説明

スラッジからのリン酸塩の回収

本発明は、下水スラッジ生成物、すなわち下水スラッジ、下水スラッジアッシュ、または下水スラッジスラグから、抽出法によって、再使用可能な物質、特にリン酸塩を回収するためのプロセスであって、前記下水スラッジ生成物の懸濁液を、水、アルコール、水−アルコール混合物、または水性溶液の中で作成し、前記下水スラッジ生成物の懸濁液の中に、抽出剤としてガス状の二酸化炭素(CO)または超臨界状態の二酸化炭素(scCO)を導入し、不溶性の固形物を、前記液状懸濁剤から分離し、前記懸濁剤から二酸化炭素を除去し、そして前記懸濁剤の中に溶解されている再使用可能な物質を沈殿させ、前記懸濁剤から分離する、プロセスに関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抽出による、下水スラッジ生成物、すなわち下水スラッジ、下水スラッシュアッシュ、または下水スラッシュスラグからの、再使用可能な物質特にリン酸塩の回収に関する。
【背景技術】
【0002】
廃水処理からの下水スラッジは、汚染物質のたまり場(sink)と、さらには窒素、リン、およびカリウムのような栄養素のための貯蔵手段との両様の意味合いを有している。したがって、下水スラッジを原料(「二次原料」)の価値ある供給源として利用する、各種多くの試みおよび方法が存在している。たとえば、下水スラッジを農業分野におけるリン酸塩肥料としてリサイクルすることを可能とするための、一連の下水スラッジ加工方法が存在している。他方では、重金属および毒性物質を高い濃度で含んでいるために、下水スラッジは、肥料としては危険であるともみなされ、さらには特殊な廃棄物として処理されてもいる。そのために、いくつかの国では、農業用の下水スラッジの開発は、すでに制限されたり、完全に中止されたりしている。
【0003】
それらの背景を考慮に入れると、下水スラッジから再使用可能な物質を回収することは、単純に下水スラッジを処理したり、さらなる用途のために汚染除去したりすることに比較して、重要度がますます高くなっている。このことは特に再使用可能な物質のリンにあてはまるが、このものは全世界的に需要が高く、それと同時に入手先が限定されている。リン酸塩は、米国、中国、モロッコ、およびロシアで主として採鉱されている。妥当なコストと手間で採掘することが可能なリンの埋蔵量は、今後60〜130年しかないという予測がある。この点に関して、重金属の汚染が極めて少ない高品質のリン鉱石を得ることが、次第に困難となり、高コストとなるということに注目する必要がある。
【0004】
今日の採鉱条件を用いて頼ることが可能なリンの埋蔵量には全世界的に限度があり、粗原料のリン酸塩の価格が上昇し、人口の増加および将来の食習慣に関連して消費量が増え続けるということが予測されるという背景に対処するために、他の供給源たとえば、水または下水スラッジまたは下水スラッジアッシュからリンを得たり回収したりするための新しい手段が論じられることが多くなってきている。
【0005】
下水スラッジの単焼却(monoincineration)においては、リンはアッシュの中の残渣として残る。下水処理プラントの運転モードにも依存するが、その濃度は、Pとして4〜8重量%の間、五酸化リン(P)として10〜22重量%の間である。下水スラッジアッシュのさらなる主な成分は、SiO(30〜50%)、CaO(約10〜20%)、ならびにAlおよびFeである。
【0006】
カルシウムは主として、水の硬度と共に組み入れられる。酸化ケイ素は、組み入れられた固体物質たとえば、砂、砂利などに由来する。アルミニウム化合物は、部分的には、洗浄剤の中に含まれる水軟化性ゼオライトのルートで組み入れられる。
【0007】
それらに加えて、下水スラッジアッシュには、重金属、とりわけCr(50ppm)、Cu(350ppm)、Ni(30ppm)、Pb(10.0ppm)、Cd(1.3ppm)、およびHg(1.45ppm)が含まれている。有機毒性物質は一般的には、下水スラッジを焼却することによって跡形もなく破壊され、微生物および悪臭物質も焼却によって除去される。
【0008】
現行技術においては、下水スラッジの単焼却プロセス由来のアッシュからリンを利用したり得たりするための各種のアプローチ方法が知られている。
【0009】
1.農地へのアッシュの直接散布
これは、重金属含量が極めて低く、リンが植物が利用可能な形態で存在していると実証することが可能な場合に限って、受け入れられることになるであろう。
【0010】
2.肥料産業におけるアッシュの直接加工
この方法も、重金属汚染が極めて低いレベルの場合にのみ採用可能であろうが、その理由は、極めて少量の重金属とさらには鉄の化合物の両方が、リン鉱石加工において使用されるプロセスにおいて問題を起こすからである。
【0011】
3.熱水を用いたリン酸塩の洗い出し、およびそれに続く沈殿または結晶化
現在の知識の段階では、そのようなリン酸塩回収法は、増大生物学的P−除去(increased biological P−elimination)(バイオ−P−プロセス(bio−P−process))からの過剰のスラッジを直接アッシュ化させた場合にのみ、可能であると考えられる。スラッジをアッシュ化させた後に、ポリリン酸塩の形態で過剰のスラッジの中に結合されているリンを水溶性の形で回収することに成功することが可能となるのは、そのような条件下の場合のみである。実験室の試験では、その方法が原理的には応用可能であることは示されていた。しかしながら、今日の条件下では、粗原料のリン酸塩の正味重量(payload)の40%を超えることには滅多にならない、ポリリン酸塩の比率しか、その方法では回収できないということに注目されたい。それに加えて、ドイツでは慣例的に行われている、ポリリン酸塩を化学的−物理的結合形態に転位させることを含む、消化による下水スラッジの安定化は、アッシュ化させた後に、水を用いた抽出がほとんど不可能となるようであるという事実もある。
【0012】
4.硫酸を用いた、アッシュからのリン酸塩の溶出
このプロセスは、デンマークの企業のPM・エネルギー/バイオコン・A/S(PM Energi/BioCon A/S)によって提唱されているものである。そのバイオコン(BioCon)プロセスにおいては、硫酸を用いてアッシュからリン酸塩を消化させ、溶出させる。リン酸塩に加えて、鉄およびアルミニウム化合物、さらにはカリウムも抽出される。対照的に、「非揮発性重金属」がアッシュ残渣の中に残る。リンは、各種のタイプのイオン交換体の一連の装置(battery)の手段によって、リン酸として回収される。同時に溶出される重金属は、濃縮された形の特定の画分として得られる。硫酸塩は、硫酸水素カリウムの形で回収される。化学薬品の必要量は、沈殿剤含量と共に直線的に増えるが、その理由から、FeまたはAl沈殿剤の使用量は、必要最小限にまで低下させるべきである。
【0013】
5.クレプロ(Krepro)プロセス
ケミラ・ケムウォーター(Kemira Kemwater)、アルファ・ラバル(Alpha Laval)およびヘルシングボリ(Helsingborg)下水処理プラントによって開発された多段プロセスである、クレプロ(Krepro)プロセスにおいては、下水スラッジを分離して複数の生成物とする。この場合には、リンはリン酸鉄として製造される。第一段においては、下水スラッジに硫酸を加えてから、pH値1.5、圧力約4バールで約150℃に加熱して、加水分解させる。この場合、有機物質の大部分は溶液の中に入る。次いで、溶解しなかった部分を、遠心分離機中で脱水させて、45%乾燥物質とし、排出させる。そのプロセスの説明によれば、その遠心分離物には、溶解された有機物質、溶解されたリン、沈殿剤、および再溶解された重金属(それらが、スラッッジに結合されていない限りにおいて)が含まれる。鉄を添加した後に、pH値を約8.5〜9の間にまで段階的に上げると、リン酸鉄(FePO)沈殿物が、遠心分離法によってその液相から分離され、約35%乾燥物質にまで濃縮されて、生成物として排出される。さらなる段階において、pH値をさらに上昇させると、重金属が、リン酸鉄とは別途に分離される。後に残るのは遠心分離物であって、それから、沈殿剤の酸化鉄も回収され、それは次いで、炭素源として使用することも可能であろうし、あるいは下水処理プラントにおいて処理しなければならない。そのプロセスは、2種の変法、すなわち連続プロセスとして、およびバッチ式に運転されるプロセスとして提供されている。製造されたリン酸鉄のリンに関連して、特定の重金属の含量(すなわち重金属含量と呼ばれているもの)は、未処理の下水スラッジの値の数分の一でしか存在せず、無機質肥料の場合におけるのと同程度のオーダーであるべきである。エネルギー消費量は高い。しかしながらそのプロセスは、下水スラッジを焼却してエネルギー生成に使用するならば、外部の供給源からのエネルギーを使わずに運転できる。リンの回収率は、スラッジと共に導入された量の約75%である。
【0014】
6.シーボン(Seaborne)プロセス
シーボン(Seaborne)プロセスは、肥料加工のためのバイオガス装置の中で、下水スラッジを同時処理する方法を提供する。それは、シーボン・エンバイロメンタル・リサーチ・ラボラトリー(Seaborne Environmental Research Laboratory)によって開発されたものであって、それは、各種のバイオマスを使用して、十分に使用に耐える高純度の品質で製品の肥料とメタンガスとを製造することを意図している。副生物として、濃縮した形の重金属硫化物と廃水が生じる。そのプロセスにおいては、バイオマスは、それぞれの重金属の負荷に合わせて、直接的に、またはHSを含むバイオガスを用いて重金属を消化させてから、発酵槽の中で消化させる。消化されたバイオマスは、分離器の中で脱水させる。固形物は焼却し、液相はまず、重金属沈殿操作(RoHM=removal of heavy metals、重金属除去)にフィードする。次いで、栄養素の窒素、リン、およびカリウムを、いわゆるNRS反応器(NRS=nitrogen recycling system、窒素リサイクルシステム)の中で各種の化学的沈殿反応によってそれから沈殿させる。バイオガス中に含まれているHSは、RoHM反応器の中で放出され、重金属沈殿プロセスで使用される。予め精製されたバイオガスは、RGU(=regenerative gas upgrading、再生ガス精製)と呼ばれるガススクラバーの中でCOを抜かれて、ほとんど純粋なメタン(CH>98%)が製品として得られる。バイオガス中に含まれていたCOは、NRS反応器の中で栄養素を沈殿させるために、炭酸塩の形で使用される。焼却アッシュもまた、RoHMを介してふたたび発酵槽にリサイクルされるので、電気めっき産業で使用可能な重金属塩以外には、固形の廃棄物は明らかに存在しない。
【0015】
7.ホストリップ(Phostrip)プロセス
ホストリップ(Phostrip)プロセスを、上述の方法と比較するのは極めて困難である。この場合においては明らかに、リンがスラッジから回収されはするが、増大生物学的P−除去方法(「ラグジャリー・アップテイク(luxury uptake)」)において追加的に吸収された程度の量にすぎない。抜き出された過剰のスラッジには、従来のプロセスの場合と同程度のP−濃度を含んでいるので、回収は、供給されたスラッジの約33〜50%の間と限定されたものに留まる。ホストリップ(Phostrip)プロセスは、リン酸塩の再溶解をサイドストリームにおいて実施する、バイオ−P−除去プロセスにおける手順変化とみなすべきものである。戻りのスラッジの一部が、まずプレストリッパーにフィードされ、そこでフィードまたはストリッパーのボトム排出物からの有機基質と混合されて、酸素欠乏状態下にスラッジ水の中に含まれている硝酸塩を脱窒させる。ストリッパーと呼ばれる再溶解タンクの中で、スラッジが、嫌気性条件下で濃縮される。その場合、細胞の中に蓄えられていたリン酸塩が、バイオマスから部分的に分離され、水相の中に放出される。リン酸塩に関しては減縮されたスラッジを、再度活性化操作にフィードすると、好気性条件下で、リン酸塩を再び吸収、蓄積することができる。オルトリン酸塩を含む上澄み液が抜き出される。沈殿反応器の中では、リン酸塩を、ラインミルク(line milk)またはその他の沈殿剤を用い、8.5よりも高いpH値で沈殿させ、次いで分離する。そのプロセスは、独国ダルムシュタット(Darmstadt,Germany)の2個所の下水処理プラントに組み込まれたが、問題が多くて頻繁に停止していた。沈殿させたリン酸カルシウムには有機不純物がほとんど含まれず、乾燥物質の中では33〜41%の間のP含量が得られたとの報告がある。それにも関わらず、実務的な理由から、アルミン酸ナトリウム溶液が沈殿剤として主として使用されたが、この沈殿剤は、リン酸塩の使用を著しく制限する。沈殿スラッジ中の重金属含量およびAOX濃度(AOX=absorbable organically bound halogen、吸収可能な有機結合ハロゲン)は極めて低い(Cu、ZnおよびAOXについては、下水スラッジ規制(Sewage Sludge Regulations)の限界値の10%、Cd、Cr、Hg、Ni、およびPbについてはさらに低い)。しかしながら、そのプロセスは、プロセス制御の面で問題を露呈した。ストリッパーの中でのスラッジの滞留時間が不十分であると、P−再溶解が不十分となり、有機酸の形成と十分なP−再溶解のために十分に長い滞留時間にすると、一方では硫化水素が大量に生成し、他方ではスラッジが損なわれることとなった。さらに、活性化スラッジ中の糸状菌(thread−like micro−organisms)の比率と、ホストリップ(Phostrip)装置の運転との間には、関連があると想定される。
【0016】
8.アッシュデック(Ashdec)プロセス
過去数年の間に、下水スラッジアッシュを利用可能とするための、とりわけEUプロジェクトの「スーザン(SUSAN)」において、プロセスが開発されたが、それによって、重金属たとえばPb、Cu、Cd、Znなどがアッシュから除去される。アッシュ・デック社(The corporation Ash Dec)(その社名は、アッシュの汚染除去(decontamination)に由来する)では、オーストリアのレオーベン(Leoben,Austria)において、そのようなパイロットプラントをすでに稼働していた。そのプロセスでは、金属塩化物の揮発性を利用している。下水スラッジアッシュを、環境適合性の金属塩化物、一般的にはCaClと混合し、圧密化させて粒状物質を形成させ、ロータリー筒型キルンの中で、900〜1100℃の間の、形成された重金属塩化物の沸点より高い温度に加熱する。そのようにすると、その金属塩化物が蒸発し、煙道ガスのスクラバーによって気相から分離される。そのプロセスを用いると2種の製品が得られるが、その一つは、リン肥料として好適な下水スラッジアッシュであって、その重金属含量が最初の含量に対して90%を超えて削減されたものであり、さらなる製品は、高い金属濃度を有する残渣であって、将来経済的な用途に使うことが可能となるであろうものである。その残渣からは、特に、アルミニウム、鉄、高品質の鉄または銅を得ることが可能である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
本発明の目的は、下水スラッジまたは下水スラッジアッシュから、再使用可能な物質、特にリン、可能であればさらなる金属および非金属を、選択的に分離または回収するための経済的なプロセスを提供することであった。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明の目的は、下水スラッジ生成物、すなわち下水スラッジ、下水スラッジアッシュ、または下水スラッジスラグから、抽出法によって、再使用可能な物質、特にリン酸塩を回収するためのプロセスによって達成されるが、それに含まれるのは、以下の工程である
下水スラッジ生成物の懸濁液を、水、アルコール、水−アルコール混合物、または水性溶液の中で作成し、
その下水スラッジ生成物の懸濁液の中に、抽出剤としてガス状の二酸化炭素(CO)または超臨界状態の二酸化炭素(scCO)を導入し、
不溶性の固形物を、その液状懸濁剤から分離し、
その懸濁剤から二酸化炭素を除去し、そして
その懸濁剤の中に溶解されている再使用可能な物質を沈殿させ、その懸濁剤から分離する。
【0019】
そのプロセスによって、再使用可能な物質たとえば、カルシウムおよびリン酸塩をそのシステムから得て、それをリサイクル採鉱処理(recycling exploitation procedure)にフィードすることが可能となる。残存物質は、望ましくは濃縮されていて、それらもまた、さらなるリサイクル採鉱処理にフィードされるか、または廃棄される。
【0020】
適切な計量仕込みおよび過剰の溶媒を用いた操作によって、大量のリン酸塩を溶解させることができる。たとえば、1リットルの抽出剤の中に約5グラムの下水スラッジアッシュを使用すると、30重量%を超える量のリン酸塩を溶解させることができる。溶液のリン酸塩に対する吸収性能には限度があるので、抽出剤の中で、より高いレベルの濃度の下水スラッジアッシュを用いて、より高い割合のリン酸塩を抽出することは、ほぼ不可能である。
【0021】
本発明の好ましい実施態様においては、下水スラッジ生成物の懸濁液を作成するための懸濁剤には、1種または複数のアルコールを、液状懸濁剤の量に対して0.1〜50重量%の間、好ましくは1〜10重量%の間、特に好ましくは1〜5重量%の間の量で含むが、ここで、その1種のアルコールまたは複数のアルコールは、好ましくは、メタノール、エタノール、およびイソプロパノールから選択される。その懸濁剤が水または水性溶液であるのが特に好ましい。
【0022】
本発明のさらなる好ましい実施態様においては、その下水スラッジ生成物の懸濁液を作成するための懸濁剤にはさらに、1種または複数の酸を、液状懸濁剤の量に対して0.001〜80重量%の間、好ましくは0.01〜30重量%の間、特に好ましくは0.1〜10重量%の間の量で含むが、ここで、その1種の酸または複数の酸は、有機モノカルボン酸およびジカルボン酸、ならびに鉱酸好ましくは、HClおよびHSOから選択するのが好ましい。目的とする再使用可能な物質、特にカルシウムおよびリン酸塩の溶解度は、酸を添加することによって改良される。
【0023】
本発明のさらなる好ましい実施態様においては、その懸濁液には、懸濁液の作成において、下水スラッジ生成物を、液状懸濁剤の量に対して0.1〜60重量%の間の量で含んでいる。
【0024】
本発明のさらなる好ましい実施態様においては、その下水スラッジ生成物の懸濁液の中に、抽出剤として、ガス状の二酸化炭素(CO)を導入する。
【0025】
本発明のさらなる好ましい実施態様においては、下水スラッジ生成物の水性懸濁液の中に、抽出剤として、二酸化炭素を、0.1〜200バールの間、好ましくは1〜100バールの間、特に好ましくは5〜10バールの間の圧力で導入する。圧力が過度に低いと、言及するに値するほどの量のリン酸塩が溶解しない。下水スラッジアッシュ中または下水スラッジ中に含まれているリン酸塩が顕著な量で溶解するのは、圧力が0.1バールを超えてからである。低い圧力に比較して、圧力が200バールを超えても、顕著に高い量のリン酸塩が溶解される訳ではない。
【0026】
本発明のさらなる好ましい実施態様においては、抽出剤としての二酸化炭素を導入する際の懸濁液は、−20〜+200℃の間、好ましくは0〜+100℃の間、特に好ましくは+20〜+50℃の間の範囲の温度である。
【0027】
本発明のさらなる好ましい実施態様においては、液状懸濁剤からの不溶性の固形物の分離は、濾過法、沈降法、または遠心分離法の手段によって実施する。
【0028】
本発明のさらなる好ましい実施態様においては、懸濁剤からの二酸化炭素の除去は、圧力を下げるか、および/または温度を上げるか、および/またはたとえばCa(OH)を用いて沈殿させるか、および/または超音波処理をするか、および/またはマイクロ波処理をするか、および/または機械的なガス抜き補助具(mechanical gas extraction aids)を使用するか、によって実施する。
【0029】
本発明のさらなる好ましい実施態様においては、懸濁剤からの二酸化炭素の除去、ならびに再使用可能な物質の沈殿および分離を、連続的な工程で分画して実施する。
【0030】
本発明のさらなる好ましい実施態様においては、懸濁剤から再使用可能な物質を沈殿させるために、沈殿剤をさらに使用するが、それらは、好ましくはアルカリ金属またはアルカリ土類の化合物、好ましくはアルカリ金属またはアルカリ土類の水酸化物、特に好ましくは水酸化カルシウムである。
【0031】
COを用いた抽出プロセスによって、現行技術における不都合を克服することができるということが見出された。その点に関連して、抽出手順のための基本的な構成成分は、懸濁剤、水および/またはアルコール、ならびにガス状または超臨界状態の二酸化炭素の形態で導入される二酸化炭素だけである。これによって、エネルギーコストの高い加熱プロセスを使用せずにすむ。残渣を乾燥させる操作のみが、より高いエネルギーの投入を必要とする。
【0032】
本発明による抽出プロセスを用いると、広い温度範囲で操作をすることが可能であり、+20〜50℃の間の温度が特に好ましい。この点に関連して、下水スラッジ生成物の個々の成分が、二酸化炭素の手段によって溶解され、残渣から分離される。次いで、溶解された成分を含む濾液は、特別に目標とする方法で二酸化炭素を除去する。これは、連続の工程で分画した方法で実施するのが好ましく、それによって個々の画分を分離し、適切な用途に送ることが可能となる。例を挙げれば、リン酸塩を豊富に含む画分は、肥料の成分として使用することができる。鉄およびその他の重金属を含む画分は、原料としてリサイクルさせることができる。
【0033】
実施例
実施例において用いた下水スラッジアッシュは、産業下水スラッジ焼却プラント由来のものであるが、それには市町村の下水スラッジも使用されている。
【0034】
実施例1
900mLの水を、5kgの下水スラッジアッシュと混合し、バブルスパッターの中で二酸化炭素ガスを通し、次いで6バールの圧力、22℃で20分間撹拌する。その後に、その濾液から、固体成分を分離する。次いでその濾液を加熱して40℃とし、真空下で100gの水を留去する。沈殿が始まったらすぐに濾過する。最初の濾過画分は、まだ2%を超える鉄と0.5%のZnOとを含んでおり、その残りは主としてCaSOである。さらに加熱を続けて、新規な沈殿を起こさせる。その沈殿には、Pとして10%を超えるリン、およびCaOとして45%を超えるカルシウムが含まれている。
【0035】
実施例2
100Lの水を、圧力容器の中に入れる。その中に、0.5kgの下水スラッジを導入する。その系に二酸化炭素を導入して、圧力が15バールに達するようにする。その圧力を注意深く下げていって、圧力4バールとする。放置して沈降させることでスラッジを分離し、圧力下に液体を除去する。次いで圧力を解放し、真空下に濾液から残存しているCOを除去する。この場合に発生した沈殿は、分離して乾燥させる。第一の抽出操作で、Pとして16%のスラッジの中に含まれているリンを得ることができる。多段抽出をすることによって、スラッジに含まれる30%を超えるリンが得られる。
【0036】
実施例3
10%の下水スラッジの水性懸濁液を作る。その懸濁液を、COと共に12℃で10分間混合する。この場合、30バールの圧力がかかるようにする。次いで圧力を注意深く解放し、透明な上澄み液を分離する。次いで、その濾液から真空下にCOを除去して、溶解された物質の沈殿を起こさせる。得られたフィルターケーキを乾燥させると、P−含有肥料として使用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下水スラッジ生成物、すなわち下水スラッジ、下水スラッジアッシュ、または下水スラッジスラグから、抽出法によって、再使用可能な物質、特にリン酸塩を回収するためのプロセスであって、
前記下水スラッジ生成物の懸濁液を、水、アルコール、水−アルコール混合物、または水性溶液の中で作成し、
前記下水スラッジ生成物の懸濁液の中に、抽出剤としてガス状の二酸化炭素(CO)または超臨界状態の二酸化炭素(scCO)を導入し、
不溶性の固形物を、前記液状懸濁剤から分離し、
前記懸濁剤から二酸化炭素を除去し、そして
前記懸濁剤の中に溶解されている再使用可能な物質を沈殿させ、前記懸濁剤から分離する、
プロセス。
【請求項2】
前記下水スラッジ生成物の前記懸濁液を作成するための前記懸濁剤が、1種または複数のアルコールを、前記液状懸濁剤の量に対して0.1〜50重量%の間、好ましくは1〜10重量%の間、特に好ましくは1〜5重量%の間の量で含み、前記1種のアルコールまたは複数のアルコールが、好ましくは、メタノール、エタノール、およびイソプロパノールから選択されることを特徴とする、請求項1に記載のプロセス。
【請求項3】
前記下水スラッジ生成物の前記懸濁液を作成するための前記懸濁剤がさらに、1種または複数の酸を、前記液状懸濁剤の量に対して0.001〜80重量%の間、好ましくは0.01〜30重量%の間、特に好ましくは0.1〜10重量%の間の量で含み、前記1種の酸または複数の酸が好ましくは、有機モノカルボン酸およびジカルボン酸、ならびに鉱酸好ましくは、HClおよびHSOから選択されることを特徴とする、請求項1または2に記載のプロセス。
【請求項4】
前記懸濁液が、前記懸濁液の作成において、前記下水スラッジ生成物を、液状懸濁剤の量に対して0.1〜60重量%の間の量で含むことを特徴とする、請求項1乃至3のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項5】
前記下水スラッジ生成物の前記懸濁液の中に、抽出剤としてガス状の二酸化炭素(CO)を導入することを特徴とする、請求項1乃至4のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項6】
前記下水スラッジ生成物の前記水性懸濁液の中に、抽出剤として、二酸化炭素を、0.1〜200バールの間、好ましくは1〜100バールの間、特に好ましくは5〜10バールの間の圧力で導入することを特徴とする、請求項1乃至5のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項7】
前記抽出剤としての二酸化炭素を導入する際の前記懸濁液が、−20〜+200℃の間、好ましくは0〜+100℃の間、特に好ましくは20〜+50℃の間の範囲の温度にあることを特徴とする、請求項1乃至6のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項8】
前記液状懸濁剤からの不溶性の固形物の分離が、濾過法、沈降法、または遠心分離法の手段によって実施されることを特徴とする、請求項1乃至7のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項9】
前記懸濁剤からの二酸化炭素の除去が、圧力を下げるか、および/または温度を上げるか、および/またはたとえばCa(OH)を用いて沈殿させるか、および/または超音波処理をするか、および/またはマイクロ波処理をするか、および/または機械的なガス抜き補助具を使用するか、によって実施されることを特徴とする、請求項1乃至8のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項10】
前記懸濁剤からの二酸化炭素の除去、ならびに再使用可能な物質の沈殿および分離が、連続的な工程で分画して実施されることを特徴とする、請求項1乃至9のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項11】
前記懸濁剤から再使用可能な物質を沈殿させるために、沈殿剤をさらに使用するが、それらが、好ましくはアルカリ金属またはアルカリ土類の化合物、好ましくはアルカリ金属またはアルカリ土類の水酸化物、特に好ましくは水酸化カルシウムであることを特徴とする、請求項1乃至10のいずれか1項に記載のプロセス。

【公表番号】特表2012−525976(P2012−525976A)
【公表日】平成24年10月25日(2012.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−510202(P2012−510202)
【出願日】平成22年4月30日(2010.4.30)
【国際出願番号】PCT/EP2010/055936
【国際公開番号】WO2010/130589
【国際公開日】平成22年11月18日(2010.11.18)
【出願人】(596009652)
【Fターム(参考)】