偏差(σ)は15であった。
【0062】
樹脂粉末(E4)を用いて、実施例1と同様にして、本発明のスラッシュ成形用樹脂粉末(C4)を得た。樹脂粉末(C4)の体積平均粒径は154μmであった。可塑剤(B)含有量は10.3%であった。
【0063】
<比較例1>
可塑剤(B11)の量を「6.0部」から「4.0部」に変更したこと以外、実施例1と同様にして、樹脂粉末(E5)を得た。樹脂粉末(E5)の可塑剤含浸性及び赤外ピーク比(b/a)を測定したところ、比(b/a)は1.10であった。また可塑剤含浸性について標準偏差(σ)は16であった。
【0064】
樹脂粉末(E5)を用いて、実施例1と同様にして、比較用のスラッシュ成形用樹脂粉末(H1)を得た。樹脂粉末(H1)の体積平均粒径は149μmであった。可塑剤(B)含有量は3.7%であった。
【0065】
<比較例2>
可塑剤(B11)の量を「6.0部」から「27.0部」に変更したこと、及び70℃で均一混合した時間を「2時間」から「10時間」に変更したこと以外、実施例1と同様にして、樹脂粉末(E6)を得た。樹脂粉末(E6)の可塑剤含浸性及び赤外ピーク比(b/a)を測定したところ、比(b/a)は1.48であった。また可塑剤含浸性について標準偏差(σ)は344であった。
【0066】
樹脂粉末(E6)を用いて、実施例1と同様にして、比較用のスラッシュ成形用樹脂粉末(H2)を得た。樹脂粉末(H2)の体積平均粒径は160μmであった。可塑剤(B)含有量は22.3%であった。
【0067】
<比較例3>
70℃で均一混合した時間を「2時間」から「1時間」に変更したこと以外、実施例1と同様にして、樹脂粉末(E7)を得た。樹脂粉末(E7)の可塑剤含浸性及び赤外ピーク比(b/a)を測定したところ、比(b/a)は1.53であった。また可塑剤含浸性について標準偏差(σ)は496であった。
【0068】
樹脂粉末(E7)を用いて、実施例1と同様にして、比較用のスラッシュ成形用樹脂粉末(H3)を得た。樹脂粉末(H3)の体積平均粒径は155μmであった。可塑剤(B)含有量は10.3%であった。
【0069】
<比較例4>
可塑剤(B11)の量を「6.0部」から「12.0部」に変更したこと以外、実施例1と同様にして、樹脂粉末(E8)を得た。樹脂粉末(E8)の可塑剤含浸性及び赤外ピーク比(b/a)を測定したところ、比(b/a)は1.62であった。また可塑剤含浸性について標準偏差(σ)は363であった。
【0070】
樹脂粉末(E8)を用いて、実施例1と同様にして、比較用のスラッシュ成形用樹脂粉末(H4)を得た。樹脂粉末(H4)の体積平均粒径は155μmであった。可塑剤(B)含有量は10.3%であった。
【0071】
<比較例5>
可塑剤(B11)の量を「6.0部」から「26.0部」に変更したこと、及び70℃で均一混合した時間を「2時間」から「4時間」に変更したこと以外、実施例1と同様にして、樹脂粉末(E9)を得た。樹脂粉末(E9)の可塑剤含浸性及び赤外ピーク比(b/a)を測定したところ、比(b/a)は1.58であった。また可塑剤含浸性について標準偏差(σ)は393であった。
【0072】
樹脂粉末(E9)を用いて、実施例1と同様にして、比較用のスラッシュ成形用樹脂粉末(H5)を得た。樹脂粉末(H5)の体積平均粒径は155μmであった。可塑剤(B)含有量は18.7%であった。
【0073】
<比較例6>
「可塑剤(B11)6.0部」を「可塑剤(B21)12.0部」に変更したこと以外、実施例1と同様にして、樹脂粉末(E10)を得た。樹脂粉末(E10)の可塑剤含浸性を測定したところ、標準偏差(σ)は380であった。
【0074】
樹脂粉末(E10)を用いて、実施例1と同様にして、比較用のスラッシュ成形用樹脂粉末(H6)を得た。樹脂粉末(H6)の体積平均粒径は155μmであった。可塑剤(B)含有量は10.3%であった。
【0075】
実施例1〜4で得たスラッシュ成形用樹脂粉末(C1)〜(C4)、及び比較例1〜6で得たスラッシュ成形用樹脂粉末(H1)〜(H6)について、加圧融着試験(厚み1mmのシートを調製して測定した。)及び裏面溶融性を評価し、結果を表1に示した。なお、比較例1で得た樹脂粉末(H1)を用いたシートについて、加圧融着試験が「融着なし」であったが、表面に貫通するピンホールがあり、実用に供することはできない。
また、可塑剤含浸性を評価し、各測定箇所(図1)における可塑剤のピーク面積及びこれらの標準偏差(σ)を表2に示した。
【0076】
【表1】



【0077】
<裏面溶融性>
加圧融着試験が修了した試験片の裏面中央部を、以下の判定基準で溶融性を評価した。
5:均一で光沢がある。
4:一部未溶融のパウダーが有るが、光沢がある。
3:裏面全面に凹凸があり、光沢はない。表面に貫通するピンホールはない。
2:裏面全面にパウダーの形状の凹凸があり、かつ表面に貫通するピンホールがある。
1:パウダーが溶融せず、成形品にならない。
【0078】
【表2】




【産業上の利用可能性】
【0079】
本発明のスラッシュ成形用樹脂粉末は、自動車内装材(たとえば、インストルメントパネル、ドアトリム等の表皮)として好適に使用される。
【図面の簡単な説明】
【0080】
【図1】可塑剤含浸性を評価する際、樹脂粉末の断面片のうち、顕微赤外分光分析装置で分析するのに適している箇所(図中、番号1〜9)を模式的に示した断面図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性ポリウレタン樹脂(A)と可塑剤(B)とを含有してなるスラッシュ成型用樹脂粉末であって、
可塑剤(B)の含有量が熱可塑性ポリウレタン樹脂(A)と可塑剤(B)との合計重量に対して5〜20重量%であり、
スラッシュ成型用樹脂粉末一粒中の可塑剤(B)の濃度が均一であり、
スラッシュ成形用樹脂粉末からスラッシュ成形されたシートについて、加圧融着試験法で切り目が融着しないことを特徴とするスラッシュ成形用樹脂粉末。
【請求項2】
熱可塑性ポリウレタン樹脂(A)が、ポリエステルポリオールと、脂環式ジイソシアネート及び脂肪族ジイソシアネートの少なくとも一方とを必須成分としてなる請求項1に記載のスラッシュ成形用樹脂粉末。
【請求項3】
可塑剤(B)が芳香族燐酸エステル(B1)であり、
赤外吸光分析において、熱可塑性ポリウレタン樹脂(A)に特有のウレアのピーク(1640cm−1付近)の面積(a)に対する芳香族燐酸エステル(B1)に特有の芳香環のピーク(731cm−1付近)の面積(b)の比(b/a)が1.3以下である請求項1又は2に記載のスラッシュ成形用樹脂粉末。
【請求項4】
熱可塑性ポリウレタン樹脂(A)のガラス転移温度が−50〜−20℃である請求項1〜3のいずれか1項に記載のスラッシュ成形用樹脂粉末。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の樹脂粉末をスラッシュ成形してなる樹脂成形体。
【請求項6】
自動車内装材である請求項5に記載の樹脂成形体。
【請求項7】
請求項1〜4のいずれか1項に記載のスラッシュ成形用樹脂粉末を製造する方法であって、
熱可塑性ポリウレタン樹脂粒子(K)を製造する工程(10)と、
熱可塑性ポリウレタン樹脂粒子(K)の内部全体に可塑剤(B)の濃度が均一になるまで熱可塑性ポリウレタン樹脂粒子(K)に可塑剤(B)を含浸させる工程(20)
とを含むスラッシュ成形用樹脂粉末の製造方法。
【請求項8】
請求項3又は4に記載のスラッシュ成形用樹脂粉末を製造する方法であって、
熱可塑性ポリウレタン樹脂粒子(K)を製造する工程(10)と、
スラッシュ成形用樹脂粉末の赤外吸光分析において、
熱可塑性ポリウレタン樹脂(A)に特有のウレアのピーク(1640cm−1付近)の面積(a)に対する芳香族燐酸エステル(B1)に特有の芳香環のピーク(731cm−1付近)の面積(b)の比(b/a)が1.3以下になるまで、熱可塑性ポリウレタン樹脂粒子(K)に芳香族燐酸エステル(B1)を含浸させる工程(21)
とを含むスラッシュ成形用樹脂粉末の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2009−221292(P2009−221292A)
【公開日】平成21年10月1日(2009.10.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−65609(P2008−65609)
【出願日】平成20年3月14日(2008.3.14)
【出願人】(000002288)三洋化成工業株式会社 (1,719)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】