説明

セファドロキシルの結晶化法

本発明は、a)セファドロキシル水溶液および滴定液を結晶化容器に入れて、結晶化容器内のpHを7〜9に保つステップと、b)結晶形のβ−ラクタム化合物の懸濁液を得るために、結晶化容器のpHを5〜6.5の値に低下させるステップを含んでなる、結晶形のセファドロキシルを調製する方法に関する。本発明は、本発明に従った方法によって得られる結晶形のセファドロキシルにさらに関する。本発明はまた、25℃の温度で少なくとも1ヶ月保存された場合に、CIE b値が12未満である結晶形のセファドロキシルにも関する。

【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
本発明は、セファドロキシルを結晶化する方法、および結晶形のセファドロキシルに関する。
【0002】
セファドロキシルは化合物7−[D−α−アミノ−α−(p−ヒドロキシフェニル)−アセトアミド]デスアセトキシセファロスポラン酸の名称である。セファドロキシルなどのβ−ラクタム化合物を結晶化する方法は、例えば国際公開第99/24441号パンフレットから知られている。国際公開第99/24441号パンフレットは、β−ラクタム化合物の溶液および対応する滴定液を結晶化容器に同時に入れて結晶化混合物を形成する、前記β−ラクタム化合物を結晶化する方法を開示している。国際公開第99/55710号パンフレットで開示されている方法では、例えばセファドロキシルなどの結晶性β−ラクタム化合物が、硝酸溶液へのアルカリ性溶液の添加によって硝酸溶液から調製される。
【0003】
当該技術分野で知られている結晶化法によるセファドロキシルの結晶化は、大きな粒度分布、多量の色、および低い色安定性があるセファドロキシルの凝集塊をもたらすことが分かった。本発明の目的は、小さな粒度分布、わずかな色、および高い色安定性がある結晶性セファドロキシルをもたらす、セファドロキシルの結晶化の代案の方法を提供することである。この目的は、
a)セファドロキシル水溶液を適切な滴定液によりpH7〜9にするステップと、
b)結晶形のセファドロキシルの懸濁液を得るために、pHを5〜6.5の値に低下させるステップと
を含んでなる、結晶形のセファドロキシルを調製する方法によって、本発明に従って達成される。
【0004】
ステップa)において水溶液のpHを所望の値に保つことで、セファドロキシル結晶の破裂が防止され、小さな粒度分布、わずかな色、および高い色安定性があるセファドロキシル結晶がもたらされることが分かった。
【0005】
ここでの用法では小さな粒度分布(psd)がある結晶形のセファドロキシルは、10〜150μmのpsdと定義される。結晶形のセファドロキシルのpsdは、好ましくは10〜100μm、より好ましくは20〜80μm、より好ましくは25〜60μm、最も好ましくは30〜50μMである。
【0006】
ここでの用法では、わずかな色がある結晶形のセファドロキシルとは、セファドロキシル結晶が好ましくは6未満、好ましくは5.5未満、より好ましくは5未満、より好ましくは4.5未満、より好ましくは4未満、より好ましくは3未満で、通常1を超えるCIE b値を有することを意味する。
【0007】
高い色安定性とは、セファドロキシル結晶が、好ましくは25℃の温度で、少なくとも1ヶ月にわたり、より好ましくは少なくとも2ヶ月にわたり、より好ましくは少なくとも3ヶ月にわたり、より好ましくは少なくとも4ヶ月にわたり、より好ましくは少なくとも5ヶ月にわたり、より好ましくは少なくとも6ヶ月にわたり、より好ましくは少なくとも7ヶ月にわたり、より好ましくは少なくとも8ヶ月にわたり、より好ましくは少なくとも9ヶ月にわたり、より好ましくは少なくとも10ヶ月にわたり、より好ましくは少なくとも11ヶ月にわたり、より好ましくは少なくとも12ヶ月にわたり保存された場合に、12未満、より好ましくは11未満、より好ましくは10未満、より好ましくは9未満、より好ましくは8未満、より好ましくは7未満、より好ましくは6未満、より好ましくは5未満で、通常1を超えるCIE b値を有することを意味する。
【0008】
本発明の方法のステップa)で使用されるセファドロキシル水溶液は、例えば8〜9.5、例えば8.5〜9、例えば8.6〜8.9のpHを有するなどのアルカリ性であってもよい。代案としては、セファドロキシル水溶液は、1〜4、例えば1.5〜3、例えば1.5〜2.5のpHを有するなどの酸性であってもよい。
【0009】
本発明に従った方法のステップa)のpHは、好ましくは7〜9、好ましくは7.1〜8.9、好ましくは7.2〜8.8、好ましくは7.3〜8.7、より好ましくは7.4〜8.6、より好ましくは7.5〜8.5、より好ましくは7.6〜8.4、より好ましくは7.7〜8.3、より好ましくは7.8〜8.2、より好ましくは7.9〜8.1のpHにされる。ステップa)のpHを7〜9のpHにする適切な滴定液は、ギ酸、クエン酸、酢酸、硫酸または塩酸などのあらゆる適切な酸性滴定液であってもよい。適切な滴定液は好ましくはギ酸である。代案としてはpHを7〜9の値にする適切な滴定液は、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化アンモニウム、または例えば三級ブチルアミン、三級オクチルアミン、ベンズヒドリルアミンなどのモノアミン、または例えばN,N’−ジイソプロピルエチレンジアミン、N,N,N’,N’−テトラメチル−1,2−ジアミノエタンまたはビス(2−(ジメチルアミノ)エチル)エーテルなどのジアミンのようなアミンなどのあらゆる適切なアルカリ性滴定液であってもよい。当業者は、本発明の方法のステップa)で使用されるセファドロキシル水溶液のpH次第で、所望のpH値に到達するために酸性またはアルカリ性滴定液が必要かもしれないことを理解する。
【0010】
セファドロキシル水溶液を結晶化容器に入れる際に、結晶化容器は少量の水を含んでいてもよい。結晶化はまた、少量の結晶形のセファドロキシルを含んでいて、水溶液中のセファドロキシルの種としての役割を果たしてもよい。
【0011】
本発明に従った方法のステップb)のpHは、好ましくは5.2〜6.4、好ましくは5.4〜6.3、好ましくは5.6〜6.2、より好ましくは5.8〜6.1のpH値に低下される。
【0012】
ステップb)において、pHは、例えばギ酸、クエン酸、酢酸、硫酸または塩酸などのあらゆる適切な滴定液を使用して低下されてもよい。好ましくはステップb)のpHを低下させるために、ギ酸が使用される。
【0013】
本発明に従った方法のステップb)のpHを低下させるステップは、あらゆる適切な時間内で実施してもよい。好ましくはステップb)のpHを低下させるステップは、5分間から4時間、好ましくは10分間から3時間、好ましくは15分間から2時間、好ましくは20分間から60分間以内に起きてもよい。
【0014】
本発明に従った方法のステップa)のセファドロキシル水溶液は、セファドロキシル合成のためのあらゆる適切な化学的または酵素的アシル化法から得られてもよい。セファドロキシル合成のための化学的アシル化法については、例えば欧州特許第0295333号明細書で開示されている。好ましくはセファドロキシル水溶液は、セファドロキシル合成のための酵素的方法から得られ、7−アミノ−3−デスアセトキシセファロスポラン酸(7−ADCA)は、遊離または固定形態の適切なアシラーゼの存在下で、活性化形態のD−p−ヒドロキシフェニルグリシン(HPG)によりアシル化される。活性化形態のHPGは、例えばメチルエステルなどのHPGアミドまたはエステルであってもよい。セファドロキシルの酵素的合成法については、参照によってここに援用する、欧州特許第0865443B1号明細書、欧州特許第0771357B1号明細書、欧州特許第537255号明細書、および国際公開第99/20786号パンフレットに記載されている。
【0015】
本発明に従った方法のステップa)においてセファドロキシル水溶液を結晶化容器に入れるステップは、例えば入れる水溶液の総容積次第で、あらゆる適切な時間にわたり実施されてもよい。適切な時間は、5分間から4時間、例えば10分間から3時間、例えば15分間から2時間、例えば20分間から1.5時間の範囲であってもよい。
【0016】
本発明に従った方法において、ステップa)でセファドロキシル水溶液を結晶化容器に入れるステップ、およびステップb)でpHを低下させるステップは、あらゆる適切な温度で実施されてもよい。好ましくはステップa)の温度は、5〜25℃、より好ましくは10〜20℃の温度で実施される。好ましくはステップb)の温度は、5〜25℃、より好ましくは10〜20℃の温度で実施される。本発明に従った方法では、セファドロキシル結晶は、各ステップ中に水溶液から形成されてもよい。例えば温度およびpH値次第で、調製される結晶形のセファドロキシルの量は、ステップa)またはb)のいずれかにおいて、より高くてもまたはより低くてもよい。通常、多量の結晶形のセファドロキシルが、ステップb)において水溶液から調製される。
【0017】
本発明に従った方法のステップb)で得られる結晶形のセファドロキシルの懸濁液は、例えば10〜120分間、好ましくは15〜90分間、好ましくは20〜60分間、好ましくは25〜50分間の適切な時間にわたり撹拌されてもよい。結晶形のセファドロキシルの懸濁液を撹拌することは、結晶形のセファドロキシルの収率増大をもたらすことが分かった。結晶形のセファドロキシルは、当該技術分野で知られているあらゆる適切な方法によって、懸濁液から単離されてもよい。通常、セファドロキシル結晶は水で洗浄されて、不純物が除去される。
【0018】
セファドロキシル結晶を単離するステップは、例えば40〜50℃の温度で結晶を乾燥させるステップをさらに含んでいてもよい。好ましくはβ−ラクタム結晶は乾燥前にアセトンで洗浄され、多量の水が除去される。
【0019】
本発明はまた、本発明に従った方法によって得られる結晶形のセファドロキシルにも関する。本発明に従った方法によって得られる結晶形のセファドロキシルは、6未満、好ましくは5.5未満、より好ましくは5未満、より好ましくは4.5未満、より好ましくは4未満、より好ましくは3未満で通常1を超えるCIE b値を有することが、意外にも分かった。
【0020】
セファドロキシル結晶が、色安定性試験において非常に安定していることもまた意外にも分かった。本発明に従った方法によって得られる結晶形のセファドロキシルは、好ましくは25℃の温度で、少なくとも1ヶ月にわたり、より好ましくは少なくとも2ヶ月にわたり、より好ましくは少なくとも3ヶ月にわたり、より好ましくは少なくとも4ヶ月にわたり、より好ましくは少なくとも5ヶ月にわたり、より好ましくは少なくとも6ヶ月にわたり、より好ましくは少なくとも7ヶ月にわたり、より好ましくは少なくとも8ヶ月にわたり、より好ましくは少なくとも9ヶ月にわたり、より好ましくは少なくとも10ヶ月にわたり、より好ましくは少なくとも11ヶ月にわたり、より好ましくは少なくとも12ヶ月にわたり保存された場合に、12未満、より好ましくは11未満、より好ましくは10未満、より好ましくは9未満、より好ましくは8未満、より好ましくは7未満、より好ましくは6未満、より好ましくは5未満で、通常1を超えるCIE b値を有することが分かった。
【0021】
さらに本発明に従った結晶形のセファドロキシルは、150μm未満、好ましくは100μm未満、および好ましくは10μmを超える粒度分布を有する。結晶形のセファドロキシルは好ましくは10〜150μm、より好ましくは10〜100μm、より好ましくは20〜80μm、より好ましくは25〜60μm、最も好ましくは30〜50μMである。
【0022】
本発明に従った結晶形のセファドロキシルは、好ましくはセファドロキシル一水和物である。
【0023】
[材料と方法]
[CIE b値の測定]
CIEは、国際照明委員会(International Commission on Illumination)のフランス語名称「Commission International de I’Eclairage」の略語である。CIE bは、当業者に知られている結晶の色を測定する尺度である。CIE比色定量システムの原理の概要は、オーノ(Ohno),Y.、IS&T NIO16会議のための論文(Paper for IS&T NIO16 Conference)、バンクーバー、カナダ、2000年10月16〜20日、1〜5頁にある。
【0024】
CIE b値は、米国49512ミシガン州グランド・ラピッズ44番街SE4300番地のエックスライト社(X−Rite Incorporated(4300 44th St.SE,Grand Rapids,MI 49512 USA))(www.xrite.com)からのエックスライト(X−Rite)(登録商標)918装置を使用して判定された。セファドロキシル結晶の2gのサンプルを装置の適切な場所に置いて、CIE b値を読み取った。2回の別々の読み取りの平均を計算した。
【0025】
[実施例]
[セファドロキシル溶液の調製]
セファドロキシルの合成のための酵素的方法によって、セファドロキシルを得た。国際公開第99/20786号パンフレットに記載されているように、7−アミノ−3−デスアセトキシセファロスポラン酸(7−ADCA)を固定化Pen Gアシラーゼの存在下で、D−p−ヒドロキシフェニルグリシンメチルエステルによってアシル化した。
【0026】
縮合ステップの終わりに、母液および水洗液の500gのサンプルを酵素的反応器から採取した。サンプルは16.34%(w/w)の溶解セファドロキシルを含有した。pHは8.7〜8.8であった。
【0027】
[参考実験A:一段階結晶化]
上述のように調製されたセファドロキシル溶液の500gのサンプルを結晶化反応器に25〜70分間入れた。結晶化反応器は、撹拌ができるように少量の水を含有した。7〜10℃の温度で、ギ酸によってpHを7.10〜7.30の値に保った。セファドロキシル懸濁液を30分間撹拌した。セファドロキシル懸濁液を遠心分離して乾燥させた。t=0におけるセファドロキシル凝集塊の色を後述するように測定した。CIE b値は6.2であった。
【0028】
[実施例1]
[セファドロキシルの二段階結晶化]
[ステップa)]
5gのセファドロキシル一水和物(種として使用)および60mlの新鮮な水(pH=5.50〜5.70)を結晶化容器に装填し、温度を15℃に調節した。上述のように調製されたセファドロキシル溶液の500gのサンプルを結晶化容器に45分間入れた。6.9mlのギ酸(85%v/v)での滴定により、pHを7.9に保った。
【0029】
[ステップb)]
pHが30分以内で6.0に低下するように、2.5mlのギ酸をステップ(a)で得られた懸濁液に添加した。このようにして得られたセファドロキシル懸濁液を30分間撹拌した。懸濁液を濾過してケークを50mlの水で洗浄し、34mlのアセトンがそれに続いた。乾燥後、76.4gのセファドロキシルを得た(収率84.0w/w%)。
【0030】
セファドロキシル結晶のCIE b値は4.68であった。
【0031】
[実施例2]
[セファドロキシルの二段階結晶化]
[ステップa)]
上述のように調製されたセファドロキシル溶液の500gサンプルの33ml、および27mlの新鮮な水を結晶化反応器に入れた。温度を15℃に調節した。引き続いてセファドロキシル溶液の500gサンプルの残存部分を結晶化反応器に35分間入れた。4.5mlのギ酸(85%v/v)での滴定により、pHを7.9に保った。
【0032】
[ステップb)]
pHが30分以内で6.0に低下するように、8.4mlのギ酸(85%v/v)をステップ(a)で得られたセファドロキシル溶液に添加した。得られたセファドロキシル懸濁液を30分間撹拌した。懸濁液を濾過してケークを50mlの水で洗浄し、34mlのアセトンがそれに続いた。乾燥後、72.8gのセファドロキシルを得た(収率84.7%(w/w))。セファドロキシル結晶のCIE b値は4.52であった。
【0033】
[実施例3]
[色安定性試験]
[4.1 ストレス条件:40℃での保存]
参考実験Aの一段階結晶化法、および本発明に従った二段階結晶化法によって得られたセファドロキシル(CDX)結晶を40℃の温度で保存した。異なるセファドロキシル結晶のCIE b値を表1に示す異なる時間間隔で判定した。CDX(1)〜(3)は、3種の異なる結晶化法から得られた。
【0034】
【表1】

【0035】
[4.2 25℃での保存]
参考実験Aの一段階結晶化法、および本発明に従った二段階結晶化法によって得られたセファドロキシル結晶を25℃の温度で保存した。CIE b値を表2に示す異なる時間間隔で判定した。
【0036】
【表2】

【0037】
表1および2の結果は、セファドロキシル結晶を25℃および40℃で保存した場合、本発明に従った二段階結晶化法で得られたセファドロキシル結晶のCIE b値が、一段階結晶化法で得られたセファドロキシル結晶のCIE b値よりも低いままであったことを示す。したがって本発明に従った方法で調製されたセファドロキシル結晶の色安定性は、参考実験Aの一段階結晶化法で調製されたものよりも高かった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)セファドロキシル水溶液を適切な滴定液によりpH7〜9にするステップと、
b)結晶形のセファドロキシルの懸濁液を得るために、pHを5〜6.5の値に低下させるステップ
を含んでなる、結晶形のセファドロキシルを調製する方法。
【請求項2】
ステップa)およびステップb)が5〜25℃の温度で実施される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
ステップb)のpHを低下させるステップが20〜60分の時間内に実施される、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
ステップb)で得られた水中の結晶形のセファドロキシルの懸濁液が10〜120分間にわたり撹拌される、請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
結晶形のセファドロキシルが、ステップb)で得られた懸濁液から単離されることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法によって得られる、結晶形のセファドロキシル。
【請求項7】
CIE b値が6未満である、結晶形のセファドロキシル。
【請求項8】
25℃の温度で少なくとも1ヶ月保存された場合に、CIE b値が12未満である、結晶形のセファドロキシル。
【請求項9】
請求項6〜8のいずれか一項で定義される、または請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法によって生成される、セファドロキシルを含んでなる医薬組成物。

【公表番号】特表2009−537589(P2009−537589A)
【公表日】平成21年10月29日(2009.10.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−511453(P2009−511453)
【出願日】平成19年5月11日(2007.5.11)
【国際出願番号】PCT/EP2007/054572
【国際公開番号】WO2007/134987
【国際公開日】平成19年11月29日(2007.11.29)
【出願人】(503220392)ディーエスエム アイピー アセッツ ビー.ブイ. (873)
【Fターム(参考)】