説明

セルロースアシレートフィルムとその製造方法、位相差フィルム、偏光板および液晶表示装置

【課題】ヘイズが低く、効率よくレタデーションが発現しているセルロースアシレートフィルムの製造方法、微小遅相軸角度分布が小さいセルロースアシレートフィルムの製造方法、特にヘイズが低く、効率よくレタデーションが発現しており、さらに微小遅相軸角度分布が小さいセルロースアシレートフィルムの製造方法を提供する。
【解決手段】ヘイズを有するセルロースアシレートフィルムをTc≦T<Tm0を満たす温度Tで熱処理する[TcとTm0は、熱処理前のセルロースアシレートフィルムの結晶化温度と融点を表す]。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学異方性を有しており、割れにくく、偏光膜に直接貼り合わせることが可能なセルロースアシレートフィルムおよびその製造方法に関し、また、該セルロースアシレートフィルムを用いた位相差フィルム、偏光板および液晶表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ハロゲン化銀写真感光材料、位相差フィルム、偏光板および画像表示装置には、セルロースエステル、ポリエステル、ポリカーボネート、シクロオレフィンポリマービニルポリマー、および、ポリイミド等に代表されるポリマーフィルムが用いられている。これらのポリマーからは、平面性や均一性の点でより優れたフィルムを製造することができるため、光学用途のフィルムとして広く採用されている。
【0003】
これらのうち、適切な透湿度を有するセルロースアシレートフィルムは、最も一般的なポリビニルアルコール(PVA)/ヨウ素からなる偏光膜とオンラインで直接貼り合わせることが可能である。そのため、特にセルロースアセテートは偏光板の保護フィルムとして広く採用されており、その製造方法が種々検討されている(例えば、特許文献1および2参照)。
【0004】
一方、セルロースアシレートフィルムを、位相差フィルム、位相差フィルムの支持体、および、偏光板の保護フィルム、並びに、液晶表示装置のような光学用途に使用する場合、その光学異方性の制御は、表示装置の性能(例えば、視認性)を決定する上で非常に重要な要素となる。近年の液晶表示装置の広視野角化要求に伴ってレタデーションの補償性向上が求められるようになっており、偏光膜と液晶セルとの間に配置される位相差フィルムの面内方向のレタデーション値(Re;以下、単に「Re」と称することがある。)と膜厚方向のレタデーション値(Rth;以下、単に「Rth」と称することがある。)を適切に制御することが要求されている。特に液晶テレビ用途として好ましいIPS(In−plane Switching)モードやVA(Vertically Aligned)モードの液晶表示装置に用いられる光学補償シートとして、Reが大きいセルロースアシレートフィルムを簡便に製造することが求められている。このようなフィルムの製造方法として、セルロースアシレートフィルムを熱処理する方法(例えば、特許文献3および4参照)、残留溶媒が多い状態で延伸する方法(例えば、特許文献5参照)、レタデーション上昇剤を添加する方法(例えば、特許文献6参照)、残留溶媒が少ない状態で延伸する方法(例えば、特許文献7参照)が種々検討されている。
【特許文献1】特開2001−188128号公報
【特許文献2】特開2000−352620号公報
【特許文献3】特開2007−84804号公報
【特許文献4】特開2007−86755号公報
【特許文献5】特開2005−104148号公報
【特許文献6】欧州特許0911656号
【特許文献7】特開2006−83203号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、セルロースアシレートを用いて製膜したフィルムをそのまま熱処理したり、延伸したりするだけでは、フィルムのヘイズを低く保ったままレタデーションを効率よく発現させることはできなかった。すなわち、特許文献3〜4の如く製膜されたセルロースアシレートフィルムをそのまま熱処理するだけではレタデーション調整が十分でなく、特許文献5〜7の如く高倍率延伸するだけではヘイズが高くなってしまう。そのようなフィルムを液晶表示装置に組み込んだ場合、前者では視野角変化に伴う色味変化が大きくなったり、コントラストが低下してしまったりする問題があり、後者では視野角によらずコントラストが低下してしまうという問題があることが判明した。
加えて、セルロースアシレート樹脂を熱処理したフィルムには微小遅相軸角度分布があり、これが液晶表示装置のコントラストを低下させる問題となっていることも判明した。
そこで本発明者は、このような従来技術の課題および前記熱処理したフィルムの新規課題を解決するために、用いるセルロースアシレートフィルム自体の条件を検討することにより、セルロースアシレートフィルムを熱処理することによって、ヘイズが低く、効率よくレタデーションが発現しているセルロースアシレートフィルムの製造方法を提供することと、微小遅相軸角度分布が小さいセルロースアシレートフィルムの製造方法を提供することと、特にヘイズが低く、効率よくレタデーションが発現しており、さらに微小遅相軸角度分布が小さいセルロースアシレートフィルムの製造方法を提供することを本発明の第1の目的として検討を進めた。また、本発明の第2の目的は該製造方法によって製造されたセルロースアシレートフィルムを提供することにある。本発明の第3の目的は結晶化熱量と融解熱量(ΔHm)が特定の範囲であり、微小遅相軸角度分布が小さいセルロースアシレートフィルムを提供することにある。本発明の第4の目的は、前記製造方法に好適に用いられるセルロースアシレートフィルムを提供することにある。本発明の第5の目的はこれらのセルロースアシレートフィルム有する位相差フィルム、偏光板および液晶表示装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は鋭意検討を重ねた結果、予めセルロースアシレートフィルムのヘイズを高くする処理を行ってから、Tc〜Tm0の温度範囲で熱処理を行えば、同じ条件で熱処理を行った場合であってもヘイズを低くし、かつレタデーションをより大きく発現させることができ、さらに微小遅相軸角度分布を低減させこともできることを見出した。また、さらに延伸を行った場合であっても、ヘイズを低くし、かつレタデーションをより大きく発現させることができ、さらに微小遅相軸角度分布を低減させこともできることを見出した。また、このようなセルロースアシレートフィルムの製造方法に用いられる特定の調製がなされたセルロースアシレートフィルムの条件を見出した。すなわち、課題を解決する手段として、以下の本発明を提供するに至った。
【0007】
[1] ヘイズを有するセルロースアシレートフィルムを下記式(I)の条件を満たす温度T(単位;℃)で熱処理する工程を含むことを特徴とするセルロースアシレートフィルムの製造方法。
式(I): Tc≦T<Tm0
[式中、Tcは前記熱処理前のセルロースアシレートフィルムの結晶化温度(単位;℃)を表し、Tm0は前記熱処理前のセルロースアシレートフィルムの融点(単位;℃)を表す。]
[1−1] 前記熱処理工程前のセルロースアシレートフィルムのヘイズ(HZ0)と、前記熱処理工程後のセルロースアシレートフィルムのヘイズ(HZ1)との差(HZ1−HZ0)が、0.05%以上であることを特徴とする[1]に記載のセルロースアシレートフィルムの製造方法。
[2] 前記ヘイズを有するセルロースアシレートフィルムが微粒子を、セルロースアシレートに対して0〜7.5質量%含有することを特徴とする[1]または[1−1]に記載のセルロースアシレートフィルムの製造方法。
[3] セルロースアシレートフィルムを予備延伸することにより前記ヘイズを有するセルロースアシレートフィルムを調製する工程をさらに含むことを特徴とする[1]〜[2]のいずれか一項に記載のセルロースアシレートフィルムの製造方法。
[3−1] 前記予備延伸における温度が、(Tg−20)〜(Tg+50)℃であることを特徴とする[3]に記載のセルロースアシレートフィルムの製造方法。
[3−2] 前記予備延伸前のセルロースアシレートフィルムの残留溶媒量が5.0質量%以下であることを特徴とする[3]または[3−1]に記載のセルロースアシレートフィルムの製造方法。
[3−3] 前記予備延伸における延伸倍率が、1〜300%であることを特徴とする[3]〜[3−2]のいずれか一項に記載のセルロースアシレートフィルムの製造方法。
[3−4] 前記予備延伸における延伸速度が、10〜10,000%/分であることを特徴とする[3]〜[3−3]のいずれか一項に記載のセルロースアシレートフィルムの製造方法。
[3−5] 前記熱処理後に搬送方向と直交する方向(フィルム幅方向)に延伸することを特徴とする[1]〜[3−4]のいずれか一項に記載のセルロースアシレートフィルムの製造方法。
[3−6] 前記予備延伸前のセルロースアシレートフィルムを構成する主成分としてのセルロースアシレートが、下記式(II)を満足することを特徴とする[3]〜[3−5]のいずれか一項に記載のセルロースアシレートフィルムの製造方法。
式(II): 2.70<SA+SB≦3.00
[式中、SAはセルロースの水酸基に置換されているアセチル基の置換度を表し、SBはセルロースの水酸基に置換されている炭素数3以上のアシル基の置換度を表す。]
[3−7] 前記予備延伸前のセルロースアシレートフィルムを構成する主成分としてのセルロースアシレートが、下記式(III)を満足することを特徴とする[3]〜[3−6]のいずれか一項に記載のセルロースアシレートフィルムの製造方法。
式(III): 0<SB≦2.0
[式中、SBはセルロースの水酸基に置換されている炭素数3以上のアシル基の置換度を表す。]
[3−8] 前記予備延伸において、ヘイズ値が0.4%未満のセルロースアシレートフィルムを予備延伸することによりヘイズ値が0.4%以上のセルロースアシレートフィルムを得ることを特徴とする[3]〜[3−7]のいずれか一項に記載のセルロースアシレートフィルムの製造方法。
[4] 前記熱処理を、熱処理前のセルロースアシレートフィルムのヘイズ値に対して、セルロースアシレートフィルムのヘイズ値が0.05%以上低下するまで行うことを特徴とする[1]〜[3−8]のいずれか一項に記載のセルロースアシレートフィルムの製造方法。
[4−1] 前記熱処理後に、得られたフィルムを延伸(再延伸)することを特徴とする[1]〜[4]のいずれか一項に記載のセルロースアシレートフィルムの製造方法。
[4−2] 前記再延伸後のセルロースアシレートフィルムのヘイズ値が1.0%以下であることを特徴とする[4−1]に記載のセルロースアシレートフィルムの製造方法。
[5] 結晶化熱量が2.0J/g以下であり、且つ融解熱量(ΔHm)が0J/gより大きく、微小遅相軸角度分布が3°以下であることを特徴とするセルロースアシレートフィルム。
[6] [1]〜[4−2]のいずれか一項に記載に記載の製造方法によって製造された、セルロースアシレートフィルム。
[7] 結晶化熱量が2.0J/g以下であり、且つ融解熱量(ΔHm)が0J/gより大きく、微小遅相軸角度分布が3°以下であることを特徴とする[6]に記載のセルロースアシレートフィルム。
[7−1] 面内方向のレタデーション値(Re、単位;nm)が40nm以上であることを特徴とする[5]〜[7]のいずれか一項に記載のセルロースアシレートフィルム。
[7−2] 下記式(IV)で表されるNzが0〜1であることを特徴とする[5]〜[7−1]のいずれか一項に記載のセルロースアシレートフィルム。
式(IV): Nz=(nx−nz)/(nx−ny)
[式中、nxはフィルム面内の遅相軸(x)方向の屈折率であり、nyはフィルム面内のx方向と直交する方向の屈折率であり、nzはフィルムの膜厚方向(フィルム面法線方向)の屈折率である。遅相軸はフィルム面内で屈折率が最大となる方向である。]
[7−3] 前記式(IV)で表されるNzが1より大きく20以下であることを特徴とする[5]〜[7−1]のいずれか一項に記載のセルロースアシレートフィルム。
[7−4] 面内方向のレタデーション値(Re、単位;nm)が50nm以上であることを特徴とする[7−1]〜[7−3]のいずれか一項に記載のセルロースアシレートフィルム。
[8] セルロースアシレートに対する微粒子の添加量が0〜7.5質量%であり、ヘイズ値が1.5%以上であることを特徴とするセルロースアシレートフィルム。
[9] ヘイズ値が1.5%以上25%未満であることを特徴とする[8]に記載のセルロースアシレートフィルム。
[9−1] 音波伝播速度が最大となる方向の音波伝播速度と、これと直交する方向の音波伝播速度との比が、1.05〜10.0であることを特徴とする[8]または[9]に記載のセルロースアシレートフィルム。
[10] [5]〜[7−4]のいずれか一項に記載のセルロースアシレートフィルムを少なくとも一枚有することを特徴とする位相差フィルム。
[11] [5]〜[7−4]のいずれか一項に記載のセルロースアシレートフィルムを少なくとも一枚有することを特徴とする偏光板。
[12] [5]〜[7−4]のいずれか一項に記載のセルロースアシレートフィルム、[10]に記載の位相差フィルム、または[11]に記載の偏光板を、少なくとも1枚有することを特徴とする液晶表示装置。
[12−1] [7−2]または[7−4]に記載のセルロースアシレートフィルムを少なくとも1枚有し、且つ表示モードがIPSモードであることを特徴とする液晶表示装置。
[12−2] [7−1]、[7−3]または[4−4]に記載のセルロースアシレートフィルムを少なくとも1枚有し、且つ表示モードがVAモードであることを特徴とする液晶表示装置。
[13] [9]または[9−1]に記載のセルロースアシレートフィルムを少なくとも1枚有することを特徴とすることを特徴とする偏光板。
[14] [9]または[9−1]に記載のセルロースアシレートフィルム、[10]に記載の偏光板を、少なくとも1枚有することを特徴とする液晶表示装置。
[15] [9]または[9−1]に記載のセルロースアシレートフィルムを少なくとも1枚有することを特徴とする画像表示装置。
【発明の効果】
【0008】
本発明の製造方法によれば、同じ条件で熱処理、好ましくは延伸をも行った場合であってもセルロースアシレートフィルムのヘイズを低減させたり、レタデーションをより大きく発現させたり、さらに微小遅相軸角度分布を低減させることができる。また、本発明の製造方法によりヘイズやレタデーションが所望の値に調整されたセルロースアシレートフィルムを用いて製造される位相差フィルム、偏光板および液晶表示装置、および画像表示装置は、優れた光学的性質を示す。また、本発明の製造方法により微小遅相軸角度分布が所望の値に調整されたセルロースアシレートフィルムを用いて製造される位相差フィルム、偏光板および液晶表示装置、および画像表示装置は、優れた光学的性質を示す。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下において、本発明のセルロースアシレートフィルムの製造方法等について詳細に説明する。以下に記載する構成要件の説明は、本発明の代表的な実施態様に基づいてなされることがあるが、本発明はそのような実施態様に限定されるものではない。なお、本明細書において「〜」を用いて表される数値範囲は、「〜」の前後に記載される数値を下限値および上限値として含む範囲を意味する。
【0010】
《セルロースアシレートフィルムの製造方法》
本発明のセルロースアシレートフィルムの製造方法(以下、本発明の製造方法とも言う)は、ヘイズを有するセルロースアシレートフィルムを下記式(I)の条件を満たす温度T(単位;℃)で熱処理する工程を含むことを特徴とする。
式(I): Tc≦T<Tm0
[式中、Tcは前記熱処理前のセルロースアシレートフィルムの結晶化温度(単位;℃)を表し、Tm0は前記熱処理前のセルロースアシレートフィルムの融点(単位;℃)を表す。]
ここで、「ヘイズを有する」とは、本明細書中で後述する測定方法において、測定されるヘイズが0.4%以上であることを言う。以下、本発明の製造方法について説明する。
【0011】
[セルロースアシレート]
まず、本発明のセルロースアシレートフィルムの製造方法に使用することができるセルロースアシレートについて説明する。
本発明の製造方法で熱処理するセルロースアシレートフィルムは、フィルムを構成する主成分としてのポリマーがセルロースアシレートであるフィルムである。ここで、「主成分としてのポリマー」とは、フィルムが単一のポリマーからなる場合には、そのポリマーのことを示し、複数のポリマーからなる場合には、構成するポリマーのうち最も質量分率の高いポリマーのことを示す。
【0012】
セルロースアシレートは、セルロースとカルボン酸とのエステルである。前記セルロースアシレートは、セルロースを構成するグルコース単位の2位、3位および6位に存在するヒドロキシル基の水素原子の全部または一部が、アシル基で置換されている。アシル基の炭素原子数は2〜22であることが好ましく、2〜4であることがより好ましい。前記アシル基の例としては、例えば、アセチル基、プロピオニル基、ブチリル基、イソブチリル基、ピバロイル基、ヘプタノイル基、ヘキサノイル基、オクタノイル基、デカノイル基、ドデカノイル基、トリデカノイル基、テトラデカノイル基、ヘキサデカノイル基、オクタデカノイル基、シクロヘキサンカルボニル基、オレオイル基、ベンゾイル基、ナフチルカルボニル基、および、シンナモイル基が挙げられる。前記アシル基としては、アセチル基、プロピオニル基、ブチリル基、ドデカノイル基、オクタデカノイル基、ピバロイル基、オレオイル基、ベンゾイル基、ナフチルカルボニル基、シンナモイル基が好ましく、アセチル基、プロピオニル基、ブチリル基が最も好ましい。
セルロースアシレートは、セルロースと複数のカルボン酸とのエステルであってもよい。すなわち、セルロースアシレートは、複数のアシル基で置換されていてもよい。
【0013】
セルロースアシレートのセルロースの水酸基に置換されているアセチル基(炭素数2)の置換度をSAとし、セルロースの水酸基に置換されている炭素数3以上のアシル基の置換度をSBとしたとき、SAおよびSBを調整することにより、本発明の製造方法により製造されるセルロースアシレートフィルムのレタデーションの発現性、レタデーションの湿度依存性の調整を行うことができる。また、Tcも調整することができ、これにより、熱処理温度を調整することができる。なお、レタデーションの湿度依存性とは、湿度によるレタデーションの変化である。
本発明のフィルムである、本発明の製造方法により製造されるセルロースアシレートフィルムに求める光学特性により、適宜、SA+SBを調整することとなるが、一般的には2.50<SA+SB≦3.00、好ましくは2.70<SA+SB≦3.00、より好ましくは2.88≦SA+SB≦3.00であり、さらに好ましくは2.89≦SA+SB≦2.99であり、さらにより好ましくは2.90≦SA+SB≦2.98であり、特に好ましくは2.92≦SA+SB≦2.97である。SA+SBを大きくすることにより製膜性を向上させると同時に、熱処理温度を(Tc+20)℃より高温に設定した熱処理後に得られるフィルムのReを大きくし、レタデーションの湿度依存性も改善することができ、このようなフィルムは、特にIPSモードの液晶表示装置に好ましく用いることができる。一方、SA+SBを小さくすることにより熱処理温度をTc〜(Tc+20)℃に設定した熱処理を実施した場合に、再延伸後のフィルムのReを大きくしたりすることができ、このようなフィルムは、特にVAモードの液晶表示装置に好ましく用いることができる。
また、SBを調整することにより、本発明の製造方法により製造されるセルロースアシレートフィルムのレタデーションの湿度依存性を調整することができる。SBを大きくすることにより、レタデーションの湿度依存性を低減させることができ、ガラス転移温度や融点が下がる。レタデーションの湿度依存性およびガラス転移温度や融点の低下のバランスを考慮すると、SBの範囲は、好ましくは0<SB≦2.0、より好ましくは0.1<SB≦1.0であり、さらに好ましくは0.2<SB≦0.7である。なお、セルロースの水酸基がすべて置換されているとき、上記の置換度は3となる。さらに、グルコース単位の2位のアシル基置換度をDS2、3位のアシル基置換度をDS3、6位のアシル基置換度をDS6としたときに、DS6/(DS2+DS3+DS6)は0.32以上であることが好ましく、0.322以上であることがより好ましく、0.324〜0.340であることがさらに好ましい。
【0014】
セルロースアシレートは公知の方法により合成することができる。
例えば、セルロースアシレートの合成方法について、基本的な原理は、右田伸彦他、木材化学180〜190頁(共立出版、1968年)に記載されている。セルロースアシレートの代表的な合成方法としては、カルボン酸無水物−カルボン酸−硫酸触媒による液相アシル化法が挙げられる。具体的には、まず、綿花リンタや木材パルプ等のセルロース原料を適当量の酢酸などのカルボン酸で前処理した後、予め冷却したアシル化混液に投入してエステル化し、完全セルロースアシレート(2位、3位および6位のアシル置換度の合計が、ほぼ3.00)を合成する。前記アシル化混液は、一般に溶媒としてのカルボン酸、エステル化剤としてのカルボン酸無水物および触媒としての硫酸を含む。また、前記カルボン酸無水物は、これと反応するセルロースおよび系内に存在する水分の合計よりも、化学量論的に過剰量で使用することが普通である。
【0015】
次いで、アシル化反応終了後に、系内に残存している過剰カルボン酸無水物の加水分解を行うために、水または含水酢酸を添加する。さらに、エステル化触媒を一部中和するために、中和剤(例えば、カルシウム、マグネシウム、鉄、アルミニウムまたは亜鉛の炭酸塩、酢酸塩、水酸化物または酸化物)を含む水溶液を添加してもよい。さらに、得られた完全セルロースアシレートを少量のアシル化反応触媒(一般には、残存する硫酸)の存在下で、20〜90℃に保つことにより鹸化熟成し、所望のアシル置換度および重合度を有するセルロースアシレートまで変化させる。所望のセルロースアシレートが得られた時点で、系内に残存している触媒を前記中和剤などを用いて完全に中和するか、或いは、前記触媒を中和することなく水若しくは希酢酸中にセルロースアシレート溶液を投入(或いは、セルロースアシレート溶液中に、水または希酢酸を投入)してセルロースアシレートを分離し、洗浄および安定化処理により目的物であるセルロースアシレートを得ることができる。
【0016】
前記セルロースアシレートの重合度は、粘度平均重合度で150〜500が好ましく、200〜400がより好ましく、220〜350がさらに好ましい。前記粘度平均重合度は、宇田らの極限粘度法(宇田和夫、斉藤秀夫、繊維学会誌、第18巻第1号、105〜120頁、1962年)の記載に従って測定することができる。前記粘度平均重合度の測定方法については、特開平9−95538号公報にも記載がある。
【0017】
また、低分子成分が少ないセルロースアシレートは、平均分子量(重合度)が高いが、粘度は通常のセルロースアシレートよりも低い値になる。このような低分子成分の少ないセルロースアシレートは、通常の方法で合成したセルロースアシレートから低分子成分を除去することにより得ることができる。低分子成分の除去は、セルロースアシレートを適当な有機溶媒で洗浄することにより行うことができる。また、低分子成分の少ないセルロースアシレートを合成により得ることもできる。低分子成分の少ないセルロースアシレートを合成する場合、アシル化反応における硫酸触媒量を、セルロース100質量に対して0.5〜25質量部に調整することが好ましい。前記硫酸触媒の量を前記範囲にすると、分子量分布の点でも好ましい(分子量分布の均一な)セルロースアシレートを合成することができる。セルロースアシレートの重合度や分子量分布は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)等により測定することができる。
セルロースエステルの原料綿や合成方法については、発明協会公開技報(公技番号2001−1745号、2001年3月15日発行、発明協会)7〜12頁にも記載がある。
【0018】
セルロースアシレートフィルムを製造する際に原料として用いるセルロースアシレートとしては、粉末や粒子状のものを使用することができ、また、ペレット化したものも用いることができる。原料として用いる際のセルロースアシレートの含水率は、1.0質量%以下であることが好ましく、0.7質量%以下であることがさらに好ましく、0.5質量%以下であることが最も好ましい。また、前記含水率は場合により0.2質量%以下であることが好ましい。セルロースアシレートの含水率が好ましい範囲内にない場合には、セルロースアシレートを乾燥風や加熱などにより乾燥してから使用することが好ましい。
セルロースアシレートフィルムを製造する際には、単一種のポリマーを用いてもよいし、複数種のポリマーを用いてもよい。
【0019】
[セルロースアシレート溶液]
本発明の製造方法に用いるセルロースアシレートフィルム(以下、明細書中において、「熱処理前のセルロースアシレートフィルム」とも称する)は、例えば、上記セルロースアシレートや各種添加剤を含有するセルロースアシレート溶液から溶液流延製膜方法によって作製することができる。以下において、溶液流延製膜方法に用いることができるセルロースアシレート溶液について説明する。
【0020】
(溶媒)
本発明の製造方法に用いるセルロースアシレートフィルムの作製に用いられるセルロースアシレート溶液の主溶媒としては、該ポリマーの良溶媒である有機溶媒を好ましく用いることができる。このような有機溶媒としては、沸点が80℃以下の有機溶媒が乾燥負荷低減の観点からより好ましい。前記有機溶媒の沸点は、10〜80℃であることがさらに好ましく、20〜60℃であることが特に好ましい。また、場合により沸点が30〜45℃である有機溶媒も前記主溶媒として好適に用いることができる。
【0021】
このような主溶媒としては、ハロゲン化炭化水素を特に好ましく挙げることができ、場合により、エステル、ケトン、エーテル、アルコールおよび炭化水素などが挙げることもでき、これらは分岐構造若しくは環状構造を有していてもよい。また、前記主溶媒は、エステル、ケトン、エーテルおよびアルコールの官能基(即ち、−O−、−CO−、−COO−、−OH)のいずれかを二つ以上有していてもよい。さらに、前記エステル、ケトン、エーテルおよびアルコールの炭化水素部分における水素原子は、ハロゲン原子(特に、フッ素原子)で置換されていてもよい。なお、本発明の製造方法に用いるセルロースアシレートフィルム」の作製に用いられるセルロースアシレート溶液の主溶媒とは、単一の溶媒からなる場合には、その溶媒のことを示し、複数の溶媒からなる場合には、構成する溶媒のうち、最も質量分率の高い溶媒のことを示す。主溶媒としては、ハロゲン化炭化水素を好適に挙げることができる。
【0022】
前記ハロゲン化炭化水素としては、塩素化炭化水素がより好ましく、例えば、ジクロロメタンおよびクロロホルムなどが挙げられ、ジクロロメタンがさらに好ましい。
前記エステルとしては、例えば、メチルホルメート、エチルホルメート、メチルアセテート、エチルアセテートなどが挙げられる。
前記ケトンとしては、例えば、アセトン、メチルエチルケトンなどが挙げられる。
前記エーテルとしては、例えば、ジエチルエーテル、メチル−tert−ブチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジメトキシメタン、1,3−ジオキソラン、4−メチルジオキソラン、テトラヒドロフラン、メチルテトラヒドロフラン、1,4−ジオキサンなどが挙げられる。
前記アルコールとしては、例えば、メタノール、エタノール、2−プロパノールなどが挙げられる。
前記炭化水素としては、例えば、n−ペンタン、シクロヘキサン、n−ヘキサン、ベンゼン、トルエンなどが挙げられる。
【0023】
これら主溶媒と併用される有機溶媒としては、ハロゲン化炭化水素、エステル、ケトン、エーテル、アルコールおよび炭化水素などが挙げられ、これらは分岐構造若しくは環状構造を有していてもよい。また、前記有機溶媒としては、エステル、ケトン、エーテルおよびアルコールの官能基(即ち、−O−、−CO−、−COO−、−OH)のいずれか二つ以上を有していてもよい。さらに、前記エステル、ケトン、エーテルおよびアルコールの炭化水素部分における水素原子は、ハロゲン原子(特に、フッ素原子)で置換されていてもよい。
【0024】
前記ハロゲン化炭化水素としては、塩素化炭化水素がより好ましく、例えば、ジクロロメタンおよびクロロホルムなどが挙げられ、ジクロロメタンがさらに好ましい。
前記エステルとしては、例えば、メチルホルメート、エチルホルメート、プロピルホルメート、ペンチルホルメート、メチルアセテート、エチルアセテート、ペンチルアセテートなどが挙げられる。
前記ケトンとしては、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、ジイソブチルケトン、シクロペンタノン、シクロヘキサノン、メチルシクロヘキサノンなどが挙げられる。
前記エーテルとしては、例えば、ジエチルエーテル、メチル−tert−ブチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジメトキシメタン、ジメトキシエタン、1,4−ジオキサン、1,3−ジオキソラン、4−メチルジオキソラン、テトラヒドロフラン、メチルテトラヒドロフラン、アニソール、フェネトールなどが挙げられる。
前記アルコールとしては、例えば、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、2−ブタノール、tert−ブタノール、1−ペンタノール、2−メチル−2−ブタノール、シクロヘキサノール、2−フルオロエタノール、2,2,2−トリフルオロエタノール、2,2,3,3−テトラフルオロ−1−プロパノールなどが挙げられる。好ましくは炭素数1〜4のアルコールであり、より好ましくはメタノール、エタノールまたはブタノールであり、最も好ましくはメタノール、ブタノールである。前記炭化水素としては、例えば、n−ペンタン、シクロヘキサン、n−ヘキサン、ベンゼン、トルエン、キシレンなどが挙げられる。
前記2種類以上の官能基を有する有機溶媒としては、例えば、2−エトキシエチルアセテート、2−メトキシエタノール、2−ブトキシエタノール、メチルアセトアセテートなどが挙げられる。
【0025】
本発明のセルロースアシレートフィルムを構成するポリマーは、水酸基やエステル、ケトン等の水素結合性の官能基を含むため、全溶媒中に5〜30質量%、より好ましくは7〜25質量%、さらに好ましくは10〜20質量%のアルコールを含有することが流延支持体からの剥離荷重低減の観点から好ましい。
アルコール含有量を調整することによって、本発明の製造方法により製造されるセルロースアシレートフィルムのReやRthの発現性を調整しやすくすることができる。具体的には、アルコール含有量を上げることによって、熱処理温度を比較的低く設定したり、ReやRthの到達範囲をより大きくしたりすることが可能となる。
また、本発明の製造方法に用いるセルロースアシレートフィルムの作製に用いられる前記セルロースアシレート溶液は、乾燥過程初期においてハロゲン化炭化水素とともに揮発する割合が小さく、次第に濃縮される沸点が95℃以上であり、且つ、セルロースエステルの貧溶媒である有機溶媒を1〜15質量%、より好ましくは1.5〜13質量%、さらに好ましくは2〜10質量%含有することが好ましい。また、本発明においては、水を少量含有させることも溶液粘度や乾燥時のウェットフィルム状態の膜強度を高めたり、ドラム法流延時のドープ強度を高めるのに有効であり、例えば溶液全体に対して0.1〜5質量%含有させても良く、より好ましくは0.1〜3質量%含有させてもよく、特には0.2〜2質量%含有させてもよい。
【0026】
本発明の製造方法に用いるセルロースアシレートフィルムの作製に用いられるセルロースアシレート溶液の溶媒として好ましく用いられる有機溶媒の組み合せの例を以下に挙げるが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、比率の数値は、質量部を意味する。
(1)ジクロロメタン/メタノール/エタノール/ブタノール=80/10/5/5
(2)ジクロロメタン/メタノール/エタノール/ブタノール=80/5/5/10
(3)ジクロロメタン/イソブチルアルコール=90/10
(4)ジクロロメタン/アセトン/メタノール/プロパノール=80/5/5/10
(5)ジクロロメタン/メタノール/ブタノール/シクロヘキサン=80/8/10/2
(6)ジクロロメタン/メチルエチルケトン/メタノール/ブタノール=80/10/5/5
(7)ジクロロメタン/ブタノール=90/10
(8)ジクロロメタン/アセトン/メチルエチルケトン/エタノール/ブタノール=68/10/10/7/5
(9)ジクロロメタン/シクロペンタノン/メタノール/ペンタノール=80/2/15/3
(10)ジクロロメタン/メチルアセテート/エタノール/ブタノール=70/12/15/3
(11)ジクロロメタン/メチルエチルケトン/メタノール/ブタノール=80/5/5/10
(12)ジクロロメタン/メチルエチルケトン/アセトン/メタノール/ペンタノール=50/20/15/5/10
(13)ジクロロメタン/1,3−ジオキソラン/メタノール/ブタノール=70/15/5/10
(14)ジクロロメタン/ジオキサン/アセトン/メタノール/ブタノール=75/5/10/5/5
(15)ジクロロメタン/アセトン/シクロペンタノン/エタノール/イソブチルアルコール/シクロヘキサン=60/18/3/10/7/2
(16)ジクロロメタン/メチルエチルケトン/アセトン/イソブチルアルコール=70/10/10/10
(17)ジクロロメタン/アセトン/エチルアセテート/ブタノール/ヘキサン=69/10/10/10/1
(18)ジクロロメタン/メチルアセテート/メタノール/イソブチルアルコール=65/15/10/10
(19)ジクロロメタン/シクロペンタノン/エタノール/ブタノール=85/7/3/5
(20)ジクロロメタン/メタノール/ブタノール=83/15/2
(21)ジクロロメタン=100
(22)アセトン/エタノール/ブタノール=80/15/5
(23)メチルアセテート/アセトン/メタノール/ブタノール=75/10/10/5
(24)1,3−ジオキソラン=100
(25)ジクロロメタン/メタノール/ブタノール/水=85/18/1.5/0.5
(26)ジクロロメタン/アセトン/メタノール/ブタノール/水=87/5/5/2.5/0.5
(27)ジクロロメタン/メタノール=92/8
(28)ジクロロメタン/メタノール=90/10
(29)ジクロロメタン/メタノール=87/13
(30)ジクロロメタン/エタノール=90/10
【0027】
また、場合により、非ハロゲン系有機溶媒を主溶媒とすることもでき、詳細な記載は発明協会公開技報(公技番号2001−1745、2001年3月15日発行、発明協会)に記載がある。
【0028】
(溶液濃度)
調製する前記セルロースアシレート溶液中のセルロースアシレート濃度は、5〜40質量%が好ましく、10〜30質量%がさらに好ましく、15〜30質量%が最も好ましい。
前記セルロースアシレート濃度は、セルロースアシレートを溶媒に溶解する段階で所定の濃度になるように調整することができる。また予め低濃度(例えば4〜14質量%)の溶液を調製した後に、溶媒を蒸発させる等によって濃縮してもよい。さらに、予め高濃度の溶液を調製後に、希釈してもよい。また、添加剤を添加することで、セルロースアシレートの濃度を低下させることもできる。
【0029】
(添加剤)
本発明の製造方法に用いるポリマーフィルムの作製に用いられる前記ポリマー溶液は、各調製工程において用途に応じた各種の液体または固体の添加剤を含むことができる。本発明のセルロースアシレートフィルムに好ましく用いられる添加剤は、分子量3000以下の添加剤であり、レタデーションの湿度依存性を低減したり、ReとRthとのバランスを調整したりするのに適宜、用いることができる。特に、Rth/Re値を上昇させたい場合には、前記分子量3000以下の添加剤は、芳香環を1個以上有する化合物であることが好ましい。前記添加剤の例としては、可塑剤(好ましい添加量はポリマーに対して0.01〜10質量%、以下同様)、紫外線吸収剤(0.001〜1質量%)、平均粒子サイズが5〜3000nmである微粒子(0.001〜7.5質量%)、フッ素系界面活性剤(0.001〜1質量%)、剥離剤(0.0001〜1質量%)、劣化防止剤(0.0001〜1質量%)、光学異方性制御剤(0.01〜10質量%)、赤外線吸収剤(0.001〜1質量%)が含まれる。
【0030】
前記光学異方性制御剤は、分子量3000以下の有機化合物であり、好ましくは疎水部と親水部とを併せ持つ化合物である。これらの化合物は、ポリマー鎖間で配向することにより、レタデーション値を変化させる。さらに、これらの化合物は、本発明で特に好ましく用いられるセルロースアシレートと併用することで、フィルムの疎水性を向上させ、レタデーションの湿度変化を低減させることができる。また、前記紫外線吸収剤や前記赤外線吸収剤を併用することで、効果的にレタデーションの波長依存性を制御することもできる。本発明のセルロースアシレートフィルムに用いられる添加剤は、いずれも乾燥過程での揮散が実質的にないものが好ましい。
【0031】
目的とするRe、Rth値によっては、熱処理前のフィルムのRthをあまり変化させなかったり、下降させたりするような効果のある光学異方性制御剤も好ましく用いることができる。このような添加剤を添加することにより、熱処理時のポリマー分子の運動性を向上させることができるため、本発明の製造方法により製造されるセルロースアシレートフィルムのReやRthの発現性をさらに調整することができる。例えば、レタデーション上昇剤等の光学異方性制御剤を組み合わせることにより、Nzが0〜1であるセルロースアシレートフィルムだけでなく、Nzが0未満や1より大きいセルロースアシレートフィルムも適宜、製造することができる。
【0032】
レタデーションの湿度変化低減を図る観点からは、これらの添加剤の添加量は多いほうが好ましいが、添加量の増大に伴い、ポリマーフィルムのガラス転移温度(Tg)低下や、フィルムの製造工程における添加剤の揮散問題を引き起こしやすくなる。従って、本発明においてより好ましく用いられるセルロースアセテートをポリマーとして用いる場合、前記分子量3000以下の添加剤の添加量は、前記セルロースアシレートに対して30質量%以下が好ましく、0.1〜30質量%がより好ましく、2〜20質量%がさらに好ましい。
【0033】
Rth/Re値を上昇させる観点からは、具体的には、芳香環を1個以上有する化合物が好ましく、2〜15個有することがより好ましく、3〜10個有することがさらに好ましい。化合物中の芳香環以外の各原子は、芳香環と同一平面に近い配置であることが好ましく、芳香環を複数有している場合には、芳香環同士も同一平面に近い配置であることが好ましい。また、Rthを選択的に上昇させるため、添加剤のフィルム中での存在状態は、芳香環平面がフィルム面と平行な方向に存在していることが好ましい。このような化合物の具体例としては、例えば、特開2006−235483号公報の6〜38頁に「レタデーション上昇剤」として記載があり、これらを適宜用いることができ、中でも下記A1構造の化合物が特に好ましい。
【0034】
【化1】

前記添加剤は、単独で使用しても良いし、2種類以上の添加剤を組み合わせて使用しても良い。
【0035】
本発明においてポリマーとしてセルロースアシレートを用いる場合に好適に用いることのできる添加剤については、特開2005−104148号公報に記載がある。また、赤外吸収剤については、特開2001−194522号公報に記載がある。添加剤を添加する時期は、添加剤の種類に応じて適宜決定することができる。
また、本発明においては、下記の高分子系可塑剤を添加剤として好ましく用いることもできる。
【0036】
ここで、本発明における高分子系可塑剤は、その化合物中に繰り返し単位部分を有することを特徴とする。本発明の高分子可塑剤は、その数平均分子量が500〜3000であるが、好ましくは数平均分子量600〜2800であり、さらに好ましくは数平均分子量700〜2500であり、特に好ましくは数平均分子量700〜2000である。ただし、本発明における高分子系可塑剤は、このような繰り返し単位部分を有する化合物のみからなるものに限定されることはなく、繰り返し単位を有さない化合物との混合物であってもよい。
【0037】
また、本発明の高分子系可塑剤は使用する環境温度あるいは湿度下で(一般には室温状況、所謂25℃、相対湿度60%)、液体であっても固体であっても良い。また、その色味は少ないほど良好であり特に無色であることが好ましい。熱的にはより高温において安定であることが好ましく、分解開始温度が150℃以上、さらに200℃以上が好ましい。
以下、本発明に用いられる高分子系可塑剤について、その具体例を挙げながら詳細に説明するが、本発明で用いることができる高分子系可塑剤はこれらに限定されるものではない。
【0038】
(高分子系可塑剤の種類)
本発明のポリマーフィルムに用いることのできる高分子系可塑剤としては、特に限定されないが、ポリエステル系可塑剤、ポリエーテル系可塑剤、ポリウレタン系可塑剤、ポリエステルポリウレタン系可塑剤、ポリエステルポリエーテル系可塑剤、ポリエーテルポリウレタン系可塑剤、ポリアミド系可塑剤、ポリスルフォン系可塑剤、ポリスルフォンアミド系可塑剤、後述するその他の高分子系可塑剤から選択される少なくとも1種の数平均分子量が500以上の可塑剤を好ましく挙げることができる。
【0039】
そのうち少なくとも1種は、ポリエステル系可塑剤、ポリエーテル系可塑剤、ポリウレタン系可塑剤、ポリエステルポリウレタン系可塑剤、ポリエステルポリエーテル系可塑剤、ポリエーテルポリウレタン系可塑剤、ポリアミド系可塑剤、ポリスルフォン系可塑剤、ポリスルフォンアミド系可塑剤であることがさらに好ましく、特にはポリエステル系可塑剤、ポリエステルポリウレタン系可塑剤、ポリエステルポリエーテル系可塑剤であることが好ましい。以下に、本発明で好ましく用いられる高分子系可塑剤について種類別に記述する。
【0040】
(ポリエステル系可塑剤)
まず、本発明で用いられるポリエステル系可塑剤について説明する。好ましいポリエステル系可塑剤としては、特に限定されないが、ジカルボン酸とグリコールの反応によって得られるものであり、反応物の両末端は反応物のままでもよいが、さらにモノカルボン酸やモノアルコールを反応させて、所謂末端の封止を実施してもよい。この末端封止は、特にフリーなカルボン酸を含有させないために実施されることが、保存性などの点で有効である。本発明のポリエステル系可塑剤に使用されるジカルボン酸は、炭素数4〜12の脂肪族ジカルボン酸残基または炭素数8〜12の芳香族ジカルボン酸残基であることが好ましい。
【0041】
本発明で好ましく用いられるポリエステル系可塑剤の炭素数4〜12のアルキレンジカルボン酸成分としては、例えば、コハク酸、マレイン酸、フマル酸、グルタル酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカンジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸等がある。また炭素数8〜12のアリーレンジカルボン酸成分としては、フタル酸、テレフタル酸、1,5−ナフタレンジカルボン酸、1,4−ナフタレンジカルボン酸等がある。これらは、それぞれ1種または2種以上の混合物として使用される。次にポリエステル系可塑剤に利用されるグリコールについて記すと、炭素数が2〜12の脂肪族または脂環式グリコール残基、炭素数6〜12の芳香族グリコール残基を表わす。
【0042】
炭素原子2〜12個の脂肪族グリコールまたは脂環式グリコール類としては、エチレングリコール、1,2−プロピレングリコール、1,3−プロピレングリコール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、2−メチル−1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、2,2−ジメチル−1,3−プロパンジオール(ネオペンチルグリコール)、2,2−ジエチル−1,3−プロパンジオール(3,3−ジメチロ−ルペンタン)、2−n−ブチル−2−エチル−1,3プロパンジオール(3,3−ジメチロールヘプタン)、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオール、2−エチル−1,3−ヘキサンジオール、2−メチル−1,8−オクタンジオール、1,9−ノナンジオール、1,10−デカンジオール、1,12−オクタデカンジオール等があり、これらのグリコールは、1種または2種以上の混合物として使用される。
【0043】
また、本発明のポリエステル可塑剤の両末端がカルボン酸とならないように、モノアルコール残基やモノカルボン酸残基で保護することが好ましい。その場合、モノアルコール残基としては炭素数1〜30の置換、無置換のモノアルコール残基が好ましく、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、イソブタノール、ペンタノール、イソペンタノール、ヘキサノール、イソヘキサノール、シクロヘキシルアルコール、オクタノール、イソオクタノール、2−エチルヘキシルアルコール、ノニルアルコール、イソノニルアルコール、tert−ノニルアルコール、デカノール、ドデカノール、ドデカヘキサノール、ドデカオクタノール、アリルアルコール、オレイルアルコールなどの脂肪族アルコール、ベンジルアルコール、3−フェニルプロパノールなどの置換アルコールなどが挙げられる。
【0044】
好ましく使用され得る末端封止用アルコール残基は、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、イソブタノール、イソペンタノール、ヘキサノール、イソヘキサノール、シクロヘキシルアルコール、イソオクタノール、2−エチルヘキシルアルコール、イソノニルアルコール、オレイルアルコール、ベンジルアルコールであり、特にはメタノール、エタノール、プロパノール、イソブタノール、シクロヘキシルアルコール、2−エチルヘキシルアルコール、イソノニルアルコール、ベンジルアルコールである。
【0045】
また、モノカルボン酸残基で封止する場合は、モノカルボン酸残基として使用されるモノカルボン酸は、炭素数1〜30の置換、無置換のモノカルボン酸が好ましい。これらは、脂肪族モノカルボン酸でも芳香族カルボン酸でもよい。まず好ましい脂肪族モノカルボン酸について記述すると、酢酸、プロピオン酸、ブタン酸、カプリル酸、カプロン酸、デカン酸、ドデカン酸、ステアリン酸、オレイン酸が挙げられ、芳香族モノカルボン酸としては、例えば安息香酸、p−tert−ブチル安息香酸、オルソトルイル酸、メタトルイル酸、パラトルイル酸、ジメチル安息香酸、エチル安息香酸、ノルマルプロピル安息香酸、アミノ安息香酸、アセトキシ安息香酸等があり、これらはそれぞれ1種または2種以上の混合物として使用することができる。
【0046】
以上、具体的な好ましいポリエステル系可塑剤としては、ポリ(エチレングリコール/アジピン酸)エステル、ポリ(プロピレングリコール/アジピン酸)エステル、ポリ(1,3−ブタンジオール/アジピン酸)エステル、ポリ(プロピレングリコール/セバチン酸)エステル、ポリ(1,3−ブタンジオール/セバチン酸)エステル、ポリ(1,6−ヘキサンジオール/アジピン酸)エステル、ポリ(プロピレングリコール/フタル酸)エステル、ポリ(1,3−ブタンジオール/フタル酸)エステル、ポリ(プロピレングリコール/テレフタル酸)エステル、ポリ(プロピレングリコール/1,5−ナフタレン−ジカルボン酸)エステル、ポリ(プロピレングリコール/テレフタル酸)エステルの両末端が2−エチル−ヘキシルアルコールエステル/ポリ(プロピレングリコール、アジピン酸)エステルの両末端が2−エチル−ヘキシルアルコールエステル、アセチル化ポリ(ブタンジオール/アジピン酸)エステル、などを挙げることができる。
【0047】
かかるポリエステル類の合成は常法により、上記二塩基性酸またはこれらのアルキルエステル類とグリコール類とのポリエステル化反応またはエステル交換反応による熱溶融縮合法か、あるいはこれら酸の酸クロライドとグリコール類との界面縮合法のいずれかの方法によっても容易に合成し得るものである。これらのポリエステル系可塑剤については、村井孝一編者「可塑剤 その理論と応用」(株式会社幸書房、昭和48年3月1日初版第1版発行)に詳細な記載がある。また、特開平05−155809号、特開平05−155810号、特開平5−197073号、特開2006−259494号、特開平07−330670号、特開2006−342227号、特開2007−003679号各公報などに記載されている素材を利用することもできる。
【0048】
また、商品として、株式会社ADEKAからポリエステル系可塑剤としてDIARY 2007、55頁〜27頁に記載にアデカサイザー(アデカサイザーPシリーズ、アデカサイザーPNシリーズとして各種あり)を使用でき、また大日本インキ化学工業株式会社「ポリマ関連製品一覧表2007年版」25頁に記載のポリライト各種の商品や、大日本インキ化学工業株式会社「DICのポリマ改質剤」(2004.4.1.000VIII発行)2頁〜5頁に記載のポリサイザー各種を利用できる。さらに、米国 CP HALL 社製のPlasthall Pシリーズとして入手できる。ベンゾイル官能化ポリエーテルは、イリノイ州ローズモントのベルシコルケミカルズ(Velsicol Chemicals)から商品名BENZOFLEXで商業的に販売されている(例えば、BENZOFLEX400、ポリプロピレングリコールジベンゾエート)。
【0049】
(ポリエステルポリエーテル系可塑剤)
次に、本発明で用いられるポリエステルポリエーテル系可塑剤について説明する。本発明のポリエステルポリエーテル系可塑剤とは、ジカルボン酸とポリエーテルジオールとの縮合ポリマーを示すものである。ジカルボン酸としては、ポリエステル系可塑剤で記述した炭素数4〜12の脂肪族ジカルボン酸残基または炭素数8〜12の芳香族ジカルボン酸残基をそのまま使用するものである。
【0050】
次に炭素原子2〜12個の脂肪族グリコールを有するポリエーテル類としては、ポリエチレンエーテルグリコール、ポリプロピレンエーテルグリコール、ポリテトラメチレンエーテルグリコールならびにこれらの組み合わせが挙げられる。典型的に有用な市販のポリエーテルグリコール類としては、カーボワックス(Carbowax)レジン、プルロニックス(Pluronics)レジンおよびニアックス(Niax)レジンが挙げられる。本発明に使用されるポリエステルポリエーテル系可塑剤の製造に際しては、当業者に周知の常用されている重合法が使用できる。
【0051】
これらのポリエステルエーテル系可塑剤としては、米国特許第4,349,469号明細書に記載されているポリエステルポリエーテル系可塑剤などが挙げられる。基本的に、例えばジカルボン酸として1,4−シクロヘキサンジカルボン酸と、ポリエーテルとして1,4−シクロヘキサンジメタノールおよびポリテトラメチレンエーテルグリコールなどから合成されるポリエステルポリエーテル系可塑剤である。その他の有用なポリエステルポリエーテル系可塑剤としては、DuPont製のハイテレル(Hytrel)コポリエステル類やGAF製のガルフレック(Galflex)ポリマーのようなコポリマーのごとき市販のレジンが挙げられる。これらは、特開平5−197073号公報に記載の素材を利用できる。株式会社ADEKAからアデカサイザーRSシリーズとして市販されており利用できる。また、アルキル官能化ポリアルキレンオキシドであるポリエステルエーテル系可塑剤は、デラウェア州ウィルミントンのアイシーアイ(ICI Chemicals)から商品名PYCALで商業的に販売されている(例えば、PYCAL94、ポリエチレンオキシドのフェニルエステル)。
【0052】
(ポリエステルポリウレタン系可塑剤)
さらに、本発明で用いられるポリエステルポリウレタン系可塑剤について説明する。該可塑剤は、ポリエステルとイソシアナート化合物の縮合で得ることができる。まず、ポリエステルとしては、両末端を封止する前のポリエステル系可塑剤をそのまま使用でき、ポリエステル系可塑剤で前述した素材を好ましく利用できる。
【0053】
ポリウレタン構造を形成するジイソシアナート成分としては、エチレンジイソシアナート、トリメチレンジイソシアナート、テトラメチレンジイソシアナート、ヘキサメチレンジイソシアナート等で代表されるOCN(CH2p NCO(p=2〜8)ポリメチレンイソシアナート並びに、p−フェニレンジイソシアナート、トリレンジイソシアナート、p,p′−ジフェニルメタンジイソシアナート、1,5−ナフチレンジイソシアナート等の芳香族ジイソシアナート、さらには、m−キシリレンジイソシアナート等が用いられるが、これらに制限されるものではない。これらの中でも、特にトリレンジイソシアナート、m−キシリレンジイソシアナート、テトラメチレンジイソシアナートが好ましいものである。
【0054】
本発明においてポリエステルポリウレタン系可塑剤の合成は、原料のポリエステルジオール類とジイソシアナートとを混じ攪拌下加熱させる常法の合成法により、容易に得る事ができる。これらは、特開平5−197073号、特開2001−122979号、特開2004−175971号、特開2004−175972号各公報などに記載してある素材を利用できる。
【0055】
(その他の高分子系可塑剤)
本発明においては、前述したポリエステル系可塑剤、ポリエステルポリエーテル系可塑剤やポリエステルポリウレタン系可塑剤だけでなく、その他の高分子系可塑剤も使用し得るものである。該高分子系可塑剤としては、脂肪族炭化水素系ポリマー、脂環式炭化水素系ポリマー、ポリアクリル酸エステル、ポリメタクリル酸エステル等のアクリル系ポリマー(エステル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、イソブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、シクロヘキシル基、オクチル基、2−エチルヘキシル基、ノニル基、イソノニル基、tert−ノニル基、ドデシル基、トリデシル基、ステアリル基、オレイル基、ベンジル基、フェニル基など)、ポリビニルイソブチルエーテル、ポリN−ビニルピロリドン等のビニル系ポリマー、ポリスチレン、ポリ4−ヒドロキシスチレン等のスチレン系ポリマー、ポリエチレンオキシド、ポリプロピレンオキシド等のポリエーテル、ポリアミド、ポリウレタン、ポリウレア、フェノール−ホルムアルデヒド縮合物、尿素−ホルムアルデヒド縮合物、酢酸ビニル、等が挙げられる。
【0056】
これらポリマー可塑剤は1種の繰り返し単位からなる単独重合体でも、複数の繰り返し構造体を有する共重合体でも良い。また、上記ポリマーを2種以上併用して用いても良い。これらの高分子量可塑剤は、各々単独で用いても良く、またこれらを混合して用いても同様の効果が得られる。これらの中でも、ポリアクリル酸エステル、ポリメタクリル酸エステルあるいは他のビニルモノマーとの共重合度体が好ましく、特にはポリアクリル酸エステル、ポリメタクリル酸エステル等のアクリル系ポリマー(エステル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ヘキシル基、シクロヘキシル基、2−エチルヘキシル基、イソノニル基、オレイル基)を基本とする高分子可塑剤が好ましい。
【0057】
(具体的な高分子可塑剤の例)
以下に、好ましい高分子系可塑剤の具体例を記すが、本発明で用いることができる高分子系可塑剤はこれらに限定されるものではない。
PP−1: エタンジオール/コハク酸(1/1モル比)との縮合物(数平均分子量2500)
PP−2: 1,3−プロパンジオール/グルタル酸(1/1モル比)との縮合物(数平均分子量1500)
PP−3: 1,3−プロパンジオール/アジピン酸(1/1モル比)との縮合物(数平均分子量1300)
PP−4: 1,3−プロパンジオール/エチレングリコール/アジピン酸(1/1/2モル比)との縮合物(数平均分子量1500)
PP−5: 2−メチル−1,3−プロパンジオール/アジピン酸(1/1モル比)との縮合物(数平均分子量1200)
PP−6: 1,4−ブタンジオール/アジピン酸(1/1モル比)との縮合物(数平均分子量1500)
PP−7: 1,4−シクロヘキサンジオール/コハク酸(1/1モル比)との縮合物(数平均分子量800)
【0058】
PP−8: 1,3−プロパンジオール/コハク酸(1/1モル比)との縮合物の両末端のブチルエステル化体(数平均分子量1300)
PP−9: 1,3−プロパンジオール/グルタル酸(1/1モル比)との縮合物の両末端のシクロヘキシルエステル化体(数平均分子量1500)
PP−10: エタンジオール/コハク酸(1/1モル比)との縮合物の両末端の2−エチルヘキシルエステル化体(数平均分子量3000)
PP−11: 1,3−プロパンジオール/エチレングリコール/アジピン酸(1/1/2モル比)との縮合物の両末端のイソノニルエステル化体(数平均分子量1500)
PP−12: 2−メチル−1,3−プロパンジオール/アジピン酸(1/1モル比)との縮合物の両末端のプロピルエステル化体(数平均分子量1300)
PP−13: 2−メチル−1,3−プロパンジオール/アジピン酸(1/1モル比)との縮合物の両末端の2−エチルヘキシルエステル化体(数平均分子量1300)
PP−14: 2−メチル−1,3−プロパンジオール/アジピン酸(1/1モル比)との縮合物の両末端のイソノニルエステル化体(数平均分子量1300)
PP−15: 1,4−ブタンジオール/アジピン酸(1/1モル比)との縮合物の両末端のブチルエステル化体(数平均分子量1800)
【0059】
PP−16: エタンジオール/テレフタル酸(1/1モル比)との縮合物(数平均分子量2000)
PP−17: 1,3−プロパンジオール/1,5−ナフタレンジカルボン酸(1/1モル比)との縮合物(数平均分子量1500)
PP−18: 2−メチル−1,3−プロパンジオール/イソフタル酸(1/1モル比)との縮合物(数平均分子量1200)
PP−19: 1,3−プロパンジオール/テレフタル酸(1/1モル比)との縮合物両末端のベンジルエステル化体(数平均分子量1500)
PP−20: 1,3−プロパンジオール/1,5−ナフタレンジカルボン酸両末端のプロピルエステル化体(1/1モル比)との縮合物(数平均分子量1500)
PP−21: 2−メチル−1,3−プロパンジオール/イソフタル酸(1/1モル比)との縮合物両末端のブチルエステル化体(数平均分子量1200)
【0060】
PP−22: ポリ(平均重合度5)プロピレンエーテルグリコール/コハク酸(1/1モル比)との縮合物(数平均分子量1800)
PP−23: ポリ(平均重合度3)エチレンエーテルグリコール/グルタル酸(1/1モル比)との縮合物(数平均分子量1600)
PP−24: ポリ(平均重合度4)プロピレンエーテルグリコール/アジピン酸(1/1モル比)との縮合物(数平均分子量2200)
PP−25: ポリ(平均重合度4)プロピレンエーテルグリコール/フタル酸(1/1モル比)との縮合物(数平均分子量1500)
【0061】
PP−26: ポリ(平均重合度5)プロピレンエーテルグリコール/コハク酸(1/1モル比)との縮合物両末端のブチルエステル化体(数平均分子量1900)
PP−27: ポリ(平均重合度3)エチレンエーテルグリコール/グルタル酸(1/1モル比)との縮合物両末端の2−エチルヘキシルエステル化体(数平均分子量1700)
PP−28: ポリ(平均重合度4)プロピレンエーテルグリコール/アジピン酸(1/1モル比)との縮合物両末端のtert−ノニルエステル化体(数平均分子量1300)
PP−29: ポリ(平均重合度4)プロピレンエーテルグリコール/フタル酸(1/1モル比)との縮合物両末端のプロピルエステル化体(数平均分子量1600)
PP−29’: エタンジオール/アジピン酸(1/1モル比)との縮合物(数平均分子量1000)
【0062】
PP−30: 1,3−プロパンジオール/コハク酸(1/1モル比)との縮合物(数平均分子量1500)をトリメチレンジイソシアナート(1モル)で縮合したポリエステルウレタン化合物、
PP−31: 1,3−プロパンジオール/グルタル酸(1/1モル比)との縮合物(数平均分子量1200)をテトラメチレンジイソシアナート(1モル)で縮合したポリエステル−ウレタン化合物
PP−32: 1,3−プロパンジオール/アジピン酸(1/1モル比)との縮合物(数平均分子量1000)をp−フェニレンジイソシアナート(1モル)で縮合したポリエステル−ウレタン化合物
PP−33: 1,3−プロパンジオール/エチレングリコール/アジピン酸(1/1/2モル比)との縮合物(数平均分子量1500)をトリレンジイソシアナート(1モル)で縮合したポリエステル−ウレタン化合物
PP−34: 2−メチル−1,3−プロパンジオール/アジピン酸(1/1モル比)との縮合物(数平均分子量1200)をm−キシリレンジイソシアナート(1モル)で縮合したポリエステル−ウレタン化合物
PP−35: 1,4−ブタンジオール/アジピン酸(1/1モル比)との縮合物(数平均分子量1500)をテトラメチレンジイソシアナート(1モル)で縮合したポリエステル−ウレタン化合物
【0063】
PP−36: ポリイソプロピルアクリレート(数平均分子量1300)
PP−37: ポリブチルアクリレート(数平均分子量1300)
PP−38: ポリイソプロピルメタクリレート(数平均分子量1200)
PP−39: ポリ(メチルメタクリレート/ブチルメタクリレート(モル比8/2、数平均分子量1600)
PP−40: ポリ(メチルメタクリレート/2−エチルヘキシルメタクリレート(モル比9/1、数平均分子量1600)
PP−41: ポリ(ビニルアセテート(数平均分子量2400)
【0064】
(微粒子)
本発明のセルロースアシレートフィルムに用いることのできる前記微粒子の種類としては、特に限定されないが、下記の無機物および/または有機物を単独もしくは2種類以上組み合わせて用いることが好ましい。なお、前記微粒子は粉体であることが好ましい。
【0065】
例えば、前記無機物として用いられる無機粒子としては二酸化珪素、酸化チタン、酸化アルミニウム、水酸化アルミニウム、酸化錫、酸化亜鉛、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、タルク、カオリン、硫酸カルシウム等を挙げることができ、また有機粒子としては、アクリル樹脂、有機シリコーン樹脂、ポリスチレン、尿素樹脂、ホルムアルデヒド縮合物、ポリメタアクリル酸メチルアクリレート樹脂、アクリルスチレン系樹脂、ポリメチルメタクリレート樹脂、シリコン系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリカーボネート樹脂、ベンゾグアナミン系樹脂、メラミン系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリイミド系樹脂、あるいはポリ弗化エチレン系樹脂等からなるものが用いられるが、特にこれらに限定されるものではない。
【0066】
前記無機物として用いられる二酸化珪素の微粒子としては、例えば、アエロジルR972、R972V、R974、R812、200、200V、300、R202、OX50、TT600(以上日本アエロジル(株)製)等の商品名を有する市販品が使用できる。
【0067】
前記無機物として用いられる酸化ジルコニウムの微粒子としては、例えば、アエロジルR976及びR811(以上日本アエロジル(株)製)等の商品名で市販されているものが使用できる。
【0068】
前記有機物としては、例えば、シリコーン樹脂、弗素樹脂及びアクリル樹脂等のポリマーが好ましく、中でも、シリコーン樹脂が好ましく用いられる。
【0069】
前記シリコーン樹脂の中でも、特に三次元の網状構造を有するものが好ましく、例えば、トスパール103、同105、同108、同120、同145、同3120及び同240(以上東芝シリコーン(株)製)等の商品名を有する市販品が使用できる。
【0070】
本発明の製造方法は、前記ヘイズを有するセルロースアシレートフィルムが、前記微粒子をセルロースアシレートに対して0〜7.5質量%含有することが好ましい。詳しくは、前記微粒子の添加量は、セルロースアシレートに対して0〜7.5質量%であることが好ましく、0〜3.0質量%であることがより好ましく、0.001〜1.0質量%であることがさらに好ましく、0.01〜0.5質量%であることが最も好ましい。0.001質量%以上の添加量とすることは、製造時におけるフィルムの搬送性向上の観点から好ましく、7.5質量%以下の添加量とすることは、フィルムの脆性確保の観点から好ましい。本発明の如く、偏光膜とオンラインで直接貼り合わせることが可能であるセルロースアシレートを用いたフィルムの脆性に関しては、ポリエステル等の屈曲性の骨格を有するポリマーを用いたフィルムと比較して、セルロースアシレートのポリマー骨格が剛直であることに起因する本質的な課題であると考えられるため、可塑剤等を添加したとしても、微粒子の添加量は十分に注意して制御する必要があり、上述の範囲とする必要がある。特に、セルロースアシレートフィルムが配向しており、音波伝播速度が最大となる方向の音波伝播速度と、これと直交する方向の音波伝播速度との比が、1.05以上である場合には、脆性の課題がさらに顕著に現れるため、微粒子の添加量には特に注意する必要がある。
脆性の観点に加え、本発明の製造方法に用いるセルロースアシレートフィルムは、後述の熱処理・延伸工程を行うことにより、レタデーション発現性に優れ、且つヘイズの低いセルロースアシレートフィルムを得るが、微粒子の添加量が上述の範囲内であると、熱処理・延伸工程後のヘイズを十分に低下させることができるため、好ましい。
【0071】
(セルロースアシレート溶液の調製)
前記セルロースアシレート溶液の調製は、例えば、特開昭58−127737号公報、同61−106628号公報、特開平2−276830号公報、同4−259511号公報、同5−163301号公報、同9−95544号公報、同10−45950号公報、同10−95854号公報、同11−71463号公報、同11−302388号公報、同11−322946号公報、同11−322947号公報、同11−323017号公報、特開2000−53784号公報、同2000−273184号公報、同2000−273239号公報に記載されている調製方法に準じて行うことができる。具体的には、ポリマーと溶媒とを混合攪拌し膨潤させ、場合により冷却や加熱等を実施して溶解させた後、これをろ過してセルロースアシレート溶液を得る。
【0072】
本発明においては、ポリマーの溶媒への溶解性を向上させるため、ポリマーと溶媒の混合物を冷却および/または加熱する工程を含むことが好ましい。
溶媒としてハロゲン系有機溶媒を用い、セルロースアシレートと溶媒の混合物を冷却する場合、混合物を−100〜10℃に冷却する工程を含むことが好ましい。また、冷却工程より前の工程に−10〜39℃で膨潤させる工程を含み、冷却より後の工程に0〜39℃に加温する工程を含むことが好ましい。
【0073】
溶媒としてハロゲン系有機溶媒を用い、セルロースアシレートと溶媒の混合物を加熱する場合、下記(a)または(b)より選択される1以上の方法で溶媒中にセルロースアシレートを溶解する工程を含むことが好ましい。
(a)−10〜39℃で膨潤させ、得られた混合物を0〜39℃に加温する。
(b)−10〜39℃で膨潤させ、得られた混合物を0.2〜30MPaで40〜240℃に加熱し、加熱した混合物を0〜39℃に冷却する。
さらに、溶媒として非ハロゲン系有機溶媒を用い、セルロースアシレートと溶媒の混合物を冷却する場合、混合物を−100〜−10℃に冷却する工程を含むことが好ましい。また、冷却工程より前の工程に−10〜55℃で膨潤させる工程を含み、冷却より後の工程に0〜57℃に加温する工程を含むことが好ましい。
【0074】
溶媒としてハロゲン系有機溶媒を用い、セルロースアシレートと溶媒の混合物を加熱する場合、下記(c)または(d)より選択される1以上の方法で溶媒中にセルロースアシレートを溶解する工程を含むことが好ましい。
(c)−10〜55℃で膨潤させ、得られた混合物を0〜57℃に加温する。
(d)−10〜55℃で膨潤させ、得られた混合物を0.2〜30MPaで40〜240℃に加熱し、加熱した混合物を0〜57℃に冷却する。
【0075】
[本発明の製造方法に用いるセルロースアシレートフィルムの製膜]
本発明の製造方法に用いるセルロースアシレートフィルムは、上記のセルロースアシレート溶液を用いて溶液流延製膜方法により製造することができる。溶液流延製膜方法の実施に際しては、従来の方法に従い、従来の装置を用いることができる。具体的には、溶解機(釜)で調製されたドープ(セルロースアシレート溶液)を、ろ過後、貯蔵釜で一旦貯蔵し、ドープに含まれている泡を脱泡して最終調製することができる。ドープは30℃に保温し、ドープ排出口から、例えば回転数によって高精度に定量送液できる加圧型定量ギヤポンプを通して加圧型ダイに送り、ドープを加圧型ダイの口金(スリット)からエンドレスに走行している流延部の金属支持体の上に均一に流延する(流延工程)。次いで、金属支持体がほぼ一周した剥離点で、生乾きのドープ膜(ウェブとも呼ぶ)を金属支持体から剥離し、続いて乾燥ゾーンへ搬送し、ロール群で搬送しながら乾燥を終了する。溶液流延製膜方法の流延工程、乾燥工程の詳細については、特開2005−104148号公報の120〜146頁にも記載があり、適宜本発明にも適用することができる。
【0076】
また、本発明の製造方法に用いるセルロースアシレートフィルムは、上記のセルロースアシレート溶液を用いずに溶融流延製膜方法により製造することができる。溶融流延製膜方法は、ポリマーを加熱して溶融したものを支持体上に流延し、冷却してフィルムを形成する方法である。ポリマーの融点、もしくはポリマーと各種添加剤との混合物の融点が、これらの分解温度よりも低くかつ延伸温度よりも高い場合には、溶融流延製膜方法を採用することが可能である。溶融流延製膜方法については、特開2000−352620号公報などに記載がある。
【0077】
本発明においては、熱処理前のセルロースアシレートフィルムの製膜の際に用いる金属支持体として金属バンドまたは金属ドラムを使用することができる。金属バンドを使用して製膜したセルロースアシレートフィルムを用い、且つ熱処理温度を(Tc+20)℃より高温に設定する場合は、熱処理後のフィルムのRthが低くなるという傾向があり、前記添加剤等、他のレタデーションを調整する要素にもよるが、Nzが0〜0.5であるフィルムを作製することができ、一方、熱処理温度をTc〜(Tc+20)℃に設定する場合には、前記添加剤等、他の要素にもよるが、Rthが高くなるという傾向がある。また、金属ドラムを使用して製膜したセルロースアシレートフィルムを用い、且つ熱処理温度を(Tc+20)℃より高温に設定する場合は、熱処理後のフィルムのRthが高くなるという傾向があり、前記添加剤等、他のレタデーションの調整する要素にもよるが、Nzが0.4以上、場合によりさらにNzが1未満の条件も満たすフィルムを作製することができ、一方、熱処理温度をTc〜(Tc+20)℃に設定する場合には、前記添加剤等、他の要素にもよるが、Rthが低くなるという傾向がある。これらの本発明の製造方法に用いるセルロースアシレートフィルムの熱処理後のRthの違いは、製膜過程でウェブにかかる外力が異なることに起因する、熱処理前のフィルム中に存在するセルロースアシレートポリマー鎖の面配向状態の違いが原因であると推測される。
【0078】
[予備延伸/ウェット延伸]
本発明の製造方法は、前記の方法によって製膜したセルロースアシレートフィルムを予備延伸することにより、前記ヘイズを有するセルロースアシレートフィルムを調製する工程を含むことが好ましい。すなわち、本発明の製造方法により製造されるセルロースアシレートフィルムのレタデーションを制御する際には、熱処理前のセルロースアシレートフィルムにかかる力学的な履歴、すなわち製膜過程においてセルロースアシレートウェブに与えられる外力を制御しておくことが好ましい。このとき、外力の調整により、本発明の製造方法に用いるセルロースアシレートフィルムの予備延伸の程度を調整することができ、添加剤や工程条件の調整によりヘイズを有さないセルロースアシレートフィルムとすることもでき、ヘイズを有するセルロースアシレートフィルムとすることもできる。これらウェット状態で予備延伸されたセルロースアシレートフィルムは、さらに後述のドライ状態での予備延伸を適宜併用してヘイズを調整することができるが、ウェット状態での予備延伸後のセルロースアシレートフィルムがヘイズを有さない場合には、少なくともドライ状態での予備延伸が併用される。なお、液晶テレビ用途で用いられる位相差フィルムにおいては、フィルムの搬送方向とフィルム面内の遅相軸の方向とが略直交であることが好ましいため、そのような外力は以下に示すように与えられることが好ましい。すなわち、具体的には、本発明の製造方法により製造されるセルロースアシレートフィルムが(Tc+20)℃より高温で熱処理され、大きなReを示し且つRthを低下させたい場合は、セルロースアシレートウェブを、好ましくは0.1%以上15%未満、より好ましくは0.5〜10%、さらに好ましくは1〜8%延伸する。なお、熱処理前のセルロースアシレートフィルムを搬送しながら作製する場合には、当該搬送方向へ、延伸することが好ましい。この延伸の際のセルロースアシレートウェブの残留溶媒量は、下記式に基づいて算出されるもので5〜1000%とする。残留溶媒量は、10〜200%であることが好ましく、30〜150%であることがより好ましく、40〜100%であることがさらに好ましい。
残留溶媒量(質量%)={(M−N)/N}×100
[式中、Mは、延伸ゾーンに挿入される直前のセルロースアシレートフィルムの質量、Nは、延伸ゾーンに挿入される直前のセルロースアシレートフィルムを110℃で3時間乾燥させたときの質量を表す]
【0079】
また、(Tc+20)℃より高温で熱処理され、大きなReを示し且つRthを上昇させたい場合は、セルロースアシレートウェブを、好ましくは15〜300%、より好ましくは18〜200%、さらに好ましくは20〜100%延伸する。なお、熱処理前のセルロースアシレートフィルムを搬送しながら作製する場合には、当該搬送方向へ、延伸することが好ましい。この延伸の際のセルロースアシレートウェブの残留溶媒量は、上記式に基づいて算出されるもので5〜1000%とする。残留溶媒量は、30〜500%であることが好ましく、50〜300%であることがより好ましく、80〜250%であることがさらに好ましい。
前記延伸の際のセルロースアシレートウェブの延伸倍率(伸び)は、金属支持体速度と剥ぎ取り速度(剥ぎ取りロールドロー)との周速差により達成することができる。
【0080】
他方、本発明の製造方法により製造されるセルロースアシレートフィルムがTc〜(Tc+20)℃で熱処理される場合には、セルロースアシレートウェブを、好ましくは0.1〜300%、より好ましくは0.5〜200%、さらに好ましくは1〜100%延伸する。このとき、熱処理前のセルロースアシレートフィルムを搬送しながら作製する場合には、当該搬送方向と直交する方向へ、延伸することが好ましい。この延伸の際のセルロースアシレートウェブの残留溶媒量は、上記式に基づいて算出されるもので、特に限定されないが、5〜1000%であり、10〜200%であることが好ましく、30〜150%であることがより好ましく、40〜100%であることがさらに好ましい。
前記延伸の際のセルロースアシレートウェブの延伸倍率は、セルロースアシレートウェブの両端をテンタークリップで把持し、搬送しながら該クリップ間の距離を変更することによりセルロースアシレートウェブの幅を拡縮することで達成することができる。このような延伸を行うことによって、レタデーションの発現性を調整することができる。
【0081】
残留溶媒量が5%以上の状態で延伸すれば比較的低温な環境で延伸することができ、残留溶媒量が1000%以下の状態で延伸すればセルロースアシレートポリマー鎖に外力を伝えやすいため配向を進めやすく、前記溶媒を含有した状態で実施されるセルロースアシレートウェブ延伸によるレタデーション発現性調整の効果が大きくなる傾向がある。なお、セルロースアシレートウェブの残留溶媒量は、前記セルロースアシレート溶液の濃度、金属支持体の温度や速度、乾燥風の温度や風量、乾燥雰囲気中の溶媒ガス濃度等を変更することにより、適宜調整することができる。
【0082】
さらに、前記セルロースアシレートウェブを伸ばす工程においては、ウェブの膜面温度はセルロースアシレートポリマーに外力を伝える観点から低いほうが好ましく、ウェブの温度を(Ts−100)〜(Ts−0.1)℃とすることが好ましく、(Ts−50)〜(Ts−1)℃とすることがより好ましく、(Ts−20)〜(Ts−3)℃とすることがさらに好ましい。ここで、Tsは流延支持体の表面温度を表し、流延支持体の温度が部分的に異なる温度に設定されている場合には、支持体中央部における表面温度のことを表す。
このようにして伸ばされる工程を経たセルロースアシレートウェブは、続いて乾燥ゾーンへ搬送し、場合によってはテンターで両端をクリップされたり、ロール群で搬送されたりしながら乾燥を終了する。
【0083】
このようにして乾燥の終了したフィルム中の残留溶剤量は0〜5質量%が好ましく、より好ましくは0〜2質量%であり、さらに好ましくは0〜1質量%であり、特に好ましくは0〜0.5質量%である。残留溶媒量が5.0質量%以下であると、効率的なヘイズ値上昇の観点から好ましく、熱処理後のレタデーション発現性を効率的に上昇させることができる。製膜したフィルムは、さらにヘイズを高める処理を行ってもよいし、フィルムを巻き取ってからオフラインで前記処理を実施してもよい。処理前のセルロースアシレートフィルムの好ましい幅は0.5〜5mであり、より好ましくは0.7〜3mである。また、一旦フィルムを巻き取る場合には、好ましい巻長は300〜30000mであり、より好ましくは500〜10000mであり、さらに好ましくは1000〜7000mである。
【0084】
製膜した本発明の製造方法に用いるセルロースアシレートフィルムの膜厚80μm換算の透湿度は、100g/(m2・day)以上であることが好ましく、100〜1500g/(m2・day)であることがより好ましく、200〜1000g/(m2・day)であることがさらに好ましく、300〜800g/(m2・day)であることが特に好ましい。
本発明における透湿度は、塩化カルシウムを入れたカップを評価するフィルムで蓋をして密閉したものを、40℃・相対湿度90%の条件で24時間放置した際の調湿前後の質量変化(g/(m2・day))から評価した値である。なお、透湿度は、温度の上昇に伴い上昇し、また、湿度の上昇に伴い上昇するが、各条件によらず、フィルム間における透湿度の大小関係は不変である。そのため、本発明においては40℃・相対湿度90%における前記質量変化の値を基準とする。また、透湿度は膜厚の上昇に伴い低下し、膜厚の低下に伴い上昇するため、まず実測した透湿度に実測した膜厚を乗じ、それを80で割った値を本発明における「膜厚80μm換算の透湿度」とした。
【0085】
(ヘイズを有するフィルムの調製)
本発明の製造方法では、ヘイズを有するセルロースアシレートフィルムを用いることを特徴とする。そのようにすることで、熱処理工程やその後の再延伸工程において、レタデーションの発現性を高めたり、Reあたりのヘイズ((フィルムのヘイズ値)/(フィルムのRe値))を低減させたりすることができる。ここで「ヘイズを有する」とは、フィルムを25℃、相対湿度60%にて24時間調湿後、ヘイズメーター(NDH 2000:日本電色工業(株)製)を用いて測定した値が0.4%以上、より好ましくは0.5%以上であることを意味する。本発明で用いるヘイズを有するセルロースアシレートフィルムは、ヘイズをフィルム面内および内部に均一に有していることが、均一な光学特性を有するフィルムを製造する上で好ましい。このようなヘイズを有するセルロースアシレートフィルムを製造する方法としては、前記ウェット状態での予備延伸による方法に加え、前記ヘイズを有さないセルロースフィルムを処理する方法や、微粒子化合物等を添加することによって製膜する方法等が挙げられる。特に限定されるものではないが、均一な光学特性を得る為には、前記ウェット状態での予備延伸による方法か、前記ヘイズを有さないセルロースアシレートフィルムを処理して、ヘイズを有するセルロースアシレートフィルムにする方法が好ましい。このような処理として、製膜したセルロースアシレートフィルムを後述のようにドライ状態で予備延伸する方法を好ましい例として挙げることができる。ドライ状態での予備延伸とは、後述の熱処理を行う前に実施する延伸を意味し、当該予備延伸を実施した後(例えば熱処理中や熱処理後)にさらに再延伸を行っても行わなくてもよい。該予備延伸を行うことにより、熱処理工程やその後の再延伸工程において、Reの発現性を高めたり、Reあたりのヘイズを低減させたり、該予備延伸の方向に直交する方向への大幅な寸法変化を抑えたりすることができる。具体的には、該予備延伸を後述の温度条件範囲内で行うことで、ヘイズを有するセルロースアシレートフィルムを製造することができる。特に、前記予備延伸において、もとのヘイズ値が小さいセルロースアシレートフィルムを予備延伸する態様が好ましく、その場合、ヘイズ値が0.4%未満のセルロースアシレートフィルムを予備延伸することによりヘイズ値が0.4%以上のセルロースアシレートフィルムを得ることが、熱処理・延伸後のヘイズを十分に低下させる観点から好ましい。また、延伸温度を低下させたり、延伸倍率を上昇させることにより、セルロースアシレートフィルムの有するヘイズ値を大きくすることができ、後述の熱処理時の熱処理温度を比較的低く設定したり、最終的に製造されるセルロースアシレートフィルムのReやRthの到達範囲をより大きくしたりすることが可能となる。なお、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内において、ウェット状態やドライ状態での予備延伸工程と、熱処理工程の間に他の工程を含んでいてもよい。
【0086】
[予備延伸/ドライ延伸]
本発明の製造方法では、ドライ状態での予備延伸の温度は特に限定されないが、本発明の製造方法に用いるセルロースアシレートフィルムのガラス転移温度をTg(単位;℃)としたとき、(Tg−20)〜(Tg+50)℃で行うことが好ましい。延伸温度が(Tg−20)℃以上であると、延伸ムラ低減やヘイズ値上昇の観点から好ましく、熱処理や再延伸後のレタデーション発現性を効率的に上昇させることができる。また、(Tg+50)℃以下であると、熱処理したフィルムの引裂き強度向上の観点から好ましい。予備延伸温度は、より好ましくは(Tg−10)〜(Tg+45)℃であり、さらに好ましくは、Tg〜(Tg+40)℃であり、最も好ましくは、(Tg+5)〜(Tg+35)℃である。ただし、予備延伸温度は後述の熱処理温度を超えることはない。予備延伸温度は熱処理温度よりも5℃以上低い温度で実施することが好ましく、熱処理温度よりも10℃以上低い温度で実施することがより好ましく、熱処理温度よりも15℃以上低い温度で実施することがさらに好ましく、熱処理温度よりも20℃以上低い温度で実施することが特に好ましく、熱処理温度よりも35℃以上低い温度で実施することが最も好ましい。
本発明においてガラス転移温度とは、本発明のセルロースアシレートフィルムを構成するポリマーの運動性が大きく変化する境界温度である。本発明におけるガラス転移温度は、示差走査熱量測定装置(DSC)の測定パンに本発明の製造方法に用いるセルロースアシレートフィルムを20mg入れ、これを窒素気流中で10℃/分で30℃から120℃まで昇温し、15分間保持した後、30℃まで−20℃/分で冷却し、この後、再度30℃から250℃まで昇温し、ベースラインが低温側から偏奇し始める温度である。
【0087】
本発明においては、前述のようにウェット状態および/またはドライ状態で予備延伸を実施することにより、セルロースフィルムのヘイズを調整し、このようなフィルムを熱処理に用いることが好ましい。このようなヘイズは、延伸工程において、セルロースアシレートの結晶部と非晶部との間に局所的な応力集中が生じ、微小な空隙が発生することにより生じているものと考えられる。そして、本発明の製造方法においては、本発明の製造方法に用いるセルロースアシレートフィルムを後述のように結晶化温度(Tc)以上にしたり、再延伸したりすることにより、X線回折で観測される構造体を成長させ、ヘイズを低減させたり、レタデーションを調整できると推定されるが、このように予めフィルムに予備延伸を実施することによってポリマーを予備延伸方向にある程度配列させることができるため、後述の熱処理工程において、予備延伸の方向に直交する方向への大きな寸法変化を与えることなく、X線回折で観測される構造体を効率的に、且つ異方的に成長させることができる。また、予備延伸温度を、熱処理温度より低くすることにより、X線回折で観測される構造体を成長させることなくセルロースアシレートポリマーを配向させることができるため、その後の熱処理工程で、より効率的にX線回折で観測される構造体を成長させることができるという利点がある。
【0088】
予備延伸の方向は特に制限されるものではなく、熱処理前のセルロースアシレートフィルムが搬送されている場合には、搬送方向に延伸する縦延伸であっても、それに直交する方向に延伸する横延伸であってもよく、フィルム面内の遅相軸を幅方向に出す場合には、後述の熱処理温度が(Tc+20)℃より高温の場合は縦延伸、Tc〜(Tc+20)℃の場合は横延伸であることが好ましく、遅相軸を搬送方向に出す場合には、熱処理温度が(Tc+20)℃より高温の場合は横延伸、Tc〜(Tc+20)℃の場合は縦延伸であることが好ましい。
縦延伸の場合には、延伸前のフィルム幅(W)に対するスパン間(L)を調整することにより、熱処理後のフィルムのレタデーション発現性を調整することができる。具体的には、縦横比(L/W)を小さくすることにより、熱処理や再延伸後のフィルムのNzを上昇させることができ、縦横比を大きくすることにより、熱処理や再延伸後のフィルムのRe発現性を向上させることができる。ここで、スパン間とは、延伸の際にフィルムに張力をかける装置、好ましくは一対以上のニップロールやサクションドラム、より好ましくは一対以上のニップロール間の距離のことを表す。
液晶テレビ用途で多く用いられるIPSモードやVAモードの液晶パネル用位相差フィルムとして好ましく用いるためには、フィルム面内の遅相軸を幅方向に出すことが好ましい。
縦延伸や横延伸の方法や好ましい態様については後述する熱処理の欄を参照することができる。予備延伸倍率は0.1〜300%であることが好ましく、0.5〜200%がより好ましく、0.8〜150%がさらに好ましく、1〜100%が特に好ましい。延伸倍率が0.5%以上であると、ヘイズ値上昇の観点から好ましく、熱処理後のレタデーション発現性をより上昇させることができる。また、300%以下であると、適切なヘイズ値に制御する観点から好ましく、また、搬送性が向上するという好ましい効果もある。これらの予備延伸は1段で実施しても、多段で実施してもよい。なお、ここでいう「予備延伸倍率(%)」とは、以下の式により求められるものを意味する。
予備延伸倍率(%)=100×{(延伸後の長さ)−(延伸前の長さ)}/延伸前の長さ
前記予備延伸における延伸速度は10〜10000%/分が好ましく、より好ましくは10〜1000%/分であり、さらに好ましくは10〜800%/分である。延伸速度が10%/分以上であると、ヘイズ値上昇の観点から好ましく、熱処理後のレタデーション発現性をより上昇させることができる。また、10,000%/分以下であると、延伸ムラ低減の観点から好ましい。
【0089】
[熱処理]
本発明のセルロースアシレートフィルムの製造方法は、セルロースアシレートフィルムを、下記式(I)の条件を満たす温度T(単位;℃)で熱処理する工程を含むことを特徴とする。ここで、熱処理は搬送しながら行うことが好ましい。
式(I): Tc≦T<Tm0
式(I)において、Tcは熱処理前のセルロースアシレートフィルムの結晶化温度を表し、単位は℃である。本発明において結晶化温度とは、セルロースアシレートフィルムを構成するポリマーが規則的な周期構造を形成する温度のことを示し、この温度を超えるとX線回折で観測される構造体が成長する。本発明における結晶化温度は、DSCの測定パンに熱処理前のセルロースアシレートフィルムを20mg入れ、これを窒素気流中で10℃/分で30℃から120℃まで昇温して15分保持した後、30℃まで−20℃/分で冷却し、さらにこの後、再度30℃から300℃まで昇温した際に、観測された発熱ピークの開始温度である。Tcは通常、前述のガラス転移温度(Tg)よりも高温側に現れる。例えば、全置換度が2.85のセルローストリアセテートフィルムの結晶化温度は添加剤や製膜条件等により上下するが、約190℃であり、全置換度が2.92のセルローストリアセテートフィルムの結晶化温度は約170℃である。
式(I)において、Tm0は熱処理前のセルロースアシレートフィルムの融点を表し、単位は℃である。本発明における融点は、DSCの測定パンに熱処理前のセルロースアシレートフィルムを20mg入れ、これを窒素気流中で10℃/分で30℃から120℃まで昇温して15分保持した後、30℃まで−20℃/分で冷却し、さらにこの後、再度30℃から300℃まで昇温した際に、観測された吸熱ピークの開始温度である。Tm0は通常、前述の結晶化温度(Tc)よりも高温側に現れる。例えば、全置換度が2.85のセルローストリアセテートフィルムの融点は添加剤や製膜条件等により若干上下するが、約285℃であり、全置換度が2.92のセルローストリアセテートフィルムの融点は約290℃である。
【0090】
式(I)の条件を満たす温度Tでセルロースアシレートフィルムを熱処理することによって、セルロースアシレートフィルムのヘイズやレタデーションの発現性を調整することができる。例えば、本発明の好ましい態様である、熱処理工程前の予備延伸工程でヘイズを上昇させた場合にはフィルム中に微小な空隙が生じていると考えられ、これをTc〜(Tc+20)℃、より好ましくはTc〜(Tc+15)℃、さらに好ましくはTc〜(Tc+10)℃で熱処理することにより、ヘイズを低減することができる。これは、X線回折で観測される構造体が成長すると同時に、その付近に生じている微小な空隙が消失しているためと考えられ、このような温度で熱処理した場合には結晶サイズが非常に小さいことに起因すると推測されるが、後述するような負の複屈折性が顕著に現れることはない。一方、フィルムを(Tc+20)℃より高温、より好ましくは(Tc+25)℃以上、さらに好ましくは(Tc+30)℃以上で熱処理することにより、ヘイズを低減することができると同時に、特に、Reを高めることができる。これは、X線回折で観測される構造体の成長の進行に伴い、後述するような負の複屈折性が顕著に現れ始めることに起因すると推定される。このとき、セルロースアシレートのような主鎖骨格が比較的剛直なポリマーでは、ポリエチレンのように主鎖骨格が柔軟なポリマーで生じることがある球晶のような巨大な構造体となることが少ないと推測されるため、X線回折で観測される構造体がヘイズの原因となる可能性は低いと考えられ、しかも、前記微小な空隙の消失も起こっていると考えられるため、ヘイズも低減する。このような温度Tで熱処理することによって、熱処理前よりもReが通常は15nm以上上昇するが、目的の光学特性に応じて、25nm以上上昇することが好ましく、50nm以上上昇することがより好ましい。また、100nm以上上昇することがさらに好ましく、150nm以上上昇することがさらにより好ましく、200nm以上上昇することが特に好ましい。Reの上昇幅は、前述の予備延伸の条件(温度や倍率)や熱処理の条件(特に温度)等により制御することもできる。また、式(I)の条件を満たす温度Tで熱処理することによって、従来は製造することが容易ではなかったレタデーション値を有するセルロースアシレートフィルムを簡便な方法で製造することができるようになった。特に、従来は煩雑な製法によらなければ製造することができなかったNzが−0.05〜1.05、特にNzが0より大きく1未満のセルロースアシレートフィルムを簡便な方法で製造することもできるようになった。
【0091】
本発明の製造方法では、前記熱処理をセルロースアシレートフィルムのヘイズ値が0.3%となるまで行うことが好ましく、0.2%以下まで行うことがより好ましい。また、熱処理前のセルロースアシレートフィルムのヘイズ値に対して、セルロースアシレートフィルムのヘイズ値が0.05%以上低下するまで行うことが好ましい。
【0092】
熱処理工程に延伸操作が併用される場合、本発明の製造方法にしたがって特にTc≦T<Tm0−5を満たす温度Tで延伸することによって、セルロースアシレートポリマー鎖の運動性を向上させることができるため、延伸倍率の増大に伴うフィルムの白化(ヘイズ値上昇)やフィルムの切断を防ぐことができる。また、後述のように延伸速度や延伸倍率を調整することによって、セルロースアシレートポリマー鎖の凝集や配向と、同時に起こる熱緩和とのバランスを適切に制御することができる。したがって、本発明の製造方法に従うことにより、フィルム中のセルロースアシレートポリマー鎖の凝集や配列を高度に進めることができ、弾性率が大きく、湿度寸法変化が小さく、適度な透湿度を有するセルロースアシレートフィルムを製造することが可能となる。
【0093】
本発明の製造方法における熱処理は、セルロースアシレートフィルムを搬送しながら行うことが好ましい。セルロースアシレートフィルムの搬送手段は特に制限されないが、典型的な例としてニップロールやサクションドラムにより搬送する手段、テンタークリップで把持しながら搬送する手段、空気圧で浮上搬送する手段などを挙げることができる。好ましいのは、ニップロールにより搬送する手段、もしくはテンタークリップで把持しながら搬送する手段であり、より好ましいのは、テンタークリップで把持しながら搬送する手段である。具体的には、フィルムの両端をテンタークリップで把持しながら熱処理ゾーンを通過させることによりセルロースアシレートフィルムを熱処理する態様を挙げることができる。
本発明の熱処理においては、予備延伸の方向に直交する方向への寸法変化率が−10%以上であることが好ましく、−10〜10%であることがより好ましく、−10〜5%であることがさらに好ましく、−5〜3%であることがさらにより好ましく、−3〜1%であることが特に好ましい。このようにすることにより、レタデーション発現性を確保しつつ、フィルムの割れやすさやトタン板状の皺を改良し、さらに広い製品幅を確保することが可能となる。また、ReやRthの湿度依存性を大幅に改良できる、という効果も得られる。
熱処理工程における、予備延伸の方向に直交する方向への寸法変化率は、例えば予備延伸の方向に直交する方向がフィルムの幅方向である場合、熱処理に伴う幅方向の寸法変化率として以下のようにして求めることができる。
熱処理に伴う幅方向の寸法変化率は、熱処理によってフィルムの全幅が熱処理直前よりも短くなる場合は、熱処理中の最小全幅と熱処理直前の全幅とから、次式で求めることができる。
幅方向への寸法変化率(%)=100×(熱処理中の最小全幅−熱処理直前の全幅)/熱処理直前の全幅ここでいう熱処理中の最小全幅とは、熱処理工程中においてフィルムが幅方向に最も収縮して短くなったときの幅を意味する。例えば、全幅200cmのフィルムが熱処理中に180cmまで収縮した後に190cmまで膨張した(延伸された)場合は、熱処理中の最小全幅は180cmとなる。
熱処理によってフィルムの全幅が熱処理直前よりも短くならない場合や、熱処理工程中にフィルムが収縮するだけで膨張しない場合は、幅方向への寸法変化率は熱処理ゾーン入口におけるフィルム全幅と熱処理ゾーン出口におけるフィルム全幅とから、次式で求めることもできる。
幅方向への寸法変化率(%)=100×(熱処理直後の全幅−熱処理直前の全幅)/熱処理直前の全幅
【0094】
いかなる理論にも拘泥するものではないが、(Tc+20)℃より高温での熱処理に伴う予備延伸の方向に直交する方向(好ましくはフィルムの幅方向)への寸法変化率を抑制することによりレタデーションの湿度依存性が低下するのは以下の理由によるものと考えられる。すなわち、上記のように(Tc+20)<T<Tm0の条件を満たす温度Tで熱処理を行うことにより、フィルムの予備延伸と同じ方向に、結晶が優先的に配向しながら成長すると同時に、その周囲に配向した非晶部分も形成されると考えられ、配向した非晶部分は、特に冷却時に外力がかかると、その方向に形成されようとする。これらのうち、結晶部分は負の複屈折性を示し、非晶部分は正の複屈折性を有しているため、互いに複屈折を打ち消しあう効果があり、本発明の(Tc+20)℃より高温で熱処理されたセルロースアシレートフィルムにおいては、結晶部分の影響が大きいため、配向した非晶部分を減少させることによりレタデーション発現性を向上させることができる。一方、配向した非晶部分は、水分子と相互作用しており、環境湿度が変化するとレタデーションも変化すると考えられるため、配向した非晶部分を減少させることによって、レタデーションの湿度依存性も低減することができると考えられる。
配向した非晶部分を減少させるためには、熱処理における予備延伸の方向に直交する方向への寸法変化率を抑制することが非常に効果的であると考えられ、さらに、後述のように、熱処理後の冷却過程における搬送テンションを低減させ、フィルムにかかる外力を下げることも併せて有効であると考えられ、その結果、レタデーションの湿度依存性を低減することができる。
【0095】
搬送の速度は、通常は1〜500m/分であり、5〜300m/分が好ましく、10〜200m/分がより好ましく、20〜100m/分がさらに好ましい。搬送速度が、上記の下限値である1m/分以上であれば産業上、十分な生産性を確保することができるという点で好ましくなる傾向があり、上記の上限値である500m/分以下であれば実用的な熱処理ゾーン長で十分に結晶成長を進行させることができるという点で好ましくなる傾向がある。搬送速度を速くすればフィルムの着色を抑制することができる傾向があり、搬送速度を遅くすれば熱処理ゾーン長を短くすることができる傾向がある。熱処理中の搬送速度(搬送速度を決定するニップロールやサクションドラム等の装置の速度)は一定にしておくことが好ましい。
【0096】
本発明の製造方法における熱処理の方法として、例えば、セルロースアシレートフィルムを搬送しながら温度Tのゾーン内を通過させる方法、搬送されているセルロースアシレートフィルムに熱風をあてる方法、搬送されているセルロースアシレートフィルムに熱線を照射する方法、セルロースアシレートフィルムを昇温されたロールに接触させる方法などを挙げることができる。
好ましいのは、セルロースアシレートフィルムを搬送しながら温度Tのゾーン内を熱風をあてながら通過させる方法である。この方法によれば、セルロースアシレートフィルムを均一に加熱することができるという利点がある。ゾーン内の温度は、例えば温度センサでモニターしつつヒータで一定温度に制御することにより温度Tに維持することができる。温度Tのゾーン内のセルロースアシレートフィルムの搬送長は、製造しようとするセルロースアシレートフィルムの性質や搬送速度によって異なるが、通常は(搬送長)/(搬送するセルロースアシレートフィルムの幅)の比が0.1〜100となるように設定することが好ましく、より好ましくは0.5〜50であり、さらに好ましくは1〜20である。この比は、本明細書において縦横比と略すこともある。温度Tのゾーンの通過時間(熱処理の時間)は、通常0.01〜60分であり、好ましくは0.03〜10分であり、さらに好ましくは0.05〜5分である。前記範囲とすることにより、レタデーションの発現に優れ、フィルムの着色を抑制することができる。
【0097】
本発明の製造方法では、熱処理と同時に延伸してもよい。熱処理時の延伸方向は特に制限されるものではないが、熱処理前のセルロースアシレートフィルムに異方性がある場合には、熱処理前のセルロースアシレートフィルム中のポリマーの配向方向への延伸であることが好ましい。ここで、フィルムに異方性があるとは、音波伝播速度が最大となる方向の音波伝播速度と、これと直交する方向の音波伝播速度との比が、好ましくは1.01〜10.0であり、より好ましくは1.1〜5.0であり、さらに好ましくは1.2〜2.5であることを指す。音波伝播速度が最大となる方向、および各方向の音波伝播速度は、フィルムを25℃、相対湿度60%にて24時間調湿後、配向性測定機(SST−2500:野村商事(株)製)を用いて、超音波パルスの縦波振動の伝搬速度が最大となる方向、および各方向の伝搬速度として求めることができる。
延伸の方法は特に制限されないが、例えばセルロースアシレートフィルムの両端をテンタークリップで把持し、これを搬送方向と直交する方向(幅方向)に広げながら加熱ゾーンを通過させることにより延伸することができる。セルロースアシレートフィルムを熱処理中に搬送方向と直交する方向に延伸することによって、熱処理後のセルロースアシレートフィルムの面状を改良することができる。また前記延伸における延伸速度は20〜10000%/分が好ましく、より好ましくは40〜1000%/分であり、さらに好ましくは50〜500%/分である。
【0098】
熱処理の際に、セルロースアシレートフィルムを収縮させてもよい。当該収縮は、熱処理時に行うことが好ましい。熱処理の際にセルロースアシレートフィルムを収縮させることによって、光学特性および/または力学物性を調整することができるようになる。収縮させる工程は、熱処理の際に行うだけでなく、熱処理の前後の工程でも行うことができる。また、収縮させる工程は一段で行ってもよく、収縮工程と延伸工程とを繰り返し実施してもよい。
フィルムに対する収縮の方向は、特に制限されるものではないが、熱処理前のセルロースアシレートフィルムが搬送されて作成されている場合には、当該搬送方向に直交する方向に行うことが好ましい。また、収縮前に延伸(予備延伸等)を行っている場合には、当該延伸方向と直交する方向に、収縮させることが好ましい。収縮率は熱処理温度の調整や、フィルムにかかる外力の調整によって制御することができる。具体的には、フィルムの端部をテンタークリップで把持している場合にはレールの拡幅率などで制御することができる。また、フィルムの端部が固定されておらず、ニップロール等のフィルムを搬送方向に固定する装置によってのみ保持されている場合には、搬送方向に固定する装置間距離の調整や、フィルムにかかるテンションの調整や、フィルムに与えられる熱量の調整などによって制御することができる。
【0099】
セルロースアシレートフィルムを熱処理する工程は、本発明の製造方法において1回のみ行ってもよいし、複数回行ってもよい。複数回行うとは、前の熱処理が終了した後に一旦温度をTc未満に下げ、その後、再び温度をTc以上Tm0未満に設定して搬送しながら熱処理を行うことを意味する。また、複数回行うとは、温度の異なる複数のゾーンを用意して搬送しながら熱処理を行うことも意味する。この場合、温度を徐々に上げていっても良い。複数回熱処理を行う場合は、すべての熱処理が完了した段階で上記の延伸倍率の範囲を満たすことが好ましい。本発明の製造方法における熱処理は、3回以下が好ましく、2回以下がより好ましい。
【0100】
[熱処理後の冷却]
熱処理を終えたポリマーフィルムは、Tc未満の温度に冷却してもよく、冷却せずに後述の再延伸工程を実施してもよい。このとき、0.1〜500N/mの搬送張力で搬送しながら冷却することによって、特に(Tc+20)℃よりも高温で熱処理されたフィルムにおいては、最終的に得られるセルロースアシレートフィルムのレタデーション(特にRe)の湿度依存性を効果的に低減することができる。冷却時の搬送張力は、1〜400N/mであることが好ましく、10〜300N/mであることがより好ましく、50〜200N/mであることがさらに好ましい。搬送張力を0.1N/m以上にすることにより、レタデーションの湿度依存性を低減し、さらに面状も良好にしやすくなる傾向がある。また、搬送張力を500N/m以下にすることにより、レタデーションの湿度依存性を低減し、さらにReの絶対値を上げやすくなる傾向がある。
【0101】
搬送張力の制御は、例えば、冷却ゾーンの直前と冷却ゾーンの後方とに、少なくとも一対の張力制御装置(例えば、ニップロールやサクションドラムなど)を配置し、それぞれの回転数を調整することによって行うことができる。具体的には、一対のテンション制御装置の送出し速度(v1)と巻取り速度(v2)との比(v2/v1)を小さくすると搬送張力は低下し、大きくすると搬送張力は上昇する。
【0102】
冷却時の冷却速度は特に制限されるものではないが、好ましくは100〜1,000,000℃/分、より好ましくは1,000〜100,000℃/分、さらに好ましくは3,000〜50,000℃/分でフィルムを冷却する。このような冷却速度でフィルムを冷却する温度幅は、50℃以上であることが好ましく、100〜300℃であることがより好ましく、150〜280℃であることがさらに好ましく、180〜250℃であることが特に好ましい。
このように冷却速度を調整することによって、得られるセルロースアシレートフィルムのレタデーションの発現性をさらに調整することができる。具体的には、冷却速度を速くすることによって、レタデーションの発現性を向上させることができる。また、セルロースアシレートフィルム中の、厚み方向のポリマー鎖の配向の分布を低減させることができ、フィルムの湿度カールを抑制することができる。このような効果は、比較的速い冷却速度で冷却する温度幅を上記の好ましい範囲に制御することによって、さらに十分に得ることができる。
【0103】
前記冷却速度は、加熱ゾーンの後に、加熱ゾーンより低い温度に保持された冷却ゾーンを設けておいて、これらのゾーンにセルロースアシレートフィルムを順次搬送したり、冷却ロールをフィルムと接触させたり、冷却風をフィルムに吹き付けたり、フィルムを冷却された液体に浸漬したりして制御することができる。冷却速度は、冷却工程中において常に一定であることは必要とされず、冷却工程の初期と終盤は冷却速度を小さくし、その間において冷却速度を大きくしてもよい。冷却速度は、後述する実施例に記載されるようにフィルム膜面上に配置した熱電対によって複数地点の温度を測定することにより求めることができる。
【0104】
[熱処理後の延伸(再延伸)]
本発明の製造方法では、セルロースアシレートフィルムの上記の熱処理後に延伸を行ってもよい(他の延伸と区別するために「再延伸」という)。これにより、最終的に得られる透明フィルムのレタデーションをさらに調整したり、(Tc+20)℃より高温の熱処理を実施した場合では、レタデーション(特にRe)の湿度依存性を効果的に低減したりすることができる。特に、熱処理時の予備延伸の方向に直交する方向への寸法変化率を−10%以上、好ましくは−10〜10%とし、さらに再延伸を行うことにより、一段と効果的にレタデーションの湿度依存性を効果的に低減することができる。再延伸温度は、目的のRe、Rth値に応じて、適宜、設定することができるが、(Tg−20)〜(前記熱処理温度)℃であることが好ましく、(Tg−10)〜(前記熱処理温度−20)℃であることがより好ましく、Tg〜(前記熱処理温度−40)℃であることがさらに好ましい。ここで、Tgは熱処理前のセルロースアシレートフィルムのガラス転移温度(単位;℃)を表す。
再延伸の実施により、(Tc+20)℃より高温の熱処理を実施したフィルムにおいては、結晶部分を大きく動かすことなく、配向した非晶部分を減少させることができると考えられる。したがって、Reを大きく動かすことなく、ΔReを低減させることが可能となる。このような再延伸は、配向した非晶部分を効率的に減少させる観点から、前記熱処理工程において延伸を伴う場合には、当該延伸方向に直交する方向への再延伸であることが好ましく、前記熱処理工程が延伸を伴わない場合には、結晶の配向方向への延伸であることが好ましく、一般に、幅方向への横延伸であることがより好ましい。また、Tc〜(Tc+20)℃での熱処理を実施したフィルムにおいては、再延伸により、配向した非晶部分を増加させてReを増大させたり、場合によっては、非晶部によるReを打ち消す効果のあった結晶部を減少させて、結果的にReを増大させたりすることができると考えられる。このことは、このような温度で熱処理されたフィルムでは、結晶サイズが小さく、力学的に弱いものであるため、外力により破壊されることがあるためと推測される。このような温度で熱処理されたフィルムの再延伸は、非晶の配向方向への延伸であることが好ましく、一般に、幅方向への延伸であることがより好ましい。
【0105】
再延伸は、熱処理後にセルロースアシレートフィルムがTc未満の温度や再延伸温度未満の温度まで冷却された後に行われてもよく、熱処理温度を保ったまま冷却されることなく行われてもよい。
【0106】
再延伸の方法としては、上記の熱処理中の延伸の説明にて記載した方法等を採用することができる。再延伸は1段で実施しても、多段で実施してもよい。好ましいのは、上記のニップロールの回転速度を変えることにより搬送方向に延伸する方法とポリマーフィルムの両端をテンタークリップで把持してこれを搬送方向と直交する方向(フィルム幅方向)に広げることより延伸する方法である。特に好ましいのは、熱処理の際に延伸を行わないか、あるいは、ニップロールの回転速度を変えることにより搬送方向に延伸しておき、熱処理後にポリマーフィルムの両端をテンタークリップで把持してこれを搬送方向と直交する方向(フィルム幅方向)に広げることより再延伸する態様である。
【0107】
再延伸の延伸倍率はセルロースアシレートフィルムに要求するレタデーションに応じて適宜設定することができ、1〜500%が好ましく、3〜400%がより好ましく、5〜300%がさらに好ましく、10〜100%が特に好ましい。ここでいう再延伸の倍率は、以下の式により求められる。
再延伸倍率(%)=100×{(延伸後の長さ)−(延伸前の長さ)}/延伸前の長さ再延伸の延伸速度は10〜10000%/分が好ましく、より好ましくは20〜1000%/分であり、さらに好ましくは30〜800%/分である。
【0108】
熱処理後に再延伸を行うことにより、得られる透明フィルムのReとRthをさらに調整することができる。特に、(Tc+20)℃よりも高温で熱処理されたフィルムにおいては、再延伸の延伸温度を高くすることによって、Reをあまり変化させずにRthを低下させることができる。また、再延伸の延伸倍率を高くすることによって、Reを低下させRthを上昇させることもできる。これらは、ほぼ線形的な相関関係を示すことから、再延伸の延伸条件を適当に選択することによって、目的とするReやRthを達成しやすくなる。
熱処理が終わった後、再延伸を行う前の状態のセルロースアシレートフィルムのReやRthは特に制限されない。
【0109】
[有機溶媒に接触させる工程(有機溶媒接触工程)]
本発明のセルロースアシレートフィルムの製造方法においては、必要に応じて、前記セルロースアシレートフィルム表面に、さらに有機溶媒を接触させた後、該有機溶媒を乾燥させることにより、セルロースアシレートフィルムの密着層を形成させることもでき、このような密着性改良は、特に配向の進んだセルロースアシレートフィルムにおいて効果的に適用することができる。したがって、セルロースアシレートフィルムの片面だけに有機溶媒を接触させた場合、該セルロースアシレートフィルムを偏光膜と直接貼合する場合には、有機溶媒に接触させた面を偏光膜との貼合面とすることが好ましい。なお、有機溶媒接触工程は、本発明の製造方法において任意の場所で実施することができるが、前述の予備延伸工程または熱処理工程または再延伸工程の後、または後述の水蒸気接触工程の後に実施することが好ましく、前述の熱処理工程または再延伸工程の後、または後述の水蒸気接触工程の後に実施することがより好ましい。また、有機溶媒接触工程の前や後に、適宜、後述の表面処理を併用することが好ましい。以下において、セルロースアシレートフィルムを有機溶媒に接触させる工程(有機溶媒接触工程)について説明する。
【0110】
(溶媒)
有機溶媒接触工程に用いる有機溶媒としては、セルロースアシレートフィルムの良溶剤を主溶媒として含有することが好ましく、前記セルロースアシレートの溶液流延製膜工程におけるセルロースアシレート溶液に用いることのできる主溶媒を好ましく用いることができる。
いかなる理論にも拘泥するものではないが、有機溶媒接触工程前のセルロースアシレートフィルムに有機溶媒を接触させることで偏光膜への密着性が向上することは、セルロースアシレートポリマーの厚み方向の配向が乱れ、厚み方向の脆性が向上する(層間剥離が抑制される)ことに起因すると考えられる。一方で、セルロースアシレートポリマーの配向が乱れると、レタデーションが変化してしまうため、フィルムのバルクとしての配向は乱れないことが好ましい。したがって、レタデーション発現性と偏光膜との密着性を両立させるためには、有機溶媒接触工程で用いられる主溶媒としては、セルロースアシレートポリマーの溶解性、揮発性(乾燥性)、セルロースアシレートフィルムへの浸透性が適切に調整されていることが好ましい。
【0111】
すなわち、前記良溶媒のうち、有機溶媒接触工程に用いる有機溶媒の主溶媒としては、ケトン、エステル、およびハロゲン化炭化水素から選ばれる有機溶媒であることがより好ましく、カール低減や塗布ムラ低減の観点からケトン、エステルであることがさらに好ましい。また、有機溶媒接触工程に用いる有機溶媒は、適宜、ポリマーや添加剤等の、室温で固体の成分を含有していてもよい。
【0112】
本発明の有機溶媒接触工程に用いる有機溶媒として好ましく用いられる有機溶媒の組み合わせの例を以下に挙げるが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、比率の数値は、質量部を意味する。
(1)アセトン=100
(2)アセトン/メチルイソブチルケトン=80/20
(3)アセトン/シクロヘキサノン=80/20
(4)アセトン/シクロヘキサノン=60/40
(5)アセトン/シクロヘキサノン=40/60
(6)アセトン/水=95/5
(7)アセトン/水=80/20
(8)アセトン/アセト酢酸メチル/メタノール/エタノール=65/20/10/5
(9)アセトン/シクロペンタノン/エタノール/ブタノール=65/20/10/5
(10)メチルエチルケトン=100
(11)メチルエチルケトン/シクロヘキサノン=80/20
(12)メチルエチルケトン/シクロヘキサノン=60/40
(13)メチルエチルケトン/シクロヘキサノン=40/60
(14)酢酸メチル=100
(15)酢酸メチル/アセトン/メタノール/エタノール/ブタノール=75/10/5/5/5
(16)酢酸メチル/アセトン/ブタノール=85/5/5
(17)酢酸メチル/アセトン/エタノール/ブタノール=80/8/8/4
(18)ギ酸メチル/メチルエチルケトン/アセトン/メタノール/エタノール=50/20/20/5/5
(19)酢酸エチル=100
(20)酢酸ブチル=100
(21)ジクロロメタン=100
(22)ジクロロメタン/メタノール/ブタノール=83/15/2
(23)ジクロロメタン/メタノール/ブタノール/水=85/18/1.5/0.5
(24)ジクロロメタン/メタノール=87/13
(25)アセトン/(アセチル置換度が2.11のセルロースアセテート)=99/1
(26)ジクロロメタン/メタノール/ブタノール/(アセチル置換度が2.86のセルロースアセテート)=82/15/2/1
【0113】
(接触工程)
有機溶媒接触工程におけるセルロースアシレートフィルムと有機溶媒との接触方法としては、一般的に知られた接触方法、例えばディップコート法、エアーナイフコート法、カーテンコート法、ローラーコート法、ワイヤーバーコート法、グラビアコート法、スライドコート法、スプレー法、ダイコート法、或いは、米国特許第2681294号明細書に記載のホッパーを使用するエクストルージョンコート法を用いることができる。この際、密着層を効果的に形成させるために、セルロースアシレートに接触させる有機溶媒の濃度は、有機溶媒接触前のセルロースアシレートフィルム中の溶媒濃度よりも高濃度であることが好ましい。
また、前記有機溶媒接触前のセルロースアシレートフィルムの残留溶媒量は特に限定されないが、レタデーション発現性の観点から、0〜10質量%であることが好ましく、0〜5質量%であることがより好ましく、0〜2質量%であることがさらに好ましい。
【0114】
(乾燥工程)
このようにして有機溶媒と接触したセルロースアシレートフィルムは、続いて乾燥ゾーンへ搬送し、ロール群で搬送したり、テンターで両端をクリップされたりしながら乾燥を終了する。なお、有機溶媒接触工程が前記ドライ延伸工程や熱処理工程や再延伸工程の前に実施される場合には、それらの工程を乾燥工程とすることもできる。乾燥方法としては、搬送されているセルロースアシレートフィルムに熱風もしくは温風や、ガス濃度の低い風をあてる方法、熱線を照射する方法、昇温されたロールに接触させる方法等があるが、熱風もしくは温風や、ガス濃度の低い風をあてる方法が好ましく、乾燥風の温度は特に限定されないが、−10〜140℃であることが好ましく、25〜120℃であることがより好ましく、30〜100℃であることがさらに好ましく、40〜80℃であることが最も好ましい。乾燥温度が−10℃以上であると十分な乾燥速度で乾燥させることができ、140℃以下であると効果的に密着性を向上させることができる。
このようにして乾燥の終了したセルロースアシレートフィルムの残留溶媒量は、有機溶媒接触前のセルロースアシレートフィルムの残留溶媒量と比較して同等以下であることが好ましく、有機溶媒接触工程が前記ドライ延伸工程や熱処理工程や再延伸工程の後に実施される場合には、0〜5質量%であることが好ましく、0〜3質量%であることがより好ましく、0〜2質量%であることがさらに好ましく、0〜1質量%であることが最も好ましい。このとき、有機溶媒接触前のセルロースアシレートフィルムの重量(W0)と、記乾燥工程後のセルロースアシレートフィルムの重量(W1)との比(W1/W0)は特に限定されないが、乾燥後のフィルムのカール低減の観点から、0.97〜1.03であることが好ましく、0.98〜1.02であることがより好ましく、0.99〜1.01であることがさらに好ましい。
また、有機溶媒接触前のセルロースアシレートフィルムのレタデーション(Re0)と、乾燥終了後のセルロースアシレートフィルムのレタデーション(Re1)との比(Re1/Re0)は特に限定されないが、0.8〜1.2であることが好ましく、0.9〜1.1であることがより好ましく、0.95〜1.05であることがさらに好ましい。このような範囲であると面状が良好であることが多い。
さらに、有機溶媒接触前のセルロースアシレートフィルムのヘイズ(HZ0)と、乾燥終了後のセルロースアシレートフィルムのヘイズ(HZ1)との比(HZ1/HZ0)は特に限定されないが、0.1〜1.5であることが好ましく、0.3〜1.4であることがより好ましく、0.5〜1.3であることがさらに好ましい。また、乾燥終了後のセルロースアシレートフィルムのヘイズ(HZ1)は1.0%以下であることが好ましく、0.7%以下であることがより好ましく、0.5%以下であることがさらに好ましい。このような範囲であると、本発明のセルロースアシレートフィルムを液晶表示装置に組み込んだ際に、黒表示時の光漏れを低減させることができることに加えて、フィルム中の添加剤のブリードアウトを抑制したり、経時での添加剤のブリードアウトを抑制したりすることができ、偏光膜との密着性を適切に調整することができる。
【0115】
[水蒸気接触工程]
本発明のセルロースアシレートフィルムの製造方法においては、必要に応じて、前記セルロースアシレートフィルムに、さらに後述の接触気体を接触させる状態を維持する工程(水蒸気接触工程)を適用することもできる。水蒸気接触工程の効果は限定されることはないが、特に所定の環境条件下で一定の特性、品質を確保できるか否かを調べる耐久試験に伴い発生するフィルムの寸法変化や、各物性値(例えば、ReやRth)の変動を、短時間の湿熱処理により抑制することができる。いかなる理論に拘泥するものでもないが、このことは、セルロースアシレートフィルムに後述の接触気体を接触させると、セルロースアシレートフィルムが接触気体の分子を吸収し、フィルムのガラス転移温度が減少することになり、熱エネルギーを得るため、セルロースアシレートフィルムにおける接触気体の分子の拡散が促進され、そのことにより、セルロースアシレート分子の高次構造がより安定な構造に遷移しやすくなる結果、単なる熱処理に比べ、セルロースアシレート分子の構造安定化を短時間で行うことができることに起因すると考えられる。なお、水蒸気接触工程は本発明の製造方法において任意の場所で実施することができるが、前述の予備延伸工程または熱処理工程または再延伸工程または有機溶媒接触工程の終了した後に実施されることが好ましく、前述の熱処理工程または再延伸工程または有機溶媒接触工程の後に実施されることがより好ましい。また、水蒸気接触工程の前や後に、適宜、後述の表面処理を併用してもよい。以下において、セルロースアシレートフィルムに水蒸気を含む気体を接触させる状態を維持する工程(水蒸気接触工程)について説明する。
【0116】
(接触気体)
水蒸気接触工程におけるセルロースアシレートフィルムに接触される気体(接触気体)としては、液体状態の溶媒を気体状態にした気体であれば特に限定されることはないが、水蒸気を含む気体であることが好ましく、水蒸気を主たる成分として含む気体であることがより好ましく、水蒸気であることがさらに好ましい。ここで、主たる成分として含む気体とは、単一の気体からなる場合には、その気体のことを示し、複数の気体からなる場合には、構成する気体のうち、最も質量分率の高い気体のことを示す。
前記接触気体は、湿潤気体供給装置によって生成される気体であることが好ましい。具体的には、液体状態の溶媒をボイラで加熱して気体状態とした後、ブロアによって送られるものであり、接触気体には、適宜空気を混合させてもよく、ブロアによって送られた後に加熱装置を経由させてさらに加熱してもよい。ここで、該空気は加熱されたものであることが好ましい。このようにして生成された接触気体の温度は、70〜200℃であることが好ましく、80〜160℃であることがより好ましく、100〜140℃であることが最も好ましい。上限温度よりも高いとフィルムのカールが強くなり、好ましくなく、下限温度よりも低いと十分な効果が得られないことがある。接触気体が水を含む場合には、その相対湿度は、20〜100%であることが好ましく、40〜100%であることがより好ましく、60〜100%であることが特に好ましい。
前記液体状態の溶媒は、水や有機溶媒や無機溶媒を含む溶媒を示す。水を用いる場合には、軟水、硬水や純水などを用いることができ、ボイラの保護の観点から軟水を用いることが好ましい。セルロースアシレートフィルムへの異物混入は、製品としてのセルロースアシレートフィルムの光学特性や機械特性の劣化の原因となるため、できるだけ異物の少ない水を用いることが好ましい。したがって、セルロースアシレートフィルムへの異物混入を防ぐためには、軟水や純水を用いることが好ましく、純水を用いることがより好ましい。ここで、純水とは、電気抵抗率が少なくとも1MΩ以上であり、特にナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウムなどの金属イオンの含有濃度は1ppm未満、塩素、硝酸などのアニオンは0.1ppm未満の含有濃度を指す。純水は、逆浸透膜、イオン交換樹脂、蒸留などの単体、あるいは組み合わせによって、容易に得ることができる。有機溶媒を用いる場合には、メタノール、アセトンやメチルエチルケトンなどが挙げられる。なお、前記液体状態の溶媒は、接触気体を回収した回収気体を凝縮して得られた凝縮液を含んでいてもよい。
【0117】
(接触工程)
水蒸気接触工程におけるセルロースアシレートフィルムと前述の接触気体との接触方法としては、前記接触気体をセルロースアシレートフィルムに当てる方法、接触気体で満たされた空間にセルロースアシレートフィルムを配置する方法、または接触気体で満たされた空間を通過させる方法を用いることができ、接触気体をセルロースアシレートフィルムに当てる方法、または接触気体で満たされた空間を通過させる方法が好ましい。また、セルロースアシレートフィルムと接触気体との接触は、セルロースアシレートフィルムを千鳥状に配置された複数のローラで案内しながら実施されることが好ましい。
接触気体との接触時間は、特に限定されないが、本発明の効果が発揮される範囲内であれば、生産効率の点から出来るだけ短いほうが好ましい。処理時間の上限値として、例えば、60分以下であることが好ましく、10分以下であることがより好ましい。一方、処理時間の下限値として、例えば、10秒以上であることが好ましく、30秒以上であることがより好ましい。
接触気体との接触するときのセルロースアシレートフィルムの温度は特に限定されないが、100〜150℃であることが好ましい。
また、前記水蒸気接触前のセルロースアシレートフィルムの残留溶媒量は特に限定されないが、セルロースアシレート分子の流動性がほとんど消失していることが好ましく、0〜5質量%であることが好ましく、0〜0.3質量%であることがより好ましい。
セルロースアシレートフィルムと接触した接触気体は、冷却装置が接続された凝縮装置に送られ、加熱気体と凝縮液とに分けられてもよい。
【0118】
(乾燥工程)
このようにして接触気体と接触したセルロースアシレートフィルムは、そのまま略室温まで冷却してもよいし、フィルム中に残存した接触気体分子の量を調整するために、続いて乾燥ゾーンへ搬送してもよい。乾燥ゾーンへ搬送する場合、前述の有機溶媒接触工程における乾燥工程の記載と同様の乾燥方法を好ましく用いることができる。なお、水蒸気接触工程が前記予備延伸工程や熱処理工程や再延伸工程や有機溶媒接触工程の前に実施される場合には、それらの工程を乾燥工程とすることもできる。
【0119】
《セルロースアシレートフィルム》
(本発明のセルロースアシレートフィルムの特徴)
本発明の製造方法によれば、ヘイズが低く、且つレタデーションが良好に発現したセルロースアシレートフィルムを得ることができる。特に、従来の製造方法では製造することが容易ではなかったNzが0〜1のセルロースアシレートフィルムや、ヘイズが低く、且つレタデーションが大きなセルロースアシレートフィルムを比較的簡単な方法で製造することもできる。またさらに、本発明の製造方法によれば、結晶化熱量が2.0J/g以下であり、且つ融解熱量(ΔHm)が0J/gより大きく、微小遅相軸角度分布が3°以下であることを特徴とする本発明のセルロースアシレートフィルムを容易に得ることもできる。
【0120】
(レタデーション)
本明細書において、Re、Rth(単位;nm)は次の方法に従って求めたものである。まず、フィルムを25℃、相対湿度60%にて24時間調湿後、プリズムカップラー(MODEL2010 Prism Coupler:Metricon製)を用い、25℃、相対湿度60%において、532nmの固体レーザーを用いて下記式(V)で表される平均屈折率(n)を求める。
式(V): n=(nTE×2+nTM)/3
[式中、nTEはフィルム平面方向の偏光で測定した屈折率であり、nTMはフィルム面法線方向の偏光で測定した屈折率である。]
【0121】
本明細書において、Re(λnm)、Rth(λnm)は各々、波長λ(単位;nm)における面内レタデーションおよび厚さ方向のレタデーションを表す。Re(λnm)はKOBRA 21ADHまたはWR(王子計測機器(株)製)において波長λnmの光をフィルム法線方向に入射させて測定される。
測定されるフィルムが一軸または二軸の屈折率楕円体で表されるものである場合には、以下の方法によりRth(λnm)は算出される。
Rth(λnm)は前記Re(λnm)を、面内の遅相軸(KOBRA 21ADHまたはWRにより判断される)を傾斜軸(回転軸)として(遅相軸がない場合にはフィルム面内の任意の方向を回転軸とする)のフィルム法線方向に対して法線方向から片側50°まで10°ステップで各々その傾斜した方向から波長λnmの光を入射させて全部で6点測定し、その測定されたレタデーション値と平均屈折率および入力された膜厚値を基にKOBRA 21ADHまたはWRが算出する。
上記において、λに関する記載が特になく、Re、Rthとのみ記載されている場合は、波長590nmの光を用いて測定した値のことを表す。また、法線方向から面内の遅相軸を回転軸として、ある傾斜角度にレタデーションの値がゼロとなる方向をもつフィルムの場合には、その傾斜角度より大きい傾斜角度でのレタデーション値はその符号を負に変更した後、KOBRA 21ADHまたはWRが算出する。
なお、遅相軸を傾斜軸(回転軸)として(遅相軸がない場合にはフィルム面内の任意の方向を回転軸とする)、任意の傾斜した2方向からレタデーション値を測定し、その値と平均屈折率および入力された膜厚値を基に、以下の式(VI)および式(VII)よりRth
を算出することもできる。
【0122】
式(VI)
【0123】
【数1】

[式中、Re(θ)は法線方向から角度θ傾斜した方向におけるレタ−デーション値を表す。また、nxは面内における遅相軸方向の屈折率を表し、nyは面内においてnxに直交する方向の屈折率を表し、nzはnxおよびnyに直交する厚み方向の屈折率を表し、dはフィルムの膜厚を表す。]
式(VII): Rth=((nx+ny)/2−nz)×d
測定されるフィルムが一軸や二軸の屈折率楕円体で表現できないもの、いわゆる光学軸(optic axis)がないフィルムの場合には、以下の方法によりRth(λnm)は算出される。
Rth(λnm)は前記Re(λnm)を、面内の遅相軸(KOBRA 21ADHまたはWRにより判断される)を傾斜軸(回転軸)としてフィルム法線方向に対して−50度から+50度まで10度ステップで各々その傾斜した方向から波長λnmの光を入射させて11点測定し、その測定されたレタデーション値と平均屈折率および入力された膜厚値を基にKOBRA 21ADHまたはWRが算出する。これら平均屈折率と膜厚を入力することで、KOBRA 21ADHまたはWRはnx、ny、nzを算出する。この算出されたnx、ny、nzよりNz=(nx−nz)/(nx−ny)がさらに算出される。
【0124】
本発明の製造方法によれば、Reが40nm以上のセルロースアシレートフィルムを容易に得ることができる。Reの値は、目的の液晶表示装置の種類に応じて適切に調整することが好ましく、目的のパネルがIPSモードの場合には、本発明のセルロースアシレートフィルムのReは60〜400nmであることが好ましく、80〜300nmであることがより好ましい。目的のパネルがVAモードの場合には、本発明のセルロースアシレートフィルムのReは40〜200nmであることが好ましく、45〜100nmであることがより好ましく、50〜80nmであることがさらに好ましく、Rthは80〜300nmであることが好ましく、100〜200nmであることがより好ましく、110〜150nmであることがさらに好ましい。
【0125】
(結晶化温度)
また、本発明の製造方法により製造された(Tc+20)℃より高温で熱処理されたセルロースアシレートフィルムでは、結晶化温度が観測されない。一般に、熱処理を行う前のセルロースアシレートフィルムには結晶化温度が観測されるが、本発明の製造方法にしたがって(Tc+20)℃より高温で熱処理を行った後のセルロースアシレートフィルムには結晶化温度が観測されない。
一方、本発明の製造方法により製造されたセルロースアシレートフィルムのうち、Tc〜(Tc+20)℃で熱処理されたセルロースアシレートフィルムは、前記結晶化温度が観測される。
【0126】
本発明の製造方法により製造される本発明のセルロースアシレートフィルムは、目的の液晶表示装置の種類に応じて適切に調整することが好ましく、目的のパネルがIPSモードの場合には、上記式(IV)で表されるNzが0〜1であることが好ましく、0.1〜0.9であることがより好ましく、0.2〜0.8であることがさらに好ましく、0.3〜0.7であることが特に好ましい。目的のパネルがVAモードの場合には、本発明のセルロースアシレートフィルムのNzが1より大きく20以下であることが好ましく、1.5〜10であることがより好ましく、2〜7であることがさらに好ましい。
これらのNz値は、前述の熱処理されたセルロースアシレートフィルムに対し、前述の熱処理後の延伸(再延伸)工程を適用することによって、適宜、上昇させることができる。
【0127】
(湿度依存性)
本発明において、Reの湿度依存性(ΔRe)およびRthの湿度依存性(ΔRth)は、相対湿度がH(単位;%)であるときの面内方向および膜厚方向のレタデーション値:Re(H%)およびRth(H%)から、下記式に基づいて算出される。
ΔRe=Re(10%)−Re(80%)
ΔRth=Rth(10%)−Rth(80%)
Re(H%)およびRth(H%)は、フィルムを25℃、相対湿度H%にて24時間調湿後、25℃、相対湿度H%において、前記方法と同様にして、相対湿度H%における測定波長が590nmであるときのレタデーション値を測定、算出したものである。なお、相対湿度を明記せずに単にReと表記されている場合は、相対湿度60%で測定した値である。
本発明のセルロースアシレートフィルムの湿度を変化させた場合のレタデーション値は、以下の関係式を満たすことが好ましい。
|ΔRe/Re|<0.5、且つ、
|ΔRth|<50
また以下の関係式を満たすことがより好ましい。
|ΔRe/Re|<0.3、且つ、
|ΔRth|<40
また以下の関係式を満たすことがさらに好ましい。
|ΔRe/Re|<0.2、且つ、
|ΔRth|<30
【0128】
また、本発明のセルロースアシレートフィルムの湿度を変化させた場合のレタデーション値は、以下の関係式も満たすことが好ましい。
|ΔRe|<50
また以下の関係式を満たすことがより好ましい。
|ΔRe|<40
また以下の関係式を満たすことがさらに好ましい。
|ΔRe|<30
また以下の関係式を満たすことが最も好ましい。
|ΔRe|<20
上記湿度を変化させた場合のレタデーション値を制御することにより、外部環境が変化した場合のレタデーション変化を低下させることができ、信頼性の高い液晶表示装置を提供することができる。
【0129】
(遅相軸)
本発明のセルロースアシレートフィルムは、製造時の搬送方向とフィルムのReの遅相軸とのなす角度θが0±10°もしくは90±10°であることが好ましく、0±5°もしくは90±5°であることがより好ましく、0±3°もしくは90±3°であることがさらに好ましく、場合により、0±1°もしくは90±1°であることが好ましく、90±1°であることが最も好ましい。
【0130】
(微小遅相軸角度分布)
本発明のセルロースアシレートフィルムは、結晶化熱量が2.0J/g以下であり、且つ融解熱量(ΔHm)が0J/gより大きく、微小遅相軸角度分布が3°以下である。
本発明において、フィルムの微小遅相軸角度分布とは、フィルムを25℃、相対湿度60%にて24時間調湿後、面内の遅相軸角度を50mm角の面積を1mm間隔で測定し、得られたデータ群の標準偏差を求めたものである。このような測定には、走査可能な試料ステージを備えた複屈折測定装置(ABR−10A:ユニオプト(株)製)を用いてもよく、XYステージを備えた偏光・位相差解析/測定システム(AxoScan:AXOMETRICS製)を用いてもよく、He−Neレーザー/回転可能な4分の1波長板/ビームエキスパンダー/サンプルホルダ/集光レンズ/回転可能な偏光子/CCDカメラを順に備えた装置を用いてもよい。なお、XYステージを備えた装置を用いる場合には、測定光のビーム径が1〜2mm程度と小さい必要があり、ビーム径が3mm以上と大きくなると、ビームが照射された面積の平均値としての遅相軸角度が測定されてしまうため、微小遅相軸角度分布を測定することができない。
本発明のセルロースアシレートフィルムの如く、結晶化熱量が2.0J/g以下であり、且つ融解熱量(ΔHm)が0J/gより大きいフィルムでは、特に微小遅相軸角度分布に起因すると考えられる液晶表示装置のコントラスト低下が問題となることが判明した。したがって、微小遅相軸角度分布は3°以下であり、1.5°以下であることが好ましく、1°以下であることがより好ましく、0.5°以下であることがさらに好ましく、0.2°以下であることが最も好ましい。このような微小遅相軸分布は、本発明の製造方法に従い、熱処理前の配向状態を制御し、場合により、熱処理後にさらに配向状態を調整することによって低減させることができる。
【0131】
(結晶化熱量)
本発明のセルロースアシレートフィルムの結晶化熱量は、2.0J/g以下であり、好ましくは0〜1.5J/gであり、より好ましくは0〜1.0J/gであり、さらに好ましく、0〜0.5J/gである。結晶化熱量とは、DSCの測定パンにフィルムを20mg入れ、これを窒素気流中で10℃/分で30℃から120℃まで昇温し、15分保持した後、30℃まで−20℃/分で冷却し、さらにこの後、再度30℃から300℃まで昇温した際に現れた発熱ピークと試料のベースラインとで囲まれる面積である。
【0132】
(融解熱量)
本発明のセルロースアシレートフィルムの融解熱量(ΔHm)は、0J/gより大きく、好ましくは5〜45J/gであり、より好ましくは10〜40J/gであり、さらに好ましくは15〜35J/gである。融解熱量とは、DSCの測定パンにフィルムを5〜6mg入れ、これを窒素気流中で20℃/分で30℃から120℃まで昇温し、15分保持した後、30℃まで−20℃/分で冷却し、さらにこの後、再度30℃から300℃まで昇温した際に現れた吸熱ピークと試料のベースラインとで囲まれる面積である。
本発明のセルロースアシレートフィルムは、上記吸熱ピークの頂点である融解温度が観測される。すなわち融解熱量が0J/gより大きい。
【0133】
上記の結晶化温度と融解熱量とが観測されないセルロースアシレートフィルムは、そもそも規則構造体を形成することができないため所望のレタデーションを発現することができず、本発明の目的には適していない。すなわち、熱処理を行う前のセルロースアシレートフィルムには結晶化温度と融解温度の両方が観測されるが、熱処理を行った後のセルロースアシレートフィルムには、結晶化温度が観測されなくても観測されてもよいが、融解温度は観測される。
なお、本発明の製造方法に用いるフィルムには、そもそもTm0が観測されるフィルムを用いることが好ましい。
【0134】
(熱処理前のフィルムのヘイズ)
本発明において、熱処理前のセルロースアシレートフィルムはヘイズを有するフィルムである。具体的には、フィルムを25℃、相対湿度60%にて24時間調湿後、ヘイズメーター(NDH 2000:日本電色工業(株)製)を用いて測定したときの値が0.4%以上であり、1.0%以上30%未満であることが好ましく、1.5%以上25%未満であることがより好ましく、1.5〜20%であることがさらに好ましく、1.5〜10%であることがさらにまた好ましく、1.5〜6.0%であることが最も好ましい。そして、ヘイズを有するセルロースアシレートフィルムの原料となるセルロースアシレートフィルムのヘイズ値は0.5%未満であり、0.4%以下であることが好ましく、0.3%以下であることがより好ましい。
【0135】
熱処理前のセルロースアシレートフィルムのヘイズ値は予備延伸により上昇させることが好ましく、具体的には前述の予備延伸方法によってヘイズ値を好ましい値に調整することができる。なお、ヘイズ値の上昇の程度は、セルロースアシレートフィルムを構成する材料の種類(例えば、セルロースアシレートの種類や添加剤の種類)、製膜に用いるドープの溶解方法、製膜方法等の条件により左右されることがある。ヘイズ値を0.4%以上とすることで、熱処理や再延伸後のフィルムのレタデーション発現性を効率的に向上させることができる。なかでも、0.5%以上30%未満とすれば、製造工程におけるフィルムの脆性を一段と向上させ、搬送性をさらに向上させることができる。なお、微粒子の添加量が0〜7.5質量%であり、ヘイズ値が1.5%以上であることを特徴とするセルロースアシレートフィルムは新規なフィルムであり、また、ヘイズ値が1.5%以上25%未満のセルロースアシレートフィルムも新規なフィルムであり、熱処理や再延伸を行うことによって効率よくレタデーションを発現させることができる点で有用である。これらのフィルムについては後述する。
いかなる理論にも拘泥するものではないが、熱処理前のセルロースアシレートフィルムのヘイズ値を0.4%以上とすることにより、熱処理や再延伸後のレタデーションの発現性が向上するのは以下の理由によるものと考えられる。すなわち、上記のようにヘイズ値が0.4%未満のセルロースアシレートフィルムを予備延伸することによりポリマー鎖の配向が進むが、フィルムのヘイズ値が上昇していない状態では、ポリマー鎖の配向は十分には進んでいない。一方、例えば、予備延伸条件を適切に調整し、ヘイズ値を上昇させる工程は、フィルム中に微小な空隙を伴いながら延伸を実施している工程であると考えられ、ポリマー鎖の配向を高度に進めることができると考えられる。他方、ポリマー鎖の結晶化を促進することによってヘイズを低減させ、レタデーション発現性を向上させる熱処理工程においては、予めポリマー鎖の配向の程度を適切に調整してあった方が、より効率的、且つ異方的に結晶化を促進することができ、さらに、微小な空隙が存在することによって、熱処理工程におけるポリマー鎖の運動性を十分に確保することができるため、より効率的に配向を促進させ、熱処理や再延伸後のレタデーション発現性を向上できると考えられる。したがって、熱処理前のセルロースアシレートフィルムのヘイズ値を上昇させることにより、熱処理や再延伸後のフィルムのレタデーション発現性を上昇させることができると考えられる。
【0136】
(熱処理後のフィルムのヘイズ)
本発明において、熱処理後のセルロースアシレートフィルムは、位相差フィルム、位相差フィルムの支持体、および、偏光板の保護フィルム、並びに、液晶表示装置のような光学用途に使用する場合、透明であることが好ましく、ヘイズ値は、より小さいほうが好ましい。ヘイズ値は、1.0%以下が好ましく、0.7%以下がより好ましく、0.5%以下がさらに好ましく、0.3%以下が最も好ましい。製膜したセルロースアシレートフィルムを予備延伸する等の方法で製造したヘイズを有するセルロースアシレートフィルムを用いた場合には、前述の熱処理工程において、フィルム内の分子の運動性を十分に上昇させることができ、ポリマー鎖やフィルム中の空隙の再配列を起こすと同時に結晶化を促進することができるため、熱処理工程における処理温度を前述のように調整することだけで、ヘイズ値を1.0%以下とすることができる。
【0137】
本発明の製造方法は、前記熱処理工程前のセルロースアシレートフィルムのヘイズ(HZ0)と、前記熱処理工程後のセルロースアシレートフィルムのヘイズ(HZ1)との差(HZ1−HZ0)が、0.05%以上であることが、熱処理後のフィルムのヘイズをより低減させる観点から好ましく、0.1〜30%であることがより好ましく、0.5〜10%であることが特に好ましい。
【0138】
さらに、本発明のフィルムは熱処理工程後にさらに延伸(再延伸)工程を含んでいてもよいが、該再延伸後のフィルムも液晶表示装置のような光学用途に使用する場合、透明であることが好ましく、ヘイズ値は、より小さいほうが好ましい。再延伸後のフィルムのヘイズ値は1.0%以下が好ましく、0.7%以下がより好ましく、0.5%以下がさらに好ましく、0.3%以下が最も好ましい。
【0139】
(Reあたりのヘイズ)
本発明の製造方法により製造される本発明のセルロースアシレートフィルムは、Reあたりのヘイズ((フィルムのヘイズ値)/(フィルムのRe値))が小さいことも特徴とする。本発明のセルロースアシレートフィルムのReあたりのヘイズは、例えば0.001〜0.05であることが好ましい。
【0140】
(膜厚)
本発明のセルロースアシレートフィルムの膜厚は20μm〜180μmが好ましく、30μm〜160μmがより好ましく、40μm〜120μmがさらに好ましい。膜厚が20μm以上であれば偏光板等に加工する際のハンドリング性や偏光板のカール抑制の点で好ましい。また、本発明のセルロースアシレートフィルムの膜厚むらは、搬送方向および幅方向のいずれも0〜2%であることが好ましく、0〜1.5%がさらに好ましく、0〜1%であることが特に好ましい。
【0141】
(透湿度)
本発明のセルロースアシレートフィルムの透湿度は、80μm換算で100g/(m2・day)以上であることが好ましい。前記80μm換算の透湿度を100g/(m2・day)以上としたフィルムを使用することで、偏光膜と直接貼合しやすくなる。前記80μm換算の透湿度としては、100〜1500g/(m2・day)がより好ましく、200〜1000g/(m2・day)がより好ましく、300〜800g/(m2・day)がさらに好ましい。
また、本発明のセルロースアシレートフィルムを後述のように偏光膜と液晶セルとの間に配置されない外側の保護フィルムとして用いる場合、本発明のセルロースアシレートフィルムの透湿度は、80μm換算で500g/(m2・day)未満であることが好ましく、100〜450g/(m2・day)がより好ましく、100〜400g/(m2・day)がさらに好ましく、150〜300g/(m2・day)が最も好ましい。このようにすることで、湿度もしくは湿熱に対する偏光板の耐久性が向上し、信頼性の高い液晶表示装置を提供することができる。
【0142】
(音波伝搬速度(音速))
本発明において音波伝播速度が最大となる方向は、フィルムを25℃、相対湿度60%にて24時間調湿後、配向性測定機(SST−2500:野村商事(株)製)を用いて、超音波パルスの縦波振動の伝搬速度が最大となる方向として求めた。
【0143】
(セルロースアシレートフィルムの構成)
本発明のセルロースアシレートフィルムは単層構造であっても複数層から構成されていても良いが、単層構造であることが好ましい。ここで、「単層構造」のフィルムとは、複数のフィルム材が貼り合わされているものではなく、一枚のポリマーフィルムを意味する。そして、複数のセルロースアシレート溶液から、逐次流延方式や共流延方式を用いて一枚のポリマーフィルムを製造する場合も含む。この場合、添加剤の種類や配合量、ポリマーの分子量分布やポリマーの種類等を適宜調整することによって厚み方向に分布を有するようなポリマーフィルムを得ることができる。また、それらの一枚のフィルム中に光学異方性部、防眩部、ガスバリア部、耐湿性部などの各種機能性部を有するものも含む。
【0144】
(表面処理)
本発明のセルロースアシレートフィルムには、適宜、表面処理を行うことにより、各機能層(例えば、下塗層、バック層、光学異方性層)との接着を改善することが可能となる。前記表面処理には、グロー放電処理、紫外線照射処理、コロナ処理、火炎処理、鹸化処理(酸鹸化処理、アルカリ鹸化処理)が含まれ、特にグロー放電処理およびアルカリ鹸化処理が好ましい。ここでいう「グロー放電処理」とは、プラズマ励起性気体存在下でフィルム表面にプラズマ処理を施す処理である。これらの表面処理方法の詳細は、発明協会公開技報(公技番号2001−1745、2001年3月15日発行、発明協会)に記載があり、適宜、使用することができる。
【0145】
フィルム表面と機能層との接着性を改善するため、表面処理に加えて、或いは表面処理に代えて、本発明のセルロースアシレートフィルム上に下塗層(接着層)を設けることもできる。前記下塗層については、発明協会公開技報(公技番号2001−1745、2001年3月15日発行、発明協会)32頁に記載があり、これらを適宜、使用することができる。また、セルロースアシレートフィルム上に設けられる機能性層について、発明協会公開技報(公技番号2001−1745、2001年3月15日発行、発明協会)32頁〜45頁に記載があり、これに記載のものを適宜、本発明のセルロースアシレートフィルム上に使用することができる。
【0146】
《本発明の製造方法に用いられるセルロースアシレートフィルム》
本発明の製造方法に用いられる本発明のセルロースアシレートフィルムは、前記微粒子の添加量が0〜7.5質量%であり、ヘイズ値が1.5%以上であることを特徴とする。このようなフィルムは熱処理や再延伸を行うことによって効率よくレタデーションを発現させることができる点で有用である。
【0147】
本発明の製造方法に用いられる本発明のセルロースアシレートフィルムは、ヘイズ値が1.5%以上25%未満であることが、よりさらに本発明の製造方法で得られる本発明のセルロースアシレートフィルムのレタデーションの発現性を向上させる観点から好ましく、1.5%〜10%であることが特に好ましい。
【0148】
前記微粒子の好ましい種類は、本発明の製造方法における微粒子の種類の好ましい範囲と同様である。また、前記微粒子の好ましい添加量は、本発明の製造方法における微粒子の添加量の好ましい範囲と同様である。
【0149】
本発明の製造方法に用いられる本発明のセルロースアシレートフィルムは、音波伝播速度が最大となる方向の音波伝播速度と、これと直交する方向の音波伝播速度との比が、1.05〜10.0であることが、前記微粒子添加してある場合にセルロースアシレートフィルムの脆性を調製する観点から好ましく、1.1〜5.0であることがより好ましく、1.2〜2.5であることが特に好ましい。
【0150】
また、本発明の製造方法に用いられる本発明のセルロースアシレートフィルムは、添加量が0〜7.5質量%であり、そのヘイズ値が1.5%以上25%未満である場合、適宜、そのまま光拡散性を有するフィルムとして用いることもでき、例えば、光拡散フィルムとして画像表示装置に組み込むこともできる。また、光拡散性を有する偏光板保護フィルムとして偏光板に組み込むこともできる。
【0151】
前記本発明の製造方法に用いられる本発明のセルロースアシレートフィルムを熱処理や再延伸することにより、本発明の製造方法で得られる本発明のセルロースアシレートフィルムのレタデーションの発現性がより向上する。
【0152】
本発明の製造方法に用いられる本発明のセルロースアシレートフィルムは、ヘイズをフィルム面内および内部に均一に有していることが、均一な光学特性を有するフィルムを製造する上で好ましい。
【0153】
(本発明の製造方法に用いられるセルロースアシレートフィルムの製造方法)
本発明の製造方法に用いられる本発明のセルロースアシレートフィルムは、前記「ヘイズを有するセルロースアシレートフィルム」の調製方法に記載した方法のうち、特定の条件を設定することによって製造することができる。
すなわち、前記微粒子の添加量が0〜7.5質量%であるセルロースアシレートフィルムを、好ましくは(Tg−20)〜(Tg+50)℃で40%以上または(Tg−10)〜(Tg+10)℃で30%以上、さらに好ましくは(Tg−10)〜(Tg+30)℃で50%以上または(Tg−5)〜(Tg+5)℃で30%以上予備延伸を行うことによって、前記微粒子の添加量が0〜7.5質量%であり、ヘイズ値が1.5%以上であるセルロースアシレートフィルムを製造することができる。
【0154】
《位相差フィルム》
本発明の位相差フィルムは、本発明のセルロースアシレートフィルムを少なくとも一枚有することを特徴とする。また、本発明のセルロースアシレートフィルムは、位相差フィルムとして用いることができる。なお、「位相差フィルム」とは、一般に液晶表示装置等の表示装置に用いられ、光学異方性を有する光学材料のことを意味し、位相差板、光学補償フィルム、光学補償シートなどと同義である。液晶表示装置において、位相差フィルムは表示画面のコントラストを向上させたり、視野角特性や色味を改善したりする目的で用いられる。
本発明のセルロースアシレートフィルムを用いることで、Re値およびRth値を自在に制御した位相差フィルムを容易に作製することができる。
【0155】
また、本発明のセルロースアシレートフィルムを複数枚積層したり、本発明のセルロースアシレートフィルムと本発明外のフィルムとを積層したりしてReやRthを適宜調整して位相差フィルムとして用いることもできる。フィルムの積層は、粘着剤や接着剤を用いて実施することができる。
【0156】
また、場合により、本発明のセルロースアシレートフィルムを位相差フィルムの支持体として用い、その上に液晶等からなる光学異方性層を設けて本発明の位相差フィルムとして使用することもできる。本発明の位相差フィルムに適用される光学異方性層は、例えば、液晶性化合物を含有する組成物から形成してもよいし、複屈折を持つポリマーフィルムから形成してもよいし、本発明のセルロースアシレートフィルムから形成してもよい。この際、前記有機溶媒接触工程を光学異方性層の形成工程の後工程として実施する場合には、少なくとも該光学異方性層を形成させた面と反対側の面に有機溶媒を接触させることが好ましい。
前記液晶性化合物としては、ディスコティック液晶性化合物または棒状液晶性化合物が好ましい。
【0157】
[ディスコティック液晶性化合物]
本発明において前記液晶性化合物として使用可能なディスコティック液晶性化合物の例には、様々な文献(例えば、C.Destrade et al.,Mol.Crysr.Liq.Cryst.,vol.71,page 111(1981);日本化学会編、季刊化学総説、No.22、液晶の化学、第5章、第10章第2節(1994);B.Kohne et al.,Angew.Chem.Soc.Chem.Comm.,page 1794(1985);J.Zhang etal.,J.Am.Chem.Soc.,vol.116,page 2655(1994))に記載の化合物が含まれる。
【0158】
前記光学異方性層において、ディスコティック液晶性分子は配向状態で固定されているのが好ましく、重合反応により固定されているのが最も好ましい。また、ディスコティック液晶性分子の重合については、特開平8−27284公報に記載がある。ディスコティック液晶性分子を重合により固定するためには、ディスコティック液晶性分子の円盤状コアに、置換基として重合性基を結合させる必要がある。ただし、円盤状コアに重合性基を直結させると、重合反応において配向状態を保つことが困難になる。そこで、円盤状コアと重合性基との間に、連結基を導入する。重合性基を有するディスコティック液晶性分子については、特開2001−4387号公報に開示されている。
【0159】
[棒状液晶性化合物]
本発明において前記液晶性化合物として使用可能な棒状液晶性化合物の例には、アゾメチン類、アゾキシ類、シアノビフェニル類、シアノフェニルエステル類、安息香酸エステル類、シクロヘキサンカルボン酸フェニルエステル類、シアノフェニルシクロヘキサン類、シアノ置換フェニルピリミジン類、アルコキシ置換フェニルピリミジン類、フェニルジオキサン類、トラン類およびアルケニルシクロヘキシルベンゾニトリル類が含まれる。また、前記棒状液晶性化合物としては、以上のような低分子液晶性化合物だけではなく、高分子液晶性化合物も用いることができる。
【0160】
前記光学異方性層において、棒状液晶性分子は配向状態で固定されているのが好ましく、重合反応により固定されているのが最も好ましい。本発明に使用可能な重合性棒状液晶性化合物の例は、例えば、Makromol.Chem.,190巻、2255頁(1989年)、Advanced Materials 5巻、107頁(1993年)、米国特許第4,683,327号明細書、同5,622,648号明細書、同5,770,107号明細書、国際公開第95/22586号パンフレット、同95/24455号パンフレット、同97/00600号パンフレット、同98/23580号パンフレット、同98/52905号パンフレット、特開平1−272551号公報、同6−16616号公報、同7−110469号公報、同11−80081号公報、および特開2001−328973号公報等に記載の化合物が含まれる。
【0161】
《偏光板》
本発明の偏光板は、本発明のセルロースアシレートフィルムを少なくとも一枚有することを特徴とする。本発明のセルロースアシレートフィルムまたは位相差フィルムは、偏光板(本発明の偏光板)の保護フィルムとして用いることができる。本発明の偏光板は、偏光膜とその両面を保護する二枚の偏光板保護フィルム(セルロースアシレートフィルム)からなり、本発明のセルロースアシレートフィルムまたは位相差フィルムは少なくとも一方の偏光板保護フィルムとして用いることができる。
本発明のセルロースアシレートフィルムを前記偏光板保護フィルムとして用いる場合、本発明のセルロースアシレートフィルムには前記表面処理(特開平6−94915号公報、同6−118232号公報にも記載)を施して親水化しておくことが好ましく、例えば、グロー放電処理、コロナ放電処理、または、アルカリ鹸化処理などを施すことが好ましい。前記表面処理としてはアルカリ鹸化処理が最も好ましく用いられる。
【0162】
また、前記偏光膜としては、例えば、ポリビニルアルコールフィルムを沃素溶液中に浸漬して延伸したもの等を用いることができる。ポリビニルアルコールフィルムを沃素溶液中に浸漬して延伸した偏光膜を用いる場合、接着剤を用いて偏光膜の両面に本発明のセルロースアシレートフィルムの表面処理面を直接貼り合わせることができる。本発明の製造方法においては、このように前記セルロースアシレートフィルムが偏光膜と直接貼合されていることが好ましい。前記接着剤としては、ポリビニルアルコールまたはポリビニルアセタール(例えば、ポリビニルブチラール)の水溶液や、ビニル系ポリマー(例えば、ポリブチルアクリレート)のラテックスを用いることができる。特に好ましい接着剤は、完全鹸化ポリビニルアルコールの水溶液である。
【0163】
一般に液晶表示装置は二枚の偏光板の間に液晶セルが設けられるため、4枚の偏光板保護フィルムを有する。本発明のセルロースアシレートフィルムは、4枚の偏光板保護フィルムのいずれに用いてもよいが、本発明のセルロースアシレートフィルムは、液晶表示装置における偏光膜と液晶層(液晶セル)との間に配置される保護フィルムとして、特に有利に用いることができる。また、前記偏光膜を挟んで本発明のセルロースアシレートフィルムの反対側に配置される保護フィルムには、透明ハードコート層、防眩層、反射防止層などを設けることができ、特に液晶表示装置の表示側最表面の偏光板保護フィルムとして好ましく用いられる。
【0164】
《液晶表示装置》
本発明のセルロースアシレートフィルム、位相差フィルムおよび偏光板は、様々な表示モードの液晶表示装置に用いることができる。本発明の液晶表示装置は、本発明のセルロースアシレートフィルム、本発明の位相差フィルム、あるいは、本発明の偏光板を、少なくとも1枚有することを特徴とする。以下にこれらのフィルムが用いられる各液晶モードについて説明する。これらのモードのうち、本発明のセルロースアシレートフィルム、位相差フィルムおよび偏光板は特にVAモードおよびIPSモードの液晶表示装置に好ましく用いられる。これらの液晶表示装置は、透過型、反射型および半透過型のいずれでもよい。
本発明の液晶表示装置のある好ましい態様としては、面内方向のレタデーション値(Re、単位;nm)が40nm以上であり、且つ表示モードがVAモードであることが好ましい。また、下記式(IV)で表されるNzが1より大きく20以下であり、且つ表示モードがVAモードであることも好ましい。さらに面内方向のレタデーション値(Re、単位;nm)が40nm以上であり、下記式(IV)で表されるNzが1より大きく20以下であり、且つ表示モードがVAモードであることが好ましい。
式(IV): Nz=(nx−nz)/(nx−ny)
[式中、nxはフィルム面内の遅相軸(x)方向の屈折率であり、nyはフィルム面内のx方向と直交する方向の屈折率であり、nzはフィルムの膜厚方向(フィルム面法線方向)の屈折率である。遅相軸はフィルム面内で屈折率が最大となる方向である。]
本発明の液晶表示装置の別の好ましい態様としては、面内方向のレタデーション値(Re、単位;nm)が40nm以上であり、且つ表示モードがIPSモードであることが好ましい。また、前記式(IV)で表されるNzが0〜1であり、且つ表示モードがIPSモードであることが好ましい。さらに面内方向のレタデーション値(Re、単位;nm)が40nm以上であり、前記式(IV)で表されるNzが0〜1であり、且つ表示モードがIPSモードであることが好ましい。
【0165】
(TN型液晶表示装置)
本発明のセルロースアシレートフィルムは、TNモードの液晶セルを有するTN型液晶表示装置の位相差フィルムの支持体として用いてもよい。TNモードの液晶セルとTN型液晶表示装置とについては、古くからよく知られている。TN型液晶表示装置に用いる位相差フィルムについては、特開平3−9325号、特開平6−148429号、特開平8−50206号および特開平9−26572号の各公報の他、モリ(Mori)他の論文(Jpn.J.Appl.Phys.Vol.36(1997)p.143や、Jpn.J.Appl.Phys.Vol.36(1997)p.1068)に記載がある。
【0166】
(STN型液晶表示装置)
本発明のセルロースアシレートフィルムは、STNモードの液晶セルを有するSTN型液晶表示装置の位相差フィルムの支持体として用いてもよい。一般的にSTN型液晶表示装置では、液晶セル中の棒状液晶性分子が90〜360度の範囲にねじられており、棒状液晶性分子の屈折率異方性(Δn)とセルギャップ(d)との積(Δnd)が300〜1500nmの範囲にある。STN型液晶表示装置に用いる位相差フィルムについては、特開2000−105316号公報に記載がある。
【0167】
(VA型液晶表示装置)
本発明のセルロースアシレートフィルムは、VAモードの液晶セルを有するVA型液晶表示装置の位相差フィルムや位相差フィルムの支持体として特に有利に用いられる。VA型液晶表示装置は、例えば特開平10−123576号公報に記載されているような配向分割された方式であっても構わない。これらの態様において本発明のセルロースアシレートフィルムを用いた偏光板は視野角拡大、コントラストの良化に寄与する。
【0168】
(IPS型液晶表示装置およびECB型液晶表示装置)
本発明のセルロースアシレートフィルムは、IPSモードおよびECBモードの液晶セルを有するIPS型液晶表示装置およびECB型液晶表示装置の位相差フィルムや位相差フィルムの支持体、または偏光板の保護フィルムとして特に有利に用いられる。これらのモードは黒表示時に液晶材料が略平行に配向する態様であり、電圧無印加状態で液晶分子を基板面に対して平行配向させて、黒表示する。これらの態様において本発明のセルロースアシレートフィルムを用いた偏光板は視野角拡大、コントラストの良化に寄与する。
【0169】
(OCB型液晶表示装置およびHAN型液晶表示装置)
本発明のセルロースアシレートフィルムは、OCBモードの液晶セルを有するOCB型液晶表示装置或いはHANモードの液晶セルを有するHAN型液晶表示装置の位相差フィルムの支持体としても有利に用いられる。OCB型液晶表示装置或いはHAN型液晶表示装置に用いる位相差フィルムには、レタデーションの絶対値が最小となる方向が位相差フィルムの面内にも法線方向にも存在しないことが好ましい。OCB型液晶表示装置或いはHAN型液晶表示装置に用いる位相差フィルムの光学的性質も、光学的異方性層の光学的性質、支持体の光学的性質および光学的異方性層と支持体との配置により決定される。OCB型液晶表示装置或いはHAN型液晶表示装置に用いる位相差フィルムについては、特開平9−197397号公報に記載がある。また、モリ(Mori)他の論文(Jpn.J.Appl.Phys.Vol.38(1999)p.2837)に記載がある。
【0170】
(反射型液晶表示装置)
本発明のセルロースアシレートフィルムは、TN型、STN型、HAN型、GH(Guest−Host)型の反射型液晶表示装置の位相差フィルムとしても有利に用いられる。これらの表示モードは古くからよく知られている。TN型反射型液晶表示装置については、特開平10−123478号、国際公開第98/48320号パンフレット、特許第3022477号公報に記載がある。反射型液晶表示装置に用いる位相差フィルムについては、国際公開第00/65384号パンフレットに記載がある。
【0171】
(その他の液晶表示装置)
本発明のセルロースアシレートフィルムは、ASM(Axially Symmetric Aligned Microcell)モードの液晶セルを有するASM型液晶表示装置の位相差フィルムの支持体としても有利に用いられる。ASMモードの液晶セルは、セルの厚さが位置調整可能な樹脂スペーサーにより維持されているとの特徴がある。その他の性質は、TNモードの液晶セルと同様である。ASMモードの液晶セルとASM型液晶表示装置とについては、クメ(Kume)他の論文(Kume et al.,SID 98 Digest 1089(1998))に記載がある。
【0172】
(ハードコートフィルム、防眩フィルム、反射防止フィルム)
本発明のセルロースアシレートフィルムは、場合により、ハードコートフィルム、防眩フィルム、反射防止フィルムへ適用してもよい。LCD、PDP、CRT、EL等のフラットパネルディスプレイの視認性を向上する目的で、本発明のセルロースアシレートフィルムの片面または両面にハードコート層、防眩層、反射防止層の何れか或いは全てを付与することができる。このような防眩フィルム、反射防止フィルムとしての望ましい実施態様は、発明協会公開技報(公技番号2001−1745、2001年3月15日発行、発明協会)54頁〜57頁に詳細に記載されており、本発明のセルロースアシレートフィルムにおいても好ましく用いることができる。
【実施例】
【0173】
以下に実施例を挙げて本発明の特徴をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。したがって、本発明の範囲は以下に示す具体例により限定的に解釈されるべきものではない。
【0174】
《測定法》
まず、特性の測定法および評価法を以下に示す。
【0175】
[ガラス転移点(Tg)]
DSCの測定パンに熱処理前のセルロースアシレートフィルムを20mg入れ、これを窒素気流中で10℃/分で30℃から120℃まで昇温して15分保持した後、30℃まで−20℃/分で冷却した。この後、再度30℃から250℃まで昇温し、ベースラインが低温側から偏奇し始める温度をフィルムのガラス転移点とした。
【0176】
[融点(Tm0)]
DSCの測定パンに熱処理前のセルロースアシレートフィルムを20mg入れ、これを窒素気流中で10℃/分で30℃から120℃まで昇温して15分保持した後、30℃まで−20℃/分で冷却した。この後、再度30℃から300℃まで昇温した際に現れた吸熱ピークの頂点における温度をフィルムの融点とした。
【0177】
[結晶化熱量]
前述の方法に従って測定し、フィルムの結晶化熱量を求めた。
【0178】
[融解熱量]
前述の方法に従って測定し、フィルムの融解熱量を求めた。
【0179】
[微小遅相軸角度分布]
走査可能な試料ステージを備え、0.75mmφのHe−Neレーザーを備えた複屈折測定装置(ABR−10A:ユニオプト(株)製)を用い、前述の方法に従って測定した遅相軸データ群の標準偏差を算出して微小遅相軸角度分布とした。
【0180】
[結晶化温度(Tc)]
DSCの測定パンに熱処理前のセルロースアシレートフィルムを20mg入れ、これを窒素気流中で10℃/分で30℃から120℃まで昇温し、15分保持した後、30℃まで−20℃/分で冷却し、さらにこの後、再度30℃から300℃まで昇温した際に現れた発熱ピークの開始温度をフィルムの結晶化温度とした。
【0181】
[残留溶媒量]
セルロースアシレートフィルムの質量Mと、セルロースアシレートフィルムを110℃で3時間乾燥させたときの質量Nから以下の式で残留溶媒量を求めた。
残留溶媒量(質量%)={(M−N)/N}×100
【0182】
[置換度]
セルロースアシレートのアシル置換度は、Carbohydr.Res.273(1995)83−91(手塚他)に記載の方法で13C−NMRにより求めた。
【0183】
[レタデーション]
フィルムの幅方向5点(フィルムの中央部、端部(両端からそれぞれ全幅の5%の位置)、および中央部と端部の中間部2点)とを長手方向に100mごとにサンプリングし、5cm□の大きさのサンプルを取り出し、前述の方法に従って評価した各点の平均値を算出し、それぞれRe、Rth、および面内の遅相軸の方向を求めた。
【0184】
[ヘイズ]
レタデーション測定時と同じサンプリングを実施し、サンプルを25℃、相対湿度60%にて24時間調湿後、ヘイズメーター(NDH 2000:日本電色工業(株)製)を用いて測定し、平均値をヘイズとした。なお、予備延伸後、熱処理後、再延伸後のフィルムは、それぞれの段階におけるフィルムの一部のフィルムを取り出してそのまま冷却し、その後、上記の方法にて調湿後に測定した。
【0185】
[偏光度]
作製した2枚の偏光板を吸収軸を平行に重ね合わせた場合の透過率(Tp)および吸収軸を直交させて重ね合わせた場合の透過率(Tc’)を測定し、下記式から偏光度(P)を算出した。
偏光度P = ((Tp−Tc’)/(Tp+Tc’))0.5
【0186】
《1》 セルロースアシレートフィルムの製造と評価
(ポリマー溶液の調製)
1)セルロースアシレート
下記のセルロースアシレートA〜Eのうち表1に記載されるものを選択して使用した。各セルロースアシレートは120℃に加熱して乾燥し、含水率を0.5質量%以下とした後、20質量部を使用した。
・セルロースアシレートA:
置換度が2.94のセルロースアセテートの粉体を用いた。セルロースアシレートAの粘度平均重合度は300、6位のアセチル基置換度は0.94であった。
・セルロースアシレートB:
アセチル置換度が2.28、プロピオニル置換度が0.70のセルロースアセテートプロピオネートの粉体を用いた。セルロースアシレートBの粘度平均重合度は280であった。
・セルロースアシレートC:
置換度が2.86のセルロースアセテートの粉体を用いた。セルロースアシレートCの粘度平均重合度は300、6位のアセチル基置換度は0.89、アセトン抽出分は7質量%、質量平均分子量/数平均分子量比は2.3、含水率は0.2質量%、6質量%ジクロロメタン溶液中の粘度は305mPa・s、残存酢酸量は0.1質量%以下、Ca含有量は65ppm、Mg含有量は26ppm、鉄含有量は0.8ppm、硫酸イオン含有量は18ppm、イエローインデックスは1.9、遊離酢酸量は47ppmであった。粉体の平均粒子サイズは1.5mm、標準偏差は0.5mmであった。
・セルロースアシレートD:
置換度が2.70のセルロースアセテートの粉体を用いた。セルロースアシレートDの粘度平均重合度は250、6位のアセチル基置換度は0.84であった。
・セルロースアシレートE:
置換度が2.81のセルロースアセテートの粉体を用いた。セルロースアシレートEの粘度平均重合度は305、6位のアセチル基置換度は0.89であった。
【0187】
2)溶媒
下記の溶媒AまたはBのうち表1に記載されるものを選択して使用した。各溶媒の含水率は、いずれも0.2質量%以下であった。
・溶媒A
ジクロロメタン/メタノール/ブタノール=83/15/2質量部
・溶媒B
ジクロロメタン/メタノール=87/13質量部
【0188】
3)添加剤
下記の添加剤A〜Gの中から表1に記載されるものを選択して使用した。
・添加剤A
二酸化ケイ素微粒子(粒子サイズ20nm、モース硬度約7)(0.08質量部)
・添加剤C
トリフェニルホスフェート(1.6質量部)
ビフェニルジフェニルホスフェート(0.8質量部)
二酸化ケイ素微粒子(粒子サイズ20nm、モース硬度約7)(0.08質量部)
・添加剤E
前記PP−29(2.4質量部)
二酸化ケイ素微粒子(粒子サイズ20nm、モース硬度約7)(0.08質量部)
・添加剤F
トリフェニルホスフェート(1.6質量部)
ビフェニルジフェニルホスフェート(0.8質量部)
前記A1(1.5質量部)
・添加剤G
トリフェニルホスフェート(1.6質量部)
ビフェニルジフェニルホスフェート(0.8質量部)
前記A1(1.1質量部)
【0189】
4)溶解
各実施例および比較例において、下記の溶解工程AまたはBから表1に記載されるものを選択して使用して膨潤、溶解を行った。
・溶解工程A
攪拌羽根を有し外周を冷却水が循環する400リットルのステンレス製溶解タンクに、前記溶媒および添加剤を投入して撹拌、分散させながら、前記セルロースアシレートを徐々に添加した。投入完了後、室温にて2時間撹拌し、3時間膨潤させた後に再度撹拌を実施し、セルロースアシレート溶液を得た。
なお、攪拌には、15m/sec(剪断応力5×104kgf/m/sec2〔4.9×105N/m/sec2〕)の周速で攪拌するディゾルバータイプの偏芯攪拌軸および中心軸にアンカー翼を有して周速1m/sec(剪断応力1×104kgf/m/sec2〔9.8×104N/m/sec2〕)で攪拌する攪拌軸を用いた。膨潤は、高速攪拌軸を停止し、アンカー翼を有する攪拌軸の周速を0.5m/secとして実施した。
膨潤した溶液をタンクから、ジャケット付配管で50℃まで加熱し、さらに2MPaの加圧化で90℃まで加熱し、完全溶解した。加熱時間は15分であった。この際、高温にさらされるフィルター、ハウジング、および配管はハステロイ合金製で耐食性の優れたものを利用し保温加熱用の熱媒を流通させるジャケットを有する物を使用した。
次に36℃まで温度を下げ、セルロースアシレート溶液を得た。
・溶解工程B
攪拌羽根を有し外周を冷却水が循環する400リットルのステンレス製溶解タンクに、前記溶媒および添加剤を投入して撹拌、分散させながら、前記セルロースアシレートを徐々に添加した。投入完了後、室温にて2時間撹拌し、3時間膨潤させた後に再度撹拌を実施し、セルロースアシレート混合物を得た。
なお、攪拌には、15m/sec(剪断応力5×104kgf/m/sec2〔4.9×105N/m/sec2〕)の周速で攪拌するディゾルバータイプの偏芯攪拌軸および中心軸にアンカー翼を有して周速1m/sec(剪断応力1×104kgf/m/sec2〔9.8×104N/m/sec2〕)で攪拌する攪拌軸を用いた。膨潤は、高速攪拌軸を停止し、アンカー翼を有する攪拌軸の周速を0.5m/secとして実施した。
膨潤した混合物をタンクから、軸中心部を30℃に加温したスクリューポンプで送液して、そのスクリュー外周部から冷却して−70℃で3分間となるように冷却部分を通過させた。冷却は冷凍機で冷却した−75℃の冷媒を用いて実施した。冷却により得られた混合物は、スクリューポンプで送液柱に30℃に加温し、ステンレス製の容器に移送した。
次に、30℃で2時間撹拌し、セルロースアシレート溶液を得た。
【0190】
5)ろ過
得られたセルロースアシレート溶液を、絶対濾過精度10μmの濾紙(#63、東洋濾紙(株)製)で濾過し、さらに絶対濾過精度2.5μmの金属焼結フィルター(FH025、ポール社製)にて濾過してポリマー溶液を得た。
【0191】
(フィルムの作製)
下記の製膜工程AまたはBから表1に記載される方を選択して使用した。
・製膜工程A
前記セルロースアシレート溶液を30℃に加温し、流延ギーサー(特開平11−314233号公報に記載)を通して15℃に設定したバンド長60mの鏡面ステンレス支持体上に流延した。流延スピードは50m/分、塗布幅は200cmとした。流延部全体の空間温度は、15℃に設定した。そして、流延部の終点部から50cm手前で、流延して回転してきたセルロースアシレートフィルムをバンドから剥ぎ取り、45℃の乾燥風を送風した。ここで、表1において、予備延伸工程Bを実施したものについては、剥ぎ取られたウェブの両端をテンタークリップで把持し、表1に示す条件で横延伸を実施した。次に110℃で5分、さらに140℃で10分乾燥して、セルロースアシレートの透明のフィルムを得た。
・製膜工程B
前記ポリマー溶液を30℃に加温し、流延ギーサーを通して直径3mのドラムである鏡面ステンレス支持体上に流延した。支持体の温度は−5℃に設定し、流延スピードは100m/分、塗布幅は200cmとした。流延部全体の空間温度は、15℃に設定した。そして、流延部の終点部から50cm手前で、流延して回転してきたセルロースアシレートフィルムをドラムから剥ぎ取り、両端をピンテンターでクリップした。ピンテンターで保持されたセルロースアシレートフィルムは、乾燥ゾーンに搬送した。初めの乾燥では45℃の乾燥風を送風した。次に110℃で5分、さらに140℃で10分乾燥して、セルロースアシレートの透明フィルムを得た。
【0192】
製膜された各透明フィルムのヘイズ値、残留溶媒量、Tg、Tc、Tm0を測定した。
結果は表1に記載した。ここで、製膜された各透明フィルムのヘイズ値は、ヘイズ(a)として表1に示した。
【0193】
(予備延伸)
下記の予備延伸工程AまたはBのうち表1に記載されるものを選択して使用した。
フィルムの予備延伸倍率は、フィルムの搬送方向と直交する方向に一定間隔の標線を入れ、その間隔を熱処理前後で計測し、下記式から求めた。
フィルムの予備延伸倍率(%)=100×(予備延伸後の標線の間隔−予備延伸前の標線の間隔)/予備延伸前の標線の間隔
また、各実施例において、予備延伸後のフィルム幅の減少率は、10〜25%であった。さらに、予備延伸後の各フィルムのヘイズ値を測定した結果をヘイズ(b)として表1に記載した。なお、比較例101、102および105については予備延伸を行わなかった。
【0194】
・予備延伸工程A
上記製膜したセルロースアシレートフィルムを、ロール延伸機を用いて縦一軸延伸処理を実施した。ロール延伸機のロールは表面を鏡面処理した誘導発熱ジャケットロールを用い、各ロールの温度は個別に調整できるようにした。延伸ゾーンはケーシングで覆い表1に記載の温度とした。延伸部の前のロールは徐々に表1に記載の延伸温度に加熱できるように設定した。延伸倍率は、ニップロールの周速を調整することで制御した。縦横比(ニップロール間の距離/ベース入口幅)および延伸速度は表1に記載した。
・予備延伸工程B
上記フィルムの作製工程において、バンドから剥ぎ取られたセルロースアシレートウェブの両端をテンタークリップで把持し、横延伸を実施した。延伸ゾーンは表1に記載の温度に保持したケーシングで覆い、延伸倍率はテンターレールの幅を調整することで表1記載の値に設定した。
【0195】
(熱処理)
下記の熱処理工程AまたはBから選択し、表1に記載した。さらに、熱処理工程前後のフィルムのヘイズ値の変動量を検討するために、熱処理工程後の各フィルムの一部について、再延伸工程を経ずにそのまま冷却した。熱処理工程後の各フィルムのヘイズ値を測定した結果をヘイズ(b’)として表1に記載した。また、予備延伸工程後のフィルムのへイズ(b)と熱処理工程後のフィルムのヘイズ(b’)との差を、あわせて表1に記載した。
【0196】
・熱処理工程A
得られたフィルムの両端をテンタークリップで把持した後、加熱ゾーン内を通過させた。幅方向の寸法変化率は、テンターの拡縮率を変更することにより調整した。加熱ゾーンの温度、および前述の方法にしたがって求めた幅方向の寸法変化率は、表1に記載した。
【0197】
・熱処理工程B
得られたフィルムを、2つのニップロール間に加熱ゾーンを有する装置を用いて熱処理した。縦横比(ニップロール間の距離/ベース幅)は3.3となるように調整し、加熱ゾーンに入る前のベース温度は25℃とし、加熱ゾーンは表1記載の温度とした。送り出しのニップロールの速度(v10)と引取りのニップロールの速度(v11)との速度比(v11/v10)は1.20とした。前述の方法にしたがって求めた幅方向の寸法変化率は、表1に記載した。
【0198】
(再延伸)
得られたフィルムの両端をテンタークリップで把持した後、加熱ゾーン内で搬送方向と直交する方向に延伸した。加熱ゾーンの温度、およびテンターの拡縮率から算出した延伸倍率は、表1に記載した。なお、熱処理工程Aを用いた場合は、熱処理ゾーン入口にてテンタークリップで把持した後、テンタークリップを外すことなく、そのまま再延伸ゾーンに搬送した。
【0199】
(製造されたセルロースアシレートフィルムの評価)
得られた各セルロースアシレートフィルムは、3900m巻きのロール状に巻き取った。各セルロースアシレートフィルムのヘイズ値、Re、Rthを測定し、Nzを算出した。結果を下記表1に記載した。ここで、得られた各セルロースアシレートフィルムのヘイズ値は、ヘイズ(c)として表1に示した。
【0200】
【表1】

【0201】
表1に示したように、本発明の製造方法に従って製造されたセルロースアシレートフィルムは、本発明外の製造方法に従って製造されたセルロースアシレートフィルムと比較して、Re発現性に優れ、ヘイズ値が低く、微小遅相軸分布の小さいものであった。例えば、実施例101〜106と比較例101の比較から明らかなように、本発明にしたがって予めヘイズ値を0.4%以上にする処理をしておくことにより、同一条件で熱処理をしたときのレタデーションの発現性を大幅に高めることができ、微小遅相軸分布も本発明の範囲まで低減できる。このことは、実施例113〜114と比較例105の比較からも明らかである。
一方、ヘイズ値が0.4%未満のフィルムを製膜して延伸も熱処理も行わなかった場合は、レタデーションが低いままであった上、微小遅相軸分布が本発明の範囲を満たさないフィルムであった(比較例102)。さらに、熱処理温度が本発明の下限値を下回る場合はレタデーションの発現性が低いうえにヘイズ値が高くて光学フィルムとして適用できないものであり、微小遅相軸分布は本発明の範囲を満たすものの、比較例103ではヘイズが本発明の範囲を満たさず、比較例106ではヘイズが本発明の範囲を満たさないフィルムであった(比較例103および比較例106)。また、熱処理温度が本発明の上限値を上回る場合はフィルムが酷く着色し、割れてしまったためフィルムの体をなさなかった(比較例104)。
また、表1の実施例および比較例中、比較例102および比較例103および比較例106を除いた全てのフィルムにおいて、結晶化熱量は2.0J/g以下であり、融解熱量(ΔHm)は0J/g以上であった。
さらに、表1より、特定の置換度のセルロースアシレートを用いて、特定の条件で予備延伸を行うことにより、本発明の製造方法に好ましく用いられるセルロースアシレートに対する微粒子の添加量が0〜7.5質量%であり、ヘイズ値が1.5%以上であるフィルムを得ることができることがわかった(実施例104〜122および127〜130)。
【0202】
(有機溶媒接触)
表1中、実施例119、123および124のセルロースアシレートフィルムに関しては、前記再延伸工程の後に、製膜時に空気界面側であった面(すなわち、製膜支持体に接触していなかった面)に、続けて下記の塗布液Aを番手が#6のワイヤーバーコーターで塗布し、70℃で180秒間乾燥した後、3900m巻きのロール状に巻き取り、実施例201および202および203とした。このとき、実施例201〜203のセルロースアシレートフィルムの外観を目視評価したところ、全てのフィルムが平面性や透明性に優れており、光学フィルムとして好ましく適用できるものであることを確認した。
・塗布液A
アセトン/シクロヘキサノン=60/40
【0203】
(水蒸気接触)
表1中、実施例119、123および124のセルロースアシレートフィルムに関しては、前記再延伸工程の後に、フィルムを120℃に予熱した後、フィルムの搬送張力を60N/mに設定して、106℃・相対湿度70%に調節された水蒸気に1分間接触させ、続いて130℃の乾燥ゾーンで2分間乾燥した後、3900m巻きのロール状に巻き取り、実施例251および252および253とした。
(湿熱耐久試験)
実施例119、123および124、および実施例251〜253の各セルロースアシレートフィルムを60℃・相対湿度90%にて24時間の耐久試験を実施した後、前述の方法でフィルムのRthを測定し、耐久試験前後のRth変化の大きさを比較したところ、実施例251〜253ではRe変化幅(耐久試験後のRe−耐久試験前のRe)、Rth変化幅(耐久試験後のRth−耐久試験前のRth)がともに、実施例119、123および124と比較して5〜70%に低下しており、耐久試験に伴うレタデーション変化が抑制されていることが確認された。
【0204】
《2》 偏光板の作製と評価
(偏光板の作製)
1)フィルムの鹸化
実施例および比較例で作成した各フィルムおよびフジタックTF80UL(富士フイルム(株)製:以下「タックA」という)およびフジタックTD80UL(富士フイルム(株)製:以下「タックB」という)を55℃に調温した1.5mol/LのNaOH水溶液(けん化液)に2分間浸漬した後、フィルムを水洗し、その後、0.05mol/Lの硫酸水溶液に30秒浸漬した後、さらに水洗浴を通した。そして、エアナイフによる水切りを3回繰り返し、水を落とした後に70℃の乾燥ゾーンに15秒間滞留させて乾燥し、鹸化処理したフィルムを作製した。
【0205】
2)偏光膜の作製
特開2001−141926号公報の実施例1に従い、2対のニップロール間に周速差を与え、長手方向に延伸し、厚み20μmの偏光膜を調製した。
【0206】
3)貼り合わせ
このようにして得た偏光膜と、前記鹸化処理したフィルムのうちから2枚選び(それぞれフィルムA、フィルムBとし、下記表2に組み合せを記載した。)、フィルムの鹸化面を偏光膜側に配置し、これらで前記偏光膜を挟んだ後、PVA((株)クラレ製、PVA−117H)3%水溶液を接着剤として、偏光軸とフィルムの長手方向とが直交するようにロールツーロールで貼り合わせて偏光板を作成した。
【0207】
(偏光板の評価)
1)初期偏光度
前記偏光板の偏光度を前述した方法で算出した。結果を下記表2に示す。
【0208】
2)経時偏光度1
前記偏光板のフィルムA側を粘着剤でガラス板に貼り合わせ、60℃・相対湿度95%の条件で500時間放置し、放置後の偏光度(経時偏光度)を前述の方法で算出した。結果を下記表2に示す。
【0209】
3)経時偏光度2
前記偏光板のフィルムA側を粘着剤でガラス板に貼り合わせ、90℃・相対湿度0%の条件で500時間放置し、放置後の偏光度(経時偏光度)を前述の方法で算出した。結果を下記表2に示す。
【0210】
【表2】

【0211】
表2に示したように、全ての偏光板が偏光度99.9%の良好な性能を示した。
【0212】
4)密着性の評価
実施例401〜403の偏光板、および実施例319、323および324の偏光板に関し、隙間間隔1mmのカッターガイドを用いて100個の升目状の切り傷を付け、粘着テープを升目状の切り傷面に貼り付け、ガーゼを1重に巻きつけたプラスチック棒でこすって完全に付着させた。次に粘着テープを垂直に引き剥がし、テープ剥離面を目視により観察する評価を10回繰り返し、合計1000個の升目の評価を実施したところ、実施例401〜403の偏光板では全く剥がれがなかったのに対し、実施例319、323および324の偏光板では、1升以上の剥がれが観測されており、密着性が向上していることが確認された。
加えて、実施例251〜253のセルロースアシレートフィルムに、さらに前述の有機溶媒接触を実施例201と同様に適用して作製したセルロースアシレートフィルムを用い、偏光板を作製した。得られた偏光板の密着性評価を実施したところ、実施例319、323および324の偏光板と比較して密着性が向上していることが確認された。
【0213】
《3》 IPS型液晶表示装置への実装評価
実施例319、401および404の偏光板をIPS型液晶表示装置(37型ハイビジョン液晶テレビモニター(37Z2000)、(株)東芝製)に組み込まれていた偏光板の代わりに組み込み、視認性を確認したところ、十分な視野角補償ができており、良好な視認性を確保できたことが確認できた。これに対し、比較例301〜304の偏光板を組み込んだ場合には、視野角補償が不十分であり、特に斜めから視認した際の光漏れが強く観測された。また、比較例301および302の偏光板を組み込んだパネルと、実施例319の偏光板を組み込んだパネルとを並べ、黒表示時におけるパネル正面からの視認性を比較したところ、比較例301および302の偏光板を組み込んだパネルでは、全面の光漏れが強い傾向にあった。
【0214】
《4》 VA型液晶表示装置への実装評価
実施例323、324、402、403、405および406の偏光板をVA型液晶表示装置(37型ハイビジョン液晶テレビモニター(LC−37GX3W)、(株)シャープ製)に組み込まれていた偏光板の代わりに組み込み、視認性を確認したところ、十分な視野角補償ができており、良好な視認性を確保できたことが確認でき、さらに正面コントラストを測定機(EZ−Contrast160D、ELDIM社製)を用いて25℃・相対湿度60%にて測定したところ、正面コントラストが向上していた。これに対し、比較例305の偏光板を組み込んだ場合には、視野角補償や斜めから視認性は確保できていたが、正面コントラストが低下してしまった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヘイズを有するセルロースアシレートフィルムを下記式(I)の条件を満たす温度T(単位;℃)で熱処理する工程を含むことを特徴とするセルロースアシレートフィルムの製造方法。
式(I): Tc≦T<Tm0
[式中、Tcは前記熱処理前のセルロースアシレートフィルムの結晶化温度(単位;℃)を表し、Tm0は前記熱処理前のセルロースアシレートフィルムの融点(単位;℃)を表す。]
【請求項2】
前記ヘイズを有するセルロースアシレートフィルムが微粒子を、セルロースアシレートに対して0〜7.5質量%含有することを特徴とする請求項1に記載のセルロースアシレートフィルムの製造方法。
【請求項3】
セルロースアシレートフィルムを予備延伸することにより前記ヘイズを有するセルロースアシレートフィルムを調製する工程をさらに含むことを特徴とする請求項1または2に記載のセルロースアシレートフィルムの製造方法。
【請求項4】
前記熱処理を、熱処理前のセルロースアシレートフィルムのヘイズ値に対して、セルロースアシレートフィルムのヘイズ値が0.05%以上低下するまで行うことを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載のセルロースアシレートフィルムの製造方法。
【請求項5】
結晶化熱量が2.0J/g以下であり、且つ融解熱量(ΔHm)が0J/gより大きく、微小遅相軸角度分布が3°以下であることを特徴とするセルロースアシレートフィルム。
【請求項6】
請求項1〜4のいずれか一項に記載の製造方法によって製造されたことを特徴とするセルロースアシレートフィルム。
【請求項7】
結晶化熱量が2.0J/g以下であり、且つ融解熱量(ΔHm)が0J/gより大きく、微小遅相軸角度分布が3°以下であることを特徴とする請求項6に記載のセルロースアシレートフィルム。
【請求項8】
セルロースアシレートに対する微粒子の添加量が0〜7.5質量%であり、ヘイズ値が1.5%以上であることを特徴とするセルロースアシレートフィルム。
【請求項9】
ヘイズ値が1.5%以上25%未満であることを特徴とする請求項8に記載のセルロースアシレートフィルム。
【請求項10】
請求項5〜7のいずれか一項に記載のセルロースアシレートフィルムを少なくとも一枚有することを特徴とする位相差フィルム。
【請求項11】
請求項5〜7のいずれか一項に記載のセルロースアシレートフィルムを少なくとも一枚有することを特徴とする偏光板。
【請求項12】
請求項5〜7のいずれか一項に記載のセルロースアシレートフィルム、請求項10に記載の位相差フィルム、あるいは、請求項11に記載の偏光板を、少なくとも1枚有することを特徴とする液晶表示装置。

【公開番号】特開2009−137289(P2009−137289A)
【公開日】平成21年6月25日(2009.6.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−289449(P2008−289449)
【出願日】平成20年11月12日(2008.11.12)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】