説明

セラミックスラリー、グリーンシートおよび電子部品の製造方法

【課題】セラミックスラリーにおいて、樹脂未溶解物の生成を抑え、セラミック粉末を効果的に分散でき、しかも、シート特性(平滑性、シート強度)に優れたグリーンシートを得ることができるセラミックスラリーの製造方法と、該製造方法により得られるセラミックスラリーを用いるグリーンシートの製造方法、および該グリーンシートを用いた電子部品の製造方法を提供することである。
【解決手段】少なくとも、バインダ樹脂と、第1溶剤とを含み、セラミック粉末を実質的に含まない第1被処理液を旋回流による分散処理により第1の分散処理工程と、少なくとも、セラミック粉末と、第2溶剤とを含む第2被処理液を分散する第2の分散処理工程と、前記第1の分散工程で得られた第1分散溶液と、前記第2の分散工程で得られた第2分散溶液とを混合し、媒体型分散による分散処理、または旋回流による分散処理により分散する第3の分散工程とを有する製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セラミックスラリーの製造方法と、該製造方法により得られるセラミックスラリーを用いるグリーンシートの製造方法、および該製造方法により得られるグリーンシートを用いる電子部品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子機器の小型化により、積層セラミックコンデンサなどの積層型電子部品の小型化・高性能化が進んでいる。ここで、積層型電子部品の小型化・高性能化には積層数の増加および薄層化が必要となる。
【0003】
積層型電子部品の一種である積層セラミックコンデンサにおいては、積層数の増加および薄層化に伴い、誘電体層を形成するグリーンシートも薄層化してきている。グリーンシートが薄くなると、シート特性(表面平滑性、シート強度等)が低下する傾向があり、最終的に得られる積層セラミックコンデンサにおいてショート不良等の特性不良が多発する。
【0004】
そのため、グリーンシートの薄層化に伴い、シート特性(表面平滑性、シート強度等)に優れたグリーンシートを作製する技術が積層セラミックコンデンサの製造に不可欠である。
【0005】
特許文献1には、バインダを溶媒に均一に溶解させてバインダ液を製造し、次いで、上記バインダ液に可塑剤を添加・混合してバインダ可塑剤混合溶液を製造し、その後、上記バインダ可塑剤混合溶液と、上記セラミックススラリーを混合する方法によりグリーンシート用セラミックススラリーの製造方法が提案されている。
【0006】
しかし、グリーンシートの薄層化に伴い、バインダ樹脂を溶剤に溶解させる工程を撹拌機による撹拌・混合処理とした場合では、最終的に得られるセラミックスラリーにおいて樹脂未溶解物が発生する等の問題があることが、本発明者等により見出された。
【0007】
特に、グリーンシートを薄層化するにあたり、シート強度を確保するための一つの対策として、高重合度のバインダ樹脂を用いることが考えられるが、このような場合に特に、樹脂未溶解物の問題が顕著であった。その結果、得られたグリーンシートにピンホールが発生したり、シート特性(表面平滑性、シート強度等)が低下する等の悪影響を及ぼすことがあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平8−26832号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明はこのような実状に鑑みてなされ、グリーンシートを薄層化した場合であっても、ピンホールが発生せず、シート特性(表面平滑性、シート強度等)に優れたグリーンシートを得ることができるセラミックスラリーの製造方法、およびグリーンシートの製造方法と、ショート不良が少ない電子部品の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、本発明に係るセラミックスラリーの製造方法は、
少なくともバインダ樹脂と第1溶剤とを含み、セラミック粉末を実質的に含まない第1被処理液を分散する第1の分散処理工程と、
少なくともセラミック粉末と第2溶剤とを含む第2被処理液を分散する第2の分散処理工程と、
前記第1の分散工程で得られた第1分散溶液と、前記第2の分散工程で得られた第2分散溶液とを混合して、分散する第3の分散工程とを有する製造方法であって、
前記第1の分散処理は、旋回流による分散処理であり、
前記第3の分散処理は、媒体型分散による分散処理、または旋回流による分散処理であることを特徴とするセラミックスラリーの製造方法である。
【0011】
本発明に係るセラミックスラリーの製造方法では、まず、セラミック粉末を含まない樹脂溶液(第1被処理液)に対して旋回流による第1の分散処理を施す。第1の分散処理工程により十分に樹脂が溶解した第1分散溶液は、次に、セラミック粉末を含む第2分散溶液に混合され、再度分散処理を施される。このような処理を施すことで、樹脂未溶解物が少なく、分散性に優れたセラミックスラリーを得ることができることが本発明者等の実験により確認された。なお、第1の分散処理(旋回流による分散処理)を施さない場合、あるいは他の分散方法によって第1の分散処理を施した場合には、このような優れたセラミックスラリーを得ることができないことが確認された。
【0012】
本発明に係るセラミックスラリーでは、樹脂未溶解物が少なく、セラミックスラリーとしての分散性にも優れていることから、薄層化したグリーンシートを形成した際にも、ピンホールがなく、シート特性(表面平滑性、シート強度等)に優れたグリーンシートを得ることができる。その結果、最終的に得られる積層電子部品のショート不良率が低下する。
【0013】
好ましくは、前記第3の分散処理は、旋回流による分散処理である。
【0014】
好ましくは、前記第2の分散処理は、媒体型分散による分散処理である。
【0015】
好ましくは、前記第1の分散処理における旋回流によるせん断速度は15000(1/s)以上、さらに好ましくは25000〜100000(1/s)である。
【0016】
好ましくは、前記第1の分散処理において、分散部での滞留時間は0.2分以上、さらに好ましくは0.2〜1分である。
【0017】
本発明において滞留時間は、次式(1)によって定義される。
滞留時間 =V2/V1×T ・・・(1)
【0018】
なお、上記数式(1)において、
V1 : 分散機における分散部の容積(cm)、
V2 : 分散機における処理槽の有効容積(cm)、
T : 実際の分散処理時間(分)である。
【0019】
また、上記課題を解決するために、本発明に係るグリーンシートの製造方法は、
前記製造方法により得られたセラミックスラリーを塗工し、乾燥する工程を有するグリーンシートの製造方法である。
【0020】
好ましくは、前記乾燥後のグリーンシートの厚みが2μm以下、さら好ましくは1μm以下である。グリーンシートの膜厚がそれぞれ厚い場合には、セラミックスラリー中の樹脂未溶解物や分散性の影響は小さく、ショート不良率も少ない。しかしながら、グリーンシートの膜厚が薄くなるにつれて、セラミックスラリーの特性(バインダ樹脂およびセラミック粉末の分散性等)の影響が大きくなる。しかしながら、本発明によれば、グリーンシートの膜厚が薄い場合においても、ピンホールがなく、シート特性(表面平滑性、シート強度等)に優れたグリーンシートを得ることができる。
【0021】
さらに、上記課題を解決するために、本発明に係る電子部品の製造方法は、
前記製造方法により得られたグリーンシートと、内部電極パターン層とを積層しグリーンチップを得る工程と、
前記グリーンチップを焼成する工程と、を有する電子部品の製造方法である。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、セラミックスラリーにおいて、樹脂未溶解成分を低減し、セラミックスラリーに含まれるセラミック粉末を効果的に分散することができる。しかも、本発明によれば、薄層化した場合であっても、ピンホールの発生がなく、シート特性(表面平滑性、シート強度など)に優れたグリーンシートを得ることができる。さらに、これにより積層電子部品(特にセラミックコンデンサ)におけるショート不良を低減させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】図1は本発明の一実施形態に係る積層セラミックコンデンサの断面図である。
【図2】図2は本発明の一実施形態に係るセラミックスラリーの製造方法を示す工程図である。
【図3】図3(a)は本発明の一実施形態に係るセラミックスラリーの製造方法において、第1の分散工程において用いる分散機の概略正面図である。また、図3(b)は、図3(a)における分散部の拡大した概略正面図である。
【図4】図4(a)は高圧分散に係る分散機の概略正面図である。また、図4(b)は撹拌機の概略正面図である。
【図5a】図5aは、図1に示す積層セラミックコンデンサの製造過程を示す工程概略図である。
【図5b】図5bは、図5aの続きの工程を示す工程概略図である。
【図5c】図5cは、図5bの続きの工程を示す工程概略図である。
【図6】図6は、本発明の一実施形態に係るグリーンシートの評価方法の説明図
【図7】図7は本発明の実施例の効果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明の一実施形態に係る製造方法により製造される電子部品は特に限定されず、積層セラミックコンデンサ、積層チップバリスタ、積層サーミスタなどが挙げられる。本実施形態では積層セラミックコンデンサについて例示する。
【0025】
積層セラミックコンデンサの全体構成
図1に示すように、本発明の一実施形態に係る積層セラミックコンデンサ2は、誘電体層10と内部電極層12とが交互に積層された構成のコンデンサ素子本体4を有する。このコンデンサ素子本体4の両側端部には、コンデンサ素子本体4の内部で交互に配置された内部電極層12と各々導通する一対の外部電極6,8が形成してある。
【0026】
内部電極層12は、各側端面がコンデンサ素子本体4の対向する両端部の表面に交互に露出するように積層してある。一対の外部電極6,8は、コンデンサ素子本体4の両端部に形成され、交互に配置された内部電極層12の露出端面に接続されて、コンデンサ回路を構成する。
【0027】
積層セラミックコンデンサ2の形状やサイズは、目的や用途に応じて適宜決定すればよい。積層セラミックコンデンサ2が直方体形状の場合は、通常、縦(0.4〜5.6mm、好ましくは0.4〜3.2mm)×横(0.2〜5.0mm、好ましくは0.2〜1.6mm)×厚み(0.1〜1.9mm、好ましくは0.3〜1.6mm)程度である。
【0028】
前記コンデンサ素子本体は、たとえばグリーンシートと所定パターンの内部電極パターン層から構成されるグリーンチップを同時焼成して製造される。以下では、本実施形態に係る積層セラミックコンデンサ2の製造方法の一例を説明する。
【0029】
グリーンシートの製造方法
まず、焼成後に図1に示す誘電体層10を構成することになるグリーンシートを製造するために、セラミックスラリー(グリーンシート用塗料)を準備する。図1の誘電体層10は、図5a〜cに示す工程で製造される。
【0030】
まず、セラミック粉末と、バインダ樹脂と、溶剤と、必要に応じて可塑剤と、分散剤と、帯電防止剤等を分散混合してセラミックスラリーを得る。なお、セラミックスラリーの製造方法(図2に示す工程)は後述する。
【0031】
セラミック粉末としては、特に限定されず、複合酸化物や酸化物となる各種化合物、たとえば炭酸塩、硝酸塩、水酸化物、有機金属化合物などから適宜選択され、混合して用いることができる。セラミック粉末は、通常、平均粒子径が0.3μm以下、好ましくは0.2μm以下の粉末として用いられる。なお、きわめて薄いグリーンシートを形成するためには、グリーンシート厚みよりも細かい粉末を使用することが望ましい。
【0032】
セラミック粉末は、セラミックスラリー100重量部に対して、10〜60重量部、好ましくは、15〜45重量部で含まれる。
【0033】
バインダ樹脂はとしては、特に限定されず、ブチラール系樹脂、アクリル樹脂、エチルセルロース樹脂などが用いられるが、本実施形態では、シートの薄層化を目指すために、ブチラール系樹脂が用いられる。なお、本発明において、ブチラール系樹脂とは、ポリビニルブチラールおよびポリビニルアセタールを含む概念で用いる。
【0034】
ブチラール系樹脂としては、特に限定されないが、重合度は、好ましくは500〜2500、より好ましくは、800〜1700である。
【0035】
バインダ樹脂は、セラミック粉末100重量部に対して、好ましくは、1〜50重量部、より好ましくは5〜30重量部である。
【0036】
溶剤としては、特に限定されないが、利用する方法に応じて、メタノール、エタノール、プロパノールなどに代表されるアルコール系溶剤や、アセトン、メチルエチルケトン(MEK)に代表されるケトン系溶剤や、トルエン、キシレン、エチルベンゼンなどに代表される芳香族系溶剤や、n−ヘキサン、n−ヘプタンに代表される脂肪族系溶剤や、この他、テルピネオール、ブチルカルビトール等の各種有機溶剤から適宜選択すればよい。
【0037】
また、溶剤は、セラミックスラリー100重量部に対して、好ましくは40〜80重量部、より好ましくは60〜70重量部である。
【0038】
セラミックスラリーには、必要に応じて各種分散剤、可塑剤、誘電体、ガラスフリット、絶縁体、帯電除剤などから選択される添加物が含有されても良い。ただし、これら添加物の総含有量は、セラミックスラリー100重量部に対して、10重量部以下とすることが好ましい。
【0039】
可塑剤としては、特に限定されないが、フタル酸ジオクチル(DOP)やフタル酸ベンジルブチルなどのフタル酸エステル、アジピン酸、燐酸エステル、グリコール類などが例示される。可塑剤は、バインダ樹脂100重量部に対して、10〜50重量部の含有量であることが好ましい。
【0040】
また、分散剤としては、特に限定されないが、マレイン酸系分散剤、ポリエチレングリコール系分散剤および/またはアリルエーテルコポリマー分散剤が例示される。
【0041】
また、帯電防止剤としては、特に限定されないが、イミダゾリン系帯電防止剤であることが好ましい。
【0042】
セラミックスラリーは、図5aに示すように、PET等の支持フィルム20上にシート状に成形され、グリーンシート10aとなる。グリーンシート10aは、焼成後に図1に示す誘電体層10となる部分である。
【0043】
グリーンシートの形成方法は、所望の厚みが塗布できれば、塗布方法は限定されないが、セラミックスラリーの製造方法は、薄膜グリーンシート作製のための手段であるため、薄膜(2μm以下)に適した塗布方法が好ましい。
【0044】
塗布後グリーンシートは乾燥されるが、乾燥も薄膜に適した乾燥方法が好ましく、雰囲気乾燥、AFD、遠赤外線などを組み合わせて使用する。特に乾燥炉前半は緩やかな乾燥に対応できるような方法が好ましい。
【0045】
セラミックスラリーの製造方法
次に、図5aに示すグリーンシート10aを形成するためのセラミックスラリーを製造する方法について説明する。
【0046】
(第1の分散処理工程)
図2に示すように、まず、ステップS1にて、少なくともバインダ樹脂と第1溶剤とを含み、セラミック粉末は実質的に含まない第1被処理液を準備する。第1被処理液には、他に可塑剤、分散剤、帯電防止剤などが含まれてもよい。
【0047】
バインダ樹脂の重量割合は、第1被処理液100重量部に対して、好ましくは3〜30重量部、より好ましくは、5〜15重量部である。これにより、第1の分散処理によって溶剤にバインダ樹脂を十分に溶解させることができ、均一な第1分散処理液が得られる。
【0048】
第1被処理液中に含まれるバインダ樹脂の含有量は、セラミックスラリーが最終的に含有するバインダ樹脂の含有量100重量部に対して、好ましくは80重量部以上、より好ましくは90重量部以上である。これにより、第1の分散処理によって、セラミックスラリーとしての樹脂未溶解物の生成を有効に防止することができ、バインダ樹脂が均一に分散した第1分散溶液を得ることができる。
【0049】
第1溶剤としては、特に限定されず、たとえばアルコール系溶剤、ケトン系溶剤、芳香族系溶剤、脂肪族溶剤などの有機溶剤が用いられる。これらの有機溶剤を単独で用いることも可能であるが、本実施形態では、第1溶剤としては、好ましくは、アルコール系溶剤と芳香族系溶剤とを含み、アルコール系溶剤と芳香族系溶剤との合計質量を100重量部として、芳香族系溶剤が、10〜20重量部含まれる。
【0050】
第1溶剤の重量割合は、第1被処理液100重量部に対して、好ましくは75〜90重量部、より好ましくは、80〜90重量部である。これにより、第1の分散処理によって溶剤にバインダ樹脂を十分に溶解させることができ、均一な第1分散処理液が得られる。
【0051】
図2に示すように、ステップS2として、第1分散処理工程(S3)に先立って、撹拌機等により、第1被処理液を予め混合・撹拌処理してもよい。撹拌機としては、例えば、たとえば図4(b)に示すような回転羽42を有する撹拌機41を用いることができる。本実施形態では、撹拌処理は、分散処理に比べ、穏やかに処理液を混合するものであり、分散処理とは区別される。
【0052】
次に、図3に示すように、ステップS3として、第1被処理液に対して第1の分散処理を施し、第1分散溶液を得る。
【0053】
一般に、分散処理には、例えばボールミル、ビーズミルあるいはサンドミルなどのアジテータミルを用いた媒体型分散(図示せず)や、図4(a)に示すような分散機による高圧分散や、図3(a)に示すような分散機による旋回流分散などが用いられている。
【0054】
しかし、ステップS3において、第1の分散処理を媒体型分散機による分散処理とした場合、バインダ樹脂が十分に溶剤に溶解せず、樹脂未溶解物が発生するため、最終的に得られたセラミックスラリーにおいてシート特性(表面平滑性、シート強度)が低下する傾向にある。
【0055】
また、ステップS3において、第1の分散処理を高圧分散による分散処理とした場合、バインダ樹脂にダメージを与えてしまいセラミックスラリーをシート化した際にシート強度が低下する傾向にあると共に、旋回流による分散処理と比較して樹脂未溶解物が多く残る傾向にある。
【0056】
そのため、ステップS3において行う第1の分散処理は、いかにバインダ樹脂にダメージを与えず、均一に溶剤に溶解させるかが重要となる。そのため本実施形態では、第1の分散処理としては、旋回流による分散処理により行う。旋回流による分散処理により第1被処理液を行うことにより、樹脂未溶解物が発生せず、最終的に得られたセラミックスラリーをシート化して得られるグリーンシートのシート特性(表面平滑性、シート強度)が向上する。
【0057】
旋回流による分散処理は、例えば、図3(a)に示す分散機50を用いて行われる。分散機50は円筒形の撹拌槽51と撹拌槽51と同心であるシャフト52と円筒形の回転羽根53とを有する。シャフト52と回転羽根53はアーム57で接続されており、撹拌槽と回転羽根の間には幅tの隙間58がある。これにより、回転羽根53が回転することで幅tを有するドーナツ状の隙間58に旋回流が生じる。なお、回転羽根53あるいは撹拌槽51は、複数の小穴や溝やスリットなどの加工がなされた構造であってもよい。また、回転羽根および撹拌槽の形状は限定されない。
【0058】
旋回流の剪断速度は、好ましくは15000(1/sec)以上、より好ましくは25000〜100000(1/sec)である。旋回流の剪断速度が低すぎると分散性が低下する傾向にある。剪断速度の上限としては、剪断速度を上げた場合であっても塗料物性はさほど変化しないため、装置への負荷や装置の制限的な点から実用的には100000(1/s)程度となる。
【0059】
なお、旋回流の剪断速度は次式(2)によって定義される。
剪断速度(1/s)=周速(m/s)/t(mm)・・・(2)
(2)式中の、tは、図3(a)に示す分散機における隙間58の幅tである。
【0060】
図3(a)に示す分散機を用いる場合は、隙間58の幅tは好ましくは0.1〜5.0m、より好ましくは0.1〜2.0mmであり、周速は好ましくは10〜100m/s、より好ましくは30〜100m/sである。分散機の形状は回転型であって旋回流による剪断によるものが好ましい。この構造をとることによって、剪断力を発生させるために外部から圧力を加える必要がないため、剪断力発生のために生じる圧力差による過剰分散を防ぐことが可能となる。
【0061】
図3(a)および(b)に示す分散機において、撹拌槽51と回転羽根53との隙間58が分散部となり、旋回流による剪断力が流体に作用する。
【0062】
分散部での滞留時間は、好ましくは0.2分以上、より好ましくは0.2〜1分である。バインダ樹脂の分散が不十分であり、長すぎても、分散性の向上はわずかであり製造効率が悪くなる。
【0063】
(第2の分散処理工程)
図2に示すように、まず、ステップS4にて、少なくともセラミック粉末と第2溶剤とを含む第2被処理液を準備する。第2被処理液には、他に可塑剤、分散剤、バインダ樹脂、第1分散処理液の一部などが含まれてもよい。
【0064】
セラミック粉末の重量割合は、第2被処理液100重量部に対して、30〜70重量部、より好ましくは40〜65重量部である。これにより、分散性の良好な第2分散溶液を得ることができる。
【0065】
第2溶剤としては、特に限定されず、たとえばアルコール系溶剤、ケトン系溶剤、芳香族系溶剤、脂肪族溶剤などの有機溶剤が用いられる。本実施形態では、第2溶剤としては、好ましくは、アルコール系溶剤と芳香族系溶剤とを含み、アルコール系溶剤と芳香族系溶剤との合計質量を100重量部として、芳香族系溶剤が、10〜20重量部含まれる。
【0066】
第2溶剤の重量割合は、第2被処理液100重量部に対して、好ましくは30〜70重量部、より好ましくは40〜65重量%である。これにより、分散性の良好な第2分散溶液を得ることができる。
【0067】
第2被処理液100重量部に対して、可塑剤の重量割合は、好ましくは0〜3重量部、分散剤の重量割合は、好ましくは0.1〜5重量部である。
【0068】
また、第2被処理液は、バインダ樹脂を含んでもよい。バインダ樹脂としては、特に限定されず、第1被処理液に含まれるバインダ樹脂と同じであってもよいし、異なっていてもよい。また、第2被処理液は、第1分散処理液の一部を添加することで、バインダ樹脂を含んでもよい。第2被処理液中に、少量のバインダ樹脂が混合されていることで分散の安定性が向上する。
【0069】
第2被処理液中に含まれるバインダ樹脂の重量割合は、セラミック粉末100重量部に対して、好ましくは0〜10重量部である。第2被処理液中に含まれるバインダ樹脂の含有量は、セラミックスラリーが最終的に含有するバインダ樹脂の含有量100重量部に対して、好ましくは20重量部以下である。
【0070】
また、第1分散処理液の一部を添加することで、バインダ樹脂を添加する場合、第1分散処理液の添加割合は、第2被処理液100重量部に対して、好ましくは0〜20重量部である。また、第2被処理液中に含まれる第1分散処理液の含有量は、セラミックスラリーが最終的に含有する第1分散処理液100重量部に対して、好ましくは20重量部以下である。
【0071】
ステップS4では、第2被処理液に対して第2の分散処理を施し、第2分散溶液を得る。
第2の分散処理としては、特に限定されないが、媒体型分散による分散処理、旋回流による分散処理、あるいは高圧分散による分散処理であり、好ましくは、媒体型分散による分散処理である。
【0072】
第2分散処理工程における媒体型分散は、ボールミル、ビーズミル、サンドミル、アトライター、ペイントシェーカー(バスケットミル)などの分散機による分散が挙げられる。
【0073】
なお、媒体型分散による分散処理の条件としては、特に限定されないが、例えば、分散に用いられるメディアは装置の容量の30〜90体積%であり、メディアの直径は好ましくは0.01〜3.0mmである。これにより、セラミック粉体にダメージを与えることなく、セラミック粉体を微細化することができ、メディアとスラリーの分離も容易となり、分散性に優れた第2分散溶液が得られる。
【0074】
媒体型分散による分散処理は、他の分散処理に比べセラミックス粉体の二次粒子などの粗大粒子を効率よく解砕できるため、特に第2分散処理工程に適している。
【0075】
第2の分散工程における旋回流による分散は、第1の分散工程における旋回流分散の条件と同じ範囲で行うことができる。ただし、第1の分散工程と全く同じ設定で行う必要はなく、旋回流分散の好ましい条件の範囲内において、適宜設定を選択することができる。
【0076】
第2分散処理工程における高圧分散を行う装置には、例えば、たとえば図4(a)に示すように、処理液を所定の流路に通して、処理部(ジェネレーター)で衝突部40に衝突させて分散処理を行う衝突型の装置や、衝突せず直管だけの貫通型ジェネレーター式の装置(図示せず)がある。
【0077】
なお、処理部は、衝突型であれば少ない処理時間で済むため好ましいが、設備が高価になってしまう。衝突しない貫通型ジェネレーターを使った場合には処理時間は掛かるが、粗大粒の詰まりがなく、洗浄性も高く、第2の分散処理工程には適している。
【0078】
図4(a)に示す分散機を用いる場合は、処理液を処理部から衝突部40に衝突させる際の圧力としては、好ましくは50〜200MPaであり、処理回数は、3〜5パス処理である。なお、圧力が高すぎると、セラミック粉末の結晶性が低下する傾向にある。
【0079】
なお、第2の分散工程後の主成分粉体の粒径は好ましくは0.01〜1.0μm、より好ましくは0.05〜0.3μmである。これにより、セラミック粉末の結晶性を低下させることなく、分散性に優れたセラミックスラリーを得ることができる。さらに、得られたセラミックスラリーをシート化した際には、平滑性に優れたグリーンシートが得られる。
【0080】
(第3の分散処理工程)
次に、ステップS6として、第2の分散処理工程(S5)で得られた第2分散溶液に、第1の分散処理工程(S3)で得られた第1分散溶液を所定量添加し、第3の分散処理により分散処理を施す。
【0081】
本実施形態では、図2に示すように、第2の分散工程後の第2分散溶液に所定量の第1分散溶液を添加し第3の分散処理を施すことにより、樹脂未溶解物の生成を抑制でき、セラミック粉末を一粒子単位に分散させることができる。
【0082】
ステップS6において、第2分散溶液に添加する第1分散溶液の添加量は、目的とするセラミックスラリーの用途に応じて決定されるが、本実施形態においては、第2分散溶液全体100重量部に対して、第1分散溶液の添加割合は、好ましくは30〜150重量部である。
【0083】
ステップS6で第2分散溶液に添加する前の第1分散溶液に対し、ステップS3の後、フィルタリング工程を設けておいてもよい。第1分散溶液をフィルタリングすることで、わずかに発生した樹脂未溶解物も除去することが可能となるため、シート特性をより向上させることができる。
【0084】
第3の分散工程では、全体スラリーにおける各成物の分散性と分散安定性を促進する。本実施形態においては得られるスラリーの光沢度が最大となるまで分散処理する。
【0085】
本実施形態では、第3の分散処理は、旋回流による分散処理、または媒体型分散による分散処理により行う。高圧分散により分散処理を行うと、セラミックスラリーにおいてセラミック粉末の結晶性が低下したり、バインダ樹脂のダメージによりシート強度が低下する傾向にあるため、好ましくない。なお、第3の分散処理としてより好ましくは旋回流による分散処理である。
【0086】
第3の分散工程における旋回流による分散は、第1の分散工程における旋回流分散の条件と同じ範囲で行うことができる。ただし、第1の分散工程と全く同じ設定で行う必要はなく、旋回流による分散処理の好ましい条件の範囲内において、適宜設定を選択することができる。
【0087】
第3の分散工程における媒体型分散は、第2の分散工程における媒体型分散処理の条件と同じ範囲で行うことができる。ただし、第2の分散工程と全く同じ設定で行う必要はなく、媒体型分散処理の好ましい条件の範囲内において、適宜設定を選択することができる。特に、処理時間については第2の分散工程よりも長く設定することが好ましい。好ましくは、5〜15時間である。
【0088】
内部電極層12aの形成
図1の内部電極層12は、図5bに示す内部電極パターン層12aを焼成して得られる。本発明における内部電極パターン層12aに含有される導電材は特に限定されないが、誘電体層10の構成材料が耐還元性を有するため、卑金属を用いることができる。導電材として用いる卑金属としては、NiまたはNi合金が好ましい。Ni合金としては、Mn,Cr,CoおよびAlから選択される1種以上の元素とNiとの合金が好ましく、合金中のNi含有量は95重量%以上であることが好ましい。
【0089】
内部電極パターン層12aは、内部電極層用ペーストを、所定のパターン状に成形することにより得られる。内部電極層用ペーストは、導電性粉末、溶剤、分散剤、可塑剤、バインダ、添加物粉末などを、ボールミルなどで混練し、スラリー化することによって得られる。
【0090】
次に、図5bに示すように、支持シート20上に形成されたグリーンシート10aの表面に、内部電極層用ペーストを所定のパターンに塗布して、内部電極パターン層12aを形成する。内部電極パターン層12aは、焼成後に図1に示す内部電極層12となる。
【0091】
図5bの内部電極パターン層12aの形成方法は、層を均一に形成できる方法であれば特に限定されず、たとえば電極層用ペーストを用いたスクリーン印刷法あるいはグラビア印刷法などの厚膜形成方法、あるいは蒸着、スパッタリングなどの薄膜法が例示される。
【0092】
図5cに示すように、内部電極パターン層12aが形成されたグリーンシート10aを支持シート20から剥がして順次積層して積層体24を形成する。このグリーンシートは、図1 に示す誘電体層10となる部分であり、内部電極層12となる電極膜と共に交互に積層され、その後に切断され、積層体チップとなり、脱バインダ処理および焼成処理されて、コンデンサ素体本体4となる。
【0093】
外部電極の形成
このようにして得られたコンデンサ素子本体4には、サンドブラスト等にて端面研磨を施し、外部電極用ペーストを焼きつけて外部電極6,8が形成される。外部電極6および8に含有される導電材は特に限定されないが、本発明では安価なNi,Cuや、これらの合金を用いることができる。
【0094】
そして、必要に応じ、外部電極6,8上にめっき等を行うことによりパッド層を形成する。なお、外部電極用ペーストは、上記した内部電極パターン層用ペーストと同様にして調製すればよい。
【0095】
各誘電体層10の厚みは、本発明に係る実施形態では、好ましくは2μm以下、さら好ましくは1μm以下に薄層化される。上記のとおり、本発明の実施形態に係るグリーンシートの製造方法によれば、シートの表面粗さが層間厚みに比べて非常に小さくなるまで低下するため、層間厚みを小さく(薄層化)することができ、積層セラミックコンデンサなどの電子部品を、より多層化・小型化することができる。
【0096】
本発明に係る方法により製造された積層セラミックコンデンサは、ハンダ付等によりプリント基板上などに実装され、各種電子機器等に使用される。
【0097】
なお、本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、本発明の範囲内で種々
に改変することができる。
【0098】
また、本発明に係るセラミックスラリーを用いて製造される積層セラミック部品としては、積層セラミックコンデンサに限らず、インダクタ、バリスタなどが例示される。
【0099】
なお、本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々に改変することができる。たとえば、本発明は、積層セラミックコンデンサに限らず、誘電体層を有する電子部品であれば何でも良い。
【実施例】
【0100】
以下、本発明を、さらに詳細な実施例に基づき説明するが、本発明は、これらの実施例に限定されない。
【0101】
試料1
(第1の分散処理工程)
まず、第1被処理液を準備した。第1分散溶液は、以下のように作製した。すなわち、バインダ樹脂と、第1溶剤とを混合し、さらに必要に応じて可塑剤などを添加して作製した。なお、第1被処理液はセラミック粉末を含まない。
【0102】
バインダ樹脂としては、重合度が1400のポリビニルブチラール樹脂を用い、その添加量は、第1被処理液100重量部に対して、10重量部であった。
【0103】
また、第1溶剤としては、エタノール/1−プロパノール/キシレンから成る溶剤を用い、その添加量は、第1被処理液100重量部に対して、85重量部であった。各種溶剤の含有割合は、第1溶剤中にエタノールが45重量部、1−プロパノールが45重量部、キシレンが10重量部であった。
【0104】
また、可塑剤としては、フタル酸ジオクチル(DOP)を用い、その添加量は第1被処理液100重量部に対して、5重量部であった。
【0105】
次に、第1被処理液に対して旋回流により第1の分散処理を施し、第1分散溶液を得た。
【0106】
旋回流による分散処理の条件としては、図3(a)に示す装置を用い、周速50m/s、クリアランス2mm、せん断速度25000(1/s)、および分散部での滞留時間0.25分となるように設定した。以下、旋回流による分散処理において同じである。
【0107】
(第2の分散処理工程)
次に、第2被処理液を準備した。第2被処理液は、以下のようにして作製した。すなわち、セラミック粉末と、第2溶剤とを混合し、さらに必要に応じてバインダ樹脂や分散剤や第1被処理液などを添加し作製した。
【0108】
セラミック粉末としては、平均粒径0.2μmのBaTiO、MgCO、MnCO,(Ba,Ca)SiOおよび希土類化合物を用い、その添加量は、第2被処理液100重量部に対して、50重量部であった。
【0109】
また、第2溶剤としては、エタノール/1−プロパノール/キシレンから成る溶剤を用い、その添加量は、第2分散溶液100重量部に対して、50重量部であった。各種溶剤の含有割合は、第2溶剤中にエタノールが45重量%、プロパノールが45重量%、キシレンが10重量%であった。
【0110】
また、分散剤の添加量は第2被処理液100重量部に対して、5重量部であった。
【0111】
なお、第2被処理溶液は必要に応じてバインダ樹脂や第1分散溶液の一部を含んでもよいが、試料1ではいずれも含まないものとした。
【0112】
次に、第2被処理液に対して媒体型分散処理による第2の分散処理を施し、第2分散溶液を得た。
【0113】
媒体型分散処理の条件としては、ボールミルを用い、メディア径φ2mm、回転速度45rpm、および処理時間3時間となるように設定した。
【0114】
(第3の分散処理工程)
次に、セラミックスラリーを準備した。セラミックスラリーは、以下のようにして作製した。すなわち、第2分散処理工程で得られた第2分散溶液に、第1分散処理工程で得られた第1分散溶液を添加・混合し、旋回流により第3の分散処理を行い作製した。
【0115】
第1分散溶液の添加量は、第2分散処理溶液100重量部に対して、50重量部であった。
【0116】
第3の分散処理は、旋回流による分散処理とした。旋回流による分散処理の条件としては、周速50m/s、クリアランス2mm、せん断速度25000/s、および分散部での滞留時間0.25分となるように設定した。
【0117】
上記の工程を経て、セラミックスラリー(グリーンシート用塗料)を得た。
【0118】
(グリーンシートの形成)
作製されたセラミックスラリーをドクターブレードよって、PETフィルム上に乾燥後の厚みが1.0μmとなるように塗布し、グリーンシート10aを形成した。次に、PETフィルム上に形成されたグリーンシート10aを、乾燥炉内に連続的に送り込み、グリーンシート10aに含まれる溶剤を乾燥させた。乾燥時の温度は75℃で、乾燥時間は1分間であった。
【0119】
(内部電極層用ペーストの調製)
次に、0.2μmのNi粒子と、ジヒドロターピネオール、エチルセルロース樹脂、DOPとを、3本ロールにより混練し、スラリー化して内部電極層用ペーストを得た。
【0120】
(積層セラミックコンデンサの作製)
上記にて調製した各ペーストを用い、以下のようにして、図1に示される積層セラミックコンデンサ1を製造した。
【0121】
まず、得られた誘電体層用ペーストを用いてPETフィルム上にグリーンシートを形成した。この上に内部電極層用ペーストを印刷した後、PETフィルムからシートを剥離した。次いで、これらのグリーンシートと保護用グリーンシート(内部電極層用ペーストを印刷しないもの)とを積層、圧着して、積層体を得た。
【0122】
次に、この積層体を所定の寸法に切断して、セラミックグリーンチップを得た。次に、セラミックグリーンチップを加熱して、脱バインダ処理した。次に、セラミックグリーンチップを、1000℃〜1400℃で焼成して、焼結体を得た。次に、焼結体における誘電体層を再酸化するために、焼結体を加熱した。再酸化処理した焼成体に、端子電極を形成し、積層セラミックコンデンサを得た。
【0123】
得られた積層セラミックコンデンサのサイズは、1.6mm×0.8mm×0.8mmであり、内部電極層に挟まれた誘電体層の数は100であり、1層あたりの誘電体層の厚み(層間厚み)は0.80〜0.85μm、内部電極層の厚みは0.70〜0.75μmであった。
【0124】
試料2
試料2においては、第1の分散処理として、媒体型分散による分散処理とした以外は、試料1と同様の条件で、試料2の積層セラミックコンデンサを作製した。なお、媒体型分散による分散処理の条件としては、メディア径φ2mm、回転速度45rpm、および処理時間10時間となるように設定した。
【0125】
試料3
試料3においては、第1の分散処理として、高圧分散による分散処理とした以外は、試料1と同様の条件で、試料3の積層セラミックコンデンサを作製した。なお、高圧分散による分散処理の条件としては、高圧ホモジナイザーを用い、圧力100MPaおよび処理回数5回となるように設定した。
【0126】
試料4
試料4においては、第1の分散処理に代え、撹拌機による撹拌・混合処理をした以外は、試料1と同様の条件で、試料4の積層セラミックコンデンサを作製した。なお、撹拌機による撹拌処理の条件としては、回転数500rpm、せん断速度92(1/s)、および処理時間1時間となるように設定した。
【0127】
試料5
試料5においては、第1の分散処理に代え、撹拌機による撹拌・混合処理をした以外は、試料1と同様の条件で、試料5の積層セラミックコンデンサを作製した。なお、撹拌機による撹拌処理の条件としては、回転数1000rpmおよびせん断速度183(1/s)となるように設定した。
【0128】
試料6
試料6においては、第1の分散処理に代え、50℃に加熱しながら撹拌処理をした以外は、試料1と同様の条件で、試料6の積層セラミックコンデンサを作製した。なお、撹拌処理の条件としては、50℃に加熱しながら撹拌処理をした以外は、試料4と同様の条件であった。
【0129】
試料7
試料7においては、第2の分散処理に代え、撹拌処理をした以外は、試料1と同様の条件で、試料7の積層セラミックコンデンサを作製した。なお、撹拌処理の条件としては、回転数1000rpm、せん断速度183(1/s)および処理時間3時間となるように設定した。
【0130】
試料8
試料8においては、第3の分散処理に代え、撹拌処理をした以外は、試料1と同様の条件で、試料8の積層セラミックコンデンサを作製した。なお、撹拌処理の条件としては、試料7と同様の条件であった。
【0131】
試料9
試料9においては、第1の分散処理、第2の分散処理および第3の分散処理をまとめて、旋回流による分散処理によって全ての原料を一括分散処理した以外は、試料1と同様の条件で、試料9の積層セラミックコンデンサを作製した。なお、旋回流による分散処理の条件としては、周速50m/s、クリアランス2mm、せん断速度25000(1/s)、および分散部での滞留時間0.25分となるように設定した。
【0132】
(評価)
(未溶解物の残留量)
試料1〜9において得られる積層セラミックコンデンサの製造過程おいて、第1の分散処理工程で得られた第1分散溶液中に含まれる樹脂未溶解物の残留量を測定し、評価した。未溶解物の残留量の測定は、パーティクルカウンター(RION製、計数器:KL−11、検出器:KS−28、シリンジサンプラー:KZ30W1)を用いて、測定条件として、流速10ml/min、測定量10mlとし、3回の繰り返し処理を行ったときの未溶解物の残留量を測定した。1μm以上の未溶解物の個数が1000以下、10μm以下の未溶解物の個数が200以下、20μm以下の未溶解物の個数が100以下の場合を良好(○)とし、未溶解物の残留が上記所定量より多い場合は不良(×)と判定した。結果を表1に示す。未溶解物の残留が上記所定量より多く判定が不良の場合、シート化した際にピンホールが発生し、チップ化した際のショート不良率に悪影響を及ぼす。
【0133】
(粘度経時上昇率)
試料1〜9において得られる積層セラミックコンデンサの製造過程おいて、セラミックスラリーの状態で、7日間経過後の粘度の上昇率を粘度経時上昇率として評価した。粘度の測定としては、東機産業製のB型粘度計を用い、25℃において、周速60rpmとして、初期の粘度ρおよび7日間経過後の粘度ρを測定した。得られた粘度の値から、粘度経時上昇率Δρを、式[Δρ=(ρ−ρ)×100/ρ]より算出した。結果を表1に示す。粘度経時上昇率が高い場合は、分散性が十分でなく、光沢度の低下などシート特性に悪影響を及ぼす。本実施例では、粘度経時上昇率Δρが、好ましくは13%以下である場合を良好とし、より好ましくは10%以下、さらに好ましくは5%以下である。
【0134】
(ピンホール発生率)
試料1〜9において得られる積層セラミックコンデンサの製造過程おいて、グリーンシートの段階でのピンホール発生率を評価した。ピンホール発生率は、グリーンシートのサンプル100個に対して測定した。測定では、光学顕微鏡を用いて、グリーンシートを形成した際の1mの範囲内でのピンホールの個数を確認した。グリーンシート1mあたりのピンホールの個数を、ピンホール発生率とした。結果を表1に示す。本実施例では、ピンホール発生率が、好ましくは0個/mである場合を良好とした。
【0135】
(光沢度)
試料1〜9において得られる積層セラミックコンデンサの製造過程おいて、グリーンシートの段階での光沢度を評価した。光沢度は、グリーンシートのサンプル100個に対して測定した。測定では、日本電色製の光沢度計(VG2000)を用いて、屈折率1.567のガラス表面において、入射角60℃の反射率10%を光沢度100%として測定した(図6(A))。結果を表1に示す。本実施例では、光沢度が、好ましくは60%以上である場合を良好とし、さらに好ましくは80%以上、特に好ましくは85%以上である。光沢度が所定量より小さい場合、チップ化した際のショート不良率に悪影響を及ぼす。
【0136】
(シート強度)
また、試料1〜9において得られる積層セラミックコンデンサの製造過程おいて、グリーンシートの段階でのシート強度を評価した。シート強度は、グリーンシートのサンプル100個に対して測定した。測定では、グリーンシートを、図6(B)に示す引っ張り試験機64のロードセル65を用いて垂直に引き上げ、グリーンシートが破断した時に、ロードセル65にかかる応力を測定し、測定サンプル中の最大の応力を100とした場合の相対的な値をシートの強度とした。なお、このときのサンプルとしてのグリーンシートは、幅:10mm、長さ:40mm、厚み1μmの短冊状とし、上下治具の間隔は10mm、治具の伸張速度は8mm/secとした。結果を表1に示す。本実施例では、シート強度が、好ましくは72%以上である場合を良好とし、より好ましくは80%以上、さらに好ましくは90%以上、特に好ましくは100%以上である。
【0137】
(ショート不良率)
また、試料1〜9において得られる積層セラミックコンデンサの特性評価として、ショート不良特性を評価した。ショート不良率は、積層セラミックコンデンサのサンプル100個に対して測定した。測定では、絶縁抵抗計(HEWLETT PACKARD社製E2377A)を使用した。測定においては、各サンプルの抵抗値を測定し、抵抗値が10kΩ以下になったサンプルを、ショート不良サンプルとした。全測定サンプルに対する、ショート不良を起こしたサンプルの比率を、ショート不良率とした。結果を表1に示す。本実施例では、ショート不良率が、好ましくは10%以下である場合を良好とし、さらに好ましくは6%以下、特に好ましくは4%以下である。
【0138】
【表1】

【0139】
表1に示すように、第1の分散処理が旋回流による分散処理ある試料1では、樹脂未溶解物の残留量、粘度経時変化率、ピンホール発生率、光沢度、シート強度の何れの特性も好ましい範囲内であった。しかも、ショート不良率も良好な結果を示している。
【0140】
一方、第1の分散処理が、旋回流による分散処理以外の分散処理、あるいは撹拌機による混合・撹拌処理である試料2〜6においては、樹脂未溶解物の残留量は何れも好ましい範囲から外れ、粘度経時変化率、ピンホール発生率、光沢度、シート強度の何れかの特性が好ましい範囲内になく、しかも、ショート不良率も試料1に比べ高い結果を示している。
【0141】
なお、旋回流による分散処理を行った場合(試料1)の方が、高圧分散処理を行った場合(試料3)に比べて未溶解物生成を有効に防止できる理由としては、剪断力を継続的に付与できる旋回流による分散処理の方が、圧力を瞬時的に付与する高圧分散処理に比べ、未溶解物生成に対して防止効果があるためと考えられる。
【0142】
また、第1の分散処理が旋回流による分散処理であっても、第2の分散処理または第3の分散処理が、分散処理ではなく撹拌機による混合・撹拌処理である試料7および8においても、樹脂未溶解物の残留量は何れも好ましい範囲から外れ、粘度経時変化率、ピンホール発生率、光沢度、シート強度の何れかの特性が好ましい範囲内になく、しかも、ショート不良率も試料1に比べ高い結果を示している。
【0143】
また、旋回流による分散処理であっても、第1の分散処理、第2の分散処理および第3の分散処理をまとめて一括分散処理した試料9では、樹脂未溶解物の残留量は何れも好ましい範囲から外れ、粘度経時変化率およびピンホール発生率が好ましい範囲内になく、しかも、ショート不良も試料1に比べ、高い結果を示している。
【0144】
試料20〜25
試料20および21では、グリーンシートの厚さを変えた以外は、試料1と同様にして、積層セラミックコンデンサの試料20および21を作製し、同様な評価を行った。また、試料22および23では、グリーンシートの厚さを変えた以外は、試料2と同様にして、積層セラミックコンデンサの試料22および23を作製し、同様な評価を行った。さらに、試料24および25では、グリーンシートの厚さを変えた以外は、試料3と同様にして、積層セラミックコンデンサの試料24および25を作製し、同様な評価を行った。結果を表2に示す。
【0145】
【表2】

【0146】
表2に示すグリーンシート厚みとショート不良率との関係を図7に示す。図7に示すように、実施例に係る試料1および試料20および21では、各グリーンシート厚さが薄くなっても、ショート不良率が増大しないのに対して、比較例に係る試料2および試料22および23と試料3および試料24および25では、各グリーンシート厚さが薄くなるにしたがい、ショート不良率が増大する。本願発明では、グリーンシート厚さが薄くなっても効果があることが確認できた。
【0147】
試料30〜38
第2の分散処理と第3の分散処理において、旋回流による分散、媒体型分散、高圧分散のいずれかの分散処理を表3のように組み合わせた以外は、試料1と同様にして積層セラミックコンデンサ試料30〜38を作製し、同様の評価を行った。また、結果を表3に示す。
【0148】
なお、第3の分散処理としての媒体型分散の条件としては、第1の分散処理とした場合と同じである。また、第2の分散処理と第3の分散処理としての旋回流分散および高圧分散処理の条件は、いずれも第1の分散処理とした場合と同じである。
【0149】
【表3】

【0150】
表3に示すように、第3の分散処理が旋回流による分散処理または媒体型分散による分散処理とした試料1、30、32、33、35および36では、樹脂未溶解物の残留量、粘度経時変化率、ピンホール発生率、光沢度、シート強度の何れの特性も好ましい範囲内であった。しかも、ショート不良率も良好な結果を示している。
【0151】
一方、第3の分散処理が、高圧分散による分散処理である試料31、34、および37においては、樹脂未溶解物の残留量は何れも好ましい範囲から外れ、粘度経時変化率、ピンホール発生率、光沢度、シート強度の何れかの特性が好ましい範囲内になく、しかも、ショート不良率も試料1等に比べ高い結果を示している。
【0152】
さらに、第2の分散処理として、媒体型分散による分散処理とした試料1および30では、特に有効に経時変化に伴う粘度の上昇を防止することが可能になり、シート強度を高め、ショート不良を有効に防止できることが確認された。
【0153】
試料40〜45
試料40および41では、旋回流による第1の分散処理において、周速を表4のように変更することでせん断速度を変えた以外は、試料1と同様にして積層セラミックコンデンサ試料40および41を作製し同様の評価を行った。また、試料42では、旋回流による第1の分散処理において、周速およびクリアランスを表4のように変更することでせん断速度を変えた以外は、試料1と同様にして積層セラミックコンデンサ試料42を作製し同様の評価を行った。また、試料43〜45では、旋回流による第1の分散処理において、表4のように分散部における滞留時間を変えた以外は、試料1と同様にして積層セラミックコンデンサ試料43〜45を作製し同様の評価を行った。結果を表4に示す。
【0154】
【表4】

【0155】
表4に示すように、旋回流による第1の分散処理において、せん断速度および分散部における滞留時間を変更した場合でも、粘度経時変化率、ピンホール発生率、光沢度、シート強度の何れの特性も好ましい範囲内であった。しかも、ショート不良率も良好な結果を示している。
【0156】
試料50および51
試料50では、最終的にセラミックスラリーに含まれることとなるバインダ樹脂100重量%に対して10重量%のバインダ樹脂を、第2被処理液に含ませて第2の分散処理を行った以外は、試料1と同様にして積層セラミックコンデンサを作製し同様の評価を行った。また、試料51では、最終的にセラミックスラリーに含まれることとなる第1分散溶液100重量%のうちの10重量%の第1分散溶液を、第2被処理液に含ませて第2の分散処理を行った以外は、試料1と同様にして積層セラミックコンデンサを作製し同様の評価を行った。結果を表5に示す。
【0157】
【表5】

【0158】
表5に示すように、第2被処理液として、バインダ樹脂を含ませた試料50でも、粘度経時変化率、ピンホール発生率、光沢度、シート強度の何れの特性も好ましい範囲内であった。しかも、ショート不良率も良好な結果を示している。
【0159】
また、第2被処理液として、第1分散溶液の一部を含ませた試料51でも、粘度経時変化率、ピンホール発生率、光沢度、シート強度の何れの特性も好ましい範囲内であった。しかも、ショート不良率も良好な結果を示している。
【0160】
このことから、本発明においては、最終的にセラミックスラリーに含まれることとなるバインダ樹脂の一部、または、第1の分散処理で得られた第1分散溶液の一部を、第2被処理液に含ませた場合であっても、本発明の範囲内であれば問題ないことが確認された。
【符号の説明】
【0161】
2… 積層セラミックコンデンサ
4… コンデンサ素子本体
6、8… 外部電極
10… 誘電体層
10a… 内側グリーンシート
11a… 外側グリーンシート
12… 内部電極層
12a… 内部電極パターン層
20… 支持シート
24… 積層体
40… 衝突部
41… 撹拌機
42…回転羽根
50… 分散機
51… 撹拌槽
52… シャフト
53… 回転羽根
57… アーム
58… 隙間
61… 受光器
62… 光源
63… 測定物(グリーンシート)
64… 引っ張り試験機
65… ロードセル
66… 測定物(グリーンシート)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくともバインダ樹脂と第1溶剤とを含み、セラミック粉末を実質的に含まない第1被処理液を分散する第1の分散処理工程と、
少なくともセラミック粉末と第2溶剤とを含む第2被処理液を分散する第2の分散処理工程と、
前記第1の分散工程で得られた第1分散溶液と、前記第2の分散工程で得られた第2分散溶液とを混合して、分散する第3の分散工程とを有する製造方法であって、
前記第1の分散処理は、旋回流による分散処理であり、
前記第3の分散処理は、媒体型分散による分散処理、または旋回流による分散処理であることを特徴とするセラミックスラリーの製造方法。
【請求項2】
前記第3の分散処理は、旋回流による分散処理であることを特徴とする請求項1に記載のセラミックスラリーの製造方法。
【請求項3】
前記第2の分散処理は、媒体型分散による分散処理であることを特徴とする請求項1または2に記載のセラミックスラリーの製造方法。
【請求項4】
前記第1の分散処理における旋回流によるせん断速度は15000(1/s)以上であることを特徴とする請求項1〜3の何れかに記載のセラミックスラリーの製造方法。
【請求項5】
前記第1の分散処理において、分散部での滞留時間は0.2分以上であることを特徴とする請求項1〜4の何れかに記載のセラミックスラリーの製造方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の製造方法により得られたセラミックスラリーを塗工し、乾燥する工程を有するグリーンシートの製造方法。
【請求項7】
前記乾燥後のグリーンシートの厚みが2μm以下である請求項6に記載のグリーンシートの製造方法。
【請求項8】
請求項6または7のいずれかに記載の製造方法により得られたグリーンシートと、内部電極パターン層とを積層しグリーンチップを得る工程と、
前記グリーンチップを焼成する工程と、を有する電子部品の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5a】
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【図5b】
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【図5c】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−206887(P2012−206887A)
【公開日】平成24年10月25日(2012.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−73332(P2011−73332)
【出願日】平成23年3月29日(2011.3.29)
【出願人】(000003067)TDK株式会社 (7,238)
【Fターム(参考)】