説明

セラミックグリーンシートおよびその製造方法

【課題】 平面方向の剛性および表面部分の柔軟性が高いセラミックグリーンシート、およびその製造方法を提供すること。
【解決手段】 セラミック粉末が有機樹脂からなるバインダで結合されてなるセラミックグリーンシート1であって、バインダのガラス転移温度が、セラミックグリーンシート1の厚み方向の中央部1aにおいて上部1bおよび下部1cよりも高いセラミックグリーンシート1である。バインダのガラス転移点が高い中央部1aによってセラミックグリーンシート1の平面方向の剛性を高めることができる。また、上部1bおよび下部1cが比較的柔軟であるため、セラミックグリーンシート1の表面部分の柔軟性が高い。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子部品搭載用基板等において用いられるセラミック基板を作製するためのセラミックグリーンシートおよびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば半導体素子や弾性表面波素子等の電子部品を搭載するために用いられる配線基板として、酸化アルミニウム質焼結体からなる絶縁基板にメタライズ法やめっき法等の方法で配線導体や貫通導体等の導体を被着させた配線基板が多用されている。このような絶縁基板は、一般に、複数のセラミックグリーンシートを積層した後、この積層体を焼成することによって製作されている。
【0003】
なお、上記導体は、タングステンや銅等の金属材料のペースト(導体ペースト)をセラミックグリーンシートの表面や、セラミックグリーンシートに打ち抜き加工によって形成した貫通孔の内部に塗布または充填しておき、複数のセラミックグリーンシートを積層加圧して密着させ、同時焼成することによって形成されている。
【0004】
セラミックグリーンシートとして一般的なものは、酸化アルミニウムや酸化ケイ素,酸化カルシウム等の原料のセラミック粉末を、アクリルポリマーやポリビニルブチラール等のポリマーからなるバインダで結合したものである。
【0005】
また、このようなセラミックグリーンシートは、通常、まず、セラミック粉末および上記バインダとして用いるポリマーを有機溶剤に添加するとともに混練して、セラミック粉末とバインダと有機溶剤とを主成分とするスラリーを作製した後、ドクターブレード法やリップコータ法等の方法でスラリーをシート状に成形し、不要な有機溶剤を加熱して除去することによって製作されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−197312号公報
【特許文献2】特開2011−162616号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
近年、電子部品搭載用基板の小型化や配線導体の高密度化等に対応して、複数のセラミックグリーンシートを精度良く、具体的には、複数のセラミックグリーンシートの変形を抑制するとともに互いの密着性を高くして、積層する必要が生じている。
【0008】
しかしながら、上記従来のセラミックグリーンシートにおいては、複数のセラミックグリーンシートを積層する時の圧力による変形(伸び広がり)を抑制する作用、つまり平面方向(セラミックグリーンシートの主面に平行な方向)の剛性と、複数のセラミックグリーンシートを積層する時の上下のセラミックグリーンシートの密着性を高くするための柔軟性(特に上面および下面といった表面部分における柔軟性)とを両立させることが難しいという問題点があった。
【0009】
すなわち、セラミックグリーンシートの剛性を高くするためにガラス転移点が比較的高いポリビニルブチラール等をバインダとして用いると、柔軟性が低くなる。逆に、柔軟性を高くするためにガラス転移点が比較的低いアクリルポリマーをバインダとして用いると
、剛性が低くなる。
【0010】
本発明は、このような従来の問題点に鑑みて完成されたものであり、その目的は、平面方向の剛性、および表面部分における柔軟性が高いセラミックグリーンシート、およびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の一つの態様のセラミックグリーンシートは、セラミック粉末が有機樹脂からなるバインダで結合されてなるセラミックグリーンシートであって、
前記バインダのガラス転移温度が、前記セラミックグリーンシートの厚み方向の中央部において上部および下部よりも高いことを特徴とする。
【0012】
本発明の一つの態様のセラミックグリーンシートの製造方法は、セラミック粉末が有機樹脂からなるバインダで結合されてなるセラミックグリーンシートの製造方法であって、分子鎖中に第1官能基を有する第1樹脂をバインダとして用い、該バインダでセラミック粉末を結合させて第1シート層を成形する工程と、
分子鎖中に第2官能基を有する第2樹脂をバインダとして用い、該バインダでセラミック粉末を結合させて第2シート層を成形する工程と、
前記第1シート層の下面に前記第2シート層を積層する工程と、
前記第1シート層と前記第2シート層との間で前記第1官能基と前記第2官能基とを結合させて、前記第1樹脂および前記第2樹脂よりもガラス転移点が高い架橋構造の第3樹脂を生成させるとともに、該第3樹脂をバインダとする第3シート層を前記第1シート層と前記第2シート層との間に形成する工程とを含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明の一つの態様のセラミックグリーンシートによれば、バインダのガラス転移温度が、セラミックグリーンシートの厚み方向の中央部において上部および下部よりも高いことから、例えば貫通孔の形成または積層等を行なう時に、厚み方向の中央部において弾性率が高く、上部および下部において弾性率が低い。したがって、特に平面方向の剛性、および表面部分における厚み方向の柔軟性が高いセラミックグリーンシートを提供することができる。
【0014】
すなわち、上記セラミックグリーンシートは、バインダのガラス転移温度が低いことから、上部および下部における弾性率が低いため、上部および下部、つまり表面部分は厚み方向に変形しやすい。そのため、積層時における上下の他のセラミックグリーンシートとの密着性が高い。また、上記セラミックグリーンシートは、厚み方向の中央部において、バインダのガラス転移温度が高いことから、弾性率が高いため、セラミックグリーンシート全体の、上記積層時の加圧等に起因する平面方向の変形が抑制される。つまり、セラミックグリーンシート全体の、平面方向における剛性が高い。したがって、剛性および柔軟性が高いセラミックグリーンシートを提供することができる。
【0015】
本発明の一つの態様のセラミックグリーンシートの製造方法によれば、上記各工程を備えており、第1樹脂および第2樹脂よりもガラス転移点が高い架橋構造の第3樹脂をバインダとする第3シート層を第1シート層と前記第2シート層との間に形成することから、バインダのガラス転移点が高い第3層を厚み方向の中央部に有するセラミックグリーンシートを作製することができる。そのため、作製するセラミックグリーンシートについて、厚み方向の中央部における弾性率を大きくして、積層時の加圧等に起因する平面方向の変形を抑制できる。また、この作製するセラミックグリーンシートは、第1層および第2層、つまり厚み方向の上部および下部における弾性率が比較的低いため、上下の他のセラミックグリーンシートとの密着性を高くできる程度の柔軟性を有する。したがって、剛性お
よび柔軟性が高いセラミックグリーンシートを製造する方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の実施形態のセラミックグリーンシートの断面を示す断面図である。
【図2】図1に示すセラミックグリーンシートの一部を拡大して示す断面図である。
【図3】本発明のセラミックグリーンシートを用いて配線基板を作製する際の一工程を示す断面図である。
【図4】図1に示すセラミックグリーンシートにおけるバインダの化学的構造を模式的に示す構造式である。
【図5】本発明の実施形態におけるセラミックグリーンシートの製造方法を工程順に示す断面図である。
【図6】本発明の実施形態のセラミックグリーンシートの製造方法における、スラリーをシート状に成形する工程を示す断面図である。
【図7】図5に示すセラミックグリーンシートの製造方法において第3シート層を形成する工程の一例を模式的に示す反応式である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
(セラミックグリーンシート)
本発明のセラミックグリーンシートについて、添付の図面を参照して説明する。図1は、本発明の実施形態のセラミックグリーンシートの断面を示す断面図である。セラミックグリーンシート1は、例えば図2に示すように、酸化アルミニウム等のセラミック粉末2がバインダ3で結合されて形成されている。
【0018】
セラミックグリーンシート1は、例えば、セラミック粉末2をバインダ3とともに有機溶剤中で混練して作製したスラリーを、ドクターブレード法やリップコータ法等の方法でシート状に成形し、その後有機溶剤を除去することによって作製される。なお、バインダ3は、後述するようにセラミックグリーンシート1の厚み方向の上部および下部と中央部とにおいて互いにガラス転移点が異なるものが用いられるが、セラミック粉末2がバインダ3で結合された形態自体は同様であるため、図2においては特に区別していない。
【0019】
このセラミックグリーンシート1に対して、例えば図3に示すように、機械的な打ち抜き加工による貫通孔11の形成や導体ペースト12の印刷等の加工を施し、複数のセラミックグリーンシート1を積層した後に焼成して、バインダ2を分解除去させるとともにセラミック粉末1同士を焼結させれば、電子部品搭載用等のセラミック基板(図示せず)を製作することができる。なお、図3は、本発明のセラミックグリーンシート1を用いて電子部品搭載用等のセラミック基板を作製する際の一工程を示す断面図である。
【0020】
上記セラミックグリーンシート1においては、バインダ3のガラス転移温度が、セラミックグリーンシート1の厚み方向の中央部1aにおいて上部1bおよび下部1cよりも高い。そのため、例えば上記貫通孔11の形成または積層等を行なうような時、例えばこのような加工を施す温度条件において、セラミックグリーンシート1は、厚み方向の中央部1aにおいて弾性率が高く、上部1bおよび下部1c(以下、単に中央部1a,上部1b,下部1cという場合がある)において弾性率が低い。したがって、平面方向の剛性、および特に表面部分における柔軟性が高いセラミックグリーンシート1を提供することができる。
【0021】
すなわち、上記セラミックグリーンシート1は、上部1bおよび下部1cにおいて、バインダのガラス転移温度が低いことから、弾性率が比較的低いため、上部1bおよび下部1c、つまり表面部分は柔軟性が高く、厚み方向に変形しやすい。そのため、積層時における上下の他のセラミックグリーンシート1との密着性が高い。上下に積層される2つの
セラミックグリーンシート1の互いに対向し合う面の間に上記導体ペースト12が介在していたとしても、その導体ペースト12は、上下いずれかのセラミックグリーンシート1の、厚み方向に変形しやすい上部1bまたは下部1c内に入り込む。そのため、導体ペースト12等の介在する物の厚みに妨げられることなく、上下のセラミックグリーンシート1同士が良好に密着し合う。
【0022】
また、上記セラミックグリーンシート1は、厚み方向の中央部1aにおいて、バインダ3のガラス転移温度が高いことから、弾性率が高い。ため、セラミックグリーンシート1全体の、上記積層時の加圧等に起因する平面方向の変形が抑制される。つまり、セラミックグリーンシート1全体の、平面方向における剛性が高い。したがって、上記剛性および柔軟性が高いセラミックグリーンシート1を提供することができる。上記セラミックグリーンシート1は、上部1bと比較的高弾性の中央部1aと、比較的低弾性の上部1bおよび下部1cとの3層構造と見ることもできる。
【0023】
セラミックグリーンシート1の中央部1aを形成しているバインダは、例えばガラス転移温度が約10℃程度以下である。また、貫通孔11の形成または積層等を行なう時の温度(約30〜60℃)における上部1bおよび下部1cの弾性率が、ヤング率で約20〜100MPa
程度である。
【0024】
セラミックグリーシートの上部1bを形成しているバインダおよび下部1cを形成しているバインダは、それぞれガラス転移温度が約30〜150℃程度である。貫通孔11の形成ま
たは積層等を行なう時の温度(約30〜60℃)における中央部1aの弾性率が、ヤング率で約500〜1000MPa程度である。
【0025】
上部1bまたは下部1cを形成するバインダとしては、例えば、アクリルポリマー、ウレタンポリマー、エーテルポリマー,エポキシポリマー等が挙げられる。また、中央部1aを形成するバインダとしては、例えば、アクリルポリマーおよびウレタンポリマー,ブタジエンポリマー、またはアクリルポリマーおよびエポキシポリマー等の互いに異なる2種類またはそれ以上のポリマー同士が架橋反応して生成した架橋構造のポリマーが挙げられる。架橋構造でポリマー同士が結合することによって、ガラス転移温度が高くなる。
【0026】
アクリルポリマーとしては、例えばポリエチルアクリレート,ポリブチルアクリレートおよびポリメチルアクリレート等が挙げられる。
【0027】
ウレタンポリマーとしては、例えばヘキサメチレンジイソシアネート等のイソシアネート基を有するモノマーと、テトラメチレンオキサイド等の水酸基を有するモノマーとの重合体が挙げられる。
【0028】
この場合、架橋構造のポリマーを形成するポリマーが、セラミックグリーンシート1の上部1bを形成するポリマーと、下部1cを形成するポリマーとであるときには、上記3層の構造のセラミックグリーンシート1の生産性を高める上で有利である。
【0029】
すなわち、上部1bにおけるバインダが、分子鎖中に第1官能基を有する第1樹脂からなり、下部1cにおけるバインダが、分子鎖中に第2官能基を有する第2樹脂からなる場合には、上部1bと下部1cとの間に、互いに異なるポリマーであるそれぞれのバインダの間で、第1および第2官能基とによる架橋反応を生じさせることが容易である。
【0030】
この架橋反応によって、中央部1aにおけるバインダが、第1樹脂材料の第1官能基と、第2樹脂材料の第2官能基とが結合してなる架橋構造の第3樹脂となる。そのため、例えば上部1bおよび1cを形成するバインダに比べてガラス転移温度が高いバインダをセ
ラミックグリーンシート1の厚み方向の中央部分(中央部1a等)に別途介在させるような必要はなく、生産性を高くすることが容易である。また、セラミックグリーンシート1の厚み方向の上下部1b,1cと中央部1aとの間における分離等が生じる可能性を効果的に低減することができる。
【0031】
第1官能基と第2官能基とは、互いに架橋反応を生じて結合し合うような官能基である必要がある。第1官能基としては、例えば水酸基やアミノ基、カルボキシル基等が挙げられる。また、第1官能基を有する第1樹脂としては、このような第1官能基を分子鎖中に含有するアクリルポリマー、エーテルポリマー等が挙げられる。
【0032】
また、このような第1官能基と反応して結合し合う第2官能基としては、イソシアネート基、エポキシ基等が挙げられる。第2官能基を有する第2樹脂としては、ウレタンポリマー,エポキシポリマー等が挙げられる。
【0033】
上記セラミックグリーンシート1において、第1樹脂がアクリルポリマーであるとともに、第1官能基が水酸基およびアミノ基の少なくとも一方であり、第2樹脂がウレタンポリマーであるとともに、第2官能基がイソシアネート基である場合には、上記第1官能基と第2官能基との架橋反応が容易であり、架橋構造の第3樹脂をセラミックグリーンシート1の厚み方向の中央部1aに生成させることが容易である。
【0034】
そのため、この場合には、上部1bおよび下部1cよりも中央部1aにおいてバインダのガラス転移温度が比較的高いセラミックグリーンシート1をより容易に作製することができる。
【0035】
また、アクリルポリマーおよびウレタンポリマーのいずれも、ガラス転移温度が低いものとすることが容易であり、例えばゴム(アクリルゴムまたはウレタンゴム)としてバインダ3に用いることが容易である。そのため、上部1および下部1cにおいてバインダ3のガラス転移温度が比較的低いセラミックグリーンシート1をより容易に作製することができる。
【0036】
このような場合には、例えば図4に示すように、第3樹脂はアクリルポリマー(AP)とウレタンポリマー(UP)とが互いに、水酸基とイソシアネート基との架橋反応によって結合(いわゆるウレタン結合)して生成した架橋構造のポリマーである。なお、図4は、図1および図2に示すセラミックグリーンシート1におけるバインダ3の化学的構造を模式的に示す構造式である。図4において図1と同様の部位には同様の符号を付している。
【0037】
図4に示す例においては、ウレタンポリマーのイソシアネート基と水酸基とが架橋して結合する例を示しているが、イソシアネート基と架橋反応するものが水酸基ではなくアミノ基(図示せず)の場合も同様に、イソシアネート基とアミノ基とが架橋して結合する反応が生じて架橋結合される。
【0038】
第3樹脂のガラス転移温度、言い換えれば中央部1aにおけるバインダ3の弾性率は、上記架橋密度によって調整することができる。架橋密度は、バインダ3の単位体積当たりの架橋反応による結合数を示す。架橋密度が高いほど、第3樹脂のガラス転移温度が高くなる。また、例えばセラミックグリーンシート1の積層時における中央部1aの弾性率が高くなる。
【0039】
また、バインダのガラス転移温度が比較的高い中央部1aの厚みは、セラミックグリーンシート1の厚みの20〜80%程度とすればよい。
【0040】
また、上記中央部1aの厚みの調整は、第1官能基の量または第2官能基の量で調整によって行なわれる。また、セラミックグリーンシート1の積層温度および圧力等の条件、つまり架橋反応を促進または抑制させる条件の調整でも行なわれる。
【0041】
また、上部1bおよび下部1cは、互いに同じ厚みであってもよく、互いに異なっていてもよい。上部1bと下部1cとが互いに同じ厚みであれば、セラミックグリーンシート1について上面および下面の特性(特に厚み方向の柔軟性)が近似しやすいため、使い勝手のよいセラミックグリーンシート1とすることができる。また、上部1bと下部1cとが互いに異なる厚みであれば、より厚い方を、前述した導体ペースト12の厚みの吸収等に有効な面(例えば下面)側として、導体ペースト12の印刷や積層等の加工を施すようにする。これによって、上下のセラミックグリーンシート1同士の密着性をより高めることもできる。
【0042】
また、上部1bと下部1cとは、互いに弾性率が異なっていてもよく、互いに同じ程度であってもよい。言い換えれば、セラミックグリーンシート1のバインダは、上部1bにおけるガラス転移温度と下部1cにおけるガラス転移温度とが互いに同じあってもよく、互いに異なっていてもよい。
【0043】
セラミックグリーンシート1について、上部1bと下部1cとで互いに弾性率が同じ程度であれば、上下の区別をすることなく、導体ペースト12の印刷や積層等の加工を施すことができる。したがって、この場合には使い勝手のよいセラミックグリーンシート1を提供することができる。また、上部1bと下部1cとで互いに弾性率が異なっている場合には、例えば弾性率がより大きい側において表面(上面)に導体ペースト12の印刷を行ない、より小さい側の表面(下面)を、他のセラミックグリーンシート1の導体ペースト12が印刷された面に対向させて積層することもできる。この場合には、上下のセラミックグリーンシート1同士の密着性をより高めることもできる。また、導体ペースト12のにじみ等の抑制がより容易で印刷性も高めることができる。つまり配線基板としての生産性を高めることがより容易なセラミックグリーンシート1を提供することができる。
【0044】
また、上部1bにおけるバインダとなる第1樹脂をアクリルポリマーAPとするとともに、下部1cにおけるバインダとなる第2樹脂をウレタンポリマーUPとした場合には、主として上部1bを導体ペースト12等の印刷を行なう側とし、主として下部1cを、他のセラミックグリーンシート1の上面に印刷された導体ペースト12等の厚みを吸収する層として用いるようにすることが好ましい。
【0045】
これは、ウレタンポリマーUPの方が導体ペースト12等の厚みに追随して厚み方向等に変形することが容易であることによる。また、アクリルポリマーAPの方が、導体ペースト12のにじみ等を抑制する上で有効であることによる。
【0046】
また、上部1bおよび下部1cにおけるバインダ2は、それぞれの全域において同じ程度のガラス転移温度を有するものでなくても構わない。すなわち、上部1bおよび下部1cは、それぞれの全域において同じ程度の弾性率である必要はなく、厚み方向等において次第に弾性率が変化するようなものであってもよい。例えば上部1bまたは下部1cにおいて、表面(セラミックグリーンシート1の上面または下面)近くでは弾性率が比較的小さく、中央部1a近くでは弾性率が比較的大きいものでもよい。
【0047】
この場合には、例えば第1樹脂と第2樹脂との間の架橋反応によって第3樹脂を生成させるようなときに、セラミックグリーンシート1の生産性を高める上で有利である。つまり、架橋密度が高いほど、第1樹脂および第2樹脂(バインダ)のガラス転移温度が高く
なる。そのため、上記構成のセラミックグリーンシート1を容易に作製することができる。
【0048】
(セラミックグリーンシートの製造方法)
次に、本発明の実施形態におけるセラミックグリーンシートの製造方法について、添付の図面を参照して説明する。図5は、本発明の実施形態におけるセラミックグリーンシートの製造方法を工程順に示す断面図である。
【0049】
以下に示す製造方法は、セラミック粉末が有機樹脂からなるバインダで結合されてなるセラミックグリーンシートの製造方法である。以下に示す例においては、第1官能基を水酸基とし、第1樹脂をアクリルポリマーとし、第2官能基をイソシアネート基とし、第2樹脂をウレタンポリマーとしている。それぞれの官能基および樹脂は、前述したように他のものであってもよい。
【0050】
まず、図5(a)に示すように、分子鎖中に水酸基(−OH)等の第1官能基を有するアクリルポリマー等の第1樹脂をバインダとして用い、このバインダでセラミック粉末を結合させて第1シート層21を成形する。
【0051】
第1樹脂であるアクリルポリマーとしては、例えば前述したようにポリエチルアクリレート,ポリブチルアクリレート,ポリメチルアクリレート等を用いることができる。
【0052】
第1シート層21の成形は、例えば図6に示すようにドクターブレード法によって行なうことができる。この成形方法は、バインダとしての第1樹脂およびセラミック粉末を有機溶剤とともに混練してスラリーを作製した後、このスラリーをシート状に成形するとともにスラリー中の有機溶剤を除去する方法である。図6は、本発明の実施形態のセラミックグリーンシートの製造方法における、スラリーをシート状に成形する工程を示す断面図である。
【0053】
図6において、31は一定量のスラリー(符号なし)を保持するホッパー,32はローラ,33は帯状の紙である。ローラ32によって一定の速度で帯状の紙33を送り、ホッパー31からスラリーを一定の厚さで帯状の紙33上に塗布することによってスラリーがシート状に成形される。スラリーの塗布厚みは、ホッパー31におけるスラリーの出口に配置したドクターブレード34を上下に移動(スライド)させることによって調整する。
【0054】
次に、図5(b)に示すように、分子鎖中にイソシアネート基(−NCO)等の第2官能基を有するウレタンポリマー等の第2樹脂をバインダとして用い、このバインダでセラミック粉末を結合させて第2シート層22を成形する。
【0055】
第2樹脂であるウレタンポリマーとしては、例えば前述したように、ヘキサメチレンジイソシアネート等のイソシアネート基を有するモノマーと、テトラメチレンオキサイド等の水酸基を有するモノマーとの重合体を用いることができる。
【0056】
第2シート層22も、第1シート層21と同様にドクターブレード法等の成形方法でスラリーをシート状に成形することによって作製することができる。
【0057】
この第2シート層22について、第1シート層21の下面に積層する。第1シート層21と第2シート層22との積層は、例えば別々に作製した第1シート層21と第2シート層22とを積層するとともに加圧して互いに密着させることによって行なう。
【0058】
また、まず第2シート層22を帯状の紙33の上に成形しておいて、その後、その第2シー
ト層22の上に第1層21となるスラリーを塗布して、第1シート層21と第2シート層22とが積層された構造を実現するようにしてもよい。
【0059】
次に、図5(c)および図7に示すように、第1シート層21と第2シート層22との間で第1官能基と第2官能基とを結合させて、第1樹脂および第2樹脂よりもガラス転移温度が高い架橋構造の第3樹脂を生成させるとともに、この第3樹脂をバインダとする第3シート層23を第1シート層21と第2シート層22との間に形成する。なお、図7は、図5に示すセラミックグリーンシートの製造方法において第3シート層23を形成する工程の一例を模式的に示す反応式である。図7において図4と同様の成分については同様の符号を付している。
【0060】
第1樹脂および第2樹脂は、それぞれ前述したセラミックグリーンシート1の上部1bおよび下部1cにおけるバインダとなる。第1樹脂および第2樹脂のガラス転移温度は、例えば約10℃程度以下である。この場合、いわゆる常温(約15〜25℃)において第1樹脂および第2樹脂はゴム状態である。そのため、第1樹脂および第2樹脂をそれぞれバインダとする第1シート層21および第2シート層22は、上記セラミックグリーンシート1の積層等の際に柔軟である。第1シート層21および第2シート層22は、それぞれ上記セラミックグリーンシート1における上部1bおよび下部1cに相当する。
【0061】
また、第3樹脂は、前述したセラミックグリーンシート1の中央部1aを形成するバインダとなる。第3樹脂のガラス転移温度は、例えば約30〜150℃程度である。この場合、
いわゆる常温において第3樹脂はガラス状態である。そのため、第3樹脂をバインダとする第3シート層23は、上記セラミックグリーンシート1の積層等の際に剛性が高い。第3シート層23は、上記セラミックグリーンシート1における中央部1aに相当する。
【0062】
下側から順に、第1シート層21、第3シート層23および第2シート層22が積層された構造であるセラミック成形シート24について、不要な有機溶剤を加熱および送風等の手段で除去すれば、例えば図1に示すようなセラミックグリーンシート1を作製することができる。
【0063】
このようなセラミックグリーンシートの製造方法によれば、上記各工程を備えており、第1シート層21と第2シート層22との間で第1官能基と第2官能基とを結合させて、第1樹脂および第2樹脂よりもガラス転移温度が高い架橋構造の第3樹脂を生成させるとともに、この第3樹脂をバインダとする第3シート層23を第1シート層21と第2シート層22との間に形成することから、ガラス転移温度が高い第3樹脂をバインダとする、弾性率が比較的高い第3シート層23を厚み方向の中央部に有するセラミックグリーンシート1を作製することができる。このセラミックグリーンシート1に所定の孔あけ加工や導体ペースト12の印刷、積層等の加工を施した後に焼成すれば、配線基板を製作することができる。
【0064】
上記セラミックグリーンシート1によれば、全体としての剛性が第3シート層23によって高められていることから、積層時の加圧等に起因する平面方向の変形を抑制できる。また、このセラミックグリーンシート1は、第1シート層21および第2シート層22、つまり表面部分である厚み方向の上下部分の弾性率が比較的低いため、上下の他のセラミックグリーンシート1との密着性を高くできる程度の柔軟性を有する。したがって、剛性および柔軟性が高いセラミックグリーンシート1を製造する方法を提供することができる。
【実施例】
【0065】
酸化アルミニウムを主成分とし、酸化ケイ素、酸化カルシウムおよび酸化マグネシウムを添加してなる原料のセラミック粉末をバインダで結合してセラミックグリーンシートを作製し、その剛性および柔軟性を確認した。
【0066】
実施例のセラミックグリーンシートにおいて、上部のバインダを水酸基含有のポリエチルアクリレートとし、下部のバインダを、ヘキサメチレンジイソシアネートとテトラメチレンオキサイドとの重合体とし、中央部のバインダを上記2つのバインダを互いにウレタン結合で架橋結合させたものとした。
【0067】
また、比較例1として、水酸基含有のポリエチルアクリレートのみをバインダとして用いたセラミックグリーンシートを作製し、比較例2として、ポリビニルブチラールのみをバインダとして用いたセラミックグリーンシートを作製した。
【0068】
上記実施例のセラミックグリーンシートにおいて、上部および下部の弾性率は、ヤング率で約20MPa程度であり、中央部の弾性率は、ヤング率で約500MPa程度であった。
弾性率は、各層に分離したシートをダンベル状に打抜き、引張り速度100mm/分で引張
りを測定して算出した。
【0069】
また、比較例1のセラミックグリーンシートは全体でほぼ一様に、ヤング率が約20MPa程度であり、比較例2のセラミックグリーンシートは全体でほぼ一様に、ヤング率が約500MPa程度であった。
【0070】
上記実施例のセラミックグリーンシートにおいて、平面方向の剛性は約50MPa程度であった。また、比較例1のセラミックグリーンシートの平面方向の剛性は約0.5MPa程
度であり、比較例2のセラミックグリーンシートの平面方向の剛性は約50MPa程度であった。剛性の測定は、引張りモードで周波数1Hzの振動を加えた動的粘弾性試験で行った。
【0071】
これらの、実施例、比較例1および比較例2のそれぞれのセラミックグリーンシートの上面に、約20μmの厚みでタングステンの導体ペーストを、線幅約100μmの回路状パタ
ーンで印刷した後、他の、実施例、比較例1および2それぞれのセラミックグリーンシートを積層するとともに加圧した。その後、これらのセラミックグリーンシートの層間の密着性、および平面方向の伸び広がりといった変形の有無を外観観察により確認した。
【0072】
その結果、実施例のセラミックグリーンシート同士を積層したものについては、層間の密着性が低い部分および変形のいずれも確認されなかった。
【0073】
これに対して、比較例1のセラミックグリーンシート同士を積層したものについては、層間の密着性は良好であったものの、セラミックグリーンシートの平面方向の伸び広がりが約10%検知された。比較例2のセラミックグリーンシート同士を積層したものについては、セラミックグリーンシートの平面方向の伸び広がりは検知されなかったものの、約10%頻度で、層間の密着不良が検知された。密着不良は、導体ペーストの付近において発生していた。
【0074】
以上により、本発明の実施例のセラミックグリーンシートにおける、平面方向の剛性、および表面部分の柔軟性を高くする効果を確認することができた。
【符号の説明】
【0075】
1・・・・セラミックグリーンシート
2・・・・セラミック粉末
3・・・・バインダ
1a・・・中央部
1b・・・上部
1c・・・下部
11・・・・貫通孔
12・・・・導体ペースト
21・・・・第1シート層
22・・・・第2シート層
23・・・・第3シート層
24・・・・セラミック成形シート
31・・・・ホッパー
32・・・・ローラ
33・・・・帯状の紙
34・・・・ドクターブレード

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セラミック粉末が有機樹脂からなるバインダで結合されてなるセラミックグリーンシートであって、
前記バインダのガラス転移温度が、前記セラミックグリーンシートの厚み方向の中央部において上部および下部よりも高いことを特徴とするセラミックグリーンシート。
【請求項2】
前記セラミックグリーンシートの前記上部における前記バインダが、分子鎖中に第1官能基を有する第1樹脂からなり、
前記セラミックグリーンシートの前記下部における前記バインダが、分子鎖中に第2官能基を有する第2樹脂からなり、
前記セラミックグリーンシートの前記中央部における前記バインダが、前記第1樹脂の前記第1官能基と、前記第2樹脂の前記第2官能基とが結合してなる架橋構造の第3樹脂からなることを特徴とする請求項1記載のセラミックグリーンシート。
【請求項3】
前記第1樹脂がアクリルポリマーであるとともに、前記第1官能基が水酸基およびアミノ基の少なくとも一方であり、
前記第2樹脂がウレタンポリマーであるとともに、前記第2官能基がイソシアネート基であることを特徴とする請求項2記載のセラミックグリーンシート。
【請求項4】
セラミック粉末が有機樹脂からなるバインダで結合されてなるセラミックグリーンシートの製造方法であって、
分子鎖中に第1官能基を有する第1樹脂をバインダとして用い、該バインダでセラミック粉末を結合させて第1シート層を成形する工程と、
分子鎖中に第2官能基を有する第2樹脂をバインダとして用い、該バインダでセラミック粉末を結合させて第2シート層を成形する工程と、
前記第1シート層の下面に前記第2シート層を積層する工程と、
前記第1シート層と前記第2シート層との間で前記第1官能基と前記第2官能基とを結合させて、前記第1樹脂および前記第2樹脂よりもガラス転移温度が高い架橋構造の第3樹脂を生成させるとともに、該第3樹脂をバインダとする第3シート層を前記第1シート層と前記第2シート層との間に形成する工程とを含むことを特徴とするセラミックグリーンシートの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−112552(P2013−112552A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−259094(P2011−259094)
【出願日】平成23年11月28日(2011.11.28)
【出願人】(000006633)京セラ株式会社 (13,660)
【Fターム(参考)】