説明

スリットケーソンの開口部密閉装置

【課題】スリットケーソンの海上輸送が容易、かつコスト低廉に行えるようにする。
【解決手段】スリットケーソン2の筐体20の外側に位置し、この筐体20に設けられた開口部21を塞ぐ蓋体11と、この蓋体11と対向するように筐体20の内側に位置した係止部材12と、両者を平行リンク状に連結した一対のリンク部材13,13とで開口部21の密閉装置1を構成した。そして、蓋体11の裏面側には、開口部21の周囲の筐体外壁面22に圧接してこの開口部21を水密に塞ぐパッキン材14を設け、係止部材12の左右両側には、筐体内壁面23との間に介在して膨らむことにより、蓋体11を開口部21側に押付ける弾性中空部材15などの付勢手段を設けた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スリットケーソンと称される開口部を備えたケーソンを、製造現場から設置現場まで曳航する際に用いられる開口部密閉装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、港湾などにおける防波堤や護岸には、消波ブロックを積み重ねた消波ブロック被覆堤が多く用いられている。しかしながら、この消波ブロック被覆堤は、大量の消波ブロックを必要とするので、建設に要するコストが嵩むという問題点があった。そこで、近年は、図11に示したように、コンクリートなどで大型の箱状に形成されたケーソンの外側面に波透過用の開口部を設けた所謂スリットケーソンと称されるものが、消波ブロックの代りに多く用いられている。
【0003】
このスリットケーソンは、大型の構造物であるため、一般に乾ドックで製造され、製造後、設置現場まで海上輸送されていた。
【0004】
ここにおいて、一般的なケーソンは、開口部が設けられていないので、直接、海上に浮かべることができ、そのままタグボートで曳航することが可能であった。しかしながら、開口部が設けられたスリットケーソンの場合、開口部からケーソンの筐体の内部に海水が浸入するため、そのまま海上に浮かべて曳航することができなかった。そこで、この種のケーソンを曳航する場合には、クレーン船を用いてある程度、ケーソンを吊り上げた状態で曳航するということが行われていた。しかしながらこのような曳航は安定性が悪く、安全回航に困難を伴い、また、気象による影響を大きく受けるため、大型のクレーン船を長期間にわたってチャーターしておかなくてはならず、作業能率並びに経済効率が悪いという問題点があった。
【0005】
この点を改善するために、ケーソンに浮力を与え曳航するための種々の支援装置が開発されている。
【0006】
例えば、縦部材と横部材とで門型に形成された連結ビームの下端両側に浮力体を設けると共に、この連結ビームの横部材にケーソン吊り下げ手段を設け、浮力体間でケーソンを吊り下げ支持するようにしたもの(例えば、特許文献1参照)や、巻上げウインチを設けた2隻の浮力台船と、この浮力台船の下方に前記巻上げウインチで昇降可能に吊されたケーソン仮置架台とからなり、ケーソン仮置架台上に載置されたケーソンを、その両側に位置した浮力台船で安定保持するようにした架台方式のケーソン回航支援装置(例えば、特許文献2参照)があった。
【特許文献1】特開2002−327442公報(第3−4頁、図1)
【特許文献2】特開2003−3480公報(第2頁、図1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述した従来の曳航支援装置は、何れも大掛かりで製造コストが高いという問題点があった。また、装着にはケーソンを挟み込むようにその両側に浮力体や浮力台船を配置しなくてはならないので、そのためのスペースを必要とし、スペースが限られる乾ドック内での作業が行い難いという問題点もあった。さらに、この種の曳航支援装置はケーソンを設置現場まで曳航した後、空の状態で持ち帰らなくてはならないが、上述したように大掛かりで嵩張るため、そのための余分な労力を必要とし、かつ回収コストも嵩むという問題点があった。
【0008】
本発明は、上述した従来のスリットケーソンの海上輸送に伴う問題点の解決を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の問題点を解決するために、本発明では、スリットケーソンの開口部を塞ぎ、スリットケーソン自体に浮力を生じさせることとし、そのために請求項1記載の発明では、スリットケーソンの筐体外側に位置し、該筐体に設けられた開口部を塞ぐ蓋体と、該蓋体と対向するように筐体の内側に位置した係止部材と、上記蓋体と係止部材とを連結したリンク部材とでスリットケーソンの開口部密閉装置を構成した。そして、上記蓋体の裏面側には、開口部の外周縁に圧接して該開口部を水密に塞ぐパッキン材を設け、係止部材の端部には、筐体の内壁面との間に介在し、伸縮あるいは体積変化によりリンク部材を介して接続された蓋体を開口部側に付勢する付勢手段を設けたことを特徴とする。
【0010】
請求項2記載の発明は、上記請求項1記載の発明の構成中、付勢手段を液体あるいは気体が注入される弾性中空部材と限定したことを特徴とする。
【0011】
請求項3記載の発明は、上記請求項1記載の発明の構成に、蓋体の筐体側への付勢圧力を検出する圧力検出手段をパッキン材に設けた構成を付加したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明のうち、請求項1記載の発明では、スリットケーソンの開口部密閉装置を、開口部を塞ぐ蓋体と、この蓋体に対向配置される係止部材と、両者を連結したリンク部材とで構成し、蓋体の裏面にパッキン材を設けると共に、係止部材に付勢手段を設けたので、開口部から差し込んで付勢手段を作動させるだけで容易にこの開口部を塞ぐことができる。よって、大掛かりな回航支援装置を用いることなく、ケーソンを直接、海上に浮かべて曳航することができる。また、回収の際もコンパクトに折り畳んで船積みでき、輸送にかかるコストと労力を大幅に削減することができるという効果がある。
【0013】
請求項2記載の発明は、請求項1記載の付勢手段を液体あるいは気体が注入される弾性中空部材と限定したので、構成が簡単でコスト低廉に製造できるにもかかわらず、海水に晒されても機能に障害を受け難く、確実に開口部を密閉するように蓋体を保持できるという効果がある。
【0014】
請求項3記載の発明では、蓋体裏面のパッキン材に筐体側への付勢圧力を検出する圧力検出手段を設けたので、蓋体による開口部の密閉が確実になされたか否かを容易に検知でき、閉蓋不良による不慮の事故が未然防止されるという効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明を図示した実施の形態に基づき詳細に説明する。
【0016】
図1は、本発明に係る開口部密閉装置の使用状態斜視図、図2は、その要部拡大断面図である。
【0017】
ここにおいて、本発明の開口部密閉装置1が取り付けられる対象物であるケーソン2は、鉄筋コンクリートなどで上面が開放された大型の箱状(大きなものでは、一辺の長さが数十メートル、重量が数千トンに及ぶ)に形成され、側面にスリット状の開口部21が複数設けられたものであり、岸壁や護岸、防波堤などに設置されることにより、波のエネルギーを吸収、あるいは減衰させるために使用されるものである。そして、一般にこの種のスリットケーソン2は、船と同様に乾ドックで製造され、製造後、設置現場まで海上輸送されるものである。
【0018】
本発明のスリットケーソンの開口部密閉装置1は、上述したスリットケーソン2の開口部21を水密に塞ぎ、ケーソン自体を浮上構造物として設置現場まで曳航する際に用いられるものであり、図示したようにケーソンの筐体20の外側に位置し、ケーソンの側面に設けられた開口部21を塞ぐ板状の蓋体11と、この蓋体11と対向するように筐体20の内側に位置した係止部材12と、両者を連結したリンク部材13とで構成されている。
【0019】
上記蓋体11は、開口部21を水密に塞げるように、この開口部21より一回り大きなものであれば一枚板状のものであっても、あるいは、図5や図6に示したように、複数の板状部材11a,11bを連結したものであっても良い。なお、このように複数の板状部材11a,11bを連結した場合は、当然、各板状部材11a,11b間から水漏れしないように、その連結部分に適宜、防水処置(図示せず)を施すこととする。また、この連結部分を可撓性を有する部材で構成すれば、図6に示すように屈曲することも可能となり望ましい。
【0020】
なお、この蓋体11の材質としては、腐食しないものが望ましく、例えば比重が1程度の硬質合成樹脂材の使用が考えられる。
【0021】
そして、このように構成された蓋体11の裏面(図2において下面)には、その周縁部分にゴムやエラストマー系の樹脂などで形成されたパッキン材14が枠状に取り付けられ、閉蓋時に該パッキン材14が開口部21の周縁部分に圧接してこの開口部21を水密に塞ぐようになっている。なお、この時、パッキン材14の内側が開口部21内に喰い込むように、上記枠状の部分は、その内寸が開口部21の内寸よりやや小さい寸法に設定しておくことが望ましい。また、パッキン材14の内部には、図3に示すように中空部14aが設けられ、この中空部14aが受ける圧力が圧力センサなどにより外部から感知されるようになっている。
【0022】
リンク部材13は、蓋体11と係止部材12との間に平行に一対設けられ、それぞれの端部は、蓋体11と係止部材12の裏面(図2において上下の対向面)に回動自在に連結されている。したがって、左右のリンク部材13,13は、蓋体11と係止部材12を互いに平行な位置関係を保って移動可能に保持する平行リンク機構として機能する。
【0023】
なお、このリンク部材13の長さは、ケーソンの筐体20の厚みと同等か、やや長い寸法に設定されている。
【0024】
係止部材12は、開口部21を挿通可能で、かつ、この開口部21両側の筐体内壁面23で抜け止めされるように、高さが開口部21の縦方向の寸法よりも小さく、幅が開口部21の横方向の寸法よりも大きく設定されている。そして、この係止部材12の左右両側には、図4に示すように筐体内壁面23との間に位置するように弾性中空部材15が設けられている。この弾性中空部材15は、空洞部15aに海水などの液体、あるいは空気を注入することにより膨らみ、係止部材12をケーソンの内方(図2において下方)に移動させるようになっており、このことでこの係止部材12とリンク部材13を介して連結された蓋体11を、開口部21の周縁部分に圧接させる付勢手段となるものである。
【0025】
なお、この弾性中空部材15も上記パッキン材14と同様に、その内端側(図4において右側)が開口部21内に位置するようにその取付位置が設定されている。
【0026】
本発明のスリットケーソンの開口部密閉装置1は、上記の構成を有している。
【0027】
次にその取付手順について説明すると、まず、ケーソンへの取り付けに際して予めリンク部材13で連結された蓋体11と係止部材12を、その相対位置関係が変わるように全体を略平行四辺形状に変形させ、これをケーソンの製造現場である乾ドック内などにおいて、図7に示すようにケーソン筐体20の外側(図7において上側)から係止部材12を開口部21内に差し込む。この時、係止部材12は、その上下方向の寸法が開口部21の縦方向の長さよりも短いので、図7に示すようにその一端(図7において右下側)が開口部21から筐体20の後側へと突出する。
【0028】
次いで、この状態から図8及び図9に示すように係止部材12の他端(図8において左上側)が筐体20の後側(図8において下側)に回り込むように、密閉装置1自体を開口部21の片側(図8では右側)に寄せた状態で徐々に蓋体11と係止部材12をケーソン筐体20の表面と平行になるように戻し、その後、密閉装置1の全体を左方に移動させて、その中心が開口部21の中心に位置するようにする。このことで、係止部材12は、その両端が図2に示すように筐体内壁面23と対向した状態となる。
【0029】
次にこの状態で係止部材12の両端内側(図2において両端上側)に設けられた弾性中空部材15の空洞部15a内に図示しないポンプなどを用いて海水などの流体を圧入する。そうすると、係止部材12とケーソン筐体の内壁面23との間に位置した弾性中空部材15が、注入された流体の圧力により膨らみ、係止部材12は壁面23から離れる方向に駆動される。係止部材12は、リンク部材13を介して蓋体11と連結されているので、この動きにより、蓋体11は、開口部21側に引っ張られ、結果としてその内周面に設けられたパッキン材14が開口部21周囲の外壁面22に押し付けられ、開口部21が塞がれるものである。
【0030】
以上のようにして、スリットケーソンの筐体20に設けられた開口部21は、図2に示すように密閉装置1の蓋体11で塞がれるものである。
【0031】
図3は、このときの要部拡大断面図である。図示したように蓋体11の裏面に設けられたパッキン材14は、開口部21周囲の筐体外壁面22に押し付けられて圧縮変形し、開口部21を気密に塞ぐと共に、その内端側(図3において右側)が開口部21内に段差h1 だけ突出するように喰い込み、蓋体11の位置ずれを防止するように作用する。また、パッキン材14の内部には、中空部14aが設けられており、この中空部14aの圧力を外部センサ等(図示せず)の適宜手段で検出すれば、空気漏れなく、パッキン材14が筐体20の表面に密着しているか否かが容易に判断できる。
【0032】
図4は、蓋体11の付勢手段となる弾性中空部材15が、ケーソンの筐体内壁面23に圧接した状態を示した断面図である。図示したように、この弾性中空部材15も上記パッキン材14と同様にその内端側(図4において右側)が開口部21内に位置しており、流体を圧入した際にこの部分が段差h2 だけ開口部21内に突出し、係止部材12の位置ずれを防止するようになっている。
【0033】
以上のようにして、ケーソン2に設けられた開口部21を塞いだ後、乾ドック3内に注水すれば、ケーソン2は図10に示すように浮力を受けて浮上するので、その状態でドック3から海上に引き出し、その後、タグボートなどを用いて設置現場まで曳航するようになっている。
【0034】
なお、このようにケーソン2を海上に浮べた状態では、開口部21を塞いだ蓋体11に外部から水圧が加わるため、一層、その密閉度が向上することとなる。よって、海上輸送時にケーソン2の内部に浸水するおそれは全くない。
【0035】
そして、このようにして曳航し、設置現場に到着すれば、クレーンなどの適宜手段でケーソン2を支持しておき、この状態で弾性中空部材15内に注入されている流体を排出すれば良く、このことで蓋体11の付勢力が失われ、密閉装置1は開口部21内を自由に動き得る状態となるので、上述した取り付けと全く反対の手順でこの密閉装置1を開口部21から抜き取ることができ、その後、このケーソン2を所定の設置箇所に設置すれば良い。
【0036】
なお、この開口部密閉装置1の抜き取りは必ずしも海面上で行わなくても良く、例えば、ケーソン2内に注水し、ケーソン2を沈めた状態での作業も可能である。
【0037】
図5、図6は、開口部密閉装置1の蓋体11を屈曲可能に複数に分割した例を示しており、このようにすれば、外側面が平坦な通常の開口部21aはもとより、表面が屈曲した天井部分に設けられた開口部21bなども浸水不可に塞ぐことができる。
【0038】
なお、図5および6において符号16は、パッキン材14と蓋体11との間に設けられた変形可能な連結材を示しており、蓋体11を構成した各板状部材11a,11bの間もこの連結材16で通水不可に塞がれている。
【0039】
以上のようにして本発明のケーソンの開口部密閉装置1は、ケーソンを設置現場まで曳航する際に用いられるものである。
【0040】
なお、上記では、蓋体11を開口部21側に押圧する付勢手段として弾性中空部材15を用いた例を示したが、この付勢手段は、係止部材12を筐体20の内方側に移動させるものであれば良く、例えば、油圧シリンダやエアージャッキのようなものであっても良い。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明に係る開口部密閉装置を取り付けたケーソンの斜視図である。
【図2】図1の要部拡大断面図である。
【図3】パッキン材の密閉時の状態を示した説明図である。
【図4】弾性中空部材の作動時の状態を示した説明図である。
【図5】平坦な箇所に設けられた開口部を閉蓋した状態の斜視図である。
【図6】変形した箇所に設けられた開口部を閉蓋した状態の斜視図である。
【図7】密閉装置の開口部への挿入時の状態を示した説明図である。
【図8】密閉装置の開口部への挿入後の手順を示した説明図である。
【図9】密閉装置を開口部に脱落不可に係止させる手順を示した説明図である。
【図10】乾ドック内でのケーソン浮上時の状態を示した説明図である。
【図11】スリットケーソンの一例を示した簡略斜視図である。
【符号の説明】
【0042】
1 密閉装置
11 蓋体
11a,11b 板状部材
12 係止部材
13 リンク部材
14 パッキン材
15 弾性中空部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
スリットケーソンの筐体外側に位置し、該筐体に設けられた開口部を塞ぐ蓋体と、
該蓋体と対向するように筐体の内側に位置した係止部材と、
上記蓋体と係止部材を連結したリンク部材とを具備し、
上記蓋体の裏面側には、開口部の外周縁に圧接して該開口部を水密に塞ぐパッキン材が設けられ、
係止部材の端部には、筐体の内壁面との間に介在し、伸縮あるいは体積変化によりリンク部材を介して接続された蓋体を開口部側に付勢する付勢手段が設けられたことを特徴とするスリットケーソンの開口部密閉装置。
【請求項2】
上記付勢手段が液体あるいは気体が注入される弾性中空部材で構成されていることを特徴とする請求項1記載のスリットケーソンの開口部密閉装置。
【請求項3】
上記パッキン材に蓋体の筐体側への付勢圧力を検出する圧力検出手段が設けられたことを特徴とする請求項1記載のスリットケーソンの開口部密閉装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2006−112169(P2006−112169A)
【公開日】平成18年4月27日(2006.4.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−302481(P2004−302481)
【出願日】平成16年10月18日(2004.10.18)
【出願人】(593150265)井森工業株式会社 (5)
【Fターム(参考)】