説明

セラミックハニカムフィルタの製造方法、セラミックハニカムフィルタ

【課題】閉塞性を高めることによってフィルタとしての充分な効果を得る。
【解決手段】この構造体を第1スラリー100から引き上げれば、粘度の高い第1スラリー100は、図1(d)に示されるように、マスク材20が形成されていない流通路における開口部を閉塞するように残された状態となる。その後、加熱して乾燥を行い第1スラリー100中の液体成分(水等)を蒸発させて第1封止材とする(第1乾燥工程)。その後、図1(f)に示されるように、マスク材20を除去する(マスク除去工程)。この状態で、乾燥した第1封止材100の上から、第1封止工程で用いた第1スラリー100よりも低粘度の第2スラリー110を塗布する(第2封止工程)。図1(h)に示されるように、第1封止材100、第2封止材110が焼成されることによって、それぞれ第1焼結体120、第2焼結体130となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガス(排気ガス)の浄化に用いられるセラミックハニカムフィルタの製造方法に関する。また、この製造方法によって製造されたセラミックハニカムフィルタに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ガソリンエンジンと比べて燃費が良好でかつCO排出量が少ないディーゼルエンジンは国際的にも新たに注目されている。しかしながら、ディーゼルエンジンの排気ガス中には、PM(Particulate Matter:粒子状物質)とNOx(窒素酸化物)が多いという問題点がある。エンジン単体の技術でPMやNOxを減少させる努力も行われているものの、その効果は不充分である。このため、排気ガスにおけるPMやNOxを除去するためのフィルタが常時使用される。
【0003】
このフィルタとしては、セラミックハニカムフィルタが広く用いられている。セラミックハニカムフィルタ(フィルタ)の構造は、例えば特許文献1に記載されている。図3(a)はこの構造におけるガス流通方向に沿った断面図である。また、図3(b)はそのA−A方向における断面図、図3(c)はそのB−B方向における断面図であり、これらはガスの流通方向に沿った異なる位置でのガスの流通方向に垂直な断面図となっている。
【0004】
この構造においては、隔壁90で仕切られた多数の流通路が隣接して平行に設けられ、図中左側から右側に、白矢印で示されるように左側から右側にガス(排気ガス:流体)が流れる構成とされる。隔壁90は、多孔質のセラミックスで構成される。ここで、隣接する2つの流通路において、一方の流通路においては入口側(左側)に流入口側封止材91が設けられ、他方の流通路においては出口側(右側)に流出口側封止材92が設けられる。この構成により、隣接する2つの流通路のうちの一方は、流体の流入側が封止されかつ流体の流出側は封止されない流出側セルとして機能する。また、他方は、流入側が封止されず流出側が封止された流入側セルとして機能する。流入口側封止材91、流出口側封止材92の材料としては、隔壁90と同様にセラミックスを用いることができる。
【0005】
この構成においては、流入側セルの入口側(左側)からガスが進入し、その中を流れる。しかしながら、この流入側セルの出口側は封止されているため、ガスは隔壁90を通って隣接する流通路(流出側セル)に流れる。流出側セルにおいては、入口側が封止され、出口側は封止されないため、ガスが出口側から外部に流れる。この構成において、隔壁90を多孔質のセラミックスで形成すれば、隔壁90を、PMを捕集するフィルタとして使用することができる。
【0006】
一方、流通路の表面(隔壁90の表面)に触媒を塗布することにより、NOxを塩の形態に変化させてフィルタ内に溜め込む、あるいは化学反応を発生させて他の形態に変化させて排気ガスから除去することができる。すなわち、図3の構成のセラミックハニカムフィルタを用いて、PM、NOxの除去を効率的に行うことができる。
【0007】
図3の構成のフィルタの製造方法は、例えば特許文献2に記載されている。この製造方法においては、図3の構造における流入口側封止材91、流出口側封止材92が形成される前の構造体を製造し、その後で流入口側封止材91、流出口側封止材92を形成する。ここで、この構造体は、原料(セラミックスの原料で構成された坏土)を金型に通す押出成形によってこの形状とされた成形体を容易に得ることができる。その後、この成形体を乾燥、切断、焼成してこの構造体が得られる。
【0008】
その後、この構造体における流入口、流出口側をマスク材によって部分的に閉塞する。例えば流入口側封止材91を形成する際には、流出側セルの流入口側がこのマスク材によって閉塞される状態とする。このようにマスク材が形成された構造体の流入口あるいは流出口側の端部を、流入口側封止材91、流出口側封止材92を構成するセラミックスの原料からなるスラリー(液体)中に浸漬する。これにより、スラリーは、マスク材が形成されていない流通路を封止する形態で構造体中に残される。その後、マスク材を除去して乾燥、焼成工程を行うことによって、このスラリーを焼結させたセラミックスを流入口側封止材91、流出口側封止材92とすることができる。
【0009】
この際、流入口側封止材91、流出口側封止材92を構成するセラミックス中に欠陥、例えば開口等が存在した場合、これらによる流通路の封止が不充分となるため、フィルタの効果が不充分となる。特許文献2に記載の技術においては、上記の構造体をスラリーから取り出す際の手順を工夫することによって、流入口側封止材91、流出口側封止材92中の欠陥が少なくされる。
【0010】
また、特許文献3には、流入口側封止材91や流出口側封止材92を構成するセラミックスと隔壁90との間の密着性を高めるための構造が記載されている。
【0011】
こうした技術を用いて、PMやNOxの除去を高効率で行うことのできるフィルタを得ることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2006−116483号公報
【特許文献2】特開2006−272183号公報
【特許文献3】特開2009−240864号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
しかしながら、特許文献2、3に記載の技術を用いた場合でも、流入口側封止材や流出口側封止材による流通路の封止を充分に行うことは困難であった。
【0014】
上記の方法によって流入口側封止材91あるいは流出口側封止材92が形成される際の状況を模式的に図4に示す。ここでは、隔壁90間に流入口側封止材91が形成される際の断面が示されている。まず、前記の通り、流入口側封止材91の原料となる液状のスラリー200が構造体における流入口端部(上端部)において形成される。ここで、スラリー200は、セラミックス原料粉末、バインダー、水等からなる液状であるが、隔壁90で囲まれた開口部は狭いため、スラリー200自身の粘度により上端部におけるこの開口部は、図4(a)に示されるように、スラリー200で封止された状態となる。
【0015】
その後、流入口側封止材91を得るためには、乾燥、焼成を行う必要がある。この乾燥の際に、スラリー200は収縮をする。このため、図4(b)に示されるように、乾燥したスラリー200と隔壁90との間に矢印で示す空隙が形成される。その後、焼成を行うことにより乾燥したスラリー200が隔壁90に固着し、図4(c)に示されるように流入口側封止材91が形成される。この際、流入口側封止材91と隔壁90との間に、上記したように、乾燥で空隙が発生した場合は、焼成においても空隙が残存する場合がある。この空隙が存在する場合には、流入口側封止材91による流通路の封止が不充分となるために、フィルタとしての性能を示すPM捕集率が小さくなることは明らかである。
【0016】
すなわち、セラミックスで開口部を封止させた構成を具備するセラミックハニカムフィルタにおいて、この封止性を高めることによってフィルタとしての高いPM捕集率を得ることは困難であった。
【0017】
本発明は、かかる問題点に鑑みてなされたものであり、上記の問題点を解決する発明を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明は、上記課題を解決すべく、以下に掲げる構成とした。
本発明のセラミックハニカムフィルタの製造方法は、多孔質の隔壁で囲まれ流体を流通させる複数の流通路が隣接して平行に設けられた構造体の、前記流通路のうちの一部における一方の開口端部が封止材で封止され、残余の流通路が前記一方の開口端部とは反対側の開口端部が封止材で封止された構成を具備するセラミックハニカムフィルタの製造方法であって、前記封止材を形成するセラミックス原料で構成された第1スラリー中に、前記構造体の一方の端面を浸漬した後に取り出すことによって、前記一方の開口端部を前記第1スラリーで封止する第1封止工程と、前記第1スラリーを乾燥させて第1封止材とする第1乾燥工程と、前記第1乾燥工程後の前記第1封止材端面上に、前記第1スラリーよりも低粘度であるセラミックス原料で構成された第2スラリーを塗布する第2封止工程と、前記第2スラリーを乾燥させて第2封止材とする第2乾燥工程と、前記第1封止材及び前記第2封止材を焼成する焼成工程と、を具備することを特徴とする。
本発明のセラミックハニカムフィルタの製造方法は、前記第1封止工程の前に、封止すべき流通路以外の流通路における開口にマスク材を形成するマスク形成工程を具備し、前記第1乾燥工程の後に、前記マスク材を除去するマスク除去工程を具備することを特徴とする。
本発明のセラミックハニカムフィルタの製造方法は、前記第1乾燥工程において除去される前記第1封止材中の水分を50%以下とし、前記第1乾燥工程と前記第2封止工程の間に、前記マスク材の上に残存した前記第1封止材を、前記封止すべき流通路の開口に押し込む工程を行った後で、前記マスク除去工程を行うことを特徴とする。
本発明のセラミックハニカムフィルタは、前記セラミックハニカムフィルタの製造方法によって製造されたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
本発明は以上のように構成されているので、セラミックスで開口部を封止させた構成を具備するセラミックハニカムフィルタにおいて、この封止性を高めることによってフィルタとしての高いPM捕集率を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の実施の形態に係るセラミックハニカムフィルタの製造方法を示す工程断面図である。
【図2】本発明の実施の形態に係るセラミックハニカムフィルタの製造方法における、第2スラリーの形態の他の例を示す図である。
【図3】従来のセラミックハニカムフィルタの構造を示す断面図である。
【図4】従来のセラミックハニカムフィルタの製造方法の問題点を示す工程断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明について具体的な実施形態を示しながら説明する。ただし、本発明はこれらの実施形態に限定されるものではない。このセラミックハニカムフィルタの製造方法によって、図3に記載の構造を具備するセラミックハニカムフィルタ(フィルタ)が製造される。この製造方法によって、特に流入口側封止材91や流出口側封止材92による流通路の封止性が高まる。これによってフィルタとしての効果をより高めることができる。
【0022】
ここでは、まず、図3の構造において流入口側封止材91、流出口側封止材92が形成されていない状態の構造体が製造される。この構造体を形成する方法は特許文献1、2に記載の技術と同様である。すなわち、隔壁90を構成するセラミックスの原料からなる坏土が、金型を用いた押出成形によって成形体とされる。この成形体が乾燥、焼成されてこの構造体とされる。
【0023】
この構造体に対して、流入口側封止材91を形成する工程について以下に説明する。なお、流出口側封止材92を製造する工程についても同様であるため、以下では流入口側封止材91を形成する工程について説明する。図1(a)〜(h)は、この製造方法を示す工程断面図である。
【0024】
まず、図1(a)にその断面が示される前記の構造体が形成される(流通路形成工程)。この断面は、図3におけるガスが流れる方向に沿った断面である。ここに示された流通路中においては、図中下側から上側にガスが流されるものとする。この状態では、隔壁90は焼成後のセラミックスで構成されている。また、図中下側の開口部に流入口側封止材91が形成されるものとする。
【0025】
次に、図1(b)に示されるように、図中下側において、流通路を1個おきに封止するように、マスク材20を形成する(マスク形成工程)。マスク材20としては、例えば樹脂材料等で構成されたものを用いることができる。ここでは、図中の下面側全面にマスク材20を貼り付けて、その後でレーザー加工等の方法によって流通路を1個おきに開口することによって図1(b)の形態とすることが可能である。
【0026】
次に、図1(c)に示されるように、この状態で、マスク材20が形成された下面側を第1スラリー100に中に浸漬する(第1封止工程)。ここで、第1スラリー100としては、これを乾燥・焼成することによって流入口側封止材91とすることのできるものが用いられる。例えば、シリカ(SiO)12質量%、タルク(3MgO・4SiO・HO)41質量%、カオリン(Al・2SiO・2HO)19質量%、アルミナ(Al)19質量%、水酸化アルミニウム(Al・3HO)9質量%とした粉末材料100質量%に対して、発泡済み発泡樹脂10重量%、バインダー1質量%、分散剤1質量%、水55質量%を混合したものが用いられる。第1スラリー100の粘度は25℃(常温)において50〜500Pa・s程度が好ましい。この粘度は水の配合や混合の状況によって適宜設定することが可能である。第1スラリー100の粘度が25℃(常温)において50Pa・s未満の場合、スラリーの粘度が低すぎてスラリーを浸漬した後、流路にスラリーが残留せず封止材が形成されない場合がある。一方、500Pa・sを超えると、スラリーの粘度が高すぎてスラリーを流路に浸漬し難くなり封止材が形成されない場合がある。
【0027】
その後、この構造体を第1スラリー100から引き上げれば、粘度50〜500Pa・sの第1スラリー100は、図1(d)に示されるように、マスク材20が形成されていない流通路における開口部を封止するように残された状態となる。第1スラリー100の粘度は、この状態が実現できるように調整される。
【0028】
その後、加熱して乾燥を行い第1スラリー100中の液体成分(水等)を蒸発させて第1封止材とする(第1乾燥工程)。この乾燥条件は、例えば120℃で4min程度とし、例えばホットプレートを用いて行うことができる。この結果、第1封止材100が隔壁90間で固化するが、この際に、第1封止材100は収縮するため、図1(e)に示されるように、乾燥した第1封止材100と隔壁90との間に空隙が形成される場合がある。なお、図1(e)以降は、図1(d)までとは上下を逆にし、かつ、隣接する2個の流通路についてのみ表示している。
【0029】
その後、図1(f)に示されるように、マスク材20を除去する(マスク除去工程)。この除去は機械的に行うことが可能である。なお、この際に、マスク材20の上に残存した第1封止材100も同時に除去される。
【0030】
この状態で、乾燥した第1封止材100の上から、第1封止工程で用いた第1スラリー100よりも低粘度の第2スラリー110を塗布する(第2封止工程)。この際に用いられる第2スラリー110としては、第1スラリー100と粉末成分は同様であるが、粘度が第1スラリー100と異なるものを用いることができる。例えば、シリカ(SiO)12質量%、タルク(3MgO・4SiO・HO)41質量%、カオリン(Al・2SiO・2HO)19質量%、アルミナ(Al)19質量%、水酸化アルミニウム(Al・3HO)9質量%とした粉末材料100質量%に対して、発泡済み発泡樹脂10質量%、バインダー1質量%、分散剤1質量%、水800質量%を混合したものが用いられる。第2スラリー110の粘度は25℃(常温)において0.005〜5.0Pa・s程度が好ましい。この粘度は第1スラリー100よりも低い。このため、図1(g)に示されるように、開口された流通路80(第1封止材100が残存していない流通路)を封止させることなしに、薄い塗布膜厚で、隔壁90の上端部と乾燥した第1封止材100の上部にのみ第2スラリー110が残存する形態とすることができる。この際、第2スラリー110を、乾燥した第1封止材100と隔壁90の間の空隙上に塗布し、この空隙中に充填することも可能である。塗布する方法としては、粘度が低いために、刷毛やペンキローラー等を用いることができる。第2スラリー110の粘度が25℃(常温)において0.005Pa・s未満の場合、スラリーの粘度が低すぎて、第1スラリー100と隔壁の間に生じた空隙が閉塞されない場合がある。一方、5.0Pa・sを超えると、スラリーの粘度が高すぎて、開口された流通路に第2スラリー110が塗布されて、PM捕集性能が低下する場合がある。
【0031】
その後、塗布された第2スラリー110を乾燥させて第2封止材とする(第2乾燥工程)。この際、第1封止材100は、第1乾燥工程において除去されずに残った水分が除去されて乾燥されるが、乾燥の際に更に収縮して、隔壁との間に空隙が生じる場合がある。しかし、第1封止材100と隔壁90との間の空隙上に塗布された第2スラリー110が乾燥することで、流通路が閉塞され、PM捕集性能が良好となる。なお、第2スラリー110も乾燥の際に収縮をするものの、例えば乾燥した第1封止材100と隔壁90の間の空隙中における第2スラリー110は極めて薄いため、その絶対的な収縮量は極めて小さくなる。このため、第2封止材110と隔壁90との隙間は生じ難く、流通路の閉塞が良好になされる。
【0032】
第2乾燥工程における乾燥条件は、この後で焼成を行うために、第1乾燥工程よりも高温、長時間とすることが好ましく、例えば熱風循環式乾燥炉を用いて150℃、4時間程度とすることができる。
【0033】
その後、乾燥した第1封止材100、第2封止材110の焼成を行う(焼成工程)。図1(h)に示されるように、図1(g)における第1封止材100、第2封止材110が焼成されることによって、それぞれ第1焼結体120、第2焼結体130となる。図1(h)中の右側の流通路81において、第1焼結体120と第2焼結体130とが合体して流入口側封止材91が形成される。この流入口側封止材91と隔壁90との間には空隙は形成されないため、流通路の閉塞性が高くなる。一方、左端の隔壁90上にも薄く形成された第2スラリー110に対応して第2焼結体130が形成されるが、これによって覆われる流通路の開口の面積は小さいため、この第2焼結体130がフィルタの特性に悪影響を及ぼすことはない。
【0034】
なお、第2封止工程後の第2封止材(第2スラリー)110の形態は、図1(g)の形態以外にも、図2(a)(b)に示すような形態となる場合もある。図2(a)においては、上端部のみに第2封止材110が形成され、図2(b)においては、第1封止材100と隔壁90との間の空隙においても充填される。こうした形態は、第2スラリー110の粘度等の調整によって適宜選択することができる。いずれの場合においても、第2焼結体130は第2封止工程後の第2封止材110と同様の形態となり、第1焼結体120と隔壁90との間の空隙が封止される。
【0035】
なお、上記の例では流入口側封止材91を形成する場合について記載したが、流出口側封止材92を形成する場合についても同様に行うことが可能である。この場合には、例えば、流入口側封止材91を形成する際の第1封止工程と流出口側封止材92を形成する際の第1封止工程とを別々に行った後で、同時に第1乾燥工程を行うことができる。更に、流入口側封止材91を形成する際の第2封止工程と流出口側封止材92を形成する際の第2封止工程とを別々に行った後で、同時に第2乾燥工程、焼成工程を行うことが可能である。
【0036】
すなわち、上記の製造方法を用いて、セラミックスで開口部を封止させた構成を具備するセラミックハニカムフィルタにおいて、その封止性を高めることにより、フィルタとしての高いPM捕集率を得ることができる。
【0037】
なお、第1乾燥工程において第1封止材100中で除去される水分を50%以下とすれば、第1乾燥工程後における第1封止材100は充分に固化していない状態となる。この時、マスク材20の上にも第1封止材100は残存することがあり、マスク材20の上に残された第1封止材100を開口した流通路に図1(e)における上面側から押し込むことにより、流通路における第1封止材100と隔壁90の間の空隙を小さくすることが可能であり、この後の工程で、第2スラリーを塗布した際に、流通路の封止性がより良好となる。
【0038】
なお、上記実施の形態では、構造体を形成する方法として、隔壁を構成するセラミックスの原料からなる坏土を、金型で押出成形して成形体とし、この成形体を乾燥、焼成してこの構造体とし、その後、流入側封止材、流出側封止材を形成する工程を示した。しかしながら、押出成形して成形体を得た後、乾燥後の構造体に流入側封止材、流出側封止材を形成し、その後構造体と封止材とを同時に焼成することも可能である。
【0039】
(実施例)
実際に、上記の製造方法を用いてセラミックハニカムフィルタを製造し、その特性を調べた。以下ではその結果について説明する。
【0040】
実施例、比較例においては、原料粉末として、カオリン、タルク、シリカ、アルミナなどの粉末を調整して、質量比で、SiO:51%、Al:35%、MgO:14%を含むコーディエライト生成原料粉末が用いられた。これにメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース等のバインダー、潤滑剤、造孔材として発泡済み樹脂を添加し、乾式で十分混合した後、規定量の水を添加、十分な混練を行って可塑化したセラミック杯土を作成した。次に、押出し成形用金型を用いて坏土を押出し成形し、切断して、直径270mm×長さ300mmの成形体とした。次に、この成形体を、乾燥、焼成させ、隔壁の厚さが0.3mm、気孔率が63%、平均細孔径が21μmとされ、セルピッチが1.5mmとされた焼成済みコーディエライト質セラミックハニカム構造体を得た。
【0041】
実施例1〜11、比較例1、2、3では、上記の焼成済みコーディエライト質セラミックハニカム構造体に対して、上記の第1封止工程〜焼成工程を行った。すなわち、図1における構造体(隔壁90)第1封止工程以降を行い、第1焼結体、第2焼結体を得るための焼成工程を最後に行った。
【0042】
また、第1封止工程における第1スラリー、第2封止工程における第2スラリーの粘度を変えた試料を作成した。また、第1乾燥工程において乾燥条件を変更して水分量も変化させ、その後にマスク材上の第1封止材を押し込む工程も行った。
【0043】
ここでは、セラミックハニカムフィルタの特性として、空気に混入されたカーボン粉の捕集率を測定した。このため、圧力損失テストスタンドを用い、流量が10Nm/minの空気に対して、粒径0.042μmのカーボン粉を3g/hourの投入速度で混合した気体を作成した。各セラミックハニカムフィルタにこの気体を通過させ、各セラミックハニカムフィルタに流入したカーボン粉の1分当たりの粒子数と、各セラミックハニカムフィルタから流出したカーボン粉の1分当たりの粒子数を、SMPS(Scanning Mobility Particle Scizer:TSI社(米国)製、モデル3936)を用いて測定した。ここでは、捕集率は、投入開始後20〜21分の間におけるセラミックハニカムフィルタに流入した粒子数をNin、流出した粒子数をNoutとして、(Nin−Nout)/Ninとして算出した。従来の標準条件である比較例1の捕集率を基準として、4%以上改善された場合を◎、2%以上4%未満改善された場合を○、2%未満改善された場合を△、改善されなかった場合(改善率≦0%)を×とした。
【0044】
実施例12、13では、実施例1と同様に成形した直径270mm×長さ300mmの成形体を乾燥した乾燥体(未焼成)に対して、第1封止工程、〜第2乾燥工程を行った。その後にこのセラミックハニカム構造体を焼成して(焼成工程)、隔壁の厚さが0.3mm、気孔率が63%、平均細孔径が21μmとされ、セルピッチが1.5mmとされたコーディエライト質セラミックハニカムフィルタを得た。すなわち、図1における構造体(隔壁90)を焼成前の乾燥体として第1封止工程以降を行い、最後の焼成工程において第1焼結体、第2焼結体を得ると同時に、隔壁もコーディエライト質セラミックとしている。評価は実施例1等と同様に行った。
【0045】
【表1】

【0046】
この結果、第1封止材を押し込む工程の有無に関わらず、全ての実施例で捕集率の改善が確認された。また、焼成前の乾燥体に対して第1封止工程等を行った実施例12、13においても、第1封止材を押し込む工程の有無に関わらず、捕集率の改善が確認された。逆に、第2封止工程等を行わなかった比較例2では、第1封止材を押し込む工程を行ったにも関わらず、捕集率の改善は見られなかった。第1スラリーの粘度が第2スラリーの粘度よりも低い例である比較例3では、第2封止材が開口すべき流通路にも形成されたため捕集率が改善されなかった。
【0047】
以上より、本発明のセラミックハニカムフィルタにおいては捕集率が向上することが確認された。
【0048】
なお、上記の例において、流入口側封止材等の材料は、乾燥した封止材を焼成して形成でき、かつ流通路を閉塞させることのできるものであれば、同様に用いることができることは明らかである。また、上記の例では、第1スラリーの主原料(粉末成分)と第2スラリーの主原料(粉末成分)として同様の組成を用いたが、異なる組成を用いることも可能である。
【0049】
また、マスク材を使用せずに部分的に流通路をスラリーで封止させることができれば、マスク材(マスク形成工程、マスク除去工程)は不要である。
【0050】
また、流通路の断面形状を矩形形状としたが、この断面形状も、セラミックハニカムフィルタとして使用できる限りにおいて任意である。
【0051】
また、流入口側封止材等が形成される前の構造体の製造方法についても、同様の構成の構造体が製造できる限りにおいて、任意である。
【0052】
また、流通路のうちの一部における一方の開口端部が封止材で封止され、残余の流通路前記一方の開口端部とは反対側の開口端部が封止材で封止された構成を具備するセラミックハニカムフィルタの製造方法について説明したが、構造体の外周近傍に配置された流通路の断熱性を高めるため、該流通路の両方の開口端部が封止材で封止されていても構わない。
【符号の説明】
【0053】
20 マスク材
80、81 流通路
90 隔壁
91 流入口側封止材
92 流出口側封止材
100 第1スラリー(第1封止材)
110 第2スラリー(第2封止材)
120 第1焼結体
130 第2焼結体
200 スラリー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多孔質の隔壁で囲まれ流体を流通させる複数の流通路が隣接して平行に設けられた構造体の、前記流通路のうちの一部における一方の開口端部が封止材で封止され、残余の流通路が前記一方の開口端部とは反対側の開口端部が封止材で封止された構成を具備するセラミックハニカムフィルタの製造方法であって、
前記封止材を形成するセラミックス原料で構成された第1スラリー中に、前記構造体の一方の端面を浸漬した後に取り出すことによって、前記一方の開口端部を前記第1スラリーで封止する第1封止工程と、
前記第1スラリーを乾燥させて第1封止材とする第1乾燥工程と、
前記第1乾燥工程後の前記第1封止材端面上に、前記第1スラリーよりも低粘度であるセラミックス原料で構成された第2スラリーを塗布する第2封止工程と、
前記第2スラリーを乾燥させて第2封止材とする第2乾燥工程と、
前記第1封止材及び前記第2封止材を焼成する焼成工程と、
を具備することを特徴とするセラミックハニカムフィルタの製造方法。
【請求項2】
前記第1封止工程の前に、封止すべき流通路以外の流通路における開口にマスク材を形成するマスク形成工程を具備し、
前記第1乾燥工程の後に、前記マスク材を除去するマスク除去工程を具備することを特徴とする請求項1に記載のセラミックハニカムフィルタの製造方法。
【請求項3】
前記第1乾燥工程において除去される前記第1封止材中の水分を50%以下とし、
前記第1乾燥工程と前記第2封止工程の間に、前記マスク材の上に残存した前記第1封止材を、前記封止すべき流通路の開口に押し込む工程を行った後で、前記マスク除去工程を行うことを特徴とする請求項2に記載のセラミックハニカムフィルタの製造方法。
【請求項4】
請求項1から請求項3までのいずれか1項に記載のセラミックハニカムフィルタの製造方法によって製造されたことを特徴とするセラミックハニカムフィルタ。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−49009(P2013−49009A)
【公開日】平成25年3月14日(2013.3.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−188188(P2011−188188)
【出願日】平成23年8月31日(2011.8.31)
【出願人】(000005083)日立金属株式会社 (2,051)
【Fターム(参考)】