説明

セメント系間隙充填材

【課題】 長距離のポンプ圧送性に優れると共に空隙周囲への漏れが少なく、優れた充填性を有するセメント系間隙充填材を提供する。
【手段】 異なる二種のグラウトを注入時に混合して使用する間隙充填材であって、混合前のグラウトは何れも引抜きフロー値が150mm以上の流動性を有する自硬性のセメントペーストまたはセメントモルタルであり、混合後に可塑性を有するペーストまたはモルタルに変質することを特徴とするセメント系間隙充填材であり、例えば、一方のグラウトAがホウ砂やホウ酸などのホウ酸イオン源を含み、他方のグラウトBがホウ酸イオンと水素結合する水酸基を有するポリビニルアルコールなどを含み、混合したグラウトA、Bの反応によって可塑性を有するペーストまたはモルタルに変質するセメント系間隙充填材。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トンネル工事等で用いられる裏込め材、更正管の隙間充填材、その他の注入充填材として好適であり、長距離のポンプ圧送性に優れると共に空隙周囲への漏れが少なく、優れた充填性を有するセメント系間隙充填材に関する。
【背景技術】
【0002】
トンネル工事等で用いる裏込め材などは、長距離搬送を実現するためには高流動性が求められ、充填時には良好な可塑性を有することにより微細間隙への材料の漏出を防ぐという相反する性質が求められる。そこで、従来、セメントペーストやセメントモルタルにベントナイト等の膨潤性材料(粘土鉱物)を添加して粘性を高め、可塑性を有するようにしたグラウトが用いられている。さらに、高い可塑性が要求される場合には、セメント、粘土鉱物、水を混合したA液(モルタル液)と、水ガラスをB液(急結剤液)とを用い、注入直前に混合して使用する2液混合型のグラウトが用いられている。しかしながらこの方法では混合によるゲル化の時間と硬化後の強度発現の両立が難しいこと、また搬送時の流動性と充填時の可塑性の両立が難しいことが問題であった。
【0003】
これらの問題を解決するため、例えば粘土鉱物に代えてケイ酸カルシウム水和物を使用することによってAB両液を混合したときのゲル強度を高めると共にゲル化時間を短縮した注入材が知られている(特開平10−101393号公報)。また、A液にデンプン分解生成物とグルコン酸を併用することによって、流動性を長時間維持し、かつB液と混合したときのゲル化時間の遅延を抑制した注入材が知られている(特開2002−160955号公報)。
【0004】
また、セメントと粘土鉱物を予め混合すると、セメントから生じたカルシウムイオン等と粘土鉱物とが反応するため、膨潤性確保のためにより多くの粘土鉱物の添加が必要となり、強度が低下すると云う問題を避けるために、粘土鉱物を除いた材料を予め混合してセメントペーストやセメントモルタルを調製し、これを施工現場に輸送し、注入直前に粘土の泥水と混合して使用する方法も知られている(特開2002−147179号公報)
【特許文献1】特開平10−101393号公報
【特許文献2】特開2002−160955号公報
【特許文献3】特開2002−147179号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来のグラウトは、注入時の長距離圧送に必要な高流動性、および充填箇所での十分な可塑性ないし充填性の両方の性質を満足するものがない。具体的には、例えば、微細な間隙に注入するには高流動性のグラウトが良く、これはポンプ圧送にも適するが、グラウトが空隙周囲および微細間隙にまで漏れて効率の良い施工が出来ないなどの問題がある。一方、グラウトが漏れずに充填されるためには粘性ないし可塑性の高いモルタルが良いが、粘性や可塑性の高いモルタルはポンプ圧送時の抵抗が大きいために長距離圧送できないと云う問題がある。
【0006】
そこで、流動性の良好なモルタルないしセメントペーストを用いて施工箇所まで長距離のポンプ圧送を行い、施工箇所の近傍で急硬剤を添加することによって可塑性を付与して注入する施工方法が知られている。しかし、この方法には次のような問題がある。第一に一般的にモルタルやセメントペーストに対して急硬剤の添加量は非常に少なく、急硬剤を均一に添加するのが難しい、第二にポンプの脈動によって急硬剤の添加割合が周期的に変化する、第三に急硬剤の添加割合の変動や混合の不均一性によってセメントペーストないしセメントモルタルが影響を受け、性状にムラのある硬化体になり易い、第四に急硬剤自体は硬化せず、あるいは硬化しても十分な硬化物性を有しないので、十分に混合されずに施工されると施工不良の原因になる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、間隙充填に用いるグラウトについて従来の上記問題を解決したものであり、長距離のポンプ圧送性に優れると共に空隙周囲および微細間隙への漏れが少なく、優れた充填性を有するセメント系間隙充填材を提供する。
【0008】
本発明によれば、以下の構成からなるセメント系間隙充填材が提供される。
(1)異なる二種のグラウトを注入時に混合して使用する間隙充填材であって、混合前のグラウトは何れも直径50mmおよび高さ50mmのコーンによる引抜きフロー値が150mm以上の流動性を有する自硬性のセメントペーストまたはセメントモルタルであり、混合後に可塑性を有するペーストまたはモルタルに変質することを特徴とするセメント系間隙充填材。
(2)一方のグラウトAがホウ酸イオン源を含み、他方のグラウトBがホウ酸イオンと水素結合する水酸基を有する高分子化合物を含むものであり、混合したグラウトA、Bの反応によって可塑性を有するペーストまたはモルタルに変質する上記(1)に記載するセメント系間隙充填材。
(3)グラウトAがホウ砂を含み、グラウトBがポリビニルアルコールを含む上記(1)または(2)のセメント系間隙充填材。
(4)グラウトAが、ホウ砂に代えて、またはホウ砂と共に、ホウ酸および水溶性ナトリウム塩を含み、グラウトBがポリビニルアルコールを含む上記(1)または(2)のセメント系間隙充填材。
(5)グラウトAがナフタレンスルホン酸系減水剤および/またはリグニンスルホン酸系減水剤を含む上記(1)〜(4)の何れかに記載するセメント系間隙充填材。
【0009】
〔具体的な説明〕
本発明の充填材は、異なる二種のグラウトを注入時に混合して使用する間隙充填材であって、混合前のグラウトは何れも引抜きフロー値が150mm以上の流動性を有する自硬性のセメントペーストまたはセメントモルタルであり、混合後に可塑性を有するペーストまたはモルタルに変質することを特徴とするセメント系間隙充填材である。なお、本発明の引抜きフロー値は直径50mmおよび高さ50mmのコーンを用いて測定した値である。
【0010】
本発明の充填材は、具体的には、二種のグラウトAおよびBが、何れも混合前に引抜きフロー値が150mm以上の流動性を有する自硬性のセメントペーストまたはセメントモルタルであり、例えば、一方のグラウトAがホウ酸イオン源を含有し、他方のグラウトBがホウ酸イオンと水素結合する水酸基を有する高分子化合物を含むものである。
【0011】
一方のグラウトAが含有するホウ酸イオン源としては、例えば、ホウ砂および/またはホウ酸などを用いることができる。また、他方のグラウトBが含有する水酸基を有する高分子化合物としてはポリビニルアルコールなどを用いることができる。
【0012】
ホウ砂は水に溶解してナトリウムイオンとホウ砂イオン〔B45(OH)42-を生じ、このホウ砂イオンは水と反応するとホウ酸イオン[B(OH)4]-を生じる。グラウトA、Bが混合されると、グラウトAから溶出したホウ酸イオンは、グラウトBから溶出したポリビニルアルコールの水酸基と水素結合して弱い架橋を形成して大きな分子となり、水を抱き込むような構造を形成する。この水素結合は非常に弱いので外力によって容易に分解し他の水酸基との再結合を繰り返す。これによって混合後のペーストまたはモルタルが可塑性を有するようになると推察される。
【0013】
ホウ砂および/またはホウ酸の含有量はグラウトA、Bを混合して得られる可塑性の度合に応じて定めればよい。通常は、混合後のグラウトA、Bのセメント合計量100重量部に対して、0.02〜2重量部であればよく、0.05〜1重量部が好ましい。
【0014】
グラウトBに混合するポリビニルアルコールは、粉末でもよく、洗濯糊などの水溶液でもよい。ケン化度は限定されない。一般的には、粉末を使用する場合には、混練時の水溶性から90%以下の部分ケン化型が好ましい。ポリビニルアルコールの含有量は、混合後のグラウトA、Bのセメント合計量100重量部に対して、0.005〜4重量部であればよく、0.01〜2重量部が好ましい。
【0015】
なお、通常、セメントスラリーやセメントモルタルに配合したホウ酸は、水が存在するだけではホウ酸イオンを殆ど生成しないが、アルカリ性雰囲気下で水溶性ナトリウム塩が共存すると容易にホウ酸イオンを生じることが見出された。従って、グラウトAにホウ酸を配合する場合には水溶性ナトリウム塩を併用することが好ましい。
【0016】
水溶性ナトリウム塩は水に溶解してナトリウムイオンを生じるものであればよく、限定されない。例えば、炭酸ナトリウム、硫酸ナトリウム、塩化ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、硝酸ナトリウム、亜硝酸ナトリウムなどが用いられるが、水溶性であれば有機ナトリウム塩でもよく、一種または二種以上を使用することができる。水溶性ナトリウム塩の含有量は、混合後のグラウトA、Bのセメント合計量100重量部に対して、0.02重量部以上が好ましい。水溶性ナトリウム塩の含有量がこれより少ないと、グラウトAがホウ砂を含まず、ホウ酸のみ含有する場合には、混合後のペーストまたはモルタルが十分な可塑性を得ることが難しい。この含有量の上限は限定されないが、アルカリ骨材反応が懸念されるような場合には日本工業規格(JIS A 5308)に準じて定めればよい。
【0017】
グラウトAは、ホウ砂および/またはホウ酸と共に、ナフタレンスルホン酸系減水剤および/またはリグニンスルホン酸系減水剤を含むことができる。これらの減水剤を含有することによって、グラウトAの流動性が向上し、さらにグラウトA、B混合後の可塑性の発現性も向上する。ナフタレンスルホン酸系減水剤としては、ナフタレンスルホン酸塩および/またはその誘導体を主成分とする減水剤、高性能減水剤、または高性能AE減水剤であれば何れでもよい。リグニンスルホン酸系減水剤としては、リグニンスルホン酸塩および/またはその誘導体を主成分とする減水剤、高性能減水剤、または高性能AE減水剤であれば何れでもよい。ナフタレンスルホン酸系減水剤および/またはリグニンスルホン酸系減水剤の含有量は、グラウトAのセメント100重量部に対して0.02〜1重量部が適当であり、0.05〜0.3重量部が好ましい。
【0018】
グラウトAとグラウトBは何れもセメント系グラウトである。主成分のセメントの種類は限定されない。例えば、普通ボルトランドセメント、早強ボルトランドセメント、超早強ボルトランドセメント、中庸熱セメント、低熱セメント、耐硫酸塩セメントなどの各種ポルトランドセメント、エコセメント(普通型)、微粒子セメント、超微粒子セメント、アルミナセメント、高炉スラグやフライアッシュ等との混合セメントなどを広く使用することができる。
【0019】
上記グラウトA、Bは、セメント以外の水硬性成分として、高炉スラグ、転炉スラグ、脱リンスラグ、脱ケイスラグ、脱硫スラグなどの粉末を含有することができる。また、グラウトA、Bは必要に応じて上記以外の成分を含有することができる。例えば、コンクリートやモルタルで一般に使用されている細骨材や骨材微粉、増粘剤、膨張剤、収縮低減剤、防錆剤、顔料、有機ポリマーエマルジョンなどの一種または二種以上を使用することができる。
【0020】
本発明に用いるグラウトA、Bは何れも混合前の引抜きフロー値が150mm以上の流動性を有するものである。この流動性はセメントペーストまたはセメントモルタルに加える水の配合量や減水剤を調整することによって得ることができる。グラウトA、Bの上記フロー値は、例えば150〜200mm前後であればよく、概ねグラウトA、Bの各固形分100重量部に対して水の量が10〜100重量部であればよい。
【0021】
グラウトAとグラウトBは各々の管路を通じて注入箇所近傍までポンプ圧送され、ここで混合された後に目的の場所に注入される。この場合、グラウトAとグラウトBの混合比はほぼ等量に近い割合とすることが可能であり、高い均斉性での混合ができる。
【発明の効果】
【0022】
本発明の充填材は、異なった二種の高流動性グラウトA、Bを使用し、注入直前に混合するので、充填箇所へは高流動性のまま送られるためポンプ圧送性に優れる。また、急結剤を使用しないので十分な可使時間を得ることができる。混合後はグラウトA、Bの反応によってペーストないしモルタルが可塑性を有するようになるので、充填箇所周囲への漏れがなく、効率よく充填作業を行うことができ、また充填部分の強度が高い。さらに、セメント系ペーストないしモルタルを主体とするので自硬性を有し、混合が不十分な場合でも高強度の硬化体になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下に本発明の実施例を比較例と共に示す。なお、本発明はこれらの実施例の範囲に限定されない。流動性試験、圧送性試験、可塑性試験はそれぞれ次のように行った。
〔流動性試験〕
規格(JIS R 5201)「セメントの物理試験方法11」に示されるフロー試験に準じてフロー値を測定した。但し、フローコーンは直径50mmおよび高さ50mmの円筒形のものを用いた。このフロー試験において、フローコーンに材料を流し込み、フローテーブルを振動させずに静かにコーンを引き抜いたときの直径を測定し、これを引抜きフロー値として示した。
〔圧送性試験〕
グラウトポンプ(100V、0.4kW)を用い、管路(内径1インチ、長さ50m)内を圧送して評価した。評価基準は次のとおりである。○印:圧送可能、×印:圧送不能(ポンプ停止)
〔可塑性試験〕
上記フローコーンに材料を入れ、静かにコーンを引き抜いたときのフロー値と、フロー台を5回落下させたときのフロー値によって評価した。評価基準は次のとおりである。○印:引抜きフロー値が90mm以下であって、落下後のフロー値が引抜きフロー値より10mm以上大きい場合、△:引抜きフロー値が90mm以下であって、落下後のフロー値と引抜きフロー値の差が10mm以下である場合、×印:引抜きフロー値が90mm以上である場合。
【0024】
使用材料は、セメントは太平洋セメント社製普通ポルトランドセメント、砂は山形県産珪砂(FM2.0)、ホウ砂、ホウ酸、炭酸ナトリウム、硫酸ナトリウムは関東化学製1級試薬、減水剤1は花王社製マイティー150、減水剤2はポゾリス物産社製ポゾリスNo.75、ポリビニールアルコール(PVAと略記)は信越化学工業社製PA−05S、メチルセルロース(MCと略記)は信越化学工業社製90SH−4000をおのおの使用した。
【実施例】
【0025】
表1に示す配合量に従ってグラウトA、グラウトBを調製した。混合前のグラウトA、グラウトBについて流動性試験および圧送性試験を行った。また、混合後のモルタルについて流動性試験および可塑性試験を行った。この結果をまとめて表2に示した(実施例1〜7)。
【比較例】
【0026】
表2に示す配合に従って単独使用型のグラウトを調製し、流動性および圧送性を調べた。この結果を表3に示した(比較例1、2)。また、表3に示す配合に従って混合使用型のグラウトA、Bを調製し、混合前および混合後の流動性および圧送性を調べた。この結果を表3に示した(比較例3、4)。
【0027】
表1に示すように、本発明の充填材(実施例1〜7)は何れも混合前は流動性が高く、従ってポンプ圧送性が良好であり、また混合後は良好な可塑性を有する。一方、表2に示すように、単独使用型の比較例1はナフタレンスルホン酸系減水剤とメチルセルロースの相互作用により可塑性を有するが、フロー値が低いためポンプ圧送性が悪い。比較例2は高流動性を有するが可塑性を有さず、混合型の比較例3、4は高流動性を有するが、何れか一方のグラウトに可塑性を発揮させる成分が含まれていないため、混合後のモルタルが可塑性を有さない。
【0028】
【表1】

【0029】
【表2】




【特許請求の範囲】
【請求項1】
異なる二種のグラウトを注入時に混合して使用する間隙充填材であって、混合前のグラウトは何れも直径50mmおよび高さ50mmのコーンによる引抜きフロー値が150mm以上の流動性を有する自硬性のセメントペーストまたはセメントモルタルであり、混合後に可塑性を有するペーストまたはモルタルに変質することを特徴とするセメント系間隙充填材。
【請求項2】
一方のグラウトAがホウ酸イオン源を含み、他方のグラウトBがホウ酸イオンと水素結合する水酸基を有する高分子化合物を含むものであり、混合したグラウトA、Bの反応によって可塑性を有するペーストまたはモルタルに変質する請求項1に記載するセメント系間隙充填材。
【請求項3】
グラウトAがホウ砂を含み、グラウトBがポリビニルアルコールを含む請求項1または2のセメント系間隙充填材。
【請求項4】
グラウトAが、ホウ砂に代えて、またはホウ砂と共に、ホウ酸および水溶性ナトリウム塩を含み、グラウトBがポリビニルアルコールを含む請求項1または2のセメント系間隙充填材。
【請求項5】
グラウトAが、ナフタレンスルホン酸系減水剤および/またはリグニンスルホン酸系減水剤を含む請求項1〜4の何れかに記載するセメント系間隙充填材。




【公開番号】特開2006−69821(P2006−69821A)
【公開日】平成18年3月16日(2006.3.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−252819(P2004−252819)
【出願日】平成16年8月31日(2004.8.31)
【出願人】(501173461)太平洋マテリアル株式会社 (307)
【Fターム(参考)】