説明

セラミックグリーンシート製造工程用の剥離フィルム

【課題】剥離剤層の高平滑性が得られ、かつ帯電を効果的に抑制することができるとともに、剥離剤層の脱落を抑制することのできる剥離フィルムを提供する。
【解決手段】基材11と、基材11の第1の面上に積層され、導電性高分子を含有し、厚さが30〜290nmである樹脂層12と、樹脂層12上に積層された剥離剤層13とを備え、剥離剤層13の表面における最大突起高さ(Rp)が10〜100nmであるセラミックグリーンシート製造工程用の剥離フィルム1。基材11の第2の面における算術平均粗さ(Ra)は、5〜50nmであり、最大突起高さ(Rp)は、40〜300nmであることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セラミックグリーンシートを製造する工程で使用する剥離フィルムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に電子機器においては、最近の小型化、軽量化に対する市場の要請により、電子機器を構成する部品の薄膜化や軽量化が必要となってきている。これに伴い、セラミックグリーンシートの厚さも、現在の1〜5μmから、さらに薄膜化が進んでおり、厚みが1μm未満のセラミックグリーンシートも製造されている。セラミックグリーンシートがこのように薄くなると、工程フィルムも従来のものでは対応できず、さらに高性能の工程フィルム、すなわち、セラミックスラリー塗工性およびセラミックグリーンシート剥離性に優れるとともに、熱収縮しわなどが無く、表面にシート厚みに影響するような突起の無い極めて高い平滑性を有する工程フィルムが必要となる。
【0003】
従来、工程フィルムとしては、一般に、基材であるポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムに付加反応型シリコーン樹脂を塗布して剥離剤層を形成した剥離フィルムが用いられている。しかしながら、年々、求められる剥離剤層表面の平滑性が高くなり、それに伴い表面が極めて高い平滑性を有する基材が用いられるようになっているため、シリコーン樹脂のアンカー効果が得られ難く、基材に対する剥離剤層の密着性が低くなっている。そのため、ロール状に巻き取った際の巻き芯部においては、巻き絞まりによって剥離剤層が基材から脱落する等の問題が生じていた。
【0004】
そこで、従来より、剥離剤層の基材への密着性を高めるために、基材に対しプライマー処理を施す手法が確立されている。例えば、金属ケイ素化合物およびシランカップリング剤からなる下塗り層を、予めPETフィルムに塗布しておき、その上に付加反応型シリコーン化合物を塗布する方法が挙げられる。
【0005】
しかしながら、シリコーン樹脂を塗布した高平滑性の剥離フィルムにおいては、さらなる高平滑化の要求に伴い、ブロッキングが発生し易くなったために、巻き取り不良が生じたり、巻き出し時の帯電性が高くなったり、種々の問題が顕在化した。例えば、表裏の平滑性が高過ぎるために、表裏密着が発生して、正常に巻き取れないことがあった。あるいは、巻き出した際の帯電によって剥離剤層表面に異物が付着し、当該剥離剤層上に塗工されるセラミックスラリーにピンホールが発生する等の欠陥の原因となっていた。また、剥離フィルム表面の帯電によって、塗工されるセラミックスラリーの揺らぎやハジキが生じ、均一な薄膜シートが成型できないことがあった。さらには、剥離剤層上に成型されたセラミックグリーンシートを剥離フィルムから剥離する工程においては、剥離剤層の帯電によって剥離不良が発生し、シートが破れる等、正常に剥離できないという問題が生じる場合があった。
【0006】
そのため、例えばケイ素アルコキシドの部分加水分解物を予めPETフィルム上に塗布して酸化ケイ素層を設け、その上に剥離剤層を設けることで、基材への密着性、および帯電防止性を付与する手法が行われている。しかしながら、長期保管された場合や、高湿度下に保管された場合に、酸化ケイ素層と基材との密着性が低下し、結果的に剥離剤層が脱落することがあった。
【0007】
また、帯電防止性付与のために、基材製膜時にインラインコートにより帯電防止性の高いアルキルアンモニウム塩等が塗布されて、帯電防止層が設けられた基材が知られている(特許文献1,2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平6−172562号公報
【特許文献2】特公平7−68388号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、付加反応型シリコーンを上記帯電防止層の表面に塗工すると、当該帯電防止層が触媒毒となり、シリコーンの硬化性や密着性に問題が生じていた。また、基材における上記帯電防止層の反対側の面に剥離剤層を設ける構成では、高平滑性基材と剥離剤層との密着性は得られず、また帯電防止層の塗膜強度が低く、かつ表面が滑り難いことから、剥離剤塗工時および裁断時にガイドロール等への接触により帯電防止層の脱落が発生していた。これにより、剥離フィルムをロール状に巻き取った際に、脱落した帯電防止層が異物として混入し、打痕の原因となる問題があった。また、巻き取った剥離フィルムに混入した異物は、セラミックスラリー塗工時の工程内のガイドロール等に堆積し、それが工程内汚染となって、セラミックスラリー塗工不良の原因となっていた。
【0010】
本発明は、このような実状に鑑みてなされたものであり、剥離剤層の高平滑性が得られ、かつ帯電を効果的に抑制することができるとともに、剥離剤層の脱落を抑制することのできる剥離フィルムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するために、第1に本発明は、基材と、前記基材の第1の面上に積層され、導電性高分子を含有し、厚さが30〜290nmである樹脂層と、前記樹脂層上に積層された剥離剤層とを備え、前記剥離剤層の表面における最大突起高さ(Rp)が10〜100nmであることを特徴とするセラミックグリーンシート製造工程用の剥離フィルムを提供する(発明1)。
【0012】
上記発明(発明1)に係る剥離フィルムによれば、最大突起高さ(Rp)が制御された剥離剤層にて高平滑性が得られ、かつ、導電性高分子を含有する樹脂層の存在により、巻き出し時等における帯電を効果的に抑制することができる。また、基材と剥離剤層との間に樹脂層を設けることにより、長期に渡る保管においても剥離剤層の脱落を抑制することができる。かかる剥離フィルムにより、ピンホールのない薄膜セラミックグリーンシートを良好に製造することができる。
【0013】
上記発明(発明1)においては、前記基材の第2の面における算術平均粗さ(Ra)が5〜50nmであり、最大突起高さ(Rp)が40〜300nmであることが好ましい(発明2)。
【0014】
上記発明(発明1,2)において、前記樹脂層は、ポリエステル樹脂、ウレタン樹脂およびアクリル樹脂からなる群から選ばれる少なくとも1種を含有することが好ましい(発明3)。
【0015】
上記発明(発明1〜3)において、前記樹脂層は、前記導電性高分子として、ポリチオフェン系導電性高分子、ポリアニリン系導電性高分子およびポリピロール系導電性高分子からなる群から選ばれる少なくとも1種を含有することが好ましい(発明4)。
【0016】
上記発明(発明1〜4)において、前記剥離剤層は、付加反応型シリコーン樹脂を主成分とする剥離剤から構成されることが好ましい(発明5)。
【0017】
上記発明(発明1〜5)においては、前記剥離剤層に対する日東電工社製ポリエステル粘着テープNo.31Bの180°剥離力(mN/20mm)を剥離力X、前記剥離剤層の表面を、学振式摩擦堅牢試験機を用いて、前記基材の第2の面を研磨片として加重1kg、往復10回の条件にて研磨し、当該研磨面に対する日東電工社製ポリエステル粘着テープNo.31Bの180°剥離力(mN/20mm)を剥離力Yとしたときに、
(剥離力X/剥離力Y)×100%
の式で表わされる剥離剤層保持率が、85%以上であることが好ましい(発明6)。
【0018】
上記発明(発明1〜6)においては、ロール状に巻き取った幅400mm、長さ5000mの前記剥離フィルムを100m/分で巻き出した直後における前記剥離剤層の表面の帯電量が、10kV以下であることが好ましい(発明7)。
【発明の効果】
【0019】
本発明に係る剥離フィルムによれば、剥離剤層の高平滑性が得られ、かつ巻き出し時等における帯電を効果的に抑制することができるとともに、長期に渡る保管においても剥離剤層の脱落を抑制することができ、ピンホールのない薄膜セラミックグリーンシートを良好に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の一実施形態に係る剥離フィルムの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施形態について説明する。
図1に示すように、本実施形態に係る剥離フィルム1は、基材11と、基材11の第1の面(図1では上面)の上に積層された、導電性高分子を含有する樹脂層12と、樹脂層12の上に積層された剥離剤層13とを備えて構成される。なお、本実施形態における剥離フィルム1は、セラミックグリーンシートを製造する工程にて使用されるものである。
【0022】
基材11としては、特に制限はなく、従来公知のものの中から任意のものを適宜選択して用いることができる。このような基材11としては、例えば、ポリエチレンテレフタレートやポリエチレンナフタレート等のポリエステル、ポリプロピレンやポリメチルペンテン等のポリオレフィン、ポリカーボネート、ポリ酢酸ビニルなどのプラスチックからなるフィルムが挙げられ、単層であってもよいし、同種又は異種の2層以上の多層であってもよい。これらの中でもポリエステルフィルムが好ましく、特にポリエチレンテレフタレートフィルムが好ましく、さらには二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムが好ましい。ポリエチレンテレフタレートフィルムは、加工時、使用時等において、埃等が発生しにくいため、例えば、埃等によるセラミックスラリー塗工不良等を効果的に防止することができる。
【0023】
また、この基材11においては、その第1の面に設けられる樹脂層12との密着性を向上させる目的で、第1の面に、酸化法などによる表面処理、あるいはプライマー処理を施すことができる。上記酸化法としては、例えばコロナ放電処理、プラズマ放電処理、クロム酸化処理(湿式)、火炎処理、熱風処理、オゾン、紫外線照射処理などが挙げられ、これらの表面処理法は、基材フィルムの種類に応じて適宜選ばれるが、一般にコロナ放電処理法が効果および操作性の面から好ましく用いられる。
【0024】
基材11の厚さは、通常10〜300μmであればよく、好ましくは15〜200μmであり、特に好ましくは20〜125μmである。
【0025】
基材11の第1の面における最大突起高さ(Rp)は、10〜100nmであることが好ましく、特に20〜50nmであることが好ましい。基材11の第1の面における最大突起高さ(Rp)をこの範囲に設定することで、剥離剤層13の表面における最大突起高さ(Rp)を後述する範囲内におさめることが容易となる。
【0026】
一方、基材11の第2の面(第1の面と反対側の面;図1では下面)における算術平均粗さ(Ra)は、5〜50nmであることが好ましく、特に10〜30nmであることが好ましい。また、基材11の第2の面における最大突起高さ(Rp)は、40〜300nmであることが好ましく、特に60〜220nmであることが好ましい。
【0027】
基材11の第2の面の算術平均粗さ(Ra)が小さすぎると、当該第2の面が平滑すぎることとなり、剥離フィルム1の巻き取り時に基材11の第2の面と高平滑な剥離剤層13とが密着して、ブロッキングが発生しやすくなる。一方、基材11の第2の面の算術平均粗さ(Ra)が大きすぎると、基材11の第2の面の最大突起高さ(Rp)を上記の好ましい低い範囲におさめることが困難になることがある。
【0028】
基材11の第2の面における最大突起高さ(Rp)が大きすぎると、セラミックグリーンシート成形後に巻き取ったときに、当該セラミックグリーンシートに密着する基材11の第2の面の突起形状がセラミックグリーンシートに転写され、セラミックグリーンシートの厚みが部分的に薄くなるおそれがある。一方、基材11の第2の面の最大突起高さ(Rp)が小さすぎると、基材11の第2の面の凹凸が均一となり、当該第2の面が平坦になるため、剥離剤層13を形成する工程等で、基材11がロールに接する面で空気を巻き込みやすくなる。その結果、搬送している基材11が蛇行したり、ロール状に巻き取る際に巻きずれを生じたりすることがある。
【0029】
後述するように、本実施形態に係る剥離フィルム1の樹脂層12に帯電防止剤として添加される導電性高分子の添加量が多くなると、剥離剤層13の密着性が低下するなどの問題が発生する場合がある。したがって、添加量は少なくすることが好ましいが、このような場合には十分な帯電防止性が得られないことがあり、後述する剥離フィルム1の巻き出し帯電量が増大するおそれがある。基材11の第2の面における算術平均粗さ(Ra)および最大突起高さ(Rp)を上記のような範囲とすると、ブロッキングが抑制されるので、本実施形態に係る剥離フィルム1の巻き出し時の帯電を抑制する効果がより発揮される。
【0030】
上記の通り、基材11の第1の面の最大突起高さ(Rp)の好ましい範囲と、第2の面の最大突起高さ(Rp)の好ましい範囲とは異なるため、基材11は、基材11の第1の面の最大突起高さ(Rp)と、第2の面の最大突起高さ(Rp)とが異なること、すなわち表裏異粗度であることが好ましい。
【0031】
表裏異粗度の基材11を得る方法としては、例えば、第1の面を形成する第1のフィラー含有樹脂溶融物と、第2の面を形成する第2のフィラー含有樹脂溶融物とを、複層成形口金を用いて口金内で合流させてシート状に押出し、冷却した後に延伸する共押出し製膜による方法が挙げられる。
【0032】
第1のフィラー含有樹脂溶融物は、第1のフィラーを含有する。第1のフィラーは、樹脂の溶融温度に耐える無機フィラーであることが好ましく、かかる無機フィラーとしては、酸化アルミニウム粒子、炭酸カルシウム粒子、二酸化ケイ素などが挙げられる。第1のフィラーの平均粒径は、0.01〜1μmであることが好ましく、0.05〜0.7μmであることがより好ましい。第1のフィラーは、1種を単独で使用することもできるし、2種以上を組み合わせて使用することもできる。第1のフィラー含有樹脂溶融物中における第1のフィラーの含有量は、樹脂の原料単量体の合計量100質量部に対して、0.03〜2質量部であることが好ましい。
【0033】
第2のフィラー含有樹脂溶融物は、第2のフィラーを含有する。第2のフィラーの材料として好ましいものは、第1のフィラーと同様である。第2のフィラーの平均粒径は、0.05〜2μmであることが好ましく、0.1〜1μmであることがより好ましい。第2のフィラーは、1種を単独で使用することもできるし、2種以上を組み合わせて使用することもできる。第2のフィラー含有樹脂溶融物中における第2のフィラーの含有量は、樹脂の原料単量体の合計量100質量部に対して、0.1〜3質量部であることが好ましい。
【0034】
本発明の作用効果が損なわれない限り、基材11は、第1の面の最大突起高さ(Rp)と、第2の面の最大突起高さ(Rp)とが実質的に同一、すなわち表裏同粗度であってもよい。表裏同粗度の基材11を得る方法としては、単層基材形成用フィラー含有樹脂溶融物をシート状に押出し、冷却した後に延伸する方法により、単層の樹脂層からなる基材11を得る方法が挙げられる。単層基材形成用フィラー含有樹脂溶融物に含まれるフィラーの材料、粒径および含有量は、上記の第2のフィラーと同様であることが好ましい。
【0035】
なお、第1の面および第2の面の算術平均粗さ(Ra)や最大突起高さ(Rp)が上記のような好ましい範囲にある基材11を得る方法は、押出成形によるものに限定されず、例えば、シート状材料の表裏に、フィラーを含有するエネルギー線硬化性組成物をキャストし、エネルギー線を照射して硬化する方法や、シート状材料の表裏にフィラーを含有する溶媒系組成物をキャストし、溶媒を乾燥除去してコートする方法などによっても基材11を得ることができる。
【0036】
本実施形態における樹脂層12は、導電性高分子を含有する樹脂組成物からなる。樹脂層12は、導電性高分子を含有することで、帯電防止性を発揮する。本実施形態に係る剥離フィルム1は、かかる樹脂層12を有することで、巻き出し時等における帯電を効果的に抑制することができる。また、剥離剤層13に、シリコーン樹脂系剥離剤等の、重合に金属触媒を用いる剥離剤を用いた場合であっても、重合反応を阻害しにくく、剥離剤の良好な硬化が得られやすい。
【0037】
樹脂層12は、ポリエステル樹脂、ウレタン樹脂およびアクリル樹脂からなる群から選ばれる少なくとも1種を主成分として含有することが好ましい。このような樹脂層12は、基材11および剥離剤層13の両方に対して良好な密着性を示す。具体的には、上記樹脂層12が剥離剤に含まれる有機溶剤に対し適度に膨潤することにより、剥離剤の樹脂成分と樹脂層12の樹脂成分とが界面で混合するので、密着性が向上する。この密着性により、長期に渡る保管においても剥離剤層13の脱落を抑制することができる。
【0038】
上記の樹脂は1種を単独で用いてもよいし、異なる2種を組み合わせて使用してもよい。中でも基材11がポリエステル系の材料からなる場合、剥離剤層13との密着性および上記膨潤性の点から、樹脂層12を構成する主成分として、ポリエステル樹脂およびポリウレタン樹脂を含有することが好ましい。ポリエステル樹脂単体の場合、ポリエステル系の基材11との密着性は十分であるが、比較的脆い樹脂であるため、裁断時に凝集破壊を生じやすく、一方、ポリウレタン樹脂単体では、ポリエステル系の基材11との密着性に劣る。上記のように共重合ポリエステル樹脂およびポリウレタン樹脂を含有することで、これらの問題を解決し、ポリエステル系の基材11に対する密着性に優れるとともに、裁断時にも破壊し難い樹脂層12が得られる。なお、「ポリエステル樹脂およびポリウレタン樹脂を含有する」とは、ポリエステル構造およびポリウレタン構造を一分子中に含む重合体を単体で含むことをも意味する。
【0039】
導電性高分子としては、従来公知の導電性高分子の中から、任意のものを適宜選択して用いることができるが、中でも、ポリチオフェン系、ポリアニリン系またはポリピロール系の導電性高分子が好ましい。
【0040】
ポリチオフェン系の導電性高分子としては、例えば、ポリチオフェン、ポリ(3−アルキルチオフェン)、ポリ(3−チオフェン−β−エタンスルホン酸)、ポリアルキレンジオキシチオフェンとポリスチレンスルホネートとの混合物等が挙げられる。なお、ポリアルキレンジオキシチオフェンとしては、ポリエチレンジオキシチオフェン、ポリプロピレンジオキシチオフェン、ポリ(エチレン/プロピレン)ジオキシチオフェン等が挙げられる。ポリアニリン系の導電性高分子としては、例えば、ポリアニリン、ポリメチルアニリン、ポリメトキシアニリン等が挙げられる。ポリピロール系の導電性高分子としては、例えば、ポリピロール、ポリ3−メチルピロール、ポリ3−オクチルピロール等が挙げられる。これらの導電性高分子化合物は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。なお、これらの導電性高分子は、水中に分散させて水溶液の形態で使用することが好ましい。
【0041】
樹脂層12中における導電性高分子の含有量は、固形分換算で0.1〜50質量%であることが好ましく、特に0.3〜30質量%であることが好ましい。導電性高分子の含有量が0.1質量%未満では、十分な帯電防止性能が得られない場合がある。一方、導電性高分子の含有量が50質量%を超えると、樹脂層12の強度が低下して凝集破壊が生じ易くなり、剥離剤層13の密着性が損なわれる場合がある。
【0042】
樹脂層12の厚さは、30〜290nmであり、30〜250nmであることが好ましい。樹脂層12の厚さが30nm未満であると、基材11の表面への造膜性が不十分となり、はじきに起因するピンホールが発生し易くなる。また、樹脂層12の厚さが290nmを超えると、樹脂層12の凝集破壊が発生し易くなり、剥離剤層13の密着性が損なわれる場合がある。
【0043】
上記樹脂層12を形成するには、基材11の第1の面に、導電性高分子を含有する樹脂組成物の塗布剤を塗布した後、乾燥すればよい。なお、塗布方法としては、例えば、グラビアコート法、バーコート法、スプレーコート法、スピンコート法、ナイフコート法、ロールコート法、ダイコート法などが使用できる。樹脂組成物の塗布剤は、当該樹脂組成物の各成分を溶解または分散させることのできる溶媒を含有してもよい。かかる溶媒としては、好ましくは、エーテル系溶媒、アルコール系溶媒、アルコール系溶媒と精製水との混合溶媒等が使用される。
【0044】
剥離剤層13を構成する剥離剤としては、例えば、シリコーン樹脂系剥離剤の他、アルキド樹脂系、オレフィン樹脂系、アクリル系、長鎖アルキル基含有化合物系、ゴム系等の非シリコーン樹脂系剥離剤が挙げられる。
【0045】
シリコーン樹脂系剥離剤としては、溶剤型および無溶剤型のものがある。溶剤型シリコーン樹脂は、溶剤希釈して塗工液とするため、高分子量・高粘度のポリマーから低粘度の低分子量ポリマー(オリゴマー)まで、幅広く使用することができる。そのため、無溶剤型と比較して、剥離性の制御が容易であり、要求される性能(品質)に合わせた設計がし易い。また、シリコーン樹脂系剥離剤としては、付加反応型、縮合反応型、紫外線硬化型、電子線硬化型等のものがある。付加反応型シリコーン樹脂は、反応性が高く生産性に優れ、縮合反応型と比較すると、製造後の剥離力の変化が小さい、硬化収縮が無い等のメリットがあるため、剥離剤層13を構成する剥離剤として使用することが好ましい。
【0046】
付加反応型シリコーン樹脂としては、特に制限はなく、様々なものを用いることができる。例えば、従来の熱硬化付加反応型シリコーン樹脂剥離剤として慣用されているものを用いることができる。この付加反応型シリコーン樹脂としては、例えば、分子中に官能基として、ビニル基等のアルケニル基、ヒドロシリル基などの求電子性基を有するものが、熱硬化が容易な付加反応型シリコーン樹脂として挙げられ、このような官能基を有するポリジメチルシロキサンや、ポリジメチルシロキサンのメチル基の一部または全部をフェニル基等の芳香族官能基に置換したものなどを用いることができる。
【0047】
このシリコーン樹脂系剥離剤には、必要に応じて、シリカ、シリコーンレジン、帯電防止剤、染料、顔料その他の添加剤を添加してもよい。
【0048】
塗工した剥離剤の塗膜を硬化させるには、塗工機のオーブンで加熱処理するか、加熱処理した後に紫外線照射を併用するか、いずれでもよいが、後者の方が基材フィルムの熱収縮しわの発生防止、シリコーンの硬化性、基材フィルムへの剥離剤の密着性の点で好ましい。
【0049】
なお、塗膜の硬化に紫外線照射を併用する場合は、剥離剤に光開始剤を添加することが望ましい。光開始剤としては特に制限は無く、紫外線や電子線の照射によりラジカルを発生するもので慣用されているものの中から、任意のものを適宜選択して用いることができる。この光開始剤としては、例えばベンゾイン類、ベンゾフェノン類、アセトフェノン類、α−ヒドロキシケトン類、α−アミノケン類、α−ジケトン、α−ジケトンジアルキルアセタール類、アントラキノン類、チオキサントン類等が挙げられる。
【0050】
アルキド樹脂系剥離剤としては、一般に架橋構造を有するアルキド樹脂が用いられる。架橋構造を有するアルキド樹脂層の形成は、例えばアルキド樹脂、架橋剤および所望により硬化触媒を含む熱硬化性樹脂組成物からなる層を加熱硬化させる方法を用いることができる。また、アルキド系樹脂は、長鎖アルキル変性アルキド樹脂、シリコーン変性アルキド樹脂等の変性物であってもよい。
【0051】
オレフィン樹脂系剥離剤としては、結晶性オレフィン系樹脂が用いられる。この結晶性オレフィン系樹脂としては、ポリエチレンや結晶性ポリプロピレン系樹脂などが好適である。ポリエチレンとしては、高密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレンなどが挙げられる。結晶性ポリプロピレン系樹脂としては、アイソタクチック構造又はシンジオタクチック構造を有するプロピレン単独重合体や、プロピレン−α−オレフィン共重合体などが挙げられる。これらの結晶性オレフィン系樹脂は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0052】
アクリル系剥離剤としては、一般に架橋構造を有するアクリル系樹脂が用いられる。アクリル系樹脂は、長鎖アルキル変性アクリル樹脂、シリコーン変性アクリル樹脂等の変性物であってもよい。
【0053】
長鎖アルキル基含有化合物系剥離剤としては、例えば、ポリビニルアルコール系重合体に炭素数8〜30の長鎖アルキルイソシアネートを反応させて得られたポリビニルカーバメートや、ポリエチレンイミンに炭素数8〜30の長鎖アルキルイソシアネートを反応させて得られたアルキル尿素誘導体などが用いられる。
【0054】
ゴム系剥離剤としては、例えば、天然ゴム系樹脂、およびブタジエンゴム、イソプレンゴム、スチレン−ブタジエンゴム、メチルメタクリレート−ブタジエンゴム、アクリロニトリル−ブタジエンゴム等の合成ゴム系樹脂などが用いられる。
【0055】
剥離剤層13の厚さは、特に限定されないが、0.01〜1μmであることが好ましく、0.03〜0.5μmであることがより好ましい。剥離剤層13の厚さが0.01μm未満であると、剥離剤層11を構成する材料等によっては、剥離剤層としての機能が十分に発揮されない場合がある。一方、剥離剤層13の厚さが1μmを超えると、剥離フィルム1をロール状に巻き取った際に、基材の第2の面とブロッキングが発生し易いために、巻き取り不良が生じたり、巻き出し時の帯電性が高くなる等の問題が起こる場合がある。
【0056】
剥離剤層13は、基材11の第1の面に、剥離剤および所望により硬化剤、希釈剤等からなる剥離剤溶液を塗布した後、乾燥し、硬化させることにより形成することができる。なお、塗布方法としては、例えば、グラビアコート法、バーコート法、スプレーコート法、スピンコート法、ナイフコート法、ロールコート法、ダイコート法などが使用できる。
【0057】
剥離剤層13の表面における最大突起高さ(Rp)は、10〜100nmであり、好ましくは20〜50μmである。剥離剤層13の表面における最大突起高さ(Rp)をこの範囲とすることで、剥離剤層13の表面を高平滑なものにすることができ、厚さ1μm以下の薄膜セラミックグリーンシートを当該剥離剤層13の表面に成型したときにも、薄膜セラミックグリーンシートにはピンホールまたは厚みの不均一な部分が発生しにくく、良好なシート成型性が示される。
【0058】
前述した通り、本実施形態に係る剥離シート1においては、基材11および剥離剤層13に対して密着性を有する樹脂層12の存在により剥離剤層13の脱落を抑制することができるが、具体的には、
剥離剤層13に対する日東電工社製ポリエステル粘着テープNo.31Bの180°剥離力(mN/20mm)を剥離力X、
剥離剤層13の表面を、学振式摩擦堅牢試験機を用いて、基材11の第2の面を研磨片として加重1kg、往復10回の条件にて研磨し、当該研磨面に対する日東電工社製ポリエステル粘着テープNo.31Bの180°剥離力(mN/20mm)を剥離力Yとしたときに、
(剥離力X/剥離力Y)×100%
の式で表わされる剥離剤層保持率が、85%以上であることが好ましく、特に90%以上であることが好ましい。
【0059】
剥離剤層保持率が上記の範囲であれば、セラミックグリーンシート製造する際の巻き出し時、裁断時、スラリー塗工工程中の搬送時等において、剥離剤層13は剥離フィルム1から脱落し難いものとなる。これにより、剥離剤層13の脱落による異物の発生がなく、当該異物に起因する打痕などの、セラミックスラリー塗工不良を防止することができる。特に、剥離剤層保持率が低いと、剥離フィルム1を通常の条件で保管した場合にはスラリー塗工に問題がなくても、温度および/または湿度がより高いといった悪条件で保管した場合に、上記スラリー塗工工程中の搬送時等において剥離剤層13の脱落が生じてしまうことがある。剥離剤層保持率が上記範囲にあると、悪条件で剥離フィルム1を保管した場合であっても、上記スラリー塗工工程中の搬送時等における剥離剤層13の脱落が生じにくい。
【0060】
また、本実施形態に係る剥離シート1は、導電性高分子を含有する樹脂層12によって帯電防止性を発揮する。その性能としては、具体的には、ロール状に巻き取った幅400mm、長さ5000mの剥離フィルム1を100m/分で巻き出した直後における剥離剤層13の表面の帯電量(巻き出し帯電量)が、10kV以下であることが好ましく、特に8kV未満であることが好ましい。
【0061】
剥離剤層13の巻き出し帯電量が上記の範囲であれば、好ましい帯電防止性が得られる。これにより、巻き出した際の帯電によって剥離剤層13の表面に異物が付着し、当該剥離剤層13上に塗工されるセラミックスラリーの膜にピンホールが発生する等の欠陥を防止することができる。また、帯電によって、塗工されるセラミックスラリーに揺らぎやハジキが生じることを防止し、均一なセラミックグリーンシートを成型することができる。さらには、剥離剤層13上に成型されたセラミックグリーンシートを剥離フィルム1から剥離する工程においても、帯電による剥離不良を防止して、セラミックグリーンシートを破ったりすることなく、正常に剥離することが可能となる。
【0062】
剥離シート1の帯電防止性を考慮して、剥離剤層13の表面抵抗率は、1×10〜1×1012Ω/□であることが好ましく、特に1×10〜1×1010Ω/□であることが好ましい。表面抵抗率がこのような範囲にあることで、剥離剤層13の巻き出し帯電量を上記の好ましい範囲に調整しやすい。また、表面抵抗率がこのような範囲にあり、かつ基材11の第2の面における算術平均粗さ(Ra)および最大突起高さ(Rp)が上述した好ましい範囲にある場合には、剥離剤層13の巻き出し帯電量を上記の好ましい範囲に調整することがさらに容易となる。
【0063】
以上説明した実施形態は、本発明の理解を容易にするために記載されたものであって、本発明を限定するために記載されたものではない。したがって、上記実施形態に開示された各要素は、本発明の技術的範囲に属する全ての設計変更や均等物をも含む趣旨である。
【0064】
例えば、基材1と樹脂層12との間や、樹脂層12と剥離剤層13との間には、他の層が介在していてもよい。
【実施例】
【0065】
以下、実施例等により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明の範囲はこれらの実施例等に限定されるものではない。
【0066】
〔実施例1〕
(1)基材の作製
テレフタル酸86質量部およびエチレングリコール70質量部を反応器に取り、約250℃で4時間エステル交換反応を行った。次いで、三酸化アンチモン0.03質量部、リン酸0.01質量部、および平均粒径0.1μmの酸化アルミニウム粒子0.3質量部を加え、250℃から285℃まで徐々に昇温すると共に、圧力を徐々に減じて0.5mmHgとした。4時間後、重合反応を停止し、極限粘度0.65dl/gのポリエチレンテレフタレートA(第1の面を形成するためのフィラー含有樹脂)を得た。
【0067】
一方、平均粒径0.1μmの酸化アルミニウム粒子の替わりに、平均粒径0.5μmの炭酸カルシウム粒子1質量部を用いる以外は、ポリエチレンテレフタレートAと同様にして、極限粘度0.63dl/gのポリエチレンテレフタレートB(第2の面を形成するためのフィラー含有樹脂)を製造した。
【0068】
得られたポリエチレンテレフタレートAおよびBを、180℃で4時間、不活性ガス中で乾燥させた。A層/B層の2層構造とするために、ポリエチレンテレフタレートAを一軸押出機に供給して290℃の温度で溶融させ、ポリエチレンテレフタレートBを別の一軸押出機に供給して290℃の温度で溶融させた。次いで、それぞれ瀘過フイルターを経た後に、2層成形口金にて、A層/B層となるように口金内で合流させてシート状に押出し、表面温度40℃に設定した冷却ロール上で冷却固化させて未延伸シートを得た。得られたシートを100℃で縦方向に3.5倍延伸し、そしてテンターにて100℃で横方向に3.5倍延伸した。その後、230℃にて熱固定を行い、厚さ38μmの表裏異粗度のポリエステルフィルムを得、これを基材とした。この基材では、延伸されたA層の表面が第1の面であり、延伸されたB層の表面が第2の面である。得られた基材の第1の面の最大突起高さ(Rp)は36nm、第2の面の算術平均粗さ(Ra)は12nm、最大突起高さ(Rp)は84nmであった。
【0069】
(2)樹脂層の形成
次に、共重合ポリエステルおよびポリウレタンを含む混合樹脂エマルションに、導電性高分子であるポリエチレンジオキシチオフェン(PEDOT)およびポリスチレンスルホネート(PSS)が合計で0.1〜1.0質量%混合された樹脂組成物(中京油脂社製,P−973,固形分10質量%)を、イソプロピルアルコールおよび精製水の混合液(混合比率1:1)にて固形分1.0質量%に希釈して、これを樹脂塗工液とした。この樹脂塗工液を、乾燥後の厚さが50nmとなるように上記基材の第1の面に均一に塗工し、120℃で1分間乾燥させて、樹脂層を形成した。
【0070】
(3)剥離剤層の形成
次いで、熱硬化付加反応型シリコーン(信越化学工業社製,KS−847H)100質量部をトルエンで希釈し、これに白金触媒(信越化学工業社製,CAT−PL−50T)2質量部を混合し、固形分が1.5質量%の塗工液を調製した。この塗工液を、乾燥後の厚さが100nmとなるように上記樹脂層の表面に均一に塗工し、140℃で1分間乾燥させて剥離剤層を形成し、これを剥離フィルムとした。
【0071】
〔実施例2〕
樹脂層の厚さを100nmとした以外は、実施例1と同様にして剥離フィルムを作製した。
【0072】
〔実施例3〕
樹脂層の厚さを200nmとした以外は、実施例1と同様にして剥離フィルムを作製した。
【0073】
〔実施例4〕
平均粒径0.1μmの酸化アルミニウム粒子の替わりに、平均粒径0.3μmの炭酸カルシウム1質量部を用いる以外は、実施例1のポリエチレンテレフタレートAと同様にして、極限粘度0.64dl/gのポリエチレンテレフタレートC(単層の樹脂層からなる基材を形成するためのフィラー含有樹脂)を製造した。得られたポリエチレンテレフタレートCを180℃で4時間、不活性ガス中で乾燥させ、一軸押出機に供給して290℃の温度で溶融させた。次いで、瀘過フイルターを経た後に、口金からシート状に押出して、表面温度40℃に設定した冷却ロール上で冷却固化させて未延伸シートを得た。得られたシートを100℃で縦方向に3.5倍に延伸し、そしてテンターにて100℃で横方向に3.5倍延伸した。その後、230℃にて熱固定を行い、厚さ38μmの表裏同粗度のポリエステルフィルムを得、これを基材とした。この基材では、基材の一方の面が第1の面であり、他方の面が第2の面である。得られた基材の第1の面の最大突起高さ(Rp)は44nm、第2の面の算術平均粗さ(Ra)は9nm、最大突起高さ(Rp)は47nmであった。この基材を使用する以外は、実施例1と同様にして剥離フィルムを作製した。
【0074】
〔比較例1〕
樹脂層の厚さを20nmとした以外は、実施例1と同様にして剥離フィルムを作製した。
【0075】
〔比較例2〕
樹脂層の厚さを300nmとした以外は、実施例1と同様にして剥離フィルムを作製した。
【0076】
〔比較例3〕
樹脂層を形成しなかった以外は、実施例1と同様にして剥離フィルムを作製した。
【0077】
〔比較例4〕
平均粒径0.1μmの酸化アルミニウム粒子の替わりに、平均粒径1.5μmの二酸化ケイ素1質量部を用いる以外は、実施例1のポリエチレンテレフタレートAと同様にして、極限粘度0.62dl/gのポリエチレンテレフタレートDを製造した。このポリエチレンテレフタレートDをポリエチレンテレフタレートCの替わりに用いた以外は、実施例4と同様にして、厚さ38μmの表裏同粗度のポリエステルフィルムを得、これを基材とした。得られた基材の第1の面の最大突起高さ(Rp)は527nm、第2の面の算術平均粗さ(Ra)は36nm、最大突起高さ(Rp)は532nmであった。この基材を使用する以外は、実施例1と同様にして剥離フィルムを作製した。
【0078】
〔比較例5〕
基材として、比較例4で得られたポリエステルフィルムを使用し、かつ樹脂層を形成しなかった以外は、実施例1と同様にして剥離フィルムを作製した。
【0079】
〔比較例6〕
基材として、実施例1で得られたポリエステルフィルムを使用した。そのポリエステルフィルムの第1の面に、テトラエトキシシランの部分加水分解物(コルコート社製,コルコートN−103X)をイソプロピルアルコールにて固形分1.5質量%に希釈した塗工液を、乾燥後の厚さが100nmとなるように均一に塗工し、120℃で1分間乾燥させて、帯電防止層を形成した。そして、この帯電防止層上に実施例1と同様にして剥離剤層を形成し、これを剥離フィルムとした。
【0080】
〔比較例7〕
基材として、第1の面にアルキルアンモニウム塩からなる帯電防止層(厚さ:20nm)が設けられたPETフィルム(三菱樹脂社製,ダイアホイルT100G)を用意した。このPETフィルムは、帯電防止層の表面の最大突起高さ(Rp)が502nm、第2の面の算術平均粗さ(Ra)が36nm、最大突起高さ(Rp)が522nm、厚さ(帯電防止層を含む)が38μmであった。そして、この帯電防止層上に実施例1と同様にして剥離剤層を形成し、これを剥離フィルムとした。
【0081】
〔試験例1〕(表面粗さ測定)
表面粗さ測定機(株式会社ミツトヨ製,サーフテストSV−3000S4)を使用し、JIS B0601:2001に準拠して、実施例および比較例で使用した基材の第1の面および第2の面、ならびに実施例および比較例で得られた剥離フィルムにおける剥離剤層の表面の算術平均粗さ(Ra)および/または最大突起高さ(Rp)を測定した。結果を表1に示す。
【0082】
〔試験例2〕(表面抵抗率測定)
実施例および比較例で得られた剥離フィルムを100mm×100mmに裁断し、これをサンプルとした。サンプルを23℃、湿度50%の条件下で24時間調湿した後、アドバンテスト社製「R12704レジスティビティチャンバ」およびアドバンテスト社製「デジタルエレクトロメータR8252」を使用し、JIS K6911(1995)に準拠して、剥離剤層側の表面の抵抗率を測定した。結果を表2に示す。
【0083】
〔試験例3〕(剥離剤層保持率測定)
実施例および比較例で得られた剥離フィルムを60℃、湿度90%の環境下にて72時間保管した。その後、剥離フィルムの剥離剤層の表面の一部を、学振式摩擦堅牢試験機を用いて、実施例および比較例で得られた剥離フィルムに用いたのと各々同じ基材(ポリエステルフィルム)の第2の面を研磨片として加重1kg、往復10回の条件にて研磨した。次いで、剥離剤層の研磨部分と非研磨部分とに、ポリエステル粘着テープ(日東電工社製,No.31B,厚さ50μm,幅20mm)を2kgのローラ1往復にて貼合し、これをサンプルとした。
【0084】
得られたサンプルを、23℃、湿度50%の条件下で24時間養生した後、幅40mm、長さ150mmに裁断し、引張試験機にて剥離角度180°、剥離速度300m/分でポリエステル粘着テープ側を剥離することで剥離力を測定した。非研磨部分の剥離力を剥離力X、研磨部分の剥離力を剥離力Yとしたときに、下記式
剥離剤層保持率=(剥離力X/剥離力Y)×100%
によって、剥離剤層保持率(%)を算出した。結果を表2に示す。
【0085】
〔試験例4〕(ブロッキング性評価)
実施例および比較例で得られた剥離フィルムを、幅400mm、長さ5000mのロール状に巻き上げた。この剥離フィルムロールを40℃、湿度50%以下の環境下に30日間保管し、剥離フィルムロールの外観を目視にて観察した。ロール状に巻き上げたときから変化がなかったものをブロッキング無し(○)、半分以下の領域の色目が異なった場合をブロッキング若干有り(△)、過半の領域にわたって色目が異なった場合をブロッキング有り(×)とした。結果を表2に示す。
【0086】
〔試験例5〕(巻き出し帯電量測定)
実施例および比較例で得られた剥離フィルムを、幅400mm、長さ5000mのロール状に巻き上げた。この剥離フィルムロールを、裁断機にて100m/分で巻き出し、春日電機社製「防爆型静電気電位測定器 KSD−0108」を使用して、巻き出し直後の剥離剤層表面の帯電量(巻き出し帯電量)を測定した。8kV未満を「A」、8以上12kV未満を「B」、12kV以上を「C」とした。結果を表2に示す。
【0087】
〔試験例6〕(スラリー塗工性評価)
チタン酸バリウム粉末(BaTiO;堺化学工業社製,BT−03)100質量部、バインダーとしてのポリビニルブチラール(積水化学工業社製,エスレックB・K BM−2)8質量部、および可塑剤としてのフタル酸ジオクチル(関東化学社製,フタル酸ジオクチル 鹿1級)4質量部に、トルエンおよびエタノールの混合液(質量比6:4)135質量部を加え、ボールミルにて混合分散させて、セラミックスラリーを調製した。
【0088】
実施例および比較例で得られた剥離フィルムの剥離剤層表面に、上記セラミックスラリーをダイコーターにて乾燥後の膜厚が1μmになるように、幅250mm、長さ10m塗工し、その後、乾燥機にて80℃で1分間乾燥させた。セラミックグリーンシートが成型された剥離フィルムについて、剥離フィルム側から蛍光灯を照らして、セラミックグリーンシート面を目視で検査した。その結果、セラミックグリーンシートにピンホールがなかったものを「A」、1〜5個のピンホールが発生したものを「B」、6個以上のピンホールが発生したものを「C」とした。結果を表2に示す。
【0089】
【表1】

【0090】
【表2】

【0091】
表1および表2から明らかなように、実施例で得られた剥離フィルムは、好ましい表面抵抗率を有するとともに、巻き出し帯電量も低かった。また、剥離剤層保持率が高く、ブロッキングもなく、さらには成型したセラミックグリーンシートにはピンホールの発生もなかった。
【産業上の利用可能性】
【0092】
本発明の剥離フィルムは、厚さ1μm以下の薄膜セラミックグリーンシートを成型するのに好適である。
【符号の説明】
【0093】
1…剥離フィルム
11…基材
12…樹脂層
13…剥離剤層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と、
前記基材の第1の面上に積層され、導電性高分子を含有し、厚さが30〜290nmである樹脂層と、
前記樹脂層上に積層された剥離剤層と
を備え、
前記剥離剤層の表面における最大突起高さ(Rp)が10〜100nmである
ことを特徴とするセラミックグリーンシート製造工程用の剥離フィルム。
【請求項2】
前記基材の第2の面における算術平均粗さ(Ra)が5〜50nmであり、最大突起高さ(Rp)が40〜300nmであることを特徴とする請求項1に記載の剥離フィルム。
【請求項3】
前記樹脂層は、ポリエステル樹脂、ウレタン樹脂およびアクリル樹脂からなる群から選ばれる少なくとも1種を含有することを特徴とする請求項1または2に記載の剥離フィルム。
【請求項4】
前記樹脂層は、前記導電性高分子として、ポリチオフェン系導電性高分子、ポリアニリン系導電性高分子およびポリピロール系導電性高分子からなる群から選ばれる少なくとも1種を含有することを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の剥離フィルム。
【請求項5】
前記剥離剤層は、付加反応型シリコーン樹脂を主成分とする剥離剤から構成されることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の剥離フィルム。
【請求項6】
前記剥離剤層に対する日東電工社製ポリエステル粘着テープNo.31Bの180°剥離力(mN/20mm)を剥離力X、
前記剥離剤層の表面を、学振式摩擦堅牢試験機を用いて、前記基材の第2の面を研磨片として加重1kg、往復10回の条件にて研磨し、当該研磨面に対する日東電工社製ポリエステル粘着テープNo.31Bの180°剥離力(mN/20mm)を剥離力Yとしたときに、
(剥離力X/剥離力Y)×100%
の式で表わされる剥離剤層保持率が、85%以上であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載の剥離フィルム。
【請求項7】
ロール状に巻き取った幅400mm、長さ5000mの前記剥離フィルムを100m/分で巻き出した直後における前記剥離剤層の表面の帯電量が、10kV以下であることを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項に記載の剥離フィルム。

【図1】
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【公開番号】特開2012−224011(P2012−224011A)
【公開日】平成24年11月15日(2012.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−94755(P2011−94755)
【出願日】平成23年4月21日(2011.4.21)
【出願人】(000102980)リンテック株式会社 (1,750)
【Fターム(参考)】