説明

セルロースアシレートフィルム、偏光板、液晶表示装置

【課題】リワーク性に優れた偏光板を提供する。
【解決手段】60℃・相対湿度90%の条件下に120時間静置した場合の機械方向寸度変化率S(MD)と機械幅方向寸度変化率S(TD)のいずれか一方が−10%〜−0.5%を示すことを特徴とするセルロースアシレートフィルムであって、セルロースアシレートは、該セルロースアシレートを構成するグルコース単位の水酸基をアシル基で置換して得られたものであり、該グルコース単位の水酸基のアシル基全置換度をDSとしたときに、下記式(A)を満たすことを特徴とするセルロースアシレートフィルム。
式(A):2.0≦DS≦2.7

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セルロースアシレートフィルム、偏光板および液晶表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に液晶表示装置は、液晶セル、光学補償シート、偏光子により構成される。光学補償シートは、画像着色の解消や、視野角を拡大する目的で使用されるものであり、延伸した複屈折フィルムや透明フィルムに液晶を塗布したフィルムが挙げられる。例えば、特許文献1ではディスコティック液晶をトリアセチルセルロースフィルム上に塗布し配向させて固定化した光学補償シートをTNモードの液晶セルに適用し、視野角を広げる技術が開示されている。
【0003】
しかしながら、大画面で様々な角度から見ることが想定されるテレビ用途の液晶表示装置は視野角依存性に対する要求が厳しく、前述のような手法をもってしても要求を満足することはできていない。そのため、IPS(In−Plane Switching)モード、OCB(Optically Compensatory Bend)モード、VA(Vertically Aligned)モードなど、TNモードとは異なる液晶表示装置が研究されている。特にVAモードはコントラストが高く、製造の歩留まりが比較的高いことから、TV用途の液晶表示装置として現在主流になりつつある。
【0004】
液晶表示装置に不可欠な偏光子の素材としては、一般に、ポリビニルアルコール(以下、「PVA」とも記す。)が主に用いられる。PVAフィルムは、一軸延伸してからヨウ素あるいは二色性染料で染色するか、あるいは染色してから延伸し、その後ホウ素化合物で架橋することにより偏光性能が付与され、偏光子として用いられる。
【0005】
ここで、偏光板の保護フィルムのような光学的等方性が要求される用途には、セルロースアシレートフィルムが通常用いられている。これは、セルロースアシレートフィルムが、他のポリマーフィルムと比較して、光学的等方性が高い(レターデーション値が低い)という特徴を有することに基づく。
【0006】
一方、液晶表示装置の光学補償シート(位相差フィルム)には、逆に光学的異方性(高いレターデーション値)が要求される。特にVA用の光学補償シートでは30〜200nmの正面レターデーション(Re)、70〜400nmの膜厚方向レターデーション(Rth)が必要とされる。従って、光学補償シートとしては、ポリカーボネートフィルムやポリスルホンフィルムのようなレターデーション値が高い合成ポリマーフィルムを用いることが普通であった。
【0007】
すなわち、液晶表示装置に使用する光学部材には、ポリマーフィルムに光学的異方性(高いレターデーション値)が要求される場合には合成ポリマーフィルムを使用し、光学的等方性(低いレターデーション値)が要求される場合にはセルロースアシレートフィルムを使用することが一般的な原則であった。
【0008】
特許文献2には、従来の一般的な原則を覆して、光学的異方性が要求される用途にも使用できる高いレターデーション値を有するセルロースアセテートフィルムが提案されている。この提案ではセルローストリアセテートで高いレターデーション値を実現するために、少なくとも2つの芳香環を有する芳香族化合物、中でも1,3,5−トリアジン環を有する化合物を添加し、延伸処理を行っている。一般にセルローストリアセテートは延伸しにくい高分子素材であり、複屈折率を大きくすることは困難であることが知られているが、添加剤を延伸処理で同時に配向させることにより複屈折率を大きくすることを可能にし、高いレターデーション値を実現している。このフィルムは偏光板の保護フィルムを兼ねることができるため、液晶表示装置に必要な部材フィルムを削減することで、安価で薄膜な液晶表示装置を提供することができる利点がある。
特許文献1、2に開示されている方法は、安価でかつ薄い液晶表示装置が得られる点で有効である。
【0009】
一方で、液晶表示装置の大型化が進んでおり、それに伴い、偏光板をパネルに貼り合わせる際の貼り合せミスによるパネルの損失が問題になってきている。これは偏光板にリワーク性と呼ばれる、貼り合わせをミスしても容易にパネルから剥がすことができる性能を付与すれば改善できる問題である。そのため、大型の液晶表示装置に使用する偏光板を中心にリワーク性の付与が強く要望されている。
【0010】
リワーク性付与の技術としては、特許文献3〜6が挙げられ、特許文献3では粘着剤組成の工夫によるリワーク改良する方法が開示されている。また、特許文献4〜6では、給水弾性率や引き裂き強度など、保護フィルムの物性の工夫によりリワーク改良する方法が開示されている。
【0011】
また、セルロースアシレートフィルムの課題として、液晶表示装置に用いた場合に、パネルの色味や視野角が湿度変化に対して変動する原因の一つとなることが指摘されている。すなわち、セルロースアシレートフィルムは、偏光膜の両側に用いる透明保護フィルムや光学補償フィルムの透明支持体として広く用いられている。しかしながら、セルロースアシレートフィルムは、種々の要因に依存してReやRthの絶対値が大きく変動する傾向にあり、液晶表示装置に適用された際に、上記問題を引き起こしていた。
【0012】
特許文献7には、湿式延伸によりReの湿度変化率(25℃、60%RHから25℃、10%RHでの変化を50で除した値)を2nm/%RH以下に制御した光学補償フィルムが開示されている。しかしながら、上記の特性は90℃の温水、または120℃の蒸気中で未延伸フィルムの降伏応力をある設定領域に調整することが必須となるため、製造工程が煩雑になってしまうという問題がある。さらに、湿度変化率の制御も困難である。
【0013】
また、特許文献8には、脂肪族多価アルコールエステル等をスタビライザーとして添加することで、ReおよびRthの湿度変化率(23℃、55%RHにおけるRe、またはRthの値を基準として15%〜80%RHでの変動幅)を、5%未満に制御した高分子フィルムが開示されている。しかしながら、該特許文献で効果が明記されている添加剤は単価が高く、フィルムとしてのコストの観点で許容できるものではなかった。また、セルローストリアセテート(酢化度=60.8%)に上記添加剤を12質量%添加したところ、未延伸フイルム(膜厚=80μm)でのRthの25℃、湿度変化(25℃、60%RHから25℃、10%RHでの変化)が25nmであることが実験で確認され、湿度依存性の改良効果として不十分であることが明らかになった。
【0014】
従って、環境湿度の変化に対して、Re、Rthの変動が十分に小さく、製造工程が煩雑でなく、かつ、使用素材が安価な偏光板用途の透明保護フィルムや光学補償フィルム、およびそれを用いた偏光板、液晶表示装置を得るための技術開発が、現在もなお強く望まれているのが現状である。
【0015】
【特許文献1】特許第2587398号公報
【特許文献2】欧州特許出願公開第911656号明細書
【特許文献3】特開平8−34963号公報
【特許文献4】特開2003−232926号公報
【特許文献5】特開2004−191906号公報
【特許文献6】特開2004−206038号公報
【特許文献7】特開2003−215337号公報
【特許文献8】特開2005−106929号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明は、上記課題を解決することを目的としたものであって、リワーク性に優れた偏光板を提供することを目的とする。さらに、該偏光板を使用した液晶表示装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明者は鋭意検討した結果、アシル基全置換度DSが2.0≦DS≦2.7であるセルロースアシレートフィルムであって、加熱や加湿による収縮がある程度大きいセルロースアシレートフィルムを、偏光板用保護フィルムに用いると、偏光板のリワーク性が改良されることを見出した。通常、加熱や加湿による収縮が大きいセルロースアシレートフィルムを用いると、リワーク性が劣ると推測されるが、驚くべきことに、本発明ではリワーク性が向上することを見出した。
【0018】
さらにレターデーション特性を特定範囲に制御すると、光学性能の湿度依存性が小さくなることも見出した。
これらの知見に基づき、湿度依存性の良好な光学フィルムを提供でき、前記課題を解決できることを見出した。具体的には、以下の手段により上記課題を解決しうることを見出した。
(1)60℃・相対湿度90%の条件下に120時間静置した場合の機械方向寸度変化率S(MD)と機械幅方向寸度変化率S(TD)のいずれか一方が−10%〜−0.5%を示すことを特徴とするセルロースアシレートフィルムであって、セルロースアシレートは、該セルロースアシレートを構成するグルコース単位の水酸基をアシル基で置換して得られたものであり、該グルコース単位の水酸基のアシル基全置換度をDSとしたときに、下記式(A)を満たすことを特徴とするセルロースアシレートフィルム。
式(A):2.0≦DS≦2.7
(2)80℃・相対湿度10%の条件下に120時間静置した場合の機械方向寸度変化率S(MD)と機械幅方向寸度変化率S(TD)のいずれか一方が−10%〜−0.5%を示すことを特徴とするセルロースアシレートフィルムであって、セルロースアシレートは、該セルロースアシレートを構成するグルコース単位の水酸基をアシル基で置換して得られたものであり、該グルコース単位の水酸基のアシル基全置換度をDSとしたときに、下記式(A)を満たすことを特徴とするセルロースアシレートフィルム。
式(A):2.0≦DS≦2.7
(3)波長590nmにおける正面レターデーション値Re(590)および波長590nmにおける膜厚方向のレターデーション値Rth(590)が、下記数式(I)および(II)を満たすことを特徴とする(1)または(2)に記載のセルロースアシレートフィルム。
数式(I) 20nm≦Re(590)≦200nm
数式(II) 70nm≦Rth(590)≦400nm
(4)前記Re(590)の値と前記Rth(590)の値との比(Re(590)/Rth(590)比)が0.1〜0.8であることを特徴とする(3)に記載のセルロースアシレートフィルム。
(5)前記アシル基がアセチル基であることを特徴とする(1)〜(4)のいずれか1項に記載のセルロースアシレートフィルム。
(6)前記セルロースアシレートフィルムは延伸してなるフィルムであり、延伸後の延伸方向の寸度変化率を延伸方向と直交する方向の寸度変化率で割った値、延伸方向/直交方向の変形比(AR)が、1.1〜2.0倍である、(1)〜(5)のいずれか1項に記載のセルロースアシレートフィルム。
(7)可塑剤、紫外線吸収剤、剥離促進剤、染料およびマット剤のうち1種以上を含有していることを特徴とする(1)〜(6)のいずれか1項に記載のセルロースアシレートフィルム。
(8)レターデーション調整剤を1種以上含有していることを特徴とする(1)〜(7)のいずれか1項に記載のセルロースアシレートフィルム。
(9)前記セルロースアシレートフィルムが、偏光板用保護フィルムに用いられることを特徴とする、(1)〜(8)のいずれか1項に記載のセルロースアシレートフィルム。
(10)偏光子の少なくとも片側に保護フィルムを有する偏光板であって、60℃・相対湿度90%の条件下に120時間静置した場合の偏光板の機械方向寸度変化率S(MD)と機械幅方向寸度変化率S(TD)のいずれか一方が−10%〜−1.0%を示すことを特徴とする偏光板。
(11)偏光子の少なくとも片側に保護フィルムを有する偏光板であって、80℃・相対湿度10%の条件下に120時間静置した場合の偏光板の機械方向寸度変化率S(MD)と機械幅方向寸度変化率S(TD)のいずれか一方が−10%〜−1.0%を示すことを特徴とする偏光板。
(12)前記保護フィルムが、(1)〜(9)のいずれか1項に記載のセルロースアシレートフィルムである、(10)または(11)に記載の偏光板。
(13)偏光子の少なくとも片側に保護フィルムを有する偏光板であって、前記保護フィルムが(1)〜(9)のいずれか1項に記載のセルロースアシレートフィルムであることを特徴とする偏光板。
(14)(10)〜(13)のいずれか1項に記載の偏光板の前記片側の保護フィルム側に、さらに、位相差膜を有することを特徴とする偏光板。
(15)(10)〜(14)のいずれか1項に記載の偏光板を有する液晶表示装置。
(16)(14)に記載の偏光板を、粘着剤により液晶セルに貼着することにより、前記片側の保護フィルムが液晶セル側に配置されることを特徴とする液晶表示装置。
(17)前記液晶表示装置がVAモードである、(15)または(16)に記載の液晶表示装置。
【発明の効果】
【0019】
本発明を用いることで、リワーク性に優れ、使用環境の湿度の変化に対して偏光量の変化度が十分に小さい偏光板、および該偏光板を使用した液晶表示装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下において、本発明の内容について詳細に説明する。尚、本願明細書において「〜」とはその前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む意味で使用される。
【0021】
本発明のセルロースアシレートフィルムは、60℃・相対湿度90%の条件下または80℃・相対湿度10%の条件下に120時間静置した場合の機械方向寸度変化率S(MD)と機械幅方向寸度変化率S(TD)のいずれか一方が−10%〜−0.5%を示すことを特徴とするセルロースアシレートフィルムであって、セルロースアシレートは、該セルロースアシレートを構成するグルコース単位の水酸基をアシル基で置換して得られたものであり、該グルコース単位の水酸基のアシル基全置換度をDSとしたときに、式(A):2.0≦DS≦2.7を満たすことを特徴とする。以下これらについて詳細に説明する。
【0022】
(1)寸法変化率
本発明のセルロースアシレートフィルムは、60℃・相対湿度90%の条件下または80℃・相対湿度10%の条件下に120時間静置した場合の機械方向寸度変化率S(MD)と機械幅方向寸度変化率S(TD)の少なくともいずれか一方が−10%〜−0.5%を示す。このような寸法変化率を有するフィルムを得るためには、セルロースアシレートの全DSに対して、添加剤の量、(てんか剤の種類等を調整することが好ましい。また、上記の性能を満たすために2種以上の添加剤を併用して添加することも好ましく用いられる。
【0023】
ここで、機械方向寸度変化率S(MD)、機械幅方向寸度変化率S(TD)とはそれぞれ保護フィルム作成時の機械搬送方向(流延時の流延方向)、機械幅方向(流延幅方向)についての寸度変化率を意味する。具体的には以下の方法により求められる。
【0024】
機械方向寸度変化率S(MD)を求める方法について説明する。
フィルムから切り出した50mm×250mmの試料を、25℃・相対湿度60%の雰囲気下で2日以上調湿後、自動ピンゲージ(新東科学(株)製)にて、フィルム作成時の機械方向に平行になるように6mmφの穴を200mm間隔に開け、間隔の原寸(L1)を最小目盛1/1000mmまで測定する。そして60℃・相対湿度90%で120時間、あるいは80℃・相対湿度10%で120時間にてサーモ処理した後、25℃・相対湿度60%に24時間調湿し、パンチ間隔の寸法(L2)を測定する。機械方向寸度変化率は以下の式で求められる。
機械方向寸度変化率S(MD)={(L2−L1)/L1}×100
【0025】
また自動ピンゲージによる穴をフィルム作成時の機械幅方向に開ける以外は上記と同じ方法によって機械幅方向寸度変化率S(TD)を求めることができる。
【0026】
本発明のセルロースアシレートフィルムの60℃・相対湿度90%の条件下に120時間静置した場合の機械方向寸度変化率S(MD)、機械幅方向寸度変化率S(TD)としてはいずれも好ましくは−0.5%〜10%であり、より好ましくは−1.0〜−10%であり、さらに好ましくは−2.0〜−10%である。また、機械方向寸度変化率S(MD)および機械幅方向寸度変化率S(TD)の両方が上記条件を満たすことが好ましい。
【0027】
本発明のセルロースアシレートフィルムの80℃・相対湿度10%条件下に120時間静置した場合の機械方向寸度変化率S(MD)、機械幅方向寸度変化率S(TD)としてはいずれも好ましくは−0.5%〜10%であり、より好ましくは−1.0〜−10%であり、さらに好ましくは−2.0〜−10%である。また、機械方向寸度変化率S(MD)および機械幅方向寸度変化率S(TD)の両方が上記条件を満たすことが好ましい。
【0028】
(2)セルロースアシレート
本発明のセルロースアシレートフィルムに用いられるセルロースアシレートは、該セルロースアシレートを構成するグルコース単位の水酸基をアシル基で置換して得られたものであり、該グルコース単位の水酸基のアシル基全置換度をDSとしたときに、下記式(A)を満たす。
式(A):2.0≦DS≦2.7
【0029】
本発明に用いられるセルロースアシレート原料のセルロースとしては、綿花リンタや木材パルプ(広葉樹パルプ,針葉樹パルプ)などがあり、何れの原料セルロースから得られるセルロースアシレートでも使用でき、場合により混合して使用してもよい。これらの原料セルロースについての詳細な記載は、例えば、丸澤、宇田著、「プラスチック材料講座(17)繊維素系樹脂」日刊工業新聞社(1970年発行)や発明協会公開技報公技番号2001−1745号(7頁〜8頁)に記載のセルロースを用いることができ、本発明のセルロースエステルフィルムに対しては特に限定されるものではない。
【0030】
(セルロースエステル)
まず、本発明が好ましく用いられるセルロースエステルについて詳細に記載する。セルロースを構成するβ−1,4結合しているグルコース単位は、2位、3位および6位に遊離の水酸基を有している。セルロースエステルは、これらの水酸基の一部または全部をアシル基によりエステル化した重合体(ポリマー)である。アシル置換度は、2位、3位および6位それぞれについて、セルロースの水酸基がエステル化している割合(100%のエステル化は置換度1)を意味する。
ここで、アシル基の全置換度DSは好ましくは、2.3≦DS≦2.65であり、より好ましくは2.4≦DS≦2.6である。このような範囲とすることにより、リワーク性をより向上させつつ、液晶表示装置に用いた場合の表示性能の安定性をより向上させることができる。また、DS6/(DS2+DS3+DS6)は0.32以上が好ましく、より好ましくは0.322以上、特に好ましくは0.324〜0.340である。ここで、DS2はグルコース単位の2位の水酸基のアシル基による置換度(以下、「2位のアシル置換度」とも言う)であり、DS3は3位の水酸基のアシル基による置換度(以下、「3位のアシル置換度」とも言う)であり、DS6は6位の水酸基のアシル基による置換度である(以下、「6位のアシル置換度」とも言う)。また、DS6/(DS2+DS3+DS6)は全アシル置換度に対する6位のアシル置換度の割合であり、以下「6位のアシル置換率」とも言う。
【0031】
本発明のセルロースエステルに用いられるアシル基は1種類だけでもよいし、あるいは2種類以上のアシル基が使用されていてもよい。本発明のセルロースエステルフィルムは、炭素数2〜4のアシル基を置換基として有することが好ましい。2種類以上のアシル基を用いるときは、そのひとつがアセチル基であることが好ましく、炭素数2〜4のアシル基としては、アセチル基の他、プロピオニル基またはブチリル基が好ましい。2位、3位および6位の水酸基のアセチル基による置換度の総和をDSAとし、2位、3位および6位の水酸基のプロピオニル基またはブチリル基による置換度の総和をDSBとすると、DSA+DSBの値は2.0≦DSA+DSB≦2.7であることが好ましく、2.3≦DSA+DSB≦2.65であることがより好ましく、2.4≦DSA+DSB≦2.6であることがさらに好ましい。DSAとDSBの値を上記の範囲にすることで環境湿度によるRe値、Rth値の変化の小さいフィルムが得ることができ好ましい。
さらにDSBはその28%以上が6位水酸基の置換基であるが、より好ましくは30%以上が6位水酸基の置換基であり、31%以上が6位水酸基の置換基であることがさらに好ましく、特には32%以上が6位水酸基の置換基であることも好ましい。
【0032】
本発明のセルロースのアシル基としては、脂肪族基でもアリル基でもよく特に限定されない。それらは、例えばセルロースのアルキルカルボニルエステル、アルケニルカルボニルエステルあるいは芳香族カルボニルエステル、芳香族アルキルカルボニルエステルなどであり、それぞれさらに置換された基を有していてもよい。これらの好ましい例としては、プロピオニル基、ブタノイル基、ヘプタノイル基、ヘキサノイル基、オクタノイル基、デカノイル基、ドデカノイル基、トリデカノイル基、テトラデカノイル基、ヘキサデカノイル基、オクタデカノイル基、イソブタノイル基、tert−ブタノイル基、シクロヘキサンカルボニル基、オレオイル基、ベンゾイル基、ナフチルカルボニル基、シンナモイル基などを挙げることができる。これらの中でも、プロピオニル基、ブタノイル基、ドデカノイル基、オクタデカノイル基、tert−ブタノイル基、オレオイル基、ベンゾイル基、ナフチルカルボニル基、シンナモイル基などがより好ましく、特に好ましくはプロピオニル基、ブタノイル基である。
【0033】
セルロ−スのアシル化において、アシル化剤としては、酸無水物や酸クロライドを用いた場合、反応溶媒である有機溶媒としては、有機酸、例えば、酢酸、メチレンクロライド等が使用される。
【0034】
触媒としては、アシル化剤が酸無水物である場合には、硫酸のようなプロトン性触媒が好ましく用いられ、アシル化剤が酸クロライド(例えば、CH3CH2COCl)である場合には、塩基性化合物が用いられる。
【0035】
最も一般的なセルロ−スの混合脂肪酸エステルの工業的合成方法は、セルロ−スをアセチル基および他のアシル基に対応する脂肪酸(酢酸、プロピオン酸、吉草酸等)またはそれらの酸無水物を含む混合有機酸成分でアシル化する方法である。
【0036】
本発明に用いるセルロ−スエステルは、例えば、特開平10−45804号公報に記載されている方法により合成できる。
【0037】
(3)添加剤
本発明のフィルム中には、添加剤を含んでいても良い。添加剤としては、レターデーション調整剤のほか、可塑剤、紫外線吸収剤、マット剤、剥離促進剤、劣化防止剤などが挙げられる。これらの添加剤は、合計で、セルロースアシレート樹脂の2〜50質量%であることが好ましく、4〜45質量%であることがより好ましく、3〜40質量%であることが特に好ましい。
【0038】
(可塑剤)
本発明のフィルム中には可塑剤を含むことが好ましい。可塑剤は、フィルムの機械的物性を向上させたり、製膜中の乾燥速度を速めたりすることができる。用いることのできる可塑剤としては特に限定しないが、リン酸エステル系では、トリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、クレジルジフェニルホスフェート、オクチルジフェニルホスフェート、ジフェニルビフェニルホスフェート、トリオクチルホスフェート、トリブチルホスフェート等、フタル酸エステル系では、ジエチルフタレート、ジメトキシエチルフタレート、ジメチルフタレート、ジオクチルフタレート、ジブチルフタレート、ジ−2−エチルヘキシルフタレート等、グリコール酸エステル系では、トリアセチン、トリブチリン、ブチルフタリルブチルグリコレート、エチルフタリルエチルグリコレート、メチルフタリルエチルグリコレート、ブチルフタリルブチルグリコレート等のセルロースアシレートよりも疎水的なものを単独あるいは併用するのが好ましい。可塑剤は必要に応じて、2種類以上を併用して用いてもよい。可塑剤の添加量は、セルロースアシレートの量の0.1〜25質量%であることが好ましく、1〜20質量%であることがさらに好ましく、3〜15質量%であることが最も好ましい。
【0039】
《脂肪族多価アルコールエステル》
本発明のセルロースエステルフィルムにおいては、可塑剤として脂肪族多価アルコールと1種以上のモノカルボン酸とから形成された脂肪族多価アルコールエステルを含有することが、光学特性、寸法などの安定性の高いフィルムを得られる点で好ましい。
以下脂肪族多価アルコールエステルについて詳細に説明する。
【0040】
本発明に係る脂肪族多価アルコールエステルは、2価以上の脂肪族多価アルコールと1種以上のモノカルボン酸とのエステルとから形成される。
【0041】
(脂肪族多価アルコール)
本発明に係る脂肪族多価アルコールは、2価以上のアルコールであるが、下記一般式(3)で表されるものが好ましい。
【0042】
一般式(3)
1−(OH)m
式中、R1は、n価の脂肪族有機基、nは2以上の正の整数を表し、OH基はアルコール性またはフェノール性水酸基を表し、mは、2〜20が好ましい。
【0043】
一般式(3)において、n価の脂肪族有機基の中で、2価の基としては、アルキレン基(例えば、メチレン基、エチレン基、トリメチレン基、テトラメチレン基、プロピレン基、エチルエチレン基、ペンタメチレン基、ヘキサメチレン基等)、アルケニレン基(例えば、ビニレン基、プロペニレン基、エテニレン基等)、アルキニレン基(例えば、エチニレン基、3−ペンチニレン基等)、シクロアルキレン基(例えば、1,4−シクロヘキサンジイル基等)等が挙げられる。
【0044】
一般式(3)において、n価の脂肪族有機基の中で、3価の基としては、例えば、エタントリイル基、プロパントリイル基、ブタントリイル基、ペンタントリイル基、ヘキサントリイル基、ヘプタントリイル基、オクタントリイル基、ノナントリイル基、デカントリイル基、ウンデカントリイル基、ドデカントリイル基、シクロヘキサントリイル基、シクロペンタントリイル基、ベンゼントリイル基、ナフタレントリイル基、1,2,3−プロパントリイル基等が挙げられる。
【0045】
一般式(3)において、n価の脂肪族有機基の中で、4価の基としては、例えば、プロパンジイリデン基、1,3−プロパンジイル−2−イリデン基、ブタンジイリデン基、ペンタンジイリデン基、ヘキサンジイリデン基、ヘプタンジイリデン基、オクタンジイリデン基、ノナンジイリデン基、デカンジイリデン基、ウンデカンジイリデン基、ドデカンジイリデン基、シクロヘキサンジイリデン基、シクロペンタンジイリデン基、ベンゼンテトライル基、ナフタレンテトライル基等が挙げられる。
【0046】
また、上記のn価の脂肪族有機基は、さらに置換基を有していてもよく、置換基としては、例えば、アルキル基(例えば、メチル基、エチル基、ブチル基、ペンチル基、2−メトキシエチル基、トリフルオロメチル基、2−エチルヘキシル基など)、アリール基、(例えば、フェニル基、ナフチル基など)、アルコキシル基(例えば、メトキシ基、エトキシ基、ブトキシ基など)、アルコキシカルボニル基(例えば、メトキシカルボニル基、i−プロポキシカルボニル基など)、アシルオキシ基(例えば、アセチルオキシ基、エチルカルボニルオキシ基など)、カルバモイル基(例えば、メチルカルバモイル基、エチルカルバモイル基、ブチルカルバモイル基、フェニルカルバモイル基など)、スルファモイル基(例えば、スルファモイル基、メチルスルファモイル基、ジメチルスルファモイル基、フェニルスルファモイル基等)、アルキルチオ基(例えば、メチルチオ基、エチルチオ基、オクチルチオ基等)、アリールチオ基(例えば、フェニルチオ基、p−トリルチオ基等)、アミノ基(例えば、アミノ基、メチルアミノ基、ジエチルアミノ基、メトキシエチルアミノ基等)、アシルアミノ基(例えば、アセチルアミノ基、クロロアセチルアミノ基、プロピオニルアミノ基、ベンゾイルアミノ基、トリフルオロアセチルアミノ基等)、アルキルウレイド基(例えば、メチルウレイド基、エチルウレイド基、メトキシエチルウレイド基、ジメチルウレイド基等)、アリールウレイド基(例えば、フェニルウレイド基等)、アルキルスルホンアミド基(例えば、メタンスルホンアミド基、エタンスルホンアミド基、ブタンスルホンアミド基、トリフルオロメチルスルホンアミド基、2,2,2−トリフルオロエチルスルホンアミド基等)、アリールスルホンアミド基(例えば、フェニルスルホンアミド基、トリルスルホンアミド基等)、アルキルアミノスルホニルアミノ基(例えば、メチルアミノスルホニルアミノ基、エチルアミノスルホニルアミノ基等)、アリールアミノスルホニルアミノ基(例えば、フェニルアミノスルホニルアミノ基等)、ヒドロキシル基、シアノ基、ニトロ基、複素環基(例えば、ピリジル基、ピリミジル基、ピラジル基、ピロリル基、インドリル基、ピラゾリル基、イミダゾリル基、フリル基、オキサゾリル基、チアゾリル基、キノリル基、チエニル基等)が挙げられる。
【0047】
好ましい脂肪族多価アルコールの例としては、例えば、アドニトール、アラビトール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、ジブチレングリコール、1,2,4−ブタントリオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ヘキサントリオール、ガラクチトール、マンニトール、3−メチルペンタン−1,3,5−トリオール、ピナコール、ソルビトール、トリメチロールプロパン、トリメチロールエタン、キシリトール等が挙げられる。
【0048】
中でも、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、ソルビトール、トリメチロールプロパン、キシリトールが特に好ましく用いられる。
【0049】
本発明に係る脂肪族多価アルコールエステル形成に用いられるモノカルボン酸としては、特に制限はなく公知の脂肪族モノカルボン酸、脂環族モノカルボン酸、芳香族モノカルボン酸等を用いることができるが、セルロースエステルフィルムの透湿性向上、保留性向上の観点から、脂環族モノカルボン酸、芳香族モノカルボン酸を用いることが好ましい。
【0050】
脂肪族モノカルボン酸としては、炭素数1〜32の直鎖または側鎖を有する脂肪酸を好ましく用いることができる。炭素数は1〜20であることがさらに好ましく、1〜10であることが特に好ましい。酢酸を含有するとセルロースエステルとの相溶性が増すため好ましく、酢酸と他のモノカルボン酸を混合して用いることも好ましい。
【0051】
好ましいモノカルボン酸の例としては、以下のようなものを挙げることができるが、本発明はこれらに限定されない。
【0052】
好ましい脂肪族モノカルボン酸としては、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、カプロン酸、エナント酸、カプリル酸、ペラルゴン酸、カプリン酸、2−エチル−ヘキサンカルボン酸、ウンデシル酸、ラウリン酸、トリデシル酸、ミリスチン酸、ペンタデシル酸、パルミチン酸、ヘプタデシル酸、ステアリン酸、ノナデカン酸、アラキン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸、セロチン酸、ヘプタコサン酸、モンタン酸、メリシン酸、ラクセル酸等の飽和脂肪酸、ウンデシレン酸、オレイン酸、ソルビン酸、リノール酸、リノレン酸、アラキドン酸等の不飽和脂肪酸等を挙げることができる。これらはさらに置換基を有しても良い。
【0053】
好ましい脂環族モノカルボン酸の例としては、シクロペンタンカルボン酸、シクロヘキサンカルボン酸、シクロオクタンカルボン酸、またはそれらの誘導体を挙げることができる。
【0054】
好ましい芳香族モノカルボン酸の例としては、安息香酸、トルイル酸等の安息香酸のベンゼン環にアルキル基を導入したもの、ビフェニルカルボン酸、ナフタリンカルボン酸、テトラリンカルボン酸等のベンゼン環を2個以上有する芳香族モノカルボン酸、またはそれらの誘導体を挙げることができる。特に安息香酸が好ましい。このほか、芳香族モノカルボン酸の芳香環には置換基を有していてもよい。
【0055】
脂肪族多価アルコールエステルの分子量
本発明に係る多価アルコールエステルの分子量は特に制限はないが、300〜1500であることが好ましく、350〜750であることがさらに好ましい。保留性の点では大きい方が好ましく、透湿性、セルロースエステルとの相溶性の点では小さい方が好ましい。
【0056】
ここで、上記の脂肪族多価アルコールエステルの分子量は、市販のGPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)装置を用いて測定できる。
【0057】
本発明に係る脂肪族多価アルコールエステルにおけるカルボン酸は一種類でも、二種以上の混合でもよい。また、脂肪族多価アルコール中のOH基は全てエステル化してもよいし、一部をOH基のままで残してもよい。好ましくは、分子内に芳香環もしくはシクロアルキル環を3つ以上有することが好ましい。
【0058】
本発明に用いられる、芳香環としては、芳香族炭素環(例えば、ベンゼン環、ナフタレン環、ビフェニル環、p−テルフェニル環、ジフェニルメタン環、トリフェニルメタン環、ビベンジル環、スチルベン環、インデン環、テトラリン環、アントラセン環、フェナントレン環等)や芳香族複素環、例えば、フラン環、ピロール環、ピラゾール環、イミダゾール環、オキサゾール環、チアゾール環、1,2,3−オキサジアゾール環、1,2,3−トリアゾール環、1,2,4−トリアゾール環、1,3,4−チアジアゾール環、ピリジン環、ピリダジン環、ピリミジン環、ピラジン環、s−トリアジン環、ベンゾフラン環、インドール環、ベンゾチオフェン環、ベンズイミダゾール環、ベンゾチアゾール環、プリン環、キノリン環およびイソキノリン環等が挙げられる。
【0059】
本発明に用いられるシクロアルキル環としては、例えば、シクロペンタン環、シクロヘキサン環、シクロオクタン環等が挙げられる。
【0060】
以下、本発明に係る脂肪族多価アルコールエステルの具体例を示すが、本発明はこれらに限定されない。
【0061】
【化1】

【0062】
【化2】

【0063】
【化3】

【0064】
【化4】

【0065】
本発明に係る脂肪族多価アルコールエステルの使用量(含有量でもよい)は、得られるフィルムに対して3質量%〜30質量%の範囲が好ましく、さらに好ましくは、5質量%〜25質量%の範囲であり、特に好ましくは、5質量%〜20質量%の範囲である。
【0066】
(紫外線吸収剤)
本発明のフィルム中には、紫外線吸収剤を含有させることが好ましく、紫外線吸収剤としては、液晶の劣化防止の点より波長370nm以下の紫外線の吸収能に優れ、かつ良好な液晶表示性の点より波長400nm以上の可視光の吸収が可及的に少ないものが好ましく用いられる。特に、波長370nmでの透過率が、10%以下であることが望ましく、好ましくは5%以下、より好ましくは2%以下である。用いられるものとしては、例えば、オキシベンゾフェノン系化合物、ベンゾトリアゾール系化合物、サリチル酸エステル系化合物、トリアジン系化合物、ベンゾフェノン系化合物、シアノアクリレート系化合物、ニッケル錯塩系化合物などがあげられるが、これらに限定されない。紫外線吸収剤は2種以上用いてもよい。紫外線吸収剤のド−プ(本発明では溶液流延に用いられるセルロースエステル溶液をドープということもある。)への添加方法は、アルコ−ルやメチレンクロライド、ジオキソランなどの有機溶媒に溶解してから添加するか、または直接ド−プ組成中に添加してもよい。無機粉体のように有機溶剤に溶解しないものは、有機溶剤とセルロースエステル中にデゾルバやサンドミルを使用し、分散してからド−プに添加する。本発明において、紫外線吸収剤の使用量はセルロ−スエステルに対し、0.1〜5.0質量%、好ましくは、0.5〜4.5質量%、より好ましくは0.8〜3.0質量%、さらに好ましくは0.8〜2.0質量%である。
【0067】
(レターデーション調整剤)
本発明ではレターデーション値を発現するため、レターデーション調整剤を用いるのが好ましい。本発明において用いることができるレターデーション調整剤としては、棒状または円盤状化合物からなるものを挙げることができる。上記棒状または円盤状化合物としては、少なくとも二つの芳香族環を有する化合物をレターデーション調整剤として好ましく用いることができる。棒状化合物からなるレターデーション調整剤の添加量は、セルロースアシレートを含むポリマー成分100質量部に対して0.1〜30質量部であることが好ましく、0.5〜20質量部であることがさらに好ましい。
円盤状のレターデーション調整剤は、前記セルロースアシレートを含むポリマー成分100質量部に対して、0.05〜20質量部の範囲で使用することが好ましく、1.0〜15質量部の範囲で使用することがより好ましく、3.0〜10質量部の範囲で使用することがさらに好ましい。
円盤状化合物はRthレターデーション発現性において棒状化合物よりも優れているため、特に大きなRthレターデーションを必要とする場合には好ましく使用される。2種類以上のレターデーション調整剤を併用してもよい。
レターデーション調整剤は、250〜400nmの波長領域に最大吸収を有することが好ましく、可視領域に実質的に吸収を有していないことが好ましい。
【0068】
円盤状化合物について説明する。円盤状化合物としては少なくとも二つの芳香族環を有する化合物を用いることができる。
本明細書において、「芳香族環」は、芳香族炭化水素環に加えて、芳香族性ヘテロ環を含む。
芳香族炭化水素環は、6員環(すなわち、ベンゼン環)であることが特に好ましい。
芳香族性ヘテロ環は一般に、不飽和ヘテロ環である。芳香族性ヘテロ環は、5員環、6員環または7員環であることが好ましく、5員環または6員環であることがさらに好ましい。芳香族性ヘテロ環は一般に、最多の二重結合を有する。ヘテロ原子としては、窒素原子、酸素原子および硫黄原子が好ましく、窒素原子が特に好ましい。芳香族性ヘテロ環の例には、フラン環、チオフェン環、ピロール環、オキサゾール環、イソオキサゾール環、チアゾール環、イソチアゾール環、イミダゾール環、ピラゾール環、フラザン環、トリアゾール環、ピラン環、ピリジン環、ピリダジン環、ピリミジン環、ピラジン環および1,3,5−トリアジン環が含まれる。
芳香族環としては、ベンゼン環、縮合ベンゼン環、ビフェニール類が好ましい。特に1,3,5−トリアジン環が好ましく用いられる。具体的には例えば特開2001−166144号公報に開示の化合物が好ましく用いられる。
【0069】
レターデーション調整剤が有する芳香族環の炭素数は、2〜20であることが好ましく、2〜12であることがより好ましく、2〜8であることがさらに好ましく、2〜6であることが最も好ましい。
二つの芳香族環の結合関係は、(a)縮合環を形成する場合、(b)単結合で直結する場合および(c)連結基を介して結合する場合に分類できる(芳香族環のため、スピロ結合は形成できない)。結合関係は、(a)〜(c)のいずれでもよい。
【0070】
(a)の縮合環(二つ以上の芳香族環の縮合環)の例には、インデン環、ナフタレン環、アズレン環、フルオレン環、フェナントレン環、アントラセン環、アセナフチレン環、ビフェニレン環、ナフタセン環、ピレン環、インドール環、イソインドール環、ベンゾフラン環、ベンゾチオフェン環、インドリジン環、ベンゾオキサゾール環、ベンゾチアゾール環、ベンゾイミダゾール環、ベンゾトリアゾール環、プリン環、インダゾール環、クロメン環、キノリン環、イソキノリン環、キノリジン環、キナゾリン環、シンノリン環、キノキサリン環、フタラジン環、プテリジン環、カルバゾール環、アクリジン環、フェナントリジン環、キサンテン環、フェナジン環、フェノチアジン環、フェノキサチイン環、フェノキサジン環およびチアントレン環が含まれる。ナフタレン環、アズレン環、インドール環、ベンゾオキサゾール環、ベンゾチアゾール環、ベンゾイミダゾール環、ベンゾトリアゾール環およびキノリン環が好ましい。
【0071】
(b)の単結合は、二つの芳香族環の炭素原子間の結合であることが好ましい。二以上の単結合で二つの芳香族環を結合して、二つの芳香族環の間に脂肪族環または非芳香族性複素環を形成してもよい。
【0072】
(c)の連結基も、二つの芳香族環の炭素原子と結合することが好ましい。連結基は、アルキレン基、アルケニレン基、アルキニレン基、−CO−、−O−、−NH−、−S−またはそれらの組み合わせであることが好ましい。組み合わせからなる連結基の例を以下に示す。なお、以下の連結基の例の左右の関係は、逆になってもよい。
c1:−CO−O−
c2:−CO−NH−
c3:−アルキレン−O−
c4:−NH−CO−NH−
c5:−NH−CO−O−
c6:−O−CO−O−
c7:−O−アルキレン−O−
c8:−CO−アルケニレン−
c9:−CO−アルケニレン−NH−
c10:−CO−アルケニレン−O−
c11:−アルキレン−CO−O−アルキレン−O−CO−アルキレン−
c12:−O−アルキレン−CO−O−アルキレン−O−CO−アルキレン−O−
c13:−O−CO−アルキレン−CO−O−
c14:−NH−CO−アルケニレン−
c15:−O−CO−アルケニレン−
【0073】
芳香族環および連結基は、置換基を有していてもよい。
置換基の例には、ハロゲン原子(F、Cl、Br、I)、ヒドロキシル基、カルボキシル基、シアノ基、アミノ基、ニトロ基、スルホ基、カルバモイル基、スルファモイル基、ウレイド基、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、脂肪族アシル基、脂肪族アシルオキシ基、アルコキシ基、アルコキシカルボニル基、アルコキシカルボニルアミノ基、アルキルチオ基、アルキルスルホニル基、脂肪族アミド基、脂肪族スルホンアミド基、脂肪族置換アミノ基、脂肪族置換カルバモイル基、脂肪族置換スルファモイル基、脂肪族置換ウレイド基および非芳香族性複素環基が含まれる。
【0074】
アルキル基の炭素原子数は、1〜8であることが好ましい。環状アルキル基よりも鎖状アルキル基の方が好ましく、直鎖状アルキル基が特に好ましい。アルキル基は、さらに置換基(例えば、ヒドロキシ基、カルボキシ基、アルコキシ基、アルキル置換アミノ基)を有していてもよい。アルキル基の(置換アルキル基を含む)例には、メチル基、エチル基、n−ブチル基、n−ヘキシル基、2−ヒドロキシエチル基、4−カルボキシブチル基、2−メトキシエチル基および2−ジエチルアミノエチル基の各基が含まれる。
アルケニル基の炭素原子数は、2〜8であることが好ましい。環状アルケニル基よりも鎖状アルケニル基の方が好ましく、直鎖状アルケニル基が特に好ましい。アルケニル基は、さらに置換基を有していてもよい。アルケニル基の例には、ビニル基、アリル基および1−ヘキセニル基が含まれる。
アルキニル基の炭素原子数は、2〜8であることが好ましい。環状アルキニル基よりも鎖状アルキニル基の方が好ましく、直鎖状アルキニル基が特に好ましい。アルキニル基は、さらに置換基を有していてもよい。アルキニル基の例には、エチニル基、1−ブチニル基および1−ヘキシニル基が含まれる。
【0075】
脂肪族アシル基の炭素原子数は、1〜10であることが好ましい。脂肪族アシル基の例には、アセチル基、プロパノイル基およびブタノイル基が含まれる。
脂肪族アシルオキシ基の炭素原子数は、1〜10であることが好ましい。脂肪族アシルオキシ基の例には、アセトキシ基が含まれる。
アルコキシ基の炭素原子数は、1〜8であることが好ましい。アルコキシ基は、さらに置換基(例えば、アルコキシ基)を有していてもよい。アルコキシ基の(置換アルコキシ基を含む)例には、メトキシ基、エトキシ基、ブトキシ基およびメトキシエトキシ基が含まれる。
アルコキシカルボニル基の炭素原子数は、2〜10であることが好ましい。アルコキシカルボニル基の例には、メトキシカルボニル基およびエトキシカルボニル基が含まれる。
アルコキシカルボニルアミノ基の炭素原子数は、2〜10であることが好ましい。アルコキシカルボニルアミノ基の例には、メトキシカルボニルアミノ基およびエトキシカルボニルアミノ基が含まれる。
【0076】
アルキルチオ基の炭素原子数は、1〜12であることが好ましい。アルキルチオ基の例には、メチルチオ基、エチルチオ基およびオクチルチオ基が含まれる。
アルキルスルホニル基の炭素原子数は、1〜8であることが好ましい。アルキルスルホニル基の例には、メタンスルホニル基およびエタンスルホニル基が含まれる。
脂肪族アミド基の炭素原子数は、1〜10であることが好ましい。脂肪族アミド基の例には、アセトアミドが含まれる。
脂肪族スルホンアミド基の炭素原子数は、1〜8であることが好ましい。脂肪族スルホンアミド基の例には、メタンスルホンアミド基、ブタンスルホンアミド基およびn−オクタンスルホンアミド基が含まれる。
脂肪族置換アミノ基の炭素原子数は、1〜10であることが好ましい。脂肪族置換アミノ基の例には、ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基および2−カルボキシエチルアミノ基が含まれる。
脂肪族置換カルバモイル基の炭素原子数は、2〜10であることが好ましい。脂肪族置換カルバモイル基の例には、メチルカルバモイル基およびジエチルカルバモイル基が含まれる。
脂肪族置換スルファモイル基の炭素原子数は、1〜8であることが好ましい。脂肪族置換スルファモイル基の例には、メチルスルファモイル基およびジエチルスルファモイル基が含まれる。
脂肪族置換ウレイド基の炭素原子数は、2〜10であることが好ましい。脂肪族置換ウレイド基の例には、メチルウレイド基が含まれる。
非芳香族性複素環基の例には、ピペリジノ基およびモルホリノ基が含まれる。
レターデーション調整剤の分子量は、300〜800であることが好ましい。
【0077】
円盤状化合物として下記一般式(I)で表されるトリアジン化合物を用いることが好ましい。
【0078】
一般式(I)
【化5】

【0079】
上記一般式(I)中:
12は、各々独立に、オルト位、メタ位およびパラ位の少なくともいずれかに置換基を有する芳香族環または複素環を表す。
11は、各々独立に、単結合または−NR13−を表す。ここで、R13は、各々独立に、水素原子、置換もしくは無置換のアルキル基、アルケニル基、アリール基または複素環基を表す。
【0080】
12が表す芳香族環は、フェニルまたはナフチルであることが好ましく、フェニルであることが特に好ましい。R12が表す芳香族環はいずれかの置換位置に少なくとも一つの置換基を有してもよい。前記置換基の例には、ハロゲン原子、ヒドロキシル基、シアノ基、ニトロ基、カルボキシル基、アルキル基、アルケニル基、アリール基、アルコキシ基、アルケニルオキシ基、アリールオキシ基、アシルオキシ基、アルコキシカルボニル基、アルケニルオキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、スルファモイル基、アルキル置換スルファモイル基、アルケニル置換スルファモイル基、アリール置換スルファモイル基、スルオンアミド基、カルバモイル、アルキル置換カルバモイル基、アルケニル置換カルバモイル基、アリール置換カルバモイル基、アミド基、アルキルチオ基、アルケニルチオ基、アリールチオ基およびアシル基が含まれる。
【0081】
12が表す複素環基は、芳香族性を有することが好ましい。芳香族性を有する複素環は、一般に不飽和複素環であり、好ましくは最多の二重結合を有する複素環である。複素環は5員環、6員環または7員環であることが好ましく、5員環または6員環であることがさらに好ましく、6員環であることが最も好ましい。複素環のヘテロ原子は、窒素原子、硫黄原子または酸素原子であることが好ましく、窒素原子であることが特に好ましい。芳香族性を有する複素環としては、ピリジン環(複素環基としては、2−ピリジルまたは4−ピリジル)が特に好ましい。複素環基は、置換基を有していてもよい。複素環基の置換基の例は、上記アリール部分の置換基の例と同様である。
11が単結合である場合の複素環基は、窒素原子に遊離原子価をもつ複素環基であることが好ましい。窒素原子に遊離原子価をもつ複素環基は、5員環、6員環または7員環であることが好ましく、5員環または6員環であることがさらに好ましく、5員環であることが最も好ましい。複素環基は、複数の窒素原子を有していてもよい。また、複素環基は、窒素原子以外のヘテロ原子(例えば、O、S)を有していてもよい。以下に、窒素原子に遊離原子価をもつ複素環基の例を示す。
【0082】
【化6】

【0083】
13が表すアルキル基は、環状アルキル基であっても鎖状アルキル基であってもよいが、鎖状アルキル基が好ましく、分岐を有する鎖状アルキル基よりも、直鎖状アルキル基がより好ましい。アルキル基の炭素原子数は、1〜30であることが好ましく、1〜20であることがより好ましく、1〜10であることがさらに好ましく、1〜8がさらにまた好ましく、1〜6であることが最も好ましい。アルキル基は、置換基を有していてもよい。置換基の例には、ハロゲン原子、アルコキシ基(例えば、メトキシ基、エトキシ基)およびアシルオキシ基(例えば、アクリロイルオキシ基、メタクリロイルオキシ基)が含まれる。
【0084】
13が表すアルケニル基は、環状アルケニル基であっても鎖状アルケニル基であってもよいが、鎖状アルケニル基を表すのが好ましく、分岐を有する鎖状アルケニル基よりも、直鎖状アルケニル基を表すのがより好ましい。アルケニル基の炭素原子数は、2〜30であることが好ましく、2〜20であることがより好ましく、2〜10であることがさらに好ましく、2〜8であることがさらにまた好ましく、2〜6であることが最も好ましい。アルケニル基は置換基を有していてもよい。置換基の例には、前述のアルキル基の置換基と同様である。
13が表す芳香族環基および複素環基は、R12が表す芳香族環および複素環と同様であり、好ましい範囲も同様である。芳香族環基および複素環基はさらに置換基を有していてもよく、置換基の例にはR12の芳香族環および複素環の置換基と同様である。
【0085】
円盤状化合物としては下記一般式(II)で表されるトリフェニレン化合物を好ましく用いることもできる。
【0086】
一般式(II)
【化7】

【0087】
上記一般式(II)中、R4、R5、R6、R7、R8およびR9は各々独立して、水素原子または置換基を表す。
4、R5、R6、R7、R8およびR9が各々表す置換基としては、アルキル基(好ましくは炭素数1〜40、より好ましくは炭素数1〜30、特に好ましくは炭素数1〜20のアルキル基であり、例えば、メチル基、エチル基、イソプロピル基、tert−ブチル基、n−オクチル基、n−デシル基、n−ヘキサデシル基、シクロプロピル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基などが挙げられる)、アルケニル基(好ましくは、炭素数2〜40、より好ましくは炭素数2〜30、特に好ましくは炭素数2〜20のアルケニル基であり、例えば、ビニル基、アリル基、2−ブテニル基、3−ペンテニル基などが挙げられる)、アルキニル基(好ましくは、炭素数2〜40、より好ましくは炭素数2〜30、特に好ましくは炭素数2〜20のアルキニル基であり、例えば、プロパルギル基、3−ペンチニル基などが挙げられる)、アリール基(好ましくは炭素数6〜30、より好ましくは炭素数6〜20、特に好ましくは炭素数6〜12のアリール基であり、例えば、フェニル基、p−メチルフェニル基、ナフチル基などが挙げられる)、置換もしくは無置換のアミノ基(好ましくは炭素数0〜40、より好ましくは炭素数0〜30、特に好ましくは炭素数0〜20のアミノ基であり、例えば、無置換アミノ基、メチルアミノ基、ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基、アニリノ基などが挙げられる)、
【0088】
アルコキシ基(好ましくは炭素数1〜40、より好ましくは炭素数1〜30、特に好ましくは炭素数1〜20のアルコキシ基であり、例えば、メトキシ基、エトキシ基、ブトキシ基などが挙げられる)、アリールオキシ基(好ましくは炭素数6〜40、より好ましくは炭素数6〜30、特に好ましくは炭素数6〜20のアリールオキシ基であり、例えば、フェニルオキシ基、2−ナフチルオキシ基などが挙げられる)、アシル基(好ましくは炭素数1〜40、より好ましくは炭素数1〜30、特に好ましくは炭素数1〜20のアシル基であり、例えば、アセチル基、ベンゾイル基、ホルミル基、ピバロイル基などが挙げられる)、アルコキシカルボニル基(好ましくは炭素数2〜40、より好ましくは炭素数2〜30、特に好ましくは炭素数2〜20のアルコキシカルボニル基であり、例えば、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基などが挙げられる)、アリールオキシカルボニル基(好ましくは炭素数7〜40、より好ましくは炭素数7〜30、特に好ましくは炭素数7〜20のアリールオキシカルボニル基であり、例えば、フェニルオキシカルボニル基などが挙げられる)、アシルオキシ基(好ましくは炭素数2〜40、より好ましくは炭素数2〜30、特に好ましくは炭素数2〜20のアシルオキシ基であり、例えば、アセトキシ基、ベンゾイルオキシ基などが挙げられる)、
【0089】
アシルアミノ基(好ましくは炭素数2〜40、より好ましくは炭素数2〜30、特に好ましくは炭素数2〜20のアシルアミノ基であり、例えばアセチルアミノ基、ベンゾイルアミノ基などが挙げられる)、アルコキシカルボニルアミノ基(好ましくは炭素数2〜40、より好ましくは炭素数2〜30、特に好ましくは炭素数2〜20のアルコキシカルボニルアミノ基であり、例えば、メトキシカルボニルアミノ基などが挙げられる)、アリールオキシカルボニルアミノ基(好ましくは炭素数7〜40、より好ましくは炭素数7〜30、特に好ましくは炭素数7〜20のアリールオキシカルボニルアミノ基であり、例えば、フェニルオキシカルボニルアミノ基などが挙げられる)、スルホニルアミノ基(好ましくは炭素数1〜40、より好ましくは炭素数1〜30、特に好ましくは炭素数1〜20のスルホニルアミノ基であり、例えば、メタンスルホニルアミノ基、ベンゼンスルホニルアミノ基などが挙げられる)、スルファモイル基(好ましくは炭素数0〜40、より好ましくは炭素数0〜30、特に好ましくは炭素数0〜20のスルファモイル基であり、例えば、スルファモイル基、メチルスルファモイル基、ジメチルスルファモイル基、フェニルスルファモイル基などが挙げられる)、カルバモイル基(好ましくは炭素数1〜40、より好ましくは炭素数1〜30、特に好ましくは炭素数1〜20のカルバモイル基であり、例えば、無置換のカルバモイル基、メチルカルバモイル基、ジエチルカルバモイル基、フェニルカルバモイル基などが挙げられる)、
【0090】
アルキルチオ基(好ましくは炭素数1〜40、より好ましくは炭素数1〜30、特に好ましくは炭素数1〜20であり、例えば、メチルチオ基、エチルチオ基、プロピルチオ基、ブチルチオ基、ペンチルチオ基、ヘキシルチオ基、ヘプチルチオ基、オクチルチオ基などが挙げられる)、アリールチオ基(好ましくは、炭素数6〜40、より好ましくは炭素数6〜30、特に好ましくは炭素数1〜20、例えば、フェニルチオ基などが挙げられる)、スルホニル基(好ましくは炭素数1〜40、より好ましくは炭素数1〜30、特に好ましくは炭素数1〜20のスルホニル基であり、例えば、メシル基、トシル基などが挙げられる)、スルフィニル基(好ましくは炭素数1〜40、より好ましくは炭素数1〜30、特に好ましくは炭素数1〜20のスルフィニル基であり、例えば、メタンスルフィニル基、ベンゼンスルフィニル基などが挙げられる)、ウレイド基(好ましくは炭素数1〜40、より好ましくは炭素数1〜30、特に好ましくは炭素数1〜20のウレイド基であり、例えば、無置換のウレイド基、メチルウレイド基、フェニルウレイド基などが挙げられる)、リン酸アミド基(好ましくは炭素数1〜40、より好ましくは炭素数1〜30、特に好ましくは炭素数1〜20のリン酸アミド基であり、例えば、ジエチルリン酸アミド基、フェニルリン酸アミド基などが挙げられる)、ヒドロキシ基、メルカプト基、ハロゲン原子(例えばフッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子)、シアノ基、スルホ基、カルボキシル基、ニトロ基、ヒドロキサム酸基、スルフィノ基、ヒドラジノ基、イミノ基、ヘテロ環基(好ましくは炭素数1〜30、より好ましくは1〜12のヘテロ環基であり、例えば、窒素原子、酸素原子、硫黄原子等のヘテロ原子を有するヘテロ環基であり、例えば、イミダゾリル基、ピリジル基、キノリル基、フリル基、ピペリジル基、モルホリノ基、ベンゾオキサゾリル基、ベンズイミダゾリル基、ベンズチアゾリル基、1,3,5−トリアジル基などが挙げられる)、シリル基(好ましくは、炭素数3〜40、より好ましくは炭素数3〜30、特に好ましくは、炭素数3〜24のシリル基であり、例えば、トリメチルシリル基、トリフェニルシリル基などが挙げられる)が含まれる。これらの置換基はさらにこれらの置換基によって置換されていてもよい。また、置換基を二つ以上有する場合は、同じでも異なってもよい。また、可能な場合には互いに結合して環を形成していてもよい。
【0091】
4、R5、R6、R7、R8およびR9が各々表す置換基としては、好ましくはアルキル基、アリール基、置換もしくは無置換のアミノ基、アルコキシ基、アルキルチオ基またはハロゲン原子である。
【0092】
以下に一般式(II)で表される化合物の具体例を挙げるが、こられに限定されない。
【化8】

【0093】
【化9】

【0094】
【化10】

【0095】
一般式(I)で表される化合物は、例えば特開2003−344655号公報に記載の方法、一般式(II)で表される化合物は、例えば特開2005−134884号公報に記載の方法等、公知の方法により合成することができる。
【0096】
本発明では前述の円盤状化合物の他に直線的な分子構造を有する棒状化合物も好ましく用いることができる。直線的な分子構造とは、熱力学的に最も安定な構造において棒状化合物の分子構造が直線的であることを意味する。熱力学的に最も安定な構造は、結晶構造解析または分子軌道計算によって求めることができる。例えば、分子軌道計算ソフト(例えば、WinMOPAC2000、富士通(株)製)を用いて分子軌道計算を行い、化合物の生成熱が最も小さくなるような分子の構造を求めることができる。分子構造が直線的であるとは、上記のように計算して求められる熱力学的に最も安定な構造において、分子構造で主鎖の構成する角度が140度以上であることを意味する。
【0097】
少なくとも二つの芳香族環を有する棒状化合物としては、下記一般式(1)で表される化合物が好ましい。
【0098】
一般式(1):Ar1−L1−Ar2
【0099】
上記一般式(1)において、Ar1およびAr2は、それぞれ独立に、芳香族基である。
本明細書において、芳香族基は、アリール基(芳香族性炭化水素基)、置換アリール基、芳香族性ヘテロ環基および置換芳香族性ヘテロ環基を含む。
アリール基および置換アリール基の方が、芳香族性ヘテロ環基および置換芳香族性ヘテロ環基よりも好ましい。芳香族性へテロ環基のヘテロ環は、一般には不飽和である。芳香族性ヘテロ環は、5員環、6員環または7員環であることが好ましく、5員環または6員環であることがさらに好ましい。芳香族性へテロ環は一般に最多の二重結合を有する。ヘテロ原子としては、窒素原子、酸素原子または硫黄原子が好ましく、窒素原子または硫黄原子がさらに好ましい。
芳香族基の芳香族環としては、ベンゼン環、フラン環、チオフェン環、ピロール環、オキサゾール環、チアゾール環、イミダゾール環、トリアゾール環、ピリジン環、ピリミジン環およびピラジン環が好ましく、ベンゼン環が特に好ましい。
【0100】
置換アリール基および置換芳香族性ヘテロ環基の置換基の例には、ハロゲン原子(F、Cl、Br、I)、ヒドロキシル基、カルボキシル基、シアノ基、アミノ基、アルキルアミノ基(例えば、メチルアミノ基、エチルアミノ基、ブチルアミノ基、ジメチルアミノ基の各基)、ニトロ基、スルホ基、カルバモイル基、アルキルカルバモイル基(例えば、N−メチルカルバモイル基、N−エチルカルバモイル基、N,N−ジメチルカルバモイル基の各基)、スルファモイル基、アルキルスルファモイル基(例えば、N−メチルスルファモイル基、N−エチルスルファモイル基、N,N−ジメチルスルファモイル基の各基)、ウレイド基、アルキルウレイド基(例えば、N−メチルウレイド基、N,N−ジメチルウレイド基、N,N,N'−トリメチルウレイド基の各基)、アルキル基(例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘプチル基、オクチル基、イソプロピル基、s−ブチル基、tert−アミル基、シクロヘキシル基、シクロペンチル基の各基)、アルケニル基(例えば、ビニル基、アリル基、ヘキセニル基の各基)、アルキニル基(例えば、エチニル基、ブチニル基)、アシル基(例えば、ホルミル基、アセチル基、ブチリル基、ヘキサノイル基、ラウリル基の各基)、アシルオキシ基(例えば、アセトキシ基、ブチリルオキシ基、ヘキサノイルオキシ基、ラウリルオキシ基の各基)、アルコキシ基(例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基、ペンチルオキシ基、ヘプチルオキシ基、オクチルオキシ基の各基)、アリールオキシ基(例えば、フェノキシ基)、アルコキシカルボニル基(例えば、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、プロポキシカルボニル基、ブトキシカルボニル基、ペンチルオキシカルボニル基、ヘプチルオキシカルボニル基の各基)、アリールオキシカルボニル基(例えば、フェノキシカルボニル基)、アルコキシカルボニルアミノ基(例えば、ブトキシカルボニルアミノ基、ヘキシルオキシカルボニルアミノ基)、アルキルチオ基(例えば、メチルチオ基、エチルチオ基、プロピルチオ基、ブチルチオ基、ペンチルチオ基、ヘプチルチオ基、オクチルチオ基の各基)、アリールチオ基(例えば、フェニルチオ基)、アルキルスルホニル基(例えば、メチルスルホニル基、エチルスルホニル基、プロピルスルホニル基、ブチルスルホニル基、ペンチルスルホニル基、ヘプチルスルホニル基、オクチルスルホニル基の各基)、アミド基(例えば、アセトアミド基、ブチルアミド基、ヘキシルアミド基、ラウリルアミド基の各基)および非芳香族性複素環基(例えば、モルホリル基、ピラジニル基)が含まれる。
【0101】
なかでも、好ましい置換基としては、ハロゲン原子、シアノ基、カルボキシル基、ヒドロキシル基、アミノ基、アルキルアミノ基、アシル基、アシルオキシ基、アミド基、アルコキシカルボニル基、アルコキシ基、アルキルチオ基およびアルキル基が挙げられる。
アルキルアミノ基、アルコキシカルボニル基、アルコキシ基およびアルキルチオ基のアルキル部分とアルキル基とは、さらに置換基を有していてもよい。アルキル部分およびアルキル基の置換基の例には、ハロゲン原子、ヒドロキシル基、カルボキシル基、シアノ基、アミノ基、アルキルアミノ基、ニトロ基、スルホ基、カルバモイル基、アルキルカルバモイル基、スルファモイル基、アルキルスルファモイル基、ウレイド基、アルキルウレイド基、アルケニル基、アルキニル基、アシル基、アシルオキシ基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、アルコキシカルボニルアミノ基、アルキルチオ基、アリールチオ基、アルキルスルホニル基、アミド基および非芳香族性複素環基が含まれる。アルキル部分およびアルキル基の置換基としては、ハロゲン原子、ヒドロキシル基、アミノ基、アルキルアミノ基、アシル基、アシルオキシ基、アシルアミノ基、アルコキシカルボニル基およびアルコキシ基が好ましい。
【0102】
一般式(1)において、L1は、アルキレン基、アルケニレン基、アルキニレン基、−O−、−CO−およびそれらの組み合わせからなる基から選ばれる二価の連結基である。
アルキレン基は、環状構造を有していてもよい。環状アルキレン基としては、シクロヘキシレンが好ましく、1,4−シクロへキシレンが特に好ましい。鎖状アルキレン基としては、直鎖状アルキレン基の方が分岐を有するアルキレン基よりも好ましい。
アルキレン基の炭素原子数は、1〜20であることが好ましく、より好ましくは1〜15であり、さらに好ましくは1〜10であり、さらに好ましくは1〜8であり、最も好ましくは1〜6である。
【0103】
アルケニレン基およびアルキニレン基は、環状構造よりも鎖状構造を有することが好ましく、分岐を有する鎖状構造よりも直鎖状構造を有することがさらに好ましい。
アルケニレン基およびアルキニレン基の炭素原子数は、好ましくは2〜10であり、より好ましくは2〜8であり、さらに好ましくは2〜6であり、さらに好ましくは2〜4であり、最も好ましくは2(ビニレン基またはエチニレン基)である。
アリーレン基は、炭素原子数は6〜20であることが好ましく、より好ましくは6〜16であり、さらに好ましくは6〜12である。
【0104】
一般式(1)の分子構造において、L1を挟んで、Ar1とAr2とが形成する角度は、140度以上であることが好ましい。
【0105】
棒状化合物としては、下記式一般式(2)で表される化合物がさらに好ましい。
一般式(2):Ar1−L2−X−L3−Ar2
【0106】
上記一般式(2)において、Ar1およびAr2は、それぞれ独立に、芳香族基である。芳香族基の定義および例は、一般式(I)のAr1およびAr2と同様である。
【0107】
一般式(2)において、L2およびL3は、それぞれ独立に、アルキレン基、−O−、−CO−およびそれらの組み合わせからなる基より選ばれる二価の連結基である。
アルキレン基は、環状構造よりも鎖状構造を有することが好ましく、分岐を有する鎖状構造よりも直鎖状構造を有することがさらに好ましい。
アルキレン基の炭素原子数は、1〜10であることが好ましく、より好ましくは1〜8であり、さらに好ましくは1〜6であり、さらに好ましくは1〜4であり、1または2(メチレン基またはエチレン基)であることが最も好ましい。
2およびL3は、−O−CO−または−CO−O−であることが特に好ましい。
【0108】
一般式(2)において、Xは、1,4−シクロへキシレン基、ビニレン基またはエチニレン基である。
【0109】
一般式(1)または(2)で表される化合物の具体例としては、特開2004−109657号公報の〔化1〕〜〔化11〕に記載の化合物が挙げられる。
【0110】
その他、好ましい化合物を以下に示す。
【化11】

【0111】
【化12】

【0112】
溶液の紫外線吸収スペクトルにおいて最大吸収波長(λmax)が250nmより長波長である棒状化合物を、二種類以上併用してもよい。
棒状化合物は、文献記載の方法を参照して合成できる。文献としては、Mol. Cryst. Liq. Cryst., 53巻、229ページ(1979年)、同89巻、93ページ(1982年)、同145巻、111ページ(1987年)、同170巻、43ページ(1989年)、J. Am. Chem. Soc.,113巻、1349ページ(1991年)、同118巻、5346ページ(1996年)、同92巻、1582ページ(1970年)、J. Org. Chem., 40巻、420ページ(1975年)、Tetrahedron、48巻16号、3437ページ(1992年)を挙げることができる。
【0113】
(マット剤)
本発明のセルロースエステルフィルムには、マット剤として微粒子を加えることが好ましい。本発明に使用される微粒子としては、二酸化珪素、二酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、炭酸カルシウム、炭酸カルシウム、タルク、クレイ、焼成カオリン、焼成珪酸カルシウム、水和ケイ酸カルシウム、ケイ酸アルミニウム、ケイ酸マグネシウムおよびリン酸カルシウムを挙げることができる。微粒子はケイ素を含むものが濁度が低くなる点で好ましく、特に二酸化珪素が好ましい。二酸化珪素の微粒子は、1次平均粒子サイズが20nm以下であり、かつ見かけ比重が70g/リットル以上であるものが好ましい。1次粒子の平均径が5〜16nmと小さいものがフィルムのヘイズを下げることができより好ましい。見かけ比重は90〜200g/リットル以上が好ましく、100〜200g/リットル以上がさらに好ましい。見かけ比重が大きい程、高濃度の分散液を作ることが可能になり、ヘイズ、凝集物が良化するため好ましい。
【0114】
これらの微粒子は、通常平均粒子サイズが0.1〜3.0μmの2次粒子を形成し、これらの微粒子はフィルム中では、1次粒子の凝集体として存在し、フィルム表面に0.1〜3.0μmの凹凸を形成させる。2次平均粒子サイズは0.2μm〜1.5μmが好ましく、0.4μm〜1.2μmがさらに好ましく、0.6μm〜1.1μmが最も好ましい。1次、2次粒子サイズはフィルム中の粒子を走査型電子顕微鏡で観察し、粒子に外接する円の直径をもって粒子サイズとした。また、場所を変えて粒子200個を観察し、その平均値をもって平均粒子サイズとした。
【0115】
二酸化珪素の微粒子は、例えば、アエロジルR972、R972V、R974、R812、200、200V、300、R202、OX50、TT600(以上日本アエロジル(株)製)などの市販品を使用することができる。酸化ジルコニウムの微粒子は、例えば、アエロジルR976およびR811(以上日本アエロジル(株)製)の商品名で市販されており、使用することができる。
これらの中でアエロジル200V、アエロジルR972Vが1次平均粒子径が20nm以下であり、かつ見かけ比重が70g/リットル以上である二酸化珪素の微粒子であり、光学フィルムの濁度を低く保ちながら、摩擦係数をさげる効果が大きいため特に好ましい。
【0116】
本発明において2次平均粒子径の小さな粒子を有するフィルムを得るために、微粒子の分散液を調製する際にいくつかの手法が考えられる。例えば、溶媒と微粒子を撹拌混合した微粒子分散液をあらかじめ作成し、この微粒子分散液を別途用意した少量のセルロースアシレート溶液に加えて撹拌溶解し、さらにメインのセルロースアシレートドープ液と混合する方法がある。この方法は二酸化珪素微粒子の分散性がよく、二酸化珪素微粒子がさらに再凝集しにくい点で好ましい調製方法である。ほかにも、溶媒に少量のセルロースエステルを加え、撹拌溶解した後、これに微粒子を加えて分散機で分散を行いこれを微粒子添加液とし、この微粒子添加液をインラインミキサーでドープ液と十分混合する方法もある。本発明はこれらの方法に限定されないが、二酸化珪素微粒子を溶媒などと混合して分散するときの二酸化珪素の濃度は5〜30質量%が好ましく、10〜25質量%がさらに好ましく、15〜20質量%が最も好ましい。分散濃度が高い方が添加量に対する液濁度は低くなり、ヘイズ、凝集物が良化するため好ましい。また、マット剤を本発明のセルロースアシレートフィルムに添加して用いる場合の、フィルム表層におけるマット剤含有量は、フィルム表面層100質量部に対し、球形、不定形微粒子を問わず、0.05〜1.00質量部であり、好ましくは0.07〜0.60質量部であり、より好ましくは0.10〜0.40質量部である。表面層における微粒子の含有量が0.05質量部未満であると、セルロースアシレートフィルム表面のすべり性・タッキング防止性を確保することが困難になり、1.00質量%を超えると透明性が悪くなる。
【0117】
使用される溶媒は低級アルコール類としては、好ましくはメチルアルコール、エチルアルコール、プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、ブチルアルコール等が挙げられる。低級アルコール以外の溶媒としては特に限定されないが、セルロースエステルの製膜時に用いられる溶媒を用いることが好ましい。
【0118】
(剥離促進剤)
本発明のドープには、剥離促進剤を含んでいてもよい。剥離促進剤は、例えば、0.001〜1重量%の割合で含めることができる。剥離促進剤としては、公知のものが採用でき、例えば、クエン酸のエチルエステル類が例として挙げられる。
【0119】
(劣化防止剤)
セルロースアシレートフィルムには、劣化防止剤(例えば、酸化防止剤、過酸化物分解剤、ラジカル禁止剤、金属不活性化剤、酸捕獲剤、アミン)を添加してもよい。劣化防止剤については、特開平3−199201号、同5−197073号、同5−194789号、同5−271471号、同6−107854号の各公報に記載がある。劣化防止剤の添加量は、劣化防止剤添加による効果が発現し、フィルム表面への劣化防止剤のブリードアウト(滲み出し)を抑制する観点から、調製する溶液(ドープ)の0.01〜1質量%であることが好ましく、0.01〜0.2質量%であることがさらに好ましい。特に好ましい劣化防止剤の例としては、ブチル化ヒドロキシトルエン(BHT)、トリベンジルアミン(TBA)を挙げることができる。
【0120】
(4)セルロースエステルフィルムの製造
本発明のフィルムは、セルロースアシレートフィルムを通常作製する方法であればいずれの方法においても製造することができるが、特にソルベントキャスト法により製造することが好ましい。ソルベントキャスト法では、セルロースアシレートを有機溶媒に溶解した溶液(ドープ)を用いてフィルムを製造することができる。
有機溶媒は、炭素原子数が3〜12のエーテル、炭素原子数が3〜12のケトン、炭素原子数が3〜12のエステルおよび炭素原子数が1〜6のハロゲン化炭化水素から選ばれる溶媒を含むことが好ましい。エーテル、ケトンおよびエステルは、環状構造を有していてもよい。エーテル、ケトンおよびエステルの官能基(すなわち、−O−、−CO−および−COO−)のいずれかを2つ以上有する化合物も、有機溶媒として用いることができる。有機溶媒は、アルコール性水酸基のような他の官能基を有していてもよい。2種類以上の官能基を有する有機溶媒の場合、その炭素原子数は、いずれかの官能基を有する化合物の規定範囲内であればよい。
炭素原子数が3〜12のエーテル類の例には、ジイソプロピルエーテル、ジメトキシメタン、ジメトキシエタン、1,4−ジオキサン、1,3−ジオキソラン、テトラヒドロフラン、アニソールおよびフェネトールが含まれる。
炭素原子数が3〜12のケトン類の例には、アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、ジイソブチルケトン、シクロヘキサノンおよびメチルシクロヘキサノンが含まれる。
炭素原子数が3〜12のエステル類の例には、エチルホルメート、プロピルホルメート、ペンチルホルメート、メチルアセテート、エチルアセテートおよびペンチルアセテートが含まれる。
2種類以上の官能基を有する有機溶媒の例には、2−エトキシエチルアセテート、2−メトキシエタノールおよび2−ブトキシエタノールが含まれる。
ハロゲン化炭化水素の炭素原子数は、1または2であることが好ましく、1であることが最も好ましい。ハロゲン化炭化水素のハロゲンは、塩素であることが好ましい。ハロゲン化炭化水素の水素原子が、ハロゲンに置換されている割合は、25〜75モル%であることが好ましく、30〜70モル%であることがより好ましく、35〜65モル%であることがさらに好ましく、40〜60モル%であることが最も好ましい。メチレンクロリドが、代表的なハロゲン化炭化水素である。
2種類以上の有機溶媒を混合して用いてもよい。
【0121】
一般的な方法でセルロースアシレート溶液を調製できる。一般的な方法とは、0℃以上の温度(常温または高温)で、処理することを意味する。溶液の調製は、通常のソルベントキャスト法におけるドープの調製方法および装置を用いて実施することができる。なお、一般的な方法の場合は、有機溶媒としてハロゲン化炭化水素(特にメチレンクロリド)を用いることが好ましい。
セルロースアシレートの量は、得られる溶液中に10〜40質量%含まれるように調整する。セルロースアシレートの量は、10〜30質量%であることがさらに好ましい。有機溶媒(主溶媒)中には、後述する任意の添加剤を添加しておいてもよい。
溶液は、常温(0〜40℃)でセルロースアシレートと有機溶媒とを攪拌することにより調製することができる。高濃度の溶液は、加圧および加熱条件下で攪拌してもよい。具体的には、セルロースアシレートと有機溶媒とを加圧容器に入れて密閉し、加圧下で溶媒の常温における沸点以上、かつ溶媒が沸騰しない範囲の温度に加熱しながら攪拌する。加熱温度は、通常は40℃以上であり、好ましくは60〜200℃であり、さらに好ましくは80〜110℃である。
【0122】
各成分は予め粗混合してから容器に入れてもよい。また、順次容器に投入してもよい。容器は攪拌できるように構成されている必要がある。窒素ガス等の不活性気体を注入して容器を加圧することができる。また、加熱による溶媒の蒸気圧の上昇を利用してもよい。あるいは、容器を密閉後、各成分を圧力下で添加してもよい。
加熱する場合、容器の外部より加熱することが好ましい。例えば、ジャケットタイプの加熱装置を用いることができる。また、容器の外部にプレートヒーターを設け、配管して液体を循環させることにより容器全体を加熱することもできる。
容器内部に攪拌翼を設けて、これを用いて攪拌することが好ましい。攪拌翼は、容器の壁付近に達する長さのものが好ましい。攪拌翼の末端には、容器の壁の液膜を更新するため、掻取翼を設けることが好ましい。
容器には、圧力計、温度計等の計器類を設置してもよい。容器内で各成分を溶媒中に溶解する。調製したドープは冷却後容器から取り出すか、あるいは、取り出した後、熱交換器等を用いて冷却する。
【0123】
冷却溶解法により、溶液を調製することもできる。冷却溶解法では、通常の溶解方法では溶解させることが困難な有機溶媒中にもセルロースアシレートを溶解させることができる。なお、通常の溶解方法でセルロースアシレートを溶解できる溶媒であっても、冷却溶解法によると迅速に均一な溶液が得られるとの効果がある。
冷却溶解法では最初に、室温で有機溶媒中にセルロースアシレートを撹拌しながら徐々に添加する。セルロースアシレートの量は、この混合物中に10〜40質量%含まれるように調整することが好ましい。セルロースアシレートの量は、10〜30質量%であることがさらに好ましい。さらに、混合物中には後述する任意の添加剤を添加しておいてもよい。
次に、混合物を−100〜−10℃(好ましくは−80〜−10℃、さらに好ましくは−50〜−20℃、最も好ましくは−50〜−30℃)に冷却する。冷却は、例えば、ドライアイス・メタノール浴(−75℃)や冷却したジエチレングリコール溶液(−30〜−20℃)中で実施できる。このように冷却すると、セルロースアシレートと有機溶媒の混合物は固化する。
【0124】
冷却速度は、4℃/分以上であることが好ましく、8℃/分以上であることがさらに好ましく、12℃/分以上であることが最も好ましい。冷却速度は、速いほど好ましいが、10000℃/秒が理論的な上限であり、1000℃/秒が技術的な上限であり、そして100℃/秒が実用的な上限である。なお、冷却速度は、冷却を開始する時の温度と最終的な冷却温度との差を、冷却を開始してから最終的な冷却温度に達するまでの時間で割った値である。
さらに、これを0〜200℃(好ましくは0〜150℃、さらに好ましくは0〜120℃、最も好ましくは0〜50℃)に加温すると、有機溶媒中にセルロースアシレートが溶解する。昇温は、室温中に放置するだけでもよいし、温浴中で加温してもよい。加温速度は、4℃/分以上であることが好ましく、8℃/分以上であることがさらに好ましく、12℃/分以上であることが最も好ましい。加温速度は、速いほど好ましいが、10000℃/秒が理論的な上限であり、1000℃/秒が技術的な上限であり、そして100℃/秒が実用的な上限である。なお、加温速度は、加温を開始する時の温度と最終的な加温温度との差を加温を開始してから最終的な加温温度に達するまでの時間で割った値である。
【0125】
以上のようにして、均一な溶液が得られる。なお、溶解が不充分である場合は冷却、加温の操作を繰り返してもよい。溶解が充分であるかどうかは、目視により溶液の外観を観察するだけで判断することができる。
冷却溶解法においては、冷却時の結露による水分混入を避けるため、密閉容器を用いることが望ましい。また、冷却加温操作において、冷却時に加圧し、加温時の減圧すると、溶解時間を短縮することができる。加圧および減圧を実施するためには、耐圧性容器を用いることが望ましい。
なお、セルロースアシレート(酢化度:60.9%、粘度平均重合度:299)を冷却溶解法によりメチルアセテート中に溶解した20質量%の溶液は、示差走査熱量測定(DSC)によると、33℃近傍にゾル状態とゲル状態との疑似相転移点が存在し、この温度以下では均一なゲル状態となる。従って、この溶液は疑似相転移温度以上、好ましくはゲル相転移温度プラス10℃程度の温度で保存する必要がある。ただし、この疑似相転移温度は、セルロースアシレートの酢化度、粘度平均重合度、溶液濃度や使用する有機溶媒により異なる。
【0126】
調製したセルロースアシレート溶液(ドープ)から、ソルベントキャスト法によりセルロースアシレテートフィルムを製造することができる。
ドープは、ドラムまたはバンド上に流延し、溶媒を蒸発させてフィルムを形成する。流延前のドープは、固形分量が18〜35質量%となるように濃度を調整することが好ましい。ドラムまたはバンドの表面は、鏡面状態に仕上げておくことが好ましい。ソルベントキャスト法における流延および乾燥方法については、米国特許2336310号、同2367603号、同2492078号、同2492977号、同2492978号、同2607704号、同2739069号、同2739070号、英国特許640731号、同736892号の各明細書、特公昭45−4554号、同49−5614号、特開昭60−176834号、同60−203430号、同62−115035号の各公報に記載がある。
【0127】
ドープは、表面温度が10℃以下のドラムまたはバンド上に流延することが好ましい。流延してから2秒以上風に当てて乾燥することが好ましい。得られたフィルムをドラムまたはバンドから剥ぎ取り、さらに100から160℃まで逐次温度を変えた高温風で乾燥して残留溶媒を蒸発させることもできる。以上の方法は、特公平5−17844号公報に記載がある。この方法によると、流延から剥ぎ取りまでの時間を短縮することが可能である。この方法を実施するためには、流延時のドラムまたはバンドの表面温度においてドープがゲル化することが必要である。
【0128】
ドラムやベルト上で乾燥され、剥離されたウェブの乾燥方法について述ベる。ドラムやベルトが1周する直前の剥離位置で剥離されたウェブは、千鳥状に配置されたロ−ル群に交互に通して搬送する方法や剥離されたウェブの両端をクリップ等で把持させて非接触的に搬送する方法などにより搬送される。乾燥は、搬送中のウェブ(フィルム)両面に所定の温度の風を当てる方法やマイクロウエ−ブなどの加熱手段などを用いる方法によって行われる。急速な乾燥は、形成されるフィルムの平面性を損なう恐れがあるので、乾燥の初期段階では、溶媒が発泡しない程度の温度で乾燥し、乾燥が進んでから高温で乾燥を行うのが好ましい。支持体から剥離した後の乾燥工程では、溶媒の蒸発によってフィルムは長手方向あるいは幅方向に収縮しようとする。収縮は、高温度で乾燥するほど大きくなる。この収縮を可能な限り抑制しながら乾燥することが、でき上がったフィルムの平面性を良好にする上で好ましい。この点から、例えば、特開昭62−46625号公報に示されているように、乾燥の全工程あるいは一部の工程を幅方向にクリップあるいはピンでウェブの幅両端を幅保持しつつ行う方法(テンタ−方式)が好ましい。上記乾燥工程における乾燥温度は、100〜145℃であることが好ましい。使用する溶媒によって乾燥温度、乾燥風量および乾燥時間が異なるが、使用溶媒の種類、組合せに応じて適宜選べばよい。本発明のセルロースエステルフィルムの製造方法では、支持体から剥離したウェブ(フィルム)を、ウェブ中の残留溶媒量が120質量%未満の時に延伸することが好ましく、特に10〜100質量%の範囲にある間に、少なくとも1方向に5〜300%で行うのが好ましく、7〜200%で行うのがより好ましく、10〜100%で行うのが更に好ましい。
【0129】
なお、残留溶媒量は下記の式で表せる。
残留溶媒量(質量%)={(M−N)/N}×100
ここで、Mはウェブの任意時点での質量、NはMを測定したウェブを110℃で3時間乾燥させた時の質量である。ウェブ中の残留溶媒量が多すぎると延伸の効果が得られず、また、少なすぎると延伸が著しく困難となり、ウェブの破断が発生してしまう場合がある。ウェブ中の残留溶媒量のさらに好ましい範囲は10質量%〜70質量%、特に12質量%〜50質量%が最も好ましい。また、延伸倍率が小さすぎると十分な位相差が得られず、大きすぎると延伸が困難となり破断が発生してしまう場合がある。本発明のセルロースアシレートフィルムは延伸による光学異方性の発現性が大きいことから、実用上の観点からは延伸倍率は5〜100%が好ましく、7〜70%が更に好ましく、10〜50%が特に好ましい。溶液流延製膜したフィルムは、特定の範囲の残留溶媒量であれば高温に加熱しなくても延伸可能であるが、乾燥と延伸を兼ねると、工程が短くてすむので好ましい。しかし、ウェブの温度が高すぎると、可塑剤が揮散するので、室温(例えば、15℃)〜145℃以下の範囲が好ましい。
【0130】
本発明のセルロースアシレートフィルムは、以下に詳述する製造方法を用いることにより効率良く製造することができる。
本発明のセルロースアシレートフィルムの製造方法は、セルロースエステルを有機溶媒に溶解させた溶液を、支持体上に流延し溶媒を蒸発させてフィルムを形成する製膜工程、およびその後当該フィルムを延伸する延伸工程、さらにその後得られたフィルムを乾燥する乾燥工程を有するフィルムの製造方法であって、該乾燥工程終了後、150〜200℃の温度で1分以上熱処理する工程を有することを特徴とするものである。
【0131】
(製膜工程、延伸工程、乾燥工程)
製膜工程、延伸工程、乾燥工程は前述の方法を用いることができる。
本発明においては、延伸工程におけるフィルム延伸率(延伸倍率と称する場合がある)が5〜100%であることが好ましく、7〜70%であることがさらに好ましく、5〜50%であることが特に好ましい。
【0132】
得られたフィルムを巻き取る巻き取り機には、一般的に使用されている巻き取り機が使用でき、定テンション法、定トルク法、テーパーテンション法、内部応力一定のプログラムテンションコントロール法などの巻き取り方法で巻き取ることができる。以上の様にして得られた光学フィルムロールは、フィルムの遅相軸方向が、巻き取り方向(フィルムの長手方向)に対して、±2度であることが好ましく、さらに±1度の範囲であることが好ましい。または、巻き取り方向に対して直角方向(フィルムの幅方向)に対して、±2度であることが好ましく、さらに±1度の範囲にあることが好ましい。特にフィルムの遅相軸方向が、巻き取り方向(フィルムの長手方向)に対して、±0.1度以内であることが好ましい。あるいはフィルムの幅手方向に対して±0.1度以内であることが好ましい。
【0133】
以上のようにして得られたフィルムは、最終仕上がりフィルムの残留溶媒量で1質量%以下、さらに0.2質量%以下であることが、実用上好ましい。
【0134】
(5)フィルムの特徴
(フィルムの膜厚)
本発明のセルロースアシレートフィルムの厚さは、使用目的により異なるが20〜200μmであることが好ましく、25〜100μmであることがより好ましく、液晶表示装置用途には30〜80μmであることが特に好ましい。このような範囲とすることにより、ハンドリング良化による偏光板加工適性が向上する傾向にある。
【0135】
(フィルムの幅)
本発明のセルロースアシレートフィルムの幅は、500〜3000mmであることが好ましく、1000〜2500mmであることがより好ましく、液晶表示装置用途には12000〜2200mmであることが特に好ましい。このような範囲とすることにより、効率的な偏光板裁断とハンドリング適性を両立させることができ、歩留まりが向上する傾向にある。
【0136】
(フィルムの長さ)
本発明のセルロースアシレートフィルムの長さは、1ロールあたり100m〜10000mで巻き取るのが好ましく、500m〜7000mであることがより好ましく、1000m〜6000mであることが特に好ましい。液晶表示装置用途には12000〜2200mmであることが特に好ましい。このような範囲とすることで、ロール形態での扱いが容易であり、更に偏光板の連続プロセスに適合し歩留まりを向上させる効果がある。
【0137】
(Re、Rth)
本発明のセルロースアシレートフィルムの好ましい光学特性は、フィルムの用途により異なる。偏光板保護フィルム用途の場合は、面内レターデーション(Re)は5nm以下が好ましく、3nm以下が更に好ましい。厚さ方向レターデーション(Rth)も50nm以下が好ましく、35nm以下が更に好ましく、10nm以下が特に好ましい。
本発明の光学フィルムのレターデーション値は、位相差フィルムに用いる場合等には、25℃、60%相対湿度における値が、20nm≦Re(590)≦200nmを満たすことが好ましく、30nm≦Re(590)≦100nmを満たすことがより好ましい。また、70nm≦Rth(590)≦400nmを満たすことが好ましく、80nm≦Rth(590)≦250nmを満たすことがより好ましい。
本発明のセルロースアシレートフィルムの全幅のRe値のバラツキが±5nm以内であることが好ましく、±3nm以内であることが更に好ましい。また、Rth値のバラツキは±10nm以内が好ましく、±5nm以内であることが更に好ましい。また、長さ方向のRe値、及びRth値のバラツキも幅方向のバラツキの範囲内であることが好ましい。
【0138】
ここで、本明細書におけるRe(λ)、Rth(λ)は各々、波長λにおける面内のレターデーションおよび厚さ方向のレターデーションを表す。本願明細書においては、特に記載がないときは、波長λは、590nmとする。Re(λ)はKOBRA 21ADH(王子計測機器(株)製)において波長λnmの光をフィルム法線方向に入射させて測定される。Rth(λ)は前記Re(λ)を、面内の遅相軸(KOBRA 21ADHにより判断される)を傾斜軸(回転軸)として(遅相軸がない場合にはフィルム面内の任意の方向を回転軸とする)のフィルム法線方向に対して法線方向から片側50度まで10度ステップで各々その傾斜した方向から波長λnmの光を入射させて全部で6点測定し、その測定されたレターデーション値と平均屈折率の仮定値及び入力された膜厚値を基にKOBRA 21ADHが算出する。尚、遅相軸を傾斜軸(回転軸)として(遅相軸がない場合にはフィルム面内の任意の方向を回転軸とする)、任意の2方向からレターデーション値を測定し、その値と平均屈折率の仮定値及び入力された膜厚値を基に、以下の式(1)及び式(2)よりRthを算出することもできる。ここで平均屈折率の仮定値はポリマーハンドブック(JOHN WILEY&SONS,INC)、各種光学フィルムのカタログの値を使用することができる。平均屈折率の値が既知でないものについてはアッベ屈折計で測定することができる。主な光学フィルムの平均屈折率の値を以下に例示する:セルロースアシレート(1.48)、シクロオレフィンポリマー(1.52)、ポリカーボネート(1.59)、ポリメチルメタクリレート(1.49)、ポリスチレン(1.59)である。これら平均屈折率の仮定値と膜厚を入力することで、KOBRA 21ADHはnx、ny、nzを算出する。この算出されたnx、ny、nzよりNz=(nx−nz)/(nx−ny)が更に算出される。
【0139】
【数1】

【0140】
ここで、上記のRe(θ)は法線方向から角度θ傾斜した方向におけるレターデーション値を表す。dはフィルム厚を表す。
Rth=((nx+ny)/2−nz)×d −−− 式(2)
なおこの際、パラメータとして平均屈折率nが必要になるが、これはアッベ屈折計((株)アタゴ社製の「アッベ屈折計2−T」)により測定した値を用いた。
【0141】
(6)偏光板
本発明の偏光板の第一の実施形態は、本発明のセルロースアシレートフィルムを偏光板の保護フィルムとして用いたものである。すなわち、偏光板は、偏光子およびその少なくとも片側、通常は両側に配置された2枚の透明保護フィルムからなる。そして、本発明では、少なくとも一方の保護フィルムとして、本発明のセルロースアシレートフィルムを用いる。他方の保護フィルムは、本発明に関するセルロースアシレートフィルムを用いても、通常のセルロースアセテートフィルム等を用いてもよい。
【0142】
また、本発明の偏光板の第二の実施形態は、偏光子および少なくとも片側に保護フィルムを有する偏光板であって、60℃・相対湿度90%の条件下、または、80℃・相対湿度10%の条件下に120時間静置した場合の偏光板の機械方向寸度変化率S(MD)と機械幅方向寸度変化率S(TD)のいずれか一方が−10%〜−1.0%を示すことを特徴とするものである。このような偏光板は、サーモ処理によってある程度収縮する保護フィルムを偏光子に貼り付けることにより作製できる。一例として、本発明のセルロースアシレートフィルムが挙げられる。
ここで、「偏光板の機械方向寸度変化率」、および「偏光板の機械幅方向寸度変化率」における「機械方向」、「機械幅方向」とは該偏光板上に貼付されている保護フィルムの機械方向(流延方向)、機械幅方向(流延幅方向)によって定義されるものであり、「寸度変化率」は前記保護フィルムにおいて説明した寸度変化率と同じ方法によって求めることができる。
本発明の偏光板の60℃・相対湿度90%条件下に120時間静置した場合の機械方向寸度変化率S(MD)、機械幅方向寸度変化率S(TD)としてはいずれも好ましくは−0.5%〜10%であり、より好ましくは−1.0〜−10%であり、さらに好ましくは−2.0〜−10%である。また、機械方向寸度変化率S(MD)および機械幅方向寸度変化率S(TD)の両方が上記条件を満たすことが好ましい。
本発明の偏光板の80℃・相対湿度10%条件下に120時間静置した場合の機械方向寸度変化率S(MD)、機械幅方向寸度変化率S(TD)としてはいずれも好ましくは−0.5%〜10%であり、より好ましくは−1.0〜−10%であり、さらに好ましくは−2.0〜−10%である。また、機械方向寸度変化率S(MD)および機械幅方向寸度変化率S(TD)の両方が上記条件を満たすことが好ましい。
【0143】
偏光板は前述の如く、偏光子の少なくとも一方の面に偏光板用保護フィルムを貼り合わせ積層することによって形成される。偏光子は従来から公知のものを用いることができ、例えば、ポリビニルアルコールフィルムの如きの親水性ポリマーフィルムを、沃素のような二色性染料で処理して延伸したものである。セルロ−スエステルフィルムと偏光子との貼り合わせは、特に限定はないが、
水溶性ポリマーの水溶液からなる接着剤により行うことができる。この水溶性ポリマー接着剤は完全鹸化型のポリビニルアルコ−ル水溶液が好ましく用いられる。
また、偏光板の保護フィルムの上に、さらに、位相差膜を有していても良い。位相差膜は、好ましくは、粘着剤によって貼り合わせる。粘着剤としては、例えば、特開2000−109771号公報、特開2003−34781号公報、特開2003−34781号公報に記載のものを採用できる。
【0144】
本発明の偏光板の構成としては、保護フィルム/偏光子/保護フィルム/液晶セル/本発明のセルロースアシレートフィルム/偏光子/偏光板保護フィルムの構成、もしくは偏光板保護フィルム/偏光子/本発明のセルロースアシレートフィルム/液晶セル/本発明のセルロースアシレートフィルム/偏光子/偏光板保護フィルムの構成で好ましく用いることができる。特に、TN型、VA型、OCB型などの液晶セルに貼り合わせて用いることによって、さらに視野角に優れ、着色が少ない視認性に優れた表示装置を提供することができる。特に本発明のセルロースアシレートフィルムを用いた偏光板は高温高湿条件下での劣化が少なく、長期間安定した性能を維持することができる。
【0145】
(7)液晶表示装置
本発明のセルロースアシレートフィルム、該フィルムを用いた偏光板は、様々な表示モードの液晶セル、液晶表示装置に用いることができる。TN(Twisted Nematic)、IPS(In−Plane Switching)、FLC(Ferroelectric Liquid Crystal)、AFLC(Anti−ferroelectric Liquid Crystal)、OCB(Optically Compensatory Bend)、STN(Supper Twisted Nematic)、VA(Vertically Aligned)およびHAN(Hybrid Aligned Nematic)のような様々な表示モードが提案されている。
【0146】
OCBモードの液晶セルは、棒状液晶性分子を液晶セルの上部と下部とで実質的に逆の方向に(対称的に)配向させるベンド配向モードの液晶セルを用いた液晶表示装置である。OCBモードの液晶セルは、米国特許第4583825号、同5410422号の各明細書に開示されている。棒状液晶分子が液晶セルの上部と下部とで対称的に配向しているため、ベンド配向モードの液晶セルは、自己光学補償機能を有する。ベンド配向モードの液晶表示装置は、応答速度が速いとの利点がある。
【0147】
VAモードの液晶セルでは、電圧無印加時に棒状液晶性分子が実質的に垂直に配向している。
VAモードの液晶セルには、(1)棒状液晶性分子を電圧無印加時に実質的に垂直に配向させ、電圧印加時に実質的に水平に配向させる狭義のVAモードの液晶セル(特開平2−176625号公報記載)に加えて、(2)視野角拡大のため、VAモードをマルチドメイン化した(MVAモードの)液晶セル(SID97、Digest of tech. Papers(予稿集)28(1997)845記載)、(3)棒状液晶性分子を電圧無印加時に実質的に垂直配向させ、電圧印加時にねじれマルチドメイン配向させるモード(n−ASMモード)の液晶セル(シャープ技報第80号11頁)および(4)SURVAIVALモードの液晶セル(月刊ディスプレイ5月号14頁(1999年))が含まれる。
VAモードの液晶表示装置は、液晶セルおよびその両側に配置された二枚の偏光板からなる。液晶セルは、二枚の電極基板の間に液晶を担持している。本発明における透過型液晶表示装置の一つの態様では、本発明のフィルムは、液晶セルと一方の偏光板との間に、一枚配置するか、あるいは液晶セルと双方の偏光板との間に二枚配置する。
【0148】
本発明の透過型液晶表示装置の別の態様では、液晶セルと偏光子との間に配置される偏光板の透明保護フィルムとして、本発明のフィルムからなる光学補償シートが用いられる。一方の偏光板の(液晶セルと偏光子との間の)保護フィルムのみに上記の光学補償シートを用いてもよいし、あるいは双方の偏光板の(液晶セルと偏光子との間の)二枚の保護フィルムに、上記の光学補償シートを用いてもよい。一方の偏光板のみに上記光学補償シートを使用する場合は、液晶セルのバックライト側偏光板の液晶セル側保護フィルムとして使用するのが特に好ましい。液晶セルへの張り合わせは、本発明のフィルムはVAセル側にすることが好ましい。保護フィルムは通常のセルロースエステルフィルムでも良く、本発明のフィルムより薄いことが好ましい。例えば、40〜80μmが好ましく、市販のKC4UX2M(コニカオプト株式会社製40μm)、KC5UX(コニカオプト株式会社製60μm)、TD80(富士フイルム製80μm)等が挙げられるが、これらに限定されない。
【実施例】
【0149】
以下に実施例と比較例を挙げて本発明の特徴をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。したがって、本発明の範囲は以下に示す具体例により限定的に解釈されるべきものではない。
【0150】
(セルロースアシレートの調製)
表1に記載のアシル基の種類、置換度の異なるセルロースアシレートを調製した。これは、触媒として硫酸(セルロース100質量部に対し7.8質量部)を添加し、アシル置換基の原料となるカルボン酸を添加し40℃でアシル化反応を行った。この時、カルボン酸の種類、量を調整することでアシル基の種類、置換度を調整した。またアシル化後に40℃で熟成を行った。さらにこのセルロースアシレートの低分子量成分をアセトンで洗浄し除去した。なお、表中の綿の種類における、CABとは、セルロースアセテートブチレート(アシル基がアセチル基とブチリル基からなるセルロースエステル誘導体)の略称であり、CAPとは、セルロースアセテートプロピオネート(アシル基がアセチル基とプロピオニル基からなるセルロースエステル誘導体)の略称であり、CAとは、セルロースアセテート(アシル基がアセチル基のみからなるセルロースエステル誘導体)を意味する。また、表中の置換度Aはアセチル基由来の置換度を示しており、置換度Bは、表中の「種類」の欄に記載の置換基の置換度を示している。ここで、Prはプロピオニル基を、Buはブチリル基をそれぞれ示している。
【0151】
[セルロースアシレートフィルムの製膜]
[実施例1]:フィルム1〜12の作製
(溶解)
表1に記載のセルロースアシレート、可塑剤として、トリフェニルフォスフェート(TPP、ビフェニルジフェニルフォスフェート(BDP)、下記可塑剤1、可塑剤2(コハク酸/フタル酸/エタンジオール/(2/3/5 モル比)からなる縮合物(数平均分子量2500))、下記の紫外線吸収剤1(UV1)、紫外線吸収剤2(UV2)、紫外線吸収剤3(UV3)、レターデーション調整剤1(RP1)、レターデーション調整剤2(RP2)をジクロロメタン/メタノール(87/13質量部)に攪拌しながら投入して加熱攪拌し溶解させ、ドープを作製した。前記ドープは粘度が50〜70Pa・sの範囲となる様にそれぞれ調製した。このとき、同時にセルロースアシレート100質量部に対して微粒子であるマット剤(AEROSIL R972、日本エアロジル(株)製、2次平均粒子サイズ1.0μm以下)0.05質量部を投入し、加熱しながら攪拌させた。表1の可塑剤および紫外線吸収剤の添加量は綿質量100質量部に対する添加剤の質量部である。
【0152】
【化13】

【0153】
【化14】

【0154】
【化15】

【0155】
【化16】

【0156】
【化17】

【0157】
【化18】

【0158】
【表1】

【0159】
(流延および延伸)
上述のドープを、バンド流延機を用いて流延した。残留溶剤量が25〜40質量%の範囲でバンドから剥ぎ取ったフィルムを、表1に記載の延伸倍率および延伸温度で、テンターを用いて幅方向に延伸した後、緩和して、セルロースアシレートフィルム1〜12を製膜した。ここでの延伸倍率は、テンターでの最大延伸倍率を示している。最大延伸倍率、緩和率とも流延幅を基準とした。得られたフィルムの幅および膜厚を表1に示した。
また、このようにして得たフィルムの60℃・相対湿度90%にて120時間、または、80℃・相対湿度10%にて120時間サーモ処理する前後のフィルムの流延方向寸度変化率S(MD)と流延幅方向寸度変化率S(TD)を表2に示した。流延方向寸度変化率S(MD)と流延幅方向寸度変化率S(TD)の定義、測定方法は前述した通りである。
【0160】
本結果によれば本発明によるフィルム1〜9においては流延方向寸度変化率S(MD)と流延幅方向寸度変化率S(TD)のいずれか一方が−10%〜−0.5%の範囲に収まっている。
【0161】
[比較例1]
また表1に示すように条件を変更した以外は実施例1と同様にしてフィルム10〜12を作製した。本発明のフィルムと異なり、これらは流延方向寸度変化率S(MD)と流延幅方向寸度変化率S(TD)の少なくとも一方が−10%〜−0.5%の範囲に入っていない。
【0162】
作製したセルロースアシレートフィルムを、25℃・相対湿度60%で2時間以上調湿し、複屈折測定装置(KOBRA 21ADH、王子計測器(株)製)を用いて、25℃・相対湿度60%で波長590nmにおけるRe値およびRth値を測定した。結果を表2に示す。
【0163】
本実施例で得られたフィルムのヘイズは、全て0.1〜0.9%の範囲内であった。80℃・相対湿度90%の条件下に48時間静置した場合の質量変化は0〜3%であった。さらに、どのサンプルも光弾性係数は50×10-13cm2/dyne以下であり、光学フィルムとして十分な性能を満たすものであった。
【0164】
【表2】

【0165】
[実施例3]:偏光板の作製
(偏光板1の作製)
厚み75μm、重合度2400のポリビニルアルコール(PVA)フィルムを30℃の温水で40秒間膨潤させた後、ヨウ素濃度0.06質量%、ヨウ化カリウム6質量%の水溶液中に30℃で60秒浸漬して染色し、次いでホウ酸濃度4質量%、ヨウ化カリウム3質量%の水溶液中に40℃で60秒浸漬している間に、縦方向が元の長さの5.0倍になるように延伸した。その後、50℃で4分間乾燥させて、偏光子を得た。
【0166】
上記で作製したフィルム1と富士フイルム(株)製TD80Uを、1.5モル/リットルで55℃の水酸化ナトリウム水溶液中に浸漬した後、水で十分に水酸化ナトリウムを洗い流した。その後、0.005モル/リットルで35℃の希硫酸水溶液に1分間浸漬した後、水に浸漬し希硫酸水溶液を十分に洗い流した。最後に試料を120℃で十分に乾燥させた。
前記のように鹸化処理を行ったフィルム1と富士フイルム(株)製TD80Uを前記の偏光子を挟むようにポリビニルアルコール系接着剤を用いて貼り合せ、さらに70℃で30分間加熱した。この後、幅方向から3cm、カッターにて耳きりをし、有効幅1200mm、長さ50mのロール形態の偏光板1を作製した。
【0167】
(偏光板2〜9の作製)
偏光板1の作製において、フィルム1を上記で作製したフィルム2〜9に代え、他は同様に行って、偏光板2〜9を作製した。
このとき、偏光子および偏光子両側の保護フィルムはロール形態で作製されているため各ロールフィルムの長手方向が平行となっており連続的に貼り合わされる。また、セル側に配置される保護フィルムにおいては偏光子の透過軸と各セルロースアシレートフィルム1〜9の遅相軸とは平行になっている。
【0168】
以上のように作成した偏光板の60℃・相対湿度90%にて120時間、または、80℃・相対湿度10%にて120時間サーモ処理した前後のフィルムの機械方向寸度変化率S(MD)と機械幅方向寸度変化率S(TD)を表3に示す。
機械方向寸度変化率S(MD)と機械幅方向寸度変化率S(TD)の定義、測定方法は前述した通りである。
【0169】
本発明にかかる偏光板においては、機械方向寸度変化率S(MD)と機械幅方向寸度変化率S(TD)の少なくとも一方が−10%〜−1.0%の範囲内に収まっていた。
【0170】
【表3】

【0171】
[比較例3]
上記で作製したフィルム10〜12を用いた以外は実施例3と同様にして偏光板10〜12を作製した。これらは、機械方向寸度変化率S(MD)と機械幅方向寸度変化率S(TD)の少なくとも一方が−10%〜−1.0%の範囲外であった。
【0172】
[実施例4]:粘着剤層の塗工
(アクリル系ポリマー溶液の作製)
n−ブチルアクリレート(n−BA)75質量部、メチルアクリレート(MA)20質量部、2−ヒドロキシアクリレート(2−HEA)5質量部、酢酸エチル100質量部およびアゾビスイソブチロニトリル(AIBN)0.2質量部を反応容器に入れ、この反応容器内の空気を窒素ガスで置換した後、撹拌下に窒素雰囲気中で、この反応容器を60℃に昇温させ、4時間反応させた。4時間後、トルエン100質量部、α−メチルスチレンダイマー5質量部およびAIBN2質量部を加え、90℃に昇温し、さらに4時間反応させた。反応後、酢酸エチルで希釈し、固形分20質量%のアクリルポリマー溶液を得た。ポリマー溶液の固形分100質量部にイソシアネート系架橋剤(商品名:コロネートL、日本ポリウレタン(株)製)1.0質量部を添加し、よく撹拌して粘着剤組成物を得た。
【0173】
(粘着剤付偏光板1A〜9Aの作製)
上記で作製した偏光板1〜9に粘着剤を塗工した。
上記アクリルポリマー溶液を含有する粘着剤組成物を剥離処理したフィルム上に25μmの粘着剤層を形成し、それを偏光板(セル側保護フィルム上)に転写し、温度23℃、湿度65%の条件で7日間熟成させて粘着剤付偏光板1A〜9Aを作製した。さらにその粘着剤層の上にセパレートフィルムを貼り付けた。セルと反対側の保護フィルム上にはプロテクトフィルムを貼り付けた。
【0174】
[比較例4]
(粘着剤付偏光板10A〜12Aの作製)
偏光板10〜12を用いた以外は実施例4と同様にして粘着剤付偏光板10A〜12Aを作製した。
【0175】
[実施例5]:偏光板の耐久性
上記で作製した粘着剤付偏光板1A〜12Aをガラス板に貼り付けたものを2組用意し、60℃90%RHで1000時間経時させた前後において、島津UV3100分光光度計で平行透過率および直交透過率を測定し、偏光度を算出した。耐久性は以下の基準に従い評価を行った。
【0176】
◎ 偏光度変化量 0%以下、−0.3%より大
○ 偏光度変化量 −0.3%以下、−0.5%より大
△ 偏光度変化量 −0.5%以下、−1.0%より大
× 偏光度変化量 −1.0%以下
結果を表3に示した。本発明にかかるフィルムを用いた偏光板においては熱および湿度、特に、湿度に対する偏光度の変化が小さく、耐久性に優れることが明らかである。
【0177】
[実施例6]:パネルへの実装
(VAパネルへの実装)
VAモードの液晶TV(LC−20C5、シャープ(株)製)の表裏の偏光板および位相差板を剥し、表と裏側に、実施例4および比較例4で作製・調湿した偏光板1A〜12Aおよび視野角補償板のない市販の偏光板(HLC2−5618、サンリッツ(株)製)を、ラミネーターロールを用いて、表4の組み合わせで貼り付けた。
この際、視認側の偏光板の吸収軸をパネル水平方向に、バックライト側の偏光板の吸収軸をパネル鉛直方向となり、粘着材面が液晶セル側となるように配置した。
【0178】
(視野角特性)
測定機(EZ−Contrast 160D、ELDIM社製)を用いて、黒表示(L1)から白表示(L8)までの8段階で視野角(コントラスト比が10以上で黒側の階調反転のない範囲)を測定した。その結果を表4に示した。表4中、左右共に80度以上の良好な視野角の場合を「○」とし、それ以外の場合を「×」とした。
【0179】
【表4】

【0180】
[実施例7]
(リワーク性)
得られた偏光板1A〜12Aを100×100mmサイズに打ち抜き、ガラス基盤に貼合した。4角の1カ所から偏光板をガラス基盤から少し剥離し、剥離した偏光板を掴みガラス基盤を押さえながら対角方向に剥離した。同様の操作を計10枚のサンプルで実施し、以下の基準に従い評価を行った。
【0181】
◎:10枚とも完全に剥離できた
○:1枚のみ部分的に剥離残りが生じた
△:2〜5枚で剥離のこりが生じた
×:6枚以上剥離のこりが生じた
結果を表3に示す。本発明にかかるフィルムを用いた偏光板においてはリワーク性が改良されていることが明らかである。
【0182】
表3および表4の結果から、本発明にかかるフィルムを用いた偏光板においては、リワーク性に優れるだけでなく、熱および湿度に対する偏光度の変化が小さく、耐久性に優れた偏光板であることわかる。
【産業上の利用可能性】
【0183】
本発明では、使用環境の湿度の変化に対して、ReおよびRthの変動が十分に小さいセルロースアシレートフィルムを提供することが可能になった。すなわち、本発明のセルロースアシレートフィルムは、偏光板用保護フィルム、光学補償フィルムとして好ましく用いることができる。
また、本発明の偏光板は、リワーク性および耐久性に優れている。
従って、本発明は、使用環境の湿度の変化に対して、色ずれ、色味、光漏れの変動が十分に小さい液晶表示装置を提供することが可能になる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
60℃・相対湿度90%の条件下に120時間静置した場合の機械方向寸度変化率S(MD)と機械幅方向寸度変化率S(TD)のいずれか一方が−10%〜−0.5%を示すことを特徴とするセルロースアシレートフィルムであって、セルロースアシレートは、該セルロースアシレートを構成するグルコース単位の水酸基をアシル基で置換して得られたものであり、該グルコース単位の水酸基のアシル基全置換度をDSとしたときに、下記式(A)を満たすことを特徴とするセルロースアシレートフィルム。
式(A):2.0≦DS≦2.7
【請求項2】
80℃・相対湿度10%の条件下に120時間静置した場合の機械方向寸度変化率S(MD)と機械幅方向寸度変化率S(TD)のいずれか一方が−10%〜−0.5%を示すことを特徴とするセルロースアシレートフィルムであって、セルロースアシレートは、該セルロースアシレートを構成するグルコース単位の水酸基をアシル基で置換して得られたものであり、該グルコース単位の水酸基のアシル基全置換度をDSとしたときに、下記式(A)を満たすことを特徴とするセルロースアシレートフィルム。
式(A):2.0≦DS≦2.7
【請求項3】
波長590nmにおける正面レターデーション値Re(590)および波長590nmにおける膜厚方向のレターデーション値Rth(590)が、下記数式(I)および(II)を満たすことを特徴とする請求項1または2に記載のセルロースアシレートフィルム。
数式(I) 20nm≦Re(590)≦200nm
数式(II) 70nm≦Rth(590)≦400nm
【請求項4】
前記Re(590)の値と前記Rth(590)の値との比(Re(590)/Rth(590)比)が0.1〜0.8であることを特徴とする請求項3に記載のセルロースアシレートフィルム。
【請求項5】
前記アシル基がアセチル基であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載のセルロースアシレートフィルム。
【請求項6】
前記セルロースアシレートフィルムは延伸してなるフィルムであり、延伸後の延伸方向の寸度変化率を延伸方向と直交する方向の寸度変化率で割った値、延伸方向/直交方向の変形比(AR)が、1.1〜2.0倍である、請求項1〜5のいずれか1項に記載のセルロースアシレートフィルム。
【請求項7】
可塑剤、紫外線吸収剤、剥離促進剤、染料およびマット剤のうち1種以上を含有していることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載のセルロースアシレートフィルム。
【請求項8】
レターデーション調整剤を1種以上含有していることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載のセルロースアシレートフィルム。
【請求項9】
前記セルロースアシレートフィルムが、偏光板用保護フィルムに用いられることを特徴とする、請求項1〜8のいずれか1項に記載のセルロースアシレートフィルム。
【請求項10】
偏光子の少なくとも片側に保護フィルムを有する偏光板であって、60℃・相対湿度90%の条件下に120時間静置した場合の偏光板の機械方向寸度変化率S(MD)と機械幅方向寸度変化率S(TD)のいずれか一方が−10%〜−1.0%を示すことを特徴とする偏光板。
【請求項11】
偏光子の少なくとも片側に保護フィルムを有する偏光板であって、80℃・相対湿度10%の条件下に120時間静置した場合の偏光板の機械方向寸度変化率S(MD)と機械幅方向寸度変化率S(TD)のいずれか一方が−10%〜−1.0%を示すことを特徴とする偏光板。
【請求項12】
前記保護フィルムが、請求項1〜9のいずれか1項に記載のセルロースアシレートフィルムである、請求項10または11に記載の偏光板。
【請求項13】
偏光子の少なくとも片側に保護フィルムを有する偏光板であって、前記保護フィルムが請求項1〜9のいずれか1項に記載のセルロースアシレートフィルムであることを特徴とする偏光板。
【請求項14】
請求項10〜13のいずれか1項に記載の偏光板の前記片側の保護フィルム側に、さらに、位相差膜を有することを特徴とする偏光板。
【請求項15】
請求項10〜14のいずれか1項に記載の偏光板を有する液晶表示装置。
【請求項16】
請求項14に記載の偏光板を、粘着剤により液晶セルに貼着することにより、前記片側の保護フィルムが液晶セル側に配置されることを特徴とする液晶表示装置。
【請求項17】
前記液晶表示装置がVAモードである、請求項15または16に記載の液晶表示装置。

【公開番号】特開2009−249386(P2009−249386A)
【公開日】平成21年10月29日(2009.10.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−94574(P2008−94574)
【出願日】平成20年4月1日(2008.4.1)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】