説明

セメントミルク圧送方法及びセメント系混合物の吹付け工法

【課題】セメントミルクをポンプで下方に向けて圧送する際、エアを咬ますことなく圧送して、確実にセメントミルクを定量供給できるようにする。
【解決手段】モルタル又はコンクリートの骨材1とセメントミルク2をノズル3よりも上流側に配置した混合装置4まで別々に圧送し、当該混合装置4で混合されたセメント系混合物5をノズル3から施工対象に吹き付けるセメント系混合物の吹き付け工法において、セメントミルク2をポンプ9で前記混合装置4に圧送するにあたり、セメントミルク搬送ホース10内にセメントミルク2を堰き止め得る詰め物Aを挿入し、詰め物Aの後ろからセメントミルク2を詰め物Aごと圧送する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モルタル又はコンクリートの骨材とセメントミルクをノズルよりも上流側に配置した混合装置まで別々に圧送し、当該混合装置で混合されたセメント系混合物をノズルから施工対象に吹き付けるセメント系混合物の吹き付け工法等におけるセメントミルク圧送方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
本出願人は、骨材とセメントミルクを別々に圧送するセメント系混合物(モルタルやコンクリート)の吹き付け工法を開発し、既に特開2001−248164号公報(特許文献1)で提案している。この工法は、水とセメントと骨材を事前に混練して圧送する一般的な吹き付け工法に比べると、搬送途中での材料分離やそれによる強度低下を発生させること無く長距離・高揚程圧送が可能になる等の利点を有している。
【0003】
しかしながら、吹き付け機械よりも吹き付け場所(施工対象)が下方にある場合、図5に示すように、セメントミルク2の搬送途中に重力の影響でセメントミルク搬送ホース10内にエアaが入って、セメントミルク2の定量供給に支障を来たすことがあった。即ち、セメントミルク2をポンプ9で下方に向けて圧送する際、ポンプ9による搬送速度が遅いと、空のホース10内をセメントミルク2が重力によって自由落下し、エアaの混入された状態で搬送先へと送り込まれることになる。そのため、吹き付け初期の段階では、セメントミルク2の定量供給ができず、骨材1との混合比率が変化して、吹き付け施工されたモルタル・コンクリート構造物の品質を確保することが困難であった。
【0004】
【特許文献1】特開2001−248164号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記の点に留意して成されたものであって、セメントミルクをポンプで下方に向けて圧送する際、エアを咬ますことなく圧送して、確実にセメントミルクを定量供給できるようにすることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を解決するために、本発明が講じた技術的手段は、次の通りである。即ち、請求項1に記載の発明によるセメントミルク圧送方法は、セメントミルクをポンプで圧送するにあたり、セメントミルク搬送ホース内にセメントミルクを堰き止め得る詰め物を挿入し、詰め物の後ろからセメントミルクを詰め物ごと圧送することを特徴としている。
【0007】
詰め物としては、セメントミルクを堰き止めることが可能で且つポンプによる圧送が可能であるものであれば、例えば、不織布、織布、編布等の布帛を丸めたもの、紙を丸めたもの、ゴムまり、スポンジ状体、表面がスポンジ等の軟らかい弾性層に形成された硬質の球体等を用いることができる。尚、この効果を発揮する物体であれば、収縮前の形状は球状でなくとも良いことは言うまでもない。
【0008】
請求項2に記載の発明では、詰め物としてホース内径よりも大きなスポンジ状体を用いている。スポンジ状体としては、内部に無数の独立気泡が形成された通気性のないものであってもよく、連続気泡が形成された通気性を有するスポンジ状体であってもよい(請求項3)。
【0009】
請求項4に記載の発明によるセメント系混合物の吹き付け工法は、モルタル又はコンクリートの骨材とセメントミルクをノズルよりも上流側に配置した混合装置まで別々に圧送し、当該混合装置で混合されたセメント系混合物をノズルから施工対象に吹き付けるセメント系混合物の吹き付け工法において、セメントミルクをポンプで前記混合装置に圧送するにあたり、請求項1〜3の何れかに記載のセメントミルク圧送方法を用いることを特徴としている。
【発明の効果】
【0010】
請求項1に記載の発明によれば、セメントミルクを下方に向けてポンプ圧送する場合でも、ホース内に詰め物があるため、重力によるセメントミルクの自由落下が起こらず、ホース内を完全にセメントミルクで充填した状態で圧送することが可能となる。従って、セメントミルクを搬送先に確実に定量供給できる。
【0011】
尚、一旦、ホース内がセメントミルクで充填されてしまえば、圧送し続ける限りはエアが混入して不定量となることは無い。これは、セメントミルクにある程度の粘性があるため、エアの逆流を防げるからである。また、粘性度をより高めるために、水セメント比を変えて水の量を少なくしたり、減水剤を少量にすることは、エアの逆流を防ぐ上で効果的である。セメントミルク濃度(水セメント比)については、現在までに本出願人が行ってきた各種試験結果により、濃度を10%未満とすると、粘性度は高くなるものの搬送性及び品質が著しく低下し、45%より高く設定すると、搬送性は向上するものの粘性度が低くなりエアの逆流を防ぐことができない事が判明している。従って、セメントミルク濃度(水セメント比)は10〜45%に設定することが望ましく、一般的に使用されるポンプの能力等を勘案すると、20〜35%に設定することがより好適である。また、減水剤については、その添加量をセメントに対する重量比で2.0%以下(より好ましくは1.0%以下)に留めることが効果的である。
【0012】
請求項2に記載の発明によれば、詰め物としてホース内径よりも大きなスポンジ状体を用いているので、スポンジ状体の伸縮性(高い形状変形率)を利用し、スポンジ状体をホース内に強引に詰め込むことで、ホース内を完全に塞ぐことができる。また、スポンジ状体は伸縮性に富むので、セメントミルクを圧送するポンプとして、スクイーズ式ポンプを用いる場合、ポンプの吸入口側にスポンジ状体を詰め込み、後続するセメントミルクと一緒にポンプ内に吸引して、吐出口からホース内に送り出すことができ、ポンプの吐出口より下流側でホース内にスポンジ状体を詰め込む場合よりも、ホース内への詰め込み操作が単純であり、容易である。
【0013】
また、ポンプの吐出口より下流側でホース内にスポンジ状体を詰め込む場合、請求項3に記載の発明のように、通気性のあるスポンジ状体を用いることにより、スポンジ状体の詰め込み位置とポンプとの間に空気があっても、ポンプによるセメントミルクの圧送に伴って、この空気がスポンジ状体を通過し、スポンジ状体の後ろ(上流側)にセメントミルクが充填されることになるので、ホース内を完全にセメントミルクで充填した状態で圧送することが可能となる。
【0014】
請求項4に記載の発明によれば、吹き付け機械よりも吹き付け場所(施工対象)が下方にある場合であっても、セメントミルクを骨材との混合装置までエアを咬ますことなく圧送できるため、セメントミルクが定量供給されて、骨材との混合比率が変化せず、高品質のモルタル・コンクリート構造物を造成できる。
【0015】
尚、施工途中で吹き付けを休止する場合は、混合装置直前のセメントミルク搬送ホースに設けられたコック(栓)を閉めることで、ホース内をセメントミルクで充填した状態にて休止することができ、吹き付けの再開直後からセメントミルクが定量供給され、骨材との混合比率が一定に維持されることになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。図1は、本発明に係るセメントミルク圧送方法が採用されたセメント系混合物の吹付け工法を示す。この吹付け工法は、モルタル又はコンクリートの骨材1とセメントミルク2をノズル3よりも上流側の近傍部に配置した可搬式の混合装置4まで別々に圧送し、当該混合装置4で混合されたセメント系混合物(モルタル又はコンクリート)5をノズル3から施工対象(例えば法面)に吹き付けて、施工対象にモルタル又はコンクリートの構造物(例えば、法枠、法面保護層等)を築造するように構成されている。6は吹き付け機械であり、骨材1の圧送機7とそれに接続されたエアコンプレッサー8、セメントミルク圧送用のポンプ9等で構成される。10はセメントミルク搬送ホース、11は骨材搬送ホース、12はセメント系混合物搬送ホースである。2aはセメント、2bは水である。
【0017】
尚、図1は、吹き付け機械6よりも吹き付け場所(施工対象)が下方にある場合を模式的に示している。
【0018】
前記混合装置4は、混合用筒体13を主体に構成されている。この混合用筒体13は、図2に示すように、その内径Dが骨材搬送ホース11の内径dよりもやゝ大径であって、一端側(吐出口14側)を順次絞り気味にして、その吐出口14の外周面部に、セメント系混合物搬送ホース12を同芯状に接続するための雄ねじ部15を形成する一方、他端側にも、骨材搬送ホース11を同芯状に接続するための雄ねじ部16を形成してある。混合用筒体13における骨材搬送ホース11の接続部近傍の筒壁13aには、セメントミルク2の注入コック17を接続するための雌ねじ部18を形成して、このコック17にセメントミルク搬送ホース10を接続するようにしている。
【0019】
そして、前記雌ねじ部18の筒体内方への延長軸線Pを、筒体軸線Qを通す状態で且つ筒体軸線Qに対して例えば40度の角度θで傾斜させて、筒体13内に圧送される骨材1に対してセメントミルク2を斜め後方から供給するように構成する一方、雌ねじ部18による筒体13内へのセメントミルク2の注入口部を筒体13の軸線方向で絞って、この絞り口部によってセメントミルク2を膜状に拡散させるようにしている。
【0020】
尚、前記ポンプ9としては、図3にその概要を示すように、ローター19の回転によりポンピングチューブ20を弾性変形させて、被搬送物(セメントミルク2)のポンピングチューブ19への吸入と、吸入した被搬送物(セメントミルク2)のポンピングチューブ19からの吐出とを行うスクイーズ式ポンプが使用されている。
【0021】
この実施形態では、上記のセメント系混合物の吹付け工法において、セメントミルク2をポンプ9で前記混合装置4に圧送するにあたり、次のようなセメントミルク圧送方法を用いている。即ち、図3に示すように、セメントミルク搬送ホース10内にセメントミルク2を堰き止め得る詰め物Aを挿入し、詰め物Aの後ろからセメントミルク2を詰め物Aごと圧送するようにしている。
【0022】
上記の構成によれば、吹き付け機械6よりも吹き付け場所(施工対象)が下方にあるにもかかわらず、セメントミルク2を骨材1との混合装置4までエアを咬ますことなく圧送できるため、セメントミルク2が定量供給されて、骨材1との混合比率が変化せず、高品質のモルタル・コンクリート構造物を造成できる。
【0023】
即ち、セメントミルク2を下方に向けてポンプ圧送する場合でも、ホース10内に詰め物Aがあるため、重力によるセメントミルク2の自由落下が起こらず、ホース10内を完全にセメントミルク2で充填した状態で圧送することが可能となる。従って、セメントミルク2を搬送先である混合装置4に確実に定量供給できる。
【0024】
尚、吹き付け作業は、施工対象の近くで試し吹きを行い、詰め物Aがノズル3から排出されたことを確認した後で行われることになる。この場合、一旦、ホース10内がセメントミルク2で充填されてしまえば、圧送し続ける限りはエアaが混入して不定量となることは無い。これは、セメントミルク2にある程度の粘性があるため、エアaの逆流を防げるからである。施工途中で吹き付けを休止する場合は、混合装置4直前のセメントミルク搬送ホース10に設けられたコック17を閉めることで、ホース10内をセメントミルク2で充填した状態にて休止することができ、吹き付けの再開直後からセメントミルク2が定量供給され、骨材1との混合比率が一定に維持されることになる。
【0025】
詰め物Aとしては、セメントミルク2を堰き止めることが可能で且つポンプ9による圧送が可能であるものであれば、例えば、不織布、織布、編布等の布帛を丸めたもの、紙を丸めたもの、図4の(A)に示すような中実のスポンジ状体、図4の(B)に示すようなゴムまり、図4の(C)に示すような表面がスポンジ等の軟らかい弾性層21に形成された硬質の球体22等を用いることができ、詰め物Aの形状も球状に限定されないが、図3に示した実施形態では、詰め物Aとして、直径がセメントミルク搬送ホース10の内径よりも大きな球状のスポンジ状体が用いられている。
【0026】
従って、スポンジ状体の伸縮性(高い形状変形率)を利用し、スポンジ状体をホース10内に強引に詰め込むことで、ホース10内を完全に塞ぐことができる。また、スポンジ状体は伸縮性に富むので、スクイーズ式ポンプ9の吸入口側にスポンジ状体(詰め物A)を詰め込み、後続するセメントミルク2と一緒にポンプ内に吸引して、吐出口からホース10内に送り出すことができる。
【0027】
尚、詰め物Aとして、どのような物を用いるにしても、収縮させない状態における詰め物Aの長径部分の断面積(詰め物Aが持つ最も大きい断面積)は、ホース内部断面積(流路の断面積)の1.1〜9.0倍(より好ましくは3.0〜6.0倍)であることが望ましい。
【0028】
また、セメントミルク圧送用のポンプ9として、プランジャー式のポンプを用いる場合、ポンプ9の吸入口側にスポンジ状体等の詰め物Aを詰め込むと、ポンプ9の弁孔を通過することが困難であるから、ポンプ9の吐出口より下流側でホース10内に詰め物Aを詰め込むことが望ましい。この場合、詰め物Aとして通気性のあるスポンジ状体を用いることにより、スポンジ状体の詰め込み位置とポンプ9との間に空気があっても、ポンプ9によるセメントミルク2の圧送に伴って、この空気がスポンジ状体を通過し、スポンジ状体の後ろ(上流側)にセメントミルク2が充填されることになるので、ホース10内を完全にセメントミルク2で充填した状態で圧送することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明に係るセメント系混合物の吹き付け工法を説明する斜視図である。
【図2】骨材とセメントミルクを混合する混合装置の断面図である。
【図3】本発明に係るセメントミルク圧送方法を説明する概略断面図である。
【図4】詰め物を例示する断面図である。
【図5】従来例の問題点を説明する概略断面図である。
【符号の説明】
【0030】
A 詰め物
1 骨材
2 セメントミルク
3 ノズル
4 混合装置
5 セメント系混合物
9 ポンプ
10 セメントミルク搬送ホース


【特許請求の範囲】
【請求項1】
セメントミルクをポンプで圧送するにあたり、セメントミルク搬送ホース内にセメントミルクを堰き止め得る詰め物を挿入し、詰め物の後ろからセメントミルクを詰め物ごと圧送することを特徴とするセメントミルク圧送方法。
【請求項2】
詰め物としてホース内径よりも大きなスポンジ状体を用いることを特徴とする請求項1に記載のセメントミルク圧送方法。
【請求項3】
通気性を有するスポンジ状体であることを特徴とする請求項2に記載のセメントミルク圧送方法。
【請求項4】
モルタル又はコンクリートの骨材とセメントミルクをノズルよりも上流側に配置した混合装置まで別々に圧送し、当該混合装置で混合されたセメント系混合物をノズルから施工対象に吹き付けるセメント系混合物の吹き付け工法において、セメントミルクをポンプで前記混合装置に圧送するにあたり、請求項1〜3の何れかに記載のセメントミルク圧送方法を用いることを特徴とするセメント系混合物の吹付け工法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−138488(P2007−138488A)
【公開日】平成19年6月7日(2007.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−332105(P2005−332105)
【出願日】平成17年11月16日(2005.11.16)
【出願人】(000231431)日本植生株式会社 (88)
【Fターム(参考)】