説明

スラリーの抜出方法

【課題】スラリーを収容している攪拌槽から長期間安定してスラリーを抜き出す方法を提供する。
【解決手段】攪拌槽内のスラリーの固形分濃度を60重量パーセント以下に保つとともに、攪拌槽の外部又は攪拌槽の外部の直近にスラリーの流量を調整する調整弁を、攪拌槽内部から外部へのスラリー流量がある状態のとき、調整弁可動部cが攪拌槽壁aより攪拌槽の内部に突出するように設置し、さらに、調整弁内部にスラリーを溶解することが可能な洗浄水を常時または一時的に注入することができる装置を設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スラリーが収容されている攪拌槽から長期間安定してスラリーを抜き出すことができる抜き出し方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
化学工業では様々な場面でスラリーが取り扱われている。しかしながら、スラリーは固体を含んでいるので、これに起因する取り扱い上の問題がいくつか発生することがある。その一つはスラリー中の固体が容器内で沈降しないように、常に流動させておく必要があるということである。そのため、スラリーは通常、攪拌機を備えた攪拌槽に収容されている。
【0003】
しかしながら、スラリー中で結晶が生成および/または成長する場合、すなわちスラリーを構成する液相がスラリー中の結晶に対し溶解力を有する場合には、攪拌槽の槽壁や攪拌機に結晶が堆積および/または付着する現象が起こることが多い。これは単にスラリー中の結晶が沈降するだけでなく、沈降した結晶が集積して大きな固体になるためである。
【0004】
加えて、このような堆積物および/または付着物ならびにこれらの集積物は衝撃などにより槽壁から剥離してスラリー中に混入してくることがある。剥離した集積物は短時間ではスラリー中の結晶の大きさまで分解せずに剥離したままの大きな塊状物またはその破砕物として存在することが多い。さらには、高濃度スラリーを一定の流れにおいて抜き出す場合、抜き出し管付近で粒子同士がブリッジを形成しスラリーの送液を阻害することもある。
【0005】
例えば、攪拌槽中でテレフタル酸ジメチルを加水分解してテレフタル酸を製造する工程では、反応条件下における水溶液中へのテレフタル酸溶解度は比較的小さいので、生成したテレフタル酸の大部分は結晶として水溶液中に懸濁しているが、その一部は反応槽の壁面や攪拌機などに集積することがある。この集積が抜き出し管付近で発生した場合、スラリーの送液ラインが閉塞してしまってスラリーの送液ができなくなることがある。また、抜き出し管より離れた場所で発生した場合でも、衝撃などによりこれらの集積物が剥離してスラリー中に混入すると、抜き出し管に流入、抜き出し管やラインの一部分が閉塞してスラリーの送液ができなくなることがある。特に水とテレフタル酸ジメチルとを加水分解反応して得られたスラリーは架橋現象を起こしやすく、スラリー濃度が高くなるとブリッジを起因とした閉塞が発生しやすい。
【0006】
このような問題を解消するため、底部に設置されている抜き出し管の開口部を底部より50mm以上突出させて設置する方法(例えば、特許文献1参照。)が提案されているが攪拌機の形状によっては底部から50mmも突出させることができないタイプあるので、適用範囲が限定されるといった欠点や、抜き出し管に結晶が直接付着、成長した場合には対応できないという欠点がある。これに対し、振動発生器を用いて詰まり箇所に振動を与えて閉塞防止を図る方法(例えば、特許文献2参照。)も提案されているが、内面の付着が激しい場合は閉塞物を除去できない、フランジ部にも振動が伝わると漏洩の原因になる可能性があるといった欠点がある。また、スラリー取り出しと洗浄液もしくは加圧空気などの気体成分を交互にながす方法(例えば、特許文献3、4、5参照。)も報告されている。これらの洗浄を実施すると洗浄直後は送液状況が良好になるという効果が得られるが、スラリーの送液が間欠になる上、洗浄液の使用量が増加するとスラリーの品質にも悪影響を及ぼすという欠点がある。
【0007】
【特許文献1】特開平8−141386号公報
【特許文献2】特開2001−278449号公報
【特許文献3】特開平11−226385号公報
【特許文献4】特開2006−142152号公報
【特許文献5】特開2006−143612号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は上記背景技術を鑑みなされたもので、その目的は、抜き出し部に付着が発生、成長した場合および/または抜き出し口部付近で固体のブリッジが形成された場合、さらには、ラインを閉塞に至らしめるような大きな集積物が槽内に存在した場合においても、スラリー内の結晶物性に影響を与えるまでの過剰な洗浄液を使用することなく、スラリーを収容している攪拌槽から長期間安定してスラリーを抜き出す方法を提供することにある。なお、本報でいうラインとは、配管単体を表すのもではなく、配管単体に加えて弁や計器類といった付属品を含む流路のことである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らの研究によれば、「スラリーが収容されている攪拌槽からスラリーを抜き出すに際し、下記(1)〜(6)の事項を含んでなることを特徴とするスラリーの抜き出し方法。
(1)攪拌槽の外部又は攪拌槽の外部の直近にスラリーの流量を調整する調整弁が設置されていること。
(2)調整弁が調整弁可動部と調整弁固定部を有していること。
(3)調整弁が開の状態となり攪拌槽内部から攪拌槽外部へのスラリー流量がある状態では、調整弁可動部が攪拌槽壁より攪拌槽の内部に突出することが可能な構造であること。
(4)攪拌槽に収容されているスラリーが攪拌槽からスラリーの状態で通過する流路において、調整弁を全開とした時の調整弁可動部と調整弁固定部とで形成されたスラリー流路の空間を通過しうる仮想球の最大直径が、送液中のスラリーが通過する他の流路径と比較して最も短いこと。
(5)攪拌槽内に収容されているスラリーの固形分濃度が60重量パーセント以下であること。
(6)調整弁内部にスラリーを溶解することが可能な洗浄水を常時または一時的に注入することができる装置を有すること。」により抜き出し部での閉塞、ラインでの閉塞、洗浄液の過剰な使用によるスラリー中の結晶への影響を防止することができ、上記目的が達成できることが見出された。
【発明の効果】
【0010】
本発明のスラリー抜き出し方法によれば、スラリーを収容している攪拌槽のスラリー抜き出し口に調整弁が存在し、その調整弁の1部分が攪拌槽の内部方向へ突出することが可能となっている。そのため、槽壁に付着物が付着または発生しその大きさが大きく成長して抜き出し口部を覆う場合、槽壁に付着物が付着または発生しその付着物が剥離して抜き出し部に閉塞する場合および抜き出し口部付近でスラリーを形成する溶質分を主とする架橋現象によるブリッジが形成された場合よりなる群から少なくともひとつの状況が発生する場合でも調整弁の作動に伴い、機械的に付着物の除去やブリッジの破壊が可能である。加えて、攪拌槽からスラリーの状態でスラリーが通過する流路において、調整弁を全開とした時の調整弁可動部と調整弁固定部とで形成されたスラリー流路の空間を通過しうる仮想球の最大直径が、送液中のスラリーが通過する他の流路径に対して最も短いため、ラインを閉塞に至らしめるような大きな剥離物がラインに混入することを防止することが可能となる。これらの効果により、スラリーが収容されている攪拌槽から長期間安定してスラリーを抜き出すことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態を、図面を用いて説明する。図1は実施形態の攪拌槽を示し、攪拌槽の外部に調整弁が取り付けられている場合に該当し、(a)がスラリーが収容されている攪拌槽の槽壁を、(b)が調整弁固定部を、(c)が調整弁可動部をそれぞれ表す。調整弁は、(b)調整弁固定部と(c)調整弁可動部とで構成されている。(b)の調整弁固定部は(a)の攪拌槽の槽壁と接合されており、その一部は攪拌槽内に面している。(c)の調整弁可動部は(b)調整弁固定部の内部空間に収納されており、棒状の可動部が図面の左右方向に可動するように設計されている。図1における(c)が調整弁可動部の右端にある先端部はテーパー状に徐々に太くなるよう加工されており、攪拌槽内に面している図1におけるA−A’断面の中央部にある穴の形状をふさぐことができるようになっている。図1におけるA−A’断面の中央部にある穴の形状を塞いだ際には、攪拌槽の内部から攪拌槽の外部へのスラリー流量がなくなり、完全に攪拌槽内にスラリーが滞留する。一方、A−A’断面の中央部にある穴の形状が開いた場合には、攪拌槽の内部から攪拌槽の外部へのスラリーが流れ、スラリー流量がある状態となる。
【0012】
図1において、(c)調整弁可動部が左に移動して、(c)の右端にある先端部分が(b)調整弁固定部の攪拌槽に面している部分の中央部にある穴と全面に接触して、攪拌槽から槽外へつながれているライン(流路)を完全に塞ぐ状態では、攪拌槽内に収容されているスラリーの送液は遮断された状態、すなわち調整弁が全閉の状態となる。逆に(c)が右に移動して、調整弁可動部の一部分が攪拌槽壁から攪拌槽内部に突出し、(b)調整弁固定部の攪拌槽に面している部分と(c)の右端にある先端部分との間に空間が出来ると、その空間を通って攪拌槽内のスラリーが排出される状態すなわち調整弁が開いている状態となる(以下、この空間の幅を開度ということがある)。さらに(c)が右側に移動して(c)の可動領域の限界まで到達すると調整弁が全開の状態となる。ここで、(c)は全開と全閉との間の任意の位置で自由に停止できる機能を持つことが好ましい。すなわち、任意の自由な位置で停止できる機能をもっていれば、当該調整弁を用いて、ラインを通過するスラリー量を自由に調整できる。さらに好ましくは、当該調整弁によりラインを通過するスラリー量を制御することである。すなわち、ラインを通過するスラリー量もしくは攪拌槽のレベルを当該調整弁にて制御した場合、当該調整弁は一定開度のまま保持されるのではなく、適度に開度が変化することになるので、流量に強制的な変化が発生してスラリーを形成する溶質成分などによるブリッジ形成を阻害する働きが期待できる。また、該調整弁は攪拌槽の側部に取り付けることが好ましい。すなわち、攪拌能力が不十分なために攪拌槽の底部のスラリー濃度に濃淡が発生した場合でも攪拌槽の側部に調整弁を設置していれば、攪拌槽の側部から次工程の設備へのスラリー送液に悪影響を与えないからである。
【0013】
攪拌槽内に収容されているスラリーの固形分濃度は60重量%以下であることが必要である。固形分濃度が60重量%を超えるとスラリーのブリッジ形成速度が速くなり、調整弁の作動より機械的にブリッジを破壊しても、すぐさまブリッジが再形成されるため、結果的にスラリーの送液が困難となり好ましくない。また、固形分濃度が20重量%以下のスラリーでは、架橋現象や槽壁への付着なども発生しにくく、本発明のような設備は特に必要ない。よって、本発明は20〜58重量%の範囲のスラリーに用いることがより好ましい。
【0014】
なお上記は攪拌槽に調整弁が直接取り付けられている場合であるが、攪拌槽から一定の長さを有する配管が設けられ、その配管の攪拌槽から直近の部分に上記のような調整弁が設置されている場合であっても、(c)調整弁可動部の右端にある先端部部分が攪拌槽壁から攪拌槽内部に突出することができるように調整弁が設置されている限り本願発明の範囲である。
【0015】
上記の装置を用い、本発明のスラリーの抜き出し方法が好ましく用いることができるスラリーとして、テレフタル酸ジメチルを加水分解して主にテレフタル酸と水からなるスラリーを使用する場合を例にして説明する。当該スラリーは以下のような条件で製造されることが好ましい。すなわち撹拌槽(加水分解反応器として使用)にテレフタル酸ジメチルおよび水を導入し、攪拌機を回転させて攪拌しながら加水分解反応を行う。ここで、加水分解反応は温度が180℃〜280℃、圧力が1.0〜6.3MPaで行うことが好ましい。温度が180℃以下の場合、加水分解反応速度が遅いため攪拌槽を大きくする必要があるので設備投資額的に高額になる。逆に加水分解反応温度が280℃以上になると、圧力が6.3MPaを超えて非常に高圧になるので安全対策などの設備投資額が高額になるという問題が生じる。さらにこの加水分解反応は水1重量部に対し、テレフタル酸ジメチルならびにテレフタル酸ジメチル誘導体の合計が1.5重量部以下(60重量%)であることが好ましい。1.5重量部以上になると、反応速度が遅くなる、大気圧の条件下で固液分離をする際に180℃以上の高温条件では溶解していたテレフタル酸ジメチルならびにテレフタル酸ジメチル誘導体の析出が発生してスラリーの送液が難しくなる、という問題が発生する。ここで、テレフタル酸ジメチル誘導体は主としてテレフタル酸のことであり、少量のテレフタル酸モノメチルエステルが含まれている場合も含む。
【0016】
加水分解反応によりテレフタル酸ジメチルは加水分解されてテレフタル酸が生成するが、このテレフタル酸は結晶として析出し、スラリーが形成される。スラリーは、後段の加水分解反応器もしくはタンクなどに図1に示した調整弁を経由して移送される。結晶を含むスラリーは攪拌により反応器の内壁に沿って循環しているが、外部への放熱が発生しやすい調整弁付近ではスラリーの液温が下がり、溶解度の限界を超えた場合には溶解している成分が析出すること等が原因となって、槽の内壁に沿って板状に付着が成長し、スラリーの抜き出し口を閉塞させることがある。しかしながら、槽もしくはその直近に調整弁を取り付け、且つその調整弁が作動した際には、その1部分が槽壁より内部に突出することが可能な構造となっているとこのような付着が発生しても、調整弁の(c)部位が作動した際に付着物が(c)の図1において右端にある先端部分により機械的に槽内部へ押し込まれ、調整弁付近から除去されるので攪拌槽の抜き出し口を完全に閉塞させることが回避できる。
【0017】
さらに、攪拌槽内では気相部と液相部の境界部分に主としてテレフタル酸が析出、集積して大きな塊を形成することがある。このような大きな集積物が剥離してスラリー内に混入した場合でも、攪拌槽から次工程に該当する設備までのスラリーが通過する流路において、調整弁を全開とした時の調整弁可動部と調整弁固定部とで形成されたスラリー流路の空間を通過しうる仮想球の最大直径が、送液中のスラリーが通過する他の流路径と比較して最も短い場合には、当該調整弁可動部と調整弁固定部とで作られた空間がスラリーが通過する他の流路径に対して最も狭い構造となっていることになり、大きな塊は調整弁を通過することができず攪拌槽内に保持されたままの状態となるのでラインを閉塞させない。
【0018】
好ましいことに、水とテレフタル酸ジメチルとを加水分解反応させて得られたスラリーでは、このような大きな集積物は攪拌条件下において集積が徐々に破断されて細かい粒子となる。該粒子が調整弁可動部と調整弁固定部との最短距離を通過できる大きさまで破断されれば、調整弁を通過することが可能となるので、大きな粒子が攪拌槽内に多量に蓄積されて、運転の継続ができなくなるといった状況を回避することが出来る。
【0019】
加えて本発明においては、調整弁の内部にスラリーを溶解することが可能な洗浄水を常時または一時的に注入することができる装置を有しているため、調整弁内部および/またはスラリーが通過する他の流路においてテレフタル酸などの析出、付着が発生したとしても洗浄水によって溶解除去することが可能となるため、長期間安定して運転することが可能となる。調整弁内部においては、図1に示すように洗浄水を調整弁固定部と調整弁可動部の間の空間に直接注入することによって調整弁内部のスラリーを溶解除去することができる。スラリーが通過する他の流路においては、攪拌槽から調整弁を通るスラリーの流量を減量又は停止させ、その間に洗浄水を注入することによって、同様の効果を発現することができる。ここでスラリーを溶解することが可能な洗浄水とは、不純物として含有するスラリーの固形分、具体的な一例としてはテレフタル酸があげられるが、その固形分の濃度が洗浄水の温度における飽和溶解度以下の水であって、好ましくは200℃以上かつ不純物として含有するスラリーの固形分の濃度が1重量パーセント以下の水である。
【0020】
また本発明の図2には、図1における本発明で用いる調整弁が開状態時の弁開口部A−A’断面の一例図を示した。外側の円が(b)調整弁固定部を示し、内部の網掛け部分が(c)調整弁可動部の断面を示している。(ア)は調整弁固定部内部のスラリーの流路となる部分および調整弁可動部の可動部分の横断面形状が共に円形断面を有している場合であり、最も一般に用いることができる。(イ)は調整弁可動部の可動部分の横断面形状が円形に加えてさらに放射線状に部材が付加されている場合である。これは調整弁可動部の曲げ弾性を強化する観点から好適な形状であると考える。(ウ)および(エ)は調整弁可動部を工具等で掴む場合を想定して、掴みやすいような形状にした場合である。また(ア)〜(エ)において矢印が本発明で言うところの調整弁を全開とした時の調整弁可動部と調整弁固定部とで作られた空間を通過しうる仮想球の最大直径を示している。この矢印の長さに相当する直径分の仮想球であれば、図2の(ア)〜(エ)の横断面形状構造を有する配管をスラリーが容易に通過することができ、スラリーを送液中にスラリー流路が閉塞することはない。該調整弁を全開とした時の調整弁可動部と調整弁固定部とで作られた空間を通過しうる仮想球の最大直径とは調整弁可動部と調整弁固定部とで作られた空間のスラリー流路の最も狭い流路幅を示しているともいえる。本発明においては、スラリーの流路においてこの部分が最も空間的に狭い部分であるので、スラリー中に含まれている固形分粒子の直径がこの矢印以下の大きさであれば、スラリーの固形分粒子はこの部分の流路を通過することができるので、スラリーの固形分粒子が調整弁可動部と調整弁固定部とで作られた空間を含めてスラリーの流路を閉塞することはない。
【実施例】
【0021】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は、これらの実施例に限定されるものではない。
【0022】
[実施例1]
テレフタル酸ジメチルの加水分解反応によるテレフタル酸製造設備において、図1に示すようなスラリー抜き出し用調整弁を持つ20mの攪拌機付き反応槽に純水を12m溜め込んだ。次に260℃の水蒸気を5000kg/Hrの流量で反応槽の液部に吹込み、圧力4.3MPa、温度253℃の状態まで反応槽内を加熱した。以降、圧力は4.3MPaに保持するように反応槽より放出させる蒸気の量を調整しつつ、液保持量も12m一定となるように図1に示した調整弁の開度を制御することにより、次の槽への送液量を調整した。この圧力、液保持量条件を維持しつつ、さらに水を4000kg/Hr、テレフタル酸ジメチルを5000kg/Hrの流量で反応槽へ連続的に供給した。その結果反応槽へ供給されるスラリーの固形分濃度は55.5重量%となる。ここで液とは、単純に水だけを示すものではなく、テレフタル酸ジメチルおよびテレフタル酸を主とするテレフタル酸ジメチル誘導体、と水との混合スラリーを含んだものも示す。さらに反応槽に連続的に供給した水としては、供給開始時では純水を使用していたが、実験を続けるに伴って加水分解反応によって生成したテレフタル酸/水スラリーよりテレフタル酸の結晶を遠心分離により除去した濾液の一部または全部から水成分の一部を水蒸気の状態で回収した後の残渣を使用した。このため、ここでいう水とはテレフタル酸およびテレフタル酸誘導体を10重量パーセント以下の割合で含んでいる水のことである。加えて、調整弁内部には260℃の純水を洗浄水ライン閉塞防止の目的で10L/Hrの流量で洗浄水ラインより供給した。この条件でスラリーを送液したところ、テレフタル酸ジメチルの供給を開始してから3日を経過しても閉塞を生じることなく安定した運転をすることができた。
【0023】
[実施例2]
実施例1において、実施例1を終了した後も更に実施例1の操作を継続し、テレフタル酸ジメチルの供給を開始してから7日を経過した以外は実施例1と同様の条件にてスラリーを送液したところ、調整弁の開度が初日に40%であったのに比較して7日目では70%まで大きくなっている現象が確認された。このため、調整弁を一時的に閉止して、先浄水として260℃の純水を2000kg/Hrの流速で30秒間流し、調整弁ならびにスラリーが通過する他の流路を洗浄した。次いで、スラリー送液している下流側のバルブを閉止し調整弁を開閉して調整弁の上流側を30秒間洗浄した。その後、閉止していた下流側のバルブを開け、先浄水を停止しから調整弁の開度を調整してスラリーの送液を再開したところ、調整弁の開度は40%で安定してスラリーを送液でき、攪拌槽のレベルを一定に保持できるようになった。ここで、レベルを一定に保持とは、運転時間の90%以上を目標とするレベルに対して10%の誤差範囲内のレベルに保持できることをいう。
【0024】
[比較例1]
実施例1において、攪拌機付き反応槽のスラリー抜き出し弁には本願発明の請求項1の要件を満たさないボールバルブを用い、図1のような抜き出し用調整弁の設置位置を送液先の槽直近に変更した以外は実施例1と同様の条件にてスラリーを送液したところ、テレフタル酸ジメチルの供給を開始してから2時間でスラリーの抜き出しが不可能になり、運転を継続することができなくなった。
【0025】
[比較例2]
実施例2において、洗浄水による洗浄を実施しない以外は実施例2と同様の条件にてスラリーを送液したところ、調整弁の開度が40%〜100%の範囲で大きく変動し、攪拌槽のレベルを一定に保持することが困難になった。その結果安定してスラリーの送液を行うことができなかった。
【産業上の利用可能性】
【0026】
色相が良好で透明性に優れたポリエステル原料の製造方法を提供することができ、スラリー送液ラインの閉塞による設備破損、緊急停止、これらに伴う災害や洗浄液を多量に使用することによる製品品質の異常および/または変動を防止することができる。この点において工業面で非常に有意義である。
【0027】
また、本発明のスラリー抜き出し方法によれば、スラリーを収容している攪拌槽の抜き出し口に調整弁の1部分が突出することが可能である。故に、抜き出し部に付着物が発生、成長した場合および/または抜き出し口部付近でスラリーを形成する溶質分を主とするブリッジが形成された場合でも調整弁の作動に伴い、機械的に付着物の除去および/またはブリッジの破壊が可能である。加えて、攪拌槽から次の槽までのスラリーが通過する流路において、調整弁を全開とした時の調整弁可動部と調整弁固定部との最短距離が、スラリーが通過する他の流路径に対して最も狭いため、ラインを閉塞に至らしめるような大きな剥離物がラインに混入することを防止することが可能となる。これらの効果により、スラリーが収容されている攪拌槽から長期間安定してスラリーを抜き出すことができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明で用いる攪拌槽抜き出し部付近ならびに調整弁の一例図を示す。
【図2】本発明で用いる調整弁が開状態時の弁開口部A−A’断面の一例図を示す。
【符号の説明】
【0029】
(a) スラリーが収容されている攪拌槽の槽壁
(b) 調製弁固定部
(c) 調製弁可動部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
スラリーが収容されている攪拌槽からスラリーを抜き出すに際し、下記(1)〜(6)の事項を含んでなることを特徴とするスラリーの抜き出し方法。
(1)攪拌槽の外部又は攪拌槽の外部の直近にスラリーの流量を調整する調整弁が設置されていること。
(2)調整弁が調整弁可動部と調整弁固定部を有していること。
(3)調整弁が開の状態となり攪拌槽内部から攪拌槽外部へのスラリー流量がある状態では、調整弁可動部が攪拌槽壁より攪拌槽の内部に突出することが可能な構造であること。
(4)攪拌槽に収容されているスラリーが攪拌槽からスラリーの状態で通過する流路において、調整弁を全開とした時の調整弁可動部と調整弁固定部とで形成されたスラリー流路の空間を通過しうる仮想球の最大直径が、送液中のスラリーが通過する他の流路径と比較して最も短いこと。
(5)攪拌槽内に収容されているスラリーの固形分濃度が60重量パーセント以下であること。
(6)調整弁内部にスラリーを溶解することが可能な洗浄水を常時または一時的に注入することができる装置を有すること。
【請求項2】
スラリーが水とテレフタル酸ジメチルを加水分解反応させて得られたものである請求項1記載のスラリー抜き出し方法。
【請求項3】
スラリーが水とテレフタル酸ジメチルとを加水分解反応させて得られたものであり、且つ下記(1)〜(3)を含んでなることを特徴とする請求項1または2のいずれかに記載のスラリー抜き出し方法。
(1)スラリーが収容されている攪拌槽の温度が180℃〜280℃であること。
(2)スラリーが収容されている攪拌槽の圧力が1.0〜6.3MPaであること。
(3)水1重量部に対しテレフタル酸ジメチルおよびテレフタル酸ジメチル誘導体の合計が1.5重量部以下であること。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−110710(P2010−110710A)
【公開日】平成22年5月20日(2010.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−286683(P2008−286683)
【出願日】平成20年11月7日(2008.11.7)
【出願人】(302011711)帝人ファイバー株式会社 (1,101)
【Fターム(参考)】