説明

セラミック焼成体及びその製造方法

【課題】 石炭灰およびアルミドロスを原料の一部とし、瓦、壁材、路盤材等として利用可能なセラミック焼成体及びその製造方法を提供すること。
【解決手段】
アルミドロスをアルカリ水溶液中で反応させたアルカリ処理液に石炭灰を加え加熱、反応させて合成ゼオライトを含む多孔質体を得、該合成ゼオライトを含む多孔質粒粉体を粘土に加えて混練、乾燥した後、焼成して得られたセラミック焼成体。また、アルミドロスに苛性ソーダ溶液を加えて可溶性アルミン酸ソーダを得、該可溶性アルミン酸ソーダを含む溶液に石炭灰を加え、80℃〜120℃の温度域で5時間以上反応させて合成ゼオライトを含む多孔質体とし、該合成ゼオライトを含む多孔質粒粉体と粘土を混練、成型、乾燥後、1100℃〜1400℃の温度域で20時間以上の焼成を行うセラミック焼成体の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、石炭灰、アルミドロス、および粘土を出発原料とする、たとえば瓦、壁材といったセラミック焼成体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
世界規模での石油需給の長期的展望から、石炭火力発電の重要性が増すことは必至である。現在、約1000万トン/年の石炭灰が石炭火力発電所から排出されており、今後この排出量は増大するものと思われる。この石炭灰(主としてフライアッシュ)の約40%はセメント原料として活用されているものの多くは埋め立てられており、埋立用地が逼迫している状況からも石炭灰を資源として活用することの重要性が増してきている。
【0003】
一方、アルミニウムやアルミニウム合金を溶解する工程で発生するスラグ状のアルミドロス(アルミニウム残灰)には、金属アルミニウム、酸化アルミニウム以外に窒化アルミニウム、金属酸化物、フラックス成分、硫化物等が含まれている。而して、アルミドロスを産業廃棄物として処理すると、雨水と反応して水酸化物を形成するときに水素を発生して危険でありまた、アンモニアガスを発生して異臭を生じたりする問題もある。従って、アルミドロスを資源として活用することもまた、望まれている。
【0004】
他方、瓦製造業界にあっては瓦用粘土が枯渇してきており、その確保が問題となりつつある。
【0005】
処で、石炭灰とアルミドロスを原料として合成ゼオライトを製造する方法は、既知である(たとえば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2004−300005公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
石炭灰とアルミドロスを原料として得られる合成ゼオライトは土地改良材或いは路盤改良材等として利用されるが、石炭灰の成分組成に鑑み、資源リサイクルの観点からさらなる高付加価値化の可能性がありながら、それを可能にする技術的手段は提案されていない。
【0007】
本発明は、石炭灰およびアルミドロスを原料の一部とし、瓦、壁材、路盤材等として利用可能なセラミック焼成体及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するための、請求項1に記載の発明は、アルミドロスをアルカリ水溶液中で反応させたアルカリ処理液に石炭灰を加え加熱、反応させて合成ゼオライトを含む多孔質体を得、該合成ゼオライトを含む多孔質粒粉体を粘土に加えて混練、乾燥した後、焼成して得られたセラミック焼成体である。
【0009】
請求項2に記載の発明は、アルミドロスをアルカリ水溶液中で反応させたアルカリ処理液に石炭灰を加え加熱、反応させて合成ゼオライトを含む多孔質体を得、該合成ゼオライトを含む多孔質粒粉体を40重量%以下の割合で瓦用粘土に加えて混練、乾燥した後、焼成して得られた瓦用セラミック焼成体である。
【0010】
請求項3に記載の発明は、アルミドロスに苛性ソーダ溶液を加えて可溶性アルミン酸ソーダを得、該可溶性アルミン酸ソーダを含む溶液に石炭灰を加え、80℃〜120℃の温度域で5時間以上反応させて合成ゼオライトを含む多孔質体とし、該合成ゼオライトを含む多孔質粒粉体と粘土を混練、成型、乾燥後、1100℃〜1400℃の温度域で20時間以上の焼成を行うことを特徴とするセラミック焼成体の製造方法である。
【0011】
請求項4に記載の発明は、アルミドロスに苛性ソーダ溶液を加えて可溶性アルミン酸ソーダを得、該可溶性アルミン酸ソーダを含む溶液に石炭灰を加え、80℃〜120℃の温度域で5時間以上反応させて合成ゼオライトを含む多孔質体とし、該合成ゼオライトを含む多孔質粒粉体を40重量%以下となる範囲内で瓦用粘土に加えて混練、成型、乾燥した後、1100℃〜1400℃の温度域で20時間以上の焼成を行うことを特徴とする瓦として用いられるセラミック焼成体の製造方法である。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、産業廃棄物である石炭灰、アルミドロスを原料の一部として軽量で、瓦、壁材、ビル屋上の緑化用路盤材等として利用できる安価なセラミック焼成体及びその製造方法を提供することができる。而して、資源のリサイクルの点でまた、粘土の代替化によって瓦用粘土の資源保護の点で効果がある。
【0013】
本発明のセラミック焼成体を瓦として用いるときは、粘土瓦と同等以上の強度を有せしめて瓦を軽量化することができ、瓦葺き施工を容易にする効果を奏する。また、本発明のセラミック焼成体は保水性に富むから、粘土と混練、成型するに際し、成型性に優れる効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
石炭灰から合成ゼオライトを得るに際しては石炭灰中のアルミナ成分が不足する処から、溶解性のアルミナ成分を加える必要がある。表1に、石炭灰の組成の一例を示す。本発明においては、石炭灰とアルミニウムやアルミニウム合金を溶解する工程で発生するアルミドロスを原料として合成ゼオライトを含む多孔質体を得る。
【0015】
【表1】

【0016】
一方、たとえばアルミニウム再生メーカーから発生するアルミドロスは、一例として、金属アルミニウム:35.7重量%、アルミナ(Al):27.8重量%を含んでいる。而して、このアルミドロスを苛性ソーダ(NaOH)溶液に加えてアルミン酸ソーダ(NaAlO)に変化せしめる。次いで、石炭灰を、アルミン酸ソーダを含むアルミドロスのアルカリ処理溶液に加えて80℃〜120℃、好ましくは90℃〜100℃の温度域で5時間以上好ましくは6時間〜8時間反応させて合成ゼオライトを得る。このときのアルミドロスのアルカリ処理溶液と石炭灰の配合比率は、重量で、2.3〜2.4の範囲が好ましい。 2.3未満であると、Al不足で未反応のSiOが残り、2.4を超えると、Al過剰で、未反応のAlが多量に残存する。
【0017】
得られた合成ゼオライト粒粉体を、重量で40%以下となる範囲内で粘土に加えて混練、成型した後、1100℃〜1400℃の温度域で20時間以上の焼成を行って、セラミック焼成体を得る。
【実施例】
【0018】
石炭火力発電所(F県B市)から排出された、表−1に示す組成を有するフライアッシュとアルミニウム再生メーカー(Y県S市)から発生したアルミドロス(金属アルミニウム:35.7重量%、アルミナ(Al):27.8重量%を含む)を出発原料とした。このアルミドロスを室温で、1mol〜3molの苛性ソーダ(NaOH)溶液に加えた。アルカリ水溶液処理したアルミドロスのX線解析を行った結果、金属Alが消失しており、Alと苛性ソーダ(NaOH)が反応してアルミン酸ソーダ(NaAlO)に変化していることが分かった。
【0019】
次いで、石炭灰を、前記アルミドロスのアルカリ処理溶液中に、石炭灰中のシリカ(SiO)を余すことなくゼオライトに変化させるに足る量加えて90℃〜100℃の温度域で7時間反応させてX型ゼオライトを得た。
【0020】
然る後、島根県石見地方より産出する粘土(石州瓦用粘土)に、前記得られたX型ゼオライト粒粉体を、重量比で0%〜70%となる配合比率で加えて混練、成型(厚さ:15mm、直径:30mmの円盤状)し、これを1週間天日干しした。この天日干し成型体を1200℃で24時間加熱、焼成を行った。
【0021】
得られたセラミック焼成体の、X型ゼオライトの配合比率0%、10%、20%、30%、50%、60%、および70%のものについて、焼成前後の重量減少率、焼成前後の体積減少率、嵩密度、強度を測定した。その結果の平均値を表2に、強度の測定結果を表3に、焼成前後の重量減少率、体積減少率の測定結果を表4、表5に、嵩密度の測定を表6に示す。
【0022】
【表2】

【0023】
【表3】

【0024】
【表4】

【0025】
【表5】

【0026】
【表6】

【0027】
表1から明らかなように、合成ゼオライトの配合比率(重量%)が30%までは、強度は瓦用粘土:100%の場合とほぼ変わらない。また、合成ゼオライトの配合比率(重量%):70%までは強度が極端に低下することがない。さらに、合成ゼオライトを配合することによって、瓦用粘土:100%の場合に比し7%〜9%の軽量化を図ることができる。
【産業上の利用可能性】
【0028】
本発明は、瓦、壁材、ビル屋上の緑化用路盤材等として用いることができるほか、多孔性を活かした排水層形成材料、土管用材料等として広い用途を有する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミドロスをアルカリ水溶液中で反応させたアルカリ処理液に石炭灰を加え加熱、反応させて合成ゼオライトを含む多孔質体を得、該合成ゼオライトを含む多孔質粒粉体を粘土に加えて混練、乾燥した後、焼成して得られたセラミック焼成体。
【請求項2】
アルミドロスをアルカリ水溶液中で反応させたアルカリ処理液に石炭灰を加え加熱、反応させて合成ゼオライトを含む多孔質体を得、該合成ゼオライトを含む多孔質粒粉体を40重量%以下の割合で瓦用粘土に加えて混練、乾燥した後、焼成して得られた瓦用セラミック焼成体。
【請求項3】
アルミドロスに苛性ソーダ溶液を加えて可溶性アルミン酸ソーダを得、該可溶性アルミン酸ソーダを含む溶液に石炭灰を加え、80℃〜120℃の温度域で5時間以上反応させて合成ゼオライトを含む多孔質体とし、該合成ゼオライトを含む多孔質粒粉体と粘土を混練、成型、乾燥後、1100℃〜1400℃の温度域で20時間以上の焼成を行うことを特徴とするセラミック焼成体の製造方法。
【請求項4】
アルミドロスに苛性ソーダ溶液を加えて可溶性アルミン酸ソーダを得、該可溶性アルミン酸ソーダを含む溶液に石炭灰を加え、80℃〜120℃の温度域で5時間以上反応させて合成ゼオライトを含む多孔質体とし、該合成ゼオライトを含む多孔質粒粉体を40重量%以下となる範囲内で瓦用粘土に加えて混練、成型、乾燥した後、1100℃〜1400℃の温度域で20時間以上の焼成を行うことを特徴とする瓦として用いられるセラミック焼成体の製造方法。

【公開番号】特開2008−127259(P2008−127259A)
【公開日】平成20年6月5日(2008.6.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−315979(P2006−315979)
【出願日】平成18年11月22日(2006.11.22)
【出願人】(802000031)財団法人北九州産業学術推進機構 (187)
【Fターム(参考)】