説明

セラミックス電極

【課題】従来よりも電極板への通電状態が良好である電極を提供しようとするもの。
【解決手段】網状金属製の導電性基材が導電性セラミックスにより囲撓されている。網状金属製の導電性基材により導電性セラミックスの広い領域へと満遍なく通電することができる。前記導電性基材が導電性セラミックスの外部に延在するようにしてもよい。このように構成すると、導電性基材の延在部を一体的な電極端子として機能させることが出来る。前記導電性セラミックスが多孔質であることとしてもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、通電性に優れるセラミックス電極に関するものである。
【背景技術】
【0002】
以前、殺菌力を有する電解水の製造や、廃水、養殖水槽水、風呂、プール水、冷却用水、合併処理水槽水等の浄化、浄水に使用される電解装置の提案をした(特許文献1)。
すなわち、電解装置としては、機能水(アルカリイオン水や強酸性水)の生成においては、処理電流が小さなことから、陽極として導電性接着剤により電極端子が形成されたフェライト電極が使用され、電極間に隔膜を配置して電気分解を行う隔膜電解が実施されるようになっている。
また、弱酸性又は中性の殺菌、洗浄用水の生成や廃水や各種用水の浄化、殺菌においては、処理電流が大きく、前記フェライト電極を用いると、前記導電性接着剤による接合部分の抵抗が大きく、発熱、冷却が繰り返されることになり、導電性接着剤と電極端子およびフェライト電極との接合が、その熱膨張係数の違いにより外れて、その間隙に用水が浸入することにより接続抵抗が増大するとともに、前記導電性接着剤自身が耐薬品性に劣っているため、電解した用水に溶出してしまい、すぐに使用不能となる。
そのため、電極端子を溶接又はねじ加工等により形成しやすく、電気分解における溶出のある程度少ないチタン表面に白金メッキを施した白金メッキチタン電極が使用され、前記隔膜を使用しない電気分解が実施されている。
これら陽極における耐溶出性の高い金属の順位は、白金>フェライト>鉛>チタンの順であり、高価な白金が最も強いことから、これをチタン表面にメッキして前記したように陽極として使用されているが、これら白金メッキチタン電極を、処理電流を大きくし、電極に印加される電圧を大きくして使用すると、前記白金メッキが剥離し、チタンが溶出して(水素吸蔵する)陽極電極が腐食してしまうという問題がある。
これを防止するためには、電解装置によって処理される用水に、食塩等の電解質を適宜添加し、用水の電気伝導度を向上させなければならないという問題があった。
この提案は上記した問題点に着目してなされたもので、電極端子と電極板との接続抵抗が低く、かつ電気伝導度の低い用水や、用水に添加される電解質を少なくした低電気伝導度の条件下においても、大きな処理電流を長期に渡って流して電解処理できる電解装置を提供することを目的としている。
上記した問題を解決するために、この提案の電解装置は、所定の間隔にて配置された電極板間に電圧を印加して、前記電極板間に存在する用水の電気分解を行う電解装置において、少なくとも陽極の前記電極板がフェライト電極であって、このフェライト電極には少なくとも1つの孔部が形成され、前記孔部と孔部に挿入された電極端子先端部との間隙が、前記電極端子の挿入により変形する導電性の金属結合部材により埋められて、前記フェライト電極と電極端子とが導通、一体化されていることを特徴としている。
この特徴によれば、前記金属結合部材が電極端子の挿入により変形し、電極端子先端部と前記孔部との間隙が埋められるため、電極端子と電極板とを導通抵抗の著しく低い金属単体で接続でき、接続部の発熱が効果的に抑えられる。また、これら金属結合部材の熱膨張係数は、フェライト電極や電極端子の熱膨張係数とほぼ同等であり、例え発熱により膨張しても、両者間に間隙が発生せず、その接合部に用水が侵入して接続抵抗の上昇をまねくことがない。そのため、フェライト電極に長期に渡って大きな電流を流すことができるようになり、結果的に電解質等を用水に添加することなく、或いは可能な限り少ない量として電気分解処理を実施できるようになる、というものである。
しかし、それでも電極板への通電状態があまり良好ではないという問題があった。
【特許文献1】特開平11−188364号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
そこでこの発明は、従来よりも電極板への通電状態が良好である電極を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
前記課題を解決するためこの発明では次のような技術的手段を講じている。
(1)この発明のセラミックス電極は、網状金属製の導電性基材が導電性セラミックスにより囲撓されていることを特徴とする。
前記導電性基材の材質として鉄、チタン、ステンレスなどを例示することができ、その形状としてシート状の網状(メッシュ状)、円筒状の網状、円柱状の網状、角筒状の網状、角柱状の網状などを例示することができる。
前記セラミックスの材料として、ジルコニア(=二酸化ジルコニウム、ZrO2)や、イットリア(=酸化イットリウム、Y)などを例示することができる。このうち前記ジルコニア(融点2715℃、沸点4300℃)を使用すると弾力性、靭性に優れる。それにイットリアを混ぜると靭性や耐割れ性が向上することになる。アルミナ(=酸化アルミニウム、Al)を混入することにより、焼成温度を低下させることができる。なお、アルミナをあまり混入し過ぎると、割れ易くなる場合がある。
【0005】
セラミックス電極と金属(網状金属製の導電性基材)とは熱膨張率がほぼ同等であるので、相互間の乖離が発生し難い。
このセラミックス電極の形状は、シート状、円柱状、円筒状、角柱状、角筒状にすることができる。例えば、シート状で網状の導電性基材を、導電性セラミックスに埋設した構造にし、小さく薄くコンパクトにすることが出来る。前記シート状の厚みとして、例えば0.1〜1.0mm厚強に設定することができる。
前記セラミックスに導電性を付与するため、ニッケルの微粒子を混合することができる。ニッケルの微粒子を混合すると、セラミックスの焼成時の温度を下げることができる。そして、導電性基材から導電性セラミックスのニッケル微粒子等に通電され、次いで液中を通電することにより電気が流れることになる。これにより、液相に電気を流して排水を電気分解したり、液相のイオンを電気的に分離して電気透析し海水の淡水化を行ったりすることができる。
【0006】
ジルコニアやイットリアのような酸化物中にニッケルなどの導電性物質を混合・分散したこの導電性セラミックスは、酸性条件下でも、単体の金属(鉄など)より溶出し難い性質を有する。また、このセラミックス電極は、有機化合物から成る場合よりも耐久性、耐熱性、耐薬品性、耐酸性、耐アルカリ性、耐破壊性、耐ヒートショック性に優れることとなる。
この導電性セラミックスと外部の制御回路とを電気的に導通させるために、セラミックスに金属製の電極棒を立てるのではなく、網状の導電性基材を囲撓するようにしたので、セラミックス電極全体に満遍なく導電させることができる。
この導電性セラミックスは前記のように構成したので、網状金属製の導電性基材により導電性セラミックスの広い領域へと満遍なく通電することができる。
このセラミックス電極は、該電極板の端部を外部の制御機器と接続した金属体によって挟持することにより通電してもよい。
【0007】
(2) 前記導電性基材が導電性セラミックスの外部に延在するようにしてもよい。
このように構成すると、導電性基材の延在部を一体的な電極端子として機能させることが出来る。また例えば、セラミックス電極を複数枚積層して、その導電性基材の延在部にまとめて給電することができる。
【0008】
(3) 前記導電性セラミックスが多孔質であるようにしてもよい。
この多孔質の孔径として、例えば1nm、10Åに形成することができ、開孔率を適宜設定することができる。
このように多孔質(ポーラス)に構成すると、セラミックス電極にイオン透過性を付与して電気透析膜としての機能させることができる。
例えば、陽極側として印加したセラミックス電極により正イオン(例えば、ナトリウムイオン)を排斥して負イオン(例えば、塩化物イオン)のみを通過させることができ(カチオン膜として機能)、陰極側として印加したセラミックス電極により負イオンを排斥して正イオンのみを通過させることができる(アニオン膜として機能)。
【0009】
すなわち、液相の正イオンや負イオンを選択的に通過(イオン・スルー)させたり、選択的に遮断(イオン・バルブ)したりすることが出来る。
そして、これにより海水からナトリウムイオン、塩化物イオンを除去して淡水化を図ることが出来る。
【発明の効果】
【0010】
この発明は上述のような構成であり、次の効果を有する。
導電性セラミックスの広い領域へと満遍なく通電することができるので、従来よりも電極板への通電状態が良好である電極を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、この発明の実施の形態を説明する。
(実施形態1)
この実施形態のセラミックス電極は、網状金属製の導電性基材が導電性セラミックスにより囲撓されている。具体的には、網状金属製の導電性基材が導電性セラミックスにより囲撓された状態で、炉内で1000℃以上の温度で焼成することにより製造する。
このセラミックス電極は、排水や排液の電気分解による浄化、病院や医療機関における殺菌、スクラバーやクーリングタワー、空気清浄機や温冷水器の除菌、無菌室やクリーンルームの脱臭や空気清浄、その他諸々の高度処理に使用することができる。
前記導電性基材の材質として鉄、チタン、ステンレスなどの金属を例示することができ、その形状としてシート状の網状(メッシュ状)、円筒状の網状、円柱状の網状、角筒状の網状、角柱状の網状などを例示することができる。
【0012】
前記セラミックスの材料として、ジルコニア(=二酸化ジルコニウム、ZrO2)や、イットリア(=酸化イットリウム、Y)などを例示することができる。このうち前記ジルコニア(融点2715℃、沸点4300℃)を使用すると弾力性、靭性に優れる。それにイットリアを混ぜると靭性や耐割れ性が向上することになる。アルミナ(=酸化アルミニウム、Al)を混入することにより、焼成温度を低下させることができる。なお、アルミナをあまり混入し過ぎると、割れ易くなる場合がある。セラミックス電極と金属(網状金属製の導電性基材)とは熱膨張率がほぼ同等に設定すると、電気分解時に電極板が多少発熱しても相互間の乖離が発生し難い。
このセラミックス電極の形状は、シート状、円柱状、円筒状、角柱状、角筒状にすることができる。例えば、シート状で網状の導電性基材を、導電性セラミックスに埋設した構造にし、小さく薄くコンパクトにすることが出来る。前記シート状の厚みとして、例えば0.1〜1.0mm厚強に設定することができる。
【0013】
前記セラミックスに導電性を付与するため、例えばニッケルの微粒子を混合することができる。ニッケルの微粒子を混合すると、セラミックスの焼成時の温度を下げることができる。
そして、導電性基材から導電性セラミックスのニッケル微粒子等に通電され、次いで液中を通電することにより電気が流れることになる。これにより、液相に電気を流して排水を電気分解したり、液相のイオンを電気的に分離して電気透析し海水の淡水化を行ったりすることができる。
また、前記導電性基材の一部が導電性セラミックスの外部に延在するようにしている。例えば、セラミックス電極をスペーサーを介して複数枚積層し、その導電性基材の延在部にまとめて給電することができる。なお、前記のような延在部を設けず、このセラミックス電極の該電極板の端部を外部の制御機器と接続した金属体によって挟持することにより通電してもよい。
【0014】
次に、この実施形態のセラミックス電極の使用状態を説明する。
この導電性セラミックスは前記のように構成したので、網状金属製の導電性基材により導電性セラミックスの広い領域へと満遍なく通電することができ、従来よりも電極板への通電状態が良好であるという利点を有する。
また、ジルコニアやイットリアのような酸化物中にニッケルなどの導電性物質を混合・分散したこの導電性セラミックスは、酸性条件下でも、単体の金属(鉄など)より溶出し難い性質を有する。さらに、このセラミックス電極は、有機化合物から成る場合よりも耐久性、耐熱性、耐薬品性、耐酸性、耐アルカリ性、耐破壊性、耐ヒートショック性に優れることとなる。
【0015】
そして、この導電性セラミックスと外部の制御回路とを電気的に導通させるために、セラミックスに金属製の電極棒を立てるのではなく、網状の導電性基材を囲撓するようにしたので、セラミックス電極全体に満遍なく導電させることができるという利点を有する。
また、前記導電性基材が導電性セラミックスの外部に延在するようにしたので、導電性基材の延在部を一体的な電極端子として機能させることが出来るという利点を有する。
【0016】
(実施形態2)
この実施形態では、排水・排液に食塩などの電解質を添加し電気分解することにより、液中に次亜塩素酸やヒドロキシラジカルを生成させ、その酸化作用により汚れ物質を分解・浄化せしめると共に、電気分解時に陽極から塩素ガスが発生し、陰極から水素ガスが発生するが、前記水素ガスを回収して燃料電池に供給して発電するようにした。
すなわち、排水・排液を電気分解すると、その陰極側で水(H2O)が還元されて水素ガス(H2)が発生し水酸基(OH)が生成するが、前記水素ガス(H2)を燃料電池の燃料として利用する。ここで、水が陰極で還元される化学式は次の通りである。
H2O+2e→H2↑+2OH
【0017】
排水・排液の電気分解による浄化では、陽極表面で塩化物イオン(Cl)が酸化されて塩素(Cl2)が生成し、この塩素(Cl2)が水(H2O)と反応することにより、次亜塩素酸(HOCl)と塩酸(HCl)とが生成する。これらの化学式は次の通りである。
2Cl→Cl+2e
Cl+
H2O→HOCl+ HCl
【0018】
そして、排水・排液中の汚れ成分(有機化合物など)は、次亜塩素酸(HOCl)により酸化分解されていくことになり、これにより排水・排液が浄化されていく。
また、燃料電池で発電する際の高温(700〜1200℃)の余熱を排水・排液に及ぼしてこれを分解・蒸発せしめるようにしてもよい。
【0019】
(実施形態3)
この実施形態では、前記導電性セラミックスが多孔質(ポーラス)であるようにした(電気透析による海水等の淡水化)。この多孔質の孔径として、例えば1nm、10Åに形成することができ、開孔率は適宜設定することができる。
このようにセラミックス電極を多孔質に構成したので、電極板にイオン透過性を付与して電気透析膜としての機能させることができる。
ここで、この実施形態では、対向する正負のセラミックス電極に沿って電極間の通路に液体を流す(実施形態1、2)のではなく、セラミックス電極に直行して液体を電極板の膜を透過させる方向に垂直に流すことになる。
【0020】
そして、陽極側として印加したセラミックス電極により正イオン(例えば、ナトリウムイオン)を排斥して負イオン(例えば、塩化物イオン)のみを通過させ(カチオン膜として機能)、陰極側として印加したセラミックス電極により負イオンを排斥して正イオンのみを通過させることができる(アニオン膜として機能)。
すなわち、液相の正イオンや負イオンを選択的に通過(イオン・スルー)させたり、選択的に遮断(イオン・バルブ)したりすることが出来る。そして、これにより海水からナトリウムイオン、塩化物イオンを除去して淡水化を図ることが出来る。
【産業上の利用可能性】
【0021】
従来よりも電極板への通電状態が良好であることによって、種々のセラミックス電極の用途(排水処理、空気清浄、電気透析など)に適用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
網状金属製の導電性基材が導電性セラミックスにより囲撓されていることを特徴とするセラミックス電極。
【請求項2】
前記導電性基材が導電性セラミックスの外部に延在するようにした請求項1記載のセラミックス電極。
【請求項3】
前記導電性セラミックスが多孔質である請求項1又は2記載のセラミックス電極。

【公開番号】特開2013−53348(P2013−53348A)
【公開日】平成25年3月21日(2013.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−192637(P2011−192637)
【出願日】平成23年9月5日(2011.9.5)
【出願人】(399049981)株式会社オメガ (70)
【Fターム(参考)】