説明

セメントの品質推定方法及びそれを用いた品質管理方法

【課題】高い精度でモルタル圧縮強さ推定値を得る方法を提供することにより、セメントの品質異常を未然に防止することができる信頼性の向上した状態での出荷を可能とすること。
【解決手段】セメント製造プラントの運転において、品質管理情報として収集した、セメント中のクリンカー構成鉱物及び添加材の量の情報、クリンカー構成鉱物の結晶構造の情報、クリンカーの少量成分の量の情報、およびセメントの粉末度及び45μm残分の情報を、過去に蓄積されているそれら情報及びモルタル圧縮強さ実測データの間の重回帰分析を基に求めたモルタル圧縮強さの推定式に適用することにより、モルタル圧縮強さを推定することを特徴とするセメントの品質推定方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セメント製造プラントの運転におけるセメントの品質推定方法、特に品質管理試験値からモルタル圧縮強さを推定する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
最近、クリンカーの原燃料として産業廃棄物の使用が増加してきており、クリンカーの少量もしくは微量成分の内容の変動によりセメントの品質が変動する可能性がある。このため、出荷するセメントの品質異常を未然に防止するために、セメントの品質管理試験の重要性が高まっている。
セメント工場において実施されている品質管理試験では、セメント中のクリンカー構成鉱物および添加材の量、クリンカー構成鉱物の結晶構造の情報、クリンカー中の少量・微量成分の量、セメントの粉末度、モルタル圧縮強さ等を測定している。
【0003】
しかしながら、セメントの鉱物組成および微量成分量等の測定は、短日数で可能であるが、モルタル圧縮強さ測定は、セメント、標準砂および水をJIS R 5201に準じて混練し、供試体を成型し、1日間養生後、3日間養生後、7日間養生後および28日間養生後の各時点において、供試体を圧縮試験機にかけて強さを測定する。すなわち、モルタル圧縮強さの測定結果が判明するまで28日間かかる。
【0004】
このように、モルタル圧縮強さなどのセメントの品質を測定する従来の方法では、圧縮強さの測定結果が判明するまで28日間必要であり、コストや時間がかかるばかりか、セメント出荷時にモルタル圧縮強さ測定結果が出ていない状態であり、精度の高い強度推定値を得ることができれば、品質管理度が向上した状態での出荷が可能となる。
【0005】
かかるセメントの品質管理技術として、特許文献1にはセメントまたはクリンカーの粉末X線回折結果を、プロファイルフィッティング法により解析し、これから得られるクリンカー鉱物の結晶情報を基に、セメントの品質の変化を予測することを特徴とするセメントの品質予測方法および該方法を利用したセメントの製造管理システムが開示されている。
この方法は、クリンカーの情報(エーライト、ビーライト、アルミネート相、フェライト相および硫酸アルカリの各相の量および格子体積)からモルタル圧縮強さを予測し、原料調合、焼成、粉砕などの工程管理にフィードバックして、セメントの品質を適正に保持しようとするものである。
しかしながら、この方法では、モルタル圧縮強さに影響を及ぼすと考えられるセメントの粉末度や石膏、石灰石の添加量等の情報が含まれていないため、モルタル圧縮強さを精度よく推定できない。
【0006】
【特許文献1】特開2005−214891号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、高い精度でモルタル圧縮強さ推定値を得る方法を提供することにより、セメントの品質異常を未然に防止する信頼性の向上した状態での出荷を可能とすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、セメントの材齢28日におけるモルタル圧縮強さに影響を及ぼすセメント製造プラントの各種品質管理情報につき検討を行った結果、モルタル圧縮強さに関連する品質管理情報を選択して、これら品質管理情報を変数とするモルタル圧縮強さの推定式を求め、これを用いてセメントの材齢28日におけるモルタル圧縮強さを推定する方法を見出し、本発明を完成した。
すなわち、本発明は、
(1)セメント製造プラントの運転において、品質管理情報として収集した、セメント中のクリンカー構成鉱物及び添加材の量の情報、クリンカー構成鉱物の結晶構造の情報、クリンカーの少量成分の量の情報、およびセメントの粉末度及び45μm残分の情報を、過去に蓄積されているそれら情報及びモルタル圧縮強さ実測データの間の重回帰分析を基に求めたモルタル圧縮強さの推定式に適用することにより、モルタル圧縮強さを推定することを特徴とするセメントの品質推定方法;
(2)セメント中のクリンカー構成鉱物及び添加材の量の情報、クリンカー構成鉱物の結晶構造の情報がセメントの粉末X線回折結果をリートベルト法により解析して得たものであり、クリンカーの少量成分の量の情報がクリンカーの蛍光X線分析により測定して得たものであり、セメントの粉末度及び45μm残分の情報がJIS R−5201及びJCAS K−02−2004により測定して得たものである上記(1)のセメントの品質推定方法;
(3)モルタル圧縮強さの推定式が、推定モルタル圧縮強さσ(材齢28日)=exp(C値−K×A値/B値)である上記(1)のセメントの品質推定方法。
(ここでK=6であり、A値は結合水量と自由水の空隙パラメータ、B値はセメント鉱物の空隙パラメータ、C値はlnσ0である強度パラメータであって、それぞれセメント中のクリンカー構成鉱物及び添加材の量の情報、クリンカー構成鉱物の結晶構造の情報、クリンカーの少量成分の量の情報、およびセメントの粉末度及び45μm残分の情報を変数とした重回帰式から求められる値である。);
(4)上記(1)〜(3)のいずれかのセメントの品質推定方法を利用することを特徴とするセメント製造プラントにおける品質管理方法;
を提供する。
【発明の効果】
【0009】
本発明により、セメント製造プラントの運転時に、高い精度でモルタル圧縮強さ推定値を得ることができるので、信頼性の向上した状態でセメントを出荷することができ、セメントの品質異常を未然に防止できる可能性が高くなる。
また、セメントの品質異常が見出されたときは、速やかに工程管理にフィードバックして、セメントの品質を適正に保持する。
さらには、施工現場で強度不足等のクレームが発生した場合に、セメント中のクリンカー構成鉱物および添加材の量、クリンカー構成鉱物の結晶情報、クリンカー中の少量成分量およびセメントの粉末度及び45μm残分を測定し、製造した工場の強度予測式から強度を推定して、セメントそのものに原因があったかどうかの判断指標とすることもできる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明のセメントの品質推定方法は、セメント製造プラントの運転において、特定の品質管理情報を、過去に蓄積されているそれら情報及びモルタル圧縮強さ実測データの間の重回帰分析を基に求めたモルタル圧縮強さの推定式に適用することにより、モルタル圧縮強さを推定することを特徴とする。
【0011】
本発明のセメントの品質推定方法において用いる品質管理情報は、セメント中のクリンカー構成鉱物及び添加材の量の情報、クリンカー構成鉱物の結晶構造の情報、クリンカーの少量成分の量の情報、およびセメントの粉末度及び45μm残分の情報である。
【0012】
セメント中のクリンカー構成鉱物及び添加材の量の情報とは、エーライト(C3S)量、ビーライト(C2S)量、アルミネート相(C3A)量、フェライト相(C4AF)量、二水石膏量、半水石膏量、CaCO3量、f−CaO量、ペリクレース量、硫酸アルカリ量であり、クリンカー構成鉱物の結晶構造の情報とは、C3S−M1相量、C3S−格子体積、C2S−格子体積、C3A−格子体積、C4AF−格子体積である。
これら情報は、セメントの粉末X線回折結果をリートベルト法により解析して得ることができる。
【0013】
クリンカーの少量成分の量の情報とは、MgO量、SO3量、Na2O量、K2O量、P25量であり、クリンカーの蛍光X線分析により測定して得ることができる。
【0014】
また、セメントの粉末度(ブレーン値)及び45μm残分の情報は、それぞれJIS R−5201、JCAS K−02−2004により測定して得るものである。
【0015】
上記SO3量、Na2O量、K2O量より下式で示すR値を算出する。
X=SO3量/(Na2O量+0.66×K2O量)
R値=Na2O量+0.7×K2O量−0.8×SO3量(X≦0.7のとき)
=0.8×Na2O量+0.5×K2O量−0.5×SO3量(0.7<X<1のとき)
=0.2×Na2O量+0.1×K2O量(X≧1のとき)
【0016】
さらに、C3S量、C3S−M1相量より下式で示すM値を算出する。
M値=(C3S−M1相量)/C3S量
【0017】
結合水量と自由水の空隙パラメータであるA値、セメント鉱物の空隙パラメータであるB値、および強度パラメータであるC値について、各工場で過去に蓄積されているデータを用いて、上記したセメント中のクリンカー構成鉱物及び添加材の量の各情報、クリンカー構成鉱物の結晶構造の各情報、クリンカーの少量成分の量の各情報、セメントの粉末度及び45μm残分の各情報、およびR値、M値を変数とした重回帰式を求めておく。
【0018】
セメント製造プラントの運転において収集した品質管理情報を、上記で得られたA値、B値、C値に関する重回帰式に適用してA値、B値、C値を求める。
このA値、B値、C値を用いて、次式からモルタル圧縮強さ(材齢28日)σの推定値を算出する。
σ=exp(C値−K×A値/B値)
(ここでK=6。)
【0019】
本発明のセメントの品質推定方法の所要時間は、実質的に、セメントの粉末X線回折結果のリートベルト法による解析、クリンカーの蛍光X線分析による測定、セメントの粉末度及び45μm残分の測定等に要する時間であり、サンプリングから1時間程度でセメントの品質の推定結果を得ることができ、セメント製造の工程管理に十分に利用できる。
【実施例】
【0020】
あるセメント製造工場における蓄積品質管理情報から下記のA値、B値、C値に関する重回帰式を得た。
A値=0.8×二水石膏量+2×半水石膏量−1×(C2S−格子体積)+4×SO3量+10×K2O量−4×P25量+0.3×45μm残分+400
B値=0.2×C3S量+0.03×C2S量+0.06×C3A量+0.1×C4AF量+0.4×二水石膏量+0.7×半水石膏量+0.04×CaCO3量−0.6×(C2S−格子体積)−0.06×MgO量+2×SO3量−2×K2O量−2×P25量+0.1×45μm残分−10×R値−0.08×M値+300
C値=−0.01×C3S量−0.004×C2S量−0.005×C3A量−0.009×C4AF量+0.02×二水石膏量+0.08×半水石膏量−0.02×CaCO3量−0.05×(C2S−格子体積)+0.03×MgO量+0.1×SO3量+1×K2O量−0.2×P25量+0.01×45μm残分+0.8×R値+0.04×M値+20
【0021】
その工場のセメント製造プラントの運転において、仕上げミルの後からセメントをサンプリングし、粉末X線回折/リートベルト法による解析ならびに粉末度及び45μm残分の測定を行い、また、キルン、クーラーを経た後のクリンカーをサンプリングし、蛍光X線分析による測定を行った。得られた品質管理情報を、上記重回帰式に適用してA値、B値、C値を得、前記推定式からモルタル圧縮強さ(材齢28日)σの推定値を算出した。
一方、上記でサンプリングしたセメントと、標準砂および水とをJIS R 5201に準じて混練し、供試体を成型し、28日間養生後、供試体を圧縮試験機にかけて強さを測定した。
これらサンプリング/分析/推定値算出、およびそのサンプルについてのモルタル圧縮強さ(材齢28日)の実測のセットを約90回行い、推定値と実測値の関係を図1にプロットした。そのプロットのうちの10点について具体的な数値を表1に示した。
【0022】
【表1】

【0023】
セメント協会が実施しているセメント共通試験(OCセメント共同試験)で、材齢28日のモルタル圧縮強さが測定されており、その標準偏差は約1.3N/mm2である。図1で明らかなように、上記の推定値と実測値の差はほとんどすべて標準偏差の3倍(3.9N/mm2)以内に入っており、この推定式を用いることにより信頼率99%でモルタル圧縮強さの推定ができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】モルタル圧縮強さ(材齢28日)の推定値と実測値の関係を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セメント製造プラントの運転において、品質管理情報として収集した、セメント中のクリンカー構成鉱物及び添加材の量の情報、クリンカー構成鉱物の結晶構造の情報、クリンカーの少量成分の量の情報、およびセメントの粉末度及び45μm残分の情報を、過去に蓄積されているそれら情報及びモルタル圧縮強さ実測データの間の重回帰分析を基に求めたモルタル圧縮強さの推定式に適用することにより、モルタル圧縮強さを推定することを特徴とするセメントの品質推定方法。
【請求項2】
セメント中のクリンカー構成鉱物及び添加材の量の情報、クリンカー構成鉱物の結晶構造の情報がセメントの粉末X線回折結果をリートベルト法により解析して得たものであり、クリンカーの少量成分の量の情報がクリンカーの蛍光X線分析により測定して得たものであり、セメントの粉末度及び45μm残分の情報がJIS R−5201及びJCAS K−02−2004により測定して得たものである請求項1に記載のセメントの品質推定方法。
【請求項3】
モルタル圧縮強さの推定式が、推定モルタル圧縮強さσ(材齢28日)=exp(C値−K×A値/B値)である請求項1に記載のセメントの品質推定方法。
(ここでK=6であり、A値は結合水量と自由水の空隙パラメータ、B値はセメント鉱物の空隙パラメータ、C値はlnσ0である強度パラメータであって、それぞれセメント中のクリンカー構成鉱物及び添加材の量の情報、クリンカー構成鉱物の結晶構造の情報、クリンカーの少量成分の量の情報、およびセメントの粉末度及び45μm残分の情報を変数とした重回帰式から求められる値である。)
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載のセメントの品質推定方法を利用することを特徴とするセメント製造プラントにおける品質管理方法。

【図1】
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【公開番号】特開2007−271448(P2007−271448A)
【公開日】平成19年10月18日(2007.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−97250(P2006−97250)
【出願日】平成18年3月31日(2006.3.31)
【出願人】(000183266)住友大阪セメント株式会社 (1,342)
【Fターム(参考)】