説明

セクタアンテナ

【課題】所定のビーム幅を維持したまま、他のセクタアンテナのカバーエリアへの干渉波の放射を抑制することができるセクタアンテナを提供する。
【解決手段】平面A上に間隔を隔てて平行に配置された1対のダイポール給電素子11と、平面Aと平行な反射面Rを有し、1対のダイポール給電素子11から放射された電波を反射する反射板12と、1対のダイポール給電素子11を反射板12との間で挟むように配置されると共に平面Aと平行な同一平面B上に平行に配置され、1対のダイポール給電素子11よりも狭い間隔で離間された1対の第1無給電素子13と、を備えるものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、所定角度のカバーエリアに垂直偏波を放射するセクタアンテナに関するものである。
【背景技術】
【0002】
無線通信基地局等におけるアンテナは、所定角度のカバーエリアに垂直偏波を放射するセクタアンテナを複数組み合わせることで、360度全方位に亘って無線通信が可能となるように構成される。
【0003】
図5(a),(b)に示すように、セクタアンテナ50は、平面A上に間隔を隔てて平行に配置された1対のダイポール給電素子51と、平面Aと平行な反射面Rを有し、1対のダイポール給電素子51から放射された電波を反射する反射板52とを備える。
【0004】
例えば、3セクタ構成(1セクタあたり120度のカバーエリア)とする場合は、ビーム幅(半値全幅)が70度となるように1対のダイポール給電素子51の間隔を調整し、このように構成したセクタアンテナ50を3つ組み合わせて360度全方位に亘って通信エリアを形成するようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−226196号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、近年の無線通信では、多値変調を用いて通信を高速化している。多値変調には高いCN比(Carrier to Noise ratio;搬送波対雑音比)が必要であり、セクタアンテナには他セクタ方向への放射抑制(干渉波抑制)が求められる。
【0007】
他のセクタアンテナのカバーエリアへの干渉波の放射を抑制するためには、ビーム幅を狭くすることが有効であるが、これでは各セクタアンテナのカバーエリアが狭くなってしまう。
【0008】
そこで、本発明の目的は、所定のビーム幅を維持したまま、他のセクタアンテナのカバーエリアへの干渉波の放射を抑制することができるセクタアンテナを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この目的を達成するために創案された本発明は、平面上に間隔を隔てて平行に配置された1対のダイポール給電素子と、前記平面と平行な反射面を有し、前記1対のダイポール給電素子から放射された電波を反射する反射板と、前記1対のダイポール給電素子を前記反射板との間で挟むように配置されると共に前記平面と平行な同一平面上に平行に配置され、前記1対のダイポール給電素子よりも狭い間隔で離間された1対の第1無給電素子と、を備えるセクタアンテナである。
【0010】
前記第1無給電素子の電気長は、前記1対のダイポール給電素子の共振周波数の波長について1/2波長より短くされると良い。
【0011】
前記第1無給電素子の電気長は、前記1対のダイポール給電素子の共振周波数の波長について1/2波長の0.8倍以上にされると良い。
【0012】
前記1対のダイポール給電素子と前記反射板との間に配置されると共に前記平面と平行な同一平面上に平行に配置され、前記1対のダイポール給電素子よりも広い間隔で離間された1対の第2無給電素子を更に備えると良い。
【0013】
前記第2無給電素子の電気長は、前記1対のダイポール給電素子の共振周波数の波長について1/2波長と等しくされると良い。
【0014】
前記反射板を前記1対の第2無給電素子との間で挟むように配置されると共に前記平面と平行な同一平面上に平行に配置され、前記1対の第2無給電素子よりも狭い間隔で離間された1対の第3無給電素子を更に備えると良い。
【0015】
前記第3無給電素子の電気長は、前記1対のダイポール給電素子の共振周波数の波長について1/2波長と等しくされると良い。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、所定のビーム幅を維持したまま、他のセクタアンテナのカバーエリアへの干渉波の放射を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明に係るセクタアンテナを示す図であり、(a)は斜視図、(b)はX1−X1線断面図であり、(c)は平面図である。
【図2】図1のセクタアンテナの寸法例を示す図である。
【図3】(a),(b)は本発明に係るセクタアンテナの効果を説明する図である。
【図4】(a),(b)は本発明に係るセクタアンテナの効果を説明する図である。
【図5】従来のセクタアンテナを示す図であり、(a)は斜視図、(b)はX2−X2線断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明のセクタアンテナは、少なくとも、平面上に間隔を隔てて平行に配置された1対のダイポール給電素子と、1対のダイポール給電素子が配置される平面と平行な反射面を有し、1対のダイポール給電素子から放射された電波を反射する反射板と、1対のダイポール給電素子を反射板との間で挟むように配置されると共に1対のダイポール給電素子が配置される平面と平行な同一平面上に平行に配置され、1対のダイポール給電素子よりも狭い間隔で離間された1対の無給電素子と、を備えるものである。
【0019】
無給電素子は、他のセクタアンテナのカバーエリアへの干渉波の放射を抑制するためのものである。無給電素子の電気長は、1対のダイポール給電素子の共振周波数の波長について1/2波長より短くされると良く、好ましくは1対のダイポール給電素子の共振周波数の波長について1/2波長より短く1対のダイポール給電素子の共振周波数の波長について1/2波長の0.8倍以上にされると良く、より好ましくは1対のダイポール給電素子の共振周波数の波長について1/2波長の0.9倍にされると良い。無給電素子の電気長を1対のダイポール給電素子の共振周波数の波長について1/2波長より短くすることで、ダイポール給電素子の放射指向性が無給電素子に引き寄せられ、他のセクタアンテナのカバーエリアへの干渉波の放射を抑制することができる。
【0020】
このような構成のセクタアンテナによれば、他のセクタアンテナのカバーエリアへの干渉波の放射を抑制する無給電素子を備えるため、所定のビーム幅を維持したまま、他のセクタアンテナのカバーエリアへの干渉波の放射を抑制することができる。
【0021】
以下、このセクタアンテナを基礎とした本発明の好適な実施の形態を添付図面にしたがって説明する。なお、前述のセクタアンテナにおける無給電素子は、以下で説明する実施の形態においては第1無給電素子に相当する。
【0022】
図1は、本発明の好適な実施の形態に係るセクタアンテナを示す図であり、(a)は斜視図、(b)はX1−X1線断面図であり、(c)は平面図である。
【0023】
図1(a),(b)に示すように、本実施の形態に係るセクタアンテナ10は、平面A上に間隔を隔てて平行に配置された1対のダイポール給電素子11と、平面Aと平行な反射面Rを有し、1対のダイポール給電素子11から放射された電波を反射する反射板12と、1対のダイポール給電素子11を反射板12との間で挟むように配置されると共に平面Aと平行な同一平面B上に平行に配置され、1対のダイポール給電素子11よりも狭い間隔で離間された1対の第1無給電素子13と、1対のダイポール給電素子11と反射板12との間に配置されると共に平面Aと平行な同一平面C上に平行に配置され、1対のダイポール給電素子11よりも広い間隔で離間された1対の第2無給電素子14と、反射板12を1対の第2無給電素子14との間で挟むように配置されると共に平面Aと平行な同一平面D上に平行に配置され、1対の第2無給電素子14よりも狭い間隔で離間された1対の第3無給電素子15と、を備える。
【0024】
1対のダイポール給電素子11、1対の第1無給電素子13、1対の第2無給電素子14、1対の第3無給電素子15が1セットになっており、これが反射板12の長手方向に沿って所定の間隔で複数セット(図1(a)では4セット)配置される。
【0025】
ダイポール給電素子11は、ダイポール型のアンテナであり、直線状に配置された2つの棒状の放射素子16の中央に給電部17を設けてなる。給電部17に電力を供給することで、2つの放射素子16から所定波長の垂直偏波が放射される。
【0026】
反射板12は、リフレクタとも呼ばれ、ダイポール給電素子11から放射された電波を反射面Rにて反射して、所定方向に主放射方向(図1(b)では矢印18の方向)を形成するためのものである。
【0027】
反射板12の両側部19は、他のセクタアンテナのカバーエリアへの干渉波の放射を抑制すべく、主放射方向側に折り曲げられており、ダイポール給電素子11から放射された電波が反射板12の反射面Rと反対の面(裏面)へ回り込むのを抑制するように構成される。
【0028】
第1無給電素子13は、前述したように、他のセクタアンテナのカバーエリアへの干渉波の放射を抑制するためのものであり、その電気長は、1対のダイポール給電素子11の共振周波数の波長について1/2波長より短くされると良く、好ましくは1対のダイポール給電素子11の共振周波数の波長について1/2波長より短く1対のダイポール給電素子11の共振周波数の波長について1/2波長の0.8倍以上にされると良く、より好ましくは1対のダイポール給電素子11の共振周波数の波長について1/2波長の0.9倍にされると良い。
【0029】
第2無給電素子14は、他のセクタアンテナが放射する電波に与える影響を低減すべく、他のセクタアンテナのカバーエリアにヌル点を形成するためのものである。第2無給電素子14の電気長は、1対のダイポール給電素子11の共振周波数の波長について1/2波長と等しくされると良い。なお、本明細書における「ヌル」とは、放射利得がゼロである場合に限られず、できるだけ放射利得を小さくすることを意味することとする。
【0030】
第3無給電素子15は、ダイポール給電素子11から放射された電波が反射板12の裏面へ回り込むのを抑制するためのものである。第3無給電素子15の電気長は、1対のダイポール給電素子11の共振周波数の波長について1/2波長と等しくされると良い。
【0031】
これらダイポール給電素子11、第1無給電素子13、第2無給電素子14、第3無給電素子15は、図示しない絶縁性樹脂等により支えられ、図1(c)に示すように、それぞれの中心が揃うように配置される。
【0032】
このセクタアンテナ10は、図1(b)に示すように、断面円形の筒状のレドーム20内に収容されて無線通信基地局等に設置される。
【0033】
ここで、セクタアンテナ10の好ましい寸法の一例を説明する。ここでは、動作周波数を860MHzとしたときの寸法を説明する。
【0034】
セクタアンテナ10は、その中心線Oを境にして線対称に形成されている。ダイポール給電素子11は、中心線Oからの距離が67mm、反射板12からの距離が58mmとなるように配置される。
【0035】
反射板12は、幅184mm、両側部19の高さ5mmに形成される。反射板12の長さは、長ければ長いほど良い。
【0036】
第1無給電素子13は、中心線Oからの距離が53mm、反射板12からの距離が82mmとなるように配置される。第1無給電素子13の長さは、148mmにされる。
【0037】
第2無給電素子14は、中心線Oからの距離が92mm(184mm÷2)、反射板12からの距離が10mmとなるように配置される。第2無給電素子14の長さは、166mmにされる。
【0038】
第3無給電素子15は、中心線Oからの距離が75mm、反射板12からの距離が41mmとなるように配置される。第3無給電素子15の長さは、166mmにされる。
【0039】
この寸法のセクタアンテナ10は、120度のカバーエリアに垂直偏波を放射するものである。
【0040】
次に、本発明の作用を説明する。
【0041】
各種セクタアンテナを用いて、主放射方向を0度として規格化放射利得を評価した。ここで規格化放射利得とは、各種セクタアンテナの主放射方向における放射利得を0dBとして規格化した放射利得のことである。
【0042】
図3(a)に示すように、カバーエリアが120度となるように構成した、従来のセクタアンテナ50、本実施の形態のセクタアンテナ10、セクタアンテナ10から第2無給電素子14及び第3無給電素子15を無くしたもの、セクタアンテナ10から第3無給電素子15を無くしたものを用いて評価を行った。その結果を図3(b)に示す。
【0043】
図3(b)から分かるように、従来のセクタアンテナ50の構成に第1〜第3無給電素子13,14,15を付加することで、他のセクタアンテナのカバーエリア、即ち、非カバーエリアへの干渉波の放射を抑制することができる。
【0044】
第1無給電素子13を付加した構成では、所定のビーム幅を維持したまま、非カバーエリアにおける放射利得が大幅に減少している。また、第2及び第3無給電素子14,15を付加した構成では、非カバーエリアをカバーするセクタアンテナの主放射方向(−120度及び120度の方向)における放射利得が大きく減少している。
【0045】
更に、従来のセクタアンテナ50と本実施の形態に係るセクタアンテナ10の電界強度分布を計算により調べたところ、図4(a)に示すように、従来のセクタアンテナ50では、反射板52の両側部から裏面側への電界回り込みが大きかったが、図4(b)に示すように、本実施の形態に係るセクタアンテナ10では、反射板12の両側部19から裏面側への電界回り込みが抑制されていた。これは、本実施の形態に係るセクタアンテナ10では、従来のセクタアンテナ50に比べて他セクタへの干渉波の放射が抑制されていることを意味する。
【0046】
以上の結果から分かるように、本発明のセクタアンテナによれば、所定のビーム幅を維持したまま、他のセクタアンテナのカバーエリアへの干渉波の放射を抑制することができる。
【0047】
また、本発明のセクタアンテナでは、反射板から離れた位置に配置されるほど給電素子同士、或いは無給電素子同士の配置間隔を狭めた構成としているため、断面円形の筒状のレドームに収容する際に、小さな径のレドームを用いることができ、セクタアンテナの小型化という副次的な効果も得られる。
【符号の説明】
【0048】
10 セクタアンテナ
11 ダイポール給電素子
12 反射板
13 第1無給電素子
14 第2無給電素子
15 第3無給電素子
16 放射素子
17 給電部
18 主放射方向を示す矢印
19 反射板の両側部
20 レドーム
A,B,C,D 平面
R 反射面
O 中心線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
平面上に間隔を隔てて平行に配置された1対のダイポール給電素子と、
前記平面と平行な反射面を有し、前記1対のダイポール給電素子から放射された電波を反射する反射板と、
前記1対のダイポール給電素子を前記反射板との間で挟むように配置されると共に前記平面と平行な同一平面上に平行に配置され、前記1対のダイポール給電素子よりも狭い間隔で離間された1対の第1無給電素子と、
を備えることを特徴とするセクタアンテナ。
【請求項2】
前記第1無給電素子の電気長は、前記1対のダイポール給電素子の共振周波数の波長について1/2波長より短くされる請求項1に記載のセクタアンテナ。
【請求項3】
前記第1無給電素子の電気長は、前記1対のダイポール給電素子の共振周波数の波長について1/2波長の0.8倍以上にされる請求項2に記載のセクタアンテナ。
【請求項4】
前記1対のダイポール給電素子と前記反射板との間に配置されると共に前記平面と平行な同一平面上に平行に配置され、前記1対のダイポール給電素子よりも広い間隔で離間された1対の第2無給電素子を更に備える請求項1〜3のいずれかに記載のセクタアンテナ。
【請求項5】
前記第2無給電素子の電気長は、前記1対のダイポール給電素子の共振周波数の波長について1/2波長と等しくされる請求項4に記載のセクタアンテナ。
【請求項6】
前記反射板を前記1対の第2無給電素子との間で挟むように配置されると共に前記平面と平行な同一平面上に平行に配置され、前記1対の第2無給電素子よりも狭い間隔で離間された1対の第3無給電素子を更に備える請求項4又は5に記載のセクタアンテナ。
【請求項7】
前記第3無給電素子の電気長は、前記1対のダイポール給電素子の共振周波数の波長について1/2波長と等しくされる請求項6に記載のセクタアンテナ。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2012−142879(P2012−142879A)
【公開日】平成24年7月26日(2012.7.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−1010(P2011−1010)
【出願日】平成23年1月6日(2011.1.6)
【出願人】(000005120)日立電線株式会社 (3,358)
【Fターム(参考)】