説明

セメント中の粉砕助剤の定性・定量分析方法、及び定性分析方法。

【課題】セメント中の粉砕助剤を的確に定性分析しつつ、且つ正確に定量することができる定性分析並びに定量分析方法を提供する。
【解決手段】セメントc中の粉砕助剤ex1の定性分析方法は、粉砕助剤ex1を含有するセメントcに対して加熱脱着処理を行うことにより当該粉砕助剤ex1を熱分解することなく他の成分とともに抽出物ex1、ex2として抽出する加熱脱着工程ST1と、抽出物ex1、ex2をそれぞれ認識可能な状態に検出するガスクロマトグラフ工程ST3と、検出された抽出物ex1、ex2の質量スペクトルをそれぞれ計測する質量分析工程ST4と、抽出物ex1、ex2の質量から粉砕助剤ex1を同定する定性分析工程ST5とを含んでいることを特徴とし、同定した粉砕助剤ex1の量を測定する定量分析工程ST6をさらに含んでいる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セメント中に添加した粉砕助剤の定性・定量分析方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、セメントの製造工程においてセメントクリンカーの粉砕工程では、粉砕性の向上や消費エネルギーの削減を目的として高極性有機化合物を主成分とする粉砕助剤が添加されている。添加された粉砕助剤は、一般にセメント中に残存するが、粉砕工程においてセメントクリンカー同士が擦れる際の摩擦熱によって揮発してしまう場合もあるため必ずしも添加量と残存量は一致しない。特に沸点の低い粉砕助剤を添加し、粉砕器内部の温度が高温であった場合には、残存量は著しく小さなものとなる。
【0003】
一般にセメントに残存している粉砕助剤の種類と量は粉体の性質に影響を与える。このため、セメントの粉体の性状に異常が見られた場合、原因究明のために残存している粉砕助剤の種類と量を知ることは重要である。また、粉砕助剤残存量は粉砕工程における粉砕助剤添加量、粉砕器内部の温度と密接な関係にあるために、粉砕助剤残存量によって操業条件を推定することができる。
【0004】
セメントクリンカーの粉砕時に添加される粉砕助剤としては、ジエチレングリコール、プロピレングリコール等の多価アルコール類、トリエタノールアミン、トリイソパノールアミン等のアミノアルコール類などが使用されている。一般に、これらの粉砕助剤の添加量は極めて少なく、例えばセメントクリンカーの粉砕時使用されるジエチレングリコールの添加量は、通常0.02〜0.05重量%である。
【0005】
そしてこのようなセメント中の粉砕助剤の分析方法としては熱分解ガスクロマトグラフ法による定量方法が報告されている(例えば、特許文献1参照)。この方法では試料であるセメント粉体を熱分解炉で、764℃で瞬間加熱することにより、セメント中の粉砕助剤を分解、粉体中から脱離させ、生成した熱分解生成物の量をガスクロマトグラフ分析で得たピークから測定することにより、粉砕助剤の残存量を定量するものである。
【特許文献1】特開平6−308110号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、この方法では粉砕助剤の熱分解生成物を測定しているため、粉砕助剤が異なっていても熱分解生成物が共通しているような場合は、熱分解前の粉砕助剤の判別を付けることが困難である。例えば、ジエチレングリコール、プロピレングリコール等のグリコール類は熱分解時に、例えば二酸化炭素やエチレングリコールといった同一の熱分解生成物を生成する。また、トリエタノールアミンやトリイソプロパノールアミン等のアミノアルコール類も熱分解時に同一の熱分解生成物を生成する。加えて、これら粉砕助剤を熱分解した熱分解生成物の生成量は粉砕助剤の種類ごとに異なるものとなっている。このため、添加された粉砕助剤が予め分かっている場合であれば、その熱分解生成物をそれぞれ定量することによって、残存量を定量することが可能であるが、添加された粉砕助剤が未知の場合には、その種類と残存量を特定することは困難である。また、熱分解を行う際の熱分解効率は、一般に再現性が低いために、定量する際の変動係数は大きいものとなっている。
【0007】
本発明は、このような不具合に着目したものであり、セメント中の粉砕助剤を的確に定性分析しつつ、且つ正確に定量することができる定性分析並びに定量分析方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、このような目的を達成するために、次のような手段を講じたものである。すなわち、本発明に係るセメント中の粉砕助剤の定性・定量分析方法は、粉砕助剤を含有するセメントに対して加熱脱着処理を行うことにより当該粉砕助剤を熱分解することなく抽出物として抽出する加熱脱着工程と、加熱脱着工程によって抽出した抽出物をそれぞれ認識可能な状態に検出するガスクロマトグラフ工程と、ガスクロマトグラフ工程によって検出された抽出物の質量スペクトルをそれぞれ計測する質量分析工程と、質量分析工程によって計測された抽出物の質量から粉砕助剤を同定する定性分析工程と、検出した粉砕助剤の総量からセメント中に含まれる粉砕助剤の量を定量する定量分析工程とを含んでいることを特徴とする。
【0009】
ここで「セメント中の粉砕助剤」とは、「セメントに対して混合させた」、言い換えれば「セメント製造時に添加した」と同義であり、詳細には、セメント粒子に粉砕助剤が付着した状態を指すものである。またガスクロマトグラフとは、抽出物を構成する各成分を、例えばそれぞれ別個のピークとして認識可能に表示するまでの行為を示す、いわゆる狭義のガスクロマトグラフを指すものである。そして質量分析とは、抽出された抽出物に係る原子或いは分子の質量スペクトルを分析する行為を示すものである。
【0010】
このようなものであれば、粉砕助剤を加熱脱着することによって熱分解させることなくガスクロマトグラフ分析を行うことにより、従前であれば熱分解により共通の化合物にまで分解されてしまうために成し得なかった定性分析を、高い確実性をもって行うことができる。また、特定した粉砕助剤の含有量もクロマトグラフによって認識された、例えばピークの値や形状といった結果から好適に定量することが可能である。
【0011】
また、セメント中に通常混入させる粉砕助剤の特性から、加熱温度を200〜350℃としたものとすれば、それらの粉砕助剤を熱分解させることなく加熱脱着することができるので、熱分解せずに認識した粉砕助剤を好適に定性分析することができる。
【0012】
そして、加熱脱着により抽出した粉砕助剤を含む抽出部をそれぞれより明確に認識し得るようにするために、加熱脱着工程とガスクロマトグラフ工程との間に、加熱脱着工程によって抽出した抽出物を冷却する冷却工程をさらに含むものとすることが望ましい。具体的には、冷却工程における冷却温度を、−150℃に設定することが好ましい。
【0013】
そしてガスクロマトグラフ工程を、抽出物をそれぞれ別個のピークとして認識可能な状態とするものとした場合、粉砕助剤の定性分析を高い精度で行うための具体的な定性分析工程として、ガスクロマトグラフ工程によって検出された抽出物を示すピークの位置から粉砕助剤に係るピークを同定するものを挙げることができる。さらに詳細には、定性分析工程を、ピークに係る抽出物の質量スペクトルをライブラリ検索することによって粉砕助剤を同定するといった態様を挙げることができる。
【0014】
一方上述同様ガスクロマトグラフ工程を抽出物をそれぞれ別個のピークとして認識可能な状態とするものとした場合、定量分析工程を、定性分析工程によって同定した粉砕助剤に係るピークの面積から粉砕助剤を定量するものとすれば、正確に含有量を測定することが可能となる。詳細には、定量分析工程を、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、トリエタノールアミン又はトリイソパノールアミンの何れかに係るガスクロマトグラフのピークの面積から作成された検量線データと、ガスクロマトグラフ工程によって検出された粉砕助剤に係るピークの面積とを比較することにより粉砕助剤の含有量を定量するものとすれば、より迅速且つ正確に粉砕助剤を定量することが可能となる。
【0015】
そして本発明に係るセメント中の粉砕助剤の定性分析方法は、粉砕助剤を含有するセメントに対して加熱脱着処理を行うことにより当該粉砕助剤を熱分解することなく他の成分とともに抽出物として抽出する加熱脱着工程と、加熱脱着工程によって抽出した抽出物をそれぞれ認識可能な状態に検出するガスクロマトグラフ工程と、ガスクロマトグラフ工程によって検出された抽出物の質量をそれぞれ計測する質量分析工程と、質量分析工程によって計測された抽出物の質量から粉砕助剤を同定する定性分析工程とを含んでいることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、高い確実性をもって粉砕助剤を特定することができるとともに、特定した粉砕助剤の含有量もクロマトグラフ分析の結果から好適に定量することが可能である。
【0017】
そして本発明を粉砕助剤の同定並びに粉砕器内部の温度と密接な関係にある粉砕助剤残存量の定量に応用すれば、セメント粉砕に係る操業条件を好適に推定することができ、セメントの粉体の性状に異常が見られた場合の原因究明にも大きく寄与するものとなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明の一実施の形態について図面を参照して説明する。
【0019】
本実施形態においてセメントc中の粉砕助剤の定性・定量分析を行うための加熱脱着ガスクロマトグラフ質量分析(加熱脱着GC/MS)装置(以下分析装置と記す)Aを図1に示す。
【0020】
ここで本実施形態に係るセメントc中の粉砕助剤ex1の定性分析方法は、粉砕助剤ex1を含有するセメントcに対して加熱脱着処理を行うことにより当該粉砕助剤ex1を熱分解することなく抽出物ex1として、或いは、セメントcが粉砕助剤ex1意外に他の成分ex2を含有する場合には他の成分とともに抽出物ex1、ex2として抽出する加熱脱着工程ST1と、加熱脱着工程ST1によって抽出した抽出物ex1、ex2をそれぞれ認識可能な状態に検出するガスクロマトグラフ工程ST3と、ガスクロマトグラフ工程ST3によって検出された抽出物ex1、ex2の質量スペクトルをそれぞれ計測する質量分析工程ST4と、質量分析工程ST4によって計測された抽出物ex1、ex2の質量から粉砕助剤ex1を同定する定性分析工程ST5とを含んでいることを特徴とする。
【0021】
そして本実施形態に係るセメントc中の粉砕助剤ex1の定性・定量分析方法は、上記各工程に加え、検出した粉砕助剤ex1の総量からセメントc中に含まれる粉砕助剤ex1の量を定量する定量分析工程ST6をさらに含んでいることを特徴とするものである。
【0022】
以下、当該分析装置Aについて、図1、図2及び図3を用いて説明する。
【0023】
分析装置Aは、試料h、すなわち粉砕助剤ex1を含んでいるセメントcに対して加熱脱着を行うための加熱脱着導入システム1と、加熱脱着によって試料hから抽出した抽出物ex1、ex2をヘリウム等のキャリアガスとともにカラム22に通して解析可能な状態で検出するガスクロマトグラフシステム2と、検出された抽出物ex1、ex2の質量を計測する質量分析システム3と、当該抽出物ex1、ex2を定性分析並びに定量分析を行う定性・定量分析システム4とを主に具備している。また、後述する冷却部13、プレカラム14、コネクタ21及びカラム22は、図1に示すように、温度を適宜設定し得るオーブンOVの内部に配置されている。
【0024】
なお当該分析装置Aはその他電源システムやコンピュータシステム等、他の必須要素も具備するものであるが、本実施形態ではそれらについては既知のものを採用しているため、その詳細な構成説明については省略するものとする。
【0025】
加熱脱着導入システム1は、図1に示すように、オートサンプラー11と、加熱脱着部12と、冷却部13と、プレカラム14とを具備している。
【0026】
オートサンプラー11は、試料hを充填した試料チューブtを例えば複数収納したものであり、試料チューブt毎に充填した試料hをスムーズに加熱脱着部12へ挿入するためのものである。
【0027】
加熱脱着部12は、本実施形態に係る加熱脱着工程ST1を実現するものである。この加熱脱着部12は、オートサンプラー11によって挿入された試料チューブt内に例えば窒素やヘリウムといった不活性ガスからなるキャリアガスを充満させた状態とし、本実施形態では200〜350℃といった加熱温度にまで加熱し、試料hから加熱脱着された抽出物ex1、ex2を抽出するものである。具体的には室温である20℃から毎分60℃の速度で250℃にまで昇温させ、当該250℃で3分間維持することにより、試料hを加熱脱着するものである。なお本実施形態では、この抽出物ex1、ex2には通常、熱分解されずに抽出された粉砕助剤ex1を含むとともに、場合によっては粉砕助剤ex1以外の他の成分として抽出物ex2を含んでいる。
【0028】
冷却部13は、本実施形態に係る冷却工程ST2を実現するものである。この冷却部13は、本実施形態では第一冷却部131と、第二冷却部132とを具備しているものである。具体的には、第一冷却部131と第二冷却部132とによって加熱脱着部12により試料hから加熱脱着された抽出物ex1、ex2を、一旦−150℃まで冷却した後、毎分12℃の速度で再び250℃にまで昇温させ、250℃で5分間維持するように設定している。このように、加熱脱着部12によって一旦加熱脱着された抽出物ex1、ex2を冷却することを一般にはクライオフォーカスといい、当該クライオフォーカスによって、後述するガスクロマトグラフ工程ST3において抽出物ex1、ex2を構成する各成分を示す各ピークをシャープな形状に検出することができる。換言すれば、各ピークをそれぞれ明確なものとしてピークの面積を正確に計測し易い状態に検出することができる。なお本実施形態では、第一冷却部131及び第二冷却部132によって、加熱脱着した抽出物ex1、ex2を二度に亘って冷却する機能を有しているが、後述する実施例ではCIS4たる第一冷却部131のみを使用している。
【0029】
プレカラム14は、冷却部13によって一旦冷却された抽出物ex1、ex2をオーブンOV内においてコネクタ21を介してカラム22へ導入するものである。
【0030】
ガスクロマトグラフシステム2は、本実施形態に係るガスクロマトグラフ工程ST3を実現するものである。このガスクロマトグラフシステム2は、図1に示すように、コネクタ21と、カラム22と、検出部23とを具備している。
【0031】
コネクタ21は、上述したプレカラム14とカラム22とを接続するものである。なおカラム22を交換する際は、当該コネクタ21とカラム22との接続部分及びカラム22と検出部23との接続部分を解除することにより行うものである。
【0032】
カラム22は、抽出物ex1、ex2をキャリアガスとともに各抽出物ex1、ex2をそれぞれ異なるスピードで通過させるものであり、本実施形態ではHP―INNOWAX(長さ30m、内径0.25mm、膜圧0.25μm)を採用している。そして抽出物ex1、ex2がカラム22を通過する際のオーブンOVの温度を、本実施形態では、70℃で1分維持した後毎分20℃の速度で昇温させ180℃に達した後、毎分10℃の速度で250℃にまで昇温させ、250℃で3分維持するように設定している。
【0033】
検出部23は、カラム22を通過した抽出物ex1、ex2を図2に示すようなチャートとして出力し得るものである。本実施形態では、抽出物ex1、ex2を、それぞれ別個のピークとして認識可能な状態とすべく、同図のようなチャートとして表わしているが、チャートの形式で出力することに限られることはなく、質量分析システム3並びに定性・定量分析システム4へデータとして出力し得るものであればよい。なお同図では、後述する粉砕助剤ex1に係るピークのみを矢印で示している。
【0034】
質量分析システム3は、本実施形態に係る質量分析工程ST4を示すものである。当該質量分析システム3は、図1に示す検出部23によってそれぞれ図2に示す別個のピークとして認識可能となった抽出物ex1、ex2の各ピークの質量スペクトルを、例えば図3に示すように出力するものである。ここで、図3は、図2において矢印で示した抽出物ex1に係るピークの質量スペクトルを示すものである。また質量分析に係る条件としては後述の実施例のように、既存の種々の条件を採用することができる。
【0035】
定性・定量分析システム4は、図2に示すようなチャートとして検出した抽出物ex1、ex2に係るデータ、具体的にはチャートに示されたピーク並びに当該ピークの質量スペクトルを基に、粉砕助剤ex1を同定する定性分析部41と、粉砕助剤ex1に係るピークの面積から粉砕助剤ex1を定量する定量分析部42とを具備している。なお本実施形態において定性・定量分析システム4はガスクロマトグラフシステム2並びに質量分析システム3と同じ分析装置A内で行う態様を開示したが、例えば、ガスクロマトグラフシステム2によって得られた例えば図2に示すようなチャートを、別体のコンピュータシステムによって解析するといったように、定性・定量分析システム4を別体の装置によって行うものとしてもよい。
【0036】
定性分析部41は、本実施形態に係る定性分析工程ST5を実現するものである。この定性分析部41は、具体的に本実施形態では、一般に粉砕助剤ex1として用いられる化合物であるジエチレングリコール、プロピレングリコール、トリエタノールアミン又はトリイソパノールアミン等を含む種々の化合物に係る質量スペクトルを予めライブラリとして記憶しておき、上述した図3に係る質量スペクトルとを比較していくことによって帰属率の高い化合物を検索することによって粉砕助剤ex1を同定するものである。ここで本実施形態では当該定性分析部41によって、図3に係る質量スペクトルが高い帰属率でジエチレングリコールに帰属されるとの結果を得た。すなわち、この時点で抽出物ex1がジエチレングリコールすなわち粉砕助剤ex1であると同定することができる。
【0037】
定量分析部42は、本実施形態に係る定量分析工程ST6を実現するものである。この定量分析部42は、同定された粉砕助剤ex1に係るピークの面積から粉砕助剤ex1を定量するものである。具体的には、上述のジエチレングリコール、プロピレングリコール、トリエタノールアミン又はトリイソパノールアミンの何れかに係るガスクロマトグラフの含有量とピークの面積との相関を基に予め作成された各粉砕助剤ex1に係る検量線データと、ガスクロマトグラフシステム2によって検出された粉砕助剤ex1に係るピークの面積とを比較することにより粉砕助剤ex1の含有量を定量するものとしている。
【0038】
以上のように、本実施形態に係るセメントc中の粉砕助剤ex1の定性分析方法は、粉砕助剤ex1を含有するセメントcに対して加熱脱着処理を行うことにより当該粉砕助剤ex1を熱分解することなく他の成分とともに抽出物ex1、ex2として抽出する加熱脱着工程ST1と、加熱脱着工程ST1によって抽出した抽出物ex1、ex2をそれぞれ認識可能な状態に検出するガスクロマトグラフ工程ST3と、ガスクロマトグラフ工程ST3によって検出された抽出物ex1、ex2の質量をそれぞれ計測する質量分析工程ST4と、質量分析工程ST4によって計測された抽出物ex1、ex2の質量から粉砕助剤ex1を同定する定性分析工程ST5とを含んでいることを特徴としているので、粉砕助剤ex1を加熱脱着することによって熱分解させることなくガスクロマトグラフ分析を行うことにより、従前であれば熱分解により共通の化合物にまで分解されてしまうために成し得なかった定性分析を、高い確実性をもって行うことができるものとなっている。
【0039】
そして勿論、同定した粉砕助剤ex1の量を測定する定量分析工程ST6をさらに行うことによって、本実施形態に係るセメントc中の粉砕助剤ex1の定性・定量分析方法は、同定した粉砕助剤ex1の量を測定する定量分析工程ST6をさらに含んでいることを特徴としているので、特定した粉砕助剤ex1の含有量もクロマトグラフによって認識された、例えばピークの面積といった結果から好適に定量することが可能である。
【0040】
また、セメントc中に通常混入させるジエチレングリコール、プロピレングリコール、トリエタノールアミン又はトリイソパノールアミンといった粉砕助剤ex1を熱分解させることがない温度である200〜350℃を加熱温度として設定しているので粉砕助剤ex1を好適に定性分析し得るものとなっている。
【0041】
また本実施形態では、ガスクロマトグラフ工程ST3によって検出される各抽出物ex1、ex2のピークをよりシャープなものとするために、いわゆるクライオフォーカシングである冷却工程ST2を、加熱脱着工程ST1と記ガスクロマトグラフ工程ST3との間に含むものとしているので、後の定性分析工程ST5並びに定量分析工程ST6をより正確に行い得るものとなっている。具体的には、冷却工程ST2における冷却温度を、−150℃に設定して、より確実にクライオフォーカシングを行い得るものとしている。
【0042】
そしてガスクロマトグラフ工程ST3によってそれぞれ別個のピークとして認識された抽出物ex1、ex2の質量を、具体的には質量スペクトルを質量分析工程ST4によって計測することにより粉砕助剤ex1を同定するものとしているので、粉砕助剤ex1の定性分析を高い精度で行うことが可能となっている。また、抽出物ex1、ex2として、加熱脱着工程ST1によって熱分解されない状態で分離された粉砕助剤ex1を直接質量分析するため、熱分解されれば同一の化合物となるような粉砕助剤ex1同士でも誤って判断することを有効に回避している。また、粉砕助剤ex1に係るピークを同定すれば抽出物ex2に係るピークは粉砕助剤ex1とは関係のないピークか或いは別の種類の粉砕助剤であることが明確となるため、従来のように、得られた全てのピークに対して熱分解によって分解された生成物に係るピークか否かを確認していく工程を有効に回避することができる。具体的には、定性分析部41に予め種々の化合物に質量スペクトルに係るライブラリを準備しておくことにより、ピークに係る抽出物ex1、ex2の質量スペクトルをライブラリ検索することによって粉砕助剤ex1を同定するので、実際の動作はピークに係る質量スペクトルをライブラリから照合するのみの動作となり、迅速且つ正確に粉砕助剤ex1の定性分析を行うことができるものとなっている。
【0043】
そして本実施形態では、定量分析工程ST6を、定性分析工程ST5によって同定した粉砕助剤ex1に係るピークの面積から粉砕助剤ex1を定量するものとすることによって、加熱脱着工程ST1を経て抽出された抽出物ex1、ex2の量に正確に反映したピーク面積を基に、正確な含有量を定量することができる。具体的には、定量分析工程ST6において、定量分析部42に予めジエチレングリコール、プロピレングリコール、トリエタノールアミン又はトリイソパノールアミンの何れかに係るガスクロマトグラフのピークの面積から作成された検量線データを準備しておき、ガスクロマトグラフ工程ST3によって検出され、定性分析工程ST5によって同定された粉砕助剤ex1に係るピークの面積とを比較することにより粉砕助剤ex1の含有量を定量するものとしているので、ガスクロマトグラフ工程ST3に係るピーク面積から、試料h中に含有する粉砕助剤ex1の含有量を正確に定量することが可能である。
【0044】
以上、本発明の実施形態について説明したが、各部の具体的な構成は、上述した実施形態のみに限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形が可能である。
【0045】
例えば、上記実施形態において、例えば定性分析工程によってピークから同定し得ない質量スペクトルを得たとしても、当該質量スペクトルに係るデータを保存しておき、新たな別の化合物に係る質量スペクトルと比較・照合することによって粉砕助剤を同定すなわち定性分析することも可能である。さらに、本発明に係る定性分析は、単一の粉砕助剤のみを添加したセメントの分析に限られることはない。すなわち、粉砕助剤を熱分解することがないので、数種類の粉砕助剤が併せて添加された供試体に対して適用することも可能である。
【0046】
その他、各部の具体的構成についても上記実施形態に限られるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形が可能である。
【実施例】
【0047】
以下、本発明の一実施例について説明するが、本発明は当該実施例に限定されるものではない。
【0048】
<実施例:加熱脱着GC/MSを用いた粉砕助剤の分析方法>
<試料>
何れの試料も粉砕助剤を含有しないセメントと粉砕助剤を遊星ミル(フリッチュ社製遊星型ポールミル)で混合撹拌することにより調整した。
試料1:ジエチレングリコールを0.02重量%含有する試製普通ポルドランドセメント
試料2: ジエチレングリコールを0.04重量%含有する試製普通ポルドランドセメント
試料3: ジエチレングリコールを0.06重量%含有する試製普通ポルドランドセメント
<装置>
加熱脱着導入システム:Gerstel社製 TDSA2、TDS2、CIS4
GC/MS:Agilent 社製 6890GC/5973MSD
*TDSA2は専用オートサンプラー
*TDS2は加熱脱着システム
*CIS4は冷却注入システム
<分析条件>
(1)TDS2、CIS4条件
TDS2流量モード:スプリットレスモード
TDS2脱着温度:20℃(0.5分)→60℃/分→250℃(3分)
TDS2脱着流量:48ml/分
CIS4注入モード:スプリットレスモード
CIS4温度:−150℃(1分)→12℃/分→250℃(5分)
(2)GC(ガスクロマトグラフ)条件
キャピラリーカラム:HP−INNOWAX(長さ30m、内径0.25mm、膜圧0.25μm)
キャリアガス流量:1.6ml/分(コンスタントフロー)
オーブン温度:70℃(1分)→20℃/分→180℃(0分)→10℃/分→240℃(3分)
(3)MS(質量分析)条件
イオン化法:EI法、70eV
スキャン範囲:m/z=29〜550
トランスファーライン温度:240℃
イオン源温度:230℃
四重極温度:150℃
<定性分析>
試料1のクロマトグラムを図2に示す。10.3分にシャープなピークが観測された。ピークの質量スペクトルと、検索結果を図3に示す。図3に示す質量スペクトルは、高い帰属率でジエチレングリコールと帰属され、本方法により、添加された粉砕助剤の定性分析が可能であることが明らかである。また勿論、ジエチレングリコール以外の粉砕助剤が添加されていても、粉砕助剤に係るピークの質量スペクトルを同様に検索すれば、確実に粉砕助剤を同定し得ることが明確なものとなった。
<定量分析>
試料1、試料2及び試料3をそれぞれ5回ずつ測定し、ピーク面積の平均値から検量線を作成した。測定結果を表1に、作成した検量線を図4に示す。
【0049】
【表1】

【0050】
同表から本分析方法の変動係数(CV)は十分に小さく、また同図より検量線の直線性も高いことから、精度の高い定量分析が可能であることは明らかである。そして勿論、当該検量線を利用することによって、含有量が未定であるセメント中の粉砕助剤の定量分析を正確に行うことが可能である。また勿論、同様の手法で異なった種類の粉砕助剤に係る検量線を作成すれば、種々の粉砕助剤の定量分析をそれぞれ高い精度で行うことが可能である。
【0051】
<比較例:熱分解GC/MSを用いた粉砕助剤の分析方法>
<試料>
実施例と同じ
<装置>
熱分解装置:日本分析工業社製 JHP―2キューリーポイントパイロライザー
GC/MS:Agilent 社製 6890GC/5973MSD
<分析条件>
(1)熱分解条件
熱分解温度:764℃
熱分解時間:10秒間
(2)GC条件
注入モード:スプリットレス
キャピラリーカラム:HP−INNOWAX(長さ30m、内径0.25mm、膜圧0.25μm)
キャリアガス流量:1.6ml/分(コンスタントフロー)
オーブン温度:5℃(5分)
(3)MS条件
イオン化法:EI法、70eV
スキャン範囲:m/z=29〜550
トランスファーライン温度:240℃
イオン源温度:230℃
四重極温度:150℃
<定性分析>
試料1のクロマトグラフを図5に示す。ピークが2本検出された。またS/N比は本発明に比較して著しく悪かった。各ピークのライブラリによる検索結果を図6(a)、図6(b)及び図6(c)、及び図7(a)、図7(b)及び図7(c)に示す。図6(a)に、図5における図示左側のピークに係る質量スペクトルを示す。当該質量スペクトルは、同図(c)に模式的に示すCO2の質量スペクトルである同図(b)に対して高い帰属率を示した。そのため、図5における図示左側のピークはCO2であると推定することができる。一方、図7(a)に、図5における図示右側のピークに係る質量スペクトルを示す。当該質量スペクトルは、同図(c)に模式的に示すジエチレングリコールの熱分解生成物の質量スペクトルである同図(b)に対して高い帰属率を示した、そのため、図5における図示右側のピークはジエチレングリコールの熱分解生成物と推定された。但し、多の粉砕助剤もその分子構造から同一の熱分解生成物が生じることが予想され、本方法で添加された粉砕助剤を定性分析することは困難である。
<定量分析>
試料1、試料2及び試料3をそれぞれ5回ずつ測定し、ピーク面積の平均値から検量線を作成した。測定結果を表2に、作成した検量線を図8に示す。
【0052】
【表2】

【0053】
同表から本分析方法の変動係数(CV)は表1に示した実施例よりもかなり大きく、また図より検量線の直線性も実施例より低いことから、本比較例による定量分析は可能であるが、実施例よりも精度で劣ることが明らかである。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】本発明の一実施形態に係る分析装置を示す構成説明図。
【図2】同実施形態並びに本発明の一実施例に係る粉砕助剤の加熱脱着工程を経たガスクロマトグラフ分析の結果を示す図。
【図3】図2で矢印で示したピークの質量スペクトル並びに当該スペクトルの検索結果を示す図。
【図4】同実施例に係る検量線を示す図。
【図5】本発明の比較例に係る熱分解ガスクロマトグラフ分析の結果を示す図。
【図6】図5に係るピークの質量スペクトル並びに当該スペクトルの検索結果を示す図。
【図7】同上。
【図8】同比較例に係る検量線を示す図。
【符号の説明】
【0055】
ST1…加熱脱着工程
ST2…冷却工程
ST3…ガスクロマトグラフ工程
ST4…質量分析工程
ST5…定性分析工程
ST6…定量分析工程

【特許請求の範囲】
【請求項1】
粉砕助剤を含有するセメントに対して加熱脱着処理を行うことにより当該粉砕助剤を熱分解することなく抽出物として抽出する加熱脱着工程と、前記加熱脱着工程によって抽出した前記抽出物をそれぞれ認識可能な状態に検出するガスクロマトグラフ工程と、前記ガスクロマトグラフ工程によって検出された前記抽出物の質量スペクトルをそれぞれ計測する質量分析工程と、前記質量分析工程によって計測された前記抽出物の質量から前記粉砕助剤を同定する定性分析工程と、検出した前記粉砕助剤の総量からセメント中に含まれる粉砕助剤の量を定量する定量分析工程とを含んでいることを特徴とするセメント中の粉砕助剤の定性・定量分析方法。
【請求項2】
前記加熱脱着工程における加熱温度を、200〜350℃としている請求項1記載のセメント中の粉砕助剤の定性・定量分析方法。
【請求項3】
前記加熱脱着工程と前記ガスクロマトグラフ工程との間に、前記加熱脱着工程によって抽出した前記抽出物を冷却する冷却工程をさらに含むものとしている請求項1又は2記載のセメント中の粉砕助剤の定性・定量分析方法。
【請求項4】
前記ガスクロマトグラフ工程を、前記抽出物をそれぞれ別個のピークとして認識可能な状態とするものとし、
前記定性分析工程を、前記ガスクロマトグラフ工程によって検出された前記抽出物の質量を、前記質量分析工程によって計測することにより前記粉砕助剤を同定するものとしている請求項1、2又は3記載のセメント中の粉砕助剤の定性・定量分析方法。
【請求項5】
前記定性分析工程を、前記ピークに係る前記抽出物の質量スペクトルをライブラリ検索することによって前記粉砕助剤を同定するものとしている請求項4記載のセメント中の粉砕助剤の定性・定量分析方法。
【請求項6】
前記定量分析工程を、前記定性分析工程によって同定した前記粉砕助剤に係るピークの面積から前記粉砕助剤を定量するものとしている請求項4又は5記載のセメント中の粉砕助剤の定性・定量分析方法。
【請求項7】
前記定量分析工程を、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、トリエタノールアミン又はトリイソパノールアミンの何れかに係るガスクロマトグラフのピークの面積から作成された検量線データと、前記ガスクロマトグラフ工程によって検出された前記粉砕助剤に係るピークの面積とを比較することにより前記粉砕助剤の含有量を定量するものとしている請求項4又は5記載のセメント中の粉砕助剤の定性・定量分析方法。
【請求項8】
粉砕助剤を含有するセメントに対して加熱脱着処理を行うことにより当該粉砕助剤を熱分解することなく抽出物として抽出する加熱脱着工程と、前記加熱脱着工程によって抽出した前記抽出物をそれぞれ認識可能な状態に検出するガスクロマトグラフ工程と、前記ガスクロマトグラフ工程によって検出された前記抽出物の質量スペクトルをそれぞれ計測する質量分析工程と、前記質量分析工程によって計測された前記抽出物の質量から前記粉砕助剤を同定する定性分析工程とを含んでいることを特徴とするセメント中の粉砕助剤の定性分析方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2007−240227(P2007−240227A)
【公開日】平成19年9月20日(2007.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−60493(P2006−60493)
【出願日】平成18年3月7日(2006.3.7)
【出願人】(000183266)住友大阪セメント株式会社 (1,342)
【Fターム(参考)】