説明

セメント焼成プラントにおける有価元素の回収方法および回収システム

【課題】セメント焼成プラントにおいて各種の廃棄物をセメント原料や熱エネルギー源として有効利用するに際して、排ガス中に含まれる有価元素を効率的に回収して、資源としての再利用を図ることが可能になるセメント焼成プラントにおける有価元素の回収方法および回収システムを提供する。
【解決手段】セメント原料を焼成するキルン1と、このキルン1から排出される排ガスによってセメント原料を予熱するプレヒータ3とを備えたセメント焼成プラントにおける有価元素の回収方法であって、プレヒータ3から、200℃〜800℃の温度範囲にある上記排ガスを抜き取り、上記排ガス中から鉛、タリウム、砒素、カドミウム、亜鉛、水銀および臭素の一種以上の有価元素を回収することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セメント焼成プラントにおいて、セメント原料を予熱するためのプレヒータを通過する排ガスを抜き出して、当該排ガス中に含まれる有価元素を回収するための方法およびその回収システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
産業廃棄物の発生量の大幅な増加に伴い、これまで行っていた埋め立てによる処理が困難になったことから、上記産業廃棄物をセメント焼成プラントに投入することにより、当該産業廃棄物を、セメント焼成用の熱エネルギー源やセメント原料の一部として利用するとともに、無害化処理する方法が採用されている。
【0003】
ところで、近年上記セメント焼成プラントにおいて処理される産業廃棄物等としては、廃プラスチック、廃タイヤ等の各種産業廃棄物に加えて、産業副産物、土壌、建設廃材等の廃棄物の量が増加しつつある。
そして、上記廃棄物の増加次第によっては、上記セメント焼成プラント内で、塩素、硫化物、アルカリ、水銀等の重金属といった有害物質の循環・蓄積により、セメント焼成炉の操業や製品品質等において問題を生じるおそれがある。
【0004】
そこで、従来、セメント原料焼成用のセメントキルンから排出された約1100℃の排ガスの一部を、セメント原料を予熱するためのプレヒータへ送気される前に抜き出して、上記塩素やアルカリ等を除去する、塩素バイパス管と呼ばれるシステムが使用されている。
【0005】
また、上記水銀やダイオキシン類等の有害物質の除去については、例えば下記特許文献1において開示されているようなセメントの製造方法が提案されている。
上記セメントの製造方法は、上記プレヒータから排出された後であって、煙突に至るまでの間の排ガス管等から、350℃以上の排ガスの一部を抽気して、上記水銀やダイオキシン類等を除去するようにしたものである。
【0006】
これは、排ガス中の水銀の濃度が350℃〜500℃の範囲で高くなること、上記プレヒータの出口における排ガス温度が400℃であること、およびプレヒータ内のガス相は原料粉を多量に含有しているために、当該プレヒータ内で上記排ガスを抽出すると上記原料粉の回収に大掛かりな装置が必要になることなどに基づくものである。
【特許文献1】特開2005−97005号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
一方、既述のような様々な廃棄物をセメント焼成プラントにおいて有効利用するに際しては、当該プラント内に、上述した塩素やダイオキシン類等の有害物質の他に、例えば特殊な元素を含有した土壌を処理する場合のように、鉛、亜鉛、タリウム等の各種の有価元素も含まれている可能性がある。
【0008】
そこで、本発明者等は、これら価値のある元素を回収して資源としての有効利用を図るべく、上記セメント焼成プラントの各所から、排ガスの一部を抜き取り、当該排ガス中に含まれるセメント原料の微粉末を採取してその有価元素の含有量を測定する試験を重ねた。
【0009】
この結果、いずれも含有量は少ないものの、鉛、タリウム、砒素、カドミウム、亜鉛、水銀および臭素等の有価元素が回収可能であるとともに、特に鉛、砒素、亜鉛、臭素およびカドミウムについては、排ガス温度が300℃〜700℃の範囲において、タリウムおよび水銀については、上記排ガス温度が200℃〜500℃の範囲において、それぞれ濃集し易いとの知見を得るに至った。
【0010】
本発明は、かかる知見に基づいてなされたもので、セメント焼成プラントにおいて各種の廃棄物を有効利用するに際して、排ガス中に含まれる有価元素を効率的に回収して、資源としての再利用を図ることが可能になるセメント焼成プラントにおける有価元素の回収方法および回収システムを提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために、請求項1に記載の発明は、セメント原料を焼成するキルンと、このキルンから排出された排ガスによって上記セメント原料を予熱するプレヒータとを備えたセメント焼成プラントにおける有価元素の回収方法であって、上記プレヒータから、200℃〜800℃の温度範囲にある上記排ガスを抜き取り、上記排ガス中から鉛、タリウム、砒素、カドミウム、亜鉛、水銀および臭素の一種以上の有価元素を回収することを特徴とするものである。
【0012】
また、請求項2に記載の発明は、請求項1に記載のプレヒータが、上下方向に複数段設けられたサイクロンと、このサイクロン間に配管されて最上段の上記サイクロンに投入された上記セメント原料を順次下方の上記サイクロンに送る移送管と、上記サイクロン間に配管されて上記キルンから最下段の上記サイクロンに排出された上記排ガスを順次上方の上記サイクロンに送る排ガス管とを有するとともに、上記排ガス管から当該排ガス管を通過する排ガス全量の5%以下の量の上記排ガスを抜き出すことを特徴とするものである。
【0013】
さらに、請求項3に記載の発明は、請求項1または2に記載の発明において、上記プレヒータの複数箇所から、少なくとも300℃〜700℃の温度範囲にある上記排ガスと200℃〜500℃の温度範囲にある上記排ガスとを抜き出すことを特徴とするものである。
【0014】
また、請求項4に記載の発明は、請求項1〜3のいずれかに記載の発明において、上記プレヒータから抜き出した排ガスを、固気分離して当該排ガス中の上記セメント原料分を含む固体分を除去した後に、液体によって洗浄し、さらに当該排ガス中の残存固形分をフィルタによって捕集することにより、洗浄後の上記液体および捕集物から上記有価元素を回収するとともに、上記固気分離により分離された上記セメント原料分を含む固体分を、上記セメント焼成プラントにおける1000℃以上の温度雰囲気を有する箇所に投入することを特徴とするものである。
【0015】
さらに、請求項5に記載の発明は、請求項4に記載の発明において、上記固気分離された上記排ガスに、活性炭の微粉を散布して上記フィルタによって捕集することを特徴とするものである。
【0016】
次いで、請求項6に記載の発明は、セメント原料を焼成するキルンと、このキルンから排出された排ガスによって上記セメント原料を予熱するプレヒータとを備え、かつ上記プレヒータは、上下方向に複数段設けられたサイクロンと、このサイクロン間に配管されて最上段の上記サイクロンに投入された上記セメント原料を順次下方の上記サイクロンに送る移送管と、上記サイクロン間に配管されて上記キルンから最下段の上記サイクロンに排出された上記排ガスを順次上方の上記サイクロンに送る排ガス管とを有してなるセメント焼成プラントにおける有価元素の回収システムであって、上記プレヒータの排ガス管に接続されて200℃〜800℃の温度範囲にある上記排ガスを抜き取る抽気管と、この抽気管から抜き出された上記排ガス中から上記セメント原料を含む固体分を除去する固気分離手段と、この固気分離手段から排出された上記排ガスを液体によって洗浄する洗浄手段と、この洗浄手段から排出された上記排ガス中に残存した上記セメント原料を含む固体分を捕集するフィルタ手段とを備えてなることを特徴とするものである。
【0017】
ここで、請求項7に記載の発明は、請求項6に記載の抽気管が、少なくとも300℃〜700℃の温度範囲の排ガスと200℃〜500℃の温度範囲の排ガスとが抜き出し可能となるように、複数の上記サイクロンの排ガス管に設けられていることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0018】
請求項1〜5のいずれかに記載のセメント焼成プラントにおける有価元素の回収方法または請求項6または7に記載の回収システムによれば、上記プレヒータから200℃〜800℃の温度範囲にある上記排ガスを抜き取ることにより、当該排ガス中から鉛、タリウム、砒素、カドミウム、亜鉛、水銀および臭素の一種以上の有価元素を回収して資源の有効利用を図ることができる。
【0019】
この際に、請求項2に記載の発明のように、上記排ガスを、プレヒータを構成するサイクロン間に配管された排ガス管から抜き出すようにすれば、当該排ガス中に含まれるセメント原料の量を極力少なくすることができる。また、上記排ガス管から抜き出す排ガスの量を、当該排ガス管を通過する排ガス全量の5%以下とすれば、セメント焼成プラント全体の熱効率に対して悪影響を及ぼすことを避けることができる。
【0020】
さらに、上記プレヒータから排ガスを抜き出すに際しては、請求項3または7に記載の発明のように、300℃〜700℃の温度範囲の排ガスと200℃〜500℃の温度範囲の排ガスとを共に抜き出すことができるような2箇所以上から抜き出すことが好ましい。これにより、300℃〜700℃の温度範囲の排ガスから、主として鉛、砒素、亜鉛、臭素およびカドミウムを効率的に回収することができ、かつ200℃〜500℃の範囲の排ガスから、主としてタリウムおよび水銀を効率的に回収することが可能になる。
【0021】
また、上記有価元素は、抜き出した排ガス中に揮発ガスの状態で、あるいは当該排ガス中に含まれるセメント原料に付着した状態で存在している。そこで、これら排ガスおよびこれに含まれるセメント原料等の固形分のすべてから上記有価元素を回収することも可能であるが、得られる量に対して有価元素の抽出・分離に要する処理の手間が過多になってしまう。
【0022】
この点、請求項4または6に記載の発明のように、先ずプレヒータから抜き出した排ガスを固気分離して排ガス中のセメント原料分を含む固体分を除去した後に、排気された上記排ガスを液体によって洗浄すると、この排ガス中に気体として存在して有価元素が冷却されて上記液体中に移行する。次いで、洗浄後の排ガス中の残存固形分をフィルタによって捕集して、これら洗浄後の上記液体およびフィルタの捕集物から、上記液体に移行した有価元素およびフィルタで捕集された固体分に付着していた有価元素を回収することにより、簡易な処理によって上記有価元素を回収することができる。
【0023】
他方、上記固気分離により分離された上記セメント原料分を含む固体分については、請求項4に記載の発明のように、セメント焼成プラントにおける1000℃以上の温度雰囲気を有する箇所に投入すると、当該固形分に付着していた有価元素が気化して、再び排ガス中に気体として移行するために、これを再び上記プレヒータから抜き出す操作を繰り返すことにより、全体として効率的に上記有価元素を回収することが可能になる。
【0024】
この際に、請求項5に記載の発明のように、上記固気分離された排ガスに、活性炭の微粉を散布して上記フィルタによって捕集するようにすれば、液体による洗浄によっても依然として排ガス中に揮発ガスとして残存した上記有価元素についても、上記活性炭で捕捉して回収することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
(実施の形態1)
図1および図2は、本発明に係るセメント焼成プラントにおける有価元素の回収システムの第1の実施形態を示すものである。
図1において、符号1がセメント原料を焼成するためのセメントキルンある。このセメントキルン1は、軸芯回りに回転自在に設けられたロータリーキルンであり、図中左方の窯尻部分2に、セメント原料を予熱するためのプレヒータ3が設けられるとともに、図中右方の窯前に、内部を加熱するための主バーナ4が設けられている。なお、図中符号5は、焼成後のセメントクリンカを冷却するためのクリンカクーラである。
【0026】
ここで、プレヒータ3は、上下方向に直列的に配置された複数段(図では5段)のサイクロン3a〜3eによって構成されており、最上段のサイクロン3aに供給管6を介してセメント原料が供給されている。また、各々のサイクロン3a〜3dの底部には、下方に隣接するサイクロン3b〜3eへと順次セメント原料を送るための移送管7a〜7dが接続されており、最下段のサイクロン3eの底部には、内部のセメント原料をセメントキルン1の窯尻部分2へと送る移送管4eが接続されている。
【0027】
他方、窯尻部分2には、セメントキルン1から排出された燃焼排ガス(以下、排ガスと略す。)を最下段のサイクロン3eへと供給する排ガス管8eが設けられており、この排ガス管8eの上端部は、サイクロン3eの側壁に接続されて内部に旋回流を生じるように配管されている。さらに、サイクロン3e〜3a間には、各々下方に位置するサイクロン3e〜3bの上部から排出された上記排ガスを、上方に位置するサイクロン3d〜3aの側壁に導入する排ガス管8d〜8aが接続されており、最上段のサイクロン3aの上部から排出された排ガスが、図示されない排気ファンによって排気ライン9を介して排気されて行くようになっている。
【0028】
ちなみに、セメントキルン1の窯尻部分2から約1000℃の温度で排出された排ガスは、排ガス管8eのサイクロン3e入口において約860℃、排ガス管8dのサイクロン3d入口において約800℃、排ガス管8cのサイクロン3c入口において約650℃、排ガス管8bのサイクロン3b入口において約550℃、排ガス管8aのサイクロン3a入口において約350℃になる。
【0029】
そして、上記構成からなるセメント焼成プラントに、下記構成からなる有価元素の回収システムが併設されている。
すなわち、図1および図2に示すように、下から2段目のサイクロン3dからの排ガス管8cに、内部の排ガスの一部を抜き出す抽気管10の一端部が接続されている。そして、この抽気管10の他端部は、ミキシングチャンバ11の底部に接続されている。
【0030】
このミキシングチャンバ11には、底部に抽気管10から送られてくる排ガスに、冷却ファン12を介して空気を導入するための送風管13が接続されるとともに、上部には、上記空気によって冷却されるとともに、同伴したセメント原料を主体とする固形分の分散性が高められた上記排ガスをサイクロン(固気分離手段)14へと供給する送気ライン15が接続されている。
【0031】
このサイクロン14は、上記排ガス中に含まれるセメント原料等の固形分を分離するもので、上側部に上記送気ライン15が接続され、かつ底部に上記固形分の排出管16が接続されている。また、上部には、上記固形分が分離された上記排ガスを排出する送気ライン18の一端部が接続されている。そして、この送気ライン18の他端部は、冷却塔(洗浄手段)17の上側部に接続されている。
【0032】
この冷却塔17は、頂部に設けられた図示されない注水器によって内部に送られてくる上記排ガスに水を噴霧して、上記排ガスを後段に設けられたバグフィルタ(フィルタ手段)19への導入可能温度以下まで冷却するとともに、上記排ガスを洗浄して、当該排ガス中に残存する上記固形分や排ガス中に揮発ガスとして含まれている有価元素を当該水中に移行させるためのもので、その上部に冷却された上記排ガスをバグフィルタ19へと送る送気ライン20が接続されている。
【0033】
ここで、バグフィルタ19は、冷却塔17における洗浄後においても排ガス中に残存した微粉状の固形分を捕集するもので、このバグフィルタ19において微粉状の固形物までが捕集された排ガスは、吸引ファン21によって排ガスライン22から図1に示すプレヒータ3からの上記排気ライン9へと送られるようになっている。
【0034】
そして、冷却塔17の底部には、洗浄後の液体を排出する排水ライン23が設けられるとともに、バグフィルタ19の底部には、上記排ガスからの捕集物を排出する排出ライン24が設けられ、これら排水ライン23および排出ライン24から取り出された洗浄後の水および捕集物から有価元素を回収するようになっている。
【0035】
他方、サイクロン14から排出されたセメント原料を主体とする固形分は、排出管16から、図1に示す雰囲気温度が1000℃以上であるセメントキルン1またはその窯尻部分2へと戻されるようになっている。
【0036】
次に、以上の構成からなるセメント焼成プラントにおける有価元素の回収システムを用いた本発明に係る有価元素の回収方法の一実施形態について説明する。
先ず、供給管6からプレヒータ3の1段目のサイクロン3aに投入されたセメント原料は、順次移送管7a〜7dを通じて下方のサイクロン3b〜3eへと落下するにしたがって、下方から上昇するセメントキルン1からの高温の排ガスによって予熱され、最終的に最下段のサイクロン3eから移送管7eを介してセメントキルン1の窯尻部分2に導入される。
【0037】
そして、このセメントキルン1内において、窯尻部分2側から窯前側へと徐々に送られる過程において、主バーナ4からの燃焼排ガスによって加熱され、焼成されてクリンカとなる。次いで、窯前に到達したクリンカは、クリンカクーラ5内に落下して図中右方に送られる。この際に、クリンカクーラ5内に供給された空気によって所定温度まで冷却されて最終的に当該クリンカクーラ5から取り出される。
【0038】
また、これと並行して、廃プラスチックや廃タイヤ等の可燃性の産業廃棄物、下水汚泥、土壌等の廃棄物が、セメントキルン1の窯尻部分2(可燃物にあっては一部が窯前側)から投入されることにより焼却処理される。これにより、上記可燃物が、セメント原料の予熱用または焼成用の燃料の一部として利用され、また鉄分や灰分がセメント原料の一部として利用される。そして、上記焼却処理が行われる際に、鉛、タリウム、砒素、カドミウム、亜鉛、水銀および臭素等の有価元素が揮発ガスとして排ガスに移行するとともに、その一部がセメント原料に付着した状態で排ガスに同伴する。
【0039】
そこで、下から2段目のサイクロン3dからの排ガス管8cに設けた抽出管10から、約690℃〜650℃の温度範囲の排ガスを、セメント焼成プラント全体の熱効率に悪影響を及ぼさないように排ガス管8cを通過する排ガス全量の5%以下の量だけ抜き出し、ミキシングチャンバ11へと送る。すると、このミキシングチャンバ11において、上記排ガスに冷却ファン12によって送風管13から送られてくる空気が混入し、その温度が低下するとともに、上記排ガス中に含まれるセメント原料等の固形分の分散性が高められる。
【0040】
次いで、ミキシングチャンバ11から排出された上記排ガスは、移送ライン15からサイクロン14に送られ、上記固形分の大部分が固気分離されて、排出管16から雰囲気温度が1000℃以上であるセメントキルン1またはその窯尻部分2へと戻される。
他方、サイクロン14を経た排ガスは、移送ライン18から冷却塔17へと送られ、その頂部から噴射される水によって後段のバグフィルタ19へ送気可能な温度以下まで降温される。さらに、上記排ガスは、上記水によって洗浄されることにより、当該排ガス中に気体として存在して有価元素が冷却されて、上記水とともに底部の排水ライン23から取り出されて行く。
【0041】
このようにして、冷却塔17における冷却および洗浄を経た排ガスは、移送ライン20からバグフィルタ19に送られ、ここで排ガス中に残存した微粉状の固形分が捕集される。なお、このバグフィルタ19の上流側の移送ライン20に活性炭散布装置を設け、この散布装置を用いて排ガスに活性炭の微粉を散布するようにすれば、冷却塔17における水による洗浄後に、依然として排ガス中に揮発ガスとして残存した有価元素についても、上記活性炭で捕捉して回収することができる。
【0042】
そして、このバグフィルタ19において排ガスから捕集された捕集物と、排出ライン24から取り出されて行き、上述した冷却塔17の排水ライン23から取り出された排水とから、これらに含まれる鉛、砒素、カドミウム、亜鉛、水銀および臭素等の有価元素を回収することにより、資源の有効利用を図ることができる。
【0043】
他方、サイクロン14の排出管16からセメントキルン1またはその窯尻部分2へと戻された上記固形分は、1000℃以上の温度雰囲気下において付着していた有価元素が気化して、再び排ガス中に気体として移行する。この結果、上記排ガスを再び抽出管10から抜き出す操作を繰り返すことにより、全体として効率的に上記有価元素を回収することができる。
【0044】
(実施の形態2)
また、図3は、本発明に係るセメント焼成プラントにおける有価元素の回収システムの第2の実施形態を示すものであり、この回収システムにおいては、図1に示した下から2段目のサイクロン3dからの排ガス管8cに接続された抽気管10に加えて、さらに下から3段目のサイクロン3cからの排ガス管8b、および下から4段目のサイクロン3bからの排ガス管8aに、それぞれ抽気管30、31が接続されている。そして、これら抽気管30、31の他端部は、それぞれ図2に示したミキシングチャンバ11の底部に接続されている。
【0045】
したがって、上記構成からなる有価元素の回収システムを用いた有価元素の回収方法においては、抽気管10から、約690℃〜650℃の温度範囲の排ガスを抜き出すとともに、抽気管30から、約600℃〜550℃の温度範囲の排ガスを抜き出し、さらに抽気管31から、約400℃〜350℃の温度範囲の排ガスを抜き出す。
そして、これら抽気管10、30、31から抜き出した排ガスを、図1および図2に示したものと同様に、ミキシングチャンバ11へ送って、上記排ガス中に含まれていた鉛、タリウム、砒素、カドミウム、亜鉛、水銀および臭素等の有価元素を回収する。
【0046】
この結果、図3に示した有価元素の回収システムおよびこれを用いた有価元素の回収方法によれば、300℃〜700℃の温度範囲の排ガスから、主として鉛、砒素、亜鉛、臭素およびカドミウムを効率的に回収することができ、かつ200℃〜500℃の範囲の排ガスから、主としてタリウムおよび水銀を効率的に回収することができることから、図1および図2に示したものよりも、抽出管30、31によって、一層効率的にタリウム等の比較的温度の低い領域において濃集する有価元素についても、効率的に回収することができる。
【0047】
図1〜図3に示した有価元素の回収システムを用いて、試験的に、産業廃棄物、産業副廃棄物および特殊な元素を含む土壌を多量に配合したセメント原料をセメントキルン1で焼成するとともに、下記実施例1〜5に示すように、抽気管10、30または31から、いずれも合計の抜き出し量(体積)がプレヒータ3から全排ガス量(同)の5%以下となるように排ガスを抜き出して、分級機で分級後した後にバグフィルタ19で集塵し、当該集塵物中の有価元素の含有量を分析した。
【0048】
なお、分析にあたっては、水銀については下記(1)の方法、臭素については下記(3)または(4)の方法、その他の元素については下記(1)〜(3)のいずれかの方法を用いた。
(1)セメント協会標準試験方法「セメント及びセメント原料中の微量成分の定量方法」(JCAS I−51)
(2)セメント協会標準試験方法「ICP発光分光分析及び電気加熱式原子吸光分析によるセメントの微量成分の定量方法」(JCAS I−52)
【0049】
(3)セメント約0.2gを、硝酸2mlおよび、ほうフッ化水素酸6mlとともに加圧酸分解し、蒸発乾燥後、約1%硝酸で溶解し、誘導結合プラズマ質量分析装置(IPC−MS)で定量する方法
(4)試料と炭酸ナトリウムを1:5の比率で溶融(1000℃×20分間)したものを塩酸と温水で溶解し、検液中の臭素をイオンクロマトグラフ法で定量する方法
【0050】
(実施例1)
抽出管10から650℃〜690℃の温度の排ガスを抜き出した結果、鉛含有量が22000mg/kg、タリウム含有量が1500mg/kg、砒素含有量が600mg/kg、カドミウム含有量が500mg/kg、亜鉛含有量が32000mg/kg、水銀含有量が7.0mg/kg、臭素含有量が75000mg/kgの上記集塵物が得られた。
【0051】
(実施例2)
抽出管31および抽出管10から、それぞれ400℃〜550℃の温度の排ガスおよび640℃〜690℃の温度の排ガスを抜き出した結果、鉛含有量が19000mg/kg、タリウム含有量が1800mg/kg、砒素含有量が550mg/kg、カドミウム含有量が600mg/kg、亜鉛含有量が28000mg/kg、水銀含有量が250mg/kg、臭素含有量が77000mg/kgの上記集塵物が得られた。
【0052】
(実施例3)
抽出管30および抽出管30から、それぞれ400℃〜540℃の温度の排ガスおよび520℃〜670℃の温度の排ガスを抜き出した結果、鉛含有量が15000mg/kg、タリウム含有量が1600mg/kg、砒素含有量が530mg/kg、カドミウム含有量が620mg/kg、亜鉛含有量が24000mg/kg、水銀含有量が180mg/kg、臭素含有量が79000mg/kgの上記集塵物が得られた。
【0053】
(実施例4)
抽出管30から520℃〜670℃の温度の排ガスを抜き出した結果、鉛含有量が18000mg/kg、タリウム含有量が1700mg/kg、砒素含有量が520mg/kg、カドミウム含有量が450mg/kg、亜鉛含有量が25000mg/kg、水銀含有量が100mg/kg、臭素含有量が77000mg/kgの上記集塵物が得られた。
【0054】
(実施例5)
抽出管31から400℃〜540℃の温度の排ガスを抜き出した結果、鉛含有量が21000mg/kg、タリウム含有量が2000mg/kg、砒素含有量が400mg/kg、カドミウム含有量が300mg/kg、亜鉛含有量が22000mg/kg、水銀含有量が210mg/kg、臭素含有量が72000mg/kgの上記集塵物が得られた。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】本発明に係るセメント焼成プラントにおける有価元素の回収システムの第1実施形態を示す概略構成図である。
【図2】図1の※以降の主要部分の構成を含む概略構成図である。
【図3】本発明の第2実施形態を示す概略構成図である。
【符号の説明】
【0056】
1 セメントキルン
2 窯尻部分
3 プレヒータ
3a〜3e サイクロン
6 セメント原料の供給管
7a〜7e 移送管
8a〜8e 排ガス管
10、30、31 抽気管
11 ミキシングチャンバ
14 サイクロン(固気分離手段)
17 冷却塔(洗浄手段)
19 バグフィルタ(フィルタ手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セメント原料を焼成するキルンと、このキルンから排出された排ガスによって上記セメント原料を予熱するプレヒータとを備えたセメント焼成プラントにおける有価元素の回収方法であって、
上記プレヒータから、200℃〜800℃の温度範囲にある上記排ガスを抜き取り、上記排ガス中から鉛、タリウム、砒素、カドミウム、亜鉛、水銀および臭素の一種以上の有価元素を回収することを特徴とするセメント焼成プラントにおける有価元素の回収方法。
【請求項2】
上記プレヒータは、上下方向に複数段設けられたサイクロンと、このサイクロン間に配管されて最上段の上記サイクロンに投入された上記セメント原料を順次下方の上記サイクロンに送る移送管と、上記サイクロン間に配管されて上記キルンから最下段の上記サイクロンに排出された上記排ガスを順次上方の上記サイクロンに送る排ガス管とを有するとともに、上記排ガス管から当該排ガス管を通過する排ガス全量の5%以下の量の上記排ガスを抜き出すことを特徴とする請求項1に記載のセメント焼成プラントにおける有価元素の回収方法。
【請求項3】
上記プレヒータの複数箇所から、少なくとも300℃〜700℃の温度範囲にある上記排ガスと200℃〜500℃の温度範囲にある上記排ガスとを抜き出すことを特徴とする請求項1または2に記載のセメント焼成プラントにおける有価元素の回収方法。
【請求項4】
上記プレヒータから抜き出した排ガスを、固気分離して当該排ガス中の上記セメント原料分を含む固体分を除去した後に、液体によって洗浄し、さらに当該排ガス中の残存固形分をフィルタによって捕集することにより、洗浄後の上記液体および捕集物から上記有価元素を回収するとともに、上記固気分離により分離された上記セメント原料分を含む固体分を、上記セメント焼成プラントにおける1000℃以上の温度雰囲気を有する箇所に投入することを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載のセメント焼成プラントにおける有価元素の回収方法。
【請求項5】
上記固気分離された上記排ガスに、活性炭の微粉を散布して上記フィルタによって捕集することを特徴とする請求項4に記載のセメント焼成プラントにおける有価元素の回収方法。
【請求項6】
セメント原料を焼成するキルンと、このキルンから排出された排ガスによって上記セメント原料を予熱するプレヒータとを備え、かつ上記プレヒータは、上下方向に複数段設けられたサイクロンと、このサイクロン間に配管されて最上段の上記サイクロンに投入された上記セメント原料を順次下方の上記サイクロンに送る移送管と、上記サイクロン間に配管されて上記キルンから最下段の上記サイクロンに排出された上記排ガスを順次上方の上記サイクロンに送る排ガス管とを有してなるセメント焼成プラントにおける有価元素の回収システムであって、
上記プレヒータの排ガス管に接続されて200℃〜800℃の温度範囲にある上記排ガスを抜き取る抽気管と、この抽気管から抜き出された上記排ガス中から上記セメント原料を含む固体分を除去する固気分離手段と、この固気分離手段から排出された上記排ガスを液体によって洗浄する洗浄手段と、この洗浄手段から排出された上記排ガス中に残存した上記セメント原料を含む固体分を捕集するフィルタ手段とを備えてなることを特徴とするセメント焼成プラントにおける有価元素の回収システム。
【請求項7】
上記抽気管は、少なくとも300℃〜700℃の温度範囲の排ガスと200℃〜500℃の温度範囲の排ガスとが抜き出し可能となるように、複数の上記サイクロンの排ガス管に設けられていることを特徴とする請求項6に記載のセメント焼成プラントにおける有価元素の回収システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−130565(P2007−130565A)
【公開日】平成19年5月31日(2007.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−325644(P2005−325644)
【出願日】平成17年11月10日(2005.11.10)
【出願人】(000006264)三菱マテリアル株式会社 (4,417)
【出願人】(000000206)宇部興産株式会社 (2,022)
【Fターム(参考)】