説明

セラミックス積層膜の製造方法とセラミックスナノシート積層膜

【課題】 流動界面ゾル−ゲル法により得られるゲルナノシートを、基材表面に大面積無欠陥で積層してセラミックスナノシート積層膜を製造する。
【構成】 化学修飾した一種以上の金属アルコキシドを部分加水分解によりポリマー化し、このポリマーを水に対する適度な溶解性を有する溶媒を用いて所望の濃度の溶液にした後、流動界面ゾル−ゲル法でゲルナノシート化し、これを基材に転写して、必要により焼成することを特徴とするセラミックス積層膜の製造方法を提供し、この方法により、基材上に実質的に厚みが10〜1000nmであるセラミックスナノシートを任意の枚数積層した構造のセラミックスナノシート積層膜が提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流動界面ゾル−ゲル法により得られるゲルナノシートを基材表面に大面積無欠陥で転写することにより得られるセラミックスナノシート積層膜と、その製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、基材上のセラミックス薄膜の製造方法には、ナノ粒子のスラリーや前駆体溶液をスピンコート法、ドクターブレード法、スクリーン印刷法、スキージ法などの湿式プロセスで塗布し、焼結する方法や、スパッタリング法、CVD法、蒸着法、スプレー法、スプレーパイロリシス法等の乾式プロセスがある。また、フィルム基板などでは、低温成膜が必須であり、電着法、電析法、水熱処理法、プレス法、マイクロ波照射法などがある。量産にはスクリーン印刷法など湿式プロセスが有望であり、非常に多くの研究開発が行われ、特許出願が行われている。しかしながら、それぞれの方法には長所短所があり、例えば、大きな表面積を必要とする色素増感太陽電池用チタニア電極などの作製には、原料として比表面積の大きなナノ粒子が使用されるが、原料の粒子サイズと得られる膜の表面積はトレードオフの関係にある。すなわち、原理的にナノ粒子は原料の比表面積が大きくなればなるほど得られる膜の緻密化が進行し表面積は小さくなってしまうといった問題があり、膜の構造を任意に制御することは困難であり、また、何よりも組成、構造を制御した膜を形成するためには、原料であるナノ粒子をまず製造することが必要である。また、金属アルコキシドなどを用いる前駆体溶液をディップコートやスピンコーティング法などでは、緻密な膜を作製することが可能であるが、一回のコーティングで厚い膜を作製することは剥離などの問題があり、何度もコーティング、焼成プロセスを繰り返す必要がある。特に比表面積の大きな膜を作製することは、酸化物であれば焼成プロセスで焼失する有機成分を加えておくなど特別の配慮が必要であり、しかも厳密な制御は困難である。
【0003】
本発明者らは、すでに、金属アルコキシドを部分加水分解によりポリマー化する工程、このポリマーを水に対する適度な溶解性を有する溶媒を用いて所望の濃度の溶液にする工程、この溶液を流動する水面上に精密に連続して滴下しゲルナノシートとする工程、これを回収する工程、および乾燥し焼成する工程を採用する酸化物セラミックスナノシートを製造する方法を見いだした。特に、化学修飾して加水分解速度を調整した金属アルコキシドから得られたポリマーが、さらにポリマー溶液と水との界面で三次元網目構造のポリマーに転換し生成するゲルナノシートを酸化性雰囲気で焼成することにより厚みが制御され、構造が制御されたセラミックスナノシートが得られることを見いだした。
【0004】
流動界面ゾル−ゲル法によるセラミックスナノシートは、ポリマー化した前駆体を、厚みが10〜500nmで±10%程度に厳密に制御された酸化物ゲルナノシート化して得られる。シート内に熱的に準安定な非晶質あるいはシート厚みの1/5以下程度のナノ結晶粒が閉じ込められた構造の、従来のセラミックス薄膜とは全く異なる新規なセラミックスナノシートが得られる。シートは、従来の方法では得られない極めて微細な結晶粒で構成されている。比表面積は極めて広範囲で制御可能であり、賦活法の検討により200m2/g以上にできる。
【0005】
このような特徴を有するセラミックスナノシートは、前駆体溶液を水面上で大面積に展開しながらゲル化させることにより実現したと考えられている。すなわち、水面上で基材に影響されることなく前駆体の分子設計やプロセスのケミカルデザインにより制御されて加水分解して三次元的にゲル化し、この過程で形成されたゲルシートの構造がセラミックスナノシートでも維持される。
【0006】
こうして得られるセラミックスナノシートは、電子デバイス製造プロセスなどにおいて、大面積で利用できることが強く望まれている。しかしながら、得られるセラミックスナノシートは、現在アスペクト比の極めて大きな粉末として得られるのが一般的であり、流動界面ゾル−ゲル法で水面上に形成される大面積ゲルナノシートを基材に掬い取って利用することは、掬い取った後、ゲルナノシート中に生成するクラックや、ピンホール、さらには基材とゲルナノシート間に残留する水による基材との接着強度不足からの剥離など多くの問題があり、きわめて困難であった。
【特許文献1】特開2004-224623号
【特許文献2】特開2005-263551号
【特許文献3】特開2005-263552号
【特許文献4】特開2005-262069号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記流動界面ゾル−ゲル法で生成する大面積ゲルナノシートを基材表面に積層し利用するための問題点に鑑みなされたものであり、セラミックスナノシートを、大面積無欠陥で量産するためのセラミックスナノシート積層膜およびその製造方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意研究した結果、流動界面ゾル−ゲル法で生成する大面積ゲルナノシートを大面積無欠陥のまま基材に転写し、必要によりこの操作を繰り返すことによりセラミックス積層膜を形成することにより、上記課題を解決しうることを見いだした。
【0009】
請求項1に係る発明は、化学修飾した一種以上の金属アルコキシドを部分加水分解によりポリマー化し、このポリマーを水に対する適度な溶解性を有する溶媒を用いて所望の濃度の溶液にした後、流動界面ゾル−ゲル法でゲルナノシート化し、これを基材に転写して、必要により焼成することを特徴とするセラミックス積層膜の製造方法、である。
請求項2に係る発明は、流動界面ゾル−ゲル法で得られたゲルナノシートの基材への転写を繰り返すことにより積層膜の膜厚を制御することを特徴とする請求項1に記載のセラミックス積層膜の製造方法、である。
請求項3に係る発明は、ゲルナノシートを基材に転写する工程で、基材を気相側からゲルナノシートに接触させ転写することを特徴とする請求項1、2の何れかに記載のセラミックス積層膜の製造方法、である。
請求項4に係る発明は、ゲルナノシートを基材に繰り返し転写する工程で、転写したゲルナノシートを乾燥、必要により焼成して転写を繰り返すことを特徴とする請求項2、3に記載のセラミックス積層膜の製造方法、である。
請求項5に係る発明は、ゲルナノシートを基材に転写する工程で、基材を気相側からゲルナノシートに接触させ転写した後水中に浸漬させ、その後乾燥、必要により焼成する請求項1〜4記載のセラミックス積層膜の製造方法、である。
請求項6に係る発明は、請求項1〜5記載の製造方法で製造された積層膜の組成、構造を制御するため所定の雰囲気、温度で熱処理することを特徴とする請求項1〜5に記載のセラミックス積層膜の製造方法、である。
請求項7に係る発明は、基材上に実質的に厚みが10〜1000nmであるセラミックスナノシートを任意の枚数積層された構造であることを特徴とする請求項1〜6記載の製造方法により製造されるセラミックスナノシート積層膜、である。
【発明の効果】
【0010】
以上のように本発明によれば、化学修飾した金属アルコキシドを部分加水分解することによりポリマー化した前駆体を水に適度な溶解性を有する溶媒に溶解し、精密にケミカルデザインしたプロセスで流動する水面上に滴下し展開する流動界面ゾル−ゲル法で得られる大面積ゲルナノシートを基材に転写し、必要によりこれを繰り返すことにより、基材上に実質的に厚みが10〜1000nmであるセラミックスナノシートを任意の枚数積層した構造であるセラミックス積層膜が非常に単純なプロセスで大量に製造できる。この方法は酸化物、複合酸化物また、酸窒化物、窒化物積層膜の製造にも適用でき、従来の製造方法とはまったく異なるセラミックスナノシート積層膜を市場に供給できる。また、本発明の積層膜は積層前に比表面積やナノ粒子の充填構造を決定しておくことができるため、特性の異なるセラミックスナノシートの積層や組成の異なるセラミックスナノシートの積層が可能であり、新たな機能を有するハイブリッドセラミックス薄膜を形成する材料になりうる点で、材料ナノテクノロジーの発展に寄与できるという有利な効果が得られる。
【0011】
たとえば積層セラミックスコンデンサー製造プロセスの単純化、誘電体層の更なる薄膜化や、色素増感太陽電池用電極、高活性光触媒薄膜など電子セラミックスやエネルギー変換デバイス用薄膜への応用などへの展開が期待できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下に、本発明についてさらに詳細に説明する。
本発明のセラミックスナノシート積層膜は、化学修飾した一種以上の金属アルコキシドを部分加水分解によりポリマー化し、このポリマーを水に対する適度な溶解性を有する溶媒を用いて所望の濃度の溶液にした後、流動界面ゾル−ゲル法でゲルナノシート化し、これを基材に転写して、必要により焼成して製造される。
【0013】
本発明による流動界面ゾル−ゲル法によるゲルナノシートを精製させる工程は、すでに本発明者らが特許出願した方法により達成される。すなわち、第一の工程で、目的とする酸化物セラミックスを構成する金属元素のアルコキシドを有機溶媒中で混合し部分加水分解によりポリマー化する。このように調製された金属アルコキシドポリマーを第二の工程で、水に対する適度な溶解性を有する溶媒を用いて所望の濃度の溶液に調整し、第三の工程で、流動する水面上に前駆体溶液を精密に連続して滴下しゲルナノシートを生成させることができる。
【0014】
第三の工程において、滴下されたポリマー溶液の液滴は水の表面で展開し、溶媒は主に水に対する溶解性に応じて水中に溶解する。溶液中のポリマー化した金属アルコキシドは溶液と水との界面で加水分解により鎖状ポリマーあるいは分岐構造を有する鎖状ポリマー間で縮合しゲル化してゲルナノシートを形成する。ゲルナノシートは、連続的にポリマー溶液を滴下することにより、大量製造が可能である。
【0015】
前駆体溶液を流動する水面上に滴下する第三の工程では、周囲の雰囲気を制御されたノズルから前駆体溶液を滴下することが好ましい。すなわち水蒸気圧の高い流動界面上では、ノズル先端で前駆体溶液表面がゲル化し、水面上で展開する際、不均一に広がりやすくなる。したがって、乾燥空気や窒素ガスなどでノズル周囲を置換しておくことが好ましい。
【0016】
また流動界面ゾル−ゲル法の第三の工程において、流動する界面を形成する水の温度を0℃から100℃まで制御することが、流動界面で展開する前駆体溶液の粘度及び加水分解によるゲル化速度を制御し、ゲルナノシートの膜厚を厳密に制御できるために好ましい。水温が低すぎると前駆体の粘度が一般的に高くなりすぎ、また高温では加水分解速度が大きくなりすぎたり、水面上の水の蒸気圧が高くなりすぎるため、一般的には10℃から50℃に制御することがより好ましい。
【0017】
さらに、第三の工程においては、流動する界面を形成する水に水の表面張力を制御する物質を溶解させ、前駆体溶液の界面上での展開速度を制御し、酸化物セラミックスナノシートの膜厚を制御することができる。水の表面張力は普通前駆体溶液の表面張力より2〜3倍大きく、したがって界面上での前駆体溶液の展開速度は極めて大きい。したがって一般的に水の表面張力を低下させる物質、例えば、通常の界面活性剤や、プロパノール、ブタノール、ミリスチルアルコールなどを添加することが、水の表面張力を低下させゲルナノシートの膜厚を制御するために好適に用いられる。
【0018】
また、第三の工程においては、流動する界面を形成する水に界面で生成するゲルナノシートからの成分元素の溶出を制御する物質を溶解させることができる。例えばチタン酸バリウムナノシートのような水に対する溶解性の高いバリウムのようなアルカリあるいはアルカリ土類金属を成分元素として含有する前駆体溶液を用いる場合、これらの成分は前駆体溶液が加水分解されてゲルナノシート化する際、水中に溶出しやすい。これを抑制するために予め流動界面を形成する水中にこれら成分を含有するイオン性化合物を溶解させておくことは極めて有効である。例えばチタン酸バリウムナノシートを製造する場合には水酸化バリウムをその溶解度まで溶解させておくことが好ましい結果を与える。同様に、流動する界面を形成する水のpHを制御することは、界面上での前駆体溶液の加水分解速度を制御することができるため前駆体溶液の展開面積を制御でき、したがってゲルナノシートの膜厚を制御できるので好ましい。pHの制御の方法は、流動する界面を形成する水にpHを制御する物質を溶解させることで達成でき、一般的には、アンモニア水、KOH、NaOH、アミン類、塩酸、硝酸、カルボン酸類などが好適である。
【0019】
さらに第三の工程においては、流動する界面上の雰囲気を制御することが安定にゲルナノシートを製造するために好ましい。例えば、空気中の二酸化炭素は、チタン酸バリウムナノシートを製造する際、前述した流動界面を形成する水中に溶解された水酸化バリウムと反応し不溶性の炭酸バリウムを生成するため、得られるチタン酸バリウムナノシート中に粗大化した粒子を精製させる。したがって、図1に示したナノシート製造装置全体を例えば二酸化炭素を除去した空気や窒素ガスなどで置換できることが好ましい。
【0020】
本発明による基材表面へのゲルナノシートの積層は、流動界面ゾル−ゲル法で得られたゲルナノシートを大面積無欠陥で基材表面に転写して行う。さらに、流動界面ゾル−ゲル法で得られたゲルナノシートの基材への転写を繰り返すことにより積層膜の膜厚を制御することができる。
【0021】
ゲルナノシートの転写は、プラスチックフィルム、ガラス基板、セラミックス基板、金属基板などあらゆる種類の基材に行うことができ、転写の方法は、ゲルナノシートの水中側から掬い取る方法、あるいは基材を気相側からゲルナノシートに接触させ転写する方法がある。前者は、掬い取った後、ゲルナノシート中に生成するクラックや、ピンホール、さらには基材とゲルナノシート間に残留する水による基材との接着強度不足からの剥離など多くの問題があり、基材とゲルナノシート間に残留する水によりクラックの生成も促進される。これに対して後者の方法は、あらゆる基材に対して、ゲルナノシートを直接接触させることによりきわめて密着性の高いゲルナノシートの基材への転写が可能である。
【0022】
厚い積層膜あるいは、構造や組成の異なるハイブリッド積層膜を製造する目的で、ゲルナノシートを基材に繰り返し転写することができる。このゲルナノシートを繰り返し転写する工程では、転写したゲルナノシートを乾燥後、必要により焼成して転写を繰り返すことにより、欠陥のない積層膜を製造することができる。乾燥せず、ゲルナノシート上に水滴が残存すると転写の際積層されたゲルナノシートと転写しようとするゲルナノシート間に水が残留し、結果として前述したような剥離や欠陥の生成を促進し好ましくない。乾燥は水が効率的に蒸発する雰囲気であればよいが、20〜50℃で乾燥すればよい。これ以上の温度でもよいが、水の蒸発とともにゲルナノシートも熱履歴によりその構造を変化させるので、その場合は、所望の構造になる条件で乾燥すればよい。
【0023】
積層膜の構造や組成を変えて積層したい場合には、所定の条件により焼成した後転写を行い、ハイブリッドセラミックス積層膜を製造することができる。
積層膜の構造や組成を焼成条件により変える方法には例えば次のような方法がある。水蒸気濃度の高い空気あるいは酸素雰囲気では、結晶成長が抑制されたきわめて微細あるいは非晶質の酸化物セラミックスナノシートとすることができる。水蒸気濃度および熱処理温度は所望の構造を得るために最適化しなければならないが、一般的に、水蒸気濃度が高くなればなるほど低温でゲル化が進行し、三次元骨格が発達し、その後さらに高温で処理してもこの骨格が維持されるので、高温まで結晶成長が抑制され、非晶質状態が維持される。
【0024】
また、ゲルナノシートを基材に転写する工程で、基材を気相側からゲルナノシートに接触させ転写した後水中に浸漬させ、基材表面に転写されたゲルナノシートの加水分解によるゲル化を均一に促進させ、生成したアルコールなどの有機成分を膜外に放出させることでゲルナノシートの多孔性などを制御し、その後乾燥、必要により焼成して構造を制御したセラミックス積層膜を製造することができる。この時の浸漬時間がゲルナノシートの多孔性を直接左右するため、所望の多孔性を得るための時間を最適化しなければならない。
【0025】
基材表面に転写したゲルナノシートの乾燥,焼成温度は所望するセラミックスの結晶構造、多孔性、組成などを実現できる温度であればよいが、本発明では、基材は、プラスチックフィルムからセラミックス基板まで、水に不溶なあらゆる材料を選択できる。したがって、転写したゲルナノシート積層膜を乾燥,焼成する温度は基材の熱特性により決定される。一般的にプラスチックフィルムの場合には高温処理ができないので、ゲルナノシートを低温で、必要により高水蒸気圧下,あるいは,減圧下で有機残渣を効率的に除去したり,熟成し、なるべく低温で所望の組成,構造を実現する必要がある。
【0026】
本発明による製造方法で転写されたゲルナノシート積層膜あるいはゲルナノシート積層膜から得られるセラミックスナノシート積層膜の組成を制御するため所定の雰囲気、温度で熱処理することができる。
特に、酸化物ゲルナノシート積層膜あるいは酸化物セラミックスナノシート積層膜を窒化物あるいは酸窒化物ナノシート積層膜とすることができる。すなわち、アンモニア雰囲気中で焼成することによって、ゲルナノシートあるいは酸化物セラミックスナノシートを窒化物あるいは酸窒化物ナノシートに転換できる。
【0027】
ゲルナノシートあるいは酸化物セラミックスナノシート積層膜のいずれを窒化するかについては所望する窒化物あるいは酸窒化物ナノシートにより異なるが、一般的に窒素含有量の高い、すなわち窒化物セラミックスナノシー積層膜にはゲルナノシート積層膜を窒化し、窒素含有量の低い、すなわち酸窒化物セラミックスナノシート積層膜には酸化物ナノシート積層膜を窒化することが望ましい。
【0028】
ゲルナノシート積層膜あるいは酸化物セラミックスナノシート積層膜を焼成する雰囲気はアンモニア雰囲気が好適であるが、酸窒化物を製造する場合など、セラミックス中の窒素含有量を制御したい場合には、窒素ガス、アルゴンガス、水素ガスなどで希釈して用いることができる。濃度は、所望する酸窒化物の窒素含有量が極めて低い場合があり、アンモニア濃度の下限値を決めることはできない。数ppm以下でも十分目的を達成できる場合がある。また原料アルコキシドの化学修飾の種類によっては窒素ガスを用いることができる場合もある。
【0029】
焼成する温度は窒化が起こる温度であればよいが、一般的にはゲルナノシートの方が低温で窒化する。通常300℃〜1500℃で焼成することが好ましい。
以上の製造方法により窒化物および酸窒化物セラミックスナノシート積層膜が製造できる。
【0030】
また、ゲルナノシート積層膜の焼成を非酸化性雰囲気で行えば、炭化物系のセラミックスナノシート積層膜が製造できる。非酸化性雰囲気としては、窒素、アルゴン、水素ガスを用いることができ、これらの混合ガス雰囲気でもよい。焼成する温度は、通常300℃〜1500℃が好ましい。
【0031】
次に本発明によりえられる、セラミックスナノシート積層膜について説明する。
本発明のセラミックスナノシート積層膜は、基材表面に実質的に厚みが10〜1000nmであるセラミックスナノシートが任意の枚数積層された構造であり、その特徴は、流動界面ゾル−ゲル法できわめて高速に製造される大面積無欠陥のゲルナノシートを基材表面に実質的に任意の枚数転写して利用でき、従来の積層膜製造法に比し、きわめて短時間にしかも組成、構造が制御された積層膜である点にある。
【0032】
従来のディップコーティングやスピンコーティングなどの湿式法では、例えばチタニアで1μmの膜厚の積層膜を得るのに、コーティングと焼成を少なくとも10回程度繰り返す必要があるが、本発明の方法では、焼成は1回でよいので、製造速度、コストは1/10以下となる。その理由は、従来法では焼成なしで次の膜を積層すると乾燥過程で剥離が起きてしまうからであった。本発明では、流動界面ゾル−ゲル法でいわゆる水面で三次元骨格を有するゲルシートが形成され、構造が定まった後これを基材に転写するので、転写後の膜には大きなストレスが発生しないと推定され、しかも、ゲルナノシートが疎水性の官能基を多く有していると考えられる気相側から、ゲルナノシートと基材間に水を一切介することなく直接接触させて転写するため、ゲルナノシートと基材間強い相互作用が働き、転写を繰り返しても剥離が生じないと推定される。
焼成後のセラミックスナノシート積層膜はテープ剥離試験においても剥がれることはない。
【0033】
図1に、流動界面ゾル−ゲル法による厚さがおよそ400nmのゲルナノシートを10回転写後焼成して得られたガラス基板上のチタニア積層膜の製造プロセスを示す。厚さはおよそ3μmであるが、均一で透明(図2にはガラスにITO導電膜をコーティングした表面に転写回数を変えて積層したチタニア積層膜の透過スペクトルを示す)、なおかつ多孔性の積層膜が得られていることがわかった。1層積層したチタニア膜でも任意の2点間で電気の導通がない、すなわち欠陥のない膜が得られていることが確認された。
【0034】
本発明のセラミックスナノシート積層膜は、流動界面ゾル−ゲルで現在作製可能なおよそ10〜1000nmの厚さのゲルナノシートを基材表面に任意枚数積層してなり、したがって、実質的に厚みがおよそ10〜1000nmであるセラミックスナノシートが任意の枚数積層された構造であり、その特徴は、流動界面ゾル−ゲル法できわめて高速に製造される大面積無欠陥のゲルナノシートを基材表面に実質的に任意の枚数転写した構造ということができる。
次に、本発明の具体例を説明するが、本発明は、これらの実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0035】
1モルのペンタエトキシタンタルを1モルの3−オキソブタン酸エチルでキレート化し、発熱がおさまってから、攪拌しながら1時間かけて1モルの水で部分加水分解を行った。さらにロータリーエバポレーターにより減圧下で60℃まで加熱し濃縮して、粘稠な生成物を得た。これにイソプロパノールあるいはイソプロパノールを加え90%溶液を調整した。
【0036】
これらの溶液をセラミックスナノシート製造装置を用いて、ノズル周囲の雰囲気を窒素雰囲気として、23℃に制御した流動する水面上に5〜20mgの液滴で正確に滴下し、ゲルナノシートを作製した。得られたゲルナノシートを直径3cmの石英ガラス基板に気相側から転写し、転写後10秒間水中に浸漬し、その後、室温で1時間乾燥した。乾燥後、大気中で、200℃/時の昇温速度で1000℃まで加熱し、1時間保持して焼成し、厚みがおよそ350nmの五酸化タンタルナノシート膜が得られた。ナノシートの構造は、回折線の半値幅からTaの結晶子サイズの大きさがおよそ23nmの結晶粒からなることが確認された。また、テープ剥離試験で膜が剥離することはなかった。
【実施例2】
【0037】
実施例1と同様の方法で、1モルのテトライソプロポキシチタンを0.6モルの3−オキソブタン酸エチルでキレート化し、発熱がおさまってから、攪拌しながら1時間かけて1モルの水で部分加水分解を行いポリマー化し、15℃に制御した流動する水面上で85%イソプロパノール溶液からゲルナノシートを作製した。透明導電性膜としてフッ素ドープ酸化スズをコーティングした1cm×2cmのガラス基板の半分と裏面をテープでマスキングし、これにゲルナノシートを気相側から転写し、転写後20秒間水中に浸漬し、その後、30℃の大気中で10分間乾燥した。この条件でさらに転写を繰り返し、ゲルナノシートを1、2、4、6枚積層したガラス基板を作製した。これらを大気中で、100℃/時の昇温速度で450℃まで加熱し、1時間保持して焼成し、厚みがおよそ350nm、700nm、1500nm、2100nmの透明なチタニアナノシート膜が得られた(図3)。ナノシートの構造は、メチレンブルー水溶液からのメチレンブルーの膜内への吸着が容易に進行する(図4)ことから極めて多孔質であることが確認された。また、いずれの積層膜もテープ剥離試験で膜が剥離することはなかった。さらに、チタニアナノシートを1層から得られた積層膜でも、任意の2点間で電気の導通がない、すなわち欠陥のない膜が得られていることが確認された。
【0038】
メチレンブルーを吸着させた積層膜にブラックライトで360nmの光照射を行ったところ、1時間でほぼ無色になり、高い光触媒活性を有していることが確認された。
【実施例3】
【0039】
ペンタエトキシタンタルのエトキシ基をブトキシ基に変換し、実施例1と同様の方法で、ポリマー化した。得られたポリマーを実施例1と同様の方法で90%溶液としてゲルナノシートを作製した。このゲルナノシートを石英ガラス基板に気相側から転写し、転写後直ちに100℃の大気中で1時間乾燥した。さらに100℃/時で1000℃まで加熱し、アンモニア気流中で1時間保持して焼成した。シートは赤色透明で、厚みは70nm程度の窒化タンタル積層膜であった。また、この積層膜はテープ剥離試験で剥離することはなかった。
【実施例4】
【0040】
実施例2と同様の方法によりテトライソプロポキシチタンをポリマー化し、2−メトキシエタノールに溶解したジエトキシバリウムを添加した。さらにロータリーエバポレーターにより減圧下で60℃まで加熱し濃縮して、粘稠な生成物を得た。これをイソプロパノールとブタナールの3:1の混合溶媒を用いて75wt%溶液を調整し、ノズル周囲の雰囲気と、水酸化バリウムを溶解してpHを14に調整し、流動界面上の雰囲気を窒素雰囲気としてゲルナノシートを作製した。得られたゲルナノシートを2cm×2cmのPt基板に気相側から転写し、転写後直ちに、50℃の窒素雰囲気中で5分間乾燥しゲルナノシートを1枚積層したPt基板を作製した。これ二酸化炭素を除去した大気中で、100℃/時の昇温速度で1000℃まで加熱し、1時間保持して焼成し、厚みがおよそ300nmの透明なチタン酸バリウムナノシート膜が得られた。この積層膜はテープ剥離試験で剥離することはなかった。さらに、任意の2点間で電気の導通がない、すなわち欠陥のない膜が得られていることが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明のゲルナノシートをガラス基板表面に転写するプロセスをチタニア積層膜を例として示す説明図である。
【図2】チタニアゲルナノシートをフッ素ドープ酸化スズをコーティングしたガラス基板に1、2、4、6、10枚積層して450℃で焼成して得たチタニアナノシート積層膜の透過スペクトルである。
【図3】チタニアゲルナノシートをフッ素ドープ酸化スズをコーティングした1cm×2cmのガラス基板に1、2、4、6枚積層して450℃で焼成して得たチタニアナノシート積層膜(写真左側)の概観写真である。
【図4】チタニアゲルナノシートをフッ素ドープ酸化スズをコーティングした1cm×2cmのガラス基板に6枚積層して450℃で焼成して得たチタニアナノシート積層膜(写真左側)にメチレンブルーを吸着させた概観写真である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
化学修飾した一種以上の金属アルコキシドを部分加水分解によりポリマー化し、このポリマーを水に対する適度な溶解性を有する溶媒を用いて所望の濃度の溶液にした後、流動界面ゾル−ゲル法でゲルナノシート化し、これを基材に転写して、必要により焼成することを特徴とするセラミックス積層膜の製造方法。
【請求項2】
流動界面ゾル−ゲル法で得られたゲルナノシートの基材への転写を繰り返すことにより積層膜の膜厚を制御することを特徴とする請求項1に記載のセラミックス積層膜の製造方法。
【請求項3】
ゲルナノシートを基材に転写する工程で、基材を気相側からゲルナノシートに接触させ転写することを特徴とする請求項1、2の何れかに記載のセラミックス積層膜の製造方法。
【請求項4】
ゲルナノシートを基材に繰り返し転写する工程で、転写したゲルナノシートを乾燥、必要により焼成して転写を繰り返すことを特徴とする請求項2、3に記載のセラミックス積層膜の製造方法。
【請求項5】
ゲルナノシートを基材に転写する工程で、基材を気相側からゲルナノシートに接触させ転写した後水中に浸漬させ、その後乾燥、必要により焼成する請求項1〜4記載のセラミックス積層膜の製造方法。
【請求項6】
請求項1〜5記載の製造方法で製造された積層膜の組成、構造を制御するため所定の雰囲気、温度で熱処理することを特徴とする請求項1〜5に記載のセラミックス積層膜の製造方法。
【請求項7】
基材上に実質的に厚みが10〜1000nmであるセラミックスナノシートを任意の枚数積層された構造であることを特徴とする請求項1〜6記載の製造方法により製造されるセラミックスナノシート積層膜。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2007−230797(P2007−230797A)
【公開日】平成19年9月13日(2007.9.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−51947(P2006−51947)
【出願日】平成18年2月28日(2006.2.28)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成16年度、経済産業省、関東第74号委託研究、産業再生法第30条の適用を受ける特許出願
【出願人】(503032588)株式会社アート科学 (12)
【出願人】(301035194)株式会社ひたちなかテクノセンター (11)
【Fターム(参考)】