説明

セメント組成物の打継方法

【課題】容易にかつ短時間で、既設のセメント組成物の硬化体に、新たなセメント組成物を打ち継ぐことができ、かつ、これら2つのセメント組成物間の打継目において大きな付着強度を得ることのできるセメント組成物の打継方法を提供する。
【解決手段】(A)表面粗さ(Ry)が600μm以下である打継面を有し、かつ圧縮強度が100N/mm2以上である被打継用のセメント組成物の硬化体2を得る工程と、(B)被打継用のセメント組成物の硬化体の打継面に対して、水性ポリマー分散液3を塗布する工程と、(C)工程(B)を経た被打継用のセメント組成物の硬化体2の打継面に対して、打継用のセメント組成物4を打設する工程を含むセメント組成物の打継方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、既設のセメント組成物(例えば、コンクリート、モルタル等)の硬化体の増築、補強、改修等を目的として、既設のセメント組成物の硬化体に、新たなセメント組成物を打ち継ぐためのセメント組成物の打継方法に関する。
【背景技術】
【0002】
既設のコンクリート体に、新たなコンクリートを打ち継いだ場合、既設のコンクリート体と新たに打設したコンクリートの境界に、打継目が形成される。この打継目における2つのコンクリート間の付着力が小さいと、特に引張力等の外力が作用したときに、2つのコンクリートの間で肌離れが起き易いという問題がある。
そのため、既設のコンクリート体の打継面に、ワイヤブラシで目荒しするなどの粗面化処理を施すことによって、2つのコンクリート間の接触面積を増大させ、これら2つのコンクリートの打継目における付着力を向上させることが、従来から行なわれている。しかしながら、打継面を粗面化処理するだけでは、打継目における付着力を十分に向上させることはできない。
そこで、従来、打継目における2つのコンクリート間の付着力を向上させるために、粗面化処理以外に、種々の方法が提案されている。
【0003】
一例として、まず、既設コンクリートの打継面に、高圧水洗浄等によって粗面化処理を施して粗面を形成し、次いで、この粗面に、特定の複合ポリマーエマルジョンに酸化珪素等を主成分とする主剤を混和して生成した接着材料を塗布して、接着層を形成し、その後、この接着層の上に新規コンクリートを打継ぐ方法が提案されている(特許文献1)。
他の例として、まず、既設コンクリートの打継面に、該打継面を補強するために特定の酢酸ビニル−エチレン共重合体エマルジョンをプライマーとして塗布し、次いで、酢酸ビニル−エチレン共重合体エマルジョンを含有するセメントモルタルを接着剤として塗布し、その後、新たなコンクリートを打継施工する方法が提案されている(特許文献2)。
さらに他の例として、コンクリート同士の打継面の一方に、特定の凝結遅延剤を塗布又は貼付して所定期間養生した後に、コンクリート表面を高圧水で洗浄するコンクリート打継面の処理方法が提案されている(特許文献3)。この方法の一例として、型枠の鉛直方向に延びる内面の所定の部分(打継面を形成する部分)に、薄い板状に成形された凝結遅延剤を設けた後、この型枠内に先行コンクリートを打設して、凝結遅延剤によるセメントの硬化遅延性を発現させ、次いで、所定の養生期間を置いた後、打継面を形成する型枠の端板を除去して、打継面を露出させ、この打継面に高圧水を噴射して、目荒らし処理が施された状態とし、その後、先行コンクリートの側方に型枠を設置して、この型枠内にコンクリートを打設し、後行コンクリートを形成する方法が記載されている。
【特許文献1】特公平07−062397号公報
【特許文献2】特公昭62−059068号公報
【特許文献3】特開平09−125698号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記の特許文献1、3に記載されている技術は、打継面に粗面化処理を施すという従来技術を含むものであり、この粗面化処理に多大な労力と時間を要するという問題がある。また、上記の特許文献3に記載された技術は、打継面に凝結遅延剤を塗布又は貼付した後に、先行コンクリートを打設し、セメントの硬化遅延性を発現させるものであるため、既に硬化体となっている先行コンクリートには適用できないという問題がある。
また、上記の特許文献2に記載されている技術は、プライマーを塗布した後に、接着剤を塗布する必要があり、手間がかかることに加えて、セメントモルタルからなる接着剤の塗布時から、新たなコンクリートの打継時までの期間として1〜14日を要するなど、施工時間が長いという問題がある。例えば、特許文献2の実施例では、既設コンクリートの打継面に塗布したプライマーを風乾させるために24時間を要し、かつ、プライマーの上にセメントモルタルからなる接着剤を塗布した後、コンクリートの打継ぎまでに7日間を要している。
そこで、本発明は、容易にかつ短時間で、既設のセメント組成物の硬化体に、新たなセメント組成物を打ち継ぐことができ、かつ、これら2つのセメント組成物間の打継目において大きな付着強度を得ることができるセメント組成物の打継方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、既設のセメント組成物の硬化体の打継面をワイヤブラシ等で粗面処理すれば、打継後の打継目における付着強度が大きくなるとの従来の技術常識とは逆に、一定以上の圧縮強度を有するセメント組成物の硬化体においては、この硬化体の打継面を一定以上の平滑性を有するように形成し、かつ、この打継面に水性ポリマー分散液を塗布することによって、打継面に粗面処理を施す以外はこれと同様にした場合と比べて、より大きな付着強度を得ることができるとの驚くべき知見を得て、本発明を完成した。
【0006】
すなわち、本発明は、以下の[1]〜[5]を提供するものである。
[1] (A)表面粗さ(Ry)が600μm以下である打継面を有し、かつ圧縮強度が100N/mm2以上である被打継用のセメント組成物の硬化体を得る工程と、(B)上記被打継用のセメント組成物の硬化体の打継面に対して、水性ポリマー分散液を塗布する工程と、(C)工程(B)を経た上記被打継用のセメント組成物の硬化体の打継面に対して、打継用のセメント組成物を打設する工程を含むことを特徴とするセメント組成物の打継方法。
[2] 上記被打継用のセメント組成物が、(A)ブレーン比表面積2,500〜5,000cm2/gのセメントと、(B)BET比表面積5〜25m2/gの微粒子と、(C)細骨材と、(D)減水剤と、(E)水を含む前記[1]に記載のセメント組成物の打継方法。
[3] 上記被打継用のセメント組成物が、(F)ブレーン比表面積2,500〜30,000cm/gで、かつ、上記セメントよりも大きなブレーン比表面積を有する無機粒子を含む前記[2]に記載のセメント組成物の打継方法。
[4] 上記無機粒子(F)が、ブレーン比表面積5,000〜30,000cm2/gの無機粒子A:10〜50質量部と、ブレーン比表面積2,500〜5,000cm2/gの無機粒子B: 5〜35質量部とからなる前記[3]に記載のセメント組成物の打継方法。
[5] 上記被打継用のセメント組成物が、(G)金属繊維、有機繊維及び炭素繊維からなる群より選ばれる1種以上の繊維を含む前記[2]〜[4]のいずれかに記載のセメント組成物の打継方法。
[6] 上記被打継用のセメント組成物が、(H)平均粒度1mm以下の繊維状粒子又は薄片状粒子を含む前記[2]〜[5]のいずれかに記載のセメント組成物の打継方法。
[7] 上記被打継用のセメント組成物が、(I)粗骨材を含む前記[2]〜[6]のいずれかに記載のセメント組成物の打継方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明の方法によれば、被打継用のセメント組成物の硬化体と打継用のセメント組成物の間の境界面である打継目において、大きな付着強度を得ることができる。
また、本発明の方法によれば、被打継用のセメント組成物の硬化体の打継面に従来のような粗面化処理を施さないので、この打継面が本発明で規定する平滑性を既に備えている場合(例えば、被打継用のセメント組成物の硬化体の作製時において、型枠の内面に接していた面を、打継面とした場合)には、容易にかつ短時間で、新たなセメント組成物の打継を行なうことができる。
さらに、本発明の方法によれば、被打継用のセメント組成物の硬化体の打継面に、水性ポリマー分散液を塗布した後、水性ポリマー分散液の乾燥を待つことなく直ちに、打継用のセメント組成物を打設することができるので、接着剤等の塗布後に所定時間放置しなければならない従来技術と比べて、短時間で、新たなセメント組成物の打継を行なうことができる。
本発明の方法は、従来技術と比べて、打継工事の開始時から終了時(新たなセメント組成物の実用強度発現時)までの所要時間が短いので、工事の早期終了が望まれるセメント組成物の打継に好適に適用することができる。例えば、交通量の多い道路等のコンクリート舗装を補強又は補修する場合、従来と比べて、工事期間を短縮化して、道路を早期に開放することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明のセメント組成物の打継方法は、(A)表面粗さ(Ry)が600μm以下である打継面を有し、かつ圧縮強度が100N/mm2以上である被打継用のセメント組成物の硬化体を得る工程と、(B)被打継用のセメント組成物の硬化体の打継面に対して、水性ポリマー分散液を塗布する工程と、(C)水性ポリマー分散液を塗布した被打継用のセメント組成物の硬化体の打継面に対して、打継用のセメント組成物を打設する工程を含むものである。
以下、本発明の方法を工程毎に詳細に説明する。
【0009】
[工程(A)]
本工程は、表面粗さ(Ry)が600μm以下である打継面を有し、かつ圧縮強度が100N/mm2以上である被打継用のセメント組成物の硬化体を得る工程である。
表面粗さ(Ry)とは、測定対象物の表面の断面曲線の最大高さ(最高点と最低点の高低差)をいい、「JIS B 0601−1994」に準じて測定される。
本発明において、表面粗さ(Ry)は、600μm以下、好ましくは500μm以下、より好ましくは400μm以下、特に好ましくは300μm以下である。表面粗さ(Ry)が600μmを超えると、打継目における付着強度が低下する傾向がある。
表面粗さ(Ry)を本発明で規定する数値範囲内に調整する方法としては、(a)型枠を用いて被打継用のセメント組成物の硬化体を作製する際に、型枠の平滑な内面(底面又は側面)に接する被打継用のセメント組成物の面を、脱型後に打継面として定める方法、(b)被打継用のセメント組成物の硬化体の打継面をダイヤモンド研削する方法、などが挙げられる。
このうち、(a)の方法は、打継前に打継面を表面処理する工程を含まないため、工程の数の削減及び施工時間の短縮化を図ることができる。また、平滑な内面を有する型枠を用いることによって、表面粗さ(Ry)をほぼ0(例えば、50μm以下)にすることができ、打継目において大きな付着強度を得ることができる。
また、(b)の方法によれば、表面粗さ(Ry)を300μm以下にすることができ、打継目において大きな付着強度を得ることができる。
【0010】
本発明において、被打継用のセメント組成物の硬化体の打継面は、面全体が凹凸を有しない平坦なものでもよいし、あるいは、内面に凹凸形状を形成してある型枠を用いて形成された凹凸を有するものでもよい。
本発明において、打継面に凹凸を形成することによって、打継目におけるせん断抵抗性を、凹凸を有しない場合を基準にして、例えば60〜70%程度増大させることができる。
凹凸の例としては、円柱状、立方体状等の所定の形状を有する多数の凸部が、所定の幅を有する溝(凹部)を介在させて平面上に形成されてなるものや、その逆のもの、すなわち、円柱状、立方体状等の所定の形状を有する多数の凹部が、所定の幅を有する壁(凸部)を介在させて形成されてなるもの等が挙げられる。
打継面に形成される凹凸の高低差は、打継目におけるせん断抵抗性を高める観点から、好ましくは4mm以上である。該高低差の上限値は、特に限定されないが、通常、20mm以下である。
打継面における凹凸の面積率(打継面の投影面積に対する凸部又は凹部の面積の割合)は、打継目におけるせん断抵抗性を高める観点から、好ましくは20〜80%である。
凹凸として、円柱状の凸部又は凹部が多数形成されてなるものを採用した場合、円柱状の凸部又は凹部の寸法は、例えば、直径が10〜20mm、高さが3〜5mmである。
【0011】
本明細書中、表面粗さ(Ry)の測定の対象となる微細な凹凸は、高低差が3mm以下のものに限定される。また、打継目におけるせん断抵抗性を高めるための前記の凹凸は、高低差が3mmを超えるものに限定される。したがって、本発明において、表面粗さ(Ry)の測定の対象となる微細な凹凸は、打継目におけるせん断抵抗性を高めるための前記の凹凸とは区別される。
被打継用のセメント組成物の硬化体の圧縮強度は、100N/mm2以上、好ましくは110N/mm2、特に好ましくは120N/mm2以上である。該圧縮強度が100N/mm2未満であると、打継目における付着強度が低下する。
被打継用のセメント組成物の硬化体の例としては、コンクリート柱等のコンクリート建築物の構成部分や、道路のコンクリート舗装等が挙げられる。
【0012】
次に、被打継用のセメント組成物を構成する材料について説明する。
本発明において、被打継用のセメント組成物の好ましい一例としては、(A)ブレーン比表面積2,500〜5,000cm2/gのセメントと、(B)BET比表面積5〜25m2/gの微粒子と、(C)細骨材と、(D)減水剤と、(E)水を含むものが挙げられる。
上記(A)セメントとしては、例えば、普通ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント、中庸熱ポルトランドセメント、低熱ポルトランドセメント等の各種ポルトランドセメント等が挙げられる。
本発明において、セメント組成物の早期強度を向上させようとする場合には、早強ポルトランドセメントを使用することが好ましく、硬化前のセメント組成物の流動性を向上させようとする場合は、中庸熱ポルトランドセメントや低熱ポルトランドセメントを使用することが好ましい。
セメントのブレーン比表面積は、好ましくは2,500〜5,000cm2/g、より好ましくは3,000〜4,500cm2/gである。該値が2,500cm2/g未満であると、水和反応が不活発になって、100N/mm2以上の圧縮強度が得られ難くなり、打継目における付着強度が低下することがある。5,000cm2/gを超えると、セメントの粉砕に時間がかかり、また、所定の流動性を得るための水量が多くなるため、100N/mm2以上の圧縮強度が得られ難くなり、打継目における付着強度が低下することがある。
【0013】
上記(B)微粒子としては、例えば、シリカフューム、シリカダスト、フライアッシュ、スラグ、火山灰、シリカゾル、沈降シリカ等が挙げられる。
一般に、シリカフュームやシリカダストは、そのBET比表面積が5〜25m2/gであり、粉砕等をする必要がないので、本発明における被打継用のセメント組成物を構成する微粒子として好適である。
微粒子のBET比表面積は、好ましくは5〜25m2/g、より好ましくは8〜15m2/gである。該値が5m2/g未満であると、セメント組成物を構成する粒子の充填性に緻密さを欠くため、100N/mm2以上の圧縮強度が得られ難くなり、打継目における付着強度が低下することがある。該値が25m2/gを超えると、所定の流動性を得るための水量が多くなるため、100N/mm2以上の圧縮強度が得られ難くなり、打継目における付着強度が低下することがある。
微粒子の配合量は、セメント100質量部に対して、好ましくは10〜40質量部、より好ましくは20〜40質量部である。配合量が10〜40質量部の範囲外では、流動性が極端に低下し、作業性が悪化することがある。
【0014】
上記(C)細骨材としては、例えば、川砂、陸砂、海砂、砕砂、珪砂等又はこれらの混合物が挙げられる。
細骨材は、75μm以下の粒子の含有量が2.0質量%以下のものを用いることが好ましい。該含有量が2.0質量%を超えると、セメント組成物の流動性が極端に低下し、作業性が劣るので好ましくない。
細骨材の配合量は、セメント組成物の打設時の作業性や、硬化後の機械的強度の観点から、セメント100質量部に対して30〜200質量部であることが好ましく、自己収縮や乾燥収縮の低減、水和発熱量の低減等の観点から、40〜190質量部、特に50〜180質量部であることが好ましい。
【0015】
上記(D)減水剤としては、リグニン系、ナフタレンスルホン酸系、メラミン系、ポリカルボン酸系の減水剤、AE減水剤、高性能減水剤又は高性能AE減水剤を使用することができる。これらのうち、減水効果の大きな高性能減水剤又は高性能AE減水剤を使用することが好ましく、特に、ポリカルボン酸系の高性能減水剤又は高性能AE減水剤を使用することが好ましい。
減水剤の配合量は、セメント100質量部に対して、固形分換算で、好ましくは0.05〜4.0質量部、より好ましくは0.1〜1.0質量部である。配合量が0.05質量部未満では、混練が困難になるとともに、セメント組成物の流動性が極端に低下し、作業性が劣るので、好ましくない。配合量が4.0質量部を超えると、材料分離や著しい凝結遅延が生じ、また、硬化体の機械的特性が低下することもある。
なお、減水剤は、液状又は粉末状のいずれでも使用することができる。
【0016】
セメント組成物を調製する際の上記(E)水の量は、セメント100質量部に対して、好ましくは10〜30質量部、より好ましくは12〜28質量部である。水の量が10質量部未満では、混練が困難になるとともに、セメント組成物の流動性が極端に低下し、作業性が劣るので、好ましくない。水の量が30質量部を超えると、硬化後の機械的特性が低下する。
【0017】
セメント組成物には、(F)ブレーン比表面積2,500〜30,000cm2/g(好ましくは4,500〜20,000cm2/g)で、かつ、前記セメントよりも大きなブレーン比表面積を有する無機粒子を配合することができる。無機粒子を配合することにより、セメント組成物の流動性が向上し、かつ、硬化体の強度等を高めることができる。
該無機粒子としては、例えば、スラグ、石灰石粉末、長石類、ムライト類、アルミナ粉末、石英粉末、フライアッシュ、火山灰、シリカゾル、炭化物粉末、窒化物粉末等が挙げられる。中でも、スラグ、石灰石粉末、石英粉末は、コストの点や硬化後の品質安定性の点で好ましく用いられる。
該無機粒子のブレーン比表面積が2,500cm2/g未満であると、セメントとのブレーン比表面積の差が小さくなり、高い流動性を確保することが困難になる等の欠点があり、30,000cm2/gを超えると、粉砕に手間がかかるため材料が入手し難くなったり、所定の流動性が得られ難くなる等の欠点がある。
【0018】
該無機粒子がセメントよりも大きなブレーン比表面積を有することによって、無機粒子が、セメントと微粒子との間隙を埋める粒度を有することになり、高い流動性等を確保することができる。
無機粒子とセメントとのブレーン比表面積の差は、硬化前の作業性と硬化後の強度発現性の観点から、好ましくは1,000cm2/g以上、より好ましくは2,000cm2/g以上である。
無機粒子の配合量は、セメント100質量部に対して、好ましくは55質量部以下、より好ましくは5〜50質量部である。配合量が55質量部を超えると、セメント組成物の流動性が低下し、作業性が劣る傾向にある。
【0019】
上記(F)無機粒子として、異なる2種の無機粒子A及び無機粒子Bを併用することができる。
この場合、無機粒子Aと無機粒子Bは、同じ種類の粉末(例えば、石灰石粉末)を使用してもよいし、異なる種類の粉末(例えば、石灰石粉末及び石英粉末)を使用してもよい。
無機粒子Aのブレーン比表面積は、好ましくは5,000〜30,000cm2/g、より好ましくは6,000〜20,000cm2/gである。また、無機粒子Aは、セメント及び無機粒子Bよりもブレーン比表面積が大きいものである。
無機粒子Aのブレーン比表面積が5,000cm2/g未満であると、セメントや無機粒子Bとのブレーン比表面積の差が小さくなり、前記の1種の無機粒子を用いる場合と比べて、作業性等を向上させる効果が小さくなるばかりか、2種の無機粒子を用いているために、材料の準備に手間がかかるので、好ましくない。該ブレーン比表面積が30,000cm2/gを超えると、粉砕に手間がかかるため、材料が入手し難くなったり、所定の流動性が得られ難くなる等の欠点がある。
【0020】
また、無機粒子Aが、セメント及び無機粒子Bよりも大きなブレーン比表面積を有することによって、無機粒子Aが、セメント及び無機粒子Bと、微粒子との間隙を埋めるような粒度を有することにより、より優れた流動性等を確保することができる。
無機粒子Aとセメント及び無機粒子Bとのブレーン比表面積の差(換言すれば、無機粒子Aと、セメントと無機粒子Bのうちブレーン比表面積の大きい方とのブレーン比表面積の差)は、硬化前の作業性と硬化後の強度発現性の観点から、1,000cm2/g以上が好ましく、2,000cm2/g以上がより好ましい。
【0021】
無機粒子Bのブレーン比表面積は、好ましくは2,500〜5,000cm2/gである。また、セメントと無機粒子Bとのブレーン比表面積の差は、100cm2/g以上が好ましく、硬化前の作業性と硬化後の強度発現性の観点から、200cm2/g以上がより好ましい。
無機粒子Bのブレーン比表面積が2,500cm2/g未満であると、流動性が低下する等の欠点があり、5,000cm2/gを超えると、ブレーン比表面積の値が無機粒子Aに近づくため、前記の1種の無機粒子を用いる場合と比べて、作業性等を向上させる効果が小さくなるばかりか、2種の無機粒子を用いているために、材料の準備に手間がかかるので、好ましくない。
また、セメントと無機粒子Bとのブレーン比表面積の差が100cm2/g以上であることによって、セメント組成物を構成する粒子の充填性が向上し、より優れた流動性等を確保することができる。
【0022】
無機粒子Aの配合量は、セメント100質量部に対して、好ましくは10〜50質量部、より好ましくは15〜40質量部である。無機粒子Bの配合量は、セメント100質量部に対して、好ましくは5〜35質量部、より好ましくは10〜30質量部である。無機粒子A及び無機粒子Bの配合量が前記の数値範囲外では、前記の1種の無機粒子を用いる場合と比べて、作業性等を向上させる効果が小さくなるばかりか、2種の無機粒子を用いているために、材料の準備に手間がかかるので、好ましくない。
無機粒子Aと無機粒子Bの合計量は、セメント100質量部に対して、好ましくは15〜50質量部である。
【0023】
セメント組成物には、(G)金属繊維、有機繊維及び炭素繊維からなる群より選ばれる1種以上の繊維を配合することができる。
金属繊維は、硬化体の曲げ強度等を大幅に高める観点から、配合される。
金属繊維としては、鋼繊維、ステンレス繊維、アモルファス繊維等が挙げられる。中でも、鋼繊維は、強度に優れており、また、コストや入手のし易さの点からも好ましいものである。金属繊維の寸法は、セメント組成物中における金属繊維の材料分離の防止や、硬化体の曲げ強度の向上の点から、直径が0.01〜1.0mm、長さが2〜30mmであることが好ましく、直径が0.05〜0.5mm、長さが5〜25mmであることがより好ましい。また、金属繊維のアスペクト比(繊維長/繊維直径)は、好ましくは20〜200、より好ましくは40〜150である。
【0024】
金属繊維の形状は、直線状よりも、何らかの物理的付着力を付与する形状(例えば、螺旋状や波形)が好ましい。螺旋状等の形状にすれば、金属繊維とマトリックスとが引き抜けながら応力を担保するため、曲げ強度が向上する。
金属繊維の好適な例としては、例えば、直径が0.5mm以下、引張強度が1〜3.5GPaの鋼繊維からなり、かつ、180MPaの圧縮強度を有するセメント組成物の硬化体のマトリックスに対する界面付着強度(付着面の単位面積当りの最大引張力)が3MPa以上であるものが挙げられる。
金属繊維は、波形又は螺旋形の形状に加工することができる。また、金属繊維の周面上に、マトリックスに対する運動(長手方向の滑り)に抵抗するための溝又は突起を付けることもできる。また、本発明で用いる金属繊維は、鋼繊維の表面に、鋼繊維のヤング係数よりも小さなヤング係数を有する金属層(例えば、亜鉛、錫、銅、アルミニウム等から選ばれる1種以上からなるもの)を設けたものとしてもよい。
【0025】
金属繊維の配合量は、セメント組成物中の体積百分率で、好ましくは4%以下、より好ましくは0.5〜3%、特に好ましくは1〜3%である。配合量が4%を超えると、混練時の作業性等を確保するために単位水量が増大するうえ、配合量を増やしても金属繊維の補強効果が向上しないため、経済的でなく、さらに、混練物中でいわゆるファイバーボールを生じ易くなるので、好ましくない。
【0026】
有機繊維及び炭素繊維は、硬化体の破壊エネルギー等を高める観点から、配合される。
有機繊維としては、ビニロン繊維、ポリプロピレン繊維、ポリエチレン繊維、アラミド繊維等が挙げられる。中でも、ビニロン繊維及びポリプロピレン繊維は、コストや入手のし易さの点で好ましく用いられる。
炭素繊維としては、PAN系炭素繊維やピッチ系炭素繊維が挙げられる。
有機繊維及び炭素繊維の寸法は、セメント組成物中におけるこれらの繊維の材料分離の防止や、硬化後の破壊エネルギーの向上の観点から、直径が0.005〜1.0mm、長さ2〜30mmであることが好ましく、直径が0.01〜0.5mm、長さ5〜25mmであることがより好ましい。また、有機繊維及び炭素繊維のアスペクト比(繊維長/繊維直径)は、好ましくは20〜200、より好ましくは30〜150である。
【0027】
有機繊維及び炭素繊維の配合量は、各々、セメント組成物中の体積百分率で好ましくは10.0%以下、より好ましくは1.0〜9.0%、特に好ましくは2.0〜8.0%である。配合量が10.0%を超えると、混練時の作業性等を確保するために単位水量が増大するうえ、配合量を増やしても繊維の増強効果が向上しないため、経済的でなく、さらに、混練物中にいわゆるファイバーボールが生じ易くなるので、好ましくない。
【0028】
セメント組成物には、(H)平均粒度が1mm以下の繊維状粒子又は薄片状粒子を配合することができる。ここで、粒子の粒度とは、その最大寸法の大きさ(特に、繊維状粒子ではその長さ)である。繊維状粒子又は薄片状粒子を配合することにより、セメント組成物の硬化体の靱性を高めることができる。
繊維状粒子としては、例えば、ウォラストナイト、ボーキサイト、ムライト等が、薄片状粒子としては、例えば、マイカフレーク、タルクフレーク、バーミキュライトフレーク、アルミナフレーク等が挙げられる。
繊維状粒子又は薄片状粒子の配合量は、セメント100質量部に対して、好ましくは35質量部以下、より好ましくは1〜25質量部である。配合量が35質量部を超えると、セメント組成物の流動性が低下し、作業性が劣る傾向にある。
なお、繊維状粒子においては、硬化体の靱性を高める観点から、長さ/直径の比で表される針状度が3以上のものを用いるのが好ましい。
【0029】
セメント組成物には、(I)粗骨材を配合することができる。粗骨材としては、例えば、川砂利、砕石等又はこれらの混合物が挙げられる。
粗骨材の配合量は、セメント組成物の作業性や硬化後の機械的強度、自己収縮や乾燥収縮の低減、水和発熱量の低減等の観点から、セメント組成物の全体積中、好ましくは50%以下である。
【0030】
次に、被打継用のセメント組成物のフロー値について説明する。
被打継用のセメント組成物のフロー値は、好ましくは230mm以上、より好ましくは240mm以上である。
また、無機粒子として無機粒子A及び無機粒子Bを用いた場合、セメント組成物のフロー値は、好ましくは240mm以上、より好ましくは250mm以上である。特に、75μm以下の粒子の含有量が2.0質量%以下である細骨材を用いた場合には、該フロー値は、好ましくは250mm以上、より好ましくは260mm以上、特に好ましくは270mm以上である。なお、本明細書中において、フロー値とは、「JIS
R 5201(セメント物理試験方法)11.フロー試験」に記載される方法において、15回の落下運動を行わないで測定した値(本明細書中において、「0打フロー値」ともいう。)である。
また、前記フロー試験において、フロー値が200mmに達する時間は、好ましくは10.5秒以内、より好ましくは10.0秒以内である。当該時間は、作業性と粘性を評価する尺度として用いられる。
なお、セメント組成物に粗骨材を配合した場合は、該セメント組成物のスランプフロー値(JIS A 1150(コンクリートのスランプフロー試験方法)に準じて測定)は、500〜700mmであることが好ましい。
【0031】
被打継用のセメント組成物の硬化体の物性(曲げ強度)について説明する。
該硬化体の曲げ強度は、好ましくは15N/mm2以上、より好ましくは18N/mm2以上、特に好ましくは20N/mm2以上である。特に、セメント組成物が金属繊維を含む場合には、硬化体の曲げ強度は、好ましくは30N/mm2以上、より好ましくは32N/mm2以上、特に好ましくは35N/mm2以上である。
該硬化体の破壊エネルギーは、例えば、金属繊維、有機繊維及び炭素繊維のいずれか1種以上を配合した場合において、好ましくは10kJ/m2以上、より好ましくは20kJ/m2以上である。
【0032】
被打継用のセメント組成物の混練方法は、特に限定されるものではなく、例えば、(a)水、減水剤以外の材料(具体的には、セメント、微粒子、細骨材(及び無機粒子))を予め混合して、プレミックス材を調製しておき、該プレミックス材、水及び減水剤をミキサに投入し、混練する方法、(b)粉末状の減水剤を用意し、水以外の材料を予め混合して、プレミックス材を調製しておき、該プレミックス材及び水をミキサに投入し、混練する方法、(c)各材料を各々個別にミキサに投入し、混練する方法等を採用することができる。
混練に用いるミキサは、通常のコンクリートの混練に用いられるどのタイプのものでもよく、例えば、揺動型ミキサ、パンタイプミキサ、二軸練りミキサ等が用いられる。
【0033】
被打継用のセメント組成物の硬化体の製造は、型枠内にセメント組成物を打設後、養生する等の方法で行うことができる。前述したように、上述の材料を含む被打継用のセメント組成物は、0打フロー値が230mm以上(又は、スランプフロー値が500〜700mm)と流動性に優れるので、被打継用のセメント組成物の製造(特に成形)を容易に行うことができる。
養生方法は、特に限定されるものではなく、気中養生や蒸気養生等を行えばよい。
なお、被打継用のセメント組成物には、成形の際に、必要に応じて鉄筋等の部材を含ませることができる。
【0034】
[工程(B)]
本工程は、被打継用のセメント組成物の硬化体の打継面に対して、水性ポリマー分散液を塗布する工程である。
水性ポリマー分散液とは、水性の溶媒(例えば、水)中に、ポリマーの微粒子(例えば、粒径0.05〜5μmのポリマー)が均一に分散しているものをいう。
水性ポリマー分散液は、微粒子がゴムの場合は、ラテックスと称され、微粒子が樹脂の場合はエマルジョンと称される
水性ポリマー分散液がラテックスの場合、ポリマーの例としては、クロロプレンゴム、スチレンブタジエンゴム、アクリロニトリルブタジエンゴム、メタクリル酸メチルブタジエンゴム等が挙げられる。
水性ポリマー分散液がエマルジョンの場合、ポリマーの例としては、ポリアクリル酸エステル、エチレン酢酸ビニル、エポキシ樹脂等が挙げられる。
【0035】
水性ポリマー分散液の塗布方法としては、例えば、ポリマーを所定濃度となるように、水に分散させた後、被打継用のセメント組成物の硬化体の打継面に塗布又は噴霧する方法等が挙げられる。均一な塗布層を形成するためには、塗布する方法が好ましい。
水性ポリマー分散液の塗布量は、固形分換算で、好ましくは10〜1,000g/m2、より好ましくは50〜800g/m2、特に好ましくは100〜600g/m2である。該量が10g/m2未満では、打継目における所望の大きさの付着強度が得られないことがある。該量が1,000g/m2を超えると、打継目における付着強度の向上を期待することができないばかりか、コスト高になる。
【0036】
[工程(C)]
本工程は、工程(B)を経た被打継用のセメント組成物の硬化体の打継面に対して、打継用のセメント組成物を打設する工程である。
打継用のセメント組成物の打設は、塗布した水性ポリマー分散液の乾燥前と乾燥後のいずれでもよいが、施工期間の短縮化の観点からは、乾燥前が好ましい。
打継用のセメント組成物の材料及び配合割合は、特に限定されるものではない。また、打継用のセメント組成物の打設後の養生方法も、特に限定されるものではなく、気中養生や蒸気養生等を行えばよい。
【実施例】
【0037】
以下、実施例により本発明を説明する。
1.使用材料
以下に示す材料を使用した。
(A)セメント;低熱ポルトランドセメント(太平洋セメント社製;ブレーン比表面積:3,200cm2/g)
(B)微粉末;シリカフューム(BET比表面積:10m2/g)
(C)細骨材;珪砂(最大粒径:0.6mm、75μm以下の粒子の含有量:0.3質量%)
(D)減水剤;ポリカルボン酸系高能減水剤
(E)水;水道水
(F)無機粒子;石英粉末A(ブレーン比表面積:7,500cm2/g)
(G)無機粒子;石英粉末B(ブレーン比表面積:3,500cm2/g)
(H)金属繊維;鋼繊維(直径:0.2mm、長さ:13mm)
(I)繊維状粒子;ウォラストナイト(平均長さ:0.3mm、長さ/直径の比:4)
(J)粗骨材;岩瀬産砕石(2005)
【0038】
2.被打継用のセメント組成物の調製
表1に示す材料を二軸練りミキサに投入して混練し、セメント組成物No.1〜No.7を調製した。なお、表1中のNo.1〜No.6の材料の量の単位は、鋼繊維を除き、質量部である。
【表1】

【0039】
3.被打継用のセメント組成物の物性
セメント組成物No.1〜No.7の物性(フロー値、圧縮強度、曲げ強度)を、次のようにして測定した。結果を表2に示す。
[フロー値]
セメント組成物No.1〜No.6のフロー値は、「JIS R
5201(セメント物理試験方法)11.フロー試験」に記載される方法において、15回の落下運動を行わないで測定した。
セメント組成物No.7のスランプフロー値は、「JIS A 1150(コンクリートのスランプフロー試験方法)」に準拠して測定した。
[圧縮強度]
セメント組成物No.1〜No.6をφ50mm×100mmの型枠内に流し込み、20℃で48時間前置き後、90℃で48時間蒸気養生し、硬化体(3本)を得た。該硬化体の圧縮強度を「JIS
A 1108 コンクリートの圧縮強度試験」に記載される方法に準拠して測定し、硬化体(3本)の平均値を算出した。
また、セメント組成物No.7をφ100mm×200mmの型枠内に流し込んだこと以外は、セメント組成物No.1〜No.6と同様にして、硬化体(3本)を得、上記方法で、該硬化体の圧縮強度の平均値を算出した。
[曲げ強度]
セメント組成物No.1〜No.6を4cm×4cm×16cmの型枠内に流し込み、20℃で48時間前置き後、90℃で48時間蒸気養生し、硬化体(3本)を得た。該硬化体の曲げ強度を「JIS
R 5201 セメントの物理試験方法」に記載される方法に準拠して測定し、硬化体(3本)の平均値を算出した。なお、セメント組成物No.7については、曲げ強度を測定しなかった。
【0040】
【表2】

【0041】
4.打継用のセメント組成物の打設による試験体の作製
次のように、被打継用のセメント組成物の硬化体の打継面に、打継用のセメント組成物を打設して、試験体を作製した。
[実施例1]
セメント組成物No.1を30cm×30cm×5cm(高さ)の型枠に流し込み、20℃で48時間前置き後、90℃で48時間蒸気養生して、被打継用のセメント組成物の硬化体を作製した。
この硬化体を型枠から脱型し、型枠の底面に接触していた面を打継面とした。なお、打継面の表面粗さ(Ry)は、50μm以下であった。
被打継用のセメント組成物の硬化体の打継面に、水性ポリマー分散液「クロスレンCMX-02」(商品名;ガンツ化成社製;ポリマーの種類:スチレンブタジエンゴム)を100g/m2(固形分換算)の塗布量となるように塗布した。
次に、打継面に塗布した水性ポリマー分散液が乾燥する前に、「太平洋ユーロックスセメント」(商品名:太平洋マテリアル社製)100質量部に、水18質量部を配合した打継用のセメント組成物を20mmの厚さとなるように打設し、その後、20℃で7日間養生して、試験体を作製した。
【0042】
[実施例2〜6]
セメント組成物No.2〜No.4、No.6及びNo.7を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、試験体を作製した。なお、打継面の表面粗さ(Ry)は、いずれも、50μm以下であった。
[実施例7]
実施例1と同様にして作製した硬化体の一面(型枠の開口している側に形成された上面)に対して、ダイヤモンド研削して、打継面とした。なお、打継面の表面粗さ(Ry)は、300μmであった。
次いで、実施例1と同様にして、水性ポリマー分散液を塗布し、かつ、打継用のセメント組成物を打設及び養生して、試験体を作製した。
【0043】
[比較例1]
セメント組成物No.1を用いて、実施例1と同様にして被打継用のセメント組成物の硬化体を作製した。この硬化体の一面(型枠の底面に接触していた面)をブラスト処理して、打継面とした。打継面の表面粗さ(Ry)は、1,200μmであった。
次いで、実施例1と同様にして、水性ポリマー分散液を塗布し、かつ、打継用のセメント組成物を打設及び養生して、試験体を作製した。
[比較例2]
セメント組成物No.5を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、試験体を作製した。なお、被打継用のセメント組成物の硬化体の打継面の表面粗さ(Ry)は、50μm以下であった。
【0044】
5.試験体の付着強度試験(1)
試験体の付着強度を、次に示す方法で測定した。結果を表3に示す。
[付着強度試験]
図1に示すように、試験体1に、打継用のセメント組成物の硬化体4の表面から、被打継用のセメント組成物の硬化体2に達するまで、ダイヤモンドカッタで、40mm×40mmの正方形状となるように切り込み部5を入れて、試験部6を形成した。なお、図1の符号3は、打継目(水性ポリマー分散液を塗布した部分)を示す。この試験部6に、エポキシ樹脂系の接着剤7を用いて、鋼製アタッチメント8を取り付け、建研式の引っ張り試験機によって、引張載荷を行った。一つの試験体に、6箇所の試験部を形成し、各試験部における測定値の平均値を付着強度とした。
なお、実施例1〜7及び比較例1〜2の被打継用のセメント組成物の硬化体の打継面に、水性ポリマー分散液を塗布せずに、打継用のセメント組成物を打設した試験体についても、上記と同様に付着強度を測定した。これらの測定値は、表3中に参考値として示す。
表3に示すように、実施例1〜7における付着強度は、3.0N/mm2以上であった。一方、比較例1、2における付着強度は、2.0N/mm2以下であった。
【0045】
【表3】

【0046】
6.試験体の付着強度試験(2)
次のように、水性ポリマー分散液の塗布量を変化させて、実施例8〜9の試験体を作製し、上記の方法で付着強度を測定した。結果を表4に示す。
[実施例8〜9]
水性ポリマー分散液の塗布量を変更した以外は、実施例1と同様にして、実施例8〜9の試験体を作製した。作製後、前記「試験体の付着強度試験(1)」と同様の方法で、試験体の打継目の付着強度を測定した。結果を表4に示す。
【0047】
【表4】

【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】本発明の方法によって製造した試験体の一例を示す断面図である。
【符号の説明】
【0049】
1 試験体
2 被打継用のセメント組成物の硬化体
3 水性ポリマー分散液の塗布層(打継目)
4 打継用のセメント組成物の硬化体
5 切り込み部
6 試験部
7 エポキシ系の接着剤からなる接着層
8 アタッチメント

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)表面粗さ(Ry)が600μm以下である打継面を有し、かつ圧縮強度が100N/mm2以上である被打継用のセメント組成物の硬化体を得る工程と、
(B)上記被打継用のセメント組成物の硬化体の打継面に対して、水性ポリマー分散液を塗布する工程と、
(C)工程(B)を経た上記被打継用のセメント組成物の硬化体の打継面に対して、打継用のセメント組成物を打設する工程
を含むことを特徴とするセメント組成物の打継方法。
【請求項2】
上記被打継用のセメント組成物が、(A)ブレーン比表面積2,500〜5,000cm2/gのセメントと、(B)BET比表面積5〜25m2/gの微粒子と、(C)細骨材と、(D)減水剤と、(E)水を含む請求項1記載のセメント組成物の打継方法。
【請求項3】
上記被打継用のセメント組成物が、(F)ブレーン比表面積2,500〜30,000cm/gで、かつ、上記セメントよりも大きなブレーン比表面積を有する無機粒子を含む請求項2記載のセメント組成物の打継方法。
【請求項4】
上記無機粒子(F)が、ブレーン比表面積5,000〜30,000cm2/gの無機粒子A:10〜50質量部と、ブレーン比表面積2,500〜5,000cm2/gの無機粒子B: 5〜35質量部とからなる請求項3記載のセメント組成物の打継方法。
【請求項5】
上記被打継用のセメント組成物が、(G)金属繊維、有機繊維及び炭素繊維からなる群より選ばれる1種以上の繊維を含む請求項2〜4のいずれか1項に記載のセメント組成物の打継方法。
【請求項6】
上記被打継用のセメント組成物が、(H)平均粒度1mm以下の繊維状粒子又は薄片状粒子を含む請求項2〜5のいずれか1項記載のセメント組成物の打継方法。
【請求項7】
上記被打継用のセメント組成物が、(I)粗骨材を含む請求項2〜6のいずれか1項記載のセメント組成物の打継方法。

【図1】
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【公開番号】特開2008−2099(P2008−2099A)
【公開日】平成20年1月10日(2008.1.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−170717(P2006−170717)
【出願日】平成18年6月20日(2006.6.20)
【出願人】(000000240)太平洋セメント株式会社 (1,449)
【Fターム(参考)】