説明

セラミドキナーゼ阻害化合物およびそれを有効成分とする医薬組成物

【課題】マスト細胞の脱顆粒を有意に抑制するセラミドキナーゼ阻害作用を有する新規化合物、およびその医薬用途を提供する。
【解決手段】下記一般式(A)で示される4環性化合物またはその塩:


(式中、Rは水酸基、炭素数1〜4の低級アルコキシ基またはアミノ酸基;Rは炭素数1〜4の低級アルキル基;Rは水素原子;並びに、R、R〜RおよびR10〜R11は、同一または異なってよい。)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セラミドキナーゼに対して阻害活性を有する新規化合物およびその製造方法、ならびにそのセラミドキナーゼ阻害剤および医薬組成物としての用途に関する。
【背景技術】
【0002】
マスト細胞(肥満細胞)や好酸球の細胞内に蓄えられている顆粒が放出されることは「脱顆粒」と呼ばれ、この顆粒内にはアレルギー症状を発症させる分子が多く含まれていることが知られている。
【0003】
脱顆粒を引き起こす原因としては、過剰な免疫反応に起因して生じるI型アレルギー(例えば、花粉症、アトピー、気管支喘息など)が挙げられる。生体内に侵入した抗原(花粉、食品のタンパク質成分など)が異物として認識されると、その抗原に特異的に反応する抗体が体内で生産され、この抗体が皮膚や粘膜に存在するマスト細胞や好塩基球の細胞膜上にある受容体と結合する。そして再び同じ抗原が侵入した際に、抗原と抗体が結合することによって抗体の架橋が生じ、体内から抗原を除去するための免疫反応として、ヒスタミンなどの化学物質が放出され、皮膚炎や鼻炎などのアレルギー症状が引き起こされる。
【0004】
このようなアレルギー反応は脱顆粒現象を抑制することによって緩和される。このため、脱顆粒抑制作用を有する物質を用いた抗アレルギー薬の開発が期待される。
【0005】
マスト細胞は、細胞内顆粒中に保存されている生物活性分子を放出することにより炎症やアレルギーなどの過敏症を媒介する。マスト細胞レセプターFcεRIに結合したIgEの架橋を介する刺激によって、細胞内Ca2+上昇、ならびに非レセプタータンパク質チロシンキナーゼおよびホスホリパーゼの活性化などの細胞内での生化学的事象を引き起こす。これらの事象は顆粒内容物のエキソサイトーシスを増加させる。
【0006】
マスト細胞の脱顆粒について種々の研究がなされているが、その多くはレセプター活性化に引き続く初期シグナリングについてであり、Ca2+シグナリングの下流である後期シグナリングに関しては十分に研究されているとはいえない。
【0007】
マスト細胞の脱顆粒の後期シグナリングは、Ca2+シグナリングの下流に存在するが、Ca2+依存性の酵素(例えば、ホスホリパーゼD、Ca2+/カルモジュリン依存性タンパク質キナーゼIIなど)についての阻害剤またはアンタゴニストを用いても、マスト細胞の脱顆粒は完全には阻害されない。このことは、Ca2+依存的な脱顆粒において未知のメカニズムが存在することを示唆する。
【0008】
セラミドキナーゼは、カルシウムによって活性化され、セラミドをリン酸化してC1Pを生成する酵素である。かかるセラミドキナーゼおよびその産生物であるC1Pの機能は永年不明であったが(非特許文献1)、本発明者らは、マスト細胞のモデル細胞としてRBL−2H3細胞を用いて、カルシウムイオノフォアによって誘起される脱顆粒に、セラミドキナーゼ活性、特にその活性化に伴うセラミド1リン酸(C1P)量の増加が関与していることを示した(非特許文献2)。このことは、セラミドキナーゼ活性を阻害することによってマスト細胞の脱顆粒を抑制することができること、すなわちセラミドキナーゼ活性を阻害することによって、炎症やアレルギーなどのマスト細胞の脱顆粒に起因する疾患や病態が改善できることを意味する。
【0009】
セラミドキナーゼ活性を阻害する作用を有する化合物としては、C−セラミドが知られている。しかしC−セラミドは、強い細胞毒性を有しているため、哺乳動物に適用することは難しいと考えられる。またセラミドキナーゼ活性を阻害する作用を有する化合物として、非特許文献1には、N,N-dimethylsphingosineおよびF-12509Aが記載されている。しかしその阻害活性は極めて低く、これをセラミドキナーゼ阻害剤や医薬組成物として実用化することは難しい。また特許文献1および非特許文献3には、上記F-12509Aよりも高いセラミドキナーゼ阻害活性を有するF-12509A類縁体が記載されている。しかしながら、これらのセラミドキナーゼ阻害活性を利用して、炎症やアレルギーなどの疾患を改善する医薬組成物を開発するためには、まだまだ改善が必要である。
【非特許文献1】Sugiuraら、J.Biol.Chem., 277:23294-23300 (2002)
【非特許文献2】Mitsutakeら、J.Biol.Chem., 279:17570-17577 (2004)
【非特許文献3】Jin-Wook Kimら、Biochemica et Biophysica Acta 1738 (2005) 82-90
【特許文献1】特開2006-298849号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、生理的な条件下で高いセラミドキナーゼ阻害活性を示し、セラミドキナーゼ阻害剤として有用な新規化合物およびその製造方法を提供することを目的とする。また、本発明は、当該新規化合物を有効成分とするセラミドキナーゼ阻害剤、ならびにセラミドキナーゼ阻害活性を利用したマスト細胞の脱顆粒の抑制方法、言い換えれば、炎症やアレルギーなどのマスト細胞の脱顆粒に起因する疾患や病態の改善に好適に使用される医薬組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねていたところ、下記の一般式(A)で示される4環性化合物が、生理的な条件で優れたセラミドキナーゼ阻害活性を有していることを見出し、かかる化合物がそのセラミドキナーゼ阻害活性に基づいて、炎症やアレルギーなどのマスト細胞の脱顆粒に起因する疾患や病態の改善に有効であることを確信して本発明を完成するにいたった。
【0012】
すなわち、本発明は下記の構成を有するものである。
(I)新規4環性化合物
(I-1)下記一般式(A)で示される4環性化合物またはその塩:
【0013】
【化1】

【0014】
(式中、Rは水酸基、炭素数1〜4の低級アルコキシ基またはアミノ酸基;Rは炭素数1〜4の低級アルキル基;Rは水素原子;並びに、R、R〜RおよびR10〜R11は、同一または異なって、水素原子または炭素数1〜4の低級アルキル基を意味する。但し、Rが炭素数1〜4の低級アルキル基である場合、Rは水酸基ではない。)
(I-2)一般式(A)中、Rが水酸基、炭素数1〜4の低級アルコキシ基またはアミノ酸基;Rが水素原子または炭素数1〜4の低級アルキル基;R、RおよびRが、同一または異なって、炭素数1〜4の低級アルキル基;並びにR〜RおよびR〜R11が水素原子である、(I-1)に記載する4環性化合物またはその塩(但し、Rが炭素数1〜4の低級アルキル基である場合、Rは水酸基ではない。)。
【0015】
(I-3)一般式(A)中、エーテル環が6または7員環である、(I-1)または(I-2)のいずれかに記載する4環性化合物またはその塩。
【0016】
(I-4)上記4環性化合物(A)が、下式で示される鏡像異性体の混合物である、(I-3)に記載する4環性化合物またはその塩:
【0017】
【化2】

【0018】
(I-5)上記4環性化合物(A)が、下式で示される鏡像異性体の混合物である、 (I-3)に記載する4環性化合物またはその塩:
【0019】
【化3】

【0020】
(I-6)一般式(A)中、Rが炭素数1〜4の低級アルコキシ基またはアミノ酸基;R、R、RおよびRが、同一または異なって、炭素数1〜4の低級アルキル基;R〜RおよびR〜R11が水素原子;ならびにエーテル環が6員環である、(I-1)乃至(I-4)のいずれかに記載する4環性化合物またはその塩。
【0021】
(I-7)一般式(A)中、Rが水酸基;R、RおよびRが、同一または異なって、炭素数1〜4の低級アルキル基;R、R〜RおよびR〜R11が水素原子;ならびにエーテル環が7員環である、(I-1)〜(I-3)または(I-5)のいずれかに記載する4環性化合物またはその塩。
【0022】
(II)新規4環性化合物の製造方法
(II-1)(I-1)に記載する4環性化合物(但し、一般式(A)中、Rは炭素数1〜4の低級アルキル基;RおよびRは炭素数1〜4の低級アルキル基;Rは水素原子;並びに、R〜RおよびR10〜R11は、同一または異なって、水素原子または炭素数1〜4の低級アルキル基であり、エーテル環は6員環である。)の製造方法であって、
工程A:アルデヒド基を有する化合物Fを、保護基で保護された水酸基を有する化合物Gと反応させて、アルコール性水酸基を有する化合物Hを生成する工程、
工程B:化合物Hのアルコール性水酸基を除去して、化合物Iを生成する工程、
工程C:化合物Iの水酸基の保護基(X〜X)を除去した後、酸化により化合物Jを生成する工程、および
工程D:化合物Jの水酸基をアルコキシ化して、化合物A−1(1)を生成する工程、
を有する方法:
【0023】
【化4】

【0024】
(式中、R〜R11は、前記と同じ。R12は炭素数1〜4の低級アルキル基であり、X〜Xは同一または異なって水酸基の保護基である。XとXおよびXとXは、一緒になって環を形成してもよい。)。
【0025】
(II-2)(II-1)で得られた化合物A−1(1)のアルコキシ基をアミノ酸基に置換する工程を有する、化合物A−1(2)を製造する方法:
【0026】
【化5】

【0027】
(式中、R13はアミノ酸基を意味する。R〜RおよびR10〜R11は、上記と同じ。)
(II-3)(I-1)に記載する4環性化合物(但し、一般式(A)中、Rは水酸基;Rは炭素数1〜4の低級アルキル基;RおよびRは水素原子;並びに、R〜RおよびR10〜R11は、同一または異なって、水素原子または炭素数1〜4の低級アルキル基であり、エーテル環は7員環である。)の製造方法であって、
下式に示す
工程F:メチレン基を有する化合物Fからヒドロキシメチル基を有する化合物Kを生成する工程、
工程G:化合物Kのヒドロキシ基を保護して、化合物Lを生成する工程、
工程H:化合物Lの水酸基の保護基(X〜X)を除去した後、酸化により化合物Mを生成する工程、および
工程I:化合物Mを環化して、化合物A−2(1)を生成する工程、
を有する方法:
【0028】
【化6】

【0029】
(式中、R〜R11は、前記と同じ。X〜Xは同一または異なって水酸基の保護基であり、XとXおよびXとXは一緒になって環を形成してもよい。)
(III)新規4環性化合物の用途
(III-2)(I-1)乃至(I-7)のいずれかに記載する4環性化合物、その薬学的に許容される塩またはその溶媒和物を有効成分とする医薬組成物。
(III-3)マスト細胞の脱顆粒が関与する疾患または病態を処置するための医薬組成物である、(III-2)に記載する医薬組成物。
(III-4)マスト細胞の脱顆粒が関与する疾患または病態がアレルギーまたは炎症である、(III-3)に記載する医薬組成物。
(III-1)(I-1)乃至(I-7)のいずれかに記載する4環性化合物またはその塩を有効成分とするセラミドキナーゼ阻害剤。
【発明の効果】
【0030】
本発明が提供する4環性化合物(A)は、優れたセラミドキナーゼ阻害活性を有する文献未収載の新規化合物である。前述するように、セラミドキナーゼ活性はマスト細胞の脱顆粒と関連し、セラミドキナーゼ活性が阻害されるとマスト細胞の脱顆粒が抑制されることが知られている(非特許文献2参照)。このことから、本発明の4環性化合物(A)は、そのセラミドキナーゼ阻害作用に基づいて、セラミドキナーゼ阻害剤としてだけでなく、マスト細胞の脱顆粒に起因して生じる炎症やアレルギーなどの疾患や病態を処置する医薬組成物として有効に利用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0031】
(1)4環性化合物(A)
本発明が提供する化合物は、下記一般式(A)で示されるエーテル環を有する4環性化合物(A)である。
【0032】
【化7】

【0033】
(式中、Rは水酸基、炭素数1〜4の低級アルコキシ基またはアミノ酸基;Rは炭素数1〜4の低級アルキル基;Rは水素原子;並びに、R、R〜RおよびR10〜R11は、同一または異なって、水素原子または炭素数1〜4の低級アルキル基を意味する。また、●を付した炭素原子は不斉炭素を意味する。)。
【0034】
一般式(A)中、R〜RおよびR10〜R11で示される低級アルキル基は、炭素原子を1乃至4個有する直鎖状または分岐鎖状のアルキル基であり、例えばメチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、s−ブチル基、t−ブチル基を挙げることができる。好ましくは炭素原子を1または2個有するメチル基およびエチル基であり、なかでも好ましくはメチル基である。
【0035】
一般式(A)中、Rで示される炭素数1〜4の低級アルコキシ基は、水酸基の水素原子が上記の炭素数1〜4の低級アルキル基で置換された基であり、例えばメトキシ基、エトキシ基、1−プロポキシ基、2−プロポキシ基、1−ブトキシ基、2−ブトキシ基、2−メチル−1−プロポキシ基、2−メチル−2−プロポキシ基等を挙げることができる。好ましくは炭素原子を1または2個有するメトキシ基およびエトキシ基であり、なかでも好ましくはメトキシ基である。
【0036】
一般式(A)中、Rで示されるアミノ酸基は、アミノ酸を構成する第一級アミンの窒素から水素を一つ除去した官能基を意味する。アミノ酸基として使用されるアミノ酸としては、具体的には、グリシンやアラニンなどを挙げることができる。好ましくはグリシンである。
【0037】
一般式(A)中、エーテル環は、好ましくは6員環または7員環である。
【0038】
なお、本発明が対象とする4環性化合物(A)には、黒丸●を付した炭素原子をキラル中心とする鏡像異性体が含まれる。すなわち、本発明が対象とする化合物(A)は、当該炭素原子をキラル中心とする鏡像異性体のいずれであってもよく、またこれらを任意の割合で含有する混合物、例えばラセミ体であってもよい。
【0039】
本発明の4環性化合物(A)は、好ましくは下式で示される化合物である。
【0040】
【化8】

【0041】
(式中、RとR及び●は前記と同じ。R’3、R’およびR’は、炭素数1〜4の低級アルキル基を示す。)
当該化合物(A’)は、上記一般式(A)において、R、RおよびRが、同一または異なって炭素数1〜4の低級アルキル基であり、R〜RおよびR〜R11が水素原子である4環性化合物に相当する。ここでR’、R’およびR’で示される低級アルキル基は、好ましくは炭素数1または2のメチル基およびエチル基であり、より好ましくはメチル基である。また、式(A’)中、エーテル環は好ましくは6員環または7員環である。
【0042】
かかる化合物(A’)には、具体的には下記の化合物A-1が含まれる。
化合物A-1
【0043】
【化9】

【0044】
(式中、R’は炭素数1〜4の低級アルコキシ基またはアミノ酸基;R、R、RおよびRは、同一または異なって、炭素数1〜4の低級アルキル基を示す。●は不斉炭素を意味する。)
かかる化合物A-1には、黒丸●を付した炭素原子をキラル中心とする鏡像異性体が含まれる。すなわち、本発明が対象とする化合物A−1は、当該炭素原子をキラル中心とする鏡像異性体のいずれであってもよく、またこれらを任意の割合で含有する混合物、例えばラセミ体であってもよい。好ましくは、下式で示される鏡像異性体、またはその混合物、ラセミ体である。
【0045】
【化10】

【0046】
(式中、R’、R、R、RおよびRは、前記と同じ。)
かかる化合物A-1には、具体的には、下式で示される化合物A−1(1)および化合物A−1(2)が含まれる。これらの化合物にも、上記と同様に、●印を付した炭素原子をキラル中心とする鏡像異性体が含まれる。好ましくは上記式で示される鏡像異性体、またはその混合物であるラセミ体である。
【0047】
化合物A−1(1)
【0048】
【化11】

【0049】
化合物A−1(2)
【0050】
【化12】

【0051】
また化合物(A’)には、下記の化合物A-2も含まれる。
【0052】
化合物A-2
【0053】
【化13】

【0054】
(式中、Rは水酸基、炭素数1〜4の低級アルコキシ基またはアミノ酸基;R、RおよびRは、同一または異なって、炭素数1〜4の低級アルキル基を示す。●は不斉炭素を意味する。)
かかる化合物A-2にも、黒丸●を付した炭素原子をキラル中心とする鏡像異性体が含まれる。すなわち、本発明が対象とする化合物A−2は、当該炭素原子をキラル中心とする鏡像異性体のいずれであってもよく、またこれらを任意の割合で含有する混合物、例えばラセミ体であってもよい。好ましくは、下式で示される鏡像異性体、またはその混合物、ラセミ体である。
【0055】
【化14】

【0056】
(式中、R、R、RおよびRは、前記と同じ。)
かかる化合物A-2には、具体的には、下式で示される化合物A−2(1)が含まれる。この化合物にも、上記と同様に、●印を付した炭素原子をキラル中心とする鏡像異性体が含まれる。好ましくは上記式で示される鏡像異性体、またはその混合物であるラセミ体である。
【0057】
化合物A−2(1)
【0058】
【化15】

【0059】
本発明の4環性化合物(A)は、例えば上記化合物A−2(1)のように、塩基性基を有する場合には、定法に従って酸付加塩にすることができる。好ましくは薬理学的に許容される酸付加塩である。このような塩としては、例えばフッ化水素酸、塩化水素酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸のようなハロゲン化水素酸の塩;硝酸塩、過塩素酸塩、硫酸塩、燐酸塩のような無機酸塩;メタンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸、エタンスルホン酸のような低級アルカンスルホン酸の塩;ベンゼンスルホン酸、P−トルエンスルホン酸のようなアリールスルホン酸の塩;グルタミン酸、アスパラギン酸のようなアミノ酸の塩;酢酸、フマール酸、酒石酸、蓚酸、マレイン酸、リンゴ酸、琥珀酸、安息香酸、マンデル酸、アスコルビン酸、乳酸、グルコン酸、クエン酸のようなカルボン酸の塩を挙げることができる。
【0060】
また本発明の4環性化合物(A)は、例えば上記化合物A−1(2)のように、カルボキシル基を有する場合には、定法に従って金属塩にすることができる。好ましくは薬理学的に許容される金属塩である。このような塩としては、例えばリチウム、ナトリウム、カリウムのようなアルカリ金属塩;カルシウム、バリウム、マグネシウムのようなアルカリ土類金属塩;アンモニウム塩などを挙げることができる。
【0061】
さらに本発明の4環性化合物(A)は、定法に従って薬理学的に許容されるエステルにすることもできる。かかるエステルとしては、薬学的に使用されるものであれば特に制限されない。
【0062】
(2)4環性化合物(A)の製造方法
本発明の4環性化合物(A)のうち、前述する化合物A−1(1)は、下式に記載するスキーム(工程A〜D)を経て製造することができる。
【0063】
【化16】

【0064】
(式中、RおよびRは炭素数1〜4の低級アルキル基、R〜R、R10〜R11は、同一または異なって、水素原子または炭素数1〜4の低級アルキル基、R11は炭素数1〜4の低級アルキル基である。X〜Xは同一または異なって水酸基の保護基であり、XとXおよびXとXは一緒になって環を形成してもよい。)
<工程A>
ここで工程Aは、アルデヒド基を有する化合物Fを、保護基で保護された水酸基を有する化合物Gと反応させてアルコール性水酸基を有する化合物Hを生成する工程である。
【0065】
ここで化合物Gの水酸基の保護基としては、アセタール、メチルエーテル、メトキシメチルエーテル、メトキシエトキシメチルエーテル、各種のシリルエーテルなどのエーテル性保護基を挙げることができる。好ましくは、アセタールである。かかる化合物G(アセトナイド体)は、下式に示すように、1,2,4,5-テトラヒドロキシベンゼンを、酸の存在下、アセタール化剤で処理することによって調製することができる。
【0066】
【化17】

【0067】
アセタール化剤としては、ホルムアルデヒド、ベンゾフェノン、シクロヘキサノン、アセトン、2,2-ジメトキシプロパン、2-メトキシプロペンなどを挙げることができる。好ましくは2,2-ジメトキシプロパンである。アセタール化に使用される酸としては、制限されないが、p-トルエンスルホン酸、ピリジウムパラトルエンスルホンネート、カンファースルホン酸等の有機酸;塩酸、硫酸、燐酸などの鉱酸;三フッ化ホウ素などのルイス酸を挙げることができる。またこのときに使用される溶媒としては、N,N-ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシドなどの非プロパン性極性溶媒;テトラヒドロフラン、1,4-ジオキサン、1,2-ジメトキシエタン、ジエチルエーテル、ジグライム、トリグライム、ジエチレングリコールモノメチルエーテルなどのエーテル系溶媒;ならびにこれらの混合溶媒を挙げることができる。
【0068】
化合物Fと化合物Gとの反応は、化合物Gをアニオン化させて行うことができる。化合物Gのアニオン化には、通常、水素化ナトリウム、水素化カリウムなどのアルカリ金属またはアルカリ土類金属の水素化物;n−ブチルリチウム、sec−ブチルリチウム、t−ブチルリチウムなどのアルキルリチウム;リチウムジイソプロピルアミド、リチウム2,2,6,6−テトラメチルピペリジドなどのリチウムアミド、ナトリウムヘキサメチルジシラジド、カリウムヘキサメチルジシラジド、リチウムヘキサメチルジシラジドなどのアルカリ金属ジシラジドなどのアニオン化剤が使用される。好ましくはn−ブチルリチウムが用いられる。反応溶媒としては、アセタール化と同様に、N,N-ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシドなどの非プロパン性極性溶媒;テトラヒドロフラン、1,4-ジオキサン、1,2-ジメトキシエタン、ジエチルエーテル、ジグライム、トリグライム、ジエチレングリコールモノメチルエーテルなどのエーテル系溶媒;ならびにこれらの混合溶媒を用いることができる。すなわち、当該反応は、実施例の反応条件に限られるものでない。
【0069】
<工程B>
工程Bは、上記工程Aで得られた化合物Hからアルコール性水酸基を除去する工程である。当該工程は、基本的に、(i)まずアルコール性水酸基をキサンテート基に誘導し、(ii)次いでこのキサンテート基を除去する、下記の2ステップにより実施できる。
【0070】
【化18】

【0071】
(式中、各符号は前述の通り)
アルコール性水酸基をキサンテート基に誘導する方法としては、実施例1(1-8)の工程7-1に記載する方法を好適に挙げることができるが、当該方法やその反応条件に限られるものでない。
【0072】
またキサンテート基を除去する方法としては、実施例1(1-8)の工程7-2に記載する方法を好適に挙げることができるが、当該方法やその反応条件に限られるものでない。
【0073】
<工程C>
工程Cは、上記工程Bで得られた化合物Iの水酸基の保護基を除去し、エーテル環を形成する工程である。当該工程は、好適には実施例1(1-9)の工程8に記載する方法に従って実施することができる。但し、当該方法ならびに反応条件に限定されるものではない。
【0074】
<工程D>
工程Dは、上記工程Cで得られた化合物Jの水酸基を低級アルキル化して、本発明の化合物A−1(1)を生成する工程である。当該工程は、好適には実施例1(2)の工程9に記載する方法に従って実施することができる。但し、当該方法ならびに反応条件に限定されるものではない。
【0075】
上記の反応終了後、必要に応じて、得られた反応液を減圧濃縮し、次いでシリカゲル等を利用したクロマトグラフィー、蒸留、再結晶等の任意の精製操作に供してもよい。斯くして本発明の化合物A−1(1)を得ることができる。
【0076】
<工程E>
また本発明の4環性化合物(A)のうち、化合物A−1(2)は、上記で得られた化合物A−1(1)のアルコキシ基を、アミノ酸基に置換することによって製造することができる。当該工程は、好適には実施例2の工程10に記載する方法に従って実施することができる。但し、当該方法ならびに反応条件に限定されるものではない。
【0077】
またここでも反応終了後、必要に応じて、得られた反応液を減圧濃縮し、次いでシリカゲル等を利用したクロマトグラフィー、蒸留、再結晶等の任意の精製操作に供してもよい。斯くして本発明の化合物A−1(2)を得ることができる。
【0078】
なお、上記化合物A−1(1)および化合物A−1(2)の製造に際して、原料として使用される化合物Fは、例えば下式で示すように、二環性β−ケトエステルをWittig反応に供し、得られた化合物のエステル基を還元して水酸基とし、生成した水酸基を酸化してアルデヒドとすることによって調製することができる。
【0079】
【化19】

【0080】
具体的な調製方法については、実施例1(1-1)の工程1および(1-2)の工程2に記載する方法を挙げることができる。但し、これに制限されない。
【0081】
さらに本発明の4環性化合物(A)のうち、化合物A−2(1)は、下式に記載するスキーム(工程F〜I)に従って製造することができる。
【0082】
【化20】

【0083】
(式中、R〜R11およびX〜Xは、前記と同じ。XとXおよびXとXは一緒になって環を形成してもよい。)
<工程F>
工程Fは、化合物Hのメチレン基をヒドロキシメチル基とし、化合物Kを生成する工程である。当該工程は、好適には実施例3(1)の工程11に記載する方法に従って実施することができる。但し、当該方法ならびに反応条件に限定されるものではない。
【0084】
<工程G>
工程Gは、上記工程Fで得られた化合物Kのヒドロキシメチル基を保護して、化合物Lを生成する工程である。当該工程は、好適には実施例3(2)の工程12に記載する方法に従って実施することができる。但し、当該方法ならびに反応条件に限定されるものではない。
【0085】
<工程H>
工程Hは、上記工程Gで得られた化合物Lの水酸基の保護基を除去し、次いで酸化して化合物Mを生成する工程である。当該工程は、好適には実施例3(3)の工程13に記載する方法に従って実施することができる。但し、当該方法ならびに反応条件に限定されるものではない。
【0086】
<工程I>
工程Iは、上記工程Hで得られた化合物Mを環化して化合物A−2(1)を生成する工程である。当該工程は、好適には実施例3(4)の工程14に記載する方法に従って実施することができる。但し、当該方法ならびに反応条件に限定されるものではない。
【0087】
反応終了後、必要に応じて、得られた反応液を減圧濃縮し、次いでシリカゲル等を利用したクロマトグラフィー、蒸留、再結晶等の任意の精製操作に供してもよい。斯くして本発明の化合物A−2(1)を得ることができる。
【0088】
またここで得られた化合物A−2(1)の水酸基をアルコキシ化することによって、化合物A−2(2)を製造することができる:
【0089】
【化21】

【0090】
(式中、R12は炭素数1〜4の低級アルキル基を意味する。R〜RおよびR10〜R11は、上記と同じ。)
工程Jの反応終了後、必要に応じて、得られた反応液を減圧濃縮し、次いでシリカゲル等を利用したクロマトグラフィー、蒸留、再結晶等の任意の精製操作に供してもよい。斯くして本発明の化合物A−2(2)を得ることができる。
【0091】
(3)セラミドキナーゼ阻害剤
本発明のセラミドキナーゼ阻害剤は、前述する4環性化合物(A)またはその塩を有効成分とすることを特徴とする。
【0092】
セラミドキナーゼ(CERK)は、セラミドをリン酸化し、セラミド1−リン酸(C1P)を生成する酵素である。本発明の4環性化合物(A)は、当該酵素のセラミドキナーゼ活性を阻害する作用を有している。本発明の好適な4環性化合物(A)は、生理的条件下で、セラミドキナーゼ阻害活性を示す。かかるセラミドキナーゼ阻害活性は、具体的には試験例で説明するように、マウスのセラミドキナーゼを一過性に発現させた細胞の溶解液を酵素液として用いて、これを被験化合物の存在下でセラミドと反応させ、生成するセラミド1−リン酸の量を測定することによって評価することができる。被験化合物の非存在下でセラミドと反応させて得られるセラミド1−リン酸の量(対照量)に比して、被験化合物の存在下で反応させて得られるセラミド1−リン酸の量が低減する場合、当該被験化合物にはセラミドキナーゼ活性を阻害する作用があると判断することができる。また、本発明の4環性化合物(A)は細胞毒性がないか、またはあっても低いことが好ましい。
【0093】
本発明のセラミドキナーゼ阻害剤は、前述する4環性化合物(A)100%からなるものであってもよいし、またセラミドキナーゼ阻害活性を保持する限りにおいて他の成分を含有するものであってもよい。
【0094】
(4)医薬組成物
本発明は、前述するセラミドキナーゼ阻害剤を有効成分として含有する医薬組成物を提供する。言い換えれば、本発明の医薬組成物は、前述する4環性化合物(A)またはその塩を有効成分として含有するものである。なお、4環性化合物(A)が溶媒和物(例えば水和物)を形成する場合には、これらの溶媒和物も本発明の医薬組成物の有効成分として使用できる。また、生体内において代謝されて上記で表される化合物(A)、その塩又はエステルに変換される化合物(例えばアミド誘導体のような、いわゆるプロドラッグ)も、本発明の医薬組成物の有効成分として使用できる。
【0095】
本発明の医薬組成物は、4環性化合物(A)を有効量含むことによって、セラミドキナーゼ活性を特異的に抑制させることができ、カルシウムまたは抗原刺激に伴うセラミドキナーゼ活性化を阻害してセラミド1−リン酸の生成を抑制する作用を有している。前述するように、セラミドキナーゼ活性はマスト細胞の脱顆粒と関連し、セラミドキナーゼ活性が阻害されるとマスト細胞の脱顆粒が抑制されることが知られている(非特許文献2参照)。このため4環性化合物(A)を有効成分とする本発明の医薬組成物は、そのセラミドキナーゼ阻害作用に基づいて、マスト細胞の脱顆粒に起因して生じる疾患や病態を処置するために有効に使用することができる。
【0096】
かかる疾患または病態として、炎症、およびアトピー性皮膚炎や花粉症を含むI型アレルギーなどのアレルギーを挙げることができる。
【0097】
なお、本発明において「処置」とは、主として症状や病態の軽減または改善を意図するものであるが、かかる治療的(発症後)処置のみならず、予防的(発症前)処置も含まれる。
【0098】
本発明の4環性化合物(A)のなかでも、化合物1(一般式(A)中、Rが水酸基;R、R、RおよびRがメチル基;R〜RおよびR〜R11が水素原子;ならびにエーテル環が6員環である化合物)は、細胞毒性が低いためヒトを対象とした医薬組成物の成分として有効に利用することができる。また、本発明の化合物3(一般式(A)中、Rがアミノ酸基(グリシル基);R、R、RおよびRがメチル基;R〜RおよびR〜R11が水素原子;ならびにエーテル環が6員環である化合物)および化合物4(一般式(A)中、Rが水酸基;R、RおよびRがメチル基;R、R〜RおよびR〜R11が水素原子;ならびにエーテル環が7員環である化合物)は、化合物1よりもセラミドキナーゼ阻害活性が高いため、少量で所望の薬理効果を得ることができる。
【0099】
本発明の医薬組成物は、通常、セラミドキナーゼ阻害作用を発揮する有効量の化合物(A)またはその塩に加えて、薬学的に許容される担体または添加剤を配合して調製される。医薬組成物中の化合物(A)またはその塩の配合量は、対象とする疾患や病態の種類や投与形態に応じて適宜選択されるが、通常、全身投与製剤の場合には、医薬組成物の全体重量(100重量%)の0.001〜50重量%、特に0.01〜10重量%とすることができる。
【0100】
本発明の医薬組成物の投与方法として、経口投与、ならびに静脈内投与、筋肉内投与、皮下投与、経粘膜投与、経皮投与、および直腸内投与等の非経口投与を挙げることができる。好ましくは経口投与および静脈内投与であり、より好ましくは経口投与である。本発明の医薬組成物は、かかる投与方法に応じて、種々の形態の製剤(剤型)に調製することができる。以下に、各製剤(剤型)について説明するが、本発明において用いられる剤型はこれらに限定されるものではなく、医薬製剤分野において通常用いられる各種剤型を用いることができる。
【0101】
経口投与を行う場合の剤型として、散剤、顆粒剤、カプセル剤、丸剤、錠剤、エリキシル剤、懸濁剤、乳剤およびシロップ剤を挙げることができ、これらの中から適宜選択することができる。また、それらの製剤について徐放化、安定化、易崩壊化、難崩壊化、腸溶性化、易吸収化等の修飾を施すことができる。
【0102】
また、静脈内投与、筋肉内投与、または皮下投与を行う場合の剤型として、注射剤または点滴剤(用時調製の乾燥品を含む)等があり、適宜選択することができる。
【0103】
また、経粘膜投与、経皮投与、または直腸内投与を行う場合の剤型として、咀嚼剤、舌下剤、パッカル剤、トローチ剤、軟膏剤、貼布剤、液剤等があり、適応場所に応じて適宜選択するここができる。また、それらの製剤についても徐放化、安定化、易崩壊化、難崩壊化、易吸収化等の修飾を施すことができる。
【0104】
本発明の医薬組成物にはその剤形(経口投与または各種の非経口投与の剤形)に応じて、薬学的に許容される担体および添加剤を配合することができる。薬学的に許容される担体及び添加剤としては、溶剤、賦形剤、コーティング剤、基剤、結合剤、滑沢剤、崩壊剤、溶解補助剤、懸濁化剤、粘稠剤、乳化剤、安定剤、緩衝剤、等張化剤、無痛化剤、保存剤、矯味剤、芳香剤、着色剤が挙げられる。以下に、医薬上許容される担体および添加剤の具体例を列挙するが、本発明はこれらに制限されるものではない。
【0105】
溶剤としては、精製水、滅菌精製水、注射用水、生理食塩液、ラッカセイ油、エタノール、グリセリン等を挙げることができる。賦形剤としては、デンプン類(例えばバレイショデンプン、コムギデンプン、トウモロコシデンプン)、乳糖、ブドウ糖、白糖、結晶セルロース、硫酸カルシウム、炭酸カルシウム、炭酸水素ナトリウム、塩化ナトリウム、タルク、酸化チタン、トレハロース、キシリトール等を挙げることができる。
【0106】
結合剤としては、デンプンおよびその誘導体、セルロースおよびその誘導体(たとえばメチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、カルボキシメチルセルロース)、ゼラチン、アルギン酸ナトリウム、トラガント、アラビアゴム等の天然高分子化合物、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール等の合成高分子化合物、デキストリン、ヒドロキシプロピルスターチ等を挙げることができる。
【0107】
滑沢剤としては、軽質無水ケイ酸、ステアリン酸およびその塩類(たとえばステアリン酸マグネシウム)、タルク、ワックス類、コムギデンブン、マクロゴール、水素添加植物油、ショ糖脂肪酸エステル、ポリエチレングリコール、シリコン油等を挙げることができる。
【0108】
崩壊剤としては、デンプンおよびその誘導体、寒天、ゼラチン末、炭酸水素ナトリウム、炭酸カルシウム、セルロースおよびその誘導体、ヒドロキシプロピルスターチ、カルボキシメチルセルロースおよびその塩類ならびにその架橋体、低置換型ヒドロキシプロピルセルロース等を挙げることができる。
【0109】
溶解補助剤としては、シクロデキストリン、エタノール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール等を挙げることができる。懸濁化剤としては、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ポリピニルピロリドン、アラビアゴム、トラガント、アルギン酸ナトリウム、モノステアリン酸アルミニウム、クエン酸、各種界面活性剤等を挙げることができる。
【0110】
粘稠剤としては、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ポリピニルピロリドン、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルアルコール、トラガント、アラビアゴム、アルギン酸ナトリウム等を挙げることができる。
【0111】
乳化剤は、アラビアゴム、コレステロール、トラガント、メチルセルロース、レシチン、各種界面活性剤(たとえば、ステアリン酸ポリオキシル40、セスキオレイン酸ソルビタン、ポリソルベート80、ラウリル硫酸ナトリウム)等を挙げることができる。
【0112】
安定剤としては、トコフェロール、キレート剤(たとえばEDTA、チオグリコール酸)、不活性ガス(たとえば窒素、二酸化炭素)、還元性物質(たとえば亜硫酸水素ナトリウム、チオ硫酸ナトリウム、アスコルビン酸、ロンガリット)等を挙げることができる。
【0113】
緩衝剤としては、リン酸水素ナトリウム、酢酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム、ホウ酸等を挙げることができる。
【0114】
等張化剤としては、塩化ナトリウム、ブドウ糖等を挙げることができる。無痛化剤こしては、局所麻酔剤(塩酸プロカイン、リドカイン)、ペンジルアルコール、ブドウ糖、ソルビトール、アミノ酸等を挙げることができる。
【0115】
矯味剤としては、白糖、サッカリン、カンゾウエキス、ソルビトール、キシリトール、グリセリン等を挙げることができる。芳香剤としては、トウヒチンキ、ローズ油等を挙げることができる。着色剤としては、水溶性食用色素、レーキ色素等を挙げることができる。
【0116】
保存剤としては、安息香酸およびその塩類、パラオキシ安息香酸エステル類、クロロブタノール、逆性石けん、ベンジルアルコール、フェノール、チロメサール、デヒドロ酢酸、ホウ酸、等を挙げることができる。
【0117】
コーティング剤としては、白糖、ヒドロキシプロピルセルロース(HPC)、セラック、ゼラチン、グリセリン、ソルビトール、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)、エチルセルロース、ポリビニルピロリドン(PVP)、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート(HPMCP)、セルロースアセテートフタレート(CAP)、メチルメタアクリレート−メタアクリル酸共重合体および上記記載した高分子等を挙げることができる。
【0118】
基剤としては、ワセリン、流動パラフィン、カルナウバロウ、牛脂、硬化油、パラフィン、ミツロウ、植物油、マクロゴール、マクロゴール脂肪酸エステル、ステアリン酸、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ベントナイト、カカオ脂、ウイテップゾール、ゼラチン、ステアリルアルコール、加水ラノリン、セタノール、軽質流動パラフィン、親水ワセリン、単軟膏、白色軟膏、親水軟膏、マクロゴール軟膏、ハードファット、水中油型乳剤性基剤、油中水型乳剤性碁剤等を挙げることができる。
【0119】
なお、上記の各剤型について、公知のドラッグデリバリーシステム(DDS)の技術を採用することができる。本明細書にいうDDS製剤とは、徐放化製剤、局所適用製剤(トローチ、バッカル錠、舌下錠等)、薬物放出制御製剤、腸溶性製剤および胃溶性製剤等、投与経路、バイオアベイラビリティー、副作用等を勘案した上で、最適の製剤形態にした製剤である。
【0120】
本発明の医薬組成物を、マスト細胞の脱顆粒に関連する疾患や病態に対する処置に用いる場合、その経口投与量として、化合物(A)の量に換算して0.03〜300mg/kg体重の範囲が好ましく、より好ましくは0.1〜50mg/kg体重である。静脈内投与をする場合、化合物(A)の有効血中濃度が0.2〜50μg/mL、より好ましくは0.5〜20μg/mLの範囲となるような投与量を挙げることができる。なお、これらの投与量は、年齢、性別、体型等により変動し得る。
【0121】
本発明の医薬組成物は、マスト細胞の脱顆粒に関連する疾患や病態の改善または治療を目的として、上記疾患と判断された患者に対して有効量投与して用いられる。従って、本発明の医薬組成物を含む製剤には、かかる疾患や病態の改善または治療に使用する場合の用法を記載した仕様書または説明書が添付されていてもよい。
【0122】
尚、発明を実施するための最良の形態の項ならびに実施例における記載は、あくまでも、本発明の技術内容を明らかにするものである。よって、本発明はそのような具体例にのみ限定して狭義に解釈されるべきものではなく、当業者は、本発明の精神および添付の特許請求の範囲内で変更して実施することができる。また、本明細書中に記載された学術文献および特許文献は、本明細書中において参考として援用される。
【実施例】
【0123】
実施例1 化合物1および2の製造
(1)図1に示すスキーム(工程1〜8)に従って、化合物1を製造した。
【0124】
(1-1)化合物aから化合物bの合成(工程1)
0℃に冷却したDihydro-β-ionone(化合物a)(10.0 g, 51.5 mmol)のトルエン溶液(100 mL)に、水素化ナトリウム(60% 鉱油分散液, 3.71 g, 92.6 mmol)及び炭酸ジメチル (7.8 mL, 92.6 mmol)を加えた後、還流条件下で2時間攪拌した。次いで得られた反応混合液に、4規定の塩酸水溶液を加えて、酢酸エチルで抽出した後、有機層を飽和食塩水で洗浄した。これを硫酸マグネシウムで乾燥させ、減圧濃縮を行った。得られた残留物を、シリカゲルクロマトグラフィーを用いて精製し、化合物b(9.80 g, 収率75%)を得た。
【0125】
(1-2)化合物cの合成(工程2)
上記で得られた化合物b(7.44 g, 29.5 mmol)の塩化メチレン溶液(150 mL)を、−10℃に冷却した。ここに塩化スズ(IV)(9.7 mL, 53.0 mmol)を加え、15時間室温で攪拌した。得られた反応混合液に4規定の塩酸水溶液を加えて酢酸エチルで抽出した後、有機層を飽和食塩水で洗浄した。これを硫酸マグネシウムで乾燥させ、減圧濃縮を行った。得られた残留物を、シリカゲルクロマトグラフィーを用いて精製し、化合物c(6.11 g, 収率82%)を得た。
【0126】
(1-3)化合物dの合成(工程3)
臭化メチルトリフェニルホスホニウム(23.069 g, 64.494 mmol)のテトラヒドロフラン溶液(200 mL)に、ナトリウムアミド(2.516 g, 64.494 mmol)を加え、50℃で2時間攪拌した。得られた反応混合液を1時間静置し、ここ得られた上澄みを、予め0℃に冷却しておいた化合物c(3.255 g, 12.899 mmol)のテトラヒドロフラン溶液(20 mL)に加えた。これを室温で1時間攪拌し、水を加えて、ヘキサンで抽出した。得られた有機層を飽和食塩水で洗浄した後、硫酸マグネシウムで乾燥させ、減圧濃縮を行った。得られた残留物を、シリカゲルクロマトグラフィーを用いて精製し、化合物dを得た。
【0127】
(1-4)化合物eの合成(工程4)
水素化リチウムアルミニウム(2.018 g, 53.180 mmol)のジエチルエーテル溶液(25 mL)を0℃に冷却し、上記で得られた化合物dのジエチルエーテル溶液(25mL)を滴下した。得られた反応混合液を室温で20時間攪拌し、水及びジエチルエーテルを加えた。これを濾過し、濾液を減圧濃縮した。得られた残留物を、シリカゲルクロマトグラフィーを用いて精製し、化合物e(2.366 g, 収率100%)を得た。
【0128】
(1-5)化合物fの合成(工程5)
上記で得られた化合物e(1.00 g, 4.50mmol)の塩化メチレン溶液(20 mL)に、ゼオライト(molecular sieves 4Å)(100 mg)を加え0℃に冷却した。ここにN-メチルモルホリンN-オキサイド(1.05 g, 8.96 mmol)及び過ルテニウム酸テトラプロピルアンモニウム (158 mg, 0.450 mmol)を加え、0℃で30分攪拌した。これを濾過し、得られた濾液を減圧濃縮した。残留物をシリカゲルクロマトグラフィーにより精製し、化合物f(932 mg, 収率94 %)を得た。化合物fの物性を下記に示す。
【0129】
IR (NaCl neat, cm-1) 2932, 2733, 1721, 1644, 1460, 891;
1H NMR (CDCl3, 300 MHz) d 9.87 (d, J = 5.1 Hz, 1H), 4.92 (s, 1H), 4.50 (s, 1H), 2.44 (dd, J = 4.1, 2.1 Hz, 1H), 2.41 (dd, J = 4.4, 2.1 Hz, 1H), 2.07 (m, 1H), 1.70 (m, 1H), 1.57 (m, 1H), 1.45 (m, 1H), 1.40 (m, 2H), 1.25 (d, J = 2.8 Hz, 2H), 1.20 (d, J = 2.2 Hz, 1H), 1.15 (s, 3H), 1.01 (dd, J = 12.4, 2.6 Hz, 1H), 0.88 (s, 3H), 0.86 (s, 3H);
13C NMR (CDCl3, 75 MHz) d 205.8, 145.1, 109.3, 67.9, 54.0, 41.9, 39.9, 39.0, 36.7, 33.5, 33.4, 23.1, 21.9, 18.7, 16.0。
【0130】
(1-6)化合物gの合成
ジヒドロキシキノン(20.0 g, 142.8 mmol)のテトラヒドロフラン溶液(240 mL)に、パラジウム(活性炭上に10% wt.担持, 266 mg, 0.150 mmol)を加え、室温で8時間攪拌した。これを濾過し、濾液を減圧濃縮した。得られた残留物をベンゼンに溶解し、このベンゼン溶液(1.0 L)に、2,2-ジメトキシプロパン(73 mL, 591.8 mmol)及びdl-10-カンファースルホン酸の無水物(2.23 g, 9.87 mmol)を加え攪拌し、2時間還流を行った。得られた反応混合液に飽和炭酸水素ナトリウム水溶液を加え、酢酸エチルで抽出した後、有機層を飽和食塩水で洗浄した。これを硫酸マグネシウムで乾燥させ、減圧濃縮を行った。得られた残留物を、シリカゲルクロマトグラフィーを用いて精製し、化合物g(12.2 g, 77%)を得た。
【0131】
(1-7)化合物hの合成(工程6)
上記で得られた化合物g(6.19 g, 27.83 mmol)のテトラヒドロフラン溶液(134 mL)を−10℃に冷却した。ここにn-ブチルリチウム(1.6 M ヘキサン溶液, 24.4 mL, 38.96 mmol)を滴下した後、−10℃で30分攪拌した。得られた反応混合液の液温を徐々に室温まで上げ、室温でさらに2時間攪拌した後、化合物f(3.07 g, 13.92 mmol)のテトラヒドロフラン溶液(67mL)を加え、45分攪拌した。得られた反応混合液に飽和塩化アンモニウム水溶液を加え、酢酸エチルで抽出した後、有機層を飽和食塩水で洗浄した。これを硫酸マグネシウムで乾燥させ、減圧濃縮を行った。得られた残留物を、シリカゲルクロマトグラフィーを用いて精製し、化合物h(4.00 g, 収率65 %)を得た。化合物hの物性を下記に示す。
【0132】
IR (KBr disk, cm-1) 3594, 2930, 2866, 1466, 1211, 1161, 837;
1H NMR (CDCl3, 400 MHz) d 6.23 (s, 1H), 5.22 (dd, J = 6.4, 4.6 Hz, 1H), 4.69 (s, 1H), 4.62 (s, 1H), 2.70 (d, J = 4.6 Hz, 1H), 2.47 (d, J = 6.1 Hz, 1H), 2.37 (m, 1H), 2.05-2.15 (m, 1H), 1.90 (m, 1H), 1.72 (m, 2H), 1.61 (s, 12H), 1.45 (m, 1H), 1.42 (m, 1H), 1.40 (m, 2H), 1.30 (m, 1H), 1.03 (s, 3H), 1.00 (s, 3H), 0.81 (s, 3H);
13C NMR (CDCl3, 100 MHz) d 147.6, 140.3, 137.8, 117.8, 108.2, 91.4, 66.6, 60.4, 59.9, 42.1, 39.0, 38.7, 33.6, 25.7, 25.6, 25.1, 24.7, 22.8, 22.3, 21.8, 19.3;
ESI HRMS m/z calcd for C27H38O5[M + Na]+ 465.2617, found 465.2615。
【0133】
(1-8)化合物iの合成(工程7-1、工程7-2)
上記で得られた化合物h(2.479 g, 5.601 mmol)のテトラヒドロフラン溶液(28 mL)を−78℃に冷却した後、ナトリウム ビス(トリメチルシリル)アミド (1.0 M テトラヒドロフラン溶液, 16.8 mL, 16.803 mmol)を滴下し−78℃で30分攪拌した。ここに二硫化炭素(2.36 mL, 39.207 mmol)を加えた後、反応混合液の液温を1時間かけて−40℃まで上げた。再び反応混合液を−78℃に冷却し、ヨウ化メチル(3.53 mL, 56.010 mmol)を加え、反応混合液の液温を1時間かけて−40℃まで上げた。飽和亜硫酸ナトリウム水溶液を加え、酢酸エチルで抽出した後、有機層を飽和食塩水で洗浄した。これを硫酸マグネシウムで乾燥させ、減圧濃縮を行った(以上、工程7-1)。斯くして得られたキサンテート化合物を含む残留物をベンゼンに溶解し、このベンゼン溶液(50 mL)に、水素化トリブチルスズ(6.7 mL, 24.910 mmol)及び2,2-アゾビスイソブチロニトリル(82 mg, 0.498 mmol)を加え、還流条件下で3時間攪拌し、得られた反応混合液を減圧濃縮した。残留物を、シリカゲルクロマトグラフィーを用いて精製し、化合物i(2.091 g, 収率87%)を得た。化合物iの物性を下記に示す。
【0134】
IR (KBr disk, cm-1) 2936, 2866, 1719, 1647, 1462, 1211, 1161, 841;
1H NMR (CDCl3, 400 MHz) d 6.14 (s, 1H), 4.70 (s, 1H), 4.69 (s, 1H), 2.68 (dd, J = 13.9, 2.9 Hz, 2H), 2.51 (m, 2H), 2.31 (ddd, J = 13.9, 4.2, 2.4 Hz, 1H), 1.92 (dt, J = 12.7, 4.9 Hz, 1H), 1.79 (br-d, J = 14.0 Hz, 1H), 1.65-1.77 (m, 2H), 1.61 (s, 12H), 1.56 (d, J = 9.0 Hz, 2H), 1.50 (dt, J= 14.0, 3.6 Hz, 1H), 1.38 (m, 1H), 1.30 (m, 1H), 1.25 (m, 1H), 1.15 (dd, J = 12.7, 2.9 Hz, 1H), 0.86 (s, 3H), 0.83 (s, 3H), 0.77 (s, 3H);
13C NMR (CDCl3, 100 MHz) d 148.4, 139.8, 139.2, 117.0, 108.9, 106.6, 90.0, 55.6, 54.2, 42.2, 38.9, 38.9, 38.3, 33.6, 27.8, 26.8, 25.6, 24.5, 21.8, 19.5, 17.5, 14.1, 13.6;
ESI HRMS m/z calcd for C27H38O4[M]+ 426.2770, found 426.2780。
【0135】
(1-9)化合物1の合成(工程8)
化合物i(20 mg, 0.0469 mmol)の塩化メチレン溶液(1.0 mL)を0℃に冷却した後、1,3-プロパンジチオール (24μL, 0.234 mmol)及びメタンスルホン酸トリメチルシリル (42μL, 0.234 mmol)を加え0℃で5分間攪拌した。ここにフッ化テトラブチルアンモニウム(1 M テトラヒドロフラン溶液, 60μL, 0.0576 mmol)を加え、さらに1分間攪拌した。得られた反応混合液に水を加えてジエチルエーテルで抽出した後、有機層を飽和食塩水で洗浄した。これを硫酸マグネシウムで乾燥させ、減圧濃縮を行った。得られた残留物を、シリカゲルクロマトグラフィーを用いて精製し、化合物1 (14 mg, 収率64%)を得た。
なお、化合物1は下式で示される鏡像異性体のラセミ体である。
【0136】
【化22】

【0137】
化合物1の物性を下記に示す。
【0138】
IR (KBr disk, cm-1) 3353, 2926, 2866, 1657, 1609, 1358, 1123, 965;
1H NMR (CDCl3, 400 MHz) d 5.91 (s, 1H), 2.51 (dd, J = 17.8, 4.6 Hz, 1H), 2.22 (m, 1H), 2.12 (dd, J = 17.6, 12.7 Hz, 1H), 1.81 (m, 1H), 1.77 (m, 1H), 1.62 (ddt, J= 13.4, 13.4, 3.4 Hz, 1H), 1.47 (m, 1H), 1.42 (m, 1H), 1.25 (m, 1H), 1.25 (s, 3H), 1.20 (m, 1H), 1.16 (m, 1H), 0.97 (m, 1H), 0.92 (m, 1H), 0.90 (s, 3H), 0.89 (s, 3H), 0.84 (s, 3H);
13C NMR (CDCl3, 100 MHz) d 182.3, 182.2, 155.2, 154.5, 114.0, 104.7, 82.7, 55.9, 51.1, 41.6, 40.0, 39.2, 37.1, 33.3, 33.2, 21.5, 20.6, 19.7, 18.4, 15.9, 15.0;
ESI HRMS m/z calcd for C21H28O4[M - H]- 343.1908, found 343.1900。
【0139】
(2)下式に示すスキーム(工程9)に従って、化合物2を製造した。
【0140】
【化23】

【0141】
実施例1で製造した化合物1(110 mg, 0.319 mmol)の酢酸エチル溶液(4 mL)を0℃に冷却し、これにジアゾメタン(500 mg, 4.85 mmol)のジエチルエーテル溶液(10ml)を滴下し、0℃で5分間攪拌した。得られた反応混合液に飽和塩化アンモニウム水溶液を加え、酢酸エチルで抽出した後、有機層を飽和食塩水で洗浄した。これを硫酸マグネシウムで乾燥させ、減圧濃縮を行った。残留物をシリカゲルクロマトグラフィーにより精製し、化合物2(90 mg, 収率79%)を得た。当該化合物2も下式で示される鏡像異性体のラセミ体である。
【0142】
【化24】

【0143】
この化合物2の物性を下記に示す。
【0144】
IR (KBr disk, cm-1) 2948, 2866, 1657, 1603, 1246, 1229;1H NMR (CDCl3, 400 MHz) d 5.74 (s, 1H), 3.78 (s, 3H), 2.49 (dd, J = 18.4, 4.8 Hz, 1H), 2.21 (m, 1H), 2.12 (dd, J = 18.0, 12.8 Hz, 1H), 1.81-1.68 (m, 3H), 1.67-1.49 (m, 1H), 1.48-1.23 (m, 4H), 1.20 (s, 3H), 1.13 (td, J = 13.6, 4.0 Hz, 1H), 0.98-0.90 (m, 2H), 0.88 (s, 3H), 0.85 (s, 3H), 0.81 (s, 3H);13C NMR (CDCl3, 100 MHz) d 182.1, 181.3, 159.4, 152.6, 116.3, 104.7, 81.8, 56.3, 55.9, 51.1, 41.6, 40.1, 39.2, 37.1, 33.3, 33.1, 21.4, 20.5, 19.7, 18.3, 16.2, 15.0。
【0145】
実施例2 化合物3の製造
下式に示すスキーム(工程10)に従って、化合物3を製造した。
【0146】
【化25】

【0147】
実施例3で調製した化合物2(30 mg, 0.0837 mmol)のエタノール溶液(6.0 mL)に、炭酸水素ナトリウム (63 mg, 0.839 mmol)及びグリシン(220 mg, 2.62 mmol)を加え、40℃で48時間攪拌した。得られた反応混合液を濾過し、得られた濾液を減圧濃縮した。残留物をシリカゲルクロマトグラフィーにより精製し、化合物3(6 mg, 収率18 %)を得た。当該化合物3は、下式で示される鏡像異性体のラセミ体である。
【0148】
【化26】

【0149】
この化合物3の物性を下記に示す。
【0150】
IR (KBr disk, cm-1) 3449, 2928, 1653, 1593;1H NMR (CD3OD, 400 MHz) d 5.24 (s, 1H), 3.97 (s, 2H), 2.45 (dd, J = 17.6, 4.4 Hz, 1H), 2.23-2.07 (m, 2H), 1.87-1.66 (m, 4H), 1.55-1.18 (m, 8H), 1.12-0.99 (m, 2H), 0.96 (s, 3H), 0.94 (s, 3H), 0.90 (s, 3H); 13C NMR (CD3OD, 100 MHz) d 182.9, 182.0, 171.8, 155.9, 149.9, 115.4, 95.9, 83.0, 57.2, 52.6, 44.4, 42.9, 41.3, 40.3, 38.3, 34.1, 33.8, 21.9, 20.9, 20.7, 19.5, 17.0, 15.5。
【0151】
実施例3 化合物4の製造
下式に示すスキーム(工程11〜14)に従って、化合物4を製造した。
【0152】
【化27】

【0153】
(1)化合物jの合成(工程11)
実施例4で製造した化合物i(700 mg, 1.64 mmol)のテトラヒドロフラン溶液(16.0 mL)を0℃に冷却した後、ボラン-ジメチルスルフィド複合体(1.54 mL, 16.4 mmol)を加え、室温で4時間攪拌した。次に、得られた反応混合液を0℃に冷却した後、2規定の水酸化ナトリウム水溶液(2.45 mL, 4.91 mmol)及び過酸化水素水(30 wt % 水溶液, 5.40 mL, 4.91 mmol)を加え、室温で30分攪拌した。これに水を加え、酢酸エチルで抽出した後、有機層を飽和食塩水で洗浄した。これを硫酸マグネシウムで乾燥させ、減圧濃縮を行った。残留物をシリカゲルクロマトグラフィーにより精製し、化合物j(730 mg, 収率100%)を得た。化合物jの物性を下記に示す。
【0154】
IR (KBr disk, cm-1) 3449, 2936, 2870, 1460, 1211, 839;
1H NMR (CDCl3, 400 MHz) d 6.18 (s, 1H), 3.94 (d, J = 10.5 Hz, 1H), 3.49 (t, J = 9.5 Hz, 1H), 2.65 (dd, J = 14.2, 3.2 Hz, 1H), 2.47 (t, J = 11.7 Hz, 1H), 1.98 (br-d, J = 9.8 Hz, 1H), 1.78 (br-d, J = 12.7 Hz, 1H), 1.66 (s, 6H), 1.61 (s, 6H), 1.60 (m, 2H), 1.55 (m, 1H), 1.50 (m, 1H), 1.48 (m, 1H), 1.45 (m, 1H), 1.40 (m, 1H), 1.20-1.40 (m, 2H), 1.21 (dd, J= 13.4, 3.9 Hz, 1H), 1.07 (dt, J = 12.9, 3.4 Hz, 1H), 0.87 (s, 3H), 0.83 (s, 3H), 0.79 (s, 3H);
13C NMR (CDCl3, 100 MHz) d 140.1, 139.4, 117.4, 108.5, 90.6, 62.0, 56.7, 52.8, 42.2, 41.1, 39.0, 38.2, 33.6, 33.5, 29.9, 25.8, 25.6, 25.5, 21.7, 21.2, 18.8, 17.9, 15.6;
ESI HRMS m/z calcd for C27H40O5[M + Na]+ 467.2773, found 467.2766。
【0155】
(2)化合物kの合成(工程12)
上記で得られた化合物j(730 mg, 1.64 mmol)のテトラヒドロフラン溶液(9.0 mL)を、0℃に冷却した後、トリエチルアミン(0.69 mL, 4.91 mmol)及び塩化メタンスルホニル (190 mL, 2.47 mmol)を加え、室温で30分間攪拌した。これに水を加え、ジエチルエーテルで抽出した後、有機層を飽和食塩水で洗浄した。これを硫酸マグネシウムで乾燥させ、減圧濃縮を行った。残留物をシリカゲルクロマトグラフィーにより精製し、化合物k(849 mg, 99%)を得た。化合物kの物性を下記に示す。
【0156】
IR (KBr disk, cm-1) 2940, 2870, 1462, 1175, 839;
1H NMR (CDCl3, 400 MHz) d 6.19 (s, 1H), 4.32-4.42 (m, 3H), 2.93 (s, 3H), 2.71 (dd, J = 15.6, 5.4 Hz, 2H), 2.39 (dd, J = 14.2, 11.4 Hz, 1H), 1.88 (m, 4H), 1.77 (br-d, J = 12.4 Hz, 1H), 1.65 (s, 6H), 1.61 (s, 6H), 1.48 (dt, J = 10.2, 3.2 Hz, 1H), 1.42 (m, 1H), 1.35 (m, 1H), 1.25 (m, 1H), 1.18 (dd, J = 13.4, 3.9 Hz, 1H), 0.88 (s, 3H), 0.84 (s, 3H), 0.83 (s, 3H);
13C NMR (CDCl3, 100 MHz) d 139.9, 139.4, 117.5, 106.9, 90.6, 69.5, 56.5, 51.5, 41.9, 38.8, 38.0, 37.1, 35.7, 33.3, 29.7, 28.6, 25.6, 25.5, 21.5, 21.0, 18.6, 17.4, 15.8;
ESI HRMS m/z calcd for C28H42O7S [M + Na]+ 545.2549, found 545.2550。
【0157】
(3)化合物lの合成(工程13)
上記で得られた化合物k(849 mg, 1.62 mmol)の塩化メチレン溶液(30.0 mL)を、0℃に冷却した後、1,3-プロパンジチオール(1.47 mL, 8.12 mmol)及びメタンスルホン酸トリメチルシリル(814μL, 8.12 mmol)を加え5分間攪拌した。0℃の状態でフッ化テトラブチルアンモニウム (1M テトラヒドロフラン溶液, 2.43 mL, 2.43 mmol)を加え1分間攪拌した。得られた反応混合液に水を加え、ジエチルエーテルで抽出した後、有機層を飽和食塩水で洗浄した。これを硫酸マグネシウムで乾燥させ、減圧濃縮を行った。得られた残留物を、シリカゲルクロマトグラフィーを用いて精製し、化合物l (486 mg, 収率68%)を得た。化合物lの物性を下記に示す。
【0158】
IR (KBr disk, cm-1) 3418, 2934, 1707, 1632 ,1512, 1478, 1339, 1224, 937;
1H NMR (CDCl3, 400 MHz) d 6.02 (s, 1H), 4.51 (d, J = 9.0 Hz, 1H), 4.26 (t, J = 9.3 Hz, 1H), 2.00 (s, 3H), 2.62 (dd, J = 13.4, 3.7 Hz, 1H), 2.46 (dd, J = 13.7, 11.5 Hz, 1H), 1.93 (m, 1H), 1.82 (m, 2H), 1.77 (dd, J = 11.5, 3.4 Hz, 1H), 1.58 (m, 2H), 1.50 (m, 1H), 1.38 (m, 2H), 1.22 (m, 1H), 1.14 (dd, J = 12.9, 4.4 Hz, 1H), 0.90-1.00 (m, 2H), 0.87 (s, 3H), 0.83 (s, 3H), 0.81 (s, 3H);
13C NMR (CDCl3, 100 MHz) d 147.0, 115.6, 107.5, 69.8, 56.3, 51.4, 41.8, 38.7, 37.2, 36.4, 33.3, 28.7, 21.4, 19.4, 18.6, 17.3, 15.6;
ESI HRMS m/z calcd for C22H32O7S [M - H]- 439.1790, found 439.1771。
【0159】
(4)化合物4の合成(工程14)
上記で得られた化合物l(17 mg, 0.0386 mmol)のジメチルホルムアミド溶液(0.39 mL)を、0℃に冷却し、1,8-diazabicyclo[5.4.0]- undec-7-ene (60 mL, 0.3859 mmol)を加えた後、室温で20分間攪拌した。得られた反応混合液に飽和塩化アンモニウム水溶液を加え、酢酸エチルで抽出し、有機層を飽和食塩水で洗浄した。これを硫酸マグネシウムで乾燥させ、減圧濃縮を行った。残留物をシリカゲルクロマトグラフィーにより精製し、化合物4(13 mg, 収率77%)を得た。当該化合物4は、下式で示される鏡像異性体のラセミ体である。
【0160】
【化28】

【0161】
化合物4の物性を下記に示す。
【0162】
IR (KBr disk, cm-1) 3383, 2922, 2868, 1649, 1604, 1223, 1176;
1H NMR (CDCl3, 400 MHz) d 7.40 (br-s, 1H), 5.93 (s, 1H), 4.23 (t, J = 11.7 Hz, 1H), 4.17 (dd, J = 11.7, 3.4 Hz, 1H), 2.78 (dd, J = 16.6, 3.4 Hz, 1H), 2.53 (m, 1H), 2.52 (dd, J = 16.6, 12.7 Hz, 1H), 1.85 (dt, J = 12.2, 3.4 Hz, 1H), 1.63-1.80 (m, 2H),1.50 (m, 2H), 1.42 (m, 2H), 1.25 (m, 2H), 1.15 (m, 2H), 0.99 (m, 1H), 0.95 (s, 3H), 0.90 (s, 3H), 0.88 (s, 3H);
13C NMR (CDCl3, 100 MHz) d 192.8, 183.7, 155.0, 118.8, 104.6, 75.4, 49.4, 48.5, 42.3, 38.5, 37.3, 36.4, 33.3, 33.2, 28.5, 24.6, 22.9, 22.1, 19.4, 18.5, 16.4;
ESI HRMS m/z calcd for C21H28O4[M - H]- 343.1909, found 343.1924。
【0163】
試験例1 in vitroセラミドキナーゼ活性の測定(その1)
実施例1で製造した化合物1(以下、単に「K1」と称する)、およびその鏡像異性体(以下、単に「KD」と称する)のセラミドキナーゼ阻害作用(CERK阻害作用)を、Inagakiらの方法(Y.Inagaki et al., Biochem Biophys Res Commun, 343,982-987 (2006))に準じて、下記に示すin vitro測定系を用いて測定した。また、比較化合物として、下式に示すF12509A(非特許文献1参照)およびその鏡像異性体(以下、化合物「KB」と称する)、F12509Aのメチレン基をメチル基に置換した化合物(以下、化合物「KC」と称する)、およびベンゾキノン基を有するシクロヘキサン誘導体(以下、化合物「K2」と称する)についても同様にセラミドキナーゼ阻害作用を測定した。これらの比較化合物はいずれもエーテル環を有しない点で、本発明の化合物と相違するものである。
【0164】
【化29】

【0165】
(1)酵素(セラミドキナーゼ)の調製
Human embryonic kidney(HEK)293細胞を、FLAG-タグ付きヒトCERKをコードするpcDNA-FRAG hCERKで形質転換し、24時間培養した。この細胞を、プロテアーゼ阻害剤を含むHEPES緩衝液(10mM HEPES、2mM EGTA、40mM KCl、およびCompleteTM protease inhibitor mixture(ロシュ製)、pH7.4)で溶菌させた。この細胞溶解物から、セラミドキナーゼ(CERK)を、抗-FRAG M2ビーズ(SIGMA製)を用いて免疫沈降させて精製した。
【0166】
(2)セラミドキナーゼ活性の測定
上記で精製したCERKを、蛋白含量が7.2mg/mlとなるように、CERK反応液(40mM HEPES、100mM KCl、3mM CaCl2、1mM DTT、CompleteTM protease inhibitor mixture(ロシュ製)、pH7.5)に懸濁した。斯くして調製した酵素液の一部(70μl)を所定濃度の各被験物質5μlと混合して10分間インキュベーションした。この中に、[γ-32P]ATP(10nM、2mCi/ml、Institute of Isotope 社製)1μl、240nM ATP 9μl、および20μlの混合ミセル(5mMカルジオリピン、7.5% β-オクチルグルコシド、1mM ジエチレントリアミン5酢酸、200μM セラミド(C16:0、d18:1、SIGMA))を添加して反応を開始した。30℃で30分間インキュベーションした後、各反応液から、[32P]セラミド1リン酸([32P]C1P)を抽出して、C1Pの生成量を求めた。
【0167】
具体的には、反応後、反応液に3倍容のクロロホルムとメタノールの混合液(混合比=1:1)、次いで1.235倍容の1%塩化カリウム溶液を加え、ボルテックスミキサー(サイエンティフィックインダストリー社製)を用いて強く混和した後、得られた反応液を遠心分離した(4,000xg)。得られた上清を、マイクロピペット(ニチリョー社製)を用いて除去し、下層をエバポレーターで乾固させた。乾固させた総脂質に20μlのクロロホルムとメタノールの混合液(混合比=1:1)を加えて脂質を再溶解させ、マイクロピペット(ニチリョー社製)を用いてシリカゲル 60 TLCプレート(メルク社製)にスポットした。このプレートをクロロホルム/アセトン/メタノール/酢酸/水(10:4:3:2:1、v/v)の展開溶媒を用いて展開し、バイオイメージングアナライザーBAS2500(フジフィルム社製)を用いて、放射線標識されたセラミド1−リン酸([32P]C1P)のバンドから、C1Pの生成量を定量した。
【0168】
各被験化合物を用いた場合のC1Pの生成量を、被験化合物を用いないコントロール系のC1Pの生成量(100%)に対する相対比(%)として算出した。結果を図2に示す。 図2からわかるように、化合物1(K1)とその鏡像異性体(KD)はいずれも、化合物F12509A、KB、KC、およびK2に比して、強いCERK阻害活性を有していた。
【0169】
なお、被験化合物のうち、K1、KD、およびKCについて、図2の結果を、J.T.Edsalらの方法(J.T.Edsal et al., Biochemical Chemistry, 1, 605-638 (1958))に従ってスキャッチャードプロットした結果を図3に示す。この結果から、各被験化合物のKi値は、KCが452μMであるのに対して、K1は2.2μM、KDは3.3μMであった。
【0170】
比較化合物(F12509A、KB,KC,およびK2)と本発明の化合物(K1,KD)の主な相違は、本発明の化合物がエーテル環を有するのに対して、比較化合物はこれを有しない点である。このことから本発明の化合物のCERK阻害作用には、エーテル環が強く関与していると考えられる。また、鏡像異性体であるK1とKDはいずれも共通して強いCERK阻害作用を有していることから、セラミドキナーゼは、本発明の化合物の絶対配置を認識しないと考えられた。
【0171】
K1とKDによるCERK阻害のキネティックスを調べるために、Lineweaver-Burk plot analysisを行った。結果を図4AとBに示す。K1とKDの増加に伴って、CERKのVmax値は減少したが、Km値はほとんど変化しなかった。また、この3本のラインはいずれもX線を遮り、典型的な非競合的な阻害パターンを示した。セラミドキナーゼは、基質結合ドメインに加えて、N末端、PHドメイン(pleckstrin-homology domein)、およびCa2+/CaM結合部位を有する。PHドメインは、CERK活性に重要な領域であるが、基質への親和性やKm値には全く関与しない領域である。またCa2+/CaM結合部位はCa2+依存した活性に重要である。本発明の化合物は、基質認識部位ではなく、これらの活性調節領域の活性を阻害する作用を有しており、それがゆえに、非競合的にCERK活性を阻害するものと考えられる。
【0172】
試験例2 in vitroセラミドキナーゼ活性の測定(その2)
(1)酵素(セラミドキナーゼ)の調製
マウスセラミドキナーゼ遺伝子をpcDNA3.1ベクター(インビトロジェン社製)に組み込んだプラスミドを構築し、このプラスミドを、リポフェクトアミンプラス トランスフェクションキット(インビトロジェン社製)を用いて、Human embryonic kidney(HEK)293細胞に一過性に発現させた。この細胞を、プロテアーゼ阻害剤を含むHEPES緩衝液(10mM HEPES、2mM EGTA、1mM dithiotheritol、40mM KCl、およびCompleteTM protease inhibitor mixture(ロシュアプライドサイエンス社製))で溶菌させて、この細胞溶解物を酵素液として用いた。
【0173】
(2)セラミドキナーゼ活性の測定
上記で調製した酵素液を、蛋白含量が5μgとなるように、各濃度の被験化合物(化合物1〜4)、[γ-32P]ATP(10μCi/μmol、パーキンエルマーライフサイエンス社製)、20mM HEPES、80mM KCl、3mM CaCl2、1mM カルジオリピン、1.5% β−オクチルグルコシド、0.2mMジエチレントリアミン5酢酸、および40μM セラミド(C18:0,d18:1)(アバンティポーラーリピッヅ社製)を含む反応液(50μl)に加え、エッペンドルフチューブ内にて30℃で30分間インキュベートした。また対照試験として、被験化合物を配合しない系(コントロール)についても同様に反応させた。
【0174】
反応後、脂質をすべて抽出するために、反応液に3倍容のクロロホルムとメタノールの混合液(混合比=1:1)、次いで1.235倍容の1%塩化カリウム溶液を加え、ボルテックスミキサー(サイエンティフィックインダストリー社製)を用いて強く混和した後、得られた反応液を遠心分離した(4,000xg)。得られた上清を、マイクロピペット(ニチリョー社製)を用いて除去し、下層をエバポレーターで乾固させた。乾固させた総脂質に20μlのクロロホルムとメタノールの混合液(混合比=1:1)を加えて脂質を再溶解させ、マイクロピペット(ニチリョー社製)を用いてシリカゲル 60 TLCプレート(メルク社製)にスポットした。このプレートをクロロホルム/アセトン/メタノール/酢酸/水(10:4:3:2:1、v/v)の展開溶媒を用いて展開し、バイオイメージングアナライザーBAS2500(フジフィルム社製)を用いて、放射線標識されたセラミド1−リン酸(C1P)のバンドから、C1Pの生成量を定量した。
【0175】
各被験化合物(化合物1〜4)を用いた場合のC1Pの生成量を、コントロール系のC1Pの生成量(100%)に対する相対比(%)として算出し、これを各被験化合物のCERK活性(%)とした。結果を図5に示す。図5からわかるように、化合物1(K1)〜4はいずれもCERK阻害活性を有していた。なかでも化合物3と4は、化合物1(K1)および2よりも、強いCERK阻害活性を示した。
【0176】
試験例3 細胞内C1P量の変化
化合物1〜4を代表して化合物1(K1)を用いて、細胞内のセラミド1−リン酸(C1P)生成に対する影響を調べた。
【0177】
まずマスト細胞のモデル細胞であるラット好塩基球性白血病細胞由来のRBL−2H3細胞(2×10個/ml)を、10%のウシ胎仔血清を含み、リン酸ナトリウムおよびピルビン酸ナトリウムを含まないダルベッコ改変イーグル高グルコース液体培地(ギブコ社製)を用いて、COインキュベータにて37℃で培養した。50μCiのH32P]O(パーキンエルマーライフサイエンス社製)を培地に添加し、その30分間後にK1(10〜80μM)を添加した。K1の存在下または非存在下にてさらに培養した細胞を、4℃に冷却したリン酸緩衝化生理食塩水で一度洗浄し、700μlのクロロホルム/メタノール(1:1)を加えて反応を停止させた。
【0178】
この反応液に250μlの1M塩化カリウムを加え、5分間強く転倒混和を行った後、遠心分離(12,000xg、2分間)した。上清を除去した後の下層に、45μlの1Nの水酸化ナトリウムを含むメタノールおよび75μlのクロロホルム/メタノール(1:1)を加えて混和し、50℃で50分間静置した。続いて、この混和液に、55μlの1N HClを含むメタノールおよび75μlの1Mの塩化カリウム溶液を加え、5分間強く転倒混和を行った後、遠心分離(12,000xg、2分間)した。上清を除去した後の下層をエバポレーターで乾固させた。乾固させた総脂質に、20μlのクロロホルム:メタノール=1:1を加えて脂質を再溶解させ、シリカゲル 60 TLCプレート(メルク社製)にマイクロピペット(ニチリョー社製)を用いてスポットした。このプレートをクロロホルム/アセトン/メタノール/酢酸/水(10:4:3:2:1、v/v)の展開溶媒を用いて展開し、バイオイメージングアナライザーBAS2500(フジフィルム社製)を用いてアイソトープ標識されたセラミド1−リン酸([32P]C1P)のバンドを定量した。K1濃度(0〜80μM)と細胞内の[32P]C1P生成量との関係を図6に示す。なお、図6は、K1濃度が0のときの細胞内[32P]C1P生成量を100%とした場合の相対%として示す。
【0179】
図6に示すように、マスト細胞(RBL-2H3細胞)をK1で処理することによって細胞内C1P量が減少した。この結果から、本発明の化合物はマスト細胞に作用してセラミドキナーゼ活性を阻害し、細胞内のセラミド1−リン酸(C1P)生成を抑制することがわかる。
【0180】
試験例4 マスト細胞活性化に対する影響
化合物1〜4を代表して化合物1(K1)について、マウスの骨髄誘導マスト細胞(BMMC)を用いて、マスト細胞活性化による脱顆粒に対する影響を調べた。
【0181】
具体的には、BMMCからのβ-hexosaminidaseの放出を指標として、カルシウムイオノフォア(A23187)によって誘起される脱顆粒に対するK1の影響を測定した。
【0182】
まずEagle’s MEM培地(シグマ社製)中で培養したBMMCを回収し、1mM Ca2+を含むTyrode’s緩衝液(25mM PIPES(pH7.2)、119mM NaCl、5mM KCl、0.4mM MgSO、5.6mM glucose、1mM CaCl、および0.1% bovine serum albumin(シグマ社製)を含む)中に懸濁した。懸濁液にK1を添加した10分間後に、1μMのA23187を用いて脱顆粒を誘導した。K1による脱顆粒の誘導抑制は、β-hexosaminidase活性を測定し、その低下の程度から評価した。結果を図7に示す。図7に示すように、K1が濃度依存的に、マスト細胞の脱顆粒を抑制する作用を有することが認められた。
【0183】
このように、K1がカルシウムイオノフォアに誘起される脱顆粒に対して抑制作用を示したことは、CERKがカルシウムイオノフォアによって誘起されるマスト細胞の脱顆粒に関与しているという報告(非特許文献2)と一致する。これらの結果は、CERK阻害作用を有するK1ならびに本発明の化合物は、アレルギー反応や炎症に関わるマスト細胞の脱顆粒を抑制すること、すなわち、マスト細胞の脱顆粒を抑制してアレルギーや炎症を予防または改善する作用を有することを意味している。
【図面の簡単な説明】
【0184】
【図1】化合物1の合成スキームを示す(実施例1)。
【図2】化合物1(K1)とその鏡像異性体(KD)、F12509A、KB、KC、およびKDの、セラミドキナーゼ(CERK)阻害活性を示す図である。
【図3】図2をスキャッチャードプロットした結果を示す。
【図4】K1とKDについで、図3のスキャッチャードプロットによるCERK阻害のキネティックスを調べるために、Lineweaver-Burk plot analysisを行った結果を示す。
【図5】化合物1(K1)とその鏡像異性体(KD)、化合物2、3および4の、セラミドキナーゼ(CERK)阻害活性を示す図である。
【図6】各種濃度の化合物1(K1)で細胞を処理することによる細胞内C1P量の変化を示すグラフである。
【図7】カルシウムイオノフォアによる刺激に応じて生じる脱顆粒に対する化合物1(K1)の抑制効果を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(A)で示される4環性化合物またはその塩:
【化1】

(式中、Rは水酸基、炭素数1〜4の低級アルコキシ基またはアミノ酸基;Rは炭素数1〜4の低級アルキル基;Rは水素原子;並びに、R、R〜RおよびR10〜R11は、同一または異なって、水素原子または炭素数1〜4の低級アルキル基を意味する。但し、Rが炭素数1〜4の低級アルキル基である場合、Rは水酸基ではない。)。
【請求項2】
一般式(A)中、Rが水酸基、炭素数1〜4の低級アルコキシ基またはアミノ酸基;Rが水素原子または炭素数1〜4の低級アルキル基;R、RおよびRが、同一または異なって、炭素数1〜4の低級アルキル基;並びにR〜RおよびR〜R11が水素原子である、請求項1に記載する4環性化合物またはその塩(但し、Rが炭素数1〜4の低級アルキル基である場合、Rは水酸基ではない。)。
【請求項3】
一般式(A)中、エーテル環が6若しくは7員環である、請求項1または2に記載する4環性化合物またはその塩。
【請求項4】
上記4環性化合物(A)が、下式で示される鏡像異性体の混合物である、請求項3に記載する4環性化合物またはその塩:
【化2】

【請求項5】
上記4環性化合物(A)が、下式で示される鏡像異性体の混合物である、請求項3に記載する4環性化合物またはその塩:
【化3】

【請求項6】
請求項1に記載する4環性化合物(但し、一般式(A)中、Rは炭素数1〜4の低級アルキル基;RおよびRは炭素数1〜4の低級アルキル基;Rは水素原子;並びに、R〜RおよびR10〜R11は、同一または異なって、水素原子または炭素数1〜4の低級アルキル基であり、エーテル環は6員環である。)の製造方法であって、
下式に示す
工程A:アルデヒド基を有する化合物Fを、保護基で保護された水酸基を有する化合物Gと反応させて、アルコール性水酸基を有する化合物Hを生成する工程、
工程B:化合物Hのアルコール性水酸基を除去して、化合物Iを生成する工程、
工程C:化合物Iの水酸基の保護基(X〜X)を除去した後、酸化により化合物Jを生成する工程、および
工程D:化合物Jの水酸基をアルコキシ化して、化合物A−1(1)を生成する工程、
を有する方法。
【化4】

(式中、R〜R11は、前記と同じ。R12は炭素数1〜4の低級アルキル基であり、X〜Xは同一または異なって水酸基の保護基である。XとXおよびXとXは、一緒になって環を形成してもよい。)
【請求項7】
請求項6で得られた化合物A−1(1)のアルコキシ基をアミノ酸基に置換する工程を有する、化合物A−1(2)を製造する方法:
【化5】


(式中、R13はアミノ酸基を意味する。R〜RおよびR10〜R11は、上記と同じ。)
【請求項8】
請求項1に記載する4環性化合物(但し、一般式(A)中、Rは水酸基;Rは炭素数1〜4の低級アルキル基;RおよびRは水素原子;並びに、R〜RおよびR10〜R11は、同一または異なって、水素原子または炭素数1〜4の低級アルキル基であり、エーテル環は7員環である。)の製造方法であって、
下式に示す
工程F:化合物Hからヒドロキシメチル基を有する化合物Kを生成する工程、
工程G:化合物Kのヒドロキシメチル基を保護して化合物Lを生成する工程、
工程H:化合物Lの水酸基の保護基(X〜X)を除去した後、酸化により化合物Mを生成する工程、および
工程I:化合物Mを環化して、化合物A−2(1)を生成する工程、
を有する方法:
【化6】

(式中、R〜R11は、前記と同じ。X〜Xは同一または異なって水酸基の保護基であり、XとXおよびXとXは一緒になって環を形成してもよい。)
【請求項9】
請求項8で得られた化合物A−2(1)の水酸基をアルキル化する工程を有する、化合物A−2(2)を製造する方法:
【化7】

(式中、R12は炭素数1〜4の低級アルキル基を意味する。R〜RおよびR10〜R11は、上記と同じ。)
【請求項10】
請求項1乃至5のいずれかに記載する4環性化合物、その薬学的に許容される塩またはそれらの溶媒和物を有効成分とする医薬組成物。
【請求項11】
マスト細胞の脱顆粒が関与する疾患または病態を処置するための医薬組成物である、請求項10に記載する医薬組成物。
【請求項12】
アレルギーまたは炎症を処置するための医薬組成物である、請求項11に記載する医薬組成物。
【請求項13】
請求項1乃至5のいずれかに記載する4環性化合物またはその塩を有効成分とするセラミドキナーゼ阻害剤。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2009−51743(P2009−51743A)
【公開日】平成21年3月12日(2009.3.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−217662(P2007−217662)
【出願日】平成19年8月23日(2007.8.23)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 研究集会名 関西学院大学理工学部化学科 2006年度(第43回)卒業研究発表会 主催者名 関西学院大学 開催日 平成19年2月26日および27日 要旨集発行日 平成19年2月26日
【出願人】(503092180)学校法人関西学院 (71)
【出願人】(504173471)国立大学法人 北海道大学 (971)
【Fターム(参考)】