説明

セルロースアシレートフィルム、偏光板および液晶表示装置

【課題】フラット分散または逆分散性を有し、低へイズであり、高い光学発現性を有し、かつ安価なフィルム材料を用いたセルロースアシレートフィルムの提供。
【解決手段】総アシル置換度が2.00〜2.70のセルロースアシレートと、芳香族ジカルボン酸残基および脂肪族ジオール残基を含む少なくとも一種の重縮合エステルとを含有し、前記重縮合エステル中の全てのジカルボン酸残基に対する芳香族ジカルボン酸残基の割合が60モル%以上であり、かつ、前記重縮合エステルの両末端がそれぞれ独立に−OH基、−O−C(=O)−R1基、−C(=O)−O−R2基、−O−R3基および−COOH基からなる群(但し、前記R1〜R3はそれぞれ独立に脂肪族基を表す)から選ばれるいずれか1つであることを特徴とするセルロースアシレートフィルム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セルロースアシレートフィルム、偏光板および液晶表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ハロゲン化銀写真感光材料、位相差フィルム、偏光板及び画像表示装置には、セルロースアシレート、ポリエステル、ポリカーボネート、シクロオレフィンポリマー、ビニルポリマー、及び、ポリイミド等に代表されるポリマーフィルムが用いられている。これらのポリマーからは、平面性や均一性の点でより優れたフィルムを製造することができるため、光学用途のフィルムとして広く採用されている。例えば、適切な透湿度を有するセルロースアシレートフィルムは、最も一般的なポリビニルアルコール(PVA)/ヨウ素からなる偏光子とオンラインで直接貼り合わせることが可能である。そのため、セルロースアシレート、特にセルロースアセテートは偏光板の保護フィルムとして広く採用されている。
【0003】
セルロースアシレートフィルムを、位相差フィルム、位相差フィルムの支持体、偏光板の保護フィルム、及び液晶表示装置のような光学用途に使用する場合、その光学異方性の制御は、液晶表示装置の性能を決定する上で非常に重要な要素となる。液晶表示装置において、視野角の拡大、画像着色の改良、及びコントラストの向上のため光学補償フィルムを使用することは広く知られた技術である。最も普及しているVA(Vertically Aligned)モード(垂直配向モード)、TN(Twisted Nematic)モード等では特に光学特性(例えばRe値及びRth値)を所望の値に制御できる位相差フィルムが求められている。
【0004】
セルロースアシレートフィルムをこのような光学用途に応用する場合、近年ではセルロースアシレートフィルムの様々な特性を改善する観点から、ポリエステル系の可塑剤を添加したセルロースアシレートフィルムが用いられている。例えば、特許文献1には、両末端が芳香族末端であるポリエステル(詳しくは、両末端の水酸基が芳香族アシル基で置換された重縮合エステル)を添加剤として用いたセルロースアシレートフィルムが開示されている。このような構成によって同文献に記載のセルロースアシレートフィルムは湿度依存性を改良することができると記載されているが、光学発現性や波長分散については言及がなく、そもそも光学発現性を高める目的として使用を想定していない上、ヘイズについても検討されていなかった。重縮合エステルの構造としては、芳香族カルボン酸残基を一部に含む態様が開示されているものの、重縮合エステル中における芳香族カルボン酸残基の好ましい割合については検討されておらず、芳香族カルボン酸残基の奏する効果に関する記載もなかった。また、重縮合エステルの両末端が芳香族アシル基置換以外の重縮合エステルについても検討されておらず、重縮合エステルの両末端が芳香族アシル基置換以外の場合に奏する効果に関する記載もなかった。
【0005】
一方、特許文献2には、脂肪族ジカルボン酸と芳香族ジカルボン酸を含むエステルオリゴマー(重縮合エステル)を高分子量可塑剤として用いたセルロースアシレートフィルムが開示されている。このような構成によって同文献に記載のセルロースアシレートフィルムはレターデーションの発現性を調整でき、透湿度を低減化させ、優れた環境耐久性を有すると記載されている。しかしながら、同文献では波長分散について検討されておらず、また、実施例ではほとんどレターデーションを大きく発現させた例は開示されていなかった。重縮合エステルの構造としては、芳香族カルボン酸を多く含む態様が可塑剤PP−18等としてわずかに開示されているものの、重縮合エステル中における芳香族カルボン酸残基の好ましい割合については検討されておらず、同文献[0033]によれば芳香族カルボン酸残基の割合による影響に関しても言及はなかった。さらに、実施例では高アシル置換度のセルロースアシレートと芳香族カルボン酸を多く含む重縮合エステルを組み合わせて用いている態様が開示されているが、その他の実施例と同程度の評価であった。また、重縮合エステルの両末端はフリーなカルボン酸類を含有させないためにモノカルボン酸類やフェノール類などで封止されていることが好ましいとされており、同文献[0039]や[0041]によれば特に芳香族基による封止とその他の封止態様のいずれの態様が好ましいかや、これらの態様の違いにより得られる効果に関する記載もなかった。
【0006】
近年、VAモード用フィルムには、液晶表示装置に組み込んだときの色味改善およびコントラスト向上の観点から、フラット分散または逆分散性を有し、低へイズであることが求められている。また、同時に薄膜化によるコストダウンを達成する観点から高い光学発現性を有していること、およびフィルム自体のコストダウンを達成する観点から安価なフィルム材料を用いることが求められている。しかしながら、特許文献1および2に記載のセルロースアシレートフィルムを含め、これらの要求を同時に達成したフィルムは依然として知られていないのが実情であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】国際公開WO2006/121026号公報
【特許文献2】特開2009−155454号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明者らが特許文献1および2に記載の重縮合エステルを用い、これらの文献に記載のセルロースアシレートフィルムの特性を検討した。しかしながら、いずれのセルロースアシレートフィルムもフラット分散または逆分散性、低へイズ化、高い光学発現性および安価なフィルム材料を用いることを同時に達成できておらず、特に逆分散性と低へイズ性を維持しつつ、光学発現性を高める点において不満が残るものであり、さらなる詳細な検討が求められていることが分かった。
【0009】
本発明の目的は、上記の要求を全て満たすセルロースアシレートフィルムを提供することにある。すなわち、本発明が解決しようとする課題は、フラット分散または逆分散性を有し、低へイズであり、高い光学発現性を有し、かつ安価なフィルム材料を用いたセルロースアシレートフィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記の課題を解決するために、セルロースアシレートに添加する重縮合エステルの構造を詳細に制御することを鋭意検討した。その結果、重縮合エステル中の各残基の割合や両末端の構造を制御し、かつ、該特定の重縮合エステルを、特定の範囲の総アシル置換度のセルロースアシレートと組み合わせて用いることで、フラット分散または逆分散性を維持しつつ、低ヘイズ化でき、かつ光学発現性を高く発現させた安価なセルロースアシレートフィルムを得ることができることを見出すに至った。本発明者らは鋭意検討の結果、上記課題は以下の構成によって解決されることを見出した。
【0011】
[1] 総アシル置換度が2.00〜2.70のセルロースアシレートと、芳香族ジカルボン酸残基および脂肪族ジオール残基を含む少なくとも一種の重縮合エステルとを含有し、前記重縮合エステル中の全てのジカルボン酸残基に対する芳香族ジカルボン酸残基の割合が60モル%以上であり、かつ、前記重縮合エステルの両末端がそれぞれ独立に−OH基、−O−C(=O)−R1基、−C(=O)−O−R2基、−O−R3基および−COOH基からなる群(但し、前記R1〜R3はそれぞれ独立に脂肪族基を表す)から選ばれるいずれか1つであることを特徴とするセルロースアシレートフィルム。
[2] 前記重縮合エステルが、全てのジオール残基に対する炭素数3以上の脂肪族ジオール残基の割合が30モル%以上である重縮合エステルであることを特徴とする[1]に記載のセルロースアシレートフィルム。
[3] 前記重縮合エステルの数平均分子量が500〜2000であることを特徴とする[1]または[2]に記載のセルロースアシレートフィルム。
[4] 前記セルロースアシレート100質量部に対する、前記重縮合エステルの含有量が5〜30質量部であることを特徴とする[1]〜[3]のいずれか一項に記載のセルロースアシレートフィルム。
[5] 前記重縮合エステルの両末端がそれぞれ独立に−OH基または−O−C(=O)−R1基(但し、前記R1が複数存在する場合はそれぞれ独立に脂肪族基を表す)であることを特徴とする[1]〜[4]のいずれか一項に記載のセルロースアシレートフィルム。
[6] 溶液流延製膜され、さらに延伸されて得られたことを特徴とする[1]〜[5]のいずれか一項に記載のセルロースアシレートフィルム。
[7] 前記溶液流延製膜が、共流延による同時多層流延製膜、または逐次多層流延製膜であることを特徴とする[6]に記載のセルロースアシレートフィルム。
[8] 前記溶液流延製膜が、単層流延製膜であることを特徴とする[6]に記載のセルロースアシレートフィルム。
[9] 前記延伸が、搬送方向に直交する方向への5%〜100%の倍率の延伸であることを特徴とする[6]〜[8]のいずれか一項に記載のセルロースアシレートフィルム。
[10] 前記延伸が、搬送方向に対して平行な方向と直交する方向への同時または逐次延伸であり、該搬送方向に直交する方向への5%〜100%の倍率の延伸であることを特徴とする[6]〜[8]のいずれか一項に記載のセルロースアシレートフィルム。
[11] 下記式(1)および式(2)を満たすことを特徴とする、[1]〜[10]のいずれか一項に記載のセルロースアシレートフィルム。
式(1):30nm≦|Re(590)|≦100nm
式(2):80nm≦|Rth(590)|≦280nm
(式(1)および(2)中、Re(590)およびRth(590)は、それぞれ25℃、相対湿度60%の環境下において波長590nmの光で測定した面内方向のレターデーション値および厚み方向のレターデーション値を表す。)
[12] 下記式(3)および式(4)を満たすことを特徴とする、[1]〜[11]のいずれか一項に記載のセルロースアシレートフィルム。
式(3):0nm≦Re(630)−Re(440)≦15nm
式(4):0nm≦Rth(630)−Re(440)≦30nm
(式(3)および(4)中、Re(440)およびRth(440)は、それぞれ25℃、相対湿度60%の環境下において波長440nmの光で測定した面内方向のレターデーション値および厚み方向のレターデーション値を表し、Re(630)およびRth(630)は、それぞれ25℃、相対湿度60%の環境下において波長630nmの光で測定した面内方向のレターデーション値および厚み方向のレターデーション値を表す。)
[13] 全へイズが0.5%以下であり、内部へイズが0.1%以下であることを特徴とする[1]〜[12]のいずれか一項に記載のセルロースアシレートフィルム。
[14] 膜厚が30〜70μmであることを特徴とする[1]〜[13]のいずれか一項に記載のセルロースアシレートフィルム。
[15] 下記式(5)を満たすことを特徴とする、[1]〜[14]のいずれか一項に記載のセルロースアシレートフィルム。
式(5):2.5×10-3 ≦ |Rth(590)|/d
(式(5)中、Rth(590)は、25℃、相対湿度60%の環境下において波長590nmの光で測定した厚み方向のレターデーション値を表し、dはフィルムの膜厚を表す。)
[16] 偏光子と、少なくとも1枚の[1]〜[15]のいずれか一項に記載のセルロースアシレートフィルムとを含むことを特徴とする偏光板。
[17] 液晶セルと、少なくとも1枚の[1]〜[15]のいずれか一項に記載のセルロースアシレートフィルムまたは少なくとも1枚の[16]に記載の偏光板を含むことを特徴とする液晶表示装置。
[18] 前記液晶セルが、VAモードの液晶セルであることを特徴とする[17]に記載の液晶表示装置。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、フラット分散または逆分散性を有し、低へイズであり、高い光学発現性を有し、かつ安価なフィルム材料を用いたセルロースアシレートフィルムを提供することができる。また、本発明のセルロースアシレートフィルムを用いることにより、色味が改善され、コントラストが良好な安価な液晶表示装置および該液晶表示装置に用いられる偏光板を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の位相差フィルムの製造方法の一例を説明するための断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下において、本発明のセルロースアシレートフィルムやその製造方法、それに用いる添加剤などについて詳細に説明する。以下に記載する構成要件の説明は、本発明の代表的な実施態様に基づいてなされることがあるが、本発明はそのような実施態様に限定されるものではない。なお、本明細書において「〜」を用いて表される数値範囲は、「〜」の前後に記載される数値を下限値および上限値として含む範囲を意味する。
【0015】
[セルロースアシレートフィルム]
本発明のセルロースアシレートフィルム(以下、本発明のフィルムとも言う)は、総アシル置換度が2.00〜2.70のセルロースアシレートと、芳香族ジカルボン酸残基および脂肪族ジオール残基を含む少なくとも一種の重縮合エステルとを含有し、前記重縮合エステル中の全てのジカルボン酸残基に対する芳香族ジカルボン酸残基の割合が60モル%以上であり、かつ、前記重縮合エステルの両末端がそれぞれ独立に−OH基、−O−C(=O)−R1基、−C(=O)−O−R2基、−O−R3基および−COOH基からなる群(但し、前記R1〜R3はそれぞれ独立に脂肪族基を表す)から選ばれるいずれか1つであることを特徴とする。
以下、本発明のフィルムについて説明する。
【0016】
〔重縮合エステル〕
本発明のフィルムは、芳香族ジカルボン酸残基および脂肪族ジオール残基を含む少なくとも一種の重縮合エステルを含有する。また、本発明に用いられる前記重縮合エステル中の全てのジカルボン酸残基に対する芳香族ジカルボン酸残基の割合が60モル%以上であり、かつ、前記重縮合エステルの両末端がそれぞれ独立に−OH基、−O−C(=O)−R1基、−C(=O)−O−R2基、−O−R3基および−COOH基からなる群(但し、前記R1〜R3はそれぞれ独立に脂肪族基を表す)から選ばれるいずれか1つである。
【0017】
本明細書中において、重縮合エステルの残基とは、重縮合エステルの部分構造であって、重縮合エステルを形成している単量体の特徴を有する部分構造を表す。例えばジカルボン酸HOOC−R−COOHより形成されるジカルボン酸残基は−OC−R−CO−であり、ジオールHO−R’−OHより形成されるジオール残基は−O−R’−O−である。
【0018】
(ジカルボン酸残基)
前記重縮合エステルには、ジカルボン酸残基として芳香族ジカルボン酸残基および脂肪族ジカルボン酸残基を用いることができる。
本発明に用いる前記重縮合エステルは、少なくとも1種の芳香族ジカルボン酸残基を含む。
また、本発明に用いる重縮合エステル中の全てのジカルボン酸残基に対する芳香族ジカルボン酸残基の割合が60モル%以上である。
本発明に用いる重縮合エステル中の全てのジカルボン酸残基に対する芳香族ジカルボン酸残基の割合(以下、芳香族ジカルボン酸残基比率または芳香族ジカルボン酸比率とも言う)は60モル%以上であり、70モル%以上であることが好ましく、80モル%〜100モル%であることがより好ましく、90モル%〜100モル%であることが特に好ましい。
前記芳香族ジカルボン酸残基比率を60モル%以上とすることで、膜厚が薄くとも十分な光学発現性を示し(特に、膜厚あたりのRthの値が大きく)、かつ波長分散がフラット分散または逆分散であるセルロースアシレートフィルムを得られる傾向にある。
【0019】
本明細書中、前記芳香族ジカルボン酸残基とは、少なくとも1つのアリーレン基を含むジカルボン酸残基のことを言う。すなわち、本明細書中における前記芳香族ジカルボン酸残基には、−OC−Ar−CO−残基の他に、例えば、−OC−Ar’−L−CO−や、−OC−L’−Ar’’−CO−や、−OC−L’’−Ar’’’−L’’−CO−等の構造を有するジカルボン酸残基(前記Ar、Ar’、Ar’’およびAr’’’はそれぞれ独立にアリーレン基を表し、前記L、L’およびL’’はそれぞれ独立にアリーレン基以外の2価の連結基を表す)も含まれる。前記アリーレン基以外の2価の連結基としては、例えば、脂肪族基や原子連結基などを挙げることができ、具体的にはアルキレン基、アルキレンオキシ基、酸素原子、硫黄原子などを挙げることができる。
その中でも、前記芳香族ジカルボン酸残基は、セルロースアシレートとの相溶性の観点から、−OC−Ar−CO−残基の構造であることが好ましい。
【0020】
前記Arは、炭素数6〜16のアリーレン基であることが好ましく、炭素数6〜12のアリーレン基であることがより好ましく、フェニレン基またはナフチレン基であることが特に好ましく、フェニレン基であることがより特に好ましい。また、前記Arはさらに置換基を有していても、有していなくてもよいが、置換基を有していないことが好ましく、該置換基としては、例えば、ヒドロキシル基、アシル基、カルボニル基などを挙げることができる。
【0021】
前記芳香族ジカルボン酸残基の具体例としては、フタル酸残基、テレフタル酸残基、イソフタル酸残基、1,5−ナフタレンジカルボン酸残基、1,4−ナフタレンジカルボン酸残基、1,8−ナフタレンジカルボン酸残基、2,8−ナフタレンジカルボン酸残基又は2,6−ナフタレンジカルボン酸残基等を挙げることができる。これらの例の中でもフタル酸残基、テレフタル酸残基、2,6−ナフタレンジカルボン酸残基が好ましく、フタル酸残基およびテレフタル酸残基がより好ましく、テレフタル酸残基がさらに好ましい。
前記重縮合エステルには、混合に用いた芳香族ジカルボン酸により芳香族ジカルボン酸残基が形成される。
前記重縮合エステルが、芳香族ジカルボン酸残基としてテレフタル酸残基を含む場合、よりセルロースアシレートとの相溶性に優れ、セルロースアシレートフィルムの製膜時及び加熱延伸時においてもブリードアウトを生じにくいセルロースアシレートフィルムとすることができる。
【0022】
また、前記重縮合エステル中には芳香族ジカルボン酸残基が1種のみ含まれていても、2種以上含まれていてもよい。前記重縮合エステル中に、芳香族ジカルボン酸残基が2種含まれる場合は、フタル酸残基とテレフタル酸残基が含まれていることが好ましい。
【0023】
前記重縮合エステルは、ジカルボン酸残基として、芳香族ジカルボン酸残基の他に脂肪族ジカルボン酸残基を含んでいてもよい。
前記脂肪族ジカルボン酸残基の具体例としては、例えば、シュウ酸残基、マロン酸残基、コハク酸残基、マレイン酸残基、フマル酸残基、グルタル酸残基、アジピン酸残基、ピメリン酸残基、スベリン酸残基、アゼライン酸残基、セバシン酸残基、ドデカンジカルボン酸残基または1,4−シクロヘキサンジカルボン酸残基等が挙げられる。
前記重縮合エステルには、混合に用いた脂肪族ジカルボン酸より脂肪族ジカルボン酸残基が形成される。
前記脂肪族ジカルボン酸残基は、平均炭素数が5.5〜10.0であることが好ましく、5.5〜8.0であることがより好ましく、5.5〜7.0であることがさらに好ましい。脂肪族ジオールの平均炭素数が7.0以下であれば化合物の加熱減量が低減でき、セルロースアシレートウェブ乾燥時のブリードアウトによる工程汚染が原因と考えられる面状故障の発生を防ぐことができる。また、脂肪族ジオールの平均炭素数が2.5以上であれば相溶性に優れ、重縮合エステルの析出が起き難く好ましい。
具体的には、前記重合性エステルは、前記脂肪族ジカルボン酸残基を含む場合はコハク酸残基またはアジピン酸残基を含むことが好ましく、コハク酸残基を有することがより好ましい。
前記重縮合エステル中には、脂肪族ジカルボン酸残基が1種のみ含まれていても、2種以上を含まれていてもよい。前記重縮合エステル中に、脂肪族ジカルボン酸残基が2種含まれる場合は、コハク酸残基とアジピン酸残基が含まれていることが好ましい。前記重縮合エステル中に、脂肪族ジカルボン酸残基が1種含まれる場合は、コハク酸残基が含まれていることが好ましい。このような態様とすることで、ジオール残基の平均炭素数を前記好ましい範囲に調整することができ、セルロースアシレートとの相溶性が良好となる。
【0024】
(ジオール残基)
前記重縮合エステルには、ジオール残基として芳香族ジオール残基および脂肪族ジオール残基を用いることができる。
本発明に用いる前記重縮合エステルは、ジオール残基として、少なくとも1種の脂肪族ジオール残基を含む。
【0025】
本発明に用いられる脂肪族ジオールとしては、アルキルジオール又は脂環式ジオール類を挙げることができ、例えばエチレングリコール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、2−メチル−1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、2,2−ジメチル−1,3−プロパンジオール(ネオペンチルグリコール)、2,2−ジエチル−1,3−プロパンジオール(3,3−ジメチロ−ルペンタン)、2−n−ブチル−2−エチル−1,3−プロパンジオール(3,3−ジメチロールヘプタン)、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオール、2−エチル−1,3−ヘキサンジオール、2−メチル−1,8−オクタンジオール、1,9−ノナンジオール、1,10−デカンジオール、1,12−オクタデカンジオール、ジエチレングリコール、シクロヘキサンジメタノール等があり、これらはエチレングリコールとともに1種又は2種以上の混合物として使用されることが好ましい。
【0026】
その中でも、本発明では、前記重縮合エステルが、全てのジオール残基に対する炭素数3以上の脂肪族ジオール残基の割合(以下、炭素数3以上の脂肪族ジオール比率とも言う)が、30モル%以上である重縮合エステルであることがセルロースアシレートと重縮合エステルとの相溶性の向上や、重縮合エステルの溶媒への溶解性向上の観点から好ましい。
前記炭素数3以上の脂肪族ジオール比率は、30モル%以上であることがより好ましく、50〜80モル%であることが特に好ましい。
【0027】
前記炭素数3以上の脂肪族ジオール残基としては、1,2−プロパンジオール残基、1,3−プロパンジオール残基、1,2−ブタンジオール残基、1,3−ブタンジオール残基、2−メチル−1,3−プロパンジオール残基、1,4−ブタンジオール残基、1,5−ペンタンジオール残基、2,2―ジメチル1,3−プロパンジオール(ネオペンチルグリコール)残基、1,4−ヘキサンジオール残基、1,4−シクロヘキサンジオール残基などを挙げることができる。その中でも本発明で好ましく用いられる炭素数3以上の脂肪族ジオール残基としては、1,2−プロパンジオール残基、1,3−プロパンジオール残基、1,2−ブタンジオール残基、1,3−ブタンジオール残基、2−メチル−1,3−プロパンジオール残基、1,4−ブタンジオール残基、1,5−ペンタンジオール残基、2,2―ジメチル1,3−プロパンジオール(ネオペンチルグリコール)残基の少なくとも1種であり、より好ましくは1,2−プロパンジオール残基、1,3−プロパンジオール残基残基、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール残基、2−メチル−1,3−プロパンジオール残基、1,4−ブタンジオール残基の少なくとも1種であり、特に好ましくは1,2−プロパンジオール残基である。
1,2−プロパンジオール残基、または1,3−プロパンジオール残基を用いることにより重縮合エステルの結晶化を防止することができる。
【0028】
炭素数3以上の脂肪族ジオール以外のジオール残基として、脂肪族ジオール残基を用いる場合は、エチレングリコール残基、などを用いることができる。
前記重縮合エステルには、混合に用いた脂肪族ジオールにより脂肪族ジオール残基が形成される。
【0029】
前記重縮合エステルは、ジオール残基として、脂肪族ジオール残基の他に、芳香族ジオール残基を含んでいてもよい。
前記芳香族ジオール残基の具体例としては、例えば、ビスフェノールA残基、1,2−ヒドロキシベンゼン残基、1,3−ヒドロキシベンゼン残基、1,4−ヒドロキシベンゼン残基、1,4−ベンゼンジメタノール残基等が挙げられる。
【0030】
前記重縮合エステル中には、脂肪族ジオール残基が1種のみ含まれていても、2種以上を含まれていてもよい。前記重縮合エステル中に、脂肪族ジオール残基が2種含まれる場合は、1,2−プロパンジオール残基とエチレングリコール残基が含まれていることが好ましい。
前記重縮合エステルには、混合に用いた芳香族ジオールより芳香族ジオール酸残基が形成される。
【0031】
(重縮合エステルの両末端)
本発明では、前記重縮合エステルの両末端は、それぞれ独立に−OH基、−O−C(=O)−R1基、−C(=O)−O−R2基、−O−R3基および−COOH基からなる群(但し、前記R1〜R3はそれぞれ独立に脂肪族基を表す)から選ばれるいずれか1つである。
【0032】
すなわち、前記重縮合エステルの末端は、上記の規定を満たし、本発明の趣旨に反しない限りにおいて、封止されずにジオール由来の−OH基またはジカルボン酸由来の−COOH基のままであっても、モノカルボン酸類またはモノアルコール類などを反応させていわゆる末端の封止を実施して−O−C(=O)−R1基、−C(=O)−O−R2基および−O−R3基(但し、前記R1〜R3はそれぞれ独立に脂肪族基を表す)としてもよい。
【0033】
前記重縮合エステルの両末端が未封止の場合、両末端が−OH基であることが、両末端が−COOHであるよりもエステル基の加水分解抑制の観点から好ましい。すなわち前記重縮合エステルの両末端が未封止の場合は、前記重縮合エステルがポリエステルポリオールであることが好ましい。
【0034】
前記重縮合エステルの両末端が封止されている場合、両末端が−O−C(=O)−R1基、−C(=O)−O−R2基または−O−R3基であることが好ましい。前記両末端が−O−C(=O)−R1基であることがより好ましく、すなわち、前記重縮合エステルの両末端を、脂肪族モノカルボン酸と反応させて封止することがより好ましい。
このとき、該重縮合エステルの両末端は脂肪族モノカルボン酸残基となっている。
【0035】
ここで、前記R1〜R3はそれぞれ独立して脂肪族基を表す。前記R1〜R3の表す脂肪族基としては、該脂肪族基中に芳香環を含まなければよく、飽和であっても不飽和であってもよい。また、前記R1〜R3の表す脂肪族基は、鎖状の脂肪族基および環状の脂肪族基(例えば、シクロアルキル基類など)のいずれであってもよく、鎖状の脂肪族基である場合は直鎖であっても、分枝であってもよい。前記R1〜R3の表す脂肪族基は、本発明の趣旨に反しない限りにおいてさらに置換基を有していてもよく、該置換基としては芳香環を含まなければ特に制限は無いが、置換基を有さない脂肪族基であることが好ましい。また、前記R1〜R3の表す脂肪族基の炭素数は1〜21であることが好ましく、1〜5であることがより好ましく、1〜3であることが特に好ましく、1または2であることがより特に好ましく、1であることがよりさらに好ましい。
その中でも前記R1〜R3の表す脂肪族基は、鎖状の飽和脂肪族基であることが好ましく、鎖状のアルキル基であることがより好ましく、直鎖アルキル基であることが特に好ましい。
【0036】
すなわち、前記重縮合エステルの両末端が封止されている場合は、前記重縮合エステルの両末端は、炭素数2〜22のアシル基であることが好ましく、炭素数2〜6のアシル基であることがより好ましく、炭素数2〜4のアシル基(すなわち、アセチル基、プロピオニル基またはブチリル基)であることが特に好ましく、炭素数2または3のアシル基(すなわちアセチル基またはプロピオニル基)であることがより特に好ましく、炭素数2のアシル基(すなわちアセチル基)であることがよりさらに好ましい。なお、ここでいうアシル基は、脂肪族アシル基の他、芳香族アシル基(いわゆるアロイル基)を含むが、脂肪族アシル基であることが好ましい。前記重縮合エステルの両末端のアシル基の炭素数が3以下であると、揮発性が低下し、重縮合エステルの加熱による減量が大きくならず、工程汚染の発生や面状故障の発生を低減することが可能である。
この場合、封止に用いるモノカルボン酸類としては炭素数2〜22の脂肪族モノカルボン酸であることが好ましく、炭素数2〜6の脂肪族モノカルボン酸であることがより好ましく、炭素数2〜4の脂肪族モノカルボン酸であることが特に好ましく、炭素数2または3の脂肪族モノカルボン酸であることがより特に好ましく、炭素数2の脂肪族モノカルボン酸残基であることがよりさらに好ましいこととなる。
【0037】
一方、前記重縮合エステルの両末端が封止されている場合、前記重縮合エステルの両末端は−C(=O)−O−R2基、−O−R3基であってもよい。
この場合、封止に用いるモノアルコール類としてはメタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、イソブタノール等が好ましく、メタノールが最も好ましい。
【0038】
前記重縮合エステルの両末端は、セルロースアシレートへの相溶性制御の観点から、それぞれ独立に−OH基または−O−C(=O)−R1基(但し、前記R1が複数存在する場合はそれぞれ独立に脂肪族基を表す)であることがより好ましい。また、前記両末端はともに同じ基であっても、異なる基であってもよいが、ともに同じ基あることが合成の簡便性の観点から好ましい。
前記重縮合エステルの両末端は、−OH基であること、あるいは、酢酸またはプロピオン酸により封止されていることがさらに好ましい。
【0039】
本発明の重縮合エステルの両末端は酢酸封止により両末端がアセチルエステル残基(アセチル残基と称する場合がある)となることが、該重縮合エステルが常温での状態が固体形状となりにくく、セルロースアシレートフィルムのハンドリングが良好となり、また湿度安定性、偏光板耐久性に優れたセルロースアシレートフィルムを得ることができる観点から好ましい。
【0040】
(重縮合エステルの分子量)
前記重縮合エステルの数平均分子量は500〜2000であることが好ましく、700〜1500であることがより好ましく、700〜1200であることが特に好ましい。重縮合エステルの数平均分子量は500以上であることが、光学発現性向上の観点から好ましい。また、2000以下であればセルロースアシレートとの相溶性が高くなり、製膜時及び加熱延伸時のブリードアウトが生じにくくなる。
本発明の重縮合エステルの数平均分子量はゲルパーミエーションクロマトグラフィーによって測定、評価することができる。また、末端が封止のないポリエステルポリオールの場合、重量あたりの水酸基の量(以下、水酸基価)により算出することもできる。水酸基価は、ポリエステルポリオールをアセチル化した後、過剰の酢酸の中和に必要な水酸化カリウムの量(mg)を測定する。
なお、本発明に係る重縮合エステルは、可塑剤として用いることができる。
【0041】
(重縮合エステルの含有量)
本発明のセルロースアシレートフィルムにおける、セルロースアシレート100質量部に対する前記重縮合エステルの含有量は、5〜30質量部であることが好ましく、8〜30質量%であることがさらに好ましく、10〜25質量%であることが最も好ましい。
【0042】
本発明で使用される前記重縮合エステルに含まれるジカルボン酸残基、ジオール残基、各残基の種類及び比率はH−NMRを用いて通常の方法で測定することができる。通常、重クロロホルムを溶媒として用いることができる。
前記重縮合エステルの数平均分子量はGPC(Gel Permeation Chromatography)を用いて通常の方法で測定することができ、通常、ポリスチレンを標準資料として用いることができる。
前記重縮合エステルの水酸基価の測定は、日本工業規格 JIS K3342(廃止)に記載の無水酢酸法当を適用できる。重縮合体がポリエステルポリオールである場合は、水酸基価が50〜190であることが好ましく、50〜130であることがさらに好ましい。
【0043】
以下の表1に本発明にかかる重縮合エステルの具体例および本発明の範囲外の重縮合エステルの具体例を記すが、本発明は以下の具体例に限定されるものではない。
【0044】
【表1】

【0045】
(重縮合エステルの合成方法)
本発明に用いる前記重縮合エステルの合成は、常法によりジオールとジカルボン酸とのポリエステル化反応またはエステル交換反応による熱溶融縮合法か、あるいはこれら酸の酸クロライドとグリコール類との界面縮合法のいずれかの方法によっても容易に合成し得るものである。また、本発明に係る重縮合エステルについては、村井孝一編者「可塑剤 その理論と応用」(株式会社幸書房、昭和48年3月1日初版第1版発行)に詳細な記載がある。また、特開平05−155809号、特開平05−155810号、特開平5−197073号、特開2006−259494号、特開平07−330670号、特開2006−342227号、特開2007−003679号各公報などに記載されている素材を利用することもできる。
【0046】
〔セルロースアシレート〕
本発明のセルロースアシレートフィルムは、総アシル置換度が2.00〜2.70のセルロースアシレートを含む。
本発明のセルロースアシレートフィルムに含まれるフィルム材料としては、セルロースエステル類を挙げることができ、前記セルロースアシレートおよびその他セルロースを原料として生物的或いは化学的に官能基を導入して得られるエステル置換セルロース骨格を有する化合物が挙げられる。なお、本発明のセルロースアシレートフィルムは、主成分として前記セルロースアシレートを含むことが好ましい。ここで、「主成分として」とは、単一のポリマーからなる場合には、そのポリマーのことを示し、複数のポリマーからなる場合には、構成するポリマーのうち、最も質量分率の高いポリマーのことを示す。
【0047】
前記セルロースアシレートは、セルロースとカルボン酸のエステルであり、該カルボン酸としては、炭素原子数が2〜22の脂肪酸がさらに好ましく、炭素原子数が2〜4の低級脂肪酸であるセルロースアシレートが最も好ましい。
【0048】
(セルロースアシレート原料)
本発明に用いられるセルロースアシレート原料のセルロースとしては、綿花リンタや木材パルプ(広葉樹パルプ、針葉樹パルプ)などがあり、何れの原料セルロースから得られるセルロースアシレートでも使用でき、場合により混合して使用してもよい。これらの原料セルロースについての詳細な記載は、例えば「プラスチック材料講座(17)繊維素系樹脂」(丸澤、宇田著、日刊工業新聞社、1970年発行)や発明協会公開技報2001−1745(7頁〜8頁)に記載のセルロースを用いることができ、本発明のセルロースアシレートフィルムに対しては特に限定されるものではない。
【0049】
(セルロースアシレートの置換度)
次に上述のセルロースを原料に製造される本発明において好適なセルロースアシレートについて記載する。
【0050】
本発明に用いられるセルロースアシレートはセルロースの水酸基がアシル化されたもので、その置換基はアシル基の炭素数が2のアセチル基から炭素数が22のものまでいずれも用いることができる。本発明においてセルロースアシレートにおける、セルロースの水酸基への置換度の測定については特に限定されないが、セルロースの水酸基に置換する酢酸及び/又は炭素数3〜22の脂肪酸の結合度を測定し、計算によって置換度を得ることができる。測定方法としては、ASTM D−817−91に準じて実施することができる。
【0051】
本発明のセルロースアシレートフィルムは、セルロースアシレートから構成されていることが好ましい。本発明のセルロースアシレートフィルムは、前記セルロースアシレートの総アシル置換度が2.00〜2.70であり、前記総アシル置換度は、2.1〜2.70であることが好ましく、
2.1〜2.60であることがより好ましく、2.2〜2.5であることが特に好ましい。
本発明では、総アシル置換度が2.00〜2.70のセルロースアシレートを、前記重縮合エステルと組み合わせることで、フラット分散または逆分散性を有し、低へイズであり、高い光学発現性を有し、かつ安価なフィルム材料を用いたセルロースアシレートフィルムとすることができ、好ましい。また、セルロースアシレートフィルムの総アシル置換度が前記好ましい範囲であればより光学特性、光学特性の湿度安定性の面で優れるため好ましく、2.60以下であればより低ヘイズ化できる観点から好ましい。
【0052】
セルロースの水酸基に置換する酢酸及び/又は炭素数3〜22の脂肪酸のうち、炭素数2〜22のアシル基としては、脂肪族基でもアリール基でもよく特に限定されず、単一でも2種類以上の混合物でもよい。それらは、例えばセルロースのアルキルカルボニルエステル、アルケニルカルボニルエステル、芳香族カルボニルエステル、又は芳香族アルキルカルボニルエステルなどであり、それぞれさらに置換された基を有していてもよい。これらの好ましいアシル基としては、アセチル基、プロピオニル基、ブタノイル基、へプタノイル基、ヘキサノイル基、オクタノイル基、デカノイル基、ドデカノイル基、トリデカノイル基、テトラデカノイル基、ヘキサデカノイル基、オクタデカノイル基、i−ブタノイル基、t−ブタノイル基、シクロヘキサンカルボニル基、オレオイル基、ベンゾイル基、ナフチルカルボニル基、シンナモイル基などを挙げることができる。これらの中でも、アセチル基、プロピオニル基、ブタノイル基、ドデカノイル基、オクタデカノイル基、t−ブタノイル基、オレオイル基、ベンゾイル基、ナフチルカルボニル基、シンナモイル基などが好ましく、アセチル基、プロピオニル基、ブタノイル基がより好ましい。更に好ましい基はアセチル基、プロピオニルで基あり、最も好ましい基はアセチル基である。
【0053】
一方、前記炭素数3〜22のアシル基としては、プロピオニル基およびブチリル基が好ましく、プロピオニル基がより好ましい。
前記セルロースアシレートがプロピオニル基をともに置換基として有する場合は、前記アセチル基とプロピオニル基は、アセチル基の置換度をXとし、プロピオニル基の置換度をYとしたとき、X+Yの値の好ましい範囲は前記セルロースアシレートの総アシル置換度の好ましい範囲と同様である。また、Yの値は、0〜1.0であることが好ましく、0.2〜1.0であることがより好ましく、0.5〜1.0であることが特に好ましい。
【0054】
本発明で好ましく用いられるセルロースアシレートの重合度は、粘度平均重合度で180〜700であることが好ましく、セルロースアセテートにおいては、180〜550がより好ましく、180〜400が更に好ましく、180〜350が特に好ましい。重合度が該上限値以下であれば、セルロースアシレートのドープ溶液の粘度が高くなりすぎることがなく流延によるフィルム作製が容易にできるので好ましい。重合度が該下限値以上であれば、作製したフィルムの強度が低下するなどの不都合が生じないので好ましい。粘度平均重合度は、宇田らの極限粘度法{宇田和夫、斉藤秀夫、「繊維学会誌」、第18巻第1号、105〜120頁(1962年)}により測定できる。この方法は特開平9−95538号公報にも詳細に記載されている。
【0055】
また、本発明で好ましく用いられるセルロースアシレートの分子量分布は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーによって評価され、その多分散性指数Mw/Mn(Mwは質量平均分子量、Mnは数平均分子量)が小さく、分子量分布が狭いことが好ましい。具体的なMw/Mnの値としては、1.0〜4.0であることが好ましく、2.0〜4.0であることがさらに好ましく、2.3〜3.4であることが最も好ましい。
【0056】
〔添加剤〕
本発明ではセルロースアシレートフィルムの添加剤として、前記重縮合エステル以外の公知の添加剤を広く採用することができる。添加剤の含量は、セルロースアシレートに対して、1〜35質量%であることが好ましく、4〜30質量%であることがより好ましく10〜25質量%であることが特に好ましい。前記添加剤のセルロースアシレートに対する添加量が1質量%以上であれば、温度湿度変化に対応でき、30質量%以下であればフィルムが白化しにくくなり、さらに、物理的特性も好ましい。
ここで、本発明における添加剤とは、本発明の光学フィルムの諸機能の向上等を目的として添加される成分であり、セルロースアシレートに対し、1質量%以上の範囲で含まれている成分をいう。すなわち、不純物や残留溶媒等は、本発明における添加剤ではない。
本発明では、2種類以上の添加剤を用いることができる。2種類以上用いることにより、それぞれの添加剤により、光学特性、フィルム弾性率、フィルム脆性や、ウェブハンドリング適性を両立できるというメリットがある。
【0057】
(低分子量添加剤)
低分子量添加剤としては、Rth制御剤・調整剤、劣化防止剤、紫外線防止剤、剥離促進剤、他の可塑剤、赤外線吸収剤等を挙げることができる。これらは固体でもよく油状物でもよい。すなわち、その融点や沸点において特に限定されるものではない。例えば20℃以下と20℃以上の紫外線吸収材料の混合や、同様に劣化防止剤の混合などである。さらにまた、赤外吸収染料としては例えば特開平2001−194522号公報に記載されている。またその添加する時期はセルロースアシレート溶液(ドープ)作製工程において何れで添加してもよいが、ドープ調製工程の最後の調製工程に添加剤を添加し調製する工程を加えて行ってもよい。さらにまた、各素材の添加量は機能が発現する限りにおいて特に限定されない。
【0058】
本発明のセルロースアシレートフィルムには、劣化防止剤(例えば、酸化防止剤、過酸化物分解剤、ラジカル禁止剤、金属不活性化剤、酸捕獲剤、アミン)を添加してもよい。前記劣化防止剤については、特開平3−199201号、同5−197073号、同5−194789号、同5−271471号、同6−107854号の各公報に記載がある。前記劣化防止剤の添加量は、劣化防止剤添加による効果が発現し、フィルム表面への前記劣化防止剤のブリードアウト(滲み出し)を抑制する観点から、調製する溶液(ドープ)の0.01〜1質量%であることが好ましく、0.01〜0.2質量%であることがさらに好ましい。特に好ましい前記劣化防止剤の例としては、ブチル化ヒドロキシトルエン(BHT)、トリベンジルアミン(TBA)を挙げることができる。
【0059】
本発明のセルロースアシレートフィルムには、機械的物性を改良するため、又は乾燥速度を向上するために、前記重縮合エステル以外の公知の可塑剤を添加することができる。前記可塑剤としては、リン酸エステル又はカルボン酸エステルが用いられる。リン酸エステルの例には、トリフェニルホスフェート(TPP)及びトリクレジルホスフェート(TCP)が含まれる。カルボン酸エステルとしては、フタル酸エステル及びクエン酸エステルが代表的である。フタル酸エステルの例には、ジメチルフタレート(DMP)、ジエチルフタレート(DEP)、ジブチルフタレート(DBP)、ジオクチルフタレート(DOP)、ジフェニルフタレート(DPP)及びジエチルヘキシルフタレート(DEHP)が含まれる。クエン酸エステルの例には、O−アセチルクエン酸トリエチル(OACTE)及びO−アセチルクエン酸トリブチル(OACTB)が含まれる。その他のカルボン酸エステルの例には、オレイン酸ブチル、リシノール酸メチルアセチル、セバシン酸ジブチル、種々のトリメリット酸エステルが含まれる。フタル酸エステル系可塑剤(DMP、DEP、DBP、DOP、DPP、DEHP)が好ましく用いられる。DEP及びDPPが特に好ましい。可塑剤の添加量は、セルロースアシレートの量の0.1〜25質量%であることが好ましく、1〜20質量%であることがさらに好ましく、3〜15質量%であることが最も好ましい。
【0060】
(少なくとも2つの芳香環を有する化合物)
本発明のセルロースアシレートフィルムは、さらに、少なくとも2つの芳香環を有する化合物を含有することが好ましい。
以下に前記少なくとも2つ以上の芳香環を有する化合物について説明する。
前記少なくとも2つ以上の芳香環を有する化合物は一様配向した場合に光学的に正の1軸性を発現することが好ましい。
前記少なくとも2つ以上の芳香環を有する化合物の分子量は、300〜1200であることが好ましく、400〜1000であることがより好ましい。
本発明のセルロースアシレートフィルムを光学補償フィルムとして用いる場合、光学特性とくにReを好ましい値に制御するには、延伸が有効である。Reの上昇はフィルム面内の屈折率異方性を大きくすることが必要であり、一つの方法が延伸によるポリマーフィルムの主鎖配向の向上である。また、屈折率異方性の大きな化合物を添加剤として用いることで、さらにフィルムの屈折率異方性を上昇することが可能である。例えば前記少なくとも2つ以上の芳香環を有する化合物は、延伸によりポリマー主鎖が並ぶ力が伝わることで該化合物の配向性も向上し、所望の光学特性に制御することが容易となる。
【0061】
前記少なくとも2つの芳香環を有する化合物としては、例えば特開2003−344655号公報に記載のトリアジン化合物、特開2002−363343号公報に記載の棒状化合物、特開2005−134884及び特開2007−119737号公報に記載の液晶性化合物等が挙げられる。より好ましくは、上記トリアジン化合物又は棒状化合物である。
前記少なくとも2つの芳香環を有する化合物は2種以上を併用して用いることもできる。
【0062】
前記少なくとも2つの芳香環を有する化合物の添加量は、セルロースアシレートに対して質量比で0.05%〜10%が好ましく、0.5%〜8%がより好ましく、1%〜5%がさらに好ましい。
【0063】
(マット剤微粒子)
本発明のセルロースアシレートフィルムは、マット剤として微粒子を含有することが好ましい。本発明に使用できる微粒子としては、二酸化珪素、二酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、炭酸カルシウム、タルク、クレイ、焼成カオリン、焼成珪酸カルシウム、水和珪酸カルシウム、珪酸アルミニウム、珪酸マグネシウム及びリン酸カルシウムを挙げることができる。微粒子は珪素を含むものが、濁度が低くなる点で好ましく、特に二酸化珪素が好ましい。二酸化珪素の微粒子は、1次平均粒子径が20nm以下であり、かつ見かけ比重が70g/L以上であるものが好ましい。1次粒子の平均径が5〜16nmと小さいものがフィルムのヘイズを下げることができより好ましい。見かけ比重は90〜200g/Lが好ましく、100〜200g/Lがさらに好ましい。見かけ比重が大きい程、高濃度の分散液を作ることが可能になり、ヘイズ、凝集物が良化するため好ましい。望ましい実施態様は、発明協会公開技報(公技番号2001−1745、2001年3月15日発行、発明協会)35頁〜36頁に詳細に記載されており、本発明のセルロースアシレートフィルムにおいても好ましく用いることができる。
【0064】
〔セルロースアシレートフィルムの製造方法〕
本発明のフィルムは、その製造方法に特に制限はないが、溶液流延製膜され、さらに延伸されて得られたことが好ましい。本発明のフィルムの製造方法の好ましい例としては、ドープを支持体上に流延し溶媒を蒸発させてセルロースアシレートフィルムを形成する製膜工程、及びその後当該フィルムを延伸する延伸工程を含む方法を挙げることができる。さらにその後得られたフィルムを乾燥する乾燥工程を有することも好ましく、さらに該乾燥工程終了後、150〜200℃の温度で1分以上熱処理する工程を有することが好ましい。
【0065】
(製膜工程)
本発明のフィルムの製造方法は、公知のセルロースアシレートフィルムを作製する方法等を広く採用でき、ソルベントキャスト法により製造することが好ましい。ソルベントキャスト法では、セルロースアシレートを有機溶媒に溶解した溶液(ドープ)を用いてフィルムを製造することができる。
有機溶媒は、炭素原子数が3〜12のエーテル、炭素原子数が3〜12のケトン、炭素原子数が3〜12のエステル及び炭素原子数が1〜6のハロゲン化炭化水素から選ばれる溶媒を含むことが好ましい。エーテル、ケトン及びエステルは、環状構造を有していてもよい。エーテル、ケトン及びエステルの官能基(すなわち、−O−、−CO−及びCOO−)のいずれかを2つ以上有する化合物も、有機溶媒として用いることができる。有機溶媒は、アルコール性水酸基のような他の官能基を有していてもよい。2種類以上の官能基を有する有機溶媒の場合、その炭素原子数は、いずれかの官能基を有する化合物の規定範囲内であればよい。
【0066】
炭素原子数が3〜12のエーテル類の例には、ジイソプロピルエーテル、ジメトキシメタン、ジメトキシエタン、1,4−ジオキサン、1,3−ジオキソラン、テトラヒドロフラン、アニソール及びフェネトールが含まれる。
炭素原子数が3〜12のケトン類の例には、アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、ジイソブチルケトン、シクロヘキサノン及びメチルシクロヘキサノンが含まれる。
炭素原子数が3〜12のエステル類の例には、エチルホルメート、プロピルホルメート、ペンチルホルメート、メチルアセテート、エチルアセテート及びペンチルアセテートが含まれる。
2種類以上の官能基を有する有機溶媒の例には、2−エトキシエチルアセテート、2−メトキシエタノール及び2−ブトキシエタノールが含まれる。
ハロゲン化炭化水素の炭素原子数は、1又は2であることが好ましく、1であることが最も好ましい。ハロゲン化炭化水素のハロゲンは、塩素であることが好ましい。ハロゲン化炭化水素の水素原子が、ハロゲンに置換されている割合は、25〜75モル%であることが好ましく、30〜70モル%であることがより好ましく、35〜65モル%であることがさらに好ましく、40〜60モル%であることが最も好ましい。メチレンクロリドが、代表的なハロゲン化炭化水素である。
2種類以上の有機溶媒を混合して用いてもよい。
【0067】
一般的な方法でセルロースアシレート溶液を調製できる。一般的な方法とは、0℃以上の温度(常温又は高温)で、処理することを意味する。溶液の調製は、通常のソルベントキャスト法におけるドープの調製方法及び装置を用いて実施することができる。なお、一般的な方法の場合は、有機溶媒としてハロゲン化炭化水素(特に、メチレンクロリド)を用いることが好ましい。
セルロースアシレートの量は、得られる溶液中に10〜40質量%含まれるように調整する。セルロースアシレートの量は、10〜30質量%であることがさらに好ましい。有機溶媒(主溶媒)中には、後述する任意の添加剤を添加しておいてもよい。
溶液は、常温(0〜40℃)でセルロースアシレートと有機溶媒とを攪拌することにより調製することができる。高濃度の溶液は、加圧及び加熱条件下で攪拌してもよい。具体的には、セルロースアシレートと有機溶媒とを加圧容器に入れて密閉し、加圧下で溶媒の常温における沸点以上、かつ溶媒が沸騰しない範囲の温度に加熱しながら攪拌する。加熱温度は、通常は40℃以上であり、好ましくは60〜200℃であり、さらに好ましくは80〜110℃である。
【0068】
各成分は予め粗混合してから容器に入れてもよい。また、順次容器に投入してもよい。容器は攪拌できるように構成されている必要がある。窒素ガス等の不活性気体を注入して容器を加圧することができる。また、加熱による溶媒の蒸気圧の上昇を利用してもよい。あるいは、容器を密閉後、各成分を圧力下で添加してもよい。
加熱する場合、容器の外部より加熱することが好ましい。例えば、ジャケットタイプの加熱装置を用いることができる。また、容器の外部にプレートヒーターを設け、配管して液体を循環させることにより容器全体を加熱することもできる。
容器内部に攪拌翼を設けて、これを用いて攪拌することが好ましい。攪拌翼は、容器の壁付近に達する長さのものが好ましい。攪拌翼の末端には、容器の壁の液膜を更新するため、掻取翼を設けることが好ましい。
容器には、圧力計、温度計等の計器類を設置してもよい。容器内で各成分を溶媒中に溶解する。調製したドープは冷却後容器から取り出すか、あるいは、取り出した後、熱交換器等を用いて冷却する。
【0069】
調製したセルロースアシレート溶液(ドープ)から、ソルベントキャスト法によりセルロースアシレテートフィルムを製造することができる。
ドープは、ドラム又はバンド上に流延し、溶媒を蒸発させてフィルムを形成する。流延前のドープは、固形分量が18〜35質量%となるように濃度を調整することが好ましい。ドラム又はバンドの表面は、鏡面状態に仕上げておくことが好ましい。ソルベントキャスト法における流延及び乾燥方法については、米国特許2336310号、同2367603号、同2492078号、同2492977号、同2492978号、同2607704号、同2739069号、同2739070号、英国特許640731号、同736892号の各明細書、特公昭45−4554号、同49−5614号、特開昭60−176834号、同60−203430号、同62−115035号の各公報に記載がある。
【0070】
ドープは、表面温度が10℃以下のドラム又はバンド上に流延することが好ましい。流延してから2秒以上風に当てて乾燥することが好ましい。得られたフィルムをドラム又はバンドから剥ぎ取り、さらに100℃から160℃まで逐次温度を変えた高温風で乾燥して残留溶媒を蒸発させることもできる。以上の方法は、特公平5−17844号公報に記載がある。この方法によると、流延から剥ぎ取りまでの時間を短縮することが可能である。この方法を実施するためには、流延時のドラム又はバンドの表面温度においてドープがゲル化することが必要である。
【0071】
(共流延)
本発明のセルロースアシレートフィルムは、溶液流延製膜方法により製膜した後、延伸することにより製造したものであることが好ましい。
また、本発明のセルロースアシレートフィルムは、前記溶液流延製膜が共流延による同時多層流延製膜、または逐次多層流延製膜であることが好ましい。所望のレターデーション値を有するフィルムとすることができるためである。一方、場合により、前記溶液流延製膜が、単層流延製膜であることも、薄膜化の観点からは好ましい。
すなわち、本発明では得られたセルロースアシレート溶液を、金属支持体としての平滑なバンド上或いはドラム上に単層液として流延してもよいし、2層以上の複数のセルロースアシレート液を流延してもよい。複数のセルロースアシレート溶液を流延する場合、金属支持体の進行方向に間隔を置いて設けた複数の流延口からセルロースアシレートを含む溶液をそれぞれ流延させて積層させながらフィルムを作製してもよく、例えば特開昭61−158414号、特開平1−122419号、特開平11−198285号の各公報などに記載の方法が適応できる。また、2つの流延口からセルロースアシレート溶液を流延することによってもフィルム化することでもよく、例えば特公昭60−27562号、特開昭61−94724号、特開昭61−947245号、特開昭61−104813号、特開昭61−158413号、特開平6−134933号の各公報に記載の方法で実施できる。また、特開昭56−162617号公報に記載の高粘度セルロースアシレート溶液の流れを低粘度のセルロースアシレート溶液で包み込み、その高,低粘度のセルロースアシレート溶液を同時に押出すセルロースアシレートフィルム流延方法でもよい。更に又、特開昭61−94724号、特開昭61−94725号の各公報に記載の外側の溶液が内側の溶液よりも貧溶媒であるアルコール成分を多く含有させることも好ましい態様である。
【0072】
あるいは、また、2個の流延口を用いて、第一の流延口により金属支持体に成型したフィルムを剥離し、金属支持体面に接していた側に第二の流延を行なうことでより、フィルムを作製することでもよく、例えば特公昭44−20235号公報に記載されている方法である。流延するセルロースアシレート溶液は同一の溶液でもよいし、異なるセルロースアシレート溶液でもよく特に限定されない。複数のセルロースアシレート層に機能を持たせるために、その機能に応じたセルロースアシレート溶液を、それぞれの流延口から押出せばよい。さらの本発明のセルロースアシレート溶液は、他の機能層(例えば、接着層、染料層、帯電防止層、アンチハレーション層、UV吸収層、偏光層など)を同時に流延することも実施しうる。
【0073】
単層流延の場合は、流延によって出る材料の回収が容易であり、生産性を向上できることができる。一方単層流延では、必要なフィルム厚さにするためには高濃度で高粘度のセルロースアシレート溶液を押出すことが必要であり、その場合セルロースアシレート溶液の安定性が悪くて固形物が発生し、ブツ故障となったり、平面性が不良であったりして問題となることが多かった。この解決として、複数のセルロースアシレート溶液を流延口から流延することにより、高粘度の溶液を同時に金属支持体上に押出すことができ、平面性も良化し優れた面状のフィルムが作製できるばかりでなく、濃厚なセルロースアシレート溶液を用いることで乾燥負荷の低減化が達成でき、フィルムの生産スピードを高めることができた。
【0074】
共流延の場合、内側と外側の厚さは特に限定されないが、好ましくは外側が全膜厚の1〜50%であることが好ましく、より好ましくは2〜30%の厚さである。ここで、3層以上の共流延の場合は金属支持体に接した層と空気側に接した層のトータル膜厚を外側の厚さと定義する。
【0075】
共流延の場合、置換度の異なるセルロースアシレート溶液を共流延して、積層構造のセルロースアシレートフィルムを作製することもできる。例えば、TAC層/DAC層/TAC層といった構成のセルロースアシレートフィルムを作ることも、DAC層/TAC層/DAC層といった構成のセルロースアシレートフィルムを作ることもできる。また、前述の可塑剤、紫外線吸収剤、マット剤等の添加物濃度が異なるセルロースアシレートアシレート溶液を共流延して、積層構造のセルロースアシレートフィルムを作製することもできる。例えば、マット剤は、表面層に多く、又は表面層のみに入れることが出来る。可塑剤、紫外線吸収剤は表面層よりも内部層に多くいれることができ、内部層のみにいれてもよい。又、内部層と表面層で可塑剤、紫外線吸収剤の種類を変更することもでき、例えば表面層に低揮発性の可塑剤及び/又は紫外線吸収剤を含ませ、内部層に可塑性に優れた可塑剤、或いは紫外線吸収性に優れた紫外線吸収剤を添加することもできる。また、剥離剤を金属支持体側の表面層のみ含有させることも好ましい態様である。また、冷却ドラム法で金属支持体を冷却して溶液をゲル化させるために、表面層に貧溶媒であるアルコールを内部層より多く添加することも好ましい。表面層と内部層のTgが異なっていてもよく、表面層のTgより内部層のTgが低いことが好ましい。また、流延時のセルロースアシレートを含む溶液の粘度も表面層と内部層で異なっていてもよく、表面層の粘度が内部層の粘度よりも小さいことが好ましいが、内部層の粘度が表面層の粘度より小さくてもよい。
【0076】
(乾燥工程、延伸工程)
ドラムやベルト上で乾燥され、剥離されたウェブの乾燥方法について述べる。ドラムやベルトが1周する直前の剥離位置で剥離されたウェブは、千鳥状に配置されたロール群に交互に通して搬送する方法や剥離されたウェブの両端をクリップ等で把持させて非接触的に搬送する方法などにより搬送される。乾燥は、搬送中のウェブ(フィルム)両面に所定の温度の風を当てる方法やマイクロウエーブなどの加熱手段などを用いる方法によって行われる。急速な乾燥は、形成されるフィルムの平面性を損なう恐れがあるので、乾燥の初期段階では、溶媒が発泡しない程度の温度で乾燥し、乾燥が進んでから高温で乾燥を行うのが好ましい。支持体から剥離した後の乾燥工程では、溶媒の蒸発によってフィルムは長手方向あるいは幅方向に収縮しようとする。収縮は、高温度で乾燥するほど大きくなる。この収縮を可能な限り抑制しながら乾燥することが、でき上がったフィルムの平面性を良好にする上で好ましい。この点から、例えば、特開昭62−46625号公報に示されているように、乾燥の全工程あるいは一部の工程を幅方向にクリップあるいはピンでウェブの幅両端を幅保持しつつ行う方法(テンタ−方式)が好ましい。上記乾燥工程における乾燥温度は、100〜145℃であることが好ましい。使用する溶媒によって乾燥温度、乾燥風量及び乾燥時間が異なるが、使用溶媒の種類、組合せに応じて適宜選べばよい。
【0077】
本発明のフィルムの製造では、支持体から剥離したウェブ(フィルム)を、ウェブ中の残留溶媒量が120質量%未満の時に延伸することが好ましい。
【0078】
なお、残留溶媒量は下記の式で表せる。
残留溶媒量(質量%)={(M−N)/N}×100
ここで、Mはウェブの任意時点での質量、NはMを測定したウェブを110℃で3時間乾燥させた時の質量である。ウェブ中の残留溶媒量が多すぎると延伸の効果が得られず、また、少なすぎると延伸が著しく困難となり、ウェブの破断が発生してしまう場合がある。ウェブ中の残留溶媒量のさらに好ましい範囲は70質量%以下であり、より好ましくは10質量%〜50質量%、特に好ましくは12質量%〜35質量%である。また、延伸倍率が小さすぎると十分な位相差が得られず、大きすぎると延伸が困難となり破断が発生してしまう場合がある。
【0079】
延伸倍率は、5%〜100%であることが好ましく、15%〜40%であることがより好ましく、20%〜35%であることが特に好ましい。ここで、一方の方向に対して5%〜100%延伸するとは、フィルムを支持しているクリップやピンの間隔を延伸前の間隔に対して1.05〜2.00倍の範囲にすることを意味している。
また、延伸はフィルム搬送方向(縦方向)に行っても、フィルム搬送方向に直交する方向(横方向)に行っても、両方向に行ってもよいが、本発明のセルロースアシレートフィルムはフィルム搬送方向に直交する方向に延伸されて得られたものであり、該延伸倍率が、搬送方向に対して直交する方向に5%〜100%であることが好ましい。前記搬送方向に直交する方向への延伸倍率のより好ましい範囲は上記範囲と同様である。延伸倍率を5%以上とすることにより、より適切にReを発現させることができ、ボーイングを良好なものとすることができる。また、延伸倍率を50%以下とすることにより、ヘイズを低下させることができる。
【0080】
本発明では、溶液流延製膜したものは、特定の範囲の残留溶媒量であれば高温に加熱しなくても延伸可能であるが、乾燥と延伸を兼ねると、工程が短くてすむので好ましい。本発明では、前記延伸工程における延伸温度は、110〜190℃であることが好ましく、120〜150℃であることがより好ましい。延伸温度が120℃以上であることが低ヘイズ化の観点から好ましく、150℃以下であることが光学発現性を高める観点(薄膜化の観点)から好ましい。
一方、ウェブの温度が高すぎると、可塑剤が揮散するので、可塑剤として揮散しやすい低分子可塑剤を用いる場合は、室温(15℃)〜145℃以下の範囲が好ましい。
【0081】
また、互いに直交する2軸方向に延伸することは、フィルムの光学発現性を高める観点、特にフィルムのRthの値を高める観点から、有効な方法である。本発明のセルロースアシレートフィルムは搬送方向に対して平行な方向と直交する方向への同時または逐次延伸されて得られたものであり、該搬送方向に対して平行な方向への延伸倍率は1%〜30%であることが好ましく、3%〜20%であることがより好ましく、5%〜10%であることが特に好ましい。一方、搬送方向に対して直交する方向への延伸倍率は5%〜100%であることが好ましく、20%〜50%がより好ましく、25%〜45%が特に好ましい。搬送方向に直交する方向への延伸倍率のより好ましい範囲は上記範囲と同様である。
【0082】
一般に、2軸延伸テンターを用いてフィルム搬送方向に直交する方向(幅手方向)に5%〜100%延伸する場合、その直交方向であるフィルム搬送方向に平行な方向(長手方向)には縮まる力が働く。
したがって、一方向のみに力を与えて続けて延伸すると直角方向の幅は縮まってしまうが、これを幅規制せずに縮まる量に対して、縮まり量を抑制していることを意味しており、その幅規制するクリップやピンの間隔を延伸前に対して1.05〜2.00倍の範囲に規制していることを意味している。このとき、長手方向には、幅手方向への延伸によってフィルムが縮まろうとする力が働いている。長手方向のクリップあるいはピンの間隔をとることによって、長手方向に必要以上の張力がかからないようにしているのである。ウェブを延伸する方法には特に限定はない。例えば、複数のロールに周速差をつけ、その間でロール周速差を利用して長手方向に延伸する方法、ウェブの両端をクリップやピンで固定し、クリップやピンの間隔を進行方向に広げて長手方向に延伸する方法、同様に幅手方向に広げて幅手方向に延伸する方法、あるいは長手幅手同時に広げて長手幅手両方向に延伸する方法などが挙げられる。もちろんこれ等の方法は、組み合わせて用いてもよい。また、いわゆるテンター法の場合、リニアドライブ方式でクリップ部分を駆動すると滑らかな延伸が行うことができ、破断等の危険性が減少できるので好ましい。
【0083】
本発明では、延伸工程において同時に2軸方向に延伸してもよいし、逐次に2軸方向に延伸してもよい。逐次に2軸方向に延伸する場合は、それぞれの方向における延伸ごとに延伸温度を変更してもよい。
同時2軸延伸する場合、延伸温度は110℃〜190℃で行った場合でも本発明のフィルムを得ることができ、同時2軸延伸する場合の延伸温度は、120℃〜150℃であることがより好ましく、130℃〜150℃であることが特に好ましい。また、同時2軸延伸することで、ヘイズはある程度高くなるものの、光学発現性をさらに高めることができる。
一方、逐次2軸延伸する場合、先にフィルム搬送方向に平行な方向に延伸し、その次にフィルム搬送方向に直交する方向に延伸することが好ましい。前記逐次延伸を行う延伸温度のより好ましい範囲は上記同時2軸延伸を行う延伸温度範囲と同様である。
【0084】
(熱処理工程)
本発明のフィルムの製造方法は乾燥工程終了後に熱処理工程を設けることが好ましい。当該熱処理工程における熱処理は乾燥工程終了後に行われればよく、延伸/乾燥工程後直ちに行ってよいし、あるいは乾燥工程終了後に後述する方法で一旦巻き取った後に、熱処理工程だけを別途設けてもよい。本発明においては乾燥工程終了後に一旦、室温〜100℃以下まで冷却した後において改めて前記熱処理工程を設けることが好ましい。これは熱寸法安定性のより優れたフィルムを得られる点で有利であるからである。同様の理由で熱処理工程直前において残留溶媒量が2質量%未満、好ましくは0.4質量%未満まで乾燥されていることが好ましい。
このような処理によりフィルムの収縮率を小さくできる理由は明確ではないが、延伸工程にて延伸される処理を経たフィルムにおいては、延伸方向の残留応力が大きいため、熱処理によって前記残留応力が解消されることにより、熱処理温度以下の領域での収縮力が低減されるものと推定される。
【0085】
熱処理は、搬送中のフィルムに所定の温度の風を当てる方法やマイクロウエーブなどの加熱手段などを用いる方法により行われる。
熱処理は150〜200℃の温度で行うことが好ましく、160〜180℃の温度で行うことがさらに好ましい。また、熱処理は1〜20分間行うことが好ましく、5〜10分間行うことがさらに好ましい。
熱処理温度が200℃を超えて長時間加熱すると、フィルム中に含まれる可塑剤の飛散量が増大するため問題となる場合がある。
【0086】
なお前記熱処理工程において、フィルムは長手方向あるいは幅方向に収縮しようとする。この収縮を可能な限り抑制しながら熱処理することが、でき上がったフィルムの平面性を良好にする上で好ましく、幅方向にクリップあるいはピンでウェブの幅両端を幅保持しつつ行う方法(テンター方式)が好ましい。
【0087】
前記熱処理工程において、前記延伸工程とは別に高温で延伸を行うことが出来る。延伸倍率は、5%〜100%であることが好ましく、15%〜40%であることがより好ましく、20%〜35%であることが特に好ましい。
また、延伸はフィルム搬送方向(縦方向)に行っても、フィルム搬送方向に直交する方向(横方向)に行っても、両方向に行ってもよいが、本発明のセルロースアシレートフィルムはフィルム搬送方向に直交する方向に延伸されて得られたものであり、該延伸倍率が、搬送方向に対して直交する方向に5%〜100%であることが好ましい。前記搬送方向に直交する方向への延伸倍率のより好ましい範囲は上記範囲と同様である。延伸倍率を5%以上とすることにより、より適切にReを発現させることができ、ボーイングを良好なものとすることができる。また、延伸倍率を50%以下とすることにより、ヘイズを低下させることができる。
【0088】
前記熱処理工程における延伸温度は、上記熱処理温度範囲と同様である。延伸温度が140℃以上であることが低ヘイズ化の観点から好ましく、190℃以下であることが光学発現性を高める観点(薄膜化の観点)から好ましい。
【0089】
また、互いに直交する2軸方向に延伸することは、フィルムの光学発現性を高める観点、特にフィルムのRthの値を高める観点から、有効な方法である。本発明のセルロースアシレートフィルムは搬送方向に対して平行な方向と直交する方向への同時または逐次延伸されて得られたものであり、該搬送方向に対して平行な方向への延伸倍率は1%〜30%であることが好ましく、3%〜20%であることがより好ましく、5%〜10%であることが特に好ましい。一方、搬送方向に対して直交する方向への延伸倍率は5%〜100%であることが好ましく、20%〜50%がより好ましく、25%〜45%が特に好ましい。
【0090】
本発明では、延伸工程において同時に2軸方向に延伸してもよいし、逐次に2軸方向に延伸してもよい。逐次に2軸方向に延伸する場合は、それぞれの方向における延伸ごとに延伸温度を変更してもよい。
同時2軸延伸する場合、好ましい延伸温度範囲は、上記熱処理温度範囲と同様である。また、同時2軸延伸することで、ヘイズはある程度高くなるものの、光学発現性をさらに高めることができる。
一方、逐次2軸延伸する場合、先にフィルム搬送方向に平行な方向に延伸し、その次にフィルム搬送方向に直交する方向に延伸することが好ましい。前記逐次延伸を行う延伸温度のより好ましい範囲は上記熱処理温度範囲と同様である。
【0091】
得られたフィルムを巻き取る巻き取り機には、一般的に使用されている巻き取り機が使用でき、定テンション法、定トルク法、テーパーテンション法、内部応力一定のプログラムテンションコントロール法などの巻き取り方法で巻き取ることができる。以上の様にして得られた光学フィルムロールは、フィルムの遅相軸方向が、巻き取り方向(フィルムの長手方向)に対して、±2度であることが好ましく、さらに±1度の範囲であることが好ましい。又は、巻き取り方向に対して直角方向(フィルムの幅方向)に対して、±2度であることが好ましく、さらに±1度の範囲にあることが好ましい。特にフィルムの遅相軸方向が、巻き取り方向(フィルムの長手方向)に対して、±0.1度以内であることが好ましい。あるいはフィルムの幅手方向に対して±0.1度以内であることが好ましい。
【0092】
[加熱水蒸気処理]
また、延伸処理されたフィルムは、その後、100℃以上に加熱された水蒸気を吹き付けられる工程を経て製造されてもよい。この水蒸気の吹付け工程を経ることにより、製造されるセルロースアシレートフィルムの残留応力が緩和されて、寸度変化が小さくなるので好ましい。水蒸気の温度は100℃以上であれば特に制限はないが、フィルムの耐熱性などを考慮すると、水蒸気の温度は、200℃以下となる。
【0093】
これら流延から後乾燥までの工程は、空気雰囲気下でもよいし窒素ガスなどの不活性ガス雰囲気下でもよい。本発明のセルロースアシレートフィルムの製造に用いる巻き取り機は一般的に使用されているものでよく、定テンション法、定トルク法、テーパーテンション法、内部応力一定のプログラムテンションコントロール法などの巻き取り方法で巻き取ることができる。
【0094】
(表面処理)
製造されたセルロースアシレートフィルムは、表面処理を施すことが好ましい。具体的方法としては、コロナ放電処理、グロー放電処理、火炎処理、酸処理、アルカリ処理又は紫外線照射処理が挙げられる。また、特開平7−333433号公報に記載のように、下塗り層を設けることも好ましい。
フィルムの平面性を保持する観点から、これら処理においてセルロースアシレートフィルムの温度をTg(ガラス転移温度)以下、具体的には150℃以下とすることが好ましい。
偏光板の透明保護膜として使用する場合、偏光子との接着性の観点から、酸処理又はアルカリ処理、すなわちセルロースアシレートに対する鹸化処理を実施することが特に好ましい。
表面エネルギーは55mN/m以上であることが好ましく、60mN/m〜75mN/mであることが更に好ましい。
【0095】
以下、アルカリ鹸化処理を例に、具体的に説明する。
セルロースアシレートフィルムのアルカリ鹸化処理は、フィルム表面をアルカリ溶液に浸漬した後、酸性溶液で中和し、水洗して乾燥するサイクルで行われることが好ましい。
アルカリ溶液としては、水酸化カリウム溶液、水酸化ナトリウム溶液が挙げられ、水酸化イオン濃度は0.1〜3.0モル/リットルの範囲にあることが好ましく、0.5〜2.0モル/リットルの範囲にあることがさらに好ましい。アルカリ溶液温度は、室温乃至90℃の範囲にあることが好ましく、40〜70℃の範囲にあることがさらに好ましい。
【0096】
固体の表面エネルギーは、「ぬれの基礎と応用」(リアライズ社1989.12.10発行)に記載のように接触角法、湿潤熱法、及び吸着法により求めることができる。本発明のセルロースアシレートフィルムの場合、接触角法を用いることが好ましい。
具体的には、表面エネルギーが既知である2種の溶液をセルロースアシレートフィルムに滴下し、液滴の表面とフィルム表面との交点において、液滴に引いた接線とフィルム表面のなす角で、液滴を含む方の角を接触角と定義し、計算によりフィルムの表面エネルギーを算出できる。
【0097】
〔セルロースアシレートフィルムの特性〕
(膜厚)
本発明のセルロースアシレートフィルムの膜厚は30〜70μmが好ましく、35μm〜70μmがより好ましく、40μm〜60μmがさらに好ましい。膜厚が20μm以上であれば偏光板等に加工する際のハンドリング性や偏光板のカール抑制の点で好ましい。また、本発明のセルロースアシレートフィルムの膜厚むらは、搬送方向及び幅方向のいずれも0〜2%であることが好ましく、0〜1.5%がさらに好ましく、0〜1%であることが特に好ましい。
【0098】
(フィルムのレターデーション)
本明細書において、Re(λ)、Rth(λ)は各々、波長λにおける面内のレターデーション及び厚さ方向のレターデーションを表す。ReはKOBRA 21ADH(王子計測機器(株)製)において波長λnmの光をフィルム法線方向に入射させて測定される。Rthは前記Re、面内の遅相軸(KOBRA 21ADHにより判断される)を傾斜軸(回転軸)としてフィルム法線方向に対して+40°傾斜した方向から波長λnmの光を入射させて測定したレターデーション値、及び面内の遅相軸を傾斜軸(回転軸)としてフィルム法線方向に対して−40°傾斜した方向から波長λnmの光を入射させて測定したレターデーション値の計3つの方向で測定したレターデーション値を基にKOBRA 21ADHが算出する。ここで平均屈折率の仮定値はポリマーハンドブック(JOHN WILEY&SONS,INC)、各種光学フィルムのカタログの値を使用することができる。平均屈折率の値が既知でないものについてはアッベ屈折計で測定することができる。主な光学フィルムの平均屈折率の値を以下に例示する:セルロースアシレート(1.48)、シクロオレフィンポリマー(1.52)、ポリカーボネート(1.59)、ポリメチルメタクリレート(1.49)、ポリスチレン(1.59)である。これら平均屈折率の仮定値と膜厚を入力することで、KOBRA 21ADHはnx、ny、nzを算出する。この算出されたnx,ny,nzよりNz=(nx−nz)/(nx−ny)が更に算出される。
【0099】
本発明のセルロースアシレートフィルムは偏光板の保護フィルムとして好ましく用いられ、特に、様々な液晶モードに対応した位相差フィルムとしても好ましく用いることができる。本発明の位相差フィルムは本発明のセルロースアシレートフィルムを含む。
本発明のセルロースアシレートフィルムを位相差フィルムとして用いる場合、本発明のフィルムは、下記式(1)および式(2)を満たすことが好ましい。
式(1):30nm≦|Re(590)|≦100nm
式(2):80nm≦|Rth(590)|≦280nm
(式(1)および(2)中、Re(590)およびRth(590)は、それぞれ25℃、相対湿度60%の環境下において波長590nmの光で測定した面内方向のレターデーション値および厚み方向のレターデーション値を表す。)
下記式(1’)及び式(2’)を満たすことがより好ましい。
式(1’): 40nm≦|Re(590)|≦100nm
式(2’): 100nm≦|Rth(590)|≦250nm
Re(590)及びRth(590)が前記式(1)および式(2)を満たすことで位相差フィルムとしてより好ましく用いることができる。
【0100】
セルロースアシレートフィルムのより好ましい光学特性は液晶モードによって異なる。
VAモード用としては590nmで測定したReは30〜200nmのものが好ましく、30〜150nmのものがより好ましく、40〜100nmのものがさらに好ましい。Rthは70〜400nmのものが好ましく、100〜300nmのものがより好ましく、100〜250nmのものがさらに好ましい。
TNモード用としては590nmで測定したReは0〜100nmのものが好ましく、20〜90nmのものがより好ましく、50〜80nmのものがさらに好ましい。Rthは20〜200nmのものが好ましく、30〜150nmのものがより好ましく、40〜120nmのものがさらに好ましい。
TNモード用では前記レターデーション値を有するセルロースアシレートフィルム上に光学異方性層を塗布して光学補償フィルムとして使用できる。
本発明のセルロースアシレートフィルムは、光学発現性が高いことを特徴とする。具体的には、膜厚当たりの|Re(590)|の値が大きいことが好ましく、下記式(5)を満たすことがより好ましい。
式(5):2.5×10-3 ≦ |Rth(590)|/d
(式(5)中、Rth(590)は、25℃、相対湿度60%の環境下において波長590nmの光で測定した厚み方向のレターデーション値を表し、dはフィルムの膜厚を表す。)
本発明のセルロースアシレートフィルムは、Rth(単位:nm)/d(μm)の値は2.6×10-3以上であることが特に好ましい。
【0101】
(波長分散)
本発明のフィルムは、波長分散がフラット分散または逆波長分散であることを特徴とする。このようにセルロースアシレートフィルムの光学特性がフラット分散または逆波長分散である場合、液晶表示装置に組み込んだときの色味を改善することができ、好ましい。なお、本明細書中、逆波長分散であるとは、ReおよびRthが、それぞれ0nm<Re(630)−Re(440)と、0nm<Rth(630)−Re(440)を満たすことを言う。
本発明のフィルムは下記式(3)および式(4)を満たすことがより好ましい。
式(3):0nm≦Re(630)−Re(440)≦15nm
式(4):0nm≦Rth(630)−Re(440)≦30nm
(式(3)および(4)中、Re(440)およびRth(440)は、それぞれ25℃、相対湿度60%の環境下において波長440nmの光で測定した面内方向のレターデーション値および厚み方向のレターデーション値を表し、Re(630)およびRth(630)は、それぞれ25℃、相対湿度60%の環境下において波長630nmの光で測定した面内方向のレターデーション値および厚み方向のレターデーション値を表す。)
【0102】
(フィルムのヘイズ)
本発明のセルロースアシレートフィルムの全ヘイズは、0.5%以下であることが好ましく、0.4%以下であることがより好ましく、0.3%以下であることが特に好ましく、0.2%以下であることがさらに好ましい。光学フィルムとしてフィルムの透明性は重要である。ヘイズの測定は、ヘイズメーター“HGM−2DP”{スガ試験機(株)製}を用いJIS K−6714に従って測定することができる。
一方、本発明のセルロースアシレートフィルムの内部へイズは、0.1%以下であることが好ましく、0.07%以下であることがより好ましく、0.05%以下であることが特に好ましい。本発明において内部へイズの測定は、以下の方法を用いて行った。
フィルムの表面及び裏面に流動パラフィンを数滴添加し、厚さ1mmのガラス板(ミクロスライドガラス品番S9111、MATAUNAMI製)を2枚用いて裏表より挟んで、完全に2枚のガラス板と得られたフィルムを光学的に密着し、表面ヘイズを除去した状態でヘイズを測定し、別途測定したガラス板2枚の間に流動パラフィンのみを挟んで測定したヘイズを引いた値をフィルムの内部ヘイズ(Hi)として算出した。
本発明のフィルムは、全へイズが0.5%以下であり、内部へイズが0.1%以下であることが特に好ましい。
【0103】
(ガラス転移温度)
本発明のセルロースアシレートフィルムのガラス転移温度は120℃以上が好ましく、更に140℃以上が好ましい。
ガラス転移温度は、示差走査型熱量計(DSC)を用いて昇温速度10℃/分で測定したときにフィルムのガラス転移に由来するベースラインが変化しはじめる温度と再びベースラインに戻る温度との平均値として求めることができる。
また、ガラス転移温度の測定は、以下の動的粘弾性測定装置を用いて求めることもできる。本発明のセルロースアシレートフィルム試料(未延伸)5mm×30mmを、25℃、相対湿度60%で2時間以上調湿した後に動的粘弾性測定装置(バイブロン:DVA−225(アイティー計測制御(株)製))で、つかみ間距離20mm、昇温速度2℃/分、測定温度範囲30℃〜250℃、周波数1Hzで測定し、縦軸に対数軸で貯蔵弾性率、横軸に線形軸で温度(℃)をとった時に、貯蔵弾性率が固体領域からガラス転移領域へ移行する際に見受けられる貯蔵弾性率の急激な減少を固体領域で直線1を引き、ガラス転移領域で直線2を引いたときの直線1と直線2の交点を、昇温時に貯蔵弾性率が急激に減少しフィルムが軟化し始める温度であり、ガラス転移領域に移行し始める温度であるため、ガラス転移温度Tg(動的粘弾性)とする。
【0104】
(セルロースアシレートフィルムの構成)
本発明のセルロースアシレートフィルムは単層構造であっても複数層から構成されていてもよいが、単層構造であることが好ましい。ここで、「単層構造」のフィルムとは、複数のフィルム材が貼り合わされているものではなく、一枚のセルロースアシレートフィルムを意味する。そして、複数のセルロースアシレート溶液から、逐次流延方式や共流延方式を用いて一枚のセルロースアシレートフィルムを製造する場合は、単層構造となる。
【0105】
複数のセルロースアシレート溶液から、逐次流延方式や同時共流延方式を用いて一枚のセルロースアシレートフィルムを製造する場合、添加剤の種類や配合量、セルロースアシレートの分子量分布やセルロースアシレートの種類等を適宜調整することによって厚み方向に分布を有するようなセルロースアシレートフィルムを得ることができる。また、それらの一枚のフィルム中に光学異方性部、防眩部、ガスバリア部、耐湿性部などの各種機能性部を有するものも含む。
すなわち、本発明のセルロースアシレートフィルムは、共流延で得られ、内部層の両面に表面層がそれぞれ積層している態様であってもよい。この場合、前記内部層に用いられるセルロースアシレートのアシル置換度の好ましい範囲は、単層流延製膜で得られた単一のセルロースアシレート組成である場合の好ましいアシル置換度の範囲と同様である。一方、前記表面層に用いられるセルロースアシレートのアシル置換度は、総アシル置換度が2.7以上であることが、流涎製膜時に支持体からの剥離性を向上させる観点から好ましく、2.75〜2.95であることがより好ましく、2.8〜2.95であることが特に好ましい。また、前記重縮合エステルは、内部層および/または表面層に含まれていればよく、少なくとも内部層に含まれていることが好ましい。内部層および表面層に含まれている態様も好ましい。
【0106】
[位相差フィルム]
本発明のセルロースアシレートフィルムは、位相差フィルムとして用いることができる。なお、「位相差フィルム」とは、一般に液晶表示装置等の表示装置に用いられ、光学異方性を有する光学材料のことを意味し、位相差板、光学補償フィルム、光学補償シートなどと同義である。液晶表示装置において、位相差フィルムは表示画面のコントラストを向上させたり、視野角特性や色味を改善したりする目的で用いられる。
本発明の透明セルロースアシレートフィルムを用いることで、Re値およびRth値を自在に制御した位相差フィルムを容易に作製することができる。
【0107】
本発明のセルロースアシレートフィルムを複数枚積層したり、本発明のセルロースアシレートフィルムと本発明外のフィルムとを積層したりしてReやRthを適宜調整して位相差フィルムとして用いることもできる。フィルムの積層は、粘着剤や接着剤を用いて実施することができる。
【0108】
また、場合により、本発明のセルロースアシレートフィルムを位相差フィルムの支持体として用い、その上に液晶等からなる光学異方性層を設けて位相差フィルムとして使用することもできる。
【0109】
[偏光板]
本発明の偏光板は、偏光子と、本発明のフィルムを少なくとも1枚有することを特徴とする。本発明のフィルムを偏光板用保護フィルムとして用いる場合、偏光板用保護フィルム/偏光子/偏光板用保護フィルム/液晶セル/本発明の偏光板用保護フィルム/偏光子/偏光板用保護フィルムの構成、もしくは偏光板用保護フィルム/偏光子/本発明の偏光板用保護フィルム/液晶セル/本発明の偏光板用保護フィルム/偏光子/偏光板用保護フィルムの構成で好ましく用いることができる。特に、TN型、VA型、OCB型などの液晶セルに貼り合わせて用いることによって、さらに視野角に優れ、着色が少ない視認性に優れた表示装置を提供することができる。
【0110】
本発明の偏光板は、偏光子の両側に保護フィルムを有する偏光板であって、該保護フィルムの少なくとも1枚が本発明のセルロースアシレートフィルムであることが好ましい。すなわち、本発明のフィルムは、偏光板用保護フィルムに用いられることが好ましい。偏光板は前述の如く、偏光子の少なくとも一方の面に保護フィルムを貼り合わせ積層することによって形成されることが好ましい。偏光子は従来から公知のものを用いることができ、例えば、ポリビニルアルコールフィルムのような親水性ポリマーフィルムを、沃素のような二色性染料で処理して延伸したものである。セルロースアシレートフィルムと偏光子との貼り合わせは、特に限定はないが、水溶性ポリマーの水溶液からなる接着剤により行うことができる。この水溶性ポリマー接着剤は完全鹸化型のポリビニルアルコ−ル水溶液が好ましく用いられる。
特に本発明のフィルムを用いた偏光板は高温高湿条件下での劣化が少なく、長期間安定した性能を維持することができる。
【0111】
[液晶表示装置]
本発明の液晶表示装置は、液晶セルと、少なくとも1枚の本発明のセルロースアシレートフィルムまたは少なくとも1枚の本発明の偏光板を含むことが好ましい。また、液晶セル及びその両側に配置された2枚の偏光板を含む液晶表示装置であって、該偏光板のうち少なくとも1枚が本発明の偏光板であることがより好ましい。
本発明の液晶表示装置は、液晶セルが、VAモード又はTNモードの液晶セルであることが好ましく、VAモードセルであることが、本発明のフィルムが前記好ましい範囲のRe及びRthを発現する観点から特に好ましい。
本発明のセルロースアシレートフィルム、該フィルムを用いた偏光板は、様々な表示モードの液晶セル、液晶表示装置に用いることができる。TN(Twisted Nematic)、IPS(In−Plane Switching)、FLC(Ferroelectric Liquid Crystal)、AFLC(Anti−ferroelectric Liquid Crystal)、OCB(Optically Compensatory Bend)、STN(Supper Twisted Nematic)、VA(Vertically Aligned)及びHAN(Hybrid Aligned Nematic)のような様々な表示モードが提案されている。
【0112】
VAモードの液晶セルでは、電圧無印加時に棒状液晶性分子が実質的に垂直に配向している。
VAモードの液晶セルには、(1)棒状液晶性分子を電圧無印加時に実質的に垂直に配向させ、電圧印加時に実質的に水平に配向させる狭義のVAモードの液晶セル(特開平2−176625号公報記載)に加えて、(2)視野角拡大のため、VAモードをマルチドメイン化した(MVAモードの)液晶セル(SID97、Digest of tech. Papers(予稿集)28(1997)845記載)、(3)棒状液晶性分子を電圧無印加時に実質的に垂直配向させ、電圧印加時にねじれマルチドメイン配向させるモード(n−ASMモード)の液晶セル(シャープ技報第80号11頁)及び(4)SURVAIVALモードの液晶セル(月刊ディスプレイ5月号14頁(1999年))が含まれる。
【0113】
VAモードの液晶表示装置は、液晶セル及びその両側に配置された二枚の偏光板からなる。液晶セルは、二枚の電極基板の間に液晶を担持している。本発明における透過型液晶表示装置の一つの態様では、本発明のフィルムは、液晶セルと一方の偏光板との間に、一枚配置するか、あるいは液晶セルと双方の偏光板との間に二枚配置する。
【0114】
本発明の透過型液晶表示装置の別の態様では、液晶セルと偏光子との間に配置される偏光板の透明保護フィルムとして、本発明のフィルムからなる光学補償シートが用いられる。一方の偏光板の(液晶セルと偏光子との間の)保護フィルムのみに上記の光学補償シートを用いてもよいし、あるいは双方の偏光板の(液晶セルと偏光子との間の)二枚の保護フィルムに、上記の光学補償シートを用いてもよい。一方の偏光板のみに上記光学補償シートを使用する場合は、液晶セルのバックライト側偏光板の液晶セル側保護フィルムとして使用するのが特に好ましい。液晶セルへの張り合わせは、本発明のフィルムはVAセル側にすることが好ましい。保護フィルムは通常のセルロースアシレートフィルムでもよく、本発明のフィルムより薄いことが好ましい。例えば、40〜80μmが好ましく、市販のKC4UX2M(コニカオプト株式会社製40μm)、KC5UX(コニカオプト株式会社製60μm)、TD80(富士フイルム製80μm)等が挙げられるが、これらに限定されない。
【実施例】
【0115】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り、適宜、変更することができる。従って、本発明の範囲は以下に示す具体例に限定されるものではない。
【0116】
(セルロースアシレートの調製)
表2に記載のアシル基の種類、置換度の異なるセルロースアシレートを調製した。これは、触媒として硫酸(セルロース100質量部に対し7.8質量部)を添加し、アシル置換基の原料となるカルボン酸を添加し40℃でアシル化反応を行った。この時、カルボン酸の種類、量を調整することでアシル基の種類、置換度を調整した。またアシル化後に40℃で熟成を行った。さらにこのセルロースアシレートの低分子量成分をアセトンで洗浄し除去した。
なお、表中のセルロースアシレートの種類におけるAcはアセチル置換基を表し、Prはプロピオニル基を表す。
【0117】
[実施例1〜43および比較例1〜8]
[セルロースアシレートフィルムの製膜]
以下に示すセルロースアシレートドープを用い、溶液流延法によりフィルムを製膜し、各実施例および比較例に使用した。
【0118】
なお、下記表2において特に記載がない限りセルロースアシレートとして、セルロースアセテートを用いた。また、各種添加剤については、セルロースアシレート100質量部に対する添加量を記載した。レターデーション発現剤Aとして、下記に示すトリアジン系化合物を用いた。
【0119】
【化1】

【0120】
(セルロースアシレートドープA)
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
セルロースアシレート樹脂:表2に記載の置換基、置換度のもの 100質量部
添加剤:表2に記載のもの 表2に記載の量(単位:質量部)
レターデーション発現剤A 表2に記載の量(単位:質量部)
ジクロロメタン 406質量部
メタノール 61質量部
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
【0121】
セルロースアシレートドープAにはセルロースアシレート100質量部に対して微粒子であるマット剤(AEROSIL R972、日本エアロジル(株)製、2次平均粒子サイズ1.0μm以下)0.13質量部となる様にマット剤分散液を混合、攪拌した。
【0122】
(単層での溶液流延)
上記の組成のドープをミキシングタンクに投入し、攪拌して各成分を溶解した後、平均孔径34μmのろ紙及び平均孔径10μmの焼結金属フィルターでろ過し、セルロースアシレートドープを調製した。ドープをバンド流延機にて流延した。残留溶剤量が約30質量%でバンドから剥ぎ取ったフィルムをテンターにより、延伸温度が下記表2に記載の膜面温度となるように熱風を当てつつ、下記表2に記載の倍率および方向へ延伸を行った。その後テンター搬送からロール搬送に移行し、さらに120℃から150℃で乾燥し巻き取った。さらに乾燥したフィルムをテンターにより、熱処理温度が下記表2に記載の膜面温度になるように熱風を当てつつ、下記表2に記載の倍率および方向に延伸を行った。このときのフィルム厚みは、後述するレターデーション値の測定で得られた結果をもとに、Re(590)=70nm、Rth(590)=200nmとなるような膜厚とし、表2に示した。
【0123】
[実施例101〜122、比較例101および102]
(共流延での溶液流延)
実施例1におけるセルロースアシレートドープAと同様にして、下記表3に記載のアシル置換度のセルロースアシレートを用いて内部層用ドープ(全アシル置換度2.43)および表面層用ドープAおよびB(いずれも全アシル置換度2.81)を調製した。なお、図1に示すように、走行する流延バンド85の上に流延ダイ89から下記3種類のドープを共に流延した。ここで、各ドープの流延量を調整することにより内部層を最も厚くし、結果的に延伸後のフィルムの膜厚は合計膜厚が下記表3に記載の厚み、表面層A及びB層がそれぞれ2.5μmとなるように各実施例で同時多層共流延を行い、流延膜70を形成させた。残留溶剤量が約30質量%でバンドから剥ぎ取ったフィルムをテンターにより下記表3に記載の温度の熱風を当てつつ下記表3に記載の温度および方向へ延伸工程、熱処理工程および熱処理工程における延伸を行った。その後テンター搬送からロール搬送に移行し、さらに120℃から150℃で乾燥し巻き取った。このときのフィルム厚みは、後述するレターデーション値の測定で得られた結果をもとに、Re(590)=70nm、Rth(590)=200nmとなるような膜厚とし、表3に示した。
【0124】
[評価]
(レターデーション値の測定)
作製したセルロースアシレートフィルムを、25℃、相対湿度60%で2時間以上調湿し、複屈折測定装置(KOBRA 21ADH、王子計測器(株)製)を用いて、25℃、相対湿度60%で波長590nmにおけるRe値及びRth値を測定し、表2および表3に示した。また、膜厚(μm)あたりRth(nm)の値を計算し、あわせて表2および表3に示した。
【0125】
(面状、全ヘイズ、内部ヘイズ)
得られたフィルムの面状を以下の基準で判定した。
○:以下の方法で全ヘイズが測定可能であり、面状が良好である。
△:以下の方法で全へイズが測定可能であるが、やや白化が認められ、面状が良好である。
×:白化が著しく、透明性がなく面状が悪く、光学フィルムの体をなさない状態であった。
全ヘイズおよび内部ヘイズの測定は、本発明のセルロースアシレートフィルム試料40mm×80mmを、25℃、相対湿度60%でヘイズメーター“HGM−2DP”{スガ試験機(株)製}を用いJIS K−6714に従って測定し、表3に示した。
【0126】
(波長分散の測定)
前記レターデーション値の測定と同様の手法により、波長440nmおよび630nmにおけるReおよびRthを求め、Re(630)−Re(440)の値と、Rth(630)−Rth(440)の値を計算し、その結果を表2および表3に示した。
【0127】
【表2】

【0128】
【表3】

【0129】
表2および表3より、各実施例ではいずれも逆分散性を有し、低へイズであり、高い光学発現性を有し、かつ安価なフィルム材料を用いたセルロースアシレートフィルムを得ることができることがわかった。
また、本発明の範囲外の重縮合エステルを用いた場合(比較例1〜3、6、7、101および102)、重縮合エステルの両末端が芳香環基を含む場合は面状故障およびヘイズの点で不十分となり、芳香族ジカルボン酸比率が60モル%以下の場合は光学発現性(特に膜厚あたりのRthの発現性)が不十分であり、膜厚を厚くしなければReおよびRthを好ましい値に調整できない点で不十分であった。一方、本発明の範囲を上回るセルロースアシレートを用いた比較例5では、面状故障を生じてしまう点で不十分であり、本発明の範囲を下回るセルロースアシレートを用いた比較例4および8では、波長分散が順分散になってしまう点で不十分であった。
【0130】
(偏光板の作製)
延伸したポリビニルアルコールフィルムにヨウ素を吸着させて偏光子を作製した。
各実施例及び比較例のフィルムを、ポリビニルアルコール系接着剤を用いて、偏光子の片側に貼り付けた。なお、ケン化処理は以下のような条件で行った。1.5mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液を調製し、55℃に保温した。0.005mol/Lの希硫酸水溶液を調製し、35℃に保温した。作製したセルロースアシレートフィルムを上記の水酸化ナトリウム水溶液に2分間浸漬した後、水に浸漬し水酸化ナトリウム水溶液を十分に洗い流した。次いで、上記の希硫酸水溶液に1分間浸漬した後、水に浸漬し希硫酸水溶液を十分に洗い流した。最後に試料を120℃で十分に乾燥させた。
市販のセルローストリアシレートフィルム(フジタックTD80UF、富士フイルム(株)製)にケン化処理を行い、ポリビニルアルコール系接着剤を用いて、偏光子の反対側に貼り付け、70℃で10分以上乾燥した。偏光子の透過軸とセルロースアシレートフィルムの遅相軸とは平行になるように配置した。偏光子の透過軸と市販のセルローストリアシレートフィルムの遅相軸とは直交するように配置した。
【0131】
(VAパネルへの実装)
上記の垂直配向型液晶セルを使用した液晶表示装置の視認側偏光板と、バックライト側偏光板として、表4に示した実施例、比較例の偏光板および偏光子の両側が市販のセルローストリアシレートフィルム(フジタックTD80UF、富士フイルム(株)製)の偏光板を設置した。視認側偏光板及びバックライト側偏光板は粘着剤を介して液晶セルに貼りつけた。視認側偏光板の透過軸が上下方向に、そしてバックライト側偏光板の透過軸が左右方向になるように、クロスニコル配置とした。
【0132】
(VA型液晶表示装置の評価)
作製した各液晶表示装置について、以下の評価を行った。
【0133】
(1)正面コントラスト比の測定:
測定器(BM5A、TOPCON社製)を用いて、暗室において、パネル法線方向の黒表示および白表示の輝度値を測定し、正面コントラスト(白輝度/黒輝度)を算出した。
このとき、測定器とパネル間の距離は700mmに設定した。
【0134】
(2)視野角コントラスト(斜め方向のコントラスト):
測定器(BM5A、TOPCON社製)を用いて、暗室において、装置正面からの極角方向60度、及び方位角方向0度、45度、90度の3方向における黒表示および白表示の輝度値を測定し、視野角コントラスト(白輝度/黒輝度)を算出することで、液晶表示装置の視野角特性を評価した。
◎:視野角コントラストがいずれも50以上であり、光漏れが認識できない。
△:視野角コントラストの最小値が50未満25以上であり、わずかに光漏れが認識されるが許容できる程度。
×:視野角コントラスト最小値が25未満であり、大きな光漏れが認識され許容できない。
【0135】
(3)カラーシフト:
作製した液晶表示装置について以下の官能評価を行い、以下の基準で評価した。
暗室において、黒表示時の斜め方向でのカラーシフトの官能評価を行なった。
◎:全ての極角方向、方位角方向で色味付きがほとんど観察されない。
○:極角60度方向で、液晶セルの法線を中心として360度回転させた時、やや色味付きが観察される。
△:極角60度方向で、液晶セルの法線を中心として360度回転させた時、色味付きが観察される。
【0136】
結果を下記表4に示す。フィルムの波長分散がフラットまたは逆分散の実施例2、10、11、17、18、28、33、41および43のフィルムを用いた場合、フィルムの波長分散が順分散のフィルムと比較して、カラーシフトに優れており、色味改善が出来ていることが分かった。
【0137】
【表4】

【符号の説明】
【0138】
70 流延膜
85 流延バンド
86a 回転ローラ
89 流延ダイ
120 内部層用ドープ
121 表面A層用ドープ
122 表面B層用ドープ
120a 内部層
121a 表面A層
122a 表面B層
t1 内部層膜厚
t2 表面A層膜厚
t3 表面B層膜厚

【特許請求の範囲】
【請求項1】
総アシル置換度が2.00〜2.70のセルロースアシレートと、
芳香族ジカルボン酸残基および脂肪族ジオール残基を含む少なくとも一種の重縮合エステルとを含有し、
前記重縮合エステル中の全てのジカルボン酸残基に対する芳香族ジカルボン酸残基の割合が60モル%以上であり、かつ、前記重縮合エステルの両末端がそれぞれ独立に−OH基、−O−C(=O)−R1基、−C(=O)−O−R2基、−O−R3基および−COOH基からなる群(但し、前記R1〜R3はそれぞれ独立に脂肪族基を表す)から選ばれるいずれか1つであることを特徴とするセルロースアシレートフィルム。
【請求項2】
前記重縮合エステルが、全てのジオール残基に対する炭素数3以上の脂肪族ジオール残基の割合が30モル%以上である重縮合エステルであることを特徴とする請求項1に記載のセルロースアシレートフィルム。
【請求項3】
前記重縮合エステルの数平均分子量が500〜2000であることを特徴とする請求項1または2に記載のセルロースアシレートフィルム。
【請求項4】
前記セルロースアシレート100質量部に対する、前記重縮合エステルの含有量が5〜30質量部であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載のセルロースアシレートフィルム。
【請求項5】
前記重縮合エステルの両末端がそれぞれ独立に−OH基または−O−C(=O)−R1基(但し、前記R1が複数存在する場合はそれぞれ独立に脂肪族基を表す)であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載のセルロースアシレートフィルム。
【請求項6】
溶液流延製膜され、さらに延伸されて得られたことを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載のセルロースアシレートフィルム。
【請求項7】
前記溶液流延製膜が、共流延による同時多層流延製膜、または逐次多層流延製膜であることを特徴とする請求項6に記載のセルロースアシレートフィルム。
【請求項8】
前記溶液流延製膜が、単層流延製膜であることを特徴とする請求項6に記載のセルロースアシレートフィルム。
【請求項9】
前記延伸が、搬送方向に直交する方向への5%〜100%の倍率の延伸であることを特徴とする請求項6〜8のいずれか一項に記載のセルロースアシレートフィルム。
【請求項10】
前記延伸が、搬送方向に対して平行な方向と直交する方向への同時または逐次延伸であり、該搬送方向に直交する方向への5%〜100%の倍率の延伸であることを特徴とする請求項6〜8のいずれか一項に記載のセルロースアシレートフィルム。
【請求項11】
下記式(1)および式(2)を満たすことを特徴とする、請求項1〜10のいずれか一項に記載のセルロースアシレートフィルム。
式(1):30nm≦|Re(590)|≦100nm
式(2):80nm≦|Rth(590)|≦280nm
(式(1)および(2)中、Re(590)およびRth(590)は、それぞれ25℃、相対湿度60%の環境下において波長590nmの光で測定した面内方向のレターデーション値および厚み方向のレターデーション値を表す。)
【請求項12】
下記式(3)および式(4)を満たすことを特徴とする、請求項1〜11のいずれか一項に記載のセルロースアシレートフィルム。
式(3):0nm≦Re(630)−Re(440)≦15nm
式(4):0nm≦Rth(630)−Re(440)≦30nm
(式(3)および(4)中、Re(440)およびRth(440)は、それぞれ25℃、相対湿度60%の環境下において波長440nmの光で測定した面内方向のレターデーション値および厚み方向のレターデーション値を表し、Re(630)およびRth(630)は、それぞれ25℃、相対湿度60%の環境下において波長630nmの光で測定した面内方向のレターデーション値および厚み方向のレターデーション値を表す。)
【請求項13】
全へイズが0.5%以下であり、内部へイズが0.1%以下であることを特徴とする請求項1〜12のいずれか一項に記載のセルロースアシレートフィルム。
【請求項14】
膜厚が30〜70μmであることを特徴とする請求項1〜13のいずれか一項に記載のセルロースアシレートフィルム。
【請求項15】
下記式(5)を満たすことを特徴とする、請求項1〜14のいずれか一項に記載のセルロースアシレートフィルム。
式(5):2.5×10-3 ≦ |Rth(590)|/d
(式(5)中、Rth(590)は、25℃、相対湿度60%の環境下において波長590nmの光で測定した厚み方向のレターデーション値を表し、dはフィルムの膜厚を表す。)
【請求項16】
偏光子と、少なくとも1枚の請求項1〜15のいずれか一項に記載のセルロースアシレートフィルムとを含むことを特徴とする偏光板。
【請求項17】
液晶セルと、少なくとも1枚の請求項1〜15のいずれか一項に記載のセルロースアシレートフィルムまたは少なくとも1枚の請求項16に記載の偏光板を含むことを特徴とする液晶表示装置。
【請求項18】
前記液晶セルが、VAモードの液晶セルであることを特徴とする請求項17に記載の液晶表示装置。

【図1】
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【公開番号】特開2011−162769(P2011−162769A)
【公開日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−279019(P2010−279019)
【出願日】平成22年12月15日(2010.12.15)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】