説明

セラミック複合体

【課題】 セラミック部材に強固にネジ止めしてもセラミック部材を破損させることがなく、セラミック部材にネジにより強固に締結できるセラミック複合体を提供すること。
【解決手段】 本発明のセラミック複合体は、セラミック基体1の表面に凹部4を形成するとともに、凹部4内に、厚み方向に貫通するネジ穴を有した金属製のネジ受け部材3を嵌挿して、ネジ受け部材3と凹部4内面との当接部をロウ付けし、ネジ穴の下端側開口部に切り欠き3aを設けて成る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、各種構造部品に用いられるセラミック部材と、セラミック部材にネジ止めする際のネジ受け部材との複合体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
セラミック部材をネジ止め固定する従来のネジ止め方法を、核融合実験装置等に用いられる中性粒子加熱装置における絶縁支柱を例にとり以下説明する。
【0003】
核融合実験装置等に用いられる中性粒子加熱装置では、荷電粒子を加速して加速ビームを生成するための電圧を印加する部分、すなわち加速電極等の支持部材等としてセラミックス製の絶縁支柱が用いられている。この絶縁支柱の基本構成を図4に斜視図で示す。また、この絶縁支柱における絶縁柱と電極部材との締結部の要部断面図を図3に示す。図3,図4において、11は絶縁柱、12は加速電極等に接続される電極部材、17はネジ穴、18はボルト等のネジであり、主にこれらで絶縁支柱は構成されている。
【0004】
図3に示す絶縁支柱において、絶縁柱11は、酸化アルミニウム(Al)質焼結体等のセラミックスからなり、その各端面に内面にネジ溝が切られている1つあるいは複数のネジ穴17が形成されている。また、平板状の電極部材12およびネジ18はSUS等の金属から成る。
【0005】
なお、絶縁柱11と電極部材12との締結は、電極部材12に予め絶縁柱11のネジ穴17に対応する位置に貫通孔をあけておき、その電極部材12を絶縁柱11の両端面にあて、ネジ18を電極部材12の貫通孔に挿通させて絶縁柱11のネジ穴17にネジ込んで締め付けることによって機械的に締結される。(例えば、下記の特許文献1参照)。
【0006】
また、ネジ穴17には、ステンレススチール(SUS)等の金属から成る筒状でその内側面および外側面にネジ加工が施されたヘリサートが挿入されていてもよく、この場合、ヘリサートの外側面が絶縁柱11のネジ穴17にネジ込まれるとともに内側面のネジ加工部にネジ18がネジ込まれ、絶縁柱11に対するネジ18の締め付けをより強固なものとすることができる。
【特許文献1】特開2002−343292号公報(第8頁、図7)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記従来の絶縁支柱においては、図3に示すように、セラミックス等の脆い材料から成る絶縁柱11のネジ穴17の内面に直接ネジ溝が加工されているため、絶縁柱11のネジ穴17にネジをネジ込んで締め付けることにより電極部材12を機械的に締結すると、ネジ18を介してネジ穴17のネジ溝に引っ張り応力や剪断応力等の応力が加わり、ネジ穴17のネジ溝にカケ,クラック等の破損が発生し易かった。
【0008】
このようなネジ穴17のネジ溝に破損が生じると、絶縁柱11に対するネジ18の締め付け強度が低下して、絶縁柱11と電極部材12とを強固に接合できなくなり、絶縁支柱としての保持機能を果たさなくなるという問題点があった。
【0009】
特に近時では核融合実験装置における中性粒子加熱装置は大型化しており、それに伴ってネジ18を介してネジ穴17のネジ溝に加わる引っ張り応力や剪断応力等の応力が大きくなって、絶縁柱11のネジ溝の破損が顕著に現れるようになってきた。
【0010】
従って、本発明は上記問題点に鑑み完成されたものであり、その目的は、セラミック部材に強固にネジ止めしてもセラミック部材を破損させることがなく、セラミック部材にネジにより強固に締結できるセラミック複合体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明のセラミック複合体は、セラミック基体の表面に凹部を形成するとともに、該凹部内に、厚み方向に貫通するネジ穴を有した金属製のネジ受け部材を嵌挿して、該ネジ受け部材と前記凹部内面との当接部をロウ付けし、前記ネジ穴の下端側開口部に切り欠きを設けてなることを特徴とする。
【0012】
また、本発明のセラミック複合体は、上記構成において好ましくは、前記切り欠きの形成領域にロウ材の余剰分が収容されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明のセラミック複合体は、セラミック基体の表面に凹部を形成するとともに、凹部内に、厚み方向に貫通するネジ穴を有した金属製のネジ受け部材を嵌挿して、ネジ受け部材と凹部内面との当接部をロウ付けし、ネジ穴の下端側開口部に切り欠きを設けてなることから、セラミック基体のネジ穴に欠け等の破損が発生し易いネジ溝を施すことなくネジ止めすることができるため、セラミック基体にカケ,クラック等の破損が発生しない。
【0014】
また、ネジ受け部材とセラミック基体の凹部内面との当接部をロウ付けすることから、ネジ受け部材とセラミック基体との間に設けられたロウ材が緩衝材として機能し、ネジ止めするときのトルクによる応力を緩和することができる。このため、セラミック基体の破損を防止する効果をより向上させることができる。その結果、大型のセラミック基体に大型のネジにより締結する際においても、セラミック基体にカケ,クラック等の破損が発生するのを抑制することができる。
【0015】
さらに、ネジ受け部材の下端側開口部に切り欠きを設けてなることから、ネジ受け部材の下端側において凹部の底面側からネジ受け部材のネジ穴内周面のネジ溝を伝ってロウ材が這い上がってもネジ溝を塞いでしまうことがなく、ネジ受け部材の下端までネジを挿入し強固にネジ止め固定することが可能となる。
【0016】
また、本発明のセラミック複合体は、上記構成において好ましくは、切り欠きの形成領域にロウ材の余剰分が収容されることから、ロウ材量が少し多くても、ロウ材がネジ溝を塞いでしまうことがなく、ロウ材量の管理が簡単になる。そして、ネジ受け部材と凹部内面との当接部を十分に接合することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
次に、本発明を添付図面に基づき詳細に説明する。セラミック基体にネジを締結するネジ止め構造を有したセラミック複合体として、核融合実験装置等に用いられる中性粒子加熱装置における絶縁支柱を例にとり以下説明する。
【0018】
図1は本発明のセラミック複合体の実施の形態の一例を示し、セラミック基体とネジ受け部材との接合部の要部断面図である。図1において、1は絶縁柱として用いられるセラミック基体、2はセラミック基体1に締結される電極部材、3はネジ受け部材、4はセラミック基体1の表面に形成された凹部、5はロウ材であり、主にこれらで本発明のセラミック複合体が構成される。
【0019】
本発明のセラミック複合体は、内周面にネジ溝が加工された金属から成る筒状のネジ受け部材3がセラミック基体1に取り付けられたものであって、セラミック基体1の表面に凹部4を形成するとともに、この凹部4内に、厚み方向に貫通するネジ穴を有した金属製のネジ受け部材3を嵌挿して、このネジ受け部材3と凹部4内面との当接部をロウ付けし、ネジ穴の下端側開口部に切り欠き3aを設けて成るものである。
【0020】
そして、絶縁支柱は、絶縁柱となる複数のセラミック基体1の両端面に凹部4が形成されており、このセラミック基体1の両端面に互いに対向配置されるとともに両主面を貫通する貫通孔が凹部4と同軸状となるようにして複数個形成された、金属から成る2つの円環状の電極部材2と、凹部4内に、厚み方向に貫通するネジ穴を有し、外周面と凹部4内面との当接部がロウ付けされた金属から成る円筒状のネジ受け部材3と、電極部材2の貫通孔に挿通されるとともにネジ受け部材3にネジ込まれることによって、電極部材2とセラミック基体1とを締結するネジ8とを具備しており、凹部4は、横断面形状が円形状であるとともに、その内面の全面にメタライズ層4aが形成されている。
【0021】
本発明のセラミック基体1は、断面形状が円形、または四角形,六角形等の多角形のものであり、Al質焼結体等のセラミックスから成る。セラミック基体1の両端の表面には、凹部4が形成され、凹部4の内面にモリブデン(Mo),マンガン(Mn),タングステン(W)等から成るメタライズ層4aが形成される。メタライズ層4aは、ネジ受け部材3をロウ付けする際の下地金属層として機能する。
【0022】
このようなメタライズ層4aは、好ましくはその表面にロウ材5との濡れ性に優れるニッケル(Ni),金(Au)等の金属をメッキ法により1〜10μm程度の厚みに被着させるとよく、メタライズ層4aにネジ受け部材3を強固にロウ付けすることができる。また、セラミック基体1の表面と凹部4との間の開口部にはC面カット等の面取りが施されていてもよく、これによりネジ受け部材3と凹部4とを接合するロウ材5の凹部4の開口部におけるメニスカスを良好なものとし、ネジ受け部材3を凹部4に強固にロウ付けすることができる。
【0023】
好ましくは、凹部4の底面は、図2に示すように凹んだ曲面、例えば球面状,楕円状,放物線状等の曲面となっているのがよい。この構成によって、メタライズ層4aは、ネジ受け部材3をロウ付けする際の下地金属層として機能するとともに、電極部材2を加速電極等に接続して高い電圧を印加した際、ネジ8とメタライズ層4aとの間に生じる電界を角部に集中させることなく凹部4の内面の滑らかな曲面状のメタライズ層4aの全面に分散させることができ、対向するネジ8との間で生じる放電を抑制することができる。
【0024】
また、ネジ受け部材3の下側開口部に切り欠き3aが設けられているので、ロウ材がネジ受け部材3の下側端面を伝ってネジ穴の開口部に達しても、ネジ溝を覆って塞いでしまうことがなく、ネジ8をネジ受け部材3の下端までねじ込んで固定することができる。
【0025】
電極部材2は、円環部に両主面を貫通する断面形状が円形の貫通孔が同じ間隔で複数個形成された円環状の金属部材であり、SUS等の金属から成る。その貫通孔にSUS等の金属から成るネジ8が挿通されるとともにネジ受け部材3にネジ込まれることによって、電極部材2は絶縁柱としてのセラミック基体1に締結される。
【0026】
ネジ受け部材3は、厚み方向に貫通するネジ穴の内周面にネジ溝が加工された筒状の鉄(Fe)−Ni−コバルト(Co)合金,Fe−Ni合金,ステンレス(SUS)等の金属部材から成り、セラミック基体1の凹部4に埋め込まれるようにして凹部4との当接部が銀(Ag)ロウ,Ag−銅(Cu)ロウ等のロウ材5によってロウ付けされる。ネジ受け部材3は、例えば、Fe−Ni−Co合金のようにセラミック基体1と熱膨張率の近い材料から成るのがよく、ネジ受け部材3をセラミック基体1にロウ付けする際に熱膨張差が発生するのを抑制し、セラミック基体1にクラック等の破損が発生したり、ネジ受け部材3が変形したりするのを抑制する。
【0027】
ネジ受け部材3を凹部4に嵌め込んでロウ材5によってロウ付けすることにより、セラミック基体1に欠け等の破損が発生し易いネジ溝加工を施す必要がなく、ネジ受け部材3にネジ止めすることができるため、セラミック基体1に電極部材2を取着する際のネジ締結時に、脆いセラミック基体1にカケ,クラック等の破損が発生することがない。
【0028】
また、ネジ受け部材3とセラミック基体1の凹部4内面との当接部をロウ材5を介して接合することから、ネジ受け部材3とセラミック基体1の凹部4内面との間に設けられた柔軟なロウ材5が緩衝材として機能するようになるので、ネジ止めするときのトルクにより凹部4とネジ受け部材3との間に生じる応力を緩和することができる。このため、セラミック基体1の破損を防止する効果をより向上させることができる。その結果、大型のセラミック基体1に大型の電極部材2を取着する際においても、セラミック基体1にカケ,クラック等の破損が発生しにくくなる。
【0029】
さらに、ネジ受け部材3の下端側開口部に切り欠き3aが設けられており、切り欠き3aが凹部4の奥側(底面側)になるようにしてネジ受け部材3を凹部4に嵌め込んでロウ材5を介してロウ付けすることによって、凹部4の底面側からネジ受け部材3のねじ穴内周面のネジ溝を伝ってロウ材5が這い上がっても、ロウ材5がネジ溝を塞いでしまうことがなく、ネジ受け部材3の下端までネジ8を挿入し強固にネジ止め固定することが可能となる。
【0030】
なお、切り欠き3aの内周面は、ネジ溝が加工されていてもいなくてもよいが、切り欠き3aにおいてはネジ8が締結されないので、ネジ溝加工を省略することができる。切り欠き3aにネジ溝のように下面から上方へ連続する溝を設けると、ロウ材5が溝を伝って這い上がりやすいので、平坦な面とするか、上下に独立して連なる円形状の溝加工等をして凹凸を設けておくとよい。
【0031】
好ましくは、ネジ受け部材3の切り欠き3aの高さは0.5mm乃至5mmであるのがよく、この構成により、凹部4の底面側からネジ受け部材3の切り欠き3aの内周面を伝って這い上がろうとするロウ材5が這い上がるのをより確実に防止するとともに、切り欠き3aの部分でネジ受け部材3の厚みが薄くなることから、セラミック基体1にネジ受け部材3との熱膨張差による応力が大きく作用するのを防止することができる。
【0032】
切り欠き3aの高さが0.5mmより小さいと、切り欠き3aの高さが小さくなりすぎてネジ受け部材3の下端側開口部から、ロウ材5が切り欠き3aを超えてネジ受け部材3のネジ締結部まで這い上がってしまう場合がある。一方、切り欠き3aの高さが5mmを超えて大きくなると、切り欠き3aが長くなる分だけネジ受け部材3の長さが長くなり、このようなネジ受け部材3がロウ材5を介してセラミック基体1にロウ付けされると、セラミック基体1とネジ受け部材3とのネジ受け部材3の長さ方向の熱膨張差による応力が大きく作用し、セラミック基体1にクラック等の破損が発生し易くなる。
【0033】
また、ネジ受け部材3と凹部4の内面のメタライズ層4aとを接合するロウ材5は、メタライズ層4aの全面に被着しているのがよい。これにより、ロウ材5のメタライズ層4aとの接合面積が最も大きくなるので、ロウ材5とメタライズ層4aとの密着性をより向上させることができる。
【0034】
また、ネジ受け部材3は筒状となっているため、ネジ受け部材3を凹部4のメタライズ層4aにロウ材5でロウ付けした後にネジ受け部材3下側のメタライズ層4aにおけるロウ材5の流れの状態を確認できる。
【0035】
また、ネジ8は、先端が平坦面となっており、ネジ受け部材3にネジ込まれた際に、ネジ8の先端とネジ受け部材3の下端面とが面一になるようにネジ止めされるのがよく、ネジ8の先端およびネジ受け部材3の下端面に電界が集中するのを抑制することができ、ネジ8やネジ受け部材3に放電が生じるのを抑制することができる。
【0036】
なお、本発明は上記の実施の形態の例に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲であれば種々の変更が可能である。例えば、上記の実施の形態の例ではセラミック複合体として中性粒子加熱装置における絶縁支柱を例に説明したが、本発明は電子流を加速させるための加速管や絶縁フランジ等の種々のセラミック複合体に適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明のセラミック複合体の実施の形態の一例を示し、セラミック複合体の締結部を示す要部断面図である。
【図2】本発明のセラミック複合体の実施の形態の他の例を示し、セラミック複合体の締結部を示す要部断面図である。
【図3】従来のセラミック部材の例を示し、セラミック部材との接合部を示す要部断面図である。
【図4】従来の絶縁支柱の例を示す斜視図である。
【符号の説明】
【0038】
1:セラミック基体
2:電極部材
3:ネジ受け部材
3a:切り欠き
4:凹部
4a:メタライズ層
5:ロウ材
8:ネジ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セラミック基体の表面に凹部を形成するとともに、該凹部内に、厚み方向に貫通するネジ穴を有した金属製のネジ受け部材を嵌挿して、該ネジ受け部材と前記凹部内面との当接部をロウ付けし、前記ネジ穴の下端側開口部に切り欠きを設けてなるセラミック複合体。
【請求項2】
前記切り欠きの形成領域にロウ材の余剰分が収容されることを特徴とする請求項1に記載のセラミック複合体。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2006−125944(P2006−125944A)
【公開日】平成18年5月18日(2006.5.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−313024(P2004−313024)
【出願日】平成16年10月27日(2004.10.27)
【出願人】(000006633)京セラ株式会社 (13,660)
【Fターム(参考)】