説明

スルフィド鎖含有有機珪素化合物の製造方法

【解決手段】一般式(1)(R1O)(3-p)(R2pSi−R3−S−R4−X(1)の末端ハロゲン基含有有機珪素化合物と、必要により一般式(2)X−R4−X(2)のハロゲン含有化合物及び/又は硫黄とを、相間移動触媒の存在下、一般式(3)M2n(3)の多硫化物又はその水和物の水溶液又は水分散液と反応させる、平均組成式(4)のスルフィド鎖含有有機珪素化合物の製造方法。


【効果】本発明によれば、上記スルフィド鎖含有有機珪素化合物を高収率で安価に製造することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分子内両末端にオルガノオキシシリル基を持ち、分子内中央部にポリスルフィド基を持ち、更にそれらがモノスルフィド基を含んだ二価炭化水素基で連結された有機珪素化合物を、相間移動触媒を用いた水系で簡単かつ安価に製造することができるスルフィド鎖含有有機珪素化合物の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、アルコキシシリル基とポリスルフィド基を分子内に含む化合物は知られている。これらの化合物は、シリカ、水酸化アルミニウム、タルク、クレー等の無機材料と熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、ゴム等の有機材料との界面結合剤や無機基材へのゴムの接着改良剤、プライマー組成物等に応用されている。
【0003】
また、各種ゴムにシリカを配合したゴム組成物も知られており、例えば低発熱性で耐摩耗性などに優れたタイヤトレッド用ゴム組成物として使用されている。従来、このような組成物に対しては、アルコキシシリル基とポリスルフィド基を分子内に含む化合物、例えば、bis−トリエトキシシリルプロピルテトラスルフィドやbis−トリエトキシシリルプロピルジスルフィド等が有効であることは知られている。しかし、これらの化合物を使用しても、まだ引張強度、反発弾性や低発熱性を更に改良したいという要求特性に対しては充分でなかった。
【0004】
このような要求特性を改良するため、例えば特許文献1:特開2004−018511号公報には、下記平均組成式(5)
【化1】

(式中、R1及びR2はそれぞれ炭素数1〜4の一価炭化水素基、R3及びR4はそれぞれ炭素数1〜15の二価炭化水素基、mは平均で1〜3の正数、nは平均で2〜4の正数、pは0,1又は2、qは1,2又は3を示す。)
で表される化合物が提案されている。
【0005】
この平均組成式(5)で表される化合物の製造方法としては、下記一般式(6)
(R1O)(3-p)(R2pSi−R3−Sm−R4−X (6)
(式中、R1及びR2はそれぞれ炭素数1〜4の一価炭化水素基、R3及びR4はそれぞれ炭素数1〜15の二価炭化水素基、mは平均で1〜3の正数、pは0,1又は2、Xはハロゲン原子を示す。)
で表される末端ハロゲン基含有有機珪素化合物と、下記一般式(7)
2r (7)
(式中、Mはアルカリ金属、rは平均で1〜4の正数を示す。)
で表される無水硫化アルカリ金属又は無水多硫化アルカリ金属と、必要により下記一般式(8)
X−R4−X (8)
(式中、R4、Xは上記と同様の意味を示す。)
で表されるハロゲン含有化合物及び/又は硫黄と反応させ、上記平均組成式(5)で表される有機珪素化合物を製造するという方法が開示されている。
【0006】
しかしながら、この方法においては、ほぼ完全に無水の硫化アルカリ金属又は無水多硫化アルカリ金属を使用しており、硫化アルカリ金属又は多硫化アルカリ金属水和物の乾燥に時間がかかること、また、塩の濾過が必要であること、更には、基本的に反応溶媒を使用しているため、反応終了後には溶媒留去が必要であり、このため、更なる簡単な工程で低コストの製造方法が求められていた。
【0007】
なお、スルフィド鎖含有有機珪素化合物の他の製造方法として、相間移動触媒を用いる方法が知られており、例えば、特許文献2〜5:米国特許第5405985号、第5468893号、第5583245号、第6448426号明細書、あるいは特許文献6,7:特表2004−521945号、2004−521946号公報に教示されている。しかし、これらの提案は、相間移動触媒を用いたスルフィド鎖含有有機珪素化合物の製造方法を教示したものであるが、分子内両末端にオルガノオキシシリル基を持ち、分子内中央部にポリスルフィド基を持ち、更にそれらがモノスルフィド基を含んだ二価炭化水素基で連結された有機珪素化合物についての製造方法を教示することはない。
【0008】
【特許文献1】特開2004−018511号公報
【特許文献2】米国特許第5405985号明細書
【特許文献3】米国特許第5468893号明細書
【特許文献4】米国特許第5583245号明細書
【特許文献5】米国特許第6448426号明細書
【特許文献6】特表2004−521945号公報
【特許文献7】特表2004−521946号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記事情に鑑みなされたもので、ゴム用配合剤として用いることで、ゴムの引張強度、反発弾性や低発熱性を改良可能なスルフィド鎖含有有機珪素化合物を、簡単な工程で安全かつ安価に製造することができるスルフィド鎖含有有機ケイ素化合物の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記目的を達成するため鋭意検討を行った結果、下記一般式(1)
(R1O)(3-p)(R2pSi−R3−S−R4−X (1)
(式中、R1及びR2はそれぞれ炭素数1〜4の一価炭化水素基、R3及びR4はそれぞれ炭素数1〜10の二価炭化水素基、Xはハロゲン原子、pは0,1又は2を示す。)
で表される末端ハロゲン基含有有機珪素化合物と、必要により下記一般式(2)
X−R4−X (2)
(式中、R4は炭素数1〜10の二価炭化水素基、Xはハロゲン原子である。)
で表されるハロゲン含有化合物及び/又は硫黄とを、相間移動触媒の存在下、下記一般式(3)
2n (3)
(式中、Mはアンモニウム又はアルカリ金属、nは平均で2〜6の正数を示す。)
で表される多硫化物又はその水和物の水溶液又は水分散液と反応させることにより、原料として用いる多硫化物又はその水和物を乾燥することなしに、水溶液又は水分散液として使用して、簡単な工程で安全かつ安価に、高収率で、下記平均組成式(4)で表されるスルフィド鎖含有有機珪素化合物を製造し得ることを知見した。
【0011】
【化2】

(式中、R1,R2,R3,R4,pは上記一般式(1)と同様であり、mは平均で2〜6の正数、qは1,2又は3を示す。)
【0012】
従って、本発明は、上記一般式(1)で表される末端ハロゲン基含有有機珪素化合物と、必要により上記一般式(2)で表されるハロゲン含有化合物及び/又は硫黄とを、相間移動触媒の存在下、上記一般式(3)で表される多硫化物又はその水和物の水溶液又は水分散液と反応させることを特徴とする、上記平均組成式(4)で表されるスルフィド鎖含有有機珪素化合物の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、末端ハロゲン基含有有機珪素化合物から、相間移動触媒を用いて、原料の多硫化物又はその水和物を乾燥することなしに、上記平均組成式(4)で表されるスルフィド鎖含有有機珪素化合物を高収率でかつ安価に製造することができる。得られた上記スルフィド鎖含有有機珪素化合物は、シリカ配合ゴムに配合した場合、従来知られているスルフィド鎖含有有機珪素化合物を用いた場合よりも、引張強度、反発弾性や低発熱性を更に改良できることから、シリカ配合タイヤ用ゴム組成物の添加剤等として工業的に極めて有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明につき更に詳細に説明すると、本発明は、上述したように一般式(1)で表される末端ハロゲン基含有有機珪素化合物と、必要により一般式(2)で表されるハロゲン含有化合物及び/又は硫黄とを、相間移動触媒の存在下、一般式(3)で表される多硫化物又はその水和物の水溶液又は水分散液と反応させることにより、平均組成式(4)で表されるスルフィド鎖含有有機珪素化合物を得るものである。
【0015】
ここで、出発原料として使用される末端ハロゲン基含有有機珪素化合物は、下記一般式(1)で表されるものである。
(R1O)(3-p)(R2pSi−R3−S−R4−X (1)
【0016】
上記式中、R1及びR2はそれぞれ炭素数1〜4の一価炭化水素基を示し、具体的にはメチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、i−ブチル基、t−ブチル基、アリル基、メタリル基等のアルキル基、アルケニル基などが例示され、特にメチル基、エチル基が好ましい。R3は炭素数1〜10の二価炭化水素基を示し、具体的にはメチレン基、エチレン基、プロピレン基、n−ブチレン基、i−ブチレン基、ヘキシレン基、デシレン基、フェニレン基、メチルフェニルエチレン基等のアルキレン基、アリーレン基、アルケニレン基やこれらの基が結合した基などが例示され、エチレン基、プロピレン基、i−ブチレン基が好ましく、特にプロピレン基が好ましい。R4は炭素数1〜10の二価炭化水素基を示し、具体的にはメチレン基、エチレン基、プロピレン基、n−ブチレン基、i−ブチレン基、ヘキシレン基、デシレン基、フェニレン基、メチルフェニルエチレン基等のアルキレン基、アリーレン基、アルケニレン基や、これらの基が結合した基などが例示され、特にプロピレン基、ヘキシレン基、デシレン基が好ましく、とりわけヘキシレン基が好ましい。Xはハロゲン原子を示し、具体的にはCl、Br、Iなどが例示され、好ましくはCl、Brである。pは0,1又は2であり、好ましくは0,1、特に好ましくは0である。
【0017】
ここで、上記一般式(1)の化合物としては、下記のものが代表例として挙げられる。
(CH3O)3Si−(CH23−S−(CH23−Cl
(CH3O)3Si−(CH23−S−(CH26−Cl
(CH3O)3Si−(CH23−S−(CH28−Cl
(CH3O)3Si−(CH23−S−(CH210−Cl
(CH3O)3Si−(CH23−S−(CH26−Br
(CH3CH2O)3Si−(CH23−S−(CH23−Cl
(CH3CH2O)3Si−(CH23−S−(CH26−Cl
(CH3CH2O)3Si−(CH23−S−(CH28−Cl
(CH3CH2O)3Si−(CH23−S−(CH210−Cl
(CH3CH2O)3Si−(CH23−S−(CH26−Br
(CH3CH2O)3Si−CH2CH(CH3)CH2−S−(CH26−Cl
【0018】
本発明において使用される相間移動触媒は、第4級オニウムカチオンである。相間移動触媒として用いられる第4級オニウムカチオンとしては、特に限定されないが、具体的には臭化テトラブチルアンモニウム、塩化テトラブチルアンモニウム、臭化テトラメチルアンモニウム、塩化テトラメチルアンモニウム、臭化テトラエチルアンモニウム、塩化テトラエチルアンモニウム、燐酸テトラブチルアンモニウム、亜燐酸テトラブチルアンモニウム、硫酸テトラブチルアンモニウム、フッ化テトラブチルアンモニウム、臭化ベンジルトリメチルアンモニウム、臭化テトラフェニルアンモニウム等が例示され、特に好ましくは、臭化テトラ−n−ブチルアンモニウム、塩化テトラ−n−ブチルアンモニウムである。
【0019】
また、本発明において、一般式(1)で表される有機珪素化合物に、必要により混合使用されるハロゲン含有化合物は、下記一般式(2)で表されるものである。
X−R4−X (2)
上記式中、R4は炭素数1〜10の二価炭化水素基を示し、具体的にはメチレン基、エチレン基、プロピレン基、n−ブチレン基、i−ブチレン基、ヘキシレン基、デシレン基、フェニレン基、メチルフェニルエチレン基等のアルキレン基、アリーレン基、アルケニレン基や、これらの基が結合した基などが例示され、プロピレン基、ヘキシレン基、デシレン基が好ましく、特にヘキシレン基が好ましい。Xはハロゲン原子を示し、具体的にはCl、Br、Iなどが例示される。
【0020】
上記一般式(2)の化合物としては、下記のものが代表例として挙げられる。
Cl−(CH23−Cl
Cl−(CH26−Cl
Cl−(CH210−Cl
Br−(CH26−Br
Br−(CH210−Br
【0021】
本発明において使用される下記一般式(3)
2n (3)
(式中、Mはアンモニウム又はアルカリ金属、nは平均で2〜6の正数を示す。)
で表される化合物は、多硫化物である。上記一般式(3)中、Mはアンモニウム又はアルカリ金属を示し、特に限定されないが、例えばNa、K、Cs、Li、NH4が例示され、特に好ましくはNaである。nは平均で2〜6の正数を示す。
【0022】
一般式(3)で示される多硫化物としては、
Na2n
2n
Cs2n
Li2n
(NH42n
等が例示され、特にNa2nが好ましい。更に、この多硫化物としては水和物の使用も可能である。
【0023】
本発明の製造方法において、上記一般式(1)で表される末端ハロゲン基含有有機珪素化合物と、必要により上記一般式(2)で表されるハロゲン含有化合物及び/又は硫黄とを、相間移動触媒の存在下、上記一般式(3)で表される多硫化物又はその水和物の水溶液又は水分散液と反応させる方法としては、例えば、上記一般式(1)で表される末端ハロゲン基含有有機珪素化合物と、相間移動触媒の水溶液又は水分散液と、必要により一般式(2)で表されるハロゲン含有化合物及び/又は硫黄とを混合した後、一般式(3)で表される多硫化物又はその水和物の水溶液又は水分散液と反応させることが好適であり、これにより本発明の目的物質である平均組成式(4)で表されるスルフィド鎖含有有機珪素化合物を効率よく製造することができる。
【0024】
この場合、相間移動触媒の添加量は、任意であるが、一般式(1)の化合物に対して0.1〜10.0質量%、好ましくは0.5〜5.0質量%、より好ましくは1.0〜3.0質量%添加すればよい。添加量が少なすぎると反応が速やかに進行しない場合があり、多すぎるとシリカ配合ゴム用添加剤として用いた場合の性能に悪影響を及ぼす場合がある。
【0025】
更に、相間移動触媒は、一般式(1)の化合物と予め混ぜておいても、あるいは一般式(3)で表される多硫化物又はその水和物の水溶液又は水分散液と混ぜておいてもよいが、一般式(1)の化合物と予め混ぜておくことが反応の開始が速い点から好ましい。
【0026】
上記相間移動触媒を一般式(1)の化合物と混合する場合、相間移動触媒を水で希釈して使用してもよく、その際の水の添加量は、相間移動触媒に対し0〜500質量%程度が好ましく、より好ましくは100〜300質量%である。なお、水を添加する場合は、一般式(1)の化合物と相間移動触媒を混合した後に水を添加してもよく、その際の添加量も前述の通りとすることができる。
【0027】
本発明において、一般式(3)で表される多硫化物又はその水和物は、水溶液又は水分散液にして使用する。この場合、水の添加量は任意であるが、一般式(3)で表される多硫化物と反応させる一般式(1)の化合物に対し、水の合計添加量が10〜1000質量%であることが好ましく、より好ましくは30〜300質量%である。水の添加量が上記値より少ないと、多硫化物又はその水和物が析出し、分散しにくくなるおそれがあり、上記値より多いと一般式(1)の化合物が加水分解し易くなる場合がある。
【0028】
一般式(3)で表される多硫化物又はその水和物の水溶液又は水分散液の調製方法としては、含水の多硫化ソーダを使用してもよく、無水アルカリ金属と硫黄とを反応させたものを使用してもよく、更に金属ナトリウム又はカリウムと硫黄とを反応させたものを使用してもよく、これら多硫化物又はその水和物に水を添加して水溶液又は分散液とすることで調製することができる。
【0029】
更に、上記一般式(1)の化合物と上記一般式(3)の多硫化物とのモル比は、多硫化物のM(アンモニウム又はアルカリ金属)と基本的には等モルの一般式(1)の化合物を使用すればよい。但し、一般式(1)の化合物のモル数を少なくすれば、系をアルカリ性にすることができ、モル数を多くすれば中性付近にすることができる。具体的には、一般式(1)の化合物/一般式(3)の多硫化物のモル比は、好ましくは1.9〜2.2であり、特に好ましくは2.0〜2.1である。
【0030】
本発明において、硫黄は必要により添加されるもので、硫黄を添加する場合、その添加量は、平均組成式(4)の化合物のmが所望の数値となるように適宜添加すればよく、一般式(3)の多硫化物M2nでは不足分の硫黄を添加すればよく、n=mの場合は加える必要がない。
【0031】
更に、必要により使用される一般式(2)の化合物を添加する場合は、一般式(2)の化合物の添加量に応じて更に一般式(3)の多硫化物M2n及び必要により硫黄を加えればよく、一般式(1)の化合物と一般式(2)の化合物との合計モル比が、加える一般式(3)の硫化物M2nのMと基本的には等モルとなるように、一般式(1)の化合物と一般式(2)の化合物とを加えればよい。具体的には、一般式(1)の化合物及び一般式(2)の化合物/一般式(3)の多硫化物M2nのモル比は、好ましくは1.9〜2.2、より好ましくは2.0〜2.1の範囲である。
また、一般式(1)の化合物と一般式(2)の化合物とのモル比は、例えばqの平均値を2とするためには、一般式(1)の化合物2molに対し、一般式(2)の化合物を1mol加えればよい。
【0032】
本発明の化合物を製造する際、有機溶媒の使用は任意であり、無溶剤が好ましいが、水溶性の少ない溶媒の使用は可能であり、例えば、ペンタン、ヘキサン、へプタン、オクタン等の脂肪族炭化水素類、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類が好ましく使用できる。上記溶媒を使用する場合、その使用量は、特に限定されないが、一般式(1)の化合物の2倍量以下程度が好適であり、好ましくは一般式(1)の化合物と同量以下程度である。
【0033】
反応温度は、特に限定されないが、室温から200℃程度でよく、好ましくは40〜170℃程度、より好ましくは50〜100℃である。反応時間は、通常30分以上であるが、1時間から15時間程度で反応は完結する。
【0034】
本発明において、反応終了後は、目的物層と水層に分離するため、目的物を分液すればよい。塩が析出している場合には、水を添加して溶解させてもよいし、分液前及び/又は分液後に濾過をしてもよい。また、溶媒を使用した場合には、分液後に減圧下で留去すればよい。
【0035】
更に、目的物中の水分除去のため、分液後に減圧下で水を留去してもよく、水層分離後に乾燥剤を添加して脱水してもよい。乾燥剤としては、硫酸ナトリウム、硫酸マグネシウムなどが挙げられる。
【0036】
本発明の製造方法において得られる化合物は、下記平均組成式(4)で表されるものである。
【0037】
【化3】

上記式中、R1及びR2はそれぞれ炭素数1〜4の一価炭化水素基、R3及びR4はそれぞれ炭素数1〜10の二価炭化水素基、mは平均で2〜6の正数、pは0,1又は2を示し、qは1,2又は3を示し、好ましくは1,2である。R1,R2,R3,R4は上述した一般式(1)と同様のものを例示することができる。また、mは平均で2〜6の正数であり、好ましくは2〜4、特に好ましくは2〜3である。
【0038】
本発明で得られる式(4)の化合物として具体的には、下記化合物が挙げられる。但し、m,qは平均値として上述した数を示す。
【0039】
【化4】

【0040】
本発明の製造方法により得られる平均組成式(4)で示されるスルフィド鎖含有有機珪素化合物は、ゴム用配合剤として有効に使用され、特にシリカ配合のタイヤ用等のゴム組成物に対して好適に用いられる。
【実施例】
【0041】
以下、合成例及び実施例を示して本発明を更に具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。
【0042】
[合成例1]
窒素ガス導入管、温度計、ジムロート型コンデンサー及び滴下漏斗を備えた1リットルのセパラブルフラスコに、イオン交換水250g、硫黄48g(1.5mol)、59質量%硫化ソーダ含有量のフレーク硫化ソーダ132.0g(1.0mol)を仕込み、50℃にて1時間攪拌することで、平均組成Na22.5の水溶液430gを得た。
【0043】
[実施例1]
窒素ガス導入管、温度計、ジムロート型コンデンサー及び滴下漏斗を備えた1リットルのセパラブルフラスコに、6−クロロヘキシルチオプロピルトリエトキシシラン142.6g(0.4mol)、硫黄9.6g(0.3mol)を仕込み、80℃に昇温した。ここにテトラ−n−ブチルアンモニウムブロミド2.1gをイオン交換水6.0gに溶解させた水溶液を加えた。次いで、合成例1で得た平均組成Na22.5の水溶液86g(Na22.5成分として0.2mol)を80〜90℃の温度を保持するようにゆっくり滴下した。加えるのにかかった時間は20分間であった。滴下終了後、更に5時間熟成を続けた。その後、40℃以下まで冷却し、トルエン100gを加えた後、反応液を濾過した。濾過後の反応液を上層と下層に分離した。下層は生成したNaClが溶解した水溶液であった。この得られた上層を減圧濃縮し、トルエンを除去したところ、147.5gの赤褐色透明な液体を得た。得られた液体の25℃での粘度は48.5mm2/s、屈折率は1.5074、比重は1.072であった。
【0044】
得られた液体について、赤外線吸収スペクトル分析及び1H核磁気共鳴スペクトル分析、ゲルパーメーションクロマトグラフィー分析、超臨界クロマトグラフィー分析、硫黄含有量分析を行った結果、下記平均組成式で表されるスルフィド基含有アルコキシシランであることが確認された。
【0045】
【化5】

【0046】
[実施例2]
窒素ガス導入管、温度計、ジムロート型コンデンサー及び滴下漏斗を備えた1リットルのセパラブルフラスコに、6−クロロヘキシルチオプロピルトリエトキシシラン142.6g(0.4mol)を仕込み、80℃に昇温した。ここにテトラ−n−ブチルアンモニウムブロミド2.1gをイオン交換水6.0gに溶解させた水溶液を加えた。次いで、合成例1で得た平均組成Na22.5の水溶液86g(Na22.5成分として0.2mol)を80〜90℃の温度を保持するようにゆっくり滴下した。加えるのにかかった時間は20分間であった。滴下終了後、更に5時間熟成を続けた。その後、40℃以下まで冷却し、トルエン100gを加えた後、反応液を濾過した。濾過後の反応液を上層と下層に分離した。下層は生成したNaClが溶解した水溶液であった。得られた上層を減圧濃縮し、トルエンを除去したところ、136.3gの赤褐色透明な液体を得た。得られた液体の25℃での粘度は44.2mm2/s、屈折率は1.4906、比重は1.044であった。
【0047】
得られた液体について、赤外線吸収スペクトル分析及び1H核磁気共鳴スペクトル分析、ゲルパーメーションクロマトグラフィー分析、超臨界クロマトグラフィー分析、硫黄含有量分析を行った結果、下記平均組成式で表されるスルフィド基含有アルコキシシランであることが確認された。
【0048】
【化6】

【0049】
[実施例3]
窒素ガス導入管、温度計、ジムロート型コンデンサー及び滴下漏斗を備えた1リットルのセパラブルフラスコに、6−クロロヘキシルチオプロピルトリエトキシシラン142.6g(0.4mol)、1,6−ジクロロヘキサン31.0g(0.2mol)、硫黄19.2g(0.6mol)を仕込み、80℃に昇温した。ここにテトラ−n−ブチルアンモニウムブロミド4.2gをイオン交換水10.0gに溶解させた水溶液を加えた。次いで、合成例1で得た平均組成Na22.5の水溶液172g(Na22.5成分として0.4mol)を80〜90℃の温度を保持するようにゆっくり滴下した。加えるのにかかった時間は30分間であった。滴下終了後、更に5時間熟成を続けた。その後、40℃以下まで冷却し、トルエン200gを加えた後、反応液を濾過した。濾過後の反応液を上層と下層に分離した。下層は生成したNaClが溶解した水溶液であった。得られた上層を減圧濃縮し、トルエンを除去したところ、168.2gの赤褐色透明な液体を得た。得られた液体の25℃での粘度は144mm2/s、屈折率は1.5358、比重は1.112であった。
【0050】
得られた液体について、赤外線吸収スペクトル分析及び1H核磁気共鳴スペクトル分析、ゲルパーメーションクロマトグラフィー分析、超臨界クロマトグラフィー分析、硫黄含有量分析を行った結果、下記平均組成式で表されるスルフィド基含有アルコキシシランであることが確認された。
【0051】
【化7】

【0052】
[実施例4]
窒素ガス導入管、温度計、ジムロート型コンデンサー及び滴下漏斗を備えた1リットルのセパラブルフラスコに、6−クロロヘキシルチオプロピルトリエトキシシラン142.6g(0.4mol)、1,6−ジクロロヘキサン31.0g(0.2mol)を仕込み、80℃に昇温した。ここにテトラ−n−ブチルアンモニウムブロミド4.2gをイオン交換水10.0gに溶解させた水溶液を加えた。次いで、合成例1で得た平均組成Na22.5の水溶液172g(Na22.5成分として0.4mol)を80〜90℃の温度を保持するようにゆっくり滴下した。加えるのにかかった時間は30分間であった。滴下終了後、更に5時間熟成を続けた。その後、40℃以下まで冷却し、トルエン200gを加えた後、反応液を濾過した。濾過後の反応液を上層と下層に分離した。下層は生成したNaClが溶解した水溶液であった。得られた上層を減圧濃縮し、トルエンを除去したところ、155.8gの赤褐色透明な液体を得た。得られた液体の25℃での粘度は108mm2/s、屈折率は1.5114、比重は1.071であった。
【0053】
得られた液体について、赤外線吸収スペクトル分析及び1H核磁気共鳴スペクトル分析、ゲルパーメーションクロマトグラフィー分析、超臨界クロマトグラフィー分析、硫黄含有量分析を行った結果、下記平均組成式で表されるスルフィド基含有アルコキシシランであることが確認された。
【0054】
【化8】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)
(R1O)(3-p)(R2pSi−R3−S−R4−X (1)
(式中、R1及びR2はそれぞれ炭素数1〜4の一価炭化水素基、R3及びR4はそれぞれ炭素数1〜10の二価炭化水素基、Xはハロゲン原子、pは0,1又は2を示す。)
で表される末端ハロゲン基含有有機珪素化合物と、必要により下記一般式(2)
X−R4−X (2)
(式中、R4は炭素数1〜10の二価炭化水素基、Xはハロゲン原子を示す。)
で表されるハロゲン含有化合物及び/又は硫黄とを、相間移動触媒の存在下、下記一般式(3)
2n (3)
(式中、Mはアンモニウム又はアルカリ金属、nは平均で2〜6の正数を示す。)
で表される多硫化物又はその水和物の水溶液又は水分散液と反応させることを特徴とする、下記平均組成式(4)で表されるスルフィド鎖含有有機珪素化合物の製造方法。
【化1】

(式中、R1,R2,R3,R4,pは上記と同様であり、mは平均で2〜6の正数、qは1,2又は3を示す。)
【請求項2】
一般式(1)で表される末端ハロゲン基含有有機珪素化合物と、相間移動触媒の水溶液又は水分散液と、必要により一般式(2)で表されるハロゲン含有化合物及び/又は硫黄とを混合した後、一般式(3)で表される多硫化物又はその水和物の水溶液又は水分散液と反応させることを特徴とする請求項1記載のスルフィド鎖含有有機珪素化合物の製造方法。
【請求項3】
平均組成式(4)において、mが平均で2〜3の正数である請求項1又は2記載のスルフィド鎖含有有機珪素化合物の製造方法。

【公開番号】特開2007−91678(P2007−91678A)
【公開日】平成19年4月12日(2007.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−285868(P2005−285868)
【出願日】平成17年9月30日(2005.9.30)
【出願人】(000002060)信越化学工業株式会社 (3,361)
【Fターム(参考)】