説明

セメント混和材、これを含むセメント組成物及びコンクリート

【課題】 十分な自己治癒性を有するとともに、長期にわたって自己治癒性を良好に維持することが可能なコンクリートを形成できるセメント混和材を提供すること。
【解決手段】 本発明のセメント混和材は、膨張材と、膨潤性を有するアルミナシリケートとを含有する。このセメント混和材は、セメントと組み合わせてセメント組成物を形成する。また、このセメント組成物と、水と、骨材とを混合して自己治癒性に優れるコンクリートが提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セメント混和材、これを含むセメント組成物及びコンクリートに関する。
【背景技術】
【0002】
構造物の構築に用いられるコンクリートは、セメント、水、骨材等を含み、水和反応によって硬化する性質を有する。この硬化後のコンクリートは、応力が作用したり、温度変化や乾燥等により体積変化が生じたりすることによって、ひび割れが発生し易い傾向にあった。このようなひび割れが発生すると、コンクリートを通って水が浸入し易くなり、漏水等の原因となるほか、構造物の耐久性の低下や、美観の悪化といった問題が生じることになる。また、例えば地下構造物の場合にもひび割れによる漏水が問題となるが、この場合、ひび割れの補修工事が困難であるため、コストが割高となる。従来は、ひび割れの発生後に充填剤を注入して修復を行ったり、ひび割れが発生しても構造物に影響を与えないようにコンクリートに防水工、止水工を施したりする対策がとられている。
【0003】
しかし、上述した修復や防水工、止水工等の対策は、必然的にコストの増加や構造物建造の際の工期の長期化等を招くこととなるため、できるだけ省略できることが望ましい。そこで、ひび割れが発生してもこれを自ら修復できる自己治癒コンクリートが開発されている(例えば、特許文献1、2参照)。これらのコンクリートは、自らひび割れを修復できる特性を有していることから、上述したような修復や防水工、止水工等を行わなかった場合であっても止水性能や耐久性を維持することができる。
【特許文献1】特許第3658568号公報
【特許文献2】特開2005−239482号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、上述したような自己治癒コンクリートに対しては、ひび割れ後の止水性能の更なる向上が求められている。また、構造物に用いられる場合、打設後の間もない期間だけでなく、長期間が経過した後にひび割れが生じた場合であっても、十分な自己治癒性を発揮し得ることも求められている。
【0005】
そこで、本発明はこのような要求に応えるべくなされたものであり、十分な自己治癒性を有するとともに、長期にわたって自己治癒性を良好に維持することが可能なコンクリートを形成できるセメント混和材を提供することを目的とする。本発明はまた、かかるセメント混和材を含むセメント組成物、及び、このセメント組成物を用いたコンクリートを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明のセメント混和材は、膨張材と、膨潤性を有するアルミナシリケートとを含有することを特徴とする。
【0007】
本発明のセメント混和材は、セメント組成物に含有させてコンクリートとして適用した場合、かかるコンクリートに対して優れた自己治癒性を付与でき、また長期にわたってこの自己治癒性を維持することを可能とする。この要因については明らかではないものの、次のように推測される。
【0008】
すなわち、本発明のセメント混和材中の膨張材は、コンクリートにひび割れが生じた際に、ひび割れ部において、水との水和反応により膨張性を有する水和物を生成し、この水和物の膨張によってひび割れ部を充填することができる。また、セメント混和材中の膨潤性を有するアルミナシリケートも、水との水和反応により結晶性の水和物を生成して膨潤し、膨張材による水和物と組み合わされて不溶性の析出物を形成することができる。これらを含むコンクリートにおいて、ひび割れ部に水が浸入した際には、まず、膨潤性を有するアルミナシリケートが即座に膨潤してコンクリート中の空隙を先に埋め、コンクリートにおける水和物が析出可能な空間を減少させる。そして、これに続いて、膨張材から溶出する成分がコンクリート中に析出することなく拡散によってひび割れ部に移動することで、ひび割れ部を選択的に充填するという優れた効果を発揮することができると考えられる。その結果、本発明のセメント混和材を含むセメント組成物を用いたコンクリートによれば、ひび割れが発生したとしても、膨張材及び膨潤性を有するアルミナシリケートの両方の作用によってひび割れが十分に修復され、止水性能が良好に維持されるようになる。
【0009】
また、セメント混和材に含まれている膨潤性を有するアルミナシリケートは、コンクリートの固化の初期段階には水分を吸収する。したがって、このアルミナシリケートを含むセメント組成物は、コンクリートに適用して固化させる際に、膨張材の水和を抑制することができ、未反応の膨張材を残すことができる。したがって、この固化後のコンクリートは、未反応の膨張材を従来に比して多く含むものとなるため、上述したようなメカニズムに基づく自己治癒性を長期にわたって良好に維持することができるほか、長期間経過後にひび割れが生じた場合であっても、このひび割れを素早く修復することができる。ただし、本発明の作用は必ずしもこれらに限定されない。
【0010】
上記本発明のセメント混和材は、マグネシウムシリケートを更に含有することが好ましい。上記のような膨潤性を有するアルミナシリケートを含むセメント組成物を用いたコンクリートは、素早く水分吸収が生じるため流動性が低下する場合があるが、セメント組成物がマグネシウムシリケートを含むことで、コンクリートの流動性を適切に高めることができ、コンクリートの打設等を行い易くなる。また、マグネシウムシリケートは、膨潤性を有するアルミナシリケートから生成する水和物の安定性を高めることができるため、ひび割れ部を充填する析出物の化学的安定性を高めて自己修復性を更に向上させることができる。
【0011】
また、セメント混和材は、リン酸カルシウムを更に含有することが好ましい。リン酸カルシウムは、セメントの水和物中の成分と反応して、結合力が高い水和物を生成することができ、セメント水和物の構造を緻密化することができる。したがって、リン酸カルシウムを含むことで、コンクリートにひび割れが生じた場合であってもこのひび割れ部位に上記のような緻密な水和物を形成することができ、自己治癒後のコンクリートの止水性能が更に向上するようになる。
【0012】
さらに、セメント混和材は、炭酸基を有する化合物、及び、酸化カルシウムを更に含有すると一層好ましい。セメント混和材におけるこれらの成分は、コンクリートにひび割れが生じた場合に水が存在すると、互いに反応して水への溶解性が低い炭酸化合物を形成することができる。したがって、炭酸基を有する化合物、及び、酸化カルシウムを含むセメント混和材によれば、コンクリートのひび割れ部分がより修復され易くなり、自己治癒性能が更に高められる。
【0013】
さらにまた、セメント混和材は、減水剤を更に含有すると好ましい。減水剤を含むことで、コンクリートを固化させる際のセメント中の膨張材の水和反応を遅延させることができるため、コンクリートの自己治癒性能をより長期にわたって維持することが可能となる。
【0014】
また、本発明は、セメントと、上記本発明のセメント混和材とを含有するセメント組成物を提供する。さらに、上記本発明のセメント組成物と、水と、骨材とを含有するコンクリートを提供する。本発明のセメント組成物を含むコンクリートは、上記本発明のセメント混和材を含むことから、上述したように、コンクリートに適用した場合に優れた自己治癒性を発揮し得るほか、そのコンクリートの固化後、長期間経過後であっても自己治癒性を良好に発揮し得るものとなる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、コンクリートに対して優れた自己治癒性を付与でき、また長期にわたってこの自己治癒性を良好に維持することが可能なセメント混和材を提供することが可能となる。また、このようなセメント混和材を含み、高い自己治癒性を有するとともに自己治癒性を長く良好に維持できるセメント組成物及びこれを含むコンクリートを提供することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の好適な実施の形態について説明する。
【0017】
まず、好適な実施形態のセメント混和材について説明する。本実施形態のセメント混和材は、膨張材と、膨潤性を有するアルミナシリケートとを含有するものである。膨張材は、水との接触により膨張する性質を有する成分であり、かかる膨張材としては、水和反応により結晶を生じて膨張するものが好適である。例えば、水和反応によりエトリンガイトや水酸化カルシウムの結晶を生じるセメント系膨張材が例示できる。膨張材としては、例えばCSA(カルシウムサルホアルミネート)、CaO、CaSO等が挙げられる。セメント組成物は、膨張材として、単一種のものを含んでいてもよく、複数種のものを組み合わせて含んでいてもよい。この膨張材は、セメント及びセメント混和材を含むセメント組成物中、4〜6質量%含まれることが好ましい。
【0018】
また、膨潤性を有するアルミナシリケートは、水分の吸収により膨潤する特性を有するアルミナシリケートであり、例えば、ベントナイトが挙げられる。ベントナイトとしては、Na、Ca、Mg、K等の陽イオンを有するものを特に制限なく適用できる。なかでも、上述した膨潤性に優れており、コンクリートのひび割れの発生自体を抑制できるほか、自己治癒性を維持する特性を良好に付与できるNa型のベントナイト(Na−ベントナイト)が特に好ましい。
【0019】
好適な実施形態のセメント混和材は、膨張材及び膨潤性を有するアルミナシリケートに加えて、他の成分を組み合わせて含むと好ましい。他の成分としては、まず、マグネシウムシリケートが挙げられる。マグネシウムシリケートは、コンクリートの調製時にベントナイト等の膨潤性を有するアルミナシリケートの添加により水分が吸収されても、コンクリートの流動性を十分に維持することを可能とする。したがって、マグネシウムシリケートの添加により、コンクリートの取り扱い性が良好となる。また、マグネシウムシリケートは、膨潤性を有するアルミナシリケートから生成する水和物の安定性を高めることもできるため、ひび割れ部を充填する析出物の化学的安定性を高めて自己修復性を更に向上させることができる。
【0020】
また、セメント混和材には、マグネシウムシリケート以外のマグネシウム化合物を含んでいてもよい。特に、マグネサイト(MgCO)やドロマイト(CaMg(CO)は、コンクリートのひび割れ部位に安定性の高いMg−Si系水和物やCaCO水和物を形成することができ、自己修復性の向上に寄与するため好ましい。タルクは、マグネシウムシリケートに加えて、マグネシウムや炭酸基を有する上記のような好適な成分を組み合わせて含む場合が多いことから、セメント混和材に含有させる成分として特に有用である。
【0021】
セメント混和材に添加する他の成分としては、リン酸カルシウムも好ましい。リン酸カルシウムの形態は特に制限されず、第1リン酸カルシウム(Ca(HPO)、第2リン酸カルシウム(CaHPO)、第3リン酸カルシウム(Ca(PO)等を適宜選択して適用することができる。リン酸カルシウムは、セメント組成物中、0.3〜1質量%含まれていると好ましい。
【0022】
なかでも、第2リン酸カルシウムは、セメント組成物を含むコンクリートにおいて、セメント水和物中に生じや水酸化カルシウムを反応し、結合力が高いハイドロキシアパタイト(例えば、Ca10(PO(OH))を生じて、ひび割れ部に緻密な水和物を形成することができる。したがって、第2リン酸カルシウムは、コンクリートに高い自己修復性を付与することが可能であるため、特に好ましい。
【0023】
また、他の成分としては、炭酸基を有する化合物及び酸化カルシウムを組み合わせて含有するとより好ましい。まず、炭酸基を有する化合物としては、金属の炭酸塩が好適であり、例えば、LiCO(炭酸リチウム)、NaCO(炭酸ナトリウム)、KCO(炭酸カリウム)、MgCO(炭酸マグネシウム)、LiHCO(炭酸水素リチウム)、NaHCO(炭酸水素ナトリウム)、KHCO(炭酸水素カリウム)、Mg(HCO(炭酸水素マグネシウム)等が挙げられる。なかでも、炭酸基を有する塩が好ましく、NaHCO(重曹)が、安価で入手が容易であり、しかもコンクリートのひび割れを修復する特性に優れることから特に好ましい。この炭酸基を有する化合物は、セメント組成物中で、10質量%以下となるように含まれていると好ましく、0.01〜3質量%を満たすように含まれているとより好ましい。
【0024】
一方、酸化カルシウム(CaO)は、水との反応によりCa(OH)を生じるが、この反応は体積膨張であり、上述した膨張材としても機能する。したがって、混和材が膨張材としてCaOを含む場合は、CaOが膨張材と添加剤の両方として機能し得る程度の含有量とすればよい。炭酸基を有する化合物とCaOを組み合わせて含むことで、コンクリートにひび割れが生じた場合、これらの両成分の反応によるCaCO等の安定性の高い反応物を形成でき、一層優れた自己治癒性が得られるようになる。
【0025】
さらに、セメント混和材は、減水剤を更に含有すると好適である。減水剤としては、減水剤、AE減水剤、高性能減水剤、高性能AE減水剤等のコンクリートに用いられる減水剤として公知のものを制限なく適用できる。なかでも、ポリカルボン酸系の減水剤は、上述した膨潤性を有するアルミナシリケートの添加に伴うコンクリートの流動性の低下を抑制することができ、流動性を良好に維持して作業性を向上させる観点からも好適である。減水剤は、セメント組成物中、0.8〜3.0質量%含まれると好ましい。なお、減水剤は、セメント混和材として含まれるのではなく、後述するようにセメント組成物を用いてコンクリートを調製する際に添加してもよい。
【0026】
さらに、セメント混和材は、上述した各成分に加え、セメント結晶の生成を促進する無機質セメント結晶増殖剤を更に含んでいてもよい。この無機質セメント結晶増殖剤としては、例えば、ポルトランドセメント組成物と、微細シリカ、水ガラス、ケイフッ化マグネシウム又はマグネシア、及び、シリカを含むケイフッ化物のうちの少なくとも一種からなる水溶性ケイフッ化物と、を含む組成を有するものが挙げられる(特許2521274号公報参照)。このようなセメント結晶増殖材は、コンクリートにひび割れが生じた場合、このひび割れ部分に浸透してこの部分に結晶を生じさせることができる。したがって、かかるセメント結晶増殖材を更に含むことで、コンクリートの自己修復性を一層向上させることができる。
【0027】
好適な実施形態のセメント組成物は、セメントと、上述したような本発明のセメント混和材とを含むものである。セメントとしては、ポルトランドセメントやその他の混合セメント等を特に制限なく適用できる。ポルトランドセメントとしては、低熱ポルトランドセメント、普通ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント、超早強ポルトランドセメント、中庸熱ポルトランドセメント、耐硫酸塩ポルトランドセメント等が挙げられる。また、混合セメントとしては、高炉セメント、シリカセメント、フライアッシュセメント等が挙げられる。セメントとしては、ポルトランドセメントが好ましく、なかでも普通ポルトランドセメント、中庸熱ポルトランドセメント又は低熱ポルトランドセメントが好ましい。セメント組成物は、セメントを80〜95質量%含み、これ以外の成分として上述したセメント混和材を組み合わせて含むことが好適である。
【0028】
次に、コンクリートの好適な実施形態について説明する。
【0029】
本実施形態のコンクリートは、上述した本発明のセメント混和材を含むセメント組成物と、水と、骨材とを含むものである。コンクリートに用いる骨材としては、粗骨材や細骨材が挙げられる。ここで、セメント組成物に、骨材として粗骨材と細骨材との両方を加えたものは通常コンクリートと呼ばれ、細骨材のみを加えたものは通常モルタルと呼ばれるが、本発明のコンクリートは、これらの両方を含むこととする。粗骨材としては、川砂利、海砂利、山砂利、砕石、スラグ砕石等が挙げられ、細骨材としては、川砂、海砂、山砂等が挙げられる。なお、粗骨材と細骨材とは、通常の分類(ふるい分け等)によって区別することができる。
【0030】
このようなコンクリートに含まれる水の量は、セメント組成物を100質量%としたとき、25〜60質量%となる量であると好ましく、40〜50質量%となる量であるとより好ましい。この水の量が60質量%を超えると、固化後のコンクリート中に多量の水が残ってしまい、強度が不十分となるおそれがあるほか、セメント混和材中の膨張材の水和が過度に進行してしまうなどにより、自己治癒性を長期に維持するのが困難となる場合がある。なお、水の量が25質量%を下回っても、コンクリートの固化やその硬化後の性状には特に支障はないが、高性能減水剤(混和剤)を用いない場合等において、作業時にコンクリートの練り混ぜが困難となることもある。例えば高強度のコンクリートや高流動コンクリートを形成する場合などは、水の量が25質量%を下回ってもよい。
【0031】
また、コンクリート中のセメント組成物の含有量は、例えば、上述したように通常モルタルに分類されるものの場合、その1mあたり、300〜1000kgであると好ましく、400〜800kgであるとより好ましい。また、通常コンクリートに分類されるものの場合、当該コンクリート1mあたり、200〜700kgであると好ましく、300〜450kgであるとより好ましい。セメント組成物の含有量がこれらの範囲であると、セメント組成物によるコンクリートの固化が良好に生じ、優れた強度が得られるほか、コンクリート中に未反応の膨張材等が好適に残存して、優れた自己治癒性が得られるとともに、長期にわたって自己治癒性を維持することが可能となる。
【0032】
さらに、このようなコンクリートにおいて十分な強度を得る観点からは、コンクリート中の細骨材の含有量は、例えば、通常モルタルに分類されるものの場合、その1mあたり、1000〜1700kgであると好ましく、1200〜1500kgであるとより好ましい。また、通常コンクリートに分類されるものの場合、当該コンクリート1mあたり700〜1000kgであると好ましく、800〜900kgであるとより好ましく、また、粗骨材の含有量は、コンクリート1mあたり800〜1100kgであると好ましく、850〜950kgであるとより好ましい。
【0033】
このようなコンクリートは、例えば、セメントに対して上記セメント混和材を加えてセメント組成物とし、これに水や骨材を加えて混合することにより得ることができる。ただし、本発明のコンクリートは、その組成中に上記セメント混和材を含むものであればよいため、例えば、セメント混和材に含まれる一部の成分が、セメント組成物には含まれずに、コンクリートの作製時に添加されたものであってもよい。
【0034】
上述したような構成を有する本発明のセメント混和材を含むセメント組成物を用いたコンクリートによれば、まず、セメント混和材中の膨張材及び膨潤性を有するアルミナシリケートにより、固化後のコンクリートにひび割れが生じた場合であっても、これらの成分の水和等に起因する析出物の形成によってひび割れ部を修復することができる。また、セメント混和材が膨潤性を有するアルミナシリケートを含むことから、コンクリートの固化における膨張材等の水和が抑制されており、固化後のコンクリートは未反応の膨張材等が多く残存したものとなる。したがって、このようなコンクリートは、固化後に良好な自己治癒性を有するほか、この自己治癒性を長期にわたって良好に維持することができる。
【0035】
特に、セメント混和材がマグネシウムシリケート、リン酸カルシウム、炭酸基を有する化合物と酸化カルシウムとの組み合わせ、又は、減水剤等の他の成分を更に含むことで、上述したような自己治癒性が更に向上したり、また自己治癒性を更に維持したりすることが可能となり、本発明の効果が一層良好に得られるようになる。
【0036】
したがって、このようなセメント混和材を含む本発明のコンクリートは、固化後にひび割れが生じたとしても、止水性能を自ら回復する特性に優れ、またこのような特性を長く維持することができることから、例えば、地下構造物、トンネル等の漏水が発生し易く、また補修が困難であった構造物に対して極めて好適である。
【実施例】
【0037】
以下、本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0038】
[セメント組成物による自己治癒性の評価]
(セメント組成物の調製;サンプルNo.1〜18)
下記表1に示す各成分を配合して、サンプルNo.1〜18のセメント組成物を調製した。なお、下記表1中の各成分は次の通りである。また、表中の数値の単位は、セメント組成物全量中の該当成分の重量%である。
OPC :普通ポルトランドセメント
CSA :カルシウムサルホアルミネート、DENKA CSA#20
Na−Ben:Na−ベントナイト、HOJUN(Super clay)
タルク :日本タルク、汎用タルク(SSS)
フライアッシュ:ジェイペック、フライアッシュII種
【0039】
(評価)
まず、上述したサンプルNo.1〜18の各セメント組成物に、それぞれセメント組成物に対する水の割合(%、重量基準)が45%となるように水を混合し、セメント組成物を固化させた。セメント組成物の水和がほとんど完了したと判断される120日経過後の各サンプルに、幅0.2〜0.3mmのひび割れを発生させた後、再び水中にて養生を行った。
【0040】
そして、このように養生を行った各サンプルのひび割れ形成部について観察を行い、自己治癒の程度について評価を行った。得られた結果を表1に示す。なお、表1中のA〜Dの評価は、次の基準に基づいて行った。
A:ひび割れ部が析出物で急速に充填され、析出物の化学的安定性が極めて高い。
B:ひび割れ部が析出物でゆっくりと充填され、析出物の化学的安定性が高い。
C:ひび割れ部が析出物で充填されるが、析出物の化学的安定性は、さほど高くない。
D:ひび割れ部に析出物が充填せずに、ひび割れの自己治癒効果がない。
【0041】
【表1】

【0042】
表1中、サンプル1、2及び6は、本発明のセメント混和材の組成を有していないため本発明の比較例に該当し、それ以外のサンプルが本発明の実施例に該当する。表1に示すように、実施例のサンプルは、いずれもひび割れ部が析出物により閉塞され、自己治癒が進んでいたのに対し、比較例のサンプルは、自己治癒が進んでいないことが確認された。また、特に、評価がAであったサンプルは、水中での養生開始から3日後にひび割れ部が析出物により閉塞しており、また、この析出物は、もとのセメントが有している色に近いことも判明した。
【0043】
以上の結果から、実施例のセメント組成物によれば、良好な自己治癒性が得られることが判明した。このようなセメント組成物での結果から、このセメント組成物をコンクリートに適用しても優れた自己治癒性が得られると推測される。
【0044】
[コンクリートによる自己治癒性の評価]
(コンクリートの調製;サンプルNo.19)
下記表2に示す各成分を配合してサンプルNo.19のコンクリートを調製した。表2中の数値は、コンクリート1mあたりの各成分の含有量(kg)であり、セメント組成物の欄に付した括弧内の数値は、セメント組成物中の該当成分の含有割合(重量%)である。表2中の各成分は、上記表1に示したものと同じものを用いた。また、減水剤のSP−IIIは、遅延効果を有する高性能減水剤(シーカメント1100NT)である。
【0045】
【表2】

【0046】
(コンクリートの調製;サンプルNo.20)
また、比較例のコンクリートのサンプルとして、セメント組成物を、上記サンプルNo.1のものに代えたこと以外は、サンプルNo.19と同様にしてサンプルNo.20のコンクリートを調製した。
【0047】
(評価)
上記で得られたサンプルNo.19及び20のコンクリートを28日養生した後、これに幅0.1〜0.3mmのひび割れを導入し、更に水中でこれらの養生を行った。その結果、サンプルNo.20のコンクリートでは、ひび割れ導入後、28日養生を行ってもひび割れ部に析出物が生じていなかった。これに対し、サンプルNo.19のコンクリートでは、ひび割れ導入後、3日の養生でひび割れ部に析出物が生じ、22日の養生では、幅0.22mmのひび割れ部分も完全に閉塞していることが確認された。
【0048】
[コンクリートによる止水性の評価]
(コンクリートの調製;サンプルNo.21〜23)
下記表3に示す各成分を配合して、サンプルNo.21〜23のコンクリートを調製した。
【表3】

【0049】
なお、表3中に示した数値の単位は、表中に単位を明記しているものを除いていずれもkg/mである。また、表3中、セメントの欄に記載したN及びLはセメントの種類を示しており、以下に示すとおりである。さらに、表中に記したその他の成分も次に示すとおりである。
N:普通ポルドランドセメント(密度=3.15g/cm
L:低熱ポルドランドセメント(密度=3.24g/cm
膨張材:エトリンガイト系(密度=3.12g/cm、比表面積3000cm/g)
Z1:無機質セメント結晶増殖材
細骨材:千葉県君津市法木産陸砂(密度=2.65g/cm
粗骨材:埼玉県秩父郡両親村産砕石(密度=2.66g/cm
高性能AE減水剤:ポリカルボン酸系
【0050】
(評価)
まず、各コンクリートのサンプルについて下記の養生をそれぞれ行うことで、各種の評価用サンプルを得た。この評価用サンプルとしては、10cm×10cm×40cmの直方体形状のコンクリートを作製した。コンクリートは、材齢7日まで封緘した状態で保管した。硬化中の膨張コンクリートには、PC鋼棒により外的に拘束を与えた。
【0051】
次いで、各評価用サンプルに対し、材齢7日において、それぞれコンクリート部分にひび割れを導入した。ひび割れは、評価用サンプルに引張力を作用させて発生させた。評価用サンプルのコンクリート部分のひび割れ幅は、0.1mm、0.2mm、0.4mmに固定した。
【0052】
そして、ひび割れの固定後、ひび割れ間に常に水が流れる状態として、ひび割れの治癒性状を観察した。この際、1mの水頭を与えた。また、評価用サンプルに作用する動水勾配は、10m/mであった。この評価においては、(1)常時透水状態にして前述の透水量を測定して得られた止水性の評価に加え、(2)常時透水状態にしてひび割れ部をマイクロスコープにより観察し、そのひび割れ幅が減少する度合いについても評価した。得られた評価結果をそれぞれ表4に示す。なお、表4中の評価は、以下の基準に基づいて行ったものである。
【0053】
(1)止水性の評価
A:7日間で透水量が初期透水量の50分の1以下となる場合
B:7日間で透水量が初期透水量の50分の1よりも大きく10分の1以下となる場合
C:7日間で透水量が初期透水量の10分の1よりも大きく2分の1以下となる場合
D:7日間で透水量を初期透水量の2分の1以下にすることができない場合
(2)ひび割れ幅の評価
A:28日間でひび割れ幅が0.1mm以上減少した場合
B:28日間でひび割れ幅の減少が0.05mm以上0.1mm未満であった場合
C:28日間でひび割れ幅の減少が0.025mm以上0.5mm未満であった場合
D:28日間でのひび割れ幅の減少が0.025mm未満であった場合
【0054】
【表4】

【0055】
表4中、サンプルNo.23は本発明の実施例に該当し、サンプルNo.21及び22は、本発明の組成を満たしていないため比較例に該当する。表3に示す結果より、実施例のサンプルNo.23は、比較例のサンプルNo.21及び22と比較して、止水性に優れ、またひび割れ幅の減少度合いも大きく、優れた自己治癒性を有していることが確認された。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
膨張材と、膨潤性を有するアルミナシリケートと、を含有する、ことを特徴とするセメント混和材。
【請求項2】
マグネシウムシリケートを更に含有する、ことを特徴とする請求項1記載のセメント混和材。
【請求項3】
リン酸カルシウムを更に含有する、ことを特徴とする請求項1又は2記載のセメント混和材。
【請求項4】
炭酸基を有する化合物、及び、酸化カルシウムを更に含有する、ことを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載のセメント混和材。
【請求項5】
減水剤を更に含有する、ことを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載のセメント混和材。
【請求項6】
セメントと、請求項1〜5のいずれか一項に記載のセメント混和材と、を含有することを特徴とするセメント組成物。
【請求項7】
請求項6記載のセメント組成物と、水と、骨材と、を含有する、ことを特徴とするコンクリート。

【公開番号】特開2009−190937(P2009−190937A)
【公開日】平成21年8月27日(2009.8.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−33548(P2008−33548)
【出願日】平成20年2月14日(2008.2.14)
【出願人】(504137912)国立大学法人 東京大学 (1,942)
【出願人】(504182255)国立大学法人横浜国立大学 (429)
【出願人】(000221616)東日本旅客鉄道株式会社 (833)
【Fターム(参考)】