説明

スルホン化排出液の処理方法及びスルホン化排出液のリサイクル方法

【課題】スルホン化剤(例;アルキルベンゼンスルホン酸)及び有機溶剤(例;o-ジクロロベンゼン)を含有するスルホン化処理用溶液でスルホン化対象物をスルホン化して得られるスルホン化排出液の処理及びリサイクル。
【解決手段】前記排出液を、硫酸と接触させて水相を除去し有機相を回収することによって排出液中のアルキルベンゼン、アルキルベンゼンスルホン酸、タール成分等の不要物を低減する。また、回収された有機相を活性炭等の吸着剤と接触させることによって不要物をより低減できる。さらに、硫酸処理を2回以上繰り返すことによっても、不要物をより低減できる。また、スルホン化剤と回収有機相とを混合することによってスルホン化処理用溶液を調製することができる。さらに、回収有機相は、アルキルベンゼン(例;1,3,5-トリメチルベンゼン)を有機溶媒存在下でスルホン化してスルホン化剤を調製する方法において該有機溶媒として使用することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スルホン化剤及び有機溶剤を含むスルホン化処理用溶液を用いてスルホン化反応を行って得られるスルホン化排出液から、該有機溶剤を回収し、更にスルホン化反応又はスルホン化剤が溶解した有機溶剤の調製に再利用するスルホン化排出液のリサイクル方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般式(I)
【0003】
【化1】

【0004】
〔式中、R1は同一又は相異なる炭素数1〜3のアルキル基を示す。nは3、4又は5の整数を、mは1又は2の整数を示す。但しn+m≦6である。〕
で表わされるスルホン化剤(アルキルベンゼンスルホン酸)及び有機溶剤(例えば、ジクロロベンゼン溶液)を含むスルホン化処理用溶液が、各種の芳香族化合物のスルホン化に有用であることが特許文献1に詳述されている。更に同特許文献1には該スルホン化剤による芳香族化合物のスルホン化反応は、下記式により表わされる旨が記載されている。
【0005】
【化2】

【0006】
〔式中、R1,n及びmは前記に同じ。R2は置換基を有し又は有しない芳香環であり、R2−Hに於けるHは芳香環を構成する炭素原子に直接結合した水素原子を示す。pは芳香環に導入されるスルホン酸基の数で通常1又は2の整数である。〕
即ち、芳香族化合物(II)が、スルホン化剤(アルキルベンゼンスルホン酸)(I)によりスルホン化されて芳香族スルホン酸(III)とスルホン化剤からスルホン酸基が脱離したアルキルベンゼン(IV)となる。
【0007】
さらに、特許文献1においては、スルホン化排出液中のアルキルベンゼン(IV)濃度が高いためか、水溶性成分を分液抽出等で除去して回収されたアルキルベンゼン化合物を含む溶剤相は、そのまま、或いは必要に応じて蒸留してからスルホン化することにより再生使用する事ができる旨が記載されている。
【特許文献1】特許第2884189号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
一方、一般式(I)で表わされるスルホン化剤及び有機溶剤(例えば、ジクロロベンゼン溶液)を含有するスルホン化処理用溶液は、特に芳香族環を含む高分子化合物のスルホン化に際しては、スルホン化剤を希薄濃度としたスルホン化処理用溶液を使用することが必要かつ重要である場合がある。しかし、製造者から提供されているスルホン化処理用溶液は、そのスルホン化剤濃度が、この希薄濃度より高い。このため、高濃度のスルホン化処理用溶液からスルホン化剤濃度が希薄なスルホン化処理用溶液(低濃度スルホン化処理用溶液)を得るために、有機溶剤で希釈する必要が生ずる。この希釈に使用する有機溶剤として、新品の有機溶剤を使用すると経済的に不利となる。
【課題を解決するための手段】
【0009】
そこで、本発明者らはスルホン化排出液中に有機溶剤(ジクロロベンゼン)が多量に含まれていることに着目し、スルホン化排出液をそのまま希釈に用い、得られた希薄なスルホン化処理用溶液をスルホン化処理に使用した。ところが、スルホン化排出液中には、有機溶剤の外に、アルキルベンゼン、アルキルベンゼンスルホン酸(スルホン化剤)、タール成分などが含まれており、該排出液に由来するアルキルベンゼンによってスルホン化反応が抑制されるという知見を得た。このため、高濃度スルホン化処理用溶液の希釈にスルホン化排出液を利用するためには、スルホン化排出液中のアルキルベンゼン濃度を低減する必要があった。本発明者らはアルキルベンゼンの低減法として、精留による分離などが考えたが、該排出液におけるアルキルベンゼンの含有量が低いことから経済的に不利であったため、より簡便な方法を模索した。
【0010】
本発明者らは、鋭意研究・検討の結果、スルホン化排出液を、硫酸で処理することによって、高濃度スルホン化処理用溶液の希釈に利用できる程度にまでアルキルベンゼンを低減できることを見出した。これとあわせ、前記硫酸処理によってスルホン化排出液に混在しているタール成分を低減できることも見出した。更には、前記硫酸処理によって得られる有機相をスルホン化処理用溶液の調製原料として再利用できることを見出した。本発明はこれらの知見によってなされたものである。
【0011】
すなわち、本発明は、下記の処理方法、調製方法及びスルホン化方法を提供するものである。
項1.
一般式(I)
【0012】
【化3】

【0013】
〔式中、R1は同一又は相異なる炭素数1〜3のアルキル基を示す。nは3、4又は5の整数を、mは1又は2の整数を示す。但しn+m≦6である。〕
で表わされるスルホン化剤及び有機溶剤を含有するスルホン化処理用溶液でスルホン化対象物をスルホン化して得られるスルホン化排出液を、硫酸と接触させて水相を除去し有機相を回収することを特徴とするスルホン化排出液の処理方法。
項2.
回収された有機相を吸着剤と接触させることを特徴とする項1に記載のスルホン化排出液の処理方法。
項3.
吸着剤が活性炭、活性白土及びゼオライトからなる群から選択される1種又は2種以上である項2に記載のスルホン化排出液の処理方法。
項4.
スルホン化剤が1,3,5−トリメチルベンゼン−2−スルホン酸、1,2,4,5−テトラメチルベンゼン−3−スルホン酸、1,2,3,5−テトラメチルベンゼン−4−スルホン酸、1,2,3,4,5−ペンタメチルベンゼン−6−スルホン酸、1,3,5−トリメチルベンゼン−2,4−ジスルホン酸及び1,3,5−トリエチルベンゼン−2−スルホン酸からなる群から選択される1種又は2種以上である項1〜3のいずれかに記載のスルホン化排出液の処理方法。
項5.
前記一般式(I)で表されるスルホン化剤と項1〜4のいずれかに記載の処理方法で得られる処理液とを混合し、混合液とすることを特徴とするスルホン化処理用溶液の調製方法。
項6.
項1〜4のいずれかに記載の処理方法で得られる処理液と一般式(IV)
【0014】
【化4】

【0015】
〔式中、R1は同一又は相異なる炭素数1〜3のアルキル基を示す。nは3、4又は5の整数を、mは1又は2の整数を示す。〕
で表わされるアルキルベンゼンとの混合液をスルホン化することを特徴とするスルホン化処理用溶液の調製方法。
項7.
項5〜6のいずれかに記載の調製方法で調製されたスルホン化処理用溶液でスルホン化対象物をスルホン化することを特徴とするスルホン化方法。
【0016】
本明細書において単にスルホン化剤と称する場合、一般式(I)で表されるスルホン化剤を意味するものとする。
【0017】
本発明は、スルホン化剤及び有機溶剤を含有するスルホン化処理用溶液でスルホン化処理することによって発生するスルホン化排出液を有効利用するものである。より具体的には、スルホン化排出液を硫酸と接触させるものである。スルホン化排出液には、有機溶剤が主体であるが、該有機溶剤の外に、アルキルベンゼン、アルキルベンゼンスルホン酸(スルホン化剤)、タール成分などが含まれている。このスルホン化排出液を硫酸と接触させるという簡便な方法で、水相中に不要物を分離すること、例えばスルホン化排出液中のタール成分及びアルキルベンゼンを低減することができる。したがって、硫酸処理によって得られる有機相は、有機溶剤がその大部分を占め、ごく微量のアルキルベンゼンとアルキルベンゼンスルホン酸を含む。
【0018】
この有機相は、スルホン化剤が比較的高い濃度で含まれているスルホン化処理用溶液(高濃度スルホン化処理用溶液)の希釈に有用である。希釈にこの有機相を利用することによって、新品の有機溶剤を希釈に使用する必要がなくなる。また、この有機相中のアルキルベンゼンが微量であることから、希釈されたスルホン化処理用溶液を使用して、スルホン化対象物に再度スルホン化処理を行った際に、アルキルベンゼンの存在によるスルホン化の阻害を防止することができる。このように、この有機相は希釈されたスルホン化処理用溶液の調製に有用である。
【0019】
また、ジクロロベンゼン等の溶媒中で、一般式(IV)のアルキルベンゼンを無水硫酸、クロロスルホン酸等を用いてスルホン化して、一般式(I)のスルホン化剤を含有するスルホン化処理用溶液を調製する方法が知られているが、前記有機相は該溶媒としても有用である。例えば、この有機相と、スルホン化剤原料のアルキルベンゼンとを混合した混合液を無水硫酸、クロロスルホン酸等でスルホン化することによって、新品の反応溶媒を使用することなく、高濃度のスルホン化処理用溶液を得ることができる。また、この方法によれば、有機相中に存在する微量のアルキルベンゼン及びアルキルベンゼンスルホン酸を有効利用することにもなる。このように、この有機相はスルホン化剤が溶解した有機溶剤の製造に有用である。
【0020】
以下、本発明をより詳細に説明する。本発明においてスルホン化処理用溶液は、一般式(I)で表わされるスルホン化剤と有機溶剤を含有する。
【0021】
一般式(I)で表されるスルホン化剤において、R1で定義されるアルキル基としては、メチル、エチル、プロピル、イソプロピルの炭素数1〜3の直鎖又は分枝鎖状アルキル基が包含される。これらの中ではメチル又はエチルが好ましく、特にメチルがより好ましい。アルキル基の数(n)は3、4又は5であり、nが3であるトリアルキルベンゼンスルホン酸、殊にトリメチルベンゼンスルホン酸がより好ましい。スルホン酸基の数(m)は1又は2であり、殊にmが1であるモノスルホン酸化合物が好ましい。
【0022】
前記スルホン化剤としては、具体的には1,3,5−トリメチルベンゼン−2−スルホン酸、1,2,4,5−テトラメチルベンゼン−3−スルホン酸、1,2,3,5−テトラメチルベンゼン−4−スルホン酸、1,2,3,4,5−ペンタメチルベンゼン−6−スルホン酸、1,3,5−トリメチルベンゼン−2,4−ジスルホン酸及び1,3,5−トリエチルベンゼン−2−スルホン酸などが挙げられる。スルホン化剤は1種単独でも2種以上組み合わせても使用できる。好ましいスルホン化剤は1,3,5−トリメチルベンゼン−2−スルホン酸である。
【0023】
一般式(IV)で表されるアルキルベンゼンにおけるR1及びnは、一般式(I)におけるR1及びnと同様である。好ましいアルキルベンゼンは、1,3,5−トリメチルベンゼン、1,2,4,5−テトラメチルベンゼン、1,2,3,5−テトラメチルベンゼン、1,2,3,4,5−ペンタメチルベンゼン及び1,3,5−トリエチルベンゼンなどが挙げられる。該アルキルベンゼンは1種単独でも2種以上組み合わせても使用できる。好ましいアルキルベンゼンは1,3,5−トリメチルベンゼンである。
【0024】
スルホン化処理用溶液を構成する有機溶剤としては、スルホン化剤を溶解し、スルホン化反応を行えるものであれば特に限定されず各種のものを使用することができる。具体的には、例えば、クロロホルム、ジクロロメタン、1,2−ジクロロエタン、トリクロロエタン、テトラクロロエタン、トリクロロエチレン、テトラクロロエチレン等のハロゲン化脂肪族炭化水素類、o−,m−,p−ジクロロベンゼン、トリクロロベンゼン、ジクロロトルエン等のハロゲン化芳香族炭化水素類、ニトロメタン、ニトロベンゼン、ニトロトルエン等のニトロ化合物類、スルホラン等の複素環化合物類、オクタン、デカン、シクロヘキサン等の直鎖、分枝鎖又は環状の脂肪族飽和炭化水素類を例示できる。中でも、o−ジクロロベンゼン、トリクロロベンゼン、ジクロロトルエン等のハロゲン化芳香族炭化水素類、ニトロベンゼン、ニトロトルエン等のニトロ化芳香族炭化水素類が本発明に好ましく用いられる。有機溶剤は1種単独でも2種以上組み合わせても使用できる。スルホン化処理用溶液におけるスルホン化剤の含有量は、スルホン化対象物及びスルホン化の程度により適宜選択されるが、通常0.01〜10重量%、好ましくは0.1〜5重量%、より好ましくは0.2〜3重量%である。
【0025】
スルホン化処理用溶液によってスルホン化されるスルホン化対象物は、スルホン化処理用溶液によってスルホン化されるものである。したがって、一般式(I)で表されるスルホン化剤によってスルホン化されていた従来の物質は全て包含される。例えば、各種の芳香族化合物であり、その代表的なものを例示すると以下の通りである。なお、スルホン化対象物は1種単独でも2種以上組み合わせても使用できる。
【0026】
1.芳香族アミン化合物
芳香族アミン化合物は、たとえばアニリン、ナフチルアミン、アミノビフェニル、アミノビナフチル、アミノアントラセン、アミノフェナントレン、アミノピレン、アミノアントラキノン等の芳香族アミン化合物を包含し、斯かる芳香族アミン化合物は置換基を有しないか或は1又は2以上の置換基を有するものである。有していてもよい置換基としてはたとえば低級アルキル(好ましくは炭素数1〜3のアルキル)、ヒドロキシ、低級アルコキシ(好ましくは炭素数1〜3のアルコキシ)、ハロゲン原子、ニトロ、カルボキシ、スルホン酸基等を挙げることができる。斯かる置換基を有する芳香族アミン化合物としてはたとえばトルイジン、クロロアニリン、アミノフェノール、ジアミノベンゼン、ニトロアニリン、メトキシアニリン、N,N−ジメチルアニリン、アミノ安息香酸、アニリンスルホン酸、メチルナフチルアミン、クロロナフチルアミン、アミノナフトール、ニトロナフチルアミン、メトキシナフチルアミン、アミノナフトエ酸、ナフチルアミンスルホン酸、アミノアントラセン等を例示できる。好ましい芳香族アミン化合物は、上記置換基を有し又は有しないアニリン又はナフチルアミンである。
【0027】
2.芳香族アミン化合物以外の芳香族化合物
芳香族アミン化合物以外の芳香族化合物は、アミノ基を置換基として有しない芳香族化合物であり、たとえばベンゼン、ナフタリン、アントラセン、ビフェニル、ビナフチル、ターフェニル、フェナントレン、ピレン等の芳香族化合物を包含する。斯かる芳香族化合物は置換基を有しないか或は1又は2以上の置換基を有するものである。有していてもよい置換基としては低級アルキル(好ましくは炭素数1〜3のアルキル)、ヒドロキシ、低級アルコキシ(好ましくは炭素数1〜3のアルコキシ)を挙げることができ、上記置換基と共に存在してもよい他の置換基としてハロゲン原子、カルボキシル基、アルデヒド基、アゾ基、カルボニル基、スルホン酸基等を挙げることができる。斯かる置換基を有する芳香族化合物としては具体的にはたとえばトルエン、エチルベンゼン、キシレン、ジエチルベンゼン、フェノール、クレゾール、キシレノール、クロルフェノール、メトキシベンゼン、ジヒドロキシベンゼン、フェノールスルホン酸、ヒドロキシベンズアルデヒド、ヒドロキシアセトフェノン、ヒドロキシアゾベンゼン、メチルナフタリン、クロルナフトール、ナフトール、ナフトールスルホン酸、メチルアントラセン、アントロノール等を例示できる。好ましい芳香族化合物は置換基を有しないか、置換基として炭素数1〜3のアルキル基、ヒドロキシ基、炭素数1〜3のアルコキシ基を有するか或は上記置換基と共に上記共存し得る他の置換基を有するベンゼン又はナフタリンである。
【0028】
3.芳香族高分子化合物
芳香族高分子化合物は、ポリマーの主鎖又は側鎖に芳香環を有する高分子化合物であり、具体的には、ポリスチレン、スチレンと他の共重合可能なモノマーとの共重合体、ポリスルホン、ポリべンゾオキサゾール、ポリべンゾチアゾール、ポリべンゾイミダゾール、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルエーテルスルホン、ポリアリールエーテルスルホン、ポリフエニレンスルホン、ポリフェニレンオキシド、ポリフェニレンスルホキシド、ポリフェニレンサルファイド、ポリフェニレンスルフィドスルホン、ポリパラフェニレン、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルケトンケトン、ポリイミド、ポリエーテルイミド、シアン酸エステル樹脂等があげられる。これら芳香環を含んだ高分子化合物は、その形態、例えば、粉体状、粒子状などその形態の如何に関わらず使用できる。また、芳香環を含んだ高分子化合物は1種または2種以上を混合して用いることができる。
【0029】
本発明では、上記のようなスルホン化処理用溶液でスルホン化対象物をスルホン化して得られるスルホン化排出液を硫酸と接触させる(硫酸処理)。より具体的には、スルホン化排出液と硫酸を接触させて硫酸で洗浄、抽出等の処理をし、分液、デカンテーション等の処理によって、水相(硫酸相)と有機相とに分離する。
【0030】
このように、分液、デカンテーション等の処理によって、スルホン化排出液中の大部分のアルキルベンゼン、アルキルベンゼンスルホン酸及びタール成分が硫酸相に抽出される。したがって、硫酸相を除去することによって、アルキルベンゼン、アルキルベンゼンスルホン酸及びタール成分を低減し、有機相を回収することができる。なお、硫酸相の除去は、通常の分液操作、例えばスルホン化排出液と硫酸を撹拌混合した後に静置し、下層の硫酸相を除去することによって行うことができる。
【0031】
硫酸処理における硫酸の濃度は、特に制限されないが、通常50%以上、好ましくは70〜99%、より好ましくは75〜98%である。硫酸濃度がこの範囲にあると、特に、アルキルベンゼン及び水分の除去の点で有利である。また、硫酸処理における硫酸の使用量は、スルホン化排出液中のアルキルベンゼン含量等に応じて適宜選択すればよく、通常、スルホン化排出液に対し0.01〜20重量%、好ましくは0.05〜10重量%である。硫酸の使用量がこの範囲にあると、アルキルベンゼンの除去の点で有利である。
【0032】
また、硫酸処理の温度は通常0〜100℃、好ましくは5〜80℃、さらに好ましくは10〜60℃である。硫酸処理時間は、不要物を硫酸相に抽出できる限り特に制限されないが、通常0.01〜50時間、好ましくは0.05〜24時間である。
【0033】
硫酸処理は2回以上繰り返しても良く、その場合、初期の硫酸処理における硫酸処理時間は短時間とし、最終の硫酸処理のみ分液を完全に行うために硫酸処理時間を長くすることが好ましい。
【0034】
有機相中に含まれる微量のアルキルベンゼン、アルキルベンゼンスルホン酸及びタール成分をより低減する場合には、有機相を吸着剤と接触させる(吸着剤処理)。吸着剤は1種単独でも2種以上組み合わせても使用できる。吸着剤処理は2回以上繰り返してもよい。吸着剤としては、例えば、活性炭、活性白土、ゼオライト等が挙げられる。吸着剤処理としては、通常、有機相に吸着剤を添加し吸着させた後、吸着剤をろ過によって分離する方法、吸着剤を充填したカラムに有機相を流し込む方法、吸着剤を含有するろ紙で有機相をろ過処理する方法等が行われる。吸着剤の使用量は、通常有機相に対して0.0001〜10重量%、好ましくは0.0005〜5重量%、さらに好ましくは0.001〜1重量%である。
【0035】
硫酸処理された有機相及びさらに吸着剤処理された有機相(両有機相を硫酸処理液と称することがある)はタール成分及びアルキルベンゼンが低減されているため、有機溶剤としてリサイクル使用することができる。この硫酸処理液は微量のアルキルベンゼンとアルキルベンゼンスルホン酸を含有し、タール成分を含有しないため、特に、希釈されたスルホン化処理用溶液の調製や、スルホン化剤が高濃度に溶解した有機溶剤の製造に有用である。
【0036】
例えば、スルホン化剤、或いはスルホン化剤が比較的高い濃度で含まれているスルホン化処理用溶液に有機溶剤を添加して希釈する際に、新品の有機溶剤の代替品として、前記硫酸処理液を使用することができる。希釈されたスルホン化処理用溶液は、アルキルベンゼンによるスルホン化反応阻害が抑制されるため、スルホン化に好適に使用することができる。
【0037】
また、例えば、前記硫酸処理液に、所望量のアルキルベンゼンを添加し、これをスルホン化することによって、スルホン化剤が溶解した有機溶剤、即ちスルホン化処理用溶液を調製することができる。ここで、アルキルベンゼンのスルホン化は、公知であり、例えば、アルキルベンゼンを無水硫酸、クロロスルホン酸等でスルホン化する事により容易に合成できる。したがって、アルキルベンゼンのスルホン化は常法にしたがって行うことができる。該スルホン化剤が溶解した有機溶剤は、そのまま、スルホン化処理用溶液として使用することもできるし、必要に応じて希釈してスルホン化処理用溶液として使用することもできるし、スルホン化剤と有機溶剤とを分離してスルホン化剤を単離することもできる。スルホン化剤と有機溶剤との分離は精留等の常法によってすることができる。
【発明の効果】
【0038】
本発明によれば、スルホン化排出液を、硫酸で処理するという簡便な操作を施す事によって、混入が好ましくないアルキルベンゼンや副生タール成分などを大きく低減し、スルホン化排出液から有機溶剤を回収することができる。また、該回収有機溶剤を用いて一般式(I)で表されるスルホン化剤及び有機溶剤を含有するスルホン化処理用溶液を調製することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0039】
以下、反応例及び実施例によって、本発明の方法を更に具体的詳細に説明する。
【実施例】
【0040】
<反応例1>粒子状ポリスルホン樹脂のスルホン化
1,3,5−トリメチルベンゼン−2−スルホン酸10g(0.05mol)を含むo−ジクロロベンゼン溶液1Lに、ポリスルホン樹脂(アモコ社製、P3500)22g(モノマー単位で0.05mol相当)を添加し、120℃で5時間加熱した。析出している樹脂をデカンテーションによって分離し、洗浄、乾燥してスルホン化ポリスルホン樹脂を得た。分離したスルホン化排出液中には1,3,5−トリメチルベンゼン−2−スルホン酸0.5重量%、1,3,5−トリメチルベンゼン0.3重量%、硫酸0.03重量%、水分0.004重量%が含有されていた。
【0041】
<反応例2>顔料(ジオキサジンバイオレット)のスルホン化
1,3,5−トリメチルベンゼン−2−スルホン酸3.6g(0.018mol)を含むo−ジクロロベンゼン溶液300mlに、粉体状のジオキサジンバイオレット 7g(0.012mol)を添加し、150℃で5時間加熱した。析出しているスルホン化ジオキサジンバイオレットをろ過によって分離し、洗浄、乾燥してスルホン化ジオキサジンバイオレットを得た。分離した黒色のスルホン化排出液中には1,3,5−トリメチルベンゼン−2−スルホン酸0.4重量%、1,3,5−トリメチルベンゼン0.6重量%、硫酸0.02重量%、水分0.004重量%を含有していた。
【0042】
<実施例1>硫酸処理
反応例1で得られたスルホン化排出液1kgに対し、98%硫酸50gを加え、40℃まで昇温し1時間攪拌した。攪拌を停止し、一夜静置してから下層の硫酸相を除去し、有機溶剤相を得た。得られた有機溶剤相を分析した結果、1,3,5−トリメチルベンゼン−2−スルホン酸0.35重量%、1,3,5−トリメチルベンゼン0.009重量%、硫酸0.10重量%、水分0.006重量%であった。
【0043】
<実施例2>硫酸処理1回及び吸着剤処理
実施例1で得られた有機溶剤相を吸着剤含有ろ紙で吸着ろ過処理した。なお、使用したろ紙は、活性炭及び活性白土を含有する混抄ろ紙(CE500;安積濾紙株式会社製)であった。得られた有機溶剤相を分析した結果、1,3,5−トリメチルベンゼン−2−スルホン酸0.45重量%、1,3,5−トリメチルベンゼン0.01重量%、硫酸0.03重量%、水分0.003重量%であった。
【0044】
<実施例3>硫酸処理2回
実施例1と同様に、硫酸を加えて1時間攪拌し、攪拌を停止した。攪拌停止後10分静置して下層の硫酸相を除去した。更に、98%硫酸7gを加え、40℃まで昇温し1時間攪拌した。攪拌を停止し、一夜静置してから下層の硫酸相を除去した。得られた有機溶剤相を分析した結果、1,3,5−トリメチルベンゼン−2−スルホン酸0.26重量%、1,3,5−トリメチルベンゼン0.005重量%、硫酸0.05重量%、水分0.004重量%であった。
【0045】
<実施例4>硫酸処理2回及び吸着剤処理
実施例3と同様にして有機溶剤相を得た。得られた有機溶剤相を、実施例2と同様にして、吸着剤含有ろ紙で吸着ろ過処理した。得られた有機溶剤相を分析した結果、1,3,5−トリメチルベンゼン−2−スルホン酸0.25重量%、1,3,5−トリメチルベンゼン0.007重量%、硫酸0.01重量%、水分0.006重量%であった。
【0046】
<実施例5>硫酸処理3回
実施例3と同様にして98%硫酸7gを加えて攪拌した後、攪拌を停止し、10分静置して下層の硫酸相を除去した。更に、98%硫酸4gを加え、40℃まで昇温し1時間攪拌した。攪拌を停止し、一夜静置してから下層の硫酸相を除去した。得られた有機溶剤相を分析した結果、1,3,5−トリメチルベンゼン−2−スルホン酸0.18重量%、1,3,5−トリメチルベンゼン0.006重量%、硫酸0.03重量%、水分0.004重量%であった。
【0047】
<実施例6>硫酸処理3回及び吸着剤処理
実施例5と同様にして有機溶剤相を得た。該有機溶剤相を実施例2と同様にして、吸着剤含有ろ紙で吸着ろ過処理した。得られた有機溶剤相を分析した結果、1,3,5−トリメチルベンゼン−2−スルホン酸0.18重量%、1,3,5−トリメチルベンゼン0.005重量%、硫酸0.009重量%、水分0.003重量%であった。
【0048】
<実施例7>硫酸処理3回及び吸着剤処理
反応例1で得られたスルホン化排出液1kgに対し、98%硫酸50gを加え、40℃まで昇温し1時間攪拌した。攪拌を停止し、10分静置して下層の硫酸層を除去した。更に、63%硫酸10gを加え、40℃まで昇温し1時間攪拌した。攪拌を停止し、10分静置してから下層の硫酸層を除去した。続いて98%硫酸7gを加え、40℃まで昇温し1時間攪拌した。攪拌を停止し、一夜静置してから下層の硫酸相を除去し、実施例2と同様にして吸着剤含有ろ紙で吸着ろ過処理した。得られた有機溶剤相を分析した結果、1,3,5−トリメチルベンゼン−2−スルホン酸0.27重量%、1,3,5−トリメチルベンゼン0.007重量%、硫酸0.011重量%、水分0.007重量%であった。
【0049】
<実施例8>有機溶剤相を使用した希釈スルホン化処理用溶液の調製と該溶液を使用したポリスルホン樹脂のスルホン化
1,3,5−トリメチルベンゼン12.0g(0.105mol)とo−ジクロロベンゼン120gの混合液に、クロロスルホン酸11.6g(0.100mol)を水冷下に攪拌しながら20分間で滴下し、1,3,5−トリメチルベンゼンスルホン酸を析出させた。反応液を加熱して析出した結晶を溶解し、ジクロロベンゼンの代替として実施例1と同様にして得られた有機溶剤相を加えて全量が2Lとなるように希釈調製した。
【0050】
得られた希釈スルホン化処理用溶液を用いて、反応例1と同様のスルホン化処理を行ったところ、スルホン化ポリスルホン樹脂が得られた。
【0051】
<実施例9>有機溶剤相を使用したスルホン化剤の調製
1,3,5−トリメチルベンゼン12.0g(0.105mol)と実施例1と同様にして得られた有機溶剤相120gを混合した混合液に、クロロスルホン酸11.6g(0.100mol)を水冷下に攪拌しながら20分間で滴下し、1,3,5−トリメチルベンゼンスルホン酸を析出させた。反応液を加熱して析出した結晶を溶解し、実施例1と同様にして得られた有機溶剤相を加えて全量が2Lとなるように希釈調整した。
【0052】
得られた希釈スルホン化処理用溶液を用いて、反応例1と同様のスルホン化処理を行ったところ、スルホン化ポリスルホン樹脂が得られた。
【0053】
<実施例10>硫酸処理1回及び吸着剤処理
反応例2で得られたスルホン化排出液300g及び98%硫酸15gを用いて、実施例2と同様の操作を行って有機溶剤相を得た。得られた有機溶剤相を分析した結果、1,3,5−トリメチルベンゼン−2−スルホン酸0.36重量%、1,3,5−トリメチルベンゼン0.01重量%、硫酸0.03重量%、水分0.004重量%であった。
【0054】
<実施例11>有機溶剤相を使用した希釈スルホン化処理用溶液の調製と該溶液を使用したポリスルホン樹脂のスルホン化
実施例8と同様にして結晶を溶解し、o−ジクロロベンゼンの代替として実施例10と同様にして得られた有機溶剤相を加えて全量が2Lとなるように希釈調整した。o−ジクロロベンゼン溶液の代替として、得られた希釈スルホン化処理用溶液の300mLを用いて、反応例2と同様にスルホン化処理を行ったところ、スルホン化ジオキサンバイオレットが得られた。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明はスルホン化排出液を利用する分野で有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(I)
【化1】

〔式中、R1は同一又は相異なる炭素数1〜3のアルキル基を示す。nは3、4又は5の整数を、mは1又は2の整数を示す。但しn+m≦6である。〕
で表わされるスルホン化剤及び有機溶剤を含有するスルホン化処理用溶液でスルホン化対象物をスルホン化して得られるスルホン化排出液を、硫酸と接触させて水相を除去し有機相を回収することを特徴とするスルホン化排出液の処理方法。
【請求項2】
回収された有機相を吸着剤と接触させることを特徴とする請求項1に記載のスルホン化排出液の処理方法。
【請求項3】
吸着剤が活性炭、活性白土及びゼオライトからなる群から選択される1種又は2種以上である請求項2に記載のスルホン化排出液の処理方法。
【請求項4】
スルホン化剤が1,3,5−トリメチルベンゼン−2−スルホン酸、1,2,4,5−テトラメチルベンゼン−3−スルホン酸、1,2,3,5−テトラメチルベンゼン−4−スルホン酸、1,2,3,4,5−ペンタメチルベンゼン−6−スルホン酸、1,3,5−トリメチルベンゼン−2,4−ジスルホン酸及び1,3,5−トリエチルベンゼン−2−スルホン酸からなる群から選択される1種又は2種以上である請求項1〜3のいずれかに記載のスルホン化排出液の処理方法。
【請求項5】
前記一般式(I)で表されるスルホン化剤と請求項1〜4のいずれかに記載の処理方法で得られる処理液とを混合し、混合液とすることを特徴とするスルホン化処理用溶液の調製方法。
【請求項6】
請求項1〜4のいずれかに記載の処理方法で得られる処理液と一般式(IV)
【化2】

〔式中、R1は同一又は相異なる炭素数1〜3のアルキル基を示す。nは3、4又は5の整数を、mは1又は2の整数を示す。〕
で表わされるアルキルベンゼンとの混合液をスルホン化することを特徴とするスルホン化処理用溶液の調製方法。
【請求項7】
請求項5〜6のいずれかに記載の調製方法で調製されたスルホン化処理用溶液でスルホン化対象物をスルホン化することを特徴とするスルホン化方法。

【公開番号】特開2008−169126(P2008−169126A)
【公開日】平成20年7月24日(2008.7.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−1639(P2007−1639)
【出願日】平成19年1月9日(2007.1.9)
【出願人】(391010895)小西化学工業株式会社 (19)
【Fターム(参考)】