説明

セラミックハニカム構造体の検査方法

【課題】 セラミックハニカム構造体の隔壁に変形が生じていても、クラックが生じた製品と良品とを容易に判別することができる非破壊で検査する方法を提供する。
【解決手段】 外周壁とこの外周壁の内側で隔壁により囲まれた流路を有する多孔質セラミックハニカム構造体の検査方法であって、音響信号の発信側探触子と受信側探触子とが隔壁方向と一致するように配置された第1の探触子と、前記隔壁方向と略直交する隔壁方向と一致するように配置された第2の探触子とを前記外周壁に当接し、前記セラミックハニカム構造体の流路方向の複数箇所で音響信号を受信し、前記第1の探触子での受信値の最大値U1maxと最小値U1minとの比U1=(U1max-U1min)/U1max、及び、前記第2の探触子での受信値の最大値U2maxと最小値U2minとの比U2=(U2max-U2min)/U2maxを、予め設定した値U0と比較することで、欠陥の有無を検査する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関の排気ガスを浄化する排気ガス浄化装置に用いられるセラミックハニカム構造体の欠陥を非破壊で検査する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
内燃機関の排気ガスを浄化する排気ガス浄化装置には、排気ガス浄化用触媒担体や微粒子捕集用フィルタ等が使用され、これらにはハニカム構造のセラミックハニカム構造体が用いられている。このセラミックハニカム構造体は、多孔質セラミックからなり、図3にその一例を示すように、外周壁1と、この外周壁1の内側に各々直交する隔壁2で仕切られた多数の流路3、4を有している。また、微粒子捕集用フィルタとして用いられる場合には、排気ガスの流入側7と流出側8において、流路3、4の端面もしくは流路途中が交互に封止部5、6で封止されている。
【0003】
このセラミックハニカム構造体10は、セラミック原料を混合、混練して粘土質素材とし、この粘土質素材をハニカム状に押出し成形後、乾燥、焼成して得られる。そして、乾燥時や焼成時の温度の不均一等の理由で、セラミックハニカム構造体の内部の隔壁にクラックが生じることがある。クラックが生じると、排気ガス浄化用触媒担体や微粒子捕集用フィルタとしての機能や強度が低下してしまうため、セラミックハニカム構造体の内部の隔壁に生じたクラックを非破壊で検出する必要がある。
【0004】
特許文献1には、セラミックハニカム構造体に音響信号を入射し、セラミックハニカム構造体を伝播した音響信号を受信する探触子と、探触子で受信した音響信号の情報に基づいてセラミックハニカム構造体の欠陥の有無を判別する情報処理手段とを有する検査装置が開示されている。そして、受信情報の受信強度(受信値)が基準情報(閾値)より低い場合には、セラミックハニカム構造体にクラックがあると判別するとしている。
【0005】
特許文献2には、セラミックス体の一面から超音波を入射し、反対側の面で透過した超音波の受信値との差である減衰量を測定し、得られた減衰量をセラミックス体の各部において比較することで、欠陥の有無を検出するセラミックスの評価方法が記載されている。そして、セラミックス体の内部に欠陥が存在する部分では超音波の受信値が小さくなるので減衰量が大きくなるとしている。
【0006】
特許文献3には、基準の砥石から得られた第1の受信信号のフーリエ変換により生成された第1のスペクトルと、検査用砥石から得られた第2の受信信号のフーリエ変換により生成された第2のスペクトルとの差分、もしくは、比を求め、少なくとも一部の周波数領域内の差分、もしくは、比の総計値を求め、この総計値にもとづいて、検査用砥石内部のクラックの存在の有無を判定する検査方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2004−151078公報
【特許文献2】特開昭63−233368号公報
【特許文献3】特開平5−26851号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1に記載されている、受信情報の受信強度(値)が基準情報(閾値)より低い場合にクラックがあると判別する方法では、次のような問題があった。すなわち、セラミックハニカム構造体の場合、超音波は薄い隔壁部を伝搬するため、隔壁に変形が生じている箇所では受信値が低下することがある。特に、微粒子捕集用フィルタ等に好適に用いられる大型のセラミックハニカム構造体では、成形時や乾燥時に隔壁が変形している場合があり、隔壁が変形していると、隔壁にクラックが無くても受信値が低下し、良品であっても閾値を下回った場合にクラックが有ると誤って判別する場合があった。
【0009】
特許文献2に記載されている、得られた減衰量をセラミック体の各部において比較する方法では、次のような問題があった。すなわち、セラミックハニカム構造体の場合、超音波は薄い隔壁部を伝搬するため、隔壁に変形が生じている箇所では、受信値が低下することがあるので減衰量が大きくなる。特に、微粒子捕集用フィルタ等に好適に用いられる大型のセラミックハニカム構造体では、成形時や乾燥時に隔壁が変形している場合があり、隔壁が変形していると、隔壁にクラックが無くても受信値が低下するので、良品であっても減衰量が大きくなり、得られた減衰量をセラミック体の各部において比較するだけではクラックが有ると判別するのは難しかった。
【0010】
特許文献3に記載されている方法では、次のような問題があった。すなわち、セラミックハニカム構造体を検査する場合、超音波は薄い隔壁部を伝搬するため、隔壁に変形が生じている箇所では、受信値は低下することがある。特に、微粒子捕集用フィルタ等に好適に用いられる大型のセラミックハニカム構造体では、成形時や乾燥時に隔壁が変形している場合があり、隔壁が変形していると、隔壁にクラックが無くても受信値が低下しやすく、良品と判別するのは難しかった。
【0011】
したがって、本発明は、上記問題を解決し、セラミックハニカム構造体の隔壁に変形が生じていても、クラックが生じた製品と良品とを容易に判別することができる非破壊で検査する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
すなわち、本発明の検査方法は、外周壁とこの外周壁の内側で隔壁により囲まれた流路を有する多孔質セラミックハニカム構造体の検査方法であって、音響信号の発信側探触子と受信側探触子とが隔壁方向と一致するように配置された第1の探触子と、前記隔壁方向と略直交する隔壁方向と一致するように配置された第2の探触子とを前記外周壁に当接し、前記セラミックハニカム構造体の流路方向の複数箇所で音響信号を受信し、前記第1の探触子での受信値の最大値U1maxと最小値U1minとの比U1=(U1max-U1min)/U1max、及び、前記第2の探触子での受信値の最大値U2maxと最小値U2minとの比U2=(U2max-U2min)/U2maxを、予め設定した値U0と比較することで、欠陥の有無を検査することを特徴とする。
【0013】
本発明において、前記探触子を前記外周壁に当接した際に、前記隔壁方向と略一致するように、前記外周壁に印を付すことが好ましい。
【0014】
次に、本発明の作用効果について説明する。
本発明のセラミックハニカム構造体の検査方法において、音響信号の発信側探触子と受信側探触子とが隔壁方向と一致するように配置された第1の探触子と、前記隔壁方向と略直交する隔壁方向と一致するように配置された第2の探触子とを前記外周壁に当接し、前記セラミックハニカム構造体の流路方向の複数箇所で音響信号を受信し、前記第1の探触子での受信値の最大値U1maxと最小値U1minとの比U1=(U1max-U1min)/U1max、及び、前記第2の探触子での受信値の最大値U2maxと最小値U2minとの比U2=(U2max-U2min)/U2maxを、予め設定した値U0と比較することで、次の作用効果を有する。つまり、従来技術のように受信値の閾値でクラックが生じた製品と良品とを判別してしまうと、セラミックハニカム構造体の隔壁が変形していて、受信値が低下し受信値が閾値を下回っている場合もクラックと判別してしまう。しかし、第1の探触子11a、11bでの受信値(図2のU11、U12、U13、U14、U15・・・)の最大値U1maxと最小値U1minとの比U1=(U1max-U1min)/U1maxを、予め設定した値U0と比較することで、セラミックハニカム構造体の隔壁が変形していて、受信値が低下して閾値を下回っている場合でも、クラックが生じた製品と良品との判別を正しく行なえる。そして、U0≦U1の場合にクラックが存在していると判別される。一方、U1<U0の場合、第1の探触子で検査した部位にはクラックが存在しないと判別でき、第2の探触子で検査した部位での判別に委ねられる。そして、第2の探触子12a、12bでの受信値の最大値U2maxと最小値U2minとの比U2=(U2max-U2min)/U2maxが、U0≦U2の場合には、第2の探触子で検査した部位にクラックが存在していると判別される。一方、U2<U0であると、第2の探触子で検査した部位にもクラックが存在しないと判別でき、検査したハニカム構造体は合格判定とすることができる。
【0015】
ここで、予め設定する値U0は、隔壁が変形しているが、クラックが生じていないセラミックハニカム構造体を事前に測定し、受信値の最大値U0maxと最小値U0minとの比
(U0max-U0min)/U0maxをU0とする。
【0016】
本発明のセラミックハニカム構造体の検査方法において、前記探触子を前記外周壁に当接した際に、前記隔壁方向と略一致するように、前記外周壁に印を付すことで、次の作用効果を有する。すなわち、発信側探触子と受信側探触子とは、受信値のばらつきを小さくするために、隔壁方向と一致するように配置する必要があるが、発信側探触子と受信側探触子とが隔壁方向からずれていると、発信側探触子から発信された音響信号が、受信側探触子に正しく伝わらず、受信値が低下してしまうので、正しい判別をすることができない。そのため、図1に示すようにハニカム構造体10の外周壁1の所定の位置に印Mを付し、その印Mを検査装置20の所定の位置、例えば、固定部21と一致させるようにハニカム構造体を検査装置20に載置することで、探触子をハニカム構造体の外周壁に当接した際に、発信側探触子11aと受信側探触子11bとを隔壁方向と略一致させることができるのである。ここで、外周壁の所定の位置に付す印Mは、インクで付すこともできるし、外周壁に刻印等の加圧手段で凹部を形成することで付すことができ、もしくは、外周壁に紙やテープ、セラミック片、金属片等の付着物を付着させることで印Mを形成することができる。
【0017】
本発明のセラミックハニカム構造体の検査方法において、前記検査時にセラミックハニカム構造体の外径、全長等の寸法測定を同時に行なうことで、検査に要する工数を低減することができるので好ましい。
【0018】
本発明のセラミックハニカム構造体の検査方法において用いられるセラミックハニカム構造体は、排気ガス浄化装置に好適な材質であれば何れでもよく、例えば、炭化珪素、窒化珪素、コージェライト、アルミナ、ムライト、ジルコニア、チタン酸アルミニウム、あるいはこれらの組合せからなる群から選ばれた少なくとも一種のセラミックを用いることができる。
【0019】
また、本発明のセラミックハニカム構造体の検査方法においては、流路の端面もしくは、流路途中が交互に封止されたセラミックハニカムフィルタを検査されることは言うまでも無い。
【0020】
本発明のセラミックハニカム構造体の検査方法において、前記検査において、前記セラミックハニカム構造体の寸法測定を行なうことで、次の作用効果を有する。すなわち、ハニカム構造体の外径、全長を検査時に測定することで、検査に要する工数を低減することができるのである。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、セラミックハニカム構造体の隔壁に変形が生じていても、クラックが生じた製品と良品とを容易に判別することができる非破壊で検査する方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の検査方法に係る検査装置を示した図で、(a)は上面からの模式図、(b)は側面からの模式図、(c)はセラミックハニカム構造体を固定部に載置した状態を示す模式図。
【図2】受信した音響信号と、測定箇所の関係を示す図。
【図3】セラミックハニカムフィルタの正面図と模式断面概略図。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下に、本発明の実施の形態を実施例をもとに詳細に説明する。
(実施例1)
図1は、本発明のセラミックハニカム構造体の検査方法に係る検査装置20に、セラミックハニカム構造体10を載置した状態を示した模式図である。図1に示す検査装置20は、セラミックハニカム構造体10を載置した時の固定部21が2箇所設けられており、その固定部21の一方には、黒マジックで丸印Mが付されている。そして、第1の発信側探触子11aと受信側探触子11bとが直線上に対向して配置され、これら発信側探触子11aと受信側探触子11bと直交する位置に、第2の発信側探触子12aと第2の受信側探触子12bとが直線上に対向して配置され、昇降可能な把持部材22に設置されている。
【0024】
次に、外径267mm、長さ305mm、隔壁厚さ0.3mm、四角形流路で隔壁ピッチ1.57mmのセラミックハニカム構造体10を、検査装置20の固定部21a、21bに当接して設置する。この際、セラミックハニカム構造体のC軸方向(四角形流路の対角線方向)が、固定部21の一方に付された印mと一致するように設置する。そして、探触子が設置されている昇降可能な把持部材22が、セラミックハニカム構造体の下端面から30mmの位置で停止し、各探触子11a、11b、12a、12bを各シリンダー111、121で外周壁1に当接させる。
【0025】
次に、周波数0.5MHzで第1の発信側探触子11aから音響信号を発信し、第1の受信側探触子11bで音響信号U11を受信する。そして、第2の発信側探触子12aから音響信号を発信し、第2の受信側探触子12bで音響信号U21を受信する。次いで、各探触子11a、11b、12a、12bを各シリンダー111、121で外周壁1から離間させ、把持部材22を60mm上昇させる。そして、同様に各探触子を外周壁1に当接させて、音響信号U12、U22を受信する。以降、同様にして、把持部材22を60mm毎上昇させて、全5箇所での音響信号U11〜U15、U21〜U25を受信する。受信した音響信号と、測定箇所の関係を図2(a)(b)に示す。
【0026】
一方、予め、クラックが生じていないセラミックハニカム構造体を準備し、前記と同様に測定して音響信号U01〜U05を受信する。受信した音響信号と、測定箇所の関係を図2(c)に示す。そして、受信値の最大値U0maxと最小値U0minからそれらの比
(U0max-U0min)/U0maxを算出すると0.6であった。この値をU0とする。
【0027】
次に、第1の探触子での受信値の最大値U1maxと最小値U1minとの比U1=(U1max-U1min)/U1max、及び、第2の探触子での受信値の最大値U2maxと最小値U2minとの比U2=(U2max-U2min)/U2maxを算出する。U1は0.4、U2は0.5であり、U1、U2は共に、U0の値より小さいため、クラックは生じていない合格と判定した。
この検査済みのセラミックハニカム構造体を切断して、クラックの有無を確認したが、クラックは生じていないことが確認された。
【0028】
(実施例2)
実施例1と同様に他のセラミックハニカム構造体を測定した。尚、セラミックハニカム構造体のC軸方向(四角形流路の対角線方向)の外周壁に、黒インクで印Mを付け、この印Mを固定部21の一方に付された印mと一致するように設置した。測定の結果、U1は0.4、U2は0.7となり、U1はU0の値より小さいが、U2はU0の値より大きいため、NG判定した。
この検査済みのセラミックハニカム構造体を切断して、クラックの有無を確認したところ、クラックが生じていることが確認された。
【0029】
(実施例3)
実施例2と同様に他のセラミックハニカム構造体を測定した。U1は0.4、U2は0.7となり、U1はU0の値より小さいが、U2はU0の値より大きいため、NG判定した。
この検査済みのセラミックハニカム構造体を切断して、クラックの有無を確認したところ、クラックが生じていることが確認された。
【0030】
(実施例4)
実施例2と同様にして、100個のセラミックハニカム構造体の検査を行なった。その結果、5個のセラミックハニカム構造体でのU1もしくはU2の値がU0よりも大きく、NG判定を行なった。
これら5個の検査済みのセラミックハニカム構造体を切断して、クラックの有無を確認したところ、何れもクラックが生じていることが確認された。
【0031】
(比較例)
実施例2と同様にして、100個のセラミックハニカム構造体の検査を行い、受信した音響信号U11〜U15、U21〜U25を次のように判定した。予め、クラックが生じていることが確認されているセラミックハニカム構造体で測定した音響信号U01〜U05のうち、受信値の最小値U0minを閾値とした。そして、20個のセラミックハニカム構造体での受信値の最小値U1minもしくはU2minの値が、閾値U0minの値よりも小さかったので、NG判定を行なった。
これら20個の検査済みのセラミックハニカム構造体を切断して、クラックの有無を確認したところ、5個のセラミックハニカム構造体にはクラックが生じていることが確認されたが、残りの15個にはクラックが生じていないことが確認された。
【符号の説明】
【0032】
1:外周壁
2:隔壁
3、4:流路
5、6:封止部
7:流入側
8:流出側
10:セラミックハニカム構造体(セラミックハニカムフィルタ)
11a:第1の発信側探触子
11b:第1の受信側探触子
12a:第2の発信側探触子
12b:第2の受信側探触子
20:検査装置
21:固定部
22:把持部材
111、121:シリンダー
M:外周壁に付された印
m:固定部21に付された印


【特許請求の範囲】
【請求項1】
外周壁とこの外周壁の内側で隔壁により囲まれた流路を有する多孔質セラミックハニカム構造体の検査方法であって、音響信号の発信側探触子と受信側探触子とが隔壁方向と一致するように配置された第1の探触子と、前記隔壁方向と略直交する隔壁方向と一致するように配置された第2の探触子とを前記外周壁に当接し、前記セラミックハニカム構造体の流路方向の複数箇所で音響信号を受信し、前記第1の探触子での受信値の最大値U1maxと最小値U1minとの比U1=(U1max-U1min)/U1max、及び、前記第2の探触子での受信値の最大値U2maxと最小値U2minとの比U2=(U2max-U2min)/U2maxを、予め設定した値U0と比較することで、欠陥の有無を検査するセラミックハニカム構造体の検査方法。
【請求項2】
前記探触子を前記外周壁に当接した際に、前記隔壁方向と略一致するように、前記外周壁に印を付すことを特徴とする請求項1に記載のセラミックハニカム構造体の検査方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−237101(P2010−237101A)
【公開日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−86726(P2009−86726)
【出願日】平成21年3月31日(2009.3.31)
【出願人】(000005083)日立金属株式会社 (2,051)
【Fターム(参考)】